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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154627
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】内燃機関の空燃比検出装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/04 20060101AFI20221005BHJP
   F02D 35/00 20060101ALI20221005BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20221005BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20221005BHJP
   B60W 20/20 20160101ALI20221005BHJP
【FI】
F02D41/04
F02D35/00 368B
B60K6/442 ZHV
B60W10/06 900
B60W20/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057748
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174366
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 史郎
(72)【発明者】
【氏名】澤田 徹
【テーマコード(参考)】
3D202
3G301
【Fターム(参考)】
3D202AA02
3D202BB01
3D202CC22
3D202CC24
3D202DD16
3D202DD21
3D202DD22
3G301HA01
3G301JA20
3G301KA06
3G301PD02Z
3G301PD13Z
(57)【要約】
【課題】排気温度に基づくO2センサの検出値の補正を適切に行い、理論空燃比の検出精度を向上させる内燃機関の空燃比検出装置を提供する。
【解決手段】エンジン2の排気通路10に設けられ、排気中の酸素濃度を出力するO2センサ23と、O2センサ23によって検出した排気中の酸素濃度に基づいて、排気の空燃比が理論空燃比領域内であることを判定する空燃比検出装置であって、排気温度センサ24によって検出した排気温度に基づいてO2センサ23の温度を取得する温度取得部35と、温度取得部35によって取得したO2センサ23の温度に基づいて、O2センサ23の出力値を補正する補正部36と、を備え、補正部36は、排気温度の高温時に、理論空燃比領域よりもリーン側におけるO2センサ23の出力値をリーン側に補正する一方、リッチ側におけるO2センサ23の出力値をリッチ側に、補正値の絶対値がリーン側での補正値の絶対値より大きく補正する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、排気中の酸素濃度を検出して出力する酸素濃度検出手段と、
前記酸素濃度検出手段によって検出した前記酸素濃度に基づいて、排気の空燃比が理論空燃比であることを判定する判定手段と、を有する空燃比検出装置であって、
前記酸素濃度検出手段の温度を取得する温度取得手段と、
前記温度取得手段によって取得した前記酸素濃度検出手段の温度に基づいて、前記酸素濃度検出手段の出力値、若しくは前記判定手段において前記酸素濃度検出手段の出力値が理論空燃比であることを判断するための閾値を補正する補正手段と、を備え、
前記補正手段は、
前記酸素濃度検出手段の出力値の補正量の絶対値、若しくは前記閾値の補正量の絶対値が、理論空燃比よりリッチ側とリーン側とで異なるように補正することを特徴とする内燃機関の空燃比検出装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記温度取得手段によって取得した前記酸素濃度検出手段の温度が上昇するに伴って、理論空燃比よりリッチ側の前記酸素濃度検出手段の出力値の補正量の絶対値、若しくは前記閾値の補正量の絶対値を、リーン側の前記酸素濃度検出手段の出力値の補正量の絶対値、若しくは前記閾値の補正量の絶対値よりも大きくすることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の空燃比検出装置。
【請求項3】
前記内燃機関の排気温度を検出する排気温度検出手段を備え、
前記温度取得手段は、
