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特開2022-154607アッパー、靴、およびアッパーの作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154607
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】アッパー、靴、およびアッパーの作製方法
(51)【国際特許分類】
   A43B 23/02 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
A43B23/02 101Z
A43B23/02 101A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057721
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小塚 祐也
(72)【発明者】
【氏名】若杉 晋作
(72)【発明者】
【氏名】中川 操
(72)【発明者】
【氏名】谷口 憲彦
(72)【発明者】
【氏名】波多野 元貴
(72)【発明者】
【氏名】高島 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】阿部 悟
(72)【発明者】
【氏名】高浜 健太
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050AA01
4F050BC47
4F050KA03
4F050LA01
(57)【要約】
【課題】靴型の形状に合わせた3次元形状のアッパー、靴、およびアッパーの作製方法を提供する。
【解決手段】本開示に係るアッパー3は、靴1に用いられる。アッパー3は、靴1の上側に位置する本体部30と、本体部30の外周辺30aの少なくとも一部において繋がる底面部40と、を備える。本体部30は、シームレスであり、外周辺30aの内側に内周辺30bを有する形状である。本開示に係る靴1は、本体部30がシームレスであり、外周辺30aの内側に内周辺30bを有する形状を有するアッパー3と、アッパー3の底面部の側に設けられるソールと、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴に用いられるアッパーであって、
前記靴の上側に位置する本体部と、
前記本体部の外周辺の少なくとも一部において繋がる底面部と、を備え、
前記本体部は、
シームレスであり、外周辺の内側に内周辺を有する形状である、アッパー。
【請求項2】
前記本体部と前記底面部とは、同じ材料のシートから裁断して形成される、請求項1に記載のアッパー。
【請求項3】
前記本体部と前記底面部とは、一体の形状として同じ前記シートから裁断して形成される、請求項2に記載のアッパー。
【請求項4】
前記底面部は、前記本体部と異なる材料により形成される、請求項1に記載のアッパー。
【請求項5】
前記シートは、熱収縮性を有する、請求項2または請求項3に記載のアッパー。
【請求項6】
前記シートは、第1の熱収縮率を有する第1の方向と、前記第1の熱収縮率よりも大きい第2の熱収縮率を有する第2の方向とを有しており、
前記本体部は、長手方向が前記第2の方向に対し直交する位置おいて裁断して形成されている、請求項5に記載のアッパー。
【請求項7】
前記本体部は、前記底面部に代えて前記靴のソールと外周辺が繋がる、請求項1に記載のアッパー。
【請求項8】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の前記アッパーと、
前記アッパーの前記底面部の側に設けられるソールと、を備える、靴。
【請求項9】
請求項7に記載の前記アッパーと、
前記本体部の外周辺の少なくとも一部において繋がる前記ソールと、を備える、靴。
【請求項10】
靴に用いられるアッパーを作製する作製方法であって、
靴型の3次元形状データを平面に展開して、シームレスであり、外周辺の内側に内周辺を有する形状の前記アッパーの本体部の裁断パターンを作成するステップと、
前記裁断パターンに基づいて、シートから前記本体部を裁断するステップと、
裁断した前記本体部を前記靴型に被せ、前記本体部を前記靴型の形状に合わせて伸縮させるステップと、を含み、
前記裁断パターンを作成するステップは、
前記靴型の履き口に対応する部分を前記本体部の内周辺とし、前記靴型の表面に対応する部分を仮想的に複数の短冊に切り分けて放射状に配置した前記本体部の平面パターンを生成するステップと、
伸縮させた後の形状が前記靴型の形状となるように、前記平面パターンのうち、隣り合う前記短冊の間に形成される各々の隙間の長さを調整するステップと、
調整した各々の前記隙間を含む前記平面パターンの外周辺を前記裁断パターンの外周辺とするステップと、を含む、作製方法。
【請求項11】
各々の隙間の長さを調整するステップは、
前記靴型の形状に合わせて前記本体部を伸縮させる方向および伸縮率と、各々の隙間の外周辺の接線方向との関係に基づき、各々の前記隙間の長さを調整するステップを含む、請求項10に記載の作製方法。
【請求項12】
前記裁断パターンを作成するステップは、前記本体部の外周辺の少なくとも一部において繋がる前記アッパーの底面部の前記裁断パターンを作成するステップと、
前記本体部を裁断するシートと同じ材料から、前記底面部を裁断するステップとを、さらに含む、請求項10または請求項11に記載の作製方法。
【請求項13】
前記裁断パターンを作成するステップは、前記本体部と、前記本体部の外周辺の少なくとも一部において繋がる前記アッパーの底面部とが一体の形状となる前記裁断パターンを作成するステップを含む、請求項12に記載の作製方法。
