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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155124
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】排気ガス浄化用プラズマリアクタ
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
F01N3/08 C
F01N3/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058469
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】松田 千尋
(72)【発明者】
【氏名】間所 和彦
(72)【発明者】
【氏名】内藤 一哉
【テーマコード(参考)】
3G091
【Fターム(参考)】
3G091AB08
3G091AB14
3G091BA13
3G091BA15
(57)【要約】
【課題】電極パネルに電極とHC用吸着層とを設けた排気ガス用プラズマリアクタにおいて、電極による放電性能を悪化させることなく吸着層を形成する。
【解決手段】各電極パネル4の表面に、電極7と吸着層9とが排気ガスの流れ方向に交互に並んでいる。電極7は吸着層9に重なっていないため、エンジンの始動時に吸着層9が水分によって湿潤しても、放電性能が悪化することはない。吸着層9と電極7とは交互に並んでいるため、HCはいずれかのHC吸着層9に捕集されたり、いずれかの電極7の箇所でプラズマによって分解されたりする。従って、浄化性能の低下はない。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスが通過するケース内に、多数枚の電極パネルが放電空間を空けた状態で積層されており、前記各電極パネルの表裏両面に、それぞれ複数本の電極が並設されている構成であって、
前記各電極パネルの表裏両面のうち両面又は片面に、HC又は他の有害成分を捕集できる吸着層が前記電極と交互に並んだ状態で形成されている、
排気ガス浄化用プラズマリアクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、排気ガスを浄化するためにエンジンの排気系に配置されるプラズマリアクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジン(内燃機関)の排気ガス浄化手段としては、現在、ガソリンエンジンでは三元触媒が主流で、ディーゼルエンジンではDOC+DPFが主流であるが、これらに代えて又はこれらに加えてプラズマリアクタを排気系に配置し、プラズマを利用して有害物質(特にPM(Particulate Matter:粒子状物質)を分解する(酸化、燃焼させる)ことが研究されている。
【0003】
プラズマリアクタは、排気ガスが流れるケース内に、放電空間(プラズマギャップ)を介して多数枚の電極パネルを積層した構造になっており、PMやHC(炭化水素)の分解性能に優れているが、エンジンの始動時のように排気ガスにHCの発生が多くてしかも水分が多い運転域では、水分のために放電性能が低下してHC等の分解性能が低下する問題があった。
【0004】
そこで、電極パネルにHC吸着層を設けて、HCをHC吸着層に一時的に吸着することが提案されており、その例として、特許文献1には、電極(導体)が電極パネルの厚さ内に内蔵されているタイプのプラズマリアクタにおいて、放電空間を挟んで隣り合った電極パネルに、HC吸着層と露出部とを対向するように配置することが開示されている。
【0005】
特許文献1のように、HC吸着層と露出部とを対向させると、HC吸着層が対向している場合に比べて湿潤の程度を抑制できるため、放電性能の低下を抑制できる。その結果、HCの分解性能の低下を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-118125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、電極パネルの内部に電極(導体)が配置されているため、HC吸着層を設けた電極パネルでは、放電はHC吸着層を透過して行われる。従って、HC吸着層に水分が付着していると抵抗が増大して放電性能が低下することは防止できず、このため、排気ガスに含まれた水分に起因した有害成分分解性能の低下を完全に防止できるには至っていない。
