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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154612
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】バイナリー発電装置
(51)【国際特許分類】
   F01D 17/08 20060101AFI20221005BHJP
   F01K 9/00 20060101ALI20221005BHJP
   F01D 17/00 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
F01D17/08 A
F01K9/00 Z
F01D17/00 Z
F01D17/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057731
(22)【出願日】2021-03-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・一般社団法人ターボ機械協会 第84回 長崎講演会にて発表(一般社団法人ターボ機械協会主催:東京都文京区本駒込6丁目3番26号)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「温泉地域における超分散型エネルギー社会を実現するためのシナリオ策定」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(74)【代理人】
【識別番号】110001209
【氏名又は名称】特許業務法人山口国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 壮一
(72)【発明者】
【氏名】山口 朝彦
【テーマコード(参考)】
3G071
【Fターム(参考)】
3G071AA10
3G071AB01
3G071BA09
3G071BA10
3G071FA05
3G071FA06
3G071HA04
3G071HA05
(57)【要約】
【課題】発電効率の低下を抑制することが可能なバイナリー発電装置を提供する。
【解決手段】バイナリー発電装置100は、熱源10から供給される熱媒体により作動媒体を蒸発させる蒸発器20と、蒸発器20で蒸発した作動媒体の蒸気を膨張させて回転駆動力を発生させるスクロールタービン22と、スクロールタービン22で膨張した作動媒体の蒸気を液体に凝縮する凝縮器26と、凝縮器26で凝縮された液体を蒸発器20に循環させるポンプ28と、作動媒体の温度を検出する第3の温度センサ60と、第3の温度センサ60により検出された作動媒体の凝縮器出口温度Tと予め設定された制御目標温度T との比較結果に基づいて凝縮器26の出力を制御する制御装置50とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源から供給される熱媒体により作動媒体を蒸発させる蒸発器と、
前記蒸発器で蒸発した前記作動媒体の蒸気を膨張させて回転駆動力を発生させるスクロールタービンと、
前記スクロールタービンで膨張した前記作動媒体の蒸気を液体に凝縮する凝縮器と、
前記凝縮器で凝縮された前記液体を前記蒸発器に循環させるポンプと、
前記作動媒体の温度を検出する温度検出部と、
前記温度検出部により検出された前記作動媒体の温度と予め設定された基準温度値との比較結果に基づいて前記凝縮器の出力を制御する制御装置と、
を備えるバイナリー発電装置。
【請求項2】
前記温度検出部は、前記凝縮器の出口側に設けられ、
前記凝縮器には、前記作動媒体を冷却するためのファンが設けられ、
前記制御装置は、
前記作動媒体の温度が前記基準温度値よりも大きい場合には、前記ファンの回転数が下がるように前記ファンの動作を制御し、
前記作動媒体の温度が前記基準温度値よりも小さい場合には、前記ファンの回転数が上がるように前記ファンの動作を制御する、
請求項1に記載のバイナリー発電装置。
【請求項3】
熱源から供給される熱媒体により作動媒体を蒸発させる蒸発器と、
前記蒸発器で蒸発した前記作動媒体の蒸気を膨張させて回転駆動力を発生させるスクロールタービンと、
前記スクロールタービンで膨張した前記作動媒体の蒸気を液体に凝縮する凝縮器と、
前記凝縮器で凝縮された前記液体を前記蒸発器に循環させるポンプと、
前記作動媒体の温度を検出する温度検出部と、
前記熱媒体の流量を計測する流量計測部と、
前記温度検出部により検出された前記温度及び前記流量計測部により計測された前記熱媒体の流量から決定される前記作動媒体の流量と予め設定された基準流量値との比較結果に基づいて前記ポンプの動作を制御する制御装置と、
