(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154393
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】エレベータ、調速機及び釣合錘
(51)【国際特許分類】
B66B 5/02 20060101AFI20221005BHJP
B66B 5/04 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
B66B5/02 G
B66B5/04 C
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057417
(22)【出願日】2021-03-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深本 道成
(72)【発明者】
【氏名】塩見 朋之
(72)【発明者】
【氏名】古井 洋治
(72)【発明者】
【氏名】今田 拓誠
【テーマコード(参考)】
3F304
【Fターム(参考)】
3F304CA01
3F304CA06
3F304CA11
3F304DA23
3F304EA00
3F304EB01
(57)【要約】
【課題】 昇降路内が浸水した状態の非常運転時でも、ロープに必要な重量を付与することができるエレベータを提供する。
【解決手段】 エレベータは、上下方向に走行するかごと、ロープに張力を付与するために、ロープに吊り下げられる張力付与装置と、昇降路内の水位が所定の水位に達することを検出する水位検出部と、水位検出部が水位を検出しない場合に、かごの走行を正常運転にし、水位検出部が水位を検出した場合に、かごの走行を非常運転にする処理部と、を備え、張力付与装置の質量は、非常運転時でも、ロープに必要な重量を付与することができる質量である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に走行するかごと、
前記かごの速度を検出する調速機と、
昇降路内の水位が所定の水位に達することを検出する水位検出部と、
前記水位検出部が水位を検出しない場合に、前記かごの走行を正常運転にし、前記水位検出部が水位を検出した場合に、前記かごの走行を非常運転にする処理部と、を備え、
前記調速機は、前記かごに接続される無端環状のガバナロープと、前記かごの速度を検出するために、前記ガバナロープが巻き掛けられるガバナ車と、前記ガバナロープに張力を付与するために、前記ガバナロープに吊り下げられる張り車装置と、を備え、
前記張り車装置は、前記ガバナロープが巻き掛けられる張り車と、前記張り車に接続される錘体と、を備え、
前記張り車装置の質量は、以下の2つの式を満たす、エレベータ。
ここで、m
1は、前記ガバナ車の質量であり、m
2は、前記張り車の質量であり、m
aは、前記ガバナロープのうち、前記かごと接続される部分から前記ガバナ車までの第1ロープ部の質量であり、k
aは、前記第1ロープ部のバネ定数であり、m
bは、前記ガバナロープのうち、前記ガバナ車から前記張り車までの第2ロープ部の質量であり、k
bは、前記第2ロープ部のバネ定数であり、m
cは、前記ガバナロープのうち、前記かごと接続される部分から前記張り車までの第3ロープ部の質量であり、k
cは、前記第3ロープ部のバネ定数であり、α
1は、前記かごの正常運転時の加速度であり、α
2は、前記かごの非常運転時の加速度であり、gは、重力加速度である。
【請求項2】
前記張り車装置の質量は、以下の2つの式をさらに満たす、請求項1に記載の調速機。
【請求項3】
前記張り車装置の質量は、
(張り車装置の正常運転時の最適最小質量M
m1)≧(張り車装置の非常運転時の最適最小質量M
m2)である場合に、
をさらに満たし、
(張り車装置の正常運転時の最適最小質量M
m1)<(張り車装置の非常運転時の最適最小質量M
m2)である場合に、
をさらに満たす、請求項2に記載の調速機。
ここで、張り車装置の正常運転時の最適最小質量M
m1及び張り車装置の非常運転時の最適最小質量M
m2は、それぞれ以下の式である。
【請求項4】
上下方向に走行するかごと、
前記かごに接続されるかごロープと、
前記かごロープに張力を付与するために、前記かごロープに吊り下げられるように接続される釣合錘と、
昇降路内の水位が所定の水位に達することを検出する水位検出部と、
前記水位検出部が水位を検出しない場合に、前記かごの走行を正常運転にし、前記水位検出部が水位を検出した場合に、前記かごの走行を非常運転にする処理部と、を備え、
前記釣合錘の質量は、以下の式を満たす、エレベータ。
【請求項5】
請求項1~3の何れか1項に記載されるエレベータに用いられる調速機。
【請求項6】
請求項4に記載されるエレベータに用いられる釣合錘。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、エレベータ、調速機及び釣合錘に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、エレベータは、かごと、昇降路内の水位が所定の高さに達することを検出する水位検出部と、かごの走行を制御する処理部とを備えている(例えば、特許文献1)。そして、水位検出部が水位を検出した場合に、処理部は、正常運転から、基準高さよりも高い範囲でかごの走行を可能とする非常運転へ切り替えている。
【0003】
また、エレベータは、ロープに張力を付与するために、ロープに吊り下げられる張力付与装置を備えている。例えば、張力付与装置として、かごロープに張力を付与するために、かごロープに吊り下げられる釣合錘や、ガバナロープに張力を付与するために、ガバナロープに吊り下げられる張り車装置等が挙げられる。
【0004】
