(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154638
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】ステアリングハンドル
(51)【国際特許分類】
B62D 1/14 20060101AFI20221005BHJP
B62D 1/04 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
B62D1/14
B62D1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057759
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】森田 文平
(72)【発明者】
【氏名】矢嶋 孝敏
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DA00
3D030DA55
3D030DA56
3D030DB92
(57)【要約】
【課題】把持部の操作性の向上を図る。
【解決手段】ステアリングハンドル12は、ボス部20、一対のスポーク部40及び一対の把持部55を備える。車両直進時における各把持部55の第2軸線L2の周りにおける位置を中立位置とする。各把持部55のうち、第2軸線L2よりも上方部分が運転者に近づく側へ回転する方向を手前方向とし、運転者から遠ざかる側へ回転する方向を奥方向とする。ボス部20と各スポーク部40との間に設けられた各回転制御機構60は、各把持部55の中立位置から手前方向への最大回転角度と、奥方向への最大回転角度とをそれぞれ規定するとともに、車両直進時に各把持部55を中立位置に復帰させる。各回転制御機構60では、奥方向への最大回転角度が、手前方向への最大回転角度よりも大きく設定されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸線を有し、かつ前記第1軸線を中心として正逆両方向へ回転するステアリングシャフトを備える乗物に適用されるものであり、前記ステアリングシャフトに一体回転可能に取付けられるボス部と、前記乗物の直進時に、前記ボス部から互いに左右方向における反対方向へ延びる第2軸線を有し、かつ前記第2軸線を中心として正逆両方向へ回転し得るように前記ボス部に支持された一対のスポーク部と、各スポーク部に固定された把持部とを備えるステアリングハンドルであって、
前記直進時における各把持部の前記第2軸線の周りにおける位置を中立位置とするとともに、各把持部のうち、前記第2軸線よりも上方部分が運転者に近づく側へ回転する方向を手前方向とし、かつ前記運転者から遠ざかる側へ回転する方向を奥方向とした場合、
前記ボス部と各スポーク部との間には、各把持部の前記中立位置から前記手前方向への最大回転角度と、前記奥方向への最大回転角度とをそれぞれ規定するとともに、前記直進時に各把持部を前記中立位置に復帰させる回転制御機構が設けられており、各回転制御機構では、前記奥方向への最大回転角度が、前記手前方向への最大回転角度よりも大きく設定されているステアリングハンドル。
【請求項2】
各回転制御機構は、各把持部が前記第2軸線の周りで回転されたときに回転トルクを発生して各把持部に作用させる回転トルク発生機構部を備え、
前記回転トルク発生機構部は、前記中立位置で前記回転トルクを最小にする請求項1に記載のステアリングハンドル。
【請求項3】
前記回転制御機構毎の前記回転トルク発生機構部は、各把持部が前記最大回転角度回転されたときに前記回転トルクを最大にする請求項2に記載のステアリングハンドル。
【請求項4】
前記回転制御機構毎の前記回転トルク発生機構部は、前記中立位置からの前記把持部の回転角度が大きくなるに従い前記回転トルクを徐々に増大させる請求項3に記載のステアリングハンドル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の乗物を操舵する際に運転者によって操作されるステアリングハンドルに関する。
【背景技術】
【0002】
車両等の乗物には、操舵装置の一部として、第1軸線を有し、かつその第1軸線を中心として、正逆両方向へ回転するステアリングシャフトが設けられている。このステアリングシャフトには、乗物の運転者が把持して操作するステアリングハンドルが取付けられる。
【0003】
特許文献1には、車両の直進時の位置から、第1軸線の周りに大きく、例えば90°以上回転された場合であっても、運転者の手首に負荷がかかりにくいステアリングハンドルが記載されている。
【0004】
このステアリングハンドルは、ボス部、一対のスポーク部及び一対の把持部を備えている。ボス部は、ステアリングシャフトに一体回転可能に取付けられる。両スポーク部は、車両の直進時に、ボス部から、互いに左右方向における反対方向へ延びる第2軸線を有している。両スポーク部は、第2軸線を中心として正逆両方向へ回転し得るようにボス部に支持されている。両把持部は、両スポーク部のボス部から遠い側の端部に固定されている。
【0005】
上記ステアリングハンドルでは、両把持部を第2軸線の周りで回転させることが可能である。そのため、運転者は、両把持部を第2軸線の周りで回転させながら、ステアリングシャフトの第1軸線の周りで回転させることで、手首を自然な角度に維持することができる。ステアリングハンドルを、第1軸線の周りで90°以上回転させる場合であっても、手首を不自然な角度で曲げなくてすみ、手首に負荷がかかりにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、車両の直進時には、両把持部がボス部の左右両側方に位置する。このときの第2軸線の周りにおける把持部の位置を中立位置とする。中立位置に位置する各把持部のうち、第2軸線よりも上方部分が、運転者に近づく側へ回転する方向を手前方向とし、運転者から遠ざかる側へ回転する方向を奥方向とする。
【0008】
運転者が、中立位置に位置する両把持部を第1軸線の周りで回転させる際、手首の構造上、各把持部を奥方向へ回転させた場合には、手前方向へ回転させた場合よりも多く回転できることが判っている。
