(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154875
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】制御システム
(51)【国際特許分類】
B41J 19/18 20060101AFI20221005BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221005BHJP
H02P 29/20 20160101ALI20221005BHJP
H02P 29/028 20160101ALI20221005BHJP
【FI】
B41J19/18 F
B41J2/01 303
B41J2/01 451
B41J2/01 401
H02P29/20
H02P29/028
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058133
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 英輔
(72)【発明者】
【氏名】荒金 覚
(72)【発明者】
【氏名】市川 翔平
(72)【発明者】
【氏名】法亢 昌広
【テーマコード(参考)】
2C056
2C480
5H501
【Fターム(参考)】
2C056EB11
2C056EB29
2C056EB36
2C056EB37
2C056EC11
2C056FA10
2C056HA36
2C480CA01
2C480CA11
2C480CA31
2C480CA33
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2C480EB13
2C480EC04
5H501AA04
5H501EE08
5H501GG03
5H501GG08
5H501HB16
5H501JJ03
5H501JJ04
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5H501JJ17
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5H501JJ25
5H501KK06
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5H501LL36
5H501LL54
5H501MM09
5H501MM17
5H501PP04
(57)【要約】
【課題】対象物を加工する移動体を制御するシステムにおいて、移動体を適切に高速移動可能な技術を提供する。
【解決手段】本開示の一側面に係るシステム1では、移動体11,12が、モータ13により駆動されて通路上を移動し、移動過程では対象物を加工するように構成される。コントローラ32は、移動体が通路上の移動開始地点から目標停止地点まで速度プロファイルに従う速度で移動するように、フィードバック制御方式で、計測器14,34により計測された速度に基づいてモータを制御するように構成される。コントローラは、移動体が第一の速度から第二の速度まで加速する再加速区間では、フィードバック制御方式に代えて、フィードフォワード制御方式でモータを制御することにより、移動体の速度を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータにより駆動されて通路上を移動し、移動過程では対象物を加工するように構成される移動体と、
前記移動体の速度を計測するように構成される計測器と、
前記移動体が前記通路上の移動開始地点から目標停止地点まで速度プロファイルに従う速度で移動するように、フィードバック制御方式で、前記計測器により計測された前記速度に基づいて前記モータを制御するように構成されるコントローラと、
を備え、
前記速度プロファイルは、前記移動体が前記移動開始地点から定速状態に移行するまでの加速区間、前記移動体が定速状態から前記目標停止地点で停止するまでの減速区間、及び、前記加速区間と前記減速区間との間の中間区間における目標速度を定義し、
前記中間区間は、前記移動体が第一の速度で定速移動する第一の定速区間と、前記移動体が前記第一の速度より高い第二の速度で定速移動する第二の定速区間と、前記移動体が非定速移動する非定速区間と、を含み、
前記移動体は、前記第一の定速区間において前記対象物を加工するように動作し、
前記コントローラは、前記非定速区間であって、前記移動体が前記第一の定速区間を通過した後の前記第一の速度から前記第二の速度まで加速する再加速区間では、前記フィードバック制御方式に代えて、フィードフォワード制御方式で前記モータを制御することにより、前記移動体の速度を制御する制御システム。
【請求項2】
エンコーダスケールと、前記移動体と連動して前記エンコーダスケールに対して相対移動し、前記エンコーダスケールの読取に基づくエンコーダ信号を出力するように構成されるセンサと、を備えるエンコーダ
を備え、
前記計測器は、前記エンコーダ信号に基づき、前記速度を計測し、
前記コントローラは、
前記センサによる前記エンコーダスケールの正常な読取を阻害する阻害物が付着した前記エンコーダスケール内の部位を、前記センサが読み取る前記移動体の移動領域である阻害領域の前記再加速区間内での有無を判定し、
前記阻害領域が前記再加速区間に有ると判定した場合に、前記再加速区間において前記フィードフォワード制御方式で前記モータを制御し、前記阻害領域が前記再加速区間にないと判定した場合には、前記再加速区間において前記フィードバック制御方式で前記モータを制御する請求項1記載の制御システム。
【請求項3】
前記コントローラは、前記再加速区間において、前記フィードフォワード制御方式での前記モータの制御を、前記阻害領域に対応する区間に限って実行し、前記阻害領域に対応する区間外では、前記フィードバック制御方式で前記モータを制御する請求項2記載の制御システム。
【請求項4】
前記コントローラは、開始した前記フィードフォワード制御方式による前記モータの制御を、前記移動体が前記阻害領域を通過したと判定したことを条件に、前記フィードバック制御方式による前記モータの制御に切り替える請求項2又は請求項3記載の制御システム。
【請求項5】
前記コントローラは、前記再加速区間に有ると判定した前記阻害領域が前記再加速区間に隣接する前記第二の定速区間に続いている場合には、開始した前記フィードフォワード制御方式による前記モータの制御を、前記移動体による前記再加速区間の通過後も継続し、前記移動体が前記阻害領域を通過したと判定したことを条件に、前記フィードバック制御方式よる前記モータの制御に切り替える請求項2~請求項4のいずれか一項記載の制御システム。
【請求項6】
前記コントローラは、前記再加速区間に有ると判定した前記阻害領域が前記再加速区間に隣接する前記第二の定速区間に続いている場合には、開始した前記フィードフォワード制御方式による前記モータの制御を、前記移動体が前記再加速区間を通過するまで継続し、前記移動体が前記再加速区間を通過したことを条件に、前記フィードバック制御方式による前記モータの制御に切り替え、それにより、前記第二の定速区間における前記阻害領域では、前記フィードバック制御方式で前記モータを制御する請求項2~請求項4のいずれか一項記載の制御システム。
【請求項7】
前記第二の定速区間は、前記中間区間において、前記第一の定速区間の前後に位置し、
前記コントローラは、前記非定速区間であって、前記移動体が前記第一の定速区間の前に位置する前記第二の定速区間を通過した後前記第二の速度から前記第一の速度まで減速する中間減速区間内での前記阻害領域の有無を判定し、
前記阻害領域が前記中間減速区間にあると判定した場合には、前記第一の定速区間を、前記移動体が前記阻害領域に進入する前の地点まで延長するように前記速度プロファイルを補正し、補正後の前記速度プロファイルに従って、前記阻害領域では前記フィードバック制御方式で前記モータを制御する請求項2~請求項6のいずれか一項記載の制御システム。
【請求項8】
前記コントローラは、前記阻害領域において前記フィードバック制御方式で前記モータを制御する場合、前記計測器により計測された前記速度を補正し、補正後の速度に基づき、前記モータを制御する請求項2~請求項7のいずれか一項記載の制御システム。
【請求項9】
前記第一の定速区間の一部に、前記移動体が前記対象物を加工する加工区間が含まれ、
前記コントローラは、
前記加速区間内での前記阻害領域の有無を判定すると共に、前記阻害領域の終点と前記加工区間の始点との間の距離、又は、前記中間区間の始点と前記加工区間の始点との間の距離を判定し、
前記阻害領域が前記加速区間内にあり、且つ、前記距離が基準以上であるときには、前記加速区間において、前記フィードバック制御方式に代えて、前記フィードフォワード制御方式で前記モータを制御することにより、前記移動体の速度を制御する請求項2~請求項8のいずれか一項記載の制御システム。
【請求項10】
前記計測器は、前記エンコーダ信号に基づいて、前記移動体の位置を計測し、
前記コントローラは、
前記計測器により計測された前記移動体の位置に基づいて、前記移動体が前記阻害領域に進入することを判定し、更には、前記速度プロファイルに基づいて、前記移動体が前記阻害領域を通過したことを判定する請求項2~請求項9のいずれか一項記載の制御システム。
【請求項11】
