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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154752
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】アルミニウムクラッド材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 1/38 20060101AFI20221005BHJP
   B23K 20/04 20060101ALI20221005BHJP
   B21B 3/00 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
B21B1/38 L
B23K20/04 A
B21B3/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057936
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】波照間 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】吉井 章
(72)【発明者】
【氏名】福増 秀彰
【テーマコード(参考)】
4E002
4E167
【Fターム(参考)】
4E002AA08
4E002AD01
4E002AD12
4E002BC05
4E002BC07
4E002BD07
4E002CA08
4E002CB01
4E167AA06
4E167BC03
4E167BC06
(57)【要約】
【課題】本発明は、アルミニウムクラッド材の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明に係るアルミニウムクラッド材の製造方法は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる心材と皮材を積層し、熱間圧延により前記心材と前記皮材の界面を接合してクラッド材を得るアルミニウムクラッド材の製造方法であり、前記心材と前記皮材の強度比(心材強度/皮材強度)が0.9以上、3.0以下であり、熱間圧延時の初回圧延パスにおける心材及び皮材の温度が420℃以上、520℃以下であり、圧下率上限を以下の(1)式で表される値、圧下率下限を以下の(2)式で示される値に設定して前記圧下率上限と前記圧下率下限で規定される範囲内で圧延することを特徴とする。
圧下率上限={クラッド率/(-0.625×強度比+5.5625)}% …(1)式、圧下率下限=(クラッド率/20)% …(2)式
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる心材と皮材を積層し、熱間圧延により前記心材と前記皮材の界面を接合してクラッド材を得るアルミニウムクラッド材の製造方法であり、
前記心材と前記皮材の強度比(心材強度/皮材強度)が0.9以上、3.0以下であり、熱間圧延時の初回圧延パスにおける心材及び皮材の温度が420℃以上、520℃以下であり、圧下率上限を以下の(1)式で表される値、圧下率下限を以下の(2)式で示される値に設定して前記圧下率上限と前記圧下率下限で規定される範囲内で圧延することを特徴とするアルミニウムクラッド材の製造方法。
圧下率上限={クラッド率/(-0.625×強度比+5.5625)}% …(1)式
圧下率下限=(クラッド率/20)% …(2)式
但し、前記クラッド率は、総板厚に対する皮材のクラッド率を意味する。
【請求項2】
前記クラッド率が10%以上、25%以下であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウムクラッド材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムクラッド材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クラッド材は熱間圧延にて複数回の圧着圧延により皮材と心材を接合し、その後、本圧延が行われる。しかし、圧着圧延時の接合が不十分な場合、強度の低い側の層が主に伸ばされ、強度の高い側の層が伸ばされない結果、クラッド率が目的の範囲にならず、接合不良を生じるなど、生産性、品質が低下する問題がある。
