(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154959
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】セラミック電子部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
H01G4/30 201M
H01G4/30 512
H01G4/30 515
H01G4/30 201N
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058238
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 洋一
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AD02
5E001AE01
5E001AE02
5E001AE03
5E001AE04
5E001AH01
5E001AH04
5E001AH05
5E001AH06
5E001AH07
5E001AH09
5E001AJ02
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC35
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE26
5E082EE35
5E082FG03
5E082FG26
5E082FG46
5E082FG54
5E082GG10
5E082GG28
5E082PP03
(57)【要約】
【課題】 高絶縁抵抗および高静電容量を両立することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 セラミック電子部品は、セラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層と、が交互に積層され、略直方体形状を有し、積層された複数の前記内部電極層が交互に対向する2端面に露出するように形成された積層構造と、前記積層構造の積層方向の上面および下面に設けられ、セラミックを主成分とするカバー層と、を備え、前記カバー層における主成分セラミックに対するSn濃度、および前記積層構造において積層された複数の前記内部電極層が前記2端面以外の2側面に延びた端部を覆うように設けられたサイドマージン領域における主成分セラミックに対するSn濃度の少なくともいずれかは、異なる端面に露出する内部電極層同士が対向する容量領域における主成分セラミックに対するSn濃度よりも高いことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層と、が交互に積層され、略直方体形状を有し、積層された複数の前記内部電極層が交互に対向する2端面に露出するように形成された積層構造と、
前記積層構造の積層方向の上面および下面に設けられ、セラミックを主成分とするカバー層と、を備え、
前記カバー層における主成分セラミックに対するSn濃度、および前記積層構造において積層された複数の前記内部電極層が前記2端面以外の2側面に延びた端部を覆うように設けられたサイドマージン領域における主成分セラミックに対するSn濃度の少なくともいずれかは、異なる端面に露出する内部電極層同士が対向する容量領域における主成分セラミックに対するSn濃度よりも高いことを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記容量領域、前記カバー層、および前記サイドマージンの主成分セラミックは、ペロブスカイト構造を有しており、
前記カバー層におけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率および前記サイドマージンにおけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率の少なくともいずれかは、前記容量領域におけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率よりも0.001以上高いことを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記容量領域、前記カバー層、および前記サイドマージンの主成分セラミックは、ペロブスカイト構造を有しており、
前記カバー層におけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率、および前記サイドマージンにおけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率の少なくともいずれか上は、0.005以上であることを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記サイドマージンの主成分セラミックは、ペロブスカイト構造を有しており、
前記サイドマージンにおけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率は、0.01以上であることを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記容量領域の主成分セラミックは、ペロブスカイト構造を有しており、
前記容量領域におけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率は、0.005以下であることを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記積層構造において同じ端面に露出する内部電極層同士が異なる端面に露出する内部電極層を介さずに対向するエンドマージン領域における主成分セラミックに対するSn濃度は、前記容量領域における主成分セラミックに対するSn濃度よりも高いことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記誘電体層の主成分セラミックは、チタン酸バリウムであり、
前記内部電極層の主成分金属は、ニッケルであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
セラミック粒子を含む誘電体グリーンシートと金属粒子を含むパターンとが、対向する2端面に前記パターンが交互に露出するように積層された積層部分と、前記積層部分の側面に配置されセラミック粒子を含むサイドマージンシートと、前記積層部分の上面および下面に設けられ、セラミック粒子を含むカバーシートと、を含むセラミック積層体を準備する工程と、
前記セラミック積層体を焼成する工程と、を含み、
焼成前の前記カバーシートにおける主成分セラミックに対するSn濃度、および焼成前の前記サイドマージンシートにおける主成分セラミックに対するSn濃度の少なくともいずれかは、焼成前の前記誘電体グリーンシートにおける主成分セラミックに対するSn濃度よりも高いことを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【請求項9】
