(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154837
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】ラチェット工具構造
(51)【国際特許分類】
B25B 13/46 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
B25B13/46 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058073
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000161909
【氏名又は名称】京都機械工具株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 俊輔
(57)【要約】
【課題】ボルト・ナット等の締結具を締め付け作業又は緩め作業を行うラチェット工具構造において、ヘッド部分をコンパクトに構成して作業性を高めつつ、工具の回転操作の軽快性と、ラチェット機能の切替操作の安定性の両立等を図ることができるラチェット工具構造を提供する。
【解決手段】略円筒形状のラチェット歯車部材11と、そのラチェット歯車部材11と噛み合う略三ヶ月片状の係止爪部材12と、その係止爪部材12の位置を切替える切替部材13と、を備えている。そして、この切替部材13には、係止爪部材12を押圧する第一押圧手段としての爪押圧部材14と、切替部材13の回転位置を係止固定する第二押圧手段としての切替位置押圧部材15と、を設けている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラチェット機構を備えたヘッド部と、該ヘッド部から連なり作業者が回転操作するハンドル部とを備え、ボルト・ナット等の締結具を締め付け作業又は緩め作業を行うラチェット工具構造であって、
前記ラチェット機構には、前記締結具に対して回転力を与える作用部を備えた円形のラチェット歯車部材と、
該ラチェット歯車部材のラチェット歯に噛合して、その噛合する位置によって前記ラチェット歯車部材の回転ロック方向と回転フリー方向とを規定する係止爪部材と、
前記ラチェット歯車部材のラチェット歯と前記係止爪部材との噛合位置を切替える切替部材と、を備えて、
前記切替部材には、前記ラチェット歯車部材のラチェット歯に噛合する前記係止爪部材を押圧する第一押圧手段、及び該切替部材の回転位置を係止固定する第二押圧手段と、を設けており、
前記第一押圧手段と前記第二押圧手段とを、各々別の第一付勢部材と第二付勢部材で付勢するように構成した
ことを特徴とするラチェット工具構造。
【請求項2】
前記第一押圧手段を付勢する前記第一付勢部材の付勢力を、前記第二押圧手段を付勢する前記第二付勢部材の付勢力よりも弱く設定した
ことを特徴とする請求項1記載のラチェット工具構造。
【請求項3】
前記第一押圧手段と前記第二押圧手段を、前記切替部材の回転軸の軸方向にズラして設け、このうち前記第一押圧手段を、前記第二押圧手段よりも前記切替部材の回転軸の軸方向中央側に設定した
ことを特徴とする請求項1又は2記載のラチェット工具構造。
【請求項4】
前記切替部材の回転軸の軸方向一端側に、前記第二押圧手段を設定して、
前記切替部材の回転軸の軸方向他端側には、切替部材を操作する切替レバーを設けた
ことを特徴とする請求項3記載のラチェット工具構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ボルト・ナット等の締結具を回転操作する際に用いる、いわゆるラチェット工具構造に関し、特に、作業性を高めるためにヘッド部分をコンパクトに構成したラチェット工具構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ボルト・ナット等の締結具を締め付け作業又は緩め作業を行う際に、作業性を高める工具として、いわゆるラチェット工具が知られている。このラチェット工具のヘッド部には、一方向に回転力を与え、逆方向では空転するように構成されたラチェット機構が組み込まれている。
