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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154730
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20221005BHJP
   F16H 59/10 20060101ALI20221005BHJP
   F16H 61/66 20060101ALI20221005BHJP
   F16H 61/28 20060101ALI20221005BHJP
   F16H 61/16 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/10
F16H61/66
F16H61/28
F16H61/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057905
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 生吾
(72)【発明者】
【氏名】渡部 瑞樹
(72)【発明者】
【氏名】難波 晟史
【テーマコード(参考)】
3J067
3J552
【Fターム(参考)】
3J067AA02
3J067AA21
3J067AA27
3J067AB01
3J067AB23
3J067AC42
3J067BA04
3J067CA32
3J067DA52
3J067DB32
3J067FB61
3J067GA14
3J552MA10
3J552NA05
3J552NB01
3J552PA19
3J552PA51
3J552QB06
3J552QC10
3J552RB02
3J552VA62W
3J552VA76W
(57)【要約】
【課題】前記無段階変速装置を制御する制御部を備えた作業車両において、前記変速操作具による前記走行機体の走行変速操作をよりスムーズに、且つ操作性良く行うことができる作業車両を提供することを課題とする。
【解決手段】油圧式変速装置と、変速操作具と、前記変速操作具の操作位置を検出する操作位置検出手段と、前記油圧式変速装置のトラニオン軸を操作するアクチュエータと、制御部とを備え、前記変速操作具は、中立位置から異なる2方向に揺動操作可能に構成されるとともに、中立位置からの揺動操作を解除すると自動的に中立位置に復帰するように構成され、前記制御部は、前記変速操作具を前進側又は後進側に所定時間以上操作された場合には前記変速操作具の操作位置に応じて無段階変速する一方で、前記変速操作具の前進側又は後進側への操作が所定時間以内であった場合には前記変速操作具の操作方向に応じて有段階変速するように構成された。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オペレータが走行操作を行う操縦部を有する走行機体と、
前記走行機体の走行動力を変速する油圧式変速装置と、
前記操縦部に設けられて前記油圧式変速装置の変速操作を行うための変速操作具と、
前記変速操作具の操作位置を検出する操作位置検出手段と、
前記油圧式変速装置のトラニオン軸を操作するアクチュエータと、
前記変速操作具の操作位置に応じて前記油圧式変速装置を前進状態、中立状態、又は後進状態に切換える制御部とを備え、
前記変速操作具は、中立位置から異なる2方向に揺動操作可能に構成されるとともに、中立位置からの揺動操作を解除すると自動的に中立位置に復帰するように構成され、
前記制御部は、前記変速操作具が中立位置から一方側に揺動操作された場合は前記油圧式変速装置を前進側に変速し、前記変速操作具が中立位置から他方側に揺動操作された場合は前記油圧式変速装置を後進側に変速するように構成され、
前記制御部は、前記変速操作具を前進側又は後進側に所定時間以上操作された場合には前記変速操作具の操作位置に応じて無段階変速する一方で、前記変速操作具の前進側又は後進側への操作が所定時間以内であった場合には前記変速操作具の操作方向に応じて有段階変速するように構成された
作業車両。
【請求項2】
前記制御部は、前記変速操作具によって無段階変速する場合には、前記変速操作具の中立位置からの操作量に応じて、前記アクチュエータを介して操作される前記トラニオン軸の動作速度を増減するように構成された