ところで、張力付与装置は、自身の重量によって、ロープに張力を付与している。したがって、昇降路内が浸水し、張力付与装置が水没した場合に、張力付与装置に浮力が働くため、張力付与装置の適正な重量をロープに付与できず、ロープに必要な張力が付与されない虞がある。これにより、張力付与装置が水没したり、その可能性があったりする状態で、かごの走行を許可することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、課題は、昇降路内が浸水した状態の非常運転時でも、ロープに適正な重量を付与することができるエレベータ、調速機及び釣合錘を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
エレベータは、上下方向に走行するかごと、前記かごの速度を検出する調速機と、昇降路内の水位が所定の水位に達することを検出する水位検出部と、前記水位検出部が水位を検出しない場合に、前記かごの走行を正常運転にし、前記水位検出部が水位を検出した場合に、前記かごの走行を非常運転にする処理部と、を備え、前記調速機は、前記かごに接続される無端環状のガバナロープと、前記かごの速度を検出するために、前記ガバナロープが巻き掛けられるガバナ車と、前記ガバナロープに張力を付与するために、前記ガバナロープに吊り下げられる張り車装置と、を備え、前記張り車装置は、前記ガバナロープが巻き掛けられる張り車と、前記張り車に接続される錘体と、を備え、前記張り車装置の質量は、以下の2つの式を満たす。
ここで、m
1は、前記ガバナ車の質量であり、m
2は、前記張り車の質量であり、m
aは、前記ガバナロープのうち、前記かごと接続される部分から前記ガバナ車までの第1ロープ部の質量であり、k
aは、前記第1ロープ部のバネ定数であり、m
bは、前記ガバナロープのうち、前記ガバナ車から前記張り車までの第2ロープ部の質量であり、k
bは、前記第2ロープ部のバネ定数であり、m
cは、前記ガバナロープのうち、前記かごと接続される部分から前記張り車までの第3ロープ部の質量であり、k
cは、前記第3ロープ部のバネ定数であり、α
1は、前記かごの正常運転時の加速度であり、α
2は、前記かごの非常運転時の加速度であり、gは、重力加速度である。
【0008】
また、エレベータにおいては、前記張り車装置の質量は、以下の2つの式をさらに満たす、という構成でもよい。
【0009】
また、エレベータにおいては、前記張り車装置の質量は、(張り車装置の正常運転時の最適最小質量M
m1)≧(張り車装置の非常運転時の最適最小質量M
m2)である場合に、
をさらに満たし、(張り車装置の正常運転時の最適最小質量M
m1)<(張り車装置の非常運転時の最適最小質量M
m2)である場合に、
をさらに満たす、という構成でもよい。
ここで、張り車装置の正常運転時の最適最小質量M
m1及び張り車装置の非常運転時の最適最小質量M
m2は、それぞれ以下の式である。
【0010】
また、エレベータは、上下方向に走行するかごと、前記かごに接続されるかごロープと、前記かごロープに張力を付与するために、前記かごロープに吊り下げられるように接続される釣合錘と、昇降路内の水位が所定の水位に達することを検出する水位検出部と、前記水位検出部が水位を検出しない場合に、前記かごの走行を正常運転にし、前記水位検出部が水位を検出した場合に、前記かごの走行を非常運転にする処理部と、を備え、前記釣合錘の質量は、以下の式を満たす。
【0011】
また、調速機は、前記のエレベータに用いられる。
【0012】
また、釣合錘は、前記のエレベータに用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るエレベータの概要図である。
【
図2】
図2は、同実施形態に係る釣合錘の全体正面図である。
【
図3】
図3は、同実施形態に係る張り車装置の全体図であって、(a)は、正面図、(b)は、カバー体が取り外された状態を示す正面図である。
【
図4】
図4は、同実施形態に係る張り車装置の全体図であって、(a)は、側面図、(b)は、カバー体が取り外された状態を示す側面図である。
【
図5】
図5は、同実施形態に係る張り車装置の全体図であって、(a)は、平面図、(b)は、カバー体が取り外された状態を示す平面図である。
【
図6】
図6は、同実施形態に係る張り車装置の位置を説明する図である。
【
図7】
図7は、同実施形態に係る調速機の概略図である。
【
図8】
図8は、同実施形態に係る時間と張り車装置の位置との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、エレベータにおける一実施形態について、
図1~
図8を参照しながら説明する。なお、各図において、図面の寸法比と実際の寸法比とは、必ずしも一致しておらず、また、各図面の間での寸法比も、必ずしも一致していない。
【0015】
図1に示すように、エレベータ1は、例えば、人が乗るためのかご2と、かご2に接続されるかごロープ3と、かごロープ3に接続される釣合錘4と、かごロープ3を駆動してかご2を走行させる巻上機5とを備えていてもよい。また、エレベータ1は、例えば、かご2を案内するかごレール6と、釣合錘4を案内する錘レール7と、かご2の走行速度を検出する調速機8と、エレベータ1の各部を制御する処理部9とを備えていてもよい。
【0016】
本実施形態に係るエレベータ1においては、巻上機5は、昇降路X1内に配置されている、という構成であるが、斯かる構成に限られない。例えば、巻上機5は、昇降路X1の上部に設けられる機械室の内部に配置されている、という構成でもよい。
【0017】
また、本実施形態においては、かごロープ3の両端がそれぞれ昇降路X1の上部又は下部に固定され、かごロープ3がかご2のシーブ2a及び釣合錘4のシーブ4aにそれぞれ巻き掛けられることによって、かごロープ3がかご2及び釣合錘4にそれぞれ接続されている、という構成であるが、斯かる構成に限られない。例えば、かごロープ3の一端がかご2に固定され、かごロープ3の他端が釣合錘4に固定されている、という構成でもよい。
【0018】
