IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精工株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-転がり軸受装置 図1
  • 特開-転がり軸受装置 図2
  • 特開-転がり軸受装置 図3
  • 特開-転がり軸受装置 図4
  • 特開-転がり軸受装置 図5
  • 特開-転がり軸受装置 図6
  • 特開-転がり軸受装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154870
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】転がり軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20221005BHJP
   F16C 19/38 20060101ALI20221005BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/38
F16J15/10 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058128
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 彩水
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J040
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J040AA12
3J040AA17
3J040BA03
3J040EA16
3J040FA05
3J040HA30
3J216AA03
3J216AA14
3J216AB03
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA07
3J216CB07
3J216CB13
3J216CB19
3J216CC45
3J216CC48
3J216DA01
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA73
3J701FA13
3J701FA60
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】1対の内輪同士の突き合わせ部の密封性の確保と、シール部材の取り付け作業及び取り外し作業の作業性の確保との両立を図れる、転がり軸受装置の構造を実現する。
【解決手段】シール部材20の自由状態での外径側シール部35の軸方向両側部の内径を、外径側シール部35の軸方向両側部の内周面と小鍔部25a、25bの外周面との嵌め合いが隙間嵌め又は中間嵌めの関係となる寸法に規制しておく。シール部材20を、突き合わせ部32の径方向外側に設けられたシール保持溝33に装着し、シール保持溝33の1対の溝内面33bにより内径側シール部36を軸方向両側から弾性的に挟持することで、外径側シール部35の軸方向両側部の内周面を小鍔部25a、25bの外周面に締め代を持って当接させ、かつ、内径側シール部36の内周面とシール保持溝33の溝底面33aとの間には径方向隙間41aを設ける。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複列の外輪軌道を有する外輪と、
単列の内輪軌道と、前記内輪軌道の小径側部分に隣接して配置された小鍔部と、をそれぞれ有する、1対の内輪と、
前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置された複数の転動体と、
前記1対の内輪同士の突き合わせ部を密封するシール部材と、
前記1対の内輪を連結する連結環と、を備え、
前記1対の内輪は、前記突き合わせ部の径方向外側に、軸方向に対向した1対の溝内面と径方向外側を向いた溝底面とを含む、シール保持溝を有し、
前記シール部材は、断面形状が略T字形の弾性材製で、全体として円環形状をなし、前記シール保持溝の外側に配置される外径側シール部と、前記シール保持溝の内側に配置される内径側シール部と、を有しており、
前記シール部材の自由状態における前記外径側シール部の軸方向両側部のそれぞれの内径は、前記外径側シール部の軸方向両側部のそれぞれの内周面と前記1対の内輪のそれぞれに備えられた前記小鍔部の外周面との嵌め合いが隙間嵌め又は中間嵌めの関係となる寸法に規制されており、
前記シール部材は、前記1対の溝内面により前記内径側シール部を軸方向両側から弾性的に挟持することで、前記外径側シール部の軸方向両側部のそれぞれの内周面のうち、少なくとも軸方向に関して前記内径側シール部に近い部分を、前記1対の内輪のそれぞれに備えられた前記小鍔部の外周面に締め代を持って当接させ、かつ、前記内径側シール部の内周面と前記溝底面との間に径方向隙間を設けている、
転がり軸受装置。
【請求項2】
複列の外輪軌道を有する外輪と、
単列の内輪軌道と、前記内輪軌道の小径側部分に隣接して配置された小鍔部と、をそれぞれ有する、1対の内輪と、
前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置された複数の転動体と、
前記1対の内輪同士の突き合わせ部を密封するシール部材と、
前記1対の内輪を連結する連結環と、を備え、
前記1対の内輪は、前記突き合わせ部の径方向外側に、軸方向に対向した1対の溝内面と径方向外側を向いた溝底面とを含む、シール保持溝を有し、
前記シール部材は、断面形状が略T字形の弾性材製で、全体として円環形状をなし、前記シール保持溝の外側に配置される外径側シール部と、前記シール保持溝の内側に配置される内径側シール部と、を有しており、
前記外径側シール部の軸方向両側部のそれぞれの内周面は、軸方向に関して前記内径側シール部に近づくほど内径が小さくなるテーパ面であり、
前記シール部材の自由状態における前記外径側シール部の軸方向両側部のそれぞれの内径は、前記外径側シール部の軸方向両側部のそれぞれの内周面と、前記1対の内輪のそれぞれに備えられた前記小鍔部の外周面との嵌め合いが、軸方向に関して前記内径側シール部に近い部分で締り嵌めの関係となり、かつ、軸方向に関して前記内径側シール部から遠い部分で隙間嵌めの関係となる寸法に規制されており、
前記シール部材は、前記1対の溝内面により前記内径側シール部を軸方向両側から弾性的に挟持することで、前記外径側シール部の軸方向両側部のそれぞれの内周面のうち、少なくとも軸方向に関して前記内径側シール部に近い部分を、前記1対の内輪のそれぞれに備えられた前記小鍔部の外周面に締め代を持って当接させ、かつ、前記内径側シール部の内周面と前記溝底面との間に径方向隙間を設けている、
転がり軸受装置。
【請求項3】
前記外径側シール部の径方向厚さは、前記内径側シール部の径方向厚さよりも大きい、請求項1~2のうちのいずれか1項に記載した転がり軸受装置。
【請求項4】
前記外輪は、使用時に車輪とともに回転する回転輪であり、
前記1対の内輪は、使用時に回転しない静止輪であり、
前記複数の転動体のそれぞれは、円すいころである、
請求項1~3のうちのいずれか1項に記載した転がり軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を回転自在に支持するために、ハブユニット軸受と呼ばれる転がり軸受装置が使用されている。図5及び図6は、トラックやバスなどの重量が嵩む車両の車輪(駆動輪)を、回転自在に支持しかつ回転駆動するために用いられる転がり軸受装置の1例として、特開2010-25216号公報(特許文献1)に記載された構造を示している。
【0003】
転がり軸受装置100は、車軸管101の周囲にハブ輪102を回転自在に支持する。車軸管101の内側には、駆動軸103が挿通されている。駆動軸103の端部にはフランジ104が備えられており、該フランジ104には、ハブ輪102が固定されている。ハブ輪102には、駆動輪105及び制動用回転体106がそれぞれ固定されている。このような構成により、駆動輪105及び制動用回転体106を車軸管101に対して回転自在に支持し、かつ、駆動軸103からのトルクを駆動輪105及び制動用回転体106に伝達可能としている。