【0009】
例えば、右側の把持部について注目する。運転者は、両把持部を、第1軸線の周りで反時計回り方向へ回転させる際には、右側の把持部のうち、第2軸線よりも上方部分を手前方向へ回転させる。また、運転者は、両把持部を、第1軸線の周りで時計回り方向へ回転させる際には、右側の把持部のうち、第2軸線よりも上方部分を奥方向へ回転させる。運転者は、各把持部を手前方向へ回転させた場合よりも奥方向へ多くの角度回転させること
ができる。左側の把持部についても同様である。
【0010】
ところが、上記特許文献1では、上述したような、回転方向による最大回転角度の違いが考慮されていない。また、上記特許文献1では、車両直進時に各把持部を中立位置に復帰させる点についても考慮されていない。そのため、把持部の操作性の点で改善の余地がある。
【0011】
こうした問題は、上記従来のステアリングハンドルが設けられた乗物であれば、車両に限らず共通して起こり得る。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するステアリングハンドルは、第1軸線を有し、かつ前記第1軸線を中心として正逆両方向へ回転するステアリングシャフトを備える乗物に適用されるものであり、前記ステアリングシャフトに一体回転可能に取付けられるボス部と、前記乗物の直進時に、前記ボス部から互いに左右方向における反対方向へ延びる第2軸線を有し、かつ前記第2軸線を中心として正逆両方向へ回転し得るように前記ボス部に支持された一対のスポーク部と、各スポーク部に固定された把持部とを備えるステアリングハンドルであって、前記直進時における各把持部の前記第2軸線の周りにおける位置を中立位置とするとともに、各把持部のうち、前記第2軸線よりも上方部分が運転者に近づく側へ回転する方向を手前方向とし、かつ前記運転者から遠ざかる側へ回転する方向を奥方向とした場合、前記ボス部と各スポーク部との間には、各把持部の前記中立位置から前記手前方向への最大回転角度と、前記奥方向への最大回転角度とをそれぞれ規定するとともに、前記直進時に各把持部を前記中立位置に復帰させる回転制御機構が設けられており、各回転制御機構では、前記奥方向への最大回転角度が、前記手前方向への最大回転角度よりも大きく設定されている。
【0013】
上記の構成によれば、乗物の直進時には、各スポーク部及び各把持部が、ボス部の左右両側方に位置する。また、各把持部は、第2軸線を中心とする回転方向には、中立位置に位置する。
【0014】
上記の状態から、各把持部が第1軸線の周りを正逆いずれかの方向へ回転されると、その回転は、スポーク部、ボス部を介してステアリングシャフトに伝達される。この伝達により、乗物の操舵が行なわれ、乗物の進行方向が変更される。上記第1軸線を中心とする各把持部の回転は、第2軸線を中心とする各把持部の正逆回転を伴いながら行なわれる。このように、各把持部が第2軸線の周りで回転するため、回転しないものに比べ、運転者は、把持部を把持したままで、ステアリングハンドルを第1軸線の周りで大きく回転させることが可能である。
【0015】
ここで、運転者が、中立位置に位置する各把持部を第1軸線の周りで回転させる際、各把持部を奥方向へ回転させることのできる角度は、手前方向へ回転させることのできる角度よりも大きい。
【0016】
この点、上記の構成によれば、各把持部の中立位置から手前方向への最大回転角度と、奥方向への最大回転角度とが回転制御機構によって規定される。しかも、奥方向への最大回転角度が、手前方向への最大回転角度よりも大きく規定される。そのため、各把持部が第1軸線の周りで大きく回転された場合に、各把持部を手前方向よりも奥方向へ多く回転させることが可能である。
【0017】
また、第2軸線の周りでの各把持部の回転により、各把持部を把持した運転者の手首にかかる負荷が軽減され、把持部の操作性が向上する。また、各把持部を奥方向へ多く回転
させる途中で回転が規制されることが起こりにくく、回転規制に起因する底付きの発生が抑制される。そのため、各把持部を第2軸線の周りでスムーズに回転させ、第1軸線の周りでスムーズに回転させることが可能となる。
【0018】
さらに、乗物の進行方向を直進方向に戻すために、各把持部が、ボス部の左右両側方となる箇所まで、第1軸線の周りで回転されると、各把持部が回転制御機構によって中立位置に復帰される。従って、運転者は、各把持部を第1軸線の周りで回転させるだけでよい。各把持部を第1軸線の周りで回転させる操作とは別に、各把持部を中立位置に復帰させる操作を行なわなくて済み、この点でも把持部の操作性が向上する。
【0019】
上記ステアリングハンドルにおいて、各回転制御機構は、各把持部が前記第2軸線の周りで回転されたときに回転トルクを発生して各把持部に作用させる回転トルク発生機構部を備え、前記回転トルク発生機構部は、前記中立位置で前記回転トルクを最小にすることが好ましい。
【0020】
上記の構成によれば、両把持部の第1軸線の周りでの回転に際し、各把持部が第2軸線の周りで回転されると、回転トルク発生機構部によって回転トルクが発生される。この回転トルクは、各把持部を第2軸線の周りで回転させる際の操舵荷重として、各把持部を把持した手を通じて運転者に伝わる。
【0021】
車両の直進時であって、各把持部がボス部の左右両側方に位置するときには各把持部が中立位置に位置する。このときには、各把持部に作用する回転トルクは最小となる。
上記の状態から両把持部が第1軸線の周りで回転され、それに伴って各把持部が第2軸線の周りで回転されると、各把持部に作用する回転トルクが大きくなる。
【0022】
従って、第1軸線及び第2軸線のそれぞれの周りで把持部を回転させることに伴い回転トルクが変化する。これに伴い、操舵荷重が変化し、操舵感が向上する。
上記ステアリングハンドルにおいて、前記回転制御機構毎の前記回転トルク発生機構部は、各把持部が前記最大回転角度回転されたときに前記回転トルクを最大にすることが好ましい。
【0023】
上記の構成によれば、各把持部に作用する回転トルクは、各把持部が中立位置から回転すると増大し、各把持部が最大回転角度回転されたときに最大となる。