巻上機5は、例えば、かごロープ3が巻き掛けられる綱車5aと、綱車5aを回転させる駆動源5bと、綱車5aを制動する制動部5cとを備えていてもよい。また、かご2は、例えば、かごレール6を挟むことによってかご2を停止させる停止部2bと、調速機8の動作を停止部2bへ伝達する伝達部2cとを備えていてもよい。
【0019】
調速機8は、かご2に接続される無端環状のガバナロープ20と、かご2の速度を検出するために、ガバナロープ20が巻き掛けられる回転可能なガバナ車21と、ガバナロープ20に張力を付与するために、ガバナロープ20に吊り下げられる張り車装置22とを備えている。なお、ガバナロープ20は、例えば、かご2の伝達部2cに接続されるロープ接続部23と、環状となるように各端部がロープ接続部23に接続させる紐状のロープ体24とを備えていてもよい。
【0020】
また、調速機8は、例えば、張り車装置22をガイドするガイド部8aと、ガバナロープ20を把持する把持部8bとを備えていてもよい。そして、例えば、かご2の速度が設定速度を超えた場合に、把持部8bがガバナロープ20を把持し、ガバナロープ20の走行が停止されることによって、かご2の停止部2bは、作動する、という構成でもよい。
【0021】
また、エレベータ1は、例えば、昇降路X1内の水位が第1水高さに達することを検出する第1水位検出部10と、昇降路X1内の水位が第1水高さよりも低い第2水高さに達することを検出する第2水位検出部11とを備えていることが好ましい。各水位検出部10,11の構成は、昇降路X1内の水位を検出できれば、特に限定されず、各水位検出部10,11は、例えば、フロート式センサでもよく、また、例えば、電極棒式センサでもよい。
【0022】
処理部9は、例えば、巻上機5を制御することによって、かご2の走行を制御してもよい。そして、処理部9は、例えば、ソフトシーケンス(例えば、プログラマブルロジックコントローラによるプログラム制御)の回路を備えていてもよく、また、例えば、ハードシーケンス(リレー等の有接点機器による実配線制御)の回路を備えていてもよい。
【0023】
処理部9は、例えば、水位検出部10,11の検出に基づいて、かご2の走行を制御してもよい。具体的には、処理部9は、例えば、第1及び第2水位検出部10,11が水位を検出していない場合には、正常運転を行い、第2水位検出部11のみが水位を検出した場合には、非常運転を行い、さらに、第1水位検出部10も水位を検出した場合には、かご2の走行を休止させる、という構成でもよい。
【0024】
ここで、処理部9の制御の一例について説明する。なお、処理部9の制御は、以下の説明に限定されない。
【0025】
<正常運転>
第2水位検出部11が水位を検出していない正常時、即ち、昇降路X1内に水が流れ込んでいない正常時には、処理部9は、正常運転を行う。このとき、処理部9は、操作盤(例えば、乗場に配置される乗場操作盤、かご2内に配置されるかご操作盤等)に入力された情報に基づいて、かご2の走行を制御する。なお、正常運転の走行範囲は、最下階から最上階までの範囲である。
【0026】
<非常運転>
昇降路X1内に水が流れ込み、水位が第2水高さまで達し、第2水位検出部11が水位を検出した非常時に、処理部9は、非常運転を行う。そして、非常運転においては、処理部9は、第1水高さよりも高い非常時走行範囲で、かご2の走行を可能とする。例えば、非常運転の走行範囲は、第1水高さよりも高い階から最上階までの範囲とすることができる。
【0027】
なお、処理部9は、非常運転時のかご2の最高速度を、正常運転時のかご2の最高速度よりも遅くする、という構成が好ましい。特に限定されないが、例えば、非常運転時のかご2の最高速度は、正常運転時のかご2の最高速度の50%以下としてもよい。
【0028】
また、処理部9は、例えば、非常運転時のかご2の最高加速度を、正常運転時のかご2の最高加速度よりも遅くする、という構成が好ましい。なお、処理部9は、例えば、非常運転時のかご2の最高加速度を、正常運転時のかご2の最高加速度と同じにする、という構成でもよい。
【0029】
また、第2水位検出部11が水位を検出した場合に、処理部9は、例えば、走行中のかご2を最寄り階に停止させて、かご2の走行を休止させてもよい。そして、手動操作による入力部(例えば、セレクトスイッチ等)に、走行許可の指示が入力された場合に、処理部9は、非常運転を可能とする、という構成でもよい。また、第2水位検出部11が水位を検出した場合に、処理部9は、正常運転から非常運転に自動的に切り替える、という構成でもよい。
【0030】
<走行停止>
万が一、昇降路X1内に水がさらに流れ込むことによって、昇降路X1内が浸水し、水位が第1水高さまで達し、第1水位検出部10が水位を検出した場合には、処理部9は、例えば、走行中のかご2を最寄りの階に停止させて、かご2の走行を休止させる。これにより、昇降路X1内が浸水した場合に、かご2が水中に突入することを防止することができる。このように、昇降路X1内の水位が第1水高さに達するまで、かご2を走行させることができる。
【0031】
本明細書において、「停止」とは、例えば、走行中のかご2が止まることをいい、「休止」とは、例えば、停止した上で、操作盤に情報が入力された場合でも、かご2が走行しないことをいう。そして、かご2の走行が休止された場合に、非常状態が解消されても、自動復旧することなく、例えば、非常状態が解消されて且つ所定の手動操作を行うことによって、かご2の走行が再び可能となる、という構成としてもよい。
【0032】
ところで、第1水高さは、上下方向D3に移動可能な釣合錘4の最下位置よりも、高くなっている。即ち、第1水高さは、かご2が最上階に停止したときの釣合錘4の位置よりも、高くなっている。また、第1水高さは、上下方向D3に移動可能な張り車装置22の最下位置よりも、高くなっている。
【0033】
