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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154921
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】スイッチング電源回路
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
H02M3/155 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058192
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】若山 大樹
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA20
5H730AS05
5H730BB13
5H730BB57
5H730BB82
5H730BB88
5H730BB89
5H730DD04
5H730FD01
5H730FF05
5H730FF09
5H730FF16
5H730FG05
5H730XX03
5H730XX15
5H730XX23
5H730XX32
5H730XX43
(57)【要約】
【課題】ピーク電流を抑制可能なスイッチング電源回路を提供すること。
【解決手段】複数のPWM信号を出力するコントローラと、出力経路に並列に接続され、前記複数のPWM信号のうち対応するPWM信号に従ってスイッチングする複数のコンバータと、を備え、前記複数のコンバータは、それぞれ、ハイサイドアームと、前記ハイサイドアームに直列に接続されたローサイドアームと、前記ハイサイドアームと前記ローサイドアームとの間の接続点と前記出力経路との間に接続されたインダクタとを有し、前記コントローラは、前記出力経路の電圧の降下量が所定値以上になると、前記複数のPWM信号のうちいずれかのPWM信号の出力を停止し、前記複数のコンバータは、それぞれ、前記対応するPWM信号の出力が停止すると、前記ハイサイドアームのゲートへのPWM出力を停止し、前記出力経路への出力を停止する、スイッチング電源回路。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のPWM信号を出力するコントローラと、
出力経路に並列に接続され、前記複数のPWM信号のうち対応するPWM信号に従ってスイッチングする複数のコンバータと、を備え、
前記複数のコンバータは、それぞれ、ハイサイドアームと、前記ハイサイドアームに直列に接続されたローサイドアームと、前記ハイサイドアームと前記ローサイドアームとの間の接続点と前記出力経路との間に接続されたインダクタとを有し、
前記コントローラは、前記出力経路の電圧の降下量が所定値以上になると、前記複数のPWM信号のうちいずれかのPWM信号の出力を停止し、
前記複数のコンバータは、それぞれ、前記対応するPWM信号の出力が停止すると、前記ハイサイドアームのゲートへのPWM出力を停止し、前記出力経路への出力を停止する、スイッチング電源回路。
【請求項2】
前記コントローラは、前記降下量が前記所定値未満になると、前記いずれかのPWM信号の出力を再開し、
前記複数のコンバータは、それぞれ、前記対応するPWM信号の出力が再開すると、前記ゲートへのPWM出力を再開し、前記出力経路への出力を再開する、請求項1に記載のスイッチング電源回路。
【請求項3】
前記コントローラは、基準電圧と前記出力経路の電圧との差に応じて、前記複数のPWM信号の各々のパルス幅又はデューティ比を決定するPWM信号生成部を有し、
前記PWM信号生成部は、前記差が前記所定値以上になると、前記複数のPWM信号のうち、いずれかのPWM信号の出力を停止する、請求項1又は2に記載のスイッチング電源回路。
【請求項4】
前記PWM信号生成部は、前記差が前記所定値以上になると、前記複数のPWM信号のうち、いずれかのPWM信号の出力を停止し、残りのPWM信号のパルス幅又はデューティ比を変更せずに前記残りのPWM信号を出力する、請求項3に記載のスイッチング電源回路。
【請求項5】
前記PWM信号生成部は、前記複数のPWM信号の各々のパルス幅又はデューティ比を動作周期ごとに決定し、前記残りのPWM信号のパルス幅又はデューティ比を次の動作周期まで変更せずに前記残りのPWM信号を出力する、請求項4に記載のスイッチング電源回路。
