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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154755
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】セラック微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/14 20060101AFI20221005BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20221005BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20221005BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
C08J3/14 CFD
A61K8/98
A61Q19/10
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057941
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田村 悠人
【テーマコード(参考)】
4C083
4F070
【Fターム(参考)】
4C083AA071
4C083AA072
4C083CC03
4C083CC23
4C083FF01
4F070AA38
4F070AA47
4F070AA64
4F070AC12
4F070AC18
4F070AC19
4F070AC20
4F070AC36
4F070AE27
4F070AE28
4F070AE30
4F070DA24
4F070DB03
4F070DC02
4F070DC07
4F070DC09
4F070DC16
(57)【要約】
【課題】化粧料や洗顔剤、ボディソープなどのスキンケア用途に適した天然樹脂であるセラック微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】セラックを良溶媒に添加することにより調整したセラック溶液に分散安定剤や界面活性剤を共存させ、貧溶媒を添加して製造されたセラック微粒子とカルシウムイオンを含む溶液に対して、塩基性条件下においてリン酸イオンを含む溶液を添加後、中性条件にすることを特徴とするセラック微粒子の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性条件下において、セラック微粒子およびカルシウムイオンを含む溶液に対して、リン酸イオンを含む溶液を添加する工程を含むことを特徴とするセラック微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記工程の後、中性条件にすることを特徴とする請求項1記載のセラック微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記セラック微粒子が、良溶媒にセラックを添加することによりセラック溶液を調製後、貧溶媒を添加する工程により製造されたことを特徴とする請求項1または2記載のセラック微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微粒子状のセラックを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メチルメタクリレート、スチレン、ナイロン、ウレタンなどを原料して合成され、ナノやマイクロオーダーの粒子径を有する有機微粒子は、伸展性や光拡散性を利用して化粧料用添加剤や、洗顔剤、ボディソープなどのスクラブ剤としてスキンケア用途に用いられるようになっている。
【0003】
化粧料や洗顔剤、ボディソープなどのスキンケア用途においては、使用後に洗浄されて排水として環境中に放出された際、いわゆるマイクロビーズとして生態系に影響を及ぼすとの指摘がある。
また、有機微粒子は石油由来成分が原料となるため、環境への負荷に対する懸念も指摘されている。
【0004】
一方、天然樹脂は環境へ負荷をかけることなく得られるものの、ガム状やチップ状のものが多い。これを微粒子状とし、有機微粒子の代替とすることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特許文献1には、天然樹脂であるセラックを膜状に加工した加飾用食用金属箔が開示されている。しかしながら、微粒子状に加工する技術ではなく、有機微粒子を代替できるものではなかった。
【特許文献1】特開2012-100570
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、化粧料や洗顔剤、ボディソープなどのスキンケア用途に適したセラック微粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
塩基性条件下において、セラック微粒子およびカルシウムイオンを含む溶液に対して、リン酸イオンを含む溶液を添加する工程を含むことを特徴とするセラック微粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法により、化粧料や洗顔剤、ボディソープなどのスキンケア用途に適したセラック微粒子が簡便に得られる。特に、特別な設備を必要とせず、副生成物の量が少なく、取り扱いが容易な点において優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の製造方法は、塩基性条件下において、セラック微粒子およびカルシウムイオンを含む溶液に対して、リン酸イオンを含む溶液を添加する工程を含む。この工程により、セラック微粒子に耐熱性を付与でき、高温下においても融着しにくくなる。
【0010】