これにより、非常運転時に、釣合錘4は、位置によっては、水没した状態となり、また、張り車装置22は、水没した状態となる。そこで、釣合錘4及び張り車装置22は、水没した状態でも対応できる構成となっている。なお、釣合錘4及び張り車装置22は、ロープ3,20に張力を付与するために、ロープ3,20に吊り下げられる装置であるため、張力付与装置ともいう。
【0034】
特に限定されないが、第1水高さは、例えば、巻上機5の高さよりも、低いことが好ましい。また、第2水高さは、例えば、釣合錘4の最下位置よりも高くてもよく、また、例えば、釣合錘4の最下位置よりも低くてもよい。また、第2水高さは、例えば、張り車装置22の最下位置よりも高くてもよく、また、例えば、張り車装置22の最下位置よりも低くてもよい。
【0035】
ここで、釣合錘4の構成について、
図2を参照しながら説明する。
【0036】
図2に示すように、釣合錘4は、例えば、錘レール7(
図1参照)にガイドされる錘ガイド部4bと、シーブ4a及び錘ガイド部4bが固定される錘本体部4cと、錘本体部4cに固定される錘体4dとを備えていてもよい。特に限定されないが、錘体4dは、例えば、本実施形態のように、上下方向D3に積まれる複数の錘片4eを備えていてもよく、また、例えば、一体的に形成されていてもよい。
【0037】
ところで、、釣合錘4の質量(単位はkgであり、以下同じ)は、錘体4dの質量によって、調整されている。そして、エレベータ1が非常運転を行い、釣合錘4が水没した状態となった場合でも、かごロープ3に釣合錘4の適正な重量を付与する必要がある。そこで、釣合錘4の質量は、以下の式(1)を満たすことが好ましい。なお、体積の単位は、m
3であり(以下同じ)、比重の単位は、kg/m
3である(以下同じ)。
【数1】
【0038】
これにより、釣合錘4が水没して、釣合錘4に浮力が働いた場合でも、かごロープ3に付与する釣合錘4の重量を十分に確保することができる。したがって、昇降路X1内が浸水した状態でも、釣合錘4の適正な重量をかごロープ3に付与することができるため、かごロープ3に適正な張力が付与される。
【0039】
なお、釣合錘4の標準質量は、正常運転時の適正な質量である。例えば、駆動源5bが必要とする最大駆動力は、内部の積載質量を含めたかご2の総質量と釣合錘4の質量との最大差に比例する。これにより、駆動源5bの最大駆動力を小さくするために、かご2の総質量と釣合錘4の質量との最大差を小さくすることが好ましい。したがって、釣合錘4の質量は、積載質量が最大積載質量の50%であるかご2の総質量と同じであることが好ましい。
【0040】
一方で、駆動源5bが駆動するための消費エネルギー(消費電力)は、かご2の総質量と釣合錘4の質量との差に比例する。これにより、駆動源5bでの消費エネルギーを小さくするために、通常使用されるかご2の総質量と釣合錘4の質量との差を小さくすることが好ましい。そして、かご2の積載質量が最大積載質量になることは、殆どない。
【0041】
したがって、駆動源5bの最大駆動力と消費エネルギーとの観点から、釣合錘4の標準質量は、以下の式(2)を満たすことが好ましい。
【数2】
【0042】
そして、上記の式(1)及び式(2)より、釣合錘4の質量は、以下の式(3)を満たすことが好ましい。
【数3】
【0043】
なお、特に限定されないが、釣合錘4の質量は、以下の式(4)をさらに満たすことが好ましい。
【数4】
【0044】
次に、張り車装置22の構成について、
図3~
図7を参照しながら説明する。
【0045】
図3~
図5に示すように、張り車装置22は、ガバナロープ20が巻き掛けられる回転可能な張り車25と、張り車25に接続される錘体26とを備えている。また、張り車装置22は、例えば、本実施形態のように、張り車25と錘体26とを接続する錘接続部27と、ガイド部8aにガイドされる被ガイド部28と、張り車25を覆うカバー体29とを備えていてもよい。
【0046】
張り車25は、例えば、本実施形態のように、軸部25aと、ガバナロープ20が巻き掛けられる凹状の外周部25bとを備えていてもよい。また、例えば、本実施形態のように、錘体26は、上面部に、円弧状に凹む凹部26aを備えており、錘体26の凹部26aは、張り車25の外周部25bに沿って配置されている、という構成でもよい。なお、錘体26は、例えば、本実施形態のように、一体的に形成されていてもよく、また、例えば、上下方向D3に積まれる複数の錘片を備えていてもよい。
【0047】
錘接続部27は、例えば、本実施形態のように、張り車25から錘体26まで延びる板材27aと、板材27aと錘体26とを固定する固定具27bと、張り車25の軸部25aを回転可能に支持する軸支材27cとを備えていてもよい。また、例えば、本実施形態のように、被ガイド部28は、上下方向D3へ延びる一対の板材28a,28aを備え、板状のガイド部8aが一対の板材28a,28aの間に挿入されることによって、被ガイド部28は、ガイド部8aにガイドされる、という構成でもよい。
【0048】
カバー体29は、例えば、本実施形態のように、張り車25の軸方向である第1横方向D1から張り車25を覆う一対の第1横カバー部29a,29aと、第1横方向D1と直交する第2横方向D2から張り車25を覆う一対の第2横カバー部29b,29bと、上方から張り車25を覆う上カバー部29cとを備えていることが好ましい。また、錘体26は、下方から張り車25を覆っていることが好ましい。
【0049】
これにより、張り車装置22が水没したときに、異物が水中を移動して張り車25へ侵入することを抑制することができるため、例えば、張り車25に異物が噛み込むことによって、張り車25が円滑に回転できなくなることを抑制することができる。したがって、例えば、不具合(例えば、調速機8がかご2の速度を適正に検出できない不具合や、かご2の停止部2bが起動してかご2が停止する不具合等)が発生することを抑制することができる。
【0050】
