(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154578
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】接合構造体および接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20221005BHJP
B21J 15/00 20060101ALI20221005BHJP
B21J 15/10 20060101ALI20221005BHJP
B29C 65/06 20060101ALI20221005BHJP
B29C 65/60 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
B23K20/12 330
B23K20/12 364
B21J15/00 U
B21J15/10 C
B29C65/06
B29C65/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057682
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】春名 俊祐
(72)【発明者】
【氏名】深田 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】大橋 良司
(72)【発明者】
【氏名】波多野 遼一
【テーマコード(参考)】
4E167
4F211
【Fターム(参考)】
4E167AA22
4E167AA27
4E167BG06
4E167BG08
4E167BG09
4E167BG26
4E167BG29
4E167BG33
4E167DA10
4E167DA11
4E167DA12
4F211TA01
4F211TA06
4F211TA15
4F211TC03
4F211TC13
4F211TN20
4F211TN74
(57)【要約】
【課題】十分な接合強度を有する接合構造体を安価に製造する。
【解決手段】接合構造体1は、第1部材11と、第1部材12と厚さ方向に対向する対向部(32)を含む第2部材12と、第1部材11および第2部材12の接合のために対向部(32)に沿って設けられた複数の接合部13とを備える。複数の接合部13は、対向部(32)の両端部に位置する一対の端部接合部13Aと、一対の端部接合部13Aの間に位置しかつ端部接合部13Aよりも接合強度の低い中間接合部13Bとを備える。端部接合部13Aは、第1部材11と前記第2部材12とを機械的に接合する締結体を含む。中間接合部13Bは、第1部材11と第2部材12とを摩擦撹拌により接合する摩擦撹拌部を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と、当該第1部材と厚さ方向に対向する対向部を含む第2部材と、前記第1部材および前記第2部材の接合のために前記対向部に沿って設けられた複数の接合部とを備えた接合構造体であって、
複数の前記接合部は、
前記対向部の両端部に位置する一対の端部接合部と、
一対の前記端部接合部の間に位置しかつ当該端部接合部よりも接合強度の低い中間接合部とを備え、
前記端部接合部は、前記第1部材と前記第2部材とを機械的に接合する締結体を含み、
前記中間接合部は、前記第1部材と前記第2部材とを摩擦撹拌により接合する摩擦撹拌部を含む、接合構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の接合構造体において、
前記端部接合部は、前記締結体に加えて、前記第1部材と前記第2部材とを摩擦撹拌により接合する摩擦撹拌部とを含み、
前記中間接合部は、前記摩擦撹拌部を含みかつ締結体を含まない、接合構造体。
【請求項3】
請求項2に記載の接合構造体において、
前記摩擦撹拌部は、前記第2部材を厚さ方向に貫通しかつ前記第1部材の厚さ方向の途中まで達するように形成される、接合構造体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の接合構造体において、
前記第2部材は、独立した2つ以上の前記対向部を含み、
一対の前記端部接合部および前記中間接合部は、前記各対向部の少なくとも1つに適用される、接合構造体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の接合構造体において、
前記第1部材および前記第2部材は、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂に強化繊維が含浸された熱可塑性複合材により構成される、接合構造体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の接合構造体において、
前記第1部材は、構造物の外板を構成する板状の部材であり、
前記第2部材は、前記第1部材の裏面に沿って特定方向に延びる非平板状の骨格材である、接合構造体。
【請求項7】
第1部材と、当該第1部材と厚さ方向に対向する対向部を含む第2部材とを接合する方法であって、
前記対向部の両端部に位置する一対の端部接合部を形成する端部接合ステップと、
一対の前記端部接合部の間に、当該端部接合部よりも接合強度の低い中間接合部を形成する中間接合ステップとを含み、
前記端部接合ステップでは、前記端部接合部として、前記第1部材と前記第2部材とを機械的に接合する締結体と、前記第1部材と前記第2部材とを摩擦撹拌により接合する摩擦撹拌部とを含む接合部を形成し、
前記中間接合ステップでは、前記中間接合部として、前記第1部材と前記第2部材とを摩擦撹拌により接合する摩擦撹拌部を含みかつ締結体を含まない接合部を形成し、
前記端部接合ステップおよび前記中間接合ステップを同一の摩擦撹拌接合装置を用いて行う、接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1部材と第2部材とが複数の接合部を介して接合された接合構造体、および当該接合構造体を得るための接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機、鉄道車両、または自動車などの構造物の製造時に、金属または樹脂等からなる二以上の部材を重ね合わせて接合する作業が必要になる場合がある。この接合の一方法として、リベット(締結体)を用いた接合が知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、リベットと溶接とを組み合わせた方法で2枚の板材(上板および下板)を接合することが開示されている。具体的に、特許文献1では、上板を貫通するようにリベットが打設された上で、当該リベットの頭部から溶接用のレーザが照射されることにより、リベットを貫通する溶融金属が形成される。これにより、溶融金属およびリベットを介して上板と下板とが接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1では、上述したリベットと溶接との組み合わせが、車体のルーフパネルにおける複数の接合部に適用される。これにより、ルーフパネルの接合強度が十分に確保されるものと期待される。しかしながら、全ての接合部においてリベットの打設および溶接を行うことが求められるため、製造コストおよび工数が増大する等のデメリットが懸念される。