を備えるバイナリー発電装置。
【請求項4】
前記温度検出部は、前記蒸発器の入口側及び出口側のそれぞれに設けられ、
前記制御装置は、
前記作動媒体の流量が前記基準流量値よりも大きい場合には、前記ポンプの電源周波数が下がるように前記ポンプの動作を制御し、
前記作動媒体の流量が前記基準流量値よりも小さい場合には、前記ポンプの電源周波数が上がるように前記ポンプの動作を制御する、
請求項3に記載のバイナリー発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイナリー発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、工場排水や温泉等の低温の熱源を利用し、沸点の低い媒体(以下、作動媒体という。)を蒸発させることでタービン発電機を作動させる発電装置が知られている。この発電装置は、熱源系統と作動媒体系統の2つの熱サイクルを有するため、バイナリー発電装置と呼ばれている。バイナリー発電装置としては、100kW級の出力が主流である。
【0003】
例えば、特許文献1及び2には、源泉の温泉水を利用して作動媒体を蒸発させることで、タービン等の膨張機を膨張させて回転駆動力を発生させるバイナリー発電装置が開示されている。バイナリー発電装置には、例えば、温水や作動媒体を循環させる循環ポンプが設けられると共に、タービンから排出された作動媒体を冷却するための冷却機構が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-135063号公報
【特許文献2】特開2017-72124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来におけるバイナリー発電装置では、循環ポンプ又は冷却機構において、過剰な電力で運転されている場合や、常に一定の電力状態で運転されている場合があり、作動媒体等の状態を考慮した最適な電力管理が行われてない場合があった。このような場合には、過剰に電力が消費されることによって、特に数kW級の小出力のバイナリー発電装置においては、その発電効率が低下してしまうという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、発電効率の低下を抑制することが可能なバイナリー発電装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るバイナリー発電装置は、熱源から供給される熱媒体により作動媒体を蒸発させる蒸発器と、前記蒸発器で蒸発した前記作動媒体の前記蒸気を膨張させて回転駆動力を発生させるスクロールタービンと、前記スクロールタービンで膨張した前記作動媒体の前記蒸気を液体に凝縮する凝縮器と、前記凝縮器で凝縮された前記液体を前記蒸発器に循環させるポンプと、前記作動媒体の温度を検出する温度検出部と、前記温度検出部により検出された前記作動媒体の温度と予め設定された基準温度値との比較結果に基づいて、前記凝縮器の出力を制御する制御装置と、を備える。
【0008】
また、本発明に係るバイナリー発電装置は、熱源から供給される熱媒体により作動媒体を蒸発させる蒸発器と、前記蒸発器で蒸発した前記作動媒体の前記蒸気を膨張させて回転駆動力を発生させるスクロールタービンと、前記スクロールタービンで膨張した前記作動媒体の前記蒸気を液体に凝縮する凝縮器と、前記凝縮器で凝縮された前記液体を前記蒸発器に循環させるポンプと、前記作動媒体の温度を検出する温度検出部と、前記熱媒体の流量を計測する流量計測部と、前記熱媒体の流量及び前記温度により決定される前記作動媒体の流量と予め設定された基準流量値との比較結果に基づいて、前記ポンプの動作を制御する制御装置と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、温度検出部により検出された作動媒体の温度に基づいて凝縮器の動作を制御するので、凝縮器において電力が過剰に消費されることを防止できる。また、温度検出部により検出された熱媒体の温度、流量計測部により計測された熱媒体の温度等に基づいてポンプの動作を制御するので、ポンプにおいて電力が過剰に消費されることを防止できる。これらにより、バイナリー発電装置の発電効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態に係るバイナリー発電装置の構成を示すブロック図である。