【0004】
転がり軸受装置100は、図6に示すように、複列円すいころ軸受であり、使用状態で回転する外輪107と、使用状態で回転しない1対の内輪108a、108bと、複数個の転動体109a、109bと、シール部材110と、連結環111とを備える。
なお、転がり軸受装置100に関して、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側となる図6の左側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側となる図6の右側である。
【0005】
外輪107は、内周面に複列の外輪軌道112a、112bを有している。外輪107は、ハブ輪102に締り嵌めで内嵌されている。
【0006】
1対の内輪108a、108bのそれぞれは、外周面に単列の内輪軌道113a、113bを有している。1対の内輪108a、108bは、互いに対向する小径側端面同士を突き合わせた状態で、車軸管101に外嵌されている。
【0007】
転動体109a、109bは、円すいころであり、外輪軌道112a、112bと内輪軌道113a、113bとの間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ、転動自在に配置されている。
【0008】
シール部材110は、1対の内輪108a、108b同士の突き合わせ部114の径方向外側に配置されている。具体的には、シール部材110は、1対の内輪108a、108bのうちで、突き合わせ部114の径方向外側に備えられた、シール保持溝115の内側に配置されている。シール部材110は、突き合わせ部114を通じて、車軸管101の内部に存在するデフオイルやコンタミネーション(ディフェレンシャルギアから発生する酸化摩耗粉)、泥水などの異物が、転がり軸受装置100の内部空間に侵入することを防止する。
【0009】
車軸管101の周囲にハブ輪102を回転自在に支持するための転がり軸受装置100にあっては、車軸管101に対する転がり軸受装置100の着脱を可能とするために、1対の内輪108a、108bを、車軸管101に対して隙間嵌めで外嵌している。また、車軸管101の内部空間は、図示しないデフケースの内部空間と連通しているため、内輪108a、108bの内周面と車軸管101の外周面との間に存在する隙間には、デフオイルやコンタミネーションが侵入する可能性がある。また、泥水が、外部から内輪108a、108bの内周面と車軸管101の外周面との間に存在する隙間に流れ込む可能性もある。そこで、シール部材110を、突き合わせ部114の径方向外側に配置して、デフオイルやコンタミネーション、泥水などの異物が、転がり軸受装置100の内部空間に侵入することを防止している。
【0010】
シール部材110は、金属製の芯金116と、弾性材製の弾性部117とからなる。
【0011】
芯金116は、金属板製で、全体が円環形状を有しており、略L字形の断面形状を有する。芯金116は、円筒部116aと、円筒部116aの軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった、外向鍔部116bとを有する。円筒部116aは、弾性部117の内部に包埋されている。外向鍔部116bは、径方向外側の端部が、弾性部117の外周面から露出している。
【0012】
弾性部117は、薄板円筒形状を有しており、円筒部116aの表面に固定されている。弾性部117は、内周面の軸方向に離隔した2箇所位置に、径方向内側に向けて突出した1対のリップ部117aを有する。1対のリップ部117aのそれぞれは、シール保持溝115の溝底面に当接している。
【0013】
連結環111は、全体が円環状で、U字状の断面形状を有している。連結環111は、円筒状の繋ぎ部118と、外向鍔状の1対の係止部119とを有する。連結環111は、繋ぎ部118により突き合わせ部114を径方向内側から覆った状態で、1対の係止部119のそれぞれを、1対の内輪108a、108bのそれぞれの内周面に備えられた係止凹溝120a、120bに係止している。これにより、連結環111は、1対の内輪108a、108bを軸方向に連結している。そして、転がり軸受装置100を車軸管101に組み付ける際に内輪108a、108bに作用する摩擦によって、1対の内輪108a、108bが互いに分離したり、軸方向外側に配置された内輪108aと車軸管101との衝突によって、該内輪108aが車軸管101から軸方向に抜け出したりするのを防止する。
【0014】
なお、特開2010-25216号公報には、転がり軸受装置100により、車軸管101に対して駆動輪105を回転自在に支持する構造が開示されているが、転がり軸受装置により、ナックルやビームアクスルのスピンドルに対して従動輪を回転自在に支持する従動輪支持装置の構造も、従来から知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2010-25216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特開2010-25216号公報に記載された従来構造の転がり軸受装置100には、次のような面で、さらなる改良の余地がある。
【0017】
従来構造の転がり軸受装置100は、シール部材110を構成する弾性部117の内周面のうち、1対のリップ部117aのみを、シール保持溝115の溝底面に接触させており、1対のリップ部117aから外れた部分は、シール保持溝115の溝底面から径方向に離隔させている。これにより、弾性部117の一部が、突き合わせ部114に挟み込まれることを抑制し、突き合わせ部114に隙間が生じることを防止している。
【0018】
一方、転がり軸受装置100には、組立後に、アキシアル隙間の測定を行わなければならない場合がある。そして、この場合には、装着後のシール部材110及び連結環111を取り外す必要がある。この理由は、突き合わせ部114の密封性を確保するためのシール部材110が、転がり軸受装置100のアキシアル隙間(予圧)の測定の障害になる可能性があるためである。シール部材110が、アキシアル隙間の測定の障害になる理由について説明するために、先ず、アキシアル隙間の測定方法について説明する。
【0019】
複列転がり軸受のアキシアル隙間は、図7に示すような方法により測定することが知られている。先ず、図7の(A)に示すように、1対の内輪108x、108yの小径側端面同士を突き合わせるとともに、1対の内輪108x、108yの周囲に転動体109x、109yを配置した状態で、一方の内輪108x(又は108y)を下側に向けかつ他方の内輪108y(又は108x)を上側に向けて基準面121に載置する。そして、基準面121から上側に配置された内輪108y(又は108x)の大径側端面までの軸方向高さを、ダイヤルゲージなどの変位計122により測定し、該測定値を基準値とする(ダイヤルを0にセットする)。
【0020】
次に、図7の(B)に示すように、片側列の転動体109x及び内輪108xを、外輪107xの片側列の軌道面に対して組み付けた状態で、内輪108xを上側に向けて基準面121に載置する。そして、基準面121から内輪108xの大径側端面までの軸方向高さ(Hout)を変位計122により測定する。同様に、図示は省略するが、他側列の転動体109y及び内輪108yを、上下反転させた外輪107xの他側列の軌道面に対して組み付けた状態で、内輪108yを上側に向けて基準面121に載置する。そして、基準面121から内輪108yの大径側端面までの軸方向高さ(Hin)を変位計122により測定する。最後に、2つの軸方向寸法(Hin ,Hout)を合計し、合計値[-(Hin+Hout)]をアキシアル隙間とする。
【0021】
以上説明したようなアキシアル隙間の測定方法では、図7の(A)に示すように、1対の内輪108x、108yの小径側端面同士を突き合わせた状態での、基準面121から上側に配置された内輪108y(又は108x)の大径側端面までの軸方向高さを基準値として利用している。このため、転がり軸受装置100にシール部材110を装着したままでは、弾性部117の一部が突き合わせ部114に挟み込まれるなどした場合に、アキシアル隙間を正確に測定できなくなる可能性がある。
