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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155123
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】油圧式VVT装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20221005BHJP
   F16K 31/06 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
F01L1/356 E
F16K31/06 305Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058468
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】三原 寛司
(72)【発明者】
【氏名】中山 祐也
(72)【発明者】
【氏名】龍 光弘
【テーマコード(参考)】
3G018
3H106
【Fターム(参考)】
3G018AB16
3G018BA33
3G018BA34
3G018CA12
3G018DA51
3G018DA58
3G018DA60
3G018DA74
3G018DA75
3G018FA01
3G018FA07
3G018GA22
3G018GA27
3H106DA08
3H106DA23
3H106DB02
3H106DB23
3H106DB32
3H106DC09
3H106DD05
3H106EE42
3H106KK17
(57)【要約】
【課題】VVT装置のオイルコントロールバルブであるスプールを駆動するソレノイドユニットにおいて、スプールから排出されたオイルに含まれた金属粉による作動不良を防止する。
【解決手段】ソレノイドユニット2は、アーマチャー40とセンターピン41とポールピース43とを備えており、ポールピース43はインナーケース36に嵌着している。ポールピース43は内向き筒部46を有しており、オイル排出穴50はポールピース43におけるフランジ部45aの下端に形成されている。オイルに金属粉が混入していても、金属粉は、ポールピース43の内部に溜まることなく、オイルの流れに乗って、第1及び第2の隙間(オイル排出通路)48,49を経由してオイル排出穴50から外部に排出される。従って、オイルに金属粉が混入していても、ベアリングチューブ39とアーマチャー40との間の隙間に侵入して作動不良を招来する事態は生じない。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カム軸に向いた開口部を有するケーシング内に、前記カム軸と同心方向にスライドするアーマチャーと、前記アーマチャーを外側から抱持してそのスライドをガイドするベアリングチューブと、前記アーマチャーから前記カム軸の方向に突出したセンターピンを摺動自在に保持するポールピースとが配置され、
前記ポールピースは、前記センターピンが直接に又はブッシュを介して貫通した基板と、前記基板から前記アーマチャーに向けて突出した内向き筒部とを有して、前記基板は、前記内向き筒部の外側にはみ出たフランジ部を有しており、
前記センターピンの進退動によって油圧駆動ユニットにおけるスプールのスライドが制御され、前記油圧駆動ユニットの使用済みオイルは前記スプールの内部空間から前記ポールピースの側に排出される構成であって、
前記ポールピースにおけるフランジ部の下部に、前記ポールピースの内部に入り込んだオイルを排出するオイル排出穴が形成されている、
油圧式VVT装置。
【請求項2】
前記ポールピースにおける内向き筒部の外周側のうち少なくとも下部に、前記内向き筒部を超えて流れ出たオイルが前記排出穴に向けて流れるオイル排出通路が、前記オイル排出穴に近づくほど低くなるように傾斜姿勢にて形成されている、
請求項1に記載した油圧式VVT装置。
【請求項3】
前記ポールピースにおける内向き筒部の外周面は前記基板に向けて拡径するテーパ状に形成されて、前記ポールピースにおける内向き筒部の外周面の外側に環状のオイル排出通路が形成されており、かつ、前記オイル排出穴は、前記内向き筒部の外周面を部分的に切除して形成されている、