図2A】作動流体を冷却する冷却ファンを制御する場合におけるバイナリー発電装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図2B】作動流体を冷却する冷却ファンを制御する場合におけるバイナリー発電装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図3】作動媒体流路を循環する作動流体の質量流量を制御する場合におけるバイナリー発電装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[バイナリー発電装置100の構成例]
図1は、本実施の形態に係るバイナリー発電装置100の構成を示すブロック図である。バイナリー発電装置100は、発電電力が数kWの小出力システムである。図1に示すように、バイナリー発電装置100は、熱源系統側に設けられる熱源10、ポンプ12及び熱媒体流路14と、作動媒体系統側に設けられる蒸発器20、スクロールタービン22、発電機24、凝縮器26、ポンプ28及び作動媒体流路30とを備える。なお、本実施の形態において蒸発器20は、熱源系統と作動媒体系統の両方に兼用される。
【0012】
まず、熱源系統側について説明する。熱源10は、例えば、100℃未満の工場排水や温泉等の低温の熱媒体である。本実施の形態では、熱媒体として温水を利用する場合について説明する。熱媒体流路14は、熱源10と蒸発器20との間、蒸発器20とポンプ12との間、ポンプ12と熱源10との間に亘って設けられ、温水の流路を形成する。ポンプ12は、熱源10からの温水を熱媒体流路14を介して蒸発器20に搬送する。温水は、熱媒体流路14内を循環させる構成とする。
【0013】
次に、作動媒体系統側について説明する。作動媒体流路30は、蒸発器20とスクロールタービン22との間、スクロールタービン22と凝縮器26との間、凝縮器26とポンプ28との間、ポンプ28と蒸発器20との間に亘って設けられ、作動媒体の循環経路を形成する。作動媒体には、例えば、R245fa、R1233zd、R1224yd、HFE-347pc-f、HFE-347mcc等の低沸点の冷媒を用いることができる。
【0014】
蒸発器20は、ポンプ28の作動により搬送される作動媒体を、熱源10から搬送される温水によって加熱することで蒸発させる。これにより、作動媒体は、気体(蒸気)となり、スクロールタービン22に供給される。
【0015】
スクロールタービン22は、蒸発器20から搬送された気体の作動媒体を互いに噛み合った固定スクロール及び旋回スクロールによって形成される渦巻き状空間内で膨張させて、旋回スクロールを旋回させることで回転力を得る。回転駆動力は、回転軸を介して発電機24に伝達される。発電機24は、スクロールタービン22から回転軸を介して伝達された回転駆動力に基づいて駆動することで発電する。
【0016】
凝縮器26は、スクロールタービン22から排気される気体の作動媒体を、例えば凝縮器26に設けられた冷却ファン27により冷却、凝縮することで液体の作動媒体に変化させる。液体の作動媒体は、作動媒体流路30を経由してポンプ28に搬送される。ポンプ28は、凝縮器26により凝縮された作動媒体を蒸発器20に搬送する。このように、作動媒体は、蒸発器20、スクロールタービン22、凝縮器26及びポンプ28の間を作動媒体流路30を経由して循環する。
【0017】
また、バイナリー発電装置100は、熱源系統に設けられる第1の温度センサ16、第2の温度センサ18及び流量センサ(流量計測部)40と、作動媒体系統に設けられる第3の温度センサ(温度検出部)60、第4の温度センサ(温度検出部)62及び第5の温度センサ(温度検出部)64と、制御装置50と、第1のインバータ70と、第1のモータ72と、第2のインバータ74と、第2のモータ76とを備える。第1の温度センサ16、第2の温度センサ18、第3の温度センサ60、第4の温度センサ62及び第5の温度センサ64には、例えば熱電対を用いることができる。
【0018】
第1の温度センサ16は、熱源10と蒸発器20との間の熱媒体流路14であって、蒸発器20の入口側に設けられる。第1の温度センサ16は、蒸発器20の温水の入口温度THを計測し、この入口温度THの温度データを制御装置50に供給する。第2の温度センサ18は、蒸発器20とポンプ12との間の熱媒体流路14であって、蒸発器20の出口側に設けられる。第2の温度センサ18は、蒸発器20の温水の出口温度TLを計測し、この出口温度TLの温度データを制御装置50に供給する。
【0019】
流量センサ40は、蒸発器20とポンプ12との間の熱媒体流路14に設けられる。流量センサ40は、蒸発器20から排出された温水の質量流量Qhwを計測し、質量流量Qhwのデータを制御装置50に供給する。
【0020】
第3の温度センサ60は、凝縮器26とポンプ28との間の作動媒体流路30であって、凝縮器26の出口側に設けられる。第3の温度センサ60は、凝縮器26の出口側の作動媒体の凝縮器出口温度T1を計測し、凝縮器出口温度T1の温度データを制御装置50に供給する。