なお、第1横カバー部29aは、例えば、張り車25と錘体26との隙間も覆うために、第1横方向D1視において、張り車25及び錘体26に跨って配置されていることが好ましい。また、第2横カバー部29bは、例えば、張り車25と錘体26との隙間も覆うために、第2横方向D2視において、張り車25及び錘体26に跨って配置されていることが好ましい。
【0051】
ところで、、張り車装置22の質量は、錘体26の質量によって、調整されている。そして、エレベータ1が非常運転を行い、張り車装置22が水没した状態となった場合でも、ガバナロープ20に張り車装置22の適正な重量を付与する必要がある。そこで、張り車装置22の質量は、以下の式(5.1)及び式(5.2)を満たすことが好ましい。
【数5】
【0052】
これにより、正常運転時に、張り車装置22の適正な重量をガバナロープ20に付与することができる。しかも、張り車装置22が水没して、張り車装置22に浮力が働いた場合でも、張り車装置22の重量を十分に確保することができる。したがって、昇降路X1内が浸水した状態の非常運転時でも、張り車装置22の適正な重量をガバナロープ20に付与することができるため、ガバナロープ20に適正な張力が付与される。
【0053】
なお、張り車装置22の各標準質量M
1,M
2は、張り車装置22に浮力が働いていない場合の適正な質量である。そして、調速機8がかご2の速度を正確に検出するためには、かご2の走行に伴ってガバナロープ20が走行した場合でも、ガバナロープ20に張力が付与される必要がある。そこで、以下に、張り車装置22の標準質量M(以下、各標準質量M
1,M
2を区別しない場合には、Mを使用する)について、
図6~
図8を参照しながら説明する。
【0054】
図6(a)に示すように、ガバナロープ20が伸びた状態で且つガバナロープ20に張力が付与されていない状態である場合に、張り車装置22の上下方向D3の位置Xを原点位置X
0(X=0)とし、当該位置X
0は、「張力ゼロ時位置」という。特に限定されないが、
図6においては、張り車装置22の位置Xは、張り車25の回転中心の位置としている。
【0055】
そして、
図6(b)に示すように、かご2が停止している場合には、ガバナロープ20は、張り車装置22の自重によって伸びるため、張り車装置22の位置Xは、張力ゼロ時位置X
0よりも下方となり、当該位置X(0)は、「停止時位置」という。なお、停止時位置X(0)は、張力ゼロ時位置X
0よりも下方であるため、0より小さくなる(X(0)<0)。
【0056】
また、
図6(c)に示すように、かご2が加速度αで走行した場合には、張り車装置22の位置Xは、停止時位置X(0)から浮き上がるため、停止時位置X(0)よりも上方となり、当該位置X(α)は、「走行時位置」という。なお、走行時位置X(α)は、停止時位置X(0)よりも上方となるため、X(0)よりも大きくなる(X(α)>X(0))。
【0057】
そして、走行時位置X(α)が張力ゼロ時位置X
0よりも下方である場合に、張り車装置22は、ガバナロープ20に張力を付与できる。これにより、かご2が加速度αで走行しているときに、張り車装置22がガバナロープ20に張力を付与するために、かご走行位置X(α)は、以下の式(6)を満たすことが好ましい。
【数6】
【0058】
ここで、
図7に示すようなガバナロープ20のモデルを用いて、停止時位置X(0)及び走行時位置X(α)を算出する。まず、ガバナロープ20のロープ体24は、ロープ接続部23からガバナ車21までの第1ロープ部24aと、ガバナ車21から張り車25までの第2ロープ部24bと、ガバナ車21からロープ接続部23までの第3ロープ部24cとを含んでいる。
【0059】
Xは、張り車装置22の上下方向D3の変位(単位はmであり、以下同じ)、即ち、張力ゼロ時位置X0(X=0)に対する位置である。m1は、ガバナ車21の質量であり、x1は、ガバナ車21の回転方向の変位であり、m2は、張り車25の質量であり、x2は、張り車25の回転方向の変位である。
【0060】
maは、第1ロープ部24aの質量であり、xaは、第1ロープ部24aの上下方向D3の変位であり、mbは、第2ロープ部24bの質量であり、xbは、第2ロープ部24bの上下方向D3の変位であり、mcは、第3ロープ部24cの質量であり、xcは、第3ロープ部24cの上下方向D3の変位であり、x0は、ロープ接続部23の上下方向D3の変位である。Ta1,Ta2,Tb1,Tb2,Tc1,Tc2は、各ロープ部24a~24cに働く張力である。
【0061】
なお、ロープ接続部23がかご2に接続されており、かご2の質量が、ガバナロープ20,ガバナ車21及び張り車装置22等の質量と比較して非常に大きく、ガバナロープ20等の振動がかご2へ殆ど伝わらない。これにより、ロープ接続部23は、固定端として扱われ、それにより、ロープ接続部23の質量は、無視できる。
【0062】
k
aは、第1ロープ部24aのバネ定数(単位はN/mであり、以下同じ)であり、k
bは、第2ロープ部24bのバネ定数であり、k
cは、第3ロープ部24cのバネ定数である。なお、
図7のガバナロープ20のモデルにおいては、各ロープ部24a~24cは、一つの質点と二つのバネ要素とに変換されている。これにより、各ロープ部24a~24cのバネ定数k
i(i=a,b,c)は、以下の式(7)となる。なお、バネ要素が二つあるため、式(7)の分母を2で割っている。
【0063】
【数7】
ここで、Eは、ロープヤング率(N/mm
2)であり、Sは、ロープ断面積(mm
2)であり、L
i(i=a,b,c)は、ロープ長(m)である。
【0064】
ところで、張り車25の回転及び上下動に関する運動方程式は、以下の式(8.1)及び式(8.2)となる。
【数8】
ここで、gは、重力加速度(m
2/s)である。
【0065】