請求項1又は2に記載した油圧式VVT装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、エンジンにおいて、カム軸をクランク軸に対して進角させたり遅角させたりしてバルブの開閉タイミングを制御するための油圧式のVVT装置(可変バルブタイミング装置)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンやディーゼルエンジンにおいて、バルブの開閉タイミングを制御するため、VVT装置によってカム軸を進角させたり遅角させたり制御することは広く行われている。VVT装置には油圧式と電動式とがあり、油圧式のVVT装置では、タイミングチェーンが巻き掛けられたスプロケットと一体に回転するハウジングの内部に、カム軸と一体に回転する3葉形や4葉型のロータを相対回転可能に配置し、ロータとハウジングとの間に形成された進角室と遅角室とに加圧オイルを選択的に供給することにより、カム軸を進角させたり遅角させたりしている。但し、基準状態から進角のみするタイプもある。
【0003】
進角室と遅角室へのオイルの供給の切り換えは、オイルコントロルーバルブ(OCV)によって行われている。オイルコントロールバルブも様々な構造があり、その例として特許文献1には、VVT装置のロータにオイルコントロールバルブ(スプール)を同心状に配置することが開示されている。他方、特許文献2には、オイルコントロールバルブをシリンダブロックに設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-060214号公報
【特許文献2】特開2003-214552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1にはオイルコントロールバルブの詳細は開示されていないが、オイルコントロールバルブは、カム軸と同心方向にスライドするスプールに構成されており、スプールをソレノイドユニットのセンターピンで押すとスプールがスライドして、スプールの外周面に形成した加圧室が進角室のオイルポート又は遅角室のオイルポートに選択的に連通すると共に、スプールの内部が、進角室のオイルポート又は遅角室のオイルポートと選択的に連通するようになっている。
【0006】
すなわち、スプールの加圧室が進角室のオイルポートと連通すると、スプールの内部と進角室のオイルポートとが連通し、逆に、スプールの加圧室が遅角室のオイルポートと連通すると、スプールの内部と遅角室のオイルポートとが連通することにより、ハウジングとロータとが一緒に回転しつつ相対的にも回転して、カム軸がスプロケット(クランク軸)に対して進角したり遅角したりする。進角室と遅角室とに同量のオイルが溜まったニュートラル状態も選択可能であり、この状態では進角も遅角もしていない基準状態になる。
【0007】
特許文献2に開示されているように、スプールはばねで前進方向に付勢されており、電磁ソレノイドに通電してセンターピンを駆動してスプールを押したり、電磁ソレノンドへの通電をOFFにしてスプールをばねで戻したりすることにより、オイルの流れを制御している。
【0008】
特許文献1では、オイルコントロールバルブ(スプール)をVVT装置の本体に内蔵しているOCV一体型であるため、特許文献2のようにシリンダブロックに取付けた場合に比べて、エンジンをコンパクト化できる利点がある。また、特許文献1のようにオイルコントロールバルブをVVT装置の本体に設けた場合は、タイミングチェーンを覆うチェーンカバー(フロントカバー)にソレノイドユニットを設けることになるが、チェーンカバーにソレノイドユニットを固定するのは簡単であるため、組み付けの作業性にも優れている。
【0009】
そして、特許文献1では、スプールの内部に戻されたオイルをカム軸の潤滑に利用しているが、カム軸の潤滑に利用しない場合は、スプールの内部に戻されたオイルはソレノイドユニットの側に向けて排出され、チェーンカバーで覆われた空間からオンルパンに流下することになる。
【0010】
従って、この場合は、スプールから排出されたオイルがソレノイドユニットのセンターピンに降りかかるが、センターピンとこれが挿通されているポールピース(ガイド蓋)との間は僅かながらクリアランスがあるため、このクリアランスからオイルがポールピースの内部に入り込むことがある。そこで従来は、ポールピースにその内部と連通したオイル排出穴を空けていたが、オイルを排出することはできても、長期に亙ってエンジンを運転していると、センターピンが固定されているアーマチャー(可動磁性体、プランジャ)の摺動不良が発生することがあった。