【0006】
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、十分な接合強度を有しながら比較的安価に製造することが可能な接合構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためのものとして、本発明の一局面に係る接合構造体は、第1部材と、当該第1部材と厚さ方向に対向する対向部を含む第2部材と、前記第1部材および前記第2部材の接合のために前記対向部に沿って設けられた複数の接合部とを備えた接合構造体であって、複数の前記接合部は、前記対向部の両端部に位置する一対の端部接合部と、一対の前記端部接合部の間に位置しかつ当該端部接合部よりも接合強度の低い中間接合部とを備え、前記端部接合部は、前記第1部材と前記第2部材とを機械的に接合する締結体を含み、前記中間接合部は、前記第1部材と前記第2部材とを摩擦撹拌により接合する摩擦撹拌部を含むものである。
【0008】
本発明の他の局面に係る接合方法は、第1部材と、当該第1部材と厚さ方向に対向する対向部を含む第2部材とを接合する方法であって、前記対向部の両端部に位置する一対の端部接合部を形成する端部接合ステップと、一対の前記端部接合部の間に、当該端部接合部よりも接合強度の低い中間接合部を形成する中間接合ステップとを含み、前記端部接合ステップでは、前記端部接合部として、前記第1部材と前記第2部材とを機械的に接合する締結体と、前記第1部材と前記第2部材とを摩擦撹拌により接合する摩擦撹拌部とを含む接合部を形成し、前記中間接合ステップでは、前記中間接合部として、前記第1部材と前記第2部材とを摩擦撹拌により接合する摩擦撹拌部を含みかつ締結体を含まない接合部を形成し、前記端部接合ステップおよび前記中間接合ステップを同一の摩擦撹拌接合装置を用いて行うものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、十分な接合強度を有する接合構造体を比較的安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る接合構造体を示す斜視図である。
【
図4】前記接合構造体の製造時に使用される摩擦撹拌接合装置の全体構成を示す模式図である。
【
図5】前記端部接合部を形成する第1の過程(準備工程)を示す断面図である。
【
図6】前記端部接合部を形成する第2の過程(位置決め工程)を示す断面図である。
【
図7】前記端部接合部を形成する第3の過程(圧入工程)を示す断面図である。
【
図8】前記端部接合部を形成する第4の過程(打設工程)を示す断面図である。
【
図9】前記中間接合部を形成する過程をまとめて示す概略断面図である。
【
図10】前記実施形態の第1の変形例を示す斜視図である。
【
図11】前記実施形態の第2の変形例を示す斜視図である。
【
図12】前記実施形態の第3の変形例を示す斜視図である。
【
図13】前記実施形態の第4の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[接合構造体]
図1は、本発明の一実施形態に係る接合構造体1を示す斜視図である。本図に示すように、接合構造体1は、第1部材11と、第2部材12と、第1部材11と第2部材12とを接合する複数の接合部13とを備える。接合構造体1は、例えば、航空機、鉄道車両、または自動車などの構造物に使用され得る。
【0012】
第1部材11は、前記構造物の外板を構成する部材であり、一定の厚さを有する平板状に形成されている。第1部材11は、前記外板の外側の面となる表面21と、当該表面21の反対側の裏面22とを有する。
【0013】
第2部材12は、本体部31とフランジ部32とを含む断面L字状の骨格材である。以下、本体部31とフランジ部32とが交わる稜線の方向を前後方向、当該前後方向と直交する方向を左右方向とする。本体部31は、第1部材11の裏面22からその面直方向に立設された板状体であり、裏面22に沿って前後方向に延びるように形成されている。フランジ部32は、本体部31における第1部材11側の端部から左右いずれか一方(図では右方)に張り出すように設けられ、第1部材11の裏面22に当接する。言い換えると、フランジ部32は、第1部材11と層状に重なるように第1部材11と厚さ方向に対向している。第2部材12(本体部31およびフランジ部32)の厚さは、第1部材11の厚さと同一でもよいし、異なっていてもよい。なお、フランジ部32は、本発明における「対向部」に相当する。
【0014】
本体部31とフランジ部32との境界は、略90度の角度をもって折れ曲がる折曲部33とされる。言い換えると、第2部材12は、1つの折曲部33を含むことで断面L字状に形成された骨格材である。
【0015】
フランジ部32は、前後方向に延びる長辺と左右方向に延びる短辺とを有する長方形状に形成されている。言い換えると、フランジ部32は、前端E1と後端E2とを有する有端かつ帯状の部材である。このフランジ部32における第1部材11側の面は、第1部材11の裏面22に当接する当接面32aとして機能する。
【0016】
第1部材11および第2部材12は、いずれも熱可塑性複合材により構成されている。具体的に、第1部材11および第2部材12は、熱可塑性樹脂からなる基材と当該基材に含浸された多数の強化繊維とを含む繊維強化熱可塑性樹脂により構成されている。
【0017】
第1部材11および第2部材12の基材として用いることが可能な熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ポリスチレン(PS)、ポリアリールエーテルケトン(PEAK)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ABS樹脂、熱可塑性のエポキシ樹脂などを例示することができる。また、当該基材に含浸される強化繊維としては、例えば炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維、もしくは有機繊維を例示することができる。
【0018】