【0003】
特に圧着圧延初期は心材と皮材をただ積層したのみで、両者が接合していない状態のため、生産性、品質に与える影響が大きい。近年、クラッド材は、高機能化が更に進み、多種多様な組み合わせが求められるようになってきている。このため、圧着圧延が複雑化し、作業時間の増加による生産性の低下、接合不十分による品質不良を招くようになり、高機能なクラッド材では心材と皮材を接合できず製品化に至らない状況が生じている。
【0004】
クラッド材の熱間圧延では、初期段階において、重ね合わせた心材と皮材の界面を接合し、その後、板厚を減少させる熱間圧延に移行する。従って、心材と皮材の界面が充分に接合するまでは、心材と皮材がお互いの変形を拘束する効果が小さいことから、強度差による伸び量の違いが生じやすいと考えられる。
【0005】
以下の特許文献1には、操業上のトラブル等により圧延材の温度が変動しても、層界面での圧着の促進を図り、層界面での剥離を防止できる適正圧下量を算出するクラッド材の圧延方法が記載されている。
特許文献1に記載の技術では、アルミニウム合金板材を積層して熱間圧延により界面を接合する方法であって、剥離を生じない界面接合強度の指標となる臨界最大せん断応力τ(limit)を予め算出し、熱間圧延のパス毎に、圧延材の表面温度を測定し、この測定した表面温度に基づいて算出した圧延材の内部温度を考慮し、界面に作用する最大せん断応力τを数値解析により予測する。次に、この予測した最大せん断応力τが前記臨界最大せん断応力τ(limit)を超えないように圧延パス毎の圧下率または圧下量を決定することにより、層界面に剥離を生じていないアルミニウムクラッド材を製造できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4871190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術では、クラッド材の板厚方向の変形抵抗分を与える場合、有限要素法などの数値解析によりクラッド界面に作用するせん断応力をクラッド材毎に表面温度、中心温度、圧下率を変数とする関数として求め、最大のせん断応力をクラッド材質ごとにテーブル値化して保有し、比較しながら圧延している。
【0008】
しかしながら、近年、クラッド材の心材と皮材の組み合わせは多種多様になってきているので、心材と皮材の強度差も多種多様になってきている。このため、表面温度や圧下率を変数として数値解析により最大のせん断応力を求めて比較する従来技術では、多種多様な強度差の心材と皮材の組み合わせとするクラッド材の場合に、十分に対応できない場合があると考えられる。
【0009】
アルミニウムクラッド材を圧延する際、心材と皮材の接合が不十分であると、各層の伸びの差による端部のズレ、圧延中の剥離、気泡巻き込み等、重大な問題が発生する結果、安定した生産が行えない課題がある。
心材と皮材の接合は、心材、皮材の界面に適度な歪を導入し、新生面(酸化被膜が剥離・破壊された状況)を発生させ、その新生面同士を拡散接合することによりなされる。
近年アルミニウムクラッド材の機能を向上させるため、各種組成のクラッド材が提案されており、心材と皮材の強度差は多種多様になってきた。そのため、十分な接合を得ることがこれまで以上に困難になり、生産性、品質の低下を招くことが多くなってきている。
【0010】
本願発明は、実際に多種多様な強度の組み合わせによる心材と皮材からなるクラッド材を製造する場合において、圧着圧延を良好に行うことができ、心材と皮材の接合性が良好であり、かつ機能性を向上させたクラッド材を確実に得ることができるアルミニウムクラッド材の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、アルミニウムクラッド材の接合方法について各種検討を繰り返した結果、圧着圧延の初回圧延パスの圧下率が、圧延前の皮材のクラッド率と心材、皮材の強度比により最適化されることを見出した。この最適化により、高機能を有するアルミニウムクラッド材の生産が可能となる。
【0012】
(1)本形態に係るアルミニウムクラッド材の製造方法は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる心材と皮材を積層し、熱間圧延により前記心材と前記皮材の界面を接合してクラッド材を得るアルミニウムクラッド材の製造方法であり、前記心材と前記皮材の強度比(心材強度/皮材強度)が0.9以上、3.0以下の場合における熱間圧延時の初回圧延パスの温度が420℃以上、520℃以下であり、圧下率上限を以下の(1)式で表される値、圧下率下限を以下の(2)式で示される値に設定し、前記圧下率上限と前記圧下率下限で規定される範囲内で圧延することを特徴とする。
