(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154776
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】三次電池、IoT機器
(51)【国際特許分類】
H01M 10/36 20100101AFI20221005BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20221005BHJP
【FI】
H01M10/36
H01M4/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021057972
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(71)【出願人】
【識別番号】393012220
【氏名又は名称】株式会社フォーカスシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】守友 浩
(72)【発明者】
【氏名】柴田 恭幸
(72)【発明者】
【氏名】内澤 慎太郎
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AK01
5H029AL01
5H029AM03
5H029AM07
5H029HJ02
5H050AA08
5H050BA15
5H050CA01
5H050CB01
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】熱効率や発生する起電力に優れる三次電池、および三次電池を備えたIoT機器を提供する。
【解決手段】本発明の三次電池1は、第1の電極2と第2の電極3が、電解質を介して対向してなる三次電池であって、第1の電極2および第2の電極3のいずれか一方が、Zn-HCF、Cd-PBA、Cu-PBAおよびFe-PBAからなる群から選択される少なくとも1種の電極材料を含む。前記Zn-HCFは、一般式Na
2(Zn
1-zM
z)
2[Fe(CN)
6]
3で表される化合物。前記Cd-PBAは、一般式Na
x(Cd
1-zM
z)[Fe(CN)
6]
yで表される化合物。前記Cu-PBAは、一般式Na
x(Cu
1-zM
z)[Fe(CN)
6]
yで表される化合物。前記Fe-PBAは、一般式Na
x(Fe
1-zM
z)[Fe(CN)
6]
yで表される化合物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と第2の電極が、電解質を介して対向してなる三次電池であって、
前記第1の電極および前記第2の電極のいずれか一方が、Zn-HCF、Cd-PBA、Cu-PBAおよびFe-PBAからなる群から選択される少なくとも1種の電極材料を含む、三次電池。
前記Zn-HCFは、一般式Na2(Zn1-zMz)2[Fe(CN)6]3(但し、Mは、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種、0.0<z<0.5)で表される化合物である。
前記Cd-PBAは、一般式Nax(Cd1-zMz)[Fe(CN)6]y(但し、Mは、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群から選択される少なくとも1種、0.8<x<2.0、0.0<z<0.5、0.7<y<1.0)で表される化合物である。
前記Cu-PBAは、一般式Nax(Cu1-zMz)[Fe(CN)6]y(但し、Mは、Mn、Fe、Co、Ni、ZnおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種、0.8<x<2.0、0.0<z<0.5、0.7<y<1.0)で表される化合物である。
前記Fe-PBAは、一般式Nax(Fe1-zMz)[Fe(CN)6]y(但し、Mは、Mn、Co、Ni、Cu、ZnおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種、0.8<x<2.0、0.0<z<0.5、0.7<y<1.0)で表される化合物である。
【請求項2】
第1の電極と第2の電極が、電解質を介して対向してなる三次電池であって、
前記第1の電極および前記第2の電極のいずれか一方が、Co-PBA、Ni-PBAおよびMn-PBAからなる群から選択される少なくとも1種の電極材料を含む、三次電池。
前記Co-PBAは、一般式Nax(Co1-zMz)[Fe(CN)6]y(但し、Mは、Mn、Fe、Ni、Cu、ZnおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種、0.8<x<2.0、0.0<z<0.5、0.7<y<1.0)で表される化合物である。