【請求項14】
前記シートは、熱収縮性を有する、請求項10~請求項13のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項15】
前記シートは、第1の熱収縮率を有する第1の方向と、前記第1の熱収縮率よりも大きい第2の熱収縮率を有する第2の方向とを有しており、
各々の前記隙間の長さを調整するステップは、前記第2の方向と同じ方向の隙間の長さと比べ、前記第1の方向と同じ方向の隙間の長さを狭く調整するステップを含む、請求項14に記載の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アッパー、靴、およびアッパーの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
靴を作製する場合、靴型(ラスト)の3次元形状に合わせた平面状の複数のパーツを形成して、当該複数のパーツを縫製してまたは接着剤を使用して組み合わせて3次元形状のアッパーを作製している。例えば、特開2019-130370号公報(特許文献1)では、外側の踵部と内側の踵部とで切り離された形状のパーツを、当該踵部同士を縫製などで接合して3次元形状のアッパーを作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-130370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
靴の上側は、複雑な3次元形状をしている。そのため、靴の上側に対応するアッパーの本体部のパーツを平面状の展開した場合、特許文献1で開示されているように踵部で切り離された形状となる。その結果、アッパーを作製する際に、切り離された踵部同士を縫製などで接合する必要があった。
【0005】
しかし、縫製などで接合した接合部は、局所的な接触圧力を足部に生じさせ、ユーザの履き心地を低下させる。また、当該接合部を踵部に形成した場合、垂直に延びた直線状の踵部が本体部に形成され、ユーザのフィット感を低下させる。
【0006】
本開示では、靴型の形状に合わせた3次元形状のアッパー、靴、およびアッパーの作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある局面に従うアッパーは、靴に用いられるアッパーであって、靴の上側に位置する本体部と、本体部の外周辺の少なくとも一部において繋がる底面部と、を備え、本体部は、シームレスであり、外周辺の内側に内周辺を有する形状である。
【0008】
本開示のある局面に従う靴は、前述のアッパーと、アッパーの底面部の側に設けられるソールと、を備える。
【0009】
本開示のある局面に従うアッパーの作製方法は、靴に用いられるアッパーを作製する作製方法であって、靴型の3次元形状データを平面に展開して、シームレスであり、外周辺の内側に内周辺を有する形状のアッパーの本体部の裁断パターンを作成するステップと、裁断パターンに基づいて、シートから本体部を裁断するステップと、裁断した本体部を靴型に被せ、本体部を靴型の形状に合わせて伸縮させるステップと、を含み、裁断パターンを作成するステップは、靴型の履き口に対応する部分を本体部の内周辺とし、靴型の表面に対応する部分を仮想的に複数の短冊に切り分けて放射状に配置した本体部の平面パターンを生成するステップと、伸縮させた後の形状が靴型の形状となるように、平面パターンのうち、隣り合う短冊の間に形成される各々の隙間の長さを調整するステップと、調整した各々の隙間を含む平面パターンの外周辺を裁断パターンの外周辺とするステップと、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、足部への局所的な接触圧力を生じさせず、多様な形状の踵部を形成できるアッパーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係るアッパー作製システムの構成例を示す概略図である。
図2】実施の形態に係る設計支援装置のハードウェア構成例を示す模式図である。
図3】実施の形態に係るアッパーの概略図である。
図4】比較対象のアッパーの概略図である。
図5】実施の形態に係るアッパーの作製方法を説明するためのフローチャートである。
図6】実施の形態に係るアッパーの裁断パターンを作成する方法を説明するためのフローチャートである。
図7】3次元形状のアッパーから本体部の平面パターンに展開する処理を説明するための概略図である。
図8】シートの伸縮方向および伸縮率を考慮して各々の隙間の長さを調整する一例を示す概略図である。
図9】シートの裁断パターンの一例を示す平面図である。
図10】アッパーの踵部の形状を示す概略図である。
図11】アッパーの伸縮方向を説明するための概略図である。
図12】実施の形態に係るアッパーを用いた靴の一例を示す概略図である。
図13】シートの伸縮方向および伸縮率を考慮して本体部の外周辺の長さを調整する一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態について図面に基づいて説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0013】
(実施の形態)
実施の形態では、本発明が適用される場面の一例について説明する。まず、実施の形態では、例えば店舗において、ユーザの足に合わせたオーダーメイドの靴を作製する際に、測定装置で測定した足型データに基づいて靴型データを生成する。さらに、実施の形態では、生成された靴型データに基づいて靴のアッパーを作製するためのシートの裁断パターンを算出し、当該裁断パターンに基づいてシートを裁断装置で裁断する。その後、実施の形態では、裁断したアッパーを靴型に被せ、当該アッパーを靴型の形状に合わせて伸縮させる。実施の形態では、これら一連の処理を行いアッパーを作製するアッパー作製システムについて説明する。
