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特開2022-154908リングオシレータ、およびリングオシレータの起動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154908
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】リングオシレータ、およびリングオシレータの起動方法
(51)【国際特許分類】
   H03K 3/014 20060101AFI20221005BHJP
   H03K 3/02 20060101ALI20221005BHJP
   H03K 3/0231 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
H03K3/014
H03K3/02 Z
H03K3/0231
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058176
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】320012037
【氏名又は名称】ラピステクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 学
【テーマコード(参考)】
5J300
【Fターム(参考)】
5J300AA12
5J300BB02
5J300CC04
5J300DD00
5J300DD02
5J300DD07
5J300LL02
(57)【要約】
【課題】偶数段のインバータを用いたリングオシレータにおいて、より確実に起動させることが可能なリングオシレータ、およびリングオシレータの起動方法を提供すること。
【解決手段】偶数個のインバータが環状に接続され、クロック信号を出力する発振回路と、偶数個のインバータの間に接続され、各々第1の制御信号によって接続、解除が切り替え可能な複数の電位固定回路と、偶数個のインバータの駆動能力を第2の制御信号に基づいて調整する調整回路と、を含み、発振回路の起動時に、第1の制御信号によって、電位固定回路が接続されるように、駆動能力が第1の能力となるように制御され、第1の制御信号が出力されてから予め定められた時間の経過後に、第2の制御信号によって、電位固定回路が解除されるように、駆動能力が第1の能力より高い第2の能力となるように制御される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偶数個のインバータが環状に接続され、クロック信号を出力する発振回路と、
前記偶数個のインバータの間に接続され、各々第1の制御信号によって接続、解除が切り替え可能な複数の電位固定回路と、
前記偶数個のインバータの駆動能力を第2の制御信号に基づいて調整する調整回路と、を含み、
前記発振回路の起動時に、前記第1の制御信号によって、前記電位固定回路が接続されるように、前記駆動能力が第1の能力となるように制御され、
前記第1の制御信号が出力されてから予め定められた時間の経過後に、前記第2の制御信号によって、前記電位固定回路が解除されるように、前記駆動能力が前記第1の能力より高い第2の能力となるように制御される
リングオシレータ。
【請求項2】
前記駆動能力は前記偶数個のインバータに流す電流で調整され、前記第2の能力に対応する電流が前記第1の能力に対応する電流より大きい
請求項1に記載のリングオシレータ。
【請求項3】
前記予め定められた時間が、前記偶数個のインバータの一巡の遅延時間より長い
請求項1または請求項2に記載のリングオシレータ。
【請求項4】
前記電位固定回路がプルアップ回路またはプルダウン回路である
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のリングオシレータ。
【請求項5】
前記第2の制御信号が、前記予め定められた時間に相当する遅延時間を有する遅延回路によって前記第1の制御信号を遅延させた信号である
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のリングオシレータ。
【請求項6】
前記クロック信号を検出する検出回路をさらに含み、
前記第2の制御信号は前記検出回路がクロック信号を検出した場合に前記検出回路から出力される
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のリングオシレータ。
【請求項7】
前記予め定められた時間より長い計時時間を有する計時回路をさらに含みし、
前記計時回路は、前記第1の制御信号によって計時動作が開始され、前記第2の制御信号によって計時動作が停止される