【0022】
以上のような理由により、転がり軸受装置100の組立後に、アキシアル隙間の測定を行う必要がある場合には、シール部材110及び連結環111を取り外す必要がある。このため、シール部材110には、取り外し作業を効率良く行えることが求められる。また、アキシアル隙間の測定後には、シール部材110を再度取り付ける必要があるため、シール部材110には、取り付け作業を効率良く行えることも求められる。
【0023】
このため、従来構造の転がり軸受装置100は、シール部材110の取り付け作業及び取り外し作業の作業性を確保する面から、1対のリップ部117aの締め代を十分に大きくすることは難しい。したがって、従来構造の転がり軸受装置100は、突き合わせ部114の密封性の確保と、シール部材110の取り付け作業及び取り外し作業の作業性の確保とを両立することが困難である。
【0024】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、1対の内輪同士の突き合わせ部の密封性の確保と、シール部材の取り付け作業及び取り外し作業の作業性の確保との両立を図れる、転がり軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置は、外輪と、1対の内輪と、複数の転動体と、シール部材と、連結環とを備える。
前記外輪は、複列の外輪軌道を有する。
前記1対の内輪は、単列の内輪軌道と、前記内輪軌道の小径側部分に隣接して配置された小鍔部と、をそれぞれ有する。
前記転動体は、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置される。
前記シール部材は、前記1対の内輪同士の突き合わせ部を密封する。
前記連結環は、前記1対の内輪を連結する。
前記1対の内輪は、前記突き合わせ部の径方向外側に、軸方向に対向した1対の溝内面と径方向外側を向いた溝底面とを含む、シール保持溝を有する。
【0026】
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置では、前記シール部材は、断面形状が略T字形の弾性材製で、全体として円環形状をなし、前記シール保持溝の外側に配置される外径側シール部と、前記シール保持溝の内側に配置される内径側シール部と、を有している。
前記シール部材の自由状態における前記外径側シール部の軸方向両側部のそれぞれの内径は、前記外径側シール部の軸方向両側部のそれぞれの内周面と前記1対の内輪のそれぞれに備えられた前記小鍔部の外周面との嵌め合いが、隙間嵌め又は中間嵌めの関係となる寸法に規制されている。
前記シール部材は、前記1対の溝内面により前記内径側シール部を軸方向両側から弾性的に挟持することで、前記外径側シール部の軸方向両側部のそれぞれの内周面のうち、少なくとも軸方向に関して前記内径側シール部に近い部分を、前記1対の内輪のそれぞれに備えられた前記小鍔部の外周面に締め代を持って当接させ、かつ、前記内径側シール部の内周面と前記溝底面との間に径方向隙間を設けている。
【0027】
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置では、前記シール部材は、断面形状が略T字形の弾性材製で、全体として円環形状をなし、前記シール保持溝の外側に配置される外径側シール部と、前記シール保持溝の内側に配置される内径側シール部と、を有している。
前記外径側シール部の軸方向両側部のそれぞれの内周面は、軸方向に関して前記内径側シール部に近づくほど内径が小さくなるテーパ面である。
前記シール部材の自由状態における前記外径側シール部の軸方向両側部のそれぞれの内径は、前記外径側シール部の軸方向両側部のそれぞれの内周面と、前記1対の内輪のそれぞれに備えられた前記小鍔部の外周面との嵌め合いが、軸方向に関して前記内径側シール部に近い部分で締り嵌めの関係となり、かつ、軸方向に関して前記内径側シール部から遠い部分で隙間嵌めの関係となる寸法に規制されている。
前記シール部材は、前記1対の溝内面により前記内径側シール部を軸方向両側から弾性的に挟持することで、前記外径側シール部の軸方向両側部のそれぞれの内周面のうち、少なくとも軸方向に関して前記内径側シール部に近い部分を、前記1対の内輪のそれぞれに備えられた前記小鍔部の外周面に締め代を持って当接させ、かつ、前記内径側シール部の内周面と前記溝底面との間に径方向隙間を設けている。
【0028】
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置では、前記外径側シール部の径方向厚さを、前記内径側シール部の径方向厚さよりも大きくすることができる。
【0029】
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置では、前記外輪を、使用時に車輪とともに回転する回転輪とし、前記1対の内輪を、使用時に回転しない静止輪とし、前記複数の転動体のそれぞれを、円すいころとすることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、1対の内輪同士の突き合わせ部の密封性の確保と、シール部材の取り付け作業及び取り外し作業の作業性の確保との両立を図れる、転がり軸受装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、実施の形態の第1例にかかる転がり軸受装置を組み込んだ駆動輪支持装置を示す、断面図である。
図2図2は、実施の形態の第1例にかかる転がり軸受装置を取り出して示す、部分断面図である。
図3図3の(A)は、1対の内輪の突き合わせ部が密着する以前の状態を示す、図2のA部に相当する部分の拡大図であり、図3の(B)は、図2のA部部分拡大図である。
図4図4は、実施の形態の第2例を示す、図3の(A)に相当する図である。
図5図5は、従来構造の転がり軸受装置を組み込んだ駆動輪支持装置を示す、断面図である。
図6図6は、従来構造の転がり軸受装置を取り出して示す、部分断面図である。
図7図7(A)及び図7(B)は、従来から知られているアキシアル隙間の測定方法を工程順に説明するために示す、断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、図1図3を用いて説明する。本例では、本発明の転がり軸受装置を、トラックやバスなどの重量が嵩む大型車両用の駆動輪支持装置に適用している。
【0033】
〔駆動輪支持装置の全体構成〕
駆動輪支持装置1は、図1に全体構成を示すように、転がり軸受装置2と、車軸管3と、ハブ輪4と、駆動軸5とを備える。駆動輪支持装置1は、トラックの後輪などの駆動輪6及び制動用回転体7を回転自在に支持するとともに、駆動輪6及び制動用回転体7に駆動トルクを伝達するものであり、全浮動型の構成を有する。
【0034】
なお、駆動輪支持装置1に関して、軸方向外側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、図1の左側であり、軸方向内側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる、図1の右側である。
【0035】
転がり軸受装置2は、車軸管3の軸方向外側の端部の周囲に、ハブ輪4を回転自在に支持している。転がり軸受装置2は、車軸管3の外周面とハブ輪4の内周面との間に配置されている。
【0036】
車軸管3は、アクスルハウジングとも呼ばれており、円筒形状を有し、軸方向内側の端部が図示しないデフケースにつながっている。このため、車軸管3は、使用時にも回転しない。車軸管3の内部空間は、デフケースの内部空間に連通している。車軸管3は、外周面の軸方向外側部に、円筒面状の円筒面部8を有する。また、車軸管3は、外周面のうち、円筒面部8の軸方向内側に隣接する部分に軸方向外側を向いた段差面9を有し、円筒面部8の軸方向外側に隣接する部分に、円筒面部8よりも小径の雄ねじ部10を有する。雄ねじ部10には、転がり軸受装置2に予圧を付与するためのナット11が螺合されている。
【0037】