【0014】
図1は、実施の形態に係るアッパー作製システム10の構成例を示す概略図である。図1を参照して、アッパー作製システム10は、設計支援装置100、足型を測定する測定装置200、裁断パターンに基づいてシートを裁断する裁断装置400、アッパーを伸縮させる加熱装置500を含む。なお、図1に示すアッパー作製システム10では、測定装置200をシステムに含めているが、当該測定装置200をシステムに含めずに予め記憶されている靴型データを利用してもよい。また、店舗によっては、または、ユーザの自宅等の遠隔地からは、測定装置200に代えてスマートフォンなどの携帯端末300を用いて足型を測定してもよい。さらに、設計支援装置100は、店舗内または店舗外に設置された図示していないデータサーバと通信することが可能である。
【0015】
設計支援装置100は、測定装置200または携帯端末300から得られた足型データに基づき靴型データを生成し、さらに靴型データに基づいてシートの裁断パターンを算出する。図2は、実施の形態に係る設計支援装置100のハードウェア構成例を示す模式図である。図2を参照して、設計支援装置100は、プロセッサ102と、メインメモリ104と、入力部106と、出力部108と、ストレージ110と、光学ドライブ112と、通信コントローラ120とを含む。これらのコンポーネントは、プロセッサバス118を介して接続されている。
【0016】
プロセッサ102は、CPUやGPUなどで構成され、ストレージ110に記憶されたプログラム(一例として、OS1102および処理プログラム1104)を読出して、メインメモリ104に展開して実行することができる。プロセッサ102では、ストレージ110から読み出した様々なプログラムを実行する。具体的に、処理プログラム1104は、入力部106で受け付けた足型データおよび付加情報から所定のアルゴリズムに基づいて靴型データを演算する。処理プログラム1106は、所定のアルゴリズムを利用して、靴型データに基づいてシートの裁断パターンを算出する。シミュレーションプログラム1108は、処理プログラム1106で利用され、シートを伸縮させる方向をシミュレーションして平面パターンの外周辺の長さを調整する。当該プログラムを実行するプロセッサ102は、設計支援装置100の演算部に対応する。
【0017】
メインメモリ104は、DRAMやSRAMなどの揮発性記憶装置などで構成される。ストレージ110は、例えば、HDDやSSDなどの不揮発性記憶装置などで構成される。
【0018】
ストレージ110には、基本的な機能を実現するためのOS1102に加えて、設計支援装置100としての機能を提供するための処理プログラム1104,1106、シミュレーションプログラム1108が記憶される。
【0019】
入力部106は、測定装置200または携帯端末300と接続して、測定装置200または携帯端末300から足型データを受け付ける入力インターフェースを含む。また、入力部106は、キーボードやマウス、マイク、タッチデバイスなどで構成され、ユーザにより選択された情報をさらに受け付けることができる。
【0020】
出力部108は、プロセッサ102で算出したシートの裁断パターンを裁断装置400に出力する出力インターフェースを含む。また、出力部108は、ディスプレイ、各種インジケータ、プリンタなどで構成され、プロセッサ102からの処理結果などを出力する。
【0021】
通信コントローラ120は、有線通信または無線通信を用いて、他の制御装置などとの間でデータを遣り取りする。設計支援装置100は、測定装置200または携帯端末300との間で通信コントローラ120を介して足型データ、付加情報の遣り取りを行ったり、裁断装置400との間で通信コントローラ120を介して裁断パターンの遣り取りを行ったりしてもよい。なお、通信コントローラ120と別にプロセッサバス118に接続されるUSBコントローラを設け、USB接続を介して、他の制御装置などとの間のデータを遣り取りしてもよい。
【0022】
設計支援装置100は、光学ドライブ112を有しており、コンピュータ読取可能なプログラムを非一過的に記憶する記録媒体114(例えば、DVD(Digital Versatile Disc)などの光学記録媒体)から、その中に記憶されたプログラムが読取られてストレージ110などにインストールしてもよい。
【0023】
設計支援装置100で実行される処理プログラム1104などは、コンピュータ読取可能な記録媒体114を介してインストールされてもよいが、ネットワーク上のサーバ装置などからダウンロードする形でインストールするようにしてもよい。また、実施の形態に係る設計支援装置100が提供する機能は、OSが提供するモジュールの一部を利用する形で実現される場合もある。
【0024】
図2には、プロセッサ102がプログラムを実行することで、設計支援装置100として必要な機能が提供される構成例を示したが、これらの提供される機能の一部または全部を、専用のハードウェア回路(例えば、ASICまたはFPGAなど)を用いて実装してもよい。また、図2に示した設計支援装置100の構成は例示であって、この構成に限定されない。
【0025】
測定装置200は、レーザ測定による3次元の足型スキャナで、天板に足を載せ、当該足を挟んで両側に設けた壁に内蔵されたレーザ測定装置が、足のつま先から踵まで移動して測定することでユーザの3次元の足型データを得る。なお、測定装置200は、3次元の足型データを測定することができれば、測定方式などは特に問わない。また、スマートフォンなどの携帯端末300を用いて、ユーザの足を撮影して、足の画像データを取得し、予めインストールされているソフトウェアにより撮影した足の画像データから足型データを生成してもよい。