【0008】
本願発明はこのような現状を背景に成されたものであり、プラズマリアクタにHC吸着層を設けてハイブリッド化することは特許文献1と軌を一にしつつ、HC吸着層を設けたことによる放電性能低下を防止して、放電(プラズマ)による浄化機能とHC吸着層の機能とを全うさせんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明のプラズマリアクタは、請求項1のとおり、
「排気ガスが通過するケース内に、多数枚の電極パネルが放電空間を空けた状態で積層されており、前記各電極パネルの表裏両面に、それぞれ複数本の電極が並設されている構成 であって、
前記各電極パネルの表裏両面のうち両面又は片面に、HC又は他の有害成分を捕集できる吸着層が前記電極と交互に並んだ状態で形成されている」
という構成になっている。吸着層は、例えばゼオライトの粉末で構成できる。
【0010】
電極と吸着層とは排気ガスの流れ方向に長い姿勢に形成することも可能ではあるが、電極への通電の容易性からは、電極と吸着層とを排気ガスの流れ方向と直交した方向に長い姿勢に形成し、電極パネルの電極とケースの内側面に配置した電極とを接触させるのが好ましい。
【0011】
電極と吸着層の本数は任意に設定できる。また、電極の幅と吸着層の幅も任意に設定できる。消費電力の抑制のためには電極はあまり広幅でないのが好ましい一方、吸着層はある程度の横幅が必要であるので、一般には、吸着層の幅が電極の幅よりも大きくなることが多いと云える。隣り合った電極と吸着層との間には若干の隙間を空けておくのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本願発明では、電極と吸着層とが交互に配置されているため、吸着層が水分で湿潤しても放電の抵抗にはならず、プラズマによるHCやPMの浄化機能低下は生じない。そして、電極と吸着層は電極パネルの表面に形成(塗膜)されていることにより、電極が電極パネルの内部に配置されている場合に比べて、電極パネル間の間隔をできるだけ大きくとることができるため、有害成分の浄化性能を低下させることなく、排気ガスの流れ抵抗も抑制できる。
【0013】
また、電極の本数を増やす必要はなく、隣り合った電極の間の間隔を広げてこれに吸着層を配置すればよいため、消費電力を増やす必要はない。従って、燃費の悪化は生じない。また、部材の追加などはないため、プラズマリアクタが大型化することもない。
【0014】
電極と吸着層とが排気ガスの流れ方向に交互に並んでいると、排気ガスに乗って飛来したHCが1列目のHC吸着層で全量が捕集されなくても、1列目のHC吸着層を通過したHCは、次の電極の箇所でプラズマによって分解されたり、次の列のHC吸着層に捕集されたりしていき、排気ガス通過空間(電極パネル間)を通過するHCは、いずれかの吸着層に吸着されるか、いずれかの電極の箇所で分解される。従って、HCの無害化を大幅に促進できる。また、プラズマによって分解されたHCはそのまま下流に放散されるため、後続の吸着層の負担を軽減できる利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係るプラズマリアクタの概略縦断側面図、(B)は(A)の拡大平面図、(C)は(B)のC-C視断面図である。
図2】第2実施形態の部分的な縦断側面図である。
図3】第3実施形態の部分的な縦断側面図である。
図4】第4実施形態に係る電極パネルの平面図である。
図5】第5実施形態の部分的な縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車用エンジンの付属品として使用されている。
【0017】
(1).第1実施形態の構造
まず、図1に示す第1実施形態を説明する。図1のうち(A)において、プラズマリアクタ1の全体を概略表示している。このプラズマリアクタ1は、エンジンの排気ガスからPM等の有害成分を分解するために、排気管2の中途部(例えば触媒式浄化装置の下流側)に配置されている。
【0018】
プラズマリアクタ1は、フロントコーン部3a及びリアコーン部3bを備えたケーシング(ハウジング)3と、ケーシング3のストレート部に並列配置された多数枚の電極パネル4とを備えている。電極パネル4は、排気ガスの流れ方向と直交した方向に細長い長方形になっており、多数枚が排気ガス通過空間5を介して積層状に配置されている。