複数の接合部13は、フランジ部32に沿って前後方向に一直線状に並ぶように配置されている。具体的に、複数の接合部13は、前後一対の端部接合部13Aと、当該一対の端部接合部13Aの間に位置する複数の(ここでは3つの)中間接合部13Bとを有する。端部接合部13Aは、フランジ部32の前端部または後端部、つまりフランジ部32の前端E1または後端E2の近傍にあたる部分を第1部材11に接合する接合部である。中間接合部13Bは、フランジ部32の前後方向の中間部(前端部および後端部を除く部分)を第1部材11に接合する接合部である。以下に説明するとおり、これら端部接合部13Aおよび中間接合部13Bは、端部接合部13Aの方が中間接合部13Bよりも接合強度が高くなるように、互いに異なる接合構造を有する。
【0019】
[各接合部の構造]
図2は、端部接合部13Aの構造を示す断面図である。本図に示すように、端部接合部13Aは、第2部材12のフランジ部32の端部(前端部または後端部)と第1部材11とが重なる重なり部15を接合する接合部であり、リベット40と摩擦撹拌部50とを含む。言い換えると、端部接合部13Aは、リベット40および摩擦撹拌部50の組合せにより重なり部15を比較的強固に接合する接合部である。なお、以下では、第1部材11から第2部材12に向かう側を「上」、その逆を「下」というが、これは説明の便宜のためであり、接合構造体1の姿勢を限定する趣旨ではない。
【0020】
摩擦撹拌部50は、重なり部15において摩擦撹拌された材料が硬化することで形成された接合部である。摩擦撹拌部50は、後述する回転ツール101が圧入された領域に対応する円柱状に形成される。摩擦撹拌部50は、必ずしも下側の第1部材11まで達している必要はないが、本実施形態では、摩擦撹拌部50が第1部材11まで達するように、その深さが第2部材12(フランジ部32)の厚さよりも大きい値に設定されている。摩擦撹拌部50は、当該摩擦撹拌部50とその外周側の非摩擦撹拌部(母材領域)との境界に相当する位置に、円筒状の側周面50aを有する。また、摩擦撹拌部50は、当該摩擦撹拌部50とその下側の非摩擦撹拌部(母材領域)との境界に相当する位置に、円形の底面50bを有する。
【0021】
リベット40は、第1部材11と第2部材12とを機械的に接合するように重なり部15に打設された締結体である。本実施形態では、リベット40として、下穴をもたない材料に非貫通で打設されるセルフピアスリベットが用いられる。リベット40の材質は、重なり部15に打設可能な強度を有するものであればよく、適宜の材料から選択可能である。例えば、チタンや高張力鋼等の金属材、もしくは熱可塑性樹脂や熱可塑性複合材等の樹脂材を、リベット40の材質として用いることができる。本実施形態のように繊維強化樹脂材の接合のためにチタン製のリベット40を用いる場合は、例えばTi-6AL-4V等のチタン合金製のリベットが好適である。
【0022】
リベット40は、後述する回転ツール101の圧入後(重なり部15の摩擦撹拌後)に、当該重なり部15に打設される。この打設後の状態において、リベット40は、第2部材12のフランジ部32の上面に圧接された円板状の頭部41と、頭部41の下面から先拡がり状に拡径しつつ延びる中空の軸部42とを備える。軸部42は、第2部材12(フランジ部32)を貫通しかつ第1部材11の厚さ方向の途中まで延びるように配置される。軸部42は、頭部41から離れるほど拡径することにより、摩擦撹拌部50の外側まで突出する先端部42aを有する。この先端部42aは、第1部材11と第2部材12(フランジ部32)とを圧接状態で固定するインターロック部として機能する。すなわち、第1部材11と第2部材12とは、摩擦撹拌部50の外側まで突出する先端部42aからなるインターロック部と、第2部材12の上面に配置される頭部41との間に挟まれることにより、互いに圧接状態で固定される。
【0023】
図3は、中間接合部13Bの構造を示す断面図である。本図に示すように、中間接合部13Bは、第2部材12のフランジ部32の前後方向中間部と第1部材11とが重なる重なり部16を接合する接合部であり、摩擦撹拌部51を含む。端部接合部13Aとは異なり、中間接合部13Bはリベット40(
図2)を含まない。中間接合部13Bにリベット40が用いられないことから、中間接合部13Bの接合強度は端部接合部13Aのそれよりも低くなる。
【0024】
中間接合部13Bにおける摩擦撹拌部51は、上述した端部接合部13Aにおける摩擦撹拌部50と同様に、重なり部16において摩擦撹拌された材料が硬化することで形成された接合部であり、第2部材12(フランジ部32)の厚さよりも大きい深さを有する円柱状に形成される。摩擦撹拌部51は、当該摩擦撹拌部51とその外周側の非摩擦撹拌部(母材領域)との境界に相当する位置に、円筒状の側周面51aを有する。また、摩擦撹拌部51は、当該摩擦撹拌部51とその下側の非摩擦撹拌部(母材領域)との境界に相当する部位に、円形の底面51bを有する。
【0025】
[摩擦撹拌接合装置]
上述した端部接合部13Aおよび中間接合部13Bを含む接合構造体1は、
図4に示される摩擦撹拌接合装置Mを用いて製造される。本図に示すように、摩擦撹拌接合装置Mは、複動式の回転ツール101と、回転ツール101を回転および昇降駆動するツール駆動部102と、ツール駆動部102の動作を制御するコントローラCとを含む。なお、
図4には「上」「下」の方向表示を付しているが、これは説明の便宜のためであり、実際の回転ツール101の使用姿勢を限定する趣旨ではない。
【0026】
回転ツール101は、図略のツール固定部によって支持される。このツール固定部は、例えば多関節ロボットの先端部とすることができる。回転ツール101の下端面に対向して、バックアップ部材115が配置されている。回転ツール101とバックアップ部材115との間には、接合対象である第1部材11および第2部材12が配置される。なお、
図4には、端部接合部13Aを形成する場合における各部材の配置例を示している。つまり、
図4に例示される接合対象は、第1部材11と第2部材12のフランジ部32とが前後方向の端部において重なる重なり部15である。
【0027】
回転ツール101は、ピン部材111と、ショルダ部材112と、クランプ部材113と、スプリング114とを備える。ピン部材111は円柱状に形成された部材であり、その軸線が上下方向に延びるように配置されている。ピン部材111は、前記軸線を回転軸Rとして回転することが可能であり、かつ、回転軸Rに沿って上下方向に昇降(進退移動)することが可能である。
【0028】
ショルダ部材112は、ピン部材111の外周を覆うように配置されている。すなわち、ショルダ部材112は、ピン部材111が内挿される中空部を備えた円筒状の部材である。ショルダ部材112の軸線は、ピン部材111の軸線(回転軸R)と同軸上にある。ショルダ部材112は、ピン部材111と同一の回転軸R回りに回転し、かつ回転軸Rに沿って上下方向に昇降(進退移動)することが可能である。このように、ショルダ部材112とその中空部に内挿されたピン部材111とは、いずれも回転軸R回りに回転しかつ当該回転軸Rに沿って相対移動することが可能である。すなわち、ピン部材111およびショルダ部材112は、回転軸Rに沿って同時に昇降するだけでなく、一方が下降し他方が上昇するという独立移動が可能である。
