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特開2022-154887段差形成データ設定装置、眼鏡レンズ加工装置及び段差形成データ設定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154887
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】段差形成データ設定装置、眼鏡レンズ加工装置及び段差形成データ設定プログラム
(51)【国際特許分類】
   B24B 9/14 20060101AFI20221005BHJP
   G02C 13/00 20060101ALI20221005BHJP
   G02C 7/02 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
B24B9/14 F
B24B9/14 H
B24B9/14 E
G02C13/00
G02C7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058147
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】武市 教児
【テーマコード(参考)】
2H006
3C049
【Fターム(参考)】
2H006DA01
3C049AA03
3C049AA18
3C049AC02
3C049BA02
3C049BA07
3C049BC02
3C049CA01
3C049CB03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】作業者が、眼鏡レンズの段差部分の形成に関して加工不可の部分があることを知ることができ、適切な対応を取ることができるようにする。
【解決手段】仕上げ加工後の眼鏡レンズの後面に段差部分を形成するためのデータを設定する段差形成データ設定装置55は、段差部分に関する目標の段差輪郭形状のデータを取得するデータ取得ユニット60と、段差輪郭形状と、段差部分を形成するための第2加工具ユニット400の径と、に基づき、段差輪郭形状に対して段差形成加工具によって加工完了可能か否かを判定する演算手段と、演算手段による判定結果を出力する出力手段とを、を備えた制御ユニット50を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
仕上げ加工後の眼鏡レンズの後面に段差部分を形成するためのデータを設定する段差形成データ設定装置であって、
前記段差部分に関する目標の段差輪郭形状のデータを取得するデータ取得手段と、
前記段差輪郭形状と、前記段差部分を形成するための段差形成加工具の径と、に基づき、前記段差輪郭形状に対して前記段差形成加工具によって加工完了可能か否かを判定する演算手段と、
前記演算手段による判定結果を出力する出力手段と、
を備えることを特徴とする段差形成データ設定装置。
【請求項2】
請求項1の段差形成データ設定装置において、
前記演算手段は、前記段差形成加工具の径と、眼鏡レンズを保持するレンズ保持軸に対する前記段差形成加工具が取り付けられた回転軸の傾斜角度と、に基づき、前記段差輪郭形状に対し、前記傾斜角度の回転軸で回転される前記段差形成加工具によって加工完了可能か否かを判定することを特徴とする段差形成データ設定装置。
【請求項3】
請求項2の段差形成データ設定装置において、
前記出力手段は、ディスプレイの表示を制御する表示制御手段であって、
前記表示制御手段は、前記段差輪郭形状に対する加工不可の領域を識別可能に前記ディスプレイに表示することで、前記演算手段による判定結果を出力することを特徴とする段差形成データ設定装置。
【請求項4】
請求項3の段差形成データ設定装置において、
前記表示制御手段は、前記ディスプレイの画面に、前記段差輪郭形状を示す第1図形を表示し、前記段差輪郭形状に対して前記段差形成加工具によって予定する加工領域を示す第2図形を前記第1図形に重ね合わせて表示することで、前記段差輪郭形状に対する加工不可の領域を識別可能とすることを特徴とする段差形成データ設定装置。
【請求項5】
請求項1~4の何れかの段差形成データ設定装置において、
前記演算手段は、加工不可と判定した場合は、加工不可の領域に関し、前記段差輪郭形状に対して加工可能な位置に前記段差形成加工具を位置させたときに前記段差形成加工具の外形が描く軌跡を求め、求めた軌跡と、眼鏡レンズの動径角毎に変化させた動径角ラインと、の交点を求めることで、前記段差形成加工具によって予定する加工軌跡を求めることを特徴とする段差形成データ設定装置。
【請求項6】
眼鏡レンズの周縁を加工する眼鏡レンズ加工装置であって、
請求項1~5の何れかの段差形成データ設定装置を備えることを特徴とする眼鏡レンズ加工装置。
【請求項7】
仕上げ加工後の眼鏡レンズの後面に段差部分を形成させるための段差形成加工具によって前記段差部分を形成するためのデータを設定する段差形成データ設定装置で実行される段差形成データ設定プログラムであって、
前記段差部分に関する目標の段差輪郭形状のデータを取得するデータ取得ステップと、
前記段差輪郭形状と前記段差形成加工具の径とに基づき、前記段差形成加工具によって加工完了可能か否かを判定する演算ステップと、
前記演算ステップによる判定結果を出力する出力ステップと、
を段差形成データ設定装置の制御ユニットに実行させることを特徴とする段差形成データ設定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、仕上げ加工後の眼鏡レンズの後面に段差部分を形成するためのデータを設定する段差形成データ設定装置、これを備える眼鏡レンズ加工装置及び段差形成データ設定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡フレームには、主に、サングラス用として使用されるフレームカーブがきつい(湾曲の度合いが強い)高カーブフレームがある。この高カーブフレームに度付きレンズ(例えば、コバに厚みのあるマイナスパワーのレンズ)を枠入れする場合において、仕上げ加工(例えば、平加工等)後のレンズ後面側の周面に、フレームに干渉するレンズの周縁部分の角部を除去するように段差部分を形成する加工(ステップ加工とも言う)を可能にした眼鏡レンズ加工装置が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
