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特開2022-154307接合部材およびこれを備える補強構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154307
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】接合部材およびこれを備える補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20221005BHJP
   E04B 1/30 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
E04B1/58 603
E04B1/30 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057266
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】390018717
【氏名又は名称】旭化成建材株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000446
【氏名又は名称】岡部株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(71)【出願人】
【識別番号】521134031
【氏名又は名称】ワンス設計事務所株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】萩野 毅
(72)【発明者】
【氏名】眞邉 寛人
(72)【発明者】
【氏名】丸山 喜照
(72)【発明者】
【氏名】横山 眞一
(72)【発明者】
【氏名】田中 照久
(72)【発明者】
【氏名】尾宮 洋一
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA01
2E125AA51
2E125AB01
2E125AE01
2E125AG04
2E125AG25
2E125AG57
2E125BA02
2E125BA33
2E125BB02
2E125BB22
2E125BB28
2E125BC09
2E125BD01
2E125BE07
2E125BF01
2E125CA82
(57)【要約】
【課題】鋼部材とコンクリート系部材とを一体的に接合して形成される複合構造においてずれ変形性能を十分に発揮し、かつ、強度計算のための設計式が煩雑となるのを抑制することができるようにする。
【解決手段】鋼部材10とコンクリート系部材20とを接合する接合部材30は、当該接合部材30のせん断力の作用方向に沿った見附面積と接合部材30に作用するせん断力の作用方向に沿った断面積Dとの比が所定の範囲内にあり、外力が作用することによってコンクリート系部材20と鋼部材10の両方に応力が生じたとき、当該接合部材30がコンクリート系部材20に先行して破壊する形状に形成されている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼部材とコンクリート系部材とを接合する接合部材であって、
前記接合部材のせん断力の作用方向に沿った見附面積と前記接合部材に作用する前記せん断力の作用方向に沿った断面積との比が所定の範囲内にあり、外力が作用することによって前記コンクリート系部材と前記鋼部材の両方に応力が生じたとき、当該接合部材が前記コンクリート系部材に先行して破壊する形状に形成されている、接合部材。
【請求項2】
前記比が
見附面積/鋼板断面積=1.20~3.45
である形状である、請求項1に記載の接合部材。
【請求項3】
前記接合部材は、板状であり、貫通孔を有する、請求項1または2に記載の接合部材。
【請求項4】
前記接合部材は、前記見附面積を増大させる向きに突出する突部を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の接合部材。
【請求項5】
前記接合部材の前記貫通孔は1つであって、前記貫通孔の周囲に前記見附面積を増大させる向きに突出する突部が形成されている、請求項3に記載の接合部材。
