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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154352
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】柱梁接合コア
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/24 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
E04B1/24 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057349
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】川端 洋介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 由悟
(57)【要約】
【課題】断面積の増加を抑制しつつ、柱梁接合構造の耐力を向上させることができる柱梁接合コアを提供する。
【解決手段】仕口部鋼管10の内部には、互いに隣り合う一対の側壁部11の全ての組み合わせに対して固定される四つの鋼製プレート13が設けられる。各鋼製プレート13は、上下方向から見て、一方の端部が一方の側壁部11に傾斜した状態で固定され、他方の端部が他方の側壁部11に傾斜した状態で固定される。従って、各鋼製プレート13は、仕口部鋼管10の四方の側壁部11を内部側から補強することができる。鋼製プレート13は、仕口部鋼管10の面外変形の補助的な役割を果たすものであるため、過度に増肉しても、トータルの断面積の増加に対して、得られる耐力向上効果が低い。従って、断面積の増加を抑制しつつ高い耐力向上効果を得るために、鋼製プレート13の板厚tdは、仕口部鋼管10の板厚tnよりも薄くしている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
仕口部に四角形断面を有する仕口部鋼管を用いたノンダイアフラム工法の柱梁接合コアであって、
上側の上部鋼管及び下側の下部鋼管に接続され、前記四角断面の四辺を構成する四方の側壁部を有する前記仕口部鋼管を備え、
前記仕口部鋼管の内部には、互いに隣り合う一対の前記側壁部の全ての組み合わせに対して固定される四つの鋼製プレートが設けられ、
各鋼製プレートは、上下方向から見て、一方の端部が一方の前記側壁部に傾斜した状態で固定され、他方の端部が他方の前記側壁部に傾斜した状態で固定され、
前記仕口部鋼管の板厚は、前記上部鋼管及び前記下部鋼管の板厚よりも厚く、
前記鋼製プレートの板厚は、前記仕口部鋼管の板厚よりも薄い、柱梁接合コア。
【請求項2】
前記鋼製プレートの前記一方の端部の一方の前記側壁部に対する角度、及び前記鋼製プレートの前記他方の端部の他方の前記側壁部に対する角度は、45°である、請求項1に記載の柱梁接合コア。
【請求項3】
前記仕口部鋼管の角部と前記鋼製プレートとの間には空隙が形成され、前記仕口部鋼管の外表面と、前記空隙を挟んでの前記鋼製プレートの固定位置との距離は、前記仕口部鋼管の板厚の2倍以上である、請求項1又は2に記載の柱梁接合コア。
【請求項4】
前記鋼製プレートは、前記仕口部鋼管に対し、鋼管軸方向に対して全長に取り付けられる、請求項1~3の何れか一項に記載の柱梁接合コア。
【請求項5】
前記鋼製プレートは、前記仕口部鋼管に対し、鋼管軸方向に対して一部に取り付けられる、請求項1~3の何れか一項に記載の柱梁接合コア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱梁接合コアに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の柱梁接合コアとして、特許文献1に示すような、仕口部に鋼製の四角形断面を有する仕口部鋼管を用いたノンダイアフラム工法の柱梁接合コアが知られている。柱梁接合コアは、上側の上部鋼管及び下側の下部鋼管同士を接続し、四角断面の四辺を構成する四方の側壁部を有する仕口部鋼管を備える。仕口部鋼管の肉厚は、上部鋼管及び下部鋼管の肉厚に比して大きく設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-302899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、ノンダイアフラム工法の柱梁接合構造の終局耐力は,厚肉の仕口部鋼管の面外変形全塑性耐力と根抜け破断耐力の小さい方で決定される。面外変形全塑性耐力は、仕口部鋼管の板厚の増加に伴い増加する。一方で、根抜け破断耐力は仕口部鋼管の板厚が厚くなりすぎると、板厚全厚に応力が伝わらず、板厚増肉による根抜け破壊耐力の向上が小さくなる可能性がある。
