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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154331
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】ゴム補強用繊維コード
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/41 20060101AFI20221005BHJP
   D06M 15/693 20060101ALI20221005BHJP
   D06M 15/55 20060101ALI20221005BHJP
   D02G 3/44 20060101ALI20221005BHJP
   D02G 3/28 20060101ALI20221005BHJP
   D02G 3/40 20060101ALI20221005BHJP
   D06M 101/36 20060101ALN20221005BHJP
   D06M 101/34 20060101ALN20221005BHJP
【FI】
D06M15/41
D06M15/693
D06M15/55
D02G3/44
D02G3/28
D02G3/40
D06M101:36
D06M101:34
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057312
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】森 拓也
(72)【発明者】
【氏名】草西 義洋
(72)【発明者】
【氏名】太田 直樹
【テーマコード(参考)】
4L033
4L036
【Fターム(参考)】
4L033AA08
4L033AB03
4L033AC11
4L033CA34
4L033CA49
4L033CA68
4L036MA06
4L036MA37
4L036MA39
4L036PA21
4L036PA46
4L036UA07
4L036UA08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ゴムに対して高い接着性を有し、コード強力と耐疲労性のバランスに優れたゴム補強用繊維コードを提供する。
【解決手段】素材が異なる2種類の繊維からなる各下撚りコードを引き揃えて上撚りを施した後、ゴム用接着剤で1度だけ処理したゴム補強用繊維コードであって、前記2種類の下撚りコードをそれぞれ下撚りコードA及び下撚りコードBとし、前記下撚りコードAのゴム用接着剤に対する浸透速度をv、浸透速度の標準偏差をσ、前記下撚りコードBのゴム用接着剤に対する浸透速度をv、浸透速度の標準偏差をσ、としたとき、下記式(I)で表されるゴム用接着剤に対する浸透速度の差(d)が1.0以下であることを特徴とするゴム補強用繊維コード。
d=|v-v|/{(σ+σ)/2}・・・(I)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材が異なる2種類の繊維からなる各下撚りコードを引き揃えて上撚りを施した後、ゴム用接着剤で1度だけ処理したゴム補強用繊維コードであって、
前記2種類の下撚りコードをそれぞれ下撚りコードA及び下撚りコードBとし、
前記下撚りコードAのゴム用接着剤に対する浸透速度をv、浸透速度の標準偏差をσ
前記下撚りコードBのゴム用接着剤に対する浸透速度をv、浸透速度の標準偏差をσ、としたとき、
下記式(I)で表されるゴム用接着剤に対する浸透速度の差(d)が1.0以下であることを特徴とするゴム補強用繊維コード。

d=|v-v|/{(σ+σ)/2} ・・・(I)
【請求項2】
ゴム用接着剤の主成分が、レゾルシン・ホルマリン・ラテックスであり、
及びvが20~50mm/分で、かつ、σ及びσが10以下である、
請求項1に記載のゴム補強用繊維コード。
【請求項3】
素材が異なる2種類の繊維からなる各下撚りコードのうち、1種が、予め硬化性エポキシ化合物で処理されたアラミド繊維の下撚りコードであり、他の1種が、ナイロン繊維の下撚りコードである、請求項1または2に記載のゴム補強用繊維コード。
【請求項4】
硬化性エポキシ化合物で処理されたアラミド繊維は、該アラミド繊維表面に付着した、硬化性エポキシ化合物の硬化物(硬化)と未硬化物(遊離)のモル比(硬化/遊離)が、0.3~1.0の範囲である請求項3に記載のゴム補強用繊維コード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム補強用繊維コードに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤやベルトのゴム補強用繊維コードとして、アラミド繊維とナイロン繊維を併用することで、アラミド繊維の持つ高弾性特性によりゴム剛性を高めつつ、ナイロン繊維により、アラミド繊維の欠点である圧縮疲労によるコード劣化を抑制した複合繊維コードが用いられている。
