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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154707
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】パルス電源装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20221005BHJP
   H02M 9/02 20060101ALI20221005BHJP
   H05H 1/46 20060101ALN20221005BHJP
【FI】
H02M3/28 U
H02M3/28 V
H02M9/02
H05H1/46 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057866
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 真吾
【テーマコード(参考)】
2G084
5H730
【Fターム(参考)】
2G084AA02
2G084BB21
2G084CC05
2G084CC12
2G084CC13
2G084CC33
2G084DD02
2G084DD15
2G084DD55
5H730AS01
5H730AS04
5H730BB27
5H730BB57
5H730BB82
5H730BB86
5H730DD04
5H730DD16
5H730EE06
5H730EE07
5H730FD01
5H730FD31
5H730FG01
(57)【要約】
【課題】パルス電圧の電圧値を正確に制御することができるパルス電源装置を提供する。
【解決手段】第1パルス電圧発生回路は、電源電圧端子Nvと接地端子GNDとの間に直列に接続されるトランジスタQ5(第1スイッチング素子)とトランジスタQ6(第2スイッチング素子)とを備え、第1出力ノードから第1パルス電圧を出力する。第2パルス電圧発生回路の第2スイッチング回路は、DC/DCコンバータ303の出力端子間に接続されるトランジスタQ7(第3スイッチング素子)とトランジスタQ7(第4スイッチング素子)とを備え、第2出力ノードからDC/DCコンバータ303の出力電圧に第1パルス電圧をオフセットとして重畳させた第2パルス電圧を出力する。DC/DCコンバータ303の出力端子間に接続され、抵抗値を制御可能な電荷吸収回路が接続される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源電圧端子と接地端子との間に直列に接続される第1スイッチング素子と第2スイッチング素子とを有し、前記第1スイッチング素子と前記第2スイッチング素子との接続点である第1出力ノードから第1パルス電圧を出力する第1スイッチング回路と、
出力端子の一方が前記第1出力ノードに接続され、前記出力端子の一方と出力端子の他方との間に接続されるコンデンサを有している昇圧回路と、
前記第1出力ノードと、前記昇圧回路の出力端子の他方との間に接続される第3スイッチング素子と第4スイッチング素子とを有し、前記昇圧回路の出力電圧に前記第1パルス電圧をオフセットとして重畳させた第2パルス電圧を前記第3スイッチング素子と前記第4スイッチング素子との接続点である第2出力ノードから出力する第2スイッチング回路と、
前記昇圧回路の出力端子間に接続されるとともに、可変抵抗手段を有する電荷吸収回路と
を備えたことを特徴とする、パルス電源装置。
【請求項2】
前記電荷吸収回路の両端電圧及び前記可変抵抗手段に流れる電流の値を乗算して乗算値を出力する乗算器と、
前記乗算値と設定された目標値との比較結果に従い、前記乗算値が前記目標値になるように前記可変抵抗手段の抵抗値を変更する消費電力制御手段と
を更に備えた
請求項1に記載のパルス電源装置。
【請求項3】
前記可変抵抗手段は、トランジスタであり、制御信号を調整することにより、その抵抗値を変化可能に構成される、請求項1又は2に記載のパルス電源装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ発生装置においては、パルス状の電圧(パルス電圧)を発生させるパルス電源装置が設けられている(例えば、特許文献1参照)。パルス電源装置は、例えば、直流電力をインバータ回路で交流電力に変換した後、変圧器により異なる電圧値の交流電力に変換し、更にスイッチング回路等によりパルス電圧を発生させるよう構成される。
【0003】
しかし、従来のパルス電源装置において、パルス電圧の電圧値を正確に制御することは困難であった。具体的には、スイッチング回路等のスイッチング素子の導通/非導通のタイミングのずれにより、出力電圧値が目標電圧値とは異なる値となり、この結果、発生するパルス電圧の電圧値に誤差が生じるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-125729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、パルス電圧の電圧値を正確に制御することができるパルス電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決のため、本発明に係るパルス電源装置は、電源電圧端子と接地端子との間に直列に接続される第1スイッチング素子と第2スイッチング素子とを有し、前記第1スイッチング素子と前記第2スイッチング素子との接続点である第1出力ノードから第1パルス電圧を出力する第1スイッチング回路と、出力端子の一方が前記第1出力ノードに接続され、前記出力端子の一方と出力端子の他方との間に接続されるコンデンサを有している昇圧回路と、前記第1出力ノードと、前記昇圧回路の出力端子の他方との間に接続される第3スイッチング素子と第4スイッチング素子とを有し、前記昇圧回路の出力電圧に前記第1パルス電圧をオフセットとして重畳させた第2パルス電圧を前記第3スイッチング素子と前記第4スイッチング素子との接続点である第2出力ノードから出力する第2スイッチング回路と、前記昇圧回路の出力端子間に接続されるとともに、可変抵抗手段を有する電荷吸収回路とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、パルス電圧の電圧値を正確に制御することができるパルス電源装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施の形態に係るプラズマ処理システム100の全体構成を示す概略図である。
