(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154929
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】発光デバイス及び光源装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/18 20210101AFI20221005BHJP
H01S 5/11 20210101ALI20221005BHJP
【FI】
H01S5/18
H01S5/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058203
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 和義
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 向陽
(72)【発明者】
【氏名】亀井 宏記
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AB53
5F173AB90
5F173AG20
5F173AR58
5F173AR99
(57)【要約】
【課題】光を集光しつつ出力する光源装置を小型化することが可能な発光デバイスを提供する。
【解決手段】発光デバイス1は、位相変調層15を備えるM点発振のS-iPMレーザである。発光デバイス1からの出射光の角度広がりに対応した波数拡がりをそれぞれ含む4方向の面内波数ベクトルK1~K4が、位相変調層15の逆格子空間上において形成される。面内波数ベクトルK1~K4のうち少なくとも1つの大きさは、2π/λ(ライトライン)よりも小さい。位相変調層15に含まれる所定の位相分布φ(x,y)は、出射光を集光するための要素を含む。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光部と、
前記発光部と光学的に結合され、基本層と、前記基本層とは屈折率が異なり厚さ方向に垂直な面内において二次元状に分布する複数の異屈折率領域とを含む位相変調層と、
を備え、
前記面内において仮想的な正方格子を設定した場合に、各異屈折率領域の重心が、対応する格子点から離れて配置され、前記格子点周りに所定の位相分布に応じた個別の回転角度を有する第1の形態、及び、前記仮想的な正方格子の格子点を通り前記正方格子に対して傾斜する直線上に配置され、各異屈折率領域の重心と、各異屈折率領域に対応する格子点との距離が、前記所定の位相分布に応じて個別に設定される第2の形態のうちいずれかの形態によって配置されており、
前記仮想的な正方格子の格子間隔と前記発光部の発光波長λとがM点発振の条件を満たし、
当該発光デバイスからの出射光の角度広がりに対応した波数拡がりをそれぞれ含む4方向の面内波数ベクトルが前記位相変調層の逆格子空間上において形成され、少なくとも1つの前記面内波数ベクトルの大きさが2π/λよりも小さく、
前記所定の位相分布は、前記出射光を少なくとも一方向において集光するための要素を含む、発光デバイス。
【請求項2】
前記所定の位相分布の前記要素は、前記出射光を少なくとも2つの集光点に集光するための要素である、請求項1に記載の発光デバイス。
【請求項3】
前記所定の位相分布は、前記出射光を少なくとも2つの点に向けて出射するための第1の位相分布と、前記出射光を集光するための第2の位相分布とを合成して得られる位相分布を前記要素として含む、請求項2に記載の発光デバイス。
【請求項4】
前記少なくとも2つの集光点は、前記厚さ方向と交差する方向に並ぶ、請求項2又は3に記載の発光デバイス。
【請求項5】
前記所定の位相分布の前記要素は、前記出射光を少なくとも4つの集光点に集光するための要素であり、
前記少なくとも4つの集光点は3次元的に分布する、請求項2又は3に記載の発光デバイス。
【請求項6】
前記所定の位相分布は、第1方向に並ぶ複数の輝点を形成するホログラム位相分布と、前記第1方向と交差する第2方向においてのみ集光作用を有するレンズ位相分布とを重畳してなる、請求項1に記載の発光デバイス。
【請求項7】
前記所定の位相分布は、第1方向に並ぶ複数の輝点群を形成するホログラム位相分布と、前記第1方向と交差する第2方向においてのみ集光作用を有するレンズ位相分布とを重畳してなり、
各輝点群は複数の輝点を含み、前記複数の輝点のうち少なくとも2つの輝点の光強度が互いに異なる、請求項1に記載の発光デバイス。
【請求項8】
前記各輝点群は、前記第1方向における位置が互いに異なる第1の輝点、第2の輝点、及び第3の輝点を含み、
前記第2の輝点及び第3の輝点は前記第1の輝点を挟む位置に配置され、
前記第2の輝点及び第3の輝点の光強度は前記第1の輝点の光強度よりも小さい、請求項7に記載の発光デバイス。
【請求項9】
前記所定の位相分布は、第1方向に並ぶ複数の輝点を形成するホログラム位相分布と、前記第1方向及び前記第1方向と交差する第2方向において集光作用を有し、前記第1方向における焦点距離が前記第2方向における焦点距離よりも長いレンズ位相分布とを重畳してなる、請求項1に記載の発光デバイス。
【請求項10】
請求項1に記載の発光デバイスである第1及び第2の発光デバイスを備え、
前記第1の発光デバイスの前記所定の位相分布の前記要素は、前記第1の発光デバイスからの第1の出射光を第1の集光点に向けて集光し、
前記第2の発光デバイスの前記所定の位相分布の前記要素は、前記第2の発光デバイスからの第2の出射光を前記第1の集光点と並ぶ第2の集光点に向けて集光し、
前記第1の出射光と前記第2の出射光とを相互に干渉させて干渉縞を生成する、光源装置。
【請求項11】
前記第1及び第2の発光デバイスと光学的に結合された光学系を更に備え、
前記第1の集光点は、前記第1の発光デバイスと前記光学系との間に位置し、
前記第2の集光点は、前記第2の発光デバイスと前記光学系との間に位置し、
前記第1の出射光と前記第2の出射光とは、前記光学系を通過した後に相互に干渉する、請求項10に記載の光源装置。
【請求項12】
請求項2~4のいずれか1項に記載の発光デバイスを備え、
前記発光デバイスの前記所定の位相分布の前記要素は、前記発光デバイスからの第1の出射光を第1の集光点に向けて集光し、前記発光デバイスからの第2の出射光を第2の集光点に向けて集光し、
前記第1の出射光と前記第2の出射光とを相互に干渉させて干渉縞を生成する、光源装置。
【請求項13】
前記発光デバイスと光学的に結合された光学系を更に備え、
前記第1及び第2の集光点は、前記発光デバイスと前記光学系との間に位置し、
前記第1の出射光と前記第2の出射光とは、前記光学系を通過した後に相互に干渉する、請求項12に記載の光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発光デバイス及び光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、S-iPM(Static-integrable Phase Modulating)レーザの出力に含まれる0次光を取り除くための技術が開示されている。この文献に開示された発光素子は、活性層及び位相変調層を備える。位相変調層は、基本層と、基本層とは屈折率が異なり位相変調層の厚さ方向に垂直な面内において二次元状に分布する複数の異屈折率領域とを含む。前記面内において仮想的な正方格子を設定した場合に、各異屈折率領域の重心は、対応する格子点から離れて配置されるとともに、該格子点周りに光像に応じた位相分布に従う回転角度を有する。仮想的な正方格子の格子間隔と活性層の発光波長とはM点発振の条件を満たす。位相変調層の逆格子空間上において、光像の角度広がりに対応した波数拡がりをそれぞれ含む4方向の面内波数ベクトルのうち少なくとも1つの大きさは、2π/λよりも小さい。
【0003】
特許文献2には、空間光変調器の制御装置に関する技術が開示されている。この制御装置は、レンズと、空間光変調器と、撮像装置と、算出部と、解析部と、変更部と、を備える。空間光変調器は、複数の変調画素が2次元に配列された変調面を有し、レンズの瞳面に第1の光点及び第2の光点を形成するために、変調面に第1の変調パターンを呈示して第1の変調光を出力する。撮像装置は、複数の光電変換画素が2次元に配列された撮像面を有し、撮像面において第1の変調光によってレンズの焦点面に形成された第1の縞パターン像を撮像し、第1の縞パターン像の光強度分布を表す第1の画像データを生成する。算出部は、第1の画像データに基づいて、強度振幅、位相シフト量、及び強度平均のうち少なくとも1種類の第1のパラメータを算出する。解析部は、第1のパラメータに基づいて、レンズの光軸と変調面の基準座標との相対位置のずれを求める。変更部は、相対位置のずれが減少するように、変調面における基準座標の原点位置を変更する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/45453号
【特許文献2】特開2016-224412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来より、光源を備える装置において、光源からの光を集光する光学系としてレンズ等の光学部品が用いられている。このような光源装置の小型化が求められる場合、光源については、例えば半導体発光素子を用いれば顕著な小型化が可能である。一方、光を集光するための光学部品の小型化は難しく、光源装置の小型化を妨げる要因になる。
【0006】
そこで、本開示は、光を集光しつつ出力する光源装置を小型化することが可能な発光デバイス、及びその発光デバイスを備える光源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示による発光デバイスは、発光部及び位相変調層を備える。位相変調層は、発光部と光学的に結合され、基本層と、基本層とは屈折率が異なり厚さ方向に垂直な面内において二次元状に分布する複数の異屈折率領域とを含む。その面内において仮想的な正方格子を設定した場合に、各異屈折率領域の重心は、対応する格子点から離れて配置され、格子点周りに所定の位相分布に応じた個別の回転角度を有する第1の形態と、仮想的な正方格子の格子点を通り正方格子に対して傾斜する直線上に配置され、各異屈折率領域の重心と、対応する格子点との距離が、所定の位相分布に応じて個別に設定される第2の形態と、のうちいずれか一方の形態によって配置されている。仮想的な正方格子の格子間隔と発光部の発光波長λとは、M点発振の条件を満たす。当該発光デバイスからの出射光の角度広がりに対応した波数拡がりをそれぞれ含む4方向の面内波数ベクトルが、位相変調層の逆格子空間上において形成される。少なくとも1つの面内波数ベクトルの大きさは、2π/λよりも小さい。上記所定の位相分布は、出射光を集光するための要素を含む。
【0008】
上記の発光デバイスでは、複数の異屈折率領域の各重心が、仮想的な正方格子の対応する格子点から離れて配置され、該格子点周りに所定の位相分布に応じた個別の回転角度を有するか、又は、仮想的な正方格子の格子点を通り該正方格子に対して傾斜する直線上に配置され、各異屈折率領域の重心と、対応する格子点との距離が、所定の位相分布に応じて個別に設定される。このような構造によれば、S-iPMレーザとして、任意形状の光像を生成することができる。
【0009】
加えて、この発光デバイスでは、仮想的な正方格子の格子間隔と、発光部の発光波長とが、M点発振の条件を満たす。通常、M点発振の定在波状態においては位相変調層内を伝搬する光が全反射してしまい、信号光(例えば+1次光及び-1次光のうち少なくとも一方)及び0次光の双方の出力が抑制される。しかしながら、この発光デバイスでは、位相変調層の逆格子空間上において、定在波は位相分布による位相変調を受け、出射光の角度広がりに対応した波数拡がりをそれぞれ含む4方向の面内波数ベクトルを形成する。そして、これらの面内波数ベクトルのうち少なくとも1つの大きさが2π/λ(すなわちライトライン)よりも小さくなっている。S-iPMレーザでは、各異屈折率領域の配置を工夫することにより、このような面内波数ベクトルの調整が可能である。そして、少なくとも1つの面内波数ベクトルの大きさが2π/λよりも小さい場合、その面内波数ベクトルは、位相変調層の厚さ方向の成分を有するとともに、空気との界面において全反射を生じない。結果的に、信号光の一部が位相変調層から出力される。但し、M点発振の条件を満たす場合、0次光は面垂直方向へ回折せず、位相変調層からライトライン内には出力されない。すなわち、上記の各発光デバイスによれば、S-iPMレーザの出力に含まれる0次光をライトライン内から取り除き、信号光のみを出力することができる。
【0010】
加えて、この発光デバイスでは、上記所定の位相分布が、出射光を集光するための要素を含む。これにより、この発光デバイスは、光を集光しつつ出力することができる。また、上述したように、この発光デバイスでは、集光に寄与しない0次光の出力が抑制されているので、集光に寄与し得る信号光のみを出力することができる。このように、上記の発光デバイスによれば、発光デバイス自身により集光が可能となるので、集光のための光学部品を削減し、光源装置を小型化することができる。
【0011】
上記の発光デバイスにおいて、所定の位相分布の上記要素は、出射光を少なくとも2つの集光点に集光するための要素であってもよい。上記の各発光デバイスによれば、所定の位相分布に含まれる集光のための要素を適宜設計することにより、一つの発光デバイスから少なくとも2つの集光点に出射光を集光することも可能である。故に、光源装置を更に小型化できる。
【0012】