また、サングラス用の眼鏡フレームにおいては、異なる色のレンズを使用者が交換可能にしたレンズ交換タイプのものがある。このレンズ交換タイプの眼鏡フレームのリムには、備え付けレンズの縁の一部を嵌め込むための溝が部分的に形成されている。このレンズ交換タイプの眼鏡フレームにおいても、コバの厚い度付きレンズを枠入れした要望があるため、部分的なリムに眼鏡レンズを嵌め込むための部分的な段差部分(パーシャルステップ)の形状を容易に取得することを可能にした眼鏡レンズ加工形状取得装置が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-131939号公報
【特許文献2】特開2015-131374号公報
【特許文献3】特開2012-185490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、眼鏡レンズに段差部分を加工する場合、段差形成加工具の大きさの制約を受け、目標の段差輪郭形状データ通りに加工できない場合がある。眼鏡レンズ加工装置が、目標の段差輪郭形状通りに加工できないまま加工終了すると、作業者は、眼鏡レンズをリムに枠入れして初めて眼鏡レンズの加工が未完了であることに気づき、眼鏡レンズへの追加加工等の必要な対応が取られないままとなってしまう。
【0006】
本開示は、上記従来装置の問題点に鑑み、作業者が、眼鏡レンズの段差部分の形成に関して加工不可の部分があることを知ることができ、適切な対応を取ることができる段差形成データ設定装置、眼鏡レンズ加工装置及び段差形成データ設定プログラムを提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1態様に係る段差形成データ設定装置は、仕上げ加工後の眼鏡レンズの後面に段差部分を形成するためのデータを設定する段差形成データ設定装置であって、前記段差部分に関する目標の段差輪郭形状のデータを取得するデータ取得手段と、前記段差輪郭形状と、前記段差部分を形成するための段差形成加工具の径と、に基づき、前記段差輪郭形状に対して前記段差形成加工具によって加工完了可能か否かを判定する演算手段と、前記演算手段による判定結果を出力する出力手段と、を備える。
【0008】
本開示の第2態様に係る眼鏡レンズ加工装置は、上記の段差形成データ設定装置を備える。
【0009】
本開示の第3態様に係る段差形成データ設定プログラムは、仕上げ加工後の眼鏡レンズの後面に段差部分を形成させるための段差形成加工具によって前記段差部分を形成するためのデータを設定する段差形成データ設定装置で実行される段差形成データ設定プログラムであって、前記段差部分に関する目標の段差輪郭形状のデータを取得するデータ取得ステップと、前記段差輪郭形状と前記段差形成加工具の径とに基づき、前記段差形成加工具によって加工完了可能か否かを判定する演算ステップと、前記演算ステップによる判定結果を出力する出力ステップと、を段差形成データ設定装置の制御ユニットに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、作業者が、眼鏡レンズの段差部分の形成に関して加工不可の部分があることを知ることができ、適切な対応を取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】眼鏡レンズ加工装置が備える加工機構部の構成を説明する図である。
図2】第2加工具ユニットの概略構成図である。
図3】段差形成加工具の例を示す図である。
図4】レンズ後面形状を測定するための測定ユニットの概略構成図である。
図5】段差形成データ設定装置及び眼鏡レンズ加工装置に係る制御系ブロック図である。
図6】部分的な段差部分の形成が必要な眼鏡フレームの典型的な一例を示す図である。
図7】データ取得ユニットによって取得された玉型データ及び目標の段差輪郭形状データの例を示す図である。
図8】段差加工の編集画面の表示例である。
図9】平仕上げ加工後のレンズに段差部分を形成する場合における、X方向と段差形成加工具の回転軸との位置関係、及びレンズと段差形成加工具との位置関係を説明する図である。
図10】段差輪郭形状データに関し、楕円軌跡に基づき、加工干渉が生じることなく、加工完了可能か否かの判定を説明する図である。
図11】加工不可の領域を示す図形の拡大画面の例を示す図である。
図12】段差形成加工具による予定の加工軌跡の演算方法を説明する図である。
図13】玉型データに、デモレンズの輪郭から読み取ったフック部と、その近傍には小さな凹部と、がある例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示に係る眼鏡レンズ加工装置、段差形成データ設定装置及び段差形成データ設定プログラムの実施形態を、図1~13に基づいて説明する。
【0013】
[概要]
例えば、本開示に係る眼鏡レンズ加工装置(例えば、眼鏡レンズ加工装置1)は、レンズ保持軸(例えば、レンズチャック軸102)を備える。レンズ保持軸は眼鏡レンズを保持する。例えば、眼鏡レンズ加工装置は、段差形成加工具(例えば、段差形成加工具437)を備える。段差形成加工具は、仕上げ加工後の眼鏡レンズの後面に段差部分を形成する。例えば、段差形成加工具は、回転軸(例えば、回転軸431)に取り付けられている。例えば、段差形成加工具の回転軸は、レンズ保持軸に対して設定された角度で相対的に傾斜する。例えば、眼鏡レンズ加工装置は、眼鏡レンズの周縁を加工するための周縁加工具(例えば、加工具168)を備える。例えば、周縁加工具は、粗加工具(例えば、粗加工具166)と、粗加工されたレンズの周縁を仕上げ加工する仕上げ加工具(例えば、通常仕上げ加工具164)と、の少なくとも一つを備える。例えば、眼鏡レンズ加工装置は、周縁加工具としての大径の第1周縁加工具(例えば、通常仕上げ加工具164)と、第1周縁加工具より小径の第2周縁加工具(例えば、エンドミル435)を備えていてもよい。
【0014】
例えば、眼鏡レンズ加工装置は、移動手段(例えば、移動ユニット300)を備える。移動手段は、レンズ保持軸に保持された眼鏡レンズと、加工具(例えば、加工具168、段差形成加工具437、等)と、の相対的な位置を調整するために構成されている。例えば、眼鏡レンズ加工装置は、加工制御手段(例えば、制御ユニット50)を備える。加工制御手段は、移動手段を制御する。
【0015】
例えば、段差形成データ設定装置(例えば、段差形成データ設定装置55)は、眼鏡レンズ加工装置に備えられる。例えば、段差形成データ設定装置は、データ取得手段(例えば、データ取得ユニット60)を備える。例えば、データ取得手段は、眼鏡レンズの後面に形成する段差部分に関する目標の段差輪郭形状のデータを取得する。例えば、データ取得手段は、眼鏡レンズの外形形状データ(例えば、玉型データTD)を取得する。
【0016】
例えば、段差形成データ設定装置は、演算手段(例えば、制御ユニット50)を備える。演算手段は、データ取得手段により取得された段差輪郭形状と段差形成加工具の径とに基づき、段差輪郭形状に対して段差形成加工具によって段差輪郭形状データ通りに加工完了可能か否かを判定する。
