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特開2022-154395船舶の風力推進システム、及び風力推進システムを装備した船舶
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154395
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】船舶の風力推進システム、及び風力推進システムを装備した船舶
(51)【国際特許分類】
   B63H 9/02 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
B63H9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057420
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】久米 健一
(57)【要約】
【課題】マグヌス効果を利用し推力を得るローターの効果の増大もしくは同一推力を得る場合に小型化できる船舶の風力推進システムと船舶を提供すること。
【解決手段】風力を利用して船舶を推進する風力推進システムであって、船舶の船体1に立設され、回転しながら風力を受け推進力を発生する上方に行くほど直径の大きくなる形状を有したローター手段10、10Aと、ローター手段10、10Aを回転駆動する回転駆動手段20と、ローター手段10、10Aの立設状態と回転駆動手段20の回転駆動を制御する制御手段30とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力を利用して船舶を推進する風力推進システムであって、
前記船舶の船体に立設され、回転しながら前記風力を受け推進力を発生する上方に行くほど直径の大きくなる形状を有したローター手段と、前記ローター手段を回転駆動する回転駆動手段と、前記ローター手段の立設状態と前記回転駆動手段の回転駆動を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする船舶の風力推進システム。
【請求項2】
前記ローター手段が、前記上方に行くほど直径の大きくなる形状として伸縮自在の入れ子形状を成すテレスコピック構造を有したことを特徴とする請求項1に記載の船舶の風力推進システム。
【請求項3】
前記テレスコピック構造を有した前記ローター手段を伸縮させる伸縮駆動手段と、伸縮を設定する伸縮設定手段をさらに備え、前記伸縮設定手段の設定により、前記制御手段が前記伸縮駆動手段を制御して前記ローター手段を伸縮させ、前記立設状態を制御することを特徴とする請求項2に記載の船舶の風力推進システム。
【請求項4】
前記ローター手段を伸縮させる前記伸縮駆動手段を前記回転駆動手段で兼ねたことを特徴とする請求項3に記載の船舶の風力推進システム。
【請求項5】
前記ローター手段が、前記上方に行くほど直径の大きくなる形状として逆円錐台構造を有したことを特徴とする請求項1に記載の船舶の風力推進システム。
【請求項6】
前記ローター手段の前記立設状態を傾倒状態に変更する立設傾倒手段と、前記立設状態と前記傾倒状態を設定する立設傾倒設定手段をさらに備え、前記立設傾倒設定手段の設定により、前記制御手段が前記立設傾倒手段を制御して前記ローター手段を立設傾倒させ、前記立設状態を制御することを特徴とする請求項5に記載の船舶の風力推進システム。
【請求項7】
前記ローター手段が、上端部に円板状の端板を有したことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の船舶の風力推進システム。
【請求項8】
前記ローター手段の立設位置を変更する立設位置変更手段と、前記立設位置の変更を設定する立設位置変更設定手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の船舶の風力推進システム。
【請求項9】
前記船舶に搭載された風向および風速を検出する風向および風速検出手段による前記風向および前記風速の検出結果に基づいて、前記制御手段が前記回転駆動手段の回転を制御することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の船舶の風力推進システム。
【請求項10】
前記風向および前記風速の検出結果に基づいて、前記ローター手段の前記テレスコピック構造ごとの前記回転数を変えることを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか1項を引用する請求項9に記載の船舶の風力推進システム。
【請求項11】
前記風向および前記風速の検出結果に基づいて、前記制御手段が前記ローター手段の前記立設状態を自動的に制御することを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の船舶の風力推進システム。
【請求項12】