圧下率上限={クラッド率/(-0.625×強度比+5.5625)}% …(1)式
圧下率下限=(クラッド率/20)% …(2)式
但し、前記クラッド率は、総板厚に対する皮材のクラッド率を意味する。
【0013】
(2)本形態に係るアルミニウムクラッド材の製造方法において、前記クラッド率を10%以上、25%以下とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、強度が異なり、熱間圧延時に伸びが異なる心材と皮材を用いて熱間圧延によりクラッド材を製造した場合であっても、心材と皮材の良好な接合状態のクラッド材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施に用いる熱間圧延装置の一例を示す構成図である。
図2】実施例において得られたアルミニウムクラッド材の試験片に対し切欠加工により2つの凹部を形成し、凹部間に策定した引張試験用の評価面を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に基づき、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。
図1は、本実施形態に係るアルミニウムクラッド材の製造方法を実施する場合に用いる熱間圧延装置の一例を示す構成図である。
この熱間圧延装置10は、上下に一対の圧延ロール11と、これら圧延ロール11の背部に接触するように設けられた大径のバックアップロール12を備えた、いわゆる4段圧延機を構成している。各圧延ロール11は、圧延ロール回転駆動モータ13によりそれぞれ正逆両方向に回転駆動される。また、熱間圧延装置10の入口側と出口側の前後に圧延材を搬送するための複数のローラ20aを備えたテーブルロール20がそれぞれ設けられている。
【0017】
熱間圧延装置10において、上側のバックアップロール12には、これを押圧する圧下用スクリュー14A、及びこの圧下用スクリュー14Aを移動させて圧延ロール11間の距離を設定する位置制御モータ14B等からなる圧下手段14が設けられている。また、下側のバックアップロール12には、圧延ロール11から素材への圧延荷重を検出するロードセル等の圧延荷重検出手段15が設けられている。
【0018】
両圧延ロール11の近傍には、クーラント(圧延油)を供給するクーラント吐出手段16が設けられている。
圧延ロール11の圧延ロール回転駆動モータ13には、圧延ロール回転検出器13Aが備えられている。圧下用スクリュー14Aの位置制御モータ14Bにはロールギャップ位置検出器14C、テーブルロール20の図示略のローラ駆動モータ21にはローラ回転検出器21Aが、それぞれ備えられている。図1中、符号17はストリッパーガイドを示しており、圧延ロール11の前後に設けられている。
【0019】
以上のように構成された熱間圧延装置10を用いてアルミニウムクラッド材を製造するクラッド圧延方法について説明する。クラッド圧延は、予め所定の厚さに製造された心材30a及び皮材30bを重ねた合わせ材30を圧延することにより、心材30aと皮材30bを接合してクラッド材を製造する方法である。なお、合わせ材30は、心材30aの片面または両面に対して皮材30bを1層以上重ねたものであってもよいが、図1では1層の皮材30bを心材30aの片面にのみ重ねたものを例示している。
本実施形態において心材30a及び皮材30bはいずれもアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。心材30a及び皮材30bは組成同一のアルミニウムまたはアルミニウム合金から形成されていてもよく、組成の異なる別種のアルミニウム合金から構成されていても良い。
また、本実施形態において用いる図1に示す熱間圧延装置10は1つの例であって、熱間圧延を実施できる圧延装置であれば、一般的ないずれの構成の熱間圧延装置を用いても良い。
【0020】