【0003】
このラチェット機構には、様々な構造のものが存在するが、製造コストを節約して構成部品等を単純化したものとして、例えば、下記特許文献1に記載されたラチェット機構が知られている。
【0004】
この特許文献1に記載されたラチェット機構は、工具のヘッド部分をコンパクトに構成するために、ラチェット歯車に噛合する係止爪(ロック爪)部材を切り換え操作する切換機構(40)の切換ピン(54)に対して、直径方向に延びる1つの貫通孔(70)を形成して、この貫通孔(70)の内部に、ジョイントピン(80)、ばね(72)、それと係止ボール(50)を直列に配置して、ジョイントピン(80)で係止爪部材に付勢力を付与する共に、係止ボール(50)で切換ピン(54)の位置を規定するように構成している。
【0005】
この構造によると、係止爪部材の位置を切換える切換ピンに、ラチェット機構の係止爪部材に付勢力を付与する部品と切換ピンの位置を規定する部品を内蔵しているため、従来の構造よりも部品点数を削減できて、製造コストを削減することができる。また、この構造によると、切換ピンの内部に、ジョイントピンとバネと係止ボールを配置しているため、ラチェット工具のヘッド部分をコンパクトに構成することができ、従来のラチェット工具では、困難であった狭い場所での作業でも、ラチェット工具を差し入れて回転操作することができ、作業性を向上することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ラチェット工具においては、工具の回転操作の軽快性と、ラチェット機構の切替操作の安定性が求められる。具体的には、ラチェット工具でボルト・ナット等の締結具を締め付け作業又は緩め作業を行う際の工具の回転操作の軽快さと、ラチェット機構の回転方向を切替える切替部材の位置変化の安定さ等が、求められるのである。
【0008】
もっとも、この二つの要求に応えるには、前述した特許文献1の構造では困難である。なぜなら、係止爪部材を付勢するジョイントピン(80)と、切換ピンの位置を係止する係止ボール(50)とを、1つの同じばね(72)で付勢する構造であるため、同じ付勢力で、ジョイントピンと係止ボールを押圧することになってしまうからである。
【0009】
すなわち、例えば、工具の回転操作の軽快さを重視する場合には、ばねの付勢力を弱くすることで、ジョイントピンの押圧力を低めて、係止爪部材をラチェット歯車から外れやすくすることが望ましいが、ばねの付勢力が低くなると、係止ボールの押圧力も低くなり、切換ピンの位置が不意に切り替わり、ラチェット機構の回転ロック方向が勝手に切り換わるという問題が生じる。
【0010】
一方、切換ピンの位置が不意に切り替わることを防ぎたい場合には、ばねの付勢力を強めて係止ボールの押圧力を高めて、係止ボールの出没が簡単に生じないようにすることが望ましいが、ばねの付勢力が強くなると、ジョイントピンの押圧力が高くなり、係止爪部材がラチェット歯車に強く押されて、空転トルクが重く、操作がしにくくなり、工具の回転操作の軽快性が損なわれるという問題が生じるからである。
【0011】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたもので、その目的は、ボルト・ナット等の締結具を締め付け作業又は緩め作業を行うラチェット工具構造において、ヘッド部分をコンパクトに構成して作業性を高めつつ、工具の回転操作の軽快性と、ラチェット機能の切替操作の安定性の両立等を図ることができるラチェット工具構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
その目的を達成するために、この発明では、ボルト・ナット等の締結具を締め付け作業又は緩め作業を行うラチェット工具構造において、ラチェット工具のヘッド部に設けられるラチェット機構の係止爪部材の位置の切替を行う切替部材に、ラチェット歯車に噛合する係止爪部材を押圧する第一押圧手段と、その切替部材の回転位置を係止する第二押圧手段とを設けて、各押圧手段が別々の付勢部材で付勢されるように構成していることを特徴とするものである。