前記フィードフォワード制御方式は、前記計測器により計測された前記速度を用いずに前記速度プロファイルに基づいて前記モータに対する操作量を決定し、決定した操作量で前記モータを制御する方式である請求項1~請求項10のいずれか一項記載の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタにおいて、画像領域の間に挟まれた非画像領域では、インクジェットヘッドを搭載するキャリッジの移動速度を高くすることにより、処理の高速化を図る技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
処理ヘッドを搭載したキャリッジの移動により対象物を加工するシステムは、例えばエンコーダスケールを、キャリッジと共に移動するセンサで読み取ることにより、キャリッジの位置及び速度を計測する。計測された位置及び速度は、キャリッジの移動制御に使用される。
【0005】
このエンコーダスケールを用いた計測は、エンコーダスケールに読取を阻害する阻害物が付着している場合、少なくともその付着場所に対応する領域をキャリッジ及びセンサが通過するときに、正常に行うことができなくなる。例えば、処理ヘッドがインクジェットヘッドであるときには、エンコーダスケールにインク汚れがあるとき、その汚れがエンコーダスケールの正常な読取を阻害する。
【0006】
この読取の阻害は、キャリッジの適切な制御を困難にする可能性がある。特に、キャリッジが高速移動しているときには、僅かな時間の阻害が、大きな制御誤差を生み、キャリッジの適切な移動制御を困難にする可能性がある。エンコーダに限らず、様々な理由で、制御対象である移動体の移動状態を計測器が正確に計測できないケースが生じ得る。
【0007】
そこで、本開示の一側面によれば、対象物を加工する移動体を制御するシステムにおいて、移動体を適切に高速移動可能な技術を提供できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面によれば、制御システムが提供される。制御システムは、モータと、移動体と、計測器と、コントローラと、を備える。移動体は、モータにより駆動されて通路上を移動し、移動過程では対象物を加工するように構成される。
【0009】
計測器は、移動体の速度を計測するように構成される。コントローラは、移動体が通路上の移動開始地点から目標停止地点まで速度プロファイルに従う速度で移動するように、フィードバック制御方式で、計測器により計測された速度に基づいてモータを制御するように構成される。
【0010】
速度プロファイルは、移動体が移動開始地点から定速状態に移行するまでの加速区間、移動体が定速状態から目標停止地点で停止するまでの減速区間、及び、加速区間と減速区間との間の中間区間における目標速度を定義する。
【0011】
中間区間は、第一の定速区間と、第二の定速区間と、非定速区間と、を含む。第一の定速区間は、移動体が第一の速度で定速移動する。第二の定速区間は、移動体が第一の速度より高い第二の速度で定速移動する。非定速区間は、移動体が非定速移動する。移動体は、第一の定速区間において対象物を加工するように動作する。
【0012】
コントローラは、非定速区間であって、移動体が第一の定速区間を通過した後の第一の速度から第二の速度まで加速する再加速区間では、フィードバック制御方式に代えて、フィードフォワード制御方式でモータを制御することにより、移動体の速度を制御する。
【0013】
フィードバック制御は、計測器により計測される速度に大きな誤差が含まれる場合に、その誤差の影響を受けやすい。特に、非定速区間では、定速区間と比較して計測器により計測される速度に誤差が含まれることを考慮した計測値の補正やモータに対する操作量の補正を適切に行うことが難しい。再加速区間のように移動体を高い速度帯で加速させる場合には、特に計測誤差の影響が制御の安定性に大きな影響を与え得る。
【0014】
本開示の制御システムのように、再加速区間では、フィードフォワード制御方式でモータを制御することによれば、再加速区間において計測器による速度の計測誤差が大きい場合に起こり得る不安定な制御を抑制することができる。従って、本開示の一側面によれば、対象物を加工する移動体を制御するシステムにおいて、移動体を適切に高速移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】画像形成システムの構成を表すブロック図である。
【
図2】印刷機構及びリニアエンコーダの構成を表す図である。
【
図3】リニアスケールに付着する汚れに関する説明図である。
【
図4】プロセッサが実行するメイン処理を表すフローチャートである。
【
図5】プロセッサが実行する印刷処理を表すフローチャートである。
【
図7】CRモータ制御部が制御周期毎に実行するモータ制御処理を表すフローチャートである。
【
図8】CRモータ制御部が実行する区間制御処理を表すフローチャートである。
【
図9】リニアエンコーダ処理部が繰返し実行する補正処理を表すフローチャートである。
【
図10】第一変形例におけるモータ制御処理を表すフローチャートである。
【
図11】第二変形例におけるモータ制御処理を表すフローチャートである。
【
図12】第三変形例においてプロセッサが実行する速度プロファイル設定処理を表すフローチャートである。
【
図13】第三変形例においてプロセッサが実行する標準速度プロファイル生成処理を表すフローチャートである。
【
図15】
図15Aは、定速区間の延長により修正された速度プロファイルを説明する図であり、
図15Bは、高速区間の削除により修正された速度プロファイルを説明する図である。
【
図16】
図16は、定速区間の延長により修正された速度プロファイルを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本開示の例示的実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1に示す本実施形態の画像形成システム1は、インクジェットプリンタとして構成される。この画像形成システム1は、記録ヘッド11と、キャリッジ12と、キャリッジ(CR)モータ13と、リニアエンコーダ14とを備える。記録ヘッド11、キャリッジ12、CRモータ13、及びリニアエンコーダ14は、
図2に詳細を示す印刷機構15の一部を構成する。
【0017】
印刷機構15は、CRモータ13からの動力を受けて、記録ヘッド11を搭載するキャリッジ12を主走査方向に移動させるように構成される。主走査方向は、用紙Pが搬送される副走査方向と直交する方向である。
【0018】
記録ヘッド11は、インク液滴を吐出するように構成される吐出ヘッドであり、所謂インクジェットヘッドである。記録ヘッド11は、キャリッジ12が主走査方向に沿って用紙Pを横断するように移動する際、インク液滴の吐出動作を実行して用紙Pに画像を形成する。CRモータ13は、直流モータであり、キャリッジ12を往復動させるための駆動源として機能する。
【0019】
リニアエンコーダ14は、インクリメンタル型の光学式リニアエンコーダであり、キャリッジ12の主走査方向における位置及び速度を計測するために用いられる。キャリッジ12の位置及び速度は、キャリッジ12の移動状態を表す状態量、換言すれば運動パラメータに対応する。
【0020】
画像形成システム1は、用紙Pの搬送を実現するために、ラインフィード(LF)モータ21と、ロータリエンコーダ22とを更に備える(
図1参照)。LFモータ21は、直流モータであり、用紙Pを副走査方向へ搬送する搬送ローラ(図示せず)を回転させるための駆動源として機能する。ロータリエンコーダ22は、インクリメンタル型の光学式ロータリエンコーダであり、搬送ローラの回転量及び回転速度を計測するために用いられる。
【0021】
画像形成システム1は、記録ヘッド11,CRモータ13、及びLFモータ21の駆動及び制御のために、ヘッドドライバ18と、CRモータドライバ19と、LFモータドライバ29と、ASIC2とを更に備える。ヘッドドライバ18は、ASIC2から入力される制御信号に従って、記録ヘッド11にインク液滴を吐出させるように、記録ヘッド11を駆動する。
【0022】
CRモータドライバ19は、ASIC2から入力される制御信号に従って、CRモータ13を回転駆動する。LFモータドライバ29は、ASIC2から入力される制御信号に従って、LFモータ21を回転駆動する。
【0023】
ASIC2は、各ドライバ18,19,29に対して制御信号を入力することにより、記録ヘッド11によるインク液滴の吐出動作、CRモータ13によるキャリッジ12の搬送動作、及びLFモータ21による用紙Pの搬送動作を制御するように構成される。ASIC2は、記録制御部31と、CRモータ制御部32と、LFモータ制御部33と、リニアエンコーダ処理部34と、ロータリエンコーダ処理部35とを備える。
【0024】
ここで、画像形成システム1が備える印刷機構15の具体的構成を、
図2を用いて説明する。印刷機構15は、キャリッジ12の通路を規定するガイド軸41を、主走査方向に備える。キャリッジ12は、このガイド軸41に挿通される。
【0025】
キャリッジ12は更に、ガイド軸41に沿って設けられた無端ベルト42に連結される。無端ベルト42は、ガイド軸41の一端に設置された駆動プーリ43と、ガイド軸41の他端に設置された従動プーリ44と、の間に巻回される。
【0026】
駆動プーリ43は、CRモータ13により回転駆動され、無端ベルト42を回転させる。キャリッジ12は、無端ベルト42の回転を通じて伝達されるCRモータ13の動力により、ガイド軸41に沿って主走査方向に移動する。