このように、各把持部が中立位置に位置するときと最大回転角度回転されたときとにおいて、回転トルクが、各把持部の第2軸線の周りでの回転角度に対応したものとなり、操舵感がさらに向上する。
【0024】
上記ステアリングハンドルにおいて、前記回転制御機構毎の前記回転トルク発生機構部は、前記中立位置からの前記把持部の回転角度が大きくなるに従い前記回転トルクを徐々に増大させることが好ましい。
【0025】
上記の構成によれば、回転トルクは、中立位置からの各把持部の回転角度が大きくなるに従い徐々に増大する。従って、運転者が把持部を第2軸線の周りで大きく回転させていることを、把持部を把持した手を通じて運転者に直感的に感じさせることで、操舵感をより一層向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
上記ステアリングハンドルによれば、把持部の操作性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】ステアリングハンドルにおける骨格部分の斜視図。
【
図3】回転カム、プッシャ及び弾性部材の分解斜視図。
【
図9】
図11における回転制御機構を拡大して示す部分正面図。
【
図11】把持部が中立位置に位置するときのステアリングハンドルにおける骨格部分の部分正面図。
【
図13】把持部が中立位置から手前方向へ最大回転角度回転されたときのステアリングハンドルにおける骨格部分の部分正面図。
【
図14】
図13における回転カムを第1軸線側から見た側面図。
【
図16】
図13における回転制御機構を拡大して示す部分正面図。
【
図17】把持部が中立位置から奥方向へ最大回転角度回転されたときのステアリングハンドルにおける骨格部分の部分正面図。
【
図18】
図17における回転カムを第1軸線側から見た側面図。
【
図20】
図17における回転制御機構を拡大して示す部分正面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、ステアバイワイヤシステムが適用された車両の操舵装置に用いられるステアリングハンドルに具体化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
ステアバイワイヤシステムとは、ステアリング操作を機械的な連結ではなく、電気信号でアクチュエータを介して操舵するシステムである。このシステムが適用された車両では、ステアリングハンドルを、ステアリングシャフトの周りで大きく、例えば最大で150度程度回転させることがあり得る。
【0029】
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車幅方向であって車両の前進時の左右方向と一致するものとする。
【0030】
図1に示すように、車室内の運転席の前方には、車両を操舵する際に運転者(図示略)によって操作される操舵装置10が設けられている。操舵装置10は、第1軸線L1を有するステアリングシャフト11及びステアリングハンドル12を備えている。ステアリングシャフト11は、第1軸線L1を中心として正逆両方向へ回転可能である。ステアリングシャフト11は、後方ほど高くなるように車両の前後方向に対し傾斜した状態で配置されている。
【0031】
本実施形態では、ステアリングハンドル12の各部について説明する際には、第1軸線L1を基準とする。この第1軸線L1に沿う方向を単に「前後方向」という。また、第1軸線L1に沿う方向の前方を単に「前方」、「前」等といい、第1軸線L1に沿う方向の後方を単に「後方」、「後」等というものとする。
【0032】
なお、
図1では、ステアリングハンドル12の骨格部分のみが図示されている。
ステアリングハンドル12は、ボス部20、一対のスポーク部40、及び一対の把持部
55を備えている。次に、各部材について説明する。
【0033】
<ボス部20>
ボス部20は、筒状部21、板状部22、一対の支持部23を備えている。筒状部21は、ステアリングシャフト11の後端部に一体回転可能に取付けられる。板状部22は平板状をなしており、厚み方向をステアリングハンドル12の前後方向に合致させた状態で配置されている。板状部22は、上記筒状部21の後端部に固定されている。一対の支持部23は、板状部22よりも後方であって、第1軸線L1を挟んだ状態で互いに対向する箇所に配置されている。各支持部23は、自身の前端部において板状部22に固定されている。両支持部23は、第1軸線L1を挟んで互いに面対称の関係を有する形状をなしている。
【0034】
図1及び
図2に示すように、各支持部23は、前壁部24と、一対の支持壁部27,35とを備えている。前壁部24は、スポーク部40の第2軸線L2に沿って延びる平らな第1規制面25を有している。一対の支持壁部27,35は、それぞれ平板状をなしており、第2軸線L2に対し直交している。両支持壁部27,35は、第2軸線L2に沿う方向に平行に離間した状態で、上記前壁部24から後方へ突出している。
【0035】
図2及び
図10に示すように、支持壁部27は、第2軸線L2に沿う方向へ延びる挿通孔31を有している。挿通孔31は、小径孔部32と、小径孔部32よりも内径の大きな大径孔部33とを有している。小径孔部32は大径孔部33よりも、第1軸線L1に近い箇所に位置している。
【0036】
図9及び
図10に示すように、支持壁部27は第2規制面28を有している。第2規制面28は、支持壁部27のうち、支持壁部35に対向する面であって、挿通孔31(大径孔部33)の周りの部分によって構成されている。
【0037】
支持壁部35は、第2軸線L2に沿う方向へ延びる挿通孔36を有している。挿通孔36は、小径孔部37と、小径孔部37よりも内径の大きな大径孔部38とを有している。小径孔部37は、大径孔部38よりも第1軸線L1に近い箇所に位置している。
【0038】
<スポーク部40>
図1及び