【請求項6】
前記PWM信号生成部は、前記差が前記所定値未満になると、前記いずれかのPWM信号の出力を再開する、請求項3から5のいずれか一項に記載のスイッチング電源回路。
【請求項7】
前記コントローラは、前記複数のPWM信号の各々のパルス幅又はデューティ比を動作周期ごとに決定するPWM信号生成部を有し、
前記PWM信号生成部は、前記降下量が前記所定値以上になると、前記複数のPWM信号のうち、いずれかのPWM信号の出力を停止し、残りのPWM信号のパルス幅又はデューティ比を次の動作周期まで変更せずに前記残りのPWM信号を出力する、請求項1又は2に記載のスイッチング電源回路。
【請求項8】
前記複数のコンバータは、それぞれ、前記ハイサイドアームのゲート電圧を前記ハイサイドアームの入力電圧よりも高くするブートストラップ回路を有し、前記対応するPWM信号の出力が停止すると、前記ゲート電圧が前記入力電圧よりも高くなることを禁止する、請求項1から7のいずれか一項に記載のスイッチング電源回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スイッチング電源回路に関する。
【背景技術】
【0002】
出力経路に並列に接続された複数のコンバータ部を駆動するマルチフェーズDC-DCコンバータが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-204002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
出力経路に並列に接続される複数のコンバータを備えるスイッチング電源回路では、複数のコンバータのそれぞれから出力される電流の総和が、出力経路に接続される負荷に供給される。そのため、負荷の電流が急峻に変化すると、一時的に過大なピーク電流が一部のコンバータに流れる場合がある。
【0005】
本開示は、ピーク電流を抑制可能なスイッチング電源回路を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
複数のPWM信号を出力するコントローラと、
出力経路に並列に接続され、前記複数のPWM信号のうち対応するPWM信号に従ってスイッチングする複数のコンバータと、を備え、
前記複数のコンバータは、それぞれ、ハイサイドアームと、前記ハイサイドアームに直列に接続されたローサイドアームと、前記ハイサイドアームと前記ローサイドアームとの間の接続点と前記出力経路との間に接続されたインダクタとを有し、
前記コントローラは、前記出力経路の電圧の降下量が所定値以上になると、前記複数のPWM信号のうちいずれかのPWM信号の出力を停止し、
前記複数のコンバータは、それぞれ、前記対応するPWM信号の出力が停止すると、前記ハイサイドアームのゲートへのPWM出力を停止し、前記出力経路への出力を停止する、スイッチング電源回路を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ピーク電流を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態に係るスイッチング電源回路の構成例を示す図である。
図2】一実施形態に係るスイッチング電源回路の動作例を示すタイミングチャートである。
図3】コンバータの構成例を示す図である。
図4】ドループ特性の一例を示す図である。
図5】一実施形態に係るスイッチング電源回路の具体例を示す図である。
図6】コントローラ内の各信号の状態を例示する図である。
図7】コンバータ内の各信号の状態を例示する図である。
図8】一実施形態に係るスイッチング電源回路の具体例を示す図である。
図9】一比較例によるピーク電流を示す図である。
図10】一実施例によるピーク電流を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を説明する。
【0010】
図1は、一実施形態に係るスイッチング電源回路の構成例を示す図である。図1に示すスイッチング電源回路101は、出力電圧Voutの直流電力を生成し、負荷60に供給する。スイッチング電源回路101は、例えば、負荷60を備える電子装置201に設けられる。スイッチング電源回路101は、電子装置201に内蔵されても外付けされてもよい。
【0011】
電子装置201は、負荷60と、スイッチング電源回路101とを備える。電子装置201の具体例として、スーパーコンピュータ、サーバ、パーソナルコンピュータ、携帯端末装置などが挙げられるが、電子装置201は、これらの装置に限られない。