図2】第1の実施の形態のパルス電源装置1の構成例を示す回路図である。
図3】比較例のパルス電源装置1’の構成例を示す回路図である。
図4】比較例のパルス電源装置1’において、トランジスタQ5及びQ6の導通/非導通のタイミングと、対応するトランジスタQ7及びQ8の導通/非導通のタイミングとにずれが生じていない場合の動作説明図である。
図5】比較例のパルス電源装置1’において、トランジスタQ5及びQ6の導通/非導通のタイミングと、対応するトランジスタQ7及びQ8の導通/非導通のタイミングとにずれが生じている場合の動作説明図である。
図6】パルス電源装置1における電荷吸収回路DIの動作を説明するグラフである。
図7】第2の実施の形態に係るプラズマ処理システム100の全体構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った実施形態と実装例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
【0010】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0011】
[第1の実施の形態]
図1図2を参照して、第1の実施の形態に係るプラズマ処理システム100について説明する。図1は、第1の実施の形態に係るプラズマ処理システム100の全体構成を示す概略図であり、図2は、パルス電源装置1の構成例を示す回路図である。
【0012】
プラズマ処理システム100は、パルス電源装置1、第1高周波電源装置2、第1整合器3、第2高周波電源装置4、第2整合器5、プラズマ処理部6及び上位制御装置7等を備えている。その他、プラズマ処理システム100には図示しないガス導入装置や排気装置等が備わっているが、説明を省略する。なお、上位制御装置7は、パルス電源装置1、第1高周波電源装置2等の各装置に対して制御を行う。例えば、上位制御装置7は、パルス電源装置1から出力するパルス電圧の出力指令を行うと共に、第1高周波電源装置2から出力する高周波電力の出力指令等を行う。上位制御装置7と各装置との接続線は、図示を省略している。
【0013】
図1において、プラズマ処理部6は、処理容器(チャンバー)を有しており、この処理容器内に、後述する高周波電力及びパルス電圧が印加される第1電極61と、この第1電極61と対向するように配置される第2電極62とを備えている。第1電極61の上部には、例えば半導体ウェハ等の加工対象物63が配置される。プラズマ処理システム100は、プラズマ処理部6において生成したプラズマを用いて加工対象物63に対してエッチング等の加工処理が行う。
【0014】
第1高周波電源装置2及び第2高周波電源装置4は、RF(Radio Frequency)帯域の周波数(例えば、400kHz、13.56MHz、27.12MHz、40.68MHz、60MHz等)の高周波電圧を有する高周波電力を出力する。第1高周波電源装置2から出力された高周波電力は、インピーダンス整合を行う第1整合器3を介して第1電極61に供給される。また、第2高周波電源装置4から出力された高周波電力は、インピーダンス整合を行う第2整合器5を介して第2電極62に供給される。第1高周波電源装置2及び第2高周波電源装置4の出力周波数は、様々であり、その用途によって異なる。また、第1高周波電源装置2及び第1整合器3が無い場合や第2高周波電源装置4及び第2整合器5が無い場合もある。また、パルス電源装置1とプラズマ処理部6との間に、第1高周波電源装置2や第2高周波電源装置4に起因する高周波を遮断するためのローパスフィルタを設けてもよい。また、図1に示したプラズマ処理システム100は、容量結合型であるが、誘導結合型のプラズマ処理システム100もある。本実施の形態で説明するパルス電源装置1は、このような様々な方式のプラズマ処理システム100に適用可能である。
【0015】
パルス電源装置1は、所定の周波数で直流電圧の振幅が変化するパルス電圧を出力する。本実施形態のパルス電源装置1は、2系統の出力を有していて、それぞれ異なる電圧を有するパルス電圧を出力するように構成されている。第1出力系統は、例えば0Vと-10kVとが交互に繰り返される第1パルス電圧を出力する。また、第2出力系統(後述する第2パルス電圧発生回路302)は、例えば0Vと-11.5kVとが交互に繰り返される第2パルス電圧を出力する。第1出力系統と第2出力系統は、パルス電源装置1の負荷となる処理容器内の所定の箇所に接続される。なお、パルス電源装置1から出力されるパルス電圧の周波数は、例えば、100Hz~10MHz程度の周波数領域であるが、これに限定されない。また上記では、第1パルス電圧及び第2パルス電圧の電圧値が-10kV程度の場合を例示したが、これに限定されない。また、パルス電源装置1から出力するパルス電圧の極性は負に限定されない。
【0016】
図1に示したプラズマ処理システム100は、容量結合型であるが、誘導結合型のプラズマ処理システム100もある。本実施の形態で説明するパルス電源装置1は、このような様々な方式のプラズマ処理システム100に適用可能である。
【0017】
