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  • 特開-分極金属およびコンデンサ 図1
  • 特開-分極金属およびコンデンサ 図2
  • 特開-分極金属およびコンデンサ 図3
  • 特開-分極金属およびコンデンサ 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154489
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】分極金属およびコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20221005BHJP
   H01G 4/12 20060101ALI20221005BHJP
   H01G 4/33 20060101ALI20221005BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
H01G4/30 516
H01G4/12 180
H01G4/30 201D
H01G4/30 201L
H01G4/33 101
H01G4/30 544
C01G23/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057553
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】酒井 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】東 正樹
(72)【発明者】
【氏名】潘 昭
(72)【発明者】
【氏名】西久保 匠
【テーマコード(参考)】
4G047
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
4G047CA05
4G047CB04
4G047CC02
4G047CD03
4G047CD08
5E001AB01
5E001AC09
5E001AE03
5E082AB01
5E082BC40
5E082EE04
5E082EE05
5E082EE35
5E082EE37
5E082FF05
5E082FG04
(57)【要約】
【課題】新たな分極金属を提供することにある。
【解決手段】分極金属は、下記式(1)で表される化合物である。
PbTiO3-x・・・(1)
[式(1)中、xは0<x≦0.3を満たす。]
式(1)で表される化合物を電極として用いたコンデンサも提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物であることを特徴とする分極金属。
PbTiO3-x・・・(1)
[式(1)中、xは0<x≦0.3を満たす。]
【請求項2】
第1の面と、前記第1の面と反対側の第2の面とを有する誘電体層と、前記第1の面上に形成されている第1の電極層と、前記第2の面上に形成されている第2の電極層と、を備え、前記第1の電極層および前記第2の電極層のそれぞれは、下記式(1)で表される化合物を含むことを特徴とするコンデンサ。
PbTiO3-x・・・(1)
[式(1)中、xは0<x≦0.3を満たす。]
【請求項3】
前記誘電体層は、PbTiOを含む請求項2に記載のコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分極金属およびコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
金属伝導を示すLiOsOにおける極性-非極性転移の発見(非特許文献1)が契機となり、強誘電体と同じ極性の結晶構造を持ちながら金属伝導を示す分極金属が注目されている(例えば非特許文献2参照)。分極金属は、強誘電体の電極や、高性能熱電変換材料として使用できることが期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Y. Shi et al., Nat. Mater. 12, 1024 (2013)
【非特許文献2】W. X. Zhou and A. Ariando, J. Appl. Phys. 59 SI0802 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、代表的な強誘電体であるPbTiOのO2-の一部をFで置換することによって、極性の構造を保ったままPbTiOを金属化できることを見出した。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的のひとつは、新たな分極金属を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、分極金属である。この分極金属は、下記式(1)で表される化合物である。
PbTiO3-x・・・(1)
[式(1)中、xは0<x≦0.3を満たす。]
【0007】
本発明の他の態様は、コンデンサである。このコンデンサは、第1の面と、第1の面と反対側の第2の面とを有する誘電体層と、第1の面上に形成されている第1の電極層と、第2の面上に形成されている第2の電極層と、を備え、第1の電極層および第2の電極層のそれぞれは、下記式(1)で表される化合物を含む。
PbTiO3-x・・・(1)
[式(1)中、xは0<x≦0.3を満たす。]
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、新たな分極金属を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係るコンデンサを説明するための模式図である。
図2】実施例1~3、比較例1の試料のX線回折の測定結果を示す図である。
図3】実施例1の電気抵抗の測定結果を示す図である。