【0017】
例えば、演算手段は、段差形成加工具の径と、レンズ保持軸に対する段差形成加工具が取り付けられた回転軸の傾斜角度(例えば、傾斜角α)とに基づき、段差輪郭形状に対して段差形成加工具によって加工完了可能か否かを判定する。例えば、演算手段は、レンズ保持軸の軸方向から見たときの段差形成加工具の外形が描く楕円軌跡を求め、楕円軌跡が段差輪郭形状に接するときの加工点の軌跡を眼鏡レンズの動径角毎に求めることにより、段差形成加工具によって加工完了可能か否かを判定してもよい。演算手段が段差形成加工具の傾斜を考慮した加工軌跡を求めることで、加工可能か否かを精度良く判定できる。例えば、演算手段は、加工不可と判定した場合は、楕円軌跡に基づいて段差輪郭形状に対する加工不可の領域を求めてもよい。
【0018】
なお、回転軸の傾斜の角度は、固定的であってもよいし、任意に変更可能にされていてもよい(例えば、ディスプレイ62の角度LSAの値が変更可能)。例えば、回転軸の傾斜の角度が変更されると、段差形成加工具によって加工可能な領域も変化される。
【0019】
例えば、演算手段は、加工不可と判定した場合は、加工不可の領域に関し、差輪郭形状に対して加工可能な位置に段差形成加工具を位置させたときに段差形成加工具の外形が描く軌跡を求め、求めた軌跡と、眼鏡レンズの動径角毎に変化させた動径角ラインと、の交点を求めることで、段差形成加工具によって予定する加工軌跡を求める。例えば、演算手段は、レンズ保持軸の軸方向から見たときの段差形成加工具の外形が描く楕円軌跡を、段差形成加工具の外形が描く軌跡として求める。この加工軌跡が求められることで、段差部分の追加加工が必要な領域をできる限り小さくでき、作業者は追加加工を効率よく行える。
【0020】
例えば、段差形成データ設定装置は、出力手段(例えば、制御ユニット50)を備える。例えば、出力手段は、演算手段による判定結果を出力する。これにより、作業者に眼鏡レンズの段差部分に加工不可の部分があることを知らせることができ、作業者が適切な対応(追加加工等の必要な処置)を取ることができる。
【0021】
例えば、出力手段は、ディスプレイ(例えば、ディスプレイ62)の表示を制御する表示制御手段(例えば、制御ユニット50)である。例えば、表示制御手段は、演算手段によって求められた加工不可の領域を識別可能にディスプレイに表示することで、演算手段による判定結果を出力する。例えば、表示制御手段は、ディスプレイの画面に、目標の段差輪郭形状を示す第1図形(例えば、段差輪郭形状図形GTSD)を表示し、段差輪郭形状に対して段差形成加工具によって予定する加工領域を示す第2図形(例えば、加工軌跡GPP)を第1図形に重ね合わせて表示するようにディスプレイの表示を制御する。
【0022】
これにより、作業者は、加工不可の領域がどの程度あるかを視覚的に容易に確認でき、加工不可の領域である未加工の段差部分に対する追加加工を行いやすくなる。なお、加工不可の領域(未加工の領域)に関し、追加加工をより容易にするために、実際の距離(例えば、左右方向の距離、上下方向の距離)がディスプレイに表示されてもよい。
【0023】
なお、例えば、外形形状データに第1周縁加工具の径よりも小さな凹形状の部分がある場合、加工制御手段は、外形形状のデータと第1周縁加工具の径とに基づき、外形形状より小さく加工されてしまう加工干渉を回避した外形加工用の加工軌跡を求め、求めた加工軌跡に基づいて移動手段を制御し、第1周縁加工具によって眼鏡レンズを加工する第1加工を行い、第1加工による未加工部分を外形形状データに基づいて移動手段を制御し、第2周縁加工具によって未加工部分を加工する第2加工を行う。この加工により、段差形成加工具による加工前の仕上げ加工後の眼鏡レンズが得られる。
【0024】
なお、本開示においては、本実施形態に記載する装置に限定されない。例えば、上記実施形態の機能を行う制御プログラム(ソフトウェア)をネットワーク又は各種記憶媒体等を介して、システムあるいは装置に供給する。そして、システムあるいは装置の制御部(例えば、CPU等)がプログラムを読み出し、実行することも可能である。
【0025】
例えば、段差形成データ設定プログラムは、段差部分に関する目標の段差輪郭形状のデータを取得するデータ取得ステップと、取得された段差輪郭形状と段差形成加工具の径とに基づき、段差輪郭形状に対して段差形成加工具によって加工完了可能か否かを判定する演算ステップと、演算ステップによる判定結果を出力する出力ステップと、を段差形成データ設定装置の制御ユニットに実行させる。
【0026】
〔実施例〕
本開示の典型的な実施例の一つについて、図面を参照して説明する。図1は、実施例に係る眼鏡レンズ加工装置1が備える加工機構部の構成を説明する図である。
【0027】
例えば、眼鏡レンズ加工装置1は、レンズ保持手段の例であるレンズ保持ユニット100を備える。例えば、眼鏡レンズ加工装置1は、レンズ形状測定ユニット200を備える。例えば、眼鏡レンズ加工装置1は、第1加工具ユニット150を備える。第1加工具ユニット150は、レンズLEの周縁を加工する加工具を回転させるために構成されている。例えば、眼鏡レンズ加工装置1は、第2加工具ユニット400を備える。第2加工具ユニット400は、仕上げ加工後のレンズLEの後面に段差部分を形成する加工具を回転させるために構成されている。例えば、眼鏡レンズ加工装置1は、移動手段の例である移動ユニット300を備える。移動ユニット300は、レンズLEと第1加工具ユニット150が持つ加工具との相対的な位置関係を変える(調整)するために構成されている。また、移動ユニット300はレンズLEと第2加工具ユニット400が持つ加工具との相対的な位置関係を変える(調整)するために構成されている。
【0028】
レンズ保持ユニット100は、レンズLEを保持して回転させるためのレンズチャック軸102と、キャリッジ101と、を備える。レンズチャック軸102は、一対のレンズチャック軸102L及び102Rを備える。キャリッジ101の左腕101Lにレンズチャック軸102Lが回転可能に保持され、キャリッジ101の右腕101Rにレンズチャック軸102Rが回転可能に保持されている。レンズチャック軸102は、モータ120によって回転される。
【0029】
第1加工具ユニット150は、加工具回転軸161を回転するためのモータ160を備える。加工具回転軸161は、レンズチャック軸102と平行な位置関係で、本体ベース170に回転可能に保持されている。加工具回転軸161にレンズLEの周縁を加工するための複数の加工具168が取り付けられている。
【0030】