しかしながら、従来技術では、アラミド繊維のゴムとの接着力を十分に得るために、アラミド繊維を、ゴム用接着剤であるレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(以下、RFLと称することがある)処理前にエポキシ化合物等で構成される接着剤で事前に付与することが必要となる。一方で、エポキシ化合物等で構成される接着剤処理の際に、ナイロン繊維も同時に処理されてしまうことから、ナイロン繊維に必要以上に接着剤が含浸することでコードが硬くなってしまい、十分な圧縮応力に対する疲労性向上効果が得られないという課題がある。
【0003】
ゴムベルト、ゴムタイヤ等のゴム製品の強度、耐久性を向上させるために、補強用繊維をゴム内に埋め込むことが広く一般に行われているが、補強性に優れる高剛性繊維を用いた場合には、最終的にゴム製品に成形する際のゴムの変形に繊維が追随せず、成形加工性が大きく劣るという問題があった。逆に成形性を重視して低剛性繊維を用いた場合には、最終的にゴム成形物を使用する際にコードに期待される剛性を十分に満たすことができなかった。そのため、特許文献1には、高弾性率繊維からなる繊維束Aと、低弾性率繊維からなる繊維束Bから構成され、繊維束Aと繊維束Bの重量比率が65:35~95:5であり、ゴム成分を含有する複合繊維コードが提案されている。
【0004】
また、ポリエステルやアラミド等の繊維は、優れた強度、弾性率及び熱寸法安定性を有するため、タイヤ、ホース、ベルト等のゴム製品用補強材として従来から広く使用されているが、補強材としてゴム製品中に埋め込まれて使用される時に繰り返し荷重がかかり、伸長圧縮や屈曲を繰り返すことによる劣化が発生する。そして、かかる劣化により強力や接着性の初期特性が著しく低下するため、使用に耐えられなくなるという問題があった。
【0005】
そこで、特許文献2には、耐疲労性が改善されない理由は、接着剤のコードへの含浸が多すぎるためであることを突き止め、従来は接着性を確保するために、接着剤を繊維内部まで含浸させることに主眼が置かれていたが、繊維内部まで接着剤が満たされた場合、接着剤によりコードが硬くなり、フィラメントの動きが制限され、さらには接着剤が繊維の化学的な分解を促進して耐疲労性が悪化することが報告されている。一方で、繊維内部の接着剤の含浸性が不足すると接着力が低下するため、諸撚りコード内部へのRFL含浸度を10~50%にすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-157298号公報
【特許文献2】特開2017-150105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる従来技術の背景に鑑みてなされたものであり、ゴムに対して高い接着性を有し、コード強力と耐疲労性のバランスに優れたゴム補強用繊維コードを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行い、素材が異なる2種類の下撚りコードに対するゴム用接着剤の浸透速度を、出来るだけ同じになるよう特定の範囲内に調整し、それぞれのコード間での接着剤含浸状態を均一にして2種類のコードにかかる応力を均一に分散させることにより、圧縮疲労性が高く高強力のゴム補強用繊維コードが得られることを見出し、本発明に到達した。
また、アラミド繊維の下撚りコードとナイロン繊維の下撚りコードとの浸透速度の差を小さくするには、予めエポキシ化合物で処理されたアラミド繊維を用いること、さらには該アラミド繊維表面の硬化したエポキシ基と未硬化状態のエポキシ基の比率を制御するのがよいとの知見を得た。
【0009】
すなわち、本発明は、素材が異なる2種類の繊維からなる各下撚りコードを引き揃えて上撚りを施した後、ゴム用接着剤で1度だけ処理したゴム補強用繊維コードであって、
前記2種類の下撚りコードをそれぞれ下撚りコードA及び下撚りコードBとし、
前記下撚りコードAのゴム用接着剤に対する浸透速度をv、浸透速度の標準偏差をσ
前記下撚りコードBのゴム用接着剤に対する浸透速度をv、浸透速度の標準偏差をσ、としたとき、
下記式(I)で表されるゴム用接着剤に対する浸透速度の差(d)が1.0以下であることを特徴とするゴム補強用繊維コードを提供する。