【0011】
この点について本願発明者たちが原因を研究したところ、数十μmの粒径の微細な金属粉がアーマチャーとこれをスライド自在に保持しているベアリングチューブ(ガイドスリーブ)との間の隙間に詰まっている現象が見られた。金属粉の成分は鉄であり、エンジンの製造工程で除去されなかったものがオイルに乗って循環し、ソレノイドユニットに至って悪影響を及ぼしていると推測される。
【0012】
本願発明はこのような知見と研究を背景に成されたものであり、スプールをカム軸と同心に配置して、その外側にソレノイドユニットを配置したVVT装置において、金属粉を含んだオイルがソレノイドユニットにおけるポールピースの内部に侵入することを大幅に抑制すると共に、金属粉が混入したオイルが侵入してもアーマチャーのスライドに悪影響を与えない技術を開示せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明は油圧式のVVT装置に係り、この油圧式VVT装置は、
「カム軸に向いた開口部を有するケーシング内に、前記カム軸と同心方向にスライドするアーマチャーと、前記アーマチャーを外側から抱持してそのスライドをガイドするベアリングチューブと、前記アーマチャーから前記カム軸の方向に突出したセンターピンを摺動自在に保持するポールピースとが配置され、
前記ポールピースは、前記センターピンが直接に又はブッシュを介して貫通した基板と、前記基板から前記アーマチャーに向けて突出した内向き筒部とを有して、前記基板は、前記内向き筒部の外側にはみ出たフランジ部を有しており、
前記センターピンの進退動によって油圧駆動ユニットにおけるスプールのスライドが制御され、前記油圧駆動ユニットの使用済みオイルは前記スプールの内部空間から前記ポールピースの側に排出される」
という構成において、
「前記ポールピースにおけるフランジ部の下部に、前記ポールピースの内部に入り込んだオイルを排出するオイル排出穴が形成されている」
という構成を備えている。
【0014】
本願発明において、オイル排出穴の位置はアーマチャーよりも低い位置が好適であり、更に好適な位置はセンターピンの真下である。請求項で特定している「下部」は、例えば、センターピンの軸心よりも下の部位として定義できるが、好適には、内向き筒部の内周下端に近い位置である。
【0015】
本願発明は、様々に展開できる。その例として請求項2では、
「前記ポールピースにおける内向き筒部の外周側のうち少なくとも下部に、前記内向き筒部を超えて流れ出たオイルが前記排出穴に向けて流れるオイル排出通路が、前記オイル排出穴に近づくほど低くなるように傾斜姿勢にて形成されている」
という構成になっている。
【0016】
更に請求項3では、請求項1又は2において、
「前記ポールピースにおける内向き筒部の外周面は前記基板に向けて拡径するテーパ状に形成されて、前記ポールピースにおける内向き筒部の外周面の外側に環状のオイル排出通路が形成されており、かつ、前記オイル排出穴は、前記内向き筒部の外周面を部分的に切除して形成されている」
という構成になっている。
【0017】
本願発明において、オイル排出穴の個数は1つには限定されない。センターピンの真下部に複数形成することも可能である。この場合は、ポールピースは、オイル排出穴が真下にくるように位置合わせする必要がある。オイル排出穴を周方向に等間隔で例えば4~6個程度形成して、ポールピースをどのような姿勢でセットしても、いずれかのオイル排出穴が下部に位置するように設定することも可能である。この場合は、ポールピースの位置合わせは不要になるので、組み付けの手間を軽減できる。
【発明の効果】
【0018】
本願発明では、オイル排出穴はポールピースの下部でかつフランジに開口しているため、金属粉を含んだオイルがポールピースの内部に入り込んでも、金属粉は重力によってオイルと一緒にミイル排出穴から流れ出る。従って、金属粉がポールピースの内部に溜まったままになることを防止又は著しく抑制して、金属粉がアーマチャーとベアリングチューブとの間に入り込むことを防止できるのであり、これにより、アーマチャーの作動を確実化してVVT装置の信頼性を向上できる。
【0019】