例えば、加工具168は、前ヤゲン加工具162と、後ヤゲン加工具163と、通常仕上げ加工具164と、鏡面仕上げ加工具165と、粗加工具166と、を含む。実施例では加工具162~166として砥石が使用されているが、カッターが使用されても良い。粗加工具166は、レンズLEの周縁を粗加工するために使用される。通常仕上げ加工具164は、低カーブのレンズLEに通常の小ヤゲンを形成するためV溝と平仕上げ加工面と、を有する。通常仕上げ加工具164の平仕上げ加工面は、平仕上げ加工時に使用される。鏡面仕上げ加工具165は、通常仕上げ加工具164によって仕上げ加工されたレンズ周縁をさらに鏡面仕上げするために使用される。後ヤゲン加工具163は、高カーブのレンズLEの周縁に後ヤゲン(レンズLEの後側のヤゲン斜面)を形成するために使用される。前ヤゲン加工具162は、高カーブのレンズLEの周縁に前ヤゲン形成するために使用される。
【0031】
なお、実施例ではレンズチャック軸102の軸方向をX方向とし、レンズチャック軸102と加工具回転軸161との軸間距離を変動させる方向をY方向とし、XY方向に直交する方向をZ方向とする。
【0032】
図1おいて、キャリッジ101の後方には、第2加工具ユニット400が配置されている。図2は第2加工具ユニット400の概略構成図である。第2加工具ユニット400のベースとなる固定板401は、図1のベース170に立設された支基ブロック172に固定されている。固定板401にはZ軸方向に延びるレール402に沿って移動支基404が摺動可能に取り付けられている。移動支基404は、モータ405がボールネジ406を回転することによってZ軸方向に移動される。移動支基404には、回転支基410が回転可能に保持されている。回転支基410は、回転伝達機構を介してモータ416によりその軸回りに回転される。
【0033】
回転支基410の先端部には、回転部430が取り付けられている。回転部430には回転支基410の軸方向に直交する回転軸431が回転可能に保持されている。回転軸431は、回転部430及び回転支基410の内部に配置された回転伝達機構を介し、移動支基404に取り付けられたモータ440により回転される。回転軸431の一端には、穴加工工具の例であるエンドミル435が同軸に取り付けられている。なお、エンドミル435は、粗加工後のレンズLEの周縁を部分的にカットするための小径の仕上げ加工具としても兼用される。また、回転軸431には、溝掘り加工具433が同軸に取り付けられている。
【0034】
回転軸431の他端に、仕上げ加工後のレンズLEの後面側に段差部分(ステップ)を形成するための段差形成加工具437が同軸に取り付けられている。例えば、段差形成加工具437は砥石である。段差形成加工具437は、砥石に限定されず、カッター等であってもよい。なお、第2加工具ユニット400の構成は、基本的に特開2003-145328号公報に記載されたものを使用できるので、詳細は省略する。
【0035】
図3は、段差形成加工具437の例を示す図である。段差形成加工具437は、レンズLEの後面側の壁面(第1被加工面)STaを形成するための第1加工面437aと、レンズLEの後面側に延びる裾野面(第2被加工面)STbを形成するための第2加工面437bと、を備える。第2加工面437bは先端側に向かって径が小さくなる円錐形状にされている。また、第1加工面437aは、後端に向かって径が小さくなる円錐形状にされている。例えば、第1加工面437aと第2加工面437bとが成す角度SAは、90度より小さく、86度である。なお、段差形成加工具437の加工面は、円筒形状であってもよい。例えば、段差形成加工具437の直径は、約15mm程である。もちろん、段差形成加工具437の直径は、これに限定されず、加工性能、耐久性及びレンズLEの加工時の加工精度に応じて適宜設定される。
【0036】
移動ユニット300は、レンズチャック軸102に保持されたレンズLEと、加工具(加工具168、段差形成加工具437、等)と、の相対的な位置を調整するために構成されている。実施例では、移動ユニット300は、第1移動ユニット310と、第2移動ユニット330と、を備える。
【0037】
第1移動ユニット310は、レンズチャック軸102と加工具回転軸161及び回転軸431との軸間距離を変動させるために使用される。第2移動ユニット330は、レンズチャック軸102の軸方向にレンズLEを移動させるために使用される。また、移動ユニット300は、第3移動ユニットとして、第2加工具ユニット400のモータ405、モータ440を含む。
【0038】
第1移動ユニット310は、モータ315を備える。モータ315の回転により移動支基301がX方向に移動される。これにより、移動支基301に搭載されたキャリッジ101及びレンズチャック軸102(レンズLE)がX方向に移動される。なお、第1移動ユニット310の構成は、加工具回転軸161及び回転軸431をX方向に移動させることでもよい。
【0039】
第2移動ユニット330は、キャリッジ101(レンズチャック軸102)をY方向に移動するためモータ335を備える。キャリッジ101はシャフト333,334に沿ってY方向に移動可能に移動支基301に保持されている。モータ335の回転はY方向に延びるボールネジ337に伝達され、ボールネジ337の回転によりキャリッジ101(レンズチャック軸102とレンズLE)はY方向に移動される。なお、実施例では第2移動ユニット330はレンズチャック軸102をY方向に移動する構成であるが、加工具回転軸161及び回転軸431をY方向に移動させる構成でもよい。すなわち、第2移動ユニット330はレンズチャック軸102と加工具回転軸161及び回転軸431との軸間の距離を相対的に変化させる構成であれば良い。
【0040】
図1において、キャリッジ101の上方にレンズ形状測定ユニット200が配置されている。レンズ形状測定ユニット200は、レンズLEのレンズ前面(前屈折面)の形状と、レンズ後面(後屈折面)の形状と、を測定するために使用される。レンズ形状測定ユニット200は、例えば、レンズ前面形状を測定するための測定ユニット200Fと、レンズ後面形状を測定するための測定ユニット200Rと、を備える。
【0041】
図4は、測定ユニット200Fの概略構成図である。測定ユニット200Fは、レンズ前面に接触する測定子206Fを有する。測定子206Fはアーム204Fの先端に取り付けられている。アーム204Fは、X方向に移動可能に、取付支基201Fに保持されている。アーム204Fは、ラック211F、ピニオン212F、ギヤ214F等を介してモータ216Fに接続されている。モータ216Fの駆動によってアーム204FがX方向に移動され、測定子206FがレンズLEの前面に押し当てられる。ピニオン212Fは、検知器213F(例えば、エンコーダ)の回転軸に取り付けられている。検知器213FによってX方向に移動される測定子206Fの位置が検知される。