【0026】
裁断装置400は、例えば、布地などの平面状のシートを裁断パターンに沿ってレーザ光で裁断する装置である。裁断装置400は、平面状のシートからアッパーの本体部30と底面部40とを切り出す。本体部30は、靴の上側に位置するアッパーのパーツであり、シームレスであり、外周辺30aの内側に内周辺30bを有する形状である。底面部40は、本体部30の外周辺30aの少なくとも一部において繋がるアッパーのパーツである。なお、裁断方法は、レーザ光に限定されず、刃で布地などの平面状のシートを裁断してもよい。
【0027】
加熱装置500は、裁断装置400で裁断された本体部30と底面部40とを縫製したアッパー3を靴型4に被せて加熱する装置である。本体部30と底面部40とを縫製しただけでは靴型4の形状に沿っておらず、加熱装置500で加熱することで靴型4の形状に沿ったアッパー3を作製できる。特に、アッパー3が熱収縮性を有するシートから作られている場合、加熱装置500は、靴型4に被せて加熱することでアッパー3を靴型4の形状に合わせて収縮させることができる。また、アッパー3が形状記憶性を有するシートから作られている場合、靴型4に被せて加熱することでアッパー3を靴型4の形状に合わせて伸縮させた形状を記憶させることができる。
【0028】
具体的に、加熱装置500は、熱収縮性を有するシートから作られているアッパー3を内部に収納し、内面から放出される高温の蒸気52によりアッパー3を加熱する。このスチーム加熱により、成形前のアッパー3の全体を均一に加熱することができる。このため、アッパー3を靴型4に合わせて均一に変形させ、アッパー3を靴型4の形状に合わせて成形することができる。なお、加熱装置500は、スチーム加熱のほか熱風加熱、温水加熱、マイクロウェーブ等を用いてもよい。また、成形前のアッパー3に対する加熱は、全体ではなく部分的に行うことでもよい。
【0029】
次に、アッパー3の本体部30および底面部40の形状について説明する。図3は、実施の形態に係るアッパー3の概略図である。また、図4は、比較対象のアッパー3Aの概略図である。図3(a)および図4(a)は、本体部および底面部の平面図である。図3(b)および図4(b)は、本体部と底面部とを縫製し靴型に合わせて成形した後のアッパーの斜視図である。
【0030】
実施の形態に係るアッパー3では、図3(a)に示すように本体部30がシームレスであり、外周辺30aの内側に内周辺30bを有する形状である。つまり、本体部30は、中空円形状(ドーナツ形状)である。さらに、本体部30の外周辺30aと底面部40の外周辺40aとを縫製して繋げたアッパー3を伸縮させた場合に、靴型4の形状に合うように本体部30の外周辺30aの長さが調整されている。このように、本体部30の外周辺30aの長さを調整することで、図3(b)に示すようなアッパー3を作製することができる。アッパー3には、踵部に縫製などで接合した接合部が存在しないため、局所的な接触圧力を足部に生じさせることがなく、ユーザの履き心地を低下させない。
【0031】
一方、比較対象に係るアッパー3Aでは、図4(a)に示すように本体部310がU字形状である。つまり、本体部310は、シームレスではなく、外周辺310aと内周辺310bとが縁部320aおよび縁部320bで切り離した形状となる。切り離した縁部320aと縁部320bとを接合し、本体部310の外周辺310aと、底面部40の外周辺40aとを縫製して繋げることで、図4(b)に示すようなアッパー3Aとなる。アッパー3Aには、踵部に縫製などで接合した接合部320が存在するため、局所的な接触圧力を足部に生じさせ、ユーザの履き心地を低下させる。
【0032】
靴の上側は、複雑な3次元形状をしている。そのため、靴の上側に対応するアッパーの本体部を平面状のパーツに展開した場合、本体部の外周辺の長さと底面部の外周辺の長さを調整するために、図4(a)のような本体部の一部を切り離した形状とする必要があった。そこで、実施の形態では、本体部30を成形後の伸縮を考慮して本体部30の外周辺30aを調整することで、図3(a)のようなシームレスな中空円形状の本体部30を実現している。以下に、成形後の伸縮を考慮した本体部30の外周辺30aの調整を含む、アッパーの作製方法について説明する。
【0033】
図5は、実施の形態に係るアッパー3の作製方法を説明するためのフローチャートである。まず、アッパー作製システム10は、設計支援装置100において、靴型4の3次元形状データを平面に展開して、アッパー3の裁断パターンを作成する(ステップS10)。次に、アッパー作製システム10は、裁断装置400において、設計支援装置100により作成した裁断パターンに基づいて、シートからアッパー3の本体部30および底面部40を裁断する(ステップS20)。さらに、アッパー作製システム10は、加熱装置500において、裁断装置400により裁断した本体部30および底面部40を組み合わせたアッパー3を靴型4に被せ、アッパー3を靴型4の形状に合わせて伸縮させる(ステップS30)。なお、アッパー3が本体部30のみで構成される場合などは、本体部30のみを靴型4に被せて伸縮させてもよい。
【0034】
さらに、設計支援装置100において、アッパー3の裁断パターンを作成する処理を詳しく説明する。図6は、実施の形態に係るアッパー3の裁断パターンを作成する方法を説明するためのフローチャートである。まず、設計支援装置100は、測定装置200または携帯端末300で測定した足型データを受け付ける(ステップS101)。設計支援装置100は、足型データから靴型データを演算する(ステップS102)。