複数基の前記ローター手段を前記船体に設けたことを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の船舶の風力推進システム。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の船舶の風力推進システムを船体に備えたことを特徴とする風力推進システムを装備した船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグヌス効果を利用して船舶を推進する船舶の風力推進システム、及び風力推進システムを装備した船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の省エネ化のために、マグヌス効果を利用し推力を得るローターを装備した船舶は近年少しずつ増えてきている。
ここで、特許文献1には、ハルと、船舶の推進のための推進機と、運転可能状態では船舶に鉛直に据えられる少なくとも一つの回転可能シリンダーを有し、シリンダーが、硬質外側表面と、シリンダーを長手軸のまわりに回転させるためのモータードライブと、シリンダーを運転不能姿勢に変位させるための変位部材を有し、モータードライブがシリンダーの内側に位置している、収納可能マグナス効果ローターを備えている船舶が開示されている。
また、特許文献2には、船舶に推力をもたらすためにマグヌス効果の使用を可能にする機械的帆システムとして、船舶の甲板レベルより下に位置付けられるサイロと、サイロ内に取り付けられ、且つ第1の帆シリンダ及び第2の帆シリンダを支持するリフトキャリッジと、リフトキャリッジをサイロ内に選択的に位置付けるために制御システムに結合される少なくとも第1の駆動モータとを含み、制御システムは、第1及び第2の帆シリンダを配置するためにサイロ内の頂部位置にリフトキャリッジを位置付けるよう、少なくとも1つの第1の駆動モータを制御するよう動作可能である、機械的帆システムが開示されている。
また、特許文献3には、キャンバス地などの可撓性材料で形成された折り畳み可能なエンベロープを膨張によって直立させ、長手方向軸周りに回転させる、折り畳み自在のマグナス効果をもつローターが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2013-519586号公報
【特許文献2】特表2014-516874号公報
【特許文献3】米国特許第4401284号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1から特許文献3に記載のローターは、円筒形か又は上部が下部よりも細くなった形状であり、大きな推力を得るためにはローターの直径および全高を大きくして対応しなければならない。ところが、ローターの直径や全高を大きくすることは船橋からの死角を増やすこととなり航海における危険性が増す。また、ローターの全高を大きくすることは荷役時のクレーン操作に支障をきたすことも考えられる。
そこで本発明は、マグヌス効果を利用し推力を得るローター(いわゆるフレットナーローター)について、その効果の増大もしくは同一推力を得る場合に小型化することができる船舶の風力推進システム、及び風力推進システムを装備した船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載に対応した船舶の風力推進システムにおいては、風力を利用して船舶を推進する風力推進システムであって、船舶の船体に立設され、回転しながら風力を受け推進力を発生する上方に行くほど直径の大きくなる形状を有したローター手段と、ローター手段を回転駆動する回転駆動手段と、ローター手段の立設状態と回転駆動手段の回転駆動を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、上方に行くほど直径の大きくなる形状を有したローター手段により風速分布を有効に利用し、従来のローター手段と比べて、全高が同じ場合にマグヌス効果により得られる推力を増大することができ、小型化も可能となる。
【0006】
請求項2記載の本発明は、ローター手段が、上方に行くほど直径の大きくなる形状として伸縮自在の入れ子形状を成すテレスコピック構造を有したことを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、ローター手段を伸縮自在とすることで、推力が得られない向風時にはローター手段を縮小して受圧面積を減少させ抵抗を低減することや船橋からの死角を減らすこと等ができる。
【0007】
請求項3記載の本発明は、テレスコピック構造を有したローター手段を伸縮させる伸縮駆動手段と、伸縮を設定する伸縮設定手段をさらに備え、伸縮設定手段の設定により、制御手段が伸縮駆動手段を制御してローター手段を伸縮させ、立設状態を制御することを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、制御手段が伸縮設定手段の設定に従ってローター手段を伸縮させることで、ローター手段をより効率的に運用することができる。
【0008】
請求項4記載の本発明は、ローター手段を伸縮させる伸縮駆動手段を回転駆動手段で兼ねたことを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、伸縮時には使用しない回転駆動手段を利用することで、コストや設置スペースを低減することができる。
