(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154827
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】全血中のビタミンAの定量方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20221005BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
G01N33/53 H
G01N33/543 521
G01N33/543 525Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058058
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山口 達哉
(57)【要約】
【課題】 本発明は、肉牛等の飼育現場において、血清や血漿を分離することなく、全血検体を用いて、血液中のビタミンA濃度を、迅速、簡便に定量することができるイムノクロマト方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、全血、界面活性剤を含む希釈液、および競合試薬を混合して検体希釈液を得る工程、前記検体希釈液を、予め抗ビタミンA抗体が固定されたイムノクロマトストリップ上に展開し、前記全血中のビタミンAと競合試薬とを、前記抗ビタミンA抗体に競合的に結合させる工程、前記抗ビタミンA抗体に結合した前記競合試薬に特異的に結合する標識体で呈色させる工程、を含み、前記検体希釈液中の界面活性剤の濃度が0.05質量%~0.2質量%であることを特徴とする、全血中のビタミンAの定量方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全血、界面活性剤を含む希釈液、および競合試薬を混合して検体希釈液を得る工程、
前記検体希釈液を、予め抗ビタミンA抗体が固定されたイムノクロマトストリップ上に展開し、前記全血中のビタミンAと競合試薬とを、前記抗ビタミンA抗体に競合的に結合させる工程、
前記抗ビタミンA抗体に結合した前記競合試薬に特異的に結合する標識体で呈色させる工程、
を含み、
前記検体希釈液中の界面活性剤の濃度が0.05質量%~0.2質量%であることを特徴とする、全血中のビタミンAの定量方法。
【請求項2】
前記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項1に記載の定量方法。
【請求項3】
前記競合試薬は、ビタミンAとビオチンが結合した複合体であることを特徴とする請求項1または2に記載の定量方法。
【請求項4】
前記全血の希釈倍率が、30倍以上300倍以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の測定方法。
【請求項5】
前記イムノクロマトストリップは、試料添加部材、膜担体、吸収部材が順に連接配置されており、前記膜担体は、抗ビタミンA抗体が固定されたテストラインを備えることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の定量方法。
【請求項6】
前記イムノクロマトストリップは、試料添加部材と膜担体との間に含浸部材が配置されており、前記含浸部材に標識体が含浸されていることを特徴とする請求項5に記載の定量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中、特に全血に含まれるビタミンAを定量するためのイムノクロマト方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肉牛、とくに高品質牛肉である和牛生産においては、筋肉中の脂肪交雑を高めることにより肉の評価が上がる。このため、脂肪の分解を促進する機能を持つビタミンAの給餌量を極端に減少させて脂肪交雑を誘導するビタミンコントロールと呼ばれる飼育管理方法が近年では主流となっている。しかしながら、ビタミンAの極端な不足は、肝機能低下などによる健康障害を引き起こし、また筋肉水腫や筋炎の発生による肉質低下をきたすことがあり大きな問題となる。このため、牛の栄養状態を知り、前述のような問題発生を防ぐ目的で血液中のビタミンA濃度を測定することが行われている。
【0003】
ビタミンA濃度の測定には、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が一般に用いられている。しかし獣医師等が現場で血液を採取し、持ち帰った後、検査機関に測定を依頼するケースがほとんどで、検査結果が出るのは数日後であり、もしビタミンAが不足、あるいは超過していても即時的な対処が出来ないという欠点がある。