【0012】
負荷60は、スイッチング電源回路101により生成される直流の出力電圧Voutを電源電圧として動作する。負荷60は、単一の素子でもよいし、複数の素子を含む回路ブロックでもよい。図1は、負荷60がCPU(Central Processing Unit)の場合を例示する。
【0013】
スイッチング電源回路101は、複数のPWM(Pulse Width Modulation)信号を出力するコントローラ70と、負荷60に出力電圧Voutの電力を供給する複数のコンバータ51~54とを備える。複数のコンバータ51~54は、それぞれ、複数のPWM信号のうち対応するPWM信号に従ってスイッチングするスイッチング回路と、そのスイッチング回路の出力が入力されるインダクタと、そのインダクタの出力側に一端が接続されるコンデンサとを有する。
【0014】
コンバータ51は、複数のPWM信号のうち対応するPWM信号(PWM1)に従ってスイッチングするスイッチング回路11と、スイッチング回路11の出力が入力されるインダクタ21と、インダクタ21の出力側に一端が接続されたコンデンサ61とを有する。コンバータ52は、複数のPWM信号のうち対応するPWM信号(PWM2)に従ってスイッチングするスイッチング回路12と、スイッチング回路12の出力が入力されるインダクタ22と、インダクタ22の出力側に一端が接続されたコンデンサ62とを有する。コンバータ53は、複数のPWM信号のうち対応するPWM信号(PWM3)に従ってスイッチングするスイッチング回路13と、スイッチング回路13の出力が入力されるインダクタ23と、インダクタ23の出力側に一端が接続されたコンデンサ63とを有する。コンバータ54は、複数のPWM信号のうち対応するPWM信号(PWM4)に従ってスイッチングするスイッチング回路14と、スイッチング回路14の出力が入力されるインダクタ24と、インダクタ24の出力側に一端が接続されたコンデンサ64とを有する。
【0015】
コンデンサ61~64は、それぞれ、インダクタ21~24のうち対応するインダクタの出力側に接続される一端と、グランド等の低電源電位部GNDに接続される他端とを有する容量素子である。
【0016】
コンバータ51~54は、共通の出力経路31に並列に接続される。インダクタ21~24の各出力端が互いに接続される出力経路31に、出力電圧Voutが発生する。出力電圧Voutは、コンデンサ30により平滑化される。コンデンサ30は、一端が出力経路31に接続され、他端が低電源電位部GNDに接続されている。コンデンサ61~64は、コンデンサ30が存在する場合、省略されてもよい。
【0017】
スイッチング電源回路101は、出力経路31に並列に接続された複数のコンバータ51~54を備える。スイッチング電源回路101は、例えば、複数のコンバータ51~54の各出力位相を互いにずらす制御を行うことによって、出力電圧Voutのリップルを抑制可能なマルチフェーズコンバータである。複数のコンバータ51~54の各々のスイッチング回路11~14は、例えば、出力電流、出力電圧、温度、異常有無等の各フェーズの動作情報を、コントローラ70にフィードバックする。
【0018】
コントローラ70は、例えば、PMBUS(Power Management Bus)及びSVID(Serial Voltage Identification)に接続されるデジタル電源コントローラである。コントローラ70は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ及びメモリを備えた制御装置でもよい。コントローラ70の機能は、メモリに読み出し可能に記憶されたプログラムによって、プロセッサが動作することにより実現されてもよい。コントローラ70の機能は、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)によって実現されてもよい。
【0019】
図2は、一実施形態に係るスイッチング電源回路の動作例を示すタイミングチャートである。図2に示すように、コントローラ70は、コンバータ51~54の各出力位相が互いにずれるように、一動作周期(=1/Fsw)でスイッチング回路11~14を順番に動作させる(マルチフェーズ動作)。Fswは、コンバータ51(スイッチング回路11)の動作からコンバータ54(スイッチング回路14)の動作までを1サイクルとするスイッチング周波数を表す。出力電圧Voutのリップル周期は、4フェーズの場合、1/(Fsw×4)となる。