請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記制御部は、前記変速操作具による無段階変速操作によって前記トラニオン軸が中立状態に操作された場合には、前記無段階変速装置の中立状態を保持するとともに、前記変速操作具を介した前記無段階変速装置の変速操作を規制するように構成され、
前記制御部は、前記変速操作具による変速操作が規制された場合には、前記変速操作具を中立位置に戻すことによって、前記変速操作具による変速操作の規制が解除されるように構成された
請求項1又は2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記制御部は、前記変速操作具によって無段階変速する場合には、前記変速操作具の操作量に応じて前記無段階変速装置を変速する通常モードと、該通常モードよりも前記変速操作具によって操作可能な変速量が少ない低速モードとに切換えることができるように構成された
請求項1乃至3の何れかに記載の作業車両。
【請求項5】
前記制御部は、前記変速操作具の中立位置からの操作量が少ないほど、前記アクチュエータを介して操作される前記トラニオン軸の動作速度を遅くするように構成された
請求項1乃至4の何れかに記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行機体の変速操作を制御する制御部を備えた作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
オペレータが走行操作を行う操縦部を有する走行機体と、前記走行機体の走行動力を変速する油圧式変速装置と、前記操縦部に設けられて前記油圧式変速装置の変速操作を行うための変速操作具と、前記変速操作具の操作位置を検出する操作位置検出手段と、前記油圧式変速装置を変速操作するアクチュエータと、前記変速操作具の操作位置に応じて前記油圧式変速装置を前進状態、中立状態、又は後進状態へ変速する制御部とを備えた特許文献1に記載の作業車両が従来公知である。
【0003】
上記文献の作業車両によれば、前記無段階変速装置を、前記電動アクチュエータを介して制御する電動操作方式によって操作可能であって、前記変速操作具の操作位置に応じて操作される変速比を調整する変速比調整手段を設けたことにより、前記変速操作具の操作量に応じた変速量を容易に調整できるものであるが、前記無段階変速装置を機械的な連係で手動操作する場合と比較して、操作方法や操作性は略同じで向上したとは言い難く、コストは増えるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3635823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アクチュエータを介して前記無段階変速装置を制御する制御部を備えた作業車両において、前記変速操作具による前記走行機体の走行変速操作をよりスムーズに、且つ操作性良く行うことができる作業車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本願発明は第1に、オペレータが走行操作を行う操縦部を有する走行機体と、前記走行機体の走行動力を変速する油圧式変速装置と、前記操縦部に設けられて前記油圧式変速装置の変速操作を行うための変速操作具と、前記変速操作具の操作位置を検出する操作位置検出手段と、前記油圧式変速装置のトラニオン軸を操作するアクチュエータと、前記変速操作具の操作位置に応じて前記油圧式変速装置を前進状態、中立状態、又は後進状態に切換える制御部とを備え、前記変速操作具は、中立位置から異なる2方向に揺動操作可能に構成されるとともに、中立位置からの揺動操作を解除すると自動的に中立位置に復帰するように構成され、前記制御部は、前記変速操作具が中立位置から一方側に揺動操作された場合は前記油圧式変速装置を前進側に変速し、前記変速操作具が中立位置から他方側に揺動操作された場合は前記油圧式変速装置を後進側に変速するように構成され、前記制御部は、前記変速操作具を前進側又は後進側に所定時間以上操作された場合には前記変速操作具の操作位置に応じて無段階変速する一方で、前記変速操作具の前進側又は後進側への操作が所定時間以内であった場合には前記変速操作具の操作方向に応じて有段階変速するように構成されたことを特徴としている。