駆動軸5は、アクスルシャフトとも呼ばれており、中実状で、車軸管3の内側に挿通されている。駆動軸5は、車軸管3と同軸に配置されている。駆動軸5の軸方向内側の端部は、図示しないディフェレンシャルギアに連結されている。このため、駆動軸5は、使用時に回転する。駆動軸5は、車軸管3から突出した軸方向外側の端部に、外向フランジ状のフランジ12を備えている。フランジ12には、複数本のボルト13によりハブ輪4が固定されている。
【0038】
ハブ輪4は、円環形状を有している。ハブ輪4は、内周面に円筒面状の嵌合面14を有しており、外周面の軸方向中間部に回転フランジ15を有している。回転フランジ15には、ハブボルトやスタッドなどの結合部材16により、駆動輪6が固定されている。ハブ輪4の軸方向内側には、制動用回転体7がボルト13により固定されている。
【0039】
駆動輪支持装置1は、上記構成により、駆動輪6及び制動用回転体7を車軸管3に対して回転自在に支持し、かつ、駆動軸5からのトルクを駆動輪6及び制動用回転体7に伝達可能としている。また、全浮動型の駆動輪支持装置1においては、車両の荷重は、駆動軸5によっては支承されず、車軸管3によって支承される。駆動軸5は、トルクの伝達のみを負担する。
【0040】
以下、本例の転がり軸受装置2の具体的な構造について、図2及び図3を参照して説明する。
なお、転がり軸受装置2に関して、軸方向外側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、図2及び図3の左側であり、軸方向内側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる、図2及び図3の右側である。
【0041】
〈転がり軸受装置〉
転がり軸受装置2は、背面組み合わせ型の複列円すいころ軸受であり、外輪回転型である。転がり軸受装置2は、使用状態で回転する回転輪である外輪17と、使用状態で回転しない静止輪である1対の内輪18a、18bと、複数個の転動体19a、19bと、シール部材20と、連結環21とを備える。
【0042】
《外輪》
外輪17は、たとえば軸受鋼製で、円環形状を有している。外輪17は、外周面に円筒面を有しており、内周面に円すい凹面状の複列の外輪軌道22a、22bを有している。外輪17は、転がり軸受装置2の車両への組み付け状態で、ハブ輪4の内周面に備えられた嵌合面14に対し締り嵌めで内嵌固定される。このため、外輪17は、使用時に、ハブ輪4及び駆動輪6とともに回転する回転輪である。
【0043】
《内輪》
1対の内輪18a、18bのそれぞれは、たとえば軸受鋼製で、円環形状を有している。1対の内輪18a、18bのそれぞれは、外周面の軸方向中間部に、円すい凸面状の単列の内輪軌道23a、23bを有している。1対の内輪18a、18bのそれぞれは、内輪軌道23a、23bの軸方向両側に、大鍔部24a、24bと小鍔部25a、25bとを有する。具体的には、1対の内輪18a、18bのそれぞれは、内輪軌道23a、23bの大径側部分に隣接した部分に、径方向外側に向けて突出した大鍔部24a、24bを有しており、かつ、内輪軌道23a、23bの小径側部分に隣接した部分に、径方向外側に向けて突出した小鍔部25a、25bを有している。このため、1対の内輪18a、18bのそれぞれは、大鍔部24a、24bを備えた大径側端部の外径が、小鍔部25a、25bを備えた小径側端部の外径よりも大きくなっている。大鍔部24a、24b及び小鍔部25a、25bのそれぞれの外周面は、軸方向にわたり外径が変化しない円筒面である。
【0044】
1対の内輪18a、18bのそれぞれは、小径側端部の内周面に、係止凹溝26a、26bを有している。係止凹溝26a、26bのそれぞれは、内輪18a、18bの内周面にのみ開口しており、内輪18a、18bの全周にわたり備えられている。内輪18a、18bの内周面は、軸方向に関して係止凹溝26a、26bから大径側端面側に外れた部分に、円筒面状の小径面部27a、27bを有しており、軸方向に関して係止凹溝26a、26bから小径側端面側に外れた部分に、小径面部27a、27bよりも内径の大きい、円筒面状の大径面部28a、28bを有している。
【0045】
1対の内輪18a、18bは、互いの小径側端面同士を突き合わせた状態で、外輪17の径方向内側に、外輪17と同軸に配置されている。1対の内輪軌道23a、23bは、複列の外輪軌道22a、22bと径方向に対向する位置に、複列に配置されている。
【0046】
1対の内輪18a、18bは、転がり軸受装置2の車両への組み付け状態で、車軸管3の外周面に備えられた円筒面部8に対し隙間嵌めで外嵌されている。また、1対の内輪18a、18bは、車軸管3の外周面に備えられた段差面9とナット11との間に、軸方向に挟持されている。これにより、転がり軸受装置2には、所定の予圧が付与される。たとえば、転がり軸受装置2のアキシアル方向の内部隙間が、ゼロ又は若干量の正もしくは負の値になるように、ナット11の螺合量(螺合位置)を設定している。
【0047】
本例では、1対の内輪18a、18bは、同一部材によって構成されており、軸方向に関して反対向きに配置されている。このため、1対の内輪18a、18bは、軸方向に関する向きが反対である点を除いて、各部の形状及び寸法は互いに同じである。ただし、本発明を実施する場合に、1対の内輪として、各部の形状及び寸法が互いに異なる部材を使用することもできる。
【0048】
図3の(A)に示すように、1対の内輪18a、18bのうち、軸方向外側に配置された内輪18aは、軸方向内側の端面である小径側端面に、第1突き合わせ面29aと、第1環状凹溝30aとをそれぞれ有する。
【0049】
第1突き合わせ面29aは、内輪18aの中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面であり、内輪18aの軸方向内側の端面の径方向内側半部に備えられている。
【0050】
第1環状凹溝30aは、第1突き合わせ面29aよりも径方向外側に位置しており、内輪18aの軸方向内側の端面の径方向外側半部に備えられている。また、第1環状凹溝30aは、小鍔部25aの軸方向内側に隣接して配置されている。第1環状凹溝30aは、内輪18aの外周面及び軸方向内側の端面のそれぞれに開口しており、矩形状の断面形状を有している。図示の例では、第1環状凹溝30aの内面のうち、径方向外側を向いた径方向底面は、円筒面から構成されている。
【0051】
第1環状凹溝30aの軸方向側面である軸方向底面は、内輪18aの中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面である。ただし、本発明を実施する場合には、第1環状凹溝の軸方向底面を、前記仮想平面に対して傾斜させることもできる。
【0052】
1対の内輪18a、18bのうち、軸方向内側に配置された内輪18bは、軸方向外側の端面である小径側端面に、第2突き合わせ面29bと、第2環状凹溝30bとをそれぞれ有する。
【0053】
第2突き合わせ面29bは、内輪18bの中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面であり、内輪18bの軸方向外側の端面の径方向内側半部に備えられている。第2突き合わせ面29bの外径寸法及び内径寸法は、第1突き合わせ面29aの外径寸法及び内径寸法と同じである。
【0054】
第2環状凹溝30bは、第2突き合わせ面29bよりも径方向外側に位置しており、内輪18bの軸方向外側の端面の径方向外側半部に備えられている。また、第2環状凹溝30bは、小鍔部25bの軸方向外側に隣接して配置されている。第2環状凹溝30bは、内輪18bの外周面及び軸方向外側の端面のそれぞれに開口しており、矩形状の断面形状を有している。第2環状凹溝30bの内面のうち、径方向外側を向いた径方向底面は、円筒面から構成されている。
【0055】
第2環状凹溝30bの軸方向側面である軸方向底面は、内輪18bの中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面である。ただし、本発明を実施する場合には、第1環状凹溝の軸方向底面を、前記仮想平面に対して傾斜させることもできる。また、本発明を実施する場合に、第1環状凹溝の径方向深さ及び軸方向深さと、第2環状凹溝の径方向深さ及び軸方向深さとを、互いに異ならせることもできる。また、第1環状凹溝及び第2環状凹溝のそれぞれの径方向底面は、テーパ面により構成することもできるし、その他の母線形状を有する面から構成しても良い。