上記の発光デバイスにおいて、所定の位相分布は、出射光を少なくとも2つの点に向けて出射するための第1の位相分布と、出射光を集光するための第2の位相分布とを合成して得られる位相分布を上記要素として含んでもよい。例えばこのような要素によって、出射光を少なくとも2つの集光点に集光することができる。
【0013】
上記の発光デバイスにおいて、少なくとも2つの集光点は、厚さ方向と交差する方向に並んでもよい。この場合、例えば各集光点からの光を互いに干渉させる等の用途に上記の発光デバイスを用いることができる。
【0014】
上記の発光デバイスにおいて、所定の位相分布の上記要素は、出射光を少なくとも4つの集光点に集光するための要素であり、少なくとも4つの集光点は3次元的に分布してもよい。この場合、例えば3次元的(立体的)な光像の作成等の用途に上記の発光デバイスを用いることができる。
【0015】
上記の発光デバイスにおいて、所定の位相分布は、第1方向に並ぶ複数の輝点を形成するホログラム位相分布と、第1方向と交差する第2方向においてのみ集光作用を有するレンズ位相分布とを重畳してなってもよい。この場合、輝度ムラの少ない縞状の光像を得ることができる。このような光像は、例えば3次元形状計測において計測精度を向上させることができる。
【0016】
上記の発光デバイスにおいて、所定の位相分布は、第1方向に並ぶ複数の輝点群を形成するホログラム位相分布と、第1方向と交差する第2方向においてのみ集光作用を有するレンズ位相分布とを重畳してなり、各輝点群は複数の輝点を含み、複数の輝点のうち少なくとも2つの輝点の光強度が互いに異なってもよい。この場合、輝度ムラの少ない縞状の光像を得ることができる。このような光像は、例えば3次元形状計測において計測精度を向上させることができる。また、この場合、各輝点群は、第1方向における位置が互いに異なる第1の輝点、第2の輝点、及び第3の輝点を含み、第2の輝点及び第3の輝点は第1の輝点を挟む位置に配置され、第2の輝点及び第3の輝点の光強度は第1の輝点の光強度よりも小さくてもよい。これにより、第1の方向に沿って光強度が正弦波状に増減する光像を得ることができる。
【0017】
上記の発光デバイスにおいて、所定の位相分布は、第1方向に並ぶ複数の輝点を形成するホログラム位相分布と、第1方向及び第1方向と交差する第2方向において集光作用を有し、第1方向における焦点距離が第2方向における焦点距離よりも長いレンズ位相分布とを重畳してなってもよい。この場合、輝度ムラの少ない縞状の光像を得ることができる。このような光像は、例えば3次元形状計測において計測精度を向上させることができる。
【0018】
本開示による第1の光源装置は、上記いずれかの発光デバイスである第1及び第2の発光デバイスを備える。第1の発光デバイスの所定の位相分布の上記要素は、第1の発光デバイスからの第1の出射光を第1の集光点に向けて集光する。第2の発光デバイスの所定の位相分布の上記要素は、第2の発光デバイスからの第2の出射光を、第1の集光点と並ぶ第2の集光点に向けて集光する。この光源装置は、第1の出射光と第2の出射光とを相互に干渉させて干渉縞を生成する。
【0019】
本開示による第2の光源装置は、出射光を少なくとも2つの集光点に集光する上記の発光デバイスを備える。発光デバイスの所定の位相分布の上記要素は、発光デバイスからの第1の出射光を第1の集光点に向けて集光し、発光デバイスからの第2の出射光を第2の集光点に向けて集光する。この光源装置は、第1の出射光と第2の出射光とを相互に干渉させて干渉縞を生成する。
【0020】
これらの光源装置によれば、第1及び第2の集光点に向けてそれぞれ出射された第1及び第2の出射光による干渉縞が生成される。この干渉縞は、或る方向に沿って光強度が正弦波状に増減する光像である。このような光像は、例えば3次元形状計測に用いられ得る。また、これらの光源装置が備える発光デバイスは、上述したように小型化できる。従って、例えば体内などの極めて小さな空間にも配置されることができ、従来は不可能であったような小さな空間を対象とする3次元形状計測が可能になる。また、出射光を集光するための位相分布は、上記干渉縞の光像を直接生成するための位相分布と比べて単純であるが故に、計算の際に光像に生じるノイズを少なくすることができる。従って、正弦波状に増減する光強度を有する光像を精度良く生成することができ、例えば3次元形状計測における計測誤差を低減することができる。
【0021】
第1の光源装置は、第1及び第2の発光デバイスと光学的に結合された光学系を更に備えてもよい。この場合、第1の集光点は、第1の発光デバイスと光学系との間に位置する。第2の集光点は、第2の発光デバイスと光学系との間に位置する。第1の出射光と第2の出射光とは、光学系を通過した後に相互に干渉する。また、第2の光源装置は、発光デバイスと光学的に結合された光学系を更に備えてもよい。この場合、第1及び第2の集光点は、発光デバイスと光学系との間に位置する。第1の出射光と第2の出射光とは、光学系を通過した後に相互に干渉する。
【0022】
このように、第1及び第2の光源装置が光学系を備えることによって、発光デバイスの光出射面の面積にかかわらず、正弦波状に増減する光強度を有する光像の照射面を拡大することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、光を集光しつつ出力する光源装置を小型化することが可能な発光デバイス、及びその発光デバイスを備える光源装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本開示の一実施形態に係る発光デバイスの構成を示す一部断面斜視図である。
【
図2】発光デバイスの積層構造を示す断面図である。
【
図5】一実施形態の発光デバイスから出射光が出力される様子を模式的に示す図である。
【
図6】(a)部は、各集光点が発光デバイスの厚さ方向と交差する方向に並ぶ様子を示す図である。(b)部は、各集光点が3次元的に分布する様子を示す図である。
【
図7】(a)部及び(b)部は、一実施形態の発光デバイスと、従来のS-iPMレーザとの比較を示す図である。
【
図8】位相変調層の特定領域内に屈折率略周期構造を適用した例を示す平面図である。
【
図9】球面座標からXYZ直交座標系における座標への座標変換を説明する図である。
【
図10】M点発振を行う発光デバイスの位相変調層に関する逆格子空間を示す平面図である。
【
図11】面内波数ベクトルに対して回折ベクトルを加えた状態を説明する概念図である。
【
図12】ライトラインの周辺構造を模式的に説明するための図である。
【
図14】4方向の面内波数ベクトルから波数拡がりを除いたものに対して回折ベクトルを加えた状態を説明するための概念図である。
【
図15】位相変調層の別の形態を示す平面図である。
【
図16】
図15に示された位相変調層における異屈折率領域の配置を示す図である。
【
図18】レンズ位相分布を部分的に拡大して示す図である。
【
図19】一実施形態の発光デバイスを試作し、対物レンズをZ方向に移動させながら近視野像を撮像した実験の結果を示す図である。
【
図20】一実施形態の発光デバイスを試作し、対物レンズをZ方向に移動させながら近視野像を撮像した実験の結果を示す図である。
【
図21】比較のため、位相変調層を備えない通常の発光デバイス(LED)を作製し、同様に近視野像を撮像した結果を示す図である。
【
図22】発光デバイスの位相変調層から+1次光及び-1次光が出射する様子を示す図である。
【
図23】レンズ位相分布と、非零ベクトルに相当する成分とを含む位相分布の例を示す図である。
【
図24】ホログラム位相分布及びレンズ位相分布を実部と虚部とに分け、実部及び虚部のそれぞれにおいて位相合成する方法の概念図である。
【
図25】(a)部及び(b)部は、ランダムパターンの例を示す図である。
【
図26】(a)部及び(b)部は、集光点の位置を示す図である。
【
図27】実験において作製した発光デバイスの近視野像を示す図である。
【
図28】実験において作製した発光デバイスの近視野像を示す図である。
【
図29】実験において作製した発光デバイスの近視野像を示す図である。
【
図30】(a)部及び(b)部は、集光点の位置を示す図である。
【
図31】実験において作製した発光デバイスの近視野像を示す図である。
【
図32】実験において作製した発光デバイスの近視野像を示す図である。
【
図33】実験において作製した発光デバイスの近視野像を示す図である。
【
図34】第2実施形態に係る三次元計測システムの構成を示す模式図である。
【
図35】光源装置の構成の一例として、光源装置を模式的に示す図である。
【
図36】光源装置の構成の別の例として、光源装置を模式的に示す図である。
【
図37】結像面における干渉光像すなわち計測光のパターンを示す図である。
【
図38】比較例に係る光源装置の構成を部分的に示す模式図である。
【
図39】出射方向の角度θaを小さくした場合の構成を模式的に示す図である。
【
図40】変形例に係る光源装置の構成を部分的に示す模式図である。
【
図41】(a)部及び(b)部は、マスクを設けることによる効果について説明するための図である。
【
図42】光を一方向においてのみ集光するためのレンズ位相分布の例を示す図である。
【
図43】(a)ホログラム位相分布のみによって一の架空平面上に形成される光像の例を模式的に示す図である。(b)(a)に示す光像を形成するホログラム位相分布に、
図42に示されたレンズ位相分布を重畳して得られる光像を模式的に示す図である。
【
図44】試作した発光デバイスから出射された縞状の光像の遠視野像である。
【
図45】比較のため、レンズ位相分布を用いずに、ホログラム位相分布のみによって縞状の光像を形成した場合の遠視野像を示す。
【
図46】(a),(b)
図43とは異なる縞状の光像を形成する操作を概念的に示す図である。
【
図47】(a),(b)
図46に示した態様と類似の態様を示す図である。
【
図48】試作した発光デバイスから出射された縞状の光像の遠視野像である。
【
図49】(a),(b)
図46に示した態様と類似の別の態様を示す図である。
【
図50】試作した発光デバイスから出射された縞状の光像の遠視野像である。
【
図51】X方向の焦点距離がY方向の焦点距離よりも長いレンズ位相分布の例を示す図である。
【
図52】(a)ホログラム位相分布のみによって形成される光像の例を模式的に示す図であり、
図43(a)と同様の光像を示す。(b)(a)に示す光像を形成するホログラム位相分布に、
図51に示されたレンズ位相分布を重畳して得られる光像を模式的に示す図である。
【
図53】試作した発光デバイスから出射された縞状の光像の遠視野像である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本開示の発光デバイス及び光源装置の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0026】
(第1実施形態)
図1は、本開示の一実施形態に係る発光デバイス1の構成を示す一部切欠き斜視図である。
図2は、発光デバイス1の積層構造を示す断面図である。
図1及び
図2では、発光デバイス1の中心において発光デバイス1の厚さ方向に延びる軸をZ軸とするXYZ直交座標系を定義している。
【0027】
発光デバイス1は、XY面内方向において定在波を形成し、位相制御された平面波をその厚み方向と交差する方向に出力するレーザ光源である。発光デバイス1は、S-iPMレーザであり、半導体基板10の主面10aに垂直な方向(すなわちZ方向)又はこれに対して傾斜した方向、或いはその両方を含む方向に向けて、任意形状の光像を出力することができる。
【0028】
図1及び
図2に示されるように、発光デバイス1は、半導体基板10上に設けられた発光部としての活性層12と、活性層12を挟む一対のクラッド層11,13と、クラッド層13上に設けられたコンタクト層14と、を備えている。これらの半導体基板10、クラッド層11,13、及びコンタクト層14は、例えばGaAs系半導体、InP系半導体、もしくは窒化物系半導体といった化合物半導体によって構成されている。クラッド層11のエネルギーバンドギャップ、及びクラッド層13のエネルギーバンドギャップは、活性層12のエネルギーバンドギャップよりも大きい。半導体基板10、クラッド層11、活性層12、クラッド層13、及びコンタクト層14の厚さ方向は、Z軸方向と一致している。
【0029】
発光デバイス1は、活性層12と光学的に結合された位相変調層15を更に備えている。本実施形態では、位相変調層15は、活性層12とクラッド層13との間に設けられている。位相変調層15の厚さ方向は、Z軸方向と一致している。位相変調層15は、クラッド層11と活性層12との間に設けられてもよい。活性層12とクラッド層13との間、及び活性層12とクラッド層11との間のうち少なくとも一方には、必要に応じて光ガイド層が設けられてもよい。光ガイド層は、キャリアを活性層12に効率的に閉じ込めるためのキャリア障壁層を含んでもよい。
【0030】
位相変調層15は、第1屈折率媒質からなる基本層15aと、第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなり、基本層15a内に存在する複数の異屈折率領域15bとを含んで構成されている。複数の異屈折率領域15bは、格子状の略周期構造を含んでいる。モードの等価屈折率をnとし、格子間隔をaとした場合、位相変調層15によって選択される波長λ0は、λ0=(√2)a×nとして表される。この波長λ0は、活性層12の発光波長範囲内に含まれる波長である。位相変調層15は、活性層12の発光波長のうち波長λ0近傍のバンド端波長を選択して、外部に出力することができる。位相変調層15内に入射した光は、位相変調層15内において異屈折率領域15bの配置に応じた所定のモードを形成し、レーザ光として、発光デバイス1の表面から外部に出射される。