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のリングオシレータ。
【請求項8】
偶数個のインバータが環状に接続され、クロック信号を出力する発振回路、前記偶数個のインバータの間に接続され、各々第1の制御信号によって接続、解除が切り替え可能な複数の電位固定回路、および前記偶数個のインバータの駆動能力を第2の制御信号に基づいて調整する調整回路を含むリングオシレータを起動する方法であって、
前記発振回路の起動時に、前記第1の制御信号によって、前記電位固定回路が接続されるように、前記駆動能力が第1の能力となるように制御し、
前記第1の制御信号が出力されてから予め定められた時間の経過後に、前記第2の制御信号によって、前記電位固定回路が解除されるように、前記駆動能力が前記第1の能力より高い第2の駆動能力となるように制御する
リングオシレータの起動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リングオシレータ、およびリングオシレータの起動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リングオシレータとは、複数個の遅延要素をリング状に結合した構成を有する発振回路であり、遅延要素として典型的にインバータ(NOT回路)が用いられる。インバータの段数は奇数段であるのが一般的であるが、偶数段のインバータを備えたリングオシレータ(以下、「偶数段リングオシレータ」という場合がある)も知られている。リングオシレータでは単相のクロック信号のみならず、インバータの段数に応じて、多相のクロック信号(多相クロック信号)を出力することも可能である。多相クロック信号を出力するリングオシレータは、例えばCDR(Clock Data Recovery:クロックデータ再生)回路、あるいはSerDes(Serializer/Deserializer:直並列変換)回路など、複数相のクロックを要する回路に用いられている。一方、CDR回路やSerDes回路等が採用しているデータの規格によっては、シリアルデータを偶数系統のパラレルデータに展開する必要がある。偶数系統のパラレルデータを作るためには偶数相のクロック信号を要し、偶数相のクロック信号を生成するためには、遅延時間の均質性等の理由から偶数段のリングオシレータを用いることが好ましい。
【0003】
偶数段リングオシレータに関する技術を開示した文献として、例えば特許文献1が知られている。特許文献1に開示された差動リング発振回路は、2相の信号を遅延して出力する遅延回路がリング状に偶数段接続された差動リング発振部から、偶数段目の1つの遅延回路の2相の入力信号と、奇数段目の1つの遅延回路の2相の入力信号を取り出す。そして、偶数段目の1つの遅延回路の2相の入力信号が所定の同じレベルであるとき、その2相の入力信号を遅延する遅延回路の2相の出力信号のいずれか一方が、強制的に特定の電位になるようにした。また、奇数段目の1つの遅延回路の2相の入力信号が所定の同じレベルであることを検出したとき、その2相の入力信号を遅延する遅延回路の2相の出力信号のいずれか一方が、強制的に特定の電位になるようにされている。特許文献1に係る差動リング発振回路では、同相レベル状態の検出が、偶数段目の遅延回路と奇数段目の遅延回路のそれぞれで行われることで、どのような同相レベル状態であっても、差動リング発振部が正常な発振状態になるように起動する。このため、本開示によると、デッドロック状態になるのが、効果的に回避されるとしている。
【0004】
また、特許文献2も知られている。特許文献2に開示されたCDR回路は偶数相リング発振器を備えている。そして、この偶数相リング発振器は、リング状に接続された遅延回路の中に複数のデータ保持用クロックを出力する遅延回路を持ち、そのうち、偶数相の発振出力信号をもとに誤動作につながる急峻な回路動作とならない遅延回路を1個選択し、その遅延回路がデータ保持用クロックを出力するまでの遅延時間計測開始タイミングのみをデータ変化に同期させることで、回路の誤動作を防いでいる。特許文献2では、このような構成の偶数相リング発振器を備えることにより、データの送信側と受信側の基準周波数信号源の周波数オフセットが大きい場合においても、CDR回路の誤動作なしに正常なデータを保持できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-045359号公報
【特許文献2】特開2016-039530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、偶数段リングオシレータは、上記のようにインバータを偶数個リング状に直列に接続して構成したものであることから、適切に起動できないと論理的に安定となり、発振できないという特質がある。そのため、偶数段リングオシレータを確実に起動させるためには特別な工夫を要する。例えば、従来、偶数段リングオシレータを構成するインバータ間にプルアップ回路、またはプルダウン回路を接続する方法が知られている。