【0005】
一方で、面外変形降伏耐力、及び面外変形全塑性耐力は、仕口部鋼管の板厚の増加に伴い耐力が増化するため、取り付く梁が大きくなればなるほど板厚を増肉する必要がある。根抜け破壊耐力を向上させる観点では板厚の増肉以外の補強等が望ましいが、面外変形降伏耐力、及び面外変形全塑性耐力を向上させる観点では、板厚を増肉させて耐力を向上させることが効率的のため、各観点の解決方法が相反する。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、断面積の増加を抑制しつつ、柱梁接合構造の耐力を向上させることができる柱梁接合コアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る柱梁接合コアは、仕口部に四角形断面を有する仕口部鋼管を用いたノンダイアフラム工法の柱梁接合コアであって、上側の上部鋼管及び下側の下部鋼管に接続され、四角断面の四辺を構成する四方の側壁部を有する仕口部鋼管を備え、仕口部鋼管の内部には、互いに隣り合う一対の側壁部の全ての組み合わせに対して固定される四つの鋼製プレートが設けられ、各鋼製プレートは、上下方向から見て、一方の端部が一方の側壁部に傾斜した状態で固定され、他方の端部が他方の側壁部に傾斜した状態で固定され、仕口部鋼管の板厚は、上部鋼管及び下部鋼管の板厚よりも厚く、鋼製プレートの板厚は、仕口部鋼管の板厚よりも薄い。
【0008】
仕口部鋼管の板厚は、上部鋼管及び下部鋼管の板厚よりも厚い。従って、仕口部の板厚を上部鋼管及び下部鋼管の板厚と同じにする場合に比して、仕口部鋼管の板厚を厚くすることで、耐力を向上できる。これに対し、仕口部鋼管の内部には、互いに隣り合う一対の側壁部の全ての組み合わせに対して固定される四つの鋼製プレートが設けられる。各鋼製プレートは、上下方向から見て、一方の端部が一方の側壁部に傾斜した状態で固定され、他方の端部が他方の側壁部に傾斜した状態で固定される。従って、各鋼製プレートは、仕口部鋼管の四方の側壁部を内部側から補強することができる。このような鋼製プレートを設ける場合、単に仕口部鋼管の板厚を厚くするだけの場合に比して、効率よく耐力を向上できる。ここで、ノンダイアフラム工法の仕口部の耐力は、仕口部鋼管の側壁部の面外変形で負担する割合が高く、鋼製プレート、及び鋼製プレートによって面外変形を受ける側壁部と隣り合う面に力を流して負担する割合は大きくない。すなわち、鋼製プレートは、仕口部鋼管の面外変形の補助的な役割を果たすものであるため、過度に増肉しても、トータルの断面積の増加に対して、得られる耐力向上効果が低い。従って、断面積の増加を抑制しつつ高い耐力向上効果を得るために、鋼製プレートの板厚は、仕口部鋼管の板厚よりも薄くしている。以上より、断面積の増加を抑制しつつ、柱梁接合構造の耐力を向上させることができる。
【0009】
鋼製プレートの一方の端部の一方の側壁部に対する角度、及び鋼製プレートの他方の端部の他方の側壁部に対する角度は、45°であってよい。この場合、各鋼製プレートの配置及び形状の対称性を確保することができる。従って、四方の側壁部の耐力を均等に向上することができる。また、仕口部に対して四方向から梁が取り付く可能性があるため、上記角度を45°とすることで、仕口部を汎用品とすることができる。
【0010】
仕口部鋼管の角部と鋼製プレートとの間には空隙が形成され、仕口部鋼管の外表面と、空隙を挟んでの鋼製プレートの固定位置との距離は、仕口部鋼管の板厚の2倍以上であってよい。仕口部鋼管の形状や製造方法によっては、角部付近に鋼製プレートを溶接すると、施工性や構造的な性能が低下する可能性がある。そのため、仕口部鋼管の外表面と、空隙を挟んでの鋼製プレートの固定位置との距離は、仕口部鋼管の板厚の2倍以上として、ある程度離しておくことで、施工性及び構造的な性能の低下を抑制できる。
