(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154383
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/12 20060101AFI20221005BHJP
H02M 5/297 20060101ALI20221005BHJP
H02M 5/293 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
H02M7/12 601A
H02M7/12 M
H02M5/297
H02M5/293 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057402
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】青木 暉
(72)【発明者】
【氏名】脇阪 伸也
【テーマコード(参考)】
5H006
5H750
【Fターム(参考)】
5H006AA01
5H006CA01
5H006CA02
5H006CB01
5H006CB08
5H006CC08
5H006DA04
5H006DB01
5H006DC05
5H750AA03
5H750BA01
5H750BA08
5H750CC06
5H750CC07
5H750CC11
5H750DD01
5H750DD25
5H750FF05
5H750FF07
(57)【要約】
【課題】入力電流に生じ得る高調波歪みを抑制できる電力変換装置を提供すること。
【解決手段】電力変換装置10は、1次側巻線31及び2次側巻線32を有するトランス30と、1次側回路40と、2次側回路50と、制御回路80と、を備えている。1次側回路40は、複数の1次側スイッチング素子Q1~Q6を有し、2次側回路50は、2次側スイッチング素子Q11~Q14を有する。制御回路80は、1次側スイッチング素子Q1~Q6及び2次側スイッチング素子Q11~Q14を制御する制御モードとして不連続モードを備えている。不連続モードは、降圧不連続モードと昇圧不連続モードとを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端子及び第2端子と、
1次側巻線及び2次側巻線を有するトランスと、
前記第1端子と前記1次側巻線との間に設けられ、1次側スイッチング素子を有し且つ前記第1端子から入力される入力電力の電力変換を行う1次側回路と、
前記2次側巻線と前記第2端子との間に設けられ、2次側スイッチング素子を有する2次側回路と、
前記1次側スイッチング素子及び前記2次側スイッチング素子を制御する制御部と、
を備え、
前記2次側回路は、前記トランスから入力される交流電力を整流し、その整流された直流電力を前記第2端子に向けて出力するものであり、
前記制御部は、前記1次側スイッチング素子及び前記2次側スイッチング素子を周期的にスイッチングする制御モードとして、1周期内に前記1次側巻線から前記2次側巻線へ電力伝送する第1電力伝送期間及び第2電力伝送期間と、前記1次側巻線に電流が流れない電流ゼロ期間とを有する不連続モードを備えるとともに、
前記1次側スイッチング素子又は前記2次側スイッチング素子のいずれか一方の制御を切り替えることで、前記1次側巻線と、当該1次側巻線と前記1次側回路との間のインダクタンスとに印加される電圧との合成電圧の極性と、前記2次側巻線に印加される電圧の極性とが、逆極性となるように、前記両電力伝送期間よりも短い短パルス電圧を発生させる第1制御と、
前記合成電圧と、前記2次側巻線に印加される電圧との双方が前記両電力伝送期間よりも短い短パルス電圧で、かつ、互いに逆極性となるように、前記1次側スイッチング素子及び前記2次側スイッチング素子の双方の制御を切り替える第2制御と、
を備え、
前記不連続モードは、第1不連続モードと第2不連続モードとを有し、
前記第1不連続モードは、前記第1電力伝送期間終了後及び前記第2電力伝送期間終了後に、前記第1制御を行うことで、前記第1電力伝送期間及び前記第2電力伝送期間から前記電流ゼロ期間に移行させるモードであり、
前記第2不連続モードは、前記第1電力伝送期間の開始前に、前記第1制御を行うことで、前記電流ゼロ期間から前記第1電力伝送期間に移行させるとともに、前記第2電力伝送期間の開始前に、前記第2制御を行うことで、前記電流ゼロ期間から前記第2電力伝送期間に移行させるモードであり、
前記制御部は、
前記入力電力の電圧である入力電圧と前記2次側回路から出力される出力電圧との比率に基づく判定値が、基準値以下である場合に前記第1不連続モードを設定し、前記判定値が前記基準値よりも大きい場合に前記第2不連続モードを設定する第1設定部と、