【0013】
具体的に、第1の発明では、ラチェット機構を備えたヘッド部と、該ヘッド部から連なり作業者が回転操作するハンドル部とを備え、ボルト・ナット等の締結具を締め付け作業又は緩め作業を行うラチェット工具構造であって、前記ラチェット機構には、前記締結具に対して回転力を与える作用部を備えた円形のラチェット歯車部材と、該ラチェット歯車部材のラチェット歯に噛合して、その噛合する位置によって前記ラチェット歯車部材の回転ロック方向と回転フリー方向とを規定する係止爪部材と、前記ラチェット歯車部材のラチェット歯と前記係止爪部材との噛合位置を切替える切替部材と、を備えて、前記切替部材には、前記ラチェット歯車部材のラチェット歯に噛合する前記係止爪部材を押圧する第一押圧手段、及び該切替部材の回転位置を係止固定する第二押圧手段と、を設けており、前記第一押圧手段と前記第二押圧手段とを、各々別の第一付勢部材と第二付勢部材で付勢するように構成したものである。
【0014】
この構成によれば、ラチェット歯車部材の歯車と係止爪部材の噛合する位置を切替える切替部材に、係止爪部材を押圧する第一押圧手段と、切替部材の回転位置を係止固定する第二押圧手段と、を設けて、それら第一押圧手段と第二押圧手段が、各々別の第一付勢部材と第二付勢部材で付勢されるため、第一押圧手段の付勢力と第二押圧手段の付勢力は、それぞれの付勢力に影響を受ける事なく、各付勢部材によって自由に設定することができる。
【0015】
このため、第一押圧手段が押圧する係止爪部材のラチェット歯車部材との噛合状態を自由に調整することができつつも、別途、第二押圧手段による切替部材の係止固定の押圧力も自由に調整することができる。
【0016】
なお、第一押圧手段と第二押圧手段は、それぞれ押圧力を付与できるものであれば、ボール状の球体であっても、弾丸状のピン体であっても良く、どのような形状であっても良い。
【0017】
また、切替部材についても、その位置で回転(自転)して、係止爪部材を押圧できるものであれば、どのような形状であってもよい。例えば、切替部材を操作する操作レバーについても一体に構成するものであっても別体で構成するものであっても良い。
【0018】
さらに、第一付勢部材と第二付勢部材は、付勢力を付与できるものであれば、そのような形状であってもよく、第一付勢部材と第二付勢部材が異なる形状のバネ部材であっても良いし、同じ形状のバネ部材であっても良い。また、ゴム製部材で構成しても良い。
【0019】
第2の発明では、前記第一押圧手段を付勢する前記第一付勢部材の付勢力を、前記第二押圧手段を付勢する前記第二付勢部材の付勢力よりも弱く設定したものである。
【0020】
この構成によれば、第一付勢部材の付勢力を、第二付勢部材の付勢力よりも弱く設定したことで、第一押圧手段で押圧される係止爪部材への押圧力を、第二押圧手段で押圧される切替部材の回転操作反力(位置を保持する力)よりも小さくすることができる。
【0021】
このため、係止爪部材がラチェット歯車部材のラチェット歯から外れやすくすることができ、工具の回転操作の軽快さを満たす事ができつつも、切替部材の回転が生じにくいため、切替部材の位置が不意に切り替わり、ラチェット機構の回転ロック方向が不意に切り替わることを防ぐことができる。
【0022】
よって、工具の回転操作の軽快性とラチェット機能の切替操作の安定性の両立を、より確実に図ることができる。
【0023】
第3の発明では、前記第一押圧手段と前記第二押圧手段を、前記切替部材の回転軸の軸方向にズラして設け、このうち前記第一押圧手段を、前記第二押圧手段よりも前記切替部材の回転軸の軸方向中央側に設定したものである。
【0024】
この構成によれば、第一押圧手段と第二押圧手段とを、切替部材の回転軸の軸方向にズラして設けることで、切替部材の径方向サイズを大きく(太く)しなくても、各押圧手段の移動量(ストローク量)を十分に確保することできる。また、第一押圧手段を、第二押圧手段よりも切替部材の回転軸の軸方向中央側に設定することで、第一押圧手段が係止爪部材を幅方向端部ではなく、中央側で押圧するため、係止爪部材がラチェット歯に対して斜め掛かりとなることを防ぐことができる。