【0004】
例えば、特許文献1および特許文献2には、血清から有機溶剤で抽出したビタミンAに特定波長の光を照射することにより、ビタミンAを定量する方法が記載されている。しかしながら、この方法は、採取した血液を遠心して血清を分離した後、エタノールによる血清タンパク質の除去操作、およびヘプタンによるビタミンA成分の抽出操作が必要であり、HPLCのような大型装置は要らないものの、牛の飼育現場で実施するには操作が煩雑であり、時間や手間が掛かるといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-230447号
【特許文献2】特開2015-169627号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、肉牛等の飼育現場において、血清や血漿を分離することなく、全血を用いて、血液中のビタミンA濃度を、迅速、簡便に定量することができるイムノクロマト方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下に示す手段により上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1) 全血、界面活性剤を含む希釈液、および競合試薬を混合して検体希釈液を得る工程、
前記検体希釈液を、予め抗ビタミンA抗体が固定されたイムノクロマトストリップ上に展開し、前記全血中のビタミンAと競合試薬とを、前記抗ビタミンA抗体に競合的に結合させる工程、
前記抗ビタミンA抗体に結合した前記競合試薬に特異的に結合する標識体で呈色させる工程、
を含み、
前記検体希釈液中の界面活性剤の濃度が0.05質量%~0.2質量%であることを特徴とする、全血中のビタミンAの定量方法。
(2) 前記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であることを特徴とする(1)に記載の定量方法。
(3) 前記競合試薬は、ビタミンAとビオチンが結合した複合体であることを特徴とする(1)または(2)に記載の定量方法。
(4) 前記全血の希釈倍率が、30倍以上300倍以下であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の測定方法。
(5) 前記イムノクロマトストリップは、試料添加部材、膜担体、吸収部材が順に連接配置されており、前記膜担体は、抗ビタミンA抗体が固定されたテストラインを備えることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の定量方法。
(6) 前記イムノクロマトストリップは、試料添加部材と膜担体との間に含浸部材が配置されており、前記含浸部材に標識体が含浸されていることを特徴とする(5)に記載の定量方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、血清や血漿を分離することなく、全血を用いて血液中のビタミンA濃度を迅速、簡便に定量することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の測定方法を実施するためのイムノクロマトストリップの一例を示す模式図である。
【
図2】本発明の測定方法を実施するためのイムノクロマトストリップをハウジングケースに収容した一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明は、全血、界面活性剤を含む希釈液、および競合試薬を混合して検体希釈液を得る工程、前記検体希釈液を、予め抗ビタミンA抗体が固定されたイムノクロマトストリップ上に展開し、前記全血中のビタミンAと競合試薬とを、前記抗ビタミンA抗体に競合的に結合させる工程、前記抗ビタミンA抗体に結合した前記競合試薬に特異的に結合する標識体で呈色させる工程、を含み、前記検体希釈液中の界面活性剤の濃度が0.05質量%~0.2質量%であることを特徴とする、全血中のビタミンAの定量方法である。
【0013】
(全血検体)
本発明において、使用される全血は、血清や血漿のように、遠心分離等の操作により血球成分の分離、除去が行われていない状態のものを指す。また、抗凝固剤の添加の有無は問わない。
【0014】
(ビタミンA)
本発明において、ビタミンAは、レチノール、レチナール、レチノイン酸、レチニルエステルなどのレチノイド類を指す。また、ビタミンAは、レチノール結合タンパク(RBP)、プレアルブミンと複合体を形成したものであってもよい。
【0015】
(希釈液)