d=|v-v|/{(σ+σ)/2} ・・・(I)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、素材が異なる2種類の繊維からなる各下撚りコードのゴム用接着剤に対する浸透速度の差を小さくすることにより、これら2種類の繊維からなる下撚りコードを引き揃えて上撚りしたコードを、ゴム用接着剤で1度処理するだけで、高強力かつ高耐疲労性を有するゴム補強用コードを提供することができる。そのため、ゴム補強用繊維コードのゴムへの接着力を高めるために、各下撚りコードを予めゴム用接着剤で処理する必要がなく、また、上撚り後に複数回に渡ってゴム用接着剤で処理する必要もない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のゴム補強用繊維コードは、素材が異なる2種類の繊維からなる各下撚りコードを引き揃えて上撚りを施した後、ゴム用接着剤で1度だけ処理したゴム補強用繊維コードであり、ゴム用接着剤に対する2種類の繊維の下撚りコードの浸透速度が近似していることが重要である。
【0012】
すなわち、本発明のゴム補強用繊維コードは、2種類の下撚りコードをそれぞれ下撚りコードA及び下撚りコードBとし、
前記下撚りコードAのゴム用接着剤に対する浸透速度をv、浸透速度の標準偏差をσ
前記下撚りコードBのゴム用接着剤に対する浸透速度をv、浸透速度の標準偏差をσ、としたとき、
下記式(I)で表されるゴム用接着剤に対する浸透速度の差(d)が1.0以下であることを特徴とする。

d=|v-v|/{(σ+σ)/2} ・・・(I)
【0013】
上記の式(I)において、各下撚りコードの浸透速度(v、v)は、複数回の測定から求めた平均値である。浸透速度は、後述するように、一定時間内に下撚りコードが毛細管現象によりゴム用接着剤液を吸い上げる量を測定することにより求められる。
【0014】
浸透速度の差(d)が1.0以下であれば、例えばアラミド/ナイロン複合繊維コードにおいて、アラミド繊維とゴムとの接着力を確保でき、ナイロン繊維に必要以上に接着剤が含浸することでコードが硬くなり圧縮応力に対する疲労性向上効果が得られなくなる不都合を解消できる。それにより、接着力、強力、耐疲労性に優れる、ゴム補強用コードを得ることができる。浸透速度の差(d)は小さい方が望ましく、より好ましくは0.8以下、さらに好ましくは0.7以下である。
【0015】
上記の浸透速度の差(d)は、2種の下撚りコードについて浸透速度の測定値の分布の重なり度合を示している。dが大きいほど分布の重なりが小さく、2種の下撚りコードの浸透速度の測定値を同等と見なせなくなることを意味する。理論上は、dが1.0以下であれば、2種類の下撚りコードの浸透速度の測定値の分布の重なりは約45%以上、dが0.3であれば分布の重なりは約79%、dが0.2であれば分布の重なりは約86%、dが0.1であれば分布の重なりは約92%、dが0であれば分布の重なりは100%となる。
【0016】
各下撚りコードのゴム用接着剤に対する浸透速度(v、v)は、20~50mm/minであることが好ましく、より好ましくは30~50mm/min、特に好ましくは30~40mm/minである。前記の浸透速度は、繊維コードを構成する繊維の種類、単繊維繊度、フィラメント数にもよるが、浸透速度が低い場合、繊維コードに対するゴム用接着剤の浸透が不十分となることで、ゴム接着性が劣る繊維コードになりやすい。一方、浸透速度が高い場合、コード内部への含浸量が多すぎるため屈曲などの繰り返し疲労に対して、弱いコードとなりやすい。
【0017】
各下撚りコードのゴム用接着剤に対する浸透速度の標準偏差(σ、σ)は10以下であることが好ましく、より好ましくは7.5以下、特に好ましくは5.0以下である。標準偏差が小さいほど繊維コードの均一性が高くなるため、強力、接着力、耐疲労性のバラツキの少ないゴム補強用繊維コードを得ることができる。
【0018】
本発明のゴム補強用繊維コードを構成する繊維は、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリケトン繊維、炭素繊維等の高弾性率繊維、ならびに、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、レーヨン繊維等の低弾性率繊維から選ばれる2種類の繊維が用いられる。
【0019】
なかでも、本発明で用いる2種類の繊維は、高弾性率繊維から選ばれる1種の繊維と低弾性率繊維から選ばれる1種の繊維との組合せが好ましい。高弾性率繊維としては、アラミド繊維が好ましい。低弾性率繊維としては、ナイロン繊維あるいはポリエステル繊維が好ましく、ナイロン繊維が特に好ましい。
【0020】
