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特開2022-154494油性ボールペン用インク組成物及び油性ボールペン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154494
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】油性ボールペン用インク組成物及び油性ボールペン
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/18 20060101AFI20221005BHJP
   B43K 7/00 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
C09D11/18
B43K7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057559
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000108328
【氏名又は名称】ゼブラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】横山 卓也
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
4J039AD14
4J039AE01
4J039BC07
4J039BC13
4J039BE02
4J039CA04
4J039EA44
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】低粘度化されても、油性ボールペンのインク吐出量の安定性を向上させることができ、水を含有していてもエマルジョン化を抑制できる油性ボールペン用インク組成物及び油性ボールペンを提供すること。
【解決手段】水溶性有機溶剤を含む有機溶剤と、樹脂と、着色剤と、水とを含む油性ボールペン用インク組成物であって、油性ボールペン用インク組成物中の水の含有率が3~10質量%であり、樹脂が、ケトン樹脂及びマレイン樹脂の少なくとも一方を含み、25℃、剪断速度7.5/秒における粘度が700mPa・s未満である、油性ボールペン用インク組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性有機溶剤を含む有機溶剤と、
樹脂と、
着色剤と、
水と
を含む油性ボールペン用インク組成物であって、
前記油性ボールペン用インク組成物中の前記水の含有率が3~10質量%であり、
前記樹脂が、ケトン樹脂及びマレイン樹脂の少なくとも一方を含み、
25℃、剪断速度7.5/秒における粘度が700mPa・s未満である、油性ボールペン用インク組成物。
【請求項2】
前記着色剤が染料を含み、前記有機溶剤中の前記水溶性有機溶剤の含有率が15質量%以上80質量%以下である、請求項1に記載の油性ボールペン用インク組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の油性ボールペン用インク組成物を含む油性ボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性ボールペン用インク組成物及び油性ボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
油性ボールペンに使用されるインク組成物は一般には、25℃において7000~15000mPa・sの高い粘度を有する。このため、このようなインク組成物を用いた油性ボールペンにおいては書き味が重くなりやすく、紙にインクを転写させるために高い筆圧を必要とする。
【0003】
このため、近年になって、油性ボールペンの使用時において軽い書き味を実現するために、低粘度化されたインク組成物が提案されるようになっている。
【0004】
例えば下記特許文献1には、油性ボールペンインク組成物として、有機溶剤、着色剤、樹脂及び水を含有し、水の含有量を0.3重量%以上3.0重量%未満とし、剪断速度5/秒、25℃における粘度を1000~7000mPa・sとした油性ボールペンインキが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4270628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した特許文献1に記載された油性ボールペンインク組成物は、以下の課題を有していた。
【0007】
すなわち、上記特許文献1記載された油性ボールペンインク組成物は、未だ高い粘度を有するため、さらに軽い書き味を追求するためには、さらなる低粘度化が必要であった。
【0008】
しかし、油性ボールペンインク組成物の粘度をさらに低くすると、油性ボールペンを長時間使用した時にインクの排出量の減少もしくは増加を生じさせる場合があり、油性ボールペンのインク吐出量が減少もしくは増加し、描線性を十分に向上させることができない場合があった。また、油性ボールペンインク組成物中に含まれる樹脂の種類によっては、水を添加したときにインク組成物がエマルジョン状態になる場合があった。
【0009】