図2に示すように、各スポーク部40は、第2軸線L2を有するシャフトによって構成されている。両スポーク部40は、ボス部20の径方向外方であって、ボス部20を挟んで互いに対向する箇所に配置されている。両第2軸線L2は、車両の直進時に、ボス部20から互いに左右方向における反対方向へ延びた状態となる。表現を変えると、両第2軸線L2は、ボス部20から左右方向における両側へ放射状に延びた状態となる。なお、ここでの「放射状に延びた状態」には、第1軸線L1に対し直交する面に沿って延びる状態が含まれるほか、第1軸線L1に対し直交に近い状態で交差する面に沿って延びる状態も含まれる。例えば、第1軸線L1から径方向外方へ遠ざかるに従い運転者に近づくように、第1軸線L1に対し直交に近い状態で交差する面に沿って延びる状態が、上記「放射状に延びた状態」に含まれる。
【0039】
一対のスポーク部40は、第1軸線L1を挟んで互いに面対称の関係を有する形状をなしている。そのため、ここでは右方のスポーク部40についてのみ説明する。
図2及び
図10に示すように、スポーク部40の一部は、円柱状の一般部41によって構成されている。スポーク部40のうち、一般部41よりも第1軸線L1に近い部分は、それぞれ円柱状をなす複数(4つ)の軸部42,43,44,45によって構成されている。これらの軸部42~45は、第1軸線L1に近いものほど外径が小さくなるように形成されている。軸部42の一部には、第2軸線L2に対し平行に延びる平面部46が形成
されている(
図10参照)。軸部45の外周には雄ねじ47が形成されている。
【0040】
スポーク部40は、第2軸線L2を中心として正逆両方向へ回転し得るように、第1軸線L1に近い端部において、ボス部20に支持されている。より詳しくは、支持壁部35における大径孔部38には軸受48が装着され、この軸受48に軸部42が挿通されている。スポーク部40は、軸受48により支持壁部35に対し、正逆両方向へ回転可能に支持されている。支持壁部27における大径孔部33には軸受49が装着され、この軸受49に軸部44が挿通されている。スポーク部40は、軸受49により支持壁部27に対し、正逆両方向へ回転可能に支持されている。
【0041】
スポーク部40における軸部44の一部と、軸部45の全体とは、支持壁部27よりも第1軸線L1側へ露出し、滑りワッシャ(スラストワッシャ)51及びワッシャ52に挿通されている。そして、軸部45にナット53が締付けられている。
【0042】
<把持部55>
図1及び
図2に示すように、一対の把持部55は、運転者の手によって把持される箇所であり、第1軸線L1を挟んで互いに面対称の関係を有する形状をなしている。各把持部55は、各スポーク部40の両端部のうち、第1軸線L1から遠い端部に固定されており、スポーク部40と一体で、第2軸線L2の周りを正逆両方向へ回転可能である。
【0043】
ここで、
図11及び
図12に示すように、車両の直進時における各把持部55の第2軸線L2の周りにおける位置を「中立位置」とする。
図1に示すように、各把持部55のうち、第2軸線L2よりも上方部分が、運転者に近づく側へ回転する方向を「手前方向」とする。各把持部55のうち、第2軸線L2よりも上方部分が、運転者から遠ざかる側へ回転する方向を「奥方向」とする。
【0044】
図1及び
図2に示すように、ボス部20と各スポーク部40との間には、回転制御機構60が設けられている。両回転制御機構60の構造は、第1軸線L1を挟んで互いに面対称の関係を有している。そのため、ここでは、右方の回転制御機構60についてのみ説明する。
【0045】
<回転制御機構60>
回転制御機構60は、次の機能を有している(
図7参照)。
・把持部55の中立位置から手前方向への最大回転角度θ2を規定する。
【0046】
・把持部55の中立位置から奥方向への最大回転角度θ1を規定する。
・車両の直進時に把持部55を中立位置に復帰させる。
図1~
図3に示すように、回転制御機構60は、回転カム61、プッシャ71及び弾性部材81を主要な部材として備えている。次に、各部材について説明する。
【0047】
<回転カム61>
図6及び
図7に示すように、回転カム61は第2軸線L2に沿う方向へ延びる挿通孔62を有していて、全体として円環状をなしている。挿通孔62の多くの部分は、第2軸線L2を中心として円弧状に湾曲している。挿通孔62は平面部63を一部に有している。
図9及び
図10に示すように、回転カム61は、両支持壁部27,35間であって、支持壁部35に接近した箇所に滑りワッシャ69を介して配置されている。そして、軸部42が滑りワッシャ69に挿通されている。また、平面部46が、挿通孔62の平面部63に対向するように、軸部42が回転カム61に挿通されている。この形態の挿通により、回転カム61がスポーク部40に対し一体回転可能に取付けられている。
【0048】
図6~
図8に示すように、回転カム61は、第2軸線L2に沿う方向の両方の面のうち、第1軸線L1に近い面にカム面64を有している。カム面64は、回転カム61の全周にわたって形成されている。
【0049】
カム面64は、傾斜面65,66の組合わせを2組有している。各組における傾斜面65,66は、第2軸線L2の周りの半分(180度)の領域に形成されている。傾斜面65,66は、それぞれ回転カム61の径方向における外方へ膨らむ円弧状をなしている。
【0050】
各組における傾斜面65は、把持部55が手前方向へ回転されたときに、後述するプッシャ71の接触部77が接触する傾斜面である。各組における傾斜面66は、把持部55が奥方向へ回転されたときに接触部77が接触する傾斜面である。
【0051】
各組における傾斜面65,66は、第2軸線L2に直交する面P1に対し、それぞれ反対方向に傾斜している。傾斜面65,66のそれぞれの傾斜角度は、第2軸線L2の周りの位置に拘らず同一に設定されている。表現を変えると、各傾斜面65,66は、面P1に対し単一の角度で傾斜している。各組における傾斜面65,66が、面P1に対しそれぞれなす傾斜角度は、互いに同一に設定されている。
【0052】
各組における傾斜面65,66は、第2軸線L2の周りに互いに隣り合っている。両傾斜面65,66は、把持部55に近い側の端部において互いに、境界部67を介して繋がっている。各境界部67は、第2軸線L2に沿う方向には、各傾斜面65,66において把持部55に最も近い箇所に位置する。各傾斜面65,66は、境界部67から第2軸線L2の周りに遠ざかるに従い、把持部55から第2軸線L2に沿う方向に遠ざかる。
【0053】