前記内燃機関の排気温度に基づいて前記酸素濃度検出手段の温度を算出し、前記排気温度の変化に対して遅延して追従変化するように前記酸素濃度検出手段の温度を遅延補正して算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の空燃比検出装置。
【請求項4】
前記内燃機関は、走行モードをシリーズモードとパラレルモードとに選択可能なハイブリッド車の走行駆動源として搭載され、
前記温度取得手段は、前記シリーズモードと前記パラレルモードとで、前記酸素濃度検出手段の温度の遅延補正量を異なるものにすることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の空燃比検出装置。
【請求項5】
前記内燃機関の温度を検出する内燃機関温度検出手段を備え、
前記温度取得手段は、前記内燃機関の温度と排気温度とに基づいて前記酸素濃度検出手段の温度を算出し、前記内燃機関の温度が低いほど前記酸素濃度検出手段の温度の遅延補正量を増加させることを特徴とする請求項3または4に記載の内燃機関の空燃比検出装置。
【請求項6】
前記内燃機関の停止後の前記酸素濃度検出手段の温度低下量を予測する予測手段を更に備え、
前記温度取得手段は、前記予測手段により予測した前記内燃機関の停止後の前記酸素濃度検出手段の温度低下量に基づいて、前記内燃機関の再始動後の前記酸素濃度検出手段の温度を取得することを特徴とする請求項5記載の内燃機関の空燃比検出装置。
【請求項7】
前記内燃機関は、車両の走行駆動源として搭載され、
前記予測手段は、前記内燃機関の停止後の車速と外気温度に基づいて前記酸素濃度検出手段の温度低下量を予測することを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の空燃比検出装置。
【請求項8】
前記補正手段により補正された前記酸素濃度検出手段の出力値は、前記内燃機関の排気通路に設けられた排気空燃比検出手段の検出値の補正に使用されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気空燃比の検出技術に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気通路には、内燃機関の空燃比を制御して排気を良化したり燃費や運転性を向上させたりするために、排気通路の空燃比を検出するセンサが設けられている。
例えば特許文献1には、排気通路に設けられた排気浄化触媒の近傍に空燃比センサとO2センサ(酸素濃度検出手段)を備え、空燃比センサの検出値に基づいて燃料噴射制御を行うとともに、O2センサの検出値に基づいて空燃比センサの検出値を補正して、空燃比センサの検出値の精度を向上させている。
【0003】
更に、特許文献1では、内燃機関の吸入空気量及び目標空燃比に基づいて排気温度を推定し、推定した排気温度に基づいてO2センサの検出値を補正して、O2センサの検出値に基づいて補正する空燃比センサの検出値の精度を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-49448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、推定した排気温度に基づいてO2センサの検出値を加算補正している。しかしながら、O2センサは高温状態における常温状態からの出力値の変化量はリッチ側とリーン側とで異なる傾向にあり、特許文献1のように排気温度に基づいてO2センサの検出値をリッチ側とリーン側とで同様に加算補正したとしても、理論空燃比を正確に検出することが困難になる可能性がある。したがって、O2センサによる理論空燃比の検出に基づいて空燃比センサの検出値を補正したとしても、空燃比センサの検出精度を十分に向上させることが困難になるといった問題点がある。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、排気温度に基づく酸素濃度検出手段の補正を適切に行い、酸素濃度検出手段における理論空燃比の検出精度を向上させる内燃機関の空燃比検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の内燃機関の空燃比検出装置は、内燃機関の排気通路に設けられ、排気中の酸素濃度を検出して出力する酸素濃度検出手段と、前記酸素濃度検出手段によって検出した前記酸素濃度に基づいて、排気の空燃比が理論空燃比であることを判定する判定手段と、を有する空燃比検出装置であって、前記酸素濃度検出手段の温度を取得する温度取得手段と、前記温度取得手段によって取得した前記酸素濃度検出手段の温度に基づいて、前記酸素濃度検出手段の出力値、若しくは前記判定手段において前記酸素濃度検出手段の出力値が理論空燃比であることを判断するための閾値を補正する補正手段と、を備え、前記補正手段は、前記酸素濃度検出手段の出力値の補正量の絶対値、若しくは前記閾値の補正量の絶対値が、理論空燃比よりリッチ側とリーン側とで異なるように補正することを特徴とする。
