(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154519
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】埋め込み型医療用人工物用コーティング、埋め込み型医療用人工物、及び埋め込み型医療用人工物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/02 20060101AFI20221005BHJP
A61L 27/30 20060101ALI20221005BHJP
A61L 27/06 20060101ALI20221005BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
A61F2/02
A61L27/30 100
A61L27/06
C23C14/06 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057594
(22)【出願日】2021-03-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム「世界の豊かな生活環境と地球規模の持続可能性に貢献するアクア・イノベーション拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000242231
【氏名又は名称】北川工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北野 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃生
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 守信
(72)【発明者】
【氏名】竹内 健司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 勇
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 直人
(72)【発明者】
【氏名】羽二生 久夫
【テーマコード(参考)】
4C081
4C097
4K029
【Fターム(参考)】
4C081AB05
4C081AB06
4C081BA14
4C081CE01
4C081CF162
4C081CG02
4C081CG03
4C081DB07
4C081DC03
4C081EA06
4C097AA03
4C097AA10
4C097BB01
4C097CC03
4C097DD01
4C097DD10
4C097MM04
4C097MM05
4C097MM08
4K029AA02
4K029AA24
4K029BA34
4K029BB10
4K029CA06
4K029DA04
4K029DC02
(57)【要約】
【課題】抗菌性と生体親和性とを併せ持った埋め込み型医療用人工物用コーティング等の提供。
【解決手段】本発明の埋め込み型医療用人工物用コーティング1は、炭素元素量が50atm%以上であり、窒素元素量が10atm%以上である非結晶性の窒素含有カーボン膜からなり、抗菌性と生体親和性とを併せ持つ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素元素量が50atm%以上であり、窒素元素量が10atm%以上である非結晶性の窒素含有カーボン膜からなり、抗菌性と生体親和性とを併せ持った埋め込み型医療用人工物用コーティング。
【請求項2】
酸素元素量が30atm%以下である請求項1に記載の埋め込み型医療用人工物用コーティング。
【請求項3】
基材と、
前記基材上に形成される請求項1又は請求項2に記載の埋め込み型医療用人工物用コーティングとを備える埋め込み型医療用人工物。
【請求項4】
前記基材が、チタン又はチタン合金である請求項3に記載の埋め込み型医療用人工物。
【請求項5】
希ガス及び窒素ガスを含む雰囲気下で、カーボンをターゲット材とする物理蒸着法により、基材上に、炭素元素量が50atm%以上であり、窒素元素量が10atm%以上である非結晶性の窒素含有カーボン膜を形成する膜形成工程を備える埋め込み型医療用人工物の製造方法。
【請求項6】
前記膜形成工程において、前記希ガス及び前記窒素ガスに加えて、更に炭化水素ガスを含む雰囲気下で、前記窒素含有カーボン膜を形成する請求項5に記載の埋め込み型医療用人工物の製造方法。
【請求項7】
前記炭化水素ガスが、メタンガスからなる請求項6に記載の埋め込み型医療用人工物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋め込み型医療用人工物用コーティング、埋め込み型医療用人工物、及び埋め込み型医療用人工物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