アラミド繊維には、パラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維があるが、引張強さに優れているパラ系アラミド繊維が特に好ましい。パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、コポリパラフェニレン-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維等が挙げられる。なかでも、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維は、引張弾性率及び引張強度に優れているため特に好ましい。
【0021】
本発明において、高弾性率繊維素材としてアラミド繊維を用い、低弾性率繊維としてナイロン繊維あるいはポリエステル繊維を用いる場合、各下撚りコードのゴム用接着剤に対する浸透速度をできるだけ同等にするため、アラミド繊維は、予め硬化性エポキシ化合物で処理されたアラミド繊維を用いることが好ましい。
【0022】
予め硬化性エポキシ化合物で処理されたアラミド繊維のなかでも、ゴム用接着剤に対する浸透性が高く、接着剤処理を1回で済ませることができる点より、アラミド繊維表面に付着した、硬化性エポキシ化合物の硬化物(硬化)と未硬化物(遊離)のモル比(硬化/遊離)が、0.3~1.0の範囲にあるアラミド繊維が特に好ましい。このようなアラミド繊維は、例えば、特願2020-031301明細書記載の方法で得ることができる。すなわち、公知の方法で紡糸、中和、洗浄したポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を、乾燥して水分率3~15質量%、より好ましくは3~14質量%、特に好ましくは5~13質量%に調整し、このように水分量が調整されたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維に、硬化性エポキシ化合物を含む油剤を付与する。アラミド繊維への油剤の付着量は、アラミド繊維質量(乾燥基準)に対して0.3~5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.4~3質量%、特に好ましくは0.5~2質量%である。
【0023】
油剤としては、(a)硬化性エポキシ化合物と、(b)前記硬化性エポキシ化合物を溶解する相溶剤と、から構成される油剤であって、アミン等のエポキシ硬化剤を含まない油剤が好ましい。前記相溶剤としては繊維用油剤が好ましい。
油剤中の(a)硬化性エポキシ化合物と(b)相溶剤の比率(質量比)は、80/20~20/80が好ましく、より好ましくは70/30~30/70、さらに好ましくは65/35~45/55である。(a)成分に対する(b)成分の比率が高くなり過ぎると、エポキシ化合物が減少することによりゴムとの接着性が阻害され、反対に低くなり過ぎると、アラミド繊維の収束性が低下し工程通過性が悪化する。また、油剤中に(b)成分が過剰に存在すると、アラミド繊維のゴムに対する接着性が阻害される傾向がある。(a)成分と(b)成分の比率(質量比)は65/35~55/45の範囲が特に好ましい。
【0024】
油剤を構成する(a)硬化性エポキシ化合物は、脂肪族エポキシ化合物及び芳香環を有するエポキシ化合物から選ばれる1種、または2種以上が用いられ、例えば、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。なかでも、グリシジル基を2個または3個有する多官能性エポキシ化合物が好ましい。
【0025】
油剤を構成する(b)相溶剤は、アラミド繊維撚糸時のトラベラとの摩耗を減少させることができ、かつ、アラミド繊維とゴム用接着剤との接着性が良好である観点より、ポリアルキレングリコールと脂肪酸のエステル化物が好ましい。このような脂肪酸エステルとしては、下記一般式(I)、(II)で表わされるモノエステル型及び/またはジエステル型のエステル化合物が挙げられる。

-COO(R-O)m-H ・・・・・(I)
-COO(R-O)n-COR ・・・・・(II)
【0026】
一般式(I)、(II)において、R及びRは、共に炭素原子数5~30のアルキル基もしくはアルケニル基であり、RとRは同一であっても異なっていても良い。Rは炭素原子数2~3のアルキレン基、m及びnは、オキシアルキレン基(R-O)の平均付加モル数を表す5~100の整数である。なお、(R-O)においては、同一のオキシアルキレン基が付加していても、2種類以上のオキシアルキレン基が付加していてもよい。
【0027】