前記Ni-PBAは、一般式Nax(Ni1-zMz)[Fe(CN)6]y(但し、Mは、Mn、Fe、Co、Cu、ZnおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種、0.8<x<2.0、0.0<z<0.5、0.7<y<1.0)で表される化合物である。
前記Mn-PBAは、一般式Nax(Mn1-zMz)[Fe(CN)6]y(但し、Mは、Fe、Co、Ni、Cu、ZnおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種、0.8<x<2.0、0.0<z<0.5、0.7<y<1.0)で表される化合物である。
【請求項3】
請求項1または2に記載の三次電池と、整流回路と、昇圧回路と、安定化回路と、を備える、IoT機器。
【請求項4】
請求項1または2に記載の三次電池と、整流回路と、昇圧回路と、蓄電型安定化回路と、を備える、IoT機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次電池、および三次電池を備えたIoT機器に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国の未利用の産業排熱は、国内で利用されている電力量の2倍以上である。また、我が国に降り注ぐ太陽熱エネルギーは、国内で利用されている電力量の1000倍以上である。これらの熱エネルギーの一部を電気エネルギーに変換できれば、化石エネルギーの消費が抑えられ、二酸化炭素の削減に貢献することができる。
【0003】
また、人体も熱エネルギーを発散しているため、この熱エネルギーを電気エネルギーに変換できれば、モバイル機器の充電が不要になる。そのためには、室温付近の熱エネルギーを安価に電気エネルギーに変換し、貯蔵することができる「熱蓄電システム」が求められる。
【0004】
温度差を電気エネルギーに変換する技術としては、例えば、半導体のゼーベック係数を利用した熱発電素子が知られている。この熱発電素子では、室温付近で性能が高い材料(Bi2Te3)が用いられる。しかしながら、この材料は、高価である上に、有毒な元素を含むという問題がある。また、この熱発電素子は、温度勾配をつけるために嵩高いものとなる。
【0005】
これに対して、デバイスの温度変化を電気エネルギーに変換し、蓄積する熱蓄電素子(以下、「三次電池」と言う。)が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-73596号公報
【特許文献2】国際公開第2020/121799号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
三次電池の性能(熱効率や発生する起電力)を決定しているものは、電極材料の酸化還元電位の温度係数(α)である。具体的には、三次電池で発生する起電力は、ΔT×(α(正極)-α(負極))で表される。ここで、ΔTはデバイス温度の変化量、α(正極)は正極材料の温度係数、α(負極)は負極材料の温度係数である。すなわち、三次電池の性能(熱効率や発生する起電力)を向上するには、温度係数(α)の絶対値の大きな材料を開発する必要がある。また、三次電池の製造コストを下げるには、高価な希少元素を含まない材料が求められている。三次電池の出力電圧は、デバイスの温度と三次電池充電状態に依存して負の値から正の価まで変動する。そのため、三次電池をIoT機器に用いた場合、このままではIoT機器を駆動できない。そこで、外部回路で三次電池の出力電圧を安定化させる必要がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、熱効率や発生する起電力に優れる三次電池、および三次電池を備えたIoT機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の態様を有する。
[1]第1の電極と第2の電極が、電解質を介して対向してなる三次電池であって、
前記第1の電極および前記第2の電極のいずれか一方が、Zn-HCF、Cd-PBA、Cu-PBAおよびFe-PBAからなる群から選択される少なくとも1種の電極材料を含む、三次電池。
前記Zn-HCFは、一般式Na2(Zn1-zMz)2[Fe(CN)6]3(但し、Mは、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種、0.0<z<0.5)で表される化合物である。