【0007】
この比較例に係る偶数段リングオシレータでは、起動当初に偶数段リングオシレータを構成する少なくとも1つのインバータの入出力をともにロウレベル(以下、「L」と表記する。これに対し、ハイレベルは「H」と表記する)にする等、インバータの回路の一部がストレスを持つように入出力の電位を固定する。その固定電位状態からプルアップまたはプルダウンを解除することで、ストレスのある状態からない状態へ急激に遷移するエネルギーを利用して発振を開始させる方法である。
【0008】
しかしながら、比較例に係るリングオシレータによっても、安定的に起動させるには不十分であった。すなわち、プルアップまたはプルダウンを解除しても、実用上十分な確実性をもって起動させるには至っていない。これは、プルアップ回路またはプルダウン回路の接続、解除に伴うエネルギー遷移における、インバータ回路の能力とプルアップ回路またはプルダウン回路の能力との関係が十分に検討されていないことに起因すると考えられる。この点特許文献1でも起動について扱っているが、特許文献1に係る差動リング発振回路は、前段のインバータの出力を待って次段のインバータに送ることにより確実に発振させようとするものであり、本発明とは解決方法が基本的に異なる。また特許文献2は、送信受信間における基準周波数オフセットによるCDR回路の誤動作の回避を課題としており、リングオシレータの起動を課題としたものではない。
【0009】
本発明は、上記の事情を踏まえ、偶数段のインバータを用いたリングオシレータにおいて、より確実に起動させることが可能なリングオシレータ、およびリングオシレータの起動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係るリングオシレータは、偶数個のインバータが環状に接続され、クロック信号を出力する発振回路と、前記偶数個のインバータの間に接続され、各々第1の制御信号によって接続、解除が切り替え可能な複数の電位固定回路と、前記偶数個のインバータの駆動能力を第2の制御信号に基づいて調整する調整回路と、を含み、前記発振回路の起動時に、前記第1の制御信号によって、前記電位固定回路が接続されるように、前記駆動能力が第1の能力となるように制御され、前記第1の制御信号が出力されてから予め定められた時間の経過後に、前記第2の制御信号によって、前記電位固定回路が解除されるように、前記駆動能力が前記第1の能力より高い第2の能力となるように制御される。
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係るリングオシレータの起動方法は、偶数個のインバータが環状に接続され、クロック信号を出力する発振回路、前記偶数個のインバータの間に接続され、各々第1の制御信号によって接続、解除が切り替え可能な複数の電位固定回路、および前記偶数個のインバータの駆動能力を第2の制御信号に基づいて調整する調整回路を含むリングオシレータを起動する方法であって、前記発振回路の起動時に、前記第1の制御信号によって、前記電位固定回路が接続されるように、前記駆動能力が第1の能力となるように制御し、前記第1の制御信号が出力されてから予め定められた時間の経過後に、前記第2の制御信号によって、前記電位固定回路が解除されるように、前記駆動能力が前記第1の能力より高い第2の駆動能力となるように制御する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、偶数段のインバータを用いたリングオシレータにおいて、より確実に起動させることが可能なリングオシレータ、およびリングオシレータの起動方法を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1の実施の形態に係るリングオシレータの、(a)は構成の一例を示すブロック図、(b)はプルダウン回路を説明するための回路図、(c)は起動時におけるインバータの駆動能力とプルダウン回路の駆動能力とを説明するための図である。
図2】(a)は第1の実施の形態に係るリングオシレータの起動時の各部の波形を示すタイムチャート、(b)は比較例に係るリングオシレータの起動時の各部波形を示すタイムチャートである。
図3】実施の形態に係るリングオシレータの多相クロック信号の生成について説明する回路図である。
図4】第2の実施の形態に係る、(a)はリングオシレータの構成の一例を示すブロック図、(b)はクロック検出回路の構成の一例を示す回路図である。
図5】第2の実施の形態に係るリングオシレータの起動時の各部の波形を示すタイムチャートである。
