(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154565
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】ホーム柵状態監視装置及びホーム柵状態監視方法
(51)【国際特許分類】
B61B 1/02 20060101AFI20221005BHJP
E05F 15/643 20150101ALI20221005BHJP
【FI】
B61B1/02
E05F15/643
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057664
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】金子 亮
(72)【発明者】
【氏名】南部 修二
(72)【発明者】
【氏名】松川 英司
(72)【発明者】
【氏名】山下 悟司
【テーマコード(参考)】
2E052
3D101
【Fターム(参考)】
2E052AA02
2E052CA06
2E052DA04
2E052DB04
2E052EA15
2E052EB01
2E052EC02
2E052GA08
2E052GB11
3D101AA03
3D101AA05
3D101AA12
3D101AA24
3D101AA32
3D101AB20
(57)【要約】
【課題】環境要因に左右されることなく、ホーム柵の異常の兆候を精度よく検出できるようにすること。
【解決手段】ホーム柵状態監視装置1は、プラットホームに設置されたホーム柵10の第1の扉部12a及び第2の扉部12bが同時に開閉制御されているときの第1の扉部12aを駆動する第1のモータ13aの第1のモータ電流波形信号と第2の扉部12bを駆動する第2のモータ13bの第2のモータ電流波形信号とを取得し、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号とに基づく所定の対比判定処理を行って第1の扉部12a及び第2の扉部12bの何れかの駆動機構に係る異常の兆候を検出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1台以上の可動式のホーム柵の扉部のうち、第1の扉部及び第2の扉部が同時に開閉制御されたときの前記第1の扉部を駆動するモータの第1のモータ電流波形信号と前記第2の扉部を駆動するモータの第2のモータ電流波形信号とを取得する取得手段と、
前記第1のモータ電流波形信号と前記第2のモータ電流波形信号とに基づく所定の対比判定処理を行って、前記第1の扉部及び前記第2の扉部の何れかの駆動機構に係る異常の兆候を検出する検出手段と、
を備えるホーム柵状態監視装置。
【請求項2】
前記第1の扉部と前記第2の扉部とは、同一の開口部に係る左右の扉部である、
請求項1に記載のホーム柵状態監視装置。
【請求項3】
前記第1の扉部と前記第2の扉部とは、開閉ストロークが所定の同等条件を満たす扉部である、
請求項1又は2に記載のホーム柵状態監視装置。
【請求項4】
前記検出手段は、
前記第1のモータ電流波形信号と前記第2のモータ電流波形信号との差分を判定する差分判定手段、
を有する、
請求項1~3の何れか一項に記載のホーム柵状態監視装置。
【請求項5】
前記検出手段は、
前記第1のモータ電流波形信号に基づく駆動開始タイミング、駆動状態の変化タイミング、及び駆動終了タイミングのうちの何れか(以下包括して「タイミング」という)と、前記第2のモータ電流波形信号に基づく前記タイミングとを判定するタイミング判定手段、
を有し、
前記差分判定手段は、前記第1のモータ電流波形信号と前記第2のモータ電流波形信号とについて、前記タイミング判定手段により判定されたタイミングに基づく同期を取った上で前記差分を判定する、
請求項4に記載のホーム柵状態監視装置。
【請求項6】
前記検出手段は、
前記第1のモータ電流波形信号及び前記第2のモータ電流波形信号それぞれに対する所定の周波数解析処理を行って、それぞれに所定の周波数一致条件を満たすノイズ周波数成分が有るか否かを判定するノイズ判定手段と、
前記ノイズ判定手段により有ると判定されたノイズ周波数成分が含まれていた前記第1のモータ電流波形信号及び前記第2のモータ電流波形信号それぞれにおけるノイズタイミングの時間差が所定の許容時間差を満たすか否かを判定するノイズ時間差判定手段と、
を有し、前記ノイズ判定手段により肯定判定され、且つ、前記ノイズ時間差判定手段により肯定判定された場合には、当該ノイズ周波数成分については異常の兆候ではないと判定する、
請求項1~5の何れか一項に記載のホーム柵状態監視装置。
【請求項7】
前記ノイズタイミングの時間差は、前記第1の扉部と前記第2の扉部との間の距離に基づいて定められている、
請求項6に記載のホーム柵状態監視装置。
【請求項8】
前記検出手段は、
連続する複数回の前記開閉制御に関する前記対比判定処理の結果を総合することで、連続性の判定を行う連続性判定手段、
を有する、
請求項1~7の何れか一項に記載のホーム柵状態監視装置。
【請求項9】
1台以上の可動式のホーム柵の扉部のうち、第1の扉部及び第2の扉部が同時に開閉制御されたときの前記第1の扉部を駆動するモータの第1のモータ電流波形信号と前記第2の扉部を駆動するモータの第2のモータ電流波形信号とを取得することと、
前記第1のモータ電流波形信号と前記第2のモータ電流波形信号とに基づく所定の対比判定処理を行って、前記第1の扉部及び前記第2の扉部の何れかの駆動機構に係る異常の兆候を検出することと、
を含むホーム柵状態監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホーム柵状態監視装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
ホーム柵とは、鉄道の駅のプラットホーム上に、線路への旅客の転落を防止するために設置される安全柵である。旅客の安全を担保する装置であるため、定期的なメンテナンスが必要不可欠であり、機械的なホーム柵の状態監視が行われている場合もある。ホーム柵の状態監視技術の一例として、特許文献1には、扉部の開閉制御時におけるモータ電圧の閾値判定を行って異常を検出する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ホーム柵は旅客の安全を担保する装置であるため、異常が発生したことを検出するのではなく、異常が発生するよりも前に、異常の兆候の段階で検出できることが理想である。しかし、例えば、モータ電圧の閾値判定によって異常の発生を検出していた従来技術を応用し、その閾値を厳しくすることで異常の兆候を検出できるかといえば、そう簡単ではない。
【0005】
すなわち、屋外環境に設置されるホーム柵の場合、温度や湿度、風等による振動等の環境要因によって、正常範囲とみなす閾値が変動し得る。更に、閾値を全てのホーム柵について一律に設定することは適切ではなく、ホーム柵毎に個別に閾値を設定する必要がある。ホーム柵をプラットホームに設置した後に、各ホーム柵について個別に計測データを取得・蓄積し、その計測データをもとに適切な閾値を設定・更新する手法が考えられるが、計測データの蓄積にある程度の期間を要する上、蓄積した多量のデータに基づいて適切な閾値をどのようにして決定すればよいかも難題である。閾値が適切でない場合、ホーム柵の異常の兆候の検出精度に懸念が生じ、ひいてはホーム柵の安全性の低下に繋がるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、環境要因に左右されることなく、ホーム柵の異常の兆候を精度よく検出できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明は、