前記判定値が前記基準値よりも大きい状態が所定期間に亘って継続した場合に、前記第1設定部の設定に関わらず、前記第1不連続モードを設定する第2設定部と、
を備えている電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、1次側巻線及び2次側巻線を有するトランスを備えた電力変換装置が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載の電力変換装置は、1次側回路としての第1スイッチング回路と、2次側回路としての第2スイッチング回路と、を備え、トランスは第1スイッチング回路と第2スイッチング回路との間に設けられている。また、1次側回路及び2次側回路はスイッチング素子を有し、当該スイッチング素子がスイッチングを行うことにより電力変換が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、スイッチング素子のスイッチングによる電力変換が行われる場合、電力変換装置に入力される入力電力の電流である入力電流に高調波歪み(RHD)が生じ得る。
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、その目的は入力電流に生じ得る高調波歪みを抑制できる電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する電力変換装置は、第1端子及び第2端子と、1次側巻線及び2次側巻線を有するトランスと、前記第1端子と前記1次側巻線との間に設けられ、1次側スイッチング素子を有し且つ前記第1端子から入力される入力電力の電力変換を行う1次側回路と、前記2次側巻線と前記第2端子との間に設けられ、2次側スイッチング素子を有する2次側回路と、前記1次側スイッチング素子及び前記2次側スイッチング素子を制御する制御部と、を備え、前記2次側回路は、前記トランスから入力される交流電力を整流し、その整流された直流電力を前記第2端子に向けて出力するものであり、前記制御部は、前記1次側スイッチング素子及び前記2次側スイッチング素子を周期的にスイッチングする制御モードとして、1周期内に前記1次側巻線から前記2次側巻線へ電力伝送する第1電力伝送期間及び第2電力伝送期間と、前記1次側巻線に電流が流れない電流ゼロ期間とを有する不連続モードを備えるとともに、前記1次側スイッチング素子又は前記2次側スイッチング素子のいずれか一方の制御を切り替えることで、前記1次側巻線と、当該1次側巻線と前記1次側回路との間のインダクタンスとに印加される電圧との合成電圧の極性と、前記2次側巻線に印加される電圧の極性とが、逆極性となるように、前記両電力伝送期間よりも短い短パルス電圧を発生させる第1制御と、前記合成電圧と、前記2次側巻線に印加される電圧との双方が前記両電力伝送期間よりも短い短パルス電圧で、かつ、互いに逆極性となるように、前記1次側スイッチング素子及び前記2次側スイッチング素子の双方の制御を切り替える第2制御と、を備え、前記不連続モードは、第1不連続モードと第2不連続モードとを有し、前記第1不連続モードは、前記第1電力伝送期間終了後及び前記第2電力伝送期間終了後に、前記第1制御を行うことで、前記第1電力伝送期間及び前記第2電力伝送期間から前記電流ゼロ期間に移行させるモードであり、前記第2不連続モードは、前記第1電力伝送期間の開始前に、前記第1制御を行うことで、前記電流ゼロ期間から前記第1電力伝送期間に移行させるとともに、前記第2電力伝送期間の開始前に、前記第2制御を行うことで、前記電流ゼロ期間から前記第2電力伝送期間に移行させるモードであり、前記制御部は、前記入力電力の電圧である入力電圧と前記2次側回路から出力される出力電圧との比率に基づく判定値が、基準値以下である場合に前記第1不連続モードを設定し、前記判定値が前記基準値よりも大きい場合に前記第2不連続モードを設定する第1設定部と、前記判定値が前記基準値よりも大きい状態が所定期間に亘って継続した場合に、前記第1設定部の設定に関わらず、前記第1不連続モードを設定する第2設定部と、を備えている。
【0006】