一方の組における傾斜面65と、他方の組における傾斜面66とは、第2軸線L2の周りに互いに隣り合っている。
<プッシャ71>
図4及び
図5に示すように、プッシャ71は第2軸線L2に沿う方向へ延びる挿通孔72を有していて、全体として円環状をなしている。挿通孔72は、小径孔部73と、小径孔部73よりも内径の大きな大径孔部74とを有している。小径孔部73及び大径孔部74は、段差部75を介して、第2軸線L2に沿う方向に互いに隣り合っている。大径孔部74は小径孔部73よりも、第1軸線L1に近い箇所に位置している。そして、
図10に示すように、スポーク部40の軸部43が挿通孔72においてプッシャ71に挿通されている。
【0054】
プッシャ71は、回転を規制された状態で、第2軸線L2に沿う方向にスライド可能に配置されている。より詳しくは、
図4及び
図5に示すように、プッシャ71は、第2軸線L2に沿って延びる平らな第1被規制面76を前部に有している。プッシャ71は、第1被規制面76において、支持部23の上述した第1規制面25に対しスライド可能に接触している(
図2参照)。
【0055】
プッシャ71は、一対の接触部77を有している。両接触部77は、プッシャ71において、第2軸線L2を間に挟んで相対向する箇所に位置している。各接触部77は、第2軸線L2に沿って把持部55側へ突出している。各接触部77の先端面は球面によって構成されている。各接触部77は、この球面においてカム面64に接触している。
【0056】
<弾性部材81>
図3及び
図10に示すように、弾性部材81は、プッシャ71を回転カム61側へ付勢するためのものであり、本実施形態では、圧縮コイルばねが弾性部材81として用いられている。弾性部材81は、スポーク部40の軸部43の周りに配置されている。弾性部材
81の多くの部分は、プッシャ71の大径孔部74内に配置されている。弾性部材81は、第2軸線L2に沿う方向については、支持壁部27と、プッシャ71の段差部75との間に圧縮された状態で配置されている。そのため、プッシャ71は、弾性部材81から回転カム61に向かう方向の付勢力を常に受けている。
【0057】
回転制御機構60は、さらに、中立位置に位置する把持部55の正逆各方向への最大回転角度θ1,θ2を規定する規制部を備えている。規制部は、第1規制部83及び第2規制部85からなる。
【0058】
<第1規制部83>
図17及び
図20に示すように、第1規制部83は、把持部55が中立位置から奥方向へ回転されたときの最大回転角度θ1を規定する機能を有している。第1規制部83は、プッシャ71のスライドを規制することで、上記機能を実現している。
【0059】
第1規制部83は、上述した支持壁部27の第2規制面28と、プッシャ71に形成された第2被規制面78とによって構成されている。第2被規制面78は、プッシャ71の第2軸線L2に沿う方向の両側面のうち、第1軸線L1に近い側の側面であって、挿通孔72(大径孔部74)の周りの部分によって構成されており、第2規制面28に対向している。第2被規制面78は、第2軸線L2に対し交差、本実施形態では直交する平らな面によって構成されている。
【0060】
第1規制部83は、第2軸線L2に沿う方向のうち、第1軸線L1に近づく方向へのプッシャ71のスライドに伴い、
図20に示すように、第2被規制面78が第2規制面28に接触することにより、同方向へのスライドを規制する。第1規制部83は、このスライドの規制により、把持部55が最大回転角度θ1を越えて奥方向へ回転するのを規制する。
【0061】
<第2規制部85>
図13~
図16に示すように、第2規制部85は、把持部55が中立位置から手前方向へ回転されたときの最大回転角度θ2を規定する機能を有している。第2規制部85は、回転カム61の手前方向の回転を規制することによって、上記機能を実現している。
【0062】
第2規制部85は、
図6~
図8に示すように、回転カム61に形成された平らな2つの規制壁面68を備えている。各規制壁面68は、各組の傾斜面65のうち、上記境界部67とは反対側の端縁を起点とし、第2軸線L2に沿って把持部55から遠ざかる側へ延びている。傾斜面65,66が2組設けられ、一方の組の傾斜面65と他方の組の傾斜面66とが隣り合っている本実施形態では、規制壁面68は、一方の組の傾斜面65と、他方の組の傾斜面66との間の面によって構成されている。
【0063】
第2規制部85は、回転カム61の回転に伴い、
図14に示すように、各規制壁面68が、対応する接触部77に接触することにより、把持部55が最大回転角度θ2を越えて手前方向へ回転するのを規制する。
【0064】
さらに、
図7に示すように、第1規制部83によって規制される奥方向の最大回転角度θ1は、第2規制部85によって規制される手前方向の最大回転角度θ2よりも大きく設定されている。本実施形態では、最大回転角度θ1が約130度に設定され、最大回転角度θ2が約50度に設定されているが、変更可能である。
【0065】
従って、第2軸線L2の周りにおける各傾斜面65,66の長さを周長とすると、傾斜面66の周長は傾斜面65の周長よりも長く設定されている。
図1及び
図2に示すように、上記の構成を有する回転制御機構60のうち、ボス部20における支持部23、回転カム61、プッシャ71及び弾性部材81によって、回転トルク発生機構部87が構成されている。回転トルク発生機構部87は、把持部55が第2軸線L2の周りで正逆各方向へ回転されたときに回転トルクをそれぞれ発生して把持部55に作用させる機能を担っている。
【0066】
図7及び
図8に示すように、回転トルク発生機構部87は、把持部55が中立位置に位置するとき、すなわち、接触部77が境界部67に接触するときに回転トルクを最小にする。
【0067】
回転トルク発生機構部87は、把持部55が奥方向へ回転されたとき、中立位置からの回転角度が大きくなるに従い、すなわち、傾斜面66の接触部77との接触箇所が境界部67から遠ざかるに従い、回転トルクを徐々に増大させる。そして、
図17~
図20に示すように、回転トルク発生機構部87は、把持部55が奥方向へ最大回転角度θ1回転されたとき、すなわち、第1規制部83によって回転が規制されたときに回転トルクを最大にする。
【0068】
図7及び