従って、低粘度化されても、油性ボールペンのインク吐出量の安定性を向上させることができ、水を含有していてもエマルジョン化を抑制できる油性ボールペン用インク組成物が求められていた。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、低粘度化されても、油性ボールペンのインク吐出量の安定性を向上させることができ、水を含有していてもエマルジョン化を抑制できる油性ボールペン用インク組成物及び油性ボールペンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するため研究を重ねた結果、有機溶剤として水溶性有機溶剤を含む有機溶剤を用い、水の含有率を特定の範囲としつつ、かつ、樹脂として特定の樹脂を用いることによって上記課題を解決し得ることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、水溶性有機溶剤を含む有機溶剤と、樹脂と、着色剤と、水とを含む油性ボールペン用インク組成物であって、前記油性ボールペン用インク組成物中の前記水の含有率が3~10質量%であり、前記樹脂が、ケトン樹脂及びマレイン樹脂の少なくとも一方を含み、25℃、剪断速度7.5/秒における粘度が700mPa・s未満である、油性ボールペン用インク組成物である。
【0013】
本発明の油性ボールペン用インク組成物は、低粘度化されても、インク吐出量の安定性を向上させることができ、水を含有していてもエマルジョン化を抑制できる。
【0014】
本発明の油性ボールペン用インク組成物によって上記効果が得られる理由について、本発明者は以下のように推察している。
【0015】
すなわち、本発明では、水を3~10質量%含有することで、インク組成物の25℃、剪断速度7.5/秒における粘度が700mPa・s未満まで低粘度化されても、水分子がチップ内部のボール受け座もしくはボールに吸着することにより、ボール受け座とボールとの接触を軽減し、油性ボールペンを長時間使用した場合の油性ボールペン用インク組成物の排出量の減少又は増加の抑制を可能とし、油性ボールペンのインク吐出量の安定性を向上させることが可能になるのではないかと考えられる。また、樹脂として、ケトン樹脂及びマレイン樹脂の少なくとも一方を含むものを用いることで、樹脂の固形分が有機溶剤や水に溶解しやすくなり、インク組成物のエマルジョン化が抑制されるのではないかと考えられる。
以上のことから、本発明の油性ボールペン用インク組成物によって上記効果が得られるのではないかと本発明者は推察する。
【0016】
上記油性ボールペン用インク組成物においては、前記着色剤が染料を含み、前記有機溶剤中の前記水溶性有機溶剤の含有率が15質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
【0017】
この場合、有機溶剤中の水溶性有機溶剤の含有率が15質量%未満である場合に比べて、水の含有率を増加させることが可能となり、インク吐出量の安定性をより高めることができる。また、有機溶剤中の水溶性有機溶剤の含有率が80質量%を超える場合に比べて、着色剤に含まれる染料の有機溶剤に対する溶解度が上がり、組成物中で染料の析出、沈降及び不均一化等が生じにくい状態を維持でき、筆記しやすい状態を継続させることができるとともに、未溶解固形分を発生しにくくすることができる。
【0018】
また、本発明は、上述した油性ボールペン用インク組成物を含む油性ボールペンである。
【0019】
この油性ボールペンは、上述した油性ボールペン用インク組成物を含み、上述した油性ボールペン用インク組成物は、低粘度化されても、油性ボールペンのインク吐出量の安定性を向上させることができる。このため、本発明の油性ボールペンによれば、その使用時において、軽い書き味を実現しつつ、インク吐出量の安定性を向上させることが可能となる。また、油性ボールペンに含まれるインク組成物が、エマルジョン化を抑制できるため、筆記描線の色ムラを抑制できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、低粘度化されても、油性ボールペンのインク吐出量の安定性を向上させることができ、水を含有していてもエマルジョン化を抑制できる油性ボールペン用インク組成物及び油性ボールペンが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0022】
<油性ボールペン用インク組成物>
本発明の油性ボールペン用インク組成物(以下、単に「インク組成物」と呼ぶことがある)は、水溶性有機溶剤を含む有機溶剤と、樹脂と、着色剤と、水とを含む。ここで、インク組成物中の水の含有率は3~10質量%であり、樹脂は、ケトン樹脂及びマレイン樹脂の少なくとも一方を含む。インク組成物においては、25℃、剪断速度7.5/秒における粘度が700mPa・s未満である。
【0023】
本発明のインク組成物は、低粘度化されても、油性ボールペンのインク吐出量の安定性を向上させることができ、描線性を向上させることができる。また、本発明のインク組成物は、水を含有していてもエマルジョン化を抑制できる。
【0024】
以下、上記インク組成物について詳細に説明する。
【0025】
(A)有機溶剤
(有機溶剤)
有機溶剤は水溶性有機溶剤を含む。水溶性有機溶剤とは、25℃における水の溶解度が10g/100g以上である有機溶剤をいい、インク組成物中の水の含有率を増加させるために用いられるものである。
【0026】
