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特開2022-154769健康管理装置、健康管理方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154769
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】健康管理装置、健康管理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G16H 10/00 20180101AFI20221005BHJP
   G06Q 10/06 20120101ALI20221005BHJP
   A61B 5/16 20060101ALI20221005BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
G16H10/00
G06Q10/06
A61B5/16
A61B5/11 200
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057957
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000232140
【氏名又は名称】NECフィールディング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 凌
【テーマコード(参考)】
4C038
5L049
5L099
【Fターム(参考)】
4C038PP03
4C038PS05
4C038VA20
4C038VB01
4C038VB35
4C038VC05
4C038VC09
5L049AA10
5L099AA04
5L099AA21
(57)【要約】
【課題】従業員のバイタルデータを用いて感情を推定し、休職リスクを予測し、適切な対策を講じることに寄与する、健康管理装置等の提供。
【解決手段】従業員の人体よりバイタルデータを取得するバイタルデータ取得部と、前記バイタルデータに基づいて、表出された感情を推定する感情推定部と、前記感情のうち、所定の感情が表出されたものと推定された度合に基づいて、前記従業員が休職するリスク要因に関する値である少なくとも一の休職リスク要因値を算出する休職リスク要因値算出部と、前記休職リスク要因値が所定の基準を満たすか否かを判断する休職リスク判断部と、前記休職リスク要因値が所定の基準を満たしたと判断された場合に、通知を実行する通知部と、を有する健康管理装置を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
従業員の人体よりバイタルデータを取得するバイタルデータ取得部と、
前記バイタルデータに基づいて、表出された感情を推定する感情推定部と、
前記感情のうち、所定の感情が表出されたものと推定された度合に基づいて、前記従業員が休職するリスク要因に関する値である少なくとも一の休職リスク要因値を算出する休職リスク要因値算出部と、
前記休職リスク要因値が所定の基準を満たすか否かを判断する休職リスク判断部と、
前記休職リスク要因値が所定の基準を満たしたと判断された場合に、通知を実行する通知部と、
を有する健康管理装置。
【請求項2】
前記従業員の人事データを取得する人事データ取得部をさらに有し、
前記休職リスク判断部は、前記人事データを用いて前記所定の基準を変更する、
請求項1に記載の健康管理装置。
【請求項3】
前記人事データには、少なくとも前記従業員の休職履歴、前記従業員の所定期間における時間外労働時間、前記従業員が所属する部門の休職率、のいずれか一が含まれる、
請求項2に記載の健康管理装置。
【請求項4】
前記バイタルデータには、前記従業員の発話に関するデータが含まれ、
前記休職リスク判断部は、前記発話に関するデータに基づいて、前記所定の基準を変更する、
請求項1から3のいずれか一に記載の健康管理装置。
【請求項5】
前記バイタルデータには、前記従業員の歩行量が含まれる、
請求項1から4のいずれか一に記載の健康管理装置。
【請求項6】
前記休職リスク要因値算出部は、所定の感情が所定期間内に表出されたものと推定された割合を休職リスク要因値とし、
前記休職リスク判断部は、前記休職リスク要因値が所定の閾値を超過しているか否かを判断し、
前記通知部は、前記休職リスク要因値が所定の閾値を超過していると判断された場合に、通知を実行する、
請求項1から5のいずれか一に記載の健康管理装置。
【請求項7】
前記休職リスク判断部は、前記従業員の所定期間内の発話量が所定の量に満たない場合に、前記所定の閾値を引き下げる請求項6に記載の健康管理装置。
【請求項8】
前記休職リスク判断部は、前記従業員が所属する部門の休職率が所定の率を超過している場合に、前記所定の閾値を引き下げる請求項6または7に記載の健康管理装置。