【0009】
請求項5記載の本発明は、ローター手段が、上方に行くほど直径の大きくなる形状として逆円錐台構造を有したことを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、上方に行くほど直径の大きくなる逆円錐台構造のローター手段により風速分布を有効に利用し、従来の円筒状等のローター手段よりも効率よく推力を得ることができる。
【0010】
請求項6記載の本発明は、ローター手段の立設状態を傾倒状態に変更する立設傾倒手段と、立設状態と傾倒状態を設定する立設傾倒設定手段をさらに備え、立設傾倒設定手段の設定により、制御手段が立設傾倒手段を制御してローター手段を立設傾倒させ、立設状態を制御することを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、状況に応じて立設傾倒設定手段の設定に従って制御手段がローター手段の立設状態を立設傾倒させることで、推力が得られない向風時にはローター手段を傾倒して受圧面積を減少させ抵抗を低減することや船橋からの死角を減らすこと等、船舶をより効率的に運用することができる。
【0011】
請求項7記載の本発明は、ローター手段が、上端部に円板状の端板を有したことを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、ローター手段が発生する推力をさらに増大することができる。
【0012】
請求項8記載の本発明は、ローター手段の立設位置を変更する立設位置変更手段と、立設位置の変更を設定する立設位置変更設定手段をさらに備えたことを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、ローター手段の立設位置を変更可能とすることで、風力推進をしない場合等にローター手段の立設位置を移動させ、例えば荷役作業をスムーズに進めること等ができる。
【0013】
請求項9記載の本発明は、船舶に搭載された風向および風速を検出する風向および風速検出手段による風向および風速の検出結果に基づいて、制御手段が回転駆動手段の回転を制御することを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、ローター手段による推力を効率的に発生させ、省エネ効果を高めることができる。
【0014】
請求項10記載の本発明は、風向および風速の検出結果に基づいて、ローター手段のテレスコピック構造ごとの回転数を変えることを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、ローター手段による推力を効率的に増大させることができる。
【0015】
請求項11記載の本発明は、風向および風速の検出結果に基づいて、制御手段がローター手段の立設状態を自動的に制御することを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、制御手段が、推力が得られる条件下ではローター手段を伸長又は鉛直に立て、推力が得られない条件下ではローター手段を縮小又は傾倒させる制御を自動で行うことにより、船員の手を煩わせることなく省エネ効果を高めることができる。
【0016】
請求項12記載の本発明は、複数基のローター手段を船体に設けたことを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、ローター手段から得られる推力を増大させて、より一層の省エネを図ることができる。
【0017】
請求項13記載に対応した風力推進システムを装備した船舶においては、船舶の風力推進システムを船体に備えたことを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、従来と同サイズでより効果の高いローター手段、又は従来よりも小型で同一推力を得られるローター手段を備えるため、航海の安全性や荷役時の制約を満足しつつ省エネ効果を最大化した船舶を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の船舶の風力推進システムによれば、上方に行くほど直径の大きくなる形状を有したローター手段により風速分布を有効に利用し、従来のローター手段と比べて、全高が同じ場合にマグヌス効果により得られる推力を増大することができ、小型化も可能となる。
【0019】
また、ローター手段が、上方に行くほど直径の大きくなる形状として伸縮自在の入れ子形状を成すテレスコピック構造を有した場合には、ローター手段を伸縮自在とすることで、推力が得られない向風時にはローター手段を縮小して受圧面積を減少させ抵抗を低減することや船橋からの死角を減らすこと等ができる。
【0020】
また、テレスコピック構造を有したローター手段を伸縮させる伸縮駆動手段と、伸縮を設定する伸縮設定手段をさらに備え、伸縮設定手段の設定により、制御手段が伸縮駆動手段を制御してローター手段を伸縮させ、立設状態を制御する場合には、制御手段が伸縮設定手段の設定に従ってローター手段を伸縮させることで、ローター手段をより効率的に運用することができる。