前記Cd-PBAは、一般式Nax(Cd1-zMz)[Fe(CN)6]y(但し、Mは、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群から選択される少なくとも1種、0.8<x<2.0、0.0<z<0.5、0.7<y<1.0)で表される化合物である。
前記Cu-PBAは、一般式Nax(Cu1-zMz)[Fe(CN)6]y(但し、Mは、Mn、Fe、Co、Ni、ZnおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種、0.8<x<2.0、0.0<z<0.5、0.7<y<1.0)で表される化合物である。
前記Fe-PBAは、一般式Nax(Fe1-zMz)[Fe(CN)6]y(但し、Mは、Mn、Co、Ni、Cu、ZnおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種、0.8<x<2.0、0.0<z<0.5、0.7<y<1.0)で表される化合物である。
[2]第1の電極と第2の電極が、電解質を介して対向してなる三次電池であって、
前記第1の電極および前記第2の電極のいずれか一方が、Co-PBA、Ni-PBAおよびMn-PBAからなる群から選択される少なくとも1種の電極材料を含む、三次電池。
前記Co-PBAは、一般式Nax(Co1-zMz)[Fe(CN)6]y(但し、Mは、Mn、Fe、Ni、Cu、ZnおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種、0.8<x<2.0、0.0<z<0.5、0.7<y<1.0)で表される化合物である。
前記Ni-PBAは、一般式Nax(Ni1-zMz)[Fe(CN)6]y(但し、Mは、Mn、Fe、Co、Cu、ZnおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種、0.8<x<2.0、0.0<z<0.5、0.7<y<1.0)で表される化合物である。
前記Mn-PBAは、一般式Nax(Mn1-zMz)[Fe(CN)6]y(但し、Mは、Fe、Co、Ni、Cu、ZnおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種、0.8<x<2.0、0.0<z<0.5、0.7<y<1.0)で表される化合物である。
[3][1]または[2]に記載の三次電池と、整流回路と、昇圧回路と、安定化回路と、を備える、IoT機器。
[4][1]または[2]に記載の三次電池と、整流回路と、昇圧回路と、蓄電型安定化回路と、を備える、IoT機器。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱効率や発生する起電力に優れる三次電池、および三次電池を備えたIoT機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る三次電池を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るIoT機器を示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るIoT機器を示すブロック図である。
【
図4】実施例1において、電極材料のX線回折の結果を示す図である。
【
図5】実施例3において、電極の温度係数を測定した結果を示す図である。
【
図6】実施例3において、電極の温度係数を測定した結果を示す図である。
【
図7】実施例3において、電極の温度係数を測定した結果を示す図である。
【
図8】実施例3において、電極の温度係数を測定した結果を示す図である。
【
図9】実施例3において、電極の温度係数を測定した結果を示す図である。
【
図10】実施例3において、電極の温度係数を測定した結果を示す図である。
【
図11】実施例3において、電極の温度係数を測定した結果を示す図である。
【
図12】実施例4において、電極の起電力を測定した結果を示す図である。
【
図13】実施例5において、三次電池の熱サイクル特性を測定した結果を示す図である。
【
図14】実施例6において、三次電池の熱サイクル特性を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の三次電池、および三次電池を備えたIoT機器の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0013】
[三次電池]
以下、本発明の一実施形態に係る三次電池について、図面を用いて説明する。