【0025】
このため、切替部材のサイズをコンパクトに構成しつつも、第一押圧手段と第二押圧手段との押圧力の調整を容易に行うことができる。また、係止爪部材がラチェット歯に対して斜め掛かりとならないため、ラチェット機構の機能を安定させることができる。
【0026】
よって、よりヘッド部分をコンパクトに構成して作業性を高めることができつつも、工具の回転操作の安定性を高めることができる。
【0027】
第4の発明では、前記切替部材の回転軸の軸方向一端側に、前記第二押圧手段を設定して、前記切替部材の回転軸の軸方向他端側には、切替部材を操作する切替レバーを設けたものである。
【0028】
この構成によれば、切替部材の回転軸の軸方向一端側に、第二押圧手段を設定して、反対側である切替部材の回転軸の軸方向他端側に、切替レバーを設けたことで、切替レバーからの操作力は、切替部材全体を経由して第二押圧部材に伝わることになる。
【0029】
このため、切替レバーの操作力が、第一押圧部材を設定した切替部材の回転軸の軸方向中央位置にも確実に伝わり、切替レバーを回転操作した際には、第一押圧部材の位置も確実に変化することになる。
【0030】
よって、第一押圧部材による付勢力を、正確な位置で係止爪部材に与えることができるため、ラチェット機構の機能を確実に果たすことができる。
【発明の効果】
【0031】
以上、説明したように、本発明によれば、第一押圧手段が押圧する係止爪部材のラチェット歯車部材との噛合状態を自由に調整することができつつも、別途、第二押圧手段による切替部材の係止固定の押圧力も自由に調整することができる。
【0032】
よって、ボルト・ナット等の締結具を締め付け作業又は緩め作業を行うラチェット工具構造において、、ヘッド部分をコンパクトに構成して作業性を高めつつ、工具の回転操作の軽快性と、ラチェット機能の切替操作の安定性の両立等を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の実施形態1に係るラチェット工具構造の全体斜視図である。
【
図2】実施形態1に係るラチェット工具構造の分解斜視図である。
【
図3】実施形態1に係るラチェット工具構造のヘッド部分のラチェット機構を示した詳細底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0035】
(実施形態1)
まず、
図1と
図2を使って、本実施形態1のラチェット工具構造Tの全体構造について説明する。
【0036】
本実施形態のラチェット工具構造Tは、先端側に設けた略小判形状のヘッド部1と、基端側に設けた長尺状のハンドル部2とを備えており、このうち、ハンドル部2に設けた把持部3を作業者が把持して、左右方向に回転操作することで、ヘッド部1に回転トルクを作用させることができるように構成している。
【0037】
前述のヘッド部1には、いわゆるラチェット機構10が組み込まれている。このラチェット機構10は、周知のように、一方向の回転には回転規制(回転ロック)を行うことで回転トルクを伝達して、逆方向の回転には空転(回転フリー)となることで回転トルクを伝達しないように構成している。
【0038】
本実施形態のラチェット機構10は、
図2に示すように、複数の構成部品で構成されており、略円筒形状のラチェット歯車部材11と、そのラチェット歯車部材11と噛み合う略三ヶ月片状の係止爪部材12と、その係止爪部材12の位置を切替える切替部材13と、を備えている。そして、この切替部材13には、係止爪部材12を押圧する第一押圧手段としての爪押圧部材14と、切替部材13の回転位置を係止固定する第二押圧手段としての切替位置押圧部材15と、を設けている。
【0039】
また、ヘッド部1には、ボルト・ナットの頭部に嵌るソケットS(
図4参照)を着脱するソケット着脱機構20と、これら構成部品をヘッド部内部に収納した後に封鎖するカバー部材4と、このカバー部材4をヘッド部1に締結固定する2本の固定ネジ5,5と、を備えている。