このような水溶性有機溶剤としては、例えば、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、エトキシトリグリコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノール、メタノール、t-ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、2-プロパノールなどのアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテルなどのエーテル類など-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールが好ましい。水溶性有機溶剤が3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールであると、インク組成物が、油性ボールペンのインク吐出量の安定性をより向上させることができる。
【0027】
(非水溶性有機溶剤)
非水溶性有機溶剤とは、25℃における水の溶解度が10g/100g未満である有機溶剤をいう。
【0028】
このような非水溶性有機溶剤としては、例えば、ベンジルアルコール、フェニルグリコールなどの芳香族系アルコール;オクタノールなどの炭素数8以上の脂肪族系アルコール;トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤;n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソヘプタン、n-オクタン、イソオクタンなどの脂肪族炭化水素系溶剤;メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどのシクロパラフィン系溶剤などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、染料の溶解性を向上させる観点から、芳香族系アルコールが好ましい。芳香族系アルコールの中でも、ベンジルアルコールが好ましい。この場合、インク組成物が、油性ボールペンのインク吐出量の安定性をより向上させることができる。
【0029】
有機溶剤中の水溶性有機溶剤の含有率は特に制限されるものではなく、通常は25質量%未満である。有機溶剤中の水溶性有機溶剤の含有率は、15質量%以上80質量%以下であることが好ましい。この場合、有機溶剤中の水溶性有機溶剤の含有率が15質量%未満である場合に比べて、水の含有率を増加させることが可能となり、インク吐出量の安定性をより高めることができる。また、有機溶剤中の水溶性有機溶剤の含有率が80質量%を超える場合に比べて、染料の有機溶剤に対する溶解度が上がり、組成物中で染料の析出、沈降及び不均一化等が生じにくい状態を維持でき、筆記しやすい状態を継続させることができるとともに、未溶解固形分を発生しにくくすることができる。また顔料分散性を向上することが出来る。
【0030】
(B)樹脂
樹脂は、ケトン樹脂及びマレイン樹脂の少なくとも一方を含む。樹脂がケトン樹脂及びマレイン樹脂の少なくとも一方を含むことで、インク組成物が水を含有していてもエマルジョン化を抑制できる。
【0031】
マレイン樹脂は、マレイン酸又は無水マレイン酸に由来する構成単位を含有する樹脂であり、単独重合体であっても共重合体であってもよい。
【0032】
ケトン樹脂は、ケトン基を有する樹脂である。
【0033】
樹脂中のケトン樹脂もしくはマレイン樹脂の含有率(単位:質量%)は、特に制限されるものではないが、70質量%以上であることが好ましい。
【0034】
この場合、樹脂中のケトン樹脂及びマレイン樹脂の含有率が70質量%未満である場合に比べて、筆記描線の堅牢性及び筆記面への固着性がより向上する。
【0035】
インク組成物中の樹脂の含有率は特に制限されるものではないが、通常は20質量%以下である。インク組成物中の樹脂の含有率は、3質量%以上であることが好ましい。この場合、インク組成物中の樹脂の含有率が3質量%未満である場合に比べて、インク組成物の粘度がより増加するため、油性ボールペンの使用時におけるインク組成物のボタ落ちを抑制できる。また、インク組成物中の樹脂の含有率は、15質量%以下であることが好ましい。この場合、インク組成物中の樹脂の含有率が15質量%を超える場合に比べて、インク組成物の粘度が増加しすぎることを抑制できるため、油性ボールペンの使用時において、より軽い書き味を実現させることが可能となる。
【0036】
(C)着色剤
着色剤は、顔料及び染料の少なくとも一方を含む。
(顔料)
顔料は、特に制限されるものではなく、顔料としては、有機顔料及び無機顔料が挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
有機顔料としては、例えば不溶性アゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、キナクドリン顔料、ジケトピロロピロール顔料などが挙げられる。
【0038】
無機顔料としては、例えばカーボンブラック、酸化チタン、金属粉などが挙げられる。
【0039】
着色剤中の顔料の含有率は特に制限されず、希望する色の状態に応じて適宜決定すればよいが、本発明は、着色剤中の顔料の含有率が、1~15質量%である場合に、特に優れた顔料分散性を発揮する。
【0040】
(染料)
【0041】