1台以上の可動式のホーム柵の扉部のうち、第1の扉部及び第2の扉部が同時に開閉制御されたときの前記第1の扉部を駆動するモータの第1のモータ電流波形信号と前記第2の扉部を駆動するモータの第2のモータ電流波形信号とを取得する取得手段(例えば、
図5の取得部202)と、
前記第1のモータ電流波形信号と前記第2のモータ電流波形信号とに基づく所定の対比判定処理を行って、前記第1の扉部及び前記第2の扉部の何れかの駆動機構に係る異常の兆候を検出する検出手段(例えば、
図5の検出部204)と、
を備えるホーム柵状態監視装置である。
【0008】
他の発明として、
1台以上の可動式のホーム柵の扉部のうち、第1の扉部及び第2の扉部が同時に開閉制御されたときの前記第1の扉部を駆動するモータの第1のモータ電流波形信号と前記第2の扉部を駆動するモータの第2のモータ電流波形信号とを取得することと、
前記第1のモータ電流波形信号と前記第2のモータ電流波形信号とに基づく所定の対比判定処理を行って、前記第1の扉部及び前記第2の扉部の何れかの駆動機構に係る異常の兆候を検出することと、
を含むホーム柵状態監視方法を構成してもよい。
【0009】
第1の発明等によれば、環境要因に左右されることなく、ホーム柵の異常の兆候を精度よく検出することができる。つまり、同時に開閉制御される第1の扉部及び第2の扉部は、開閉に係る駆動機構がともに正常であれば、扉部を駆動するモータにかかる負荷は互いに同様であり差が無い又は小さい。しかし、何れかの扉部の開閉に係る駆動機構に何らかの異常又は異常の兆候が生じると、モータにかかる負荷は互いに同様とはならず、有意な差が生じる。扉部を駆動するモータにかかる負荷は何らかの環境要因の影響によっても変動するが、通常、同時に開閉制御される扉部の開閉に関する環境要因は同等とみなせる。すなわち、第1の扉部を駆動するモータの第1のモータ電流波形信号と、第2の扉部を駆動するモータの第2のモータ電流波形信号とを対比することで、環境要因を相殺することができる。このため、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号とに基づく対比判定処理を行うことで、第1の扉部及び第2の扉部に共通に生じている環境要因の影響をキャンセルすることができ、その結果、ホーム柵に生じた異常の兆候を適確に検出することができる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、
前記第1の扉部と前記第2の扉部とは、同一の開口部に係る左右の扉部である、
ホーム柵状態監視装置である。
【0011】
同一の開口部に係る左右の扉部に影響を与える環境要因は同等とみなせる。このため、第2の発明によれば、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号とに基づく対比判定処理によって、第1の扉部及び第2の扉部に共通に生じる環境要因の影響を高精度にキャンセルでき、何れかの扉部の駆動機構に生じた異常の兆候を精度よく検出することができる。
【0012】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、
前記第1の扉部と前記第2の扉部とは、開閉ストロークが所定の同等条件を満たす扉部である、
ホーム柵状態監視装置である。
【0013】
開閉ストロークが同等条件を満たす第1の扉部及び第2の扉部それぞれを駆動するモータのモータ電流は、それぞれの扉部が正常である場合には開閉にかかる時間を含めてその時間変化がほぼ同等とみなせる。このため、第3の発明によれば、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号とに基づく対比判定処理によって、第1の扉部及び第2の扉部に共通に生じる環境要因の影響を高精度にキャンセルでき、何れかの扉部の駆動機構に生じた異常の兆候を精度よく検出することができる。
【0014】
第4の発明は、第1~第3の何れかの発明において、
前記検出手段は、
前記第1のモータ電流波形信号と前記第2のモータ電流波形信号との差分を判定する差分判定手段、
を有する、
ホーム柵状態監視装置である。
【0015】
第4の発明によれば、モータ電流波形信号の差分を判定することで、第1の扉部及び第2の扉部の何れかの駆動機構に係る異常の兆候を検出することができる。第1の扉部及び第2の扉部の何れの駆動機構も正常であるならば、それぞれの扉部を駆動するモータにかかる負荷の変動は同等であり、モータ電流波形信号も同等となることから、モータ電流波形信号の差分は小さくなる。一方、何れかの扉部の駆動機構に何らかの異常又は異常の兆候が生じた場合、モータそれぞれにかかる負荷の変動が異なり、モータ電流波形信号が異なることから、その差分が大きくなる。従って、モータ電流波形信号の差分の大小により、異常の兆候を容易に検出することが可能である。
【0016】
第5の発明は、第4の発明において、
前記検出手段は、
前記第1のモータ電流波形信号に基づく駆動開始タイミング、駆動状態の変化タイミング、及び駆動終了タイミングのうちの何れか(以下包括して「タイミング」という)と、前記第2のモータ電流波形信号に基づく前記タイミングとを判定するタイミング判定手段、
を有し、
前記差分判定手段は、前記第1のモータ電流波形信号と前記第2のモータ電流波形信号とについて、前記タイミング判定手段により判定されたタイミングに基づく同期を取った上で前記差分を判定する、
ホーム柵状態監視装置である。
【0017】
第1の扉部と第2の扉部とは互いに異なるモータで駆動されるので、実際の各扉部の駆動のタイミングには若干の違いが生じ得る。このため、第5の発明によれば、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号とについてタイミングに基づく同期を取った上で差分を取ることで、共通の環境要因による負荷の変動を高精度にキャンセルできるので、何れかの扉部の駆動機構に生じた異常の兆候の検出をより精度よく行うことができる。
【0018】
第6の発明は、第1~第5の何れかの発明において、
前記検出手段は、
前記第1のモータ電流波形信号及び前記第2のモータ電流波形信号それぞれに対する所定の周波数解析処理を行って、それぞれに所定の周波数一致条件を満たすノイズ周波数成分が有るか否かを判定するノイズ判定手段と、
前記ノイズ判定手段により有ると判定されたノイズ周波数成分が含まれていた前記第1のモータ電流波形信号及び前記第2のモータ電流波形信号それぞれにおけるノイズタイミングの時間差が所定の許容時間差を満たすか否かを判定するノイズ時間差判定手段と、
を有し、前記ノイズ判定手段により肯定判定され、且つ、前記ノイズ時間差判定手段により肯定判定された場合には、当該ノイズ周波数成分については異常の兆候ではないと判定する、