図2を参照して、パルス電源装置1の構成例を説明する。パルス電源装置1は、直流電源31と、インバータ回路INVと、クランプ回路CPと、変圧器TFと、整流回路RCと、平滑回路として機能するコンデンサC3とC4との直列回路の合成容量Cinと、電荷吸収回路DIと、第1スイッチング回路SW1と、第2スイッチング回路SW2と、制御部20とを備えて構成される。このうち、第1スイッチング回路SW1により第1パルス電圧発生回路301が形成される。また、インバータ回路INVと、クランプ回路CPと、変圧器TFと、整流回路RCと、合成容量Cinと、第2スイッチング回路SW2とにより、第2パルス電圧発生回路302が形成される。また、インバータ回路INVと、クランプ回路CPと、変圧器TFと、整流回路RCと、合成容量Cinとにより、直流電源31の直流電源電圧を昇圧させて昇圧電圧を供給するDC/DCコンバータ303(昇圧回路)が形成される。そのため、第2パルス電圧発生回路302は、DC/DCコンバータ303と、第2スイッチング回路SW2とにより形成されると言える。
【0018】
パルス電源装置1を制御する制御部20は、第1コントローラ210(第1制御部)及び第2コントローラ220(第2制御部)を備えている。第1コントローラ210は、インバータ回路INVを制御するための制御装置であり、第2コントローラ220は、電荷吸収回路DIを制御するための回路である。第1コントローラ210は、DC/DCコンバータ303の出力電圧値、すなわち、合成容量Cinの両端電圧値Vcinが、目標電圧値Vcintg(目標電圧値を示す信号)となるよう制御信号Sc1を制御する。目標電圧値Vcintgは予め設定されているか、上位制御装置7等により設定される。そして、図示しないドライブ回路が、制御信号Sc1を入力し、後述するインバータ回路INVのトランジスタQ1~Q4のゲート信号を生成する。なお、本実施形態では、トランジスタQ1~Q4、後述するトランジスタQ5~Q9は、一例として、電界効果トランジスタ(Field effect transistor)であるとして説明するが、バイポーラトランジスタ等であってもよい。第2コントローラ220は、電荷吸収回路DIの消費電力値Pabsが、消費電力値Pabsの目標電力値Ptg(目標電力値を示す信号)となるよう制御信号Sc2を制御する。目標電力値Ptg(目標電力値を示す信号)は予め設定されているか、上位制御装置7等により設定される。
【0019】
この第2コントローラ220が出力する制御信号Sc2は、ドライブOPアンプ230に供給され、ドライブOPアンプ230は、制御信号Sc2に従ったゲート信号を生成して、トランジスタQ9のゲートに供給する。また、第2コントローラ220は、目標電力値Ptgと、乗算器240の出力信号との差分に基づいて、制御信号Sc2を変化させる。なお、トランジスタQ9は、可変抵抗手段の一例である。
【0020】
第1パルス電圧発生回路301を形成する第1スイッチング回路SW1は、トランジスタQ5及びトランジスタQ6(第1スイッチング素子及び第2スイッチング素子)を、電源電圧端子Nv(例えば、-10kV)と接地端子(GND)との間に直列に接続して構成される。トランジスタQ5とトランジスタQ6とが交互に導通することにより、出力ノードN11から振幅が-10kV(0V~-10kV)の第1パルス電圧が出力される。トランジスタQ5及びQ6のゲート信号は、図示しない制御回路により制御される。
【0021】
第2パルス電圧発生回路302は、第1スイッチング回路SW1の出力ノードN11(第1出力ノード)が第2スイッチング回路SW2に接続され、いわゆるフローティング接続とされている。これにより、DC/DCコンバータ303の出力電圧と第1パルス電圧発生回路301が発生する第1パルス電圧とが重畳される。この重畳された電圧を第2スイッチング回路SW2によってパルス電圧化して第2パルス電圧を発生させる。後述するように、第2パルス電圧は、例えば、0Vと-11.5kVとを交互に繰り返すパルス電圧である。以下、第2パルス電圧発生回路302について説明する。
【0022】
インバータ回路INVは、一例として、直流電源31から供給される直流電力を交流電力に変換するフルブリッジ型のインバータ回路である。すなわち、インバータ回路INVは、第1アームAm1と、第2アームAm2を備える。第1アームAm1は、トランジスタQ1及びQ2を直流電源31の正極端子及び負極端子との間に第1ノードN1を介して直列に接続してなる。第2アームAm2は、トランジスタQ3及びQ4を直流電源31の正極端子及び負極端子との間に第2ノードN2を介して直列に接続してなる。トランジスタQ1とQ4が導通状態となり且つトランジスタQ2とQ3が非導通状態となる第1の状態と、トランジスタQ2とQ3が導通状態となり且つトランジスタQ1とQ4が非導通状態となる第2の状態とが繰り返されることにより、直流電力が交流電力に変換される(第1ノードN1と第2ノードN2との間に交流電力が発生する)。なお、図2におけるトランジスタQ1~Q4は、ボディダイオードを含めて図示しているが、ボディダイオードではなく、別途ダイオードを用いるようにしてもよい。これは、後述するトランジスタQ5~Q9でも同様である。
【0023】
クランプ回路CPは、インダクタ32、インダクタ33、及びダイオードD1~D4(第1~第4ダイオード)を備えている。インダクタ32は、第1ノードN1と、変圧器TFの第1端子N3との間に接続されており、インダクタ33は、第2ノードN2と、変圧器TFの第2端子N4との間に接続されている。
【0024】
ダイオードD1は、直流電源31の正極端子と第1端子N3との間に接続されている。ダイオードD2は、第1端子N3と直流電源31の負極端子との間に接続されている。ダイオードD3は、直流電源31の正極端子と第2端子N4との間に接続されている。ダイオードD4は、第2端子N4と直流電源31の負極端子との間に接続されている。換言すると、ダイオードD1及びD2は、第1端子N3を中点として、直流電源31の負極端子と正極端子との間に直列に接続されている。また、ダイオードD3及びD4は、第2端子N4を中点として、直流電源31の負極端子と正極端子との間に直列に接続されている。ダイオードD1~D4は、いずれも直流電源31の負極端子から正極端子に向かう方向を順方向として接続されている。
【0025】