【0056】
図3の(B)に示すように、転がり軸受装置2は、車軸管3の外周面に備えられた雄ねじ部10にナット11を締結した状態で、軸方向外側に配置された内輪18aの第1突き合わせ面29aと、軸方向内側に配置された内輪18bの第2突き合わせ面29bとを、面接触させるように軸方向に突き合わせることで、突き合わせ部32を構成している。また、突き合わせ部32を構成した状態で、第1環状凹溝30aと第2環状凹溝30bとが軸方向につながり、径方向外側にのみ開口するシール保持溝33が形成される。このため、1対の内輪18a、18bは、内輪18a、18bを軸方向に跨ぐように、シール保持溝33を有している。
【0057】
シール保持溝33は、矩形状の断面形状を有しており、突き合わせ部32の径方向外側に配置されている。シール保持溝33は、第1環状凹溝30aの径方向底面及び第2環状凹溝30bの径方向底面から構成される、溝底面33aを有する。また、シール保持溝33は、第1環状凹溝30aの軸方向底面及び第2環状凹溝30bの軸方向底面から構成される、1対の溝内面33bを有する。
【0058】
《転動体》
複数個の転動体19a、19bのそれぞれは、円すいころであり、たとえば軸受鋼製又はセラミック製である。複数個の転動体19a、19bのそれぞれは、外輪軌道22a、22bと内輪軌道23a、23bとの間に、保持器34a、34bにより転動自在に保持された状態で配置されている。また、軸方向外側列の転動体19aのそれぞれは、軸方向外側の端面の一部を大鍔部24aに接触対向させ、かつ、軸方向内側の端面の一部を小鍔部25aに近接対向させている。軸方向内側列の転動体19bのそれぞれは、軸方向内側の端面の一部を大鍔部24bに接触対向させ、かつ、軸方向外側の端面の一部を小鍔部25bに近接対向させている。
【0059】
《シール部材》
シール部材20は、1対の内輪18a、18b同士の突き合わせ部32を密封するためのもので、突き合わせ部32の径方向外側に配置されている。
【0060】
図3に示すように、本例の転がり軸受装置2においては、シール部材20の断面形状を、略T字形状としている。また、シール部材20は、軸方向に関して対称な形状を有している。
【0061】
シール部材20は、弾性材のみから成り、全体として円環形状に構成されている。シール部材20は、シール保持溝33への装着前に、円環形状をある程度保持できるように、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR、高硬度ニトリル)などの、硬度がHs85以上Hs95以下(HS90±5)の材料製としている。本例では、シール部材20の硬度を、Hs90程度としている。
【0062】
シール部材20は、外径側シール部35と、内径側シール部36とを備える。
【0063】
外径側シール部35は、シール部材20の径方向外側半部を構成し、略矩形の断面形状を有している。外径側シール部35は、図3の(B)に示すように、シール部材20をシール保持溝33に装着した状態で、シール保持溝33の外側に配置されている。別な言い方をすれば、外径側シール部35は、シール保持溝33から径方向外側にはみ出している。外径側シール部35は、軸方向両側部に、内径側シール部36よりも軸方向にそれぞれ突出した、円環状の嵌合筒部37a、37bを有する。また、外径側シール部35は、外周面の軸方向両側の端部に、面取り部38を有している。
【0064】
内径側シール部36は、シール部材20の径方向内側半部を構成し、略矩形の断面形状を有している。内径側シール部36は、外径側シール部35の内周面の軸方向中間部から径方向内側に向けて伸長している。内径側シール部36は、図3の(B)に示すように、シール部材20をシール保持溝33に装着した状態で、シール保持溝33の内側に配置されている。具体的には、内径側シール部36は、シール保持溝33の内側に、がたつきなく保持されている。内径側シール部36は、内周面39と、1対の軸方向側面40とを有する。
【0065】
本例のシール部材20は、車軸管3の外周面に備えられた雄ねじ部10にナット11を締結して、1対の内輪18a、18bの突き合わせ部32を密着する(第1突き合わせ面29aと第2突き合わせ面29bとを密着させる)前後で、形状や寸法に変化を生じる。このため、シール部材20についての詳しい説明は、図3の(A)に示した、1対の内輪18a、18bの突き合わせ部32が密着する以前の自由状態と、図3の(B)に示した、1対の内輪18a、18bの突き合わせ部32が密着した後の弾性変形状態とに分けて行う。なお、本例の転がり軸受装置2においては、1対の内輪18a、18bに連結環21を取り付けただけでは、突き合わせ部32は密着せず、突き合わせ部32には軸方向隙間が存在する状態となる。別な言い方をすれば、シール部材20の内径側シール部36を弾性変形させることなく、1対の内輪18a、18bに連結環21を取り付けることが可能である。
【0066】
《シール部材の自由状態》
図3の(A)に示すような、1対の内輪18a、18bの突き合わせ部32が密着する以前の状態では、シール部材20には、弾性変形が生じていないか又はわずかな弾性変形しか生じていない。このため、1対の内輪18a、18bの突き合わせ部32を密着する以前の状態では、シール部材20の形状は、自由状態における形状と実質的に同じである。
【0067】
シール部材20の自由状態で、外径側シール部35の軸方向幅W35Xは、内径側シール部36の軸方向幅W36Xよりも十分に大きく(W35x>W36x)、かつ、外径側シール部35の径方向厚さT35xは、内径側シール部36の径方向厚さT36xよりも十分に大きい(T35x>T36x)。図示の例では、外径側シール部35の軸方向幅W35xは、内径側シール部36の軸方向幅W36xのおよそ2.5倍であり、外径側シール部35の径方向厚さT35xは、内径側シール部36の径方向厚さT36xのおよそ2.5倍である。また、外径側シール部35の軸方向幅W35xは、外径側シール部35の径方向厚さT35xよりも大きい。内径側シール部36の軸方向幅W36xは、内径側シール部36の径方向厚さT36xよりも少しだけ大きい。
【0068】
本例では、外径側シール部35の径方向厚さT35xを、内径側シール部36の径方向厚さT36xよりも大きくして、外径側シール部35の剛性を確保している。これにより、後述するように、内径側シール部36を1対の溝内面33bにより軸方向両側から挟持した際に、外径側シール部35が内径側シール部36によって径方向外側に押し上げられることを防止している。なお、外径側シール部35の軸方向幅W36xは、シール保持溝33の開口部の軸方向幅W33図3の(B)参照)よりも十分に大きい。
【0069】
外径側シール部35に備えられた1対の嵌合筒部37a、37bのそれぞれの内周面は、円筒面状に構成されている。つまり、1対の嵌合筒部37a、37bのそれぞれの内径は、軸方向にわたり一定である。また、1対の嵌合筒部37a、37bの内径は、互いに同じである。
【0070】
特に本例では、シール部材20の自由状態における1対の嵌合筒部37a、37bのそれぞれの内径を、1対の嵌合筒部37a、37bのそれぞれの内周面と、1対の内輪18a、18bのそれぞれに備えられた小鍔部25a、25bの外周面との嵌め合いが、隙間嵌め又は中間嵌めの関係となる寸法に規制している。
【0071】
具体的には、前記嵌め合いを隙間嵌めに設定する場合には、1対の嵌合筒部37a、37bのそれぞれの内周面の最小許容寸法よりも1対の小鍔部25a、25bのそれぞれの外周面の最大許容寸法が小さくなるように、1対の嵌合筒部37a、37bのそれぞれの内径を、1対の小鍔部25a、25bのそれぞれの外径との関係で規制する。本例では、軸方向外側の嵌合筒部37a(又は軸方向内側の嵌合筒部37b)を小鍔部25a(25b)に外嵌した際に、シール部材20のがたつきを防止できる程度に、嵌合筒部37a(37b)の内周面と小鍔部25a(25b)の外周面との間の隙間の大きさを小さく設定している。具体的には、嵌合筒部37a(37b)の内周面と小鍔部25a(25b)の外周面との間の最大隙間の大きさを、0mm~0.7mm(直径値)程度としている。