図1は、本実施形態の三次電池を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態の三次電池1は、第1の電極2と、第2の電極3と、セパレータ4と、を備える。本実施形態の三次電池1は、電解質を含浸したセパレータ4を、第1の電極2と第2の電極3で挟んでいる。言い換えれば、第1の電極2と第2の電極3は、セパレータ4を介して対向している。
【0014】
本実施形態の三次電池1では、第1の電極2および第2の電極3のいずれか一方が、Zn-HCF、Cd-PBA、Cu-PBAおよびFe-PBAからなる群から選択される少なくとも1種の電極材料を含む。また、本実施形態の三次電池1では、第1の電極2および第2の電極3のいずれか一方が、Co-PBA、Ni-PBAおよびMn-PBAからなる群から選択される少なくとも1種の電極材料を含む。
本実施形態の三次電池1では、第1の電極2と第2の電極3は互いに異なる電極材料を含む。
本実施形態の三次電池1では、説明を簡略化するために、第1の電極2が上記の電極材料を含む場合を例示する。
【0015】
「第1の電極」
第1の電極2は、例えば、上記の電極材料を含む。
【0016】
HCFとは、ヘキサシアノ鉄を含んだ化合物のことである。HCFは、プルシャンブルー類似体構造を示さない。PBAとは、プルシャンブルー類似体のことである。
【0017】
Zn-HCFは、一般式Na2(Zn1-zMz)2[Fe(CN)6]3で表される化合物である。以下、一般式Na2(Zn1-zMz)2[Fe(CN)6]3を一般式(1)と言う。
一般式(1)において、Mは、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種である。0.0<z<0.5である。
Zn-HCFは、面心立方晶構造(プルシャンブルー類似体構造)とは異なる結晶構造を有する。
Zn-HCFとしては、具体的に、Na2Zn3[Fe(CN)6]2・3.8H2O等が挙げられる。
Zn-HCFは、温度の上昇に伴って負の起電力を生じる材料である。
【0018】
Cd-PBAは、一般式Nax(Cd1-zMz)[Fe(CN)6]yで表される化合物である。以下、一般式Nax(Cd1-zMz)[Fe(CN)6]yを一般式(2)と言う。
一般式(2)において、Mは、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群から選択される少なくとも1種である。0.8<x<2.0であり、1.2≦x<2.0であることが好ましく、1.6≦x<2.0であることがより好ましい。0.0<z<0.5であり、0.0<z≦0.3であることが好ましく、0.0<z≦0.1であることがより好ましい。0.7<y<1.0であり、0.8≦y<1.0であることが好ましく、0.9≦y<1.0であることがより好ましい。
Cd-PBAは、プルシャンブルー類似体構造が歪んだ、単斜晶構造を有する。
Cd-PBAとしては、具体的に、Na1.96Cd[Fe(CN)6]0.99・1.9H2O等が挙げられる。
Cd-PBAは、温度の上昇に伴って負の起電力を生じる材料である。
【0019】
Cu-PBAは、一般式Nax(Cu1-zMz)[Fe(CN)6]yで表される化合物である。以下、一般式Nax(Cu1-zMz)[Fe(CN)6]yを一般式(3)と言う。
一般式(3)において、Mは、Mn、Fe、Co、Ni、ZnおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種である。0.8<x<2.0であり、1.2≦x<2.0であることが好ましく、1.6≦x<2.0であることがより好ましい。0.0<z<0.5であり、0.0<z≦0.3であることが好ましく、0.0<z≦0.1であることがより好ましい。0.7<y<1.0であり、0.8≦y<1.0であることが好ましく、0.9≦y<1.0であることがより好ましい。
Cu-PBAは、プルシャンブルー類似体構造を有する。
Cu-PBAとしては、具体的に、Na1.52Cu[Fe(CN)6]0.88・5.8H2O等が挙げられる。
Cu-PBAは、温度の上昇に伴って負の起電力を生じる材料である。
【0020】
Fe-PBAは、一般式Nax(Fe1-zMz)[Fe(CN)6]yで表される化合物である。以下、一般式Nax(Fe1-zMz)[Fe(CN)6]yを一般式(4)と言う。
一般式(4)において、Mは、Mn、Co、Ni、Cu、ZnおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種である。0.8<x<2.0であり、1.2≦x<2.0であることが好ましく、1.6≦x<2.0であることがより好ましい。0.0<z<0.5であり、0.0<z≦0.3であることが好ましく、0.0<z≦0.1であることがより好ましい。0.7<y<1.0であり、0.8≦y<1.0であることが好ましく、0.9≦y<1.0であることがより好ましい。
