(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155024
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】回転電機用ステータの製造方法及び回転電機用ステータ
(51)【国際特許分類】
H02K 3/50 20060101AFI20221005BHJP
H02K 15/12 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
H02K3/50 A
H02K15/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058340
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 嘉章
(72)【発明者】
【氏名】黒木 祐英
【テーマコード(参考)】
5H604
5H615
【Fターム(参考)】
5H604AA05
5H604AA08
5H604BB08
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC13
5H604QA08
5H604QB15
5H615AA01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP01
5H615PP15
5H615PP18
5H615QQ03
5H615SS15
(57)【要約】
【課題】保持部材全体に液状の接着剤を効率的に浸透させやすくする。
【解決手段】ステータコアと、ステータコアに装着され、軸方向両端にコイルエンドを有するステータコイルと、軸方向一端側のコイルエンドに軸方向に対向し、導体部と樹脂部とが一体化された形態であり、導体部の端部が樹脂部から露出する端子部と、端子部の導体部の端部と、ステータコイルの端部とを接合する接合部と、軸方向で端子部とコイルエンドとの間に、径方向及び周方向に延在し、液状の接着剤を保持可能な保持部材と、保持部材とコイルエンドとの間に、液状の接着剤に対する浸透性が保持部材よりも低いシート状部材と、を備え、シート状部材は、周方向に視て、径方向外側又は内側がステータコアの軸方向端面に対して軸方向外側に離れる向きに傾斜する、回転電機用ステータが開示される。
【選択図】
図6A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアと、
前記ステータコアに装着され、軸方向両端にコイルエンドを有するステータコイルと、
軸方向一端側の前記コイルエンドに軸方向に対向し、導体部と樹脂部とが一体化された形態であり、前記導体部の端部が前記樹脂部から露出する端子部と、
前記端子部の前記導体部の端部と、前記ステータコイルの端部とを接合する接合部と、
軸方向で前記端子部と前記コイルエンドとの間に、径方向及び周方向に延在し、液状の接着剤を保持可能な保持部材と、
前記保持部材と前記コイルエンドとの間に、前記液状の接着剤に対する浸透性が前記保持部材よりも低いシート状部材と、を備え、
前記シート状部材は、周方向に視て、径方向外側又は内側が前記ステータコアの軸方向端面に対して軸方向外側に離れる向きに傾斜する、回転電機用ステータ。
【請求項2】
前記保持部材及び前記シート状部材は、軸方向に視て、前記端子部よりも径方向外側又は内側まで延在するとともに、軸方向に視て前記端子部よりも径方向外側又は内側に延在する部分が、周方向に視て傾斜する、請求項1に記載の回転電機用ステータ。
【請求項3】
前記シート状部材は、前記保持部材に接合されている、請求項1又は2に記載の回転電機用ステータ。
【請求項4】
前記保持部材は、前記端子部の軸方向内側に当接する本体部を有し、
前記シート状部材は、軸方向に視て、前記保持部材の前記本体部の径方向外側又は内側の一部のみに重なる、請求項1~3のうちのいずれか1項に記載の回転電機用ステータ。
【請求項5】
前記シート状部材は、紙を含み、前記保持部材は、前記液状の接着剤が浸透可能な網目状構造を有する、請求項1~4のうちのいずれか1項に記載の回転電機用ステータ。
【請求項6】
導体部と樹脂部とが一体化された形態の端子部と、液状の接着剤を保持可能な保持部材と、前記液状の接着剤に対する浸透性が前記保持部材よりも低いシート状部材とを、準備する準備工程と、
ステータコアにステータコイルを装着し、軸方向両端にコイルエンドを有する組立体を形成する装着工程と、
軸方向で前記端子部と前記コイルエンドとの間に前記保持部材が位置しかつ前記保持部材と前記コイルエンドとの間に前記シート状部材が位置する状態を形成する配置工程と、
前記配置工程の後に、前記組立体の軸方向を上下方向とした状態で、上下方向に視て前記保持部材の一部に重なる滴下範囲に、前記液状の接着剤を前記組立体よりも上方から滴下する滴下工程とを含み、
前記シート状部材は、上下方向に視て前記滴下範囲に重なりつつ、周方向に視て径方向外側又は内側が前記ステータコアの軸方向端面に対して軸方向外側に離れる向きに傾斜する、回転電機用ステータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機用ステータの製造方法及び回転電機用ステータに関する。
【背景技術】
【0002】
導体部(バスバー)と樹脂部とが一体化された形態の端子部(バスバー部材)とコイルエンドとの間の固定強度を確保するために、端子部とコイルエンドとの間に、接着剤を保持できる保持部材を設ける技術が知られている。この場合、製造工程で保持部材に保持させた接着剤を硬化させることで、保持部材が接合材料部として端子部とコイルエンドとに接合し、両者の固定強度を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されるような保持部材は、網目状構造を有し、毛細管現象によりワニス等の液状の接着剤が浸透されやすいものの、保持部材における端子部と軸方向に当接する部分に液状の接着剤を効率的に到達させることが難しい。これは、上下方向に視て、保持部材における端子部に覆われる部分(保持部材における端子部と軸方向に当接する部分)は、端子部を避けて設定されるワニスの滴下範囲に対して、径方向(上下方向に交差する方向)で比較的大きい距離、離れてしまうためである。なお、ワニスは、重力の影響で、保持部材内においても重力方向(上下方向)に浸透しやすい傾向がある。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、保持部材全体に液状の接着剤を効率的に浸透させやすくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、ステータコアと、
前記ステータコアに装着され、軸方向両端にコイルエンドを有するステータコイルと、