【0040】
まず、前述のラチェット歯車部材11は、上部の円筒部の外周表面に形成したラチェット歯11Aと、下部のボルト・ナットに対して回転力を与える作用部としての矩形形状のソケット差込部11Bとを備えている。前記ラチェット歯11Aは、上下方向に所定幅を有した山型の歯で構成されている。そして、このラチェット歯11Aは、ラチェット回転の送り角度をできるだけ小さくするために歯数を多めに形成している。
【0041】
また、前記ソケット差込部11Bは、周囲四面のうち一面にソケット脱着機構20の係止ボール21を出没させるボール出没穴11Cを形成している。
【0042】
前述の係止爪部材12は、その内周面に、上下方向に所定幅を有した山型の爪歯12Aを形成している。また、その外周面には、その中央に一部凹んだ押圧受け部12Bを形成している。
【0043】
前述の切替部材13は、上下方向(軸方向)に延びた略円柱状の切替ピン部13Aと、該切替ピン部13Aの上端に設けた切替レバー部13Bとを備えている。この切替レバー部13Bは、切替ピン部13Aと一体部材として構成することでコストアップを避けるようにしている。
【0044】
前述の爪押圧部材14は、先端が球面の弾丸形状の第一押圧ピン14Aで構成しており、この第一押圧ピン14Aの後方には、付勢力を付与する第一付勢部材としてのコイル形状の第一バネ部材141を配置している。この第一押圧ピン14Aと第一バネ部材141は、切替ピン部13Aに設けた第一凹部132内に移動自在に収容されている。
【0045】
前述の切替位置押圧部材15も、先端が球面の弾丸形状の第二押圧ピン15Aで構成しており、この第二押圧ピン15Aの後方にも、付勢力を付与する第二付勢部材としてのコイル形状の第二バネ部材151を配置している。この第二押圧ピン15Aと第二バネ部材151も、切替ピン部13Aに設けた第二凹部133内(後述する
図4参照)に移動自在に収容されている。
【0046】
前述のソケット着脱機構20は、前記ラチェット歯車部材11の内側に貫通配置される押ボタン柱体22と、この押ボタン柱体22に嵌め込まれて、その押ボタン柱体22に対して上向きの付勢力を発生するコイル形状のボタンスプリング23と、押ボタン柱体22の上下位置に応じて出没する球形の係止ボール21と、で構成している。
【0047】
前記押ボタン柱体22は、上部に設けた円形のボタン部22Aと、上下方向に延びる円形の円柱部22Bとを備えており、円柱部22Bの下部には、係止ボール21の出没位置を規定するガイド溝22Cを形成している。このガイド溝22Cによって、押ボタン柱体22を上下動させることで、係止ボール21をソケット差込部11Bのボール出没穴11Cから出没させることができる。
【0048】
前述のカバー部材4は、略小判形状の前記ヘッド部1の形状に対応して、略小判形状の平板で構成されている。そして、その中央にはソケット差込部11Cに対応した円形の開口部4aを形成し、基端側には固定ネジ5,5を挿通させる2つの貫通孔4b、4bを形成している。
【0049】
次に、
図3、
図4を使って、本実施形態1のラチェット工具構造Tのラチェット機構10の詳細構造について説明する。
【0050】
図3は、カバー部材4を取り外した状態のヘッド部1の詳細底面図である。この
図3に示すように、ラチェット歯車部材11のラチェット歯11Aに対して、係止爪部材12の爪歯12Aを噛合させることで、ラチェット機構10を作動させることができる。そして、この係止爪部材12の爪歯12Aの噛合位置を、切替部材13で切替えることにより、ラチェット機構10の作動方向を反転させることができる。
【0051】
この切替部材13の切替ピン部13Aの回転位置は、切替位置押圧部材15と、ヘッド部1に設けた左右一対の位置決め凹部6,6とによって規定される。すなわち、切替ピン部13Aに隣接するヘッド部1の基端側には、左右それぞれ約37.5°傾いた位置に円弧形状の位置決め凹部6,6が形成されている。この位置決め凹部6,6に対して、切替ピン部13Aに設けた切替位置押圧部材15である第二押圧ピン15Aが嵌まり込むことで、切替部材13の切替ピン部13Aの回転位置が決まるのである。