また、一般式(I)、(II)において、R、Rの炭素原子数は7~28が好ましく、より好ましくは9~26、さらに好ましくは11~24、特に好ましくは13~22である。一般式(I)、(II)で示されるエステル化合物を構成する脂肪酸の具体例としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等の飽和脂肪酸や、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、エライジン酸等の不飽和脂肪酸等が挙げられる。
【0028】
また、一般式(I)、(II)において、m及びn(オキシアルキレン基の平均付加モル数)は5~100であり、好ましくは5~50、より好ましくは9~30、さらに好ましくは11~19、特に好ましくは13~17である。
【0029】
一般式(I)、(II)において、ポリアルキレングリコールとしては、硬化性エポキシ化合物の溶解性に優れるエステル化合物が得られる点より、ポリエチレングリコールが好ましい。ポリエチレングリコールの重量平均分子量(Mw)は、400~1300が好ましく、より好ましくは400~920、さらに好ましくは480~840、特に好ましくは570~750である。
【0030】
一般式(I)、(II)で示されるエステル化合物の具体例としては、例えば、ポリエチレングリコール(m=10~20)ラウリン酸モノエステル及び/またはジエステル、ポリエチレングリコール(m=10~20)オレイン酸モノエステル及び/またはジエステル、ポリエチレングリコール(m=10~20)ステアリン酸モノエステル及び/またはジエステル等が挙げられる。
【0031】
本発明で用いるアラミド繊維は、水分率3~15質量%に乾燥したアラミド繊維に、上記の油剤を付与した後、続いて巻き取り工程でボビンに巻き取り、巻き上げたアラミド繊維の水分率を3~15質量%に保持したアラミド繊維であって、硬化性エポキシ化合物が100%硬化していない(すなわち、少なくとも遊離エポキシ化合物がアラミド繊維表面に付着している)状態にあるものが好ましい。繊維表面に付着している硬化性エポキシ化合物の硬化物(以下、硬化)と未硬化物(以下、遊離)のモル比(硬化/遊離)は、0.3~1.0の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.5~1.0、特に好ましくは0.7~0.9である。すなわち、50モル%以上のエポキシ基が未硬化であれば、アラミド繊維の下撚りコードのゴム用接着剤の浸透速度を、ナイロン繊維やポリエステル繊維と同等にすることが可能となる。
【0032】
本発明のゴム補強用繊維コードにおいて、各撚糸コードの撚り数は、下撚り、上撚りともに、15~50(t/10cm)、より好ましくは20~45(t/10cm)のものを対象とする。この範囲の撚り数であると、コードの強力と耐疲労性のバランスが良いゴム補強用繊維コードが得られる。
【0033】
具体的には、繊維を1本あるいは複数本を引き揃えて、S方向あるいはZ方向に片撚りを施し、下撚りコード(接着剤未処理)を得る。そして、得られた片撚りコードを2本または3本以上引き揃えて、片撚りと同じ方向の上撚り(ラング撚り)、または、反対方向の上撚り(諸撚り)を施す。
【0034】
撚糸コードに付与されるゴム用接着剤は、公知の接着剤を用いることができ、例えば、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)、ブロックドイソシアネート等を適宜な比率で配合した配合物が挙げられる。
【0035】
RFLは、ラテックスと、レゾルシン-ホルムアルデヒド初期縮合物とを混合熟成したものであり、レゾルシン-ホルムアルデヒド初期縮合物にラテックスを配合し、混合液としたもの等が挙げられる。レゾルシン-ホルムアルデヒド初期縮合物は、レゾルシンとホルムアルデヒドを、酸触媒またはアルカリ触媒下で縮合させて得た、ノボラック型縮合物等が挙げられる。ラテックスとしては、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン-ブタジエン系ラテックス、アクリロニトリル-ブタジエン系ラテックス、クロロプレン系ラテックス、クロロスルホン化ポリエチレンラテックス、アクリレート系ラテックス、天然ゴムラテックス等が挙げられ、これらは単独または混合して使用される。耐熱性及び繊維(特にアラミド繊維)に対する接着性が優れている点から、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ラテックスが50質量%以上を占めるラテックスが好ましい。
【0036】
ブロックドイソシアネートは、ポリイソシアネート化合物とブロック化剤との付加物であり、加熱によりブロック化剤成分が遊離して活性なポリイソシアネート化合物を生じる化合物である。