Fe-PBAは、プルシャンブルー類似体構造を有する。
Fe-PBAとしては、具体的に、Na0.56Fe[Fe(CN)6]0.89・3.8H2O等が挙げられる。
Fe-PBAは、温度の上昇に伴って正の起電力を生じる材料である。
【0021】
Co-PBAは、一般式Nax(Co1-zMz)[Fe(CN)6]yで表される化合物である。以下、一般式Nax(Co1-zMz)[Fe(CN)6]yを一般式(5)と言う。
一般式(5)において、Mは、Mn、Fe、Ni、Cu、ZnおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種である。0.8<x<2.0であり、1.2≦x<2.0であることが好ましく、1.6≦x<2.0であることがより好ましい。0.0<z<0.5であり、0.0<z≦0.3であることが好ましく、0.0<z≦0.1であることがより好ましい。0.7<y<1.0であり、0.8≦y<1.0であることが好ましく、0.9≦y<1.0であることがより好ましい。
Co-PBAは、プルシャンブルー類似体構造が歪んだ、三斜晶構造を有する。
Co-PBAとしては、具体的に、Na1.48Co[Fe(CN)6]0.87・3.4H2O等が挙げられる。
Co-PBAは、温度の上昇に伴って正の起電力を生じる材料である。
【0022】
Ni-PBAは、一般式Nax(Ni1-zMz)[Fe(CN)6]yで表される化合物である。以下、一般式Nax(Ni1-zMz)[Fe(CN)6]yを一般式(6)と言う。
一般式(6)において、Mは、Mn、Fe、Co、Cu、ZnおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種である。0.8<x<2.0であり、1.2≦x<2.0であることが好ましく、1.6≦x<2.0であることがより好ましい。0.0<z<0.5であり、0.0<z≦0.3であることが好ましく、0.0<z≦0.1であることがより好ましい。0.7<y<1.0であり、0.8≦y<1.0であることが好ましく、0.9≦y<1.0であることがより好ましい。
Ni-PBAは、プルシャンブルー類似体構造を有する。
Ni-PBAとしては、具体的に、Na1.76Ni[Fe(CN)6]0.94・5.2H2O等が挙げられる。
Ni-PBAは、温度の上昇に伴って負の起電力を生じる材料である。
【0023】
Mn-PBAは、一般式Nax(Mn1-zMz)[Fe(CN)6]yで表される化合物である。以下、一般式Nax(Mn1-zMz)[Fe(CN)6]yを一般式(7)と言う。
一般式(7)において、Mは、Fe、Co、Ni、Cu、ZnおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種である。0.8<x<2.0であり、1.2≦x<2.0であることが好ましく、1.6≦x<2.0であることがより好ましい。0.0<z<0.5であり、0.0<z≦0.3であることが好ましく、0.0<z≦0.1であることがより好ましい。0.7<y<1.0であり、0.8≦y<1.0であることが好ましく、0.9≦y<1.0であることがより好ましい。
Mn-PBAは、プルシャンブルー類似体構造が歪んだ、三斜晶構造を有する。
Mn-PBAとしては、具体的に、Na1.52Mn[Fe(CN)6]0.88・2.0H2O等が挙げられる。
Mn-PBAは、温度の上昇に伴って負の起電力を生じる材料である。
【0024】
第1の電極2は、上記の電極材料以外に、バインダー樹脂(結着剤)や導電助剤を含んでいてもよい。
バインダー樹脂として、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、フッ素ゴム等が挙げられる。
導電助剤としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック(AB)、ファーネスブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0025】
「第2の電極」
第2の電極3は、第1の電極2に含まれる電極材料とは異なる電極材料を含む。
【0026】
第2の電極3に含まれる電極材料としては、上記の電極材料が挙げられる。ただし、例えば、第1の電極2がCo-PBAを含む場合、第2の電極3は、Co-PBA以外の電極材料を含む。
【0027】