【0008】
これにより、酸素濃度検出手段における温度の影響を抑制して、酸素濃度検出手段から出力する排気中の酸素濃度の精度を向上させることができる。特にリッチ側とリーン側とで酸素濃度の補正値を異なるようにすることで、酸素濃度をリッチ側とリーン側のいずれにおいても正確に補正することが可能になる。
好ましくは、前記補正手段は、前記前記温度取得手段によって取得した前記酸素濃度検出手段の温度が上昇するに伴って、理論空燃比よりリッチ側の前記酸素濃度検出手段の出力値の補正量の絶対値、若しくは前記閾値の補正量の絶対値を、リーン側の前記酸素濃度検出手段の出力値の補正量の絶対値、若しくは前記閾値の補正量の絶対値よりも大きくするとよい。
【0009】
これにより、リッチ側での補正量の絶対値を大きくすることで、酸素濃度検出手段の温度が上昇するに伴って酸素濃度の出力値が特に大きく変化するリッチ側において、酸素濃度を正確に補正することができる。
好ましくは、前記内燃機関の排気温度を検出する排気温度検出手段を備え、前記温度取得手段は、前記内燃機関の排気温度に基づいて前記酸素濃度検出手段の温度を算出し、前記排気温度の変化に対して遅延して追従変化するように前記酸素濃度検出手段の温度を遅延補正して算出するとよい。
【0010】
これにより、排気温度が変化した際に、排気温度の変化に対して遅延して変化する酸素濃度検出手段の温度に対応して、排気温度より酸素濃度検出手段の温度を正確に取得することが可能になる。
好ましくは、前記内燃機関は、走行モードをシリーズモードとパラレルモードとに選択可能なハイブリッド車の走行駆動源として搭載され、前記温度取得手段は、前記シリーズモードと前記パラレルモードとで、前記酸素濃度検出手段の温度の遅延補正量を異なるものにするとよい。
【0011】
これにより、内燃機関の回転速度が急激に変化可能なシリーズモードと、内燃機関の回転速度が急激に変化し難いパラレルモードの夫々において、排気温度の変化に対する酸素濃度検出手段の温度変化に対応して、排気温度より酸素濃度検出手段の温度を精度良く取得することができる。
好ましくは、前記内燃機関の温度を検出する内燃機関温度検出手段を備え、前記温度取得手段は、前記内燃機関の温度と排気温度とに基づいて前記酸素濃度検出手段の温度を算出し、前記内燃機関の温度が低いほど前記酸素濃度検出手段の温度の遅延補正量を増加させるとよい。
【0012】
これにより、内燃機関の温度が低いほど酸素濃度検出手段の温度が上昇し難いことに対応して遅延補正量を増加させることで、酸素濃度検出手段の温度を精度良く取得することができる。
好ましくは、前記内燃機関の停止後の前記酸素濃度検出手段の温度低下量を予測する予測手段を更に備え、前記温度取得手段は、前記予測手段により予測した前記内燃機関の停止後の前記酸素濃度検出手段の温度低下量に基づいて、前記内燃機関の再始動後の前記酸素濃度検出手段の温度を取得するとよい。
【0013】
これにより、内燃機関の停止後の酸素濃度検出手段の温度低下量から内燃機関の再始動時の酸素濃度検出手段の温度を取得でき、取得した内燃機関の再始動時の酸素濃度検出手段の温度から内燃機関の再始動後の酸素濃度検出手段の温度の変化を算出できるので、酸素濃度検出手段の温度を精度良く取得することができる。
好ましくは、前記内燃機関は、車両の走行駆動源として搭載され、前記予測手段は、前記内燃機関の停止後の車速と外気温度に基づいて前記酸素濃度検出手段の温度低下量を予測するとよい。
【0014】
これにより、内燃機関の停止後の車両走行による酸素濃度検出手段の温度低下量を考慮することができるので、酸素濃度検出手段の温度を精度良く取得することができる。
好ましくは、前記補正手段により補正された前記酸素濃度検出手段の出力値は、前記内燃機関の排気通路に設けられた排気空燃比検出手段の検出値の補正に使用されることを特徴とするとよい。
【0015】
これにより、補正手段により補正された精度の良い酸素濃度検出手段の出力値を、空燃比検出手段の検出値の補正に使用することで、空燃比検出手段の検出値の精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の内燃機関の空燃比検出装置によれば、酸素濃度検出手段の検出値、若しくは酸素濃度検出手段の出力値が理論空燃比であることを判断するための閾値をリッチ側とリーン側のいずれにおいても正確に補正して、理論空燃比を正確に検出することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るエンジンの給排気系の概略構成図である。