【0011】
鋼製プレートは、仕口部鋼管に対し、鋼管軸方向に対して全長に取り付けられてよい。この場合、仕口部鋼管の全長にわたって、耐力向上の効果を得ることができる。
【0012】
鋼製プレートは、仕口部鋼管に対し、鋼管軸方向に対して一部に取り付けられてよい。この場合、仕口部鋼管のうち、特に必要な箇所に限定して、耐力向上の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、断面積の増加を抑制しつつ、柱梁接合構造の耐力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1(a)は、本発明の実施形態に係る柱梁接合コアを示す側面図であり、図1(b)は、図1(a)に示す柱梁接合コアの仕口部鋼管を上方から見た図である。
図2】変形例に係る柱梁接合コアを示す側面図である。
図3図3(a)は、変形例に係る柱梁接合コアを示す側面図であり、図3(b)は、図3(a)に示す柱梁接合コアの仕口部鋼管を上方から見た図である。
図4】解析のための試験体について説明した図である。
図5】解析モデル及び解析結果を示す図である。
図6】解析モデル及び解析結果を示す図である。
図7】解析モデルを示す図である。
図8】解析モデル及び解析結果を示す図である。
図9】仕口部鋼管の製造例を示す図である。
図10】解析モデル及び解析結果を示す図である。
図11】解析モデルの各条件を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1(a)は、本発明の実施形態に係る柱梁接合コア200を示す側面図である。図1(b)は、図1(a)に示す柱梁接合コア200の仕口部鋼管を上方から見た図である。図1(a)に示すように、柱梁接合構造100は、柱1と、当該柱1に接合された梁2A,2Bを備える。梁2A,2Bは、仕口部3にて柱1と接合される。梁2A,2Bは、断面H型の形状を有しており、上下のフランジ2a,2bと、フランジ2a,2b同士を接続するウェブ部2cと、を備える。
【0017】
本実施形態では、仕口部3には、鋼製の四角形断面を有する仕口部鋼管10を備える柱梁接合コア200が用いられている。仕口部鋼管10は、上側の上部鋼管4及び下側の下部鋼管6に接続される。ここで、上部鋼管4と仕口部鋼管10との接続部分、下部鋼管6と仕口部鋼管10との接続部分、及び仕口部鋼管10の内部には、いずれにも柱1内部で水平に広がる隔壁であるダイヤフラムが設けられていない。このように、柱梁接合コア200は、仕口部鋼管10を用いたノンダイアフラム工法の柱梁接合コアとして構成される。
【0018】
図1(b)に示すように、仕口部鋼管10は、四角断面の四辺を構成する四方の側壁部11A,11B,11C,11Dを有する。側壁部11A,11Cは、互いに平行をなすように離間した状態で対向する。側壁部11B,11Dは、側壁部11A,11Cと垂直をなし、互いに平行をなすように離間した状態で対向する。側壁部11Aと側壁部11Bは互いに隣り合うように配置され、角部12Aにおいて互いに接続される。側壁部11Bと側壁部11Cは互いに隣り合うように配置され、角部12Bにおいて互いに接続される。側壁部11Cと側壁部11Dは互いに隣り合うように配置され、角部12Cにおいて互いに接続される。側壁部11Dと側壁部11Aは互いに隣り合うように配置され、角部12Dにおいて互いに接続される。仕口部鋼管10は、角部12A,12B,12C,12Dにおいて所定の曲率にて丸み付けがなされている。なお、仕口部鋼管10のサイズは特に限定されないが、一辺が150mm~1000mの範囲で設定されてよい。
【0019】
なお、仕口部鋼管10の製造時における製造方法は特に限定されない。例えば、図9(a)に示すように、仕口部鋼管10が圧延材を四角形状とすることで形成されてもよい。この場合、圧延材の端部同士が溶接部24にて固定される。または、図9(b)(c)(d)(e)に示すように、複数のボックス状の部材の端部同士を溶接部24にて固定することで、仕口部鋼管10を形成してもよい。
【0020】