インダクタ32及び33は、変圧器TFからインバータ回路INVを見た場合の入力インピーダンスを高くする役割を有し、これにより、変圧器TFの2次側巻線から、寄生容量を介して1次側巻線に向けてコモンモード電流が流れた場合に、このコモンモード電流がインバータ回路INVを構成するトランジスタQ1~Q4に流れ込むことを抑制する。ダイオードD1~D4は、このようなコモンモード電流がインバータ回路INVには流れず、直流電源31や接地端子に流すための迂回路として機能する。なお、インダクタ32及び33は、互いに略同一のインダクタンスを有するのが好適であるが、これに限定されるものではない。また、インダクタ32及び33と直列に抵抗素子が接続されていてもよい。
【0026】
変圧器TFは、互いに対向して配置される1次巻線と2次巻線とを有し、インバータ回路INVがクランプ回路CPを介して出力した交流電力を、更に異なる電圧値の交流電力に変換する。図2に示すように、変圧器TFの一次側に追加的にインダクタL1が接続されていてもよい。変圧器TFの出力電圧は、整流回路RCに印加される。整流回路RCは、図2に示すように4倍圧整流回路として構成され得る。4倍圧整流回路は、コンデンサC1、C2と、ダイオードD5~D8により構成される。
【0027】
ダイオードD5~D8は、同一方向を順方向として直列接続される。コンデンサC1は、変圧器TFの第1の出力端子と、ダイオードD5及びD6の接続ノードN5との間に接続される。コンデンサC2は、変圧器TFの第1の出力端子と、ダイオードD7及びD8の接続ノードN7との間に接続される。
【0028】
平滑回路として機能する合成容量Cinは、ダイオードD5~D8と並列に接続され、コンデンサC3とC4の接続ノードN8は、ノードN6と接続されている。これにより、コンデンサC3及びC4が蓄電される。
【0029】
電荷吸収回路DIは、トランジスタQ9及び抵抗R14からなる第1抵抗直列回路と、抵抗R11及び抵抗R12からなる第2抵抗直列回路とにより構成される。この2つの直列回路は、合成容量Cinと並列に接続される。すなわち、DC/DCコンバータ303の出力端子間に接続される。また、トランジスタQ9のゲート信号は、第2コントローラ220の制御により、ドライブOPアンプ230から供給される。
【0030】
<第1抵抗直列回路について>
トランジスタQ9は、飽和領域で使用される。そのため、トランジスタQ9のゲート信号の大きさを大きくすることによって、トランジスタQ9のドレインソース間の抵抗値(以下、抵抗値という。)を小さくすることができる。例えば、トランジスタQ9の抵抗値が10Ω~1MΩまで調整可能であり、抵抗R14が1Ωである。トランジスタQ9の抵抗値を変化させることによりトランジスタQ9と抵抗R14との合成抵抗値が変化するので、第1抵抗直列回路に流れる電流の電流値Inaが変化する。電流値Inaは、トランジスタQ9と抵抗R14の接続ノードNAの電圧を検出し、その検出電圧に対して図示しない変換回路によって所定の変換処理を行うことによって算出できる。電流値Ina(電流値を示す信号)は、乗算器204に入力される。なお、トランジスタQ9としてバイポーラトランジスタを用いる場合は、ベース電流やゲート電圧といった制御信号の大きさを変更することによってコレクタエミッタ間の抵抗値を変化させることができる。また、上記の趣旨から分かるように、トランジスタQ9に代えて、可変抵抗のような他の可変抵抗手段であってもよい。ただし、ゲート信号等の制御信号によって抵抗値を調整できるものでないと実用的ではない。電界効果トランジスタ等は、制御信号によって抵抗値を変更でき、且つ、抵抗値の調整範囲が広いので適している。
【0031】
<第2抵抗直列回路について>
第2抵抗直列回路の両端電圧値Vnbは、抵抗R11と抵抗R12との接続ノードNBの電圧を検出し、その検出電圧に対して図示しない変換回路によって所定の変換処理を行うことによって算出できる。この電圧値Vnb(電圧値を示す信号)は、第1抵抗直列回路の両端電圧値を示すとともに、合成容量Cinの両端電圧値Vcinを示す。電圧値Vnbは、乗算器204に入力される。また、電圧値Vnbは、第1コントローラ210の前段の比較器において目標電圧値Vcintgと比較され、その比較結果(誤差情報)に応じて第1コントローラ210において制御信号Sc1が生成される。なお、第2抵抗直列回路は、基本的には電圧検出用であるため、比較的高い合成抵抗値を有する。例えば、1MΩである。
【0032】
<電荷吸収回路DIについて>
乗算器204は、電流値Inaと電圧値Vnbとを乗算することにより、第1抵抗直列回路で消費される消費電力値Pabsを算出する。この消費電力値Pabsが第2コントローラ220の前段の比較器において目標電力値Ptgと比較され、その比較結果(誤差情報)に応じて第2コントローラ220において制御信号Sc2が生成される。上述したように、制御信号Sc2によりドライブOPアンプ230を介してトランジスタQ9の抵抗値を変更することができるので、第1抵抗直列回路に流れる電流の電流値Inaを調整することができる。また、若干ではあるが、第2抵抗直列回路にも電流が流れるので、電荷吸収回路DI全体として電力を消費させることができる。すなわち、コンデンサC3とC4とに蓄電された電荷を強制的に消費させて、合成容量Cinの両端電圧値Vcinを低下させることができる。この効果については、後述する。
【0033】
第2スイッチング回路SW2は、トランジスタQ7及びトランジスタQ8(第3スイッチング素子及び第4スイッチング素子)を、出力ノードN11と出力ノードN8(昇圧電圧出力ノード)との間に直列に接続して構成される。すなわち、第2スイッチング回路SW2は、DC/DCコンバータ303の出力端子間に接続される。トランジスタQ7とトランジスタQ8は、トランジスタQ7とトランジスタQ8とが交互に導通するように、図示しない制御回路によりゲート信号が与えられる。
【0034】