図2】三元触媒における排気空燃比に対する各排気成分の浄化性能とO2センサの出力値を示すグラフである。
図3】排気温度の変化に対するO2センサの温度の変化例を示すグラフである。
図4】排気温度の変化に対するO2センサの温度の変化例を示すグラフであり、(A)はシリーズモード、(B)はパラレルモードにおける変化例を示す。
図5】エンジン始動時におけるエンジン水温、排気温度センサ検出値、O2センサの温度の変化例を示すグラフであり、(A)は温態始動時、(B)は冷態始動時を示す。
図6】エンジン停止後の車両停止状態での排気温度、エンジン水温、O2センサの温度の推移例を示すグラフである。
図7】エンジン停止後のEV走行中における排気温度、エンジン水温、O2センサの温度の推移例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る空燃比検出装置を適用したエンジン2(内燃機関)の給排気系の概略構成図である。
エンジン2は、走行駆動源として車両に搭載されている。車両は、シリーズモードとパラレルモードに切り替え可能なハイブリッド車である。
【0019】
シリーズモードは、エンジン2によって発電機を駆動して発電しつつ、電気モータによって車両の走行輪を駆動する。パラレルモードは、エンジン2の駆動力によって走行輪を駆動するとともに、電気モータによって走行輪を駆動する。シリーズモードとパラレルモードは、車速等に基づいて自動的に選択される。
エンジン2は、多気筒のガソリンエンジンであって、図1では簡略して1つの気筒のみ記載している。エンジン2は、各気筒の吸気ポート4に設けられた燃料噴射弁3(燃料噴射手段)から、任意の噴射時期及び噴射量で各気筒の吸気ポート4内に燃料を噴射可能な構成となっている。
【0020】
エンジン2の吸気通路5には、新気の流量を調整するためのスロットルバルブ6が設けられている。
一方、エンジン2の排気通路10には、排気浄化装置として三元触媒12が備えられている。
三元触媒12は、理論空燃比において排気中のHC、COを酸化させるとともにNOxを還元し、これらの排気成分を排気中から除去する機能を有する。
【0021】
エンジン2の排気通路10には、三元触媒12の上流側にLAFS(リニア空燃比センサ)22(排気空燃比検出手段)を備えるとともに、三元触媒12の下流側に排気空燃比を検出するO2センサ23(酸素濃度検出手段)と排気温度を検出する排気温度センサ24(排気温度検出手段)が設けられている。
エンジンコントロールユニット30は、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、タイマ及び中央演算処理装置(CPU)等を含んで構成され、LAFS22、O2センサ23等の各種センサの検出情報と、その他車両のアクセル操作量等の車両運転情報を入力し、当該各種情報に基づいて、燃料噴射弁3からの燃料噴射量、 スロットルバルブ6の開度を演算して、上記各種機器の作動制御を行うことで、エンジン2の運転制御を行う。
【0022】
具体的には、エンジンコントロールユニット30は、LAFS22の検出値が目標空燃比、例えば理論空燃比を示す値になるように燃料噴射量をフィードバック制御する。
図2は、所定回転速度及び所定負荷でのエンジン2の運転時において、三元触媒12における排気空燃比に対する各排気成分の浄化性能とO2センサ23の出力値を示すグラフである。図2(A)において、実線がLAFS22の出力値を示す。また、破線が一酸化炭素CO及び炭化水素HC、一点鎖線が窒素酸化物NOxの三元触媒12からの排出量を示す。一酸化炭素CO、炭化水素HC、窒素酸化物NOxの三元触媒12からの排出量が少なくなる空燃比、すなわち理論空燃比付近の領域(理論空燃比領域)を目標空燃比として、LAFS22の検出値に基づき燃料噴射量をフィードバック制御する。図2(B)は、O2センサ23が高温状態にあるときのO2センサ23の出力値を示す。図2(B)において、破線が補正前のO2センサ23の出力値、一点鎖線が補正後のO2センサ23の出力値である。O2センサ23の出力値は、理論空燃比領域において大きく変化し、理論空燃比領域よりもリッチ側及びリーン側では小さく変化する。そのため、理論空燃比領域とリッチ領域との境界(リッチ境界)におけるO2センサ23の出力値と、理論空燃比領域とリーン領域との境界(リーン境界)におけるO2センサ23の出力値との差は大きくなる。O2センサ23は、例えばリッチ境界及びリーン境界における出力値にそれぞれリッチ閾値、リーン閾値を設けることで、O2センサ23の出力値に基づいて三元触媒12の下流側の排気空燃比の状態、すなわち排気空燃比が理論空燃比領域にあるか、若しくはリッチ、リーン状態にあるかを判定することができる。なお、特許請求の範囲に記載されている「理論空燃比」は、この「理論空燃比領域」を指す。