【0027】
ガイド軸41の近傍には、エンコーダスケールとしてのリニアスケール46が、ガイド軸41に沿って設置されている。キャリッジ12には、発光部50及び受光部60を備える光学センサ47が搭載されている。
【0028】
リニアエンコーダ14は、この光学センサ47及びリニアスケール46によって構成される。
図2右下における破線バルーン内に、光学センサ47の詳細構成を示す。図示されるように、リニアスケール46は、主走査方向に対応する長尺方向に、所定の間隔で配置されたスリット48を備える。スリット48は、孔であってもよいし、光を透過可能な透明部材で構成されてもよい。光学センサ47を構成する発光部50及び受光部60は、リニアスケール46を挟むように配置される。
【0029】
発光部50は、二つの発光素子51,52、具体的にはA相発光素子51及びB相発光素子52を備える。受光部60は、二つの発光素子51,52に対応する二つの受光素子61,62、具体的にはA相受光素子61及びB相受光素子62を備える。A相発光素子51から照射された光はA相受光素子61で受光され、B相発光素子52から照射された光はB相受光素子62で受光される。
【0030】
光学センサ47は、キャリッジ12に固定されており、キャリッジ12と連動してリニアスケール46に沿って主走査方向に移動する。この移動によって、光学センサ47は、リニアスケール46に対して主走査方向に相対移動する。
【0031】
光学センサ47とリニアスケール46との間の相対位置の変化によって、受光素子61,62の受光状態は、変化する。光学センサ47は、受光状態の変化に応じた2種類のパルス信号を、エンコーダ信号として出力する。
【0032】
すなわち、光学センサ47は、キャリッジ12の移動に応じて、所定の位相差(本実施形態では90度)を有する2種類のパルス信号を出力する。第一のパルス信号は、A相受光素子61での受光状態に対応したA相信号であり、第二のパルス信号は、B相受光素子62での受光状態に対応したB相信号である。
【0033】
リニアエンコーダ処理部34は、リニアエンコーダ14からエンコーダ信号として入力される上述のA相信号及びB相信号に基づき、キャリッジ12の移動方向を判定すると共に、キャリッジ12の位置及び速度を計測する。リニアエンコーダ処理部34は、リニアエンコーダ14と共に、キャリッジ12の位置及び速度に関する計測器として機能する。キャリッジ12の位置及び速度の計測値は、記録制御部31及びCRモータ制御部32に入力される。
【0034】
キャリッジ12の位置及び速度の計測は、A相信号及びB相信号の少なくとも一方に基づいて行われる。ここでは、説明を簡単にするため、キャリッジ12の位置及び速度の計測が、A相信号に基づいて行われる例を説明する。
【0035】
この例によれば、リニアエンコーダ処理部34は、リニアエンコーダ14から入力されるA相信号の立ち上がりエッジ及び立ち下がりエッジを検出する。これらのエッジを検出する度に、図示しない位置カウンタのカウント値を更新する。このカウント値が、キャリッジ12の位置の計測値に対応する。
【0036】
リニアエンコーダ処理部34は、A相信号の各エッジの検出タイミングに同期して、前回エッジが検出されてから今回エッジが検出されるまでの時間、すなわちエッジ間隔に基づき、キャリッジ12の速度を計測する。速度は、エッジ間隔の逆数に比例する。
【0037】
記録制御部31は、リニアエンコーダ処理部34から入力される計測値に基づいて、記録ヘッド11に対する制御信号を生成し、生成した制御信号をヘッドドライバ18に入力する。ヘッドドライバ18は、記録制御部31から入力される制御信号に従って記録ヘッド11を駆動することにより、キャリッジ12の位置に応じたインク液滴を記録ヘッド11に吐出させる。
【0038】
CRモータ制御部32は、リニアエンコーダ処理部34から入力される計測値に基づいて、所定の制御周期毎に、CRモータ13に対する操作量Uを算出する。操作量Uは、CRモータ13への印加電力を指定する操作量であり、特には、CRモータ13への印加電圧を指定する電圧指令値である。
【0039】
CRモータ制御部32は、算出した操作量Uに対応した電力をCRモータ13に印加するためのPWM信号を、CRモータ13に対する制御信号としてCRモータドライバ19に入力する。
【0040】
CRモータドライバ19は、CRモータ制御部32から入力される制御信号に従って、CRモータ13を駆動する。CRモータ13により駆動されて、キャリッジ12及び記録ヘッド11は、主走査方向に移動する。
【0041】
ロータリエンコーダ22は、LFモータ21の回転に応じ、エンコーダ信号として所定の位相差(本実施形態では90度)を有する2種類のパルス信号を出力するように構成される。エンコーダ信号は、ASIC2のロータリエンコーダ処理部35に入力される。
【0042】
ロータリエンコーダ処理部35は、ロータリエンコーダ22から入力されるエンコーダ信号に基づき、用紙Pを搬送する搬送ローラの回転量及び回転速度を計測する。これらの計測値は、LFモータ制御部33に入力される。
【0043】
LFモータ制御部33は、搬送ローラの回転を制御するために、ロータリエンコーダ処理部35から入力される計測値に基づいて、所定の制御周期毎に、LFモータ21に対する操作量を算出する。そして、LFモータ21に対する制御信号として、算出した操作量に対応した電力をLFモータ21に印加するためのPWM信号を、LFモータドライバ29に入力する。
【0044】
LFモータドライバ29は、LFモータ制御部33から入力される制御信号に従って、LFモータ21を駆動する。このLFモータ21により駆動されて、搬送ローラは回転し、用紙Pは副走査方向に搬送される。
【0045】
画像形成システム1は更に、プロセッサ3と、ROM4と、RAM5と、EEPROM6と、通信インタフェース(I/F)7と、ユーザインタフェース(I/F)8と、を備え、これらは、ASIC2とバス9を介して接続される。
【0046】
プロセッサ3は、画像形成システム1の各部を統括的に制御するように構成される。ROM4は、プロセッサ3により実行されるコンピュータプログラムを記憶する。RAM5は、プロセッサ3によるコンピュータプログラム実行時に作業領域として使用される。EEPROM6は、電気的にデータ書換可能な不揮発性メモリであり、画像形成システム1の電源オフ後にも保持すべき情報を記憶する。
【0047】
通信インタフェース7は、パーソナルコンピュータ等の外部装置と通信可能な構成にされる。ユーザインタフェース8は、ユーザにより操作可能な操作部及びユーザに向けて各種情報を表示可能な表示部を備える。
【0048】
ところで、本実施形態の画像形成システム1では、リニアエンコーダ14のリニアスケール46に汚れ70が付着することによって、キャリッジ12の位置及び速度を正常に計測できなくなる場合がある。
【0049】
図3の上段に示される例によれば、リニアスケール46の一部領域に汚れ70が付着している。その領域に存在するスリット48は、汚れ70によって覆われている。汚れ70によって覆われたスリット48を通じては、発光素子51,52からの光が各受光素子61,62に届かない。
【0050】
このように汚れ70は、光学センサ47が発光及び受光によってリニアスケール46のスリット48を読み取る際、その読取の阻害物となり得る。汚れ70は、リニアスケール46にグリス、インク、及び紙粉等が付着することにより生じ得る。
【0051】
図3の下段には、
図3の上段に示される汚れたリニアスケール46を一定速度で光学センサ47が通過する際に、光学センサ47から出力されるエンコーダ信号の例が示される。示されるエンコーダ信号は、A相信号と理解されてもよいし、B相信号と理解されてもよい。この例によれば、正常であれば等しいはずのエンコーダ信号のエッジ間隔が、光学センサ47が汚れ70を通過する際には三倍に増加している。
【0052】
本実施形態では、上述した通り、エッジ間隔に基づいてキャリッジ12の速度を計測している。このため、汚れ70に起因したエッジ間隔の変動は、速度の計測値に不連続な誤差を生じさせる。この計測誤差は、キャリッジ12の速度を制御するときに、制御精度の劣化を招く。
【0053】
そのため、本実施形態では、汚れ70が付着した領域の有無及び位置が推定され、汚れ70の付着の有無及び位置に応じて、キャリッジ12の制御方式が切り替えられる。汚れ70が付着した領域は、上述したように、スリット48の読取、及び、正常な計測が阻害される領域である。従って、汚れ70が付着した領域を光学センサ47が読み取るキャリッジ12の移動範囲のことを、以下では「阻害領域」という。
【0054】
阻害領域は、光学センサ47のリニアスケール46に対する相対的な移動範囲であって、正常な読取を阻害する阻害物としての汚れ70が付着したリニアスケール46の部分を読み取る光学センサ47の移動範囲に対応する。
【0055】
本実施形態では、光学センサ47が、リニアスケール46をリニアスケール46の面に対して垂直な位置から読み取る。このため、阻害領域は、リニアスケール46における汚れ70が付着した領域の正面に光学センサ47が位置するキャリッジ12の移動範囲に対応する。
【0056】
続いて、電源投入又はスリープモードの解除により画像形成システム1が起動すると、プロセッサ3が実行を開始する
図4に示すメイン処理を説明する。メイン処理を開始すると、プロセッサ3は、阻害領域の推定のためにプレスキャン処理を実行する(S110)。