【0031】
発光デバイス1は、コンタクト層14上に設けられた電極16と、半導体基板10の裏面10b上に設けられた電極17とを更に備えている。電極16は、コンタクト層14とオーミック接触を成す。電極17は、半導体基板10とオーミック接触を成す。電極17は、開口17aを裏面10bの中央領域に有している。電極16は、コンタクト層14の表面の中央領域に設けられている。コンタクト層14上における電極16以外の部分は、保護膜18(
図2を参照)によって覆われている。電極16と接触していないコンタクト層14は、電流範囲の限定のために除去されてもよい。半導体基板10の裏面10bのうち、電極17が設けられた領域を除く他の領域は、開口17a内を含め、反射防止膜19によって覆われている。開口17aを除く他の領域にある反射防止膜19は、除去されてもよい。
【0032】
発光デバイス1では、電極16と電極17との間に駆動電流が供給されると、活性層12内において電子と正孔の再結合が生じ、活性層12が発光する。この発光に寄与する電子、正孔、及び活性層12で発生した光は、クラッド層11とクラッド層13との間に効率的に閉じ込められる。
【0033】
活性層12から出射された光は、位相変調層15の内部に入射し、位相変調層15の内部の格子構造に応じた所定のモードを形成する。位相変調層15から出射したレーザ光は、裏面10bから開口17aを通って発光デバイス1の外部へ直接的に出力される。或いは、位相変調層15から出射したレーザ光は、電極16において反射したのち、裏面10bから開口17aを通って発光デバイス1の外部へ出力される。このとき、レーザ光に含まれる信号光は、主面10aに垂直な方向、及びその方向に対して傾斜した方向を含む任意方向へ出射する。
【0034】
発光デバイス1からの出射光を構成するのは、この信号光である。信号光は、主としてレーザ光の1次回折光又は-1次回折光(以下、それぞれ1次光及び-1次光と称する)、或いはその両方である。後述するように、本実施形態の位相変調層15からは、レーザ光の0次光の出力が抑制される。
【0035】
図3は、位相変調層15の平面図である。同図に示すように、位相変調層15は、第1屈折率媒質からなる基本層15aと、第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなる複数の異屈折率領域15bとを含んでいる。
図3では、位相変調層15に対し、XY面内における仮想的な正方格子を設定している。正方格子の一辺は、X軸と平行であり、他辺はY軸と平行である。正方格子の格子点Oを中心とする正方形状の単位構成領域Rは、X軸に沿った複数列及びY軸に沿った複数行にわたって二次元状に配列されている。各単位構成領域RのXY座標を、それぞれの単位構成領域Rの重心位置により規定する。これらの重心位置は、仮想的な正方格子の格子点Oと一致する。複数の異屈折率領域15bは、各単位構成領域R内に例えば1つずつ設けられる。異屈折率領域15bの平面形状は、例えば円形状である。格子点Oは、異屈折率領域15bの外部に位置してもよく、異屈折率領域15bの内部に含まれていてもよい。
【0036】
図4は、単位構成領域Rを拡大して示す図である。同図に示すように、異屈折率領域15bのそれぞれは、重心Gを有する。ここでは、格子点Oから重心Gに向かうベクトルとX軸とのなす角度をα(x,y)とする。xは、X軸におけるx番目の格子点の位置、yは、Y軸におけるy番目の格子点の位置を示す。回転角度αが0°である場合、格子点Oと重心Gとを結ぶベクトルの向きは、X軸の正方向と一致する。また、格子点Oと重心Gとを結ぶベクトルの長さをr(x,y)とする。一例では、r(x,y)は、x、yによらず、位相変調層15の全体にわたって一定である。
【0037】
図3に示すように、格子点Oと重心Gとを結ぶベクトルの向き、すなわち、異屈折率領域15bの重心Gの格子点O周りの回転角度αは、出射光の所望の形状に応じた位相分布φ(x,y)に従って、各格子点O毎に個別に設定される。本開示では、このような重心Gの配置形態を第1の形態と称する。位相分布φ(x,y)は、x,yの値で決まる位置毎に特定の値を有するが、必ずしも特定の関数で表わされるとは限らない。回転角度分布α(x,y)は、出射光の所望の形状をフーリエ変換して得られる複素振幅分布のうち、位相分布φ(x,y)を抽出したものから決定される。出射光の所望の形状から複素振幅分布を求める際には、ホログラム生成の計算時に一般的に用いられるGerchberg-Saxton(GS)法のような繰り返しアルゴリズムを適用するとよい。この場合、ビームパターンの再現性を向上させることが可能である。
【0038】
図5は、本実施形態の発光デバイス1から出射光Loutが出力される様子を模式的に示す図である。同図に示すように、本実施形態の発光デバイス1は、出射光Loutの所望の形状として出射光Loutを集光しつつ出射する、自己集光動作を行う。
図5の(a)部~(c)部に示すように、出射光Loutの集光点Uの個数は1つであってもよく、2つであってもよく、3つ以上であってもよい。集光点Uの個数が2以上である場合、各集光点Uは、
図6の(a)部に示すように、発光デバイス1の厚さ方向(すなわちZ方向)と交差または直交する方向に並んでもよく、Z方向と交差または直交する平面W上に分布してもよい。或いは、集光点Uの個数が4以上である場合、各集光点Uは、
図6の(b)部に示すように、3次元的(立体的)に分布してもよい。出射光Loutの集光点Uの分布に応じて、位相分布φ(x,y)及び回転角度分布α(x,y)が決定される。
【0039】
図7は、本実施形態の発光デバイス1と、従来のS-iPMレーザとの比較を示す図である。本実施形態の発光デバイス1は、
図7の(a)部に示すように、出射光Loutを集光しつつ出射する。これに対し、従来のS-iPMレーザ100は、
図7の(b)部に示すように、一定の拡がり角をもって出射光Loutを拡散しつつ出射し、或る投影面PMに光像LMを形成する。
【0040】
図8は、位相変調層15の特定領域内に屈折率略周期構造を適用した例を示す平面図である。
図8に示す例では、正方形の内側領域RINの内部に、所望の光像を出射するための略周期構造(例えば
図3に示した構造)が形成されている。一方、内側領域RINを囲む外側領域ROUTには、正方格子の格子点位置と重心位置とが一致する真円形の異屈折率領域15bが配置されている。内側領域RINの内部及び外側領域ROUT内において、仮想的に設定される正方格子の格子間隔aは互いに同一である。
図8に示す構造の場合、外側領域ROUT内にも光が分布するので、内側領域RINの周辺部での光強度の急激な変化によって生じる高周波ノイズ(いわゆる窓関数ノイズ)の発生を抑制できる。また、厚さ方向に垂直な方向への光漏れを抑制することができ、閾値電流の低減を期待できる。なお、この例に限られず、所望の光像を出射するための略周期構造(例えば
図3に示した構造)は、位相変調層15の全領域に形成されていてもよい。
【0041】
出射光Loutを集光しつつ出射し、且つ所望の集光点Uの分布を得るために、以下の手順によって、位相変調層15における異屈折率領域15bの回転角度分布α(x、y)を決定する。
【0042】
第1の前提条件として、法線方向に一致するZ軸と、複数の異屈折率領域15bを含む位相変調層15の一方の面に一致したX-Y平面と、によって規定されるXYZ直交座標系において、正方形状を有するM1×N1個(M1,N1は1以上の整数)の単位構成領域Rにより構成される仮想的な正方格子をX-Y平面上に設定する。
【0043】
第2の前提条件として、XYZ直交座標系における座標(ξ,η,ζ)は、
図9に示すように、動径の長さrと、Z軸からの傾き角θ
tiltと、X-Y平面上で特定されるX軸からの回転角θ
rotと、により規定される球面座標(r,θ
rot,θ
tilt)に対して、以下の式(1)~式(3)で示された関係を満たしているものとする。
図9は、球面座標(r,θ
rot,θ
tilt)からXYZ直交座標系における座標(ξ,η,ζ)への座標変換を説明するための図であり、座標(ξ,η,ζ)により、実空間であるXYZ直交座標系において設定される所定平面上の設計上の光像が表現される。
【数1】
【数2】
【数3】
【0044】
発光デバイス1から出射される光を、角度θ
tilt及びθ
rotで規定される方向に向かう輝点の集合とするとき、角度θ
tiltおよびθ
rotは、以下の式(4)で規定される規格化波数であってX軸に対応したK
x軸上の座標値kxと、以下の式(5)で規定される規格化波数であってY軸に対応すると共にK
x軸に直交するK
y軸上の座標値kyに換算されるものとする。規格化波数は、仮想的な正方格子の格子間隔に相当する波数2π/aを1.0として規格化された波数を意味する。このとき、K
x軸およびK
y軸により規定される波数空間において、光像に相当するビームパターンを含む特定の波数範囲は、それぞれが正方形状のM
2×N
2個(M
2,N
2は1以上の整数)の画像領域FRで構成される。なお、整数M
2は、整数M
1と一致する必要はない。同様に、整数N
2は、整数N
1と一致する必要もない。式(4)および式(5)は、例えばY. Kurosaka et al.," Effects of non-lasing band intwo-dimensional photonic-crystal lasers clarified using omnidirectional bandstructure," Opt. Express 20, 21773-21783 (2012)に開示されている。
【数4】
【数5】
a:仮想的な正方格子の格子定数
λ:発光デバイス1の発振波長
【0045】
第3の前提条件として、波数空間において、K
x軸方向の座標成分kx(0以上M
2-1以下の整数)とK
y軸方向の座標成分ky(0以上N
2-1以下の整数)とで特定される画像領域FR(kx,ky)それぞれを、X軸方向の座標成分x(0以上M
1-1以下の整数)とY軸方向の座標成分y(0以上N
1-1以下の整数)とで特定されるX-Y平面上の単位構成領域R(x,y)に二次元逆離散フーリエ変換することで得られる複素振幅F(x,y)は、jを虚数単位として、以下の式(6)で与えられる。複素振幅F(x,y)は、振幅項をA(x,y)とすると共に位相項をφ(x,y)とするとき、以下の式(7)により規定される。第4の前提条件として、単位構成領域R(x,y)は、X軸およびY軸にそれぞれ平行であって単位構成領域R(x,y)の中心となる格子点O(x,y)において直交する、s軸およびt軸で規定される。
【数6】
【数7】
【0046】
上記第1~第4の前提条件の下、位相変調層15は、以下の第5条件及び第6条件を満たすように構成される。すなわち、第5条件は、単位構成領域R(x,y)内において、重心Gが格子点O(x,y)から離れた状態で配置されていることで満たされる。第6条件は、格子点O(x,y)から対応する重心Gまでの線分長r2(x,y)がM1個×N1個の単位構成領域Rそれぞれにおいて共通の値に設定された状態で、格子点O(x,y)と対応する重心Gとを結ぶ線分と、s軸と、の成す角度α(x,y)が、
α(x,y)=C×φ(x,y)+B
C:比例定数であって例えば180°/π
B:任意の定数であって例えば0
となる関係を満たすように、対応する異屈折率領域15bが単位構成領域R(x,y)内に配置されることで満たされる。
【0047】
次に、発光デバイス1のM点発振について説明する。発光デバイス1のM点発振のためには、仮想的な正方格子の格子間隔a、活性層12の発光波長λ、及びモードの等価屈折率nが、λ=(√2)n×aといった条件を満たすとよい。
図10は、M点発振を行う発光デバイスの位相変調層に関する逆格子空間を示す平面図である。図中の点Pは、逆格子点を表している。図中の矢印B1は、基本逆格子ベクトルを表しており、矢印K1,K2,K3,及びK4は、4つの面内波数ベクトルを表している。面内波数ベクトルK1~K4は、回転角度分布α(x,y)による波数拡がりSPをそれぞれ有している。
【0048】
面内波数ベクトルK1~K4の大きさ(すなわち面内方向の定在波の大きさ)は、基本逆格子ベクトルB1の大きさよりも小さい。したがって、面内波数ベクトルK1~K4と基本逆格子ベクトルB1とのベクトル和が0にはならず、回折によって面内方向の波数が0となり得ないので、面垂直方向(Z軸方向)への回折は生じない。このままでは、M点発振の発光デバイス1において、面垂直方向(Z軸方向)への0次光だけでなく、Z軸方向に対して傾斜した方向への+1次光及び-1次光が出力されない。
【0049】
本実施形態では、M点発振の発光デバイス1において次のような工夫を位相変調層15に施すことにより、0次光を出力させずに、+1次光及び-1次光の一部を出力させる。すなわち、
図11に示すように、面内波数ベクトルK1~K4に対し、ある一定の大きさ及び向きを有する回折ベクトルV1を加えることにより、面内波数ベクトルK1~K4のうち少なくとも1つ(図では面内波数ベクトルK3)の大きさを2π/λ(λ:活性層12から出力される光の波長)よりも小さくする。言い換えると、回折ベクトルV1が加えられた後の面内波数ベクトルK1~K4のうち少なくとも1つを、半径2π/λの円状領域であるライトラインLL内に収める。
【0050】
図11において破線で示される面内波数ベクトルK1~K4は、回折ベクトルV1の加算前を表しており、実線で示される面内波数ベクトルK1~K4は、回折ベクトルV1の加算後を表している。ライトラインLLは、全反射条件に対応しており、ライトラインLL内に収まる大きさの波数ベクトルは、面垂直方向(Z軸方向)の成分を有することとなる。一例では、回折ベクトルV1の方向は、Γ-M1軸又はΓ-M2軸に沿っている。回折ベクトルV1の大きさは、2π/(√2)a-2π/λから2π/(√2)a+2π/λの範囲内であり、一例では2π/(√2)aである。