希釈液は、所定のpH範囲において充分な緩衝能力を有していれば、いかなる種類の緩衝剤を用いてもよく、例えば、トリス、リン酸、フタル酸、クエン酸、マレイン酸、コハク酸、シュウ酸、ホウ酸、酒石酸、酢酸、炭酸、グッドバッファー(MES、ADA、PIPES、ACES、コラミン塩酸、BES、TES、HEPES、アセトアミドグリシン、トリシン、グリシンアミド、ビシン)等が挙げられる。本発明において、前記所定のpHは6~8である。
【0016】
また、希釈液は、全血中の赤血球を溶血させるため、また、生体試料の展開性を向上させるために、免疫反応に影響しないノニオン性界面活性剤を含むことが好ましい。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(Triton(登録商標)系界面活性剤等)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(Brij(登録商標)系界面活性剤等)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween(登録商標)系界面活性剤等)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アルキルグルコシド、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。また、前記界面活性剤は単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、検体希釈液中の界面活性剤の濃度は、0.01質量%~0.2質量%が好ましく、0.05質量%~0.2質量%がより好ましく、0.05質量%~0.15質量%がさらに好ましい。濃度が低すぎると、生体試料希釈液が展開しにくく、濃度が高すぎると、テストラインのシグナルが低くなる。
【0017】
また、希釈液は、競合反応の効率化、促進、特異性向上のために、ポリエチレングリコールおよび塩化ナトリウムを含んでいることが好ましい。希釈液へのポリエチレングリコールおよび塩化ナトリウムの添加濃度は、全血の希釈倍率を考慮して検体希釈液中の終濃度がそれぞれ、1質量%~4質量%、1質量%~3質量%となるように調整するのが好ましい。なお、使用するポリエチレングリコールの数平均分子量は、好ましくは2000~16000であり、より好ましくは5000~10000である。数平均分子量が小さい場合、本発明に適した充分な抗原抗体反応の促進作用が得られないことがある。また、数平均分子量が大きい場合、同様に、抗原抗体反応の促進作用が得られないとか、検体希釈液の粘性が高くなり、イムノクロマトストリップ上の展開性が低下することがある。
【0018】
(希釈倍率)
本発明において、生体試料の希釈倍率は、30倍~300倍とするのが適当である。希釈倍率が低すぎると、生体試料中の夾雑物質が定量値に影響を与えることがある。また、希釈倍率が高すぎると、生体試料中のビタミンA量が少なくなるため、測定の精度が低くなることがある。
【0019】
(競合試薬)
本発明において、競合試薬は、生体試料中の遊離またはタンパク質に結合した状態のビタミンAと競合することが出来、かつ標識体(物質)により検出が可能であれば特に制限はない。競合試薬は、ビタミンAと化合物との複合体を用いるのが好ましい。複合体とすることでビタミンAが安定化し、また性能の良い抗体が入手し易いことから好ましい。化合物としては、牛血清アルブミン、卵白アルブミンやビオチンなどが挙げられ、これらの中でもビオチンが好適に用いられる。詳細な理由は不明だが、ビタミンAと低分子量のビオチンとの複合体は、アルブミン等の高分子化合物との複合体よりも、生体試料中のビタミンAに対して競合原理が働きやすいためと推測している。また、ビタミンAと低分子化合物との複合体は、ビタミンAと牛血清アルブミンなどのタンパク質との複合体よりも製造コストを低く抑えられるメリットもある。なお、検体希釈液中の競合試薬の濃度は、生体試料(全血)1mlあたり、10ng~10μgとするのが好ましい。競合試薬の濃度が低すぎると、測定時のシグナルが全般に低くなり定量性が悪くなる。また、競合試薬の濃度が高すぎると、非特異的なシグナルが増大し、やはり定量性が悪くなる。
【0020】
なお、ビタミンAは不安定な化合物であり、光や熱によって二重結合の異性化が起こりやすく、また酸や空気、金属イオンとも反応しやすいため、容易に分解してしまう畏れがある。そのため、競合試薬は低温、暗所にて使用時まで保存するのが好ましい。保存温度としては4℃以下が好ましく、-20℃以下がより好ましく、-80℃以下がさらに好ましい。したがって、競合試薬は、使用時(前)に希釈液に添加してもよいし、予め希釈液に添加、混合したものを使用時まで前記温度で保存してもよい。
【0021】
(競合法)