かかる構成によれば、判定値が基準値よりも大きい状態が所定期間に亘って継続した場合には、第1不連続モードが設定される。当該第1不連続モードは、第2不連続モードよりも入力電流の高調波歪みが小さくなり易いモードである。これにより、入力電流の高調波歪みを抑制できる。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、入力電流に生じ得る高調波歪みを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】電力変換装置の電気的な構成を模式的に示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、電力変換装置の一実施形態について説明する。なお、以下の記載は、電力変換装置の一例を示すものであり、電力変換装置が本実施形態の内容に限定されるものではない。
【0010】
図1に示すように、本実施形態の電力変換装置10は、例えば交流電源101との接続に用いられる第1端子(入力部)11~13を備えている。交流電源101が第1端子11~13に接続されることにより、電力変換装置10に交流電力が入力される。
【0011】
交流電源101は、例えば3相の系統電力を出力する系統電源である。本実施形態では、3相の系統電力に対応させて、第1端子11~13は3つである。但し、これに限られず、単相の系統電力に対応させて、入力端子は2つでもよい。すなわち、電力変換装置10に入力される電力は単相でもよいし、三相でもよい。
【0012】
なお、説明の便宜上、第1端子11~13に入力される交流電力(換言すれば交流電源101が出力する電力)を入力電力Pinといい、入力電力Pinの電圧を入力電圧Vinといい、入力電力Pinの電流を入力電流Iinという。この場合、第1端子11~13は、入力電力Pinが入力される端子ともいえる。入力電力Pinが系統電力(換言すれば商用電力)である場合、入力電圧Vin及び入力電流Iinは、系統電圧及び系統電流といえる。
【0013】
ここで、入力電圧Vinは、交流電源101の状態に応じて変動し得るものである。例えば、交流電源101が系統電源である場合、国に応じて入力電圧Vinは異なり得る。また、系統電源の使用状況によっては、入力電圧Vinが低下する場合があり得る。なお、入力電圧Vinは実効値でもよいし、振幅の値でもよい。
【0014】
本実施形態の電力変換装置10は、入力電力Pinを直流電力に変換して出力するものである。電力変換装置10は、当該電力変換装置10によって変換された直流電力が出力される第2端子(出力部)21,22を備えている。
【0015】
図1に示すように、本実施形態では、電力変換装置10は、トランス30と、1次側回路40と、2次側回路50と、を備えている。
トランス30は、互いに磁気結合した1次側巻線31及び2次側巻線32を有している。両巻線31,32はコイルである。トランス30は、交流電力の電圧変換を行うものであり、その変圧比は、1次側巻線31と2次側巻線32との巻数比に対応する。
【0016】
電力変換装置10は、1次側巻線31と1次側回路40とを接続する1次側接続線LN1と、2次側巻線32と2次側回路50とを接続している2次側接続線LN2と、を備えている。これにより、1次側回路40と2次側回路50とは、トランス30を介して電気的に接続されている。したがって、1次側回路40と2次側回路50との間では交流電力の伝送は許容されている一方、直流電力の伝送が規制されている。この場合、1次側回路40と2次側回路50とは絶縁されているといえる。すなわち、本実施形態において絶縁とは、直流電力の伝送が規制されていることを意味する。
【0017】
本実施形態の1次側回路40は、第1端子11~13と1次側巻線31との間に設けられており、1次側巻線31に接続されているとともに、第1端子11~13に接続されている。これにより、1次側回路40は、第1端子11~13を介して交流電源101に接続される。
【0018】
1次側回路40は、電力変換を行うものであり、本実施形態では第1端子11~13から入力される電力である入力電力Pinを電力変換する。本実施形態の1次側回路40は、交流電力の双方向変換を可能に構成されている。1次側回路40は、例えば1次側スイッチング素子Q1~Q6を備えたマトリックスコンバータである。1次側回路40は、1次側スイッチング素子Q1~Q6が周期的にON/OFFすることにより電力変換を行う。例えば、1次側回路40は、入力電力Pinを所定電圧の交流電力に変換してトランス30の1次側巻線31に向けて出力したり、トランス30から入力された交流電力を変換して交流電源101に出力したりする。なお、1次側回路40は、周波数を変換してもよい。つまり、1次側回路40による電力変換は、周波数変換を含んでもよい。
【0019】
1次側スイッチング素子Q1~Q6は、順方向及び逆方向の双方の電圧をON/OFFすることができる双方向スイッチング素子である。1次側スイッチング素子Q1~Q6の具体的な構成は任意であるが、例えば互いに並列に接続された複数のIGBT及びダイオードの組み合わせ又はMOSFETを有するとよい。