第2の電極3が上記の電極材料を含む場合、第2の電極3は、第1の電極2と同様に、上記の電極材料以外に、バインダー樹脂(結着剤)や導電助剤を含んでいてもよい。
【0028】
「電解質」
電解質としては、アルカリ金属塩を溶媒に溶解してなる電解液が用いられる。
アルカリ金属塩としては、例えば、過塩素酸ナトリウム(NaClO4)、塩化ナトリウム(NaCl)、過塩素酸リチウム(LiClO4)等が挙げられる。
溶媒としては、例えば、水、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)等が挙げられる。
電解質4としては、安価である点から、水系電解質が好ましく、塩化ナトリウム水溶液がより好ましい。
【0029】
また、
図1には、三次電池1が、第1の電極2、第2の電極3および電解質4を有する1つのユニットから構成されている場合を例示したが、本実施形態はこれに限定されない。本発明の三次電池は、複数のユニットを有し、それぞれのユニットが直列に接続されたものであってもよい。直列とは、あるユニットの負極とその隣のユニットの正極を接続するものである。
【0030】
本実施形態の三次電池1によれば、第1の電極2と第2の電極3が、電解質を介して対向してなり、第1の電極2および第2の電極3のいずれか一方が、Zn-HCF、Cd-PBA、Cu-PBAおよびFe-PBAからなる群から選択される少なくとも1種の電極材料を含むため、温度変化により蓄電することができ、かつ熱効率や発生する起電力に優れる。
また、本実施形態の三次電池1によれば、第1の電極2と第2の電極3が、電解質を介して対向してなり、第1の電極2および第2の電極3のいずれか一方が、Co-PBA、Ni-PBAおよびMn-PBAからなる群から選択される少なくとも1種の電極材料を含むため、温度変化により蓄電することができ、かつ熱効率や発生する起電力に優れる。
また、本実施形態の三次電池1は、第1の電極2と第2の電極3で電解質を含浸したセパレータ4を挟んだ構造であるため、体積・重量を可能な限り小さくすることができる。
【0031】
[IoT機器]
本実施形態のIoT機器は、上述の実施形態の三次電池と、昇圧回路と、安定化回路と、を備える。
【0032】
(第1の実施形態)
図2は、本実施形態のIoT機器を示すブロック図である。
図2に示すように、本実施形態のIoT機器100は、三次電池110と、整流回路120と、昇圧回路130と、安定化回路140と、センサー150とを備える。
【0033】
三次電池110としては、上述の実施形態の三次電池1が用いられる。三次電池110は、IoT機器100の電源であり、40mV~50mVの電圧を出力する。
【0034】
三次電池110は、温度上昇時と温度下降時では、電極が反転する。その特性を利用して、三次電池110は、温度上昇時また温度下降時に稼働させることができる。したがって、三次電池110は、IoT機器100の電源としてだけでなく、IoT機器100が稼働したことを判別する稼働センサーとして用いることもできる。
【0035】
整流回路120は、三次電池110から出力された、正負交互に値が変化する電流(時間に寄らない同一方向の電流)を、時間によって同一方向となる直流電流に変換する回路である。
【0036】
昇圧回路130は、三次電池110から出力された電流の電圧を昇圧する回路である。
【0037】
安定化回路140は、三次電池110から出力された電流を定電圧にする回路である。安定化回路140は、電圧制御回路やノイズフィルタを有する。
【0038】
センサー150は、温度、湿度、位置情報、自然環境情報(降水量、積雪量、風速、震度等)の感知情報や、人および物を個別に識別できる個体識別情報を計測または判別するものである。
また、センサー150は、計測または判別した感知情報や個体識別情報を送受信する通信回路を備える。
【0039】
本実施形態のIoT機器100は、温度変化により充電された電力がある間、電力を供給する三次電池110を備えるため、供給電源や一次電池必要が不要である。本実施形態のIoT機器100では、三次電池110が電力を出力している間、センサー150によって得られた感知情報や個体識別情報を、他の機器と送受信することができる。本実施形態のIoT機器100は、屋内外問わず、温度が変化する場所であれば設置が可能であり、三次電池110の寿命を迎えるまで稼働する。また、本実施形態のIoT機器100によれば、温度変化に関わらず、一定電圧、かつ、電力を取り出すことができる。なお、再び温度変化が起こると、三次電池110にて電力が充電される。
【0040】
本実施形態のIoT機器100は、生産現場や屋外で用いられる。
本実施形態のIoT機器100が生産現場で用いられる場合、例えば、管理や生産力向上のために必要な多岐にわたる情報を永続的に収集する。
