(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154511
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】導電性薄膜及びその製造方法、並びに、導電性シート
(51)【国際特許分類】
H01B 5/14 20060101AFI20221005BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20221005BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20221005BHJP
H05K 3/00 20060101ALN20221005BHJP
【FI】
H01B5/14 Z
B32B7/025
H01B5/14 B
H01B13/00 503D
H01B13/00 503Z
H01B13/00 503B
H01B5/14 A
H05K3/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】38
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057582
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】西村 直之
【テーマコード(参考)】
4F100
5G307
5G323
【Fターム(参考)】
4F100AA20C
4F100AB01B
4F100AB17B
4F100AH06C
4F100AK01A
4F100AK42A
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA44B
4F100DC15B
4F100DC16B
4F100DE00B
4F100DE00C
4F100EJ58B
4F100EJ61B
4F100GB41
4F100JD08
4F100JG01B
4F100JK06
4F100JN01B
5G307FA02
5G307FB02
5G307FC05
5G307FC10
5G307GA06
5G307GB02
5G307GC01
5G307GC02
5G323AA01
5G323BA01
5G323BB02
5G323BB06
5G323CA03
5G323CA05
(57)【要約】
【課題】シート抵抗が低く、基材に対する密着性に優れる導電性薄膜を提供すること。
【解決手段】基材に積層される、遷移金属を含む導電性薄膜であり、前記導電性薄膜の膜厚において厚さ方向にリン原子の濃度勾配を有し、該リン原子の濃度勾配が、前記導電性薄膜中の前記膜厚の半分よりも前記基材側の範囲に、前記リンの原子濃度の最大値P
mを有する、導電性薄膜。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に積層される、遷移金属を含む導電性薄膜であり、
前記導電性薄膜の膜厚において厚さ方向にリン原子の濃度勾配を有し、
該リン原子の濃度勾配が、前記導電性薄膜中の前記膜厚の半分よりも前記基材側の範囲に、前記リン原子の原子濃度の最大値Pmを有する、
導電性薄膜。
【請求項2】
前記リン原子の濃度勾配における、前記リンの原子濃度の平均値Paが、0.1%以上19%以下である、
請求項1に記載の導電性薄膜。
【請求項3】
前記平均値Paに対する前記最大値Pmの比(Pm/Pa)が、2.0倍以上200倍以下である、
請求項2に記載の導電性薄膜。
【請求項4】
前記最大値Pmが、1.0%以上20%以下である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
【請求項5】
前記リン原子の濃度勾配において、前記基材に近い側から30nmの範囲における、前記リン原子の原子濃度の平均値Pa30が、0.2%以上20%以下である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
【請求項6】
前記導電性薄膜の厚さ方向における、酸素の原子濃度の平均値Oaが、20%以下である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
【請求項7】
前記導電性薄膜の厚さ方向において、前記遷移金属の原子濃度に対する酸素の原子濃度が25%以上である範囲の膜厚が、200nm以下である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
【請求項8】
前記導電性薄膜の厚さ方向において、酸素の原子濃度が25%以上である範囲の膜厚が、前記導電性薄膜の膜厚に対して、35%以下である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
【請求項9】
前記導電性薄膜の厚さ方向において、前記遷移金属の原子濃度の平均値Maが、40%以上99%以下である、
請求項1~8のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
【請求項10】
前記膜厚が30nm以上1000μm以下である、
請求項1~9いずれか一項に記載の導電性薄膜。
【請求項11】
前記遷移金属が、IUPACの周期表における第11族元素の金属を含む、
請求項1~10のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
【請求項12】
前記遷移金属が、銅を含む、
請求項11に記載の導電性薄膜。
【請求項13】
前記導電性薄膜の厚さ方向において、前記遷移金属の原子濃度Mに対する前記リンの原子濃度Pの比率(P/M)の最大値PMmが、1.9%以上100%以下である、
請求項1~12のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
【請求項14】
前記導電性薄膜の厚さ方向において、酸素の原子濃度Oに対する前記リンの原子濃度Pの比率(P/O)の最大値POmが、60%以上500%以下である、
請求項1~13のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
【請求項15】
前記導電性薄膜の厚さ方向において、前記遷移金属の原子濃度Mと酸素の原子濃度Oの和に対する前記リンの原子濃度Pの比率(P/(M+O))の最大値PMOmが、1.9%以上20%以下である、
請求項1~14のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
【請求項16】
前記導電性薄膜が、前記遷移金属を含む粒子が結合した粒子層を含む、
請求項1~15のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
【請求項17】
前記導電性薄膜が、開口を有する連続したパターンを含む、
請求項1~16のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
【請求項18】
前記パターンが、複数の細線が交差して構成されるパターンである、
請求項17に記載の導電性薄膜。
【請求項19】
前記細線の線幅が、100nm以上1000μm以下である、
請求項18に記載の導電性薄膜。
【請求項20】
前記細線のピッチが、1.0μm以上1000μm以下である、
請求項18又は19に記載の導電性薄膜。
【請求項21】
可視光透過率が、70%以上99%以下である、
請求項1~20のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
【請求項22】
シート抵抗が、0.001Ωcm-2以上20Ωcm-2以下である、
請求項1~21のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
【請求項23】
基材と、請求項1~22いずれか一項に記載の導電性薄膜と、を備える、
導電性シート。
【請求項24】
前記基材が複数の層を有する、
請求項23に記載の導電性シート。
【請求項25】
前記基材が、ケイ素化合物を含む表面層を有する、
請求項23又は24に記載の導電性シート。
【請求項26】
前記基材が、プラスチックである、
請求項23~25のいずれか一項に記載の導電性シート。
【請求項27】
前記プラスチックが、ポリエチレンテレフタレートである、
請求項26に記載の導電性シート。
【請求項28】
請求項1~22のいずれか一項に記載の導電性薄膜を備える、
タッチパネル。
【請求項29】
請求項1~22のいずれか一項に記載の導電性薄膜を備える、
ディスプレイ。
【請求項30】
請求項1~22のいずれか一項に記載の導電性薄膜を備える、
ヒーター。
【請求項31】
請求項1~22のいずれか一項に記載の導電性薄膜を備える、
電磁波シールド。
【請求項32】
請求項1~22のいずれか一項に記載の導電性薄膜を備える、
アンテナ。
【請求項33】
基材に、リンの重量面積密度が6.0mg・m-2以上1000mg・m-2以下である前駆体薄膜を形成する膜形成工程と、
前記前駆体薄膜を、150秒以上60分以下、プラズマと反応させて、導電性薄膜を得るプラズマ反応工程と、を含む、
導電性薄膜の製造方法。
【請求項34】
前記前駆体薄膜が、リン酸及び/又はリン酸エステルを含む、
請求項33に記載の導電性薄膜の製造方法。
【請求項35】
前記前駆体薄膜の遷移金属の重量面積密度が、1.0g・m-2以上10g・m-2以下である、
請求項33又は34に記載の導電性薄膜の製造方法。
【請求項36】
前記プラズマ反応工程の雰囲気が、水素原子を含む分子である気体を含む、
請求項33~35のいずれか一項に記載の導電性薄膜の製造方法。
【請求項37】
前記プラズマ反応工程の雰囲気が、希ガスを含む、
請求項33~36のいずれか一項に記載の導電性薄膜の製造方法。
【請求項38】
前記プラズマ反応工程において、マイクロ波プラズマを用いる、
請求項33~37のいずれか一項に記載の導電性薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性薄膜及びその製造方法、並びに、導電性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