染料としては、例えばSPIRIT BLACK 61F、VALIFAST VIOLET 1701、VALIFAST VIOLET 1704、VALIFAST YELLOW1109、VALIFAST YELLOW 1151、VALIFAST YELLOW 1171、OIL YELLOW 107、VALIFAST BLUE 1605、VALIFAST BLUE 1621、VALIFAST BLUE 1623、VALIFAST BLUE 2620、OIL BLUE 613、VALIFAST RED 1308、VALIFAST RED 1320、VALIFAST RED 1364、VALIFAST RED 2320、VALIFAST BLACK 3830、VALIFAST BLACK 3870(以上、オリヱント化学工業株式会社製)、Aizen Spilon BLACK GHMSpecial、Aizen Spilon VIOLET C-RH、Aizen Spilon YELLOW C-GH new、Aizen Spilon BLUE C-RH、Aizen Spilon S.P.T.BLUE -111、Aizen Spilon S.P.T.BLUE -121(以上、保土谷化学工業株式会社製)などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
着色剤中の染料の含有率は特に制限されず、希望する色の状態に応じて適宜決定すればよい。
【0043】
(D)水
水は、水道水又はイオン交換水のいずれでもよいが、不純物の混入が少ないという理由から、イオン交換水が好ましい。
【0044】
インク組成物中の水の含有率は3~10質量%である。この場合、水の含有率が3質量%未満である場合に比べて、インク吐出量の安定性をより高めることができる。また、水の含有率が10質量%を超える場合に比べて、インク組成物は、溶剤、染料及び樹脂等を混合した液体に水を可溶化させることが出来るため、組成物中で染料の析出、沈降及び不均一化等が生じにくい状態を維持でき、筆記しやすい状態を継続させることができることができるとともに、未溶解固形分を発生しにくくすることができる。
【0045】
インク組成物中の水の含有率は4質量%以上であることが好ましい。この場合、インク組成物中の水の含有率が4質量%未満である場合に比べて、インク組成物の吐出量の安定性をより向上させることができる。
【0046】
インク組成物中の水の含有率は5質量%以上であることがより好ましい。
【0047】
また、インク組成物中の水の含有率は9質量%以下であることが好ましい。この場合、インク組成物中の水の含有率が9質量%を超える場合に比べて、溶剤、染料及び樹脂等を混合した液体に水を可溶化させることが出来るため、経時安定性をより高めることができる。
【0048】
インク組成物中の水の含有率は8質量%以下であることがより好ましい。
【0049】
インク組成物中の水の含有率は、例えばカールフィッシャー水分計によって測定することができる。
【0050】
(E)その他の成分
インク組成物は、上記(A)~(D)のほか、インク組成物の特性を損なわない範囲で、必要に応じ、分散剤、曳糸性付与剤、潤滑剤、渋り防止剤、防錆剤などの公知の添加剤を必要に応じて含んでもよい。
【0051】
(F)インク組成物の粘度
インク組成物の25℃、剪断速度7.5/秒における粘度は700mPa・s未満である。
【0052】
この場合、インク組成物の低粘度化が可能となり、油性ボールペンの使用時において、軽い書き味を実現することができる。また、インク組成物の25℃、剪断速度7.5/秒におけるインク組成物の粘度が700mPa・s未満まで低粘度化されても、本発明のインク組成物は、油性ボールペンのインク吐出量の安定性をより向上させることができる。
【0053】
インク組成物は、粘度が650mPa・s未満であることがより好ましい。この場合、インク組成物のさらなる低粘度化が可能となり、油性ボールペンの使用時において、より軽い書き味を実現することができる。
【0054】
但し、インク組成物の粘度は100mPa・s以上であることがより好ましい。この場合、粘度が100mPa・s未満である場合に比べて、油性ボールペンの使用時におけるボタ落ちをより抑制でき、また書き味を向上することができる。
【0055】
<油性ボールペン>
次に、本発明の油性ボールペンについて説明する。
本発明の油性ボールペンは、上述したインク組成物を含む。
【0056】
この油性ボールペンによれば、上述した油性ボールペン用インク組成物を含み、上述した油性ボールペン用インク組成物は、低粘度化されても、油性ボールペンのインク吐出量の安定性を向上させることができる。このため、本発明の油性ボールペンによれば、軽い書き味を実現しつつ、インク吐出量の安定性を向上させることが可能となる。また、油性ボールペンに含まれるインク組成物が、水を含有していてもエマルジョン化を抑制できるため、筆記描線の色ムラを抑制できる。
【実施例0057】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
実施例又は比較例で用いられる有機溶剤、樹脂、着色剤、分散剤、水、潤滑剤、曳糸性付与剤及び渋り防止剤としては、具体的に以下のものを使用した。
【0059】
<有機溶剤>
(非水溶性有機溶剤)
ベンジルアルコール
フェノキシエタノール
(水溶性有機溶剤)
3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール
プロピレングリコールモノメチルエーテル
エトキシトリグリコール
【0060】