【0029】
クランプ部材113は、ショルダ部材112の外周を覆うように配置されている。すなわち、クランプ部材113は、ショルダ部材112が内挿される中空部を備えた円筒状の部材である。クランプ部材113の軸線も、回転軸Rと同軸上にある。クランプ部材113は、軸回りに回転はしないが、回転軸Rに沿って上下方向に昇降(進退)することが可能である。クランプ部材113は、ピン部材111またはショルダ部材112が摩擦撹拌を行う際に、これらの外周を囲う役目を果たす。クランプ部材113の囲いによって、摩擦撹拌材料を四散させず、摩擦撹拌部を平滑に仕上げることができる。
【0030】
スプリング114は、クランプ部材113の上端側に取り付けられ、クランプ部材113を接合対象に向かう方向(下方)に付勢している。クランプ部材113は、スプリング114を介して、前記ツール固定部に取り付けられている。
【0031】
バックアップ部材115は、接合対象の下面に当接する上面(支持面)を備える。すなわち、バックアップ部材115は、ピン部材111またはショルダ部材112が接合対象に圧入される際に、当該接合対象を支持する裏当て部材である。スプリング114で付勢されたクランプ部材113は、接合対象をバックアップ部材115に押し当てる。
【0032】
ツール駆動部102は、回転駆動部121、ピン駆動部122、ショルダ駆動部123およびクランプ駆動部124を含む。回転駆動部121は、モーターおよび駆動ギア等を含み、ピン部材111およびショルダ部材112を回転軸R回りに回転駆動する。ピン駆動部122は、回転軸Rに沿ってピン部材111を進退移動(昇降)させる機構である。ピン駆動部122は、ピン部材111の接合対象への圧入並びに接合対象からの退避を行うように、ピン部材111を駆動する。ショルダ駆動部123は、回転軸Rに沿ってショルダ部材112を進退移動させる機構であって、ショルダ部材112の接合対象への圧入並びに退避を行わせる。クランプ駆動部124は、回転軸Rに沿ってクランプ部材113を進退移動させる機構である。クランプ駆動部124は、クランプ部材113を接合対象に向けて移動させ、接合対象をバックアップ部材115に押圧させる。この際、スプリング114の付勢力が作用する。
【0033】
コントローラCは、マイクロコンピュータ等からなり、所定の制御プログラムを実行することでツール駆動部102の各部の動作を制御する。具体的に、コントローラCは、回転駆動部121を制御して、ピン部材111およびショルダ部材112に所要の回転動作を行わせる。また、コントローラCは、ピン駆動部122、ショルダ駆動部123、およびクランプ駆動部124を制御して、ピン部材111、ショルダ部材112、およびクランプ部材113に所要の進退移動動作を行わせる。
【0034】
以上のような構造の摩擦撹拌接合装置Mは、通常、二以上の部材を摩擦撹拌接合により接合するために使用される。この摩擦撹拌接合装置Mを用いた摩擦撹拌接合は、ショルダ先行プロセスによる接合方法と、ピン先行プロセスによる接合方法とに大別することができる。
【0035】
ショルダ先行プロセスによる接合方法では、前記二以上の部材の重なり部に対し回転ツール101のショルダ部材112を先行して圧入させて摩擦撹拌を行うとともに、ピン部材111を前記重なり部から退避させる。その後、ショルダ部材112を退避(上昇)させつつピン部材111を下降させることにより、前記重なり部の上面を平滑化する。これに対し、ピン先行プロセスによる接合方法では、前記重なり部に対し回転ツール101のピン部材111を先行して圧入させて摩擦撹拌を行うとともに、ショルダ部材112を前記重なり部から退避させる。その後、ピン部材111を退避(上昇)させつつショルダ部材112を下降させることにより、前記重なり部の上面を平滑化する。
【0036】
[接合構造体の製造]
ここで、本実施形態において接合構造体1を製造する際には、上述した通常の摩擦撹拌接合(ショルダ先行プロセスまたはピン先行プロセスによる接合方法)だけでなく、リベット40(
図2)の打設と摩擦撹拌接合とを組み合わせたリベット併用摩擦撹拌接合が用いられる。リベット併用摩擦撹拌接合は、接合手段としてリベットが追加される点で通常の摩擦撹拌接合とは異なるが、本実施形態ではショルダ先行プロセスを応用することにより、
図4に示した同一の摩擦撹拌接合装置Mを用いてリベット併用摩擦撹拌接合を実現することが可能である(その詳細は後述する)。すなわち、本実施形態の接合構造体1は、同一の摩擦撹拌接合装置Mを用いたリベット併用摩擦撹拌接合と通常の摩擦撹拌接合とを組み合わせて製造される。例えば、接合構造体1は概略的に次のような手順で製造することができる。
【0037】
まず、第1部材11と第2部材12とを、第1部材11の裏面22に第2部材12のフランジ部32の当接面32aが当接する状態に配置する。
【0038】
次に、同一の摩擦撹拌接合装置Mを用いてフランジ部32の複数箇所と第1部材11とを接合し、フランジ部32に沿って複数の接合部13を形成する。この接合に際しては、フランジ部32の接合箇所に応じてリベット併用摩擦撹拌接合と通常の摩擦撹拌接合とを使い分ける。具体的には、フランジ部32の前端部および後端部をリベット併用摩擦撹拌接合により第1部材11と接合することにより、前後一対の端部接合部13Aを形成するとともに、フランジ部32の中間部の複数箇所を通常の摩擦撹拌接合により第1部材11と接合することにより、複数の(
図1では3つの)中間接合部13Bを形成する。これにより、第1部材11と第2部材12のフランジ部32とが複数の接合部13(一対の端部接合部13Aおよび複数の中間接合部13B)により接合された接合構造体1が製造される。なお、上述したリベット併用摩擦撹拌接合による端部接合部13Aの形成は、本発明における端部接合ステップに相当し、上述した通常の摩擦撹拌接合による中間接合部13Bの形成は、本発明における中間接合ステップに相当する。
【0039】
複数の接合部13を形成する順番は任意に設定可能である。例えば、一対の端部接合部13Aを形成した後に複数の中間接合部13Bを形成してもよいし、複数の中間接合部13Bを形成した後に一対の端部接合部13Aを形成してもよい。
【0040】
[端部接合部の形成方法]
次に、摩擦撹拌接合装置Mを用いて端部接合部13Aを形成する方法について詳しく説明する。端部接合部13Aは、上述したリベット併用摩擦撹拌接合により形成される。すなわち、第1部材11と第2部材12のフランジ部32との重なり部15に対し回転ツール101のショルダ部材112が圧入されて摩擦撹拌が実行されるとともに、当該摩擦撹拌後の重なり部15にリベット40が打設されることにより、端部接合部13Aが形成される。詳しくは、当該端部接合部13Aの形成方法には、下記の4つの工程P11~P14が含まれる。