【0035】
設計支援装置100は、靴型データを受け付けたか否か判断する(ステップS103)。なお、設計支援装置100は、オーダーメイドの靴の場合、測定した足型データから演算した靴型データを受け付けるが、既存の靴型データを受け付けてもよい。靴型データを受け付けていない場合(ステップS103でNO)、設計支援装置100は、靴型データの演算が終わっていない、または既存の靴型データを受け付けていないとして、処理をステップS102に戻す。
【0036】
靴型データを受け付けた場合(ステップS103でYES)、設計支援装置100は、靴型データからアッパー3の3次元(3D)形状データを演算する(ステップS104)。具体的には、設計支援装置100は、例えば、作製する靴のモデルの情報から複数用意されているアッパー3のデータを特定し、特定したアッパーのデータのサイズが靴型データの外面を沿うように調整してアッパー3の3次元形状データを演算する。なお、設計支援装置100は、ユーザの選択情報(例えば、足当たりしない、脱げにくいなど)からアッパー3の履き口の形状を生成してアッパー3の3次元形状データに適用してもよい。
【0037】
設計支援装置100は、アッパー3の3次元形状データを平面に展開し、アッパー3の平面パターンを演算する(ステップS105)。アッパー3のうち底面部40は、単純な形状であるため平面パターンに展開した場合でも外周辺40aの長さを調整する必要ない。一方、アッパー3のうち本体部30は、複雑な3次元形状をしているため、シームレスな中空円形状の平面パターンに展開するには外周辺30aの長さを調整する必要がある。
【0038】
まず、設計支援装置100は、外周辺30aの長さを考慮せず、単純に3次元形状の本体部30を中空円形状に展開するため、靴型4の表面に対応する部分を仮想的に複数の短冊に切り分けて放射状に配置した本体部30の平面パターンを生成する。
【0039】
具体的に、図7は、3次元形状のアッパー3から本体部30の平面パターンに展開する処理を説明するための概略図である。図7(a)は、アッパー3の3次元形状であり、靴型4の履き口に対応する内周辺30bから仮想的に複数の短冊30cに切り分けるためにアッパー3の表面に分割線が図示されている。アッパー3の3次元形状を仮想的に複数の短冊30cに切り分けて、平面状にした本体部30の平面パターンが図7(b)に示されている。本体部30の平面パターンは、内周辺30bから複数の短冊30cが放射状に配置された形状である。靴型4の表面に対応する部分を複数の短冊30cに切り分けた場合、隣り合う短冊30cの間に各々の隙間30dが形成される。そのため、図7(b)に示す本体部30の平面パターンおいて複数の短冊30cと複数の隙間30dとを繋いだ外周30eは、底面部40の外周辺40aより大幅に長くなり、そのままでは本体部30の外周辺30aとして採用することができない。
【0040】
そこで、設計支援装置100は、本体部30を伸縮させた後の形状が靴型4の形状となるように、本体部30の隣り合う短冊30cの間に形成される各々の隙間30dの長さを調整する(ステップS106)。アッパー3の作製では、ステップS30で説明したように靴型4の形状に合わせてアッパー3を伸縮させる。なお、アッパー3の材料には、例えば、ニット素材、メッシュ素材、人工皮革、不織布、熱収縮素材などが使用され、各々の材料により伸縮させる方向および伸縮率が異なる。なお、熱収縮素材の場合、伸縮させる方向を熱収縮させる方向と、伸縮率を熱収縮率ともいう。
【0041】
特に、熱収縮素材を使用してアッパー3を作製する場合、方向により熱収縮率(伸縮率)が大きく異なるので複数の短冊30cと複数の隙間30dとを繋いだ外周30eと、底面部40の外周辺40aとを単純に一致するように各々の隙間30dを調整したのでは、靴型4の形状に沿わない部分が生じる。
【0042】
そこで、設計支援装置100では、シミュレーションプログラム1108でシートの伸縮方向および伸縮率を考慮して各々の隙間30dの長さを調整する。図8は、シートの伸縮方向および伸縮率を考慮して各々の隙間30dの長さを調整する一例を示す概略図である。図8に示すように、本体部30を裁断するシートは、第1の熱収縮率を有する第1の方向S1と、第1の熱収縮率よりも大きい第2の熱収縮率を有する第2の方向S2とを有しており、本体部30の長手方向(図中の左右方向)が第2の方向S2に対し直交する位置となっている。なお、図8において、第1の方向S1と第2の方向S2とは直交しているが、必ずしも直交している必要はない。また、第1の方向S1の第1の熱収縮率が0(ゼロ)であってもよい。
【0043】
設計支援装置100は、シートの伸縮方向および伸縮率を考慮して各々の隙間30dの長さを調整する方法として、例えば、本体部30を伸縮させる方向(第1の方向S1,第2の方向S2)と、各々の隙間30dの外周辺の接線方向との関係に基づき、各々の隙間30dの長さを調整する。シミュレーションプログラム1108では、例えば、シートの伸縮方向および伸縮率に基づいて、隣り合う短冊30cの間の各々を繋ぐ弾性体を仮定し、加熱した場合に各々の弾性体に生じる力に求めて各々の隙間30dの長さを調整する。なお、本体部30および底面部40を裁断するシートの伸縮方向および伸縮率などの情報は、設計支援装置100のストレージ110または設計支援装置100と通信可能なデータサーバなどにあらかじめ記憶されている。
【0044】