軸方向一端側の前記コイルエンドに軸方向に対向し、導体部と樹脂部とが一体化された形態であり、前記導体部の端部が前記樹脂部から露出する端子部と、
前記端子部の前記導体部の端部と、前記ステータコイルの端部とを接合する接合部と、
軸方向で前記端子部と前記コイルエンドとの間に、径方向及び周方向に延在し、液状の接着剤を保持可能な保持部材と、
前記保持部材と前記コイルエンドとの間に、前記液状の接着剤に対する浸透性が前記保持部材よりも低いシート状部材と、を備え、
前記シート状部材は、周方向に視て、径方向外側又は内側が前記ステータコアの軸方向端面に対して軸方向外側に離れる向きに傾斜する、回転電機用ステータが提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、保持部材全体に液状の接着剤を効率的に浸透させやすくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1B】端子台を取り外した状態のステータの一部を示す斜視図である。
【
図2】組み付け状態の4つの同芯巻きコイルだけを取り出した斜視図である。
【
図3】同芯巻きコイルの単品状態を示す斜視図である。
【
図6A】端子台とコイルエンドとの固定構造の一例を説明するための概略的な断面図である。
【
図6B】成形部の内部を透視図により模式的に示す側面図である。
【
図9】本実施例による接着剤保持部材及びシート状部材を概略的に示す2面図である。
【
図10】ステータの製造方法の流れを概略的に示すフローチャートである。
【
図11】
図10の製造方法の一工程を説明する概略的な断面図である。
【
図12】
図10の製造方法の他の一工程を説明する概略的な断面図である。
【
図13】
図10の製造方法の他の一工程を説明する概略的な断面図である。
【
図14】
図10の製造方法の他の一工程を説明する概略的な断面図である。
【
図15】
図10の製造方法の他の一工程を説明する概略的な断面図である。
【
図16】
図10の製造方法の他の一工程を説明する概略的な断面図である。
【
図17】
図10の製造方法の他の一工程を説明する概略的な断面図である。
【
図18】第1変形例によるステータの端子台とコイルエンドとの固定構造を説明するための概略的な断面図である。
【
図19】第2変形例によるステータの端子台とコイルエンドとの固定構造を説明するための概略的な断面図である。
【
図20】第3変形例によるステータの端子台とコイルエンドとの固定構造を説明するための概略的な断面図である。
【
図21】第4変形例によるステータの端子台とコイルエンドとの固定構造を説明するための概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。なお、
図1A等では、見易さのために、複数存在する同一属性の部位には、一部のみしか参照符号が付されていない場合がある。
【0010】
図1Aは、ステータ21の一部を示す斜視図である。
図1Bは、端子台70を取り外した状態のステータ21の一部を示す斜視図である。
図2は、組み付け状態の4つの同芯巻きコイル20だけを取り出した斜視図である。
図3は、同芯巻きコイル20の単品状態を示す斜視図である。なお、
図1Aにおいて、Y方向は、径方向に対応し、Y1側が径方向外側に対応し、Y2側が径方向内側(ステータ21の中心軸Iに近い側)を表す。なお、
図1A及び
図1Bでは、バスバー80及びバスバー81に係る後述の成形部60の図示が省略されている。
【0011】
以下の説明において、軸方向とは、ステータ21の中心軸I(
図6A等参照)が延在する方向を指し、径方向とは、中心軸Iを中心とした径方向を指す。従って、径方向外側とは、その位置よりも、中心軸Iから離れる側を指し、径方向内側とは、その位置よりも、中心軸Iに向かう側を指す。また、軸方向外側とは、その位置よりも、ステータ21の軸方向の中心から離れる側を指し、軸方向内側とは、その位置よりも、ステータ21の軸方向の中心に近づく側を指す。また、周方向とは、中心軸Iまわりの回転方向に対応する。
【0012】
ステータ21は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなるステータコア211を備え、ステータコア211の径方向内側には、ステータコイル22が巻回される複数のスロット2111が形成される。スロット2111は、周方向に等間隔に複数形成される。なお、スロット2111の数や形状等は任意である。
【0013】
ステータコイル22は、例えば、
図2及び
図3に示すような、いわゆる同芯巻きコイル20の形態であり、それぞれ、所定巻回数で巻回された平角線が曲げ加工されることにより成形されるカセットコイルである。ステータコイル22は、断面が矩形状(具体的には、長方形)に形成された平角線を含む。この平角線は、導電性の高い例えば銅やアルミニウム等の金属により構成されてよい。ステータコイル22は、平角線が絶縁性の被覆により覆われてよい。
【0014】
図2に示す例では、周方向に90度ずつ離れた4つの同芯巻きコイル20が、一の同芯巻きコイル20の第2渡り線240が、当該一の同芯巻きコイル20に隣接する他の一の同芯巻きコイル20の第3渡り線250に接合する関係で、互いに接続されている。
【0015】
各同芯巻きコイル20はそれぞれ、所定巻回数で巻回された形態のカセットコイルである。なお、所定巻回数は任意であり、
図1A及び
図1Bに示すような、より多い巻回数であってもよい。
【0016】
各同芯巻きコイル20はそれぞれ、
図3に示すように、スロット収容部230、232と、第1渡り線234、236と、第2渡り線240と、第3渡り線250とを有している。なお、スロット収容部230、232及び第1渡り線234、236は、同芯巻きコイル20の本体部(略六角形状の閉ループ部)を形成する。第1渡り線236は、第2渡り線240及び第3渡り線250とともに、軸方向一方側(リード側)のコイルエンドを形成し、第1渡り線234は、軸方向一方側(反リード側)のコイルエンドを形成する。なお、
図3に示す例では、一の同芯巻きコイル20は、スロット収容部230、232、第1渡り線234、236をそれぞれ複数含むのに対して、第2渡り線240及び第3渡り線250はそれぞれ1つだけ含む。
【0017】
スロット収容部230、232はそれぞれ、ステータコア211のスロット2111内に挿入(収容)される、そのスロット2111を軸方向に貫くように略直線状に延びる部位である。同一の同芯巻きコイル20において、スロット収容部230とスロット収容部232とは、ステータコア211の周方向に所定距離離れた互いに異なるスロット2111に収容される。
【0018】