合わせ材30は、例えば300~650mmの厚さを有している。この合わせ材30を加熱炉(図示略)で圧着可能な温度(例えば420~520℃)に加熱し、熱間圧延装置10に送り込む。熱間圧延装置10では、設定されたパススケジュールにしたがって圧延ロール11間のギャップを徐々に減少させながら両圧延ロール11間に合わせ材30を複数回通過させて圧延する圧着パスを行う。
【0021】
各圧着パスの圧延ロール11の間隔や圧延ロール11の回転方向及び回転速度、圧延荷重、テーブルロール20の搬送速度等の目標値は、心材30aと皮材30bの組み合わせパターンに応じて、パススケジュールとしてあらかじめ設定されている。この目標値に基づき、位置制御モータ14B、圧延ロール11の圧延ロール回転駆動モータ13、圧下用スクリュー14A、テーブルロール20のローラ駆動モータ21等が、圧延速度及びロールギャップ値等の出力値のフィードバックに応じて制御される。
【0022】
圧着パスにおいては、まず、圧延ロール11間を当該圧着パスのロールギャップに設定して、その圧延ロール11間に合わせ材30を送り込む。合わせ材30が圧延ロール11間に噛み込まれると、圧延が開始される。合わせ材30が圧延ロール11間から抜け出したら、パススケジュールに従い、圧延ロール11及びテーブルロール20を逆転させて圧延ロール11への送り方向を変えて、次の圧着パスが実行される。
【0023】
以上説明した初回パス(1パス目)の熱間圧延により合わせ材30の全長にわたり熱間圧延を行って心材30aに対し皮材30bを密着させ、この後、必要回数パスの熱間圧延を施して目的の厚さのアルミニウムクラッド材を得ることができる。
上述の1パス目の熱間圧延により得られる心材31aと皮材31bからなるアルミニウムクラッド材31において、心材31aと皮材31bが十分に密着していることが重要である。初回パスの熱間圧延後の心材31aと皮材31bの密着性が後工程の必要回数パスにおける熱間圧延の仕上がり品質に大きな影響を及ぼす。
【0024】
本実施形態では、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる心材30aと皮材30bを積層し、熱間圧延により心材31aと皮材31bの界面を接合したクラッド材31を得るクラッド材の製造方法において、心材30aと皮材30bの強度比(心材強度/皮材強度)が0.9以上、3.0以下の場合における熱間圧延時の初回圧延パスの温度を420℃以上、520℃以下に設定する。
また、圧下率上限を以下の(1)式で表される値、圧下率下限を以下の(2)式で示される値に設定して前記圧下率上限と前記圧下率下限の範囲で圧延する。
圧下率上限={クラッド率/(-0.625×強度比+5.5625)}% …(1)式
圧下率下限=(クラッド率/20)% …(2)式
但し、前記クラッド率は、総板厚に対する皮材のクラッド率を意味する。
これら(1)式と(2)式に示される関係は、種々の強度比の心材と皮材を備えた合わせ材を多数実際に熱間圧延し、それらの圧延結果の解析から得られた関係に基づき設定されたものである。
【0025】
「心材と皮材の強度比:0.9以上、3.0以下」
心材30aと皮材30bの強度比は、0.9以上、3.0以下とする。心材30aと皮材30bの強度比が0.9未満では初回パスでの両者の接合が難しくなり、十分な接合状態が得られない。前記強度比が3.0を超えるようであると皮材30bが心材30aに対し柔らか過ぎて心材30aに対し皮材30bの伸び量が大きくなる。この場合、心材30aと皮材30bを接合することはできるが、著しく伸びた皮材30bの端部が心材30aの端部から脱落し、テーブルロール20の上に落下するおそれがある。テーブルロール20の上に皮材30bの一部が落下すると、テーブルロール20の上で合わせ材30の移動の障害となるおそれがある。あるいは、テーブルロール20の上を移動中の合わせ材30が脱落した皮材に乗り上げると、合わせ材30が上下の圧延ロール11、11の間の規定位置に導入されなくなるおそれもある。
【0026】
強度比(心材強度/皮材強度)は、心材と皮材の圧延温度時の強度より算出した。心材と皮材の強度は高温引張試験により測定した。高温引張試験の試験片は、直径φ5mm、長さ15mmの平行部を有する丸棒試験片を用いた。
赤外線加熱装置を備えた引張試験機に常温の前記丸棒試験片を取り付け、前記赤外線加熱装置を用いて、試験温度(圧延温度)-30℃に到達するまで昇温速度50℃/minで昇温させ、その後、試験温度に到達するまで昇温速度10℃/minで昇温し、試験温度に到達後、同温度にて5min保持し、その直後、クロスヘッド速度15mm/secで引張試験を実施し、破断までに発生した最大引張荷重を丸棒試験片平行部の初期断面積で除して求めた最大公称引張応力を、被評価材の試験温度における強度とした。