トランジスタQ7の導通/非導通の切り替えタイミングは、トランジスタQ5と同期するように制御され、トランジスタQ8の導通/非導通の切り替えタイミングは、トランジスタQ6と同期するように制御される。出力ノードN11と出力ノードN8との間には、DC/DCコンバータ303の出力電圧と第1パルス電圧発生回路301が発生する第1パルス電圧とが重畳された電圧が与えられているので、トランジスタQ5及びトランジスタQ7が導通状態になると、接地端子GNDの電位(例えば0V)が出力ノードN12(第2出力ノード)を介して出力端子Vout2から出力される。また、トランジスタQ6及びトランジスタQ8が導通状態になると、トランジスタQ5及びトランジスタQ7が非導通状態となるので、コンデンサC3の一端が電源電圧端子Nvに接続され、コンデンサC4の他端が出力端子Vout2に接続された状態となる。上述したようにフローティング接続になっているので、DC/DCコンバータ303の出力は、電源電圧端子Nvの電位(例えば-10kV)が基準となる。DC/DCコンバータ303の出力電圧が1.5kvであれば、-11.5kVが出力端子Vout2から出力される。したがって、出力端子Vout2から、0Vと-11.5kVとが交互に繰り返されたパルス電圧が出力される。すなわち、第2パルス電圧発生回路302は、DC/DCコンバータ303の出力電圧に第1パルス電圧発生回路301が発生する第1パルス電圧をオフセットとして重畳させた第2パルス電圧を発生させる。
【0035】
次に、この第1の実施の形態のパルス電源装置1の効果を、図3の比較例に係るパルス電源装置1’と比較しつつ説明する。この比較例に係るパルス電源装置1’は、電荷吸収回路DIを備えていない点で、第1の実施の形態と異なっている。
【0036】
この比較例の場合、第1スイッチング回路SW1を構成するトランジスタQ5及びQ6の導通/非導通のタイミングと、対応する第2スイッチング回路SW2を構成するトランジスタQ7及びQ8の導通/非導通のタイミングとのずれにより、コンデンサC3及びC4の両端電圧が目標電圧を超えて充電され、これにより、DC/DCコンバータ303による第2パルス電圧の電圧値の調整が困難になってしまうことがある。導通のタイミングのばらつきの原因は様々であるが、例えばコントローラ(制御IC)の特性、トランジスタの特性、ドライブOPアンプの回路定数のばらつき等である。また、他の理由から、意図的にトランジスタQ5及びQ6の導通/非導通のタイミングと、対応するトランジスタQ7及びQ8の導通/非導通のタイミングとをずらすように制御することが必要になる場合もあり、その結果、合成容量Cinの両端電圧値Vcinが目標電圧値Vcintgを超えて充電されることが生じ得る。
【0037】
図4を参照して、比較例のパルス電源装置1’において、トランジスタQ5及びQ6の導通/非導通のタイミングと、対応するトランジスタQ7及びQ8の導通/非導通のタイミングとにずれがない正常なタイミングで動作している場合の動作を説明する。なお、図4において、Lil、Ril、Li2、Ri2は、第1スイッチング回路SW1、第2スイッチング回路SW2の出力端子のインピーダンスを示しており、Ro1、Co1、Ro2、Co2は、負荷のインピーダンスを示している。また、コンデンサC3とC4の合成容量をCinと表している。また、合成容量Cinに並列接続している抵抗Rin’は、コンデンサC3とC4との直列回路の両端に並列接続している抵抗を仮想的に表している。図4及び後述する図5では、図2に示した第1抵抗直列回路は無いが、第2抵抗直列回路に相当する電圧検出用回路及び負荷の抵抗成分やケーブル損失などが含まれている。抵抗Rin‘の抵抗値は、例えば1kΩである。
【0038】
比較例のパルス電源装置1’は、正常な動作では、以下の2つの状態S1、S2を繰り返す。
(状態S1)
トランジスタQ6とQ8が同時に導通状態(ON)になり、トランジスタQ5とQ7は同時に非導通状態(OFF)になる。
(状態S2)
トランジスタQ5とQ7が同時に導通状態となり、トランジスタQ6とQ8が同時に非導通状態になる。
【0039】
なお、第1スイッチング回路SW1、第2スイッチング回路SW2において、トランジスタQ5とQ6が同時に導通したり、又はトランジスタQ7とQ8が同時に導通したりすることで電源が短絡することを防止するため、状態1と状態2との間では、全トランジスタQ5~Q8が同時に非導通状態となる期間(デッドタイム)が設定される。
【0040】
状態S1では、第1スイッチング回路SW1の出力端子に接続された負荷から、トランジスタQ6を介して電源電圧端子Nvに向けて電流I1が流れる。また、第2スイッチング回路SW2の出力端子に接続された負荷から、トランジスタQ7のボディダイオード、及びトランジスタQ6を介して電源電圧端子Nvに向けて電流I2が流れる。更に、第2スイッチング回路SW2の出力端子に接続された負荷から、トランジスタQ8、合成容量Cin、及びトランジスタQ6を介して、電源電圧端子Nvに向けて電流I3が流れる。
【0041】
一方、状態S2では、第1スイッチング回路SW1の接地端子GNDから、導通状態とされたトランジスタQ5を介して、第1スイッチング回路SW1の出力端子に接続された負荷に向けて、電流I4が流れる。また、同様に第1スイッチング回路SW1の接地端子GNDから、導通状態とされたトランジスタQ5、Q7を介して、第2スイッチング回路SW2の出力端子に接続された負荷に向けて電流I5が流れる。また、同様に第1スイッチング回路SW1の接地端子GNDから、導通状態とされたトランジスタQ5、合成容量Cin、及びトランジスタQ8のボディダイオードを介して、第2スイッチング回路SW2の出力端子に接続された負荷に向けて電流I6が流れる。なお、図4において電流の符号I1~I6と括弧書きで併記された電流値は、電流I1~I6に関しある条件下で得られる電流値(平均電流)の一例である。
【0042】
トランジスタQ5及びQ6の導通/非導通のタイミングと、対応するトランジスタQ7及びQ8の導通/非導通のタイミングとにずれが生じない場合には、第1スイッチング回路SW1から合成容量Cinに流れ込む電流と、逆に合成容量Cinから第1スイッチング回路SW1に流出する電流とが釣り合っている。このため、第1スイッチング回路SW1からの電流により、合成容量Cinの両端電圧が増加することはない。
【0043】