【0051】
続いて、面内波数ベクトルK1~K4のうち、少なくとも1つをライトラインLL内に収めるための回折ベクトルV1の大きさ及び向きについて検討する。下記の数式(8)~(11)は、回折ベクトルV1が加えられる前の面内波数ベクトルK1~K4を示す。
【数8】
【数9】
【数10】
【数11】
波数ベクトルの広がりΔkx及びΔkyは、下記の数式(12)及び(13)をそれぞれ満たす。面内波数ベクトルのx軸方向の広がりの最大値Δkx
max及びy軸方向の広がりの最大値Δky
maxは、設計の光像の角度広がりにより規定される。
【数12】
【数13】
【0052】
回折ベクトルV1を下記の数式(14)のように表したとき、回折ベクトルV1が加えられた後の面内波数ベクトルK1~K4は下記の数式(15)~(18)となる。
【数14】
【数15】
【数16】
【数17】
【数18】
【0053】
数式(15)~(18)において面内波数ベクトルK1~K4のいずれかがライトラインLL内に収まることを考慮すると、下記の数式(19)の関係が成り立つ。
【数19】
すなわち、数式(19)を満たす回折ベクトルV1を加えることにより、面内波数ベクトルK1~K4のいずれかがライトラインLL内に収まり、+1次光及び-1次光の一部が出力される。
【0054】
ライトラインLLの大きさ(半径)を2π/λとしたのは、以下の理由による。
図12は、ライトラインLLの周辺構造を模式的に説明するための図である。同図では、Z方向におけるデバイスと空気との境界を示している。真空中の光の波数ベクトルの大きさは2π/λとなるが、
図12のようにデバイス媒質中を光が伝搬するときには、屈折率nの媒質内の波数ベクトルKaの大きさは2πn/λとなる。このとき、デバイスと空気の境界を光が伝搬するためには、境界に平行な波数成分が連続している必要がある(波数保存則)。
【0055】
図12において、波数ベクトルKaとZ軸とが角度θをなす場合、面内に投影した波数ベクトル(すなわち面内波数ベクトル)Kbの長さは、(2πn/λ)sinθとなる。一方で、一般には媒質の屈折率nは1より大きいので、媒質内の面内波数ベクトルKbが2π/λより大きくなる角度では、波数保存則が成立しなくなる。このとき、光は全反射し、空気側に取り出すことができなくなる。この全反射条件に対応する波数ベクトルの大きさがライトラインLLの大きさ、すなわち、2π/λとなる。
【0056】
面内波数ベクトルK1~K4に回折ベクトルV1を加える具体的な方式の一例として、所望の出射光形状に応じた位相分布φ1(x,y)に対し、所望の出射光形状とは無関係の位相分布φ2(x,y)を重畳する方式が考えられる。この場合、位相変調層15の位相分布φ(x,y)は、φ(x,y)=φ1(x,y)+φ2(x,y)として表される。φ1(x,y)は、前に述べたように出射光の所望の形状をフーリエ変換したときの複素振幅の位相に相当する。また、φ2(x,y)は、上記の数式(19)を満たす回折ベクトルV1を加えるための位相分布である。
【0057】
図13は、位相分布φ
2(x,y)の一例を概念的に示す図である。同図の例では、第1の位相値φ
Aと、第1の位相値φ
Aとは異なる値の第2の位相値φ
Bとが市松模様に配列されている。一例では、位相値φ
Aは、0(rad)であり、位相値φ
Bは、π(rad)である。この場合、第1の位相値φ
Aと、第2の位相値φ
Bとがπずつ変化する。このような位相値の配列によって、Γ-M1軸又はΓ-M2軸に沿う回折ベクトルV1を好適に実現することができる。市松模様の配列の場合、V1=(±π/a,±π/a)となり、回折ベクトルV1と
図11の面内波数ベクトルK1~K4のいずれか一つとが、丁度相殺される。したがって、+1次光と-1次光との対称軸が、Z方向、すなわち位相変調層15の面内方向に対して垂直な方向に一致する。一般に、回折ベクトルVの角度分布θ
2(x,y)は、回折ベクトルV(Vx,Vy)と位置ベクトルr(x,y)との内積で表され、次式で与えられる。
θ
2(x,y)=V・r=Vx・x+Vy・y
そのため、V=V1の場合、位置ベクトルr(xa、ya)(x,yはともに整数)とすると位相値は0及びπとなる。一方、前述のように、回折ベクトルV1は、面内波数ベクトルK1~K4のうち少なくとも1つがライトラインLLに入る範囲内であれば、(±π/a、±π/a)からシフトしていてもよい。
【0058】
本実施形態において、出射光の角度広がりに基づく波数広がりが、波数空間上の或る点を中心とする半径Δkの円に含まれる場合、次のように簡略に考えることもできる。4方向の面内波数ベクトルK1~K4に回折ベクトルV1を加えることにより、4方向の面内波数ベクトルK1~K4のうち少なくとも1つの大きさを2π/λ(ライトラインLL)よりも小さくする。このことは、4方向の面内波数ベクトルK1~K4から波数拡がりΔkを除いたものに対して回折ベクトルV1を加えることにより、4方向の面内波数ベクトルK1~K4のうち少なくとも1つの大きさを、2π/λから波数拡がりΔkを差し引いた値{(2π/λ)-Δk}より小さくする、と考えてよい。
【0059】
図14は、上記の考え方を概念的に示す図である。同図に示すように、波数拡がりΔkを除いた面内波数ベクトルK1~K4に対して回折ベクトルV1を加えると、面内波数ベクトルK1~K4のうち少なくとも1つの大きさが{(2π/λ)-Δk}よりも小さくなる。
図14において、領域LL2は、半径が{(2π/λ)-Δk}の円状の領域である。
図14において、破線で示される面内波数ベクトルK1~K4は、回折ベクトルV1の加算前を表しており、実線で示される面内波数ベクトルK1~K4は、回折ベクトルV1の加算後を表している。領域LL2は、波数拡がりΔkを考慮した全反射条件に対応しており、領域LL2内に収まる大きさの波数ベクトルは、面垂直方向(Z軸方向)にも伝搬することとなる。
【0060】
本形態において、面内波数ベクトルK1~K4のうち少なくとも1つを領域LL2内に収めるための回折ベクトルV1の大きさ及び向きを説明する。下記の数式(20)~(23)は、回折ベクトルV1が加えられる前の面内波数ベクトルK1~K4を示す。
【数20】
【数21】
【数22】
【数23】
【0061】
ここで、回折ベクトルV1を前述した数式(14)のように表したとき、回折ベクトルV1が加えられた後の面内波数ベクトルK1~K4は、下記の数式(24)~(27)となる。
【数24】
【数25】
【数26】
【数27】
【0062】
数式(24)~(27)において、面内波数ベクトルK1~K4のいずれかが領域LL2内に収まることを考慮すると、下記の数式(28)の関係が成り立つ。すなわち、数式(28)を満たす回折ベクトルV1を加えることにより、波数拡がりΔkを除いた面内波数ベクトルK1~K4のいずれかが領域LL2内に収まる。このような場合であっても、0次光を出力させずに、+1次光及び-1次光の一部を出力させることができる。
【数28】
【0063】
図15は、位相変調層15の別の形態を示す平面図である。また、
図16は、
図15に示された位相変調層15における異屈折率領域15bの配置を示す図である。
図15及び
図16に示すように、位相変調層15の各異屈折率領域15bの重心Gは、直線D上に配置されてもよい。直線Dは、各単位構成領域Rに対応する格子点Oを通り、正方格子の各辺に対して傾斜する直線である。つまり、直線Dは、X軸及びY軸の双方に対して傾斜する直線である。正方格子の一辺(X軸)に対する直線Dの傾斜角は、βである。
【0064】
この場合、傾斜角βは、位相変調層15内において一定である。傾斜角βは、0°<β<90°を満たし、一例ではβ=45°である。或いは、傾斜角βは、180°<β<270°を満たし、一例ではβ=225°である。傾斜角βが0°<β<90°または180°<β<270°を満たす場合、直線Dは、X軸及びY軸によって規定される座標平面の第1象限から第3象限にわたって延びる。傾斜角βは、90°<β<180°を満たし、一例ではβ=135°である。或いは、傾斜角βは、270°<β<360°を満たし、一例ではβ=315°である。傾斜角βが90°<β<180°または270°<β<360°を満たす場合、直線Dは、X軸及びY軸によって規定される座標平面の第2象限から第4象限にわたって延びる。このように、傾斜角βは、0°、90°、180°及び270°を除く角度となっている。
【0065】
ここで、格子点Oと重心Gとの距離をr(x,y)とする。xは、X軸におけるx番目の格子点の位置であり、yは、Y軸におけるy番目の格子点の位置である。距離r(x,y)が正の値である場合、重心Gは、第1象限(または第2象限)に位置する。距離r(x,y)が負の値である場合、重心Gは、第3象限(または第4象限)に位置する。距離r(x,y)が0である場合、格子点Oと重心Gとが互いに一致する。傾斜角度は、45°、135°、225°、275°が好適である。これらの傾斜角度では、M点の定在波を形成する4つの波数ベクトル(例えば、面内波数ベクトル(±π/a、±π/a))の中の2つのみが位相変調され、その他の2つが位相変調されないため、安定した定在波を形成することができる。
【0066】
各異屈折率領域の重心Gと各単位構成領域Rに対応する格子点Oとの距離r(x,y)は、所望の出射光形状に応じた位相分布φ(x,y)に従って各異屈折率領域15b毎に個別に設定される。本開示では、このような重心Gの配置形態を第2の形態と称する。位相分布φ(x,y)及び距離分布r(x,y)は、x,yの値で決まる位置毎に特定の値を有するが、必ずしも特定の関数で表わされるとは限らない。距離r(x,y)の分布は、所望の出射光形状を逆フーリエ変換して得られる複素振幅分布のうち位相分布φ(x,y)を抽出したものから決定される。
【0067】
すなわち、或る座標(x,y)における位相φ(x,y)がφ0である場合には、距離r(x,y)を0と設定し、位相φ(x,y)がπ+φ0である場合には、距離r(x,y)を最大値R0に設定し、位相φ(x,y)が-π+φ0である場合には、距離r(x,y)を最小値-R0に設定する。そして、その中間の位相φ(x,y)に対しては、r(x,y)={φ(x,y)-φ0}×R0/πとなるように距離r(x,y)をとる。初期位相φ0は、任意に設定することができる。
【0068】
仮想的な正方格子の格子間隔をaとすると、r(x,y)の最大値R
0は、例えば下記式(29)の範囲内となる。所望の光像から複素振幅分布を求める際には、ホログラム生成の計算時に一般的に用いられるGS法のような繰り返しアルゴリズムを適用することによって、ビームパターンの再現性を向上させることが可能である。
【数29】
【0069】
この第2の形態においては、位相変調層15の異屈折率領域15bの距離r(x,y)の分布を決定することにより、所望の光出射形状(集光点の数、位置など)を得ることができる。前述の第1の形態と同様の第1~第4の前提条件の下、位相変調層15は、以下の条件を満たすよう構成される。すなわち、格子点O(x,y)から対応する異屈折率領域15bの重心Gまでの距離r(x,y)が、
r(x,y)=C×(φ(x,y)-φ0)
C:比例定数で例えばR0/π
φ0:任意の定数であって例えば0
となる関係を満たすように、対応する異屈折率領域15bが単位構成領域R(x,y)内に配置される。所望の光出射形状を得たい場合、当該光出射形状を逆フーリエ変換して、その複素振幅の位相φ(x,y)に応じた距離r(x,y)の分布を複数の異屈折率領域15bに与えるとよい。位相φ(x,y)と距離r(x,y)とは、互いに比例してもよい。
【0070】
この第2の形態においても、前述した第1の形態と同様に、仮想的な正方格子の格子間隔aと活性層12の発光波長λとがM点発振の条件を満たす。さらに、位相変調層15において逆格子空間を考えるとき、距離r(x,y)の分布による波数拡がりをそれぞれ含む4方向の面内波数ベクトルK1~K4のうち少なくとも1つの大きさは、2π/λすなわちライトラインLLよりも小さい。
【0071】
この第2の形態においても、M点で発振する発光デバイスにおいて次のような工夫を位相変調層15に施すことにより、0次光をライトラインLL内に出力させずに、+1次光及び-1次光の一部を出力する。具体的には、
図11に示したように、面内波数ベクトルK1~K4に対してある一定の大きさ及び向きを有する回折ベクトルV1を加えることにより、面内波数ベクトルK1~K4のうち少なくとも1つの大きさを、2π/λよりも小さくする。すなわち、回折ベクトルV1が加えられた後の面内波数ベクトルK1~K4のうち少なくとも1つを半径2π/λの円状領域であるライトラインLL内に収める。前述した数式(19)を満たす回折ベクトルV1を加えることにより、面内波数ベクトルK1~K4のいずれかがライトラインLL内に収まり、+1次光及び-1次光の一部が出力される。
【0072】
或いは、
図14に示したように、4方向の面内波数ベクトルK1~K4から波数拡がりΔkを除いたもの(すなわちM点発振の正方格子PCSELにおける4方向の面内波数ベクトル)に対して回折ベクトルV1を加えることにより、4方向の面内波数ベクトルK1~K4のうち、少なくとも1つの大きさを2π/λから波数拡がりΔkを差し引いた値{(2π/λ)-Δk}より小さくしてもよい。すなわち、前述した数式(28)を満たす回折ベクトルV1を加えることにより、面内波数ベクトルK1~K4のいずれかが領域LL2内に収まり、+1次光及び-1次光の一部が出力される。
【0073】
ここで、発光デバイス1から光を集光させつつ出射するための、位相変調層15の設計について詳細に説明する。