セラミック粒子を含む誘電体グリーンシート上に、金属粒子を含む第1パターンを配置し、前記第1パターンの周辺に、セラミック粒子を含む第2パターンを配置する工程と、
前記工程によって得られた積層単位が、前記第1パターンの配置位置が交互にずれるように複数積層された積層部分の上面および下面に、セラミック粒子を含むカバーシートが積層されたセラミック積層体を得る工程と、
焼成前の前記カバーシートにおける主成分セラミックに対するSn濃度、および焼成前の前記第2パターンにおける主成分セラミックに対するSn濃度の少なくともいずれかは、焼成前の前記誘電体グリーンシートにおける主成分セラミックに対するSn濃度よりも高いことを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサ等の積層セラミック電子部品は、内部電極層が誘電体層を挟んで積層された構造を有している。内部電極層に挟まれた誘電体層領域の強誘電特性により、セラミック電子部品は大きな静電容量密度を得ることができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内部電極層に含まれる金属は、焼成の過程で誘電体層の主成分セラミックの中に拡散して固溶することがある。内部電極層に含まれる金属が誘電体層の主成分セラミックに固溶すると、誘電体層の主成分セラミックに酸素欠陥が形成され、誘電体層の絶縁性が低下し、セラミック電子部品の寿命が低下するおそれがある。
【0005】
そこで、誘電体層の主成分セラミックに対してSnを固溶させることで、内部電極層の主成分金属が誘電体層の主成分セラミックに固溶することを抑制し、誘電体層の絶縁性を高めることができ、寿命を長くすることができる。
【0006】
しかしながら、Snは誘電体層の焼結を促進し、内部電極層に対しては球状化を促進する作用を有する。したがって、Sn添加により誘電体層の絶縁性を高めることができる一方で、内部電極層の球状化に起因する積層構造の乱れにより静電容量が低下する問題が生じる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、高絶縁抵抗および高静電容量を両立することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るセラミック電子部品は、セラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層と、が交互に積層され、略直方体形状を有し、積層された複数の前記内部電極層が交互に対向する2端面に露出するように形成された積層構造と、前記積層構造の積層方向の上面および下面に設けられ、セラミックを主成分とするカバー層と、を備え、前記カバー層における主成分セラミックに対するSn濃度、および前記積層構造において積層された複数の前記内部電極層が前記2端面以外の2側面に延びた端部を覆うように設けられたサイドマージン領域における主成分セラミックに対するSn濃度の少なくともいずれかは、異なる端面に露出する内部電極層同士が対向する容量領域における主成分セラミックに対するSn濃度よりも高いことを特徴とする。
【0009】
上記セラミック電子部品において、前記容量領域、前記カバー層、および前記サイドマージンの主成分セラミックは、ペロブスカイト構造を有しており、前記カバー層におけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率および前記サイドマージンにおけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率の少なくともいずれかは、前記容量領域におけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率よりも0.001以上高くてもよい。
【0010】
上記セラミック電子部品において、前記容量領域、前記カバー層、および前記サイドマージンの主成分セラミックは、ペロブスカイト構造を有しており、前記カバー層におけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率、および前記サイドマージンにおけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率の少なくともいずれか上は、0.005以上であってもよい。
【0011】
上記セラミック電子部品において、前記サイドマージンの主成分セラミックは、ペロブスカイト構造を有しており、前記サイドマージンにおけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率は、0.01以上であってもよい。
【0012】
上記セラミック電子部品において、前記容量領域の主成分セラミックは、ペロブスカイト構造を有しており、前記容量領域におけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率は、0.005以下であってもよい。
【0013】
上記セラミック電子部品の前記積層構造において同じ端面に露出する内部電極層同士が異なる端面に露出する内部電極層を介さずに対向するエンドマージン領域における主成分セラミックに対するSn濃度は、前記容量領域における主成分セラミックに対するSn濃度よりも高くてもよい。
【0014】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層の主成分セラミックは、チタン酸バリウムであり、前記内部電極層の主成分金属は、ニッケルであってもよい。
【0015】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、セラミック粒子を含む誘電体グリーンシートと金属粒子を含むパターンとが、対向する2端面に前記パターンが交互に露出するように積層された積層部分と、前記積層部分の側面に配置されセラミック粒子を含むサイドマージンシートと、前記積層部分の上面および下面に設けられ、セラミック粒子を含むカバーシートと、を含むセラミック積層体を準備する工程と、前記セラミック積層体を焼成する工程と、を含み、焼成前の前記カバーシートにおける主成分セラミックに対するSn濃度、および焼成前の前記サイドマージンシートにおける主成分セラミックに対するSn濃度の少なくともいずれかは、焼成前の前記誘電体グリーンシートにおける主成分セラミックに対するSn濃度よりも高いことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る他のセラミック電子部品の製造方法は、セラミック粒子を含む誘電体グリーンシート上に、金属粒子を含む第1パターンを配置し、前記第1パターンの周辺に、セラミック粒子を含む第2パターンを配置する工程と、前記工程によって得られた積層単位が、前記第1パターンの配置位置が交互にずれるように複数積層された積層部分の上面および下面に、セラミック粒子を含むカバーシートが積層されたセラミック積層体を得る工程と、焼成前の前記カバーシートにおける主成分セラミックに対するSn濃度、および焼成前の前記第2パターンにおける主成分セラミックに対するSn濃度の少なくともいずれかは、焼成前の前記誘電体グリーンシートにおける主成分セラミックに対するSn濃度よりも高いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高絶縁抵抗および高静電容量を両立することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