セラックは、ラックカイガラムシが分泌する樹脂状物質(シードラック)を熱溶融法やアルカリ抽出法、溶剤抽出法などで精製することにより得られる。いずれの手法から得られたセラックであっても微粒子作製可能であるが、化粧料や洗顔剤、ボディソープなどのスキンケア用途に適したセラック微粒子とする場合は、シードラックを医薬部外品原料規格に適合するよう精製したセラックを使用することが特に好ましい。
【0011】
セラック微粒子の製造方法として、セラックを良溶媒に溶解した溶液中に、分散安定剤や界面活性剤を共存させ、貧溶媒の添加によりセラックの溶解度を低下させることで球状セラックを析出させる方法が挙げられる。
【0012】
セラックの良溶媒としては、公知の液体アルコールが使用でき、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロパノール、n-ブタノール、エチレングリコール、グリセリンなどの1~3価アルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソアミルアルコールなどの分岐アルコールが挙げられ、これらの単体または任意の割合で2種類以上混合したものが例示される。例示した良溶媒の中では、セラックを溶解しやすく、沸点が低いため留去しやすいメチルアルコール、エチルアルコール、n-プロパノール、n-ブタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコールが好ましく、中でもメチルアルコール、エチルアルコールがより好ましい。
セラックの貧溶媒としては、前記良溶媒と混合する液体であり、水が特に好ましい。貧溶媒としての水は、電解質等の水溶性無機・有機成分を含有していても問題ないが、蒸留水やイオン交換水を使用することがさらに好ましい。
【0013】
前記セラック微粒子の製造において使用する分散剤としては、例えばゼラチン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの水溶性高分子が挙げられ、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。また第三リン酸カルシウム、酸化チタン、炭酸カルシウム、コロイダルシリカなどの無機物を併用しても良い。分散剤の配合量としては、セラック100重量部に対し0.05~30重量部程度で良い。
【0014】
前記セラック微粒子の製造において使用する界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤等が挙げられ、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用しても良い。界面活性剤の配合量としては、セラック100重量部に対し0~10重量部程度で良い。
【0015】
カルシウムイオン源となる化合物としては、公知の水溶性カルシウム化合物が使用でき、硝酸カルシウム、硝酸カルシウム四水和物、塩化カルシウム、塩化カルシウム1~6水和物、乳酸カルシウム、塩素酸カルシウム二水和物、過塩素酸カルシウム、臭化カルシウム、酢酸カルシウム、グルタミン酸カルシウムなどが例示され、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。セラック1gに対してカルシウムイオンは、1.36× 10-3mol以上、好ましくは2.72 × 10-3mol以上、さらに好ましくは4.1 × 10-3mol以上作用させる 。4.1 ×1 0-3mol以上作用させることで、十分なヒドロキシアパタイト被覆が容易となる。
【0016】
リン酸イオン源となる化合物としては、公知の水溶性リン酸化合物が使用でき、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム一水和物、リン酸二水素ナトリウム二水和物、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウムなどが例示され、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。セラック1gに対してリン酸イオンは、4.52×1 0-3mol以上、好ましくは9.04×1 0-3mol以上、さらに好ましくは、1.36mol×1 0-3mol以上作用させる。1.36mol×1 0-3mol以上作用させることで、十分なヒドロキシアパタイト被覆が容易となる。
カルシウムイオンおよびリン酸イオンの濃度を高くすればセラック微粒子により高い耐熱性を付与することができるため、要求される耐熱性によって濃度は適宜調整される。
【0017】
塩基性条件の範囲としては、pH=7.8以上であり、好ましくはpH=8以上、さらにpH=9以上を維持することが好ましい。pH=9以上にすることで、ヒドロキシアパタイトの析出速度が最適になり、ヒドロキシアパタイト被覆層が形成し易くなる。
塩基性にするための添加物としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。これらの中では、乾燥時に除去しやすいことからアンモニアが好ましい。添加量としては、上記塩基条件を満たす範囲であれば、特に限定されない。
【0018】
ヒドロキシアパタイト化の処理は、前記塩基性条件下において、セラック微粒子およびカルシウムイオンを含む溶液に対して、リン酸イオンを含む水溶液を添加する工程により達成される。ヒドロキシアパタイト化の処理をする際、温度は一定であってもよいし、途中でもしくは各段階によって変化させてもよく、例えば0~95℃を例示できる。リン酸イオンの添加方法としては、特に限定されず、最初に一括して全量仕込む方法、最初に一部を仕込み残りを連続フィード添加する方法、断続的に添加する方法等、公知の方法を採用できる。リン酸イオンを含む溶液を添加する時間についても、特に限定はなく、適宜設定すればよいが、例えば開始から終了まで0.5~120分が例示できる。リン酸イオン添加後の反応時間についても、特に限定はなく、反応の進行状況に応じて適宜設定すればよいが、例えば5~180分が例示できる。
【0019】