【0020】
なお、1次側スイッチング素子Q1~Q6の具体的な構成は、これに限られず、単方向スイッチング素子でもよい。この場合、単方向スイッチング素子に対して並列にダイオードが接続されているとよい。
【0021】
電力変換装置10は単方向の電力変換装置でもよい。この場合、1次側スイッチング素子Q1~Q6は、単方向の交流入力ならば、例えば、IGBTとダイオードの組合せ、MOSFET等であるとよく、単方向の直流入力ならば、例えば、IGBTとダイオードの組合せ、IGBT、MOSFET等であるとよい。
【0022】
1次側スイッチング素子Q1~Q6は、1次側上アームスイッチング素子Q1,Q2,Q3と、1次側中間線41,42,43によって1次側上アームスイッチング素子Q1,Q2,Q3と直列に接続された1次側下アームスイッチング素子Q4,Q5,Q6とによって構成されている。1次側上アームスイッチング素子Q1,Q2,Q3と1次側下アームスイッチング素子Q4,Q5,Q6との直列接続体は、互いに並列に接続された状態で、1次側接続線LN1によって1次側巻線31に接続されている。
【0023】
電力変換装置10は、1次側接続線LN1上に設けられたインダクタ70を備えている。インダクタ70は、専用のコイルによって構成されていてもよいし、トランス30の寄生インダクタンスによって構成されていてもよい。
【0024】
2次側回路50は、2次側巻線32に接続されている。これにより、1次側巻線31に入力される交流電力は、2次側巻線32によって変圧されて2次側回路50に入力される。
【0025】
2次側回路50は、トランス30から入力された交流電力を整流し、その整流された直流電力を第2端子21,22に向けて出力する。ここで、説明の便宜上、2次側回路50から第2端子21,22に向けて出力される直流電力を出力電力Poutといい、出力電力Poutの電圧及び電流を出力電圧Vout及び出力電流Ioutという。
【0026】
本実施形態の2次側回路50は、2次側スイッチング素子Q11~Q14を有する。2次側回路50は、AC/DCの双方向変換を可能に構成されている。例えば、2次側回路50は、複数(例えば4つ)の2次側スイッチング素子Q11~Q14を有するフルブリッジ回路を含み、2次側スイッチング素子Q11~Q14が周期的にON/OFFすることにより電力変換を行う。例えば、2次側回路50は、トランス30から入力される交流電力を直流電力に変換したり、第2端子21,22から入力される直流電力を交流電力に変換したりする。
【0027】
2次側スイッチング素子Q11~Q14の具体的な構成は任意であるが、例えば互いに並列に接続された複数のIGBT及びダイオードの組み合わせ又はMOSFETであるとよい。
【0028】
すなわち、本実施形態の電力変換装置10は、1次側スイッチング素子Q1~Q6及び2次側スイッチング素子Q11~Q14が周期的にON/OFFすることにより、交流電力及び直流電力間の双方向変換を行うデュアルアクティブブリッジ形式のマトリックスコンバータである。
【0029】
図1に示すように、電力変換装置10は、2次側回路50と第2端子21,22との間に設けられた出力コンデンサ60を備えている。出力コンデンサ60によって、2次側回路50から出力される直流電力の電圧が安定する。すなわち、出力コンデンサ60は、2次側回路50から出力される直流電力を安定化するためのものともいえる。出力電力Poutは、出力コンデンサ60によって安定化された状態で、第2端子21,22から出力される。
【0030】
電力変換装置10は、1次側回路40及び2次側回路50を制御する制御部としての制御回路80を備えている。本実施形態では、制御回路80は、1次側回路40及び2次側回路50、詳細には両スイッチング素子Q1~Q6,Q11~Q14を制御するための制御処理を実行するプログラムや必要な情報が記憶されたメモリと、上記プログラムに基づいて制御処理を実行するCPUとを有する構成でもよい。
【0031】
ただし、これに限られず、制御回路80は、例えば専用ハードウェア回路を有する構成でもよいし、1又は複数の専用ハードウェア回路とソフトウェア処理を実行するCPUとの組み合わせでもよい。換言すれば、制御回路80の具体的な構成は任意であり、例えば1つ以上の専用のハードウェア回路、及び、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ(制御回路)の少なくとも一方によって実現されていればよい。
【0032】