図6】第3の実施の形態に係るリングオシレータの、(a)は構成の一例を示すブロック図、(b)は起動時の各部波形を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下に説明する各リングオシレータはCDR回路やSerDes回路等のクロック信号を用いる回路に搭載されているが、以下の説明では、主としてリングオシレータについて説明する。なお、以下の説明では、本実施の形態に係るリングオシレータを搭載している回路を「搭載回路」という。
【0015】
[第1の実施の形態]
図1から図3を参照して、本実施の形態に係るリングオシレータおよびリングオシレータの起動方法について説明する。図1(a)に示すように、本実施の形態に係るリングオシレータ10は、発振回路12、電位制御回路14、遅延回路16、駆動電流調整回路18、および可変電流源20を含み、起動信号Ssによって起動される。起動信号Ssは、一例として、搭載回路内に設けられた電源の投入を検知する回路が電源の投入を検知した場合に発出される。ただし、起動信号Ssの発出は、電源の投入を検知する回路に限られず、搭載回路内に設けられた制御部(マイコン等)が、電源電圧が規定の電圧になったことを検知して発出してもよい。また、本実施の形態に係るリングオシレータ10では、CLK(1)、CLK(2)、・・・、CLK(n-1)、CLK(n)のn本の多相クロック信号を出力している。しかしながら、出力するクロック信号の数はn本である必要はなく、1から(n-1)の任意の本数も選択することができる。なお、「起動信号Ss」、「駆動電流調整回路18」は、各々本発明に係る「第1の制御信号」、「調整回路」の一例である。
【0016】
発振回路12は、nを任意の偶数とするn段のインバータINV1、インバータINV2、・・・、インバータINVn(以下、総称する場合は「インバータINV」)が直列にかつリング状(環状)に接続された発振回路である。発振回路12には後述する電位固定回路が含まれる。電位固定回路は、インバータINVの入出力を強制的に一定のレベルに固定する回路である。電位固定回路は、Hに固定する場合には一例としてプルアップ回路PU、Lに固定する場合には一例としてプルダウン回路PDが用いられる。本実施の形態では、電位固定回路として、図1(b)に示すように、プルダウン回路PD(図1(b)では、プルダウン回路PD1、PD2が例示されている)が接続されている。以下、電位固定回路としてプルダウン回路PDを採用した形態を例示して説明する。なお、以下の説明では、プルアップ、プルダウンの接続先を電源またはグランドとする形態を例示して説明するが、プルアップ回路PU、プルダウン回路PDの寄生素子の影響等によって、プルアップ、プルダウンする対象の電位は必ずしも正確に電源、またはグランドの電位になっているとは限らない。
【0017】
電位制御回路14は、発振回路12を構成するインバータの段間に接続された電位固定回路の接続、解除を制御する電位固定制御信号Vfを生成する回路である。
【0018】
遅延回路16は、起動信号Ssを予め定められた時間遅延させ、起動信号Ss’を出力する回路である。可変電流源20は、インバータINVの各々に流す電流を変化させる回路である。駆動電流調整回路18は、起動信号Ss’に基づいて可変電流源20を制御する電流源制御信号CTRLを出力する回路である。なお、「起動信号Ss’」は、本発明に係る「第2の制御信号」の一例である。
【0019】
次にリングオシレータ10の動作について説明する。電源投入時等における初期状態において、プルダウン回路PDは接続されている。起動信号Ssが発出されると、まずプルダウン回路PDが解除される。上述したように、このプルダウン回路PDの接続から解除への状態遷移に伴うエネルギーによって発振回路12が起動を開始する。図1(b)を参照して、プルダウン回路PDの接続、解除をより具体的に説明する。図1(b)では、プルダウン回路PDを等価的にスイッチで表している。図1(b)<1>に示すように、搭載回路の初期状態において、各インバータINV(図1(b)<1>では、インバータINV1、INV2を図示している)の入出力はプルダウン回路PD(図1(b)<1>では、プルダウン回路PD1、PD2を図示している)によって強制的にLに固定されている。
【0020】
次に図1(b)<2>に示すようにプルダウン回路PDが解除されると、プルダウン回路PDの影響がなくなるので、インバータINVの出力は自然にLからHに変化する。すなわち、各インバータINVの均衡が破れ、インバータINV1の入力がLである場合、インバータINV1の出力、すなわちインバータINV2の入力はLからHに変化する。入力がLからHに変化したことによって、最初LであったインバータINV2の出力は、LからH、HからLへと変化する。このような変化が少なくとも1つのインバータINVで発生し、一巡することにより、発振回路12が発振を開始する。