【0057】
プレスキャン処理において、プロセッサ3は、キャリッジ12を移動可能範囲の端から端まで往復動させるように、ASIC2に対して指令する。この指令に基づき、CRモータ制御部32は、キャリッジ12を移動可能範囲の端から端まで往復動させるためのCRモータ13に対する駆動制御を実行する。
【0058】
プレスキャン処理では、必要な加減速を除き、キャリッジ12が定速移動するようにCRモータ13が制御される。この制御は、目標速度Vrと速度計測値Vとの偏差E=Vr-Vに基づき行われる。速度計測値Vは、リニアエンコーダ処理部34から得られるキャリッジ12の速度の計測値である。キャリッジ12が定速移動する区間において偏差Eが閾値を超えたことを条件に、キャリッジ12の速度異常が検知される。プレスキャン処理では、この速度異常に基づき、リニアスケール46の阻害領域が推定される。
【0059】
阻害領域の推定手法の例は、出願人により既に開示されている。例えば、阻害領域の位置は、キャリッジ12の速度異常が検知されたときのリニアエンコーダ処理部34によるキャリッジ12の位置計測値Xである位置カウンタのカウント値に基づいて推定される。
【0060】
例えば、キャリッジ12を移動可能範囲の第一の端点から第二の端点に向けて移動させたときの、移動開始から速度異常が検知されるまでの位置カウンタの第一のカウント値が検出される。
【0061】
更に、キャリッジ12を移動可能範囲の第二の端点から第一の端点に移動させたときの、移動開始から速度異常が検知されるまでの位置カウンタの第二のカウント値が検出される。阻害領域は、速度異常が検知されたときの第一のカウント値に対応するリニアスケール46上の地点と速度異常が検知されたときの第二のカウント値に対応するリニアスケール46上の地点との間の主走査方向領域に推定される。
【0062】
別例によれば、阻害領域は、位置カウンタのカウント単位ではなく、リニアスケール46の端から端までを複数区画に区画化したときの区画単位で推定されてもよい。この場合には、第一のカウント値と第二のカウント値との間の主走査方向領域を含む一つ以上の区画が、阻害領域として推定される。
【0063】
更なる別例によれば、速度異常が検知されてから速度異常が検知されなくなるまでの時間と、目標速度Vrと、から阻害領域の主走査方向における幅が推定されてもよい。阻害領域の始点及び終点は、速度異常が検知され始めた地点での位置カウンタのカウント値と、上記幅とに基づいて推定されてもよい。すなわち、阻害領域の終点は、始点から上記幅に対応する距離だけ主走査方向に離れた地点に推定されてもよい。
【0064】
付言すれば、キャリッジ12を端から端まで移動させたときの位置カウンタのカウント値が設計値と異なるか否かにより、速度異常が、汚れ70の付着に起因するものであるか否かが判別されてもよい。プレスキャン処理で推定された阻害領域の情報は、ASIC2の図示しないレジスタに記録され、CRモータ制御部32及びリニアエンコーダ処理部34で共有される。
【0065】
記録される阻害領域の情報には、往路方向にキャリッジ12が移動するときの、阻害領域の始点及び終点位置、復路方向にキャリッジ12が移動するときの阻害領域の始点及び終点位置の情報が含まれ得る。レジスタには、阻害領域の始点位置と、阻害領域の幅と、が阻害領域の情報として記録されてもよい。阻害領域の幅は、キャリッジ12が阻害領域に進入する地点からの位置カウンタの変化量に対応する。
【0066】
阻害領域の推定は、ASIC2内のリニアエンコーダ処理部34により行われてもよいし、ASIC2から得られる第一のカウント値及び第二のカウント値等に基づいて、プロセッサ3により行われてもよい。
【0067】
プレスキャン処理(S110)を終えると、プロセッサ3は、未処理の印刷ジョブが存在するかを判断する(S120)。印刷ジョブは、通信インタフェース7を通じて外部装置から受信される。未処理の印刷ジョブが存在しない場合(S120でNo)、プロセッサ3は、S140の処理を実行する。
【0068】
プロセッサ3は、未処理の印刷ジョブが存在すると判断すると(S120でYes)、印刷ジョブとして
図5に示す印刷処理を実行する(S130)。印刷処理の実行により、印刷ジョブに対応する画像が、用紙Pに形成される。印刷加工された用紙Pは、画像形成システム1の図示しない排紙トレイに出力される。
【0069】
プロセッサ3は、印刷処理を終了すると、S140の処理を実行する。S140において、プロセッサ3は、終了条件が満足されたかを判断する。例えば、プロセッサ3は、電源のシャットダウン操作がなされたとき、又はスリープモードへの移行時に、終了条件が満足されたと判断する。
【0070】
終了条件が満足されていないと判断すると(S140でNo)は、プロセッサ3は、処理をS120に戻し、未処理の印刷ジョブが発生するか、終了条件が満足されるまで待機する。終了条件が満足されたと判断すると(S140でYes)、
図4に示すメイン処理を終了する。
【0071】
プロセッサ3は、S130で印刷処理(
図5参照)を開始すると、給紙処理を開始する(S210)。給紙処理において、プロセッサ3は、用紙Pが給紙トレイ(図示せず)から一枚分離されて、記録ヘッド11によるインク液滴の吐出位置まで副走査方向に搬送されるように、LFモータ制御部33に、LFモータ21を制御させる。プロセッサ3は更に、CRモータ制御部32によるCRモータ13の制御を通じて、ホームポジションに位置するキャリッジ12を、初期位置に配置する(S220)。
【0072】
その後、プロセッサ3は、キャリッジ12の移動開始地点から目標停止地点までの目標速度Vrを定義する速度プロファイルをCRモータ制御部32に設定する(S230)。移動開始地点から目標停止地点までの目標速度Vrは、キャリッジ12が折返し地点から次の折返し地点に移動するまでの目標速度Vrに対応する。
【0073】
速度プロファイルは、移動開始地点から目標停止地点までのキャリッジ12の移動経路のうち、記録ヘッド11によるインク液滴の吐出動作が実行されるインク吐出区間を考慮して設定される。インク吐出区間は、インク液滴の吐出により用紙Pが印刷加工される加工区間に対応する。
【0074】
速度プロファイルの実体は、移動開始地点から目標停止地点までの目標速度Vrとして、移動開始から停止までの各時点における目標速度Vrを表すデータであり得る。別例によれば、速度プロファイルの実体は、移動開始地点から目標停止地点までの各地点における目標速度Vrを表すデータであり得る。
【0075】
プロセッサ3は、具体的に次の手順で、速度プロファイルを設定する。プロセッサ3は、インク吐出区間を判別し、インク吐出区間の終点から目標停止地点までの距離が、高速移動に必要な所定距離以上あるかを判断する。所定距離以上ある場合には、高速区間を含む
図6Aに示す第一のタイプの速度プロファイルを設定する。所定距離以上ない場合には、高速区間のない
図6Bに示す第二のタイプの速度プロファイルを設定する。
【0076】
いずれの速度プロファイルについても、インク吐出区間に対しては、目標速度Vrとして、用紙Pに対して良好な品質の画像を形成するために定められた第一速度Vr1が設定され、目標速度Vrは、インク吐出区間においてキャリッジ12が第一速度Vr1で定速移動するように定義される。第一のタイプの速度プロファイルでは、非インク吐出区間においてキャリッジ12が第一速度Vr1より高い第二速度Vr2で高速移動するように、目標速度Vrが定義される。
【0077】
具体的に、
図6Aに示す第一のタイプの速度プロファイルは、次の特徴を有する。
・キャリッジ12を移動開始地点から第一速度Vr1まで加速させる加速区間を含む。加速区間の終点は、インク吐出区間の始点より手前である。
・キャリッジ12の第一速度Vr1への加速終了時点からキャリッジ12がインク吐出区間の終点に到達するまでは、キャリッジ12を第一速度Vr1で定速移動させる定速区間(すなわち第一の定速区間)を含む。
・キャリッジ12がインク吐出区間の終点を通過した直後から、キャリッジ12を第二速度Vr2まで加速させる再加速区間を含む。
・キャリッジ12の第二速度Vr2への加速終了時点からキャリッジ12が目標停止地点より減速に必要な距離手前の減速開始地点に到達するまでは、キャリッジ12を第二速度Vr2で定速移動させる高速区間(すなわち第二の定速区間)を含む。
・キャリッジ12が減速開始地点に到達した直後から、キャリッジ12を目標停止地点に向けて減速及び停止させる減速区間を含む。
【0078】
図6Bに示す第二のタイプの速度プロファイルは、次の特徴を有する。
・キャリッジ12を移動開始地点から第一速度Vr1まで加速させる加速区間を含む。加速区間の終点は、インク吐出区間の始点より手前である。
・キャリッジ12の第一速度Vr1への加速終了時点から、キャリッジ12がインク吐出区間を通過し、目標停止地点より減速に必要な距離手前の減速開始地点に到達するまでは、キャリッジ12を、第一速度Vr1で定速移動させる定速区間を含む。
・キャリッジ12が減速開始地点に到達した直後から、キャリッジ12を目標停止地点に向けて減速及び停止させる減速区間を含む。
【0079】
S230における速度プロファイルの設定後、プロセッサ3は、主走査方向印刷を実行する(S240)。S240において、プロセッサ3は、S230で設定された速度プロファイルに従うCRモータ13の制御を実行するようにCRモータ制御部32に指令する。プロセッサ3は更に、用紙Pに形成されるべき画像を表す画像データを、記録制御部31に入力し、この画像データに基づいて、記録ヘッド11によるインク液滴の吐出動作を制御するように記録制御部31に指令する。