【0052】
なお、この位置決め凹部に対して、第二押圧ピンが嵌り込むことで、切替レバー部13Bによって切替ピン部が大きく回転される場合であっても、それ以上の回転が抑制されるため、爪押圧部材14がヘッド部1と干渉することなく、確実に係止爪部材12を押圧させることができる。
【0053】
そして、この切替位置押圧部材15と爪押圧部材14は、共に切替部材13の切替ピン部13Aに設けられているが、
図4に示すように、切替ピン部13Aの回転軸の軸方向にズラして設けられている。このように、切替位置押圧部材15と爪押圧部材14を切替ピン部13Aの回転軸の軸方向にズラして設けていることで、切替ピン部13Aの直径方向のサイズを大きくすることなく、切替位置押圧部材15と爪押圧部材14のストローク量を確保することができ、また、第一バネ部材141と第二バネ部材151等を収容するスペースも十分に確保することができる。
【0054】
また、
図4に示すように、この爪押圧部材14は、切替位置押圧部材15よりも切替ピン部13Aの回転軸の軸方向中央側に設けられている。このように、爪押圧部材14が中央側に設けられることで、爪押圧部材14の係止爪部材12への押圧位置を、係止爪部材12の上下幅のうち、端部ではなく、中央側にすることができる。このため、係合爪部材12への押圧力を上下方向で偏ることなく、係合爪部材12のラチェット歯11Aへの噛合状態が斜め掛かりとなることを防ぐことができる。
【0055】
さらに、切替位置押圧部材15は、切替ピン部13Aの軸方向の下端に設けられている。これは、切替レバー部13Bの位置から見ると切替ピン部13Aの反対側位置である。このような位置に、切替位置押圧部材15が設けられることで、切替レバー部13Bからの操作力が切替ピン部13A全体を経由して切替位置押圧部材15に伝わることになり、これによって、切替レバー部13Bの操作力が、切替ピン部13Aの軸方向中央位置にも確実に伝わり、切替レバー部13Bを回転操作した際には、爪押圧部材14の位置も確実に変化することになる。
【0056】
なお、これら爪押圧部材14と切替位置押圧部材15の切替ピン部13Aでの位置を決めるのは、切替ピン部13Aに設けた第一凹部132と第二凹部133である。これら凹部132,133は、共に切替ピン部13Aの対向する位置に穿設された凹部であり、内部には、第一押圧ピン14Aと第一バネ部材141及び、第二押圧ピン15Aと第二バネ部材151とを収容している。
【0057】
爪押圧部材14である第一押圧ピン14A、切替位置押圧部材15である第二押圧ピン15A、共に、内部空間14Aa,15Aaを有して、その内部空間14Aa,15Aaに第一バネ部材141と第二バネ部材151とを収容している。
【0058】
この第一バネ部材141の付勢力と第二バネ部材151の付勢力は、第一バネ部材141の付勢力が第二バネ部材151の付勢力よりも弱くなるように設定している。
【0059】
これにより、第一バネ部材141が付勢する第一押圧ピン14A、すなわち爪押圧部材14が弱く付勢されることになり、爪押圧部材14の押圧力が弱まり、係合爪部材12が、ラチェット歯11Aから外れやすくなり、工具の回転操作の軽快性を高めることができる。
【0060】
一方、第二バネ部材151で付勢する第二押圧ピン15A、すなわち切替位置押圧部材15は強く付勢されることになり、切替位置押圧部材15の押圧力が高まり、切替部材13が不意に切り替わることを防ぐことができる。
【0061】
このように、爪押圧部材14と切替位置押圧部材15とを、第一バネ部材141と第二バネ部材151という別のバネ部材で付勢することで、爪押圧部材14に求められる付勢力と切替位置押圧部材15に求められる付勢力を別々に調整することが可能となり、ラチェット工具構造Tとしての操作性能を高めることができる。
【0062】
また、ソケット着脱機構20は、
図4に示すように、押ボタン柱体22をボタンスプリング23に介挿した状態でラチェット歯車部材11の内側に貫通配置している。この貫通配置した状態は、係止ボール21の直径よりボール出没穴11Cの径を小さくして抜け落ちないように設定することで、維持するように構成している。