また、オイル排出穴がポールピースの内部に連通していると、スプールからポールピースの外面に降り掛かったオイルがオイル排出穴に流れ落ちることが有り得るが、オイル排出穴はポールピースのフランジでかつ下部に形成されていて、オイルがオイル排出穴に流れ落ちても当該オイル排出穴には侵入にくくなっているため、オイルがオイル排出穴からポールピースの内部に入り込む事態は発生しにくい。従って、ポールピースの内部へのオイル及び金属粉の侵入自体も著しく低減できる。
【0020】
更に述べると、センターピンとポールピースとの間のクリアランスは僅かであってオイルが侵入してもその量は多くないのに対して、オイル排出穴はその機能上ある程度の大きさがあるため、オイル排出穴からポールピースの内部にオイルが容易に侵入するとしたら、アーマチャーの内部への金属粉の侵入量が多くなってしまうが、本願発明では、オイル排出穴は下部にあってオイルが侵入しにくいため、金属粉の侵入自体も大幅に抑制できる。
【0021】
さて、オイルがポールピースの内部に入り込むことを防止することも不可能ではない。例えば、ポールピースにオイルシールを嵌着して、センターピンをオイルシールに密嵌させると、オイル及び金属粉の侵入は防止できると云える。しかし、オイルシールを設けると、センターピンの摺動抵抗が増大するため、アーマチャーの素早い動きが阻害されてバルブの開閉タイミングの制御の応答性が悪化するおそれがあり、さりとて、強力な磁力の電磁ソレノイドを設けると、ソレノイドユニットが大型化したり燃費が悪化したりする新たな問題の発生が懸念される。
【0022】
これに対して本願発明では、ポールピースの内部にオイルが入り込んでも悪影響はないため、センターピンの摺動抵抗を極力小さくすることができるのであり、従って、本願発明では、ソレノイドユニットの大型化やカム軸の制御応答性悪化を招来することなく、ソレノイドユニットの信頼性を向上できる。
【0023】
請求項2のようにオイル排出通路を下向きに傾斜させると、オイル及び金属粉が重力によって流れ落ちやすくなっているため、金属粉をオイルの流れに載せて速やかに排出できる。また、ポールピースの表面を伝い落ちたオイルがオイル排出穴に至っても、オイルがオイル排出穴からポールピースの内部に入り込むことはないため、オイル排出穴を通じて金属粉がポールピースの内部に入り込むことを防止できる利点もある。
【0024】
更に、請求項3の発明では、オイル排出通路が内向き筒部の全周に亙って形成されているため、オイル排出穴へのオイル及び金属粉の流れ込みを迅速化して、金属粉の排出を確実化できる。また、オイル排出穴は内向き筒部の外周面の一部まで食い込んでいることにより、オイル排出穴の直上部のオイル排出通路の断面積が大きくなるため、金属粉をオイルの流れに乗せて排出する効果を助長できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態の縦断側面図である。
図2図1の要部拡大図である。
図3】(A)はポールピースの下方斜視図、(B)は図2の要部拡大図である。
図4】(A)は第2実施形態の要部縦断側面図、(B)は第3実施形態の要部縦断側面図である。
図5】第4実施形態の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下では、方向を特定するため前後・上下の文言を使用するが、前後方向はカム軸の軸心方向(クランク軸心方向)であり、上下方向は鉛直方向である。前と後ろについては、タイミングチェーンの側からミッションケースの側を見て手前を前、奥を後ろとしている。
【0027】
(1).VVT装置の基本構造
まず、主として図1を参照してVVT装置の基本構造を説明する。VVT装置は、油圧の流路の切り換え機構を備えた油圧駆動ユニット1と、油圧駆動ユニット1を制御するソレノイドユニット2とから成っており、油圧駆動ユニット1はカム軸3に取付けられて、ソレノイドユニット2はチェーンカバー4にボルトで固定されている。なお、チェーンカバー4の上端にはヘッドカバー5の前壁が重なっている。
【0028】
カム軸3の前寄り部は、シリンダヘッド6に形成した軸受け部7とフロントカムキャップ8とで回転自在に保持されている。カム軸3は、フロントカムキャップ8で回転自在に保持されたフロントジャーナル部3aと、シリンダヘッド6及びフロントカムキャップ8よりも前向きに突出した張り出し部3bとを有しており、これらフロントジャーナル部3aと張り出し部3bとは、前向き開口穴9を有して筒状になっている。
【0029】