【0023】
エンジンコントロールユニット30は、O2センサ23の出力値に基づいて、LAFS22の出力値を補正する機能を有する。
更に、本実施形態のエンジンコントロールユニット30は、O2センサ23の排気空燃比の検出精度を高める酸素濃度取得部1を備えている。酸素濃度取得部1は、排気温度センサ24によって検出した排気温度に基づいてO2センサ23の温度を取得する温度取得部35(温度取得手段)と、O2センサ23の出力値を補正する補正部36(補正手段)と、を有する。なお、O2センサ23、排気温度センサ24及び酸素濃度取得部1が、本願発明の空燃比検出装置に該当し、エンジンコントロールユニット30のO2センサ23の出力値がリッチ閾値、リーン閾値を超えたか否かを判定する機能が本願発明の判定手段に該当する。
【0024】
補正部36は、温度取得部35により取得したO2センサ23の温度に基づいてO2センサ23の出力値を補正する。具体的には、O2センサ23の温度が高いほど、理論空燃比よりリッチ側におけるO2センサ23の出力値を増加させ、理論空燃比よりリーン側におけるO2センサ23の出力値を低下させる。このとき、理論空燃比よりリッチ側におけるO2センサ23の出力値の補正値の絶対値(増加量)は、理論空燃比よりリーン側におけるO2センサ23の出力値の補正値の絶対値(低下量の絶対値)よりも大きく設定される。
【0025】
O2センサ23の出力値は、O2センサ23が高温状態となるとリッチ領域とリーン領域での出力値の差が減少するとともに、リッチ領域での出力値が大きく低下する。そのため、本実施形態では、O2センサ23が高温状態となるとO2センサ23の出力値を補正し、常温状態での出力値に近づける。すなわち、図2(B)の実線で示す補正後のO2センサ23の出力値は、常温状態におけるO2センサ23の出力値と同様となる。
【0026】
本実施形態では、補正部36によって、O2センサ23の温度に基づいてO2センサ23の出力値を補正する。詳しくは、リッチ領域でのO2センサ23の出力値を大きく増加し、リーン領域ではO2センサ23の出力値を小さく低下させる。本実施形態では、O2センサ23の温度が所定温度を超えた場合にO2センサ23が高温状態にあると判断し、O2センサ23の出力値の補正を行うが、これに限らずO2センサ23の温度が上昇するにつれて連続的にあるいは3以上の複数段でO2センサ23の出力値の補正値の絶対値を増加させてもよい。
【0027】
このように補正することで、温度上昇によってリッチ領域での出力値が大きく低下するといったO2センサ23の特性に対応して、O2センサ23の出力値を精度良く補正することができる。したがって、このO2センサ23の出力値に基づいてLAFS22の出力値を補正することで、LAFS22の出力値の精度を向上させることができ、LAFS22の出力値に基づく燃料噴射制御を精度良く実行することができる。
【0028】
図3は、排気温度の変化に対するO2センサ23の温度の変化例を示すグラフである。
図3に示すように、排気温度が変化してもO2センサ23の温度は緩やかに変化する。例えば排気温度が上昇してもO2センサ23の温度が排気温度に一致するまでに時間差がある。また、O2センサ23の温度が排気温度に近づくに連れてO2センサ23の温度が上昇し難くなる。
【0029】
上記のようにO2センサ23の出力値を補正する際に、排気温度センサ24はO2センサ23に近い温度センサであるため、排気温度センサ24によって検出した排気温度をO2センサ23の温度の取得に利用することでより正確にO2センサ23の温度を取得できるが、排気温度センサ24によって検出した排気温度をそのままO2センサ23の温度として使用すると、温度変化時において排気温度とO2センサ23の温度とに誤差が生じてしまう。
【0030】
本実施形態では、温度取得部35において、排気温度センサ24の検出値の変化に対して、緩やかに追従変化するように遅延補正してO2センサ23の温度を算出する。これにより、排気温度の変化時にO2センサ23の温度をより正確に取得することが可能になり、例えばエンジン2の過渡運転時のように排気温度が変化する場合に、O2センサ23の出力値を正確に補正してより正確な酸素濃度を取得することが可能となる。
【0031】
なお、温度変化時における排気温度とO2センサ23の温度との誤差は、排気温度が急激に変化するほど大きくなる。そのため、排気温度の変化速度を取得し、変化速度が速いほど大きく遅延補正してO2センサ23の温度を算出するようにしてもよい。