【0063】
このように構成したソケット着脱機構20は、矢印で図示するように、作業者が押ボタン柱体22をボタンスプリング23の付勢力に抗して下方に押し込むと、押ボタン柱体22のガイド溝22Cが、浅溝部22Caから深溝部22Cbに変化して、係止ボール21がソケット差込部11Bの内部に没入する。これにより、ソケット差込部11Bに対してソケットSを着脱することができる。
【0064】
また、作業者が押ボタン柱体22の押し込みを解除すると、ボタンスプリング23の付勢力により押ボタン柱体22が上方に上がり、押ボタン柱体22のガイド溝22Cが、深溝部22Cbから浅溝部22Caに変化して、係止ボール21がソケット差込部11Bの内部から突出する。これにより、ソケット差込部11BからソケットSを着脱できなくなる。
【0065】
こうして、ソケット着脱機構20を用いることで、様々なサイズのソケットSの着脱を容易に行うことができる。
【0066】
以上のように、本実施形態では、ラチェット機構10を備えたヘッド部1と、そのヘッド部1から連なり作業者が回転操作するハンドル部2とを備えるラチェット工具構造Tであって、前記ラチェット機構10には、ソケットSに差し込まれるソケット差込部11Bを備えた円形のラチェット歯車部材11と、そのラチェット歯車部材11のラチェット歯11Aに噛合して、その噛合する位置によってラチェット歯車部材11の回転ロック方向と回転フリー方向とを規定する係止爪部材12と、そのラチェット歯車部材11のラチェット歯11Aと係止爪部材12との噛合位置を切替える切替部材13と、を備えており、切替部材13には、ラチェット歯車部材11のラチェット歯11Aに噛合する係止爪部材12を押圧する爪押圧部材14と、切替部材13の回転位置を係止固定する切替位置押圧部材15と、を設けており、爪押圧部材14と切替位置押圧部材15とを、各々別の第一バネ部材141と第二付勢部材151で付勢するように構成している。
【0067】
これにより、ラチェット歯車部材11のラチェット歯11Aと係止爪部材12の噛合する位置を切替える切替部材13に、係止爪部材12を押圧する爪押圧部材14と、切替部材13の回転位置を係止固定する切替位置押圧部材15とを設けて、それら爪押圧部材14と切替位置押圧部材15とが、各々別のバネ部材で付勢されるため、爪押圧部材14の付勢力と切替位置押圧部材15の付勢力は、それぞれの付勢力に影響を受ける事なく、第一バネ部材141と第二バネ部材151によって自由に設定することができる。
【0068】
このため、爪押圧部材14が押圧する係止爪部材12のラチェット歯車部材11との噛合状態を自由に調整することができつつも、別途、切替位置押圧部材15による切替部材13の係止固定の押圧力も自由に調整することができる。
【0069】
よって、ボルト・ナット等の締結具を締め付け作業又は緩め作業を行うラチェット工具構造Tにおいて、ヘッド部1をコンパクトに構成して作業性を高めつつも、工具の回転操作の軽快性と、ラチェット機能の切替操作の安定性の両立を図ることができる。
【0070】
また、本実施形態では、爪押圧部材14を付勢する第一バネ部材141の付勢力を、切替位置押圧部材15を付勢する第二バネ部材151よりも弱く設定している。
【0071】
これにより、爪押圧部材14で押圧される係止爪部材12への押圧力を、切替位置押圧部材15で押圧される切替部材13の回転操作反力(位置を保持する力)よりも小さくすることができる。
【0072】
このため、係止爪部材12がラチェット歯車部材11のラチェット歯11Aから外れやすくすることができ、工具の回転操作の軽快さを満たす事ができつつも、切替部材13の回転が生じにくいため、切替部材13の位置が不意に切り替わり、ラチェット機構の回転方向が不意に切り替わることを防ぐことができる。
【0073】
よって、工具の回転操作の軽快性とラチェット機能の切替操作の安定性の両立を、より確実に図ることができる。
【0074】