カム軸3の前向き開口穴9にセンターボルト10が手前からねじ込まれており、センターボルト10にロータ11が外側から嵌まり、更に、ロータ11は外側からハウジング12で覆われている。他方、カム軸3の張り出し部3bには、タイミングチェーン13を巻き掛けたチェーンスプロケット14が外側から相対回転可能に嵌まっており、ハウジング12の前面に重ねたアウタープレート15とハウジング12とチェーンスプロケット14とが、周方向に離れて配置された複数本のボルト16で一体に固定されている。従って、ハウジング12はチェーンスプロケット14と一体に回転する。
【0030】
ロータ11は、センターボルト10に設けたフランジ10aによってカム軸3の前端に押さえ保持されている。かつ、ロータ11とカム軸3とは、両者に貫通した位置決めピン17によって相対回転不能に保持されている。従って、ロータ11はカム軸3と一体に回転する。アウタープレート15は、センターボルト10のフランジ10aを外側から囲うように配置されている。
【0031】
図では明示していないが、ロータ11は、放射方向に突出した複数の外向き突出部を有してベーン形状になっている一方、ハウジング12の内周には、ロータ11における隣り合った外向き突出部の間に位置した複数の内向き突出部を有しており、これら外向き突出と内向き突出部との間に進角室と遅角室とが形成されている。進角室と遅角室とには、それぞれオイルが出入りするオイルポートが開口している。
【0032】
センターボルト10は前後に開口した筒状に形成されて、その内部に、底板18を有するスリーブ19が嵌め込まれており、かつ、スリーブ19の内部に、スプール20が前後スライド自在に配置されている。スリーブ19の後端は、ストッパー21によってセンターボルト10の後端の内向きフランジ22で支持されており、前端は、センターボルト10の前端部内面に装着したスナップリング23によって抜け止めされている。
【0033】
スプール20は、スリーブ19の底板18で支持されたばね24によって前進方向に付勢されており、既述のスナップリング23で抜け止めされている。模式的な表示であるが、スプール20の外周とスリーブ19の外周にはオイルポート25,26が形成されており、スプール20が前後動することにより、スプール20のオイルポート25がスリーブ19の2つのオイルポート26に選択的に連通して、ロータ11とハウジング12とが相対回転し、その結果、チェーンスプロケット14とカム軸3とが相対回転して、カム軸3が進角制御又は遅角制御される。
【0034】
油圧駆動ユニット1を駆動するオイルは、シリンダヘッド6に設けたオイルギャラリー27aから供給される。オイルギャラリー27aから送られたオイルは、シリンダヘッド6の上面に形成された溝通路27b、カム軸3に形成された環状通路28、カム軸3に形成された放射状通路29、カム軸3の前向き開口穴9を経由してセンターボルト10の内部に流入する。センターボルト10の後端部に、フィルター30と板状の逆止弁31とが配置されており、これらはストッパー21によってずれ不能に保持されている。
【0035】
図では明示していないが、ストッパー21及びスリーブ19には、オイルをスプール20のオイルポート25に導く油路が形成されている。スプール20は、後ろ向きに開口した中空でかつ外周面にオイルポート25が形成されており、更に、内外に連通した戻り用通路(図示せず)が形成されている。また、スプール20の先端は小径のヘッド部20aになっており、ヘッド部20aは、アウタープレート15の前方に突出している。スプール20の内部は、ヘッド部20aの後ろにおいて上下に開口しており、この開口がオイル逃がし口20b(図2参照)になっている。
【0036】
センターボルト10の前端には、スプール20のヘッド部20aを囲う環状壁10bが形成されており、スプール20から排出されたオイルは環状壁10bの縁から下方に流下する。
【0037】
ソレノイドユニット2は、チェーンカバー4に空けた取付け穴34に前から嵌め込み装着された後ろ向き開口のアウターケース35と、これに後ろから嵌入した前向き開口のインナーケース36とを備えており、アウターケース35とインナーケース36とでケーシングが構成されている。
【0038】
更に、ソレノイドユニット2は、インナーケース36の内部に配置した環状のコイル37と、コイル37で抱持された固定磁性体(コア)38と、固定磁性体38で囲われたベアリングチューブ(ガイドスリーブ)39と、ベアリングチューブ39にスライド自在に抱持されたアーマチャー(可動磁性体、プランジャ)40と、アーマチャー40から後ろ向きに突出したセンターピン(駆動ピン)41と、センターピン41がブッシュ42を介してスライド自在に挿通されたポールピース(ガイド蓋)43とを備えている。