制御回路80は、両スイッチング素子Q1~Q6,Q11~Q14を所定のスイッチングパターンで順次スイッチング動作させることにより電力変換を行う。制御回路80は、複数のスイッチングパターンを予め定められた順序で切り替えるスイッチングを1周期として、当該スイッチングを周期的に行うことにより、電力変換を行わせる。
【0033】
ここで、制御回路80は、両スイッチング素子Q1~Q6,Q11~Q14を周期的にスイッチングする制御モードとして、連続モードと不連続モードとを備えている。当該制御モードについて説明する。
【0034】
連続モードは、1周期内において1次側巻線31(換言すればトランス30)に電流が連続的に流れる制御モードである。換言すれば、連続モードは、1次側巻線31に電流が連続的に流れるように各1次側スイッチング素子Q1~Q6を周期的にスイッチングするモードである。
【0035】
詳細には、1次側上アームスイッチング素子Q1,Q2,Q3と1次側下アームスイッチング素子Q4,Q5,Q6とにおいて直列に接続されたもの同士が同時にON状態となる場合、1次側巻線31には電流が流れない。したがって、連続モードでは、1周期内において1次側上アームスイッチング素子Q1,Q2,Q3と1次側下アームスイッチング素子Q4,Q5,Q6とにおいて直列に接続されたもの同士が同時にON状態となる期間が設けられていない。すなわち、連続モードは、各1次側スイッチング素子Q1~Q6における直列接続されたペアのうち少なくとも一方がOFF状態となっているモードである。換言すれば、連続モードにおいて実行される複数のスイッチングパターンは、直列接続されたペアについて少なくとも一方がOFF状態となるように設定されている。
【0036】
連続モードは、1次側巻線31に流れる電流値が基準電流値よりも大きくなったタイミングで1次側巻線31の印加電圧と2次側巻線32の印加電圧の極性が互いに逆になるように制御する降圧連続モードを有する。連続モードは、1次側巻線31に流れる電流値が基準電流値よりも大きくなったタイミングで1次側巻線31の印加電圧と2次側巻線32の印加電圧の極性が同じになるように制御する昇圧連続モードを有する。
【0037】
不連続モードは、1周期内において1次側巻線31(換言すればトランス30)に電流が流れない電流ゼロ期間が設けられた制御モードである。換言すれば、不連続モードは、電流ゼロ期間が設けられるように各1次側スイッチング素子Q1~Q6を周期的にスイッチングするモードである。
【0038】
詳細には、電流ゼロ期間は、1周期内において1次側上アームスイッチング素子Q1,Q2,Q3と1次側下アームスイッチング素子Q4,Q5,Q6とにおける直列に接続されたもの同士が同時にON状態となる期間である。すなわち、不連続モードにおいて実行される複数のスイッチングパターンは、直列接続されたペアの双方がON状態となるゼロパターンを含む。ゼロパターンは、例えば両アームスイッチング素子Q1,Q4、両アームスイッチング素子Q2,Q5、又は両アームスイッチング素子Q3,Q6のいずれかのペアが同時にON状態となるように設定されたスイッチングパターンである。電流ゼロ期間は、ゼロパターンが設定されている期間である。
【0039】
不連続モードは、1周期内に1次側巻線31から2次側巻線32へ電力伝送する第1電力伝送期間及び第2電力伝送期間を含む制御モードである。第1電力伝送期間では、例えば1次側巻線31の印加電圧が正となっている。第2電力伝送期間では、例えば1次側巻線31の印加電圧が負となっている。
【0040】
不連続モードは、第1不連続モードとしての降圧不連続モードと、第2不連続モードとしての昇圧不連続モードと、を有している。
降圧不連続モードは、第1電力伝送期間終了後及び第2電力伝送期間終了後に、第1制御を行うことで、第1電力伝送期間及び第2電力伝送期間から電流ゼロ期間に移行させるモードである。つまり、降圧不連続モードは、第1電力伝送期間→第1制御→電流ゼロ期間→第2電力伝送期間→第1制御→電流ゼロ期間となるように1次側回路40及び2次側回路50を制御するモードである。
【0041】
昇圧不連続モードは、第1電力伝送期間の開始前に、第1制御を行うことで、電流ゼロ期間から第1電力伝送期間に移行させるとともに、第2電力伝送期間の開始前に、第2制御を行うことで、電流ゼロ期間から第2電力伝送期間に移行させるモードである。つまり、昇圧不連続モードは、電流ゼロ期間→第1制御→第1電力伝送期間→電流ゼロ期間→第2制御→第2電力伝送期間となるように1次側回路40及び2次側回路50を制御するモードである。すなわち、降圧不連続モードは、第1制御を含み且つ第2制御を含まない制御モードである。昇圧不連続モードは、第2制御を含む制御モードである。なお、不連続モードは、電流ゼロ期間及び両電力伝送期間を有し、且つ、第1制御及び第2制御を含まないモードを含んでもよい。