仕口部鋼管10の内部には、互いに隣り合う一対の側壁部の全ての組み合わせに対して固定される四つの鋼製プレート13A,13B,13C,13Dが設けられる。仕口部鋼管10には、互いに隣り合う一対の側壁部11A,11Bに対して固定される鋼製プレート13Aが設けられる。仕口部鋼管10には、互いに隣り合う一対の側壁部11B,11Cに対して固定される鋼製プレート13Bが設けられる。仕口部鋼管10には、互いに隣り合う一対の側壁部11C,11Dに対して固定される鋼製プレート13Cが設けられる。仕口部鋼管10には、互いに隣り合う一対の側壁部11D,11Aに対して固定される鋼製プレート13Dが設けられる。
【0021】
鋼製プレート13は、上下方向から見て、一方の端部が一方の側壁部11に傾斜した状態で固定され、他方の端部が他方の側壁部11に傾斜した状態で固定される。具体的に、鋼製プレート13Aは、上下方向から見て、一方の端部13Aaが一方の側壁部11Aに傾斜した状態で固定され、他方の端部13Abが他方の側壁部11Bに傾斜した状態で固定される。鋼製プレート13Bは、上下方向から見て、一方の端部13Baが一方の側壁部11Bに傾斜した状態で固定され、他方の端部13Bbが他方の側壁部11Cに傾斜した状態で固定される。鋼製プレート13Cは、上下方向から見て、一方の端部13Caが一方の側壁部11Cに傾斜した状態で固定され、他方の端部13Cbが他方の側壁部11Dに傾斜した状態で固定される。鋼製プレート13Dは、上下方向から見て、一方の端部13Daが一方の側壁部11Dに傾斜した状態で固定され、他方の端部13Dbが他方の側壁部11Aに傾斜した状態で固定される。
【0022】
本実施形態では、鋼製プレート13Aの端部13Aa及び鋼製プレート13Dの端部13Dbは、側壁部11Aの中央位置に溶接によって固定される。そのため、鋼製プレート13Aの端部13Aa及び鋼製プレート13Dの端部13Dbは、同一の溶接部14Aを介して側壁部11Aに固定される。鋼製プレート13Bの端部13Ba及び鋼製プレート13Aの端部13Abは、側壁部11Bの中央位置に溶接によって固定される。そのため、鋼製プレート13Bの端部13Ba及び鋼製プレート13Aの端部13Abは、同一の溶接部14Bを介して側壁部11Bに固定される。鋼製プレート13Cの端部13Ca及び鋼製プレート13Bの端部13Bbは、側壁部11Cの中央位置に溶接によって固定される。そのため、鋼製プレート13Cの端部13Ca及び鋼製プレート13Bの端部13Bbは、同一の溶接部14Cを介して側壁部11Cに固定される。鋼製プレート13Dの端部13Da及び鋼製プレート13Cの端部13Cbは、側壁部11Cの中央位置に溶接によって固定される。そのため、鋼製プレート13Cの端部13Ca及び鋼製プレート13Dの端部13Dbは、同一の溶接部14Dを介して側壁部11Dに固定される。
【0023】
なお、四つの鋼製プレート13は、隣り合うもの同士の端部が一つの溶接部14によって互いに固定されている。四つの鋼製プレート13は、溶接される前は、互いに別体の板材として構成されたものである。すなわち、本実施形態は、例えば、溶接前から四角形断面に構成された小鋼管を仕口部鋼管10に挿入して、小鋼管の角部を仕口部鋼管10の内面に溶接するものとは異なるものである。
【0024】
ここで、仕口部鋼管10の板厚tnは、上部鋼管4及び下部鋼管6の板厚tcよりも厚い。仕口部鋼管10の板厚tnは、側壁部11A,11B,11C,11Dの板厚である。特に限定されないが、板厚tnは15mm以上、好ましくは25mm以上に設定され、100mm以下、好ましくは55mm以下に設定される。上部鋼管4及び下部鋼管6の板厚tcは、上部鋼管4及び下部鋼管6の四方の側壁部の板厚である。特に限定されないが、板厚tcは、「板厚tn>板厚tc」の範囲で6mm以上、好ましくは9mm以上に設定され、60mm以下、好ましくは40mm以下に設定される。鋼製プレート13A,13B,13C,13Dの板厚tdは、仕口部鋼管10の板厚tnよりも薄い。特に限定されないが、板厚tdは、「板厚tn>板厚td」の範囲で6mm以上、好ましくは9mm以上に設定され、40mm以下、好ましくは28mm以下に設定される。
【0025】