【0041】
工程P11は、
図5に示すように、リベット40を回転ツール101に装着する準備工程である。この準備工程P11において回転ツール101に装着されるリベット40は、重なり部15に打設される前のリベット40であり、その軸部42は未だ拡径していない。すなわち、準備工程P11で用いられるリベット40は、頭部41と、当該頭部41からストレート状に延びる円筒形の軸部42とを備えている。軸部42の下端の開口縁である先端部42aは、先端側ほど肉厚が減少する(先鋭化する)ように内周面がテーパ加工されている。
【0042】
リベット40を回転ツール101に装着するため、コントローラC(
図4)は、ピン駆動部122を駆動してピン部材111を上昇させ、ショルダ部材112の内部にリベット40の収容空間Hを創出する。すなわち、コントローラCは、ピン部材111の先端(下端)111aを、リベット40の全高さ以上のストロークだけショルダ部材112の先端(下端)112aに対し上昇させることにより、ショルダ部材112の下端開口に連なる収容空間Hを形成する。この収容空間Hにリベット40を収容可能とするため、リベット40としては、ショルダ部材112の内径よりもわずかに小さい外径を有するものが選択される。
【0043】
工程P12は、
図6に示すように、リベット40が装着された回転ツール101を重なり部15に位置決めする位置決め工程である。この位置決め工程P12において、コントローラCは、バックアップ部材115上に支持された重なり部15の中心に回転ツール101の回転軸R(
図4)が一致するように位置決めした上で、ショルダ部材112およびクランプ部材113の各先端112a,113aが第2部材12(フランジ部32)の上面に当接するようにショルダ駆動部123およびクランプ駆動部124を制御する。また、コントローラCは、ピン部材111の先端111aと第2部材12(フランジ部32)の上面との間にリベット40が収容されるように、ピン部材111とショルダ部材112との軸方向の相対位置関係(ピン先端111aがショルダ先端112aに対し所定量上方に退避した状態)を保持する。
【0044】
工程P13は、
図7に示すように、ショルダ部材112を圧入する圧入工程である。この圧入工程P13において、コントローラCは、回転駆動部121を制御してピン部材111およびショルダ部材112を高速回転させつつ、ショルダ駆動部123を制御してショルダ部材112を下降させ、当該ショルダ部材112を重なり部15に圧入する。また、コントローラCは、ピン駆動部122を制御してピン部材111を上昇させる。この動作により、重なり部15が摩擦撹拌されて、材料の軟化および塑性流動が生じ、軟化した材料Q1がショルダ部材112の圧入領域から溢れ出す。溢れ出した軟化材料Q1は、ピン部材111の上昇(退避)により生じたショルダ部材112内の中空空間に逃がされる(矢印b1参照)。なお、圧入工程P13の開始時において、既に収容空間H(
図5)が形成されるほどピン部材111は上方に退避しているので、前記のピン部材111の退避動作は省いてもよい。
【0045】
ショルダ部材112の圧入深さをh1とすると、この圧入深さh1は、ショルダ部材112が上側の第2部材12を貫通しかつ下側の第1部材11を貫通しないような値に設定されることが好ましい。言い換えると、圧入深さh1は、第2部材12のフランジ部32の厚さt2よりも大きく、かつ、当該厚さt2と第1部材11の厚さt1との合計(t1+t2)よりも小さい値に設定されることが好ましい。この場合、後述する打設工程P14の後に形成される摩擦撹拌部50(
図8参照)は、第2部材12(フランジ部32)を厚さ方向に貫通しかつ第1部材11の厚さ方向の途中(第1部材11の表面21と裏面22との間)まで達するものとなる。
【0046】
本実施形態において、第1部材11および第2部材12は熱可塑性複合材であるから、前記摩擦撹拌により軟化した材料Q1には強化繊維が含まれている。ただし、この軟化材料Q1中の強化繊維は、摩擦撹拌によって細かく切断されている。このことは、後続するリベット40の打設を容易とする。
【0047】
工程P14は、
図8(a)(b)に示すように、リベット40を重なり部15に打設する打設工程である。この打設工程P14において、コントローラCは、回転駆動部121を制御してピン部材111およびショルダ部材112を高速回転させつつ、ショルダ駆動部123を制御してショルダ部材112を上昇させる。また、このショルダ部材112の上昇に続けて、コントローラCは、ピン駆動部122を制御してピン部材111を下降させる。この動作により、重なり部15に円柱状の摩擦撹拌部50が形成されるとともに、この摩擦撹拌部50を含む領域にリベット40が打設される。以下、摩擦撹拌部50の形成およびリベット40の打設について詳しく説明する。
【0048】
まず、打設工程P14による摩擦撹拌部50の形成について説明する。打設工程P14では、ショルダ部材112が上昇しかつピン部材111が下降することにより、前記中空空間に逃がされていた軟化材料Q1(
図7)が、ショルダ部材112が圧入されていた領域へと移動し、材料の埋め戻しが行われる。埋め戻された材料は、前記中空空間に存在していた材料と共に、重なり部15に摩擦撹拌部50を形成する。摩擦撹拌部50は、重なり部15において摩擦撹拌を経験した材料により構成され、ショルダ部材112の外径ds(
図8(b))に略一致する外径と、ショルダ部材112の圧入深さh1(
図7)に略一致する高さとを有した円柱状に形成される。すなわち、摩擦撹拌部50は、高さh1の円筒形の側周面50aと、外径dsの円形の底面50bとを有する。摩擦撹拌部50では材料が軟化している一方で、摩擦撹拌部50の周囲の母材領域では、第1部材11および第2部材12の本来の硬度が維持され、強化繊維による補強構造も維持されている。
【0049】
次に、打設工程P14によるリベット40の打設について説明する。打設工程P14では、ピン部材111の下降に応じてリベット40が下方に押圧され、押圧されたリベット40が重なり部15に押し込まれる。言い換えると、打設工程P14では、回転ツール101に備わる既存の部品(ピン部材111)を用いてリベット40が打設される。このため、本実施形態では、リベット40を打設する工具を別途準備することなく、リベット40と摩擦撹拌部50とを含む端部接合部13Aを形成することが可能である。
【0050】
具体的に、打設工程P14では、ピン駆動部122がピン部材111を下降させてリベット40の頭部41に押圧力を与え、リベット40を重なり部15へ押し込む(
図8(a)参照)。リベット40は、ピン部材111の先端111aに頭部41の頂面が対向するように、予め収容空間H(