ホーム柵状態監視装置である。
【0019】
扉部を駆動するモータの負荷に影響を与える環境要因には、扉部によって発生タイミングが異なるような環境要因が有り得る。例えば、扉部の扉面に対して斜めに吹き付ける風が典型例である。風が到達するタイミングは扉部の設置位置によって時間差があるからである。このような時間差のある環境要因が生じている場合であっても、第6の発明によって適切に対処することができる。すなわち、第6の発明では、第1のモータ電流波形信号及び第2のモータ電流波形信号それぞれに対する周波数解析処理を行って、それぞれに周波数一致条件を満たす共通のノイズ周波数成分が有るか否かを判定する。そして、第1のモータ電流波形信号及び第2のモータ電流波形信号それぞれに含まれる共通のノイズ周波数が生じたノイズタイミングの時間差が許容差条件を満たすか否か、を判定する。これにより、時間差のある環境要因による影響をも考慮した異常の兆候の検出が可能となり、より精度良く異常の兆候を検出することができる。
【0020】
第7の発明は、第6の発明において、
前記ノイズタイミングの時間差は、前記第1の扉部と前記第2の扉部との間の距離に基づいて定められている、
ホーム柵状態監視装置である。
【0021】
第7の発明によれば、第1のモータ電流波形信号及び第2のモータ電流波形信号それぞれにおけるノイズタイミングの時間差を、第1の扉部及び第2の扉部の間の距離に基づいて定めることができる。これにより、第1のモータ電流波形信号及び第2のモータ電流波形信号それぞれにおけるノイズタイミングの時間差が、第1の扉部と第2の扉部との間の距離に応じて異なり得ることを考慮することができる。
【0022】
第8の発明は、第1~第7の何れかの発明において、
前記検出手段は、
連続する複数回の前記開閉制御に関する前記対比判定処理の結果を総合することで、連続性の判定を行う連続性判定手段、
を有する、
ホーム柵状態監視装置である。
【0023】
第8の発明によれば、連続する複数回の開閉制御に係る対比判定処理の結果を総合することで、モータ電流波形信号に表れた扉部を駆動するモータにかかる負荷の変動が、例えば扉部への旅客の寄り掛かりや接触といった一時的な環境要因による影響であるのか、扉部の駆動機構に生じた何らかの異常の兆候によるものかを区別して判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図8】ホーム柵状態監視装置の監視の対象となる扉部の他の例。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0026】
[全体構成]
図1は、本実施形態のホーム柵状態監視装置1が監視対象とするホーム柵10の概略構成を示す正面図である。代表例として、1つの開口部を開閉する左右一対のホーム柵10(10a,10b)を図示している。ホーム柵10は、プラットホーム3の軌道側端縁においてその長手方向に沿って複数台が配列されて構成され、プラットホーム3上を軌道側から仕切ることで旅客が線路へ転落することを防止する。
【0027】
ホーム柵10は可動式のホーム柵であり、プラットホーム3上に固定設置された各戸袋部11が可動扉である扉部12をスライド移動可能に支持して開閉駆動する構成を有しており、列車の到着に合わせて扉部12を開閉方向であるプラットホーム3の長手方向に沿って移動させることで、列車への乗車口となる開口部を開閉する。
【0028】
扉部12の駆動機構は、任意の構成を採用することができる。例えば、
図1の駆動機構は、ベルト駆動方式であり、戸袋部11の内部奥方に配置されたモータ13と、モータ13の出力軸に連結された駆動プーリ14と、駆動プーリ14の前方(扉部12側)に配置された従動プーリ15と、これらのプーリ14,15に巻回されたタイミングベルト16と、扉部12の所定位置に設けられてタイミングベルト16と扉部12とを接続・固定するベルトクランプ17とを備える。
【0029】
図1に示す左右一対のホーム柵10a,10bでは、左右対象である以外は駆動機構に関する構成は基本的に同一である。ホーム柵10a,10bの扉部12a,12bは、共通の開口部に係る左右の扉部である。扉部12a,12bは、同時に開閉制御される。また、扉部12a,12bの開閉時の移動量は同じであり、開閉ストロークが同等条件を満たす扉部である。1つの開口部に係る左右一対のホーム柵10a,10bを制御する制御装置20は、当該ホーム柵10a,10bのうちの一方(
図1では、ホーム柵10a)に備えられている。
【0030】
本実施形態の異常の兆候の検出技術は、第1の扉部12aを駆動する第1のモータ13aの第1のモータ電流波形信号と第2の扉部12bを駆動する第2のモータ13bの第2のモータ電流波形信号とに基づく所定の対比判定処理を行うことで実現する。そのため、以下では、ホーム柵10a,10bのうち、一方のホーム柵に係る構成要素については適宜「第1の」という枕詞をつけて呼称し、他方のホーム柵に係る構成要素については適宜「第2の」という枕詞をつけて呼称する。
【0031】
また、本実施形態では、説明を分かり易くするために、ホーム柵状態監視装置1は、1つの開口部に係る左右一対のホーム柵10a,10bに着目し、このホーム柵10a,10bを監視対象として説明するが、同一のプラットホームのホーム柵を一括して監視対象としてもよいし、複数のプラットホームのホーム柵を一括して監視対象としてもよい。この場合、例えば、1つの開口部に係る左右のホーム柵10a,10bの組み合わせを単位として、以下説明する異常の兆候の検出処理を行えばよい。
【0032】
図2は、制御装置20の構成の概要を示す図である。
図2に示すように、制御装置20は、駆動制御部21と、第1の扉部12aに係る第1のモータ13aを駆動する第1のモータ駆動回路22aと、第2の扉部12bに係る第2のモータ13bを駆動する第2のモータ駆動回路22bとを有する。
【0033】
駆動制御部21は、外部装置からの開閉指令に従って、第1のモータ13aを開方向へ駆動させる又は閉方向へ駆動させるための駆動指示信号を第1のモータ駆動回路22aに出力するとともに、第2のモータ13bを開方向へ駆動させる又は閉方向へ駆動させるための駆動指示信号を第2のモータ駆動回路22bに出力する。第1のモータ13a及び第2のモータ13bは、三相交流モータである。第1のモータ駆動回路22aは、駆動指示信号に応じた三相の駆動電力を第1のモータ13aに供給して第1のモータ13aを駆動させる。同じく、第2のモータ駆動回路22bは、駆動指示信号に応じた三相の駆動電力を第2のモータ13bに供給して第2のモータ13bを駆動させる。これにより、第1の扉部12a及び第2の扉部12bは同時に開閉することとなる。
【0034】
また、第1のモータ13aに供給される三相の駆動電力の給電ケーブルには、供給される電流(以下「モータ電流」という。)を計測する第1の電流センサ30aが設置されている。第2のモータ13bも同様に、第2のモータ13bに供給される三相の駆動電力の給電ケーブルには、供給されるモータ電流を計測する第2の電流センサ30bが設置されている。但し、本実施形態では、第1の電流センサ30a及び第2の電流センサ30bは、三相のうちの二相(例えば、U相とV相)の電流それぞれを計測する。二相の電流を計測することで、モータの回転方向、すなわち扉部12が開閉何れの方向に駆動されているかを判定することができる。