【請求項6】
前記突部は、前記貫通孔の周囲に周状に形成されている、請求項5に記載の接合部材。
【請求項7】
前記突部は、円形に形成されている、請求項6に記載の接合部材。
【請求項8】
前記突部は、前記接合部材の一方の面側にのみ突出している、請求項7に記載の接合部材。
【請求項9】
前記突部との突出高さが均一である、請求項8に記載の接合部材。
【請求項10】
前記接合部材の板状の幅は、前記貫通孔の孔径の1.6~3倍である、請求項3、5から9の何れか1項に記載の接合部材。
【請求項11】
前記鋼部材は長辺と短辺とを有し、該接合部材は前記鋼部材の長辺方向に複数配置されている、請求項1から10の何れか1項に記載の接合部材を備える補強構造。
【請求項12】
前記コンクリート系部材の被り厚さは30mm以上である、請求項1から10の何れか1項に記載の接合部材を備える補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造物や土木構造物などを構築する際に鋼部材とコンクリート系部材とを一体的に接合する等の際に利用される接合部材およびこれを備える補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼部材とコンクリート系部材とを一体的に接合して形成される構造(本明細書では当該構造を「複合構造」と呼ぶ)が、建築構造物や土木構造物などの分野において広く使用されている。これら鋼部材とコンクリート系部材との接合部において、このような異種材料の間での確実かつ円滑な応力伝達を実現するには、ずれ止めによる抵抗作用が必要不可欠である。この点をふまえつつ、従来、スタッドを用いた複合構造、孔あき鋼板ジベル(ジベルとは、重ね合わせる部材のずれを防ぐ金物)を用いた複合構造などが利用されている。
【0003】
従来、このような複合構造において打ち込み型枠とコンクリートとの密着性を高めるために、打ち込み型枠の素材である基板にバーリング加工によって貫通孔を開設することにより、当該貫通孔の周囲に不規則な複数の小突起を突出させる技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1記載の打ち込み型枠においては、当該打ち込み型枠とコンクリートとの密着性を高める手段として、バーリング加工によって複数の小突起付きの貫通孔が設けられている。
【0004】
また、特許文献1のごとき打ち込み型枠では上記のように小突起が貫通孔の周囲に沿って凹凸形状をなしてはいるものの、せん断耐力を向上させる機能の有無については不明であるという点に着目し、鉄骨系部材とコンクリート系部材との接合部分におけるずれ止め機能、せん断耐力及び剛性を大幅に向上させることを可能とした複合構造が提供されてもいる(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-102503号公報
【特許文献2】特許第6086452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、コンクリート系部材と鋼部材とを合成した従前の複合構造においては、外力が作用した場合、孔あき鋼板ジベルやその他機械的ずれ止め等の接合部材が変形なり破断なりをするよりも、コンクリートの破壊のほうが先行することが常である。そうすると、これは、外力に対して十分に変形することのない部材を含む構造であって、十分なずれ変形性能(ずれに伴う相対的な変位を抑制する機能ないしその性能)を発揮することが出来ていないということができ、この点で従前の複合構造には改良の余地があると考えられる。
【0007】
また、上記の場合は、複合構造の耐力がコンクリート系部材の強度で決まってしまうということになるが、そうすると、強度計算のための設計式の因子にコンクリートの条件(強度、配筋、体積など)を含める必要があり、その分、煩雑な設計式となりがちである。また、コンクリート系部材の強度ばらつきは鋼板のそれと比較して大きいため、複合構造のずれ止めが設計で意図する想定した破壊とならないことがある。
【0008】