【
図4】(a)はサイドマージンの断面の拡大図であり、(b)はエンドマージンの断面の拡大図である。
【
図5】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
【
図6】(a)および(b)は積層工程を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0020】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。
図2は、
図1のA-A線断面図である。
図3は、
図1のB-B線断面図である。
図1~
図3で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0021】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、卑金属材料を含む3層以上の内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じである。
【0022】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0023】
内部電極層12は、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12として、Pt(白金),Pd(パラジウム),Ag(銀),Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。
【0024】
誘電体層11は、例えば、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO3(チタン酸バリウム),CaZrO3(ジルコン酸カルシウム),CaTiO3(チタン酸カルシウム),SrTiO3(チタン酸ストロンチウム),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaxSryTi1-zZrzO3(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等を用いることができる。1層あたりの誘電体層11の厚みは、例えば、0.05μm以上5μm以下であり、または0.1μm以上3μm以下であり、または0.2μm以上1μm以下である。
【0025】
図2で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において電気容量を生じる領域である。そこで、当該電気容量を生じる領域を、容量領域14と称する。すなわち、容量領域14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層12同士が対向する領域である。
【0026】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、エンドマージン15と称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域も、エンドマージン15である。すなわち、エンドマージン15は、同じ外部電極に接続された内部電極層12が異なる外部電極に接続された内部電極層12を介さずに対向する領域である。エンドマージン15は、電気容量を生じない領域である。
【0027】
図3で例示するように、積層チップ10において、積層チップ10の2側面から内部電極層12に至るまでの領域をサイドマージン16と称する。すなわち、サイドマージン16は、上記積層構造において積層された複数の内部電極層12が2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。サイドマージン16も、電気容量を生じない領域である。
図3の断面において容量領域14の外周部分がカバー層13およびサイドマージン16によって覆われているため、以下の説明において、カバー層13およびサイドマージン16のことを外周領域50と称することがある。
【0028】
図4(a)は、サイドマージン16の断面の拡大図である。サイドマージン16は、誘電体層11と逆パターン層17とが、容量領域14における誘電体層11と内部電極層12との積層方向において交互に積層された構造を有する。容量領域14の各誘電体層11とサイドマージン16の各誘電体層11とは、互いに連続する層である。この構成によれば、容量領域14とサイドマージン16との段差が抑制される。
【0029】
図4(b)は、エンドマージン15の断面の拡大図である。サイドマージン16との比較において、エンドマージン15では、積層される複数の内部電極層12のうち、1つおきにエンドマージン15の端面まで内部電極層12が延在する。また、内部電極層12がエンドマージン15の端面まで延在する層では、逆パターン層17が積層されていない。容量領域14の各誘電体層11とエンドマージン15の各誘電体層11とは、互いに連続する層である。この構成によれば、容量領域14とエンドマージン15との段差が抑制される。
【0030】
積層チップ10は、粉末状の材料で形成された各層を積層して焼成することで得ることができる。しかしながら、内部電極層12の主成分金属は、焼成の過程で誘電体層11の主成分セラミックの中に固溶することがある。例えば、内部電極層12にNiが含まれていると、焼成の過程でNiの一部が酸化し、イオン化したNiが誘電体層11の主成分セラミックに固溶する。内部電極層12の主成分金属が誘電体層11の主成分セラミックに固溶すると、誘電体層11の主成分セラミックに酸素欠陥が形成され、誘電体層11の絶縁性が低下し、積層セラミックコンデンサ100の寿命が低下するおそれがある。
【0031】
そこで、誘電体層11の主成分セラミックに対してSnを固溶させることで、内部電極層12の主成分金属が誘電体層11の主成分セラミックに固溶することを抑制し、誘電体層11の絶縁性を高めることができ、積層セラミックコンデンサ100の寿命を長くすることができる。
【0032】
しかしながら、Snは誘電体層11の焼結を促進し、内部電極層12に対しては球状化を促進する作用を有する。したがって、Sn添加により誘電体層11の絶縁性を高めることができる一方で、内部電極層12の球状化に起因する積層構造の乱れにより積層セラミックコンデンサ100の静電容量が低下する問題が生じる。そこで、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100は、高絶縁抵抗および高静電容量を両立することができる構成を有している。