【0021】
次に、遅延回路16によって遅延された起動信号Ssである起動信号Ss’が駆動電流調整回路18に入力される。駆動電流調整回路18は、起動信号Ss’に基づいて可変電流源20の電流を制御する電流源制御信号CTRLを生成する。電流源制御信号CTRLによって発振回路12を構成する各インバータINVに流す電流が調整され、発振回路12がより確実に発振する状態とされる。
【0022】
ここで、上述した比較例に係るリングオシレータでは、起動信号Ssを用いて電位固定回路の接続、解除を行っているのみであり、インバータINVに流す電流を調整していない。比較例に係るリングオシレータでも、プルダウン回路PDを接続、解除することによる状態遷移時のエネルギーを利用してリングオシレータを発生させている。しかしながら、比較例に係るリングオシレータでは、プルダウン回路PDの接続、解除時のインバータINVの駆動能力と、プルダウン回路PDの駆動能力との関係に配慮していないので、安定的に発振が開始されるとは限らない。
【0023】
図1(c)を参照して、プルダウン回路PDの接続、解除時のインバータINVの駆動能力と、プルダウン回路PDの駆動能力との関係について説明する。図1(c)は、インバータINVとプルダウン回路PDをトランジスタで表した図である。図1(c)示すように、インバータINVはP型MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタ(以下、「P型トランジスタ」)1、およびN型MOSトランジスタ(以下、「N型トランジスタ」)1を含んでいる。プルダウン回路PDは、N型トランジスタMN2、MN3で構成されている。図1(a)に示す電位固定制御信号Vfは、N型トランジスタMN2、MN3のゲートに入力される。インバータINVは、入力がLであれば出力がHになるように動作する回路である。従って、図1(b)<1>に示すように、インバータINVの入出力を強制的にLに固定すると、インバータINVとしては不自然な状態となり、P型トランジスタMP1とN型トランジスタMN3とが互いに動作しようとして競合状態(綱引き状態)となる。なお、プルダウン回路PDの代わりにプルアップ回路PUを採用する場合には、図1(c)に示すN型トランジスタMN2、MN3をP型トランジスタに変更し、該P型トランジスタをインバータINVの入出力と高電位側の電源との間に接続すればよい。
【0024】
この競合状態を解消し、初期状態において、インバータINVの入出力を確実にLに固定するためには、P型トランジスタMP1に流れる電流IDinvとN型トランジスタMN3に流れる電流IDPDの関係が、IDinv<IDPDとなっている、すなわち、プルダウン回路PDを構成するN型トランジスタMN3の駆動能力が、インバータINVを構成するP型トランジスタMP1の駆動能力より相対的に大きいことが必要である。N型トランジスタMN3とP型トランジスタMP1とが以上のような関係を充足するためには、以下の方法が考えられる。
<方法1>
起動時において、インバータINVの駆動能力を相対的に小さくする。
<方法2>
プルダウン回路PDの駆動能力を相対的に大きくする。
【0025】
<方法2>を採用した場合、プルダウン回路PD(N型トランジスタMN2、MN3)のトランジスタサイズを大きくする必要がある。しかしながらこの場合、相対的に大きなトランジスタサイズのプルダウン回路PDが、発振回路12が発振を開始した後の通常動作時にも定常的に接続されることになる。すなわち、N型トランジスタMN2、MN3がオフになっても、インバータINVの段間に比較的大きな負荷容量が定常的に接続される。このことは、比較的発振周波数の低いリングオシレータ10では問題とならないが、リングオシレータ10の発振周波数を高速化したい場合には不利である。
【0026】
そこで、本実施の形態では、<方法1>を採用し、リングオシレータ10の起動時と、リングオシレータ10が発振を開始した後の通常動作時で、インバータINVの駆動能力を切り替えることとした。すなわち、起動時には、プルダウン回路PDの駆動能力がインバータINVの駆動能力に勝るようにインバータINVの駆動能力を下げておき、通常時には安定した発振出力が得られるように駆動能力を上げる構成とした。本実施の形態では可変電流源20によってインバータINVに流す電流を変えることで、この構成を実現している。より具体的には、起動時にはインバータINVに流す電流を相対的に小さい電流(以下、「起動電流」という場合がある)としておき、起動後予め定められた時間の経過後に、インバータINVに流す電流を相対的に大きい電流とする。
【0027】