【0072】
一方、前記嵌め合いを中間嵌めに設定する場合には、1対の嵌合筒部37a、37bのそれぞれの内周面の最小許容寸法よりも1対の小鍔部25a、25bのそれぞれの外周面の最大許容寸法が大きく、かつ、1対の嵌合筒部37a、37bのそれぞれの内周面の最大許容寸法よりも1対の小鍔部25a、25bのそれぞれの外周面の最小許容寸法が小さくなるように、1対の嵌合筒部37a、37bのそれぞれの内径を、1対の小鍔部25a、25bのそれぞれの外径との関係で規制する。
【0073】
また、シール部材20の自由状態において、外径側シール部35の軸方向両側面(嵌合筒部37a、37bの軸方向端面)は、シール部材20の中心軸に直交する仮想平面上に存在しており、互いに略平行に配置されている。このため、外径側シール部35の軸方向幅W35xは、面取り部38が備えられた外径側シール部35の径方向外側の端部を除き、径方向にわたり一定である。
【0074】
内径側シール部36は、シール部材20の自由状態で、矩形の断面形状を有する。このため、内径側シール部36の内周面39は、母線形状が直線状の円筒面である。また、内径側シール部36の1対の軸方向側面40は、シール部材20の中心軸に直交する仮想平面上に存在する円輪状の平坦面であり、互いに略平行に配置されている。ただし、本発明を実施する場合には、内径側シール部の断面形状を矩形以外の形状とすることもできる。この場合には、内径側シール部の内周面の母線形状を非直線状とすることもできるし、内径側シール部の1対の軸方向側面を、シール部材の中心軸に対して傾斜させることもできる。たとえば、内径側シール部の内周面の形状は、加硫成形型の合わせ位置を考慮して、軸方向中間部を円筒面とし、軸方向両側部を前記円筒面から離れるほど内径が大きくなるテーパ面とすることもできる。
【0075】
シール部材20の自由状態における内径側シール部36の軸方向幅W36xは、1対の内輪18a、18bの突き合わせ部32を密着した際に形成されるシール保持溝33の1対の溝内面33b同士の軸方向間隔W33よりも大きい。図示の例では、内径側シール部36の軸方向幅W36xは、シール保持溝33の軸方向間隔W33のおよそ1.3倍程度である。このため、図3の(A)に示すように、シール部材20の自由状態では、内径側シール部36の1対の軸方向側面40と、第1環状凹溝30a及び第2環状凹溝30bのそれぞれの軸方向底面とを当接させた状態で、第1突き合わせ面29aと第2突き合わせ面29bとの間に、軸方向隙間が形成される。
【0076】
シール部材20の自由状態における内径側シール部36の内径は、第1環状凹溝30a及び第2環状凹溝30bのそれぞれの径方向底面の外径(=シール保持溝33の溝底面33aの外径)よりも十分に大きい)。このため、内径側シール部36の内周面39と、第1環状凹溝30a及び第2環状凹溝30bのそれぞれの径方向底面との間には、全周にわたり径方向隙間41が設けられている。径方向隙間41の大きさ(径方向幅)は、後述するように、内径側シール部36をシール保持溝33の1対の溝内面33bにより軸方向両側から挟持した際にも、内径側シール部36の内周面39がシール保持溝33の溝底面33aに接触するのを防止できる大きさに設定している。具体的には、内径側シール部36の軸方向幅W36xとシール保持溝33の軸方向幅W33との差、及び、シール部材20の材質などに応じて設定している。図示の例では、径方向隙間41を、内径側シール部36の径方向厚さT36xのおよそ30%程度の大きさとしている。
【0077】
《シール部材の弾性変形状態》
車軸管3の外周面に備えられた雄ねじ部10にナット11を締結することで、図3の(B)に示すように、1対の内輪18a、18bの突き合わせ部32を密着し、第1突き合わせ面29aと第2突き合わせ面29bとの間の軸方向隙間をゼロにすると、第1環状凹溝30aの軸方向底面と第2環状凹溝30bの軸方向底面との軸方向間隔は、シール保持溝33の軸方向幅W33になるまで小さくなる。このため、内径側シール部36は,1対の溝内面33bにより軸方向両側から弾性的に挟持され、軸方向幅W36yがシール保持溝33の軸方向幅W33に一致するまで、軸方向に弾性変形する(潰れる)。したがって、内径側シール部36の1対の軸方向側面40は、1対の溝内面33bに対して締め代を持って当接する。
【0078】
内径側シール部36が軸方向に弾性変形する際には、内径側シール部36を構成する材料が、径方向外側及び径方向内側にそれぞれ移動する(逃げる)。ただし、本例では、外径側シール部35の径方向厚さT35xを内径側シール部36の径方向厚さT36xよりも十分に大きく設定しているため、内径側シール部36を径方向外側に移動する材料によって、外径側シール部35を径方向外側に押し上げることができない。このため、内径側シール部36を径方向外側に移動した材料は、外径側シール部35の軸方向両側へとそれぞれ移動する。この結果、外径側シール部35を構成する1対の嵌合筒部37a、37bのそれぞれの内周面のうち、内径側シール部36に近い基端側部分が、径方向内側に向けて張り出す(縮径する)傾向となる。したがって本例では、シール部材20をシール保持溝33に装着した後の、シール部材20の弾性変形状態で、1対の嵌合筒部37a、37bのそれぞれの内周面のうちの少なくとも基端側部分が、1対の小鍔部25a、25bのそれぞれの外周面に対して締め代を持って当接する。これにより、1対の内輪18a、18bに対するシール部材20の径方向の位置決めが図られるとともに、シール保持溝33の開口部が軸方向両側部分で全周にわたり蓋される。
【0079】
また、外径側シール部35の1対の軸方向側面(嵌合筒部37a、37bの軸方向端面)は、径方向内側に向かうほど互いに近づく方向に傾斜する。このため、外径側シール部35の軸方向幅は、径方向内側ほど小さくなる。
【0080】
内径側シール部36の径方向内側には、外径側シール部35のような材料の移動を妨げる部材が存在しない。このため、内径側シール部36は、軸方向に弾性変形する際に、径方向内側に移動する材料によって径方向内側に膨出する。これにより、内径側シール部36の内周面39の母線形状は、直線から凸円弧形へと変化する。また、シール部材20の弾性変形状態での内径側シール部36の内径は、シール部材20の自由状態における内径よりも小さくなる。ただし、本例では、シール部材20の自由状態における内径側シール部36の内径を、シール保持溝33の溝底面33aの外径よりも十分に大きく設定しているため、シール部材20の弾性変形状態での内径側シール部36の内径は、シール保持溝33の溝底面33aの外径よりも大きくなる。このため、内径側シール部36の内周面39とシール保持溝33の溝底面33aとの間には、シール部材20の弾性変形前よりも径方向幅の小さい、径方向隙間41aが設けられている。
【0081】
以上のように本例では、1対の内輪18a、18bの突き合わせ部32を密着し、シール部材20をシール保持溝33に装着した状態で、内径側シール部36の1対の軸方向側面40のそれぞれを、1対の溝内面33bのそれぞれに対して締め代を持って当接させ、かつ、外径側シール部35を構成する1対の嵌合筒部37a、37bのそれぞれの内周面のうちの少なくとも基端側部分を、1対の小鍔部25a、25bのそれぞれの外周面に対して締め代を持って当接させている。このため、本例の転がり軸受装置2によれば、車軸管3の内部に存在するデフオイルやコンタミネーション、外部空間からの泥水などの異物が、車軸管3の外周面と内輪18a、18bの内周面との間の隙間に侵入した後、突き合わせ部32を通じて、転がり軸受装置2の内部空間に侵入することを防止できる。したがって、転がり軸受装置2の内部に封入したグリースの劣化などを防止できる。
【0082】
《取り付け作業及び取り外し作業》
本例のシール部材20の取り付け作業は、次のようにして行う。