【0033】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100において、各誘電体層11は、Snを含んでいる。例えば、各誘電体層11の主成分セラミックにSnが固溶している。それにより、焼成の過程で内部電極層12の主成分金属が誘電体層11の主成分セラミックに固溶することが抑制される。その結果、誘電体層11の絶縁性を高めることができ、積層セラミックコンデンサ100の寿命を長くすることができる。次に、カバー層13における主成分セラミックに対するSn濃度およびサイドマージン16における主成分セラミックに対するSn濃度の少なくともいずれかが、容量領域14における各誘電体層11における主成分セラミックに対するSn濃度よりも高くなっている。
【0034】
この構成によれば、カバー層13およびサイドマージン16の少なくともいずれかから容量領域14にSnが拡散し、容量領域14の外周付近のSn濃度が高くなる。それにより、容量領域14の外周付近の絶縁性が向上する。容量領域14の外周付近は、外部環境に近くIR劣化や寿命劣化が発生しやすいため、絶縁性向上効果を効果的に得ることができる。一方、容量領域14の中央領域のSn濃度が低くなることから、容量領域14の中央領域の内部電極層12の連続率低下が抑制されるため、静電容量低下を抑制することができる。それにより、高絶縁性および高静電容量を両立することができる。
【0035】
容量領域14におけるSn濃度と、外周領域50におけるSn濃度との間の濃度差が十分に大きくないと、容量領域14へのSnの拡散が不十分となり、容量領域14の外周付近のSn濃度が十分に高くならないおそれがある。そこで、容量領域14におけるSn濃度と、外周領域50におけるSn濃度との間の濃度差に下限を設けることが好ましい。例えば、カバー層13におけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率およびサイドマージン16におけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率の少なくともいずれかは、容量領域14におけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率よりも0.001以上高いことが好ましく、0.005以上高いことがより好ましく、0.01以上高いことがさらに好ましい。なお、Bサイト元素とは、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造におけるBサイトに位置する元素のことである。
【0036】
容量領域14におけるSn濃度と、外周領域50におけるSn濃度との間の濃度差が大きすぎると、Snの焼結促進効果により焼結ムラが発生し、静電容量と誘電損失のバランスが悪くなるおそれがある。そこで、容量領域14におけるSn濃度と、外周領域50におけるSn濃度との間の濃度差に上限を設けることが好ましい。例えば、カバー層13におけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率およびサイドマージン16におけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率のそれぞれと、容量領域14におけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率との差は、0.1以下であることが好ましく、0.05以下であることがより好ましく、0.03以下であることがさらに好ましい。
【0037】
また、外周領域50におけるSn濃度が十分に大きくないと、容量領域14へのSnの拡散が不十分となり、容量領域14の外周付近のSn濃度が十分に高くならないおそれがある。そこで、外周領域50におけるSn濃度に下限を設けることが好ましい。例えば、カバー層13におけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率およびサイドマージン16におけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率の少なくともいずれかは、0.005以上であることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.015以上であることがさらに好ましい。
【0038】
サイドマージン16においてSn濃度が高いと、電界集中が起きやすい電極末端領域へのSn拡散量を効果的に増やせるという理由により、積層セラミックコンデンサ100の絶縁性を効果的に向上させることができる。そこで、サイドマージン16におけるSn濃度に下限を設けることが好ましい。例えば、サイドマージン16におけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率は、0.01以上であることが好ましく、0.015以上であることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましい。
【0039】
一方、外周領域50におけるSn濃度が大き過ぎると、外周部近傍の誘電体の焼結が促進されすぎて、電極切れによる容量低下のおそれがある。そこで、外周領域50におけるSn濃度に上限を設けることが好ましい。例えば、カバー層13におけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率およびサイドマージン16におけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率のそれぞれは、0.1以下であることが好ましく、0.05以下であることがより好ましく、0.03以下であることがさらに好ましい。
【0040】
容量領域14においてSn濃度が高いと、内部電極層12の球状化が十分に抑制されず、静電容量が低下するおそれがある。そこで、容量領域14におけるSn濃度に上限を設けることが好ましい。例えば、容量領域14におけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率は、0.01以下であることが好ましく、0.0075以下であることがより好ましく、0.005以下であることがさらに好ましい。
【0041】
一方、容量領域14においてSn濃度が低すぎると、内部電極層12の主成分金属の誘電体層11への固溶を十分に抑制できないおそれがある。そこで、容量領域14におけるSn濃度に下限を設けることが好ましい。例えば、容量領域14におけるSn/Bサイト元素の原子濃度比率は、0.001以上であることが好ましく、0.002以上であることがより好ましく、0.003以上であることがさらに好ましい。
【0042】
なお、エンドマージン15におけるSn濃度も、容量領域14におけるSn濃度よりも高くなっていることが好ましい。この場合、エンドマージン15から容量領域14にSnが拡散し、容量領域14のエンドマージン15付近のSn濃度が高くなる。それにより、容量領域14のエンドマージン15付近の絶縁性が向上する。
【0043】
各内部電極層12の厚みは、例えば、0.01μm以上5μm以下であり、または0.05μm以上3μm以下であり、または0.1μm以上1μm以下である。例えば、内部電極層12の厚みが1μm以下であると、焼成時の断裂によって連続率が低下しやすいため、本実施形態に係る構成の効果が顕著に発揮されるようになる。積層セラミックコンデンサ100において、内部電極層12の積層数は、例えば、10から5000であり、50から4000であり、100から3000である。