本発明において、生体試料中のビタミンAは競合法により定量するのが好ましい。ビタミンAのような低分子化合物は、2種類の抗体でサンドイッチすることが難しいため、競合法をとることが好ましい。即ち、生体試料、競合試薬(ビタミンAと化合物との複合体)、および検体希釈液を混合して得られた生体試料希釈液をイムノクロマトストリップ上に滴下、展開することにより、生体試料中のビタミンA及び競合試薬は、テストラインを成す抗ビタミンA抗体に競合的に捕捉される。捕捉された複合体を、化合物に対する抗体を持つ標識物質により呈色させ、テストライン上のシグナルを得ることにより定量することが出来る。競合試薬は、生体試料1mlに対して10ng~10μg添加するのが好ましい。
【0022】
(抗ビタミンA抗体)
本発明で膜担体のテストラインに固定化する抗体は、ビタミンAに特異的に結合することが出来る抗ビタミンA抗体であればよく、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよいが、反応特異性の観点からモノクローナル抗体であることが好ましい。ビタミンAは低分子化合物であり十分な複雑性を備えていないため、通常では免疫応答を誘発できない。このため、免疫した動物に抗体を産出させるには、オボアルブミンなどのキャリアタンパク質へビタミンAを化学結合したものを免疫原として用いる必要がある。また、アジュバントを混合して免疫原を注入すると、免疫応答強度が上がり、よい抗体を得る可能性が高まる。また、ポリクローナル抗体は、ウサギやマウスなどに免疫して得られた抗血清から精製して得ることが出来る。一方、モノクローナル抗体は、例えば、ビタミンAとオボアルブミンの結合物を適当なアジュバンドとともにマウスのような動物に免疫したのち、免疫された動物の脾細胞とミエローマ細胞とを融合し、融合細胞のみが増殖出来る選択培地で培養し、増殖した細胞を前記ビタミンAとの結合物などを使用して、たとえば、酵素標識免疫法などにより選別することにより、取得することができる。
【0023】
(標識体)
本発明において、標識体は、ビタミンAに結合した化合物に対する抗体に標識物質を結合させたものを用いるのが好ましい。抗体は、ビタミンAに結合した化合物に対する抗体であればよく、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよいが、反応特異性の観点からモノクローナル抗体であることが好ましい。
【0024】
標識物質は特に制限はなく、例えば、呈色(蛍光を含む)標識物質、酵素標識物質などが挙げられるが、迅速に検査結果が得られることから呈色標識物質であることが好ましい。呈色標識物質としては、コロイド金属および着色ラテックス粒子、着色セルロース粒子などが挙げられる。コロイド金属の代表例としては、白金コロイド、金コロイド、銀コロイド、白金コロイド、パラジウムコロイド、金ナノロッド、金ナノプレート、銀ナノプレートなどが挙げられる。コロイド金属の粒子の大きさは通常、直径3~100nm程度とされる。着色ラテックスの代表例としては、赤色および青色などのそれぞれの顔料で着色されたポリスチレンラテックス、ポリメタクリル酸メチル、アクリル酸重合体などが挙げられる。ラテックス粒子の粒径としては特に制限されないが、粒径25~500nmのものが好ましい。この他に、市販されている着色セルロース粒子なども使用出来る。セルロース粒子の粒径としては特に制限されないが、粒径100~500nmのものが好ましい。蛍光標識物質としてはポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルトルエン、シリカなどの材質からなるものを例示することができ、蛍光色素としてはフルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、シアニンおよびその誘導体などを例示することができる。
【0025】
前記着色セルロース粒子の色は、特に限定されないが、例えば赤色、青色、黄色、緑色、黒色、白色、蛍光色が挙げられる。本発明においては全血検体を測定するため、ヘモグロビン由来の赤色の影響を受けにくい青色、黒色が好ましく、青色がより好ましい。このようなセルロース系着色微粒子としては、旭化成社製の着色セルロースナノビーズ(NanoAct(登録商標))が挙げられるが、この中でもNavy(BL1)、Dark Navy(BL2)、Black(KR1)が好ましく、Navy(BL1)、Dark Navy(BL2)がより好ましい。
【0026】