【0035】
ホーム柵状態監視装置1は、第1の電流センサ30a及び第2の電流センサ30bにて計測されたモータ電流値を取得し、取得したモータ電流値に基づいて、第1のホーム柵10a及び第2のホーム柵10bの状態を監視し、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの駆動機構に係る異常の兆候を検出する。具体的には、第1の電流センサ30aにて計測されたモータ電流値が所定の閾値を超えたか否かによって第1の扉部12aが開閉制御されているときの第1のモータ電流波形信号を取り込む。第2の電流センサ30bについても同様にして第2の扉部12bが開閉制御されているときの第2のモータ電流波形信号を取り込む。そして、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号とを対比することで、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの何れかの駆動機構に係る異常の兆候を検出する。対比するモータ電流波形信号は、第1のモータ13a及び第2のモータ13bそれぞれ1相分(例えばU相同士)の電流の波形信号である。
【0036】
1つの開口部に係る左右一対のホーム柵10a,10bの扉部12a,12bに係る駆動機構は基本的に同一の構成であり、扉部12a,12bは開閉時の移動量が同等である(開閉ストロークが同等条件を満たす)。従って、扉部12a,12bの何れの駆動機構も正常であるならば、扉部12a,12bを同時に開閉制御するときに第1の扉部12aを駆動する第1のモータ13aにかかる負荷と第2の扉部12bを駆動する第2のモータ13bにかかる負荷は同等であり、そのモータ電流波形信号も同等となる。また、扉部12a,12bに係る駆動機構が同時に異常となることは極めて稀である。従って、扉部12a,12bの何れかに係る駆動機構に何らかの異常又は異常の兆候が生じると、モータ13a,13bにかかる負荷は互いに同様とはならず、有意な差が生じる。そこで、このことを利用して、扉部12a,12bの何れかの駆動機構に係る異常の兆候を検出する。
【0037】
図3は、扉部12が開制御されているときのモータ電流波形信号の一例である。一相分のモータ電流の波形を示している。モータ電流は、モータ13にかかる負荷、つまり扉部12の移動に伴う負荷に応じて変動する電流波形となる。また、モータ13の起動時には起動トルクに応じた突入電流が生じる。同一の開口部に係る左右一対の第1の扉部12a及び第2の扉部12bは開閉時の移動量(ストローク)が同等であるので、第1の扉部12aを駆動する第1のモータ13aの第1のモータ電流波形信号と、第2の扉部12bを駆動する第2のモータ13bの第2のモータ電流波形信号とは、駆動開始から駆動終了までの駆動期間の長さも含めて同等となる。
【0038】
図4は、駆動制御部21によって制御されるモータ13の駆動周波数の概要であり、1回の開閉制御に係る周波数を示している。
図4において、横軸は時間、縦軸は周波数である。
図4に示すように、扉部12の1回の開閉制御に係るモータ13の駆動周波数は、モータ13の起動後に周波数を徐々に増加させて回転速度を上昇させてゆく加速領域と、モータ13が所定の回転速度に達した後にその回転速度に保つ定常周波数とする定速領域と、周波数を徐々に減少させて停止させる減速領域との3つの駆動状態の期間に区分される。扉部12a,12bの開閉時の移動量は同等である(開閉ストロークが同等条件を満たす)ので、駆動制御部21は、扉部12a,12bを開閉制御するときは、扉部12a,12bの移動の仕方が同等となるように、モータ13a,13bそれぞれを同じ周波数制御パターンで駆動制御する。
【0039】
[異常の兆候の検出]
ホーム柵状態監視装置1は、第1の扉部12aを駆動する第1のモータ13aの第1のモータ電流波形信号と、第2の扉部12bを駆動する第2のモータ13bの第2のモータ電流波形信号とに基づく対比判定処理を行って、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの何れかの駆動機構に係る異常の兆候を検出する。具体的には、対比判定処理として、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号との差分を判定する。第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号との差分の判定は、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号との振幅の差を算出することで行う。
【0040】
差分の判定の対象とするモータ電流波形信号は、扉部12の1回の開閉制御に係る電流波形信号の全体(モータ13の駆動開始から駆動終了までの期間の信号)としてもよいし、定速領域における信号といったように、扉部12の1回の開閉制御に係る電流波形信号の一部としてもよい。
【0041】
また、モータ電流波形信号の差分の判定は、モータ13の駆動開始タイミング、駆動終了タイミング、及び、駆動状態(
図4に示した加速領域、定速領域、減速領域)の変化タイミングのうちの何れかのタイミングを一致させて行う。このタイミングは、モータ電流波形信号に対する周波数解析処理を行うことで判定することができる。周波数解析処理としては、例えば、フーリエ解析やウェーブレット変換等がある。モータ電流波形信号に対する周波数解析処理を行うことで、
図4に一例を示した駆動周波数パターンを得ることができる。そして、この駆動周波数パターンから、駆動状態(加速領域、定速領域、減速領域)の変化タイミングや、加速領域の開始時点である駆動開始タイミング、減速領域の終了時点である駆動終了タイミング、を判定することができる。
【0042】
駆動制御部21は、第1の扉部12a及び第2の扉部12bを同時に開閉制御するために、第1のモータ13aを駆動するための駆動指示信号を第1のモータ駆動回路22aに出力するとともに、第2のモータ13bを駆動するための駆動指示信号を第2のモータ駆動回路22bに出力する。しかし、第1のモータ駆動回路22a及び第2のモータ駆動回路22bは互いに独立した回路であるため、第1のモータ13a及び第2のモータ13bそれぞれに対する駆動指示信号を同時に出力しても、実際になされる第1のモータ駆動回路22aによる第1のモータ13aの駆動と、第2のモータ駆動回路22bによる第2のモータ13bの駆動とに僅かな時間差が生じ得る。このため、第1のモータ電流波形信号及び第2のモータ電流波形信号それぞれについて、駆動状態の変化タイミングや駆動開始タイミング、駆動終了タイミングといったタイミングを判定し、判定したタイミングを一致させることで同期を取った上で、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号との差分を判定することができる。
【0043】