【0044】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。
図5は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0045】
(原料粉末作製工程)
誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABO3の粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、チタン酸バリウムは、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。チタン酸バリウムは、例えば、炭酸バリウムなどの微粒子状のバリウム化合物原料と、二酸化チタンなどの微粒子状のチタン化合物原料とから、合成することができる。例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。チタン酸バリウム以外のセラミック粒子を合成する場合には、Aサイト元素の化合物原料と、Bサイト元素の化合物原料とから、粒子状であってペロブスカイト構造を有するセラミック材料を合成すればよい。なお、セラミック材料の合成過程でMo源を添加することによって、セラミック材料にMoを予め置換固溶させてもよい。
【0046】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、スズ(Sn)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、希土類元素(イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホロミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)およびイッテルビウム(Yb))の酸化物、または、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、リチウム(Li)、ホウ素(B)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)もしくはケイ素(Si)を含む酸化物、または、コバルト、ニッケル、リチウム、ホウ素、ナトリウム、カリウムもしくはケイ素を含むガラスが挙げられる。
【0047】
例えば、セラミック材料に添加化合物を含む化合物を湿式混合し、乾燥および粉砕する。得られた材料について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。以上の工程により、誘電体層の主成分となるセラミック原料粉末が得られる。
【0048】
(積層工程)
次に、得られたセラミック原料粉末に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に誘電体グリーンシート51を塗工して乾燥させる。
【0049】
次に、
図6(a)で例示するように、誘電体グリーンシート51の表面に、有機バインダを含む内部電極形成用の金属粒子を含む金属導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、内部電極層用の第1パターン52を配置する。金属導電ペーストには、共材としてセラミック粒子を添加する。セラミック粒子の主成分は、特に限定するものではないが、誘電体層11の主成分セラミックと同じであることが好ましい。
【0050】
次に、
図6(a)で例示するように、誘電体グリーンシート51上において、第1パターン52が印刷されていない周辺領域に逆パターンペーストを印刷することで第2パターン53を配置し、第1パターン52との段差を埋める。逆パターンペーストは、例えば、誘電体グリーンシート51と同じ成分を含み、主成分セラミックに対するSn濃度が高くなっている。
【0051】
その後、
図6(b)で例示するように、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層12が誘電体層11の長さ方向の両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極20a,20bに交互に引き出されるように、誘電体グリーンシート51、第1パターン52および第2パターン53を積層していく。例えば、誘電体グリーンシート51の積層数を100~500層とする。
【0052】
次に、
図7で例示するように、積層された誘電体グリーンシート51の上下にカバーシート54を所定数(例えば2~10層)だけ積層して熱圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。カバーシート54は、例えば、誘電体グリーンシート51と同じ成分を含み、主成分セラミックに対するSn濃度が高くなっている。その後に、外部電極20a,20bとなる金属導電ペーストを、カットした積層体の両側面にディップ法等で塗布して乾燥させる。これにより、セラミック積層体が得られる。なお、所定数のカバーシート54を積層して圧着してから、積層された誘電体グリーンシート51の上下に貼り付けてもよい。
【0053】
第2パターン53の積層部分は、積層後に貼り付けてもよい。具体的には、
図8で例示するように、誘電体グリーンシート51と、当該誘電体グリーンシート51と同じ幅の第1パターン52とを交互に積層することで、積層部分を得る。次に、積層部分の側面に、サイドマージンシート55を貼り付ける。サイドマージンシート55に用いるサイドマージンペーストは、例えば、誘電体グリーンシート51と同じ成分を含み、Sn濃度が高くなっている。
【0054】
(焼成工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N2雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地層となる金属ペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧10-5~10-8atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成する。このようにして、積層セラミックコンデンサ100が得られる。
【0055】
(再酸化処理工程)
その後、N2ガス雰囲気中で600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0056】
(めっき処理工程)
その後、めっき処理により、外部電極20a,20bに、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行ってもよい。
【0057】
なお、外部電極20a,20bの下地層については、焼成工程後に焼き付けることで形成してもよい。
【0058】