【請求項9】
従業員の人体よりバイタルデータを取得するステップと、
前記バイタルデータに基づいて、表出された感情を推定するステップと、
前記感情のうち、所定の感情が表出されたものと推定された度合に基づいて、前記従業員が休職するリスク要因に関する値である少なくとも一の休職リスク要因値を算出するステップと、
前記休職リスク要因値が所定の基準を満たすか否かを判断するステップと、
前記休職リスク要因値が所定の基準を満たしたと判断された場合に、通知を実行するステップと、
を有する健康管理方法。
【請求項10】
従業員の人体よりバイタルデータを取得する処理と、
前記バイタルデータに基づいて、表出された感情を推定する処理と、
前記感情のうち、所定の感情が表出されたものと推定された度合に基づいて、前記従業員が休職するリスク要因に関する値である少なくとも一の休職リスク要因値を算出する処理と、
前記休職リスク要因値が所定の基準を満たすか否かを判断する処理と、
前記休職リスク要因値が所定の基準を満たしたと判断された場合に、通知を実行する処理と、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康管理装置、健康管理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、企業が従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する健康経営が広まりつつある。このような経営戦略を図るべく、職場環境を整備する取組みとして様々な技術が検討されている。
【0003】
例えば特許文献1には、勤務時間に関するデータと休職の有無に関するデータに基づいて休職のリスクを予測するシステムが記載されている。具体的には従業員の勤務時間を含むデータと、従業員の休職の有無を示すデータとの関係を学習し、従業員が所定の時期に休職するリスクを予測する予測モデルを構築し、予測対象となる従業員の勤務時間を含むデータと予測モデルとに基づいて、予測対象となる従業員が所定の時期に休職するリスクを予測するシステムが記載されている。
【0004】
特許文献2には、組織に属する複数の人の睡眠時における生体情報を取得し、生体情報に基づいて、当該組織に属する特定の人物の組織での働き方に関する情報を生成する情報処理システム等が記載されている。具体的には取得された生体情報を用いて特定の人物の休職や離職等に関する情報である休職のリスクを評価するシステムが記載されている。リスク評価の処理としては、例えば、一の組織人の睡眠時間が、各組織人の睡眠時間の平均値に比べて短い場合には、長い場合よりも、この一の組織人が休職するリスクを高く評価する。また、例えば、一の組織人の睡眠深度が、各組織人の睡眠深度の平均値に比べて低い場合には、高い場合よりも、この一の組織人が休職するリスクを高く評価する、といった記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-135662号公報
【特許文献2】特開2020-190939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
なお、上記先行技術文献の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。以下の分析は、本発明者らによってなされたものである。
【0007】
近年においては、身体に装着するウェアラブルデバイスなどにより従来よりも多くの生体情報(以下バイタルデータとする)が取得できるようになりつつある。このため、睡眠中などの安静時に限らず活動時間帯において、活動中の種々のバイタルデータを取得可能である。
【0008】
また、近年では精神的なストレスにより休職に追い込まれるケースが増加しているため、休職を未然に防ぐために、従業員の精神的な状態を把握することの要請が強くなっている。これに対して、従業員の精神的な状態を把握するために従業員に表出される感情を推定し、評価することが有効な手段である。
【0009】
本発明は、従業員のバイタルデータを用いて、休職リスクを予測し、適切な対策を講じることに寄与する健康管理装置、健康管理方法及びプログラムを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明乃至開示の第一の視点によれば、従業員の人体よりバイタルデータを取得するバイタルデータ取得部と、前記バイタルデータに基づいて、表出された感情を推定する感情推定部と、前記感情のうち、所定の感情が表出されたものと推定された度合に基づいて、前記従業員が休職するリスク要因に関する値である少なくとも一の休職リスク要因値を算出する休職リスク要因値算出部と、前記休職リスク要因値が所定の基準を満たすか否かを判断する休職リスク判断部と、前記休職リスク要因値が所定の基準を満たしたと判断された場合に、通知を実行する通知部と、を有する健康管理装置が提供される。