次に、図5を参照して、比較例のパルス電源装置1’において、トランジスタQ5及びQ6の導通/非導通のタイミングと、対応するトランジスタQ7及びQ8の導通/非導通のタイミングとにずれが生じている場合の動作を説明する。ここでは一例として、トランジスタQ5及びQ6の切り替えタイミングよりもトランジスタQ7及びQ8の切り替えタイミングが遅れた場合について説明する。また、トランジスタQ5~Q8の導通/非導通は、図5に示す状態S11、S12、S13、S14の順に切り替わるものとする。状態S11~S14は、以下の通りである。
【0044】
(状態S11)
正常なタイミングで動作していれば、トランジスタQ6、Q8が同時に導通状態となり、トランジスタQ5、Q7は同時に非導通状態になる。しかし、トランジスタQ7が導通状態から非導通状態に切り替わるタイミングが、トランジスタQ5が導通状態から非導通状態に切り替わるタイミングよりも遅れており、状態S11の途中で非導通状態に切り替わる。また、トランジスタQ8が非導通状態から導通状態に切り替わるタイミングが、トランジスタQ6が導通状態から非導通状態に切り替わるタイミングよりも遅れており、且つ、トランジスタQ7が導通状態から非導通状態に切り替った後でデッドタイムが経過した後に導通状態に切り替わる。すなわち、状態S11の間、トランジスタQ8は非導通状態であり、後述する状態S12になったときに導通状態に切り替わる。この状態S11では、第1スイッチング回路SW1の出力端子に接続される負荷から、トランジスタQ6を介して電源電圧端子Nvに向かって大きな電流I1’が流れる。また、第2スイッチング回路SW2の出力端子に接続される負荷から、トランジスタQ7、及びトランジスタQ6を介して電源電圧端子Nvに向かって、大きな電流I2’が流れる。すなわち、図5の場合には、図4の電流I3のような合成容量CinからトランジスタQ6を介して電源電圧端子Nvに向かう電流は流れない。また、図4の場合には、トランジスタQ6及びQ8が導通状態(ON)のときには、トランジスタQ5及びQ7が非導通状態(OFF)であるので、トランジスタQ6及びQ8が導通状態(ON)の期間は、トランジスタQ7のボディダイオードが順バイアスのときにしか電流が流れなかった。これに対して、図5の場合には、トランジスタQ6及びQ8が導通状態(ON)のときに、トランジスタQ7も導通状態(ON)であるため、トランジスタQ7が非導通状態(OFF)になるまでの期間に、大きな電流I2’が第1スイッチング回路SW1側に流れる。
【0045】
(状態S12)
トランジスタQ8が遅れて導通状態に切り替わり、トランジスタQ5、Q7が非導通状態で、トランジスタQ6、Q8が導通状態になる。この状態では、第1スイッチング回路SW1の出力端子に接続される負荷から、トランジスタQ6を介して電源電圧端子Nvに向かって電流I1’’が流れる。また、第2スイッチング回路SW2の出力端子に接続される負荷から、導通状態のトランジスタQ8、合成容量Cin、及び導通状態のトランジスタQ6を介して電源電圧端子Nvに向けて電流I3’’が流れる。このとき、合成容量Cinでは電荷の放電が行われる。
【0046】
(状態S13)
正常なタイミングで動作していれば、トランジスタQ5、Q7が同時に非導通状態から導通状態に切り替わり、トランジスタQ6、Q8は同時に導通状態から非導通状態に切り替わる。しかし、状態S11とは逆で、トランジスタQ8が導通状態から非導通状態に切り替わるタイミングが、トランジスタQ6が導通状態から非導通状態に切り替わるタイミングよりも遅れており、状態S13の途中で非導通状態に切り替わる。また、トランジスタQ7が非導通状態から導通状態に切り替わるタイミングが、トランジスタQ5が非導通状態から導通状態に切り替わるタイミングよりも遅れており、且つ、トランジスタQ8が導通状態から非導通状態に切り替った後でデッドタイムが経過した後に導通状態に切り替わる。すなわち、状態S13の間、トランジスタQ7は非導通状態であり、後述する状態S14になったときに導通状態に切り替わる。この場合、第1スイッチング回路SW1の出力端子Vout1に接続される容量性負荷(負電位)が、トランジスタQ5を介して接地端子GNDと接続される。そのため、接地端子GNDから導通状態のトランジスタQ5を介して大きな電流I4’が流れる。また、第2スイッチング回路SW2の出力端子Vout2に接続される容量性負荷(負電位)が合成容量Cinと導通状態のトランジスタQ8を介して接地端子GNDと接続される。そのため、接地端子GNDから導通状態のトランジスタQ5、合成容量Cin、導通状態のトランジスタQ8を介して、第2スイッチング回路SW2に接続される負荷に向けて大きな電流I6’が流れる。このとき、合成容量Cinでは電荷の充電が行われる。
【0047】
(状態S14)
トランジスタQ7が遅れて導通状態に切り替わり、トランジスタQ5、Q7が導通状態で、トランジスタQ6、Q8が非導通状態となる。この状態では、第1スイッチング回路SW1の出力端子Vout1に接続される容量性負荷(負電位)及び第2スイッチング回路SW2の出力端子Vout2に接続される容量性負荷(負電位)が接地端子GNDと接続される。そのため、接地端子GNDからトランジスタQ5を介して電流I4’’が流れる。また、接地端子GNDからトランジスタQ5、トランジスタQ7を介して、第2スイッチング回路SW2に接続される負荷に向けて電流I5’’が流れる。なお、図5において電流の符号I1’~I6 ’、I1’ ’、I3’’ 、I4’’ 、 I5’’と括弧書きで併記された電流値は、各電流に関しある条件下で得られる電流値(平均電流)の一例である。
【0048】