そこで、本発明は、鋼部材とコンクリート系部材とを一体的に接合して形成される複合構造においてずれ変形性能を十分に発揮することができ、かつ、強度計算のための設計式が煩雑となるのを抑制し、かつ安定して意図した破壊形式となるずれ止めを有する、接合部材およびこれを備える補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、鋼部材とコンクリート系部材とを接合する接合部材であって、
接合部材のせん断力の作用方向に沿った見附面積と接合部材に作用するせん断力の作用方向に沿った断面積との比が所定の範囲内にあり、外力が作用することによってコンクリート系部材と鋼部材の両方に応力が生じたとき、当該接合部材がコンクリート系部材に先行して破壊する形状に形成されている、接合部材である。
【0010】
接合部材ないしはこれを含む補強構造に外力が作用した時、接合部材が変形なり破断なりするよりも先にコンクリート系部材が破壊してしまうことは通常的に起こりうるが、その場合、コンクリート系部材が破壊した瞬間、接合部材を通じ抵抗を作用させた状態が途切れるということにならざるを得ない。コンクリート系部材の完全な破壊とならずとも、一般的に用いられているずれ止め部材は、ずれ止めとコンクリートがずれようとする力に対して支圧力で抵抗していることから、コンクリートの支圧変形により、力が繰返し作用した場合に耐力が劣化していくことが知られている。この点、上記のごとき態様の接合部材によれば、外力が作用することによってコンクリート系部材と鋼部材の両方に応力が生じたとき、当該接合部材がコンクリート系部材に先行して破壊することにより、それまで、ずれ止めによる抵抗を作用させ、変形性能を十分に発揮することができる状態を維持することを可能とする。
【0011】
上記のごとき態様の接合部材は、上記の比が
見附面積/鋼板断面積=1.20~3.45
である形状であってもよい。
【0012】
上記のごとき態様の接合部材は、板状であり、貫通孔を有するものであってもよい。
【0013】
上記のごとき態様の接合部材は、見附面積を増大させる向きに突出する突部を有していてもよい。
【0014】
上記のごとき態様の接合部材の貫通孔は1つであって、貫通孔の周囲に見附面積を増大させる向きに突出する突部が形成されていてもよい。
【0015】
上記のごとき態様の接合部材の突部は、貫通孔の周囲に周状に形成されていてもよい。
【0016】
上記のごとき態様の接合部材の突部は、円形に形成されていてもよい。
【0017】
上記のごとき態様の接合部材の突部は、接合部材の一方の面側にのみ突出していてもよい。
【0018】
上記のごとき態様の接合部材において、突部との突出高さが均一であってもよい。
【0019】
上記のごとき態様の接合部材の板状の幅は、貫通孔の孔径の1.6~3倍であってもよい。
【0020】
本発明の一態様にかかる補強構造は、上記のごとき接合部材を備えており、かつ、鋼部材は長辺と短辺とを有し、該接合部材は鋼部材の長辺方向に複数配置されている、というものである。
【0021】
上記のごとき態様の補強構造において、コンクリート系部材の被り厚さは30mm以上であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、鋼部材とコンクリート系部材とを一体的に接合して形成される複合構造においてずれ変形性能を十分に発揮することができ、かつ、強度計算のための設計式が煩雑となるのを抑制し、かつ安定して意図した破壊形式となるずれ止めを有する接合部材およびこれを備える補強構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態における補強構造の一例を概略的に示す図である。
図2】鋼部材上に設けられた接合部材の一例を示す斜視図である。
図3】補強構造の一例を概略的に示す斜視図である。
図4】接合部材の構造例を示す図である。
図5】(A)接合部材に作用する支圧抵抗力を説明する図、(B)接合部材の見附面積について説明する図である。
図6】接合部材に作用する力について説明する図である。
図7】コンクリート系部材による接合部材に対する拘束機能について説明する、(A)拘束なしの場合、(B)拘束ありの場合、それぞれの図である。