なお、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号との同期の取り方としては上述の方法に限らない。例えば、第1のモータ電流波形信号及び第2のモータ電流波形信号それぞれに対する周波数解析処理を行うことで得られた駆動周波数パターンを画像とみなし、時間方向に所定時間間隔でずらしながら画像マッチングを繰り返し行ってマッチング率が最大とみなせる時間のずれ(時間差)を求めることで、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号との同期を取るようにしてもよい。
【0044】
そして、ホーム柵状態監視装置1は、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号の差分に基づいて、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの何れかの駆動機構に係る異常の兆候を検出する。第1の扉部12a及び第2の扉部12bは開閉時の移動量が同等である(開閉ストロークが同等条件を満たす)ので、第1の扉部12a及び第2の扉部12bを同時に開閉制御するときに第1の扉部12aを駆動する第1のモータ13aにかかる負荷と第2の扉部12bを駆動する第2のモータ13bにかかる負荷とは同等である。このため、第1の扉部12a及び第2の扉部12bがともに正常ならば、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号とは同等となるはずである。従って、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号との差分が所定の許容範囲内ならば、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの何れの駆動機構にも異常の兆候が検出されないと判定する。一方、差分が許容範囲を超えるならば、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの何れかの駆動機構に異常の兆候の可能性有りとして、更なる判定を行う。
【0045】
第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号との差分が許容範囲を超える場合とは、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号とが同等とみなせない場合であり、第1の扉部12aを駆動する第1のモータ13aにかかる負荷と第2の扉部12bを駆動する第2のモータ13bにかかる負荷とが異なっていることを意味する。モータ13にかかる負荷の違いは、モータ電流の違いとなって表れる。負荷が異なる要因として、主に次の3種類が考えられる。
(要因A)扉部12a,12bの開閉に要する開閉力の差異
(要因B)風圧や音圧等による振動
(要因C)人や物等が接触したことによる衝撃
【0046】
要因Aは、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの何れかの駆動機構に生じた機械的・構造的な要因に関するものであり、異常の兆候として判定すべき要因である。一方、要因B,Cは、周囲環境に関する環境要因であり、第1の扉部12a及び第2の扉部12bに係る駆動機構の異常に関するものではないから、異常の兆候では無いと判定すべき要因である。
【0047】
これらの要因A~Cを区別して判定するため、ホーム柵状態監視装置1は、第1のモータ電流波形信号及び第2のモータ電流波形信号それぞれに対する周波数解析処理を行って、それぞれに重畳しているノイズ周波数成分を抽出する。周波数解析処理としては、例えば、短時間フーリエ解析やウェーブレット変換など、短時間での周波数解析処理を行う。周波数解析結果を駆動周波数と比較することで、重畳しているノイズ周波数成分を抽出することができる。
【0048】
なお、この周波数解析処理は、扉部12の1回の開閉制御に係るモータ電流波形信号の全体に対して行ってもよいし、定速領域における信号といったモータ電流波形信号の一部の信号に対して行ってもよい。
【0049】
そして、(条件a)第1のモータ電流波形信号及び第2のモータ電流波形信号それぞれから抽出したノイズ周波数成分を比較し、両方のノイズ周波数成分が一致するか、(条件b)当該ノイズ周波数成分が同一の扉部12について連続する複数回の開閉制御に関して抽出されており、且つ、同じ周波数成分であるか、を判定することで、扉部12の駆動機構に係る異常の兆候であるか否かを最終的に判定する。
【0050】
条件a(両方のノイズ周波数成分が一致するか)については、(条件a-1)両方のノイズ周波数成分が、一致する周波数成分とみなせる周波数帯の条件である周波数一致条件を満たし、且つ、(条件a-2)第1のモータ電流波形信号及び第2のモータ電流波形信号それぞれにおける周波数一致条件を満たすノイズ周波数成分の発生タイミング(ノイズタイミング)の時間差が許容時間差を満たすか、によって判定する。
【0051】
なお、この条件a(条件a-1,a-2)を満たすかの判定は、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号との同期を取った上で、それぞれに対して、例えば、短時間フーリエ解析やウェーブレット変換などの短時間での周波数解析処理を、時間方向に少しずつずらしながら繰り返し行うことで実現できる。周波数解析処理における時間幅が、条件a-2の許容時間差に相当する。
【0052】
上述の要因A(第1の扉部12aと第2の扉部12bとの開閉に要する開閉力の差異)は、互いに独立した扉部12a,12bの駆動機構に発生する要因である。扉部12の駆動機構に何らかの異常の兆候が生じた場合、その扉部12を駆動するモータ13にかかる負荷は、正常な場合の負荷のかかり方とは異なることから、その扉部12を駆動するモータ13のモータ電流波形信号にノイズ周波数成分が重畳する。また、扉部12a,12bの両方の駆動機構に異常の兆候が生じた場合であっても、それぞれの駆動機構は独立した機構であるから、扉部12a,12bそれぞれを駆動するモータ13a,13bへの負荷のかかり方が異なる。つまり、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号とに重畳しているノイズ周波数成分やノイズタイミングは一致しない。また、扉部12の駆動機構に係る異常の兆候であるから、扉部12を開閉する度に、同等のノイズ周波数成分が同等のタイミングでモータ電流波形信号に重畳することになる。従って、この要因Aによるノイズ周波数成分は、条件aを満たさず、条件bを満たすことになる。
【0053】
また、要因B(風圧や音圧等による振動)は、周囲環境により生じる環境要因であり、通常、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの両方について同等な周波数成分の振動となるが、振動の発生タイミングが僅かに異なる場合が考えられる。これは、例えば、扉部12の扉面に対して斜めに風が吹き付けた場合といったように、第1の扉部12a及び第2の扉部12bそれぞれの設置位置間の距離に起因する。この距離が、振動の発生タイミングの違いとなる。従って、この要因Bによるノイズ周波数成分は、条件aを満たすことになる。なお、条件bについては、例えば、継続的に吹いている風であるのか一瞬の風であるのかといった違いにより、満たす場合も満たさない場合もある。また、条件a-2の許容時間差は、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの間の距離を考慮して適当に定めることができる。なお、扉部12の扉面に対してほぼ垂直方向に風が吹き付けた場合には、同等のタイミングで同等なノイズ周波数成分が重畳するため、第1のモータ電流波形信号及び第2のモータ電流波形信号の差分を判定することで、その影響を相殺することができる。