そして、かご2が停止している状態では、張り車25の回転及び上下動がないため、張り車25の回転の加速度及び張り車装置22の上下動の加速度は、ゼロとなる。即ち、上記の式(8.1)の左辺がゼロ(具体的には、x2の2回微分である張り車25の回転の加速度がゼロ)となり、上記の式(8.2)の左辺がゼロ(具体的には、Xの2回微分である張り車装置22の上下動の加速度がゼロ)となる。
【0066】
これにより、第2ロープ部24bの張力Tb2と第3ロープ部24cの張力Tc2とは、等しくなり、張り車装置22の重量Mgの半分の張力となる。したがって、ガバナロープ20に伸びが発生し、張り車装置22は、張力ゼロ時位置X0よりも下方である停止時位置X(0)で静止することになる。
【0067】
一方で、かご2が加速移動すると慣性力が生じ、第2ロープ部24bの張力T
b2と第3ロープ部24cの張力T
c2とは、等しくなくなる。具体的には、ロープ接続部23から
図7の点P1までの経路(第1ロープ部24a→ガバナ車21→第2ロープ部24b→点P1)の慣性が、ロープ接続部23から
図7の点P2までの経路(第3ロープ部24c→点P2)の慣性と、異なるため、第2ロープ部24bの張力T
b2の増減量は、第3ロープ部24cの張力T
c2の増減量と、等しくない。
【0068】
これにより、式(8.2)からも分かるように、第2ロープ部24bの張力Tb2と第3ロープ部24cの張力Tc2とが変化することによって、張り車装置22は、上下方向D3に移動する加速度が生じることになる。即ち、張り車装置22は、停止時位置X(0)から走行時位置X(α)へ浮き上がることになる。
【0069】
また、第2ロープ部24bの張力Tb2と第3ロープ部24cの張力Tc2との差(慣性力の差)が大きいほど、張り車装置22の上下方向D3に発生する加速度も大きくなるため、張り車装置22の浮き上がり量は、大きくなる。したがって、かご2が最下階付近に位置している場合に、張り車装置22の浮き上がり量が最も大きくなる。
【0070】
例えば、最下階に位置しているかご2が上方へ加速移動した場合に、張り車装置22の浮き上がり量が最も大きくなり得る。また、例えば、下方へ走行しているかご2が、最下階付近で制動して下方へ減速移動した(即ち、上方へ加速移動した)場合に、張り車装置22の浮き上がり量が最も大きくなり得る。
【0071】
ここで、
図7のガバナロープ20のモデルの力のつり合い式は、以下の式(9.1)~式(9.6)となる。
【数9】
【0072】
式(9.1)~式(9.6)を行列形式で記載すると、以下の式(10.1)及び式(10.2)となる。
【数10】
【0073】
逆行列を用いて式(10.1)及び式(10.2)を解き、各変位x
1,x
2,X,x
a,x
b,x
cについて求めると、以下の式(11.1)及び式(11.2)となる。
【数11】
【0074】
そして、かご2が停止している場合には、式(11.2)の各車21,25、張り車装置22及び各ロープ部24a~24cの加速度(各変位x
1,x
2,X,x
a,x
b,x
cの2回微分)が、全てゼロであるため、式(11.1)及び式(11.2)から変位Xを抽出することによって、停止時位置X(0)は、以下の式(12)となる。
【数12】
【0075】
また、かご2が加速度(例えば、最大加速度、定格加速度)αで移動する場合には、式(11.2)の各車21,25の回転及び各ロープ部24a~24cの移動の加速度(各変位x1,x2,xa,xb,xcの2回微分)は、かご2の加速度αとみなすことができる。また、張り車装置22は、一定量浮き上がって静止するため、張り車装置22の加速度(変位Xの2回微分)は、ゼロとみなすことができる。
【0076】
これらを式(11.2)に代入し、式(11.1)及び式(11.2)から変位Xを抽出することによって、走行時位置X(α)は、以下の式(13)となる。
【数13】
【0077】
そして、上記の式(6)及び式(13)より、以下の式(14)が算出される。
【数14】
【0078】
なお、上記式(14)から、張り車装置22の各標準質量M
1,M
2について求めると、下の式(15.1)及び式(15.2)が算出される。
【数15】
ここで、α
1は、正常運転時のかご2の加速度であり、α
2は、非常運転時のかご2の加速度である。
【0079】
なお、かご2の各加速度α1,α2は、各運転時のかご2の最大加速度を用いる。例えば、かご2の加速度α1,α2が一定(同じだけでなく、±10%の差異を有する略同じも含む)である場合には、加速度α1,α2は、各運転時のかご2の定格加速度を用いてもよい。
【0080】
そして、上記の式(5.1)及び式(15.1)から以下の式(16.1)が算出され、上記の式(5.2)及び式(15.2)から、以下の式(16.2)が算出される。
【数16】
【0081】
したがって、張り車装置22の質量が上記の式(16.1)及び式(16.2)を満たすように、錘体26の質量が設定されることが好ましい。これにより、かご2が各運転時に加速度α1,α2で走行することに伴って、ガバナロープ20が走行したときに、張り車装置22が浮き上がって上昇するものの、ガバナロープ20に張力を付与することができる。
【0082】
ところで、上記の式(13)の走行時位置X(α)は、かご2が加速度αで移動するときの定常的な上昇による位置、即ち、張り車装置22が一定量浮き上がって静止する位置である。したがって、上記の式(13)の走行時位置X(α)は、張り車装置22が瞬間的に大きく浮き上がる位置ではない。
【0083】
そこで、張り車装置22の浮き上がり量が最も大きくなる場合、即ち、最下階に位置しているかご2が加速度αで上方へ移動した場合について、
図8に示すように、シミュレーションを行った。なお、走行時位置X(α)が、かご2の躍度(加加速度)に大きく影響するため、かご2が瞬間的に加速度αになったとして、かご2の躍度は、∞とした。なお、かご2が下方へ移動しているときに、制動部5cが作動してかご2が減速した場合には、かご2の上方への躍度は、実質的に、∞となる。
【0084】