【0007】
第2に、前記制御部は、前記変速操作具によって無段階変速する場合には、前記変速操作具の中立位置からの操作量に応じて、前記アクチュエータを介して操作される前記トラニオン軸の動作速度を増減するように構成されたことを特徴としている。
【0008】
第3に、前記制御部は、前記変速操作具による無段階変速操作によって前記トラニオン軸が中立状態に操作された場合には、前記無段階変速装置の中立状態を保持するとともに、前記変速操作具を介した前記無段階変速装置の変速操作を規制するように構成され、前記制御部は、前記変速操作具による変速操作が規制された場合には、前記変速操作具を中立位置に戻すことによって、前記変速操作具による変速操作の規制が解除されるように構成されたことを特徴としている。
【0009】
第4に、前記制御部は、前記変速操作具によって無段階変速する場合には、前記変速操作具の操作量に応じて前記無段階変速装置を変速する通常モードと、該通常モードよりも前記変速操作具によって操作可能な変速量が少ない低速モードとに切換えることができるように構成されたことを特徴としている。
【0010】
第5に、前記制御部は、前記変速操作具の中立位置からの操作量が少ないほど、前記アクチュエータを介して操作される前記トラニオン軸の動作速度を遅くするように構成されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
前記変速操作具を、自動的に中立位置に復帰するように構成するとともに、前記制御部を、前記変速操作具を前進側又は後進側に所定時間以上操作された場合には操作方向に応じて前記無段階変速装置を無段階変速する一方で、前記変速操作具の前進側又は後進側への操作が所定時間以内であった場合には操作位置に応じて前記無段階変速装置を有段階変速するように構成したことにより、単一の前記変速操作具だけで、前記無段階変速装置の無段階増減速による前後進と、有段階増減速による前後進とを操作することができるため、操作性がより向上する。
【0012】
また、前記変速操作具によって無段階変速する場合には、前記変速操作具の中立位置からの操作量に応じて、前記アクチュエータを介して操作される前記トラニオン軸の動作速度を増減するように構成されたものによれば、機械的な構成で前記無段階変速装置を操作する場合と同様の操作感で直感的に前記走行機体の増減速を操作することができる。
【0013】
また、前記制御部は、前記変速操作具による無段階変速操作によって前記トラニオン軸が中立状態に操作された場合には、前記無段階変速装置の中立状態を保持するとともに、前記変速操作具を介した前記無段階変速装置の変速操作を規制するように構成され、前記制御部は、前記変速操作具による変速操作が規制された場合には、前記変速操作具を中立位置に戻すことによって、前記変速操作具による変速操作の規制が解除されるように構成されたものによれば、前記変速操作具の操作によって前記走行機体が停止した場合には、前記変速操作具が中立位置から前進側又は後進側に操作されていたとしても停止し、前記変速操作具を一旦中立状態にするまでは前記走行機体を前後進させることができないため安全性がより向上する。
【0014】
また、前記制御部は、前記変速操作具の操作量に応じて前記無段階変速装置を変速する通常モードと、該通常モードよりも前記変速操作具によって操作可能な変速量が少ない低速モードとに切換えることができるように構成されたものによれば、前記変速操作具による増減速をより低速域で操作することができるようになるため、作業走行時や荷物の積み上げ、積み下ろし作業等、低速での速度コントロールが必要な作業をよりスムーズ且つ容易に行うことができる。
【0015】
なお、前記制御部は、前記変速操作具の中立位置からの操作量が少ないほど、前記アクチュエータを介して操作される前記トラニオン軸の動作速度を遅くするように構成されたものによれば、前記走行機体の速度をより細かく調整することができるため、操作性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の作業車両を適用した乗用田植機(移植機)の全体平面図である。