図8に示す本体部30であれば、シミュレーションプログラム1108は、第2の方向S2と同じ方向の隙間30dと比べ、第1の方向S1と同じ方向の隙間30dを狭く調整する。具体的に、図8に示す隙間30d1では、第2の方向S2と隙間30d1の外周辺の接線方向T1とが略直交となる。そのため、隙間30d1では、主として接線方向T1に力が生じない弾性体を仮定し、加熱した場合に当該弾性体に生じる力に基づいて隙間30d1の長さを調整する。つまり、シミュレーションプログラム1108は、伸縮させた後に接線方向T1の隙間30d1の長さがあまり変化しないので、底面部40の外周辺40aの長さと合わせるために隙間30d1の長さを短く調整する。
【0045】
一方、図8に示す隙間30d2では、第2の方向S2と隙間30d2の外周辺の接線方向T2とが略平行となる。そのため、隙間30d2では、主として接線方向T2に力が生じる弾性体を仮定し、加熱した場合に当該弾性体に生じる力に基づいて隙間30d2の外周辺の長さを調整する。つまり、シミュレーションプログラム1108は、伸縮させた後に接線方向T2の隙間30d2の長さが大きく変化するので、シートの伸縮を考慮して隙間30d2の長さを長く調整する。
【0046】
図6に戻って、設計支援装置100は、本体部30の平面パターンのすべての隙間30dの長さを調整したか否かを判断する(ステップS107)。平面パターンのすべての隙間30dの長さを調整していない場合(ステップS107でNO)、設計支援装置100は、長さを調整していない隙間30dに対してステップS106の処理を順に実行する。平面パターンのすべての隙間30dの長さを調整した場合(ステップS107でYES)、設計支援装置100は、調整した各々の隙間30dを含む平面パターンの外周辺を裁断パターンの外周辺30aとする(ステップS108)。図9は、シートの裁断パターンの一例を示す平面図である。図9に示すように本体部30の裁断パターンは、ステップS106で調整した隙間30dを含む短冊30cの外周辺を本体部30の外周辺30aとして採用する。これにより、設計支援装置100は、成形後の伸縮を考慮した本体部30の裁断パターンを設定することができる。
【0047】
設計支援装置100は、成形後の伸縮を考慮して各々の隙間30dの長さを調整した外周辺30aを採用した本体部30の裁断パターンを裁断装置400に出力する(ステップS109)。裁断装置400は、設計支援装置100からシートの裁断パターンを受け付けた場合、当該裁断パターンに従って熱収縮性を有するシートを裁断する。なお、裁断パターンは、本体部30の裁断パターンと、底面部40の裁断パターンとが別々であっても、本体部30と、本体部30の外周辺の少なくとも一部において繋がる底面部40とが一体の形状となる裁断パターンであってもよい。本体部30と底面部40とが一体の形状となる裁断パターンに基づいて、裁断装置400は、本体部30と底面部40とが一体の形状として同じシートから裁断して形成できる。
【0048】
本体部30の裁断パターンと、底面部40の裁断パターンとが別々の場合、本体部30を裁断したシートと同じ材料から底面部40を裁断しても、異なる材料から底面部40を裁断してもよい。
【0049】
アッパー3では、図3(a)に示すように本体部30がシームレスであり、中空円形状であると説明した。本体部30に当該形状を採用することで、多様な形状の踵部を形成できる。図10は、アッパーの踵部の形状を示す概略図である。図10(a)には、外側に凸となり、曲線の途中に変曲点を有するような複雑な形状を踵部30fに採用したアッパー3aの側面が図示されている。図10(b)には、内側に凹み、曲線の途中に変曲点を有するような複雑な形状を踵部30gに採用したアッパー3bの側面が図示されている。一方、図10(c)には、比較対象のアッパー3Aが図示されており、踵部に接合部320が形成されている。そのため、図10(c)に示す踵部は、垂直に延びた直線状の形状となる。図10(a)および図10(b)に示したアッパー3では、踵部の形状に自由度が増し、垂直に延びた直線状の踵部だけでなくユーザの踵に合った形状を採用することができ、ユーザのフィット感が向上する。
【0050】
また、アッパー3では、シームレスである中空円形状を採用することで、ユーザの踵をホールドする方向に、シートの伸縮方向を合わせることができる。図11は、アッパー3の伸縮方向を説明するための概略図である。図11(a)には、シームレスである中空円形状を採用した本体部30が図示されており、本体部30の長手方向(図中の上下方向)に対しシートの伸縮方向Sが略直交している。そのため、当該本体部30を用いて3次元形状のアッパー3を形成した場合、アッパー3の踵部においてシートの伸縮方向Sが水平方向となるので、アッパー3が伸縮することでユーザの踵をホールドすることができ、ユーザのフィット感が向上する。
【0051】
一方、図11(c)には、比較対象でU字形状を採用した本体部310が図示されており、本体部310の長手方向(図中の上下方向)に対しシートの伸縮方向Sが略直交している。そのため、当該本体部310を用いて3次元形状のアッパー3Aを形成した場合、アッパー3Aの踵部においてシートの伸縮方向Sが垂直方向となるので、アッパー3Aが伸縮してもユーザの踵をホールドすることはない。
【0052】
(靴)
次に、図3(a)に示す本体部30および底面部40を組み合わせて作製したアッパー3を用いた靴の一例を説明する。図12は、実施の形態に係るアッパー3を用いた靴1の一例を示す概略図である。図12に示す靴1では、ソール2と、アッパー3とを貼り合わせるだけで作製されるのではなく、ソール2とアッパー3とを組み合わせ、これらの少なくとも一部をシェル5で覆うことで作製される。なお、ソール2は、シューズのサイズ別に店舗やメーカーにストックされており、アッパー3は、前述の作製方法で作成される。
【0053】