図5)に装填されている。したがって、ピン部材111が下降すると、リベット40も下降し、その軸部42が先端側から摩擦撹拌部50の内部へ進入してゆく。このようなリベット40の進入(ピン部材111の押下)が進行すると、やがて軸部42の先端部42aが摩擦撹拌部50の底面50bに到達する。ここで、底面50bよりも下方の領域は未軟化の母材領域であるから、先端部42aが底面50bに到達すると、軸部42に作用する軸方向の抵抗力が増大する。したがって、少なくとも先端部42aが底面50bに到達した状態において、軸部42には、その先端部42aを拡径させる力が作用する。このような拡径力の発生は、先端部42aの内周面に付されたテーパ形状によって助長される。すなわち、先端部42aが底面50bに到達することによる抵抗力の増大と、先端部42aのテーパ形状との相乗効果により、
図8(b)に示すように、リベット40の軸部42が先拡がり状(ベル型)に変形させられる。
【0051】
図8(b)は、リベット40の頭部41が重なり部15の上面(第2部材12のフランジ部32の上面)に到達した状態、つまりリベット40の打設が完了した状態を示している。本図に示すように、リベット40の打設完了時、その軸部42の先端部42aは、摩擦撹拌部50の底面50bを越えてその下方の前記母材領域へ圧入されるだけでなく、摩擦撹拌部50の側周面50aを越えてその外側の母材領域へも圧入されるようになる。このように摩擦撹拌部50の外側に圧入された先端部42aは、第1部材11と第2部材12とを引き剥がす力に抗するアンカー効果を発揮する。すなわち、先端部42aは、第1部材11と第2部材12(フランジ部32)とを固定するインターロック部として機能する。
【0052】
以上の工程P11~P14により、重なり部15に摩擦撹拌部50が形成されかつリベット40が打設される。リベット40および摩擦撹拌部50は、第1部材11と第2部材12のフランジ部32とを重なり部15において接合する端部接合部13Aを構築する。すなわち、リベット40と摩擦撹拌部50とを含む端部接合部13Aが重なり部15に形成されることにより、第2部材12のフランジ部32がその前後方向の端部において第1部材11と接合される。
【0053】
[中間接合部の形成方法]
次に、摩擦撹拌接合装置Mを用いて中間接合部13Bを形成する方法について詳しく説明する。中間接合部13Bは、上述した通常の摩擦撹拌接合により形成される。通常の摩擦撹拌接合には、既に説明したショルダ先行プロセスとピン先行プロセスとがあり、いずれの方法によっても中間接合部13Bを形成することが可能であるが、本実施形態では、ショルダ先行プロセスにより中間接合部13Bを形成する場合について説明する。この場合、中間接合部13Bは、
図9に示す4つの工程P21~P24によって形成される。
【0054】
工程P21は、回転ツール101を重なり部16に位置決めする位置決め工程である。この位置決め工程P21において、コントローラC(
図4)は、バックアップ部材115上に支持された重なり部16の中心に回転ツール101の回転軸R(
図4)が一致するように位置決めした上で、ピン部材111、ショルダ部材112、およびクランプ部材113の各先端111a~113aが第2部材12のフランジ部32の上面に当接するようにツール駆動部102を制御する。
【0055】
工程P22は、ショルダ部材112を圧入する圧入工程である。この圧入工程P22において、コントローラCは、回転駆動部121を制御してピン部材111およびショルダ部材112を高速回転させつつ、ショルダ駆動部123を制御してショルダ部材112を下降させ、当該ショルダ部材112を重なり部16に圧入する。また、コントローラCは、ピン駆動部122を制御してピン部材111を上昇させる。この動作により、重なり部16が摩擦撹拌されて、材料の軟化および塑性流動が生じ、軟化した材料Q2がショルダ部材112の圧入領域から溢れ出す。溢れ出した軟化材料Q2は、ピン部材111の上昇(退避)により生じたショルダ部材112内の中空空間に逃がされる(矢印b2参照)。ショルダ部材112の圧入深さh2は、ショルダ部材112が少なくとも上側の第2部材12を貫通するような値に設定される。なお、
図9には、ショルダ部材112が下側の第1部材11の厚さ方向の途中まで圧入される例が示されている。この場合、後述するならし工程P24後に形成される摩擦撹拌部51は、第2部材12(フランジ部32)を厚さ方向に貫通しかつ第1部材11の厚さ方向の途中まで達するものとなる。
【0056】
工程P23は、溢れ出した軟化材料Q2を埋め戻す埋め戻し工程である。この埋め戻し工程P23において、コントローラCは、ピン部材111およびショルダ部材112を高速回転させつつ、ショルダ部材112が上昇(退避)しかつピン部材111が下降するようにショルダ駆動部123およびピン駆動部122を制御する。この動作により、矢印b3で示すように、前記中空空間に逃がされていた軟化材料Q2が、ショルダ部材112が圧入されていた領域へと移動し、材料の埋め戻しが行われる。埋め戻された材料は、前記中空空間に存在していた材料と共に、重なり部16に摩擦撹拌部51を形成する(次の工程P24の図参照)。摩擦撹拌部51は、重なり部16において摩擦撹拌を経験した材料により構成され、ショルダ部材112の外径dsに略一致する外径と、ショルダ部材112の圧入深さh2に略一致する高さとを有した円柱状に形成される。すなわち、摩擦撹拌部51は、高さh2の円筒形の側周面51aと、外径dsの円形の底面51bとを有する。
【0057】
工程P24は、摩擦撹拌部51を整形するならし工程である。このならし工程P24において、コントローラCは、ピン部材111およびショルダ部材112の各先端111a,112aを第2部材12のフランジ部32の上面の高さ位置に復帰させた状態で、回転駆動部121を駆動してピン部材111およびショルダ部材112を所定の回転数で回転させる。この動作により、摩擦撹拌部51の上面が整形され、ほとんど凹凸が生じない程度に平滑化される。
【0058】
以上の工程P21~P24により、上面が平滑な摩擦撹拌部51が重なり部16に形成される。摩擦撹拌部51は、第1部材11と第2部材12のフランジ部32とを重なり部16において接合する中間接合部13Bを構築する。すなわち、摩擦撹拌部51からなる中間接合部13Bが重なり部16に形成されることにより、第2部材12のフランジ部32がその前後方向中間部において第1部材11と接合される。中間接合部13Bには上述したリベット40が含まれないため、この中間接合部13Bの接合強度は、リベット40を含む端部接合部13Aの接合強度よりも低い。
【0059】
[作用効果]
以上説明したように、本実施形態の接合構造体1では、第1部材11とこれに当接する第2部材12のフランジ部32とが、リベット40および摩擦撹拌部50を含む前後一対の端部接合部13Aと、摩擦撹拌部51を含みかつリベット40を含まない中間接合部13Bとにより接合されるので、十分な強度を有する接合構造体1を比較的安価に製造できるという利点がある。