【0042】
第1制御及び第2制御について説明する。なお、以降の説明において、1次側巻線31とインダクタ70とに印加される電圧の合成値を単に合成電圧という。本実施形態では、インダクタ70が、1次側巻線31と1次側回路40との間のインダクタンスに相当する。
【0043】
第1制御は、1次側スイッチング素子Q1~Q6又は2次側スイッチング素子Q11~Q14のいずれか一方の制御を切り替えることにより、合成電圧の極性と2次側巻線32の印加電圧の極性とが逆になるように、両電力伝送期間よりも短い短パルス電圧を発生させる制御である。換言すれば、第1制御は、1次側巻線31の印加電圧と2次側巻線32の印加電圧とが逆極性になるような短パルス電圧が1次側巻線31又は2次側巻線32に印加されるように1次側スイッチング素子Q1~Q6又は2次側スイッチング素子Q11~Q14のいずれか一方のスイッチングパターンを切り替える制御である。
【0044】
第2制御は、合成電圧と2次側巻線32の印加電圧との双方が両電力伝送期間よりも短い短パルス電圧で、かつ、互いに逆極性となるように、両スイッチング素子Q1~Q6,Q11~Q14双方の制御を切り替える制御である。換言すれば、第2制御は、1次側巻線31の印加電圧と2次側巻線32の印加電圧とが逆極性になるような短パルス電圧が1次側巻線31及び2次側巻線32の双方に印加されるように1次側スイッチング素子Q1~Q6及び2次側スイッチング素子Q11~Q14双方のスイッチングパターンを切り替える制御である。
【0045】
図1に示すように、電力変換装置10は、入力電圧Vinを検出する入力電圧センサ91と、出力電圧Voutを検出する出力電圧センサ92と、を備えている。両電圧センサ91,92は、検出結果を制御回路80に向けて出力する。これにより、制御回路80は、入力電圧Vin及び出力電圧Voutを把握できる。
【0046】
制御回路80は、外部からの指令などに基づいて出力電力Poutを決定し、その決定された出力電力Poutが出力されるように1次側回路40及び2次側回路50を制御する。
【0047】
制御回路80は、出力電力Pout、入力電圧Vin及び出力電圧Voutなどに基づいて、制御モードの設定を行う。
例えば、制御回路80は、出力電力Poutが第1電力値Pout1である場合、制御モードを連続モードに設定する。
【0048】
一方、制御回路80は、例えば出力電力Poutが第1電力値Pout1よりも小さい第2電力値Pout2である場合には、制御モードを不連続モードに設定する。
制御回路80は、入力電圧Vinと出力電圧Voutとに基づいて、不連続モードとして、第1不連続モード又は第2不連続モードを設定する不連続モード制御処理を実行する。制御回路80は、不連続モード制御処理を予め定められた切替周期T1が経過する度に実行する。すなわち、不連続モード制御処理の実行周期は切替周期T1である。ただし、これに限られず、不連続モード制御処理は不定期に実行されてもよい。
【0049】
図2を用いて不連続モード制御処理について説明する。
図2に示すように、制御回路80は、ステップS101にて、両電圧センサ91,92によって検出される入力電圧Vin及び出力電圧Voutの比率に基づく判定値ηと、基準値ηthとを比較する。トランス30の巻数比をNとすると、判定値ηは、N×Vout/(Vin×√2)から算出される値である。判定値ηは、電力変換装置10の稼働中、適宜算出されるものであり、例えばステップS101が行われる度に、換言すれば切替周期T1ごとに算出される。
【0050】
基準値ηthは、N×Vout0/(Vin0×√2)から算出される値であって、通常、電力変換装置10の設計者により設定される値である。基準値ηthは、例えば、以下の3つの値のいずれかに設定される。
【0051】
1.降圧不連続モードにおいて、両スイッチング素子Q1~Q6,Q11~Q14のデューティ比を最大にした状態で、所定の入力電圧Vin0が入力された時に出力される出力電圧Vout0と、当該所定の入力電圧Vin0との比率に基づいて算出される値。
【0052】
2.昇圧不連続モードにおいて、両スイッチング素子Q1~Q6,Q11~Q14のデューティ比を最小にした状態で、所定の入力電圧Vinが入力された時に出力される出力電圧Vout0と、当該所定の入力電圧Vin0との比率に基づいて算出される値。
【0053】