【0039】
センターピン41はスプール20と同心に配置されており、かつ、後退状態ではスプール20との間に若干の間隔が空いている。コイル37に通電すると、アーマチャー40及びセンターピン41が前進してスプール20が後退する。センターボルト10の環状壁10bとポールピース43との間には隙間が空いており、オイルは隙間から下方に流下する。なお、アウターケース35には、コネクタを接続する接続部44が設けられている。
【0040】
(2).ポールピース・アーマチャー
次に、主として図2,3を参照してポールピース43とアーマチャー40を説明する。ポールピース43は、円板状の基板45とこれから前向きに突出した内向き筒部46とを備えている。基板45は、内向き筒部46の外周外側に張り出したフランジ部45aを有しており、フランジ部45aが、インナーケース36に形成された円形の開口に強制嵌合によって嵌着されている。
【0041】
ポールピース43の内向き筒部46は、内周面はセンターピン41の軸心と平行なストレート形状であるが、外周面46aは基板45のフランジ部45aに向けて拡径したテーパ面になっている。他方、ベアリングチューブ39は、前端に底部39aを有して後ろ向きに開口しており、底部39aには、アーマチャー40が当たる環状突起47を形成している。また、ベアリングチューブ39の前端には、外向き段部39bと、外向き段部39bに連続した後ろ向き拡径のテーパ部39cと、テーパ部39cの開口縁に設けたフランジ部39dとが形成されており、フランジ部39dがポールピース43のフランジ部45aに当たっている。従って、ベアリングチューブ39は、ポールピース43によって前後ずれ不能に保持されている。
【0042】
ポールピース43における内向き筒部46の内径は、ベアリングチューブ39におけるストレート部の内径(或いはアーマチャー40の外径)よりも少し大径になっている。このため、内向き筒部46における前端の下端は、ベアリングチューブ39におけるストレート部の下端よりも少し低くなっている。
【0043】
そして、ポールピース43の内向き筒部46とベアリングチューブ39の外向き段部39bとの間には環状の第1隙間48が空いて、ポールピース43の内向き筒部46とベアリングチューブ39のテーパ部39cとの間には、テーパ状で環状の第2隙間49が空いている。
【0044】
更に、ポールピース43におけるフランジ部45aの下端に、前後に開口したオイル排出穴50が空いている。この場合、オイル排出穴50は内向き筒部46の外周面46aを部分的に切除して形成されている。このため、内向き筒部46の外周面46aに、下向きに開口した溝51が形成されている。オイル排出穴50はセンターピン41の真下に配置しているが、厳密に真下である必要はなく、目視で概ね下に位置していたらよい。
【0045】
アーマチャー40の前後動に連動してスプール20が前後動し、これによってカム軸3の進角・遅角制御が行われるが、センターピン41の円滑なスライドを許容するために、センターピン41とブッシュ42との間には若干のクリアランスを設けている。このため、センターピン41とブッシュ42とのクリアランスからオイルがポールピース43の内部に滲み出ることがある。
【0046】
滲み出たオイルは内向き筒部46の下端に流下するが、オイル排出穴50がポールピース43のフランジ部45aの下端に形成されているため、オイルは、内向き筒部46の内面を伝って第1及び第2の隙間48,49からオイル排出穴50に流れ込み、そしてチェーンカバー4で囲われた空間を下方に流下する。そして、オイルに金属粉が混入していると、金属粉はオイルの流れに乗って排出される。
【0047】
この場合、内向き筒部46の内周面における先端部の下端はベアリングチューブ39の内周面の下端よりも少し下に位置しているため、オイル及び金属粉がベアリングチューブ39とアーマチャー40との間の隙間に侵入することとはない。従って、ポールピース43の内部に侵入したオイルに金属粉が混入していても、金属粉がベアリングチューブ39とアーマチャー40との間の隙間に侵入することはなくて、アーマチャー40が作動不良を引き起こすことはない。
【0048】