【0020】
図1に示すスイッチング電源回路101は、複数のコンバータ51~54のそれぞれから出力される電流の総和である出力電流Ioutを、出力経路31に接続される負荷60に供給する。しかしながら、出力経路31に並列に接続された複数のコンバータ51~55が動作する場合(特に、マルチフェーズ動作で制御される場合)、負荷60の電流が急峻に変化すると、一時的に過大なピーク電流が一部のコンバータに流れる場合がある。負荷60の電流が急峻に変化するタイミングや各コンバータの個体差などによって、その急峻な変化に一部のコンバータがフィードバック制御により追従し、急峻なピーク電流が瞬間的に当該一部のコンバータに流れるからである。過大なピーク電流は、コンバータの劣化や故障を引き起こす要因の一つとなり得るので、ピーク電流の大きさを抑制することが好ましい。
【0021】
本開示の一実施形態に係るスイッチング電源回路101は、このピーク電流を抑制するための構成を備える。次に、スイッチング電源回路101の構成例について、より詳細に説明する。
【0022】
図3は、コンバータの構成例を示す図である。図3に示すコンバータ51は、複数のコンバータのうち第1フェーズのコンバータである。他のフェーズのコンバータ52,53,54は、コンバータ51と同じ構成であるので、コンバータ52,53,54についての説明は、コンバータ51についての説明を援用することで、省略する。
【0023】
コンバータ51は、入力電圧Vinを出力電圧Voutに降圧するDC-DCコンバータである(DC:Direct Current)。入力電圧Vinは、高電源電位部84と低電源電位部GNDとの間に入力される直流電圧であり、高電源電位部84と低電源電位部GNDとの間の電位差に相当する。
【0024】
コントローラ70は、出力経路31の電圧(出力電圧Vout)を検出し、その検出した出力電圧Voutを検出電圧Vsとして取得する。コントローラ70は、出力電圧Voutの検出精度を確保するため、出力電圧Voutをリモートセンスにより検出することが好ましい。コントローラ70は、複数のPWM信号(図3は、PWM1のみを明示)を生成する信号生成部71を有する。信号生成部71は、PWM信号生成部の一例である。
【0025】
信号生成部71は、検出電圧Vsと基準電圧Vcmとの偏差Dに応じて、偏差Dを零に収束させる複数のPWM信号(PWM1~PWM4)の各々のパルス幅又はデューティ比を決定する。デューティ比は、PWM信号の一周期に対するハイレベルの時間(パルス幅)の比率を表す。信号生成部71は、決定したパルス幅又はデューティ比で複数のPWM信号を出力する。
【0026】
スイッチング回路11は、ハイサイドのトランジスタ15とローサイドのトランジスタ16とが直列に接続される構成(レグとも称する)と、トランジスタ15,16をスイッチングさせるドライバ17,18とを有する。
【0027】
トランジスタ15は、高電源電位部84に接続されたドレインと、トランジスタ16のドレインに接続されたソースと、ハイサイドドライバ17に接続されたゲートとを有する。トランジスタ15は、ハイサイドアームの一例であり、接続点19に対して高電源電位部84側に設けられた半導体スイッチング素子である。トランジスタ16は、低電源電位部GNDに接続されたソースと、トランジスタ15のソースに接続されたドレインと、ローサイドドライバ18に接続されたゲートとを有する。トランジスタ16は、ローサイドアームの一例であり、接続点19に対して低電源電位部GND側に設けられた半導体スイッチング素子である。トランジスタ15,16は、例えば、Nチャネル型のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である。
【0028】
トランジスタ15のソースとトランジスタ16のドレインとが接続される接続点19は、トランジスタ15とトランジスタ16との間の中間点である。接続点19は、インダクタ21の一端に接続されている。インダクタ21の他端には、コンデンサ61の一端と負荷60の電源入力部が接続される。
【0029】