本実施形態において、鋼製プレート13の一方の端部の一方の側壁部11に対する角度θ、及び鋼製プレート13の他方の端部の他方の側壁部11に対する角度θは、45°である。具体的に、鋼製プレート13Aの一方の端部13Aaの一方の側壁部11Aに対する角度θ、及び鋼製プレート13の他方の端部13Abの他方の側壁部11Bに対する角度θは、45°である。鋼製プレート13Bの一方の端部13Baの一方の側壁部11Bに対する角度θ、及び鋼製プレート13の他方の端部13Bbの他方の側壁部11Cに対する角度θは、45°である。鋼製プレート13Cの一方の端部13Caの一方の側壁部11Cに対する角度θ、及び鋼製プレート13Cの他方の端部13Cbの他方の側壁部11Dに対する角度θは、45°である。鋼製プレート13Dの一方の端部13Daの一方の側壁部11Dに対する角度θ、及び鋼製プレート13Dの他方の端部13Dbの他方の側壁部11Aに対する角度θは、45°である。
【0026】
ただし、角度θは必ずしも45°に限定されず、梁2の取り付き方向や数量などに応じて、適宜変更してもよい。例えば、角度θを30°以上に設定してよく、60°以下に設定してもよい。
【0027】
仕口部鋼管10の角部12と鋼製プレート13との間には空隙16が形成される。具体的に、仕口部鋼管10の角部12Aと鋼製プレート13Aとの間には空隙16Aが形成される。仕口部鋼管10の角部12Bと鋼製プレート13Bとの間には空隙16Bが形成される。仕口部鋼管10の角部12Cと鋼製プレート13Cとの間には空隙16Cが形成される。仕口部鋼管10の角部12Dと鋼製プレート13Dとの間には空隙16Dが形成される。
【0028】
仕口部鋼管10の外表面と、空隙16を挟んでの鋼製プレート13の固定位置である溶接部14との距離Ldは、仕口部鋼管10の板厚tnの2倍以上である。図1(b)に示すように、側壁部11Aの外表面からの溶接部14Bの距離Ldは、当該外表面と、空隙16Aを挟んでの鋼製プレート13Aの溶接部14Bとの間の距離によって定義される。当該距離は、側壁部11Aの外表面に対する垂直方向における距離である。側壁部11Aの外表面からの溶接部14Dの距離Ldは、当該外表面と、空隙16Dを挟んでの鋼製プレート13Dの溶接部14Dとの間の距離によって定義される。側壁部11Bの外表面からの溶接部14A,14Cの距離Ldは、当該外表面と、空隙16A,16Bを挟んでの鋼製プレート13A,13Bの溶接部14A,14Cとの間の距離によって定義される。側壁部11Cの外表面からの溶接部14B,14Dの距離Ldは、当該外表面と、空隙16B,16Cを挟んでの鋼製プレート13B,13Cの溶接部14B,14Dとの間の距離によって定義される。側壁部11Dの外表面からの溶接部14C,14Aの距離Ldは、当該外表面と、空隙16C,16Dを挟んでの鋼製プレート13C,13Dの溶接部14C,14Aとの間の距離によって定義される。本実施形態では、各溶接部14A,14B,14C,14Dは、各側壁部11A,11B,11C,11Dの中央位置に設けられている。従って、距離Ldは、仕口部鋼管10の一辺あたりの寸法の約半分となる。
【0029】
図1(a)に示すように、鋼製プレート13A,13B,13C,13Dは、仕口部鋼管10に対し、鋼管軸方向に対して全長に取り付けられる。すなわち、鋼製プレート13A,13B,13C,13Dは、仕口部鋼管10の上端10aから下端10bに至るまで鋼管軸方向(上下方向)に延びている。
【0030】
あるいは、図2に示すように、鋼製プレート13A,13B,13C,13Dは、仕口部鋼管10に対し、鋼管軸方向に対して一部に取り付けられてよい。具体的には、仕口部鋼管10は、上端10a側に鋼製プレート13A,13B,13C,13Dが設けれた第1の領域E1と、下端10b側に鋼製プレート13A,13B,13C,13Dが設けれた第2の領域E2と、鋼管軸方向の中途位置に鋼製プレート13A,13B,13C,13Dが設けられていない第3の領域E3と、を有する。第1の領域E1は、上端10aから梁2A,2Bの上側のフランジ2aよりも下側まで延びる。第2の領域E2は、下端10bから梁2A,2Bの下側のフランジ2bよりも上側まで延びる。
【0031】
また、仕口部鋼管10として、図3に示すものを採用してもよい。図1に示す仕口部鋼管10では、隣り合う鋼製プレート13同士は、側壁部11の中央位置において同一の溶接部を介して固定されていた。これに代えて、図3に示す仕口部鋼管10では、距離Ldが、板厚tcの2倍以上である範囲で、図1よりも短く設定されている。この場合、隣り合う鋼製プレート13の端部は、側壁部11に対して互いに離間した状態で固定されている。