従って、センターピン41とブッシュ42との間のクリアランスをラフにして、センターピン41のスムースなスライドを保証しつつ、アーマチャー40のスムースなスライドを確保して高い信頼性を保持できる。更に、オイル排出穴50をセンターピン41の真下に配置すると、オイルは内向き筒部46の内部に溜まることなく全量が排出されるため、オイルに混入していた金属粉が重力によって内向き筒部46の下端に堆積する現象の発生を防止して、金属粉を漏れなく速やかに排出できる。本実施形態はこの面でも有益である。
【0049】
また、スプール20から放出されたオイルがオイル排出穴50にかかることがあるが、オイル排出穴50は内向き筒部46の内周面よりも下方に位置しているため、オイルがオイル排出穴50を逆流してポールピース43の内部に入り込む現象は生じない。従って、ポールピース43の内部へのオイル及び金属粉の侵入自体が著しく抑制される。
【0050】
アーマチャー40は内向き筒部46の内部に向けて前進するが、そもそもポールピース43の内部に侵入するオイル及び金属粉の量は僅かであり、かつ、オイル及び金属粉が侵入しても速やかに排出されるため、内向き筒部46の下端にオイル及び金属粉が溜まることは無いか、あったとしても溜まる量はごく僅かである。従って、前進したアーマチャー40の下面にオイルが付着して、オイルに含まれていた金属粉がアーマチャー40とベアリングチューブ39との間の隙間に入り込むといった現象を防止できる。
【0051】
本実施形態では、第1及び第2隙間48,49の下端部が請求項に記載したオイル排出通路を構成しているが、第2隙間49は後ろに向けて拡径したテーパになっているため、オイル排出通路は下向きに傾斜している。従って、オイル及び金属粉の排出がスムースに行われると共に、金属粉を含んだオイルがオイル排出穴50からポールピース43の内部に入り込む現象も生じない。
【0052】
実施形態のように、オイル排出穴50を内向き筒部46の一部まで広げると、オイル排出穴50は、その全体をオイル排出通路(第2隙間49)に連通させつつできるだけ大径化できるため、金属粉をオイルの流れに載せて排出する効果を助長できる。
【0053】
センターボルト10の環状壁10bとポールピース43の基板45とは、略同じ外径になっている。従って、環状壁10bから流下したオイルはオイル排出穴50を舐めるようにして流下するが、環状壁10bから排出されたオイルの流れによるエゼクタ効果によって、オイル排出穴50からオイルが下方に吸い出される現象が発生し得る。この面でも、オイル排出穴50からのオイルの排出を確実化できると云える。
【0054】
なお、オイル排出穴50はドリル加工によって形成されているが、ドリルを基板45に対して外側から(図の状態で後ろから)当てると、ドリルの滑りを生じることなくオイル排出穴50を正確に穿孔できる利点がある。
【0055】
(4).他の実施形態
図4,5では他の実施形態を表示している。このうち図4(A)に示す第2実施形態では、ポールピース43の内向き筒部46のうち下端に、オイル排出用補助通路として、前向きに開口した切欠き52を形成している。このように形成すると、金属粉がアーマチャー40に至ることをより確実に防止できる。
【0056】
図4(B)に示す第3実施形態では、内向き筒部46に、その内外に開口した(上下に開口した)内外連通穴53を形成している。この実施形態では、ポールピース43の内部に侵入したオイル及び金属粉は、内外通路穴53と第2隙間49とを経由してオイル排出穴50に至って排出される。従って、この実施形態では、金属粉をオイル排出穴50に速やかに導いて排出できる利点がある。図4(A)(B)の実施形態では、内向き筒部46の先端がベアリングチューブ39の外向き段部39bに当接していても、金属粉をオイルの流れによって排出できる。
【0057】
図4(B)では、オイル通路穴53は内向き筒部46の付け根部に形成しているが、その位置(前後位置)は任意に設定できる。また、内外連通穴53を内向き筒部46の付け根部に形成した場合、一点鎖線で示すように、内向き筒部46の内周面46bを後ろ広がりのテーパ面に形成して、テーパ面の最大径の箇所に内外連通穴53を開口させると、油面を下に大きく下げることができるため、金属粉がアーマチャー40の外周面に触れることをより確実に防止できる利点がある。なお、図4の実施形態は、第1実施形態や後述する第4実施形態にも適用できる。
【0058】