【0021】
また、ローター手段を伸縮させる伸縮駆動手段を回転駆動手段で兼ねた場合には、伸縮時には使用しない回転駆動手段を利用することで、コストや設置スペースを低減することができる。
【0022】
また、ローター手段が、上方に行くほど直径の大きくなる形状として逆円錐台構造を有した場合には、上方に行くほど直径の大きくなる逆円錐台構造のローター手段により風速分布を有効に利用し、従来の円筒状等のローター手段よりも効率よく推力を得ることができる。
【0023】
また、ローター手段の立設状態を傾倒状態に変更する立設傾倒手段と、立設状態と傾倒状態を設定する立設傾倒設定手段をさらに備え、立設傾倒設定手段の設定により、制御手段が立設傾倒手段を制御してローター手段を立設傾倒させ、立設状態を制御する場合には、状況に応じて立設傾倒設定手段の設定に従って制御手段がローター手段の立設状態を立設傾倒させることで、推力が得られない向風時にはローター手段を傾倒して受圧面積を減少させ抵抗を低減することや船橋からの死角を減らすこと等、船舶をより効率的に運用することができる。
【0024】
また、ローター手段が、上端部に円板状の端板を有した場合には、ローター手段が発生する推力をさらに増大することができる。
【0025】
また、ローター手段の立設位置を変更する立設位置変更手段と、立設位置の変更を設定する立設位置変更設定手段をさらに備えた場合には、ローター手段の立設位置を変更可能とすることで、風力推進をしない場合等にローター手段の立設位置を移動させ、例えば荷役作業をスムーズに進めること等ができる。
【0026】
また、船舶に搭載された風向および風速を検出する風向および風速検出手段による風向および風速の検出結果に基づいて、制御手段が回転駆動手段の回転を制御する場合には、ローター手段による推力を効率的に発生させ、省エネ効果を高めることができる。
【0027】
また、風向および風速の検出結果に基づいて、ローター手段のテレスコピック構造ごとの回転数を変える場合には、ローター手段による推力を効率的に増大させることができる。
【0028】
また、風向および風速の検出結果に基づいて、制御手段がローター手段の立設状態を自動的に制御する場合には、制御手段が、推力が得られる条件下ではローター手段を伸長又は鉛直に立て、推力が得られない条件下ではローター手段を縮小又は傾倒させる制御を自動で行うことにより、船員の手を煩わせることなく省エネ効果を高めることができる。
【0029】
また、複数基のローター手段を船体に設けた場合には、ローター手段から得られる推力を増大させて、より一層の省エネを図ることができる。
【0030】
また、本発明の風力推進システムを装備した船舶によれば、従来と同サイズでより効果の高いローター手段、又は従来よりも小型で同一推力を得られるローター手段を備えるため、航海の安全性や荷役時の制約を満足しつつ省エネ効果を最大化した船舶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施形態による風力推進システムを装備した船舶の概要図
図2】同立設傾倒手段を示す図
図3】同立設位置変更手段を示す図
図4】同制御ブロック図
図5】海面上での高度ごとの風速を示す図
図6】ローター手段の推力分布図
図7】本発明の他の実施形態による風力推進システムにおけるローター手段を装備した船舶の正面概要図
図8】同ローター手段の伸縮構造の概要図
図9】同制御ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施形態による船舶の風力推進システム、及びその風力推進システムを装備した船舶について説明する。
図1は本実施形態による船舶の風力推進システムを装備した船舶の概要図であり、図1(a)は正面図、図1(b)は右側面図である。また、図2は立設傾倒手段を示す図、図3は立設位置変更手段を示す図、図4は制御ブロック図、図5は海面上での高度ごとの風速を示す図、図6はローター手段の推力分布図である。
船舶の風力推進システムは、風力を利用して船舶を推進する風力推進システムであって、船舶の船体1に鉛直に立設され回転しながら風力を受け推進力を発生するローター手段10と、ローター手段10を回転駆動する伸縮駆動手段を兼ねたモーター等の回転駆動手段20と、ローター手段10の立設状態と回転駆動手段20の回転駆動を制御する制御手段30と、ローター手段10の立設状態を傾倒状態に変更する立設傾倒手段40と、立設状態と傾倒状態を設定する立設傾倒設定手段50と、ローター手段10の立設位置を変更する立設位置変更手段60と、立設位置の変更を設定する立設位置変更設定手段70を備える。
また、船舶には、風向および風速を検出する風向および風速検出手段80が搭載されている。
【0033】
ローター手段10は、上方に行くほど直径が大きくなる形状としている。