【0060】
摩擦撹拌部は、摩擦撹拌により軟化した材料が融着して得られる接合部であるから、その接合強度(耐荷重)は、機械的な接合手段であるリベット40を用いた接合の強度に比べれば低くなり易い。これに対し、本実施形態における端部接合部13Aには、摩擦撹拌部50に加えてリベット40が含まれるので、端部接合部13Aは必然的に高い接合強度を有する。言い換えると、本実施形態では、摩擦撹拌部50とリベット40とを含む端部接合部13Aの接合強度を、摩擦撹拌部51のみを含む(リベット40を含まない)中間接合部13Bの接合強度よりも十分に高くすることができる。しかも、接合強度の高い端部接合部13Aは、曲げやせん断などの外力が加わった場合に高い応力が発生し易いフランジ部32の端部に適用されるので、前記の外力により端部接合部13Aが破断等に至るのを効果的に抑止でき、接合構造体1の接合強度を全体として十分に確保することができる。
【0061】
一方で、一対の端部接合部13Aの間に位置する中間接合部13Bについては、摩擦撹拌部51を含みかつリベット40を含まないので、副資材としてのリベット40を中間接合部13Bにおいて省略することができる。これにより、リベット40の所要数が削減されるので、接合構造体1の製造コストおよび当該製造にかかる工数を抑制することができる。また、リベット40の追加による接合構造体1の重量増加を抑制できるという利点もある。
【0062】
特に、本実施形態では、端部接合部13Aの形成時に、摩擦撹拌接合装置Mに備わる既存のピン部材111を用いてリベット40が打設されるので、リベット40を打設するための専用の装置を用意することが不要になる。これにより、端部接合部13Aおよび中間接合部13Bを同一の摩擦撹拌接合装置Mを用いて形成することができ、接合構造体1の製造効率を効果的に向上させることができる。
【0063】
[変形例]
前記実施形態では、端部接合部13Aおよび中間接合部13Bを形成する際に、第1部材11と第2部材12(フランジ部32)との重なり部15,16に対し第2部材12の側から回転ツール101を圧入するようにしたが、これとは反対に第1部材11の側から回転ツール101を圧入してもよい。
【0064】
前記実施形態では、第1部材11と第2部材12とを重ね合わせた(互いに当接させた)状態で接合したが、第1部材11および第2部材12に対し一以上の他の部材をさらに重ね合わせた状態でこれらの部材を接合してもよい。すなわち、本発明の接合構造体は、少なくとも2つの部材が複数の接合部(一対の端部接合部および中間接合部)により接合されたものであればよく、3つ以上の部材が複数の接合部により接合されたものであってもよい。
【0065】
前記実施形態では、第1部材11および第2部材12の双方を、熱可塑性樹脂製の基材と当該基材に含浸された多数の強化繊維とを含む熱可塑性複合材によって構成したが、第1部材11および第2部材12の材質は互いに異なるものであってもよい。例えば、第1部材11および第2部材12の一方が熱可塑性樹脂の成形体で、他方が繊維強化複合材の成形体であってもよい。あるいは、第1部材11および第2部材12の一方が金属の成形体で、他方がこれとは異質の金属または熱可塑性樹脂の成形体であってもよい。
【0066】
前記実施形態では、一対の端部接合部13Aの間に3つの中間接合部13Bを設けたが、中間接合部13Bの数はフランジ部32の長さ等に応じて適宜変更し得る。例えば、中間接合部13Bの数は1つでもよいし、2つあるいは3つ以上でもよい。
【0067】
前記実施形態では、第1部材11と第2部材12のフランジ部32とを前後方向に1列に並ぶ複数の接合部13によって接合したが、複数列に並ぶ接合部によって両者を接合することも可能である。その一例を
図10に示す。本図に示される接合構造体1Aは、前記実施形態と同様の第1部材11と、比較的幅広なフランジ部63と本体部62とを含む第2部材61とを備える。フランジ部63は、前後方向に2列に並ぶ複数の接合部13によって第1部材11と接合されている。
図10に示すラインL1に沿って並ぶ接合部13の列を第1列、当該ラインL1と平行なラインL2に沿って並ぶ接合部13の列を第2列とした場合、これら第1列および第2列の各接合部は、それぞれ、前後一対の端部接合部13Aと、その間に位置する複数の(3つの)中間接合部13Bとを含む。各端部接合部13Aは、リベット40および摩擦撹拌部50(
図2)を含み、各中間接合部13Bは、摩擦撹拌部51(
図3)のみを含む。ただし、このような2種類の接合部の混合構造(リベット40を含む端部接合部13Aとリベット40を含まない中間接合部13Bとを混合した構造)を第1列および第2列の双方に適用する必要はなく、少なくとも一方の列に当該混合構造が適用されていればよい。例えば、第1列および第2列の一方にのみ前記混合構造を適用した場合、他方の列の接合部13については全てリベット40を含まない構造(中間接合部13Bと同様の構造)としてもよい。このことは、3列以上の接合部の列を設ける場合でも同様である。
【0068】
図10の接合構造体1Aでは、比較的幅広のフランジ部63内で接合部13を複数列に並ぶように配置したが、これに代えて
図11に示す接合構造体1Bのように、接合部13を千鳥状に並ぶように配置してもよい。この場合、フランジ部63における最も前側または後側の接合部13が、リベット40および摩擦撹拌部50を含む端部接合部13Aとされ、それ以外の接合部13が、摩擦撹拌部51を含む中間接合部13Bとされる。
【0069】
前記実施形態では、平板状の第1部材11と断面L字状の第2部材12とが接合された接合構造体1に本発明を適用した例について説明したが、本発明は、二以上の部材が接合されてなる接合構造体に広く適用可能であり、上記実施形態の例に限定されない。
【0070】
例えば、
図12に示される接合構造体1Cに本発明を適用することが可能である。
図12の接合構造体1Cは、前記実施形態と同様の平板状の第1部材11と、断面ハット状に形成された第2部材71とを備える。第2部材71は、逆U字状の断面をもって前後方向に延びる本体部72と、本体部72の両側辺部からそれぞれ左右に張り出すように設けられた一対のフランジ部73とを備えた骨格材である。各フランジ部73は、その第1部材11側の面に、それぞれ独立した当接面73aを有する。各フランジ部73は、それぞれ前後方向に並ぶ複数の接合部13によって第1部材11と接合されている。このような接合構造体1Cにおいて、少なくとも一方(
図12では右側)のフランジ部73には、前記実施形態と同様の接合構造が適用されている。すなわち、少なくとも一方のフランジ部73には、前後一対の端部接合部13Aと、その間に位置する複数の(3つの)中間接合部13Bとが設けられている。各端部接合部13Aは、リベット40および摩擦撹拌部50(