図8に示すように、回転トルク発生機構部87は、把持部55が手前方向へ回転されたとき、中立位置からの回転角度が大きくなるに従い、すなわち、傾斜面65の接触部77との接触箇所が境界部67から遠ざかるに従い、回転トルクを徐々に増大させる。そして、
図13~
図16に示すように、回転トルク発生機構部87は、把持部55が手前方向へ最大回転角度θ2回転されたとき、すなわち、第2規制部85によって回転が規制されたときに回転トルクを最大にする。
【0069】
なお、上記回転トルクは、把持部55が手前方向へ回転されたときにも奥方向へ回転されたときにも、回転角度の増加とともに、0.1[N・m]~1.5[N・m]の範囲で増加する特性となるように設定されることが望ましい。回転トルクが上記の範囲にあると、把持部55が少しの力で回転することが起こりにくく、把持部55を安定して回転させることが可能である。また、把持部55を回転させるのに過大な力を加えなくてもよく、手首に過大な負荷がかかるのを抑制可能である。
【0070】
次に、上記のように構成された本実施形態の作用について説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。
図1及び
図2に示すように、各回転制御機構60では、プッシャ71が、第1被規制面76において支持部23の第1規制面25に接触している。第1被規制面76及び第1規制面25のいずれも第2軸線L2に沿って延びている。そのため、プッシャ71は、第1被規制面76が第1規制面25に接触した状態で、第2軸線L2に沿う方向へスライド可能である。また、平らな第1被規制面76が、平らな第1規制面25に接触することで、プッシャ71が第2軸線L2の周りで回転することを規制される。
【0071】
車両の直進時には、各スポーク部40及び各把持部55が、ボス部20の左右両側方に位置する。また、
図9~
図12に示すように、各把持部55は、第2軸線L2を中心とする回転方向には、中立位置に位置する。各回転制御機構60では、弾性部材81によって回転カム61側へ付勢されたプッシャ71の各接触部77が、カム面64の対応する境界部67に押付けられる(
図7、
図8の各二点鎖線参照)。
【0072】
このときには、各把持部55に作用する回転トルクは最小となる。この回転トルクは、各把持部55を第2軸線L2の周りで回転させる際の操舵荷重として、各把持部55を把持した手を通じて運転者に伝わる。運転者が感ずる操舵荷重は最小となる。
【0073】
上記の状態から、運転者により両把持部55に対し、上記回転トルクに抗し、第1軸線L1の周りの正逆いずれかの方向に回転させようとする力、すなわち、時計回り方向又は反時計回り方向へ向かう力が加えられると、各回転制御機構60が次のように作用する。
【0074】
図1に示すように、運転者が各把持部55に加えた上記力は、各スポーク部40、ボス部20を介してステアリングシャフト11に伝達される。この伝達により、両把持部55、両スポーク部40、ボス部20及びステアリングシャフト11が第1軸線L1の周りを回転する。操舵装置10が作動し、車両の操舵が行なわれ、車両の進行方向が変更される。上記第1軸線L1を中心とする各把持部55の回転は、同把持部55を把持した運転者の手首の構造から、第2軸線L2を中心とする各把持部55の正逆両回転を伴いながら行なわれる。
【0075】
このように、各把持部55が第2軸線L2の周りで回転するため、回転しないものに比べ、運転者は、各把持部55を把持したままで、ステアリングハンドル12を第1軸線L1の周りで大きく(90度以上)回転させることができる。
【0076】
ここで、例えば、右側の把持部55について着目すると、同把持部55が第1軸線L1の周りを反時計回り方向へ回転されると、
図13~
図16に示すように、同把持部55が上記回転トルクに抗して手前方向へ回転される。
【0077】
回転制御機構60では、スポーク部40が回転カム61を伴い、把持部55と一体となって、同把持部55と同一方向である手前方向へ回転する。回転カム61の回転に伴い、カム面64が第2軸線L2の周りを手前方向へ回転する。カム面64において、プッシャ71の各接触部77に接触する箇所が変化する。各接触箇所が各境界部67から各傾斜面65に移ると、弾性部材81を弾性変形(圧縮)させながらプッシャ71を第1軸線L1側へ押し返す力が発生する。この力により、プッシャ71が第2軸線L2に沿って第1軸線L1側へスライドする。
【0078】
上記力は、回転カム61の回転に伴い、各傾斜面65の各接触部77との接触箇所が、各境界部67から周方向へ遠ざかるに従い増加する。また、回転カム61の回転に伴い、弾性部材81の圧縮量が増加し、回転トルクが増加する。従って、回転トルクは、把持部55の回転角度に応じて変化する特性となる。中立位置から手前方向への把持部55の回転角度が大きくなるに従い、操舵荷重が増加する。
【0079】
第2軸線L2の周りにおける把持部55の回転に伴い、回転カム61が最大回転角度θ2回転すると、各規制壁面68がプッシャ71の対応する接触部77に接触する(
図14、
図16参照)。これらの接触により、回転カム61がそれ以上手前方向へ回転することが規制される。これに伴い、把持部55が最大回転角度θ2を越えて回転することが規制される。また、このときには、弾性部材81の圧縮量が最大となり、回転トルク及び操舵荷重が最大となる。なお、プッシャ71の第2被規制面78は、支持壁部27の第2規制面28から把持部55側へ離れている。
【0080】
これに対し、右側の把持部55が第1軸線L1の周りを時計回り方向へ回転されると、
図17~
図20に示すように、同把持部55が、上記回転トルクに抗して奥方向へ回転する。
【0081】
回転制御機構60では、スポーク部40が回転カム61を伴い、把持部55と一体となって、同把持部55と同一方向である奥方向へ回転する。回転カム61の回転に伴い、カム面64が第2軸線L2の周りを奥方向へ回転する。カム面64において、プッシャ71の各接触部77に接触する箇所が変化する。各接触箇所が各境界部67から各傾斜面66
に移ると、弾性部材81を弾性変形(圧縮)させながらプッシャ71を第1軸線L1側へ押し返す力が発生する。この力により、プッシャ71が第2軸線L2に沿って第1軸線L1側へスライドする。