図8】(A)図7(A)の場合の鋼板の変形状況と、(B)図7(B)の場合の鋼板の変形状況と、をそれぞれ概略的に示す図である。
図9】(A)X方向に長い鋼板にX方向のせん断力が作用する様子と、(B)高さ方向に長い鋼板にX方向のせん断力が作用する様子と、をそれぞれ概略的に示す図である。
図10】せん断作用を受けて変形した接合部材(の鋼板)の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する(図1等参照)。
【0025】
[接合部材と補強構造の概要]
補強構造100は、鋼部材10とコンクリート系部材20とを一体的に接合して形成される構造であり(図1参照)、建築構造物や土木構造物などの分野において広く使用される。鋼部材10は、例えば建築物における鉄骨梁などとして用いられる(なお、図3図6図7等では、当該鋼部材10の一部のみを図中に示している。一例として本実施形態の鋼部材10は、図1においては水平方向に延びる長辺10Xと、図1においては鉛直方向に延びる短辺10Yとを有している。コンクリート系部材(例えば、スラブ)20は、構造物の躯体(柱、壁、など)を構成する部材として用いられる。接合部材30は、鋼部材10とコンクリート系部材20とを接合する部材として用いられる。
【0026】
接合部材30は、鋼部材10とコンクリート系部材20とを接合する部材であり、両者を接合することによって補強構造100を構成する(図1図3参照)。この補強構造100には、鋼板(平板状の基材)31の衝立上に設置した一辺を表面31f、図示しない裏面ともに隅肉溶接32によって接合された平板状の接合部材30と、接合部材30を埋設した状態で鋼板31の表面31f上に形成されたコンクリート系部材20と、が含まれる。接合部材30は、鋼部材10の長辺10Xの方向に沿って複数配置されている(図1参照)。これら接合部材30には貫通孔35が設けられている。貫通孔35の縁には、当該接合部材30の片方の表面31fからめくり上がるがように突出する突縁部36が設けられている(図2参照)。貫通孔35は例えば円形であり、突縁部36は、貫通孔35の内周縁に沿って周方向に連続したスリーブ形状のようなボス状の形をしている。鋼板31の表面31fからの突縁部36の突出高さは本実施形態においては均一であるが(図2等参照)、これとは逆にあえて高さを不均一にしてもよい。本実施形態では鋼板31で平板状の基材を形成しているが材料・材質はこれに限定されることはなく、この他、特に図示はしないが、鋼管にバーリング加工したものや形鋼にバーリング加工したものなどを採用してもよい。
【0027】
補強構造100においては、貫通孔35に充填された状態となっているコンクリート系部材20のせん断抵抗によって接合部材30とコンクリート系部材20とのずれが防止される(図3等参照)。また、貫通孔35に設けられた突縁部36および小口31Aとその近傍のコンクリート系部材20も支圧抵抗によってずれ止めとして機能を発揮するので、剛性が高く、せん断耐力を向上させる。また、鋼板31の表面31fに接合部材30を接合するための隅肉溶接32は、予め工場などで行った後、施工現場に搬入することができるため、施工現場での溶接作業を回避することが可能となり、風雨等の天候の影響を受けることがなく高品質の接合部を形成でき、現場での溶接作業時間を短縮ができる。
【0028】
また、貫通孔35に突縁部36を設けたことにより、接合部材30自体の剛性が高まり、変形し難くなるので、施工性の向上に有効であり、補強構造100の強度向上に寄与する。また、接合部材30の剛性が向上することにより、隅肉溶接32を行うときの熱影響による変形を防止することができる。
【0029】
なお、接合部材30に開設された貫通孔35は、接合部材30が接合された鋼材をクレーンで吊り上げる際に、ワイヤーロープやシャックルなどの挿通孔として利用することもできる。また、接合部材30の貫通孔35には鉄筋を挿通させることもできるので、建築・土木構造物の施工現場において鉄筋の配筋作業を行う際の鉄筋の位置を保持するスペーサとして活用することもできる。
【0030】