【0042】
レンズ後面形状を測定するための測定ユニット200Rの構成は、測定ユニット200Fと左右対称であるので、その説明は省略する。測定ユニット200Rは、レンズ後面に接触される測定子206Rと、測定子206RをX方向に移動させるモータ216Rと、測定子206RのX方向における移動位置を検知する検知器213Rと、を備える。
【0043】
レンズ形状の測定時には、測定子206Fがレンズ前面に接触され、測定子206Rがレンズ後面に接触される。この状態でレンズ保持ユニット100によってレンズLEが回転されるとともに、玉型データに基づいて移動ユニット300によってレンズチャック軸102L及び102RがY方向に移動されることにより、玉型に対応したレンズ前面及びレンズ後面のレンズ形状が同時に測定される。すなわち、測定ユニット200Fによって玉型に対応したレンズ前面のコバ位置が測定され、測定ユニット200Rによって玉型に対応したレンズ後面のコバ位置が測定される。
【0044】
図5は、段差形成データ設定装置55及び眼鏡レンズ加工装置1に係る制御系ブロック図である。眼鏡レンズ加工装置1は、段差形成データ設定装置55を備える。段差形成データ設定装置55は、データ取得ユニット60を備える。データ取得ユニット60はデータ入力ユニットの機能を兼ねていてもよい。例えば、データ取得ユニット60はディスプレイ62を備える。例えば、データ取得ユニット60はデータ入力ユニット63を備える。例えば、ディスプレイ62はタッチパネルの機能を備え、データ入力ユニット63を含むように構成されていてもよい。データ取得ユニット60は、輪郭読取装置30に接続されている。輪郭読取装置30は、例えば、眼鏡フレームから取り外されたデモレンズ(備え付けレンズ)の外形形状(玉型)を読み取る機能と、デモレンズにマークされた段差部分の形状を読み取る機能を有するものを使用できる。輪郭読取装置30の詳細は、例えば、特開2012-185490号公報に記載された技術を使用できるので、これを援用する。
【0045】
段差形成データ設定装置55は、制御ユニット50を備える。制御ユニット50は、データ取得ユニット60に接続され、ディスプレイ62の表示を制御する機能を持つ。制御ユニット50は、段差部分の形成に関する各種の演算を行う演算手段の機能を持つ。また、制御ユニット50は、演算結果を出力する出力手段の機能を持つ。例えば、制御ユニット50は、ディスプレイ62の表示を制御することで、演算結果を出力する。データ取得ユニット60は、記憶手段の例であるメモリ70を備える。メモリ70にはデータ取得ユニット10によって取得された各種データが記憶される。また、メモリ70には、制御ユニット50が段差形成データ設定装置55の動作を制御するための各種プログラムが記憶されている。
【0046】
また、本実施例では、制御ユニット50は、眼鏡レンズ加工装置1の制御ユニットを兼ね、眼鏡レンズ加工装置1の全体の制御を司るためにも構成されている。制御ユニット50に、図1図2及び図4に示した各ユニットの電気系構成要素(モータ等)が接続されている。制御ユニット50はレンズ加工のための各種の演算を行うように構成されている。
【0047】
なお、段差形成データ設定装置55は、眼鏡レンズ加工装置1と分離されていてもよい。この場合、例えば、段差形成データ設定装置55と眼鏡レンズ加工装置1の制御ユニットとがデータ通信可能に構成される。
【0048】
<動作>
以上のような構成を備える段差形成データ設定装置55及び眼鏡レンズ加工装置1における動作を説明する。以下では、レンズ交換タイプの眼鏡フレームのリムに度付きのレンズを嵌め込むために、レンズLEの周縁に段差部分を形成する場合を説明する。
【0049】
<玉型データ及び段差輪郭形状の取得>
まず、初めに、例えば、輪郭読取装置30によって、目標とする眼鏡レンズの玉型(レンズLEの外形形状)及び部分的な段差輪郭形状を取得する例を説明する。
【0050】
図6は、部分的な段差部分の形成が必要な眼鏡フレームSFの典型的な一例を示す図である。図6(a)は、眼鏡フレームSFの正面図を示している。図6(b)は、眼鏡フレームSFをC位置で切断した場合における一部の断面図を示している。眼鏡フレームSFのリムには、点線で示される凹溝(窪み溝)Gが形成されている。凹溝Gは、一定の幅FWを持つ。凹溝Gの深さは、眼鏡フレームSFのリムの縁GCからの距離FDとなっている。眼鏡フレームSFには、デモレンズSLが凹溝Gに嵌め込まれている。デモレンズSLは一定の厚みである。
【0051】
図6(c)は、眼鏡フレームSFに取り付けられているデモレンズSLの正面図を示す図である。デモレンズSLには、眼鏡フレームSFのリムの凹溝GにデモレンズSLを嵌め込んだときの落下を防止するために、左右の両端には凸部のフック部SLaが形成されている。
【0052】
玉型及び部分的な段差輪郭形状を取得する際には、眼鏡フレームSFにデモレンズSLが取り付けられた状態で、作業者は、デモレンズSLのレンズ面上でリムの内側境界に沿ってペン又は粘土等によってマークを付す。作業者は、眼鏡フレームSFからデモレンズSLを取り外した後、そのデモレンズSLの輪郭及びマークが付された内側境界を輪郭読取装置30によって読み取る。そして、図7に示されるように、画像処理によってデモレンズSLの外形形状である玉型データTD(Tr、θ)と、レンズLEの後面側に段差部分を形成するための輪郭形状となる段差輪郭形状データTSD(Sr、θ)と、が得られる。Trは玉型中心FCを基準にした玉型TDの動径長であり、Srは玉型中心FCを基準にした段差輪郭形状TSDの動径長であり、θは動径角である。図7において、玉型データTDと段差輪郭形状データTSDとにより囲まれた領域が、段差加工部分となる。
【0053】
輪郭読取装置30によって読み取られた玉型データTD及び目標の段差輪郭形状データTSDは、データ取得ユニット10に入力され、取得される。なお、目標の段差輪郭形状データTSDは、玉型データTDと同様に二次元的な形状であり、玉型データTDに対して中心側に位置する段差部分の形状(図9における段差部分の壁面STaと裾野面STbとの頂点位置LTの軌跡)である。玉型TD及び段差輪郭形状TSDのデータが取得されると、玉型データTDに対するレンズLEのレイアウトデータ(玉型に対するレンズLEの光学中心の位置関係データ)を設定するためのレイアウト設定画面がディスプレイ62に表示される(図示を略す)。例えば、レイアウトデータ設定画面には、玉型データTDに基づく玉型図形が表示される。作者は、レイアウトデータ設定画面において、画面に表示される所定のタッチキーを操作することによって、レイアウトデータを設定する。例えば、レイアウトデータとしては、装用者の瞳孔間距離(PD値)、眼鏡フレームFの枠中心間距離(FPD値)、玉型の幾何中心に対する光学中心の高さ等のレイアウトデータが挙げられる。