図4は、排気温度の変化に対するO2センサ23の温度の変化例を示すグラフであり、(A)はシリーズモード、(B)はパラレルモードにおける変化例を示す。
【0032】
本実施形態の車両では、シリーズモードとパラレルモードが選択的に実行される。
図4(A)に示すように、シリーズモードでは発電機を駆動するためにエンジン2を駆動し、エンジン2の駆動力を機械的に走行輪の駆動に使用しない。したがって、車両の走行状態に関係なくエンジン2の回転速度を変更させることが可能であるため、エンジン2の回転速度を急激に変化させることが可能である、これにより、排気温度が急激に変化する可能性がある。
【0033】
一方、図4(B)に示すように、パラレルモードではエンジン2の駆動力を機械的に走行輪の駆動に使用するため、車速が変化しなければエンジン2の回転速度が変化しないことから、エンジン回転速度の急激な変化が抑制され、排気温度も急激には変化しない。
以上の点を鑑みて、補正部36では、更にシリーズモードにおいて排気温度センサ24の検出値の変化に対してより緩やかに変化するように遅延補正する(遅延補正量を大きくする)一方、パラレルモードにおいては排気温度センサ24の検出値の変化に対する遅延補正を小さくする(遅延補正量を小さくする)。
【0034】
これにより、各走行モードに適した排気温度センサ24の検出値の補正を行うことができる。
また、温度取得部35において、排気温度センサ24の検出値だけでなくエンジン温度、例えば水温センサ38(内燃機関温度検出手段)によって検出したエンジン冷却水の水温に基づいてO2センサ23の温度を演算してもよい。
【0035】
図5は、エンジン始動時におけるエンジン水温、排気温度センサ検出値、O2センサ23温度の変化例を示すグラフであり、(A)は温態始動時、(B)は冷態始動時を示す。
図5(A)に示すように、温態始動時においては、O2センサ23自体も温度が比較的高いので、O2センサ23の温度が上昇し易く、排気温度に追従変化し易い。
これに対し、図5(B)に示すように、冷態始動時においては、O2センサ23自体も温度が比較的低いので、O2センサ23の温度が上昇し難い。
【0036】
以上の点を鑑みて、温度取得部35では、水温センサ38によって検出するエンジン温度(冷却水温)に基づいて、O2センサ23の温度変化量の加減速度を変更する。詳しくは、冷態始動時においては排気温度センサ24の検出値がより緩やかに変化するように大きく遅延補正する一方、温態始動時においては排気温度センサ24の検出値の変化に対するO2センサ23の検出量の遅延補正を小さくする。なお、本実施形態では、始動時のエンジン温度が所定の暖気完了水温以上であるか否かに基づいて遅延補正の大きさを2段階に変更しているが、エンジン温度に基づく遅延補正は、エンジン温度に基づいて連続的にあるいは3以上の複数段で補正値を変化せたりしてもよい。また、始動後のエンジン温度の変化を取得し、エンジン温度の変化に基づいて遅延補正の大きさを変化させてもよい。
【0037】
これにより、更にO2センサ23の温度を正確に取得することができ、排気温度センサ24の検出値の補正をより正確に行うことができる。
上記のように始動時のエンジン温度に基づく遅延補正を行う場合、始動時のエンジン温度とO2センサ23の温度とに誤差が生じることが考えられる。そのため、エンジン停止から所定時間内に始動した場合においてはO2センサ23の温度を補正算出するとよい。
【0038】
図6は、エンジン停止後の車両停止状態での排気温度(センサ値)、エンジン水温、O2センサ23温度の推移例を示すグラフである。
図6に示すように、エンジン2を停止すると、エンジン水温が徐々に低下し、排気温度及びO2センサ23の温度も低下する。
エンジン停止後に十分な時間が経過すると、エンジン温度(エンジン水温)と排気温度、O2センサ23温度が略同一になるが、O2センサ23は排気温度よりも冷えにくい。したがって、エンジン停止後にあまり時間が経過せずに再始動した場合には、O2センサ23が排気温度に対して高い傾向になる。
【0039】
そこで、エンジンコントロールユニット30に、エンジン停止後のO2センサ23の温度を予測する温度予測部40(予測手段)を備え、次回のエンジン始動時のO2センサ23の温度を求めることで、温度取得部35において再始動後のO2センサ23の温度を精度よく推定することができる。例えば、温度予測部40において、エンジン停止からの経過時間に基づいて、停止時の排気温度に対するO2センサ23の温度低下量をあらかじめ検出して記憶しておき、この記憶したデータに基づいて次回エンジン始動時のO2センサ23の温度を求めるとよい。