【0011】
本発明乃至開示の第二の視点によれば、従業員の人体よりバイタルデータを取得するステップと、前記バイタルデータに基づいて、表出された感情を推定するステップと、前記感情のうち、所定の感情が表出されたものと推定された度合に基づいて、前記従業員が休職するリスク要因に関する値である少なくとも一の休職リスク要因値を算出するステップと、前記休職リスク要因値が所定の基準を満たすか否かを判断するステップと、前記休職リスク要因値が所定の基準を満たしたと判断された場合に、通知を実行するステップと、を含む、健康管理方法が提供される。
【0012】
本発明乃至開示の第三の視点によれば、従業員の人体よりバイタルデータを取得する処理と、前記バイタルデータに基づいて、表出された感情を推定する処理と、前記感情のうち、所定の感情が表出されたものと推定された度合に基づいて、前記従業員が休職するリスク要因に関する値である少なくとも一の休職リスク要因値を算出する処理と、前記休職リスク要因値が所定の基準を満たすか否かを判断する処理と、前記休職リスク要因値が所定の基準を満たしたと判断された場合に、通知を実行する処理と、をコンピュータに実行させるプログラムが提供される。
なお、このプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記録することができる。記憶媒体は、半導体メモリ、ハードディスク、磁気記録媒体、光記録媒体等の非トランジェント(non-transient)なものとすることができる。本発明は、コンピュータプログラム製品として具現することも可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明乃至開示の各視点によれば、従業員のバイタルデータを用いて、休職リスクを予測し、適切な対策を講じることに寄与する、健康管理装置、健康管理方法及びプログラムが、提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態の概要を説明するための図である。
図2】第1の実施形態に係る健康管理装置の概要を示す図である。
図3】第1の実施形態に係る健康管理装置の概略構成の一例を示す図である。
図4】人事データベース内のテーブル構成の一例を示す図である。
図5】第1の実施形態に係る健康管理装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図6】健康管理装置のハードウエア構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
初めに、一実施形態の概要について説明する。なお、この概要に付記した図面参照符号は、理解を助けるための一例として各要素に便宜上付記したものであり、この概要の記載はなんらの限定を意図するものではない。また、各図におけるブロック間の接続線は、双方向及び単方向の双方を含む。一方向矢印については、主たる信号(データ)の流れを模式的に示すものであり、双方向性を排除するものではない。さらに、本願開示に示す回路図、ブロック図、内部構成図、接続図などにおいて、明示は省略するが、入力ポート及び出力ポートが各接続線の入力端及び出力端のそれぞれに存在する。入出力インタフェースも同様である。
【0016】
一実施形態に係る健康管理装置10は、バイタルデータ取得部11と、感情推定部12と、休職リスク要因値算出部13と、休職リスク判断部14と、通知部15とを有する(図1参照)。
【0017】
バイタルデータ取得部11は、従業員の人体よりバイタルデータを取得する。感情推定部12は、前記バイタルデータに基づいて、表出された感情を推定する。休職リスク要因値算出部13は、前記感情のうち、所定の感情が表出されたものと推定された度合に基づいて、前記従業員が休職するリスク要因に関する値である少なくとも一の休職リスク要因値を算出する。休職リスク判断部14は、前記休職リスク要因値が所定の基準を満たすか否かを判断する。通知部15は、前記休職リスク要因値が所定の基準を満たしたと判断された場合に、通知を実行する。
【0018】
健康管理装置10は、従業員の人体よりバイタルデータを取得し、取得されたバイタルデータに基づいて表出された感情を推定する。推定された感情のうち、所定期間に表出された所定の感情の度合に基づいて休職リスクに関する休職リスク要因値を算出する。算出された休職リスク要因値は所定の基準、例えば閾値などを超過した場合に電子メール等で通知を行う。
【0019】
このように、バイタルデータより直接休職リスクを算出するのではなく、表出された感情を推定し、その度合いに基づいて休職リスクを評価し、通知の要否を判断するため、管理者や産業医等は従業員の精神的な状態を把握した上で処遇を決定したり、診断を下したりすることが可能である。