図4】実施例2の電気抵抗の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、特に言及がない限りこの用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0011】
(分極金属)
本実施の形態に係る分極金属は、強誘電体であるPbTiOにおいて、O2-の一部がFで置換されている化合物である。具体的には、本実施の形態にかかる分極金属は、下記式(1)で表される化合物を含む。
PbTiO3-x・・・(1)
[式(1)中、xは0<x≦0.3を満たす。]
【0012】
本実施の形態に係る分極金属は、上述したように、O2-の一部がFで置換されている。このように電子をキャリアーとしてドープすることによって、この分極金属は、極性のPTiO型構造を保ったまま金属伝導性を示す。
【0013】
本実施の形態に係る分極金属は、原料の混合物を、例えば1000~1400℃、3~8GPaの条件下で加熱加圧することによって製造することができる。例えば、原料の混合物を金カプセルに封入し、キュービックアンビル型高圧装置等を用いて所定圧力及び所定温度の条件下で加熱することができる。これにより、上記式(1)で表される化合物が形成され、当該化合物を含む分極金属を得ることができる。分極金属の製造法はこれに留まらず、予め合成したPbTiOをフッ素ガスやフッ化水素を用いてフッ素化処理することも考えられる。
【0014】
本実施の形態に係る分極金属は、強誘電体の電極や、高性能熱電変換材料として使用することができる。
【0015】
(コンデンサ)
図1は、本実施の形態に係るコンデンサを説明するための模式図である。図1に示すように、コンデンサ10は、誘電体層12と、第1の電極層14と、第2の電極層16と、第1の導線18と、第2の導線20と、を備える。
【0016】
誘電体層12は、コンデンサ10の誘電体として機能する。誘電体層12は強誘電体材料から構成されている。強誘電体材料としては、PbTiO、BaTiOなどのペロブスカイト型酸化物が挙げられる。電極層の形成が容易となることから、誘電体層12はPbTiOを含むのが好ましい。
【0017】
誘電体層12の第1の面12a上に、第1の電極層14が形成されている。第1の面12aと反対側の第2の面12b上に、第2の電極層16が形成されている。第1の電極層14には、第1の導線18が接続されている。第2の電極層16には、第2の導線20が接続されている。第1の電極層14および第2の電極層16のそれぞれは、下記式(1)で表される化合物を含む。
PbTiO3-x・・・(1)
[式(1)中、xは0<x≦0.3を満たす。]
【0018】
上記式(1)で表される化合物は、PbTiOのO2-の一部がFで置換されていることによって、極性の構造を保ったままで金属化されており、すなわち、分極金属である。コンデンサの電極は通常金属電極であるが、この分極金属を電極とすることによって、電極の反応を抑制することができる。
【0019】
誘電体層12がPbTiOを含む場合、誘電体層12の第1の面12aおよび第2の面12bをそれぞれフッ素化することによって、第1の電極層14および第2の電極層16を形成することができる。例えば、誘電体層12の第1の面12aおよび第2の面12bのそれぞれを、フッ素ガスまたはフッ化水素酸で処理することによって、フッ素化することができる。また、誘電体層12の第1の面12aおよび第2の面12bのそれぞれの上に、上記式(1)で表される化合物を、化学蒸着法、物理蒸着法、液相法、インクジェット法などによって堆積させることによって、第1の電極層14および第2の電極層16を形成することができる。
【実施例0020】
以下、本発明の実施例を説明するが、これら実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0021】
(実施例1~3、比較例1)
アルゴン充填グローブボックス内にて、出発原料PbO、PbF、TiO、Tiを化学量論比で混合し、Ptカプセル内に封入した。その後、試料を、キュービックアンビル型高圧合成装置を用いて、8GPa、1200℃の条件で処理した。その後、減圧し、試料を400℃で処理することによって、実施例1~3、比較例1の試料を作製した。これらの試料の組成はそれぞれ下記の通りである。
実施例1:PbTiO2.90.1
実施例2:PbTiO2.80.2
実施例3:PbTiO2.70.3
比較例1:PbTiO
【0022】
得られた試料の結晶構造評価は、X線回折データのリートベルト解析を用いて行った。X線回折の測定結果を図2に示す。図2に示すように、PbTiOの酸素(O)の一部をフッ素(F)で置換しても、極性のPbTiO型構造が保たれていることが確認された。
【0023】
次に、実施例1および実施例2の試料の電気抵抗を、四端子法によって測定した。実施例1の試料の測定結果を図3に、実施例2の試料の測定結果を図4に示す。図3および図4に示すように、PbTiOのO2-の一部をFで置換したことで、Ti4+からTi(4-x)+へと電子キャリアーが生じ、それによって、実施例1および実施例2の試料は金属伝導を示すようになった。
【0024】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明した。前述した実施の形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施の形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。以上の構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【符号の説明】
【0025】
10 コンデンサ、 12 誘電体層、 12a 第1の面、 12b 第2の面、 14 第1の電極層、 16 第2の電極層、18 第1の導線、 20 第2の導線。
図1
図2
図3
図4