遷移金属及び/又は遷移金属化合物から構成される導電性薄膜は、様々な電子デバイスに利用され工業的に有用である。特に、前駆体を塗布する工程を含む方法により製造される遷移金属及び/又は遷移金属化合物の導電性薄膜は、大規模な製造が可能である観点から望ましい。
【0003】
例えば、特許文献1には、基材上に金属又は金属化合物の微粒子の分散液を印刷し、焼成することによって少なくとも最表面の金属微粒子を融着させた導電性薄膜を含む導電性基板の製造方法が開示されており、焼成は還元性気体を含む気体のプラズマに晒すことによって行うことが開示されている。このように、焼成にプラズマ処理を用いることで、比較的融点の高い銅であっても焼結することができ、また大気中で比較的安定な酸化銅をも還元しつつ焼結させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、このようにして形成される導電性薄膜と基板との密着性について、焼成過程で還元されずに残存する酸化物が寄与すると記載されている。しかしながら、導電性薄膜中の酸化物層は、導電性が金属に比べて低いため、薄膜のシート抵抗を高くする。そのため、導電性薄膜の低シート抵抗化と密着性の両立は困難であり、薄膜中の酸化物層が少ない場合でも薄膜が基材に密着性を有する薄膜の製造が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、導電性に優れ、かつ基材への密着性に優れる薄膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意検討した。その結果、導電性薄膜の厚さ方向で特定のリン原子の濃度勾配を形成することにより上記課題を解決し得ることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕
基材に積層される、遷移金属を含む導電性薄膜であり、
前記導電性薄膜の膜厚において厚さ方向にリン原子の濃度勾配を有し、
該リン原子の濃度勾配が、前記導電性薄膜中の前記膜厚の半分よりも前記基材側の範囲に、前記リン原子の原子濃度の最大値Pmを有する、
導電性薄膜。
〔2〕
前記リン原子の濃度勾配における、前記リンの原子濃度の平均値Paが、0.1%以上19%以下である、
〔1〕に記載の導電性薄膜。
〔3〕
前記平均値Paに対する前記最大値Pmの比(Pm/Pa)が、2.0倍以上200倍以下である、
〔2〕に記載の導電性薄膜。
〔4〕
前記最大値Pmが、1.0%以上20%以下である、
〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
〔5〕
前記リン原子の濃度勾配において、前記基材に近い側から30nmの範囲における、前記リン原子の原子濃度の平均値Pa30が、0.2%以上20%以下である、
〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
〔6〕
前記導電性薄膜の厚さ方向における、酸素の原子濃度の平均値Oaが、20%以下である、
〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
〔7〕
前記導電性薄膜の厚さ方向において、前記遷移金属の原子濃度に対する酸素の原子濃度が25%以上である範囲の膜厚が、200nm以下である、
〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
〔8〕
前記導電性薄膜の厚さ方向において、酸素の原子濃度が25%以上である範囲の膜厚が、前記導電性薄膜の膜厚に対して、35%以下である、
〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
〔9〕
前記導電性薄膜の厚さ方向において、前記遷移金属の原子濃度の平均値Maが、40%以上99%以下である、
〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
〔10〕
前記膜厚が30nm以上1000μm以下である、
〔1〕~〔9〕いずれか一項に記載の導電性薄膜。
〔11〕
前記遷移金属が、IUPACの周期表における第11族元素の金属を含む、
〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
〔12〕
前記遷移金属が、銅を含む、
〔11〕に記載の導電性薄膜。
〔13〕
前記導電性薄膜の厚さ方向において、前記遷移金属の原子濃度Mに対する前記リンの原子濃度Pの比率(P/M)の最大値PMmが、1.9%以上100%以下である、
〔1〕~〔12〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
〔14〕
前記導電性薄膜の厚さ方向において、酸素の原子濃度Oに対する前記リンの原子濃度Pの比率(P/O)の最大値POmが、60%以上500%以下である、
〔1〕~〔13〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
〔15〕
前記導電性薄膜の厚さ方向において、前記遷移金属の原子濃度Mと酸素の原子濃度Oの和に対する前記リンの原子濃度Pの比率(P/(M+O))の最大値PMOmが、1.9%以上20%以下である、
〔1〕~〔14〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
〔16〕
前記導電性薄膜が、前記遷移金属を含む粒子が結合した粒子層を含む、
〔1〕~〔15〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
〔17〕
前記導電性薄膜が、開口を有する連続したパターンを含む、
〔1〕~〔16〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
〔18〕
前記パターンが、複数の細線が交差して構成されるパターンである、
〔17〕に記載の導電性薄膜。
〔19〕
前記細線の線幅が、100nm以上1000μm以下である、
〔18〕に記載の導電性薄膜。
〔20〕
前記細線のピッチが、1.0μm以上1000μm以下である、
〔18〕又は〔19〕に記載の導電性薄膜。
〔21〕
可視光透過率が、70%以上99%以下である、
〔1〕~〔20〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
〔22〕
シート抵抗が、0.001Ωcm-2以上20Ωcm-2以下である、
〔1〕~〔21〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜。
〔23〕
基材と、〔1〕~〔22〕いずれか一項に記載の導電性薄膜と、を備える、
導電性シート。
〔24〕
前記基材が複数の層を有する、
〔23〕に記載の導電性シート。
〔25〕
前記基材が、ケイ素化合物を含む表面層を有する、
〔23〕又は〔24〕に記載の導電性シート。
〔26〕
前記基材が、プラスチックである、
〔23〕~〔25〕のいずれか一項に記載の導電性シート。
〔27〕
前記プラスチックが、ポリエチレンテレフタレートである、
〔26〕に記載の導電性シート。
〔28〕
〔1〕~〔22〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜を備える、
タッチパネル。
〔29〕
〔1〕~〔22〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜を備える、
ディスプレイ。
〔30〕
〔1〕~〔22〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜を備える、
ヒーター。
〔31〕
〔1〕~〔22〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜を備える、
電磁波シールド。
〔32〕
〔1〕~〔22〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜を備える、
アンテナ。
〔33〕
基材に、リンの重量面積密度が6.0mg・m-2以上1000mg・m-2以下である前駆体薄膜を形成する膜形成工程と、
前記前駆体薄膜を、150秒以上60分以下、プラズマと反応させて、導電性薄膜を得るプラズマ反応工程と、を含む、
導電性薄膜の製造方法。
〔34〕
前記前駆体薄膜が、リン酸及び/又はリン酸エステルを含む、
〔33〕に記載の導電性薄膜の製造方法。
〔35〕
前記前駆体薄膜の遷移金属の重量面積密度が、1.0g・m-2以上10g・m-2以下である、
〔33〕又は〔34〕に記載の導電性薄膜の製造方法。
〔36〕
前記プラズマ反応工程の雰囲気が、水素原子を含む分子である気体を含む、
〔33〕~〔35〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜の製造方法。
〔37〕
前記プラズマ反応工程の雰囲気が、希ガスを含む、
〔33〕~〔36〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜の製造方法。
〔38〕
前記プラズマ反応工程において、マイクロ波プラズマを用いる、
〔33〕~〔37〕のいずれか一項に記載の導電性薄膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、導電性に優れ、かつ基材への密着性に優れる薄膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の導電性薄膜の一例を示す概略断面図である。
【
図2】本実施形態の導電性薄膜の一例を示す概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。又上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0012】
1.導電性薄膜