ドライバ17,18は、コントローラ70から出力されるPWM信号(PWM1)に従って、ハイサイドのトランジスタ15とローサイドのトランジスタ16を相補的にオン又はオフさせる。ハイサイドドライバ17は、PWM信号(PWM1)に従って、トランジスタ15のゲートにPWM駆動信号を出力する駆動回路であり、トランジスタ15のゲート電圧HSGをハイレベル又はローレベルに切り替える。ローサイドドライバ18は、PWM信号(PWM1)に従って、トランジスタ16のゲートにPWM駆動信号を出力する駆動回路であり、トランジスタ16のゲート電圧LSGをローレベル又はハイレベルに切り替える。
【0030】
コンバータ51は、ハイサイドのトランジスタ15(具体的には、Nチャネル型のMOSFET)をオンにするゲート電圧HSGを確保するため、ブートストラップ回路80を備える。ブートストラップ回路80は、トランジスタ15のゲート電圧HSGを入力電圧Vinよりも高くする回路である。ブートストラップ回路80は、例えば、ブートストラップコンデンサ81及びブートストラップダイオード82を有する。ブートストラップコンデンサ81は、一端が接続点19に接続され他端がハイサイドドライバ17の駆動電源部に接続された容量素子である。ブートストラップダイオード82は、アノードが電源83に接続され、カソードがブートストラップコンデンサ81の他端及びハイサイドドライバ17の駆動電源部に接続された整流素子である。電源83は、入力電圧Vinよりも低い直流電圧Vccを生成する。
【0031】
トランジスタ16がPWM1に従ってローサイドドライバ18によりオンし、かつ、トランジスタ15がPWM1に従ってハイサイドドライバ17によりオンする。これにより、接続点19の電位は、GNDになる(接続点19の電圧Vswは、略ゼロボルトになる)。ブートストラップコンデンサ81は、電源83の電圧Vccによりブートストラップダイオード82を介して充電され、ブートストラップダイオード82の電圧(ブートストラップ電圧Vbst)は、直流電圧Vccを上限に充電される。次に、トランジスタ16がPWM1に従ってローサイドドライバ18によりオフし、かつ、トランジスタ15がPWM1に従ってハイサイドドライバ17によりオンする。これにより、ブートストラップコンデンサ81は放電され、ゲート電圧HSGは、(Vin+Vbst)に昇圧される。したがって、トランジスタ15の閾値電圧以上のゲート電圧HSGを確保できる。
【0032】
なお、ブートストラップコンデンサ81を充電するための電圧は、トランジスタ15のゲート耐圧などの条件をクリアすれば、直流電圧Vccではなく、直流電圧Vccよりも高い入力電圧Vinでもよい。
【0033】
本開示の一実施形態に係るスイッチング電源回路101は、このブートストラップ回路80を利用して、上記の一時的に過大なピーク電流を抑制する。スイッチング電源回路101は、出力経路31を経由して負荷60に向けて出力する電流(出力電流Iout)が所定の限界値を超える前にブートストラップ回路80の動作を、動作周期(1/Fsw)単位でオフ(スキップ)する。ブートストラップ回路80の動作をオフ(スキップ)することで、そのスキップ期間では、ハイサイドのトランジスタ15は、オン不能になる。これにより、トランジスタ15から負荷60への電流の流れを一時的にストップできる。スキップする期間は、一動作周期の期間でもよいし、一動作周期の整数倍の連続する期間でもよい。このように、スイッチング電源回路101は、ブートストラップ回路80の動作を動作周期(1/Fsw)単位でスキップすることで、コンバータ51~54のうち一部のコンバータに流れる一時的に過大な電流のピークを抑制できる。
【0034】
スイッチング電源回路101は、例えば、ブートストラップ回路80をスキップするトリガーとして、出力経路31に流れる出力電流Ioutの増加に伴って出力経路31の電圧(出力電圧Vout)が低下するドループ(Droop)特性を利用する。
【0035】
図4は、ドループ特性の一例を示す図である。ドループ特性とは、出力経路31に流れる出力電流Ioutの増加に伴って、出力電圧Voutの降下量も比例して増える特性をいう。このような特性が現れるのは、出力経路31が抵抗分("ドループ抵抗"とも称する)を有するからである。例えば、ドループ抵抗Rdが1.8[mΩ]、複数のコンバータ51~54のそれぞれから出力される電流が最終的に合流する出力点での基準電圧Vcmの電圧値V0が1[V]、当該出力点から出力経路31に流れる出力電流Ioutの電流値I1が60[A]とする。このとき、ドループ抵抗Rdに発生するドループ電圧(出力経路31の電圧の降下量ΔV)は、108[mV]であり、出力電圧Voutの電圧値は、0.892[V]まで低下する。