【0027】
「熱間圧延時の初回パスにおける心材及び皮材の温度:420℃以上、520℃以下」
熱間圧延する場合の初回パスにおける心材及び皮材の温度は良好な接合率を得るために420℃以上、520℃以下に設定する必要がある。熱間圧延時の初回パスの温度を420℃未満とすると、心材30aと皮材30bの接合強度が十分ではなくなり、また、複数回の圧延パスを繰り返すことで温度は低下し、再結晶温度以上での圧延が困難になるおそれがある。熱間圧延時の初回パスの温度を520℃を超える温度とすると、熱間圧延による加工発熱によってアルミニウムあるいはアルミニウム合金の一部が局部溶解し、得られるクラッド材製品の外観、強度等の諸特性が悪化するおそれがある。
【0028】
「圧下率上限と下限」
圧下率の上限は、上述の(1)式に従う。(1)式で示される上限を超える圧下率にすると皮材30bが伸びすぎて上述した皮材の一部落下の問題を生じる。
圧下率の下限は、上述の(2)式に従う。(2)式で示される下限を下回る圧下率では良好な接合状態が得られない。
(1)式と(2)式に従う上限値と下限値の範囲内の圧下率を熱間圧延時の初回パスにおいて採用することで、心材31aと皮材31bが良好な接合性で一体化したアルミニウムクラッド材31を得ることができる。
【実施例0029】
以下の表1~表5に示す圧延温度(℃)と、心材及び皮材の強度比(熱間圧延温度における高温強度比)と、クラッド率(%)と、圧下率(%)に従い、1パスの熱間圧延を行い、両面アルミニウムクラッド材(3層クラッド材)を作製した。なお、皮材は同じ材質、同じ厚さとして、表裏のそれぞれの皮材のクラッド率が、それぞれ表1~表5に示すクラッド率になるようにした。また、各表に前記(1)式による圧下率上限の計算結果と、前記(2)式による圧下率下限の計算結果を示した。
【0030】
得られたアルミニウムクラッド材の心材と皮材の界面の接合強度を評価した。
接合強度の測定方法について述べる。図2に示す接合強度評価用試験片1は、初回圧延パス後のクラッド材の接合界面が板厚中央になるように切り出した(板厚7mm、幅15mm、長さ120mm)。また、得られたアルミニウムクラッド材の試験片について、評価面の長さ方向前後(図2の左右両方)に深さ(図2の上下方向の深さ)3.5mm、幅(図2の紙面奥行き方向の幅)15mm、長さ(図2の左右方向の長さ)10mmの凹部3、凹部4を各々切欠加工により形成することによって、長さ方向中央部に幅15mm、長さ2mmの評価面2を形成した。
【0031】
評価面2を形成した試験片1を引張試験機に取り付け、図2の左右方向に室温にてクロスヘッド速度1mm/minで引張変位を与える引張試験を行い、試験開始から破断までに生じた最大引張荷重を評価面2の初期面積(幅15mm×長さ2mm=30mm)で除して得られた数値を接合強度とした。また、心材及び皮材に対して、JISZ2241に準拠して室温での引張試験を行って得られた引張強さの平均値を求め、得られた値を母材平均強度とした。
接合強度÷母材平均強度×100(%)の計算により母材平均強度に対する接合強度の割合を求め、この割合が20%以上であれば○(接合強度合格)と判断し、20%未満であれば×(接合強度不合格)と判断した。なお、切欠加工を行っている間に評価面で心材と皮材が剥離した試験片は、各表における室温での接合強度の欄に「0」、後述の接合割合が不合格なものには「-」を記入した。
【0032】
得られたアルミニウムクラッド材の圧延後の接合状態の評価は、超音波画像診断装置(インサイト株式会社:超音波探傷装置IS-350)を用いて行った。
超音波画像診断装置を用いた接合状態の評価方法について述べる。初回圧延パス後のクラッド材の接合界面を含むように、超音波画像診断用試験片を切り出した。その際、クラッド材の幅中央、長手中央付近から、幅100mm、長手200mmのサイズで切り出した。超音波画像診断用試験片の厚さ方向の寸法については、超音波画像診断装置への設置が可能となるように適宜切削加工を行いサイズダウンした。その際、超音波の入射を心材側から行うため、心材側の切削面はフライス盤を用いて平坦に仕上げ、切削後の心材の厚さが概ね10mmとなるように調整した。