また、標識物質表面への非特異結合を抑えるためにブロッキング剤を用いて処理するのが好ましい。ブロッキング剤は、ポリエチレングリコールやタンパク質を用いるのが好ましい。タンパク質としてはBlocking Peptide Fragment、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼインなどが好ましい。これらのブロッキング剤は市販されているものがあればそれを用いても良いし、別途公知の方法で製造しても良い。分子サイズも特に制限されないが、平均分子量で100kDa以下が好ましい。一般的にブロッキング剤の分子サイズが小さいほど検出粒子1粒子に対するタンパク質の結合量が増加し感度などの性能が高くなる。
【0027】
(イムノクロマトストリップ)
イムノクロマトストリップの具体例としては、
図1に示すようなイムノクロマトストリップ8が挙げられる。
図1において、1は粘着シート、2は含浸部材、3は膜担体、4はテストライン、5はコントロールライン、6は試料添加部材、7は吸収部材を示している。膜担体3は、幅5mm、長さ25mmの細長い帯状のニトロセルロース製メンブレンフィルターからなり、同じく幅5mmの粘着シート1の中ほどに貼り付けられている。膜担体3には、クロマト展開の始点側、すなわち
図1の左側(上流側)の末端から右側(下流側)に向かって3~15mmの位置に、競合試薬(ビタミンAと化合物との複合体)と生体試料中のビタミンAを競合的に捕捉するためのテストライン4(抗ビタミンA抗体が線状に固定)が形成されている。さらに、膜担体3の上流側の末端から下流側に向かって8~25mmの位置にコントロールライン5が設けられている。なお、テストラインはコントロールラインよりも上流側に位置し、テストラインとコントロールラインとの距離は3mm以上10mm未満とするのが好ましい。コントロールライン5は、分析対象物質であるビタミンAの存否に係わらずイムノクロマト反応が行われたことを確認するためのものである。
【0028】
(テストライン)
本発明において、テストラインには、ビタミンAに特異的に結合する抗ビタミンA抗体が固定化されている。前記抗ビタミンA抗体は、反応特異性の観点からモノクローナル抗体であることが好ましい。
【0029】
(コントロールライン)
本発明において、コントロールラインには、標識体中の化合物を特異的に結合する抗体が固定化されている。例えば、抗ウサギIgG抗体や抗マウスIgG抗体などを膜担体に固定化することによって形成することができる。コントロールラインを用いることにより、前記したように標識体が膜担体の最下流部まで移動したこと、即ち、イムノクロマト反応が(正常に)行われたことを確認することができる。
【0030】
(膜担体)
膜担体3は、ニトロセルロース製メンブレンフィルターを用いるが、全血に含まれるビタミンAをクロマト展開可能で、かつ、テストライン4を形成する抗体等の物質を固定可能なものであれば、いかなるものであってもよく、他のセルロース類膜、ナイロン膜、ガラス繊維膜なども使用できる。
【0031】
(含浸部材)
含浸部材2は、ガラス繊維を用いるが、これに限定されるものではなく、濾紙、ニトロセルロース膜、ポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔質プラスチック不織布なども使用できる。含浸部材2は、標識体を含む懸濁液を前記ガラス繊維等の部材に含浸せしめ、これを乾燥させることによって作製できる。なお、本発明において、含浸部材はあってもなくてもよい。含浸部材を用いる際には、競合試薬に対する抗体に標識物質を結合した標識体を予め含浸させた含浸部材を試料添加部材と膜担体との間に配置させて用いることができるが、前記競合試薬に対する抗体に標識物質を結合した標識体を含有させた希釈液を用いる場合には、含浸部材は不要である。
【0032】
(試料添加部材)
試料添加部材6は、例えば、多孔質ポリエチレンおよび多孔質ポリプロピレンなどのような多孔質合成樹脂のシートまたはフィルム、あるいは、濾紙および綿布などのようなセルロース製の紙または不織布などを用いることができる。
【0033】
(吸収部材)
吸収部材7は、液体をすみやかに吸収、保持できる材質のものであればよく、綿布、濾紙、およびポリエチレン、ポリプロピレン等からなる多孔質プラスチック不織布等を挙げることができるが、特に濾紙が好適である。
【0034】
イムノクロマトストリップは、これを保護するため、また、取り扱いがし易いように、プラスチック製のハウジングケース9などに収容されていてもよい(
図2)。このケースは、例えば、イムノクロマトストリップの試料添加部材6およびテストライン4およびコントロールライン5の上部に、試料滴下部10と判定部(判定窓)11が開口されて提供されることが好ましい。
【0035】
(イムノクロマト展開)