図8に示すように、かご2が移動を開始して時間t(約0.5秒~0.7秒)が経過したときに、張り車装置22は、瞬間的に浮き上がる位置(走行時最大上昇位置X(α)
max)まで浮き上がった。その後、時間が経過することによって、張り車装置22は、定常的に浮き上がる位置(走行時定常上昇位置X(α))で静止した。
【0085】
このように、張り車装置22の最大浮き上がり量Y(α)maxは、張り車装置22の定常浮き上がり量Y(α)よりも、大きい。例えば、かご2の昇降行程が10m~500mで且つ張り車装置22の標準質量Mが10kg~50kgの範囲においては、張り車装置22の最大浮き上がり量Y(α)maxは、張り車装置22の定常浮き上がり量Y(α)の1.6倍~1.9倍となった。
【0086】
そこで、張り車装置22の最大浮き上がり量Y(α)
maxが、張り車装置22の定常浮き上がり量Y(α)の1.9倍であっても、張り車装置22がガバナロープ20に張力を付与するために、以下の式(17)を満たすことが好ましい。
【数17】
【0087】
そして、上記の式(12)、式(13)及び式(17)から、以下の式(18)が算出される。
【数18】
【0088】
なお、上記式(18)から、張り車装置22の各標準質量M
1,M
2について求めると、下の式(19.1)及び式(19.2)が算出される。
【数19】
【0089】
そして、上記の式(5.1)及び式(19.1)から以下の式(20.1)が算出され、上記の式(5.2)及び式(19.2)から、以下の式(20.2)が算出される。
【数20】
【0090】
したがって、張り車装置22の質量が上記の式(20.1)及び式(20.2)を満たすように、錘体26の質量が設定されることが好ましい。これにより、かご2が急加速したときに、張り車装置22がさらに上昇して浮き上がるものの、ガバナロープ20に張力を付与することができる。
【0091】
一方で、張り車装置22の質量が大き過ぎると、ガバナロープ20の摩耗や破断が発生し易くなる。しかしながら、張り車装置22の最大浮き上がり量Y(α)
maxが、張り車装置22の定常浮き上がり量Y(α)の1.9倍を超える可能性もあるため、安全率(30%)が必要となる。そこで、以下の式(21)を満たすことが好ましい。
【数21】
【0092】
そして、上記の式(12)、式(13)及び式(21)から、以下の式(22)が算出される。
【数22】
【0093】
ところで、上記の式(22)が上記の式(18)に対して安全率を考慮したものであるため、上記の式(20.1)を満たす張り車装置22の質量の範囲で最小の質量(正常運転時の最適最小質量)Mm1と、上記の式(20.2)を満たす張り車装置22の質量の範囲で最小の質量(非常運転時の最適最小質量)Mm2とのうち、重い方の質量に対して、上記式(22)を満たすことが好ましい。
【0094】
なお、各最適最小質量M
m1,M
m2は、上記式(20.1)及び上記式(20.2)より、以下の式(23.1)及び式(23.2)となる。
【数23】
【0095】
したがって、正常運転時の最適最小質量M
m1≧非常運転時の最適最小質量M
m2である場合には、正常運転時の最適最小質量M
m1に対して安全率を考慮する必要があるため、上記の式(22)より、以下の式(24)を満たすことが好ましい。
【数24】
【0096】
そして、上記の式(5.1)及び式(24)から以下の式(25)が算出される。
【数25】
【0097】
したがって、正常運転時の最適最小質量Mm1≧非常運転時の最適最小質量Mm2である場合には、張り車装置22の質量が上記の式(25)を満たすように、錘体26の質量が設定されることが好ましい。これにより、かご2が急加速したときに、張り車装置22がさらに上昇して浮き上がるものの、ガバナロープ20に張力を付与することができ、しかも、ガバナロープ20の張力が大きくなり過ぎることを抑制することができる。
【0098】
一方で、正常運転時の最適最小質量M
m1<非常運転時の最適最小質量M
m2である場合には、非常運転時の最適最小質量M
m2に対して安全率を考慮する必要があるため、上記の式(22)より、以下の式(26)を満たすことが好ましい。
【数26】
【0099】
そして、上記の式(5.2)及び式(26)から以下の式(27)が算出される。
【数27】
【0100】
したがって、正常運転時の最適最小質量Mm1<非常運転時の最適最小質量Mm2である場合には、張り車装置22の質量が上記の式(27)を満たすように、錘体26の質量が設定されることが好ましい。これにより、かご2が急加速したときに、張り車装置22がさらに上昇して浮き上がるものの、ガバナロープ20に張力を付与することができ、しかも、ガバナロープ20の張力が大きくなり過ぎることを抑制することができる。
【0101】
また、上記の式(14)~式(27)において、各ロープ部24a~24cのバネ定数ka~kcは、張り車装置22が走行時最大上昇位置X(α)maxに位置する場合の、各ロープ部24a~24cのバネ定数ka~kcを用いる。なお、ロープ部24の伸び量(例えば、停止時位置X(0)と張力ゼロ時位置X0との距離)が、ロープ部24の全体の長さに対して非常に小さいため、各ロープ部24a~24cのロープ長La~Lcは、例えば、張り車装置22が張力ゼロ時位置X0に位置しているときのロープ長を用いてもよい。
【0102】
また、上記シミュレーションにおいて、第2ロープ部24bのロープ長Lbに対する第3ロープ部24cのロープ長Lcの比率が0.5%~1.5%であるときに、張り車装置22は、走行時最大上昇位置X(α)maxに位置していた。したがって、例えば、第2ロープ部24bのロープ長Lbに対する第3ロープ部24cのロープ長Lcの比率が1.0%である場合の、各ロープ部24a~24cのバネ定数ka~kcが用いられてもよい。
【0103】