【0082】
上記力は、回転カム61の回転に伴い、各傾斜面66の各接触部77との接触箇所が、各境界部67から周方向へ遠ざかるに従い増加する。また、回転カム61の回転に伴い、弾性部材81の圧縮量が増加し、回転トルクが増加する。従って、回転トルクは、把持部55の回転角度に応じて変化する特性となる。中立位置から奥方向への把持部55の回転角度が大きくなるに従い、操舵荷重が増加する。
【0083】
把持部55の上記奥方向への回転に伴い、回転カム61が回転すると、プッシャ71が回転カム61によって押されて支持壁部27に接近する。把持部55が回転カム61を伴い最大回転角度θ1回転すると、プッシャ71の第2被規制面78が支持壁部27の第2規制面28に接触する(
図20参照)。第2被規制面78及び第2規制面28のいずれも第2軸線L2に対し交差(直交)している。そのため、第2被規制面78の第2規制面28との接触により、プッシャ71がそれ以上第1軸線L1側へスライドすることが規制される。これに伴い、把持部55が最大回転角度θ1を越えて回転することが規制される。また、このときには、弾性部材81の圧縮量が最大となり、回転トルク及び操舵荷重が最大となる。
【0084】
このように、各把持部55が中立位置に位置するときには、回転トルク(操舵荷重)が最小となる。各把持部55が中立位置から正逆いずれの方向へ回転したときにも、その回転角度に拘わらず、回転トルク(操舵荷重)が中立位置での回転トルク(操舵荷重)よりも大きくなる。そのため、本実施形態のステアリングハンドル12によれば、回転トルク及び操舵荷重について考慮されておらず、それらが回転量(回転角度)に拘わらず一定である特許文献1に比べ、操舵感が向上する。
【0085】
また、回転角度が最大になると、回転トルク(操舵荷重)が最大となる。このように、回転トルク(操舵荷重)が、第2軸線L2の周りにおける各把持部55の回転角度に対応したものとなるため、操舵感がさらに向上する。
【0086】
さらに、上記回転トルク(操舵荷重)は、中立位置からの各把持部55の回転角度が大きくなるに従い徐々に増加する特性となる。運転者が各把持部55を第2軸線L2の周りで大きく回転させていることを、各把持部55を把持した手を通じて運転者に直感的に感じさせることができ、操舵感をより一層向上させることができる。
【0087】
ここで、上述したように、運転者が、中立位置に位置する各把持部55を第1軸線L1の周りで回転させる際、各把持部55を奥方向へ回転させた場合には、手首の構造上、手前方向へ回転させた場合よりも多く回転させることが可能である。
【0088】
この点、本実施形態では、各把持部55の中立位置から奥方向への最大回転角度θ1が第1規制部83によって規制される。各把持部55の中立位置から手前方向への最大回転角度θ2が第2規制部85によって規定される。しかも、奥方向への最大回転角度θ1が、手前方向への最大回転角度θ2よりも大きく規定される。そのため、各把持部55が第1軸線L1の周りで大きく回転された場合に、各把持部55を手前方向よりも奥方向へ多く回転させることができる。
【0089】
また、各第2軸線L2の周りにおける各把持部55の回転により、各把持部55を把持した運転者の手首にかかる負荷を軽減することができ、両把持部55の操作性が向上する。また、各把持部55を奥方向へ多く回転させる途中で回転が規制されることが起こりに
くく、回転規制に起因する底付きの発生が抑制される。そのため、各把持部55を、第2軸線L2の周りでスムーズに回転させ、ひいては、ステアリングハンドル12を第1軸線L1の周りでスムーズに回転させることができる。
【0090】
ここで、一般に、ステアバイワイヤシステムが適用された車両では、ステアリングハンドル12の操舵域が±約150度といわれている。本実施形態では、各把持部55を、中立位置から手前方向へ最大で約50度回転でき、奥方向へ最大で約130度回転できる。そのため、各把持部55を各第2軸線L2の周りで回転させることで、ステアリングハンドル12を第1軸線L1の周りで±約180度回転させることが可能である。従って、本実施形態のステアリングハンドル12は、ステアバイワイヤシステムが適用された車両の操舵に適している。
【0091】
上記の状態から、運転者により、各把持部55に加えられる上記方向の力が弱められると、両把持部55、両スポーク部40、ボス部20及びステアリングシャフト11が第1軸線L1の周りを上記とは逆方向へ回転する。各把持部55に対し、上記直進時の位置に戻そうとする力が加えられた場合も同様である。車両の進行方向が直進方向に戻される。上記第1軸線L1を中心とする各把持部55の回転は、各第2軸線L2を中心とする各把持部55の上記とは逆方向の回転を伴いながら行なわれる。
【0092】
各回転制御機構60では、各スポーク部40が各回転カム61を伴い、各把持部55と一体となって上記とは逆方向へ回転する。各回転カム61の回転に伴いカム面64が第2軸線L2の周りを上記とは逆方向へ回転する。各カム面64の傾斜面65,66において、プッシャ71の対応する接触部77に接触する箇所が変化し、各境界部67が、対応する接触部77に近づく。これに伴い、弾性部材81を弾性変形(圧縮)させながらプッシャ71を第1軸線L1側へ押し返す力が減少する。
図7、
図8、
図11及び
図12に示すように、この力は、カム面64毎の各境界部67が、対応する接触部77に接触したときに最小となる。
【0093】
このように、各把持部55を各第2軸線L2の周りで回転させる際の操舵荷重が、中立位置に近づくに従い減少する。そのため、上記操舵荷重が回転量に拘らず一定である場合よりも、両把持部55の操舵感が向上する。
【0094】
また、車両の進行方向を直進方向に戻すために、各把持部55が、ボス部20の左右両側方となる箇所まで、第1軸線L1の周りで回転されると、車両の直進時には、各境界部67がプッシャ71の各接触部77に接触し、各把持部55が中立位置に戻される。
【0095】
従って、運転者は、各把持部55を第1軸線L1の周りで回転させるだけでよい。各把持部55を第1軸線L1の周りで回転させる操作とは別に、各把持部55を中立位置に復帰させる操作を行なわなくて済み、この点でも両把持部55の操作性が向上する。