本実施形態のIoT機器100が屋外で用いられる場合、例えば、被災により供給電源が断たれた場合であっても稼働し続ける非常灯や避難路誘導サイン、供給電源および一次電池を必要としないマップポイント情報発信デバイス、供給電源および一次電池を必要としない自然環境情報モニタリング情報発信機、供給電源および一次電池を必要としない個体識別情報を発信しつづけるビーコン等として用いることができる。
【0041】
(第2の実施形態)
図3は、本実施形態のIoT機器を示すブロック図である。なお、本実施形態のIoT機器では、前記実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
図3に示すように、本実施形態のIoT機器200は、三次電池110と、整流回路120と、昇圧回路130と、安定化回路140と、センサー150と、蓄電型安定化回路210とを備える。
【0042】
蓄電型安定化回路210は、三次電池110から出力された電流を定電圧にする回路である。蓄電型安定化回路210は、電圧制御回路や蓄電デバイス(蓄電池)を有する。蓄電デバイス(蓄電池)は、温度変化により三次電池110により充電された電力を蓄電する。蓄電デバイスに電力を蓄電することにより、センサー150を常時安定に駆動することができる。
【0043】
本実施形態のIoT機器200は、温度変化により充電された電力がある間、電力を供給する三次電池110を備え、三次電池110で充電した電力を、蓄電型安定化回路210内の蓄電デバイスに蓄電する。そして、蓄電デバイスに蓄電した電力により、センサー150を常時安定に駆動するとともに、センサー150によって得られた感知情報や個体識別情報を、他の機器と送受信することができる。また、本実施形態のIoT機器200によれば、温度変化に関わらず、一定電圧、かつ、電力を取り出すことができる。なお、再び温度変化が起こると、三次電池110にて電力が充電され、蓄電型安定化回路210内の蓄電デバイスに蓄電される。
【0044】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0045】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【実施例0046】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
<電極材料の合成>
表1に示す電極材料を合成した。
電極材料を合成するための原料として、表1に示すA液とB液を用いた。
A液とB液とを個別に、マグネチックスターラーで十分に撹拌した。
その後、定量送液ポンプ(型式名:MP-2000、東京理化器械社製)を用いて、40℃にて、B液に、A液をゆっくりと滴下した。
A液の滴下終了後、A液とB液の混合液を12時間撹拌した。
その後、混合液を吸引ろ過器でろ過し、得られた沈殿物を蒸留水で3回洗浄した。
その後、沈殿物を乾燥し、回収した。得られた沈殿物が電極材料である。
【0048】
【0049】
「電極材料の結晶構造解析」
得られた電極材料について、X線回折装置により、粉末回折用ビームライン(SPring-8のBL02B2)を用いて、結晶構造解析を行った。特性X線の波長を0.0619858nm、温度を300Kとした。結果を
図4に示す。
図4に示す結果から、Cu-PBA、Ni-PBAおよびFe-PBAは、プルシャンブルー類似体構造を有することが確認された。Mn-PBAおよびCo-PBAは、プルシャンブルー類似体構造が歪んだ、三斜晶構造を有することが確認された。Cd-PBAは、プルシャンブルー類似体構造が歪んだ、単斜晶構造を有することが確認された。Zn-HCFは、プルシャンブルー類似体構造とは異なる結晶構造を有することが確認された。
また、Cu-PBAの格子定数aは1.01116nmであった。Ni-PBAの格子定数aは1.031055nmであった。Fe-PBAの格子定数aは1.023043nmであった。Mn-PBAの格子定数aは0.752941nm、格子定数cは1.785776nmであった。Co-PBAの格子定数aは0.739613nm、格子定数cは1.750400nmであった。Cd-PBAの格子定数aは0.738310nm、格子定数bは0.75858nm7、格子定数cは1.076544nm、角度βは91.7911であった。Zn-HCFの格子定数aは1.249043nm、格子定数cは3.250229nmであった。
【0050】
「電極材料の組成分析」
得られた電極材料について、エネルギー分散型X線分析装置搭載走査型電子顕微鏡(EDS-SEM)(型式名:JST-IT2000、日本電子社製)と有機元素分析装置(型式名:UNICUBE、elementar社製)を用いたCHN有機分析により、組成分析を行った。結果を表2に示す。