【0054】
また、レイアウトデータ設定画面には、眼鏡レンズLEの加工条件を設定するための各種のスイッチが表示される。加工条件としては、例えば、レンズの材質、フレームの種類、加工モード(ヤゲン加工、平仕上げ加工のモード)、面取り加工の有無、段差加工の有無等を設定することができる。レンズLEに段差部分を加工する場合、作業者は、平仕上げ加工モードを設定すると共に段差加工モードを設定する。
【0055】
段差加工モードを設定した場合、作業者が所定のタッチキーを操作することで、ディスプレイ62の画面には段差加工の編集画面が表示される。図8は、段差加工の編集画面501の表示例である。
【0056】
編集画面501には、例えば、玉型データTDに基づく右眼用の玉型図形GTDが表示される。また、段差輪郭形状TSDのデータに基づく目標の段差輪郭形状図形GTSDが玉型図形GTDに合成されて表示される。また、編集画面501の左下には、レンズLEにおける段差部分の加工断面図GSBが表示されている。作業者は、加工断面図GSBを参考にし、段差部分の幅(レンズ前面と後面側の壁面STaとの幅)LSWと、段差部分の裾野の角度(レンズチャック軸102の方向に対する角度)LSAを、タッチキーの操作によって設定できる。例えば、段差部分の幅LSWは、デモレンズSLの厚みを計測することによって設定される。あるいは、眼鏡フレームSFの凹溝Gの幅FWが測定されることにより、この幅FWに基づいて設定される。また、X方向に対する裾野面STbの角度LSAが作業者によって任意に設定される。例えば、角度LSAは、5度~15度の範囲で設定可能にされている。なお、初期値は5度に設定されている。
【0057】
なお、段差部分の高さ情報LSDは、制御ユニット50により、動径角θ毎における玉型データTDの動径長Trと、段差輪郭形状データTSDの動径長Srと、の差分が演算されることにより得られる。
【0058】
ここで、レンズ交換タイプの眼鏡フレームSFの部分的なリムは、様々な形状にデザインされている。一方、度付きのレンズLEを部分的なリムに嵌め込むために段差部分を形成する場合、段差形成加工具437の大きさの制約を受け、段差輪郭形状データTSD通りに加工できない場合がある。そこで、制御ユニット50は、段差輪郭形状データTSDと段差形成加工具437の径とに基づき、段差輪郭形状データTSD通りに加工完了可能か否かを判定する。この判定において、段差部分の加工時における段差形成加工具437の回転軸431は、レンズチャック軸102の軸方向であるX方向に対して、平行でなく、傾斜するように設定されるため、回転軸431の傾斜の角度を考慮する必要がある。
【0059】
図9は、平仕上げ加工後のレンズLEに段差部分を形成する場合における、X方向と回転軸431との位置関係、及びレンズLEと段差形成加工具437との位置関係を説明する図である。段差部分の加工時には、段差形成加工具437における第1加工面437aと第2加工面437bとの頂点CMが、段差部分の壁面STaと裾野面STbとの頂点位置LTに一致するように、レンズLEと段差形成加工具437とが相対的に移動される。このときのX方向(レンズチャック軸102の軸方向)に対する段差形成加工具437の回転軸431の傾斜角αは、編集画面501で設定された裾野面STbの角度LSAと、回転軸431に対する第2加工面437bの角度(符号を略す)と、によって決定される。そして、傾斜角αに基づき、図9の右側に示されるように、X方向から見たときの頂点CM(段差形成加工具437の外形)が描く楕円軌跡EPが求められる(回転軸431の中心MOを基準とする楕円軌跡)。段差輪郭形状データTSD通りに加工完了可能か否かの判定は、レンズチャック軸102と平行な関係の加工具回転軸161に取り付けられた加工具168が描く真円の軌跡とは異なり、楕円軌跡EPに基づいて求められる。
【0060】
図10は、図7に示された段差輪郭形状データTSDに関し、楕円軌跡EPに基づき、加工干渉が生じることなく、加工完了可能か否かの判定を説明する図である。図1の加工装置1においては、レンズLEが回転しながら段差形成加工具437の楕円軌跡EPが段差輪郭形状に接するが、図10においては、相対的に、段差輪郭形状データTSDの回りに楕円軌跡EPが接する様子を示している。なお、段差輪郭形状データTSDは、玉型データTDが外側に位置しない動径角の範囲では、段差形成加工具437では加工しない範囲とされる。
【0061】
段差輪郭形状データTSDにおける動径角θnの時の動径長をSrn、段差形成加工具437の半径(回転中心から頂点CMまでの距離)をR、レンズチャック軸102の中心と楕円軌跡EPの中心MOとの軸間距離をYnとし、また、回転軸431の傾斜角をαとしたとき、軸間距離Ynは、次式で表される。なお、n=1,2,3、・・・、Nのように変化し、例えば、Nは1,000ポイントである。
【0062】
【数1】
ここで、θnをある範囲で変化させ、Ynが最大となる角度θiを求める。このときの段差輪郭形状データTSD上の加工点PMiは、角度θi上で段差輪郭形状データTSDに楕円軌跡EPが接する点として求められる。図10において、動径角θa(中心MOが位置する方向)のときに、楕円軌跡EPが接する段差輪郭形状データTSD上の加工点PMaは、動径角θa上に位置している。一方、動径角θbのときに、楕円軌跡EPが接する加工点PMbは、動径角θaとは異なる角度θbとなっている。動径角θcのときに、楕円軌跡EPが接する加工点PMcとなる。
【0063】
段差輪郭形状データTSD上の加工点PMaから加工点PMcまでは、動径角θnの単位変化角毎(例えば、加工点を1,000ポイントとしたとき、動径角θnの単位変化角は、0.36度)に、加工点は微小距離で変化する。
【0064】
制御ユニット50は、各加工点PMiが段差輪郭形状データTSDよりも内側に位置する否かを求めることによって、加工干渉することなく、段差輪郭形状データTSD通りに加工可能か否かを判定する。
【0065】
加工点PMaから加工点PMcまでは、段差輪郭形状データTSDが凸形状の範囲であり、基本的に凸形状の範囲では、楕円軌跡EPが段差輪郭形状データに干渉することなく、加工可能である。
【0066】
しかし、図10において、動径角θcの加工点PMcから、動径角θdのときの加工点PMdまでの間は、段差輪郭形状データTSDは凹形状となっており、この間の段差輪郭形状データTSD上に各加工点PMiを位置させようとすると、他の部分の段差輪郭形状データTSDに干渉してしまい、加工不可となる。したがって、加工点PMcから加工点PMdまでの間は、加工不可の領域(範囲)として判定される。