【0054】
また、要因C(人や物等が接触したことによる衝撃)は、周囲環境により一時的に生じる要因である。通常、第1の扉部12aと第2の扉部12bとで異なる衝撃になると考えられる。また、連続する複数回の扉部12の開閉制御において同等の衝撃が同等のタイミングで生じることは考え難い。従って、この要因Cによるノイズ周波数成分は、条件a,bをともに満たさないことになる。
【0055】
これらのことから、ホーム柵状態監視装置1は、先ず、第1のモータ電流波形信号及び第2のモータ電流波形信号それぞれから抽出したノイズ周波数成分が、条件aを満たすかを判定する。条件aを満たすならば、要因Bによるノイズ周波数成分であるので、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの駆動機構に係る異常の兆候ではないと判定する。条件aを満たさないならば、続いて、条件bを満たすかを判定する。条件a,bをともに満たさないならば、要因Cによるノイズ周波数成分であるので、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの駆動機構に係る異常の兆候ではないと判定する。一方、条件aを満たさないが条件bを満たすならば、要因Aによるノイズ周波数成分であり、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの何れかの駆動機構に係る異常の兆候であると判定する。
【0056】
[機能構成]
図5は、ホーム柵状態監視装置1の機能構成の一例を示す図である。
図5に示すように、ホーム柵状態監視装置1は、機能部として、操作部102と、表示部104と、通信部106と、処理部200と、記憶部300とを備え、一種のコンピュータ或いはCPUボードとして構成することができる。
【0057】
操作部102は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等の入力装置で構成され、なされた操作に応じた操作信号を処理部200に出力する。表示部104は、例えば液晶ディスプレイやタッチパネル等の表示装置で構成され、処理部200からの表示信号に応じた各種表示を行う。通信部106は、有線又は無線の通信装置で構成され、所与の通信回線に接続して外部装置との通信を行う。
【0058】
処理部200は、例えばCPU(Central Processing Unit)等の演算装置で実現され、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ等に基づいて、ホーム柵状態監視装置1を構成する各部への指示やデータ転送を行い、ホーム柵状態監視装置1の全体制御を行う。また、処理部200は、記憶部300に記憶されたホーム柵状態監視プログラム302を実行することで、取得部202及び検出部204の各機能ブロックとして機能する。但し、これらの機能ブロックは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等によってそれぞれ独立した演算回路として構成することも可能である。
【0059】
取得部202は、1台以上の可動式のホーム柵10の扉部12のうち、第1の扉部12a及び第2の扉部12bが同時に開閉制御されたときの第1の扉部12aを駆動する第1のモータ13aの第1のモータ電流波形信号と第2の扉部12bを駆動する第2のモータ13bの第2のモータ電流波形信号とを取得する。
【0060】
具体的には、第1の扉部12aを駆動する第1のモータ13aへのモータ電流を計測する第1の電流センサ30aにて計測されるモータ電流値を、第1のモータ電流波形信号として取得する。また、第2の扉部12bを駆動する第2のモータ13bへのモータ電流を計測する第2の電流センサ30bにて計測されるモータ電流値を、第2のモータ電流波形信号として取得する。第1の扉部12a及び第2の扉部12bが開閉制御されていることは、例えば、電流センサ30a,30bにて計測されたモータ電流値が所定の閾値を超えたか否かによって判断してもよいし、制御装置20に対する開閉指令によって判断してもよい。本実施形態では、電流センサ30a,30bそれぞれによって計測されたモータ電流値は、計測日時と対応付けて、一旦、扉部管理データ310の第1の扉部データ312a及び第2の扉部データ312bにおけるモータ電流値データとして蓄積・記憶される(
図6参照)。取得部202は、蓄積・記憶されているモータ電流値データから、計測時刻や、所定の閾値を超えた電流値であるか等を判定基準として、対象とする開閉制御のときのモータ電流波形信号を切り出して取得する。
【0061】
検出部204は、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号とに基づく所定の対比判定処理を行って、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの何れかの駆動機構に係る異常の兆候を検出する。検出は、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号との差分を判定することで行う。
【0062】
また、検出部204は、第1のモータ電流波形信号に基づく駆動開始タイミング、駆動状態の変化タイミング、及び駆動終了タイミングのうちの何れか(以下包括して「タイミング」という)と、第2のモータ電流波形信号に基づくタイミングとを判定し、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号とについて、判定したタイミングに基づく同期を取った上で差分を判定する。
【0063】
また、検出部204は、第1のモータ電流波形信号及び第2のモータ電流波形信号それぞれに対する所定の周波数解析処理を行って、それぞれに所定の周波数一致条件を満たすノイズ周波数成分が有るか否かを判定し、有ると判定されたノイズ周波数成分が含まれていた第1のモータ電流波形信号及び第2のモータ電流波形信号それぞれにおけるノイズタイミングの時間差が所定の許容時間差を満たすか否かを判定する。そして、両方の判定を肯定判定した場合には、当該ノイズ周波数成分については異常の兆候ではないと判定する。ノイズタイミングの時間差は、第1の扉部12aと第2の扉部12bとの間の距離に基づいて定められている。また、検出部204は、連続する複数回の開閉制御に関する対比判定処理の結果を総合することで、連続性の判定を行う。
【0064】
具体的には、第1のモータ電流波形信号及び第2のモータ電流波形信号それぞれに対する周波数解析処理を行い、周波数解析処理の結果として得られる駆動周波数パターン(