<樹脂>
ケトン樹脂(商品名「TEGO(登録商標)VariPlus SK」、エボニックインダストリーズ株式会社製)
マレイン樹脂(商品名「マルキードNo33」、荒川化学工業株式会社製)
テルペンフェノール樹脂(商品名「YS ポリスター K125」、ヤスハラケミカル株式会社製)
【0061】
<着色剤>
(染料)
VALIFAST VIOLET 10(商品名、オリヱント化学工業株式会社製)
VALIFAST BLACK 3830(商品名、オリヱント化学工業株式会社製)
VALIFAST RED3311(商品名、オリヱント化学工業株式会社製)
VALIFAST RED1308(商品名、オリヱント化学工業株式会社製)
OIL YELLOW107(商品名、オリヱント化学工業株式会社製)
(顔料)
カーボンブラック(Pigment Black 7)
有機顔料(Pigment Red 254)
【0062】
<分散剤>
(脂肪酸)
オレイン酸
(脂肪族アミン)
オレイルアミン
【0063】
<水>
イオン交換水
【0064】
<潤滑剤>
リン酸エステル(商品名「プライサーフA207H」、第一工業製薬株式会社製)
【0065】
<曳糸性付与剤>
ポリビニルピロリドン(商品名「PVP K-90」、日本触媒社製)
ブチラール樹脂
【0066】
<渋り防止剤>
変性ひまし油脂肪酸エステル(商品名「リックサイザーGR301」、伊藤製油株式会社製)
【0067】
(実施例1~11及び比較例1~8)
往復回転式撹拌機アジター(株式会社島崎エンジニアリング製)を用い、有機溶剤、樹脂、着色剤、分散剤、水、潤滑剤及び曳糸性付与剤を、50Hz、5時間、60℃の条件で加熱しながら表1及び表2に示す含有率となるように混合してインク組成物を得た。
【0068】
そして、得られたインク組成物について、25℃、剪断速度7.5/秒の条件において、デジタル粘度計(製品名「DV-2+PRO」、ブルックフィールド社製)を用いて粘度を測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0069】
<インク組成物の評価>
実施例1~11及び比較例1~8で得られたインク組成物について、以下のようにしてインク組成物の状態及びインク吐出量の安定性を評価した。
【0070】
(1)インク組成物の状態
実施例1~11及び比較例1~8で得られたインク組成物を、透過型顕微鏡を用いて200倍の倍率で観察した。そして、以下の基準に基づいて、インク組成物の状態を評価した。結果を表1及び表2に示す。
(基準)
〇・・・顔料の凝集が見られず(顔料が含まれる場合)かつ、インク組成物がエマルジョン状態になっていない
×・・・顔料の凝集が見られる(顔料が含まれる場合)又は、インク組成物がエマルジョン状態になっている
なお、比較例4及び7における「×」は、顔料の凝集は見られなかったが、エマルジョン化が抑制できなかったことを意味し、比較例8における「×」は、エマルジョン化を抑制できたが、顔料の凝集は見られたことを意味する。
【0071】
(3)インク吐出量の安定性
実施例1~11及び比較例1~8で得られたインク組成物について、以下のようにしてインク吐出量の安定性を評価した。
【0072】
すなわち、まず、ボール径0.5mmのステンレスボール(チップ)及びボールペンリフィルを用意した。
そして、実施例1~11及び比較例1~8で得られたインク組成物をボールペンリフィルに充填し、各実施例又は比較例ごとにリフィルを5本ずつ用意した。
【0073】
次に、温度25℃、湿度60%の恒温恒湿室において、荷重200g、筆記角度70°、筆記速度4.0m/分で500mにわたって連続螺旋筆記試験を行った。このとき、筆記試験は、ボールペンリフィルをその長手方向に沿った軸周りに徐々に回転させながら行い、ボールペンリフィルが5mで一回転する条件で行った。
【0074】
そして、100m筆記時に精密天秤にて計測したボールペンリフィルの質量と、筆記前に精密天秤にて計測したボールペンリフィルの質量とから、0-100m筆記時のインク排出量(X)を算出した。同様に、500m筆記時に精密天秤にて計測したボールペンリフィルの質量と、400m筆記時に精密天秤にて計測した油性ボールペンの質量とから、400-500m筆記時のインク排出量(Y)を算出し、算出したX及びYの値から、Z(=Y-X)を算出した。そして、5本のボールペンリフィルの「Z」の平均値を「Z’」とした。
【0075】
そして、以下の基準に基づいて、インク組成物を用いたボールペンリフィルのインク吐出量の安定性を評価した。結果を表1及び表2に示す。
(基準)
〇・・・Z’の絶対値が5mg未満である
×・・・Z’の絶対値が5mg以上である
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
表1及び表2に示す結果より、実施例1~11のインク組成物はいずれも、インク組成物の状態及びインク吐出量の安定性については「〇」であった。一方、比較例1~8のインク組成物は、インク組成物の状態(エマルジョン化の抑制)又はインク吐出量の安定性については少なくとも一つ以上が「×」であった。また、実施例1~11のインク組成物はいずれも、十分に低い粘度を有していた。
【0079】
以上のことから、本発明の油性ボールペン用インク組成物は、低粘度化されても、油性ボールペンのインク吐出量の安定性を向上させることができ、水を含有していてもエマルジョン化を抑制できることが確認された。