図2】本発明の作業車両を適用した乗用田植機(移植機)の全体側面図である。
図3】操舵機構及びHST制御機構を示した要部側面図である。
図4】操舵機構及びHST制御機構を示した要部前方斜視図である。
図5】操舵機構及びHST制御機構を示した要部後方斜視図である。
図6】走行HSTを操作する操作アームを示した要部拡大図である。
図7】(A)及び(B)は、ブレーキ操作具の操作前と、操作中のブレーキ操作連係機構を示した要部側面図である。
図8】制御部のブロック図である。
図9】(A)は、変速レバーを無段階変速操作した際の車速を示した図であり、(B)は、変速レバーを有段階変速操作した際の車速を示した図であり、(C)は、通常モード時と低速モード時の車速の違いを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1及び図2は、本発明の作業車両を適用した乗用田植機(移植機)の全体側面図及び全体平面図である。本乗用田植機は、左右一対の前輪1,1及び後輪2,2によって支持される走行機体3と、前記走行機体3の後方に昇降リンク4を介して昇降自在に連結された植付作業機6とを備えている。
【0018】
前記走行機体を支持する機体フレーム8は、前方にボンネット9で囲繞されたエンジン(図示しない)と、前記エンジンから入力されたエンジン動力を無段階で変速する走行HST(油圧式無段階変速装置、油圧式変速装置)10と、前記走行HST10から出力された動力が入力されるミッションケース11とを備え、前記エンジンの後方側には、オペレータ(作業者)が乗込んで操向操作等を行う操縦部7が設けられている。
【0019】
前記操縦部7は、オペレータが着座する座席12と、後述する操舵機構20を介して前記走行機体3(前輪1)の操向操作を行うステアリングハンドル13と、前記ステアリングハンドル13の左右一方側に設けられて少なくとも前後揺動操作される主変速レバー(変速操作具、前後進切換レバー)14と、前記走行機体3のギヤ変速を操作する副変速レバー16と、前記ステアリングハンドル13の下側のフロアステップ17と、該フロアステップの17の前側に踏込み操作可能に設けられて前記走行機体3のブレーキ作動(制動)を操作するブレーキペダル(手動操作具)18とが配置されている。
【0020】
上記主変速レバー14は、上端側の把持部にオペレータが握った状態で押操作可能に配置されたスイッチ操作具14aが設けられている。該スイッチ操作具14aは、前記主変速レバー14により操作される前記走行機体3の変速量を少なくする低速モードに切換える切換スイッチ(切換操作具)である。詳しくは後述する。
【0021】
また、上記主変速レバー14は、若干前方傾斜した基本位置(中立位置)から前後揺動可能に構成されるとともに、該主変速レバーの前後揺動操作が解除されると自動的に中立位置に復帰するように構成されている(図3等参照)。
【0022】
また、上記主変速レバー14は、操作位置検出ポテンショ(操作位置検出手段、操作位置検出センサ)46によって前後方向の揺動操作位置が検出可能に構成されている。また、該主変速レバー14は、後述する制御部50を介して前記走行HST10(を変速操作するトラニオン軸35)を制御するHST制御機構30を操作することにより、前記走行機体3の前進状態と、停止状態と、後進状態とを切換えることができるように構成されている。前記HST制御機構30の具体的な構成については後述する。
【0023】
具体的に説明すると、前記制御部50は、前記主変速レバー14が中立位置に操作された場合には前記走行HST10を中立状態に切換え、前記主変速レバー14が中立位置から前方揺動した前進位置に操作された場合には、操作量に応じて前記走行HST10を前進側に変速した前進状態に切換え、前記主変速レバー14が中立位置から後方揺動した後進位置に操作された場合には、操作量に応じて前記走行HST10を後進側に変速した後進状態に切換えるHST制御が実行可能に構成されている。前記HST制御については後述する。
【0024】