【0020】
以下に具体的な実施の形態について、図面を参照してさらに詳しく説明する。なお、各実施形態において同一構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0021】
[第1の実施形態]
第1の実施形態について、図面を用いてより詳細に説明する。
【0022】
図2は、第1の実施形態に係る健康管理装置の概要を示す図である。図2を参照すると、健康管理の対象となる従業員と、その従業員が属する部門の管理者が存在する。ここで健康管理装置10は従業員の脈拍や体温等のバイタルデータを、ウェアラブル端末を介して取得する。取得されたバイタルデータはバイタルデータベース20に格納される。健康管理装置10は一日の勤務が終了すると、バイタルデータベース20から当該従業員のバイタルデータである脈拍等のデータを取得し、取得したデータに基づいて、従業員の感情を推定する。その結果、例えば、勤務時間中の8時間のうち50%である4時間の間に「不安」の感情でいたと推定された。
【0023】
健康管理装置10では、デフォルト値では「不安」の感情でいたと推定された時間の割合が勤務時間中に75%以上であると管理者に対して電子メールによる通知が送信される。ところが、健康管理装置10は、人事データベースから当該従業員の人事データを取得し、参照したところ、当該従業員には休職の履歴が存在し、復職後6か月が経過しているとのデータを得た。健康管理装置10は、このデータを受けて休職履歴を有する従業員には復職後1年間にわたり、勤務時間中に「不安」の感情でいた割合が例えば50%以上であっても管理者に通知を行う、といったルールへ設定を変更する処理を実行する。その結果、健康管理装置10は、当該従業員は再び休職のリスクが高まったとして、管理者に電子メールによる通知を送信し、対処を求めることとなる。
【0024】
メールには次のようなメッセージがある。「バイタルデータを確認したところ休職のリスクがあるため、至急本人へヒアリング・面談を実施し、場合によっては業務変更・異動を行ってください。」、「また、今回確認したバイタルデータの内、脈拍・歩数の状態が今後継続すると身体の健康面に影響を及ぼす可能性があるため、定期的な運動(散歩など)を実施するよう面談時、本人へ連絡してください。」。メールを見た管理者は、当該従業員を呼び面談を行う。面談の結果、当面は業務負荷を下げることとなり、従業員は日常的に運動を実施するように心がけ、その後当該社員は再び休職を繰り返すことなく業務を続けている。
【0025】
このように、第1の実施形態に係る健康管理装置10により、過去に休職の経験がある従業員が再び休職してしまうリスクが高まったことを従業員の感情を推定し、人事データを加味して評価することにより、休職履歴のない従業員よりも早期に休職のリスクが高まったことを検知し、管理者に対して通知を送信して対処を促すことで、当該従業員が再び休職してしまうことを未然に防ぐことが可能である。
【0026】
図3は、第1の実施形態に係る健康管理装置の概略構成の一例を示す図である。図3を参照すると、健康管理装置10は、バイタルデータ取得部11と、感情推定部12と、休職リスク要因値算出部13と、休職リスク判断部14と、通知部15と、人事データ取得部16と、を有する。なお、図3は例示であってシステムの構成等を限定する趣旨ではない。
【0027】
バイタルデータ取得部11は従業員の人体よりバイタルデータを取得する。具体的には携帯端末や、人体に装着されたウェアラブル端末に搭載されたセンサデバイス等により、バイタルデータを取得する。「バイタルデータ」とは、人体から取得可能な生体情報であって、主に脈拍、血圧、体温等が挙げられる。本発明では広く解して、声(発話量や声の大きさ)、表情、動作(歩行量、体勢の変化、仕草等)、発汗量、脳活動(脳波等)、心電図、筋電位等も含まれる。ただしこれらに限られず、センサデバイスにて計測可能な種々の情報が含まれることとする。取得されたバイタルデータは、後述の感情推定部12に送られる。センサデバイスにはカメラ、マイク、温度センサ、光学センサ、加速度センサ、湿度センサ等、が挙げられるがこれらに限定されるものではない。取得されたバイタルデータは当装置に搭載、または遠隔のサーバ上で稼働しているバイタルデータベースに格納され保持されていてもよい。
【0028】
バイタルデータは通常活動時にも取得を続けることが望ましいので、バイタルデータ取得部は通常活動を阻害しない態様、例えば小型軽量であって非侵襲のデバイスを採用して構成されることが望ましい。
【0029】
バイタルデータ取得のタイミングは、常時取得でもよいし、所定時刻および所定時間間隔に取得でもよい。また一のバイタルデータの変動をトリガーとして他のバイタルデータを取得する構成となっていてもよい。例えば脈拍が所定時間内に所定回数以上に上昇した場合にマイクによる音声取得を開始する等の処理を実行してもよい。これらのバイタルデータを取得するタイミングのスケジューリングのための情報については当部に保持されていてもよい。