貫通孔35の突縁部36を形成する際の加工方法は特に限定しないが、本実施形態においてはバーリング加工によって形成している。バーリング加工は、接合部材30の材料である鋼板31に開設された下孔の内周縁をパンチとダイを用いて当該鋼板31の板厚方向に立ち上げる加工技術である。
【0031】
なお、補強構造100を構成する鋼部材10としては、接合部材30が接合可能な材料であればH形鋼の鉄骨梁に限定されることはなく、例えば、I形鋼、T形鋼、山形鋼、溝形鋼あるいは鋼管など梁はどんな形鋼でもよく、あるいは上述のごとき鋼管にバーリング加工したものや形鋼にバーリング加工したものなどを使用することもできる。
【0032】
なお、接合部材30の貫通孔35には鉄筋(図示せず)を挿通させることができるので、それぞれの貫通孔35に対して1本若しくは複数本の割合で鉄筋(図示せず)を挿通させ、接合部材30及び鉄筋(図示せず)を埋設した状態で鋼板31の表面31f上にコンクリート系部材20を形成した構造とすることもできる。このような構造とすれば、せん断力(鋼板31の表面31fと平行方向のせん断力を指し、図中では符号Fで表す。また、せん断力Fが作用する方向(本実施形態の場合であれば水平方向)をせん断力作用方向といい、符号Xで表す)を鉄筋に分担させることができるので変形能力が向上し、コンクリート系部材20の鋼部材10からの浮き上がりに対する抵抗力も向上するなどの優れた効果を得ることができる。
【0033】
[「ずれ変形性能」を向上させた接合部材]
上記のごとく鋼部材10とコンクリート系部材20とを接合する接合部材30において、これら異種材料の間での確実かつ円滑な応力伝達を実現するには、ずれ止めによる抵抗を作用させた状態を維持することが重要である。外力の作用時(図1参照)、接合部材30が変形なり破断なりするよりも先にコンクリート系部材20が破壊してしまうことは通常的に起こりうるが、上記の点(ずれ止めによる抵抗を作用させた状態を維持することが重要である点)に照らせば、コンクリート系部材20が破壊した瞬間、ずれ止めによる抵抗を作用させた状態が途切れるということにならざるを得ない。この点を考慮し、実施形態では、接合部材30を、外力が作用することによってコンクリート系部材20と鋼部材10の両方に応力が生じたとき(図1参照)、当該接合部材30がコンクリート系部材20に先行して破壊する形状に形成している。接合部材30をコンクリート系部材20に先行して破壊させるという発想を取り入れることで、接合部材30の断面に着目して設計することが可能となる。また、接合部材30自体を十分に変形する形状・構造とすることにより、脆性的な破壊を起こさせないようにし、ずれ変形性能(ずれに伴う相対的な変位を抑制する機能ないしその性能)を向上させることが可能となる。
【0034】
接合部材30の形状・構造を決めるにあたり、鋼板面内の曲げ耐力ではなくせん断耐力で決定されることで、鋼板31のせん断耐力が限界に至るまで性能を発揮できる。例えば、鋼板31がせん断力作用方向Xに長い1枚板状の長尺の矩形板であって、接合部材30が当該鋼板31からなる単一の板状であるとすれば(図9(A)参照)、せん断力Fの作用時における接合部材30の耐力はもっぱら、鋼板31のせん断耐力(せん断応力)の影響が支配的(ずれ方向力に対しては鋼板31のせん断力が卓越し、曲げ破壊は生じない。本実施形態では、いわば分断された状態の複数の接合部材30を断続的に配置することで、せん断耐力ではなくむしろ曲げ耐力のほうが支配的となる構造を構築している(図9(B)参照)。ただし、このように高さ(h)が長い物は、せん断力作用方向X(ずれ方向)に対しては鋼板31の曲げ応力が卓越し、せん断破壊は生じない。この点、本実施形態では、コンクリート系部材20による拘束機能に着目し、せん断破壊が生じるようにしている。これについては後述する。
【0035】
[補強構造の特徴(1):断続的に配置された接合部材による高いせん断伝達性能]