本実施形態に係る製造方法によれば、第2パターン53におけるSn濃度が誘電体グリーンシート51におけるSn濃度よりも高くなっていることから、焼成後において、サイドマージン16およびエンドマージン15におけるSn濃度が容量領域14におけるSn濃度よりも高くなる。また、カバーシート54におけるSn濃度が誘電体グリーンシート51におけるSn濃度よりも高くなっていることから、焼成後において、カバー層13におけるSn濃度が容量領域14におけるSn濃度よりも高くなる。それにより、容量領域14へのSnの拡散が生じ、容量領域14の外周付近のSn濃度が高くなり、容量領域14の外周付近の絶縁性が向上する。容量領域14の外周付近は、外部環境に近くIR劣化や寿命劣化が発生しやすいため、絶縁性向上効果を効果的に得ることができる。一方、容量領域14の中央領域のSn濃度が低くなることから、容量領域14の中央領域の内部電極層12の連続率低下が抑制されるため、静電容量低下を抑制することができる。それにより、高絶縁性および高静電容量を両立することができる。
【0059】
上記例では、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の電子部品を用いてもよい。
【実施例0060】
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0061】
(実施例1)
チタン酸バリウム粉末に対して添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕して誘電体材料を得た。誘電体材料に有機バインダとしてブチラール系、溶剤としてトルエン、エチルアルコールを加えてドクターブレード法にてPETの基材上に誘電体グリーンシートを塗工した。
【0062】
Ni金属の粉末と、バインダと、溶剤と、必要に応じてその他助剤を含んでいる金属導電ペーストを作製した。金属導電ペーストの有機バインダおよび溶剤には、誘電体グリーンシート51とは異なるものを用いた。誘電体グリーンシート51に、金属導電ペーストの第1パターン52をスクリーン印刷した。
【0063】
第1パターン52が印刷された誘電体グリーンシート51を500枚重ね、その上下にカバーシート54をそれぞれ積層した。その後、熱圧着によりセラミック積層体を得て、所定の形状(1005形状)に切断した。得られたセラミック積層体の両側面に、サイドマージンシート55をそれぞれ貼り付けた。その後、N2雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極の下地層となる金属ペーストをディップ法で塗布し、還元雰囲気下で焼成した。
【0064】
なお、焼成前のサイドマージンシート55においては、Tiに対するSnの添加量を1.0at%とした。カバーシート54においては、Tiに対するSnの添加量を0.0at%とした。誘電体グリーンシート51においては、Tiに対するSn添加量を0.0at%とした。
【0065】
焼成後において、サイドマージン16においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.007であった。カバー層13においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.000であった。容量領域14においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.000であった。各領域について、Tiに対するSnの元素濃度比率については、チップの中央付近をスライサーでカットし、その断面がイオンミリング装置を使いて清浄な断面となるまで研磨した。そのチップの断面において着目領域のレーザアブレーションICP質量分析を行い、元素の定量を実施した。加熱レーザーのスポット径は5μmである。
【0066】
(実施例2)
実施例2では、焼成前のサイドマージンシート55においては、Tiに対するSnの添加量を2.0at%とした。カバーシート54においては、Tiに対するSnの添加量を0.0at%とした。誘電体グリーンシート51においては、Tiに対するSn添加量を0.0at%とした。
【0067】
焼成後において、サイドマージン16においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.017であった。カバー層13においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.000であった。容量領域14においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.001であった。
【0068】
(実施例3)
実施例3では、焼成前のサイドマージンシート55においては、Tiに対するSnの添加量を3.0at%とした。カバーシート54においては、Tiに対するSnの添加量を0.0at%とした。誘電体グリーンシート51においては、Tiに対するSn添加量を0.0at%とした。
【0069】
焼成後において、サイドマージン16においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.026であった。カバー層13においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.000であった。容量領域14においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.001であった。
【0070】
(実施例4)
実施例4では、焼成前のサイドマージンシート55においては、Tiに対するSnの添加量を0.0at%とした。カバーシート54においては、Tiに対するSnの添加量を1.0at%とした。誘電体グリーンシート51においては、Tiに対するSn添加量を0.0at%とした。
【0071】
焼成後において、サイドマージン16においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.000であった。カバー層13においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.009であった。容量領域14においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.000であった。
【0072】
(実施例5)
実施例5では、焼成前のサイドマージンシート55においては、Tiに対するSnの添加量を1.0at%とした。カバーシート54においては、Tiに対するSnの添加量を1.0at%とした。誘電体グリーンシート51においては、Tiに対するSn添加量を0.0at%とした。
【0073】
焼成後において、サイドマージン16においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.008であった。カバー層13においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.009であった。容量領域14においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.001であった。
【0074】
(実施例6)
実施例6では、焼成前のサイドマージンシート55においては、Tiに対するSnの添加量を2.0at%とした。カバーシート54においては、Tiに対するSnの添加量を1.0at%とした。誘電体グリーンシート51においては、Tiに対するSn添加量を0.0at%とした。