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のポリイソシアネート、あるいは、これらのポリイソシアネートと活性水素原子を2個以上有する化合物、例えば、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等とをイソシアネート基(-NCO)とヒドロキシル基(-OH)の比が1を超えるモル比で反応させて得られる末端イソシアネート基含有のポリオールアダクトポリイソシアネート等が挙げられる。なかでも、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネートが良好な結果を与える。
ブロック化剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、レゾルシン等のフェノール類、ε-カプロラクタム、バレロラクタム等のラクタム類、アセトオキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類、エチレンイミン等が挙げられる。その他、2,4-トルエンジイソシアネート2量体のように、ポリイソシアネート化合物自体がブロック化剤を兼ねている化合物等が挙げられる。
【0037】
ブロックドイソシアネート化合物としては、水系または溶剤系の溶液、分散液を用いることができるが、水溶液または水分散液が好ましい。ブロックドイソシアネート化合物の配合量は、ゴム用接着剤全量に対して、5~40質量%が好ましく、10~30質量%がより好ましい。
【0038】
ゴム用接着剤による処理は、公知の方法で行われて良い。上撚りコードに対する接着剤の付着量を制御するために、例えば、圧接ローラーによる絞り、スクラバー等によるかき落とし、圧空による吹き飛ばし、吸引等の方法を使用することができる。また、コードを軽微な張力で接着剤液に浸漬し、コード内部に接着剤を十分浸透させた後、乾燥を高張力下で乾燥させ、一旦内部に浸透させた接着剤を外側に絞り出しても良い。
【0039】
ゴム用接着剤液を付与した繊維コードは、通常、100~150℃で乾燥された後、200~260℃で熱処理して硬化されるが、本発明では乾燥・熱処理方法は特に限定されない。
【0040】
本発明のゴム補強用繊維コードが用いられるゴムとしては、アクリルゴム(ACM)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム(HNBR)、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム(AU、EU)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体ゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、シリコーンゴム、フッ素ゴム、多硫化ゴム等を挙げることができる。
上記ゴムには、主成分のゴムの他に、通常ゴム業界で用いられるカーボンブラック、シリカ、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛等の無機充填剤、クマロン樹脂、フェノール樹脂等の有機充填剤、加硫促進剤、老化防止剤、軟化剤等の各種配合剤が含まれていてもよい。
【0041】
本発明のゴム補強用繊維コードは、タイヤのカーカス素材として、あるいは、タイヤのサイドウオール部、ベルト層、パンク防止層の補強材等として、あるいは、動力伝達ベルト、搬送用ベルトとして、あるいは、ゴムホースの心線補強コード等として、好適に用いることができる。
【実施例0042】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。また、以下の実施例等において、特に言及する場合を除き、「質量%」は「%」、「質量部」は「部」、と略記する。各測定値は次の方法にしたがった。
【0043】
(1)アラミド繊維水分率
約5gの試料の質量(乾燥前質量)を測定する。次いで、300℃×20分熱処理した後、25℃、65%RHで5分間放置し、再度質量(乾燥後質量)を測定する。
水分率(質量%)=[(乾燥前質量-乾燥後質量)/(乾燥後質量)]×100
【0044】
(2)繊維表面のエポキシ化合物量(mmol/kg)
ア)アラミド繊維表面のエポキシ化合物量;
アラミド繊維に油剤を付着させる前後の加熱重量法による重量変化から、アラミド繊維1kg当りの油剤付着量(Eg)を求め、1kg当りのエポキシ基のミリモル数(理論エポキシ化合物量)を算出する。なお、エポキシ当量は、硬化性エポキシ化合物の1エポキシ基当りの分子量を示す。
[理論エポキシ化合物量(mmol/kg)]=1000×E×(油剤中の硬化性エポキシ化合物含有量(%)/100)/エポキシ当量