【0032】
具体的に、鋼製プレート13Aは、角部12A付近において、側壁部11Aに対して溶接部14Aaを介して固定され、側壁部11Bに対して溶接部14Abを介して固定される。鋼製プレート13Bは、角部12B付近において、側壁部11Bに対して溶接部14Baを介して固定され、側壁部11Cに対して溶接部14Bbを介して固定される。鋼製プレート13Cは、角部12C付近において、側壁部11Cに対して溶接部14Caを介して固定され、側壁部11Dに対して溶接部14Cbを介して固定される。鋼製プレート13Dは、角部12D付近において、側壁部11Dに対して溶接部14Daを介して固定され、側壁部11Aに対して溶接部14Dbを介して固定される。図3に示す仕口部鋼管10のその他の寸法関係、及び角度関係は、図1に示す仕口部鋼管10と同様である。
【0033】
次に、本実施形態に係る柱梁接合コア200の作用・効果について説明する。
【0034】
まず、従来のノンダイアフラム工法を用いた柱梁接合コアとして、仕口部が厚肉の仕口部鋼管のみを有し、内部に鋼製プレートが設けられていないものを挙げる。ノンダイアフラム工法の柱梁接合構造の終局耐力は,厚肉の仕口部鋼管の面外変形全塑性耐力と根抜け破断耐力の小さい方で決定される。面外変形全塑性耐力は、仕口部鋼管の板厚の増加に伴い増加する。一方で、根抜け破断耐力は仕口部鋼管の板厚が厚くなりすぎると、板厚全厚に応力が伝わらず、板厚増肉による根抜け破壊耐力の向上が小さくなる可能性がある(構造的要因)。
【0035】
その一方で、面外変形降伏耐力、及び面外変形全塑性耐力は、仕口部鋼管の板厚の増加に伴い耐力が増化するため、取り付く梁が大きくなればなるほど板厚を増肉する必要がある。根抜け破壊耐力を向上させる観点では板厚の増肉以外の補強等が望ましいが、面外変形降伏耐力、及び面外変形全塑性耐力を向上させる観点では、板厚を増肉させて耐力を向上させることが効率的のため、各観点の解決方法が相反する。このように、従来の柱梁接合コアでは、単に仕口部鋼管の板厚を増肉させるだけでは、所望の耐力を得ることが難しいという問題があった。
【0036】
更に、建築基準法では板厚40mmを超える鋼材は、設計基準強度(F値)を低減するように定められている。そのため、板厚が40mmを超えた断面の鋼材を用いる場合、断面積の増加分がダイレクトに設計耐力に反映されない。ただし、板厚40mm以上の鋼材において、板厚40mm以下の場合と同等の性能を有しているという国土交通大臣の認定を受けた場合はその限りでない。例えば、TMCPプロセスを導入して圧延したH形鋼や鋼板で前述の認定を取得して基準強度の低減無しとして市場に流通している商品は多い。しかし、TMCPプロセスを導入することで、従来の圧延方法よりも製造コストが掛かり、結果的に商品のコストも高くなるという問題が生じる傾向にある(材料的要因)。
【0037】
これに対し、本実施形態に係る柱梁接合コア200では、仕口部鋼管10の板厚tnは、上部鋼管4及び下部鋼管6の板厚tcよりも厚い。従って、仕口部3の板厚tnを上部鋼管4及び下部鋼管6の板厚tcと同じにする場合に比して、仕口部鋼管10の板厚tnを厚くすることで、耐力を向上できる。これに対し、仕口部鋼管10の内部には、互いに隣り合う一対の側壁部11の全ての組み合わせに対して固定される四つの鋼製プレート13が設けられる。各鋼製プレート13は、上下方向から見て、一方の端部が一方の側壁部11に傾斜した状態で固定され、他方の端部が他方の側壁部11に傾斜した状態で固定される。従って、各鋼製プレート13は、仕口部鋼管10の四方の側壁部11を内部側から補強することができる。このような鋼製プレート13を設ける場合、単に仕口部鋼管10の板厚tnを厚くするだけの場合に比して、効率よく耐力を向上できる。ここで、ノンダイアフラム工法の仕口部3の耐力は、仕口部鋼管10の側壁部11の面外変形で負担する割合が高く、鋼製プレート13、及び鋼製プレート13によって面外変形を受ける側壁部11と隣り合う面に力を流して負担する割合は大きくない。すなわち、鋼製プレート13は、仕口部鋼管10の面外変形の補助的な役割を果たすものであるため、過度に増肉しても、トータルの断面積の増加に対して、得られる耐力向上効果が低い。従って、断面積の増加を抑制しつつ高い耐力向上効果を得るために、鋼製プレート13の板厚tdは、仕口部鋼管10の板厚tnよりも薄くしている。以上より、断面積の増加を抑制しつつ、柱梁接合構造100の耐力を向上させることができる。