また、本実施形態では、爪押圧部材14と切替位置押圧部材15とを、切替部材13の切替ピン13Aの軸方向にズラして設け、このうち爪押圧部材14を、切替位置押圧部材15よりも切替ピン13Aの軸方向中央側に設定している。
【0075】
これにより、切替部材13の切替ピン部13Aの径方向サイズを大きく(太く)しなくても、爪押圧部材14と切替位置押圧部材15の移動量(ストローク量)を十分に確保することできる。また、爪押圧部材14を切替位置押圧部材15よりも、切替ピン部13Aの回転軸の軸方向中央側に設定することで、爪押圧部材14が係止爪部材12を幅方向端部ではなく、中央側で押圧するため、係止爪部材12がラチェット歯11Aに対して斜め掛かりとなることを防ぐことができる。
【0076】
このため、切替部材13のサイズをコンパクトに構成しつつも、、爪押圧部材14と切替位置押圧部材15との押圧力の調整を容易に行うことができる。また、係止爪部材12がラチェット歯11Aに対して斜め掛かりとなることもないため、ラチェット機構の機能を安定させることができる。
【0077】
よって、よりヘッド部11をコンパクトに構成して作業性を高めることができつつも、工具の回転操作の安定性を高めることができる。
【0078】
また、本実施形態では、切替部材13の切替ピン部13Aの軸方向一端側(下側)に、切替位置押圧部材15を設定して、切替部材13の軸方向他端側(上側)には、切替部材13を操作する切替レバー部13Bを設けている。
【0079】
これにより、切替レバー部13Bからの操作力は、切替部材13全体を経由して切替位置押圧部材15に伝わることになる。
【0080】
このため、切替レバー部13Bの操作力が、爪押圧部材14を設定した切替ピン部13Aの軸方向中央位置にも確実に伝わり、切替レバー部13Bを回転操作した際には、爪押圧部材14の位置も確実に変化することになる。
【0081】
よって、爪押圧部材14による付勢力を、正確な位置で係止爪部材12に与えることができるため、ラチェット機構10の機能を確実に果たすことができる。
【0082】
(その他の実施形態)
次に、その他の実施形態について説明する。
【0083】
実施形態1では、爪押圧部材14と切替位置押圧部材15とを、共に弾丸状の第一押圧ピン14Aと第二押圧ピン15Aで構成したが、こうした弾丸状のピン体に本発明は限定されない、例えば、ボール状の球体で、爪押圧部材と切替位置押圧部材を構成しても良い。また何れか一方を弾丸状のピン体、他方をボール状の球体で構成しても良い。
【0084】
また、切替部材13についても、その位置で回転(自転)して、係止爪部材12を押圧できるものであれば、どのような形状であってもよい。例えば、操作レバー部13Bについても切替ピン部13Aとは別体で構成するものであっても良い。
【0085】
さらに、第一バネ部材141と第二バネ部材151は、付勢力を付与できるものであれば、どのような形状であってもよく、第一押圧ピン14A又は第二押圧ピン15Aと一体に構成されたものでも良い。第一バネ部材と第二バネ部材が異なる形状のバネ部材であっても良いし、同じ形状のバネ部材であっても良い。また、ゴム製部材で構成して付勢力を付与するようなものであっても良い。
【0086】
また、ラチェット歯車部材11についても、ソケットSに差し込むソケット差込部11Bを備えたものでなくても良く、ラチェット歯車部材の方に凹部を設けて、ソケットの方に凸部を備えるようなものであっても良い。また、ラチェット歯車部材11に、直接、回転作用部を設けて、ボルト・ナット等の締結部材に直接、回転力を付与するように構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上説明したように、本発明は、ボルト・ナット等の締結具を回転操作する際に用いるラチェット工具において有用である。
【符号の説明】
【0088】
T…ラチェット工具構造
S…ソケット
1…ヘッド部
2…ハンドル部
10…ラチェット機構
11…ラチェット歯車部材
11A…ラチェット歯
12…係止爪部材
13…切替部材
14…第一押圧手段
15…第二押圧手段
141…第一バネ部材(第一付勢部材)
151…第二バネ部材(第二付勢部材)