シェル5は、ソール2とアッパー3とが差し込まれる入れ物である。図12に示されるシェル5はソール2とアッパー3との全てを覆うようなモデルであるが、シェル5のモデルはこれに限られない。シェル5は、ウレタン、アクリル、またはナイロン等でできている。一例として、シェル5は、3Dプリンタで作製される。シェル5は、調整の範囲、デザイン、フィッティング感など様々な要素に基づき、形状などが異なる複数種類のシェルモデルを用意してもよい。
【0054】
アッパー3、ソール2、およびシェル5で構成される靴1の作製方法の一例は以下の通りである。
【0055】
まず、シェル5の中にソール2を入れ、ソール2が入ったシェル5にアッパー3を入れる。次いで、アッパー3の一部を縫製等によりシェル5に固定する。最後に、アッパー3の中に靴型を入れて、ソール2とアッパー3とが差し込まれたシェル5を加熱装置(例えば、スチーム加熱器等)で加熱する。加熱後、アッパー3から靴型を抜くことで、アッパー3、ソール2、およびシェル5で構成される靴1が完成する。シェル5内に差し込まれたソール2はアッパー3とシェル5とにより固定されることから、アッパー3とソール2とを糊で接着する必要がない。したがって、シューズを作製する作業者の負担が軽減される。なお、アッパー3を作製する際に、加熱装置500において、本体部30を靴型の形状に合わせて伸縮させる処理を行うが、当該処理を、シェル5にソール2とアッパー3とを差し込んだ後の加熱処理で行ってもよい。
【0056】
図12に示す靴1は、一例であり、シェル5にソール2とアッパー3とを差し込んだ構成に限定されない。靴1は、ソール2とアッパー3と貼り合わせた構成でもよく、また、アッパー3の本体部30の外周辺30aが、底面部40に代えてソール2に繋がる構成でもよい。なお、シェル5は必須の構成ではない。
【0057】
アッパー3として用いるシートは、熱収縮性を有する部材が好適に用いられ、特に熱収縮性を有する合成繊維の織地や編地、不織布等が用いられる。熱収縮性を有する合成繊維としては、たとえばポリエステル、ポリウレタン等を主成分とするものが挙げられる。
【0058】
以上のように、実施の形態に係るアッパー3は、靴1に用いられる。アッパー3は、靴1の上側に位置する本体部30と、本体部30の外周辺30aの少なくとも一部において繋がる底面部40と、を備える。本体部30は、シームレスであり、外周辺30aの内側に内周辺30bを有する形状である。
【0059】
これにより、実施の形態に係るアッパー3は、足部への局所的な接触圧力を生じさせず、多様な形状の踵部を形成できる。
【0060】
本体部30と底面部40とは、同じ材料のシートから裁断して形成されることが好ましい。これにより、伸縮させる方向および伸縮率が同じ材料のシートから本体部30および底面部40が得られるので、靴型4の形状に合わせたアッパー3を作製しやすくなる。
【0061】
本体部30と底面部40とは、一体の形状として同じシートから裁断して形成されることが好ましい。これにより、裁断パターンの数を減らすことができると共に、裁断後の本体部30と底面部40とを組み合わせる作業が容易になる。
【0062】
底面部40は、本体部30と異なる材料により形成されることが好ましい。これにより、底面部40に最適な材料、本体部30に最適な材料をそれぞれ選択することができる。
【0063】
シートは、熱収縮性を有することが好ましい。これにより、靴型4の形状に合わせたアッパー3をより作製しやすくなる。
【0064】
シートは、第1の熱収縮率を有する第1の方向S1と、第1の熱収縮率よりも大きい第2の熱収縮率を有する第2の方向S2とを有しており、本体部30は、長手方向が第2の方向S2に対し直交する位置おいて裁断して形成されていることが好ましい。これにより、靴型4の形状に合わせたアッパー3をより作製しやすくなる。
【0065】
本体部30は、底面部40に代えて靴1のソール2と外周辺30aが繋がることが好ましい。これにより、本体部30のみのアッパー3を有する靴1の構成を実現できる。
【0066】
実施の形態に係る靴1は、前述に記載のアッパー3と、アッパー3の底面部40の側に設けられるソール2と、を備える。これにより、実施の形態に係る靴1は、足部への局所的な接触圧力を生じさせず、多様な形状の踵部を形成できる。
【0067】
靴1は、アッパー3と、本体部30の外周辺の少なくとも一部において繋がるソール2と、を備えることが好ましい。これにより、本体部30のみのアッパー3を有する靴1の構成を実現できる。
【0068】
実施の形態に係る靴1に用いられるアッパー3を作製する作製方法である。当該作製方法は、靴型4の3次元形状データを平面に展開して、シームレスであり、外周辺30aの内側に内周辺30bを有する形状のアッパー3の本体部30の裁断パターンを作成するステップと、裁断パターンに基づいて、シートから本体部30を裁断するステップと、裁断した本体部30を靴型4に被せ、本体部30を靴型4の形状に合わせて伸縮させるステップと、を含む。裁断パターンを作成するステップは、靴型4の履き口に対応する部分を本体部30の内周辺30bとし、靴型4の表面に対応する部分を仮想的に複数の短冊30cに切り分けて放射状に配置した本体部30の平面パターンを生成するステップと、伸縮させた後の形状が靴型4の形状となるように、平面パターンのうち、隣り合う短冊30cの間に形成される各々の隙間30dの長さを調整するステップと、調整した各々の隙間30dを含む平面パターンの外周辺を裁断パターンの外周辺30aとするステップと、を含む。
【0069】
これにより、実施の形態に係るアッパー3を作製する作製方法は、足部への局所的な接触圧力を生じさせず、多様な形状の踵部を形成できるアッパー3を作製することができる。
【0070】