図4参照)から、モータ13の駆動開始タイミングや駆動終了タイミング、駆動状態(加速領域、定速領域、減速領域)の変化タイミングといったタイミングを判定する。そして、第1のモータ電流波形信号及び第2のモータ電流波形信号それぞれについて判定したタイミングを一致させて同期を取った上で、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号との差分を算出する。
【0065】
算出した差分が所定の許容範囲ならば、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの駆動機構に係る異常の兆候は検出されない(正常)と判定する。
【0066】
また、算出した差分が許容範囲外ならば、更に、第1のモータ電流波形信号及び第2のモータ電流波形信号それぞれに対する短時間での周波数解析処理を行って、それぞれに重畳しているノイズ周波数成分を抽出する。そして、両方のノイズ周波数成分が一致するか(条件a)、同一の扉部12について連続する複数回の開閉制御に関して抽出されているノイズ周波数成分であるか(条件b)、を判定する。これらの判定の結果を踏まえて、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの何れかの駆動機構に係る異常の兆候であるか否かを最終的に判定する。すなわち、条件aを満たすならば、風圧や音圧等による振動(要因B)によるノイズ周波数成分であるので、異常の兆候ではない(正常)と判定する。条件a,bをともに満たさないならば、人や物等が接触したことによる衝撃(要因C)によるノイズ周波数成分であるので、異常の兆候ではない(正常)と判定する。条件aを満たさないが条件bを満たすならば、第1の扉部12aと第2の扉部12bとの開閉に要する力の差異(要因A)によるノイズ周波数成分であり、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの何れかの駆動機構に係る異常の兆候であると判定する。
【0067】
記憶部300は、ハードディスクやROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置で実現され、処理部200がホーム柵状態監視装置1を統合的に制御するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が各種プログラムに従って実行した演算結果や、通信部106を介した入力データ等が一時的に格納される。本実施形態では、記憶部300には、ホーム柵状態監視プログラム302と、扉部管理データ310とが記憶される。
【0068】
図6は、扉部管理データ310の一例を示す図である。
図6に示すように、扉部管理データ310は、同一の開口に係る左右の扉部12(第1の扉部12a及び第2の扉部12b)の組み合わせ毎に生成され、第1の扉部12aに関する第1の扉部データ312aと、第2の扉部12bに関する第2の扉部データ312bと、判定結果データ314とを格納している。
【0069】
第1の扉部データ312a及び第2の扉部データ312bは、それぞれ、該当する扉部12の扉部IDと、当該扉部12を駆動するモータ13のモータ電流を計測する電流センサ30の電流センサIDと、当該電流センサ30により計測されたモータ電流値データとを含む。
【0070】
判定結果データ314は、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの1回の開閉制御毎に生成され、当該開閉制御がなされた日時と、当該開閉制御が開制御であるのか閉制御であるのかを示す開閉フラグと、第1のモータ電流波形信号と、第2のモータ電流波形信号と、第1のモータ電流波形信号に対する周波数解析処理の結果である第1の周波数解析結果データと、第2のモータ電流波形信号に対する周波数解析処理の結果である第2の周波数解析結果データと、第1の周波数解析結果データから得られる第1のモータ13aに対する第1の駆動周波数パターンデータと、第2の周波数解析結果データから得られる第2のモータ13bに対する第2の駆動周波数パターンデータと、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの開閉に係る異常の兆候の判定結果とを含む。
【0071】
[処理の流れ]
図7は、処理の流れを説明するフローチャートである。この処理は、処理部200がホーム柵状態監視プログラム302を実行することで実現される処理であり、同一の開口部に係る左右の扉部である第1の扉部12a及び第2の扉部12bについてなされた1回の開閉制御を対象として行われる。
【0072】
先ず、取得部202が、1回の開閉制御におけるモータ電流波形信号であって、扉部12aを駆動する第1のモータ13aの第1のモータ電流波形信号及び扉部12bを駆動する第2のモータ13bの第2のモータ電流波形信号を取得する(ステップS1)。
【0073】
次いで、検出部204が、取得された第1のモータ電流波形信号及び第2のモータ電流波形信号それぞれに対する周波数解析処理を行い、周波数解析処理の結果として得られた駆動周波数パターンに基づいて、モータ13の駆動開始タイミング、駆動終了タイミング、駆動状態の変化タイミングを判定する(ステップS3)。
【0074】
続いて、取得された第1のモータ電流波形信号及び第2のモータ電流波形信号から、なされた開閉制御が開制御であるのか閉制御であるのかを判定する(ステップS5)。この判定は、例えば、第1の電流センサ30aで計測された第1のモータ13aからのモータ電流のうちの二相の電流波形の位相が進みであるのか遅れであるのかによって第1のモータ13aの回転方向を判定することで、第1の扉部12aが開閉何れの方向に駆動されているかを判定する。同様に、第2の電流センサ30bで計測された第2のモータ13bからのモータ電流のうちの二相の電流波形の位相が進みであるのか遅れであるのかによって第2のモータ13bの回転方向を判定することで、第2の扉部12bが開閉何れの方向に駆動されているかを判定する。そして、第1の扉部12aの開閉方向と第2の扉部12bの開閉方向とが一致するかによって、開制御であるのか閉制御であるのかを判定することができる。
【0075】
また、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号との判定したタイミングを一致させることで同期を取った上で、第1のモータ電流波形信号と第2のモータ電流波形信号との差分を算出する(ステップS7)。そして、算出した差分が所定の許容範囲内ならば(ステップS9:YES)、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの何れにも駆動機構に係る異常の兆候は検出されない(正常)と判定する(ステップS11)。
【0076】
一方、算出した差分が所定の許容範囲外ならば(ステップS9:NO)、続いて、第1のモータ電流波形信号及び第2のモータ電流波形信号それぞれに対する短時間の周波数解析処理を行って、それぞれに含まれるノイズ周波数成分を抽出する。そして、それぞれのノイズ周波数成分を比較し、一致するかを判定する(ステップS13)。この一致の判定は、ノイズ周波数成分が一致するとみなせる周波数一致条件を満たし、且つ、モータ電流波形信号におけるノイズタイミングの時間差が許容時間差を満たすならば、それぞれに含まれるノイズ周波数成分が一致すると判定することで行う。
【0077】