【0033】
超音波画像診断は水浸探傷法で行い、25МHzの探触子を使用し心材側から試験片に超音波を入射した。試験片のある位置から超音波を入射した場合、当該入射位置における心材の厚さに相当する反射波が確認された場合、当該入射位置の心材と皮材の界面の状態を「未接合」と判断し、一方、当該入射位置における心材の厚さに相当する反射波が確認されず、皮材を含めた当該入射位置における総厚さに相当する反射波が確認された場合、当該入射位置の心材と皮材の界面の状態を「接合」と判断した。
この判断基準に従い、幅100mm、長手200mmの試験片全体の界面の接合状態、界面の未接合状態を確認し、試験片全体に対しての接合割合が50%以上の試料を○(接合割合合格)と判定し、接合割合が50%未満の試料を×(接合割合不合格)と判断し、各表に記載した。
この結果判断において接合割合で50%以上を合格とした理由について説明する。クラッド材を製造する場合、初回パス後に更に目的の板厚になるまで複数回の圧延パスを経るので、複数回の圧延パスの間に接合状態が更に進むと考えられる。ここで、初回パス後の接合割合が50%以上であれば、引き続く圧延パスにおいて心材と皮材の界面の接合強度不足により界面の剥離が発生することを有効に防止でき、皮材の伸びを抑制できるため、初回圧延パスで得られる接合割合として50%以上を合格と定めた。
【0034】
また、得られたアルミニウムクラッド材の各層の板厚を測定し、圧延後クラッド率を求めた。この圧延後クラッド率の値が圧延前の初期クラッド率に対し±2%以内であれば合格(圧延後クラッド率○)、±2%を超えていれば、不合格(圧延後クラッド率×)と判断し、各表に記載した。但し、前記クラッド率は、総板厚に対する皮材のクラッド率を意味する。
【0035】
圧延後クラッド率は、得られたアルミニウムクラッド材について長さ方向14箇所での厚さ測定により位置毎の皮材のクラッド率を求め、これらクラッド率の平均値が圧延前の初期クラッド率に対しどの程度外れているかを示す。クラッド率の平均値は、クラッド材の長手方向を15分割し、長手方向端部(先端部、後端部)を除く14箇所の幅方向中央部を測定した平均値である。
【0036】
総合判定は、接合割合、接合強度、圧延後クラッド率の全てに○の判定結果の場合に○(合格)と判断し、それ以外の場合に×(不合格)と判断した。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
【表5】
【0042】
表1に示す実施例1、2は、心材と皮材の強度比を0.9以上、2.5以下の範囲内、初回圧延パス温度420℃以上、520℃以下の範囲内、先の(1)式で表される圧下率上限と先の(2)式で示される圧下率下限の範囲内で圧延した試料であるが、いずれも、接合割合が良好であり、室温での接合強度も高い。
これらに対し、比較例1、2はこれらの条件の中で強度比のみを上述の望ましい範囲より低くした試料であるが、室温での接合強度が不充分であった。
比較例3~5は、上述の(1)式で示される圧下率上限を超える圧下率で圧延した試料であるが、室温での接合強度が不充分で、圧延後クラッド率の判定も悪くなった。
【0043】
実施例3、4は、実施例1、2に比較し、クラッド率を20%と高くしているが、いずれも、接合割合が良好であり、室温での接合強度も高い。
これらに対し、比較例6は、上述の(2)式で示される圧下率下限を下回る圧下率で圧延した試料であるが、接合割合が悪く、室温での接合強度が不充分となり、圧延後クラッド率の判定も悪くなった。比較例7、8は、上述の(1)式で示される圧下率上限を超える圧下率で圧延した試料であるが、室温での接合強度が不充分となるか、圧延後クラッド率の判定が悪くなった。
実施例5、6は、実施例1~4に比較し、クラッド率のみを25%と高くしているが、いずれも、接合割合が良好であり、室温での接合強度も高い。
これらに対し、比較例9、10は、上述の(2)式で示される圧下率下限を下回る圧下率で圧延した試料であるが、室温での接合強度が不充分となり、圧延後クラッド率の判定も悪くなった。比較例11は、上述の(1)式で示される圧下率上限を超える圧下率で圧延した試料であるが、室温での接合強度が不充分となるか、圧延後クラッド率の判定が悪くなった。
【0044】
実施例7は、実施例1、2に対し圧延温度を520℃と高く設定しているが、いずれも、接合割合が良好であり、室温での接合強度も高い。