3.第1電力伝送期間、第2電力伝送期間、電流ゼロ期間を有し、第1制御及び第2制御を含まない不連続モードにおいて、両スイッチング素子Q1~Q6,Q11~Q14のデューティ比を最大にした状態で、所定の入力電圧Vin0が入力された時に出力される出力電圧Vout0と、当該所定の入力電圧Vin0との比率に基づいて算出される値。
【0054】
なお、所定の入力電圧Vin0は、設計者が予め適宜設定しうる値である。
制御回路80は、判定値ηが基準値ηth以下である場合には、ステップS102にて、所定期間T2のカウントをリセットする。所定期間T2のカウントについては後述する。
【0055】
その後、制御回路80は、ステップS103にて、降圧不連続モードを設定して、本不連続モード制御処理を終了する。本実施形態では、判定値ηが基準値ηth以下であることが降圧条件であり、判定値ηが基準値ηthよりも大きいことが昇圧条件である。
【0056】
一方、制御回路80は、判定値ηが基準値ηthよりも大きい場合には、ステップS101を否定判定してステップS104に進み、所定期間T2のカウント中であるか否かを判定する。所定期間T2は、例えば切替周期T1よりも長い。例えば、切替周期T1が1secである場合、所定期間T2は2secである。
【0057】
所定期間T2のカウント中である場合、制御回路80は、ステップS106に進む。一方、所定期間T2のカウントが行われていない場合には、制御回路80は、ステップS105にて所定期間T2のカウントをスタートして、ステップS106に進む。
【0058】
ステップS106では、制御回路80は、所定期間T2が経過しているか否かを判定する。所定期間T2が経過していない場合には、制御回路80は、ステップS107にて不連続モードとして昇圧不連続モードを設定して、不連続モード制御処理を終了する。
【0059】
一方、制御回路80は、所定期間T2が経過している場合には、ステップS102に進み、所定期間T2のカウントをリセットして、ステップS103に進む。これにより、不連続モードとして降圧不連続モードが設定される。
【0060】
すなわち、制御回路80は、判定値ηが基準値ηth以下である場合に降圧不連続モードを設定する。そして、制御回路80は、判定値ηが基準値ηthよりも大きい状態が所定期間T2に亘って継続していない場合には昇圧不連続モードに設定する。一方、制御回路80は、判定値ηが基準値ηthよりも大きい状態が所定期間T2に亘って継続した場合には降圧不連続モードに設定する。
【0061】
ここで、降圧条件としての判定値ηが基準値ηth以下である場合に降圧不連続モードに設定し、昇圧条件としての判定値ηが基準値ηthよりも大きい場合には昇圧不連続モードに設定する処理を実行する制御回路80を第1設定部とする。本実施形態の第1設定部は、ステップS101の処理を肯定判定してステップS103の処理を実行する一方、ステップS101及びステップS106の処理を否定判定してステップS107の処理を実行する制御回路80である。
【0062】
この場合、制御回路80は、判定値ηが基準値ηthよりも大きい状態が所定期間T2に亘って継続した場合には、第1設定部の設定に関わらず、降圧不連続モードに設定する処理を実行する第2設定部を備えているといえる。本実施形態の第2設定部は、ステップS106の処理を肯定判定してステップS103の処理を実行する制御回路80である。
【0063】
次に本実施形態の作用について説明する。
判定値ηが基準値ηthよりも大きい状態が所定期間T2に亘って継続した場合には、第2制御を含む昇圧不連続モードではなく、第2制御を含まない降圧不連続モードに設定される。第2制御を含まない降圧不連続モードは、第2制御を含む昇圧不連続モードと比較して、入力電流Iinの高調波歪みが小さくなり易いモードである。これにより、入力電流Iinの高調波歪みが小さくなり易い。
【0064】
以上詳述した本実施形態によれば以下の効果を奏する。
(1)制御回路80は、判定値ηが基準値ηthよりも大きい状態が所定期間T2に亘って継続した場合には、第2制御を含む昇圧不連続モードではなく、第2制御を含まない降圧不連続モードに設定する。これにより、入力電流Iinの高調波歪みを抑制できる。
【0065】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。また、技術的に矛盾が生じない範囲内で、上記実施形態と各別例とを組み合わせてもよいし、各別例同士を組み合わせてもよい。
【0066】
○ 電力変換装置10は、絶縁型のDC/DCコンバータでもよい。詳細には、電力変換装置10は2つの入力端子を有し、1次側回路40は、2つの入力端子に入力される直流電力を交流電力に変換するものでもよい。この場合、1次側回路40は、例えば4つの1次側スイッチング素子を有するフルブリッジ回路であってもよい。