【0080】
この指令によりCRモータ制御部32は、キャリッジ12が移動開始地点から目標停止地点に対応する次の折返し地点まで上記設定された速度プロファイルに従う速度軌跡で移動するように、CRモータ13を制御する。記録制御部31は、上記画像データに対応する画像を形成するためのインク液滴の吐出動作が、キャリッジ12の移動に合わせて、記録ヘッド11により実行されるように、記録ヘッド11を制御する。
【0081】
S240における主走査方向印刷の実行により、用紙Pには、上記画像データに基づく1パス分の画像が形成される。ここでいう1パス分の画像は、キャリッジ12が折返し地点から折返し地点まで主走査方向に移動する過程での記録ヘッド11のインク液滴の吐出動作により用紙Pに形成される画像のことである。
【0082】
S240における主走査方向印刷が終了すると、プロセッサ3は、用紙Pの1ページ分の印刷処理が完了したかを判断する(S250)。完了していないと判断すると(S250でNo)、プロセッサ3は、用紙Pを1パス分の画像の副走査方向の幅に対応した所定距離だけ副走査方向に搬送するように、LFモータ制御部33にLFモータ21を制御させる(S260)。
【0083】
S260の処理実行後、プロセッサ3は、次の主走査方向印刷で用いる速度プロファイルを設定する(S230)。速度プロファイルの設定後、プロセッサ3は、当該速度プロファイルを用いた主走査方向印刷を実行することにより(S240)、直前のS260の処理によって所定距離副走査方向に送り出された用紙Pに対して、1パス分の画像を形成する。
【0084】
プロセッサ3は、用紙Pの1ページ分の印刷処理が完了したと判断するまで、S230~S260の処理を繰返し実行し、用紙Pの1ページ分の印刷が完了したと判断すると(S250でYes)、S270の処理を実行する。
【0085】
S270において、プロセッサ3は、印刷された用紙Pについての排紙処理を実行する。排紙処理では、ASIC2を通じたLFモータ21の制御により、印刷された用紙Pが図示しない排紙トレイに排出される。
【0086】
プロセッサ3は更に、処理中の印刷ジョブが次頁の画像データを有するかを判断し(S280)、次頁の画像データを有すると判断すると(S280でYes)、S210に処理を戻して、次ページに関する頁印刷処理(S210-S270)を実行する。このようにして、プロセッサ3は、各ページに関する頁印刷処理を実行し、全ページに関する頁印刷処理が完了すると(S280でNo)、印刷処理を終了する。
【0087】
続いて、速度プロファイルに基づくキャリッジ12の速度制御のために、CRモータ制御部32が実行するモータ制御処理の詳細を、
図7を用いて説明する。CRモータ制御部32は、S240においてプロセッサ3からの指令を受けて、
図7に示すモータ制御処理を、設定された速度プロファイルに従って、キャリッジ12を折返し地点に移動させるまで、所定の制御周期毎に実行する。
【0088】
制御周期毎のモータ制御処理において、CRモータ制御部32は、キャリッジ12が再加速区間内にあるかを判断する(S310)。キャリッジ12が再加速区間内にあるかは、速度プロファイルに基づくキャリッジ12の速度制御開始時点からの経過時間に基づき判断される。速度プロファイルが高速区間のない第二のタイプの速度プロファイルである場合、プロセッサ3は、形式的に、キャリッジ12が再加速区間内にはないと判断する。
【0089】
キャリッジ12が再加速区間内にはないと判断すると(S310でNo)、CRモータ制御部32は、キャリッジ12が阻害領域内に位置しているかを判断する(S320)。キャリッジ12が阻害領域内に進入したこと及び阻害領域内に位置していることは、リニアエンコーダ処理部34から得られるキャリッジ12の位置計測値Xと、プレスキャン処理(S310)で検出された阻害領域の情報とに基づいて判断される。
【0090】
キャリッジ12が阻害領域内に位置していないと判断すると(S320でNo)、CRモータ制御部32は、リニアエンコーダ処理部34から入力されるキャリッジ12の速度計測値Vと、速度プロファイルに従う目標速度Vrとの偏差E=Vr-Vを算出し、その偏差Eに基づいて、フィードバック操作量Ufbを算出する(S340)。
【0091】
CRモータ制御部32は、偏差Eを所定の伝達関数に入力して、偏差Eを低減するためのフィードバック操作量Ufbを算出する。CRモータ制御部32は、PID制御方式により、偏差Eに対応するフィードバック操作量Ufbを算出してもよい。
【0092】
キャリッジ12が阻害領域内に位置していると判断すると(S320でYes)、CRモータ制御部32は、速度計測値Vの信頼性が低いことから、偏差Eの算出に用いる速度計測値Vを補正する(S330)。補正後の速度計測値V*は、例えば、速度計測値Vの移動平均である。その後、CRモータ制御部32は、補正後の速度計測値V*に基づく偏差E=Vr-V*から、フィードバック操作量Ufbを算出する(S340)。
【0093】
CRモータ制御部32は、上記算出したフィードバック操作量Ufbを、CRモータ13に対する操作量Uに決定し、対応する制御信号をCRモータドライバ19に入力する(S350)。これにより、CRモータドライバ19は、上記操作量Uに対応する駆動電力(具体的には駆動電圧)をCRモータ13に印加してCRモータ13を駆動する。
【0094】
このようにCRモータ制御部32は、キャリッジ12が再加速区間外にあるときには、速度計測値Vと目標速度Vrとの偏差Eに基づくフィードバック制御により、キャリッジ12の速度を制御する。
【0095】
一方、CRモータ制御部32は、キャリッジ12が再加速区間内にあると判断すると(S310でYes)、
図8に示す区間制御処理を実行する(S400)。区間制御処理を開始すると、CRモータ制御部32は、再加速区間が阻害領域と少なくとも部分的に重複しているかを判断する(S410)。すなわち、CRモータ制御部32は、阻害領域の再加速区間内での有無を判断する。阻害領域が
図6Aに示す領域R11にある場合、プロセッサ3は、S410で肯定判断する。
【0096】
S410において重複していると判断すると(S410でYes)、CRモータ制御部32は、キャリッジ12が阻害領域内に位置しているか否かを判断する(S420)。CRモータ制御部32は、再加速区間が阻害領域と重複していないと判断するか(S410でNo)、キャリッジ12が阻害領域内に位置していないと判断すると(S420でNo)、S340での処理と同様に、フィードバック操作量Ufbを算出する(S430)。
【0097】
すなわち、CRモータ制御部32は、リニアエンコーダ処理部34から入力されるキャリッジ12の速度計測値Vと、速度プロファイルに従う目標速度Vrとの偏差E=Vr-Vを算出し、その偏差Eに基づいて、フィードバック操作量Ufbを算出する(S430)。
【0098】
CRモータ制御部32は更に、上記算出したフィードバック操作量Ufbに対応する制御信号をCRモータドライバ19に入力する(S440)。これにより、CRモータ制御部32は、フィードバック制御によりキャリッジ12の速度を制御する。
【0099】
一方、CRモータ制御部32は、再加速区間においてキャリッジ12が阻害領域内に位置していると判断すると(S420でYes)、速度計測値Vを用いずに、目標速度Vrに対応するフィードフォワード操作量Uffを算出する(S450)。フィードフォワード操作量Uffは、キャリッジ12の運動方程式に基づく伝達関数に、速度プロファイルに従う目標速度Vrを入力して得られる。キャリッジ12の運動方程式は、次のように表すことができる。
【0100】
【数1】
ここで、dv/dtは、vの時間微分を表し、vは、キャリッジ12の速度を表し、mは、質量を表し、cは、粘性摩擦係数を表し、f
cは、クーロン摩擦を表す。
【0101】
キャリッジ12において目標速度Vrを実現するためには、上記の運動方程式の変数vに、目標速度Vrを代入して得られる力fを、CRモータ13を通じてキャリッジ12に作用させる必要がある。
【0102】
CRモータ13の駆動電圧eと、駆動電圧eによりキャリッジ12に作用する力fとの間には比例関係があり、力fが必要な場合には、変換式e=f/Kに従ってCRモータ13の駆動電圧eを決定することができる。Kは、変換係数である。
【0103】
上述した通り、CRモータ13に対する操作量Uは、駆動電圧eを指定する電圧指令値である。CRモータ制御部32は、速度プロファイルの目標速度Vrを上記の運動方程式に代入して得られる力fを、駆動電圧eに変換して、対応する電圧指令値としてのフィードフォワード操作量Uffを算出することができる。
【0104】
CRモータ制御部32は、このように算出したフィードフォワード操作量Uffを、CRモータ13に対する操作量Uに決定する(S450)。その後、CRモータ制御部32は、上記決定した操作量Uに対応する制御信号をCRモータドライバ19に入力する(S460)。これにより、CRモータ制御部32は、上記決定した操作量Uに対応する駆動電力(具体的には駆動電圧)をCRモータ13に印加してCRモータ13を駆動する。
【0105】