埋め込み型の医療用人工物(例えば、人工関節、歯科用インプラント)を構成する材料として、生体適合性を備えた材料(以下、生体適合性材料)が使用される。このような生体適合性材料としては、例えば、生体適合性金属(例えば、チタン、チタン合金等)、セラミックス、ポリマー等が挙げられる。それらの中でも、チタン等の生体適合性金属は、医療用人工物の中核部分を構成する材料として広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
なお、本願発明に関連する技術文献として、例えば、特許文献2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6589214号明細書
【特許文献2】米国特許第8247064号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
埋め込み型医療用人工物は、生体適合性等の他に、術後の感染症対策の観点より、抗菌性が求められる。しかしながら、例えば、チタン等の生体適合性金属は、一般的に抗菌性が低いため、一定の割合で術後感染症が発生しており、ワーストケースでは再置換術が必要になる。また、生体適合性金属は、骨芽細胞等の細胞に対する生体親和性(細胞接着性、細胞増殖性)が、必ずしも十分ではなかった。
【0006】
なお、特許文献2に示されるように、一時的に体内に挿入して使用される医療機器(例えば、内視鏡、カテーテル等)等において、それらの表面に、抗菌膜を形成することが試みられている。この抗菌膜として、例えば、変性ダイヤモンドライクカーボン(以下、変性DLC)が用いられている。変性DLCは、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)中に、フッ素(F)、ケイ素(Si)、酸素(O)、又は窒素(N)等を導入して、リフシッツ-ファン・デル・ワールス表面自由エネルギーが所定の値に調整したものからなる。なお、この抗菌膜は、プラズマ化学気相成長法により形成されている。
【0007】
なお、特許文献2には、変性DLCからなる抗菌膜が、骨芽細胞等の細胞との生体親和性(細胞接着性、細胞増殖性)に優れることは全く開示されていない。特許文献2には、抗菌膜が、細菌や血液タンパク質の付着、血栓形成等を阻害することが明記されている。
【0008】
本発明の目的は、抗菌性と生体親和性とを併せ持った埋め込み型医療用人工物用コーティング等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
埋め込み型医療用人工物の分野において、抗菌性と生体親和性(細胞接着性、細胞増殖性)を両立させることは、これまで相反する課題と考えられていた。
【0010】
しかしながら、本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、炭素元素量が50atm%以上であり、窒素元素量が10atm%以上である非結晶性の窒素含有カーボン膜が、抗菌性、及び生体親和性に優れることを見出し、本願発明の完成に至った。
【0011】
なお、細菌は、周知のとおり、細胞壁を備えているのに対して、骨芽細胞等の生体細胞は、細胞壁を備えていない。そのため、前記窒素含有カーボン膜が優れた抗菌性と優れた生体親和性を両立できる原因の一つに、細胞壁の有無が関係していると推測される。
【0012】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 炭素元素量が50atm%以上であり、窒素元素量が10atm%以上である非結晶性の窒素含有カーボン膜からなり、抗菌性と生体親和性とを併せ持った埋め込み型医療用人工物用コーティング。
【0013】
<2> 酸素元素量が30atm%以下である前記<1>に記載の埋め込み型医療用人工物用コーティング。
【0014】
<3> 基材と、前記基材上に形成される前記<1>又は<2>に記載の埋め込み型医療用人工物用コーティングとを備える埋め込み型医療用人工物。
【0015】
<4> 前記基材が、チタン又はチタン合金である前記<3>に記載の埋め込み型医療用人工物。
【0016】
<5> 希ガス及び窒素ガスを含む雰囲気下で、カーボンをターゲット材とする物理蒸着法により、基材上に、炭素元素量が50atm%以上であり、窒素元素量が10atm%以上である非結晶性の窒素含有カーボン膜を形成する膜形成工程を備える埋め込み型医療用人工物の製造方法。
【0017】
<6> 前記膜形成工程において、前記希ガス及び前記窒素ガスに加えて、更に炭化水素ガスを含む雰囲気下で、前記窒素含有カーボン膜を形成する前記<5>に記載の埋め込み型医療用人工物の製造方法。
【0018】