図5に示す第4実施形態では、オイル排出穴50を周方向に等間隔で4つ形成している。このように構成すると、ポールピース43をどのような姿勢で配置しても、いずれかのオイル排出穴50がポールピース43の下部に位置するため、姿勢合わせの手間を要することなく、オイルの排出を確実化できる。
【0059】
図5では、2つオイル排出穴50が下部において同じ高さになっている状態を表示しており、この状態から左右いずれかに回転すると、1つのオイル排出穴50は更に下方に位置する。従って、図5の状態のときに、オイル排出穴50は下部のうちの最も高い位置に位置している。
【0060】
そして、ポールピース43の内部に溜まったオイル及び金属粉は、内向き筒部46の先端を乗り越えて第2隙間49(右下がりのハッチング参照)に溜まり、そしてオイル排出穴50から排出されるが、オイル排出穴50がポールピース43のフランジ部45aに形成されていることから、オイル排出穴50は下方に大きくずれており、従って、ポールピース43の内部に溜まるオイル及び金属粉の量は僅かである(左下がりハッチング参照)。従って、この実施形態でも、金属粉がアーマチャー40に付着することを防止又は著しく抑制できる。
【0061】
図5において、比較として、オイル排出穴50を内向き筒部46の内側に配置した状態を一点鎖線で表示しているが、この場合は、点線で示すように、オイル溜まりの油面54は常にアーマチャー40の下端よりも上に位置しているため、オイルは、アーマチャー40が部分的に浸かる状態まで溜まらないと排出されない。従って、金属粉の滞留現象が生じて、金属粉がアーマチャー40とベアリングチューブ39との間の隙間に侵入する機会が増大することになる。
【0062】
また、オイル排出穴50は内向き筒部46の内面の下端よりも上に位置しているため、重い金属粉はオイル排出穴50に到達できずに、金属粉が内向き筒部46の内部に増えていくことが想定され、すると、溜められた金属粉が振動によってアーマチャー40とベアリングチューブ39との間の隙間に侵入しやすくなると云える。
【0063】
これに対して、第4実施形態では、内向き筒部46に溜まるオイルの量を格段に軽減できるのみならず、金属粉及びオイルが内向き筒部46の内部に溜まっても、金属粉はオイルの流れに乗って内向き筒部46の先端から排出される。従って、複数のオイル排出穴50を形成して組み付けの手間を無くしつつ、アーマチャー40の作動を確実化できる。
【0064】
また、複数のオイル排出穴50はそれぞれフランジ45aに形成されており、仮に上部に位置したオイル排出穴50にオイルが入り込んでも、オイルは内向き筒部46の外側を伝って下方に流下するため、オイル及び金属粉が内向き筒部46の内部に侵入することはない。
更に、オイル排出穴50はセンターピン41から遠く離れているため、スプール20から排出されたオイルがふりかかるエリアからも外側に外れている。従って、複数のオイル排出穴50を形成しても、上部に位置したオイル排出穴にオイルが流れ込むこと自体が現実には生じないといえる。
【0065】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、オイル排出穴はフランジの外周に開口した切欠きの形態に形成することも可能である。油圧駆動ユニットやソレノイドユニットの具体的構成は実施形態に限られず、様々に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本願発明は、ソレノイドユニットで制御される油圧式VVT装置に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0067】
1 油圧駆動ユニット
2 ソレノイドユニット
3 カム軸
4 チェーンカバー
6 シリンダヘッド
8 フロントカムキャップ
10 センターボルト
11 ロータ
12 ハウジング
13 タイミングチェーン
14 チェーンスプロケット
15 アウタープレート
19 スリーブ
20 スプール
35 ケーシングを構成するアウタースース
36 ケーシングを構成するインナースース
37 コイル
39 ベアリングチューブ
40 アーマチャー
41 センターピン
42 ブッシュ
43 ポールピース
45 基板
45a フランジ部
46 内向き筒部
46a 外周面
48 オイル排出通路を構成する環状の第1隙間
49 オイル排出通路を構成する環状の第2隙間
50 オイル排出穴
51 溝
図1
図2
図3
図4
図5