上記ブレーキペダル18は、オペレータが踏込み操作を行う踏板部18aと、該踏板部18aから下方及び後方に向けてU字状に延設された棒状の延設部18bと、該延設部18bの後端側を前記フロアステップの下方に配置された左右方向の支持軸15に軸支する軸支部18cとを有し、前記踏板部18aが情報揺動された初期位置に付勢されている(図5等参照)。なお、前記ブレーキペダル18(の軸支部18c)には、前記HST制御機構30を介して、前記走行HST10をニュートラル状態(中立状態)へと切換操作するブレーキ操作連係機構40が設けられている。詳しくは後述する。
【0025】
前記植付作業機6は、圃場へ植付けられる苗が載置される苗載台22と、該苗載台22に載置された苗の圃場への植付作業を実行する植付部23とを有し、前記昇降シリンダ4を介して前記走行機体3に対して昇降作動されるとともに、前記エンジンから伝動された動力が植付クラッチ(図示しない)を介して断続伝動される。
【0026】
次に、図3乃至6に基づき、前記操舵機構と、前記HST制御機構について説明する。図3乃至5は、操舵機構及びHST制御機構を示した要部側面図、要部前方斜視図及び、要部後方斜視図であり、図6は、走行HSTを操作する操作アームを示した要部拡大図である。
【0027】
前記操舵機構20は、上下方向に延設された前記ステアリング軸と、エンジン動力を各部に変速する変速ギヤが内装されて左右の前輪1,1の間に配置された前記ミッションケース11と、該ミッションケース11の下面側で左右揺動自在に支持されたピットマンアーム(図示しない)と、前記ステアリング軸19の下方側で且つ前記ミッションケース11の上面側に配置されるパワーステアリング装置32と、前記ステアリング軸19が挿通された筒状のステアリングコラム31とを備え、前記パワーステアリング装置32の上部側には、上方が開放されたコ字状に形成された支持ブラケット33が設けられている。
【0028】
前記HST制御機構30は、前記支持ブラケット33の左側面と右側面とを左右方向に貫通するようにして支持される支持軸36と、前記支持軸36を軸に上下方向に揺動可能に取付けられるとともに前記支持ブラケット33の左側面外側に配置された揺動アーム37と、前記走行HST10を変速操作するトラニオン軸35と一体回動するように軸支された操作アーム38と、上端側が前記揺動アーム37側に連結されて下端側が前記操作アーム38側に連結された上下方向の操作ロッド39と、後述するクラッチ41を介して前記支持軸36を軸回転可能に設置されるモータ42と、前記制御部50とを備え、前記支持軸36の左端側には、トルクリミッタ式の前記クラッチ41が設けられている(図3乃至5等参照)。
【0029】
なお、前記HST制御機構30は、前記ブレーキペダル18を介して前記走行HST10を手動操作するブレーキ操作連係機構40が設けられており、前記走行HST10をオペレータによる手動操作によって直接操作することもできるように構成されている。該ブレーキ操作連係機構40の具体的な構成については後述する。
【0030】
該構成によれば、前記HST制御機構30は、前記モータ42の駆動力によって前記支持軸36を軸回転させ、該支持軸36の軸回転によって前記揺動アーム37を上下揺動させ、前記揺動アーム37の上下揺動作動によって前記操作ロッド39を上下移動させ、前記操作ロッド39の上下移動によって、前記トラニオン軸35を操作する前記操作アーム38の操作位置を操作することができるように構成されている(図4乃至6等参照)。
【0031】
このとき、前記操作アーム38側には、前記操作アーム38の操作位置を検出する操作アーム検出ポテンショ47が設けられており、前記制御部50は、前記操作アーム38の操作位置を検出することによって、前記走行HST10の変速状態を確認することができるように構成されている(図6等参照)。
【0032】
上述の構成によれば、前記制御部50は、前記操作位置検出ポテンショ46により検出された前記主変速レバー14の前後揺動操作と、前記操作アーム検出ポテンショ47により検出された現在の前記走行機体3(走行HST10)の変速状態とに基づいて、前記モータ42の駆動を制御することにより、前記HST変速制御が実行可能に構成されている。
【0033】