<7> 前記炭化水素ガスが、メタンガスからなる前記<6>に記載の埋め込み型医療用人工物の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、抗菌性と生体親和性とを併せ持った埋め込み型医療用人工物用コーティング等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】埋め込み型医療用人工物用コーティングの断面構成を模式的に表した説明図
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔埋め込み型医療用人工物用コーティング〕
図1は、埋め込み型医療用人工物用コーティング1の断面構成を模式的に表した説明図である。埋め込み型医療用人工物用コーティング1は、抗菌性と生体親和性とを併せ持った膜(コーティング)であり、所定の基材2上に形成される。
【0022】
埋め込み型医療用人工物用コーティング1は、炭素を主体としつつ、炭素以外に、少なくとも窒素を含む非結晶性(非晶質性)の窒素含有カーボン膜からなる。埋め込み型医療用人工物用コーティング1における炭素元素量は、50atm%以上であり、窒素元素量は、10atm%以上(好ましくは、15atm%以上)である。
【0023】
埋め込み型医療用人工物用コーティング1は、酸素を含む雰囲気(例えば、空気)に曝露されると、表面に酸化物の被膜が形成される。そのため、埋め込み型医療用人工物用コーティング1は、炭素及び窒素以外に、酸素を含んでもよく、例えば、埋め込み型医療用人工物用コーティング1における酸素元素量は、30atm%以下であってもよい。なお、酸素元素量の下限値は、例えば、10atm%以上であってもよい。
【0024】
埋め込み型医療用人工物用コーティング1中の各元素量は、X線光電子分光法(XPS)により、特定することができる。
【0025】
埋め込み型医療用人工物用コーティング1の厚みは、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はなく、例えば、10nm~1000nmが好ましい。
【0026】
基材2を構成する材料としては、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、チタン、チタン合金等の生体適合性金属、セラミックス、ポリマー(合成樹脂)等が挙げられる。
【0027】
埋め込み型医療用人工物用コーティング1は、基材2の表面全体を覆うように形成されてもよいし、表面の一部に形成されてもよい。
【0028】
本明細書において、所定の基材2上に埋め込み型医療用人工物用コーティング1が形成されたものが、埋め込み型医療用人工物3となる。
【0029】
埋め込み型医療用人工物用コーティング1は、例えば、人工関節、埋め込み型医療機器(例えば、ペースメーカー等)、歯科用インプラント、骨関連プレート、骨関連スクリュー、脊椎ケージ等の埋め込み型医療用人工物3に利用される。
【0030】
埋め込み型医療用人工物用コーティング1の抗菌性は、その効果が奏される限り、細菌及び真菌の何れに対するものであってもよい。真菌としては、例えば、カビ、酵母等が挙げられる。また、細菌としては、グラム陽性菌又はグラム陰性菌が挙げられる。
【0031】
グラム陽性菌としては、枯草菌(B.subtilis)、炭疽菌(B. anthracis)、セレウス菌(B.cereus)等のバシラス属(Bacillus)細菌;リステリア・モノサイトゲネス菌(L. monocytogenes)リステリア・イバノヴィ菌(L. ivanovii)、リステリア・シーリゲリー菌(L. seeligeri)等のリステリア属(Listeria)細菌;Al. acidoterrestris(旧B. acidoterrestris)等のアリシクロバチルス属(Alicyclobacillus)細菌;S. aureus(黄色ブドウ球菌)、S. epidermidis(表皮ブドウ球菌)、S. pyogenes(A群溶血性レンサ球菌)等のブドウ球菌属(Staphylococcus)細菌:C. botulinum(ボツリヌス菌)、C. perfringens(ウェルシュ菌)、C. difficile、 C. sporogens等のクロストリジウム属(Clostridium)細菌;Leuconostocmesenteroides等のリューコノストック属(Leuconostoc)細菌;Desulfotomaculum nigrificans等のデスルフォマクルム属(Desulfotomaculum)細菌;Enterococcus faecalis等のエンテロコッカス属(Enterococcus)細菌等が挙げられる。
【0032】