各々の隙間30dの長さを調整するステップは、靴型4の形状に合わせて本体部30を伸縮させる方向および伸縮率と、各々の隙間30dの外周辺の接線方向との関係に基づき、各々の隙間30dの外周辺の長さを調整するステップを含むことが好ましい。これにより、本体部30を底面部40に組み合わせた場合、本体部30の外周辺30aと底面部40の外周辺40aとの整合性が向上する。
【0071】
裁断パターンを作成するステップは、本体部30の外周辺30aの少なくとも一部において繋がるアッパー3の底面部40の裁断パターンを作成するステップと、本体部30を裁断するシートと同じ材料から、底面部40を裁断するステップとを、さらに含むことが好ましい。これにより、伸縮させる方向および伸縮率が同じ材料のシートから本体部30および底面部40が得られるので、靴型4の形状に合わせたアッパー3を作製しやすくなる。
【0072】
裁断パターンを作成するステップは、本体部30と、本体部30の外周辺30aの少なくとも一部において繋がるアッパー3の底面部40とが一体の形状となる裁断パターンを作成するステップを含むことが好ましい。これにより、裁断パターンの数を減らすことができると共に、裁断後の本体部30と底面部40とを組み合わせる作業が容易になる。
【0073】
シートは、第1の熱収縮率を有する第1の方向S1と、第1の熱収縮率よりも大きい第2の熱収縮率を有する第2の方向S2とを有しており、各々の隙間30dの長さを調整するステップは、第2の方向S2と同じ方向の隙間30dと比べ、第1の方向S1と同じ方向の隙間30dを狭く調整するステップを含むことが好ましい。これにより、熱収縮性を有するシートに対して、シームレスであり、外周辺30aの内側に内周辺30bを有する形状のアッパー3の本体部30の裁断パターンを作成することができる。
<その他の変形例>
前述の実施の形態では、シミュレーションプログラム1108でシートの伸縮方向および伸縮率を考慮して各々の隙間30dの長さを調整することで、靴型4の形状に合うように本体部30の外周辺30aの長さを調整する方法を説明した。しかし、本体部30の外周辺30aの長さを調整する方法は、これに限られず他の方法でもよい。U字形状の本体部310からシートの伸縮方向および伸縮率を考慮してシームレスな中空円形状の本体部30に変形させてもよい。図13は、シートの伸縮方向および伸縮率を考慮して本体部30の外周辺30aの長さを調整する一例を示す概略図である。
【0074】
まず、設計支援装置100は、図13(a)に示すようにU字形状の本体部310を作成する。シミュレーションプログラム1108では、本体部310に対して有限要素法を用いて複数の三角形のメッシュ301に分割し、各要素に対してシートの伸縮方向および伸縮率、底面部40の外周辺40aの長さ、加熱温度などの制約条件を付加して、図13(b)に示すようなシームレスな中空円形状の本体部30に変形させる。設計支援装置100は、図13(b)に示す本体部30の形状を、本体部30の裁断パターンとして採用する。
【0075】
前述の実施の形態では、アッパー3が熱収縮素材で作製されると説明したが、熱収縮素材に限られず伸縮性を有する素材であれば何れの素材であってもよい。アッパー3に用いる素材として、例えば、形状記憶性を有する糸を含む織物である第1層を、不織布である第2層と合わせた二層構造や、織物である第1層を不織布である第2層と第3層で挟んだ三層構造の繊維シートが考えられる。当該繊維シートを靴型4に被せて伸縮させ、靴型4の形状に沿った形状で当該繊維シートを維持できるよう加熱装置500で加熱する。なお、靴型4に被せて伸縮させた繊維シートの形状を維持する方法は、加熱装置500により加熱する方法に限定されず、樹脂で表面を固める方法や、補強部材を繊維シートに接着する方法などでもよい。
【0076】
前述の実施の形態では、本体部30と底面部40とを縫製してまたは接着剤を使用して組み合わせ3次元形状のアッパー3を作製している。しかし、これに限られず、3次元形状のアッパーは、本体部30のみで構成してもよく、本体部30が、底面部40に代えて靴のソールに外周辺30aで繋がってもよい。
【0077】
前述の実施の形態では、シートを裁断して本体部30を形成すると説明したが、ニットでシームレスに編んで、外周辺30aの内側に内周辺30bを有する形状の本体部30を形成してもよい。
【0078】
図1では、設計支援装置100、測定装置200、裁断装置400、加熱装置500を含む1つの店舗のアッパー作製システム10について説明した。しかし、店舗によっては、測定装置200を有しておらず、スマートフォンなどの携帯端末300を用いて足型を測定する店舗がアッパー作製システム10に含まれてもよい。また、裁断装置400を有しておらず、他の店舗の裁断装置400でシートを裁断しアッパーを作製する店舗もアッパー作製システム10に含まれてもよい。様々な店舗の靴型作製システムがデータセンタに接続され、データセンタでシートの裁断パターンの設計支援を行ってもよい。もちろん、前述の実施の形態で説明したアッパー作製システム10は、アッパー3の作製に留まらず、靴を製造する製造システムの一部に採用されてもよい。
【0079】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0080】
1 靴、2 ソール、3 アッパー、4 靴型、5 シェル、10 アッパー作製システム、100 設計支援装置、102 プロセッサ、104 メインメモリ、106 入力部、108 出力部、110 ストレージ、112 光学ドライブ、114 記録媒体、118 プロセッサバス、120 通信コントローラ、200 測定装置、300 携帯端末、400 裁断装置、500 加熱装置、1104,1106 処理プログラム、1108 シミュレーションプログラム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13