【0051】
【0052】
[実施例2]
(電極の作製)
上記の電極材料の粉末と導電助剤とバインダー樹脂とを、質量比で7:2:1の割合となるように秤量した。
導電助剤としては、アセチレンカーボンブラックを用いた。
バインダー樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた。
電極材料の粉末とアセチレンカーボンブラックを、乳鉢を用いて十分に混合した。この混合物を混合物Aとした。
PVDFと、質量比でその0.042倍量のジメチルホルムアミドとを混合した。この混合物を混合物Bとした。
混合物Bに混合物Aを加え、これらを、乳鉢を用いて十分に混合した。この混合物を混合物Cとした。
混合物Cを、1cm×3cmに切断したITOガラスの透明導電膜上に、ムラのないように平らに塗布し、塗膜を形成した。混合物Cの塗布量を0.1mg~0.5mgとした。
真空恒温乾燥機を用いて、上記の塗膜を60℃で真空乾燥し、ITOガラスと上記の電極材料を含む電極層とを有する電極(試料電極)を作製した。
【0053】
[実施例3]
(電極の温度係数の測定)
実施例2で得られた試料電極を作用極、白金を対極、Ag/AgCl標準電極を参照極とし、電解液として、過塩素酸ナトリウム(NaClO
4)を17mol/kg含む水溶液を用いて、三極セルを作製した。
得られた三極セルを用い、放電曲線を測定した。結果を
図5~
図11に示す。
図5~
図11において、矢印の位置で試料電極の温度係数を測定した。
放電曲線の測定方法は次の通りである。充放電装置(型式名:HJ10001SD8、北斗電工社製)で一定電流を流しながら、電極間の電位を測定した。
温度係数の測定方法は次の通りである。ビーカ型二極セルを作製し、正極および負極としては試料電極を用いた。正極と負極に温度差(ΔT)を印加し、電極間に生じる起電力(V)を測定した。ΔTとVとの傾きから、試料電極の温度係数αを求めた。
【0054】
[実施例4]
(電極間の起電力の測定)
実施例2で得られた試料電極を正極および負極とし、電解液として、過塩素酸ナトリウム(NaClO
4)を17mol/kg含む水溶液を用いて、二極セルを作製した。
一方の電極(例えば、正極)を室温(25℃)に保ち、他方の電極(例えば、負極)を恒温槽により加熱した。
電極間に温度差に対して発生する起電力を測定した。結果を表3と
図12に示す。
図12において、塗りつぶしていない丸は昇温時の温度と起電力の関係を示し、塗りつぶした丸は降温時の温度と起電力の関係を示す。
【0055】
【0056】
[実施例5]
(三次電池の熱サイクル特性の測定)
実施例2で得られた試料電極のうちCo-PBAを含む電極を正極、実施例2で得られた試料電極のうちNi-PBAを含む電極を負極とし、電解液として、過塩素酸ナトリウム(NaClO
4)を17mol/kg含む水溶液を用いて、三次電池を作製した。
得られた三次電池を下記の4過程からなる熱サイクルで温度変化させて、起電力の変化を測定した。結果を
図13に示す。
・昇温過程:openで高温(50℃)まで昇温
・放電課程:高温(50℃)で0Vまで放電
・降温過程:openで低温(10℃)まで降温
・放電課程:低温(10℃)で0Vまで放電
三次電池の温度に対して、三時電池の起電力を測定し、温度と起電力との傾きから、三次電池の起電力の温度係数を決定した。その結果、温度係数は1.06mV/Kであった。
【0057】
[実施例6]
(三次電池の熱サイクル特性の測定)
実施例2で得られた試料電極のうちCo-PBAを含む電極を正極、実施例2で得られた試料電極のうちCd-PBAを含む電極を負極とし、電解液として、過塩素酸ナトリウム(NaClO
4)を17mol/kg含む水溶液を用いて、三次電池を作製した。
得られた三次電池を下記の4過程からなる熱サイクルで温度変化させて、起電力の変化を測定した。結果を
図14に示す。
・昇温過程:openで高温(40℃)まで昇温
・放電課程:高温(40℃)で0Vまで放電
・降温過程:openで低温(10℃)まで降温
・放電課程:低温(10℃)で0Vまで放電
実施例5と同様にして、この三次電池の起電力の温度係数を測定した結果、1.38mV/Kであった。負極に含まれる電極材料をNi-PBAからCd-PBAに置き換えることより、起電力の温度係数が30%向上した。
本発明の三次電池は、センサーモジュールおよび通信モジュールを制御し、供給電源や一次電池必要を用いることなく、永続的に情報を送受信および中継することができるIoT機器等に利用可能である。