本発明のビタミンAの定量方法について説明する。まず、生体試料、競合試薬、および検体希釈液を混合して生体試料希釈液を調製する。得られた生体試料希釈液をイムノクロマトストリップの試料滴下部位に滴下して毛細管現象を利用してイムノクロマトストリップ上を展開させる。展開中の生体試料希釈液中のビタミンAは、競合試薬(ビタミンAと化合物との複合体)と競合的にテストラインを成す抗ビタミンA抗体に捕捉される。さらに、生体試料希釈液が含浸部材を通過する際に標識体を溶出させ、標識体は抗ビタミンA抗体に捕捉された競合試薬(ビタミンAと化合物との複合体)に結合する。テストラインのシグナル(呈色)を測定することにより定量することが出来る。なお、展開開始後、5~12分の間にテストラインの呈色を測定することが望ましい。この間に測定を行えば、ビタミンAと、競合試薬(ビタミンAと化合物の複合体)との競合反応が最も効果的に起き、ビタミンAの濃度変化に応じた測定値の変化がテストラインにおいて得られ、ビタミンA濃度の違いが測定値に的確に反映されるため好ましい。
【実施例0036】
(競合試薬の調製)
ビタミンA(レチナール、MyBiosource.Inc.、MBS6023224)を、Biotin-hydrazide(同仁化学、B303)を用いて、ビオチン化することにより、競合試薬を調製した。調製後、使用時まで-30℃に保存した。
【0037】
(希釈液の調製)
リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4、ナカライテスク社、27576-21)にTritonX-100(シグマアルドリッチ社、10789704001)、ポリエチレングリコール#6000(ナカライテスク、Code:10200-25)、塩化ナトリウムを加えて溶解し、希釈液を調製した。
【0038】
(抗ビオチン抗体結合セルロース粒子の調製)
セルロース粒子液(旭化成、BL1、1質量%)をpH7.0の10mM Tris Buffer(PBS)に懸濁させ、これに抗ビオチン抗体(SIGMA、B3640)を加えて混合し、37℃で120分間静置して、抗体をセルロース粒子表面に結合させた。更に、セルロース粒子表面への非特異結合を抑えるために、1質量%カゼインを添加し、37℃で60分間静置してブロッキング処理を行った。この後、洗浄操作を行った後、1質量%スクロース含有pH7.4のPBSに懸濁して、抗ビオチン抗体結合セルロース粒子液を調製した。
【0039】
(イムノクロマトストリップの作製)
(1)含浸部材の作製
8mm×150mmの帯状のガラス繊維不織布に、上記で得られた抗ビオチン抗体結合セルロース粒子液を0.5ml含浸させた。室温で乾燥させた後に、8mm×5mmの大きさに切断し、含浸部材とした。
【0040】
(2)膜担体の作製
抗ビタミンA抗体(Cloud-Clone Corp.、PAD051Ge01)を1mg/mlの濃度に調製した後、これを25mm×300mmのニトロセルロース製メンブレンフィルターに1.0μl/cmの量で線状に塗布してテストラインを調製した。
次に、抗ウサギIgG抗体(MyBiosource.Inc.、MBS539780)を1mg/mlの濃度に調製した後、上記ニトロセルロース製メンブレンフィルターに1.0μl/cmの量で線状に塗布してコントロールラインを調製した。
テストラインおよびコントロールラインを調製後、50℃で30分間乾燥させ、25mm×5mmの大きさに切断し、膜担体とした。
【0041】
(3)イムノクロマトストリップの作製
図1に示すように、粘着シート1の上に、試料添加部材6、膜担体3、含浸部材2、吸収部材7を配置し、イムノクロマトストリップを作製した。
【0042】
(実施例1)
血液10μlに検体希釈液490μlを添加して希釈し、さらに競合試薬(ビタミンA-ビオチン複合体)0.5ngを添加して生体試料希釈液を調製した。血液の希釈倍率は50倍であった。また、界面活性剤の終濃度は0.05質量%とした。得られた検体希釈液を前記調製したイムノクロマト試験片の試料滴下部に100μL滴下し、展開させた。滴下より10分後に、イムノクロマトリーダー(浜松ホトニクス社製C10060-10、測定モード:青色系ライン測定モード)を用いてテストラインの呈色を測定した。
【0043】
(実施例2)
血液10μlに検体希釈液490μlを添加して希釈し、さらに競合試薬(ビタミンA-ビオチン複合体)0.5ngを添加して生体試料希釈液を調製した。血液の希釈倍率は50倍であった。また、界面活性剤の終濃度は0.1質量%とした。得られた検体希釈液を前記調製したイムノクロマト試験片の試料滴下部に100μL滴下し、展開させた。滴下より10分後に、イムノクロマトリーダーを用いてテストラインの呈色を測定した。
【0044】
(実施例3)