次に、図2を参照して、リングオシレータ10の各部の波形変化について説明する。図2(a)には、リングオシレータ10の各部波形として、起動信号Ss、Ss’、電位固定制御信号Vf、電流源制御信号CTRL、およびクロック信号CLK(k)(kは、1からnの任意の整数)を示している。上述したように、本実施の形態に係るリングオシレータ10では、n本のクロック信号からなる多相クロック信号を出力している。図3は、リングオシレータ10における多相クロック信号の取り出し方を示している。図3に示すように、多相クロック信号は、インバータINV1からクロック信号CLK(1)、インバータINV2からクロック信号CLK(2)、・・・、インバータINV(n-1)からクロック信号CLK(n-1)、インバータINVnからクロック信号CLK(n)のように、各インバータINVの出力から順に出力されている。
【0028】
図2(a)に示すように、時刻t1で起動信号Ssが発出されている。起動信号Ssは、Lで停止、Hで起動(アクティブH)である。起動信号Ssの発出と共に、電位固定制御信号VfがHからLに切り替わっている。電位固定制御信号Vfは、上述したように、プルダウン回路PDを構成する各N型トランジスタのゲートに入力されている。すなわち、本実施の形態に係る電位制御回路14は、起動信号Ssを、プルダウン回路PDを構成するN型トランジスタを駆動可能な極性の信号に変換して各N型トランジスタに分配する機能を有する。従って、電位固定回路がプルアップ回路PUの場合は、電位固定制御信号VfはLからHに切り替わる。なお、本実施の形態ではアクティブHの起動信号Ssを例示して説明するが、これに限られずアクティブLであってもよい。
【0029】
時刻t1でプルダウン回路PDが解除されたことにより、発振回路12の各ノードが状態遷移を始め、発振回路12が発振を開始する。発振回路12が発振を開始すると、クロック信号CLK(k)が、一例として図2(a)に示すように変化する。この時インバータINVには、相対的に小さい電流である起動電流が流れる。時刻t1では駆動電流調整回路18に起動電流が流れているので、予め定められた時間、すなわち、遅延回路16の遅延時間が経過するまでは、インバータINVに流れる電流は起動電流のままである。
【0030】
時刻t3で、遅延回路16によって遅延された起動信号Ssである起動信号Ss’が駆動電流調整回路18に入力されると、電流源制御信号CTRLが起動状態から通常動作状態へ遷移し、リングオシレータ10が起動を開始する。電流源制御信号CTRLによって、発振回路12は起動状態から通常動作状態に遷移していく。電流源制御信号CTRLが増加すると発振回路12を構成するインバータINVの電流が増加するので、発振回路12の発振周波数が高くなっていく。本実施の形態では、クロック信号CLK(k)の発振周波数が所望の発振周波数となるように電流源制御信号CTRLの到達点を設定しておく。つまり、リングオシレータ10は、電流源制御信号CTRLを周波数制御電圧とするVCO(Voltage Controlled Oscillator)として動作する。なお、リングオシレータ10は単純なクロック源としてだけではなく、PLL(Phase Locked Loop)としても構成可能である。すなわち、駆動電流調整回路18に、基準クロック信号とクロック信号CLK(k)との位相を比較する位相比較回路を設け、位相比較回路の出力を用いて電流源制御信号CTRLを生成するようにしてもよい。
【0031】
図2(b)を参照して、リングオシレータ10において、遅延回路16を設ける理由について説明する。すなわち、リングオシレータ10においては、起動時と通常動作時とではインバータINVの駆動能力が異なるため、系としてはインバータINVの起動後速やかに通常動作状態へ移行しようとする。しかしながら、回路の動作条件により起動動作よりも通常動作への移行が先んじてしまった場合、インバータINVの能力が大きい状態で起動することになり、プルダウン回路PDが適切な電位に固定できず発振できなくなることが想定される。すなわち、リングオシレータの起動後、発振回路12の発振動作が一巡するよりも前のタイミングで起動信号Ss’が発出されると、発振が開始されないという誤動作も想定される。
【0032】
つまり、遅延回路16を設けない場合は、2(b)に示すように、時刻t1において起動信号Ss、および電位固定制御信号Vfが反転すると同時に、電流源制御信号CTRLが変化し始める。この時点で発振回路12は発振を開始するが、同時にインバータINVの駆動能力が大きくなっていく。つまり、起動信号Ssの反転と同時に電流源制御信号CTRLが遷移を始めるので、各インバータINVが状態遷移しその状態遷移が伝播して発振開始となる前に、インバータINVの駆動能力が増大して論理状態を固定してしまう可能性がある。その結果、図2(b)に示すように、クロック信号CLK(k)は発振を開始したものの途中で停止してしまう。
【0033】