比較例12は、上述の(1)式で示される圧下率上限を超える圧下率で圧延した試料であるが、室温での接合強度が不充分となり、圧延後クラッド率の判定が悪くなった。
【0045】
表1~表2に示す実施例8~12は、前述の望ましい範囲内で圧延温度とクラッド率と圧下率を変更しているが、いずれも、接合割合が良好であり、室温での接合強度も高い。
これらに対し、比較例13~17は、上述の(1)式で示される圧下率上限と上述の(2)式で示される圧下率下限の範囲から外れた圧下率の試料であるが、室温での接合強度が不充分となるか、圧延後クラッド率の判定が悪くなった。
【0046】
表2に示す実施例13~15は、前述の望ましい範囲内で圧延温度とクラッド率と圧下率を変更しているが、いずれも、接合割合が良好であり、室温での接合強度も高い。
これらに対し、比較例18~20は、上述の(1)式で示される圧下率上限と上述の(2)式で示される圧下率下限の範囲から外れた圧下率の試料であるが、室温での接合強度が不充分となった。
【0047】
表2~表3に示す実施例16~21は、強度比を1.5に設定し、他の条件は上述の望ましい範囲としているが、いずれも、接合割合が良好であり、室温での接合強度も高い。
表2~表3に示す比較例21~29は、強度比を1.5に設定し、上述の(1)式で示される圧下率上限と上述の(2)式で示される圧下率下限の範囲から外れた圧下率の試料であるが、室温での接合強度が不充分となった。
【0048】
表3に示す実施例22~24は、実施例16~21に対し圧延温度を520℃と高く設定しているが、いずれも、接合割合が良好であり、室温での接合強度も高い。比較例30~32は、上述の(1)式で示される圧下率上限と上述の(2)式で示される圧下率下限の範囲から外れた圧下率の試料であるが、室温での接合強度が不充分となった。
表3に示す実施例25~27は、実施例16~21に対し圧延温度を450℃と低く設定しているが、いずれも、接合割合が良好であり、室温での接合強度も高い。比較例33~35は、上述の(1)式で示される圧下率上限と上述の(2)式で示される圧下率下限の範囲から外れた圧下率の試料であるが、室温での接合強度が不充分となった。
表3に示す実施例28~30は、実施例16~21に対し圧延温度を420℃と低く設定しているが、いずれも、接合割合が良好であり、室温での接合強度も高い。比較例36~38は、上述の(1)式で示される圧下率上限と上述の(2)式で示される圧下率下限の範囲から外れた圧下率の試料であるが、室温での接合強度が不充分となった。
【0049】
表4~表5に示す実施例31~50は、強度比を2.5に設定し、圧延温度と圧下率は望ましい範囲内で種々の値とした例であるが、いずれも、接合割合が良好であり、室温での接合強度も高い。
表4~表5に示す比較例39~50は、強度比を2.5に設定し、圧下率を望ましい範囲から外れる種々の値とした例であるが、室温での接合強度が不充分となるか、圧延後クラッド率の判定が悪くなった。
【0050】
表5に示す実施例51~53は、強度比3.0に設定し、圧延温度と圧下率は望ましい範囲内で種々の値とした例であるが、いずれも、接合割合が良好であり、室温での接合強度も高い。比較例51は上述の(1)式で示される圧下率上限の範囲から外れた圧下率の試料であるが、圧延後のクラッド率判定が悪くなった。
表5に示す比較例52、53は、強度比3.0を超える条件に設定し、圧延温度、圧下率は望ましい範囲とした試料であるが、いずれも室温での接合強度が得られず、圧延後のクラッド率判定も悪くなった。
表5に示す比較例54~57は、圧延温度を望ましい範囲より低い温度である380℃に設定し、強度比、圧下率を望ましい範囲とした試料であるが、いずれも室温での接合強度が得られない。
【0051】
表1~表5に示す実施例と比較例の対比から、心材と皮材の強度比を0.9以上、3.0以下の範囲内、初回圧延パスにおける心材及び皮材の温度420℃以上、520℃以下の範囲内、先の(1)式で表される圧下率上限と先の(2)式で示される圧下率下限の範囲内で圧延することが好ましいことが判った。また、実施例1~53ではいずれもクラッド率を10~25%の範囲としている。
【符号の説明】
【0052】
1…アルミニウムクラッド材、10…熱間圧延装置、11…ワークロール、20…テーブルロール、30…合わせ材、30a…心材、30b…皮材、31…アルミニウムクラッド材、31a…心材、31b…皮材。
図1
図2