【0021】
第4の温度センサ62は、ポンプ28と蒸発器20との間の作動媒体流路30であって、蒸発器20の入口側に設けられる。第4の温度センサ62は、蒸発器20の入口側の作動流体の入口温度T2を計測し、入口温度T2の温度データを制御装置50に供給する。第5の温度センサ64は、蒸発器20とスクロールタービン22との間の作動媒体流路30であって、蒸発器20の出口側に設けられる。第5の温度センサ64は、蒸発器20の出口側の作動流体の出口温度T3を計測し、出口温度T3の温度データを制御装置50に供給する。
【0022】
制御装置50は、例えばバイナリー発電装置100全体の動作を制御するCPU(Central Processing Unit)50aと、例えば後述する図2A図2B図3に示す制御を実現するための所定のプログラムが格納されるメモリ50bとを有する。制御装置50は、第3の温度センサ60から供給された凝縮器出口温度T1と熱力学的解析により取得した制御目標温度T1 *(基準温度値)との比較結果に基づいて、凝縮器26に設けられた冷却ファン27の動作を制御する。また、制御装置50は、流量センサ40により計測された温水の質量流量Qhw、第1の温度センサ16により計測された温水の入口温度Th、第2の温度センサ18により計測された温水の出口温度TL、第4の温度センサ62により計測された作動流体の温度T2及び第5の温度センサ64により計測された作動流体の温度T3より決定される質量流量QRを熱物性解析の結果である作動流体の制御目標質量流量QR *(基準流量値)との比較結果に基づいて、ポンプ28の動作を制御する。
【0023】
第1のインバータ70は、制御装置50から供給される制御信号に基づいてスイッチング動作することで直流電力を交流電力に変換し、所定の電圧、所定の周波数の交流電力を第1のモータ72に供給する。第1のモータ72は、第1のインバータ70から供給された交流電力に基づいて駆動することで冷却ファン27を所定の回転数で回転させる。
【0024】
第2のインバータ74は、制御装置50から供給される制御信号に基づいてスイッチング動作することで直流電力を交流電力に変換し、所定の電圧、所定の周波数の交流電力を第2のモータ76に供給する。第2のモータ76は、第2のインバータ74から供給された交流電力に基づいて駆動することでポンプ28を作動させる。
【0025】
[冷却ファン27の制御例]
次に、作動媒体の温度を制御する場合におけるバイナリー発電装置100の動作の一例について説明する。図2A及び図2Bは、作動流体を冷却する冷却ファン27を制御する場合におけるバイナリー発電装置100の動作の一例を示すフローチャートである。なお、本実施の形態で示す式において、*が付された記号は、解析的又は設計条件に基づいて予め決定された量を意味する。
【0026】
図2Aに示すように、ステップS100において、バイナリー発電装置100の運転条件として、スクロールタービン22の入口側のタービン入口圧力P3 *、熱媒体流路14内を流れる温水の質量流量Qhw *、温水の高温熱源温度(蒸発器20の入口温度)Th *、蒸発器20おける高温側の温水の入口温度Th *と作動流体の出口温度T3 *との温度差を示す最小温度差ΔTwの各データ(パラメータ)が制御装置50に入力される。なお、タービン入口圧力P3、質量流量Qhw *、高温熱源温度Th *、出口温度T3 *は、例えば作動媒体流路30に各種センサを設けて検出するようにしても良い。
【0027】
次に、ステップS110において、スクロールタービン22の設計条件として、排気体積V4及び容積比σの各データが制御装置50に入力される。制御装置50は、入力された各データを用いて下記式(1)を実行し、スクロールタービン22の最小体積Vminを算出する。また、下記式(2)を実行し、スクロールタービン22の最大体積Vmaxを算出する。
【0028】
【数1】
【0029】
【数2】
【0030】
制御装置50は、式(1)により算出した最小体積Vminとスクロールタービン22の吸入体積V3(Vin)とが等しくなることから、最小体積Vminの算出結果を吸入体積V3として取得する。また、入力された高温熱源温度Th *と最小温度差ΔTwとの差分からスクロールタービン22の入口側の入口温度T3を算出する。
【0031】
次に、ステップS120において、制御装置50は、与えられたスクロールタービン22のタービン入口圧力P3 *とスクロールタービン22の入口温度T3とを用いて下記式(3)~式(5)を実行し、熱力学的状態を算出する。熱力学的状態には、スクロールタービン22の入口における入口密度ρ3 *、入口比エンタルピーh3 *、及び入口比エントロピーs3 *が含まれる。また、算出した入口温度T3、入口密度ρ3 *を用いて下記式(6)を実行し、吸入質量m*を算出する。なお、作動流体の熱物性値は、例えば公知の熱物性データベースにより取得できる。