第1渡り線234、236はそれぞれ、スロット収容部230、232に接続するとともに、ステータコア211の軸方向端面から軸方向外側に向けて突出した、周方向に離れた2つのスロット収容部230、232同士を繋ぐ部位である。第1渡り線236は、頂部2361と、斜行部2362、2363とを含む。なお、第1渡り線234についても同様であるが、ここでは符合を付していない。
【0019】
第2渡り線240及び第3渡り線250は、周方向に離れた2つの同芯巻きコイル20のスロット収容部230、232同士を繋ぐ。
図2に示す例では、周方向に90度ずつ離れた4つの同芯巻きコイル20は、一の同芯巻きコイル20の第2渡り線240が、当該一の同芯巻きコイル20に隣接する他の一の同芯巻きコイル20の第3渡り線250に接合する関係で、互いに接続される。
【0020】
第2渡り線240は、
図3に示すように、複数の曲げ加工を介して成形されてよい。具体的には、第2渡り線240は、第1斜行部2402と、第1エッジワイズ曲げ部2404と、第1直線部2406と、第1フラットワイズ曲げ部2408と、第2直線部2410と、第2エッジワイズ曲げ部2412と、第3直線部2414と、第3エッジワイズ曲げ部2416と、第4直線部2418とを含む。なお、第1斜行部2402は、スロット収容部230の端部2302から形成される。スロット収容部230の端部2302は、スロット収容部230の軸方向外側に延在する部位を周方向外側(周方向でスロット収容部230、232間の中心から離れる側)に向けてエッジワイズ曲げして形成される。
図3に示す例では、第1斜行部2402は、直線的に延在する直線部であるが、エッジワイズ曲げ部を含む階段状の形態で全体として斜め方向に延在してもよい。なお、スロット収容部230の端部2302は、第2渡り線240の一部とみなすこともできる。
【0021】
第3渡り線250は、
図3に示すように、複数の曲げ加工を介して成形されてよい。具体的には、第3渡り線250は、第2斜行部2502と、第4エッジワイズ曲げ部2504と、第5直線部2506と、第2フラットワイズ曲げ部2508と、第6直線部2510とを含む。なお、第2斜行部2502は、スロット収容部232の端部2322から形成される。スロット収容部232の端部2322は、スロット収容部232の軸方向外側に延在する部位を周方向外側(周方向でスロット収容部230、232間の中心から離れる側)に向けてエッジワイズ曲げして形成される。
図3に示す例では、第2斜行部2502は、直線的に延在する直線部であるが、エッジワイズ曲げ部を含む階段状の形態で全体として斜め方向に延在してもよい。なお、スロット収容部232の端部2322は、第3渡り線250の一部とみなすこともできる。
【0022】
このようにして、第2渡り線240及び第3渡り線250は、各種の曲げ部(第1エッジワイズ曲げ部2404等)を有する。なお、ここでは、同芯巻きコイル20の特定の構成について説明したが、同芯巻きコイル20の詳細な構成については、任意である。例えば、第2渡り線240及び第3渡り線250の形状等は任意である。
【0023】
また、各同芯巻きコイル20のうち、後述する端子台70と接合する同芯巻きコイル20は、
図3(
図2)に示した形態と若干異なる形態を有してよい。例えば、第2渡り線240は、第1フラットワイズ曲げ部2408から第3エッジワイズ曲げ部2416までの部分が曲げ成形されない形態であってもよい。
【0024】
以下では、ステータコイル22は、平角線が絶縁性の被覆により覆われた構成であるとし、「一のコイル導線22a」とは、特に言及しない限り、ステータコイル22を形成する複数のコイル導線のうちの、任意の一のコイル導線を指す。
【0025】
複数のコイル導線22aは、上述したように(
図1Aも参照)、ステータコア211のスロット2111に収容され、かつ、スロット2111よりも軸方向外側に延在する端部同士が接合される。
図2及び
図3に示す同芯巻きコイル20では、スロット収容部230、232がステータコア211のスロット2111に収容され、かつ、スロット2111よりも軸方向外側に延在する第2渡り線240と第3渡り線250の端部同士(第4直線部2418の端部と第6直線部2510の端部)が接合される。コイル導線22aの端部同士の接合は、溶接等により実現されてよい。この場合、コイル導線22aの端部は、少なくとも一部の被覆が除去された状態(すなわち導体部22A(
図6B参照)が露出した状態)で重ね合わされ、被覆が除去された部分同士が溶接により接合されてよい。この場合、溶接は、レーザ溶接やTIG溶接のような任意の方法で実現されてよい。以下、このようにして端部同士が重ね合わされて接合されたコイル導線22aの2つの端部を、「接合部」とも称する。
【0026】
複数のコイル導線22aは、接合部に成形材料の成形部60を有する。成形部60は、複数のコイル導線22aの接合部全体を覆う。成形部60は、複数のコイル導線22aの接合部に係る電気的な絶縁性を確保する機能を有する。すなわち、複数のコイル導線22aの接合部は、上述したように接合の際に被覆が除去されるので、成形部60は、当該被覆が除去された部分全体を覆うことで、被覆と同様の機能を果たす。この機能を実現するために、成形材料は、導電性のない材料である。例えば、成形材料は、樹脂材料(PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)を含む樹脂材料)であり、成形部60は、樹脂材料の成形部である。成形部60は、樹脂材料の射出成形により形成されてよい。
【0027】
図4は、成形部60の説明図である。なお、
図4において、X方向は、周方向に沿った方向に対応する。
図5は、他の態様の成形部60Aの説明図である。
【0028】
成形部60は、周方向に隣り合う2組の接合部に対して1つずつ設けられる。なお、
図4では、成形部60は、周方向に隣り合う2組の接合部ごとに1つずつ設けられるが、1組の接合部ごとに1つずつ設けられてもよいし、周方向に隣り合う3組以上の接合部ごとに1つずつ設けられてもよい。なお、
図4では、成形部60は、上下方向に型締めされて成形されるが、
図5に示す成形部60Aのように、径方向に型締めされて形成される形態であってもよい。
【0029】
ここで、
図1Aを再度参照するに、リード側コイルエンドには、端子台70が配置される。
【0030】
端子台70は、バスバー80、81と樹脂部90とが一体化された形態であり、バスバー80、81が樹脂部90から径方向に延在する。
【0031】