図5に示すように、海面上では、海面から鉛直方向に離れるほど風速が大きくなるような風速分布となっている。そのため、高さ方向に漸次大きくなるように直径を変化させたローター手段10は、従来の円筒状のローター手段と比べた場合に、風速分布を有効に利用できるので全高が同じでも得られる推力が大きくなる。また別の見方をすれば、従来の円筒状のローター手段が所定の全高で得られる推力を、より小さい全高で得ることができる。
このように、上方に行くほど直径の大きくなる形状を有したローター手段10により風速分布を有効に利用し、従来の円筒状のローター手段と比べて、同じ全高での推力を増大させ、又は同じ推力を得るための全高を減じて小型化することができる。ローター手段の小型化により、航海の安全性が高まり、荷役時の制約が少なくなる。
【0034】
制御手段30は、回転数設定部31に設定されている目標回転数と、風向および風速の検出結果に基づいて、回転数制御器32により回転駆動手段20の回転を制御する。また、回転数制御器32は、ローター手段10の伸縮時に回転駆動手段20を切り替え伸縮を制御する。
図6に示すように、マグヌス効果を利用するローター手段10は、船体1に対して横風から斜追風時に推力が最大となる一方で、向風側では船首方向への揚力(推力)が発生しないか弱い。よって制御手段30は、例えば、横風又は斜追風が吹いている場合はローター手段10を風速に応じた適切な回転速度で回転させ、向風が吹いている場合はローター手段10の回転を止める制御を行う。これにより、ローター手段10による推力を効率的に発生させ、省エネ効果を高めることができる。
【0035】
ローター手段10は、上方に行くほど直径の大きくなる形状として、逆円錐台構造を有する。上方に行くほど直径の大きくなる逆円錐台構造のローター手段10により風速分布を有効に利用し、従来の円筒状等のローター手段10よりも効率よく推力を得ることができる。
また、ローター手段10は、上端部に円板状の端板11を有する。円板状の端板11を有することで、ローター手段10が発生する推力をさらに増大することができる。
【0036】
図4に示すように、ローター手段10は、回転数設定部31を引っ張ることにより伸ばす設定ができ、押し込むことにより縮める設定ができ、伸縮駆動手段を兼ねた回転駆動手段20により伸縮が可能である。また、回転数設定部31を回すことにより、ローター手段10の回転数の増減ができ、機能的に回転数設定部31が伸縮設定手段を兼ねている。また、図2に示すように、立設傾倒手段40により、鉛直に立設した状態(図2(a))から略水平の傾倒状態(図2(b))に変更可能である。立設傾倒手段40は、例えば、ローター手段10の下部に設けられた油圧式起伏台などである。
ローター手段10の立設状態は、立設傾倒設定手段50を用いて任意に設定することができる。制御手段30は、立設傾倒設定手段50に設定にされている立設状態に基づいて立設傾倒手段40を制御し、ローター手段10を鉛直に立てたり傾倒させたりする。状況に応じて立設傾倒設定手段50の設定に従って制御手段30がローター手段10の立設状態を立設傾倒することで、推力が得られない向風時にはローター手段10を傾倒して受圧面積を減少させ抵抗を低減したり船橋からの死角を減したりする等、船舶をより効率的に運用することができる。
例えば、ローター手段10が鉛直に立っていると荷役時のクレーン操作に支障をきたすときなどは、立設傾倒手段40によりローター手段10の立設状態を傾倒状に変更することで、荷役作業をスムーズに進めることができる。
【0037】
また、風向および風速検出手段80による風向および風速の検出結果に基づいて、制御手段30がローター手段10の立設状態を自動的に制御することもできる。
推力が得られる条件下(横風時又は斜追風時など)ではローター手段10の立設状態を鉛直に立った状態とし、推力が得られない条件下(向風時など)ではローター手段10の立設状態を傾倒状態に変更するように制御手段30が自動制御することで、船員の手を煩わせることなく省エネ効果を高めることができる。
【0038】
図3に示すように、ローター手段10は、立設位置変更手段60により、立設位置を変更可能である。立設位置変更手段60は、例えば、ローター手段10の下部に設けられたレール状の油圧式移動台などである。
ローター手段10を立設させる位置は、立設位置変更設定手段70を用いて任意に設定することができる。制御手段30は、立設位置変更設定手段70に設定されている立設位置までローター手段10を移動させる。
ローター手段10の立設位置を変更可能とすることで、風力推進をしない場合等にローター手段10の立設位置を移動させられるため、例えば、ローター手段10が船首に位置していると荷役時のクレーン操作に支障をきたすときなどは、立設位置変更手段60によりローター手段10を船長方向中央付近に移動させることで、荷役作業をスムーズに進めることができる。
なお、伸縮駆動手段(回転駆動手段20)、立設傾倒手段40、及び立設位置変更手段60は、任意に組み合わせて使用が可能であり、いずれか一つでもよく、無くてもよい。また、これらを設けない場合、その状況に応じて回転数設定部31が伸縮設定手段を兼ねることの変更や、立設傾倒設定手段50、立設位置変更設定手段70の変更ができる。
【0039】
また、複数基のローター手段10を船体1に設けることもできる。