これに対し、リングオシレータ10では、図2(a)に示す時刻t2において発振回路12の状態遷移が一巡している。すなわち、発振回路12の一巡の遅延時間よりも、遅延回路16の遅延時間の方が長くなるように設定されている。つまり、時刻t2において例えば発振回路12の発振が安定した後に電流源制御信号CTRLが立ち上がるように構成されている。このことにより、発振回路12はより確実な状態で発振を開始することができる。発振回路12の一巡の遅延時間と遅延回路16の遅延時間との差(すなわち、時刻t2から時刻t3までの時間)は、実験、あるいはシミュレーション等によって適切な値を予め求めておいてもよい。ここで、遅延回路16の遅延時間は、基本的に発振回路12の発振が安定するまでの時間に設定すればよい。従って、遅延回路16の遅延時間を発振回路12の一巡の遅延時間よりも長く設定するのは一例である。
【0034】
以上詳述したように、本実施の形態に係るリングオシレータ、およびリングオシレータの起動方法では、電流源制御信号CTRLの遷移開始を遅延させることで、発振回路12を構成するインバータINVが状態遷移した後、十分待機してから通常動作を開始させている。このことにより、本実施の形態に係るリングオシレータ、およびリングオシレータの起動方法によれば、偶数段のインバータを用いたリングオシレータにおいて、より確実に起動させることが可能なリングオシレータ、およびリングオシレータの起動方法を提供することができる。また、本実施の形態では、各インバータINVに流す電流を変化させる駆動電流調整回路18、および可変電流源20が、リングオシレータ10の発振周波数を変える周波数調整回路と兼用化されているため、回路規模の増大を抑制することもできる。
【0035】
[第2の実施の形態]
図4、および図5を参照して、本実施の形態に係るリングオシレータ、およびリングオシレータの起動方法について説明する。図4(a)に示すように、本実施の形態に係るリングオシレータ10Aは、第1の実施の形態に係るリングオシレータ10において、遅延回路16をクロック検出回路22に置き換えた形態である。従って、リングオシレータ10と同様の構成には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。なお、「クロック検出回路22」は、本発明に係る「検出回路」の一例である。
【0036】
クロック検出回路22は、n本のクロック信号のうちの1本、例えばクロック信号CKL(k)を入力し、該クロック信号CLK(k)に基づいて起動信号Ssを遅延させ、起動信号Ss’を出力する。図4(b)にクロック検出回路22の一例を示す。図4(b)に示すように、クロック検出回路22は、直列に接続された複数個(図4(b)ではm個で例示されている)のDFF24-1、DFF24-2、・・・、DFF24-m(以下、総称する場合は「DFF24」)で構成されている。初段のDFF24-1のD入力には起動信号Ssが入力され、最終段のDFF24-mのQ出力から起動信号Ss’が出力される。その間のDFFでは、Q出力が次段のD入力に接続されている。一方、各DFF24のクロック入力Cには、クロック信号CLK(k)が入力される。
【0037】
クロック検出回路22は、起動信号Ssを受けてクロック信号CLK(k)の監視を開始する。すなわち、クロック検出回路22では、起動信号SsがHになった場合に、そのHの信号をDFF24がシフトしていく。そして、DFF24の段数分のクロック信号CLK(k)のパルスを検出すると、駆動電流調整回路18に起動信号Ss’を出力する。
【0038】
図5を参照して、リングオシレータ10Aの動作についてより詳細に説明する。図5に示すように、時刻t1で起動信号Ssが反転すると、電位制御回路14から電位固定制御信号Vfが出力され、発振回路12の各ノードが状態遷移を始め、発振回路12が発振を開始する。すなわち、図5に示すように、クロック信号CLK(k)が変化を開始する。
以上の動作は、図2(a)に示すリングオシレータ10の場合と同様である。
【0039】
時刻t1からクロック検出回路22によるクロック信号CLK(k)の監視が開始され、時刻t3でクロック検出回路22がクロック信号CLK(k)のm番目のパルスを検出すると、起動信号Ss’が駆動電流調整回路18に出力される。起動信号Ss’を受けた駆動電流調整回路18は、電流源制御信号CTRLを出力して可変電流源20の電流値の調整を開始し、リングオシレータ10Aは起動状態から通常動作状態へ移行する。時刻t3以降の動作は、図2(a)に示すリングオシレータ10の場合と同様である。なお、クロック検出回路22におけるDFF24の段数mは、必要となる起動信号Ss’の遅延時間に応じて決めてもよい。また、クロック検出回路22に入力するクロック信号CLK(k)も、必要となる起動信号Ss’の遅延時間に応じて決めてもよい。
【0040】