血液10μlに検体希釈液490μlを添加して希釈し、さらに競合試薬(ビタミンA-ビオチン複合0.5ngを添加して生体試料希釈液を調製した。血液の希釈倍率は50倍であった。また、界面活性剤の終濃度は0.2質量%とした。得られた検体希釈液を前記調製したイムノクロマト試験片の試料滴下部に100μL滴下し、展開させた。滴下より10分後に、イムノクロマトリーダーを用いてテストラインの呈色を測定した。
【0045】
(実施例4)
血液10μlに検体希釈液290μlを添加して希釈し、さらに競合試薬(ビタミンA-ビオチン複合体)0.5ngを添加して生体試料希釈液を調製した。血液の希釈倍率は30倍であった。また、界面活性剤の終濃度は0.1質量%とした。得られた検体希釈液を前記調製したイムノクロマト試験片の試料滴下部に100μL滴下し、展開させた。滴下より10分後に、イムノクロマトリーダーを用いてテストラインの呈色を測定した。
【0046】
(実施例5)
血液10μlに検体希釈液990μlを添加して希釈し、さらに競合試薬(ビタミンA-ビオチン複合体)0.5ngを添加して生体試料希釈液を調製した。血液の希釈倍率は100倍であった。また、界面活性剤の終濃度は0.1質量%とした。得られた検体希釈液を前記調製したイムノクロマト試験片の試料滴下部に100μL滴下し、展開させた。滴下より10分後に、イムノクロマトリーダーを用いてテストラインの呈色を測定した。
【0047】
(実施例6)
血液10μlに検体希釈液2990μlを添加して希釈し、さらに競合試薬(ビタミンA-ビオチン複合体)0.5ngを添加して生体試料希釈液を調製した。血液の希釈倍率は300倍であった。また、界面活性剤の終濃度は0.1質量%とした。得られた検体希釈液を前記調製したイムノクロマト試験片の試料滴下部に100μL滴下し、展開させた。滴下より10分後に、イムノクロマトリーダーを用いてテストラインの呈色を測定した。
【0048】
(実施例7)
血液10μlに検体希釈液4990μlを添加して希釈し、さらに競合試薬(ビタミンA-ビオチン複合体)0.5ngを添加して生体試料希釈液を調製した。血液の希釈倍率は500倍であった。また、界面活性剤の終濃度は0.1質量%とした。得られた検体希釈液を前記調製したイムノクロマト試験片の試料滴下部に100μL滴下し、展開させた。滴下より10分後に、イムノクロマトリーダーを用いてテストラインの呈色を測定した。
【0049】
(実施例8)
血液10μlに検体希釈液190μlを添加して希釈し、さらに競合試薬(ビタミンA-ビオチン複合体)0.5ngを添加して生体試料希釈液を調製した。血液の希釈倍率は20倍であった。また、界面活性剤の終濃度は0.1質量%とした。得られた検体希釈液を前記調製したイムノクロマト試験片の試料滴下部に100μL滴下し、展開させた。滴下より10分後に、イムノクロマトリーダーを用いてテストラインの呈色を測定した。
【0050】
(比較例1)
血液10μlに検体希釈液490μlを添加して希釈し、さらに競合試薬(ビタミンA-ビオチン複合体)0.5ngを添加して生体試料希釈液を調製した。血液の希釈倍率は50倍であった。また、界面活性剤の終濃度は0.01質量%とした。得られた検体希釈液を前記調製したイムノクロマト試験片の試料滴下部に100μL滴下し、展開させた。滴下より10分後に、イムノクロマトリーダーを用いてテストラインの呈色を測定した。
【0051】
(比較例2)
血液10μlに検体希釈液490μlを添加して希釈し、さらに競合試薬(ビタミンA-ビオチン複合体)0.5ngを添加して生体試料希釈液を調製した。血液の希釈倍率は50倍であった。また、界面活性剤の終濃度は0.3質量%とした。得られた検体希釈液を前記調製したイムノクロマト試験片の試料滴下部に100μL滴下し、展開させた。滴下より10分後に、イムノクロマトリーダーを用いてテストラインの呈色を測定した。
【0052】
上記実施例および比較例について、ウシ20頭から採血して得られた全血検体を用いて、以下の通り評価した。
【0053】
(測定値のバラツキ)
各実施例および比較例において、すべての全血検体につき、5回づつ測定を行い、CV(変動係数)の平均値を求めた。CV平均値が、5%未満を〇(good)、5%以上7.5%未満を△(average)、7.5%以上を×(bad)とした。結果を表1および表2に示す。
【0054】
(HPLC測定値との相関)
各実施例および比較例において、すべての全血検体につき、5回づつ測定を行って得られた測定平均値と、HPLC法により測定した値とを比較し、相関係数を求めた。HPLCによる測定は、臨床検査センター(株式会社近畿予防医学研究所)にて測定した。
相関係数が、0.9以上を〇(good)、0.85以上0.9未満を△(average)、0.85未満を×(bad)とした。結果を表1および表2に示す。
【0055】
【0056】