先ず、外径側シール部35を構成する一方の嵌合筒部37a(37b)の内側に、内輪18a(18b)に備えられた一方の小鍔部25a(25b)を挿入し、一方の嵌合筒部37a(37b)を一方の小鍔部25a(25b)に外嵌しておく。次いで、1対の内輪18a、18bを、同軸に配置した状態のまま軸方向に近づけることで、他方の嵌合筒部37b(37a)の内側に、他方の小鍔部25b(25a)を挿入し、他方の嵌合筒部37b(37a)を他方の小鍔部25b(25a)に外嵌する。その後、転がり軸受装置2を、車軸管3の周囲に配置した状態で、車軸管3の外周面に備えられた雄ねじ部10にナット11を締結することで、第1突き合わせ面29aと第2突き合わせ面29bとを突き合わせ、内径側シール部36を、1対の溝内面33bにより軸方向両側から弾性的に挟持して、シール部材20をシール保持溝33に装着する。
【0083】
シール部材20を取り外す作業は、上述した取り付け作業の工程を逆に行う。すなわち、1対の内輪18a、18bを、同軸に配置したままの状態で軸方向に離隔させる。これにより、内径側シール部36を弾性的に復元させるとともに、第1突き合わせ面29aと第2突き合わせ面29bとの間に軸方向隙間を形成する。次いで、一方の嵌合筒部37a(37b)の内側から、一方の小鍔部25a(25b)を軸方向に引き抜く。最後に、他方の嵌合筒部37b(37a)の内側から、他方の小鍔部25b(25a)を軸方向に引き抜き、シール部材20を取り外す。
【0084】
《連結環》
連結環21は、1対の内輪18a、18bを軸方向に連結するためのもので、金属板製である。連結環21は、円周方向の一部に不連続部を有する欠円環状で、略U字形の断面形状を有している。連結環21は、軸方向中間部に円筒形状を有する繋ぎ部42を有しており、軸方向両側の端部に、それぞれが略U字形の断面形状を有する1対の係止部43a、43bを有している。
【0085】
連結環21は、縮径された状態で、1対の内輪18a、18bを軸方向に跨ぐようにして、1対の内輪18a、18bに取り付けられている。そして、連結環21は、1対の係止部43a、43bのそれぞれを、1対の内輪18a、18bのそれぞれの内周面に備えられた係止凹溝26a、26bに対し係止している。具体的には、軸方向外側の係止部43aの外面を、軸方向外側の内輪18aの係止凹溝26aの内面に対し軸方向のがたつきなく当接させる。かつ、軸方向内側の係止部43bの外面を、軸方向内側の内輪18bの係止凹溝26bの内面に対し軸方向のがたつきなく当接させる。これにより、連結環21は、1対の内輪18a、18bを軸方向に連結している。したがって、本例の転がり軸受装置2によれば、転がり軸受装置2を車軸管3に組み付ける際に内輪18a、18bに作用する摩擦によって、1対の内輪18a、18bが互いに分離したり、軸方向外側に配置された内輪18aと車軸管3との衝突によって、該内輪18aが車軸管3から軸方向に抜け出したりすることを防止できる。
【0086】
繋ぎ部42は、軸方向にわたり外径寸法及び内径寸法が一定であり、連結環21の自由状態で、大径面部28a、28bの内径寸法と同じか又は該内径寸法よりもわずかに大きい外径寸法を有する。このため、連結環21を、1対の内輪18a、18bに装着(内嵌)した状態で、繋ぎ部42の外周面は大径面部28a、28bの内周面に対して接触している。
【0087】
《密封装置》
図1及び図2に示すように、本例の転がり軸受装置2は、外輪17の内周面と1対の内輪18a、18bの外周面との間に存在する内部空間の軸方向両側の開口部を塞ぐために、1対の密封装置44a、44bをさらに備える。一方の密封装置44aは、外輪17の内周面の軸方向外側部と、軸方向外側に配置された内輪18aを構成する大鍔部24aの外周面との間に配置されている。他方の密封装置44bは、外輪17の内周面の軸方向内側部と、軸方向内側に配置された内輪18bを構成する大鍔部24bの外周面との間に配置されている。このような密封装置44a、44bにより、転がり軸受装置2の内部空間に封入したグリースが外部空間に漏洩することを防止するとともに、外部空間に存在する泥水などの異物が内部空間に侵入することを防止している。
【0088】
以上のような本例の転がり軸受装置2によれば、1対の内輪18a、18b同士の突き合わせ部32の密封性の確保と、シール部材20の取り付け作業及び取り外し作業の作業性の確保との両立を図ることができる。
すなわち、1対の内輪18a、18bの突き合わせ部32を密着した、シール部材20の装着状態で、内径側シール部36の1対の軸方向側面40のそれぞれを、1対の溝内面33bのそれぞれに対して締め代を持って当接させ、かつ、外径側シール部35を構成する1対の嵌合筒部37a、37bのそれぞれの内周面のうちの少なくとも基端側部分を、1対の小鍔部25a、25bのそれぞれの外周面に対して締め代を持って当接させることができる。このため、シール部材20により、突き合わせ部32の密封性を確保できる。
【0089】
しかも、本例では、シール部材20の自由状態における1対の嵌合筒部37a、37bのそれぞれの内径を、1対の嵌合筒部37a、37bのそれぞれの内周面と1対の小鍔部25a、25bの外周面との嵌め合いが、隙間嵌め又は中間嵌めの関係となる寸法に規制している。このため、内径側シール部36をシール保持溝33の1対の溝内面33bにより弾性的に挟持した、シール部材20の装着状態では、1対の嵌合筒部37a、37bの内径は、小鍔部25a、25bに対して隙間嵌め又は中間嵌めの関係となる自由状態における寸法から縮径するが、シール部材20の取り付け作業時及び取り外し作業時には、1対の嵌合筒部37a、37bの内径は、前記自由状態における寸法となる。したがって、シール部材20の取り付け作業時に、1対の嵌合筒部37a、37bの内側に1対の小鍔部25a、25bを挿入する作業は、大きな力が不要であるとともに、リップ部の捲れなどを生じることなく、容易に行うことができる。また、シール部材20の取り外し作業時に、1対の嵌合筒部37a、37bの内側から1対の小鍔部25a、25bを引き抜く作業も、大きな力が不要であり、容易に行うことができる。したがって、シール部材20の取り付け作業及び取り外し作業の作業性の向上を図ることができる。
【0090】
以上のように本例の転がり軸受装置2によれば、1対の嵌合筒部37a、37bの内径を、シール部材20の装着状態と、シール部材20の取り付け作業時及び取り外し作業時との間で変化させることができるため、1対の内輪18a、18b同士の突き合わせ部32の密封性の確保と、シール部材20の取り付け作業及び取り外し作業の作業性の確保との両立を図ることができる。このため、本例の転がり軸受装置2によれば、前記図7に示したような従来から知られている測定方法によりアキシアル隙間を測定する場合に、測定作業の作業効率の向上を図ることができる。
【0091】
また、シール部材20を軸方向に関して対称な形状としているため、シール部材20の取付方向に関する方向性をなくすことができる。この面からも、シール部材20の取り付け作業の作業性の向上を図れる。
【0092】
また、本例では、内径側シール部36の内周面39とシール保持溝33の溝底面33aとの間に、径方向隙間41aを形成している。このため、シール部材20の一部(径方向内側部)が、突き合わせ部32に挟み込まれることを防止できる。
【0093】
また、本例では、シール部材20を、弾性材のみから構成しており、芯金を使用していないため、シール部材20のコスト低減及び軽量化を図ることもできる。
【0094】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、図4を用いて説明する。
【0095】
本例の転がり軸受装置2aは、シール部材20aの構造のみが、実施の形態の第1例の構造とは異なる。
【0096】
本例では、シール部材20aの自由状態において、外径側シール部35aを構成する1対の嵌合筒部37c、37dのそれぞれの内周面を、テーパ面としている。具体的には、1対の嵌合筒部37c、37dのそれぞれの内周面は、軸方向に関して内径側シール部36に近づくほど内径が小さくなっている。別な言い方すれば、1対の嵌合筒部37c、37dのそれぞれの内周面は、先端側から基端側に向かうほど内径が小さくなる。1対の嵌合筒部37c、37dのそれぞれの内周面の、シール部材20aの中心軸に対する傾斜角度は、たとえば、0度よりも大きく、かつ、20度よりも小さい範囲で設定することが可能であり、図示の例ではおよそ15度である。なお、図4には、シール部材20aの自由状態での形状を描いている。