【0032】
【数3】
【0033】
【数4】
【0034】
【数5】
【0035】
【数6】
【0036】
次に、ステップS130において、制御装置50は、スクロールタービン22の出口側の出口密度ρ4 *を算出する。作動流体がスクロールタービン22の内部で理想的な断熱膨張するものと仮定した場合、吸入質量m*は保存され、スクロールタービン22の排気体積V4 *は既に分かっているので、スクロールタービン22の出口側の出口密度ρ4 *は下記式(7)により算出できる。また、断熱膨張を仮定した場合、スクロールタービン22の出口側の出口比エントロピーs4 *と入口側の入口比エントロピーs3 *とは、下記式(8)に示すように等しくなるので、入口比エントロピーs3 *を出口比エントロピーs4 *として取得できる。



【0037】
【数7】
【0038】
【数8】
【0039】
続けて、制御装置50は、上記式(7)及び式(8)に示した2つの状態量(ρ4 *,s4 *)を用いて下記式(9)~(11)により、スクロールタービン22の出口側の熱力学的状態を算出する。熱力学的状態には、スクロールタービン22の出口側における作動媒体の出口温度T4 *、出口圧力P4 *及び出口比エンタルピーh4 *が含まれる。
【0040】
【数9】
【0041】
【数10】
【0042】
【数11】
【0043】
ステップS140において、断熱効率ηsは下記式(12)で定義される。断熱効率ηsには予め所定値が与えられる。
【0044】
【数12】
【0045】
ステップS150において、制御装置50は、上記式(4)、式(6)、式(11)で算出した入口比エンタルピーh3 *、出口比エンタルピーh4 *、吸入質量m*を用いて、断熱効率ηsを考慮したスクロールタービン22の出口における熱力学的状態を下記式(13)、式(14)により算出する。
【0046】
【数13】
【0047】
【数14】
【0048】
続けて、制御装置50は、上記式(13)、式(14)に示した2つの状態量を用いて下記式(15)を実行し、断熱効率ηsが考慮されたスクロールタービン22の出口側の出口圧力P4s *を算出する。
【0049】
【数15】
【0050】
図2Bに示すように、ステップS160において、制御装置50は、出口圧力P4s *において作動流体が凝縮器26の出口側で飽和液になるまで一定に保持される。凝縮器26の作動流体が飽和液のとき、スクロールタービン22の出口側の出口圧力P4s *と凝縮器26の出口側の出口圧力P1 *とは等しくなることから、スクロールタービン22の出口側の出口圧力P4s *を凝縮器26の出口側の出口圧力P1 *として取得する。さらに、出口圧力P1 *に基づいて下記式(16)を実行することにより、凝縮器26の出口側の作動流体の制御目標温度T1 *を算出する。凝縮器26の出口側の制御目標温度T1 *は、凝縮器26の出口圧力P4 *における飽和液の温度であり、実測値と比較する際の基準値として用いられる。
【0051】
【数16】

なお、式(16)のA、B、Cは、作動流体の蒸気圧と温度の単位に依存する定数(アントワン定数)である。
【0052】
ステップS170において、第3の温度センサ60は、凝縮器26の出口側の作動流体の凝縮器出口温度T1を計測する。第3の温度センサ60により計測された作動流体の凝縮器出口温度T1のデータは、制御装置50に供給される。
【0053】
ステップS180において、制御装置50は、第3の温度センサ60から供給された作動流体の凝縮器出口温度T1と、熱力学的解析により取得した作動流体の制御目標温度T1 *との差分D1が、予め設定された余裕温度ΔTconを超えるか否かを判別する。ここで、余裕温度ΔTconとは、解析的に決定された制御目標温度T1 *から許容することが可能な作動媒体の温度の範囲を意味する。差分D1が予め設定された余裕温度ΔTconを超える場合、言い換えると、実測値の凝縮器出口温度T1が制御目標温度T1 *よりも大きい場合にはステップS190に進む。
【0054】
ステップS190において、制御装置50は、凝縮器26に設けられた冷却ファン27の回転数が上がるよう第1のインバータ70を制御することで冷却ファン27の回転数を制御する。これにより、冷却ファン27の回転数が上がり、作動媒体流路30内を流れる作動流体に当たる風量が多くなることで、作動流体の温度が下がる。冷却ファン27の制御が終了したら、ステップS170に戻る。