図2)を含み、各中間接合部13Bは、摩擦撹拌部51(
図3)のみを含む。なお、他方(
図12では左側)のフランジ部73の接合構造は特に問わないが、前記一方のフランジ部73と同様に、端部接合部13Aおよび中間接合部13Bを混合した構造としてもよい。
【0071】
さらに別の変形例として、板状の第1部材に断面Z字状の骨格材を接合した接合構造体に本発明を適用することも可能である。このように、本発明は、板状部材(第1部材)とこれに接合される非平板状の骨格材(第2部材)とを接合した接合構造体に好適に適用可能である。
【0072】
前記実施形態では、第2部材12(フランジ部32)を厚さ方向に貫通しかつ第1部材11の厚さ方向の途中まで達する摩擦撹拌部50を端部接合部13Aに形成したが、摩擦撹拌部50の深さは種々変更可能である。例えば、第2部材12を過不足なく貫通する(第1部材11には達しない)摩擦撹拌部を端部接合部13Aに形成してもよい。さらに、
図13に示すように、第2部材12を貫通しない摩擦撹拌部50’、換言すれば第2部材12の厚さ方向の途中まで達する摩擦撹拌部50’を端部接合部13Aに形成してもよい。
【0073】
前記実施形態では、フランジ部32における最も前側または後側に位置する接合部13をリベット40および摩擦撹拌部50を含む端部接合部13Aとし、それ以外の接合部を摩擦撹拌部51のみを含む(リベット40を含まない)中間接合部13Bとしたが、端部接合部13Aには少なくともリベットが含まれていればよく、中間接合部13Bには少なくとも摩擦撹拌部が含まれていればよい。例えば、端部接合部をリベットのみを含む構造とすること、つまり端部接合部から摩擦撹拌部を省略することも可能である。また、中間接合部についても、端部接合部よりも接合強度が低くかつ摩擦撹拌部を含む限りにおいて種々の変更が可能である。
【0074】
[まとめ]
上述した実施形態およびその変形例には主に以下の発明が含まれている。
【0075】
本発明の一局面に係る接合構造体は、第1部材と、当該第1部材と厚さ方向に対向する対向部を含む第2部材と、前記第1部材および前記第2部材の接合のために前記対向部に沿って設けられた複数の接合部とを備えた接合構造体であって、複数の前記接合部は、前記対向部の両端部に位置する一対の端部接合部と、一対の前記端部接合部の間に位置しかつ当該端部接合部よりも接合強度の低い中間接合部とを備え、前記端部接合部は、前記第1部材と前記第2部材とを機械的に接合する締結体を含み、前記中間接合部は、前記第1部材と前記第2部材とを摩擦撹拌により接合する摩擦撹拌部を含むものである。
【0076】
摩擦撹拌部は、摩擦撹拌により軟化した材料が融着して得られる接合部であるから、その接合強度(耐荷重)は、機械的な接合手段である締結体を用いた接合の強度に比べれば低くなり易い。このことは、締結体を含む端部接合部の接合強度を、摩擦撹拌部を含む中間接合部のよりも十分に高くできることを意味する。しかも、接合強度の高い端部接合部は、曲げやせん断などの外力が加わった場合に高い応力が発生し易い対向部の端部に適用されるので、前記の外力により端部接合部が破断等に至るのを効果的に抑止でき、接合構造体の接合強度を全体として十分に確保することができる。
【0077】
一方で、一対の端部接合部の間に位置する中間接合部は、摩擦撹拌部を含む構造であればよく、副資材としての締結体を中間接合部において省略することができる。これにより、締結体の所要数が削減されるので、接合構造体の製造コストおよび当該製造にかかる工数を抑制することができる。また、締結体の追加による接合構造体の重量増加を抑制できるという利点もある。
【0078】
好ましくは、前記端部接合部は、前記締結体に加えて、前記第1部材と前記第2部材とを摩擦撹拌により接合する摩擦撹拌部とを含み、前記中間接合部は、前記摩擦撹拌部を含みかつ締結体を含まない。
【0079】
この構成によれば、締結体と摩擦撹拌部とが組み合わされた端部接合部の接合強度を、摩擦撹拌部のみを含む中間接合部の接合強度よりも十分に高くすることができる。
【0080】
前記摩擦撹拌部は、例えば、前記第2部材を厚さ方向に貫通しかつ前記第1部材の厚さ方向の途中まで達するように形成することができる。
【0081】
この構成によれば、第1部材と第2部材とを摩擦撹拌部によって適切に接合することができる。
【0082】
前記第2部材は、独立した2つ以上の前記対向部を含むものであってもよい。この場合、一対の前記端部接合部および前記中間接合部は、前記各対向部の少なくとも1つに適用されていればよい。
【0083】
前記第1部材および前記第2部材の材質は特に問わないが、好適例として、前記第1部材および前記第2部材は、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂に強化繊維が含浸された熱可塑性複合材である。
【0084】
この構成によれば、熱可塑性樹脂または熱可塑性複合材製の部材どうしを所望の強度で接合しつつその製造コスト等を抑制することができる。
【0085】
前第1部材および前記第2部材の形状および用途は特に問わないが、好適例として、前記第1部材は、構造物の外板を構成する板状の部材であり、前記第2部材は、前記第1部材の裏面に沿って特定方向に延びる非平板状の骨格材である。
【0086】
この構成によれば、板材と骨格材とを所望の強度で接合しつつその製造コスト等を抑制することができる。
【0087】
本発明の他の局面に係る接合方法は、第1部材と、当該第1部材と厚さ方向に対向する対向部を含む第2部材とを接合する方法であって、前記対向部の両端部に位置する一対の端部接合部を形成する端部接合ステップと、一対の前記端部接合部の間に、当該端部接合部よりも接合強度の低い中間接合部を形成する中間接合ステップとを含み、前記端部接合ステップでは、前記端部接合部として、前記第1部材と前記第2部材とを機械的に接合する締結体と、前記第1部材と前記第2部材とを摩擦撹拌により接合する摩擦撹拌部とを含む接合部を形成し、前記中間接合ステップでは、前記中間接合部として、前記第1部材と前記第2部材とを摩擦撹拌により接合する摩擦撹拌部を含みかつ締結体を含まない接合部を形成し、前記端部接合ステップおよび前記中間接合ステップを同一の摩擦撹拌接合装置を用いて行うものである。
【0088】
本発明によれば、締結体を打設するための専用の装置が不要になるので、端部接合部および中間接合部を同一の摩擦接合装置を用いて形成することができ、接合構造体の製造効率を効果的に向上させることができる。
【符号の説明】
【0089】
1 :接合構造体
11 :第1部材
12 :第2部材
13 :接合部
13A :端部接合部
13B :中間接合部
32 :フランジ部(対向部)
40 :リベット(締結体)
50 :摩擦撹拌部
51 :摩擦撹拌部
M :摩擦撹拌接合装置