【0030】
感情推定部12は、取得された前記バイタルデータに基づいて、表出された感情を推定する。ここで「感情」には、快、不快、覚醒、非覚醒(眠い)、ネガティブ、ニュートラル、ポジティブ、喜、怒、哀、楽の基本的なものから、リラックス、冷静、不安、緊張、恐れ、嫌悪、軽蔑、疲労感、憂鬱等が挙げられるがこれに限るものではない。
【0031】
感情の推定には従来技術により種々の手法が提供されている。例えば、湿度センサにより発汗量の向上が認められ、かつ脈拍を測定する光学センサにより脈拍が通常時よりも速くなったことが認められ、かつマイクに入力される声の高さが通常時よりも高くなったと認められた場合には「緊張」状態であると推定してもよい。あるいはマイクに入力された発話内容を音声認識してテキスト化し、テキスト中の単語を抽出して感情表現のための用語を集めた辞書を参照し対応する感情を推定するといった処理を行ってもよい。
【0032】
推定処理はその場でリアルタイムに実行され、推定された感情を示すデータを記憶域に格納するものでもよいし、一度所定期間内のバイタルデータをバイタルデータベースに格納し、所定期間経過後にデータベースからデータを取得して推定を実行する態様でもよい。
【0033】
上記は推定をルールベースで行うものであり、健康管理装置10は、これらルールを格納する感情推定ルール保持部(図示せず)を有していてもよい。
【0034】
このほか、機械学習によりあらかじめ生体情報と感情との関係を学習した推定モデルを採用し、生体情報を入力とした感情の推定を行う構成であってもよい。推定された感情に関する情報は、後述する休職リスク要因値算出部13に送られる。
【0035】
さらに、感情推定部12は、各感情の種類を推定するだけではなく感情の強さについても推定を行ってもよい。例えば、ネガティブな感情が表出した場合にはその強さを表す負の値を付与し、ポジティブな感情が表出した場合にはその強さを表す正の値を付与し、それらの和を後述する休職リスク要因値算出部13において算出し、休職リスク要因値としてもよい。
【0036】
休職リスク要因値算出部13は、前記推定された感情のうち、所定の感情が表出されたものと推定された度合に基づいて、前記従業員が休職するリスク要因に関する値である少なくとも一の休職リスク要因値を算出する。「リスク要因値」とは感情に基づく休職リスク判断のための要素となる値である。例えば、勤務時間内における、それぞれの感情が推定された頻度(例えば、不安5回、怒り2回)、および割合(例えば、緊張20%、憂鬱20%、恐れ10%、これら以外50%)、時間(例えば、喜び15分、冷静3時間、リラックス1時間、怒り15分、これら以外3時間30分)等またはこれらに基づく値(推定された感情の割合の和等)が挙げられる。算出された休職リスク要因値は、後述する休職リスク判断部14へ送られる。
【0037】
人事データ取得部16は、前記従業員の人事データを取得する。具体的には、人事データベースに接続して、前記従業員の人事データを受信し健康管理装置10の記憶域に格納する。図4は当部が取得する人事データベース内のテーブル構成の一例を示す図である。上記人事データには、社員番号、所属部署、氏名、電子メールアドレス、所属部門の管理者のメールアドレス、等の情報が含まれる他、例えば前記従業員の休職履歴として過去の休職の有無や、最後に復職してから経過した期間、所定期間における時間外労働時間、所属する部門の休職率等のいずれかが含まれていてもよい。
【0038】
休職リスク判断部14は、前記休職リスク要因値が所定の基準を満たすか否かを判断する。「所定の基準」とは、例えば算出された休職リスク要因値のうち、勤務時間中の8時間において「憂鬱」であると推定された時間が、例えば4時間を超過したか否か、あるいは「憂鬱」であると推定された時間が、勤務時間と時間外労働時間とを合わせた時間のうち例えば、30%を超過したか否か、30%といった所定の閾値で指定されるものであってよい。
【0039】
また、「所定の基準」は、例えば、「「冷静」であると推定された時間が1時間未満で、「不安」と推定された頻度が5回以上である」といった条件(ルール)で指定されるものであってもよい。健康管理装置10はこれらのルールを保持する休職リスク判断ルール保持部(図示せず)をさらに有する構成でもよい。当部は上記判断の結果として所定の基準を満たしたと判断された場合には、判断結果を後述の通知部15に送る。
【0040】