前記クラッチ41は、前記支持ブラケット33の左側面外側で、前記支持軸36と一体回転するように該支持軸36の左端側に設けられており、前記モータ42の出力ギヤ42aと噛合うことによって前記支持軸36回りに空転する駆動ギヤ41Aと、該駆動ギヤ41Aと前記支持軸36との間で動力の伝動を断続するトルクリミッタ式のクラッチ部41Bと、前記クラッチ部41Bを前記駆動ギヤ41A側に付勢する弾性部材(付勢部材)41Cとを有している(図3等参照)。
【0034】
これにより、前記クラッチ41は、前記支持軸36(駆動ギヤ41A)が前記モータ42の駆動力(弾性部材の付勢力)よりも強いトルクで軸回転した場合に、前記モータ42と前記支持軸36との間の動力伝動が切断されるように構成されている。
【0035】
言い換えると、前記クラッチ41は、前記モータ42が駆動した場合には、前記支持軸36を介して前記揺動アーム37(操作アーム38)を操作することができる一方で、前記ブレーキ操作連係機構40を介して、前記支持軸36(操作アーム37)側が、前記モータ42の駆動力よりも大きな力(トルク)で操作された場合には、該操作力が前記モータ42に伝動することを防止することができるように構成されている。
【0036】
さらに具体的に説明すると、前記クラッチ41の伝動上流側は、前記モータ42が配置される一方で、前記クラッチ41の伝動下流側には、前記支持軸36→前記揺動アーム37→前記操作ロッド39→前記操作アーム38→前記トラニオン軸35の順番で動力が伝わって前記走行HST10と連係する。なお、後述する前記ブレーキ操作連係機構40は、前記ブレーキペダル18を踏込み操作した操作力によって前記支持軸36を操作することによって、前記トラニオン軸35を中立状態に操作する。
【0037】
次に、図3乃至7に基づき、前記ブレーキ操作連係機構の構成について具体的に説明する。図7(A)及び(B)は、ブレーキ操作具の操作前と、操作中のブレーキ操作連係機構を示した要部側面図である。
【0038】
前記ブレーキ操作連係機構40は、前記ブレーキペダルの軸支部18cに設けられた揺動片51と、前記揺動片51から前方に延設されて前記ブレーキペダル18の操作に応じて前後方向に押引き操作される連係ロッド52と、前記連係ロッド52の前端側に連結されて前後揺動する第1連係アーム53と、前記第1連係アーム53の揺動操作に応じて上下方向に揺動する第2連係アーム54と、前記第1連係アームと前記第2連係アーム54とを軸支する連係アーム支持軸56と、前記支持軸36の右端側で該支持軸36と一体回動する菱形状のブレーキ操作連係アーム57と、前記ブレーキ操作連係アーム57の前端側と前記第2連係アーム54とを連係させる上下方向の第1連係部材58と、前記ブレーキ操作連係アーム57の後端側と前記第2連係アーム54とを連係させる上下方向の第2連係部材59とを備えている(図7等参照)。
【0039】
上記第1連係部材58の上端側と、上記第2連係部材の上端側とは、上下方向に沿った長孔である融通孔58a、59aが形成されており、該融通孔58a、59aを介して、上記ブレーキ操作連係アーム57の前後端側とそれぞれ連結されている(図7(A)参照)。
【0040】
このとき、各融通孔58a、59aは、前記ブレーキペダル18が踏込み操作されていない状態(図7(A)参照)で、前記モータ42を介して前記支持軸36が軸回転操作された場合には、前記ブレーキ操作連係アーム57が、前記融通孔58a、59aの範囲内で揺動するように構成されている。
【0041】
その一方で、各融通孔58a、59aは、前記ブレーキペダル18が踏込み操作された状態(図7(B)参照)場合には、前記ブレーキペダル18→前記揺動片51→前記連係ロッド52→前記第1連係アーム53→前記連係アーム支持軸56→前記第2連係アーム54→前記第1連係部材58→前記ブレーキ操作連係アーム57の順番で連係することによって、前記支持軸36を所定方向に軸回転させることができるように構成されている。
【0042】
これにより、前記ブレーキ操作連係機構40(と前記HST制御機構30)は、前記ブレーキペダル18の踏込み操作によって、前記走行HST10を中立状態に変速操作することができるように構成されている。
【0043】
該構成により、前記ブレーキ操作連係機構40は、前記ブレーキペダル18が踏込み操作された場合には、前記制御部50によって制御される前記モータ42の駆動状態に関わらず、前記走行HST10を強制的に中立状態(停止状態)に操作して前記走行機体3をより確実に停車させることができる。