グラム陰性菌としては、例えば、S. dysenteria(赤痢菌A亜群)、S. flexneri(赤痢菌B亜群)、S. boydii(赤痢菌C亜群)、S. sonnei(赤痢菌D亜群)等の赤痢属(Shigella)細菌;ブルセラ属(Brucella)細菌;E. coli.O157等の大腸菌群(Escherichia coli);S.typhi(チフス菌)、S. paratyphi A(パラチフスA菌)、S. paratyphi B(パラチフスB菌)、S. Typhimurium(ネズミチフス菌)、S. Enteritidis(ゲルトネル菌)等のサルモネラ属(Salmonella)細菌;V. cholerae(コレラ菌)、V. parahaemolyticus(腸炎ビブリオ)等のビブリオ属(Vibrio)細菌;P. aeruginosa(緑膿菌)等のシュードモナス属(Pseudomonas)細菌等が挙げられる。
【0033】
また、埋め込み型医療用人工物用コーティング1の生体親和性は、生体細胞に対する接着性(細胞接着性)、及び生体細胞の増殖性(細胞増殖性)により評価される。細胞接着性及び細胞増殖性は、後述するアラマーブルー法により評価される。
【0034】
本明細書で使用する「生体細胞」とは、哺乳類の組織や臓器を構成する細胞(例えば、骨芽細胞)を広く対象とすることができる。このような哺乳類として、例えば、ヒトやサル等の霊長目、マウス、ラット等のげっ歯目、ウサギ等の兎目、ウシ等の偶蹄目、ウマ等のウマ目、ブタ等の鯨偶蹄目、イヌ、ネコ等の食肉類が挙げられる。
【0035】
埋め込み型医療用人工物用コーティング1を構成する窒素含有カーボン膜は、例えば、以下の方法で製造される。
【0036】
窒素含有カーボン膜は、例えば、カーボンをターゲット材とする物理蒸着法により、所定の基材上に形成される。物理蒸着法としては、例えば、大電流パルスマグネトロンスパッタリング法(HiPIMS:High Power Impulse Magnetron Sputtering)等のマグネトロンスパッタリング法等が挙げられる。
【0037】
ターゲット材として利用されるカーボンとしては、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、高純度フラファイトが好ましく、特に純度が5N以上(純度99.999%以上)のものが好ましい。
【0038】
物理蒸着法は、希ガスと共に窒素ガスを含む雰囲気下で行われる。希ガスとしては、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)等が挙げられる。
【0039】
窒素含有カーボン膜の成膜時におけるプロセスガス中の希ガスと窒素ガスの比率(容積比)は、例えば、希ガス(Ar):窒素ガス=1:0.1~1:10に設定される。
【0040】
また、成膜時におけるプロセスガス中の窒素ガスの供給濃度は、2%以上が好ましく、18%以上がより好ましく、30%以上が更に好ましく、88%以下が好ましく、79%以下がより好ましく、65%以下が更に好ましい。
【0041】
また、プロセスガス中に、メタンガス等の炭化水素ガスが含まれてもよい。
【0042】
窒素含有カーボン膜は、非結晶性(アモルファス状)であり、sp2混成軌道の炭素原子(グラファイト構造)以外に、sp3混成軌道の炭素原子(ダイヤモンド構造)が存在しており、窒素含有カーボン膜中に窒素が含まれることにより、sp3混成軌道の炭素原子の割合が高くなっていると推測される。
【0043】
なお、窒素含有カーボン膜は、窒素を含むことにより、表面粗さが、窒素を含んでいない場合と比べて変化していると推測される。
【0044】
また、窒素含有カーボン膜の表面には、成膜時にプラズマ化した窒素(N)の反応物からなる官能基が形成されていると推測される。
【0045】
また、窒素含有カーボン膜は、窒素を含むことにより、表面エネルギーが、窒素を含んでいない場合と比べて変化していると推測される。
【実施例0046】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0047】
〔実施例1〕
チタン製の板状の支持基材(厚み:0.1mm)における一方の表面に、大電流パルスマグネトロンスパッタリング法(HiPIMS:High Power Impulse Magnetron Sputtering)を利用して、カーボン膜を形成して、膜付き基材を得た。なお、実施例1の膜付き基材を、合計4個作製した。以降に示される実施例2等でも同様、膜付き基材を、それぞれ合計4個作製した。実施例1の成膜条件は、以下の通りである。
【0048】
<成膜条件:実施例1>
・成膜装置:バッチ型カーボン膜成形装置
・Duty比:25%
・周波数:1.5kHz
・Dutyサイクル:180μs
・プロセスガス(流量):Ar(44sccm)、N2(22sccm)、CH4(4sccm)
・ターゲット材:高純度グラファイト(純度:99.999%)
・ピーク電力密度:1.14Wcm-2
・電力密度:0.9Wcm-2
・成膜圧力:0.61Pa
・成膜時間:3660秒
【0049】
〔実施例2〕