バスバー80は、樹脂部90から露出した部分が径方向内側に延在する。バスバー80は、樹脂部90から露出した部分が周方向に並ぶ態様で、複数設けられる。バスバー80のそれぞれは、その端部801がコイル導線22aの端部(導体部22A)に接合される。なお、バスバー80の端部801とコイル導線22aの端部との間の接合についても、上述したコイル導線22aの端部同士の接合方法と同様の方法で実現されてよい。また、バスバー80の端部801とコイル導線22aの端部との間の接合部には、
図5に示す成形部60Aと同様の成形部が形成されてよい。
【0032】
バスバー81は、樹脂部90から露出した部分が径方向外側に延在する。バスバー81は、樹脂部90から露出した部分が周方向に並ぶ態様で、複数設けられる。バスバー81のそれぞれは、その端部811がコイル導線22aの端部(導体部22A)に接合される(
図6B参照)。なお、バスバー81の端部811とコイル導線22aの端部との間の接合についても、上述したコイル導線22aの端部同士の接合方法と同様の方法で実現されてよい。また、バスバー81の端部811とコイル導線22aの端部との間の接合部には、
図4に示す成形部60と同様の成形部60(
図6Aや
図6B参照)が形成されてよい。
【0033】
なお、端子台70に保持されるバスバー80、81は、樹脂部90から露出する端部が動力線接続端子又は中性線接続端子を形成してよい。複数のバスバー80、81のうちの、動力線接続端子を形成するバスバー80、81は、端子台70内において3相の外部端子71に電気的に接続される。また、複数のバスバー80、81のうちの、中性線接続端子を形成する対のバスバー80、81は、端子台70内において互いに電気的に接続される。なお、中性線接続端子を形成する各対のバスバー80、81は、それぞれ一ピースのバスバー(板金部材)により形成されてもよい。
【0034】
次に、
図6A以降を参照して、本実施例の端子台70とコイルエンドとの固定構造について詳説する。
【0035】
図6Aは、端子台70とコイルエンドとの固定構造の一例を説明するための概略的な断面図であり、中心軸Iを通る平面による断面図である。
図6Bは、成形部60の内部を透視図で模式的に示す側面図である。
図7は、比較例による固定構造の説明図である。
図8は、
図6AのQ1部の拡大図である。
図8には、後述する製造工程で滴下されるワニスの流れが矢印R81~R86により模式的に示されている。
図9は、接着剤保持部材51とシート状部材57とが一体化された形態の単品状態を示す2面図である。
【0036】
なお、本実施例では、
図2及び
図3を参照して上述したように、ステータコイル22のコイルエンドは、リード側において、ステータコア211の軸方向一方側で周方向に延在する第1渡り線236と、第2渡り線240と、第3渡り線250とを含む。端子台70が設けられる周方向範囲では、
図6Aに概略的に示すように、第2渡り線240は、第1渡り線236の径方向内側で軸方向に延在し、軸方向外側の端部がバスバー80の端部801と接合する。また、端子台70が設けられる周方向範囲では、
図6A及び
図6Bに概略的に示すように、第3渡り線250は、第1渡り線236の径方向外側で、径方向外側に延在し、径方向外側の端部がバスバー81の端部811と接合する。
図6Bには、第3渡り線250の第6直線部2510の導体部22Aとバスバー81の端部811との間の接合部402が透視図により模式的に示されている。なお、バスバー80と第2渡り線240との間の接合部についても、図示しないが、基本的に同様である。
【0037】
本実施例では、
図6Aに模式的に示すように、軸方向で第1渡り線236と端子台70との間に、接合材料部50が設けられる。接合材料部50は、軸方向で第1渡り線236と端子台70との間に設けられ、第1渡り線236と端子台70とに接合する。
【0038】
本実施例では、一例として、接合材料部50は、接着剤保持部材51と、接着剤保持部材51に浸透された液状の接着剤の硬化物との組み合わせにより実現される。液状の接着剤は、ワニス又はその類が好適であり、本実施例では、一例としてワニスであるものとする。
【0039】
接着剤保持部材51は、液状の接着剤(本実施例ではワニス)が浸透された状態で当該接着剤を保持可能に構成される。すなわち、接着剤保持部材51は、ワニスが浸透可能な網目状構造を有する。この場合、接着剤保持部材51にワニスを浸透させつつ保持させることができる。このような接着剤保持部材51としては、ここでの参照により本願明細書に組み込まれる特開2019-115178号公報に開示されるような接着剤保持部材を好適に用いることができる。
【0040】
接着剤保持部材51は、軸方向で第1渡り線236と端子台70との間に延在し、かつ、第1渡り線236と端子台70とに接合することで、第1渡り線236と端子台70との間で生じうる振動を無くす又は低減する機能(以下、「振動低減機能」と称する)を有する。
【0041】
接着剤保持部材51は、好ましくは、端子台70の周方向全長にわたって振動低減機能を発現できるように、端子台70の周方向全長にわたって周方向に延在してよい。同様に、接着剤保持部材51は、好ましくは、端子台70の径方向全長にわたって振動低減機能を発現できるように、端子台70の径方向全長にわたって径方向に延在してよい。
【0042】
本実施例では、接着剤保持部材51は、軸方向に視て、端子台70よりも径方向内側に延在する。これにより、ワニスの滴下範囲を端子台70よりも径方向内側に設定した場合に、ワニスを接着剤保持部材51に効率的に浸透させることができる。すなわち、軸方向に視て、端子台70よりも径方向内側の位置からワニスを滴下して、ワニスを接着剤保持部材51に浸透させることができる。なお、
図6Aには、ワニスの滴下範囲を包含する径方向の範囲P8が点線範囲で模式的に示されている。なお、ワニスは、範囲P8内の径方向の特定位置で滴下されてよい。また、ワニスの滴下範囲は、全周にわたって同一の径方向位置に設定されてよい。
【0043】
また、本実施例では、接着剤保持部材51は、周方向に視て、径方向内側が軸方向外側に傾斜する。これにより、
図8を参照して後述するように、ワニスを径方向内側へと誘導して接着剤保持部材51全体に行き渡らせることができる。
【0044】
具体的には、接着剤保持部材51は、本体部510と、傾斜部512とを有する。本体部510は、軸方向で第1渡り線236と端子台70との間に位置し、端子台70における軸方向内側の表面に軸方向に当接する。傾斜部512は、本体部510の径方向内側縁部から連続し、径方向内側に向かうにつれて軸方向外側になる向きに傾斜する。なお、本体部510と傾斜部512との間の境界の径方向位置は、端子台70の径方向内側の側面の径方向位置と略同じであってよい。
【0045】
本実施例では、接着剤保持部材51の軸方向内側の表面には、シート状部材57が設けられる。シート状部材57のシート状とは、厚みが比較的小さい形態(例えば接着剤保持部材51の厚みよりも厚みが有意に小さい形態)を意味する。