本実施形態の導電性薄膜は、基材に積層される、遷移金属を含む導電性薄膜であり、導電性薄膜の膜厚において厚さ方向にリン原子の濃度勾配を有し、該リン原子の濃度勾配が、導電性薄膜中の膜厚の半分よりも基材側の範囲に、リンの原子濃度の最大値Pmを有する。このようなリン原子の濃度勾配を有することにより、導電性がより向上し、かつ導電性薄膜と基材の密着性がより向上する。
【0013】
導電性薄膜は、遷移金属原子とリン原子とを含み、必要に応じて酸素原子やその他の原子を含んでいてもよい。また、遷移金属は、金属単体の状態の他、酸化物などの金属化合物の状態で存在していてもよい。以下、導電性薄膜における各原子の組成について詳説する。
【0014】
1.1.リン原子の濃度
本実施形態の導電性薄膜は、膜厚の厚さ方向にリン原子の濃度勾配を有する。そのリン原子の濃度勾配は、導電性薄膜中の膜厚の半分よりも基材側の範囲に、リンの原子濃度の最大値Pmを有する。
【0015】
図1に、本実施形態の導電性薄膜の一例を示す概略断面図を示す。
図1には、基材20上に導電性薄膜10が配された導電性シート100の概略断面図が示されている。
図1に示す導電性薄膜10は、遷移金属の粒子がプラズマにより焼結して形成された粒子層として表現されており、その断面は空孔11を有する。しかしながら、導電性薄膜10はこれに限定されるものはなく空孔11を有しないものであってもよい。
【0016】
本実施形態において、「導電性薄膜の膜厚において厚さ方向にリン原子の濃度勾配を有し、該リン原子の濃度勾配が、導電性薄膜中の膜厚の半分よりも基材側の範囲に、リンの原子濃度の最大値P
mを有する」とは、
図1に示す厚さ方向とリン原子濃度のグラフに例示されるように、基材側に近いほどリン原子の濃度が増加するという傾向を有し、膜厚の半分(厚さ0.5T)よりも基材側に、リン原子の最大値Pmが存在することをいう。
【0017】
ここで、
図1に示す厚さ方向とリン原子濃度のグラフは、ある厚さ位置tで、導電性薄膜の断面を取得したときに、その断面に含まれるリン原子の濃度P(t)をプロットしたものである。具体的には、
図1に示す厚さ方向とリン原子濃度のグラフは、厚さ0.1T、0.2T、0.3T・・・、及びTの各厚さ位置において、導電性薄膜の断面に含まれるリン原子の濃度を測定し、それをプロットしたグラフである。なお、プロットの測定精度は例示であり、十分に高精度に設定することができる。
【0018】
したがって、最大値Pmとは、このようにプロットしたグラフにおける最大値を意味し、後述する平均値Paとは、すべての厚さ方向におけるリン原子濃度の平均値を意味する。また、本実施形態においては最大値については添え字「m」(Max)を付し、平均値については添え字「a」(average)を付すものとする。また、これについては、後述する遷移金属原子、酸素原子、炭素原子においても同様とする。
【0019】
このようにリンの原子濃度の最大値が基材側に存在するようなリン原子の濃度勾配を有することにより、導電性薄膜と基材との密着性が向上するものと考えられる。このような密着性の向上がみられるメカニズムは以下に限定されるものではないが、リンが基材側に集中することにより、導電性薄膜中の基材側に存在する遷移金属同士との結合力や、基材と遷移金属との結合力より向上し、凝縮破壊や界面剥離がより生じにくくなるためと考えられる。なお、ここで、凝縮破壊と界面剥離はいずれか一方が抑制されてもよいし、両方が抑制されてもよい。また、結合力の向上は遷移金属自体に限らず、結合力の向上は、遷移金属と遷移金属化合物や、遷移金属化合物同士、あるいは、遷移金属化合物と基材の間で生じていてもよい。
【0020】
また、このようにリンの原子濃度の最大値が基材側に存在するようなリン原子の濃度勾配を有することにより、導電性が向上するものと考えられる。このような導電性の向上がみられるメカニズムは以下に限定されるものではないが、上記のようにリンの原子濃度勾配を有することにより、導電性薄膜に含まれる酸素量が減少したり、基材側に偏在するリンによって遷移金属の粒界抵抗が減少したり、又は、金属酸化物などの導電性の低い金属化合物にリンがドープされることによって導電性が向上したりすることが考えられる。これら理由は複合的に作用してもよい。
【0021】
上記のようなリン原子の濃度勾配は、リン系化合物を含む前駆体薄膜を形成する膜形成工程と所定のプラズマ反応工程により形成することができる。これら工程を有する導電性薄膜の製造方法の詳細については後述するが、一般的に、前駆体薄膜とプラズマとの反応において膜内でのリンの異方的な移動制御は困難であり、後述する方法によって上記のようにリンが基材側で高濃度化するようなリン原子の濃度勾配が得られることは大変驚くべきことである。
【0022】
リンの原子濃度の最大値Pmは、基材側に位置する膜厚の1/2の厚さ範囲(0T~0.5T)にあり、基材側に位置する膜厚の1/4の厚さ範囲(0T~0.25T)にあることが好ましく、基材側に位置する膜厚の1/10の厚さ範囲(0T~0.1T)にあることがより好ましい。リンの原子濃度の最大値Pmが上記範囲内に存在することにより、導電性薄膜のシート抵抗がより低下し、また、上記リンの濃度分布において基材側に最大値Pmが存在するように調整しやすくなる傾向にある。
【0023】
ここで、「0T~0.25T」とは、導電性薄膜の厚さ方向の範囲を示すものであり、例えば、導電性薄膜の厚さをTが100nmとすると、基材側から「0×100nm~0.25×100nm」、すなわち基材側から0~25nmの厚さ範囲を意味するものである。
【0024】
また、同様の観点から、リンの原子濃度の最大値Pmは、導電性薄膜の厚さ方向において、基材に近い側から100nmの範囲にあることが好ましく、基材に近い側から50nmの範囲にあることがより好ましく、基材に近い側から30nmの範囲にあることがさらに好ましい。
【0025】
最大値Pmは、好ましくは0.2~20%であり、より好ましくは1.0~15%であり、さらに好ましくは1.5~10%であり、よりさらに好ましくは2.0~5.0%である。最大値Pmが0.2%以上であることにより、導電性薄膜のシート抵抗がより低下し、また、導電性薄膜と基材の密着性がより向上する傾向にある。また、最大値Pmが20%以下であることにより、上記リンの濃度分布において基材側に最大値Pmが存在するように調整しやすくなる傾向にある他、相対的に導電性薄膜中の遷移金属の濃度が向上するため、導電性薄膜のシート抵抗がより低下する傾向にある。
【0026】
リン原子の濃度勾配におけるリンの原子濃度の平均値Paは、好ましくは0.1~19%であり、より好ましくは0.1~10%であり、さらに好ましくは0.1~5.0%であり、よりさらに好ましくは0.1~1.0%である。リンの原子濃度の平均値Paが上記範囲内であることにより、導電性薄膜のシート抵抗がより低下し、また、導電性薄膜と基材の密着性がより向上する傾向にある。
【0027】
導電性薄膜の厚さ方向におけるリンの偏在度は、平均値Paに対する最大値Pmの比(Pm/Pa)を指標にして表すことができる。このような比(Pm/Pa)は、好ましくは2.0~200倍であり、より好ましくは2.5~100倍であり、さらに好ましくは5.0~50倍であり、よりさらに好ましくは5.0~25倍である。比(Pm/Pa)が2.0倍以上であることにより、基材側へのリンの偏在度が大きくなるため、導電性薄膜のシート抵抗がより低下し、また、導電性薄膜と基材の密着性がより向上する傾向にある。また、比(Pm/Pa)が2.0倍以上であることにより、相対的に導電性薄膜の基材とは反対側における遷移金属の濃度が向上するため、導電性薄膜のシート抵抗がより低下する傾向にある。また、比(Pm/Pa)が200倍以下であることにより、上記リンの濃度分布において基材側に比(Pm/Pa)を満たす最大値Pmが存在するように調整しやすくなる傾向にある。
【0028】
導電性薄膜の厚さ方向において基材に近い側から30nmの範囲は、導電性薄膜と基材の密着性の向上により寄与する部分となり、当該部分のリン原子の濃度を調整することにより界面剥離を抑制できる傾向にある。このような観点から、リン原子の濃度勾配において、基材に近い側から30nmの範囲における、リンの原子濃度の平均値Pa30は、好ましくは0.2~20%であり、より好ましくは1.0~15%であり、さらに好ましくは1.0~10%であり、よりさらに好ましくは1.5~5.0%である。平均値Pa30が上記範囲内にあることにより、界面剥離がより抑制される傾向にある。
【0029】
1.2.遷移金属原子の濃度
本実施形態の導電性薄膜は、遷移金属を有する。上述のとおり、導電性薄膜において、遷移金属は、金属単体の状態の他、酸化物などの金属化合物の状態で存在していてもよい。
【0030】
遷移金属原子は、IUPACの周期表における、第3族元素から第11族元素の金属であれば特に限定されないが、第11族元素の金属を含むことが好ましく、銀又は銅を含むことがより好ましく、銅を含むことがさらに好ましい。このような遷移金属を用いることにより、導電性薄膜の導電性がより向上する傾向にある。また、第3族元素から第11族元素の金属である遷移金属はd軌道が閉殻となっていないため、d軌道の電子がリンとの結合に寄与し、ひいては、導電性薄膜と基材の密着性が向上すると考えられる。しかしながら、密着性向上の理由は上記に限定されない。
【0031】
また、遷移金属を含む金属化合物の種類としては、特に限定されないが、例えば、硫化物、セレン化物、テルル化物、窒化物、リン化物、酸化物などが挙げられる。このなかでも、人体への害が少なく、製造が比較的容易であるため、酸化物であることが好ましい。
【0032】
導電性薄膜の深さ方向において、遷移金属の原子濃度の平均値Maは、好ましくは40~99%であり、より好ましくは60~98%であり、さらに好ましくは70~97%であり、よりさらに好ましくは80~95%である。平均値Maが40%以上であることにより、導電性薄膜のシート抵抗がより低下する傾向にある。また、平均値Maが99%以下であることにより、導電性薄膜と基材との密着性がより向上する傾向にある。
【0033】
導電性薄膜の深さ方向において、遷移金属の原子濃度Mに対するリンの原子濃度Pの比率(P/M)の最大値PMmは、好ましくは1.9~100%であり、より好ましくは2.0~60%であり、さらに好ましくは5.0~40%であり、よりさらに好ましくは7.5~20%である。最大値PMmが1.9%以上であることにより、導電性薄膜と基材との密着性がより向上する傾向にある。また、最大値PMmが100%以下であることにより、導電性薄膜のシート抵抗がより低下する傾向にある。