【0038】
また、本実施形態に係る柱梁接合コア200では、仕口部鋼管10の板厚tnを必要以上に増加させる必要がないため、耐力を十分に確保した状態でも板厚tnを40mm以下に抑えることが可能となるため、前述のTMCPプロセスなどを導入して商品コストが高くなることを抑制することができる。以上より、前述の構造的要因、及び材料的要因の両問題を解決することが可能になる。
【0039】
鋼製プレート13の一方の端部の一方の側壁部11に対する角度θ、及び鋼製プレート13の他方の端部の他方の側壁部11に対する角度は、45°であってよい。この場合、各鋼製プレート13の配置及び形状の対称性を確保することができる。従って、四方の側壁部11の耐力を均等に向上することができる。また、仕口部3に対して四方向から梁2が取り付く可能性があるため、上記角度θを45°とすることで、仕口部3を汎用品とすることができる。
【0040】
仕口部鋼管10の角部12と鋼製プレート13との間には空隙16が形成され、仕口部鋼管10の外表面と、空隙16を挟んでの鋼製プレート13の固定位置との距離Ldは、仕口部鋼管10の板厚の2倍以上であってよい。仕口部鋼管10の形状や製造方法によっては、角部12付近に鋼製プレート13を溶接すると、施工性や構造的な性能が低下する可能性がある。そのため、仕口部鋼管10の外表面と、空隙16を挟んでの鋼製プレート13の固定位置との距離Ldは、仕口部鋼管10の板厚tcの2倍以上として、ある程度離しておくことで、施工性及び構造的な性能の低下を抑制できる。
【0041】
鋼製プレート13は、仕口部鋼管10に対し、鋼管軸方向に対して全長に取り付けられてよい。この場合、仕口部鋼管10の全長にわたって、耐力向上の効果を得ることができる。
【0042】
鋼製プレート13は、仕口部鋼管10に対し、鋼管軸方向に対して一部に取り付けられてよい。この場合、仕口部鋼管10のうち、特にH形鋼の梁フランジが取り付く位置などの必要な箇所に限定して、耐力向上の効果を得ることができる。
【0043】
次に、本実施形態に係る柱梁接合コア200の効果を確認するための解析内容について説明する。図4(a)に示すように、ノンダイアフラム工法の仕口部3では,仕口部鋼管10の側壁部11の面外変形を介して梁2A,2Bから柱1に力を伝える。これに対し、図4(b)に示すように、面外変形による耐力を、H形鋼の梁2A,2Bのフランジ2aと仕口部鋼管10の一部を抽出した要素の試験体250の一方向引張試で検証する方法が公知となっている(日本建築学会大会梗概/日鉄住金建材、JFEスチール)。当該試験方法を模擬した図4(b)に示すモデルにおいて、仕口部鋼管10および鋼製プレート13をSN490材、梁のフランジ2aを模擬した加力板201および仕口部鋼管10と加力板201の溶接部をTMCP385材として有限要素法解析を実施し、各パラメータの「引張荷重」と鋼管壁の面外変形量を意味する「加力板と鋼管変位の相対変位」を比較した。その結果を図5(c)に示す。なお,このとき加力板の板厚は40mmの板厚にて幅を200mmとしており、加力板201と仕口部鋼管10の溶接部はK形開先として余盛高さは、片側10mmとした。
【0044】
比較例に係る試験体として、図5(a)に示すように、仕口部鋼管10の板厚tnが41mmであり、鋼製プレート13無しのものを準備した。実施例に係る試験体として、図5(b)の仕口部鋼管10の板厚tnが35mmであり、鋼製プレート13の板厚tdが9mmのものを準備した。これらの試験体についての荷重変位関係を比較した結果、図5(c)に示すように、両者は同等の荷重変位関係であることが理解される。このとき、図5(a)及び図5(b)に示す仕口部鋼管10は断面積が同等であり、側壁部11を薄くしても、鋼製プレート13による方杖によって、耐力を確保できることが理解される。すなわち、鋼製プレート13による方杖付きのノンダイアフラム仕口部とすることで,側壁部11を薄くしながら、ノンダイアフラム工法仕口部の耐力を向上させることが可能であることが理解される。これにより、前述の構造的要因、及び材料的要因の厚肉化に関する問題を解決することができることが理解できる。なお、図5(a)(b)において、寸法線が付されると共に、当該寸法線に対して数字が付されている。これらの数字は寸法の値を示しており、単位は「mm」である。例えば、仕口部鋼管10の一辺の寸法として「402」と示されているが、これは仕口部鋼管10の一辺が「402mm」であることを意味する。以降の図においても、同様である。