【0046】
シート状部材57は、液状の接着剤(本実施例では上述したようにワニス)に対する浸透性が接着剤保持部材51よりも低い部材である。シート状部材57は、紙又はその類が好適である。紙の場合、比較的安価な材料を利用できる。ただし、シート状部材57は、樹脂シート等のような他の材料により形成されてもよい。
【0047】
シート状部材57は、接着剤保持部材51と同様、周方向に視て、径方向内側が軸方向外側に傾斜する。なお、軸方向外側に傾斜とは、ステータコア211の軸方向端面に対して離れる側への傾斜を指す。シート状部材57は、接着剤保持部材51の軸方向内側の表面に一体的に接合されてもよいし、別体として当接されてもよい。シート状部材57が接着剤保持部材51と一体化されている場合は、組み付け性が良好となる。また、上述したように接着剤保持部材51の傾斜部512にシート状部材57が接合することで、シート状部材57の傾斜部分(後述する傾斜部570)の形状保持性を高めることができる。
【0048】
シート状部材57は、接着剤保持部材51の全体にわたって設けられてもよいが、好ましくは、接着剤保持部材51の径方向内側の部位に対してのみ設けられる。ただし、この場合も、シート状部材57は、接着剤保持部材51の周方向全長にわたって、接着剤保持部材51の径方向内側の部位に対して設けられてよい。
【0049】
本実施例では、
図6Aに示すように、シート状部材57は、接着剤保持部材51の傾斜部512全体に対して設けられる一方、本体部510の径方向内側の部位に対してのみ設けられる。すなわち、シート状部材57は、軸方向に視て、接着剤保持部材51の傾斜部512の全体に重なるとともに、接着剤保持部材51の本体部510の径方向内側の一部のみに重なる。具体的には、シート状部材57は、傾斜部570と、非傾斜部571とを有し、傾斜部570が接着剤保持部材51の傾斜部512全体を軸方向内側から覆い、非傾斜部571が接着剤保持部材51の本体部510の径方向内側の部位を軸方向内側から覆う。
【0050】
なお、この場合、接着剤保持部材51の傾斜部512の周方向の延在範囲内の各位置において、周方向に視たとき、接着剤保持部材51は、端子台70の軸方向内側の表面全体に当接するのに対して、シート状部材57は、端子台70の軸方向内側の表面における径方向内側の一部のみに、軸方向に対向する。
【0051】
この場合、接着剤保持部材51は、本体部510の径方向外側の部分がシート状部材57により覆われない。これにより、本体部510の径方向外側の部分を介して第1渡り線236へとワニスを落下させることが容易となり、シート状部材57に起因してステータコイル22(コイル導線22a同士の間等)へのワニスの浸透が有意に阻害されてしまう可能性を、低減できる。
【0052】
なお、シート状部材57は、接着剤保持部材51の本体部510を介したステータコイル22へのワニスの浸透を局所的に可能とするため、軸方向の貫通孔572(
図9参照)を有してもよい。この場合、貫通孔572は、
図9に模式的に示すように、非傾斜部571に設けられてもよい。なお、
図9の2面図では、上側に、接着剤保持部材51の上面視による平面図が、下側に、周方向視に対応する側面視よる側面図が、それぞれ示されている。なお、
図9に示す例では、接着剤保持部材51の本体部510は、シート状部材57が接合される側の表面が平坦であるが、接着剤保持部材51の本体部510のうちの、シート状部材57が接合されない部分は、シート状部材57の厚み分だけ軸方向内側にオフセットしてもよい。すなわち、接着剤保持部材51の本体部510は、シート状部材57と面一になるように、シート状部材57が接合されない部分が、シート状部材57の厚み分だけ軸方向内側にオフセットしてもよい。この場合、シート状部材57が比較的厚みを有する場合でも、本体部510(及びそれに伴い接合材料部50)と第1渡り線236の軸方向外側の表面との間の密着性を高めることができる。
【0053】
ところで、接着剤保持部材51は、網目状構造を有し、毛細管現象によりワニスが浸透されやすい。しかしながら、
図7に示す比較例のように、本実施例とは異なり、接着剤保持部材51’が平らな形態でありかつシート状部材57が設けられない場合、接着剤保持部材51’(特に接着剤保持部材51’における端子台70の直下領域)にワニスを効率的に到達させることが難しい。これは、上下方向に視て、接着剤保持部材51’における端子台70により覆われている部分(端子台70に軸方向に当接する部分)は、ワニスの滴下範囲(
図6AのP8参照)から径方向で比較的離れてしまうためである。なお、ワニスは、重力の影響で、接着剤保持部材51内においても重力方向(上下方向)に浸透しやすい傾向がある。ここでは、上下方向を軸方向としてワニスを滴下する場合を想定している。この場合、ワニスは、接着剤保持部材51内において軸方向に浸透しやすくなる反面、径方向に浸透し難くなる。
【0054】
この点、本実施例によれば、上述したように、接着剤保持部材51が径方向内側に傾斜部512を有し、かつ、接着剤保持部材51の傾斜部512の軸方向内側にシート状部材57が設けられる。これにより、接着剤保持部材51内においてワニスを径方向にも浸透させやすくすることができる。
【0055】
具体的には、
図8に示すように、端子台70に対して径方向内側に滴下範囲(
図6AのP8参照)を設定した場合、滴下されるワニス(矢印R81参照)は、軸方向(ここでは軸方向=上下方向)に視て端子台70よりも径方向内側を通って接着剤保持部材51の上面に着地する。なお、ワニスは、接着剤保持部材51の上面に着地する前にバスバー80に当たりうるが、バスバー80間には周方向の隙間があるため(
図1B参照)、接着剤保持部材51の上面に直接的に滴下できる。なお、ワニスがバスバー80に当たる周方向位置でも、ワニスがバスバー80から垂れ落ちるので、接着剤保持部材51の上面に滴下できる。
【0056】
接着剤保持部材51の上面に滴下されたワニスは、重力の影響を受けつつ、毛細管現象により接着剤保持部材51内に浸透していく(矢印R82参照)。
【0057】
接着剤保持部材51の下面に到達したワニスは、シート状部材57により更に下方へと浸透できず、シート状部材57の傾斜部570に沿って径方向外側へと浸透する(矢印R83参照)。なお、シート状部材57が設けられない場合は、
図8に模式的に矢印R83’で示すように、接着剤保持部材51の下面から落下して第1渡り線236へと至る。従って、シート状部材57は、このようなワニスの浸透方向を、鉛直方向下向きから径方向外向き成分を有する向きへと強制的に変化させる機能を有する。
【0058】