休職リスク判断部14は、上記で取得した人事データを用いて上記所定の基準を変更する構成であってもよい。例えば、上記のように「勤務時間中の8時間において「憂鬱」であると推定された時間が4時間を超過したか否か」という所定の基準を適用する際に、前記従業員の休職履歴を参照して、過去に休職をした履歴を有している場合には、例えば「4時間」という閾値を引き下げて「1時間」と変更する処理を実行してもよい。反対に、閾値のデフォルト値を最低基準に合わせた「1時間」としておき、休職履歴が無い、または休職履歴があっても所定期間が経過している場合には、従業員の在籍期間の経過とともに閾値を徐々に上げていく構成となっていてもよい。
【0041】
休職リスク判断部14は、上記のように従業員個人の人事データに変わり、所属部門全体の休職率が所定の率を超過している場合には、予防的措置として所定の基準である閾値を引き下げるといった構成であってもよい。
【0042】
休職リスク判断部14は、バイタルデータ取得部11より直接バイタルデータを受け取り、そのデータに応じて通知を実行するか判断するための閾値を変更してもよい。例えば、発話量の低下が従業員の活性度の低下に伴うものであるとの前提に基づいて、従業員の所定期間内の発話量が所定の量に満たない場合に、通常より閾値を引き下げるといった処理を実行してもよい。つまり活性度が下がっている従業員に対しては早期に対処の必要があるため通知を行う判断をより低い閾値で行う方向に変更する。
【0043】
上記で変更された閾値をはじめとする「所定の基準」は人事データベース等に格納され、従業員個人に適応した基準として以後修正されつつ使用されてもよい。
【0044】
通知部15は、前記休職リスク要因値が所定の基準を満たしたと判断された場合に、通知を実行する。「通知」する手段は電子メールで行われてもよいし、メッセンジャーアプリケーションやチャットツール等による通知であってもよい。至急対応が必要な状況下では、プッシュ型の通知が行われる手段が望ましい。
【0045】
通知部15は、休職リスク判断部14の判断結果が通知すべきとの結果であった場合には、原則的に対象従業員の管理者に通知を送信するが、所属部門全体の休職率が高いのを原因とした場合には、従業員個人ではなく職場環境に問題があると判断することができるため、管理者のみならず、所属組織の産業医に対して通知を送信する構成であってもよい。
【0046】
なお、上記の通りバイタルデータには従業員の歩行量(歩数)が含まれており、例えば脈拍が所定の数値範囲(例えば1分あたりの平均が65~85回)に収まらない、または歩数が閾値(例えば1日あたり100歩未満)に満たない、といった条件のいずれかに該当する場合には、通知部は併せて脈拍、歩数も併せて通知する構成であってもよい。
【0047】
[処理の流れ]
図5は実施例1に係る健康管理装置10の動作を説明するためのフローチャートである。
【0048】
健康管理装置10は動作を開始するとバイタルデータ取得部11がバイタルデータを取得する(ステップS11)。
【0049】
バイタルデータ取得後、感情推定部12が、取得したバイタルデータに基づいて感情推定を実行する(ステップS13)。この際、推定のための所定の期間が経過したか否かを判断する処理(ステップS12)の後に感情の推定処理(ステップS13)を実行してもよい。
【0050】
ここで「所定の期間」は、例えば、バイタルデータ取得のタイミングとほぼ同時の短時間から数分、1時間、1日、1月、1年といった長期間が含まれ、ほぼリアルタイムでの推定から、長期にわたる感情の推定までが可能である。この所定の期間は対象となる従業員の休職履歴等の人事データに基づいて調整されてもよい。例えば、休職からの復職後、間もない従業員については比較的短期間に設定し迅速な対応を可能としておき、休職履歴がない従業員については比較的長期間に設定することで、監視コストを最適化することが可能である。
【0051】
その後、休職リスク要因値算出部13が推定された感情の度合に基づいて、少なくとも一の休職リスク要因値を算出する(ステップS14)。
【0052】
算出された休職リスク要因値は、休職リスク判断部14に送られ、休職リスク判断部14は、休職リスク要因値が、所定の基準を満たすか否かの判断を行う(ステップS15)。
【0053】
なお、上記判断処理が実行される時までに、人事データ取得部16は人事データを取得しておき(ステップS21)、休職リスク判断部14は判断に用いられる所定の基準を変更することができる(ステップS22)。
【0054】
上記判断処理の結果、所定の基準を満たすとの判断結果となった場合には、通知部15は、通知を実行し(ステップS16)する。通知を実行した後は一連の処理を終了するか否かの判断を行う(ステップS17)。所定の基準を満たさないとの判断結果となった場合には、通知を実行せずに終了するか否かの判断(ステップS17)を実行する。
【0055】
[ハードウエア構成]