【0044】
ちなみに、前記ブレーキペダル18が踏込み操作されたことによって、前記ブレーキ操作連係機構40を介して、前記支持軸36(走行HST10)が操作された場合には、前記クラッチ41によって、前記支持軸36の軸回転が前記モータ42側に伝動することを確実に防止することができる。これにより、オペレータによるブレーキ操作(手動操作)によって前記走行HST10を強制的に変速操作した場合に、前記モータ42を無理やり回転駆動させることがないため、前記モータ42に不要の負荷を掛けて故障する事態を防止することができる。
【0045】
次に、図8及び図9に基づき、前記制御部によるHST変速制御の制御内容について説明する。図8は、制御部のブロック図であり、図9(A)は、変速レバーを前進又は後進側への無段階変速操作と復帰操作と減速操作をした際の車速を示した図であり、図9(B)は、変速レバーを前進又は後進側に有段階変速操作した際の車速を示した図であり、図9(C)は、通常モード時と低速モード時の車速の違いを示した図である。
【0046】
前記制御部50の入力側には、前記主変速レバー14の操作位置を検出する前記操作位置検出ポテンショ46と、前記操作アーム38(トラニオン軸35)の操作位置を検出する検出ポテンショ(操作アーム検出ポテンショ)47と、前記スイッチ操作具14aとが接続されており、前記制御部50の出力側には、前記モータ42が接続されている(図8参照)。また、該制御部50はタイマーを有しており、前記主変速レバー14を揺動操作している操作時間を検出することができるように構成されている。
【0047】
上記操作位置検出ポテンショ47は、前記主変速レバー14の操作位置として、具体的には主変速レバー14の操作方向(前進位置側又は後進位置側)と、中立位置からの操作量と、前記主変速レバー14を揺動操作した際の操作速度(軸部の角速度)とを検出可能に構成される。また、前記タイマー等を用いて中立位置に向けて付勢される前記主変速レバー14を揺動操作した際の操作時間も検出できるように構成されている。
【0048】
前記制御部50によるHST変速制御は、前記主変速レバー14が中立位置から前進位置又は後進位置に向けて、予め設定した所定時間以上の揺動操作(以下、無段階変速操作)が検出された場合には、前記主変速レバー14の操作位置に応じて前記走行HST10を前進側又は後進側に無段階変速するように構成し(図9(A)の(1)を参照)、この後、前記主変速レバー14が中立位置に戻す操作(復帰操作)が検出された場合には、該復帰操作を検出した時点での走行速度を維持するように構成した(図9(A)の(2)を参照)。
【0049】
具体的に説明すると、前記主変速レバー14の前進方向への無段階変速操作が検出された際に、前記走行HST10が中立状態である場合には、前記走行機体3が前記主変速レバー14の操作方向に応じた方向で且つ、主変速レバー14の操作位置(中立位置からの操作量)に応じた走行速度に向けて無段階で増速(又は減速)するように前記走行HST10(トラニオン軸35)を変速制御する。
【0050】
ちなみに、前記主変速レバー14を前記走行機体3の進行方向と逆方向への無段階変速操作(無段階減速操作)された場合には、前記走行HST10を無段階で減速させる(図9(A)の(3)参照)。
【0051】
これに対し、前記制御部50は、上記の無段階減速操作によって、前記走行HST10が前進状態又は後進状態から中立状態に操作されて前記走行機体3が停止した場合には、前記主変速レバー14が前進位置側又は後進位置側への操作が維持されていても、前記走行HST10を前記主変速レバー14の操作位置に応じて前進側又は後進側への変速することを規制するように構成されている。
【0052】
この場合、前記制御部50は、前記主変速レバー14の中立位置への復帰操作が検出された場合には、前記主変速レバー14によって前記走行HST10が中立状態から前進側又は後進側へ変速操作することを規制する状態が解除されるように構成されている。
【0053】