以上より、本実施形態のように、エレベータ1は、上下方向D3に走行するかご2と、前記かご2の速度を検出する調速機8と、昇降路X1内の水位が所定の水位に達することを検出する水位検出部(本実施形態においては、第2水位検出部)11と、前記水位検出部11が水位を検出しない場合に、前記かご2の走行を正常運転にし、前記水位検出部11が水位を検出した場合に、前記かご2の走行を非常運転にする処理部9と、を備え、前記調速機8は、前記かご2に接続される無端環状のガバナロープ20と、前記かご2の速度を検出するために、前記ガバナロープ20が巻き掛けられるガバナ車21と、前記ガバナロープ20に張力を付与するために、前記ガバナロープ20に吊り下げられる張り車装置22と、を備え、前記張り車装置22は、前記ガバナロープ20が巻き掛けられる張り車25と、前記張り車25に接続される錘体26と、を備え、前記張り車装置22の質量は、以下の2つの式を満たす、という構成が好ましい。
ここで、m
1は、前記ガバナ車21の質量であり、m
2は、前記張り車25の質量であり、m
aは、前記ガバナロープ20のうち、前記かご2と接続される部分23から前記ガバナ車21までの第1ロープ部24aの質量であり、k
aは、前記第1ロープ部24aのバネ定数であり、m
bは、前記ガバナロープ20のうち、前記ガバナ車21から前記張り車25までの第2ロープ部24bの質量であり、k
bは、前記第2ロープ部24bのバネ定数であり、m
cは、前記ガバナロープ20のうち、前記かご2と接続される部分23から前記張り車25までの第3ロープ部24cの質量であり、k
cは、前記第3ロープ部24cのバネ定数であり、α
1は、前記かご2の正常運転時の加速度であり、α
2は、前記かご2の非常運転時の加速度であり、gは、重力加速度である。
【0104】
斯かる構成によれば、正常運転時に、張り車装置22の適正な重量をガバナロープ20に付与することができる。しかも、張り車装置22に浮力が働いた場合でも、張り車装置22の重量を十分に確保することができるため、昇降路X1内が浸水した状態の非常運転時でも、張り車装置22の適正な重量をガバナロープ20に付与することができる。
【0105】
また、本実施形態のように、エレベータ1においては、前記張り車装置22の質量は、以下の2つの式をさらに満たす、という構成が好ましい。
【0106】
斯かる構成によれば、かご2が急加速したときに、張り車装置22が上昇して浮き上がるものの、ガバナロープ20に張力を付与することができる。これにより、張り車装置22の質量を適正にすることができる。
【0107】
また、本実施形態のように、エレベータ1においては、前記張り車装置22の質量は、(張り車装置の正常運転時の最適最小質量M
m1)≧(張り車装置の非常運転時の最適最小質量M
m2)である場合に、
をさらに満たし、(張り車装置の正常運転時の最適最小質量M
m1)<(張り車装置の非常運転時の最適最小質量M
m2)である場合に、
をさらに満たす、という構成が好ましい。
ここで、張り車装置の正常運転時の最適最小質量M
m1及び張り車装置の非常運転時の最適最小質量M
m2は、それぞれ以下の式である。
【0108】
斯かる構成によれば、かご2が加速移動したときに、張り車装置22が浮き上がって上昇するものの、ガバナロープ20に張力を付与することができる。しかも、ガバナロープ20の張力が大きくなり過ぎることも抑制することができる。これにより、張り車装置22の質量をさらに適正にすることができる。
【0109】
また、本実施形態のように、エレベータ1は、上下方向D3に走行するかご2と、前記かご2に接続されるかごロープ3と、前記かごロープ3に張力を付与するために、前記かごロープ3に吊り下げられるように接続される釣合錘4と、昇降路X1内の水位が所定の水位に達することを検出する水位検出部(本実施形態においては、第2水位検出部)11と、前記水位検出部11が水位を検出しない場合に、前記かご2の走行を正常運転にし、前記水位検出部11が水位を検出した場合に、前記かご2の走行を非常運転にする処理部9と、を備え、前記釣合錘4の質量は、以下の式を満たす、という構成が好ましい。
【0110】
斯かる構成によれば、釣合錘4に浮力が働いた場合でも、釣合錘4の重量を十分に確保することができる。したがって、昇降路X1内が浸水した状態の非常運転時でも、釣合錘4の適正な重量をかごロープ3に付与することができる。
【0111】
なお、エレベータ1、調速機8及び釣合錘4は、上記した実施形態の構成に限定されるものではなく、また、上記した作用効果に限定されるものではない。また、エレベータ1、調速機8及び釣合錘4は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0112】
例えば、既設のエレベータに対して、非常運転を可能とするエレベータ1に改修されるときに、既設の張力付与装置4,22に対して、例えば、質量が追加(例えば、錘体4d,26が増設)されてもよい。特に限定されないが、例えば、追加される質量は、張力付与装置4,22の体積と水の比重との積に相当する質量であってもよい。
【符号の説明】
【0113】
1…エレベータ、2…かご、2a…シーブ、2b…停止部、2c…伝達部、3…かごロープ、4…釣合錘(張力付与装置)、4a…シーブ、4b…錘ガイド部、4c…錘本体部、4d…錘体、4e…錘片、5…巻上機、5a…綱車、5b…駆動源、5c…制動部、6…かごレール、7…錘レール、8…調速機、8a…ガイド部、8b…把持部、9…処理部、10…第1水位検出部、11…第2水位検出部、20…ガバナロープ、21…ガバナ車、22…張り車装置(張力付与装置)、23…ロープ接続部、24…ロープ体、24a…第1ロープ部、24b…第2ロープ部、24c…第3ロープ部、25…張り車、25a…軸部、25b…外周部、26…錘体、26a…凹部、27…錘接続部、27a…板材、27b…固定具、27c…軸支材、28…被ガイド部、28a…板材、29…カバー体、29a…第1横カバー部、29b…第2横カバー部、29c…上カバー部、D1…第1横方向、D2…第2横方向、D3…上下方向、X1…昇降路