【0034】
導電性薄膜の深さ方向において、遷移金属の原子濃度Mと酸素の原子濃度Oの和に対するリンの原子濃度Pの比率(P/(M+O))の最大値PMOmは、好ましくは1.9~20%であり、より好ましくは2.5~15%であり、さらに好ましくは3.0~10%であり、よりさらに好ましくは3.5~7.5%である。最大値PMOmが1.9%以上であることにより、導電性薄膜と基材との密着性がより向上する傾向にある。また、最大値PMOmが20%以下であることにより、導電性薄膜のシート抵抗がより低下する傾向にある。
【0035】
なお、上記比率(P/M)及び比率(P/(M+O))は、同じ厚さ位置の導電性薄膜の断面における、遷移金属の原子濃度M(t)と、酸素の原子濃度O(t)と、リンの原子濃度P(t)をそれぞれ測定して算出した値である。また、最大値PMm及び最大値PMOmは、このようにして求めた、厚さ位置ごとの比率(P/M)及び比率(P/(M+O))のなかで、最大となる値を意味する。
【0036】
1.3.酸素原子の濃度
本実施形態の導電性薄膜は、酸素原子を含んでいてもよい。本実施形態の導電性薄膜は、膜厚の深さ方向に酸素原子の濃度勾配を有していてもよいし、酸素原子が略均一に分布していてもよい。
【0037】
導電性薄膜の深さ方向における、酸素原子の濃度の平均値Oaは、好ましくは20%以下であり、より好ましくは1.0~15%であり、さらに好ましくは2.0~12.5%であり、よりさらに好ましくは3.0~7.5%である。平均値Oaが20%以下であることにより、非導電性の遷移金属酸化物の量が減少し、相対的に導電性の遷移金属の量が増加するため、導電性薄膜のシート抵抗がより低下する傾向にある。また、平均値Oaが20%以下であることにより、相対的に上記リンの原子濃度が増加するため、導電性薄膜と基材の密着性等がより向上する傾向にある。
【0038】
導電性薄膜のうち、酸素濃度が高く導電性への寄与が小さい酸化物層を遷移金属に対する酸素原子の比を指標にして表すことができる。具体的には、本実施形態においては、遷移金属の原子濃度に対する酸素の原子濃度が25%以上である範囲を酸化物層とする。25%という値は、例えば、遷移金属が銅の場合には、酸化第一銅と金属銅が1:1で存在する境界値に相当する。導電性薄膜におけるこの酸化物層の膜厚は、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは1.0~150nmであり、さらに好ましくは2.0~100nmであり、よりさらに好ましくは3.0~50nmであり、さらにより好ましくは3.0~20nmである。酸化物層の膜厚が上記範囲内であることにより、相対的に導電性への寄与が大きい金属層が増加するため、導電性薄膜のシート抵抗がより低下する傾向にある。なお、金属層とは、酸化物層に対する概念として、遷移金属の原子濃度に対する酸素の原子濃度が25%未満である範囲をいうものとする。
【0039】
酸化物層の膜厚は、導電性薄膜の膜厚に対して、好ましくは35%以下であり、より好ましくは0.5~20%であり、さらに好ましくは0.5~10%であり、よりさらに好ましくは0.5~5.0%である。酸化物層の膜厚が上記範囲内であることにより、導電性薄膜のシート抵抗がより低下する傾向にある。
【0040】
導電性薄膜の深さ方向において、酸素の原子濃度Oに対するリンの原子濃度Pの比率(P/O)の最大値POmは、好ましくは60~500%であり、より好ましくは70~400%であり、さらに好ましくは80~300%であり、よりさらに好ましくは100~200%である。最大値POmが60%以上であることにより、導電性薄膜と基材の密着性がより向上する傾向にある。また、最大値POmが500%以下であると、比較的安定性に優れる金属酸化物を前駆体した場合においても調整しやすい範囲となる。
【0041】
1.4.炭素原子の濃度
本実施形態の導電性薄膜は、炭素原子を含んでいてもよい。本実施形態の導電性薄膜は、膜厚の深さ方向に炭素原子の濃度勾配を有していてもよいし、炭素原子が略均一に分布していてもよい。
【0042】
導電性薄膜の深さ方向における、酸素原子の濃度の平均値Caは、好ましくは20%以下であり、より好ましくは1.0~15%であり、さらに好ましくは2.0~12.5%であり、よりさらに好ましくは3.0~8.0%である。平均値Caが上記範囲内であることにより、導電性薄膜のシート抵抗がより低下し、導電性薄膜と基材の密着性等がより向上する傾向にある。
【0043】
1.5.原子濃度の測定方法
上記各原子の濃度は、導電性薄膜の断面をSTEM-EDX分析により、厚さ位置毎に原子濃度を算出して求めることができる。例えば、平均値とは、このように厚さ位置毎に原子濃度(基材側から1nmの位置の原子濃度、基材から2nmの位置の原子濃度・・・)を算出したときの、平均値である。また、最大値とは、このような厚さ位置毎の原子濃度が最大となる値である。なお、本実施形態において各原子の濃度は、特に断りがない限り、元素濃度(atom%)で示す。
【0044】
STEM-EDX分析においては導電性薄膜の断面を測定するが、例えば導電性薄膜が後述する金属細線パターンである場合には、その測定サンプルは金属細線の延伸方向に直交する金属細線の断面を含む薄切片とすることが好ましい。測定サンプルの作製においては、必要に応じて、エポキシ樹脂等の支持体に導電性薄膜を包埋してから薄切片を形成してもよい。
【0045】
薄切片の形成方法は、断面の形成・加工による金属細線断面へのダメージを抑制できる方法であれば特に限定されないが、好ましくはイオンビームを用いた加工法(例えば、BIB(Broad Ion Beam)加工法やFIB(Focused Ion Beam)加工法)や精密機械研磨、ウルトラミクロトーム等を用いることができる。
【0046】
次いで、形成した金属細線の断面を走査型透過電子顕微鏡(STEM)により観察し、金属細線の断面のSTEM像を得る。同時に、エネルギー分散型X線分析(EDX)により金属細線の断面の元素マッピングを測定することで、STEM-EDX分析を実施できる。
【0047】
なお、本実施形態の薄膜における、厚さ方向に原子濃度分布を有することは、薄膜断面のSTEM-EDX分析のほか、ドライエッチングを介するX線光電子分光(XPS)によっても評価することができる。また、原子濃度の定量値は、STEM-EDX分析により測定することができる。
【0048】
なお、後述する金属細線の断面の形成やSTEM-EDX分析は、金属細線断面の酸化やコンタミを防止する観点から、アルゴン等の不活性雰囲気下や真空中で行うことが好ましい。
【0049】
1.6.膜厚
導電性薄膜の膜厚は、好ましくは30nm~1000μmであり、より好ましくは50nm~100μmであり、さらに好ましくは100nm~10μmであり、よりさらに好ましくは200~1000nmであり、さらにより好ましくは300~500nmである。膜厚が30nm以上であることにより、導電性薄膜のシート抵抗がより低下する傾向にある。また、膜厚が厚いほど、上記リンの濃度分布において基材側に最大値Pmが存在するように調整しやすくなる傾向にある。また、膜厚が1000μm以下であることにより、導電性薄膜の基材に対する密着性が向上する傾向にある。また、膜厚が1000μm以下であると、導電性薄膜のパターンがより形成しやすくなる傾向にある。
【0050】
導電性薄膜の膜厚は、後述の導電性薄膜の断面STEM―EDX評価により、求めることができる。より具体的には、導電性薄膜中の遷移金属の原子濃度が20%以上となる領域を該導電性薄膜の膜厚と定義し、任意の3か所において測定したその膜厚の平均値を導電性薄膜の膜厚とすることができる。なお、本実施形態の導電性薄膜は、一様な厚さを有する薄膜の他、表面に凹凸が存在したり、導電性薄膜の位置によって部分的に薄い部分があったりする薄膜であってもよい。
【0051】
導電性薄膜は、膜内に空隙を有しないものであっても、膜内に空隙を有するものであってもよい。このなかでも、導電性薄膜は膜内に空隙を有するものが好ましい。このような態様の導電性薄膜としては、例えば、遷移金属を含む粒子が結合した粒子層を含むものが挙げられる。粒子層であることにより、基材の曲げなどの応力がかけられた場合であってもより断線し難いものとなる。このような粒子層から構成される導電性薄膜は、後述する遷移金属の粒子を含むインクを用いた薄膜の製造方法によって得ることができる。また、粒子層の存在はSTEM分析などから評価することができる。
【0052】
1.7.パターン
導電性薄膜は、開口を有する連続したパターンを有してもよいし、開口を有しないベタパターンを有してもよい。導電性薄膜が有するパターンは、目的とする電子デバイスの用途に応じて設計することができ、規則的なパターンであっても不規則なパターンであってもよい。ここで、開口とは、導電性薄膜が存在しない部分をいい、開口部分では光が透過できる。また、連続したパターンとは、光学顕微鏡にて接続(接触)していることが確認されることをいい、このようなパターンは電気的に接続されたものとなる。
【0053】
このなかでも、導電性薄膜は、開口を有する連続したパターンを有することが好ましい。このように開口を設けることで、光透過性の導電性薄膜とすることができる。また、開口を有する連続したパターンとしては、特に限定されないが、例えば、複数の細線が交差して構成されるパターンが好ましい。この場合、細線が導電性薄膜に相当し、細線間の間隙が開口となる。
【0054】
以下、複数の細線により形成されるパターンの具体的態様について説明するが、本実施形態におけるパターンは以下に限定されるものではない。なお、以下において、金属細線とは細線状の導電性薄膜を意味し、金属細線パターンとは複数の金属細線により形成されるパターンをいう。
【0055】
図2に、本実施形態の導電性薄膜の一例を示す概略上面図を示す。
図2は、基材20上に導電性薄膜10が配された導電性シート100を、導電性薄膜10の形成面側から見た上面図である。