【0075】
焼成後において、サイドマージン16においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.017であった。カバー層13においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.009であった。容量領域14においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.001であった。
【0076】
(実施例7)
実施例7では、焼成前のサイドマージンシート55においては、Tiに対するSnの添加量を3.0at%とした。カバーシート54においては、Tiに対するSnの添加量を1.0at%とした。誘電体グリーンシート51においては、Tiに対するSn添加量を0.0at%とした。
【0077】
焼成後において、サイドマージン16においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.027であった。カバー層13においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.009であった。容量領域14においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.002であった。
【0078】
(実施例8)
実施例8では、焼成前のサイドマージンシート55においては、Tiに対するSnの添加量を0.0at%とした。カバーシート54においては、Tiに対するSnの添加量を2.0at%とした。誘電体グリーンシート51においては、Tiに対するSn添加量を0.0at%とした。
【0079】
焼成後において、サイドマージン16においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.000であった。カバー層13においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.018であった。容量領域14においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.001であった。
【0080】
(実施例9)
実施例9では、焼成前のサイドマージンシート55においては、Tiに対するSnの添加量を1.0at%とした。カバーシート54においては、Tiに対するSnの添加量を2.0at%とした。誘電体グリーンシート51においては、Tiに対するSn添加量を0.0at%とした。
【0081】
焼成後において、サイドマージン16においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.007であった。カバー層13においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.018であった。容量領域14においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.001であった。
【0082】
(実施例10)
実施例10では、焼成前のサイドマージンシート55においては、Tiに対するSnの添加量を2.0at%とした。カバーシート54においては、Tiに対するSnの添加量を2.0at%とした。誘電体グリーンシート51においては、Tiに対するSn添加量を0.0at%とした。
【0083】
焼成後において、サイドマージン16においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.018であった。カバー層13においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.018であった。容量領域14においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.002であった。
【0084】
(実施例11)
実施例11では、焼成前のサイドマージンシート55においては、Tiに対するSnの添加量を3.0at%とした。カバーシート54においては、Tiに対するSnの添加量を2.0at%とした。誘電体グリーンシート51においては、Tiに対するSn添加量を0.0at%とした。
【0085】
焼成後において、サイドマージン16においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.026であった。カバー層13においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.018であった。容量領域14においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.002であった。
【0086】
(実施例12)
実施例12では、焼成前のサイドマージンシート55においては、Tiに対するSnの添加量を0.0at%とした。カバーシート54においては、Tiに対するSnの添加量を3.0at%とした。誘電体グリーンシート51においては、Tiに対するSn添加量を0.0at%とした。
【0087】
焼成後において、サイドマージン16においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.000であった。カバー層13においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.027であった。容量領域14においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.001であった。
【0088】
(実施例13)
実施例13では、焼成前のサイドマージンシート55においては、Tiに対するSnの添加量を1.0at%とした。カバーシート54においては、Tiに対するSnの添加量を3.0at%とした。誘電体グリーンシート51においては、Tiに対するSn添加量を0.0at%とした。
【0089】
焼成後において、サイドマージン16においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.008であった。カバー層13においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.027であった。容量領域14においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.002であった。
【0090】
(実施例14)
実施例14では、焼成前のサイドマージンシート55においては、Tiに対するSnの添加量を2.0at%とした。カバーシート54においては、Tiに対するSnの添加量を3.0at%とした。誘電体グリーンシート51においては、Tiに対するSn添加量を0.0at%とした。
【0091】
焼成後において、サイドマージン16においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.018であった。カバー層13においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.027であった。容量領域14においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.002であった。