【0096】
本実施形態によると、上記以外にも、次の効果が得られる。
・各第2軸線L2の周りにおける各把持部55の回転トルクは、弾性部材81(圧縮コイルばね)の圧縮量と対応する。圧縮量が多くなるに従い回転トルクが増加する。
【0097】
従って、例えば、圧縮コイルばねを、ばね定数の異なる圧縮コイルばねに変えることによって、圧縮量を変更することができる。また、各第2軸線L2に直交する面P1に対する傾斜面65,66の傾斜角度を変えることによって、圧縮量を変更することができる。
【0098】
そのため、ばね定数及び傾斜角度の少なくとも一方を変えることで、圧縮コイルばねの圧縮量を変え、各第2軸線L2の周りでの各把持部55の回転角度と回転トルクとの関係
(特性)を低コストで変更することができる。
【0099】
・本実施形態では、プッシャ71毎に2つの接触部77を設けている。両接触部77を、第2軸線L2を挟んで対向する箇所に配置している。カム面64における傾斜面65,66の組合わせを2組設けている。組毎の境界部67を、第2軸線L2を挟んで対向する箇所に設定している。各接触部77を、各組の傾斜面65,66に接触させている。
【0100】
そのため、プッシャ71に接触部77が1つのみ設けられ、傾斜面65,66の組合わせが回転カム61に1組のみ設けられる場合に比べ、接触部77をカム面64に安定した状態で押付けることができる。
【0101】
・本実施形態では、プッシャ71の前部に形成した平らな第1被規制面76を、ボス部20の支持部23に形成した平らな第1規制面25に接触させることで、プッシャ71が第2軸線L2の周りで回転するのを規制するようにしている(
図2参照)。そのため、プッシャ71の上記回転を規制する機構を、プッシャ71及びボス部20とは別に設けた場合よりも、回転制御機構60の部品点数を少なくできる。また、回転制御機構60の小型化を図ることができ、搭載性を向上できる。
【0102】
・本実施形態では、プッシャ71の内部(大径孔部74)に弾性部材81の多くの部分を配置している(
図10参照)。そのため、弾性部材81をプッシャ71の外部に配置した場合よりも回転制御機構60の小型化を図ることができ、この点でも搭載性を向上できる。
【0103】
・本実施形態では、プッシャ71に形成された第2被規制面78を、同プッシャ71のスライドに伴い支持壁部27の第2規制面28に接触させることで、把持部55が中立位置から奥方向へ回転されたときの最大回転角度θ1を規定するようにしている。そのため、把持部55に対し、第2軸線L2の周りで回転させようとする大きな力が加えられた場合でも、最大回転角度θ1を越えて回転するのを規制することができる。
【0104】
これは、以下の理由による。本実施形態では、プッシャ71の一方の側面のうち、挿通孔72の周りの部分を第2被規制面78としている。支持壁部27において支持壁部35に対向する面のうち、挿通孔31(大径孔部33)の周りの部分を第2規制面28としている。そのため、第2被規制面78及び第2規制面28として、大きな面積を確保することができ、プッシャ71の広い第2被規制面78を、支持壁部27の広い第2規制面28によって受け止めることができるからである。
【0105】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0106】
・各把持部55が、中立位置から奥方向へ回転されたときには、中立位置から手前方向へ回転されたときとは異なる特性で回転トルクを発生させてもよい。このようにすると、各把持部55を、第1軸線L1の周りで回転させる際、回転の方向に応じて操作荷重及び操舵感を異ならせることができる。
【0107】
・プッシャ71における接触部77の数が1又は3以上に変更されてもよい。この場合、傾斜面65,66の組合わせの数が、接触部77の数と同じ数となるように変更される。
【0108】
・傾斜面65,66の傾斜角度は、第2軸線L2の周りの位置に応じて異なっていても
よい。例えば、傾斜面65,66は、上記面P1に傾斜することを条件に、第2軸線L2に沿う方向に膨らむように湾曲する湾曲面、又は凹むように湾曲する湾曲面によって構成されてもよい。
【0109】
上記変形例によると、把持部55の回転に伴い変化する操舵荷重の特性を変えることができる。
・弾性部材81として、圧縮コイルばねとは異なる種類のばねが用いられてもよい。
【0110】
また、弾性部材81として、プッシャ71を回転カム61側へ付勢できるものであることを条件として、ばねとは異なる部材が用いられてもよい。
・第2被規制面78及び第2規制面28は、第2軸線L2に対し、直交とは異なる角度で交差してもよい。
【0111】
・回転カム61におけるカム面64が上記実施形態とは反対側の面、すなわち、把持部55側の面に形成されてもよい。この場合には、プッシャ71及び弾性部材81が回転カム61よりも把持部55側に配置される。プッシャ71は、弾性部材81により第1軸線L1側へ付勢されて、接触部77がカム面64に押付けられる。
【0112】
・カム面64における傾斜面65,66が境界部67を挟んで周方向へ離れていて、その境界部67が上記面P1に対し平行な面によって構成されてもよい。
・回転制御機構60は、中立位置に位置する把持部55の手前方向の最大回転角度θ2を規定するために、第2軸線L2の周りでの回転カム61の回転を直接規制する代わりに、プッシャ71のスライドを規制してもよい。
【0113】
・回転制御機構60は、中立位置に位置する把持部55の奥方向の最大回転角度θ1を規定するために、プッシャ71のスライドを規制する代わりに、第2軸線L2の周りでの回転カム61の回転を直接規制してもよい。
【0114】
・上記ステアリングハンドルは、車両以外の乗物、例えば、航空機、船舶等における操舵装置のステアリングハンドルに適用することもできる。
【符号の説明】
【0115】
11…ステアリングシャフト
12…ステアリングハンドル
20…ボス部
40…スポーク部
55…把持部
60…回転制御機構
87…回転トルク発生機構部
L1…第1軸線
L2…第2軸線
θ1,θ2…最大回転角度