【0036】
ドループ電圧は、流れる電流に比例する。この特性を利用し、コントローラ70は、所定値Va以上のドループ電圧(降下量ΔV)を検出すると、複数のPWM信号(PWM1~PWM4)のうちいずれかのPWM信号の出力を停止する。所定値Vaは、図4の場合、出力電流Ioutの電流値I1に対応する。出力を停止するPWM信号は、複数のPWM信号のうち、一部のPWM信号でも全部のPWM信号でもよい。複数のコンバータ51~54は、それぞれ、自身に供給されるPWM信号の出力の停止を検知すると、ハイサイドのトランジスタ15のゲート電圧HSGがブートストラップ回路80により入力電圧Vinよりも高くなることを禁止する。これにより、複数のコンバータ51~54のうちいずれかのコンバータ内のトランジスタ15がオンしないので、出力電流Ioutのピークを抑制できる。
【0037】
このように、複数のコンバータ51~54は、それぞれ、自身に対応するPWM信号の出力が停止すると、自身のブートストラップ回路80の動作を停止することで、ハイサイドのトランジスタ15のゲートへのPWM出力(具体的には、PWM駆動信号)を停止する。これにより、出力経路31への電流出力が停止するので、一時的な過大なピーク電流を抑制できる。
【0038】
例えば、コントローラ70は、出力経路31の電圧の降下量ΔVが所定値Va以上になると、複数のPWM信号のうちいずれかのPWM信号(例えば、PWM1)の出力を停止する。そして、コントローラ70は、降下量ΔVが所定値Va未満になると、出力停止したPWM信号の出力を再開する。複数のコンバータ51~54は、それぞれ、自身に対応するPWM信号の出力が再開すると、自身のトランジスタ15のゲートへのPWM出力を再開する。これにより、出力経路31への電流出力が再開するので、出力停止したコンバータは、一時的な出力停止状態から速やかに復帰できる。
【0039】
図5は、一実施形態に係るスイッチング電源回路の具体例を示す図である。コントローラ70は、基準電圧Vcmと検出電圧Vsとの偏差Dを零に収束させるパルス幅及びデューティ比をそれぞれ有する複数のPWM信号を生成する信号生成部71を有する。信号生成部71は、電圧検出回路72、積分回路73、PWM変調器74及び過電流保護設定部75を有する。
【0040】
電圧検出回路72は、出力電圧Voutのモニタ値を増幅して検出電圧Vsを生成する。積分回路73は、ドループ特性を決める設定値を調整する。PWM変調器74は、基準電圧Vcmと検出電圧Vsとの偏差Dに応じて、偏差Dをゼロに収束させるパルス幅及びデューティ比をそれぞれ有する複数のPWM信号を生成する。
【0041】
コントローラ70は、過電流保護設定部75を複数のコンバータ51~54のそれぞれに対して有する。図5は、コンバータ51用の過電流保護設定部75を示す。過電流保護設定部75は、基準電圧Vcmから検出電圧Vsを減じた電圧差(降下量ΔVに対応)が所定値Va以上になると、自身に対応するPWM信号(図5の場合、PWM1)の出力を停止する。一方、過電流保護設定部75は、降下量ΔVが所定値Va未満になると、自身に対応するPWM信号の出力を再開する。
【0042】
例えば、過電流保護設定部75は、論理積を演算する論理回路75aを有する。PWM変調器74により生成されたPWM信号が論理回路75aに入力される。図6に示すように、過電流保護設定部75は、降下量ΔVが所定値Va以上と検出されると、PWM信号のレベルを論理回路75aによりローレベル(この例では、GND)にする。一方、過電流保護設定部75は、降下量ΔVが所定値Va未満と検出されると、PWM信号のレベルを論理回路75aによりハイレベル(この場合、ブートストラップ電圧Vbstと同じ電圧)にする。
【0043】
図5において、例えば、ハイサイドドライバ17は、論理積を演算する論理回路17aを有し、ローサイドドライバ18は、PWM1のレベルを反転させるインバータ18aを有する。論理回路17aは、PWM1のレベルとブートストラップコンデンサ81の電圧Vbstのレベルとを比較する。
【0044】
図7に示すように、PWM1のレベルがハイレベル(この場合、ブートストラップ電圧Vbstと同じ電圧)のとき、論理回路17aの出力レベルは、ハイレベル(ブートストラップ電圧Vbstと同じ電圧)となる。これにより、ハイサイドドライバ17は、ゲート電圧HSGを、(Vin+Vbst)に昇圧し、トランジスタ15をオンにする。一方、PWM1のレベルがハイレベルのとき、インバータ18aの出力レベルは、ローレベル(GND)となる。これにより、ローサイドドライバ18は、ゲート電圧LSGを、ローレベルに設定し、トランジスタ16をオフにする。