該構成によれば、前記主変速レバー14の無段階変速操作によって減速操作をした場合に、前記走行機体3が停車してすぐ逆方向に走行を開始する事態を確実に防止できるため、安全性が向上する。
【0054】
その一方で、前記HST変速制御は、前記主変速レバー14の前後揺動操作が所定時間より短い時間で中立位置に戻された操作(以下、有段変速操作)が検出された場合には、前記主変速レバー14の操作方向に応じて前記走行HST10を有段階変速するように構成されている(図9(B)参照)。
【0055】
具体的に説明すると、前記走行HST10が中立状態又は前進状態で、前記主変速レバー14の前進方向への有段変速操作(有段増速操作)がされた場合には、前記走行HST10を前進方向に予め設定された増速幅で増速する(図9(B)の(4)参照)。なお、前記走行HST10が後進状態で、前記主変速レバー14の前進方向への有段変速操作(有段減速操作)がされた場合には、前記走行HST10を予め設定された減速幅で減速する(図9(B)の(5)参照)。
【0056】
同様に、前記走行HST10が中立状態又は後進状態で、前記主変速レバー14の後進方向への有段変速操作(有段増速操作)がされた場合には、前記走行HST10を後進方向に予め設定された増速幅で増速する(図9(B)の(4)参照)。なお、前記走行HST10が前進状態で、前記主変速レバー14の後進方向への有段変速操作(有段減速操作)がされた場合には、前記走行HST10を予め設定された減速幅で減速する(図9(B)の(5)参照)。
【0057】
該構成によれば、単一の前記主変速レバー14によって前記走行機体3(走行HST10)の無段階変速操作と、有段階変速操作を使い分けることができるため、操作性が向上する。
【0058】
また、前記HST変速制御は、前記走行機体3が後進走行している最中に、前記主変速レバー14が前端側操作位置まで前方揺動操作されたこと(後進停車操作)が検出された場合には、前記走行HST10が後進状態から中立状態へと操作されるとともに、前記走行機体3が前進走行している最中に、前記主変速レバー14が後端側操作位置まで後方揺動操作されたこと(前進停車操作)が検出された場合には、前記走行HST10が前進状態から中立状態へと操作されるように構成した。
【0059】
該構成によれば、前記走行機体3がどのような速度で走行されていた場合であっても、前記主変速レバー14による簡易な一操作(停車操作)で前記走行機体3を安全且つスムーズに停止させることができるため、操作性及び安全性が向上する。
【0060】
また、前記HST変速制御は、前記主変速レバー14を前方揺動操作又は後方揺動操作した際に、前記主変速レバー14の操作位置が中立位置から近ければ近いほど、前記モータ42を介して操作される前記トラニオン軸35の動作速度が遅くなるように構成されている。
【0061】
該構成によれば、前記走行機体3の走行速度の微調整も容易に行うことができる他、前記走行機体3をすぐに停止可能な徐行速度への操作と、徐行速度の維持とを簡易且つスムーズに行うことができるため、作業車両の車庫入れ等の繊細な作業も容易に行うことができる。
【0062】
さらに、前記HST変速制御は、前記スイッチ操作具14aを押操作することによって通常モードから低速モードに切換えることができるように構成されており、低速モードに切換えた状態で、前記主変速レバー14の前後揺動操作を行うことにより、前記主変速レバー14の操作位置に応じて変速される前記走行HST10の変速域を通常モード時よりも小さくすることができる(図9(C)参照)。
【0063】
該構成によれば、低速モードに切換えた状態で前記主変速レバー14を操作することにより、同じ操作範囲でも前記走行機体の車速を操作可能な速度域が狭くなるため車速が出なくなる一方で細かい速度調整がより容易になる。このため、圃場での作業走行時に車速が速くなり過ぎることを防止できるとともに、所望の作業走行速度への調整操作もよりスムーズ且つ容易に行うことができるようになる。
【符号の説明】
【0064】
2 走行機体
7 操縦部
10 走行HST(油圧式無段階変速装置、無段階変速装置)
14 変速レバー(変速操作具)
35 トラニオン軸
42 モータ(アクチュエータ)
50 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9