【0055】
一方、差分D1が予め設定された余裕温度ΔTcon以下の場合、言い換えると、実測値の凝縮器出口温度T1が制御目標温度T1 *よりも小さい場合には、ステップS200に進む。ステップS200において、制御装置50は、熱力学的解析により取得した制御目標温度T1 *と第3の温度センサ60から供給された凝縮器出口温度T1との差分D2が、予め設定された余裕温度ΔTconを超えるか否かを判別する。差分D2が予め設定された余裕温度ΔTconを超える場合には、ステップS210に進む。
【0056】
ステップS210において、制御装置50は、凝縮器26に設けられた冷却ファン27の回転数が下がるよう第1のインバータ70を制御することで冷却ファン27の回転数を制御する。これにより、冷却ファン27の回転数が下がり、作動媒体流路30内を流れる作動流体に当たる風量が少なくなることで、作動流体の温度が上昇する。冷却ファン27の制御が終了したら、ステップS170に戻る。
【0057】
また、ステップS200において、算出した差分D2が予め設定された余裕温度ΔTcon以下となる場合、つまり、差分D1、差分D2が余裕温度ΔTconの範囲内にある(一致する)場合には、作動流体の温度は正常の範囲であるため、冷却ファン27の制御を行わずに、ステップS170に戻る。
【0058】
なお、凝縮器26の出口側の制御目標温度T1 *を決定する方法については、上述した例に限定されることはない。例えば、スクロールタービン22の出口側に圧力センサを設け、この圧力センサにより計測された出口圧力を用いて制御目標温度T1 *を決定しても良い。具体的には、圧力センサにより計測されたスクロールタービン22の出口側における実測値の出口圧力を凝縮器26の出口側の出口圧力P1として取得し、出口圧力P1における飽和液の温度を凝縮器26の出口側の制御目標温度T1 *として逐次解析的に決定しても良い。この場合には、実測値の出口圧力を逐次フィードバック制御できるので、最適な基準温度値を設定できる。
【0059】
[ポンプ28の制御例]
次に、作動媒体の流量を制御する場合のバイナリー発電装置100の動作の一例について説明する。図3は、作動媒体流路30を循環する作動流体の質量流量を制御する場合におけるバイナリー発電装置100の動作の一例を示すフローチャートである。
【0060】
ステップS300において、バイナリー発電装置100の運転条件として、温水の比熱Cp、温水の入口温度TH *、温水の出口温度TL *、温水の質量流量Qhw *の各データがそれぞれ制御装置50に入力される。なお、温水の入口温度TH *、温水の質量流量Qhw *の各データについては、図2AのステップS100のバイナリー発電装置100の運転条件で用いた各データを利用できる。また、制御装置50は、蒸発器20の入口側の作動流体の入口比エンタルピーh2 *及び蒸発器20の出口側の作動流体の出口比エンタルピーh3 *を、図2AのステップS120で説明した熱力学的解析と同様の解析方法を利用して算出する。
【0061】
ステップS310において、制御装置50は、入力された各データを用いて式(17)を実行し、作動流体の制御目標質量流量QR *を算出する。なお、作動流体の制御目標質量流量QR *は、蒸発器20において温水の供給熱量が100%作動流体に熱交換されると仮定した場合の作動流体の質量流量であり、実測値の作動媒体の質量流量QRと比較する際の基準値として用いられる。
【0062】
【数17】
【0063】
ステップS320において、第1の温度センサ16は蒸発器20の入口側の温水の入口温度THを計測し、第2の温度センサ18は蒸発器20の出口側の温水の出口温度TLを計測する。また、第4の温度センサ62は蒸発器20の入口側の作動流体の入口温度T2を計測し、第5の温度センサ64は蒸発器20の出口側の作動流体の出口温度T3を計測する。流量センサ40は、熱媒体流路14内を流れる温水の質量流量Qhwを測定する。制御装置50には、計測された入口温度TH、出口温度TL、入口温度T2、出口温度T3、質量流量Qhwの各実測値が入力される。
【0064】
ステップS330において、制御装置50は、入力された各実測値を用いて式(18)を実行し、作動流体の質量流量QRを算出する。なお、式(18)中の温水の比熱Cpについては、ステップS300のバイナリー発電装置100の運転条件で説明した温水の比熱Cpを利用できる。
【0065】
【数18】
【0066】