中性条件の範囲としては、pH=5~7.8であり、好ましくはpH=6~7.5以上、さらにpH=6.8~7.5であることが好ましい。pH=6.8~7.5にすることで、セラック微粒子のアルカリ膨潤が十分に解消されてろ過性が良好になるほか、乾燥後の微粒子が耐熱性を発現しやすくなる。中性にするための添加物としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、p-トルエンスルホン酸などの有機酸が挙げられる。添加量としては、上記中性条件を満たす範囲であれば、特に限定されない。
中性条件での反応温度および時間について、前記の中性条件を満たしていれば、特に限定はないが、例えば室温(25℃、65%RH)においては0.5~120分が例示できる。
【0020】
取り出し工程では、溶媒および水を除去してセラック微粒子を得る。先に溶媒を除去する必要があるが、この際に水の一部が除去されても構わない。水より沸点が低い溶媒であれば、例えば減圧することにより、水よりも先に除去できる。このような操作により、セラック微粒子分散液から溶媒のみが除去されてセラック微粒子水分散液が得られる。
【0021】
セラック微粒子水分散液から水分を除去することにより、セラック微粒子が得られる。水分の除去はろ過、遠心脱水、減圧乾燥など公知の方法で行われる。このようにして得られたセラック微粒子は二次凝集体や、粗大粒子が含まれることがあるため、必要に応じてハンマーミルなどを用いた粉砕や、篩、空気分級などによる精製を行ってもよい。
【0022】
このようにして得られたセラック微粒子は粒子径が3~20μm程度の略球状であるため、有機微粒子が使用されている各種用途に使用できる。特に、化粧料や洗顔剤、ボディソープなどのスキンケア用途においては、従来の有機微粒子と同様に使用でき、使用後に洗浄されて排水として環境中に放出されても生分解性を有することから環境への負荷が小さい。
【0023】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げてより詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。なお表記が無い場合は、室温は25℃相対湿度65%の条件下で実施した。
【実施例0024】
実施例1
撹拌機を取り付けたセパラブルフラスコに、メタノール140gを投入して、撹拌しながら40℃に昇温した。セラック(商品名:興洋化学社製、乾燥透明セラック)50gとポリビニルピロリドン(商品名:第一工業製薬社、ピッツコールK-90)10gを投入して溶解させ、室温まで冷却することでセラック溶液を調整した。セラック溶液を撹拌しながら、貧溶媒としてイオン交換水120gを添加し、微粒子を析出させた。この分散液をイオン交換水300gで希釈して、塩化カルシウム二水和物4gを添加した。次いでセラック微粒子分散液に28%アンモニア水10gを添加することで分散液のpHを9.0に調整した。この分散液に、5重量%リン酸2水素アンモニウム42gを30分間かけて滴下し、室温で1時間反応させた。その後、酢酸8.5gを添加して10分間撹拌し、pHを7.2としたヒドロキシアパタイト被覆セラック微粒子の分散液を得た。メタノールを留去した後、分散液を濾過、純水洗浄した。得られた濾過物を乾燥することで微粒子を回収した。得られた微粒子の体積平均粒子径を電気抵抗法粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社、マルチサイザー3)で測定したところ4.1μmであった。
【0025】
実施例2~4
実施例1の製造方法において、各成分の添加量を表1記載のように変更した他は実施例1と同様に行い、実施例2~4の各微粒子を得た。
【0026】
比較例1
実施例1と同様にセラック微粒子を析出させた。その後メタノールを留去し、分散液を濾過、純水洗浄した。得られた濾過物を乾燥することで微粒子を回収した。同様に微粒子の体積平均粒子径を測定したところ、3.6μmであった。
【0027】
比較例2
実施例1と同様にセラック微粒子を析出させた。さらに、調整した分散液をイオン交換水300gで希釈して、塩化カルシウム二水和物4 gを添加した。この分散液に、5重量%リン酸2水素アンモニウム42gを30分間かけて滴下した後、室温で1時間反応することでヒドロキシアパタイト被覆セラック微粒子の分散液を得た。同様にメタノールを留去し、分散液を濾過、純水洗浄した。得られた濾過物を乾燥することで粒子を回収した。同様に微粒子の体積平均粒子径を測定したところ、3.8μmであった。
【0028】
【表1】

【0029】
実施例、比較例の各セラック微粒子をアルミシャーレに5g測り取り、50℃、80℃、100℃に設定したオーブンにそれぞれ入れ、5時間加熱した後、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社、JSM-6510LV)による観察を行った。真球状態を維持できている場合は○、一部融着が起きている場合は△、融着や溶融状態である場合は×、として耐熱性を評価した。
【0030】
【表2】

【0031】
実施例、比較例の各セラック微粒子について触感を評価した。基準試料として工業的に生産・利用されているPMMA微粒子(アイカ工業株式会社、ガンツパールGMX-0610)を使用した。各粉末0.1gを手に取り、手の甲に広げて指でこすり、「すべり性の良さ」・「きしみ感を感じないか」について官能評価を比較した。10人のパネラーを用いて、7人以上が良好と評価した場合は〇、4~6人が良好と評価した場合は△、3人以下が良好と評価した場合は×、として評価した。
【0032】

【表3】

【0033】
実施例の各セラック微粒子は、有機微粒子と同等の触感を有し、実用的な耐熱性を有していた。一方、セラック微粒子およびカルシウムイオンを含む溶液に対して、リン酸イオンを含む溶液を添加する工程自体を行わなかった比較例1の微粒子、前記工程を行ったものの塩基性条件下ではなかった比較例2の微粒子は、耐熱性や触感が劣っていた。