図2において、導電性薄膜10は、細線状になっており、その細線がグリッド上に交差した状態として表されている。ここで、細線状である導電性薄膜10を金属細線10’という。前述の
図1の断面は、この金属細線10’をA-A’の断面で表したものである。
【0056】
図2に示すように、連続したパターンとは、例えば、複数の金属細線10’が互いに交差して連続層を形成することで、平面方向に広がる導電性薄膜10上の任意の2点において通電できるように構成されるものをいう。また、開口を有するとは、例えば、複数の金属細線10’の間に不連続な開口30を有することをいう。そして、このように金属細線10’によって形成される導電性の連続層と開口とからなるものを、本実施形態においては金属細線パターン40という。
【0057】
ここで、金属細線パターン40を構成する金属細線10’の線幅Wとは、基材20の金属細線パターン40が配された面側から、金属細線10’を基材20の表面上に投影したときの金属細線10’の線幅をいう。「投影したときの線幅」とは、例えば、
図1に示すように、導電性薄膜10の基材と接する界面が最も太くなるような場合には、その太さを線幅と定義する。また、ピッチPは、線幅Wと金属細線間の距離Lの和として定義する。
【0058】
上記のような金属細線パターンとしては、具体的には、複数の金属細線が網目状に交差して形成されるメッシュパターンや、複数の略平行な金属細線が形成されたラインパターンが挙げられる。また、金属細線パターンは、メッシュパターンとラインパターンとが組み合わされたものであってもよい。メッシュパターンの網目は、正方形又は長方形であっても、ひし形等の多角形であってもよい。また、ラインパターンを構成する金属細線は、直線であっても、曲線であってもよい。さらに、メッシュパターンを構成する金属細線においても、金属細線を曲線とすることができる。
【0059】
1.8.1.線幅
線幅Wは、好ましくは100nm~1000μmであり、より好ましくは200nm~500μmであり、さらに好ましくは300nm~100μmであり、よりさらに好ましくは400nm~50μmであり、さらにより好ましくは500nm~5.0μmである。
図1記載されるような、側面がなだらかな傾斜を有する金属細線における線幅Wは、基材に対し垂直上に配された金属細線の幅であり、金属細線と接する基材が曲面である場合は、基材に対して金属細線の断面が接する周の長さである。
【0060】
金属細線の線幅Wが100nm以上であることにより、金属細線の導電性を十分に確保でき、シート抵抗がより低下する傾向にある。また、金属細線表面の酸化や腐食等による導電性の低下を十分に抑制できる。さらに開口率を同じとした場合、金属細線の線幅が細いほど、金属細線の本数を増やすことが可能となる。これにより、導電性シートの電界分布がより均一となり、より高解像度の電子デバイスを作製することが可能となる。また、一部の金属細線で断線が生じたとしても、それによる影響を他の金属細線が補うことができる。
【0061】
他方、金属細線の線幅Wが5.0μm以下であることにより、金属細線の視認性がより低下し、導電性薄膜及びそれを備える導電性シートの透明性がより向上する傾向にある。
【0062】
1.8.2.アスペクト比
金属細線の線幅Wに対する金属細線の厚さTで表されるアスペクト比は、好ましくは0.05~1.00であり、より好ましくは0.08~0.90であり、さらに好ましくは0.10~0.80である。線幅Wが一定である場合にはアスペクト比が大きいほど、透過率を低下させることなく導電性がより向上する傾向にある。また、アスペクト比が1.00以下であることにより、膜厚が厚すぎることによって、かえって透過率が低下することが抑制される傾向にある。
【0063】
1.8.3.ピッチ
ピッチPは、好ましくは1.0~1000μmであり、より好ましくは5.0~500μmであり、さらに好ましくは50~250μmであり、よりさらに好ましくは100~250μmである。ピッチPが1.0μm以上であることにより、導電性薄膜及びそれを備える導電性シートの透明性がより向上する傾向にある。また、ピッチPが1000μm以下であることにより、導電性がより向上する傾向にある。なお、金属細線パターンの形状がメッシュパターンである場合には、線幅1μmの金属細線パターンのピッチを200μmとすることにより、開口率99%とすることができる。
【0064】
1.8.4.開口率
金属細線パターンの開口率は、好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、特に好ましくは90%以上である。金属細線パターンの開口率が60%以上であることにより、導電性シートの透過率がより向上する傾向にある。
【0065】
また、金属細線パターンの開口率は、好ましくは100%未満であり、より好ましくは95%以下であり、さらに好ましくは90%以下であり、よりさらに好ましくは80%以下であり、さらにより好ましくは70%以下であり、特に好ましくは60%以下である。金属細線パターンの開口率が100%未満であることにより、導電性シートの導電性がより向上する傾向にある。
【0066】
金属細線パターンの開口率は、金属細線パターンの形状によっても適正な値が異なる。また、金属細線パターンの開口率は、目的とする電子デバイスの要求性能(透過率及びシート抵抗)に応じて、上記上限値と下限値を適宜組み合わせることができる。
【0067】
なお、「金属細線パターンの開口率」とは、基材上の金属細線パターンが形成されている領域について以下の式で算出することができる。基材上の金属細線パターンが形成されている領域とは、金属細線パターンが形成されていない縁部等は除かれる。
金属細線パターンの開口率=(1-金属細線パターンの占める面積/透明基材の面積)×100
【0068】
なお、金属細線パターンの線幅W、アスペクト比、及びピッチPは、導電性シート断面を電子顕微鏡等で見ることにより確認することができる。また、金属細線パターンの線幅とピッチはレーザー顕微鏡や光学顕微鏡でも観察できる。また、ピッチPと開口率は後述する関係式を有するため、一方が分かればもう一方を算出することもできる。また、金属細線パターンの線幅W、アスペクト比、及びピッチPを所望の範囲に調整する方法としては、後述する導電性シートの製造方法において用いる版の溝を調整する方法、インク中の金属粒子の平均粒径を調整する方法等が挙げられる。
【0069】
1.8.5.可視光透過率
導電性薄膜の可視光透過率は、好ましくは70~99%であり、より好ましくは75~95%であり、さらに好ましくは80~90%である。ここで、可視光透過率は、JIS K 7361-1:1997の全光線透過率に準拠して、その可視光(360~830nm)の範囲の平均透過率を算出することで測定することができる。パターン付き薄膜の可視光透過率は、金属細線パターンの線幅を小さくしたり、開口率を向上させたりすることにより、向上する傾向にある。
【0070】
1.8.6.シート抵抗
導電性薄膜のシート抵抗は、好ましくは0.001~20Ωcm-2であり、より好ましくは0.01~17.5Ωcm-2であり、さらに好ましくは0.01~15Ωcm-2であり、好ましくは0.1~10Ωcm-2である。シート抵抗が低いほど導電性がより向上する傾向にある。
【0071】
導電性シートのシート抵抗は、金属細線のアスペクト比(高さ)を向上させることにより、低下する傾向にある。また、金属細線を構成する金属材料種の選択によっても調整することが可能である。
【0072】
1.8.7.ヘイズ
導電性薄膜のヘイズは、好ましくは0.01~5.00%であり、より好ましくは0.01~3.00%であり、さらに好ましくは0.01~1.00%である。ヘイズが5.00%以下であることにより、可視光に対する導電性シートの曇りがより抑制される傾向にある。本明細書におけるヘイズは、JIS K 7136:2000のヘイズに準拠して測定することができる。
【0073】
1.9.用途
本実施形態の導電性薄膜は、様々な用途に適用できる。具体的には、導電シート、ヒーター、電磁波シールド、アンテナなどが挙げられる。また、パターン付き薄膜とすることで、電子ペーパー、タッチパネル、フラットパネル、透明性が求められる用途にも好適に適用できるようになる。
【0074】
2.導電性シート
本実施形態の導電性シートは、基材と、基材上に形成される上記導電性薄膜と、を備える。このような導電性シートは、導電性を有するフィルム材となり、特に導電性薄膜が上記のような金属細線パターンを有することで、可視光透過性を有する者である場合には、導電性を有する透明なフィルム材となる。このような導電性シートは、タッチパネルやディスプレイといった透明性が求められる用途の他、従来は透明性が必須とはされないヒーターや電磁波シールド、アンテナなど、透明性を付与することで新たな価値を提供することができる。
【0075】
2.1.基材
基材としては、導電性シートの用途に応じて適宜選択することができ、特に限定されないが、例えば、ガラス等の透明無機基材、金属板等の不透明無機基材、プラスチックフィルムなどの透明又は不透明の有機基材が挙げられる。このなかでも、柔軟かつ透明な導電性シートを得る観点から、プラスチックが好ましい。また、これら基材は、表面に任意の層を有していたり、コロナ処理など任意の表面処理がされていたりするものであってもよい。
【0076】
基材の形態は、板状のものや、フィルム状のものが利用でき、形態自由度に優れる観点から、フィルム状のものが好ましい。
【0077】
プラスチックとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、芳香族ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等の透明有機基材が挙げられる。
【0078】
このなかでも、ポリエチレンテレフタレート(PET)を用いることが、導電性シートを製造するためのコスト削減効果を包括する生産性が高い観点から好ましい。また、導電性シートの耐熱性に優れる観点から、ポリイミドを用いることが好ましい。さらに、薄膜と基材の密着に有利である観点から、ポリエチレンテレフタレート及び/又はポリエチレンナフタレートを用いることが好ましい。
【0079】