【0045】
一方、図7に示すように、PWM1のレベルがローレベル(この場合、GND)のとき、論理回路17aの出力レベルは、ローレベルとなる。これにより、ハイサイドドライバ17は、ゲート電圧HSGを、ローレベルに設定し、トランジスタ15をオフにする。一方、PWM1のレベルがローレベルのとき、インバータ18aの出力レベルは、ハイレベルとなる。これにより、ローサイドドライバ18は、ゲート電圧LSGを、ハイレベルに設定し、トランジスタ16をオンにする。
【0046】
図8は、一実施形態に係るスイッチング電源回路の具体例を示す図であり、図5に示す回路を4つ組み合わせた構成を示す。コントローラ70は、図5に示す過電流保護設定部75を複数のコンバータ51~54のそれぞれに対して有する。図8において、PWM変調器74は、基準電圧Vcmと検出電圧Vsとの偏差Dに応じて、偏差Dをゼロに収束させるパルス幅及びデューティ比をそれぞれ有する複数のPWM信号を生成する。PWM変調器74により生成された複数のPWM信号は、それぞれに対応する過電流保護設定部75に供給される。この構成によって、信号生成部71は、降下量ΔVが所定値Va以上になると、複数のPWM信号のうち、いずれかのPWM信号の出力を停止し、残りのPWM信号のパルス幅又はデューティ比を変更せずに当該残りのPWM信号を出力できる。これにより、一部のコンバータの出力を停止しても、残りのコンバータは、PWM変調器74により決定されたパルス幅とデューティ比を有するPWM信号に従って、出力経路31への出力を継続できる。
【0047】
図9は、図8に示す構成において、一比較例によるピーク電流を示す図である。図10は、図8に示す構成において、一実施例によるピーク電流を示す図である。図9及び図10は、コントローラ70が、複数のコンバータ51~54の各出力位相を90度ずらし、複数のコンバータ51~54が同時にオンしないように制御する場合を例示する。
【0048】
図9では、コントローラ70は、所定の閾値I2以上の出力電流Ioutを検出すると、一部のコンバータのハイサイドのトランジスタをオンからオフに切り替える制御を行う。通電中のトランジスタをオンからオフに切り替えるオフタイミングを制御する方法では、トランジスタのオフの遅延により、一時的に過度なピーク電流が流れてしまう。
【0049】
一方、図10では、コントローラ70は、所定の閾値I1以上の出力電流Ioutを検出すると、一部のコンバータのハイサイドのトランジスタがオフからオンに切り替わらないように、当該ハイサイドのトランジスタのゲートへのPWM出力を停止する制御を行う。トランジスタのオンタイミングを制御することで、トランジスタのオフからオンへの切り替わりを禁止できるので、ピーク電流を抑制できる。
【0050】
図10に示す例では、信号生成部71は、複数のPWM信号の各々のパルス幅又はデューティ比を動作周期ごとに決定する。信号生成部71は、降下量ΔVが所定値Va以上になると、複数のPWM信号のうち、いずれかのPWM信号の出力を停止し、残りのPWM信号のパルス幅又はデューティ比を次の動作周期まで変更せずに当該残りのPWM信号を出力する。これにより、出力停止のコンバータ以外の他のコンバータに対するPWM指令値の変更がないので、当該他のコンバータは、出力停止のコンバータの電流減少分を補わない。よって、当該他のコンバータの電流負担の増加を抑制できる。
【0051】
以上、電源回路及び電子装置を実施形態により説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。他の実施形態の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が、本発明の範囲内で可能である。
【0052】
例えば、コンバータの個数は、4以外の数でもよい。例えば、図3の構成において、並列接続されたコンバータの個数は、2以上の数でもよい。また、コンバータの個数は、1でもよい。
【0053】
以上の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
複数のPWM信号を出力するコントローラと、
出力経路に並列に接続され、前記複数のPWM信号のうち対応するPWM信号に従ってスイッチングする複数のコンバータと、を備え、