【0067】
○ 連続モードを省略してもよい。
○ 1次側回路40は、第1端子11~13から入力される電力を電力変換することができればよく、その具体的な回路構成は任意である。
【0068】
○ 2次側回路50は、トランス30から入力される交流電力を整流することができればよく、その具体的な回路構成は任意である。例えば、2次側回路50は、2次側スイッチング素子Q11~Q14及びダイオードの双方を有する構成でもよい。
【0069】
○ 電力変換装置10は、2次側回路50(換言すれば出力コンデンサ60)と第2端子21,22との間に設けられたDC/DC変換回路又はDC/AC変換回路を別途備えていてもよい。つまり、2次側回路50から出力される電力と、第2端子21,22から出力される電力とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0070】
電力変換装置10が、2次側回路50と第2端子21,22との間に設けられたDC/DCコンバータを有する場合、DC/DCコンバータは、第2端子21,22から所望の電圧が出力されるように2次側回路50からの出力電圧Voutに対応させて電圧変換を行うとよい。これにより、出力電圧Voutが変更された場合であっても、第2端子21,22から所望の電圧を出力することができる。
【0071】
上記別例においては、出力電圧Voutを一定にすることができる。この場合、ステップS101の判定処理は、入力電圧Vinが基準値ηthに対応する閾値電圧よりも大きいか否かの判定処理と等価となる。したがって、出力電圧Voutが一定の場合には、判定値ηが基準値ηthよりも大きいか否かの判定は、入力電圧Vinが基準値ηthに対応する閾値電圧よりも大きいか否かの判定ともいえる。
【0072】
○ 電力変換装置10は、第1端子11~13と1次側回路40との間にフィルタ回路などの所定の回路を有していてもよい。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる好適な一例について以下に記載する。
【0073】
(イ)1次側巻線及び2次側巻線を有するトランスと、前記1次側巻線に接続され、1次側スイッチング素子を有する1次側回路と、前記2次側巻線に接続され、2次側スイッチング素子を有する2次側回路と、前記1次側スイッチング素子及び前記2次側スイッチング素子を制御することにより電力変換を行う制御部と、を備え、前記制御部は、前記1次側スイッチング素子及び前記2次側スイッチング素子を周期的にスイッチングする制御モードとして、1周期内に前記1次側巻線から前記2次側巻線へ電力伝送する第1電力伝送期間及び第2電力伝送期間と、前記1次側巻線に電流が流れない電流ゼロ期間とを有する不連続モードを備え、前記不連続モードは、第1制御を含み且つ第2制御を含まない降圧不連続モードと、前記第2制御を含む昇圧不連続モードと、を有し、前記第1制御は、前記1次側巻線の印加電圧と前記2次側巻線の印加電圧とが逆極性となるような前記両電力伝送期間よりも短い短パルス電圧が前記1次側巻線又は前記2次側巻線のいずれか一方にて発生するように、前記1次側スイッチング素子又は前記2次側スイッチング素子のいずれか一方のスイッチングパターンを切り替える制御であり、前記第2制御は、前記1次側巻線の印加電圧と前記2次側巻線の印加電圧とが逆極性になるような前記両電力伝送期間よりも短い短パルス電圧が前記1次側巻線及び前記2次側巻線の双方に印加されるように前記1次側スイッチング素子及び前記2次側スイッチング素子の双方のスイッチングパターンを切り替える制御であり、前記制御部は、前記入力電力の電圧である入力電圧と前記2次側回路から出力される出力電圧との比率に基づく降圧条件が成立している場合には前記降圧不連続モードを設定する一方、前記比率に基づく昇圧条件が成立している場合には前記昇圧不連続モードを設定する第1設定部と、前記昇圧条件が成立した状態が所定期間に亘って継続した場合には、前記第1設定部の設定に関わらず前記降圧不連続モードを設定する第2設定部と、を備えている電力変換装置
【符号の説明】
【0074】
10…電力変換装置、11~13…第1端子、21,22…第2端子、30…トランス、31…1次側巻線、32…2次側巻線、40…1次側回路、50…2次側回路、70…インダクタ、80…制御回路、101…交流電源、Q1~Q6…1次側スイッチング素子、Q11~Q14…2次側スイッチング素子、Pin…入力電力、Pout…出力電力、Vin…入力電圧、Vout…出力電圧、Iin…入力電流、Iout…出力電流、η…判定値、ηth…基準値、T2…所定期間。