【0092】
(実施例15)
実施例15では、焼成前のサイドマージンシート55においては、Tiに対するSnの添加量を3.0at%とした。カバーシート54においては、Tiに対するSnの添加量を3.0at%とした。誘電体グリーンシート51においては、Tiに対するSn添加量を0.0at%とした。
【0093】
焼成後において、サイドマージン16においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.027であった。カバー層13においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.027であった。容量領域14においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.003であった。
【0094】
(実施例16)
実施例16では、焼成前のサイドマージンシート55においては、Tiに対するSnの添加量を2.0at%とした。カバーシート54においては、Tiに対するSnの添加量を2.0at%とした。誘電体グリーンシート51においては、Tiに対するSn添加量を1.0at%とした。
【0095】
焼成後において、サイドマージン16においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.020であった。カバー層13においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.019であった。容量領域14においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.011であった。
【0096】
(実施例17)
実施例17では、焼成前のサイドマージンシート55においては、Tiに対するSnの添加量を2.0at%とした。カバーシート54においては、Tiに対するSnの添加量を2.0at%とした。誘電体グリーンシート51においては、Tiに対するSn添加量を2.0at%とした。
【0097】
焼成後において、サイドマージン16においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.021であった。カバー層13においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.019であった。容量領域14においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.020であった。
【0098】
(比較例)
比較例では、焼成前のサイドマージンシート55においては、Tiに対するSnの添加量を0.0at%とした。カバーシート54においては、Tiに対するSnの添加量を0.0at%とした。誘電体グリーンシート51においては、Tiに対するSn添加量を0.0at%とした。すなわち、Snを添加しなかった。
【0099】
焼成後において、サイドマージン16においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.000であった。カバー層13においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.000であった。容量領域14においては、Tiに対するSnの原子濃度比率が0.000であった。
【0100】
実施例1~17および比較例のそれぞれについて、寿命(50%値)を測定した。120℃の恒温槽でDC12Vを印加して電流値が10mAを超えた時点を各チップの寿命として計測した。各100個の計測を行なった。
【0101】
実施例1~17および比較例のそれぞれ100サンプルずつについて、IR不良率を測定した。テスターを用いて室温において直流抵抗値が1MΩを下回ったものを不良とした。
【0102】
実施例1~17および比較例のそれぞれについて、静電容量を測定した。静電容量を測定する際、150℃(誘電体のキュリー点を超える温度)で1時間保持したのち、室温に戻してから24時間後に静電容量の計測を行った。LCRメーターを用いて120Hz、0.5Vrmsで測定を実施した。
【0103】
各測定結果を表1に示す。表1に示すように、比較例では、IR不良率が14%と高くなった。これは、サイドマージン16にもカバー層13にもSnを添加しなかったことで、容量領域14の外周領域にSnが拡散せず、内部電極層12の主成分金属であるNiが誘電体層11に固溶して絶縁性が低下したからであると考えられる。
【0104】
これに対して、実施例1~3では、いずれもIR不良率が改善した。これは、サイドマージン16のSn濃度が容量領域14のSn濃度よりも高く、容量領域14の外周領域にSnが拡散したからであると考えられる。なお、実施例1~3では、静電容量がほとんど低下しなかった。これは、容量領域14のSn濃度が低かったからであると考えられる。
【0105】
次に、実施例4では、比較例よりもIR不良率が改善した。これは、カバー層13のSn濃度が容量領域14のSn濃度よりも高く、容量領域14の外周領域にSnが拡散したからであると考えられる。なお、実施例4では、比較例と比較して静電容量が低下しなかった。これは、容量領域14のSn濃度が低かったからであると考えられる。
【0106】
次に、実施例5~7では、実施例1~3に対して、IR不良率が低下した。これは、サイドマージン16のSn濃度およびカバー層13のSn濃度の両方が容量領域14のSn濃度よりも高く、容量領域14の外周領域にSnが拡散したからであると考えられる。なお、実施例5~7では、静電容量がほとんど低下しなかった。これは、容量領域14のSn濃度が低かったからであると考えられる。
【0107】
次に、実施例8~11では、実施例4~7に対して、IR不良率が低下した。これは、実施例8~11では、実施例4~7に対して、サイドマージン16のSn濃度がさらに高くなったからであると考えられる。なお、実施例8~11では、静電容量がほとんど低下しなかった。これは、容量領域14のSn濃度が低かったからであると考えられる。
【0108】
次に、実施例12~15では、実施例8~11に対して、IR不良率が低下した。これは、実施例12~15では、実施例8~11に対して、サイドマージン16のSn濃度がさらに高くなったからであると考えられる。なお、実施例12~15では、静電容量がほとんど低下しなかった。これは、容量領域14のSn濃度が低かったからであると考えられる。
【0109】
次に、実施例16では、実施例10と比較してさらにIR不良率が低下した。これは、容量領域14にもSnが添加されたことで、さらに絶縁性が向上したからであると考えられる。ただし、実施例16の方が実施例10よりも静電容量が低下した。これは、容量領域14のSn濃度が低かったからであると考えられる。
【表1】
【0110】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。