本実施形態に使用される薄膜の基材は、1種の材料からなるものであっても、2種以上の材料が積層されたものであってもよい。また、透明基材が、2種以上の材料が積層された多層体である場合、透明基材は、有機基材又は無機基材同士が積層されたものであっても、有機基材及び無機基材が積層されたものであってもよい。
【0080】
基材の厚さは、形態自由度に優れる、及び/又は透明性に優れる観点から、好ましくは5μm以上500μm以下であり、より好ましくは10μm以上100μm以下である。
【0081】
2.1.1.表面層
基材は、複数の層を有していてもよく、導電性薄膜との接触部に表面層を有していてもよい。表面層を基材上に積層することで、プラズマ等の焼成手段でインク中の金属成分を焼結させる際に、プラズマ等によって金属細線パターン部で被覆されていない箇所の基材のエッチングを防ぐことができる。
【0082】
表面層に含まれる成分としては、特に限定されないが、例えば、ケイ素化合物(例えば、(ポリ)シラン類、(ポリ)シラザン類、(ポリ)シルチアン類、(ポリ)シロキサン類、ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、塩化ケイ素、ケイ素酸塩、ゼオライト、シリサイド等)、アルミニウム化合物(例えば、酸化アルミニウム等)、マグネシウム化合物(例えばフッ化マグネシウム)等が挙げられる。なお、上記ポリシラン類、ポリシラザン類、ポリシルチアン類、ポリシロキサン類は、直鎖若しくは分岐状、環状、網目状の形態を有してもよい。これら成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
このなかでも、ケイ素化合物、酸化アルミニウム、及びフッ化マグネシウムが好ましく、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、及びフッ化マグネシウムがより好ましい。このような成分を用いることにより、プラズマに対する耐久性がより向上し、また、導電性薄膜と基材との密着性がより向上する傾向にある。また、このような成分を用いることにより、導電性シートの透明性及び耐久性がより向上する傾向にあり、導電性シートを製造するためのコスト削減効果などに寄与する生産性がより優れる傾向にある。
【0084】
表面層は、物理蒸着法(PVD)、化学蒸着法(CVD)などの気相成膜法や、上記表面層に含まれる成分が分散媒に分散した組成物を塗布、乾燥する方法により成膜することができる。この組成物は、必要に応じて、分散剤、界面活性剤、結着剤等を含有してもよい。
【0085】
なお、表面層を含む場合、ケイ素は、プラズマ反応を経て導電性薄膜中に取り込まれてもよい。金属細線中に含まれるケイ素原子Siは、ケイ素原子やケイ素化合物の形態で存在していてもよく、ケイ素原子やケイ素化合物と金属原子とが結合した形態(例えば、Si-M、Si-O-M等)で存在していてもよい。
【0086】
2.1.2.厚さ
表面層の厚さは、好ましくは0.01~500μmであり、より好ましくは0.05~300μmであり、さらに好ましくは0.10~200μmである。表面層の厚みが0.01μm以上であることにより、導電性薄膜と基材の密着性がより向上する傾向にある。また、表面層の厚みが500μm以下であることにより、基材の可撓性が担保できる。
【0087】
2.1.3.体積抵抗率
表面層は静電気による金属細線パターンの断線を防ぐための、帯電防止機能を持っていることが好ましい。帯電防止機能を有する観点から、表面層は導電性無機酸化物及び導電性有機化合物の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0088】
帯電防止機能の観点から表面層の体積抵抗率は、好ましくは100~100000Ωcmであり、好ましくは1000~10000Ωcmであり、好ましくは2000~8000Ωcmである。表面層の体積抵抗率が100000Ωcm以下であることにより、帯電防止機能がより向上する傾向にある。また、表面層の体積抵抗率が100Ωcm以上であることにより、金属細線パターン間の電気伝導性がより低下し、タッチパネル等の用途に好適に用いることができる。
【0089】
体積抵抗率は、表面層内の導電性無機酸化物や導電性有機化合物等の含有量により調整することができる。例えば、プラズマ耐性の高い酸化ケイ素(体積比抵抗1014Ω・cm以上)と導電性有機化合物である有機シラン化合物を表面層に含む場合、有機シラン化合物の含有量を増やすことで体積抵抗率を低下することができる。一方で、酸化ケイ素の含有量を増やすことで体積抵抗率は増加するが高いプラズマ耐性を有するため薄膜にすることができ、光学的特性を損なうことがない。
【0090】
2.2.保護層
本実施形態の導電性シートは導電性薄膜の上に、保護層を有していてもよい。保護層は基材とともに導電性薄膜を挟むように形成することができる。
【0091】
保護層としては、特に限定されないが、例えば、透明性を有し、導電性薄膜や基材と良好な密着性が発現できるものであれば、特に限定されないが、例えば、フェノール樹脂、熱硬化型エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂や、ウレタンアクリレート、アクリル樹脂アクリレート、エポキシアクリレート、シリコーンアクリレート、UV硬化型エポキシ樹脂などのUV硬化性樹脂、市販のコーティング剤などを用いることができる。
【0092】
3.導電性薄膜の製造方法
本実施形態の導電性薄膜の製造方法は、基材に、リンの重量面積密度が6.0mg・m-2以上1000mg・m-2以下である前駆体薄膜を形成する膜形成工程と、前駆体薄膜を、150秒以上60分以下、プラズマと反応させて、導電性薄膜を得るプラズマ反応工程と、を含み、必要に応じて、膜形成工程前に、基材上に表面層を形成する表面層形成工程を有していてもよい。
【0093】
3.1.表面層形成工程
表面層形成工程は、基材上に上述した表面層を形成する工程である。表面層を形成することにより、例えば、プラスチックの基材を用いる場合、表面層によってプラズマ反応によるプラスチックの変性やエッチングを防ぐことができる。
【0094】
表面層形成方法の具体例としては、物理蒸着法(PVD)、化学蒸着法(CVD)等の気相成膜法を用いて表面層を形成する成分を透明基材の表面に成膜させることにより表面層を形成する方法が挙げられる。表面層形成工程の別の具体例としては、表面層を形成する成分が分散媒に分散してなる組成物を透明基材の表面に塗布し、乾燥させることにより表面層を形成する方法が挙げられる。また、表面層形成組成物は、必要に応じて、分散剤、界面活性剤、結着剤等を含んでもよい。
【0095】
表面層形成工程において、表面層を形成する成分としては上述したケイ素化合物を用いることが好ましい。
【0096】
3.2.膜形成工程
膜形成工程は、基材に、リンの重量面積密度が6.0mg・m-2以上1000mg・m-2以下である前駆体薄膜を形成する工程である。リンの重量面積密度は、前駆体薄膜に含めるリン系化合物の量によって調整することができる。
【0097】
3.2.1.前駆体薄膜
前駆体薄膜は、遷移金属及び/又は遷移金属化合物と、所定量のリンとを、含むものであり、これに対して後述のプラズマ反応工程を施すことで本実施形態の導電性薄膜となるものである。既に述べたように、このようにリンを含む前駆体薄膜に対して、プラズマ処理を施すことにより、得られる導電性薄膜は、基材側にリンの原子濃度の最大値を有するようなリン勾配を有するものとなり、このリン勾配によって、導電性に優れ、基材に優れた密着性を有するようになる。
【0098】
前駆体薄膜のリンの重量面積密度は、6.0~1000mg・m-2であり、好ましくは8.0~500mg・m-2であり、より好ましくは10~100mg・m-2であり、さらに好ましくは10~50mg・m-2である。前駆体薄膜のリンの重量面積密度が6.0mg・m-2以上であることにより、得られる導電性薄膜の導電性がより向上し、また、導電性薄膜と基材との密着性がより向上する。また、前駆体薄膜のリンの重量面積密度が1000mg・m-2以下であることにより、相対的に遷移金属が多くなるため、得られる導電性薄膜の導電性がより向上する。
【0099】
また、前駆体薄膜の遷移金属の重量面積密度は、好ましくは1.0~10g・m-2であり、より好ましくは1.0~8.0g・m-2であり、さらに好ましくは1.0~6.0g・m-2である。前駆体薄膜の遷移金属の重量面積密度が上記範囲内であることにより、得られる導電性薄膜の導電性がより向上し、また、導電性薄膜と基材との密着性がより向上する傾向にある。
【0100】
なお、本実施形態における、前駆体薄膜のリン又は遷移金属の重量密度とは、前駆体薄膜が存在する領域でのリン又は遷移金属の重量密度であり、パターンが開口を有する場合にはその開口部分はリン又は遷移金属の重量面積密度の算出においては含まれない。
【0101】
前駆体薄膜が含むリン系化合物としては、特に限定されないが、例えば、リン酸及び/又はリン酸エステルが挙げられる。このようなリン系化合物を用いることにより、後述するプラズマ反応工程において、基材側にリンの原子濃度の最大値を有するようなリン勾配がより形成されやすい傾向にある。
【0102】
このような前駆体薄膜は、真空装置などを用いた乾式法、インクなどを用いた湿式法など様々な手法を用いて成膜することができる。このうち、大規模製造に適するという観点や、前駆体薄膜に含ませるリンの量を調製しやすいという観点から、インクを基材上に印刷して前駆体薄膜を成膜する方法が好ましい。
【0103】
用いることのできる印刷方法としては、特に限定されないが、例えば、凸版印刷、グラビア印刷、バーコート印刷、スプレーコート、スピンコート、反転転写印刷などが挙げられる。このなかでも、比較的精密なパターンを印刷できる観点から、有版印刷方法による前駆体薄膜の成膜が好ましい。
【0104】
有版印刷方法とは、例えば、転写媒体表面にインクをコーティングする工程と、インクをコーティングした転写媒体表面と、凸版の凸部表面とを接触して、凸版の凸部表面に転写媒体表面上のインクの一部を転移させる工程と、一部のインクが転移した後の転写媒体表面と基材の表面とを接触して、転写媒体表面に残ったインクを基材の表面に転写する工程が挙げられる。