【0045】
更に、比較例に係る試験体として、図6(a)に示すように、図5(a)(b)のものと断面積が同等で、仕口部鋼管10の板厚tnが25mmで鋼製プレート13の板厚tdが45mmのものを準備した。この試験体についての荷重変位関係の比較を図6(b)に示す。板厚td>板厚tnである図6(a)の断面は、図5(a)(b)の断面に比べて同変位時の荷重が低いことが理解される。これは、方杖付きのノンダイアフラム仕口部の耐力が、側壁部11の面外変形で負担する割合が高く、鋼製プレート13、及び鋼製プレート13によって面外変形を受ける側壁部11と隣り合う面に力を流して負担する割合は大きくないためである。鋼製プレート13による効果はあるが、側壁部11の面外変形の補助的な役割に過ぎず、トータルの断面積を少なく効率良く仕口部の耐力を向上させるには、鋼製プレート13の板厚tdは仕口部鋼管10の板厚tdより薄くする必要があることが理解できる。この解析より、板厚tn>板厚tdとすることによる効果が確認でき、板厚td>板厚tnとすることの効果が薄いことを確認できる。
【0046】
試験体として、図7(a)(b)及び図8(a)に示すように、断面積が図5(a)と同等で、仕口部鋼管10の板厚tnが35mmにて統一し、鋼製プレート13の板厚tdを11.5mm、17.5mm、27mmとしたものを準備した。これらの試験体では、鋼製プレート13の板厚が厚くなるほど、鋼製プレート13が取り付く位置が仕口部鋼管10の内角部に近づく断面となっている。このとき、すべての断面が図5(a)の仕口部鋼管10の板厚tnが41mmで鋼製プレート13無しのものと同等の断面積である。これらの試験体についての図8(b)に示す荷重変位関係を比較すると、同等の荷重変位関係であり、板厚tn>板厚tdであれば、鋼製プレート13の位置が仕口部鋼管10の内角部に近づいても、鋼製プレート13を設けることによる耐力向上の効果がある点が確認される。
【0047】
なお、鋼製プレート13の位置が仕口部鋼管10の内角部に近づきすぎると、仕口部鋼管10が圧延材の場合(図9(a)参照)は、内角部にぶつかるため溶接施工性が悪くなる場合があり、性能の担保が難しくなる場合がある。また、仕口部鋼管10が四面ボックスの場合(図9(e)参照)、鋼製プレート13が角部の溶接部24の熱影響部24aと交差することで、当該熱影響部24aの性能が低下することが懸念される。圧延材の内角部で板厚tnが製造の最小値となることが多数のため、施工性と構造性能担保を考慮すると、仕口部外表面から鋼製プレート13の溶接位置の距離Ldが仕口部鋼管10の板厚tnの2倍以上離れていることが望ましい。
【0048】
試験体として、図10(a)に示すように、鋼製プレート13による方杖状の補強ではなく、仕口部鋼管10の内部隅角部25を増肉して図5(a)と断面積を同等としたものを準備した。図10(b)に示す荷重変位関係を比較すると、図10(a)に示すものは図5(a)に示すものに比べて同変位時の耐力は若干低く、耐力の向上は見込めない。また、角部の板厚が極厚となるため、鋼製部材で板厚内部の材料特性を均一に製造することは極めて困難であり、ノンダイアフラム工法の仕口部材としては不向きである。
【0049】
図11は、上述の各試験体の寸法、及び断面等の情報を詳細に記載した表である。
【0050】
本発明は、上述の実施形態及び変形例に限定されるものではない。上述の実施形態で説明した寸法、角度等は一例にすぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更してよい。また、仕口部鋼管、鋼製プレートの形状等も適宜変更してよい。
【符号の説明】
【0051】
1…柱、2…梁、3…仕口部、4…上部鋼管、6…下部鋼管、10…仕口部鋼管、11…側壁部、12…角部、13…鋼製プレート、16…空隙、200…柱梁接合コア。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11