これにより、ローター手段10から得られる推力を増大させて、より一層の省エネを図ることができる。
【0040】
次に、本発明の他の実施形態による船舶の風力推進システム、及びその風力推進システムを装備した船舶について説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
図7は本実施形態におけるローター手段を装備した船舶の正面概要図である。図8はテレスコピック構造を有するローター手段の伸縮構造の概要図であり、図8(a)はボールねじを用いた伸縮駆動手段を示し、図8(b)は油圧シリンダを用いた伸縮駆動手段を示している。図9は制御ブロック図である。
本実施形態の船舶の風力推進システムは、ローター手段10Aが、上方に行くほど直径の大きくなる形状として、伸縮自在の入れ子形状を成すテレスコピック構造を有する。また、テレスコピック構造を有したローター手段10Aを伸縮させる伸縮駆動手段90と、立設状態としての伸縮を設定する伸縮設定手段100を専用設定手段として備える。
テレスコピック構造の各段は円筒形状であり、上の段の径はその一つ下の段の径よりも大きく、すなわち上の段になるほど径が大きくなっている。これにより、ローター手段10Aを図7(a)に示すように伸長させ、又は図7(b)に示すように縮小させることができる。
マグヌス効果を利用するローター手段10Aは、船体1に対して横風から斜追風時に推力が最大となる一方で、向風時には船首方向への揚力(推力)が発生しないか弱いため、省エネ効果が得られないどころか寧ろ抵抗となる。そこで、ローター手段10Aを伸縮自在とすることで、推力が得られない向風時にはローター手段10Aを縮小して受圧面積を減少させ抵抗を低減することができる。また、ローター手段10Aを縮小することで、船橋からの死角を減らすこと等もできる。
【0041】
制御手段30は、ローター手段10Aが伸長した状態にあるとき、風向および風速検出手段80による風向および風速の検出結果に基づいて、ローター手段10Aのテレスコピック構造ごとの回転数を変えることもできる。
上述のように海面上では海面から鉛直方向に離れるほど風速が大きくなるため、揚力発生効果の少ない下段の回転数を上段よりも減ずるなど、風向および風速に応じて各段での回転数を変えることで、ローター手段10Aによる推力を増大させ、入力エネルギーを節約することができる。
【0042】
また、風向および風速検出手段80による風向および風速の検出結果に基づいて、制御手段30はローター手段10Aの立設状態を自動的に制御する。
制御手段30が、横風時又は斜追風時など推力が得られる条件下ではローター手段10Aを伸ばして立設状態を伸長状態とし、向風時など推力が得られない条件下ではローター手段10Aを縮めて立設状態を縮小状態とする制御を自動で行うことにより、船員の手を煩わせることなく省エネ効果を高めることができる。
【0043】
図8に示すように、伸縮駆動手段90は、ローター手段10Aの内部において高さ方向に配置された立設部91と、立設部91を動作させる動作部92を有する。
伸縮駆動手段90にボールねじを用いる場合は、立設部91をねじ軸、ナット、ボール等により構成し、動作部92をモーターとする。動作部92により立設部91を回転させることで、立設部91に装着されているローター手段10Aを容易に伸縮させることができる。
また、伸縮駆動手段90に油圧シリンダを用いる場合は、立設部91をシリンダチューブと、その内部に配置したピストンロッド等により構成し、動作部92を油圧発生装置とする。動作部92により立設部91を伸長又は縮小させることで、立設部91に装着されているローター手段10Aを容易に伸縮させることができる。
ローター手段10Aの伸縮は、伸縮設定手段100を用いて任意に設定することができる。制御手段30は、伸縮設定手段100に入力された設定に基づいて伸縮駆動手段90を制御し、ローター手段10Aを伸縮させる。風向等に応じて制御手段30が伸縮設定手段100の設定に従って自動的にローター手段10Aを伸縮させることで、ローター手段10Aをより効率的に運用することができる。
【0044】
また、伸縮駆動手段90にボールねじを用いる場合は、動作部92を回転駆動手段20で兼ねることができる。
伸縮時には使用しない回転駆動手段20を利用することで、動作部92としてのモーター等を別個に設ける場合と比べてコストや設置スペースを低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、船舶に適用することで、航海の安全性や荷役時の制約を満足しつつ省エネ効果を最大化することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 船体
10、10A ローター手段
11 端板
20 回転駆動手段(伸縮駆動手段)
30 制御手段
31 回転数設定部(伸縮設定手段)
40 立設傾倒手段
50 立設傾倒設定手段
60 立設位置変更手段
70 立設位置変更設定手段
80 風向および風速検出手段
90 伸縮駆動手段
100 伸縮設定手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9