【0105】
例えば、このような印刷方法において、印刷条件やインクを調製することで、前駆体薄膜の厚さ、幅、ピッチ等の各種形状や、前駆体薄膜に含まれる各原子の濃度を制御できる。
【0106】
3.2.2.インク
上記印刷方法に用いられるインクは、金属成分、溶剤、リン成分を含み、必要に応じて、界面活性剤、分散剤、還元剤等を含んでもよい。
【0107】
3.2.2.1.金属粒子
金属成分は、金属粒子としてインクに含まれていてもよいし、金属錯体としてインクに含まれていてもよい。このなかでも金属粒子としてインクに含まれることが好ましい。金属粒子としては、上述した遷移金属原子を含むものであれば、酸化銅等の金属酸化物やその他の金属化合物、コア部が銅でありシェル部が酸化銅であるようなコア/シェル粒子の態様であってもよい。このなかでも、取扱性の観点からは、酸化銅等の金属酸化物が好ましい。
【0108】
金属粒子の平均一次粒径は、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは30nm以下である。また、金属粒子の平均一次粒径の下限は特に限定されないが、1nm以上が挙げられる。得られる金属細線の線幅Wをより細くすることができる観点から、金属粒子の平均一次粒径が100nm以下であることが好ましい。
【0109】
金属粒子の平均二次粒径は、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは30nm以下である。薄膜成膜時の塗布性に優れる観点から、各粒子が単分散しており、平均二次粒径は平均一次粒径に近いことが好ましい。
【0110】
なお、本実施形態において「平均一次粒径」とは、金属粒子1つ1つ(所謂一次粒子)の粒径をいい、金属粒子が複数個集まって形成される凝集体(所謂二次粒子)の粒径である平均二次粒径とは区別される。
【0111】
3.2.2.2.リン成分
リン成分としては、特に限定されないが、例えば、黒リン、赤リン、リン酸、リン酸エステルが挙げられる。このなかでも、リン酸及び/又はリン酸エステルが好ましい。このようなリン系化合物を用いることにより、後述するプラズマ反応工程において、基材側にリンの原子濃度の最大値を有するようなリン勾配がより形成されやすい傾向にある。なお、リン酸及び/又はリン酸エステルには、リン酸基及び/又はリン酸エステル基を有する高分子、低分子、リン酸アニオン、リン酸エステルアニオン、リン酸アニオンを含む塩、又はリン酸エステルアニオンを含む塩、が含まれる。
【0112】
また、例えば、リン原子を含む、界面活性剤、pH調整剤、粘性調整剤、乾燥速度調整剤、金属粒子の分散剤、安定剤などをリン成分として用いてもよい。このようなリン成分としては、リン酸エステル基を有する分散剤などが挙げられる。
【0113】
3.2.2.3.界面活性剤
界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、フッ素系界面活性剤やシリコーン系界面活性剤などが挙げられる。このような界面活性剤を用いることにより、転写媒体(ブランケット)へのインクのコーティング性、コーティングされたインクの平滑性が向上し、より均一な塗膜が得られる傾向にある。なお、界面活性剤は、金属成分を分散可能であり、かつ焼成の際に残留しにくいよう構成されていることが好ましい。
【0114】
3.2.2.4.溶媒
インクの溶媒は、保存安定性に優れる点、及び光損失が少ない点から、有機溶媒であることが好ましい。上記観点から、有機溶媒は、アルコールであることが好ましい。上記観点から、有機溶媒の炭素数は1以上7以下であることが好ましく、より好ましくは2以上、またより好ましくは5以下、又は4以下であり、2が最も好ましい。溶媒としては、水、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシ-3-メチル-ブチルアセテート、エトキシエチルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2,5-ヘキサンジオール、2,4-ヘプタンジオール、2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、トリエチレングリコール、トリ-1,2-プロピレングリコール、グリセロール、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、i-ペンタノール、2-メチルブタノール、2-ペンタノール、t-ペンタノール、3-メトキシブタノール、n-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、2-エチルブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、2-オクタノール、n-ノニルアルコール、2、6ジメチル-4-ヘプタノール、n-デカノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3、3、5-トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどが挙げられ、保存安定性に優れる点、及び光損失が少ない点から、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、及びこれらの異性体であることがより好ましく、エタノール、プロパノール、ブタノール及びこれらの異性体であることがさらに好ましく、エタノールが最も好ましい。
【0115】
3.2.2.5.分散剤
分散剤としては、特に制限されないが、例えば、金属成分に非共有結合又は相互作用をする分散剤、金属成分に共有結合をする分散剤が挙げられる。非共有結合又は相互作用をする官能基としてはリン酸基を有する分散剤が挙げられる。このような分散剤を用いることにより、金属成分の分散性がより向上する傾向にある。
【0116】
3.3.プラズマ反応工程
プラズマ反応工程は、上記のようにして形成した前駆体薄膜を、150秒以上60分以下、プラズマと反応させて、導電性薄膜を得る工程である。これにより前駆体薄膜が焼成され、インク中の金属粒子同士が焼結することで粒子層(導電性薄膜)が形成されるほか、前駆体薄膜に含まれるリンが基材側に移行し、所定の濃度勾配が形成される。そしてこれにより、導電性と基材との密着性に優れる導電性薄膜を得ることができる。なお、プラズマ反応中の雰囲気を還元型とすることで、導電性薄膜に含まれる酸素濃度も調整することができる。
【0117】
プラズマは様々な方法により生じさせることができる。なかでも、マイクロ波プラズマや高周波プラズマが比較的制御が容易なため好ましく、特に装置内のプラズマ発生のための電極などによる汚染が少なくできる観点から、マイクロ波プラズマがより好ましい。
【0118】
マイクロ波プラズマにおけるマイクロ波出力は、好ましくは0.5~10kWであり、より好ましくは1.0~5.0kWである。マイクロ波出力が0.5kW以上であることにより、得られる導電性薄膜と基材の密着性がより向上し、プラズマの反応時間を短縮することができる。また、マイクロ波出力が10kW以下であることにより、プラズマによって基材がエッチングされたり変性したりすることが抑制される傾向にある。
【0119】
プラズマ反応の処理時間は、150秒~60分であり、好ましくは180~600秒であり、より好ましくは240~360秒である。処理時間が150秒以上であることにより、導電性薄膜中においてリンが基材側に偏在しやすくなり、また、基材側に偏在したリン濃度の最大値がより大きくなり、それによって導電性薄膜と基材の密着性がより向上する傾向にある。また、処理時間が60分以下であることにより、導電性薄膜の生産性がより向上する傾向にある。
【0120】
プラズマ反応の雰囲気は、水素原子を含む分子である気体や希ガスを含むことが好ましい。特に、水素分子及び/又は水分子を含む気体がより好ましく、水素分子を含む気体がさらに好ましい。水素原子を含む分子である気体としては、特に限定されないが、例えば、水素分子を含む気体が好ましい。水素原子を含む分子である気体は一種類又は複数種類の分子を用いてもよい。このような水素原子を含む分子である気体を用いることにより、製造する導電性薄膜の導電性がより向上する傾向にある。
【0121】
希ガスとしては、特に限定されないが、例えば、ヘリウム、アルゴン、キセノン、クリプトンが挙げられる。このなかでも、これらのプラズマによるサンプルエッチングが少ない観点から、分子量の比較的小さい、ヘリウムまたはアルゴンが好ましく、ヘリウムが最も好ましい。このような希ガスを用いることにより、プラズマ反応をより制御しやすくなる。
【0122】
水素原子を含む分子である気体と希ガスは混合して用いてもよく、これにさらにその他の気体を混合して用いてもよい。プラズマ反応中に還元性を有し、かつその還元反応の制御が比較的容易にできる観点から、水素原子を含む分子である気体と希ガスを共に含むことが好ましい。具体体には、水素分子とヘリウムを共に含む気体であることが好ましい。
【0123】
プラズマ反応の圧力は、加圧下、減圧下、大気圧下のいずれでもよい。このなかでもプラズマの平均自由行程を長くできる観点から、減圧下であることが好ましい。具体的には、圧力は、好ましくは0.1~1000Paであり、より好ましくは1.0~500Paであり、さらに好ましくは10~300Paである。圧力が0.1Pa以上であることにより、プラズマの平均自由行程がより長くなる傾向にある。また、圧力が1000Paであることにより、水素原子を含む分子である気体や希ガスをより多く用いることができる。
【0124】
4.タッチパネル
本実施形態のタッチパネルは、上記導電性薄膜を備えるものであれば特に制限されない。例えば、静電容量方式のタッチパネルにおいては、絶縁体の表裏面に2枚の導電性シート(導電性薄膜)が存在し、2枚の導電性シートは、例えば金属細線のラインパターンが交差するように対向する。導電性シートは、取り出し電極に接続されており、取り出し電極32は、金属細線と、金属細線への通電切り替えを行うためのコントローラー(CPU等)とを接続する。