上記のごとく、本実施形態の補強構造100では、鋼板31の1枚につき1つの貫通孔35を有する形状とした複数の接合部材30を、連続的にではなく、断続的かつ不連続に配置している。こうした構造は、そうでない構造(つまり、連続的に連なる構造)に比べ、鋼板31それぞれの小口面(鋼板31の側面のうち、せん断力Fが作用する面のことを指し、図中では符号31Aで示す)の支圧抵抗、および突縁部36の支圧抵抗(突縁部36の見附部分(図5において符号36Aで示す)に作用するせん断力に応じた抵抗)が加算されることにより、鋼板31全体としてのせん断伝達性能(せん断方向に作用する力を伝達する性能)が向上する。このことは、鋼板31が例えばせん断力作用方向Xに長い1枚板状の矩形板である場合、小口の数が少なく(例えばこのように1枚板状の鋼板31である場合、小口は1箇所)、小口に作用するせん断力Fの加算分が少なくなることを想定すればより容易に理解することができる。なお、図5図7においては、小口面31Aに作用する力、突縁部36に作用する力を矢印(力線図)で示したうえで「支圧抵抗」と表記している。
【0036】
上述したごとくせん断伝達性能が向上した本実施形態の補強構造100によれば、突縁部36に対して貫通孔35を1対1で(ひとつの突縁部36に対して貫通孔35をひとつ)設けることにより、突縁部36の見附部分36Aの耐力増加分を考慮できるため、1つ当たりのせん断耐力が大きくなり従来技術よりも部材数を減少することができる。また、接合部材30の配置量が減少する分、および各部材が小型化する分、作業性(作業のしやすさ)が向上する。また、本実施形態の補強構造100によれば、溶接量が減少し、施工しやすさが向上する。また、本実施形態のごとく鋼板31の1枚あたり貫通孔35を1つ形成する構造の場合、コンクリート系部材20に作用する力を、小口面31Aと、突縁部36の周面(の投影面)つまり見附部分36Aとで分散して受けることができるため、全体として耐力を確保しやすく、そのぶん性能向上を図りやすい。
【0037】
また、上記のごとき高いせん断伝達性能を実現する場合の具体例を挙げると、接合部材30の鋼板31の幅(ここでいう幅とは、せん断力作用方向Xに沿った長さを意味する(図6等参照))Bの好適な範囲の例は、貫通孔35の孔径の1.6~3倍程度であり、具体的な数値例を挙げるとすれば、1つの貫通孔35と突縁部36あたり80~150[mm]である。別の表現で説明するならば、貫通孔35の径φ40~60[mm]に対して幅Bが80~150[mm]の範囲内の鋼板31を採用した場合、せん断力作用方向Xに沿って貫通孔35および突縁部36が所定の好適な間隔ごとに位置する構成としやすくなり、好適である。ちなみに、幅Bが所定値(本例においては80[mm])よりも短いと、接合部材30の全体としてのせん断力伝達能力が小さくなることから、所定以上のせん断力伝達能力を確保するにはより多数の接合部材30を配置することが必要となる(鋼板幅Bが80mmを下回るようであれば、鋼板31の破壊で決定するせん断耐力が実用的な範囲を外れ、1つあたりのせん断耐力が小さくなる。このため、コンクリート系部材20と鋼部材10の必要な接合部強度を得るためには、多数枚のずれ止めが必要となる)。ただし、多くの接合部材30を過剰に配置した場合には、間隔が小さくなり、コンクリート系部材20の耐力が確保できないため、「鋼板31のせん断耐力」<「コンクリート系部材20のせん断耐力」が成立しなくなる。一方で、幅Bが所定値(本例においては150[mm])よりも長いと、鋼板31の耐力は増えるものの、コンクリート系部材20(例えば、スラブ)が当該接合部材30によっていわば縁切りされた状態となり、これら接合部材30で保持されているコンクリート系部材20に破壊が生じやすくなるし、鋼板31自体の変形能力が乏しくなりコンクリート系部材20の破壊が先行するようになる。さらには、接合部材30の幅Bが所定値(本例においては150[mm])よりも長いと、鋼部材10と接合部材30との溶接部分が増す、鋼板31が大型化する、といった理由に伴って、材料増や作業増により相対的に高価になりやすい。
【0038】
なお、鋼板31の幅Bについての上記説明中、「1つの貫通孔35と突縁部36あたり」と記載したが、これは、突縁部36を仮に複数設けることで(鋼板31の一方の面側のみに設けてもよいし、両面それぞれに設けてもよい)、コンクリート系部材20の耐力が上昇し、鋼板31の幅Bをより大きくできるためである。たとえば、小口が1つしかない場合は単純に突縁部36の個数倍ではないが、突縁部36を増やすことにより、コンクリートの抵抗力を増加することができるため、鋼板31の長さは長くすることができる。鋼板31の長さが長くなった分、鋼板せん断耐力を増加できる。