【0040】
これにより、温度取得部35においてエンジン停止から短時間で再始動した場合のO2センサ23の温度を精度よく推定し、補正部36において排気温度センサ24の検出値の補正をより正確に行うことができる。
また、エンジン停止後のO2センサ23の温度低下は、経過時間だけでなく、外気温度や走行状態(走行風)の影響を受ける。
【0041】
図7はエンジン停止後のEV走行中における排気温度(センサ値)、エンジン水温、O2センサ23の温度の推移例を示すグラフである。なお、図6図7はエンジン停止後における車両走行状態が異なるものであって、その他の条件は同一である。
図7に示すように、エンジン停止後にEV走行中においては、走行風によってエンジン水温の低下とともに、図6に示す停車状態よりも排気温度やO2センサ23の温度が大きく低下する。なお、これは車両惰性走行中のエンジン停止時(コーストアイドルストップ時)も同様である。
【0042】
したがって、温度予測部40において、エンジン停止後の車速と経過時間に基づいて、停止時の排気温度に対するO2センサ23の温度低下量をあらかじめ検出して記憶しておき、この記憶したデータに基づいてエンジン始動時のO2センサ23の温度を求めればよい。
これにより、エンジン停止から短時間で再始動した際のO2センサ23の温度を更に精度よく推定し、排気温度センサ24の検出値の補正をより正確に行うことができる。
【0043】
以上で本発明の説明を終了するが、本発明は上記の実施形態に限定するものではない。
例えば、本実施形態ではO2センサ23で検出した酸素濃度に基づいてLAFS22の検出値を補正するが、O2センサ23で検出した酸素濃度をその他の用途に利用してもよい。
また、本実施形態ではリッチ領域でのO2センサ23の出力値を大きく増加し、リーン領域ではO2センサ23の出力値を小さく低下させるようにO2センサ23の出力値を補正するものとしたが、リーン領域におけるO2センサ23の出力値はO2センサ23の温度変化の影響を受けにくいため、出力値の補正を行わない、すなわち補正値をゼロに設定してもよい。
【0044】
また、使用するO2センサ23の温度が高温状態ではリッチ領域での出力値が常温状態に対して大きくなるような特性の場合は、リッチ領域でのO2センサ23の出力値を低下させるように補正すればよい。いずれにせよ、O2センサ23の出力値はリッチ領域の方がリーン領域よりも高温時に温度変化の影響を受けやすいため、リッチ領域でのO2センサ23の出力値の補正値の絶対値をリーン領域でのO2センサ23の出力値の補正値の絶対値よりも大きくすればよい。なお、リーン領域の方がリッチ領域よりも温度変化の影響を受けやすいような場合が考えられるのであれば、リーン領域でのO2センサ23の出力値の補正値の絶対値をリッチ領域でのO2センサ23の出力値の補正値の絶対値よりも大きくしてもよい。
【0045】
また、排気浄化装置は三元触媒に限らず、燃料噴射量をフィードバック制御する際のLAFS22の検出値の目標空燃比は理論空燃比でなくともよい。
更に、本実施形態では高温状態でのO2センサ23の出力値を補正することでO2センサ23の出力値に基づく排気空燃比の状態の判定精度を向上させるものとしたが、リッチ閾値およびリーン閾値を補正することでもO2センサ23の出力値に基づく排気空燃比の状態の判定精度を向上させることができる。具体的には、O2センサ23が高温状態にあるときは、リッチ閾値を低下させ、リーン閾値を増加させればよい。このとき、リッチ閾値の補正値の絶対値(低下量の絶対値)をリーン閾値の補正値の絶対値(増加量)よりも大きくすればよい。
【0046】
上記実施形態の車両は、シリーズモード、パラレルモード、EVモードが切り替え可能なハイブリッド車であるが、走行駆動用のエンジンを備えた車両に広く適用することができる。
また、車両の走行駆動用以外のエンジンについても、O2センサ23のように排気通路に酸素濃度を検出する検出手段を備えた内燃機関に対して広く適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 酸素濃度取得部(空燃比検出装置)
2 エンジン(内燃機関)
10 排気通路
22 LAFS(排気空燃比検出手段)
23 O2センサ(酸素濃度検出手段)
24 排気温度センサ(排気温度検出手段)
30 エンジンコントロールユニット(判定手段)
35 温度取得部(温度取得手段)
36 補正部(補正手段)
38 水温センサ(エンジン温度検出手段)
40 温度予測部(予測手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7