【0125】
なお、本実施形態のタッチパネルは、静電容量方式に限定されず、抵抗膜方式、投影型静電容量方式、及び表面型静電容量方式等としてもよい。
【0126】
5.ディスプレイ
本実施形態のディスプレイは、上記導電性薄膜を備えるものであれば特に制限されない。例えば、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイにおいては、有機EL膜を電極で挟んだ構造を有し、その電極の一つとして上記導電性薄膜を用いることができる。また、液晶ディスプレイにおいては、液晶層を電極で挟んだ構造を有し、その電極の一つとして上記導電性薄膜を用いることができる。
【0127】
6.ヒーター
本実施形態のヒーターは、上記導電性薄膜を備えるものであれば特に制限されない。例えば、電熱ヒーターにおいては、電気を供給することでジュール熱を発する電熱部と、電熱部に対して電力を供給する給電装置とを有し、その電熱部として導電性シート(導電性薄膜)を用いることができる。導電性シート(導電性薄膜)を透明に構成すれば、透明ヒーターとなり、また、導電性シートの抵抗が高くなるように設計することで、発熱量の高いヒーターとなる。
【0128】
例えば、透明ヒーターは、その用途は特に限定されないが、例えば、自動車のヘッドランプ、テールランプ等に用いられるLED照明器具の防曇又凍結防止用ヒーター、街灯等に用いられる屋外用LED照明器具の防曇又凍結防止用ヒーターが挙げられる。
【0129】
7.電磁波シールド
本実施形態の電磁波シールドは、上記導電性薄膜を備えるものであれば特に制限されない。例えば、電磁波シールドにおいては、入射する電磁波を電磁波の反射や吸収するシールド材を有するが、そのシールド材として、上記導電性薄膜を用いることができる。
【0130】
8.アンテナ
本実施形態のアンテナは、上記導電性薄膜を備えるものであれば特に制限されない。例えば、RFタグにおいては、半導体素子とそれに接続されたアンテナを有することにより特定の周波数の送受信が可能となっており、そのアンテナとして導電性シート(導電性薄膜)を用いることができる。導電性シート(導電性薄膜)を透明に構成すれば、透明アンテナとなる。
【実施例0131】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態はその要旨を超えない限り、これらの実施例と比較例によって何ら限定されるものではない。
【0132】
(金属細線断面の元素濃度分布の評価)
得られた導電性薄膜付き基材をカミソリで切り出し、蒸着したカーボン層により包埋し、焦点イオン線で厚さ約100nmの薄切片を形成した。得られた薄切片を測定サンプルとして、下記条件にて電子線を照射し、評価サンプルを準備することで、STEM-EDX分析を行った。この分析により、導電性薄膜の2.8nmごと又は3.4nmごとの厚さ方向における遷移金属、リン、酸素、及び炭素の濃度分布を得た。また、得られた濃度分布に基づいて表1に記載のパラメータを算出した。
[装置条件]
STEM:日立ハイテクノロジーズ社製、走査型透過電子顕微鏡 HD―2300A
EDX :EDAX社製、エネルギー分散型X線分析装置 Octane T Plus(ソフトウェア:GENESIS)
加速電圧 :200kV
測定倍率 :100,000倍
マッピング元素:Cu、O、P、Si、C
【0133】
(リンの元素濃度最大値の薄膜内位置)
金属細線断面の元素濃度分布の評価で求めたリンの原子濃度の分布に基づいて、リンの原子濃度の最大値の位置を評価した。リンの原子濃度の最大値が導電性薄膜の厚さ方向に対し、基材に近い方から1割以内の範囲にあるものを「基材近傍」、1/4より大きく1/2以内の範囲にあるものを「基材側」、1/2より大きく3/4以内にあるものを「薄膜表面側」、3/4より大きく薄膜表面までの範囲を「薄膜表面近傍」とした。
【0134】
(薄膜―基材界面P原子濃度の平均値)
導電性薄膜の膜厚のうち、基材界面に近い方から30nmまでの領域について、金属細線断面の元素濃度分布の評価で求めたリンの原子濃度の分布を用いて、この領域のリンの原子濃度密度の平均値を求めた。
【0135】
(酸化物層の厚み)
金属細線断面の元素濃度分布の評価で求めた酸素の原子濃度の分布に基づいて、遷移金属の原子濃度に対する酸素の原子濃度が25%以上である範囲の膜厚を、酸化物層の膜厚として特定した。また、その酸化物層の膜厚が、導電性薄膜の膜厚に占める割合を算出した。
【0136】
(薄膜の形態評価)
導電性薄膜の膜厚、及び導電性薄膜について金属粒子同士が焼結して形成された粒子層であることは、上記断面STEM-EDX分析のSTEM像より求めた。さらに導電性薄膜のパターン形状、線幅、ピッチは、レーザー顕微鏡(OLYMPUS社製、OLS-4500)により評価した。
【0137】
(シート抵抗評価)
シート抵抗は、NAPSON社製の渦電流を用いた非接触型抵抗計(NC-700)を用いて測定した。
【0138】
(可視光透過率)
可視光透過率は、下記による方法により算出した。
(可視光透過率)=(細線パターンの開口率)×(基材の可視光透過率)
【0139】
(密着性)
導電性薄膜の基材への密着性は、以下のテープ剥離試験及びレーザー顕微鏡観察によって評価した。テープ剥離試験の前に、サンプルをレーザー顕微鏡(OLYMPUS社製、OLS-4500)で観察し、得られた画像を記録した。導電性薄膜の上に、粘着性テープ(スリーエム社製610番)の粘着面を接触させ、このテープの上から2N(ニュートン)のローラーで2往復させることで、テープを固定した。この固定したテープを90°剥離試験機(島津製作所社製、EZ-S)にて、100mm/minの速度でテープをはがし、テープ剥離試験を実施した。このテープ剥離後の基材表面をレーザー顕微鏡でテープ剥離試験前に測定したものと同様に観察し、得られた画像を記録した。得られたテープ剥離試験前後の画像について、大津の方法で境界を決める二値化処理を施した後、金属細線部分の面積を比較し、テープ剥離試験により失われた金属細線部の面積比率を求めることでテープ剥離試験による金属細線の剥離面積率を求めた。この剥離面積率が小さいほど薄膜が基材への密着性に優れることを意味する。
【0140】
<実施例1>
(透明基材の調製)
ポリエチレンテレフタレート(PET)を透明基材として用いて、その上に酸化ケイ素ナノ粒子と導電性の有機シラン化合物を含む表面層形成組成物を塗布し、乾燥して、帯電防止機能を有する厚み150nm、体積抵抗率5000Ωcmの酸化ケイ素を含有した表面層を形成することにより基材を得た。なお、この基材は、基材であるPET上に表面層が積層した形態である。
【0141】
(インクの調製)
一次粒径21nmの酸化第一銅ナノ粒子20質量部と、リン酸エステル基を有する高分子である分散剤(ビッグケミー社製、製品名:Disperbyk-145)4質量部と、界面活性剤(セイミケミカル社製、製品名:S-611)1質量部と、エタノール75質量部とを混合し、酸化第一銅ナノ粒子の含有割合が20質量%のインクを調製した。
【0142】
(前駆体薄膜の製造)
先ず転写媒体表面にインクを塗布し、次いでインクが塗布された転写媒体表面と金属細線パターンの溝を有する版を接触して、版の凸部表面に転写媒体表面上の一部のインクを転移させた。その後、残ったインクがコーティングされた転写媒体表面と基材とを接触させ、基材の上に金属細線パターン状のインクを転写させた。この工程により、前駆体薄膜を製造した。この前駆体薄膜の膜厚は680nmであり、リンの堆積濃度は10mg・m-2、銅の堆積濃度は1.6g・m-2であった。また、前駆体のリン種は、リン酸およびリン酸エステルであった。表1にこれらの結果を記す。
【0143】
(プラズマ反応工程)
前述の工程にて製造された前駆体薄膜にプラズマ反応を施した。具体的には、減圧下で水素3体積%、ヘリウム97体積%の気体を導入した雰囲気に、1.5kWの出力で発生させたマイクロ波によりプラズマを発生させ、このプラズマと前駆体薄膜を5分間反応させた。
【0144】
実施例1の薄膜について、薄膜断面の原子濃度分析、形態評価、シート抵抗測定、透過率見積もり、密着性評価を行った。これらの結果を表1に示す。
【0145】
<実施例2>
実施例1と同様に得た前駆体薄膜にプラズマ反応工程を施し、このプラズマ反応処理時間を3分とした以外は、実施例1と同様に操作を行った。結果を表1に示す。
【0146】
<比較例1>
実施例1と同様に得た前駆体薄膜にプラズマ反応工程を施し、このプラズマ反応処理時間を1分とした以外は、実施例1と同様に操作を行った。結果を表1に示す。
【0147】
<比較例2>
実施例1と同様に得た前駆体薄膜にプラズマ反応工程を施し、このプラズマ反応処理時間を2分とした以外は、実施例1と同様に操作を行った。結果を表1に示す。
【0148】
実施例1と2は、リンの原子濃度に分布を有し、かつ薄膜膜厚の半分よりも基材に近い側にリンの最大値を有し、本実施形態を満たした。一方、比較例1、2は、リンの最大値を薄膜膜厚の半分よりも薄膜表面に近い側に有し、本実施形態を満たさなかった。また、実施例1と2は密着性試験後の剥離面積率が4%以下と小さかったが、比較例1、2は、剥離面積率が14%以上と大きかった。よって、本実施形態を満たすことで、該薄膜の基材への密着性に優れることが示された。
【0149】
加えて、実施例1と2は、比較例1と2に比べ、より低いシート抵抗を示した。よって、本実施形態を満たすことで、シート抵抗が小さくなり、導電性に優れた薄膜とできることが示された。
【0150】
リンの重量面積密度が6mg・m-2以上1000mg・m-2以下である前駆体薄膜に対して、150秒以上60分以内のプラズマ処理を施すことで、本実施形態を満たす実施例1、2の導電性薄膜が得られた。製造方法におけるこの工程を含むことによって、好適に本実施形態の導電性薄膜が得られることが示された。
【0151】
なお、薄膜中の酸素量について、実施例1と2は、比較例1と2に比べ、薄膜の酸素の原子濃度の平均値、酸化層厚み、及び酸化物層厚み比率が小さくなった。しかし、驚くべきことに実施例1と2の方が、比較例1と2よりも密着性に優れるものとなっていた。これは、リンが基材側に偏在することによる効果であると推察される。
【0152】