前記複数のコンバータは、それぞれ、ハイサイドアームと、前記ハイサイドアームに直列に接続されたローサイドアームと、前記ハイサイドアームと前記ローサイドアームとの間の接続点と前記出力経路との間に接続されたインダクタとを有し、
前記コントローラは、前記出力経路の電圧の降下量が所定値以上になると、前記複数のPWM信号のうちいずれかのPWM信号の出力を停止し、
前記複数のコンバータは、それぞれ、前記対応するPWM信号の出力が停止すると、前記ハイサイドアームのゲートへのPWM出力を停止し、前記出力経路への出力を停止する、スイッチング電源回路。
(付記2)
前記コントローラは、前記降下量が前記所定値未満になると、前記いずれかのPWM信号の出力を再開し、
前記複数のコンバータは、それぞれ、前記対応するPWM信号の出力が再開すると、前記ゲートへのPWM出力を再開し、前記出力経路への出力を再開する、付記1に記載のスイッチング電源回路。
(付記3)
前記コントローラは、基準電圧と前記出力経路の電圧との差に応じて、前記複数のPWM信号の各々のパルス幅又はデューティ比を決定するPWM信号生成部を有し、
前記PWM信号生成部は、前記差が前記所定値以上になると、前記複数のPWM信号のうち、いずれかのPWM信号の出力を停止する、付記1又は2に記載のスイッチング電源回路。
(付記4)
前記PWM信号生成部は、前記差が前記所定値以上になると、前記複数のPWM信号のうち、いずれかのPWM信号の出力を停止し、残りのPWM信号のパルス幅又はデューティ比を変更せずに前記残りのPWM信号を出力する、付記3に記載のスイッチング電源回路。
(付記5)
前記PWM信号生成部は、前記複数のPWM信号の各々のパルス幅又はデューティ比を動作周期ごとに決定し、前記残りのPWM信号のパルス幅又はデューティ比を次の動作周期まで変更せずに前記残りのPWM信号を出力する、付記4に記載のスイッチング電源回路。
(付記6)
前記PWM信号生成部は、前記差が前記所定値未満になると、前記いずれかのPWM信号の出力を再開する、付記3から5のいずれか一項に記載のスイッチング電源回路。
(付記7)
前記コントローラは、前記複数のPWM信号の各々のパルス幅又はデューティ比を動作周期ごとに決定するPWM信号生成部を有し、
前記PWM信号生成部は、前記降下量が前記所定値以上になると、前記複数のPWM信号のうち、いずれかのPWM信号の出力を停止し、残りのPWM信号のパルス幅又はデューティ比を次の動作周期まで変更せずに前記残りのPWM信号を出力する、付記1又は2に記載のスイッチング電源回路。
(付記8)
前記複数のコンバータは、それぞれ、前記ハイサイドアームのゲート電圧を前記ハイサイドアームの入力電圧よりも高くするブートストラップ回路を有し、前記対応するPWM信号の出力が停止すると、前記ゲート電圧が前記入力電圧よりも高くなることを禁止する、付記1から7のいずれか一項に記載のスイッチング電源回路。
(付記9)
負荷と、
複数のPWM信号を出力するコントローラと、
前記負荷が接続された出力経路に並列に接続され、前記複数のPWM信号のうち対応するPWM信号に従ってスイッチングする複数のコンバータと、を備え、
前記複数のコンバータは、それぞれ、ハイサイドアームと、前記ハイサイドアームに直列に接続されたローサイドアームと、前記ハイサイドアームと前記ローサイドアームとの間の接続点と前記出力経路との間に接続されたインダクタとを有し、
前記コントローラは、前記出力経路の電圧の降下量が所定値以上になると、前記複数のPWM信号のうちいずれかのPWM信号の出力を停止し、
前記複数のコンバータは、それぞれ、前記対応するPWM信号の出力が停止すると、前記ハイサイドアームのゲートへのPWM出力を停止し、前記出力経路への出力を停止する、電子装置。
【符号の説明】
【0054】
11~14 スイッチング回路
15,16 トランジスタ
17 ハイサイドドライバ
18 ローサイドドライバ
19 接続点
21,22,23,24 インダクタ
51,52,53,54 コンバータ
60 負荷
70 コントローラ
71 信号生成部
72 電圧検出回路
73 積分回路
74 PWM変調器
75 過電流保護設定部
80 ブートストラップ回路
81 ブートストラップコンデンサ
82 ブートストラップダイオード
83 電源
84 高電源電位部
101 スイッチング電源回路
201 電子装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10