健康管理装置10は、情報処理装置(コンピュータ)により構成可能であり、図6に例示する構成を備える。例えば、健康管理装置10は、内部バス105により相互に接続される、CPU(Central Processing Unit)101、メモリ102、入出力インタフェース103及び通信手段であるNIC(Network Interface Card)104等を備える。
【0056】
但し、図6に示す構成は、健康管理装置10のハードウエア構成を限定する趣旨ではない。健康管理装置10は、図示しないハードウエアを含んでもよいし、必要に応じて入出力インタフェース103を備えていなくともよい。また、健康管理装置10に含まれるCPU等の数も図6の例示に限定する趣旨ではなく、例えば、複数のCPUが健康管理装置10に含まれていてもよい。
【0057】
メモリ102は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、補助記憶装置(ハードディスク等)である。
【0058】
入出力インタフェース103は、図示しない表示装置や入力装置のインタフェースとなる手段である。表示装置は、例えば、液晶ディスプレイ等である。入力装置は、例えば、キーボードやマウス等のユーザ操作を受け付ける装置である。
【0059】
また、入出力インタフェース103にはバイタルデータを取得するセンサ106が接続されている。センサ106は自身に通信デバイスを有し、健康管理装置10へ通信によりバイタルデータを送信するものであってもよい。
【0060】
健康管理装置10の機能は、処理モジュールであるバイタルデータ取得プログラムと、感情推定プログラムと、リスク要因値算出プログラムと、休職リスク判断プログラムと、通知プログラムおよび人事データ取得プログラム等により実現される。当該処理モジュールは、例えば、メモリ102に格納されたバイタルデータ取得プログラムをCPU101が実行することで実現される。また、そのプログラムは、ネットワークを介してダウンロードするか、あるいは、プログラムを記憶した記憶媒体を用いて、更新することができる。さらに、上記処理モジュールは、半導体チップにより実現されてもよい。即ち、上記処理モジュールが行う機能を何らかのハードウエア、及び/又は、ソフトウエアで実行する手段があればよい。
【0061】
[ハードウエアの動作]
健康管理装置10は、動作を開始すると、バイタルデータ取得プログラムがメモリ102より読み込まれCPU101にて実行状態となる。同プログラムは、センサ106を制御して体温や脈拍等のバイタルデータを取得し、入出力インタフェース103を介してメモリ102へデータを格納する。
【0062】
上記動作と並行して感情推定プログラムがCPU101にて実行状態となっており、バイタルデータがメモリ102に格納されると同データにアクセスし、所定の時間が経過後にCPU101による演算処理により感情推定が実行される。推定された感情は感情データとしてメモリ102に格納される。
【0063】
上記動作と並行してリスク要因値算出プログラムが待機状態となっており、感情データがメモリ102に格納されると実行状態となる。同プログラムはメモリに格納された感情データを読み込み、所定時間に推定された感情の割合等の休職リスク要因値をCPU101による演算処理により算出する。休職リスク要因値はメモリ102に一時的に保持される。
【0064】
休職リスク要因値が算出されると、休職リスク判断プログラムがCPU101にて実行状態となり、メモリ102に格納されている、リスク要因値の閾値等の、所定の基準が記述されている基準データを読み込む。読み込まれた基準データと休職リスク要因値との比較演算等がCPU101にて実行され、休職リスク要因値が基準データ内の閾値等を超過しているか否か等が判断される。判断処理の結果、閾値を超過しているという基準が真であれば、同プログラムは通知プログラムを実行状態にするためのシグナルを通知プログラムに対して送る。
【0065】
ここで、上記判断処理の前に、人事データ取得プログラムがCPU101にて実行され、対象の従業員の人事データをメモリ102にアクセスするか、NIC104などを介して取得し、休職リスク判断プログラムに人事データを渡す。休職リスク判断プログラムは受け取った人事データを読み込み、その人事データが所定の条件に該当するか否かをCPU101の演算処理において判断する。
【0066】
なお人事データに対する所定の条件についてはあらかじめメモリ102に格納されており、それを休職リスク判断プログラムが読み込んだ上で上記判断処理が実行される。判断の結果、所定の条件、例えば「対象の従業員の所定期間における時間外労働時間が50時間以上で、かつ休職から復職して1年以内」等の条件を満たす場合には、休職リスク判断プログラムは、メモリ102に格納されている所定の基準である上記基準データを書き換え、変更する処理を実行する。
【0067】