成膜条件におけるプロセスガス及び流量を、Ar(44sccm)、N2(44sccm)、CH4(4sccm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、支持基材上にカーボン膜を形成して、実施例2の膜付き基材を得た。
【0050】
〔実施例3〕
成膜条件におけるプロセスガス及び流量を、Ar(44sccm)、N2(88sccm)、CH4(4sccm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、支持基材上にカーボン膜を形成して、実施例3の膜付き基材を得た。
【0051】
〔比較例1〕
成膜条件におけるプロセスガス及び流量を、Ar(44sccm)、N2(0sccm)、CH4(4sccm)に変更し、かつ成膜時間を1960秒に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、支持基材上にカーボン膜を形成して、比較例1の膜付き基材を得た。
【0052】
〔比較例2〕
比較例2として、銀系抗菌剤層付きポリエステルフィルム(商品名「ウェブクリーン(登録商標)」、陽性対照)を用意した。
【0053】
〔比較例3〕
比較例3として、実施例1等で使用したチタン製の支持基材のみを用意した。
【0054】
〔膜厚の測定〕
実施例1~3、及び比較例1の各カーボン膜の厚みを、分光エリプソメーターを用いて測定した。測定の結果、それらのカーボン膜の厚み(膜厚)は、何れも約100nm(100±20nm)であった。
【0055】
〔カーボン膜中の元素含有比率〕
実施例1~3及び比較例1の各カーボン膜について、X線光電子分光法(XPS)により、元素含有比率(atm%)を求めた。結果は、表1に示した。
【0056】
【0057】
表1に示されるように、成膜時にプロセスガスとして窒素ガス(N2)を添加することにより、カーボン膜中に含まれる窒素に由来する結合エネルギーの増加が確認された。また、プロセスガス中における窒素ガス(N2)の含有割合(比率)が高くなると、カーボン膜中の窒素元素量が増加することが確認された。なお、カーボン膜中の酸素原子は、カーボン膜が、大気中の酸素や水分等に由来するものである。
【0058】
表1等において、比較例1を「0N2」、実施例1を「22N2」、実施例2を「44N2」、実施例3を「88N2」と表す。また、比較例2を「PC」、比較例3を「Ti」と表す。
【0059】
〔抗菌性の評価〕
実施例1等の膜付き基材を、所定の大きさ(縦:50mm、横:50mm)に切断して、試験片を得た。得られた実施例1等の各試験片について、JIS Z2801に準拠しつつ、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、大腸菌(E.coli)、及び病原性大腸菌(O-157)に対する抗菌性(抗菌活性値)を評価した。結果は、表2に示した。なお、比較例2として、銀系抗菌剤層付きポリエステルフィルム(商品名「ウェブクリーン(登録商標)」、陽性対照)を用いた場合、及び比較例3として、チタン製の支持基材のみを用いた場合の各抗菌性(抗菌活性値)も評価した。
【0060】
【0061】
表2に示されるように、実施例1~3のカーボン膜(窒素含有カーボン膜)は、何れの菌種に対して抗菌活性値が2を超え、抗菌性に優れることが確かめられた。
【0062】
〔生体親和性の評価〕
細胞培養プレート(24ウェルプレート)を用意し、各ウェルに実施例1等の試験片を入れ、更に各ウェルに、マウス頭蓋冠由来の前骨芽細胞(品名「MC3T3-E1」)を、5×103/well播種し、培養を開始した。なお、培養条件は、以下の通りである。
【0063】
<培養条件>
温度:37℃、湿度:100%、CO2濃度:5%、培養液:10%ウシ胎児血清添加αMEM
【0064】
(細胞接着性)
実施例1等の試験片について、培養開始から6時間後の細胞増殖率を、同条件の培養プレートを100%として求めた。結果は、
図2に示した。
【0065】
(細胞増殖性)
実施例1等の試験片について、培養開始から7日後の細胞増殖率を、同条件の培養プレートを100%として求めた。結果は、
図2に示した。
【0066】
細胞接着性及び細胞増殖性の各評価における細胞増殖率は、アラマーブルー法により求めた。具体的には、培養終了後、培養液をアスピレートし、細胞培養プレートの各ウェルに、ダルベッコリン酸緩衝液(DPBS)に対して1/10量のアラマーブルー試薬を加え、遮光しつつ、インキュベーターで37℃、0.5時間インキュベートした後、蛍光測定を行った。
【0067】
図2は、生体親和性の評価結果を示すグラフである。なお、6時間後及び7日後の細胞増殖率の各結果は、4回又は5回の平均値±標準偏差であり、多重比較検定法であるTukey-Kramer法を用いて有意差検定を行った。
図2において、5%有意(P<0.05)であることを「*」で示し、1%有意であることを「**」で示した。
【0068】
図2に示されるように、実施例1~3は、生体親和性に優れることが確かめられた。