【0074】
[単一集光点型(A)]
まず、発光デバイス1自身により単一の集光点Uを形成するための位相変調層15の設計について説明する。この場合、所望の出射光形状を得る為の位相分布φ
1(x,y)として、出射光を集光するためのレンズ要素を含む位相分布、すなわちレンズ位相分布φ
L(x,y)を設定する。
図17は、レンズ位相分布φ
L(x,y)の例を示す図である。同図において、位相の大きさは色の濃淡によって表現されており、色が濃いほど0(rad)に近く、色が淡いほど2π(rad)に近い。この例では、位相変調層15の中心から離れるほど位相が小さくなっており、このレンズ位相分布φ
L(x,y)は、出射光に対して凸レンズ要素として作用することができる。なお、このレンズ位相分布φ
L(x,y)は、数式(30)により表される。但し、λは位相変調層15における媒質中の波長であり、(x,y)は面内の格子点位置であり、fは焦点距離である。焦点距離fの符号は+及び-のいずれであってもよい。焦点距離fの符号が+である場合に凹レンズとなり、-である場合に凸レンズとなる。
【数30】
【0075】
図18は、レンズ位相分布φ
L(x,y)を部分的に拡大して示す図である。このレンズ位相分布φ
L(x,y)を局所的に見ると、
図13と同様に、一見すると、第1の位相値と、第1の位相値とは異なる値の第2の位相値とが市松模様に配列されている。例えばこのようなレンズ位相分布φ
L(x,y)によって、前述した回折ベクトルV1を面内波数ベクトルK1~K4に加えることができる。なお、位相変調層15の各部分の位相値は、各部分に含まれる第1及び第2の位相値の平均値の和として得られる。
【0076】
図19及び
図20は、本実施形態の発光デバイス1を試作し、対物レンズをZ方向に移動させながら近視野像を撮像した実験の結果を示す図である。この実験では、対物レンズの移動間隔を100μmとし、光出射面のZ軸座標をz=0mmとした。また、試作した発光デバイス1の発光波長λを940nmとし、格子間隔aを202nmとし、格子点Oと重心Gとを結ぶベクトルの長さrを0.08aとし、焦点距離fを0.32mmとした。
図19はレンズ位相分布φ
L(x,y)を凸レンズとした場合を示し、
図20はレンズ位相分布φ
L(x,y)を凹レンズとした場合を示す。
図21は、比較のため、位相変調層15を備えない通常の発光デバイス(LED)を作製し、同様に近視野像を撮像した結果を示す図である。これらの
図19~
図21では、光強度を色の濃淡で表しており、色が淡いほど光強度が大きい。
【0077】
図19及び
図20を参照すると、本実施形態の発光デバイス1では、光出射面から0.3mmの位置において出射光が収束したことがわかる。また、
図21に示すように、通常の発光デバイスでは、光出射面(z=0mm)において近視野像が明瞭となり、光出射面から離れると近視野像が不明瞭となった。このように、本実施形態の発光デバイス1によれば、光を集光しつつ出射することができる。
【0078】
また、この実験によれば、光出射面から-0.3mm(すなわち発光デバイス1の光出射面とは反対側)の位置においても出射光が収束した。その理由は、次のように考えられる。すなわち、
図22に示すように、発光デバイス1の位相変調層15からは、互いに対称な方向に+1次光La及び-1次光Lbが出射する。レンズ位相分布φ
L(x,y)を凸レンズとした場合(
図19)には、位相変調層15から或る距離(
図19の例では0.3mm)の集光点Uにおいて+1次光Laが収束し、位相変調層15から反対側の或る距離(
図19の例では-0.3mm)の集光点UDにおいて虚像としての-1次光Lbが収束する。逆に、レンズ位相分布φ
L(x,y)を凹レンズとした場合(
図20)には、位相変調層15から或る距離(
図20の例では0.3mm)の集光点Uにおいて-1次光Lbが収束し、位相変調層15から反対側の或る距離(
図20の例では-0.3mm)の集光点UDにおいて+1次光Laが収束する。
【0079】
[単一集光点型(B)]
次に、単一の発光デバイス1自身により単一の集光点Uを形成するための位相変調層15の設計の他の一つについて説明する。上述したように、
図13に示した市松模様の位相分布φ
2(x,y)によれば、回折ベクトルV1がV1=(±π/a,±π/a)となり、回折ベクトルV1と
図10の面内波数ベクトルK1~K4のいずれか一つとが、丁度相殺される。したがって、面内波数ベクトルK1~K4のいずれか一つが零ベクトルとなり、+1次光と-1次光との対称軸が、Z方向、すなわち位相変調層15の面内方向に対して垂直な方向に一致する。
【0080】
単一集光点型の設計の一つでは、上記の回折ベクトルV1を変更することにより、面内波数ベクトルK1~K4の長さをいずれも0より大きくして(すなわち面内波数ベクトルK1~K4を非零ベクトルとして)、+1次光と-1次光との対称軸をZ方向から傾斜させる。言い換えると、発光デバイス1から出力される光像の中心位置を、発光デバイス1の光出射面の中心を通りZ方向に延在する軸線に対して離間させる。このような回折ベクトルV1は、上記の回折ベクトルV1=(±π/a,±π/a)に対して、非零ベクトル(dVx,dVy)を加えることにより得られる。すなわち、回折ベクトルV1をV1=±(π/a)(1+dVx,1+dVy)とする。この場合、レンズ位相分布φ
L(x,y)を含む位相分布φ(x,y)は下記のように表される。
【数31】
【0081】
非零ベクトル(dVx,dVy)に相当する位相分布の成分は、レンズ位相分布φL(x,y)とともに、位相分布φ(x,y)において出射光を1つの集光点Uに集光するための要素を構成する。+1次光と-1次光との対称軸がZ方向から傾斜する場合であっても、+1次光及び-1次光が共に、発光デバイス1の光出射面側において同じ位置に集光点Uを形成する。故に、この設計によれば、1つの集光点Uを好適に形成することができる。
【0082】
図23は、レンズ位相分布φ
L(x,y)と、非零ベクトル(dVx,dVy)に相当する成分とを含む位相分布φ(x,y)の例を示す図である。同図において、位相の大きさは色の濃淡によって表現されており、色が濃いほど0(rad)に近く、色が淡いほど2π(rad)に近い。
【0083】
[複数集光点型]
続いて、単一の発光デバイス1自身により複数の集光点Uを形成するための位相変調層15の設計の一つについて説明する。この設計では、出射光Loutを少なくとも2つの点に向けて出射するためのホログラム位相分布φH(x,y)と、出射光Loutを集光するためのレンズ位相分布φL(x,y)とを合成する。そして、合成して得られた位相分布を、出射光を少なくとも2つの集光点Uに集光するための要素として位相分布φ1(x,y)に含める。その後、この位相分布φ1(x,y)と、回折ベクトルV1のための位相分布φ2(x,y)との和を算出して最終的な位相分布φ(x,y)とする。位相分布φ1(x,y)は、ホログラム位相分布φH(x,y)とレンズ位相分布φL(x,y)とを合成して得られた位相分布のみから成ってもよい。なお、ホログラム位相分布φH(x,y)は本開示における第1の位相分布に対応し、レンズ位相分布φL(x,y)は本開示における第2の位相分布に対応する。
【0084】
ホログラム位相分布φH(x,y)は、上記少なくとも2つの点を、発光デバイス1の光出射面の中心を通りZ方向に延在する軸線から離れた位置に形成する。言い換えると、ホログラム位相分布φH(x,y)は、面内波数ベクトルK1~K4を非零ベクトルとする位相分布であって、互いに異なる2点以上に向けて光を出射するためのホログラムを形成する。
【0085】
少なくとも2つの集光点Uが、z軸に垂直な同一の架空平面上に位置する場合、ホログラム位相分布φH(x,y)とレンズ位相分布φL(x,y)とを合成する方法の一例としては、各z座標においてホログラム位相分布φH(x,y)の位相値とレンズ位相分布φL(x,y)の位相値との和φH(x,y)+φL(x,y)をとる方法がある。また、少なくとも2つの集光点Uが、それぞれz軸に垂直であって互いにz座標が異なる複数の架空平面上に分かれて位置する場合、ホログラム位相分布φH(x,y)とレンズ位相分布φL(x,y)とを合成する方法としては、例えば下記の各方法がある。下記の各方法では、ホログラム位相分布φH(x,y)の位相値とレンズ位相分布φL(x,y)の位相値との和φH(x,y)+φL(x,y)である合成位相分布φs1(x,y)~φsn(x,y)(nは架空平面の枚数)を架空平面毎にまず算出する。その後に、合成位相分布φs1(x,y)~φsn(x,y)を相互に合成する。合成した位相分布を、出射光を少なくとも2つの集光点Uに集光するための要素として、位相分布φ1(x,y)に含める。
【0086】
一つは、合成位相分布φs
1(x,y)~φs
n(x,y)のそれぞれを実部と虚部とに分け、実部及び虚部のそれぞれにおいて位相合成する方法である(以下、第1の方法という)。この方法の概念図を
図24に示す(但し、
図24にはn=2の場合を示す)。まず、下記のように、合成位相分布φs
1(x,y)~φs
n(x,y)のそれぞれを実部と虚部とに分ける(図中の処理B1,B2)。
exp(j・φs
1)=cos(φs
1)+j・sin(φs
1)
exp(j・φs
2)=cos(φs
2)+j・sin(φs
2)
・
・
・
exp(j・φs
n)=cos(φs
n)+j・sin(φs
n)
次に、合成位相分布φs
1(x,y)~φs
n(x,y)の実部同士、及び虚部同士を、下記のようにそれぞれ加算する(図中の処理B3,B4)。
実部Re=cos(φs
1)+cos(φs
2)+…+cos(φs
n)
虚部Im=sin(φs
1)+sin(φs
2)+…+sin(φs
n)
そして、これらの実部Re及び虚部Imを、下記のように極形式にて記述する(図中の処理B5)。
Re+j・Im=A・exp(j・φ
1)(A:振幅、φ:偏角)
以上の計算により、各座標(x,y)における合成位相φ
1、すなわち少なくとも2つの集光点Uに集光するための位相分布φ
1(x,y)が得られる(図中の処理B6)。
【0087】
他の一つは、合成位相分布φs1(x,y)~φsn(x,y)の平均値を位相分布φ1(x,y)とする方法である(以下、第2の方法という)。すなわち、座標(x,y)における位相分布φ1(x,y)を、(φs1+φs2+…+φsn)/nとして算出する。
【0088】
更に他の一つは、各合成位相分布φs
1(x,y)~φs
n(x,y)から位相値を二次元的にランダムに選択し、選択した位相値を重畳させる方法である(以下、第3の方法という)。この方法では、各座標(x,y)において、合成位相分布φs
1(x,y)~φs
n(x,y)のうち一つのみから位相値を選択し、二以上の合成位相分布φs
1(x,y)~φs
n(x,y)の位相値が重ならないようにする。
図25は、この方法に用いられるランダムパターンの例を示す図である。但し、
図25ではn=2の場合を想定している。
図25(a)は合成位相分布φs
1(x,y)に適用されるランダムパターン50Aを示し、
図25(b)は合成位相分布φs
2(x,y)に適用されるランダムパターン50Bを示す。これらのランダムパターン50A,50Bは、x方向およびy方向に沿って二次元状に配列された複数の領域51を有し、これらの領域51は位相分布の各位相値と一対一で対応している。図において、複数の領域51は黒色及び白色に塗り分けられているが、ここでは白色の領域を位相値が選択される領域52(以下、選択領域)とし、黒色の領域を位相値が選択されない領域53(以下、非選択領域)とする。すなわち、合成位相分布φs
1(x,y)の中からランダムパターン50Aの選択領域52に対応する座標(x,y)の位相値が選択され、合成位相分布φs
2(x,y)の中からランダムパターン50Bの選択領域52に対応する座標(x,y)の位相値が選択される。ランダムパターン50Aとランダムパターン50Bとを比較すると、ランダムパターン50Aの選択領域52と、ランダムパターン50Bの選択領域52とが相補的に分布している。すなわち、ランダムパターン50Aにおける選択領域52はランダムパターン50Bにおいて必ず非選択領域53であり、ランダムパターン50Aにおける非選択領域53はランダムパターン50Bにおいて必ず選択領域52である。そして、選択領域52は、xy平面において二次元的にランダムに分布している。ランダムパターン50Aにおける選択領域52の個数(すなわち、合成位相分布φs
1(x,y)から選択される位相値の個数)と、ランダムパターン50Bにおける選択領域52の個数(すなわち、合成位相分布φs
2(x,y)から選択される位相値の個数)とは、互いに等しくてもよく、僅かに異なってもよい。
【0089】
上述したランダムパターン50A,50Bの作成方法としては、例えば、0~1の乱数から各領域に値を割り当て、その値が0以上1/2未満である領域をランダムパターン50Aの選択領域52とし、1/2以上1以下である領域をランダムパターン50Bの選択領域52などとして定義するとよい。なお、乱数分布の作成には、例えば数値計算ソフトであるMATLAB(登録商標)のRand関数などを利用できる。
【0090】
上記の
図25ではn=2の場合を想定したが、nは3以上であってもよい。n=3の場合、合成位相分布φs
1(x,y)に対応するランダムパターンの選択領域52と、合成位相分布φs
2(x,y)に対応するランダムパターンの選択領域52と、合成位相分布φs
3(x,y)に対応するランダムパターンの選択領域52とが、相補的に分布する。すなわち、合成位相分布φs
1(x,y)に対応するランダムパターンにおける選択領域52は、他の合成位相分布φs
2(x,y)及びφs