シート状部材57の傾斜部570に沿って径方向外側かつ下側に向かって流れるワニス(矢印R83参照)は、シート状部材57の非傾斜部571に至ると、依然として、下方へと流れ落ちることができず、径方向外側へと浸透する(矢印R84参照)。これにより、ワニスは、その位置から毛細管現象により、接着剤保持部材51における端子台70により覆われている部分(端子台70に軸方向に当接する部分)に至りやすくなる(矢印R85参照)。また、ワニスは、非傾斜部571を径方向外側に越えると、接着剤保持部材51における第1渡り線236の表面に当接する部分や、下方のコイル導線22a間へと至ることができる(矢印R86参照)。
【0059】
このようにして、本実施例によれば、シート状部材57の傾斜部570によってワニスを接着剤保持部材51の本体部510へと効率的に浸透させることができる。
【0060】
ところで、特に、車両環境においては、路面からの入力や、内燃機関を搭載する車両では内燃機関からの入力等に起因して、ステータ21を含む回転電機が加振されやすい。また、特に、端子台70は、第2渡り線240等に比べて有意に大きい質量を有し、振動しやすい。端子台70が振動すると、端子台70のバスバー80、81とコイル導線22aの端部との間の接合部(
図6Bの接合部402参照)の信頼性が低下するおそれがある。
【0061】
この点、本願発明者は、回転電機を用いて加振試験を実施した結果、端子台70のバスバー80、81とコイル導線22aの端部との間の接合部で顕著な応力集中を確認した。顕著な応力集中は、接合部402(
図6Bの接合部402参照)の際(きわ)で生じる傾向があった。このような接合部402の際に生じる応力集中は、第1渡り線236と端子台70との間で生じうる振動を無くす又は低減することで、低減できる。
【0062】
この点、本実施例によれば、上述したように、軸方向で第1渡り線236と端子台70との間に接合材料部50が設けられるので、接合材料部50の振動低減機能によって、接合部402の際(きわ)やその近傍での応力集中を低減でき、端子台70のバスバー80、81とコイル導線22aの端部との間の接合部402の信頼性を高めることができる。
【0063】
ここで、接合材料部50の振動低減機能は、接合材料部50に起因した端子台70とコイルエンドとの間の固定強度の増加によるものであり、端子台70とコイルエンドとの間の固定強度が不十分となると、それに伴い、接合材料部50の振動低減機能も低下する。
【0064】
この点、端子台70とコイルエンドとの間の固定強度は、接合材料部50の本体部510と端子台70との間の接合強度に大きく起因するので、端子台70とコイルエンドとの間の固定強度を効率的に高めるためには、接合材料部50の本体部510と端子台70との間の接合強度を効率的に高めることが有用となる。
【0065】
この点、本実施例によれば、上述したように、接着剤保持部材51の本体部510(特に本体部510における端子台70に軸方向に当接する部分)にワニスを十分に浸透させることが容易であるので、接合材料部50の本体部510と端子台70との間の接合強度を効率的に高めることができる。このようにして、本実施例によれば、端子台70とコイルエンドとの間の固定強度を効率的に高めることで、接合材料部50の振動低減機能を効率的に高めることができ、その結果、端子台70のバスバー80、81とコイル導線22aの端部との間の接合部402の信頼性を高めることができる。
【0066】
次に、
図10以降を参照して、上述したステータ21の製造に好適な製造方法について説明する。
【0067】
以下の説明において、特に言及しない限り、第1渡り線236とは、ステータコア211の軸方向外側で周方向に延在する上述したリード側の複数の第1渡り線236の全体(集合)を指す。従って、第1渡り線236の表面(軸方向外側表面)とは、複数の第1渡り線236の全体の表面(軸方向外側表面)であり、第1渡り線236のそれぞれの表面(軸方向外側表面)の集合を表す。
【0068】
図10は、ステータ21の製造方法の流れを概略的に示すフローチャートである。
図11から
図17は、
図10を参照して説明する各工程のいくつかの説明図であり、
図11から
図17は、製造途中のワーク(組立体)を中心軸Iを通る平面で切断した際の概略的な断面図であり、端子台70が配置される部分に関連した一部だけを概略的に示している。
図11から
図17は、周方向全周のうちの、端子台70が配置される周方向範囲の断面図である。なお、
図10のフローチャートは、ステータ21の製造方法の流れの一例を示しているにすぎず、各ステップの処理順序は適宜、前後されてもよいし、並行的に又は同時に実現されてもよい。
【0069】
本製造方法は、まず、
図11に示すように、ステップS111において、複数の同芯巻きコイル20が円環状に配置されたコイル組立体2を形成する工程を含む。
【0070】
次に、本製造方法は、
図12に示すように、ステップS112において、コイル組立体2をステータコア211に組み付ける工程を含む。本工程は、例えば、インサータ等の治具により、コイル組立体2を形成する各スロット収容部230、232をスロット2111に挿入することで実現されてよい。これにより、ステータコイル22がステータコア211に巻装される。
【0071】
次に、本製造方法は、
図13に示すように、ステップS113において、接着剤保持部材51及びシート状部材57を、ステータコア211に組み付けたコイル組立体2に、載置する工程を含む。すなわち、接着剤保持部材51及びシート状部材57を、リード側のコイルエンド上にセットする。この場合、接着剤保持部材51及びシート状部材57は、第1渡り線236の表面にシート状部材57及び接着剤保持部材51の本体部510が軸方向に当接する態様で、載置されてよい。なお、この際、接着剤保持部材51の本体部510と第1渡り線236の表面との間には、シート状部材57の厚みに対応する僅かな隙間が形成されていてもよい。この場合でも、後述するように滴下されるワニスが当該隙間を埋めることができるためである。あるいは、かかる隙間が形成されないように、上述したように、接着剤保持部材51の本体部510のうちの、シート状部材57が接合されない部分は、シート状部材57の厚み分だけ軸方向内側にオフセットしてもよい。
【0072】
次に、本製造方法は、
図14に示すように、ステップS114において、端子台70を、ステータコア211に組み付けたコイル組立体2に、載置する工程を含む。この際、端子台70は、接着剤保持部材51及びシート状部材57上に載置される。
【0073】
次に、本製造方法は、ステップS115において、ステータコア211に巻装された複数の同芯巻きコイル20において、端子台70が配置されない周方向範囲において、軸方向に重なる対の渡り線である第2渡り線240と第3渡り線250の端部同士を溶接により接合する工程を含む。また、本製造方法は、ステップS115において、端子台70が配置される周方向範囲において、第2渡り線240及び第3渡り線250の各端部と端子台70のバスバー80及びバスバー81の各端部801、811とを溶接により接合する工程を含む。これにより、