【0067】
制御ユニット50は、段差輪郭形状データTSDについて、加工不可の領域が存在していると判定すると、その旨を出力する。例えば、制御ユニット50は、ディスプレイ62を制御し、図8に示される編集画面501上に、加工不可の旨を表示する。例えば、図7の段差輪郭形状データTSDにおいては、動径角180度付近に加工不可の領域が存在することを注意するため、制御ユニット50は、編集画面501上における段差輪郭形状図形GTSD上の動径角180度付近に注意マークNMaをディスプレイ62に表示させる。また、加工不可の領域が動径角の0度付近にも存在するため、制御ユニット50は、動径角の0度付近にも注意マークNMaをディスプレイ62に表示させる。これにより、作業者は、段差輪郭形状データTSDについて、加工不可の領域があり、段差形成加工具437によって加工完了できないことを認識できる。
【0068】
さらに、作業者が、注意マークNMaをタッチすると、加工不可の領域を識別可能にするために、図11のように、加工不可の領域を示す図形の拡大画面520が、編集画面501上にポップアップして表示される。図11(a)の拡大画面520には、段差形成加工具437によって実際に加工を予定する加工軌跡GPPの図形が表示される。加工軌跡GPPは、段差輪郭形状図形GTSDに重ね合わせて表示される。そして、加工軌跡GPPと段差輪郭形状図形GTSDとの間の領域GNAが、加工不可の領域(未加工の領域)として示される。加工不可の領域GNAは、段差形成加工具437によって加工可能な領域GSDに対して区別されように表示される。例えば、領域GNAは、領域GSDに対して異なる色で表示される。このような表示により、作業者は、段差形成加工具437による加工不可の領域を、視覚的に識別可能にされる。また、加工不可の領域GNAにおける上下方向(y方向)の実際の距離が表示欄521に表示され、左右方向(x方向)の実際の最大距離が表示欄522に表示される。これらの距離の表示により、作業者は、レンズLEの追加加工の範囲を認識でき、追加加工をより容易に行える。
【0069】
図11(b)の拡大画面520は、加工不可の領域を識別可能にするために、他の表示例を示す図である。図11(b)の拡大画面520においては、加工不可の領域が曲線図形GNLとして表示されている。曲線図形GNLの始点から終点までが、加工不可の領域として示される。このような表示によっても、作業者は、段差形成加工具437による加工不可の領域を、視覚的に識別可能となる。
【0070】
ここで、加工不可の領域における加工軌跡GPPを求める演算方法を説明する。図10における加工点PMcと加工点PMdの間は、楕円軌跡EPの段差形成加工具437の頂点CMによって加工される。このため、加工点PMcと加工点PMdの間における単位角度毎の加工点は、前述の数1の式に基づいて求めることはできない。そこで、制御ユニット50は、以下のようにして加工不可の領域における加工軌跡GPPを求める。
【0071】
図12は、段差形成加工具437による予定の加工軌跡GPPの演算方法を説明する図である。なお、図12においては、説明を簡単にするために、玉型の中心FCを原点としたxy座標において、x軸方向(動径角の0度方向)に楕円軌跡EPの中心MOが位置するものとして説明する。例えば、加工軌跡GPPは、中心FCを中心にして単位変化角(実施例では、0.36度)の動径角ごとに求めるものとする。なお、図12におけるxy方向は説明の便宜上の方向であり、図1に示したXY方向とは異なる。
【0072】
図12において、ある動径角θi(i=1,2,3、・・・、N)の動径角ラインLLPは、以下の数2の式で表される。
【数2】
図12において、楕円軌跡EP上の座標は、以下の数3の式で表される。
【数3】
Dは中心FCから楕円軌跡EPの中心MOまでのx方向の距離を示し、Rは段差形成加工具437の半径を示す(図9参照)。αはレンズチャック軸102の軸方向に対する段差形成加工具437の傾斜角を示す(図9参照)。
【0073】
上記の数2及び数3の連立方程式を解くことにより、動径角ラインLLPと楕円軌跡EPと交わる交点のxy座標が求められる。なお、交点は2箇所が求められるが、中心FCに近い方の交点が演算結果として採用される。そして、動径角θiを単位変化角毎に変化させ、各動径角θiの交点を求めることで、図12に示された楕円軌跡EP上の座標が求められる。
【0074】
なお、図10では、楕円軌跡EPは、段差輪郭形状データTSDに加工点PMcに接する動径角θcの場合と、段差輪郭形状データTSDに加工点PMdに接する動径角θdの場合があるので、それぞれの楕円軌跡EP上の座標が求められる。そして、楕円軌跡EPが重なっている部分では、中心FCに近い方の座標が採用される。これにより、加工不可の領域(加工点PMcと加工点PMdの間の領域)で予定する加工軌跡GPPが求められる。
【0075】
以上のようにして加工軌跡GPPが求められ、ディスプレイ62の画面に表示されることにより、加工不可の領域GNAとの違いが視覚的に明確になり、作業者が追加加工する場合に、追加加工領域を把握しやすくなる。
【0076】
作業者は、編集画面501により、段差部分の形成に関する必要なデータの設定及び加工不可の領域の確認をしたら、レンズLEをレンズチャック軸102R、102Lにより挟持させる。作業者によって、図示無き加工開始スイッチが押されると、段差形成データ設定装置55によって設定された段差加工データは、眼鏡レンズ加工装置1の制御ユニットの例である制御ユニット50に出力される。制御ユニット50は、レンズLEの周縁の加工に係る動作を開始する。
【0077】
初めに、制御ユニット50は、レンズ形状測定ユニット200を作動させ、レンズ形状測定を行う。制御部ユニット50は、レンズLEの前側屈折面及び後側屈折面における玉型に対応するX方向の位置情報を取得する。このとき、制御部ユニット50は、レンズ形状測定ユニット200によって得られたデータからレンズLEの屈折面(前屈折面及び後屈折面)のカーブ情報(傾斜情報)を取得する。例えば、前屈折面のカーブ情報は、玉型に対応する前側屈折面データの内の少なくとも4点を使用することによって、数学的に取得することができる。なお、前屈折面のカーブ情報は、玉型に対応する位置付近で、動径角毎におけるレンズチャック中心から異なる距離での位置情報を取得することによって取得してもよい。
【0078】
レンズ形状測定が完了すると、制御ユニット50は、粗加工を開始する。制御部ユニット50は、玉型データTD及びレイアウトデータに基づいて、レンズ周縁を粗加工するために、各部材を駆動するための加工制御データを求める。粗加工制御データは、粗加工具166の径(半径)及び玉型データTDに基づき、レンズLEの回転角毎の加工具回転軸161とレンズチャック軸102(レンズLEの回転中心)との軸間距離を求めることにより得られる。なお、粗加工制御データは、仕上げ加工時の砥石回転軸161とレンズチャック軸102の軸間距離に対して、一定の粗加工代分だけ大きくしたデータとして取得される。