イ)アラミド繊維表面の遊離エポキシ量;
アラミド繊維約10g(実重量Ag)をビーカーに入れ、アセトンで試料表面に付着した遊離エポキシ化合物を抽出した後、アセトンを除去して、抽出物重量を測定する。前記抽出物に、塩酸/1,4-ジオキサン混合溶液(15/1000(容量比))20mlとエタノール30mlを添加した後、0.5mol/LのNaOH溶液で中和滴定(滴定量:Cml)を行う。抽出物を含まない前記の塩酸/1,4-ジオキサン混合溶液についてブランク滴定(滴定量:Dml)を行い、アラミド繊維1kg当りに存在する遊離エポキシ基のミリモル数を算出する。
[遊離エポキシ化合物量(mmol/kg)]=0.5×1000×(D-C)/A
ウ)アラミド繊維表面の硬化エポキシ化合物量;
硬化エポキシ化合物量(mmol/kg)=理論エポキシ化合物量(mmol/kg)-遊離エポキシ化合物量(mmol/kg)
【0045】
(3)コード強力
JIS L 1017:2002 化学繊維タイヤコード試験法 8.5a)標準時試験に基づき測定した。
【0046】
(4)T-接着力(コードとゴムとの接着力)評価
JIS L1017:2002の接着力-A法に準じて、処理コ-ドを未加硫ゴムに埋め込み、加圧下で、初期接着力は150℃×30分時間プレス加硫を行い、放冷後、コードをゴムブロックから300mm/minの速度で引き抜き、その引き抜きに要した荷重をN/cmで表示した。接着評価におけるゴムコンパウンドとしては、以下の組成からなる天然ゴムとSBRゴムを主成分とするタイヤカーカス配合の未加硫ゴムを使用した。
(ゴムの配合組成)
・天然ゴム (RSS#1):80(部)
・SBR(JSR1501):20(部)
・RFカーボンブラック:50(部)
・ステアリン酸:2(部)
・硫黄:2(部)
・亜鉛華:5(部)
・2,2’-ジチオベンゾチアゾール:4(部)
・ナフテン酸プロセスオイル:3(部)
【0047】
(5)ディスク疲労試験後の強力保持率
JIS L 1017:2002 附属書1の2.2.2 ディスク疲労強さ(グッドリッチ法)により評価した。処理コード2本をタイヤ用ゴム中に埋め込み、150℃で30分間加硫して、ゴムコンパウンドを作成する。この試験片を圧縮10%、伸張0%を1サイクルとする変形を、2600サイクル/分で6時間与えた後、ゴムからコードを取り出して疲労後の破断強力を測定し、該疲労試験前後の保持率で表した。
【0048】
(実施例1)
公知の方法で得られたポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)(分子量約20000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、ホールを1000個有する口金からせん断速度30000sec-1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理した。その後、200℃で乾燥処理を行い、水分率を10%に調整した。
このPPTA繊維に、硬化性エポキシ化合物として、グリセロールポリグリシジルエーテルとポリエチレングリコール脂肪酸エステルを、60:40(質量比)で混合した油剤を、水分率0%に換算したときの繊維質量に対し1.3%となるよう付与した後、巻き上げてパッケージにした。
【0049】
PPTA繊維に付着した、硬化したエポキシ基と未硬化状態のエポキシ基(硬化/遊離)のモル比は0.55であった。
【0050】
(撚糸コード作製)
得られたPPTA繊維(水分率0%換算時の繊度1110dtex、フィラメント数1000)2本を用いて、Z方向に、40回/10cmの撚数で下撚りしてアラミド繊維片撚りコードを得た。
【0051】
別に、66ナイロン繊維のマルチフィラメント(東レ株式会社製、単糸繊度:6.91dtex、総繊度:940dtex)1本を用いて、Z方向に、30回/10cmの撚数で下撚りしてナイロン繊維片撚りコードを得た。
【0052】
上記のアラミド繊維片撚りコード1本とナイロン繊維片撚りコード1本を引揃え、下撚りと逆方向(S方向)に40回/10cmの撚数で上撚りし複合繊維コードを得た。
【0053】
(ゴム用接着剤)
ビニルピリジンラテックス70部(固形分)に対し、水酸化ナトリウムの存在下で予めレゾルシンとホルムアルデヒドをモル比で、レゾルシン/ホルムアルデヒド=3/1の割合で反応させた初期縮合物を15部(固形分)、さらに、ブロックドイソシアネート15部(固形分)を混合、熟成させて、ゴム用接着剤を調製した。
【0054】
(ゴム用接着剤処理コード)