【0039】
[補強構造の特徴(2):鋼板の上部を拘束するコンクリートで鋼板曲げを抑制]
本実施形態では、鋼板31の上部(例えば、隅肉溶接32部分よりも上方の部分すべて)をコンクリート系部材20で覆って拘束した状態(別言すれば、曲げ変形しようとする鋼板31を上から押さえつけることで、曲げ変形させないようにした状態)の補強構造100を構築している。
【0040】
ここで、拘束機能を図とともに説明すると(図7図8参照)、コンクリート系部材20による拘束を受けていない鋼板31は、鋼部材10やコンクリート系部材20にずれに伴う相対的な変位を生じさせる力が生じた際に、鋼板31は面内に曲げられようとする。(図7(A)、図8(A)参照)。これだと、鋼板31は面内曲げによる応力が卓越するため、鋼板31が早期に曲げ破壊を生じる。一方、コンクリート系部材20により拘束されている鋼板31は、ずれに伴う相対的な変位を生じさせる力が生じた際に、コンクリート系部材20によって、鋼板31は面内曲げが拘束された状態となり、いわば上から押さえつけられた状態にあるので鋼板31の根元位置(断面31d)における曲げ応力が抑えられる(図7(B)参照)。このため鋼板根元位置におけるせん断応力によって鋼板31が破壊するに至るまで、曲げ応力による破壊が抑えられる。
【0041】
以上のごとき拘束機能をふまえつつ、上記のように、本実施形態では鋼板31の1枚につき1つの貫通孔35を設ける構造としており、長尺かつ連続(せん断力作用方向Xに長い1枚板状の長尺の矩形板、など)とした場合に比べて鋼板31の幅Bが小さいため、当該鋼板31に影響を及ぼすのはせん断作用よりも曲げ作用ということになる(長尺かつ連続したものであれば、もっとも大きなせん断作用を受ける断面31dではせん断破壊となる。幅Bが小さいので、単純に下記のような式を適用してしまうと曲げ破壊となる。ところが、拘束力があるため、曲げ破壊が生じずせん断破壊とすることができる)。これを簡単な式で表現するとすれば、
(鋼板の曲げ)<(鋼板のせん断)
というようになる。なお、鋼板31の幅Bを拡大するにつれこのような関係が解消していく他、材料費増・溶接増、といった、鋼板31を長尺かつ連続とした場合の課題が顕在化し、かつ、鋼板31に先行してコンクリート系部材20が破壊するようになることはいうまでもない。別言すれば、上記のごとき本実施形態の補強構造100は、上側に配置されるがコンクリート系部材20が鋼板31の曲げ変形を拘束することで、鋼板31の幅Bは小さいままに当該鋼板31のせん断耐力が限界に至るまで性能を発揮できるようにした構造であるということができる。
【0042】
上記のごとき拘束機能を十分に発揮させるという観点からすれば、コンクリート系部材の被り厚さ(鋼板31の端面(ただし鋼部材10とは逆側の端面)31Bからコンクリート系部材20の天端21までの距離をいう)Cは、好ましくは最低でも30mm以上、より好ましくは50mm以上であるとよい。
【0043】
[補強構造の特徴(3):接合部材がコンクリート系部材に先行して破壊する形状]
上記のごとく、本実施形態の補強構造100の接合部材30は、コンクリート系部材20に先行して破壊するという考えに基づき、
(鋼板のせん断耐力)<(コンクリート系部材の耐力)
となる形状に形成されている。ただし、接合部材30の形状の具体例は特に限定されることはない。要は、接合部材30がそのような形状であること自体に本実施形態の接合部材30およびこれを備える補強構造100の特徴があるといえるが、その考え方の具体例とそれにより具現化される形状・構造例を示せば以下のとおりである。
【0044】
せん断力作用方向Xに沿った鋼板31の投影面積(図5参照。鋼板31の小口面31Aおよび突縁部36の見附部分36Aの両方を足した面積を本明細書では見附面積といい、符号Aで表す。なお、図5(B)ではハッチングを付して分かりやすく示しているが、これは断面を表しているわけではないことに留意されたい)と、もっとも大きなせん断作用を受けると考えられる鋼板31の断面31dの断面積D(図4参照)と、を考慮した場合に、これらの比、つまり見附面積A/鋼板断面積Dが、