ここで、合成容量Cinに着目すると、状態S11及び状態S12の期間は放電期間であり、状態S13及び状態S14の期間は充電期間である。また、状態S11及び状態S13の期間の時間を150n秒、状態S12及び状態S14の期間の時間を1100n秒とすると、放電期間に合成容量Cinから流れ出す電流は3.16Aであり、充電期間に合成容量Cinに流れ込む電流は、3.19Aとなる。すなわち、1サイクル中に0.03Aの収支ずれが発生するので、合成容量Cinの両端電圧Vcinが少しずつ上昇していく。この電圧上昇に伴い抵抗Rinでの損失が大きくなるので、合成容量Cinの両端電圧Vcinは、抵抗Rinでの損失との関係で上昇が抑制され、釣り合うところで安定する。すなわち、図4に示したように、トランジスタQ5及びQ6と、トランジスタQ7及びQ8とが正常なタイミングで動作している場合の合成容量Cinの両端電圧Vcinよりも、トランジスタQ5及びQ6と、トランジスタQ7及びQ8との導通のタイミングにずれが生じる場合の合成容量Cinの両端電圧値Vcinが大きくなる。
【0049】
通常であれば、第1コントローラ210から出力する制御信号Sc1を小さくすることによって合成容量Cinの両端電圧値Vcinを目標電圧値Vcintgに近づけることができる。しかし、上記のずれは、合成容量Cinに蓄電された電荷によるものであるので、たとえ制御信号Sc1を0にしたとしても合成容量Cinの両端電圧値Vcinは0にならない。ある条件では、合成容量Cinの両端電圧値Vcinは目標電圧値Vcintgの2倍程度まで上昇することがある。こうなると、第2パルス電圧の電圧値を正確に制御することができなくなる。
【0050】
このような問題を解決するため、第1の実施の形態のパルス電源装置は、コンデンサC3及びC4の直列回路と並列に接続された電荷吸収回路DIを備える。上述したように、電荷吸収回路DIは、コンデンサC3とC4とに蓄電された電荷を強制的に消費させて、合成容量Cinの両端電圧値Vcinを低下させることができる。そのため、上記のような問題が発生して、合成容量Cinの両端電圧Vcinが少しずつ上昇しても、電荷吸収回路DIによって、その上昇分を打ち消すように電力を消費させれば、合成容量Cinの両端電圧値Vcinを目標電圧値Vcintgにする制御を行うことができる。どの程度の電力量を消費させるか、すなわち目標電力値Ptgをどの程度にするか、実験等によって適切な値を定める。なお、目標電力値Ptgは一定値のため合成容量Cinの両端電圧の大小に拘わらず、常時一定の電力を消費するように制御される。
【0051】
図6を参照して、このパルス電源装置1における電荷吸収回路DIの動作を説明する。ここでは、状態(i)から動作が開始され、状態(ii)、(iii)、(iv)に順次移行する場合を説明する。なお、ここで説明するのは、第1コントローラ210によるDC/DCコンバータ303の制御よりも、第2コントローラ220によるトランジスタQ9の制御(消費電力の制御)の方が早い場合の一例である。
【0052】
状態(i)では、合成容量Cinの両端電圧の目標電圧値VcintgがVcintg1に設定され、この目標電圧値Vcintg1が得られるよう、第1コントローラ210の制御信号Sc1が変化する。また、第2コントローラ220の制御信号Sc2も、この目標電圧値Vcintg1に適合するように変化する。なお、状態(i)では、第1コントローラ210による制御、第2コントローラ220による制御が安定している状態を示している。
【0053】
続く状態(ii)(時刻t1~)では、目標電圧値VcintgがVcintg1から、これよりも小さいVcintg2に切り替わる。第1コントローラ210は、制御信号Sc1のレベルをSc11からSc12に低下させる。これにより合成容量Cinの両端電圧値Vcinは徐々に低下する。
【0054】
合成容量Cinの両端電圧値Vcinが低下を開始すると、電荷吸収回路DIの消費電力値Pabsも、時刻t1以降低下し始める。これに対応して、第2コントローラ220は、電荷吸収回路DIの消費電力値Pabsを一定に維持するため、制御信号Sc2を、Sc21から、これよりも大きいSc22に向けて徐々に増加させる。制御信号Sc2の増加により、トランジスタQ9のゲート電圧が増大し、これにより電荷吸収回路DIの抵抗値は低下し、トランジスタQ9を流れる電流値Itrは増加する。
【0055】
状態(iii)(時刻t2~)になると、電荷吸収回路DIの消費電力値Pabsは元の一定値に復帰する。このように、電荷吸収回路DIは、合成容量Cinの両端電圧値Vcinの変動に拘わらず、一定の電力を消費するように制御される。トランジスタQ9のゲート電圧を制御し、トランジスタQ9の飽和領域を使用することで、電荷吸収回路DIの消費電力値Pabsを一定値に制御することができる。状態(iv)(時刻t3~)において、両端電圧値Vcinが目標値Vcintg2に達することで、一連の動作は終了する。
【0056】
【表1】
【0057】
次に、電荷吸収回路DIの特性を表1を用いて説明する。図2の回路において、第1スイッチング回路SW1は、一定の電流値Isw1の電流を流す定電流源とみなすことができる。ここで、トランジスタQ9と抵抗R14との第1抵抗直列回路の抵抗値をRa(トランジスタQ9のゲート信号により可変)、抵抗値Ra以外に合成容量Cinに並列接続しているその他の抵抗成分(第2抵抗直列回路及び負荷の抵抗成分やケーブル損失等)の抵抗値をRb(一定値)と定義する。また、第1抵抗直列回路とその他の抵抗成分との合成抵抗の抵抗値を合成抵抗値Rab、第1抵抗直列回路で消費する電力を消費電力PRa、その他の抵抗成分で消費する電力を消費電力PRb、消費電力PRaと消費電力PRbとの合計を合計消費電力PRabと定義する。このようにすると、合成容量Cinの両端電圧値Vcinは、Rab×Isw1で表すことができる。また、一定の電流値Isw1が1A、抵抗値Raの調整範囲が10Ω~1MΩ、抵抗値Rbが1kΩであるとする。なお、上述したように第2抵抗直列回路は、基本的には電圧検出用であるため、比較的高い抵抗値を有する。例えば、1MΩである。しかし、第2抵抗直列回路及び負荷の抵抗成分やケーブル損失等が影響するので、その他の抵抗成分の抵抗値Rbは、第2抵抗直列回路だけの抵抗値(1MΩ)よりも低くなる。ここでは、抵抗値Rbを1kΩとしている。
【0058】