3(x,y)に対応する各ランダムパターンにおいて必ず非選択領域53であり、合成位相分布φs
2(x,y)に対応するランダムパターンにおける選択領域52は、他の合成位相分布φs
1(x,y)及びφs
3(x,y)に対応する各ランダムパターンにおいて必ず非選択領域53であり、合成位相分布φs
3(x,y)に対応するランダムパターンにおける選択領域52は、他の合成位相分布φs
1(x,y)及びφs
2(x,y)に対応する各ランダムパターンにおいて必ず非選択領域53である。このようなランダムパターンの作成方法としては、例えば、0~1の乱数から各領域に値を割り当て、その値が0以上1/3未満である領域を合成位相分布φs
1(x,y)に対応するランダムパターンの選択領域52とし、1/3以上2/3未満である領域を合成位相分布φs
2(x,y)に対応するランダムパターンの選択領域52とし、2/3以上1以下である領域を合成位相分布φs
3(x,y)に対応するランダムパターンの選択領域52などとして定義するとよい。nが4以上である場合も、上記の方法と同様の方法によってランダムパターンを作成可能である。
【0091】
上記の各方法によれば、ホログラム位相分布φH(x,y)によって+1次光を少なくとも2点に向けて出射できるので、+1次光のみを用いて少なくとも2つの集光点Uを形成することができる。
【0092】
ここで、2点集光型の発光デバイス1を試作し、対物レンズをZ方向に移動させながら近視野像を撮像した実験の結果を示す。
図26は、集光点Uの位置を示す図である。この実験では、
図26(a)に示すように、一つの集光点Uを、光出射面からの距離zが1mmであり、且つ、発光デバイス1の光出射面の中心を通りZ方向に延在する軸線から+Y方向に所定距離だけ離れた位置に形成した。また、
図26(b)に示すように、他の一つの集光点Uを、光出射面からの距離zが2mmであり、且つ、発光デバイス1の光出射面の中心を通りZ方向に延在する軸線から-Y方向に所定距離だけ離れた位置に形成した。この実験では、対物レンズの移動間隔を100μm~1000μmとし、光出射面のZ軸座標をz=0mmとした。また、試作した発光デバイス1の発光波長λ、格子間隔a、及び格子点Oと重心Gとを結ぶベクトルの長さrを
図19~
図21と同様とした。
【0093】
図27~
図29は、この実験において作製した発光デバイス1の近視野像を示す。
図27は、上述した第2の方法により発光デバイス1を作製した場合の近視野像を示す。
図28は、上述した第1の方法(
図24を参照)により発光デバイス1を作製した場合の近視野像を示す。
図29は、上述した第3の方法により発光デバイス1を作製した場合の近視野像を示す。なお、これらの
図27~
図29では、光強度を色の濃淡で表しており、色が淡いほど光強度が大きい。
【0094】
図27~
図29を参照すると、いずれの方法においても、z=1mm、及びz=2mmの各位置において、
図26に示された集光点Uが現れていることがわかる。但し、
図27を参照すると、中央付近に略正方形のノイズが確認される。この略正方形のノイズの大きさは、
図27に示される範囲においてデフォーカスの距離zを変化させても大きく変わらない。したがって、レンズ位相による集光作用が及ばない近視野像であるデフォーカス像と考えられる。なお、
図21に示された発光素子(LED)のデフォーカス像の拡がりと比べて、
図27に示されるデフォーカス像の拡がりは小さい。これは、波長に対して相対的に大きな面積でレーザ発振していることに因る。このため、
図27に示されるデフォーカス像においては、回折拡がりが少なく、鋭い輝点が面垂直方向に見られた。故に、略正方形のノイズは、面内共振する定在波が回折ベクトルV1の作用により面垂直方向に回折した光、すなわち、ホログラム位相とレンズ位相との合成位相による位相変調作用を受けていない光成分と考えられる。したがって、第1の方法または第3の方法のいずれかにより発光デバイス1を作製することがより好ましい。
【0095】
次に、複数集光型の別の発光デバイス1を試作し、対物レンズをZ方向に移動させながら近視野像を撮像した実験の結果を示す。
図30は、集光点Uの位置を示す図である。この実験では、
図30(a)に示すように、多数の集光点Uを、光出射面からの距離zが1mmであり、且つ、発光デバイス1の光出射面の中心を通りZ方向に延在する軸線を跨いでX方向に沿って配列した。また、
図30(b)に示すように、他の多数の集光点Uを、光出射面からの距離zが2mmであり、且つ、発光デバイス1の光出射面の中心を通りZ方向に延在する軸線を跨いでY方向に沿って配列した。この実験では、対物レンズの移動間隔を250μmとし、光出射面のZ軸座標をz=0mmとした。また、試作した発光デバイス1の発光波長λ、格子間隔a、及び格子点Oと重心Gとを結ぶベクトルの長さrを
図19~
図21と同様とした。
【0096】
図31~
図33は、この実験において作製した発光デバイス1の近視野像を示す。
図31は、上述した第2の方法により発光デバイス1を作製した場合の近視野像を示す。
図32は、上述した第1の方法(
図24を参照)により発光デバイス1を作製した場合の近視野像を示す。
図33は、上述した第3の方法により発光デバイス1を作製した場合の近視野像を示す。なお、これらの
図31~
図33においても、光強度を色の濃淡で表しており、色が淡いほど光強度が大きい。
【0097】
図31~
図33を参照すると、いずれの方法においても、z=1mm、及びz=2mmの各位置において、
図30に示された集光点Uが現れていることがわかる。但し、
図31を参照すると、中央付近に略正方形のノイズが確認される。この略正方形のノイズは、前述した
図27において示された略正方形のノイズと同様の作用によるものと考えられる。したがって、第1の方法または第3の方法のいずれかにより発光デバイス1を作製することがより好ましい。
【0098】
なお、上記の各実験においても、前述した
図19~
図21と同様に、光出射面から-1.0mm及び-2.0mmの位置に集光点が現れている。その理由は、実像としての+1次光(または-1次光)がz>0の領域で収束するのに対し、虚像としての-1次光(または+1次光)がz<0の領域で収束することによる。
【0099】
以上に説明した本実施形態の発光デバイス1によって得られる効果について説明する。この発光デバイス1では、複数の異屈折率領域15bの各重心Gが、仮想的な正方格子の対応する格子点Oから離れて配置され、該格子点O周りに所定の位相分布φ(x,y)に応じた個別の回転角度αを有するか、または、仮想的な正方格子の格子点Oを通り正方格子に対して傾斜する直線D上に配置され、各異屈折率領域15bの重心Gと、各異屈折率領域15bに対応する格子点Oとの距離rが、所定の位相分布φ(x,y)に応じて個別に設定されている。このような構造によれば、S-iPMレーザとして、任意形状の光像を生成することができる。
【0100】
加えて、この発光デバイス1では、仮想的な正方格子の格子間隔aと、活性層12の発光波長λとが、M点発振の条件を満たす。前述したように、通常、M点発振の定在波状態においては位相変調層15内を伝搬する光が全反射してしまい、信号光(例えば+1次光及び-1次光のうち少なくとも一方)及び0次光の双方の出力が抑制される。しかしながら、この発光デバイス1では、位相変調層15の逆格子空間上において、定在波は位相分布φ(x,y)による位相変調を受け、出射光の角度広がりに対応した波数拡がりをそれぞれ含む4方向の面内波数ベクトルK1~K4を形成する。そして、これらの面内波数ベクトルK1~K4のうち少なくとも1つの大きさが2π/λ、すなわちライトラインLLよりも小さくなっている。S-iPMレーザでは、各異屈折率領域15bの配置を工夫することにより、このような面内波数ベクトルK1~K4の調整が可能である。そして、少なくとも1つの面内波数ベクトルの大きさが2π/λよりも小さい場合、その面内波数ベクトルは、位相変調層15の厚さ方向(Z方向)の成分を有するとともに、空気との界面において全反射を生じない。結果的に、信号光の一部が位相変調層15から出力される。但し、M点発振の条件を満たす場合、0次光は空気との界面にて全反射し、位相変調層15からライトラインLL内には出力されない。すなわち、本実施形態の発光デバイス1によれば、S-iPMレーザの出力に含まれる0次光をライトラインLL内から取り除き、信号光のみを出力することができる。
【0101】
加えて、発光デバイス1では、位相分布φ(x,y)が、出射光Loutを集光するための要素を含む。これにより、発光デバイス1は、光を集光しつつ出力することができる。また、上述したように、発光デバイス1では、集光に寄与しない0次光の出力が抑制されているので、集光に寄与し得る信号光のみを出力することができる。このように、発光デバイス1によれば、発光デバイス1自身により集光が可能となるので、集光のための光学部品を削減し、光源装置を小型化することができる。
【0102】
位相分布φ(x,y)に含まれる出射光Loutを集光するための要素は、出射光Loutを少なくとも2つの集光点Uに集光するための要素であってもよい。前述したように、発光デバイス1によれば、位相分布φ(x,y)に含まれる集光のための要素を適宜設計することにより、一つの発光デバイス1から少なくとも2つの集光点Uに出射光Loutを集光することも可能である。故に、光源装置を更に小型化できる。
【0103】
位相分布φ(x,y)に含まれる出射光Loutを集光するための要素は、4方向の面内波数ベクトルK1~K4の大きさをいずれも0より大きくする(すなわち面内波数ベクトルK1~K4を非零ベクトルとする)ための要素であってもよい。例えばこのような要素によって、出射光Loutを単一の集光点Uに集光することができる。
【0104】
位相分布φ(x,y)は、出射光Loutを少なくとも2つの点に向けて出射するためのホログラム位相分布φH(x,y)と、出射光Loutを集光するためのレンズ位相分布φL(x,y)とを合成して得られる位相分布を、上記要素として含んでもよい。例えばこのような要素によって、出射光Loutを少なくとも2つの集光点Uに集光することができる。
【0105】
図6の(a)部に示したように、少なくとも2つの集光点Uは、厚さ方向(Z方向)と交差する方向に並んでもよい。この場合、例えば各集光点Uからの光を互いに干渉させる等の用途に発光デバイス1を用いることができる。
【0106】
図6の(b)部に示したように、位相分布φ(x,y)の要素は、出射光Loutを少なくとも4つの集光点Uに集光するための要素であり、少なくとも4つの集光点Uは3次元的に分布してもよい。この場合、例えば3次元的(立体的)な光像の作成等の用途に発光デバイス1を用いることができる。
【0107】
(第2実施形態)
図34は、第2実施形態に係る三次元計測システム101の構成を示す模式図である。同図に示すように、三次元計測システム101は、光源装置102と、複数(例えば一対)の撮像部103と、計測部104とを含んで構成されている。光源装置102は、第1実施形態の発光デバイス1を一個又は複数個含んで構成されている。光源装置102から出射される計測光105は、ステージ106上に載置された被計測物SAの表面の一定の領域に照射される。ステージ106は、2次元方向又は3次元方向に走査可能な走査ステージであってもよい。なお、計測光105の照射範囲が被計測物SAの測定範囲に対して十分に広い場合、ステージ106の配置を省略してもよい。
【0108】
図35は、光源装置102の構成の一例として、光源装置102Aを模式的に示す図である。同図に示すように、この光源装置102Aは、一つの発光デバイス1Aと、光学系110とを備える。光学系110は、発光デバイス1Aの光出射面と光学的に結合されている。一例では、光学系110の光軸は、発光デバイス1Aの光出射面の中心を通りZ方向(
図1を参照)に沿って延在する軸線AX1と一致する。光学系110は、集光作用を有するレンズであって、例えば凸レンズである。
【0109】
発光デバイス1Aは、第1実施形態の発光デバイス1であって、発光デバイス1と光学系110との間に位置する2つの集光点U1,U2を形成する。すなわち、発光デバイス1Aの位相変調層15の位相分布φ(x,y)に含まれる、出射光を集光するための要素は、第1実施形態において説明した複数集光点型の構成を有する。この要素は、発光デバイス1Aから出力される出射光Lout1を集光点U1に集光し、発光デバイス1Aから出力される出射光Lout2を集光点U2に集光する。集光点U1,U2は、軸線AX1に対して交差(例えば直交)する方向に並んで形成される。また、軸線AX1から集光点U1までの距離と、軸線AX1から集光点U2までの距離とは互いに等しい。言い換えると、集光点U1,U2は、軸線AX1に関して対称な位置に形成されている。出射光Lout1は本開示における第1の出射光に対応し、出射光Lout2は本開示における第2の出射光に対応する。集光点U1は本開示における第1の集光点に対応し、集光点U2は本開示における第2の集光点に対応する。
【0110】
図36は、光源装置102の構成の別の例として、光源装置102Bを模式的に示す図である。同図に示すように、この光源装置102Bは、2つの発光デバイス1B,1Cと、光学系110とを備える。発光デバイス1B,1Cの光出射面の法線は互いに平行であり、共通の平面内に位置する。発光デバイス1Bは本開示における第1の発光デバイスに対応し、発光デバイス1Cは本開示における第2の発光デバイスに対応する。
【0111】
光学系110は、2つの発光デバイス1B,1Cに対して共通に設けられ、発光デバイス1B,1Cの光出射面と光学的に結合されている。一例では、光学系110の光軸は、発光デバイス1B,1Cの中間点を通りZ方向(