見附面積A/鋼板断面積D=1.20~3.45
の範囲内にあることが、コンクリート系部材20に先行して接合部材30が破壊するようにするうえで、好適である。この比の値が2.55程度である接合部材30はこのような観点からはさらに好適であるといえる。
【0045】
上記のごとく、本実施形態の接合部材30は、当該接合部材30に作用するせん断力Fの作用方向に沿った断面積Dと接合部材30のせん断力の作用方向Xに沿った見附面積Aとの比を所定の範囲内とし、ここまで説明したように、接合部材30(の鋼板31)のせん断耐力<コンクリート系部材の耐力 となるようにすることで、鋼板31が変形しやすくしたうえで(変形能力を向上させたうえで)、かつ、鋼板31の断面積Dをパラメーターとして接合部材30を設計することが可能となる。なお、当然のことながら、接合部材30に形成された本実施形態のごとき突縁部36は見附面積Aを増大させる向きに突出しており、上記式に基づき設計する際に影響を与える。
【0046】
ここまで説明した本実施形態の補強構造100によれば、鋼部材10とコンクリート系部材20とを一体的に接合して形成される構造においてずれ変形性能を十分に発揮することができ、かつ、強度計算のための設計式が煩雑となるのを抑制することもできる。このような補強構造100とその接合部材30の特徴を別の観点から述べるならば以下のとおりである。すなわち、
(i) 接合部材30(の鋼板31)が従前のごとく長尺かつ連続した1枚板状であるならば、貫通孔35(および突縁部36)を設ければ設けたぶんだけ、当該接合部材30とコンクリート系部材20との接触領域が増える。
(ii) ただし、接合部材30(の鋼板31)がこのように長尺かつ連続した板状であるならば、当該接合部材30の耐力を考慮するにあたっては、せん断力Fにより生じる鋼板のせん断の作用のほうが曲げの作用による影響よりも圧倒的に多大かつ支配的となる。この点、本実施形態では、コンクリート系部材20による拘束機能に着目し、せん断破壊が生じるようにしていることは先述のとおりである。
【0047】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、接合部材30に設けた貫通孔35の縁にめくり上がるように突縁部36を設けたが、これは、コンクリート系部材20に先行して鋼板31を先に破壊させるようにするための好適な構造の一例にすぎない。特に図示はしないが、鋼板31に貫通孔35は設けず突縁部(突部)36のみ設けていてもよい。要は、接合部材30がコンクリート系部材20と引っかかる面積(つまりは見附面積)を十分に取るために機能するものであれば具体的な形状、構造は限定されない。
【実施例0048】
発明者らは、ここまで説明した各種理論や数式、好適な数値範囲などの裏付けや実証結果を得るべく種々の試験を行ってきた。その中で、実際の様子を示す具体例として、せん断作用を受けて変形した接合部材30(の鋼板31)の画像を示す(図10参照)。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明にかかる接合部材およびこれを備える補強構造は、建築産業や土木建設産業などの分野において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
10…鋼部材
10X…長辺
10Y…短辺
20…コンクリート系部材
21…天端
30…接合部材
31…鋼板(平板状の基材)
31A…小口面
31B…端面
31d…もっとも大きなせん断作用を受ける断面
31f…表面
32…隅肉溶接
35…貫通孔
36…突縁部(突部)
36A…突縁部の見附部分
100…補強構造
A…鋼板の見附面積
B…鋼板の幅
C…コンクリート系部材の被り厚さ
D…もっとも大きなせん断作用を受ける断面の断面積
F…せん断力
h…合力位置高さ
F…せん断力
t…鋼板の板厚
X…せん断力作用方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10