【0097】
本例では、シール部材20aの自由状態における1対の嵌合筒部37c、37dのそれぞれの内径を、1対の嵌合筒部37c、37dのそれぞれの内周面と1対の小鍔部25a、25bのそれぞれの外周面との嵌め合いが、軸方向に関して内径側シール部36に近い部分で締り嵌めの関係となり、かつ、軸方向に関して内径側シール部36から遠い部分で隙間嵌めの関係となる寸法に規制している。
【0098】
具体的には、1対の嵌合筒部37c、37dのそれぞれの内周面のうちの基端側部分と、1対の小鍔部25a、25bのそれぞれの外周面との嵌め合いを締り嵌めに設定するために、1対の嵌合筒部37a、37bのそれぞれの内周面のうちの基端側部分の最大許容寸法よりも1対の小鍔部25a、25bのそれぞれの外周面の最小許容寸法が大きくなるように、1対の嵌合筒部37a、37bのそれぞれの基端側部分の内径を、1対の小鍔部25a、25bのそれぞれの外径との関係で規制している。本例では、嵌合筒部37c(37d)の内側に小鍔部25a(25b)を挿入するのに要する力が過大にならないように、嵌合筒部37c(37d)の内周面のうちの基端側部分と小鍔部25a(25b)の外周面との間の締め代の大きさを小さく設定している。具体的には、嵌合筒部37c(37d)の内周面のうちの基端側部分と小鍔部25a(25b)の外周面との間の最大締め代の大きさを、0mm~0.6mm程度としている。
【0099】
また、1対の嵌合筒部37c、37dのそれぞれの内周面のうちの先端側部分と、1対の小鍔部25a、25bのそれぞれの外周面との嵌め合いを隙間嵌めに設定するために、1対の嵌合筒部37a、37bのそれぞれの内周面のうちの先端側部分の最小許容寸法よりも1対の小鍔部25a、25bのそれぞれの外周面の最大許容寸法が小さくなるように、1対の嵌合筒部37a、37bのそれぞれの先端側部分の内径を、1対の小鍔部25a、25bのそれぞれの外径との関係で規制している。
【0100】
したがって本例では、内径側シール部36を1対の溝内面33bにより軸方向両側から弾性的に挟持した、シール部材20aの弾性変形状態で、1対の嵌合筒部37c、37dのそれぞれの内周面のうちの基端側部分の、1対の小鍔部25a、25bのそれぞれの外周面に対する締め代を、実施の形態の第1例の構造に比べて大きくすることができる。
【0101】
以上のような本例では、1対の嵌合筒部37c、37dのそれぞれの内周面のうちの基端側部分における締め代を大きくできるため、シール部材20aの密封性のさらなる向上を図ることができる。
【0102】
また、1対の嵌合筒部37c、37dのそれぞれの内周面をテーパ面としているため、嵌合筒部37c、37dの内側に小鍔部25a、25bを挿入しやすくすることができる。また、シール部材20aの自由状態における1対の嵌合筒部37c、37cのそれぞれの内径を、1対の嵌合筒部37c、37cのそれぞれの内周面と1対の小鍔部25a、25bの外周面との嵌め合いが、小鍔部25a、25bの挿入方向に関して奥側に位置する、軸方向に関して内径側シール部36に近い部分のみで締り嵌めの関係となり、かつ、軸方向に関して内径側シール部36から遠い先端側部分で隙間嵌めの関係となる寸法に規制している。このため、シール部材20aの取り付け作業時に、1対の嵌合筒部37c、37dの内側に1対の小鍔部25a、25bを挿入する作業は、大きな力が不要であるとともに、リップ部の捲れなどを生じることなく、容易に行うことができる。また、シール部材20aの取り外し作業時に、1対の嵌合筒部37c、37dの内側から1対の小鍔部25a、25bを引き抜く作業も、大きな力が不要であり、容易に行うことができる。したがって、シール部材20aの取り付け作業及び取り外し作業の作業性の向上を図ることができる。
【0103】
さらに、嵌合筒部37c、37dの内周面の傾斜角度を調整することで、1対の嵌合筒部37c、37dのそれぞれの内周面と1対の小鍔部25a、25bのそれぞれの外周面との接触状態を容易に調整することができる。たとえば、嵌合筒部37c、37dの内周面の傾斜角度を小さく設定すれば、1対の小鍔部25a、25bのそれぞれの外周面に対して締め代を持って当接させる範囲を大きくすることができる。これに対し、嵌合筒部37c、37dの内周面の傾斜角度を大きく設定すれば、1対の小鍔部25a、25bのそれぞれの外周面に対して締め代を持って当接させる範囲を小さくすることができる。このように、本例のシール部材20aによれば、密封性の調整を容易に行うことができる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0104】
本発明を実施する場合には、上述した実施の形態の第2例の変形例として、1対の嵌合筒部のそれぞれの内周面を、軸方向に関して内径側シール部から離れるほど内径が小さくなったテーパ面とすることもできる。そして、シール部材の自由状態における1対の嵌合筒部のそれぞれの内径を、1対の嵌合筒部のそれぞれの内周面と1対の小鍔部のそれぞれの外周面との嵌め合いが、軸方向に関して内径側シール部に近い部分で隙間嵌めの関係となり、かつ、軸方向に関して内径側シール部から遠い部分で締り嵌めの関係となる寸法に規制することもできる。
【0105】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【0106】
本発明を実施する場合に、シール部材を構成する外径側シール部及び内径側シール部のそれぞれの形状は、実施の形態の各例で示した形状に限定されず、適宜変更することができる。たとえば、シール部材を、軸方向に関して非対称な形状として、軸方向外側半部と軸方向内側半部とを異なる形状とすることもできる。また、この場合には、外径側シール部の軸方向外側半部と軸方向内側半部とで、小鍔部に対する嵌め合いの関係を異ならせることもできる。また、本発明を実施する場合に、連結環の構造についても、実施の形態の各例の構造に限定されず、適宜変更することができる。さらに、本発明の転がり軸受装置は、駆動輪支持装置に限らず、従動輪支持装置を含む各種機械装置の回転支持部に組み込んで使用することができる。
【符号の説明】
【0107】
1 駆動輪支持装置
2、2a 転がり軸受装置
3 車軸管
4 ハブ輪
5 駆動軸
6 駆動輪
7 制動用回転体
8 円筒面部
9 段差面
10 雄ねじ部
11 ナット
12 フランジ
13 ボルト
14 嵌合面
15 回転フランジ
16 結合部材
17 外輪
18a、18b 内輪
19a、19b 転動体
20、20a シール部材
21、21a 連結環
22a、22b 外輪軌道
23a、23b 内輪軌道
24a、24b 大鍔部
25a、25b 小鍔部
26a、26b 係止凹溝
27a、27b 小径面部
28a、28b 大径面部
29a 第1突き合わせ面
29b 第2突き合わせ面
30a 第1環状凹溝
30b 第2環状凹溝
31a 第1突条部
31b 第2突条部
32 突き合わせ部
33 シール保持溝
33a 溝底面
33b 溝内面
34a、34b 保持器
35 外径側シール部
36 内径側シール部
37a、37b、37c、37d 嵌合筒部
38 面取り部
39、39a 内周面
40 軸方向側面
41、41a 径方向隙間
42 繋ぎ部
43a、43b 係止部
44a、44b 密封装置
100 転がり軸受装置
101 車軸管
102 ハブ輪
103 駆動軸
104 フランジ
105 駆動輪
106 制動用回転体
107、107x 外輪
108a、108b、108x、108y 内輪
109a、109b、109x、109y 転動体
110 シール部材
111 連結環
112a、112b 外輪軌道
113a、113b 内輪軌道
114 突き合わせ部
115 シール保持溝
116 芯金
116a 円筒部
116b 外向鍔部
117 弾性部
117a リップ部
118 繋ぎ部
119 係止部
120a、120b 係止凹溝
121 基準面
122 変位計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7