ノイズ周波数成分が一致するならば(ステップS15:YES)、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの何れにも駆動機構に係る異常の兆候は検出されない(正常)と判定する(ステップS17)。ノイズ周波数成分が一致しないならば(ステップS15:NO)、第1の扉部12a及び第2の扉部12bそれぞれについて、抽出したノイズ周波数成分と同等のノイズ周波数成分が連続する複数回の開閉制御において抽出されているか、つまり、同等のノイズ周波数成分が連続的に発生しているかを判断する。ノイズ周波数成分が連続的に発生しているならば(ステップS19:YES)、ノイズ周波数成分が連続的に発生している扉部12の駆動機構に係る異常の兆候と判定する(ステップS21)。ノイズ周波数成分が連続的に発生していないならば(ステップS19:NO)、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの何れにも駆動機構に係る異常の兆候は検出されない(正常)と判定する(ステップS23)。以上の処理を行うと、本処理は終了となる。
【0078】
[作用効果]
このように、本実施形態によれば、環境要因に左右されることなく、ホーム柵10の異常の兆候を精度よく検出することができる。つまり、同時に開閉制御される第1の扉部12a及び第2の扉部12bは、開閉に係る駆動機構がともに正常であれば、第1の扉部12aを駆動する第1のモータ13aにかかる負荷と、第2の扉部12bを駆動する第2のモータ13bにかかる負荷とは互いに同様であり差が無い又は小さい。しかし、第1の扉部12a及び第2の扉部12bの何れかの開閉に係る駆動機構に何らかの異常又は異常の兆候が生じると、第1のモータ13a及び第2のモータ13bにかかる負荷は互いに同様とならず、有意な差が生じる。第1の扉部12aを駆動する第1のモータ13aにかかる負荷と第2の扉部12bを駆動する第2のモータ13bにかかる負荷とは何らかの環境要因の影響によっても変動するが、通常、同時に開閉制御される第1の扉部12a及び第2の扉部12bの開閉に関する環境要因は同等とみなせる。
【0079】
すなわち、第1の扉部12aを駆動する第1のモータ13aの第1のモータ電流波形信号と、第2の扉部12bを駆動する第2のモータ13bの第2のモータ電流波形信号とを対比することで、環境要因を相殺することができる。
【0080】
このため、第1の扉部12aを駆動する第1のモータ13aの第1のモータ電流波形信号と、第2の扉部12bを駆動する第2のモータ13bの第2のモータ電流波形信号とに基づく対比判定処理を行うことで、第1の扉部12a及び第2の扉部12bに共通に生じている環境要因の影響をキャンセルすることができ、その結果、ホーム柵10a,10bに生じた異常の兆候を適確に検出することができる。
【0081】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0082】
(A)異常の兆候が発生したホーム柵10の特定
第1の扉部12a及び第2の扉部12bそれぞれについて、当該扉部12が正常である状態で開制御したとき及び閉制御したときのモータ電流波形信号を基準モータ電流波形信号として予め用意しておく。そして、異常の兆候を検出した際に、第1の扉部12a及び第2の扉部12bそれぞれについて、取得したモータ電流波形信号と、開閉方向に対応する基準モータ電流波形信号とを比較して合致するか否かを判定することで、ホーム柵10a,10bのどちらに異常が生じたかを特定するようにしてもよい。
【0083】
(B)扉部12の組み合わせ
上述の実施形態では、同一の開口部に係る左右の扉部12a,12bを、開閉制御のときの移動量が同じ(開閉ストロークが同等)としたが、同一の開口部に係る左右の開閉ストロークが異なる(同等とみなせない)場合であっても、本発明を適用可能である。この場合には、例えば同一のプラットホームの同一の番線に設置された異なるホーム柵10の扉部12といったように、同時に開閉制御される扉部12であって、移動量が同じ(開閉ストロークが同等とみなせる)2枚の扉部12の組み合わせを第1の扉部及び第2の扉部として、モータ電流波形信号を対比判定処理するようにすればよい。
【0084】
図8は、同一の開口部に係る左右の扉部の開閉制御のときの移動量(開閉ストローク)が異なる場合の例である。
図8では、同一のプラットホームに設置された6台のホーム柵10A~10Fを示している。ホーム柵10A~10Fは、それぞれが有する扉部12A~12Fとして、開閉制御のときの移動量(開閉ストローク)が異なる3種類の扉部が存在している。具体的には、開閉制御のときの移動量(開閉ストローク)が大きい“大扉”と、中程度の“中扉”と、小さい“小扉”との3種類である。本変形例では、移動量(開閉ストローク)が同じ“小扉”であるホーム柵10Aの扉部12Aとホーム柵10Fの扉部12Fとの組み合わせを、第1の扉部及び第2の扉部とする。また、移動量(開閉ストローク)が同じ“大扉”であるホーム柵10Bの扉部12Bとホーム柵10Eの扉部12Eとの組み合わせを、第1の扉部及び第2の扉部とする。
【0085】
(C)ホーム柵10
ホーム柵状態監視装置1が監視の対象とするホーム柵は、可動式のホーム柵であれば、例えば、昇降式のホーム柵などにも同様に適用可能である。
【0086】
(D)モータ電流値の取得
上述の実施形態では、ホーム柵状態監視装置1は、電流センサ30により計測されたモータ電流値を当該電流センサ30から直接取得しているが、制御装置20を介して取得するようにしてもよい。すなわち、電流センサ30が計測したモータ電流値を制御装置20へ出力し、制御装置20において、モータ電流値を計測日時と対応付けたデータとして蓄積・記憶しておく。そして、例えば1日の運行終了後といった所定タイミングで、制御装置20に蓄積・記憶されたモータ電流値のデータを、ホーム柵状態監視装置1が制御装置20から取得する。モータ電流値のデータの取得の方法としては、例えば、有線通信又は無線通信によって取得するとしてもよいし、着脱可能な記録媒体にモータ電流値のデータを蓄積・記憶しておき、この記録媒体から読み出すことで取得するとしてもよい。更には、制御装置20ではなく、ホーム柵10毎に設けた端末装置を介して、ホーム柵状態監視装置1がモータ電流値のデータを取得するようにしてもよい。
【0087】
この場合、更に、ホーム柵状態監視装置1が行うホーム柵10に生じた異常の兆候を検出する処理(
図7参照)の一部又は全部を、制御装置20やホーム柵10毎に設けた端末装置等の他の装置が行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0088】
1…ホーム柵状態監視装置
200…処理部
202…取得部
204…検出部
300…記憶部
302…ホーム柵状態監視プログラム
310…ホーム柵管理データ
3…プラットホーム
10(10a,10b)…ホーム柵
11…戸袋部
12…扉部
12a…第1の扉部、12b…第2の扉部
13…モータ
13a…第1のモータ、13b…第2のモータ
20…制御装置
21…駆動制御部
22…モータ駆動回路
22a…第1のモータ駆動回路、22b…第2のモータ駆動回路
30…電流センサ
30a…第1の電流センサ、30b…第2の電流センサ