以上のように、本実施の形態に係るリングオシレータ、およびリングオシレータの起動方法によれば、クロック信号CLK(k)を検出してから電流源制御信号CTRLの出力を開始するので、より安定した状態で発振を開始することができる。その結果、リングオシレータ10Aはより確実に起動を開始することができる。第1の実施の形態に係るリングオシレータ10では、遅延回路16の遅延時間のばらつき等に起因して、リングオシレータ10の発振の確実性が低下することも想定される。しかしながら、本実施の形態に係るリングオシレータ10Aでは、そもそもクロック信号CLK(k)を検出してから電流源制御信号CTRLを出力するので、リングオシレータ10Aの発振の確実性をより向上させることができる。
【0041】
[第3の実施の形態]
図6を参照して、本実施の形態に係るリングオシレータ、およびリングオシレータの起動方法について説明する。本実施の形態に係るリングオシレータ10Bは、第2の実施の形態に係るリングオシレータ10Aにリセット機能を設けた形態である。従って、リングオシレータ10と同様の構成には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0042】
図6(a)に示すように、リングオシレータ10Bは、図4(a)に示すリングオシレータ10Aにタイマー回路26を追加して構成されている。上記第1の実施の形態に係るリングオシレータ10、あるいは第2の実施の形態に係るリングオシレータ10Aでは、発振回路12が起動に失敗した場合の救済手段がなかった。そこで、本実施の形態に係るリングオシレータ10Bではタイマー回路26を設け、タイマー回路26の計時満了(タイムアップ)までに発振回路12の起動を確認できなかった場合には、リングオシレータ10Bをリセットするように構成した。なお、「タイマー回路26」は、本発明に係る「計時回路」の一例である。
【0043】
図6(b)を参照して、リングオシレータ10Bの動作についてより詳細に説明する。
図6(b)に示すように、発振回路12は時刻t1において起動信号Ssを受け、電位固定制御信号Vfが反転して発振回路12が起動を開始したものの失敗し、クロック信号CLK(k)の状態遷移が途中で停止している。従って、起動信号Ss’も電流源制御信号CTRLも発出していない。このとき、タイマー回路26の計時時間をTとすると、時刻t1から計時時間Tだけ経過した後の時刻t2で、タイマー回路26が再起動信号Rsを出力する。再起動信号Rsは起動信号Ssを発出する回路(パワーオンリセット回路や制御回路等)に転送され、該回路が起動信号SsをリセットしてHからLに戻す。起動信号SsがLに戻ったことにより、電位固定制御信号VfもLからHに戻る。以降、起動信号Ssを発出する回路は再度起動信号Ssを発出して、リングオシレータ10Bの起動を試みる。一方、正常に起動された場合は、起動信号Ss’によってタイマー回路26がリセットされるので、再起動信号Rsは発出されない。
【0044】
以上のように、本実施の形態に係るリングオシレータ、およびリングオシレータの起動方法によれば、発振回路12の起動に失敗した場合にリカバリする機能を備えたことにより、リングオシレータの発振の確実性をさらに向上させることができる。なお、本実施の形態では、第2の実施の形態に係るリングオシレータ10Aにリセット機能を設ける形態を例示して説明したが、これに限られず、第1の実施の形態に係るリングオシレータ10にリセット機能を設けてもよい。この場合クロック検出回路を別途設け、タイマー回路に起動信号Ssとクロック信号検出回路の出力とを入力してもよい。
【0045】
なお、上記各実施の形態では、起動信号Ssから起動信号Ss’を生成する形態を例示して説明したが、これに限られず、別々の系統から生成してもよい。この場合、例えば、搭載回路内に設けられた制御部(マイコン等)が、時間差を設けて起動信号Ssおよび起動信号Ss’を発出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0046】
10、10A、10B、50 リングオシレータ
12 発振回路
14 電位制御回路
16 遅延回路
18 駆動電流調整回路
20 可変電流源
22 クロック検出回路
24、24-1、24-m DFF
26 タイマー回路
Ss、Ss’ 起動信号
CTRL 電流源制御信号
CLK(1)、CLK(2)、CLK(n-1)、CLK(n) クロック信号
INV、INV1、INV2、INVn インバータ
IDinv、IDPD 電流
PD、PD1、PD2 プルダウン回路
PU プルアップ回路
MP1 P型トランジスタ
MN1、MN2、MN3 N型トランジスタ
Vf 電位固定制御信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6