ステップS340において、制御装置50は、実測値である作動流体の質量流量QRと熱物性解析の結果である作動流体の制御目標質量流量QR *との差分D3を算出し、算出した差分D3が予め設定された余裕質量流量ΔQより大きいか否かを判別する。ここで、余裕質量流量ΔQとは、解析的に決定される制御目標流量QR *から許容することが可能な作動媒体の流量の範囲を意味する。差分D3が余裕質量流量ΔQより大きい場合、言い換えると、実測値の質量流量QRが制御目標質量流量QR *よりも大きい場合には、ステップS350に進む。
【0067】
ステップS350において、制御装置50は、ポンプ28の電源周波数Δfが下がるよう第2のインバータ74を制御することでポンプ28の動作を制御する。これにより、ポンプ28の電源周波数が下がることで、ポンプ28から排出される作動媒体の流量を減少させることができる。ポンプ28の制御が終了したら、ステップS340に戻る。
【0068】
一方、算出した差分D3が予め設定された余裕質量流量ΔQ以下となる場合、言い換えると、実測値の質量流量QRが制御目標質量流量QR *よりも小さい場合には、ステップS360に進む。ステップS360において、制御装置50は、熱物性解析の結果である制御目標質量流量QR *と実測値である作動流体の質量流量QRとの差分D4が予め設定された余裕質量流量ΔQより大きいか否かを判別する。差分D4が予め設定された余裕質量流量ΔQより大きい場合には、ステップS370に進む
【0069】
ステップS370において、制御装置50は、ポンプ28の電源周波数Δfが上がるよう第2のインバータ74を制御することでポンプ28の動作を制御する。これにより、ポンプ28の電源周波数が上がることで、ポンプ28から排出される作動媒体の流量を増加させることができる。ポンプ28の制御が終了したら、ステップS340に進む。
【0070】
また、ステップS370において、算出した差分D4が予め設定された余裕質量流量ΔQ以下となる場合には、つまり、差分D3、差分D4が余裕質量流量ΔQの範囲内にある(一致する)場合には、作動流体の質量流量QRは正常の範囲であるため、ポンプ28の制御を行わずに、ステップS340に戻る。
【0071】
以上説明したように、本実施の形態によれば、第3の温度センサ60により計測された作動媒体の凝縮器出口温度T1に基づいて凝縮器26の冷却ファン27の回転数を上昇又は低下させるので、作動媒体の温度を最適な状態で管理できると共に冷却ファン27の無駄な駆動を防止できる。これにより、冷却ファン27において電力が過剰に消費されることを防止でき、バイナリー発電装置100における発電効率を向上させることができる。
【0072】
また、本実施の形態によれば、第1の温度センサ16等により計測された温水の入口温度Th、流量センサ40により計測された温水の質量流量Qhw等により決定される作動媒体の流量に基づいて、ポンプ28の電源周波数を上昇又は低下させるので、作動媒体流路30内を流れる作動媒体の流量を最適な状態で管理できると共にポンプ28の無駄な駆動を防止できる。これにより、ポンプ28において電力が過剰に消費されることを防止でき、バイナリー発電装置100における発電効率を向上させることができる。
【0073】
以上、本開示の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。また、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものでは無く、また他の効果があってもよい。
【0074】
上述した実施の形態では、凝縮器26において作動媒体を冷却する手段として冷却ファン27を用いた例について説明したが、これに限定されることはない。例えば、バイナリー発電装置100の発電量が大きい場合には、ポンプによって冷却水を循環させることで作動媒体を冷却する水冷方式を採用しても良い。この水冷方式による制御を採用した場合でも、上述したステップS100~S210で説明した熱力学解析と同様の方法により作動媒体の温度制御を行うことができる。
【0075】
また、上述した実施の形態では、基準値(閾値)としての制御目標温度T1 *、制御目標質量流量QR *を制御装置50により演算、取得する例について説明したが、これに限定されることはない。例えば、制御装置50とは異なる他のコンピュータにより制御目標温度T1 *等を予め作成し、作成した制御目標温度T1 *等を制御装置50に直接又はネットワークを介して入力するようにしても良い。
【符号の説明】
【0076】
10 熱源
14 熱媒体流路
16 第1の温度センサ
18 第2の温度センサ
20 蒸発器
22 スクロールタービン
24 発電機
26 凝縮器
28 ポンプ
30 作動媒体流路
40 流量センサ(流量計測部)
50 制御装置
60 第3の温度センサ(温度検出部)
62 第4の温度センサ(温度検出部)
64 第5の温度センサ(温度検出部)
100 バイナリー発電装置
図1
図2A
図2B
図3