通知プログラムは休職リスク判断プログラムからシグナルを受け取ると起動または待機状態から実行状態となり、メモリ102に格納されている通知内容である通知データと、通知に必要な対象従業員の管理者の電子メールアドレスなどをメモリ102に格納されている人事データを参照して読み込む。同プログラムは通知データと人事データとにより送信データを構成し、NIC104を介した通信により送信データを電子メール送信プロトコル等の所定の形式で送信する。
【0068】
[効果の説明]
本実施形態の健康管理装置は、バイタルデータを取得し、所定の基準を満たしているか否かの判断を行うことにより、対象従業員からの申告がなくとも管理者等に通知を行うことで休職に至るという事態を未然に防止することが可能である。
【0069】
また、バイタルデータから感情を推定することで管理者や産業医等がどのような対処が可能であるか参考となり得る情報を提供することが可能である。
【0070】
さらに、本実施形態の健康管理装置では人事データを参照することにより、上記所定の基準を変更することで、対象従業員により適応した基準で通知を行うかの判断が可能であり、通知漏れにより休職に至ってしまうという事態の発生を減少させることが可能である。
【0071】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下のようにも記載され得るが、以下には限られな
い。
[形態1]
上述の第一の視点に係る健康管理装置のとおりである。
[形態2]
従業員の人事データを取得する人事データ取得部をさらに有し、休職リスク判断部は、前記人事データを用いて前記所定の基準を変更する、好ましくは形態1の健康管理装置。
[形態3]
前記人事データには、少なくとも前記従業員の休職履歴、前記従業員の所定期間における時間外労働時間、前記従業員が所属する部門の休職率、のいずれか一が含まれる、好ましくは形態2の健康管理装置。
[形態4]
前記バイタルデータには、前記従業員の発話に関するデータが含まれ、前記休職リスク判断部は、前記発話に関するデータに基づいて、前記所定の基準を変更する、好ましくは
形態1から3のいずれか一の健康管理装置。
[形態5]
前記バイタルデータには、前記従業員の歩行量が含まれる、好ましくは形態1から4のいずれか一の健康管理装置。
[形態6]
前記休職リスク要因値算出部は、所定の感情が所定期間内に表出されたものと推定された割合を休職リスク要因値とし、前記休職リスク判断部は、前記休職リスク要因値が所定の閾値を超過しているか否かを判断し、前記通知部は、前記休職リスク要因値が所定の閾値を超過していると判断された場合に、通知を実行する、好ましくは形態1から5のいずれか一の健康管理装置。
[形態7]
前記休職リスク判断部は、前記従業員の所定期間内の発話量が所定の量に満たない場合に、前記所定の閾値を引き下げる好ましくは形態6の健康管理装置。
[形態8]
前記休職リスク判断部は、前記従業員が所属する部門の休職率が所定の率を超過している場合に、前記所定の閾値を引き下げる好ましくは形態6または7の健康管理装置。
[形態9]
上述の第二の視点に係る健康管理方法のとおりである。
[形態10]
上述の第三の視点に係るプログラムのとおりである。
なお、形態9及び形態10は、形態1と同様に、形態2~形態8に展開することが可能である。
【0072】
なお、引用した上記の特許文献等の各開示は、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(特許請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の全開示の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ、ないし、選択(部分的削除を含む)が可能である。すなわち、本発明は、特許請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。特に、本書に記載した数値範囲については、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし小範囲が、別段の記載のない場合でも具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0073】
10 健康管理装置
20 バイタルデータベース
30 人事データベース
11 バイタルデータ取得部
12 感情推定部
13 休職リスク要因値算出部
14 休職リスク判断部
15 通知部
16 人事データ取得部
101 CPU(Central Processing Unit)
102 メモリ
103 入出力インタフェース
104 NIC(Network Interface Card)
105 内部バス
106 センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6