このように区間制御処理を実行することにより、CRモータ制御部32は、再加速区間においてCRモータ13に対する操作量Uとしてフィードバック操作量Ufb又はフィードフォワード操作量Uffを算出し、CRモータ13を制御する。
【0106】
具体的には、CRモータ制御部32は、再加速区間において阻害領域内にキャリッジ12が位置しているときに限って、速度プロファイルに基づくフィードフォワード制御を行い、それ以外の場合には、速度プロファイルに基づくフィードバック制御を行う。CRモータ制御部32は、フィードフォワード制御方式によるCRモータ13の制御を、キャリッジ12が阻害領域を通過したことを条件に、フィードバック制御方式による制御に切り替える。
【0107】
別例として、CRモータ制御部32は、S420の処理を実行しないように動作し得る。この場合、CRモータ制御部32は、再加速区間と阻害領域とが少なくとも部分的に重複している場合には(S410でYes)、キャリッジ12が阻害領域内に位置しているか否かによらず、再加速区間への進入時から再加速区間の通過時まで、制御周期毎に、S450,S460の処理を実行することにより、再加速区間全体でキャリッジ12の速度をフィードフォワード制御する。
【0108】
更なる別例として、CRモータ制御部32は、区間制御処理(S400)において、S410,S420の処理を実行せず、S450,S460の処理を実行することにより、再加速区間と阻害領域とが重複しているか否かによらず、再加速区間全体でキャリッジ12の速度をフィードフォワード制御し得る。
【0109】
この他、阻害領域で発生する計測誤差の影響を抑えるため、リニアエンコーダ処理部34は、エンコーダ信号に基づき、キャリッジ12の位置及び速度の計測値を算出する処理とは別に、
図9に示す補正処理を繰返し実行することができる。補正処理は、阻害領域の通過時に、位置カウンタのカウント値として計測されるキャリッジ12の位置計測値Xに含まれる誤差を取り除くために行われる。
【0110】
補正処理を開始すると、リニアエンコーダ処理部34は、キャリッジ12が阻害領域を通過するまで待機する(S510)。ここでいう通過は、阻害領域を離脱するようにキャリッジ12の阻害領域の終点をキャリッジ12が通過することを意味する。
【0111】
S510において、リニアエンコーダ処理部34は、キャリッジ12が阻害領域に進入したことを、キャリッジ12の位置測定値Xに基づいて判断することができる。リニアエンコーダ処理部34は、阻害領域を通過したか否かを、キャリッジ12が阻害領域に進入するときのキャリッジ12の位置測定値Xと、阻害領域の幅と、阻害領域に進入してからのキャリッジ12の移動距離とに基づいて判断可能である。移動距離は、速度プロファイルに基づき算出可能であり、具体的には、目標速度Vrの時間積分として、キャリッジ12の目標速度Vrと阻害領域に進入してからの経過時間とに基づき算出可能である。
【0112】
リニアエンコーダ処理部34は、キャリッジ12が阻害領域を通過したと判断すると(S510でYes)、阻害領域で発生した位置カウンタのカウント値の誤差を補正する(S520)。
【0113】
例えば、リニアエンコーダ処理部34は、阻害領域に進入した時点からの目標速度Vrの時間積分として算出されるキャリッジ12の移動距離D1(カウント値換算)と、阻害領域を通過したと判断した時点での位置カウンタのカウント値の進入時からの偏差D2との差分(D1-D2)を、汚れ70に起因するカウント値の誤差として算出することができる。リニアエンコーダ処理部34は、偏差D2が移動距離D1に一致するように、カウント値を差分(D1-D2)だけ加算するように補正することができる。
【0114】
別例によれば、リニアエンコーダ処理部34は、プレスキャン時に阻害領域で生じる位置カウンタのカウント値の誤差を判定し、判定した誤差だけ、カウント値を補正することにより、誤差を補正することができる。
【0115】
以上に説明した本実施形態の画像形成システム1によれば、用紙Pに画像を形成するに際して、CRモータ制御部32が、速度プロファイルに従って、キャリッジ12を往復動させるが、非インク吐出区間では、キャリッジ12を高速移動させるように、キャリッジ12の速度を制御する。
【0116】
リニアスケール46の汚れ70に起因して速度計測が一時的に行えなくなる可能性に備えて、CRモータ制御部32は、高速帯での加速を伴う再加速区間では、フィードフォワード制御方式でCRモータ13を制御することによって、計測誤差に起因した不安定な制御を抑制する。
【0117】
リニアスケール46に汚れ70が付着している場合には、通常エッジ間隔が長くなるために、計測誤差は、実速度に対して速度計測値Vが小さくなる方向に生じる。従って、阻害領域においてフィードバック制御によりキャリッジ12の加速制御を行うと、キャリッジ12が過度に加速してしまう可能性がある。高速帯では、生じる計測誤差が短時間であっても、キャリッジ12の速度への影響が大きい。
【0118】
高速帯でキャリッジ12が加速する場面では、速度計測値Vを補正してフィードバック制御を行う場合でも、補正が十分に制御誤差を抑制する方向に働かない可能性がある。過剰な加速による制御誤差を打ち消すためには、過剰な減速が必要とされ、CRモータ13に作用する負荷、CRモータ13からの駆動音及び振動が大きくなりがちである。
【0119】
本実施形態のように再加速区間においてフィードフォワード制御を行えば、フィードバック制御よりも過剰な加速を抑えて安定した制御を実現することができる。従って、本実施形態によれば、キャリッジ12を非インク吐出区間で高速移動させる画像形成システム1において、キャリッジ12を適切に高速移動可能である。
【0120】
[第一変形例]
続いて、第一変形例の画像形成システム1を説明する。第一変形例の画像形成システム1は、CRモータ制御部32が実行するモータ制御処理が部分的に上述の実施形態と異なるだけのものであり、その他の構成については、上述の実施形態と同じである。
【0121】
第一変形例では、CRモータ制御部32が
図7に示すモータ制御処理に代えて、
図10に示すモータ制御処理を制御周期毎に繰返し実行する。以下では、CRモータ制御部32が実行する第一変形例のモータ制御処理の、上記実施形態とは異なる部位を選択的に説明し、その他の上記実施形態と同一構成の部位の説明を省略する。
図10において同一ステップ番号が付された処理は、
図7に示すモータ制御処理における同一ステップ番号の処理と同じであると理解されてよい。
【0122】
図10に示すモータ制御処理を開始すると、CRモータ制御部32は、キャリッジ12が再加速区間内にあるかを判断する(S310)。キャリッジ12が再加速区間内にあると判断すると(S310でYes)、CRモータ制御部32は、S400において区間制御処理(
図8参照)を実行する。その後、モータ制御処理を終了する。
【0123】
キャリッジ12が再加速区間内にはないと判断すると(S310でNo)、CRモータ制御部32は、キャリッジ12が加速区間内にあるかを判断する(S311)。CRモータ制御部32は、速度プロファイルに基づく速度制御開始時点からの経過時間に基づき、キャリッジ12が加速区間内にあるかを判断することができる。
【0124】
キャリッジ12が加速区間内にあると判断すると(S311でYes)、CRモータ制御部32は、加速区間の終点からインク吐出区間の始点までの間隔が基準距離以上であるかを判断する(S315)。基準距離は、キャリッジ12に対する定速制御が開始されてからキャリッジ12の速度が一定速度で安定するまでに必要な距離を加味して予め設定される。間隔が基準距離以上であると判断すると(S315でYes)、CRモータ制御部32は、S360の処理を実行する。
【0125】
キャリッジ12が加速区間内にないと判断するか(S311でNo)、加速区間の終点からインク吐出区間の始点までの間隔が基準距離未満であると判断すると(S315でNo)、CRモータ制御部32は、
図7に示すモータ制御処理と同様に、S320-S350の処理を実行する。
【0126】
すなわち、CRモータ制御部32は、キャリッジ12の速度を速度プロファイルに従ってフィードバック制御する。キャリッジ12が阻害領域内に位置するときには、キャリッジ12の速度計測値Vが補正され(S330)、補正後の速度計測値Vに基づいて、フィードバック制御が実行される(S340,S350)。
【0127】
S360において、CRモータ制御部32は、加速区間にあるキャリッジ12が阻害領域内に位置しているか否かを判断する。キャリッジ12が阻害領域内に位置していないと判断すると(S360でNo)、CRモータ制御部32は、S340,S350の処理を実行して、キャリッジ12の速度をフィードバック制御する。
【0128】
S360において、キャリッジ12が阻害領域内に位置していると判断すると(S360でYes)、CRモータ制御部32は、S450での処理と同様に、フィードフォワード操作量Uffを算出する(S370)。CRモータ制御部32は、このように算出したフィードフォワード操作量Uffを、CRモータ13に対する操作量Uに決定し、対応する制御信号をCRモータドライバ19に入力する(S380)。これにより、CRモータ制御部32は、キャリッジ12の速度をフィードフォワード制御する。
【0129】
第一変形例によれば、CRモータ制御部32は、再加速区間だけではなく、加速区間においてもフィードフォワード制御を行うように、CRモータ13を制御する。このため、加速中に、リニアエンコーダ14の汚れ70が原因で速度の計測誤差が生じ、それにより、キャリッジ12の速度制御が不安定になるのを抑制することができる。