図1を参照)に沿って延在する軸線AX2と一致する。光学系110は、集光作用を有するレンズであって、例えば凸レンズである。
【0112】
発光デバイス1B,1Cは、第1実施形態の発光デバイス1である。発光デバイス1B,1Cの位相変調層15の位相分布φ(x,y)に含まれる、出射光を集光するための要素は、第1実施形態において説明した単一集光点型の構成を有する。発光デバイス1Bの該要素は、発光デバイス1Bから出力される出射光Lout1を、発光デバイス1Bと光学系110との間に位置する集光点U1に集光する。発光デバイス1Cの該要素は、発光デバイス1Cから出力される出射光Lout2を、発光デバイス1Cと光学系110との間に位置する集光点U2に集光する。集光点U1,U2の形成位置は、
図35に示した例と同様である。
【0113】
図35及び
図36において、集光点U1を通過した出射光Lout1、及び集光点U2を通過した出射光Lout2は、光学系110を通過する。光学系110は、出射光Lout1及びLout2をそれぞれ結像面115に結像させるとともに、結像面115において出射光Lout1とLout2とを相互に干渉させる。こうして生成される干渉光は、
図34に示した計測光105として被計測物SAの表面に照射される。なお、各図では光学系110として単一のレンズが示されているが、光学系110は複数のレンズを組み合わせて構成されてもよい。
【0114】
図37は、結像面115における干渉光像すなわち計測光105の強度変化パターンを示す図である。同図に示すように、計測光105のパターンは、或る方向Aに沿って光強度が正弦波状に周期的に変化するストライプパターンW1である。
【0115】
再び
図34を参照する。撮像部103は、光源装置102から出射される計測光105に対して感度を有する装置によって構成されている。撮像部103としては、例えばCCD(Charge Coupled Device)カメラ、CMOS(Complementary MOS)カメラ、その他の二次元イメージセンサなどを用いることができる。撮像部103は、計測光105が照射された状態の被計測物SAを撮像し、撮像結果を示す出力信号を計測部104に出力する。
【0116】
計測部104は、例えばプロセッサ、メモリ等を含んで構成されるコンピュータシステムによって構成されている。計測部104は、各種の制御機能をプロセッサによって実行する。コンピュータシステムとしては、例えばパーソナルコンピュータ、マイクロコンピュータ、クラウドサーバ、スマートデバイス(スマートフォン、タブレット端末など)などが挙げられる。計測部104は、PLC(programmable logic controller)によって構成されていてもよく、FPGA(Field-programmable gate array)等の集積回路によって構成されていてもよい。
【0117】
計測部104は、撮像部103と通信可能に接続されており、撮像部103から入力される信号に基づいて、被計測物SAの三次元形状計測を実施する。本実施形態では、計測部104は、正弦波状のストライプパターンW1を用いた位相シフト法に基づいて被計測物SAの三次元形状を計測する。すなわち、正弦波の周期TをN個(Nは整数)に等分し、T/Nずつ位相がシフトされた複数の正弦波状のストライプパターンW1を用いて計測を行う。言い換えると、複数の正弦波状のストライプパターンW1の位相は、2π/Nずつずれている。このような位相のシフトは、例えば集光点U1,U2の位置を軸線AXと交差する方向に少しずつ移動することにより実現できる。
【0118】
一例として、互いに位相がπ/2ずつずれている4つの正弦波状のストライプパターンW1を用いる場合を示す。4つの正弦波状のストライプパターンW1を有する計測光105の光強度をそれぞれI0~I3とし、撮像部103の画素の座標を(x,y)とする。被計測物SAの表面での光強度I0~I3は、下記の数式(32)~(35)で表される。Ia(x,y)は格子模様の振幅、Ib(x,y)は背景強度、θ(x,y)は初期位相である。
【数32】
【数33】
【数34】
【数35】
【0119】
初期位相θは、tanθ=-(I3-I1)/(I2-I0)によって求めることができる。正弦波状のストライプパターンW1の位相シフト数がNである場合、初期位相θは、下記式(36)により求めることができる。
【数36】
【0120】
このような位相シフト法を用いる場合、計測した位相を被計測物SAの高さに換算することにより、正弦波状のストライプパターンW1のピッチよりも小さい間隔で被計測物SAの高さを計測することができる。
【0121】
本実施形態の三次元計測システム101が備える光源装置102A又は102Bによれば、上述したように、集光点U1,U2に向けてそれぞれ出射された2つの出射光Lout1,Lout2による干渉縞が生成される。この干渉縞は、或る方向に沿って光強度が正弦波状に増減する光像、すなわちストライプパターンW1である。このようなストライプパターンW1は、三次元計測システム101において好適に用いられ得る。また、これらの光源装置102A又は102Bが備える発光デバイス1A~1Cは、従来の光源と比較して顕著な小型化が可能である。従って、光源装置102A又は102Bは、極めて小さい空間にも配置されることができ、従来は不可能であったような小さな空間、例えば、口腔内や体腔内といった体内、管の内部、壁の隙間、或いは家具や装置等と床との隙間などに挿入することができる。故に、これらにおける画像診断や検査を容易にすることができる。
【0122】
本実施形態のように、光源装置102A,102Bは、発光デバイス1A~1Cと光学的に結合された光学系110を備えてもよい。そして、集光点U1,U2は発光デバイス1A~1Cと光学系110との間に位置し、出射光Lout1,Lout2は、光学系110を通過した後に相互に干渉してもよい。この場合、ストライプパターンW1が照射される領域の大きさJa(
図35、
図36を参照)は、発光デバイス1A~1Cによる焦点距離と、光学系110の光軸位置及び焦点距離とによって主に定まる。故に、発光デバイス1A~1Cの光出射面の面積にかかわらず、ストライプパターンW1の照射面を自在に拡げることが可能となる。また、集光点U1,U2同士の間隔Jbを任意に選択することにより、出射光Lout1,Lout2の光軸と軸線AX1またはAX2との成す角度である照射角度θpを自在に制御することができる。故に、ストライプパターンW1の縞間隔(強度変化の周期)を任意に変化させることができ、被計測物SAの大きさに応じた適切な縞間隔を実現できる。
【0123】
図38は、比較例に係る光源装置102Cの構成を示す模式図である。この光源装置102Cは、光源装置102B(
図36を参照)とは異なり、発光デバイス1B,1Cの位相分布φ(x,y)は集光のための要素を含んでおらず、平面波としての出射光LoutA,LoutBをそれぞれ出射する。また、この光源装置102Cは、光学系110を備えていない。発光デバイス1Bからの出射光LoutAは、軸線AX2に対して角度θaだけ傾斜した方向Aaに出射される。発光デバイス1Cからの出射光LoutBは、軸線AX2に対して角度-θaだけ傾斜した方向Abに出射される。そして、出射光LoutA,LoutBは相互に干渉し、結像面115において干渉縞すなわちストライプパターンW1(
図37を参照)を形成する。
【0124】
この光源装置102Cでは、ストライプパターンW1が照射される領域の大きさJaは、各発光デバイス1B,1Cの光出射面の大きさによって主に定まる。そして、ストライプパターンW1が照射される領域の大きさJaを、各発光デバイス1B,1Cの光出射面よりも大きくすることは困難である。したがって、計測可能な被計測物SAの大きさが限られてしまう。
【0125】
また、ストライプパターンW1の縞間隔(強度変化の周期)を変化させるためには、出射光LoutA,LoutBの出射方向Aa,Abの角度θaを制御する必要がある。
図39は、角度θaを大きくした場合の様子を模式的に示す。
図39と
図38とを比較すると明らかなように、角度θaを大きくすると、ストライプパターンW1の照射面(結像面115)が発光デバイス1B,1Cに近づく。したがって、ストライプパターンW1の縞間隔を変化させるためには発光デバイス1B,1Cの配置をも変更する必要があり、縞間隔の制御自由度が低いという問題がある。これに対し、本実施形態の光源装置102Bでは、ストライプパターンW1の縞間隔を変化させるためには、集光点U1,U2の間隔及び光学系110の焦点距離を変更すれば足り、発光デバイス1B,1Cの配置を変更する必要は無い。したがって、ストライプパターンW1の縞間隔を簡便に変更することができる。
【0126】
上述したように、本実施形態の光源装置102は、S-iPMレーザの位相分布φ(x,y)を工夫することにより出射光Lout1,Lout2を集光させつつ出射し、相互に干渉させるものである。2つの光の相互干渉は、S-iPMレーザに限らず、例えば位相変調型の空間光変調器(Spatial Light Modulator;SLM)を用いて光の位相を空間的に変調することでも実現できる。しかしながら、SLMを用いる方式と、iPMレーザを用いる本実施形態の方式とではその技術思想が大きく異なる。
【0127】
SLMは、そもそも光変調面と交差する方向に変調光を出力するものである。S-iPMレーザでは、+1次光及び-1次光といった信号光がSLMの変調光に相当するが、光出射面と交差する方向に信号光のみを出力するためには工夫を要する。従来よりΓ点発振のS-iPMレーザが研究されているが、Γ点発振のS-iPMレーザでは光出射面と垂直な方向に0次光が出射される。0次光は位相分布φ(x,y)に影響されないので、本実施形態のように光を集光しつつ出射する際には、不要な光すなわちノイズとなる。また、S-iPMレーザをM点発振させると、0次光が光出射面と垂直な方向に出射することを抑制できる。しかし、S-iPMレーザを単にM点発振させると、+1次光及び-1次光といった信号光もまた、光出射面と交差する方向には出射されない。このような課題に対し、本実施形態では、面内波数ベクトルK1~K4に回折ベクトルV1を加え、面内波数ベクトルK1~K4のうち少なくとも1つの大きさを2π/λ(ライトライン)よりも小さくすることにより、光出射面と交差する方向に信号光が出射することを可能としている。このような工夫は、SLMを用いる方式からは容易に想起できないものである。
【0128】
また、従来より、S-iPMレーザにおいて、光出射方向(Z方向)に垂直な面内における2次元ホログラムの形成は実証されているが、本実施形態の発光デバイス1は、Z方向における複数の集光点の位置を互いに異ならせることにより、3次元ホログラムも可能にできる。S-iPMレーザを用いた3次元ホログラムの形成は、これまで実証されていない。
【0129】
また、SLMの位相パターンにレンズ作用を付与して変調光を集光させることは従来より行われているが、SLMでは、単純に光の位相を画素毎に変調することによりレンズ作用を実現する。これに対し、S-iPMレーザでは、位相変調層15の内部を伝搬しながら共振状態にある平面波の位相を変調するので、集光作用を実現できるか否かは不明であった。本発明者が実際にそのようなS-iPMレーザを作製して実験を行うことにより、集光作用を実現可能であることが明らかとなった。
【0130】
(第1変形例)
図40は、第1変形例に係る光源装置102Dの構成を部分的に示す模式図である。この光源装置102Dは、第2実施形態の光源装置102A(
図35を参照)の構成に加えて、モードフィルタのためのマスク112を更に備える。マスク112は、出射光Lout1,Lout2をそれぞれ通過させる2つの光学開口113,114を有する。軸線AX1に沿った方向(すなわちZ方向)における一方の光学開口113の位置は、集光点U1と重なる。同方向における他方の光学開口114の位置は、集光点U2と重なる。光学開口113の内径は、集光点U1における出射光Lout1の光径(ビームウエスト径)よりも大きい。光学開口114の内径は、集光点U2における出射光Lout2の光径(ビームウエスト径)よりも大きい。なお、マスク112を除く他の光源装置102Dの構成は、第2実施形態の光源装置102Aと同じである。第2実施形態の光源装置102Bも本変形例と同様に、マスク112を更に備えてもよい。
【0131】
図41の(a)部及び(b)部は、マスク112を設けることによる効果について説明するための図である。発光デバイス1A~1Cから出射光Lout1,Lout2が出射するとき、-1次光及び/又は裏面反射によるゴースト光LGが、出射光Lout1,Lout2と同時に発光デバイス1A~1Cから拡散しつつ出射する。ゴースト光LGは、例えば出射光Lout1,Lout2とは回折次数の符号が異なる光(例えば-1次光)である。
図41の(a)部に示すようにマスク112を設けない場合、このゴースト光LGが出射光Lout1,Lout2に重なり、出射光Lout1,Lout2の空間モードを乱す原因となる。これに対し、
図41の(b)部に示すようにマスク112を設けると、出射光Lout1,Lout2のみが光学開口113,114を通過し、ゴースト光LGはマスク112によって遮蔽される。したがって、出射光Lout1,Lout2からゴースト光LGを除去することができ、出射光Lout1,Lout2のモードクリーニングを簡便に行うことができる。
【0132】
(第3実施形態)
続いて、第3実施形態について説明する。前述した各実施形態では、光を点状に集光する場合について説明した。本実施形態では、光を一方向においてのみ集光する場合について説明する。
【0133】
図42は、光を一方向においてのみ集光するためのレンズ位相分布φ