このような条件では、表1に示すように、抵抗値Raが大きくなるにつれて、合成抵抗値Rab及び合成容量Cinの両端電圧値Vcinが大きくなる方向で変化していく。そのため、第1抵抗直列回路の抵抗値Raが小さい値(例えば10Ω)であれば、合成容量Cinの両端電圧値Vcinが小さくなりすぎてしまう(例えば10V)。抵抗値Raが大きい値(例えば1MΩ)のときには、合成容量Cinの両端電圧値Vcinが大きい値(例えば999Ω)であるので、コンデンサC3とC4とに蓄電された電荷を強制的に消費させているとは言い難い。抵抗値Ra=抵抗値Rb=1kΩの場合に、第1抵抗直列回路で消費する消費電力PRaが最大(250W)となる。このときのその他の抵抗成分で消費する消費電力PRbが250Wであるので、合計消費電力PRabは、500Wとなる。また、このときの合成容量Cinの両端電圧値Vcinは500Vであり、電荷吸収回路DIが無い場合の1000Vに比べて、十分な電圧降下がされている。
【0059】
上記から分かるように、抵抗値Raを小さくすれば合計消費電力PRabが大きくなるというものではなく、合成容量Cinの両端電圧値Vcinと合計消費電力PRabとの関係を踏まえて、抵抗値Raを調整する必要がある。本実施形態では、第1コントローラ210によって、合成容量Cinの両端電圧値Vcinが目標電圧値Vcintgとなるよう制御信号Sc1を制御する。また、第2コントローラ220によって、電荷吸収回路DIの消費電力値Pabsが、消費電力値Pabsの目標電力値Ptgとなるよう制御信号Sc2を制御するので、合成容量Cinの両端電圧値Vcinと合計消費電力PRabとの関係を踏まえて、抵抗値Raを調整することができる。
【0060】
以上説明したように、この第1の実施の形態のパルス電源装置は、コンデンサC3及びC4の直列回路と並列に接続された電荷吸収回路DIを備え、トランジスタQ9のゲート信号を制御することにより、トランジスタQ9の抵抗値を制御し、これにより、電荷吸収回路DIにおいて常時一定の電力を消費する。従って、第1スイッチング回路SW1から合成容量Cinに流入する電流量が、合成容量Cinから第1スイッチング回路SW1に流出する電流量よりも多くなっても、合成容量Cinの両端電圧値Vcinを目標電圧値Vcintgになるように制御することが可能となる。
【0061】
[第2の実施の形態]
次に、図7を参照して、第2の実施の形態に係るパルス電源装置を説明する。この第2の実施の形態のパルス電源装置は、第1の実施の形態と同様に、直流電源31と、インバータ回路INVと、クランプ回路CPと、変圧器TFと、整流回路RCと、平滑回路として機能するコンデンサC3とC4との直列回路の合成容量Cinと、電荷吸収回路DIと、第1スイッチング回路SW1と、第2スイッチング回路SW2とを備えて構成される(図7では、直流電源31と、インバータ回路INVと、クランプ回路CPと、変圧器TFと、整流回路RCと、合成容量Cinの図示は省略している)。また、これらを制御する回路として、第1コントローラ210、第2コントローラ220、ドライブOPアンプ230、乗算器240を備えている(図7では、第1コントローラ210の図示は省略している)。
【0062】
ただし、この第2の実施の形態のパルス電源装置は、これらに加え、安定化電源250、及び絶縁DC/DCコンバータ270を備えている。安定化電源250が備えられることにより、第2コントローラ220において、周辺回路の動作ノイズに拘わらず、目標電力値Ptgに従った安定した制御が実行可能となる。安定化電源250に代えて、基準電圧発生回路(IC)やツェナーダイオードを使用して安定化電源とすることも可能である。
【0063】
絶縁DC/DCコンバータ270は、絶縁DC/DCコンバータ260から供給される電圧(例えば+18V、基準電圧(COM)、-6V)を、別の電圧(例えば+12V、基準電圧(COM)、-12Vの電圧)に変換する電力変換回路である。この+12V、-12V、基準電圧(COM)は、第2コントローラ220、及びドライブOPアンプ230にも供給される。絶縁DC/DCコンバータ260は、第1の実施の形態のパルス電源装置にも設けられ、ドライバ330を介して、第2スイッチング回路SW2のトランジスタQ8のソースに基準電圧(COM)を供給すると共に、トランジスタQ8のゲートにゲート電圧を供給する回路である。なお、図7では図示を省略しているが、トランジスタQ5~Q7にもドライバ330が設けられている。
【0064】
絶縁DC/DCコンバータ260は、正負非対称の電圧(+18V、-6V)を生成しているが、乗算器240は正負対称の電圧が必要とする。このため、この第2の実施の形態では、追加の絶縁DC/DCコンバータ270を設け、絶縁DC/DCコンバータ260の正負非対称の電圧を正負対称の電圧に変換し、乗算器240に供給する。絶縁DC/DCコンバータ270は、第2スイッチング回路SW2のトランジスタQ8のソースに基準電圧(COM)を供給しているため、高電圧の絶縁は必要なく、数V程度の絶縁で足りる。
【0065】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0066】
1…パルス電源装置、 2…第1高周波電源装置、 3…第1整合器、 4…第2高周波電源装置、 5…第2整合器、 6…プラズマ処理部、 7…上位制御装置、 31…直流電源、 32、33…インダクタ、 63…加工対象物、 100…プラズマ処理システム、 C1~C4…キャパシタ、 Am1…第1アーム、 Am2…第2アーム、 CP…クランプ回路、 TF…変圧器、 RC…整流回路、 DI…電荷吸収回路、 D1~D8…ダイオード、 210…第1コントローラ、 220…第2コントローラ、 230…ドライブOPアンプ、 240…乗算器、 250…安定化電源、 260、270…絶縁DC/DCコンバータ、 301…第1パルス電圧発生回路、 302…第2パルス電圧発生回路、 303…DC/DCコンバータ、 GND…接地端子、 INV…インバータ回路、 Q1~Q9…トランジスタ、SW1…第1スイッチング回路、 SW2…第2スイッチング回路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7