得られた複合繊維コードを、コンピュートリータ処理機(リッツラー社製)を用いて、上記のゴム用接着剤に浸漬した後、140℃で150秒乾燥し、続いて245℃で60秒間熱処理することにより、ゴム用接着剤で処理されたアラミド/ナイロン複合繊維コードを得た。複合繊維コードの処理条件及び評価結果を表1にまとめて示す。
【0055】
(下撚りコードのゴム用接着剤に対する浸透速度)
アラミド繊維とナイロン繊維のそれぞれの下撚りコードの先端に10gの錘を吊り下げた後、コード先端から20mm地点までゴム用接着剤に浸漬させた。1分後、ゴム用接着剤が浸透した高さを測定し、浸透速度(mm/min)を求めた。測定は5回実施し、5回の測定値の平均値及び標準偏差(σ)を求めた。アラミド繊維とナイロン繊維のそれぞれの浸透速度の平均値と標準偏差を、式(I)に代入し、浸透速度の差(d)を求めた。
【0056】
(実施例2)
下記のゴム用接着剤を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、ゴム用接着剤で処理されたアラミド/ナイロン複合繊維コードを得た。複合繊維コードの処理条件及び評価結果を表1にまとめて示す。
(ゴム用接着剤)
ビニルピリジンラテックス35部(固形分)、SBRラテックス35部(固形分)に対し、水酸化ナトリウムの存在下で予めレゾルシンとホルムアルデヒドをモル比で、レゾルシン/ホルムアルデヒド=3/1の割合で反応させた初期縮合物を15部(固形分)、さらに、ブロックドイソシアネート15部(固形分)を混合、熟成させて、ゴム用接着剤を調製した。
【0057】
(実施例3)
アラミド繊維コードの下撚り数を45(t/10cm)、ナイロン繊維コードの下撚り数を35(t/10cm)に変更し、さらに、上撚り数を45(t/10cm)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、ゴム用接着剤で処理されたアラミド/ナイロン複合繊維コードを得た。複合繊維コードの処理条件及び評価結果を表1にまとめて示す。
【0058】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で製造した中和処理した後、乾燥して水分率を7%に調整したPPTA繊維を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、ゴム用接着剤で処理されたアラミド/ナイロン複合繊維コードを得た。複合繊維コードの処理条件及び評価結果を表1にまとめて示す。
【0059】
(比較例2)
比較例1で作製した上撚りコードについて、ゴム用接着剤に2回浸漬(2浴処理)した以外は、実施例1と同様の方法で、ゴム用接着剤で処理されたアラミド/ナイロン複合繊維コードを得た。複合繊維コードの処理条件及び評価結果を表1にまとめて示す。
【0060】
(比較例3)
水分率10%に調整したPPTA繊維に付与する油剤を変更した以外は、実施例1と同様の方法で、ゴム用接着剤で処理されたアラミド/ナイロン複合繊維コードを得た。複合繊維コードの処理条件及び評価結果を表1にまとめて示す。
【0061】
(実施例4)
下記のゴム用接着剤を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、ゴム用接着剤で処理されたアラミド/ナイロン複合繊維コードを得た。複合繊維コードの処理条件及び評価結果を表1にまとめて示す。
(ゴム用接着剤)
ビニルピリジンラテックス20部(固形分)、SBRラテックス50部(固形分)に対し、水酸化ナトリウムの存在下で予めレゾルシンとホルムアルデヒドをモル比で、レゾルシン/ホルムアルデヒド=3/1の割合で反応させた初期縮合物を15部(固形分)、さらに、ブロックドイソシアネート15部(固形分)を混合、熟成させて、ゴム用接着剤を調製した。
【0062】
【表1】
【0063】
表1より、アラミド繊維下撚りコードとナイロン繊維下撚りコードの、ゴム用接着剤に対する浸透速度の差(d)が1.0以下である、実施例1~3のゴム補強用繊維コードは、強力、接着力、疲労試験後の強力保持率(耐疲労性)の全てを満足するものであった。
エポキシ未処理のアラミド繊維下撚りコードとナイロン繊維下撚りコードを上撚りした比較例1~2のゴム補強用コードは、ゴム用接着剤に対する浸透速度の差が大きく、強力、耐疲労性が不十分であった。また、ゴム用接着剤で2浴処理した比較例2のゴム補強用コードは、繊維コードの接着力は向上するが、耐疲労性が低下した。
ゴム用接着剤で1浴処理しただけで、強力、接着力、耐疲労性が共に良好なゴム補強用繊維コードが得られていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のゴム補強用繊維コードは、接着性、強力及び耐疲労性が要求されるゴム製品の補強用に有用である。