L(x,y)の例を示す図である。同図において、位相の大きさは色の濃淡によって表現されており、色が濃いほど0(rad)に近く、色が淡いほど2π(rad)に近い。この例では、Y=0の位置からY方向(本実施形態における第2方向)に離れるほど位相が大きくなっており、X方向(本実施形態における第1方向)に位相は一定である。このレンズ位相分布φ
L(x,y)は、出射光に対して一次元(Y方向)の凹レンズ要素として作用することができる。一次元のレンズ要素としてのレンズ位相分布φ
L(x,y)は、数式(37)により表される。但し、λは位相変調層15における媒質中の波長であり、(x,y)は面内の格子点位置であり、fは焦点距離である。右辺の符号が正である場合に一次元の凹レンズ要素となり、-1次光がz>0の領域に集光される。右辺の符号が負である場合に一次元の凸レンズ要素となり、1次光がz>0の領域に集光される。焦点距離fは、例えば100μmである。
【数37】
【0134】
図43は、縞状の光像を形成する操作を概念的に示す図である。
図43(a)は、ホログラム位相分布φ
H(x,y)のみによって一の架空平面上に形成される光像の例を模式的に示す。この光像は、X軸上において一列に且つ等間隔に並ぶ複数の輝点E1を含む。
図43(b)は、
図43(a)に示す光像を形成するホログラム位相分布φ
H(x,y)に、
図42に示されたレンズ位相分布φ
L(x,y)を重畳して得られる光像を模式的に示す。ホログラム位相分布φ
H(x,y)によって形成される複数の輝点E1は、
図43(b)に示すように、レンズ位相分布φ
L(x,y)によってY方向に引き延ばされて複数の輝線L1となる。これは、各輝点E1が、Y方向において一旦集光され、その後に同方向に拡大した結果である。このように、X軸上において一列に且つ等間隔に並ぶ複数の輝点E1を形成するホログラム位相分布φ
H(x,y)に対して、その並び方向と直交する方向に集光する一次元のレンズ要素としてのレンズ位相分布φ
L(x,y)を重畳させることによって、縞状の光像を得ることができる。縞状の光像は、例えば第2実施形態の三次元計測システムに好適に用いられ得る。本発明者は、このような発光デバイスを試作した。
図44は、試作した発光デバイスから出射された縞状の光像の遠視野像である。また、
図45は、比較のため、レンズ位相分布φ
L(x,y)を用いずに、ホログラム位相分布φ
H(x,y)のみによって縞状の光像を形成した場合の遠視野像を示す。
図45と比較すると、
図44に示す遠視野像では光像に含まれるノイズ(輝度ムラ)が顕著に減少し、明瞭な縞模様が得られることがわかる。このような明瞭な縞状の光像は、三次元計測システムにおいて計測精度の向上に寄与する。また、シリンドリカルレンズ等のレンズ部品を別に設ける場合と比較して、例えば100μmといった極めて短い焦点距離に光を集光させることができ、縞模様をより長く延ばすことができる。
【0135】
図46は、上記とは異なる縞状の光像を形成する操作を概念的に示す図である。
図46に示す態様が
図43に示す態様と相違する点は、ホログラム位相分布φ
H(x,y)によって形成される光像の形状である。すなわち、
図46(a)に示す光像は、X軸上において一列に且つ等間隔に並ぶ複数の輝点群EA1を含む。各輝点群EA1は、4つの輝点E1,E2,E3,及びE4を含む。輝点E2,E3の光強度は輝点E1の光強度より小さく、且つ互いに等しい。輝点E4の光強度は輝点E2,E3の光強度より小さい。なお、図において、各輝点の光強度は色の濃淡で表されている。色が濃いほど光強度が大きく、色が淡いほど光強度が小さい。輝点E2,E3は、X方向において、輝点E1を挟む両側に配置されている。輝点E4は、X方向において、その輝点E4が属する輝点群EA1の輝点E2(またはE3)と、該輝点群EA1に隣接する輝点群EA1の輝点E3(またはE2)との間に配置されている。なお、
図46(a)に示す例では輝点E1~E4が互いにY方向にずれているが、これらの一部または全部のY方向位置は互いに一致してもよい。
【0136】
図46(b)は、
図46(a)に示す光像を形成するホログラム位相分布φ
H(x,y)に、
図42に示されたレンズ位相分布φ
L(x,y)を重畳して得られる光像を模式的に示す。ホログラム位相分布φ
H(x,y)によって形成される複数の輝点群EA1は、
図46(b)に示すように、レンズ位相分布φ
L(x,y)によってY方向に引き延ばされて複数の輝線群LA1となる。これは、各輝点群EA1が、Y方向において一旦集光され、その後に同方向に拡大した結果である。また、輝線群LA1に含まれる各輝線の光強度の違いによって、X方向に略正弦波状の強度分布が得られる。こうして得られる縞状の光像もまた、第2実施形態の三次元計測システムにおいて好適に用いられ得る。
【0137】
図47は、
図46に示した態様と類似の態様を示す図である。
図47に示す態様が
図46に示す態様と相違する点は、ホログラム位相分布φ
H(x,y)によって形成される光像の形状である。すなわち、
図47(a)に示す光像は、X軸上において一列に且つ等間隔に並ぶ複数の輝点群EA2を含む。複数の輝点群EA2は、X方向において互いに離れて配置されている。各輝点群EA2は、5つの輝点E1,E2,E3,E4,及びE5を含む。輝点E2,E3の光強度は輝点E1の光強度より小さく、且つ互いに等しい。輝点E4,E5の光強度は輝点E2,E3の光強度より小さく、且つ互いに等しい。輝点E2,E3は、X方向において、輝点E1を挟む両側に配置されている。輝点E4,E5は、X方向において、輝点E1~E3を挟む両側に配置されている。なお、
図47(a)に示す例では輝点E1~E5のY方向位置が互いに一致しているが、これらの一部または全部はY方向に互いにずれていてもよい。なお、
図47(a)には、一例として輝点E1~E5の光強度の相対値の例がグラフに示されている。この例では、輝点E1の光強度を1.0とするとき、輝点E2,E3の光強度は0.50であり、輝点E4,E5の光強度は0.25である。
【0138】
図47(b)は、
図47(a)に示す光像を形成するホログラム位相分布φ
H(x,y)に、
図42に示されたレンズ位相分布φ
L(x,y)を重畳して得られる光像を模式的に示す。ホログラム位相分布φ
H(x,y)によって形成される複数の輝点群EA2は、
図47(b)に示すように、レンズ位相分布φ
L(x,y)によってY方向に引き延ばされて複数の輝線群LA2となる。これは、各輝点群EA2が、Y方向において一旦集光され、その後に同方向に拡大した結果である。また、輝線群LA2に含まれる各輝線の光強度の違いによって、X方向に沿って光強度が略正弦波状に増減する強度分布が得られる。こうして得られる縞状の光像もまた、第2実施形態の三次元計測システムにおいて好適に用いられ得る。本発明者は、このような発光デバイスを試作した。
図48は、試作した発光デバイスから出射された縞状の光像の遠視野像である。
図45と比較すると、
図48に示す遠視野像においても、光像に含まれるノイズ(輝度ムラ)が顕著に減少し、明瞭な縞模様が得られることがわかる。
【0139】
図49は、
図46に示した態様と類似の別の態様を示す図である。
図49に示す態様が
図46に示す態様と相違する点は、ホログラム位相分布φ
H(x,y)によって形成される光像の形状である。すなわち、
図49(a)に示す光像は、X軸上において一列に且つ等間隔に並ぶ複数の輝点群EA3を含む。複数の輝点群EA3は、X方向において互いに離れて配置されている。各輝点群EA3は、5つの輝点E6,E7,E8,E9,及びE10を含む。図示例では各輝点E6~E10の光強度は互いに等しいが、例えば
図47(a)に示した態様のように、輝点E7,E9の光強度が輝点E8の光強度より小さく、輝点E6,E10の光強度が輝点E7,E9の光強度より小さくてもよい。輝点E6~E10は、X方向においてこの順に並んで配置されており、輝点E6~E10をX軸に投射すると隙間無く連続している。なお、
図49(a)に示す例では輝点E6~E10が互いにY方向にずれているが、これらの一部または全部のY方向位置は互いに一致してもよい。
【0140】
図49(b)は、
図49(a)に示す光像を形成するホログラム位相分布φ
H(x,y)に、
図42に示されたレンズ位相分布φ
L(x,y)を重畳して得られる光像を模式的に示す。ホログラム位相分布φ
H(x,y)によって形成される複数の輝点群EA3は、
図49(b)に示すように、レンズ位相分布φ
L(x,y)によってY方向に引き延ばされて複数の輝線群LA3となる。これは、各輝点群EA3が、Y方向において一旦集光され、その後に同方向に拡大した結果である。また、引き延ばされた後の輝線群LA3においても、各輝線L6~L10はX方向において互いに隣接する。本発明者は、このような発光デバイスを試作した。
図50は、試作した発光デバイスから出射された縞状の光像の遠視野像である。
図45と比較すると、
図50に示す遠視野像においても、光像に含まれるノイズ(輝度ムラ)が顕著に減少し、縞模様の明瞭化が図られていることがわかる。
【0141】
(第2変形例)
ここで、第3実施形態の変形例として、Y方向だけでなくX方向にも僅かに集光作用を持たせることを考える。すなわち、X方向の焦点距離がY方向の焦点距離よりも長いレンズ位相分布φ
L(x,y)を設定する。
図51は、そのようなレンズ位相分布φ
L(x,y)の例を示す図である。同図において、位相の大きさは色の濃淡によって表現されており、色が濃いほど0(rad)に近く、色が淡いほど2π(rad)に近い。このレンズ位相分布φ
L(x,y)は、出射光に対して非対称の凹レンズ要素として作用することができる。非対称のレンズ要素としてのレンズ位相分布φ
L(x,y)は、数式(38)により表される。但し、λは位相変調層15における媒質中の波長であり、(x,y)は面内の格子点位置であり、f
xはX方向の焦点距離であり、f
yはY方向の焦点距離である。右辺の符号が正である場合に非対称の凹レンズ要素となり、1次光がz>0の領域に集光される。右辺の符号が負である場合に非対称の凸レンズ要素となり、-1次光がz>0の領域に集光される。X方向の焦点距離f
xは例えば10mmであり、Y方向の焦点距離f
yは例えば100μmである。
【数38】
【0142】
図52は、縞状の光像を形成する操作を概念的に示す図である。
図52(a)は、ホログラム位相分布φ
H(x,y)のみによって形成される光像の例を模式的に示す図であり、
図43(a)と同様の光像を示す。
図52(b)は、
図52(a)に示す光像を形成するホログラム位相分布φ
H(x,y)に、
図51に示されたレンズ位相分布φ
L(x,y)を重畳して得られる光像を模式的に示す。本変形例においても、複数の輝線L1は、
図52(b)に示すように、レンズ位相分布φ
L(x,y)によってY方向に引き延ばされる。同時に、複数の輝線L1は、レンズ位相分布φ
L(x,y)によってX方向にも僅かに引き延ばされる。この場合においても、縞状の光像を得ることができる。このような縞状の光像もまた、例えば第2実施形態の三次元計測システムに好適に用いられ得る。
【0143】
本発明者は、本変形例の発光デバイスを試作した。
図53は、試作した発光デバイスから出射された縞状の光像の遠視野像である。比較のため、非対称のレンズ位相分布φ
L(x,y)の代わりに、
図42に示された一次元のレンズ位相分布φ
L(x,y)を用いた場合の試作発光デバイスの遠視野像を
図44に示す。
図53と
図44とを比較すると、本変形例に係る非対称のレンズ位相分布φ
L(x,y)によれば、縞の幅を広く調節することができ、三次元計測システムに要求される好適な幅の調整に用いることができる。
【0144】
本開示による発光デバイス及び光源装置は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態ではGaAs系、InP系、及び窒化物系(特にGaN系)の化合物半導体からなるレーザ素子を例示したが、本開示は、これら以外の様々な半導体材料からなるレーザ素子に適用できる。また、上記実施形態では位相変調層と共通の半導体基板上に設けられた活性層を発光部とする例を説明したが、本開示においては、発光部は半導体基板から分離して設けられてもよい。発光部が位相変調層と光学的に結合され、位相変調層に光を供給するものであれば、そのような構成であっても上記実施形態と同様の効果を好適に奏することができる。
【符号の説明】
【0145】
1,1A~1C…発光デバイス、10…半導体基板、10a…主面、10b…裏面、11…クラッド層、12…活性層、13…クラッド層、14…コンタクト層、15…位相変調層、15a…基本層、15b…異屈折率領域、16,17…電極、17a…開口、18…保護膜、19…反射防止膜、50A,50B…ランダムパターン、51…領域、52…選択領域、53…非選択領域、100…S-iPMレーザ、101…三次元計測システム、102,102A~102D…光源装置、103…撮像部、104…計測部、105…計測光、106…ステージ、110…光学系、112…マスク、113,114…光学開口、115…結像面、A…方向、Aa,Ab…出射方向、AX,AX1,AX2…軸線、B1…基本逆格子ベクトル、D…直線、E1~E10…輝点、EA1~EA3…輝点群、FR…画像領域、G…重心、K1~K4,Ka,Kb…面内波数ベクトル、L1,L6~L10…輝線、LA1~LA3…輝線群、La…1次光、Lb…-1次光、LG…ゴースト光、LL…ライトライン、LL2…領域、LM…光像、Lout,Lout1,Lout2,LoutA,LoutB…出射光、O…格子点、PM…投影面、R…単位構成領域、RIN…内側領域、ROUT…外側領域、SA…被計測物、U,U1,U2,UD…集光点、V1…回折ベクトル、W1…ストライプパターン、θa…角度、θp…照射角度。