図15に模式的に示すように、第2渡り線240及び第3渡り線250の各端部と端子台70のバスバー80及びバスバー81の各端部801、811との間の接合部402がそれぞれ形成される。
【0074】
次に、本製造方法は、ステップS116において、端子台70が配置されない周方向範囲において、第2渡り線240と第3渡り線250の間の接合部(図示せず)に成形部60(
図4参照)を形成する工程を含む。また、本製造方法は、ステップS116において、端子台70が配置される周方向範囲において、
図16に示すように、第2渡り線240及び第3渡り線250の各端部と端子台70のバスバー80及びバスバー81の各端部801、811との間の各接合部402に成形部60を形成する工程を含む。
【0075】
次に、本製造方法は、ステップS117において、ステータコア211及び同芯巻きコイル20を予備加熱する工程を含む。これにより、後述するステップS118においてワニスをスムーズに同芯巻きコイル20を構成するコイル導線22a同士の間等に浸透させることが可能になる。
【0076】
次に、本製造方法は、ステップS118において、同芯巻きコイル20にワニス(図示せず)を滴下する。具体的には、ステータコア211に配置された同芯巻きコイル20に対して、ノズル1700(
図17参照)からワニスを滴下する。例えば、ステータコア211の軸方向が上下方向に沿うようにステータコア211が配置されている場合(平置きの場合)、ワニスは、好ましくは、第1渡り線236の表面(軸方向外側表面)に直接滴下されてよい(矢印R17参照)。例えば、ノズル1700の位置(及びそれに伴いワニスの滴下範囲)は、上下方向に視て、端子台70よりも径方向内側、かつ、成形部60の軸方向の部位よりも径方向外側である。また、ワニスの滴下範囲は、上下方向に視て、接着剤保持部材51及びシート状部材57に重なるように設定される。これにより、ワニスの比較的高い流動性と毛細管現象とによって、スロット収容部230、232や反リード側の第1渡り線236のみならず、接着剤保持部材51全体にもワニスを行き渡せることができる。
【0077】
特に、本実施例によれば、接着剤保持部材51及びシート状部材57は、上述したように、軸方向に視て、端子台70よりも径方向内側まで延在するので、ノズル1700の位置(及びそれに伴いワニスの滴下範囲)を、上下方向に視て接着剤保持部材51及びシート状部材57に重なるように設定できる。また、接着剤保持部材51及びシート状部材57のそれぞれの傾斜部512、570は、ノズル1700の位置(及びそれに伴いワニスの滴下範囲)に重なる。これにより、
図8を参照して上述したように、接着剤保持部材51の本体部510(特に本体部510における端子台70に軸方向に当接する部分)にもワニスを効率的に行き渡せることができ、接着剤保持部材51全体にワニスを保持させることが容易となる。
【0078】
また、本実施例によれば、接着剤保持部材51及びシート状部材57のそれぞれの傾斜部512、570は、ノズル1700の位置(及びそれに伴いワニスの滴下範囲)に重なり、かつ、径方向内側が上側になる向きで傾斜している。これにより、ノズル1700の位置(及びそれに伴いワニスの滴下範囲)を端子台70よりも径方向内側に設定した場合でも、滴下したワニスが接着剤保持部材51の径方向内側から流れ落ちてステータコア211に垂れてしまう可能性を、効果的に低減できる。
【0079】
なお、ワニスの滴下は、リード側を上にして実行した上で、更に、反リード側を上にして(すなわち、ステータコア211を上下反転した状態で)実行されてもよい。この場合、順序を逆にしてもよい。すなわち、ワニスの滴下は、反リード側を上にして実行してから、リード側を上にして実行してもよい。
【0080】
次に、本製造方法は、ステップS119において、同芯巻きコイル20を構成するコイル導線22a同士の間に滴下されるワニスとともに、接着剤保持部材51に保持されるワニスを硬化する工程を含む。接着剤保持部材51に保持されるワニスを硬化することで、接着剤保持部材51を上述した接合材料部50に変化させることができる。すなわち、接合材料部50が完成する。具体的には、ステータコア211及び同芯巻きコイル20を加熱することにより、接着剤保持部材51に保持されるワニスと、コイル導線22aの間及び同芯巻きコイル20とスロット2111との間に浸透しているワニスとを同時に硬化させる。
【0081】
このようにして、本製造方法によれば、端子台70と第1渡り線236とに強固に接合できる接合材料部50を形成できる。これにより、端子台70と接合材料部50との間の固定強度を効果的に高めることができる。また、端子台70と接合材料部50との間の固定強度を効果的に高めることで、端子台70のバスバー80、81とコイル導線22aの端部との間の接合部の信頼性を効果的に高めることができる。この結果、加振されるような環境下でも耐久性の高いステータ21を得ることができる。
また、本製造方法によれば、接着剤保持部材51に保持されるワニスと、コイル導線22aの間等のワニスとを同時に硬化させることで、端子台70と第1渡り線236とに強固に接合できる接合材料部50を効率的に形成できる。
【0082】
次に、
図18から
図21を参照して、上述した接着剤保持部材51及びシート状部材57に代えて、同様に好適に利用できる接着剤保持部材及びシート状部材に係る各種変形例について説明する。以下では、上述した実施例と同様であってよい構成要素については、同一の参照符号を付して説明を省略する場合がある。
【0083】
図18は、第1変形例によるステータ21Aの端子台70とコイルエンドとの固定構造を説明するための概略的な断面図である。
【0084】
本変形例による接着剤保持部材51Aは、上述した実施例による接着剤保持部材51に対して、形状が異なり、径方向内側のみならず、径方向外側においても傾斜する。具体的には、接着剤保持部材51Aは、径方向外側において、径方向外側に向かうにつれて軸方向外側に向かう態様で傾斜する。すなわち、接着剤保持部材51Aは、周方向に視て、径方向両端部が軸方向外側に傾斜する。
【0085】
また、本変形例によるシート状部材57Aは、径方向内側のみならず、径方向外側にも設けられる。また、径方向内側のシート状部材57Aは、上述した実施例によるシート状部材57と同様であり、径方向外側のシート状部材57Aは、上述した実施例によるシート状部材57とY方向で対称な形態である。具体的には、径方向外側のシート状部材57Aは、接着剤保持部材51Aと同様の態様で傾斜する。