【0130】
第一変形例によれば、加速区間においてフィードフォワード制御を行うのは、加速区間終点からインク吐出区間始点までの間隔が十分に開いているときだけである。間隔が短いときには、フィードフォワード制御からフィードバック制御への切り替えによる制御誤差が、インク吐出区間での速度制御の安定性に好ましくない影響を与える可能性があるためである。
【0131】
このように、第一変形例によれば、CRモータ制御部32が、キャリッジ12の置かれている状況に応じてフィードフォワード制御及びフィードバック制御を切り替えて実行するので、計測誤差が生じる環境においてもキャリッジ12の速度制御を適切に行うことができる。
【0132】
別例によれば、CRモータ制御部32は、S315において、加速区間に存在する阻害領域の終点からインク吐出区間の始点までの間隔が、基準距離以上であるか否かを判断してもよい。このような判断手法によっても、加速区間において適切にフィードフォワード制御及びフィードバック制御を切り替えて実行することができる。
【0133】
[第二変形例]
続いて、第二変形例の画像形成システム1を説明する。但し、第二変形例の画像形成システム1は、CRモータ制御部32が実行するモータ制御処理が部分的に、上述の実施形態と異なるだけのものであり、その他の構成については、上述の実施形態と同じである。
【0134】
第二変形例では、CRモータ制御部32が
図7に示すモータ制御処理に代えて、
図11に示すモータ制御処理を制御周期毎に繰返し実行する。以下では、CRモータ制御部32が実行する第二変形例のモータ制御処理の、上記実施形態とは異なる部位を選択的に説明し、その他の上記実施形態と同一構成の部位の説明を省略する。
【0135】
図11に示すモータ制御処理を開始すると、CRモータ制御部32は、CRモータ13をフィードフォワード制御中であるか否かを判断する(S300)。CRモータ制御部32は、前回の制御周期においてフィードフォワード操作量Uffを算出してCRモータ13を制御している場合に、肯定判断し、それ以外の場合には、否定判断する。ここで肯定判断される場合、前回の制御周期では、キャリッジ12が再加速区間における阻害領域に位置していたことを意味する。
【0136】
CRモータ制御部32は、フィードフォワード制御中ではないと判断すると(S300でNo)、上述の実施形態と同様に、
図7に示すS310以降の処理を実行する。CRモータ制御部32は、フィードフォワード制御中であると判断すると(S300でYes)、キャリッジ12が阻害領域を通過したか否かを判断する(S301)。キャリッジ12が阻害領域を通過したことは、キャリッジ12が阻害領域の内側から外側に離脱したことに対応する。
【0137】
キャリッジ12が阻害領域を通過したと判断すると(S301でYes)、CRモータ制御部32は、
図7に示すS310以降の処理を実行する。一方、キャリッジ12が阻害領域内に位置しており、阻害領域を通過していないと判断すると(S301でNo)、CRモータ制御部32は、S450での処理と同様に、フィードフォワード操作量Uffを算出する(S303)。CRモータ制御部32は、算出したフィードフォワード操作量Uffを、CRモータ13に対する操作量Uに決定し、対応する制御信号をCRモータドライバ19に入力する(S305)。
【0138】
すなわち、CRモータ制御部32は、再加速区間において、キャリッジ12が阻害領域に進入すると、キャリッジ12が再加速区間を通過した後であっても、キャリッジ12が阻害領域を通過するまでは、フィードフォワード制御を継続し、阻害領域を通過した後、キャリッジ12の速度制御をフィードバック制御に切り替える。
【0139】
第二変形例によれば、上述の通り、CRモータ制御部32が、一旦フィードフォワード制御を開始すると、キャリッジ12が阻害領域を抜けるまでは、フィードフォワード制御を継続する。CRモータ制御部32は、阻害領域が再加速区間から再加速区間に隣接する高速区間に続いている場合に、キャリッジ12が高速区間に位置していても、キャリッジ12が阻害領域を抜けるまでは、フィードフォワード制御を継続する。
【0140】
従って、第二変形例によれば、キャリッジ12が阻害領域を抜ける前段階で計測誤差が大きいときに、キャリッジ12が再加速区間を抜けたことだけを条件に、キャリッジ12の速度制御をフィードフォワード制御からフィードバック制御に切り替える場合よりも、キャリッジ12の速度制御を適切に実行可能である。上述の主たる実施形態によれば、CRモータ制御部32は、阻害領域が再加速区間から再加速区間に隣接する高速区間に続いている場合でも、キャリッジ12が再加速区間を抜けたことを条件にキャリッジ12の速度制御をフィードフォワード制御からフィードバック制御に切り替える。
【0141】
[第三変形例]
続いて、第三変形例の画像形成システム1を説明する。第三変形例の画像形成システム1は、プロセッサ3により実行される処理が部分的に上述の実施形態と異なるだけのものであり、その他の構成については、上述の実施形態と同じである。従って、以下では、プロセッサ3が実行する上記実施形態とは異なる処理を選択的に説明し、その他の上記実施形態と同一構成の部位の説明を省略する。
【0142】
第三変形例では、プロセッサ3が、印刷処理(
図5参照)のS230において、
図12に示す速度プロファイル設定処理を実行する。この速度プロファイル設定処理において、プロセッサ3は、まず標準速度プロファイルを生成する(S610)。ここでは、
図13に示す標準速度プロファイル生成処理がプロセッサ3により実行される。
【0143】
標準速度プロファイルは、次の主走査方向印刷(S240)において、阻害領域の有無を考慮せずにキャリッジ12を移動開始地点から目標停止地点に移動させるときのキャリッジ12の目標速度を定義する速度プロファイルである。この標準速度プロファイルは、後述するように、阻害領域の存在によって修正される。
【0144】
標準速度プロファイル生成処理を開始すると、プロセッサ3は、次の主走査方向印刷におけるキャリッジ12の移動開始地点から目標停止地点までの移動経路のうち、記録ヘッド11によるインク液滴の吐出動作が実行されるインク吐出区間を判別する(S611)。
【0145】
その後、プロセッサ3は、インク吐出区間の終点から目標停止地点までの距離が、高速移動に必要な所定距離以上あるかを判断する(S612)。S612で肯定判断すると(S612でYes)、プロセッサ3は、S613において、移動開始地点からインク吐出区間の始点までの距離が高速移動に必要な所定距離以上あるかを判断する。
【0146】
プロセッサ3は、S613で否定判断すると(S613でNo)、標準速度プロファイルとして、
図6Aに示す速度プロファイルと同形の第一の標準速度プロファイルを生成する(S614)。その後、
図13に示す標準速度プロファイル生成処理を終了する。
【0147】
一方、プロセッサ3は、S613で移動開始地点からインク吐出区間の始点までの距離が高速移動に必要な所定距離以上あると判断すると(S613でYes)、標準速度プロファイルとして、
図14Aに示す特徴を有する第二の標準速度プロファイルを生成する(S615)。その後、
図13に示す標準速度プロファイル生成処理を終了する。
【0148】
具体的に、第二の標準速度プロファイルは、次の特徴を有する。
・キャリッジ12を移動開始地点から第二速度Vr2まで加速させる加速区間を含む。
・キャリッジ12の第二速度への加速終了時点からインク吐出区間始点より手前の第一減速開始地点まで、キャリッジ12を第二速度Vr2で定速移動させる第一高速区間を含む。第一減速開始地点は、インク吐出区間始点では、キャリッジ12が第一速度Vr1で安定走行可能であるように予め定められた距離、インク吐出区間始点より手前の地点である。
・キャリッジ12を、第一減速開始地点から第一速度Vr1まで減速させる中間減速区間を含む。
・キャリッジ12を、第一速度Vr1への減速終了時点から、キャリッジ12がインク吐出区間の終点に終了するまでは、キャリッジ12を、第一速度Vr1で定速移動させる定速区間を含む。
・キャリッジ12がインク吐出区間の終点を通過した直後から、キャリッジ12を第二速度Vr2まで加速させる再加速区間を含む。
・キャリッジ12の第二速度Vr2への加速終了時点からキャリッジ12が目標停止地点より減速に必要な距離手前の減速開始地点に到達するまでは、キャリッジ12を、第二速度Vr2で定速移動させる第二高速区間を含む。
・キャリッジ12が減速開始地点に到達した直後から、キャリッジ12を目標停止地点に向けて減速及び停止させる減速区間を含む。
【0149】
この他、プロセッサ3は、インク吐出区間の終点から目標停止地点までの距離が高速移動に必要な所定距離未満であると判断すると(S612でNo)、S617の処理を実行する。S617において、プロセッサ3は、S613での処理と同様に、移動開始地点からインク吐出区間の始点までの距離が高速移動に必要な所定距離以上あるかを判断する。
【0150】
プロセッサ3は、S617で肯定判断すると(S617でYes)、標準速度プロファイルとして、
図14Bに示す特徴を有する第三の標準速度プロファイルを生成する(S618)。その後、
図13に示す標準速度プロファイル生成処理を終了する。
【0151】
第三の標準速度プロファイルは、具体的に次の特徴を有する。
・キャリッジ12を移動開始地点から第二速度Vr2まで加速させる加速区間を含む。