【0079】
粗加工制御データが取得されると、制御ユニット50は、モータ315を駆動し、粗砥石166の位置にレンズLEが来るようにキャリッジ101を移動させた後、粗加工制御データに基づいてモータ150を制御し、レンズLEの周縁に粗加工を行う。
【0080】
粗加工が完了すると、次いで、平加工(平仕上げ加工)が行われる。制御ユニット50は、玉型データTD及びレイアウトデータに基づいて、レンズ周縁を平加工するための平加工制御データを求める。平加工制御データは、仕上げ加工具164の平仕上げ加工面の径及び玉型データTDに基づき、レンズLEの回転角毎の加工具回転軸161とレンズチャック軸102との軸間距離を求めることにより得られる。
【0081】
ここで、玉型データTDには、図13に示すように、デモレンズSLの輪郭から読み取ったフック部SLaがあるため、その近傍には小さな凹部SLbがある。この凹部SLbに対して仕上げ加工具164の径が大きい場合は、凹部SLbの玉型データ通りに加工できない。そこで、制御ユニット50は、仕上げ加工具164の径に基づき、仕上げ加工具164で加工可能な補正軌跡TDLbを求める。なお、仕上げ加工具164の加工具回転軸161は、レンズチャック軸102と平行な位置関係であるため、制御ユニット50は、段差形成加工具437の場合のように回転軸431の傾斜を考慮する必要はなく、仕上げ加工具164が真円であるとして加工点を求めることで、玉型データTDよりも小さく加工されてしまう加工干渉を回避した外形加工用の補正軌跡TDLbを求めることができる。なお、図13においては、補正軌跡TDLbは左側部分と右側部分の2箇所に設定されている。仕上げ加工具164による未加工の領域は、仕上げ加工具164よりも小径のエンドミル435によって加工される領域として設定される。
【0082】
制御ユニット50は、玉型データTD及び補正軌跡TDLbに基づき、移動ユニット300の駆動を制御し、仕上げ加工具164によってレンズLEの周縁を仕上げ加工する。次に、制御ユニット50は、第1移動ユニット310の駆動を制御すると共に、第2加工具ユニット400のモータ405、モータ416の駆動を制御し、仕上げ加工具164による未加工領域をエンドミル435によって加工させる。これにより、仕上げ加工が完了する。
【0083】
レンズLEの仕上げ加工が完了したら、制御ユニット50は、段差形成加工具437によって仕上げ加工後のレンズLEの周縁に段差部分を形成する。制御ユニット50は、Y方向の段差形成制御データ(レンズチャック軸102の中心と段差形成加工具437の中心MOとの軸間距離の制御データ)に関し、段差輪郭形状データTSDに基づき、前述のように動径角毎の加工点を求めることにより得る。このとき、制御ユニット50は、段差形成加工具437の回転軸431の傾斜を、編集画面501によって設定された角度LSAに基づいて設定する。また、制御ユニット50は、X軸方向の段差形成制御データに関し、動径角度ごとに、段差輪郭形状データTSDに対応するX方向位置を、レンズLEの前屈折面形状と、編集画面501によって設定された段差部分の幅LSWと、に基づいて得る。なお、レンズLEの前屈折面形状は、レンズ形状測定ユニット200による測定結果に基づいて得られる。
【0084】
制御ユニット50は、Y方向及びX方向の制御データに基づき、移動ユニット300及び第2加工具ユニット400の各モータの駆動を制御し、図9のように、動径角毎に段差形成加工具437の頂点CMとレンズLEの頂点位置LTとを一致させながらレンズLEを回転することで、レンズLEに段差部分を形成する。このとき、制御ユニット50は、頂点CMの加工点が段差輪郭形状データTSDより中心側に入らないように、加工不可の領域(図11(a)の領域GNA)を残して加工完了させる。
【0085】
眼鏡レンズ加工装置1によるレンズLEの加工が完了したら、作業者は、レンズLEをレンズチャック軸102から取り外す。作業者は、眼鏡レンズ加工装置1とは別の装置(例えば、彫刻用のハンドグラインダー)を使用し、段差部分の未加工領域を追加加工する。例えば、追加加工に当たり、作業者は、眼鏡レンズ加工装置1のディスプレイ62を操作し、図11(a)に示された拡大画面520を表示させる。作業者は、拡大画面520に表示された加工不可の領域GNA、表示欄521に表示された上下方向の距離、表示欄522に表示された左右方向の距離、等を参考にすることにより、未加工領域の追加加工を行いやすくなる。
【0086】
<変容例>
なお、上記の説明では、段差部分(ステップ)を形成する加工具として段差形成加工具437を使用する例を説明したが、これに限られない。例えば、段差形成用の加工具として、溝掘り加工具433が兼用されてもよい。段差形成用の加工具として溝掘り加工具433を使用する場合も、レンズチャック軸102に対して回転軸431が傾斜して加工が行われるため、溝掘り加工具433の頂点が描く軌跡は楕円軌跡となる。このため、段差輪郭形状データTSD通りに加工完了可能か否かの判定は、段差形成加工具437と同様に、楕円軌跡に基づいて行われる。
【0087】
なお、実施例では、レンズチャック軸102の軸方向に対する段差形成加工具437の回転軸431の傾斜角αは、第2加工具ユニット400の回転部430が回転されることで設定されるものとしたが、これに限られない。例えば、回転軸431が別の旋回機構によって加工位置に置かれ、間接的に旋回の角度が設定されるとで、回転軸431の傾斜角αが設定されることでもよい。
【0088】
なお、上記の説明では、仕上げ加工として、平仕上げ加工(平加工)を行う場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、仕上げ加工としては、仕上げ加工具164が持つV溝によるヤゲン加工が行われてもよい。また、仕上げ加工としては、平仕上げ加工後の周縁に、さらに、溝掘り加工具433による溝堀面取り加工が行われてもよい。
【0089】
以上、本開示の典型的な実施例を説明したが、本開示はここに示した実施例に限られず、本開示の技術思想を同一にする範囲において種々の変容が可能である。
【符号の説明】
【0090】
1 眼鏡レンズ加工装置
50 制御ユニット
55 段差形成データ設定装置
60 データ取得ユニット
62 ディスプレイ
102 レンズチャック軸
431 回転軸
437 段差形成加工具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13