【0086】
このような変形例によれば、ワニスの滴下領域を、端子台70よりも径方向内側のみならず、端子台70よりも径方向外側にも設定できる(
図18の矢印R18参照)。すなわち、ワニスの滴下領域を、軸方向に視て、シート状部材57Aの径方向両側の各傾斜部570Aに重なるように設定できる。これにより、接着剤保持部材51Aの本体部510Aにワニスを更に効率的に行き渡せることができ、接着剤保持部材51A全体にワニスを保持させることが更に容易となる。また、ワニスの滴下範囲を端子台70よりも径方向外側に設定した場合でも、滴下したワニスが径方向外側から流れ落ちてステータコア211に垂れてしまう可能性を、効果的に低減できる。
【0087】
なお、本変形例では、接着剤保持部材51A及びシート状部材57Aは、径方向内側のみならず、径方向外側においても傾斜するが、径方向外側だけ傾斜してもよい。この場合、ワニスの滴下領域は、端子台70よりも径方向外側にのみ設定されてもよい。
【0088】
図19は、第2変形例によるステータ21Bの端子台70とコイルエンドとの固定構造を説明するための概略的な断面図である。
【0089】
本変形例による接着剤保持部材51Bは、上述した実施例による接着剤保持部材51に対して、形状が異なり、径方向内側で傾斜しない。すなわち、接着剤保持部材51Bは、上述した実施例による接着剤保持部材51の傾斜部512を有さない。
【0090】
本変形例によるシート状部材57Bは、上述した実施例によるシート状部材57に対して、形状が同じであるが、形状保持能力が高い材料により形成されてよい。これは、シート状部材57Bの傾斜部570Bが、接着剤保持部材51Bに支持されず、フリーとなるためである。
【0091】
このような変形例によっても、ワニスの滴下領域を、端子台70よりも径方向内側に設定できる(
図19の矢印R17参照)。すなわち、ワニスの滴下領域を、軸方向に視て、シート状部材57Bの傾斜部570Bに重なるように設定できる。これにより、上述した実施例と同様の効果が奏される。
【0092】
図20は、第3変形例によるステータ21Cの端子台70とコイルエンドとの固定構造を説明するための概略的な断面図である。
【0093】
本変形例による接着剤保持部材51Cは、上述した実施例による接着剤保持部材51に対して、形状が異なり、軸方向外側の表面全体が水平に延在する。シート状部材57Cは、上述した実施例によるシート状部材57と同じであってよい。
【0094】
このような変形例によっても、ワニスの滴下領域を、端子台70よりも径方向内側に設定できる(
図20の矢印R17参照)。すなわち、ワニスの滴下領域を、軸方向に視て、シート状部材57の傾斜部570に重なるように設定できる。これにより、上述した実施例と同様の効果が奏される。
【0095】
図21は、第4変形例によるステータ21Dの端子台70Dとコイルエンドとの固定構造を説明するための概略的な断面図である。
【0096】
本変形例による端子台70Dは、上述した実施例による端子台70に対して、形状が異なり、接合材料部50Dに軸方向に引っ掛かりを有する態様で係合する。
【0097】
具体的には、端子台70Dは、樹脂部90Dに、接合材料部50Dが係合する被係合部92を有する。この場合、接合材料部50Dを形成する接着剤保持部材51Dは、被係合部92が嵌合する溝部52を周方向に沿って有する。溝部52の断面形状(周方向に視た断面形状)は一定であってよい(すなわち等断面であってよい)。溝部52は、周方向に視て径方向の寸法が軸方向の異なる位置で異なる態様で、軸方向かつ径方向に延在してよい。具体的には、溝部52は、周方向に視て、軸方向内側に向かうほど周方向の寸法が大きくなるT字状の形態である。この場合、樹脂部90Dは、溝部52を埋めるような断面形態の被係合部92を有してよい。すなわち、被係合部92は、樹脂部90Dの軸方向内側の表面から突出した部分が、径方向の寸法が比較的小さい第1部位921と、径方向の寸法が比較的大きい第2部位922とを含み、第1部位921の軸方向内側に第2部位922が連続する形態である。被係合部92は、溝部52の周方向の延在範囲の全体にわたって周方向に延在してよい。
【0098】
この場合、接合材料部50Dと樹脂部90Dとの間には、軸方向の引っ掛かりが周方向の寸法変化部分で生じる。具体的には、樹脂部90D及び接合材料部50Dのうちの、樹脂部90Dだけに軸方向外側に向かう外力(図示せず)が作用すると、樹脂部90Dは、接合材料部50Dとの引っ掛かり部から軸方向内側に向かう反力(図示せず)を受ける。これにより、このような外力に起因した樹脂部90の、接合材料部50D(及びそれに伴いステータコア211)に対する軸方向の変位を低減できる。すなわち、接合材料部50Dの振動低減機能を効果的に高めることができる。
このような変形例によっても、ワニスの滴下領域を、端子台70Dよりも径方向内側に設定できる(
図21の矢印R17参照)。すなわち、ワニスの滴下領域を、軸方向に視て、シート状部材57の傾斜部570に重なるように設定できる。これにより、上述した実施例と同様の効果が奏される。
【0099】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。また、各実施例の効果のうちの、従属項に係る効果は、上位概念(独立項)とは区別した付加的効果である。
【0100】
例えば、上述した実施例による
図10に示した製造方法において、接着剤保持部材51及びシート状部材57をコイル組立体2に載置する工程(ステップS113)は、ステータコア211にコイル組立体2を組み付ける工程(ステップS112)よりも前に実行されてもよい。すなわち、接着剤保持部材51及びシート状部材57は、ステータコア211に組み付ける前のコイル組立体2にセットされてもよい。あるいは、接着剤保持部材51及びシート状部材57は、端子台70に組み付けてなるサブアセンブリとして、端子台70とともに、ステータコア211に組み付けたコイル組立体2に、セットされてもよい。この場合、接着剤保持部材51及びシート状部材57は、端子台70に係合する形態であってもよいし(
図21参照)、端子台70に接着剤等により仮固定されてもよい。
【符号の説明】
【0101】
2・・・コイル組立体(組立体)、21、21A~21D・・・ステータ(回転電機用ステータ)、211・・・ステータコア、22・・・ステータコイル、236・・・第1渡り線(コイルエンド)、50、50A~50D・・・接合材料部、510、510A・・・本体部、51、51A~51D・・・接着剤保持部材(保持部材)、57、57A、57B・・・シート状部材、70、70D・・・端子台(端子部)、80、81・・・バスバー(導体部)、90、90D・・・樹脂部