・キャリッジ12の第二速度への加速終了時点からインク吐出区間始点より手前の第一減速開始地点まで、キャリッジ12を第二速度Vr2で定速移動させる高速区間を含む。第一減速開始地点は、インク吐出区間始点では、キャリッジ12が第一速度Vr1で安定走行可能であるように予め定められた距離、インク吐出区間始点より手前の地点である。
・キャリッジ12を、第一減速開始地点から第一速度Vr1まで減速させる中間減速区間を含む。
・キャリッジ12を、第一速度Vr1への減速終了時点から、キャリッジ12が目標停止地点より減速に必要な距離手前の減速開始地点に到達するまでは、キャリッジ12を、第一速度Vr1で定速移動させる定速区間を含む。
・キャリッジ12が減速開始地点に到達した直後から、キャリッジ12を目標停止地点に向けて減速及び停止させる減速区間を含む。
【0152】
この他、プロセッサ3は、S617で否定判断すると(S617でNo)、標準速度プロファイルとして、
図6Bに示す速度プロファイルと同形の第四の標準速度プロファイルを生成する(S619)。その後、
図13に示す標準速度プロファイル生成処理を終了する。
【0153】
S610(
図12参照)で標準速度プロファイルを生成すると、プロセッサ3は、リニアスケール46における汚れ70の有無、すなわち阻害領域の有無を判断する(S620)。プロセッサ3は、阻害領域がないと判断すると(S620でNo)、S610で生成した標準速度プロファイルを、次の主走査方向印刷で使用する速度プロファイルに設定する(S660)。その後、速度プロファイル設定処理を終了する。
【0154】
プロセッサ3は、阻害領域があると判断すると(S620でYes)、阻害領域が、第二速度Vr2から第一速度Vr1へキャリッジ12が減速する中間減速区間に存在するかを判断する。
【0155】
プロセッサ3は、仮にS610で生成された標準速度プロファイルに基づいて主走査方向印刷(S240)を実行した場合に、キャリッジ12が阻害領域内に位置している状態で、キャリッジ12が中間減速区間に対応する目標速度で速度制御されることになる場合、S630で肯定判断する。
【0156】
例えば、S610で生成された標準速度プロファイルが
図14Aに示す第二の標準速度プロファイルであり、阻害領域が
図14Aに示す領域R21にある場合、プロセッサ3は、S630で肯定判断する。
【0157】
例えば、S610で生成された標準速度プロファイルが
図14Bに示す第三の標準速度プロファイルであり、阻害領域が
図14Bに示す領域R31にある場合、プロセッサ3は、S630で肯定判断する。
【0158】
阻害領域が中間減速区間に存在すると判断すると(S630でYes)、プロセッサ3は、S640の処理を実行する。阻害領域が中間減速区間に存在しないと判断すると(S630でNo)、プロセッサ3は、S660の処理を実行する。
【0159】
S640において、プロセッサ3は、S610で生成した標準速度プロファイルにおける定速区間を阻害領域の端点まで延長して、阻害領域を定速区間に設定するように、当該標準速度プロファイルを修正する。
【0160】
S610で生成した標準速度プロファイルが、
図14Aに示す第二の標準速度プロファイルである場合、プロセッサ3は、
図15Aに示すように、定速区間の始点を、阻害領域である領域R21の進入前の時点まで早めるように、定速区間を延長する。
図15Aに示される一点鎖線は、修正前の標準速度プロファイルを示し、実線は、定速区間の延長による修正後の速度プロファイルを示す。
【0161】
S610で生成した標準速度プロファイルが、
図14Bに示す第三の標準速度プロファイルである場合、プロセッサ3は、
図16に示すように、定速区間の始点を、阻害領域である領域R31の進入前の時点まで早めるように、定速区間を延長する。
図16に示される一点鎖線は、
図15Aと同様、修正前の標準速度プロファイルを示し、実線は、定速区間の延長による修正後の速度プロファイルを示す。
【0162】
これにより、プロセッサ3は、インク吐出区間に先行するように隣接する非インク吐出区間の阻害領域を含む区間では、キャリッジ12が第一速度Vr1で定速移動するように、標準速度プロファイルを修正する。
【0163】
続くS650において、プロセッサ3は、S640の処理による修正後の速度プロファイルを、次の主走査方向印刷で使用する速度プロファイルに設定する。その後、速度プロファイル設定処理(S230)を終了する。
【0164】
別例として、プロセッサ3は、S640では、S610で生成した標準速度プロファイルから、定速区間より上流の高速区間を削除するように、標準速度プロファイルを修正してもよい。
【0165】
例えば、S610で生成された標準速度プロファイルが、
図14Aに示す第二の標準速度プロファイルである場合には、
図15Bに示すように、プロセッサ3は、上記生成した標準速度プロファイルから、第一高速区間を削除して、インク吐出区間に先行する非インク吐出区間を第一速度Vr1による定速区間に置換するように、標準速度プロファイルを修正してもよい。
【0166】
中間減速区間に阻害領域が含まれる場合には、阻害領域においてフィードフォワード制御を実行しても、キャリッジ12がインク吐出区間に進入するまでに、キャリッジ12の速度が安定しない可能性がある。
【0167】
本変形例によれば、標準速度プロファイルでは、中間減速区間に阻害領域が含まれる場合であっても、阻害領域が定速区間に含まれるように、速度プロファイルを修正するので、阻害領域の影響を抑えて、高精度にキャリッジ12の速度を制御可能である。
【0168】
従って、本変形例によれば、阻害領域による制御誤差の影響を抑えつつ、キャリッジ12を高速移動させて、印刷処理のスループットを向上させることができる。
【0169】
以上に、変形例を含む本開示の例示的実施形態を説明したが、本開示が上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。本開示の技術は、用紙Pに画像を形成する画像形成システム1によらず、対象物に対して所定の加工を行う処理ヘッドの運動を、エンコーダを用いたモータ制御により実現する様々なシステムに適用することができる。
【0170】
例えば、本開示の技術は、インクジェットプリンタによらず、他のシリアルプリンタやガーメントプリンタに適用可能である。本開示の技術は、配線パターンを印刷する機械等の工作機械に適用することもできる。本開示の技術は、対象物を加工するシステムに限定されず、エンコーダを用いたモータ制御により移動体を搬送する様々なシステムに適用することができる。
【0171】
位置及び速度を計測するためのエンコーダとして、上述の透過型のリニアエンコーダ14以外のエンコーダが用いられてもよい。例えば、エンコーダスケールで反射した発光素子からの光を受光して、エンコーダスケールを読み取る反射型のリニアエンコーダが用いられてもよい。
【0172】
反射型のリニアエンコーダのように、光学センサがエンコーダスケールを斜めから読み取るエンコーダが用いられる場合、「阻害領域」は、エンコーダスケールにおける汚れが付着した領域の正面ではなく、正面から読取角度に応じた距離だけずれた領域上を光学センサが移動するときの、その移動範囲であり得る。
【0173】
本開示の技術は、ロータリエンコーダを用いた制御システムにも適用できる。エンコーダとしては、固定されたエンコーダスケールに対してセンサが移動することで、センサがエンコーダスケールに対して相対移動するエンコーダ、固定されたセンサに対してエンコーダスケールが移動することで、センサがエンコーダスケールに対して相対移動するエンコーダが知られている。これらのエンコーダのいずれを用いた制御システムに対しても本開示の技術は適用可能である。
【0174】
上記実施形態における1つの構成要素が有する機能は、複数の構成要素に分散して設けられてもよい。複数の構成要素が有する機能は、1つの構成要素に統合されてもよい。例えば、コントローラは、プロセッサ3及びASIC2により構成されなくてもよく、ASICなしで一つ以上のプロセッサにより構成されてもよいし、プロセッサなしで一つ以上のASICによって構成されてもよいし、一つ以上のプロセッサと一つ以上のASICとの組合せによって構成されてもよい。プロセッサ及びASICの少なくともいずれかを含むコントローラの一つ以上の構成要素は、互いに協働して、本開示のコントローラに係る処理を実行することができる。
【0175】
この他、実施形態の構成の一部は、省略されてもよい。特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0176】
1…画像形成システム、2…ASIC、3…プロセッサ、4…ROM、5…RAM、6…EEPROM、7…通信インタフェース、8…ユーザインタフェース、9…バス、11…記録ヘッド、12…キャリッジ、13…CRモータ、14…リニアエンコーダ、15…印刷機構、18…ヘッドドライバ、19…CRモータドライバ、21…LFモータ、22…ロータリエンコーダ、29…LFモータドライバ、31…記録制御部、32…CRモータ制御部、33…LFモータ制御部、34…リニアエンコーダ処理部、35…ロータリエンコーダ処理部、41…ガイド軸、42…無端ベルト、43…駆動プーリ、44…従動プーリ、46…リニアスケール、47…光学センサ、48…スリット、50…発光部、51,52…発光素子、60…受光部、61,62…受光素子、P…用紙。