【0019】
なお、電極パネル4は、排気ガスの流れ方向に長い長方形に形成したり、排気ガスの流れ方向の長さと排気ガスの流れ方向と直交した横幅とが同じ正方形に形成したりすることも可能である。ケーシング3はステンレス鋼板等の金属板で作られており、排気ガスの流れ方向から見て四角形になっている。従って、コーン部3a,3bは、角錐状の形態になっている。
【0020】
電極パネル4の群は、図では上下に並んでおり、便宜的に図1(B)を平面図と呼んでいるが、電極パネル4を鉛直姿勢に配置して水平方向に並べることも可能である。すなわち、排気ガスが排気ガス通過空間5を通過したらよいのであり、電極パネル4の姿勢は問題ではない。
【0021】
電極パネル4は、絶縁基板6の表面に電極7を設けた基本構造になっている。基板6は、例えばアルミナ等のセラミック製である。一方、電極7はタングステン等の電気抵抗が小さくて高融点の金属膜から成っており、例えば、ペースト状の材料をスクリーン印刷等によって塗布してから焼成して形成している。電極パネル4を構成する基板6は、強度維持の点からある程度の厚さ(例えば0.3~2mm程度)が必要である一方、排気ガス通過空間の間隔(プラズマギャップ)は0.1 ~2mm程度である。
【0022】
図1(B)のとおり、電極パネル4の群は、排気ガスの流れ方向に広がる一対の側面パネル8で挟まれている。図示は省略するが、側面パネル8には、各電極パネル4の端面に設けた側面電極に通電する上下長手の中継電極が形成されている。そして、正確には、電極パネル4は正極のものと負極のものとが交互に並んでいて、側面パネル8の中継電極も、正極用と負極用とが上下に交互に並んでおり、正極用の中継電極の群と負極用の中継電極の群とはそれぞれ1本に集合して、制御回路に接続されている。
【0023】
そして、各電極パネル4の表裏両面に、HC用の吸着層9が電極7と交互に並んで形成されている。吸着層9は、例えばゼオライト粉末から成っており、ペースト状に形成したものを塗布して乾燥させたり、電極パネル4に塗工した接着剤層にゼオライト粉末を付着させて接着剤層を乾燥させるなどして形成されている。
【0024】
吸着層9の横幅は電極7の横幅より大きくなっている。また、電極7は4本で吸着層9は5本形成されているが、両者の本数や幅寸法は、必要とされる浄化能力に応じて設定したらよい。電極7は吸着層9で挟まれており、従って、電極7と吸着層9との群のうち最も下流側は吸着層9で構成されているが、最も下流側を電極7で構成してもよい。図では電極7と吸着層9とを同じ厚さに表示しているが、両者の厚さを異ならせてもよい。
【0025】
(2).第1実施形態のまとめ
図示しない電源装置により、マイナス側面電極にバルス電流を通電して、マイナス側の電極パネル4の電極7とプラス側の電極パネル4の電極7との間に数KVの高圧電流を印加すると、排気ガス通過空間にプラズマが発生して、排気ガスに含まれているPMやHC等を酸化し無害化(分解する)できる。
【0026】
そして、冷間始動時には、排気ガスに水分が多く含まれていると共にHCの発生量が多いが、実施形態では電極パネル4に吸着層9が形成されているため、HCや水分は吸着層9に吸着される。他方、吸着層9と電極7とは交互に配置されていて、隣り合った電極パネル4の電極7は互いに露出した状態で対向しているため、吸着層9を設けたことに起因して放電に抵抗が発生することはない。従って、PMやHCの分解性能を低下させることなく、吸着層9に水分やHCを担持できる。これにより、排気ガスの浄化能力低下を防止できる。
【0027】
この場合、電極7は電極パネル4の表面に形成されているため、電極パネル4同士の間隔をできるだけ広げつつ、プラズマギャップを確保できる。従って、排気ガスの流れ抵抗を抑制しつつ、高い浄化性能を保持できる。電極7の数を増やす必要はないため、消費電力の増大は無く、また、他の部材の付加などは不要なので、プラズマリアクタ1の大型化やコストアップは生じない。
【0028】
排気ガスは高速で流れるが、排気ガスの流れ方向に沿って複数の吸着層9が配置されているため、HCは、1番目を通り過ぎても2番目に吸着され、2番目を通り過ぎても3番目に吸着される、というようにして、HCを吸着層9の群によって吸着できる。また、吸着層9を素通りしたHCは、後続の電極7の箇所でプラズマによって分解もされる。
【0029】
結局、排気ガスに乗って飛来したHCの群は、吸着層9への吸着と電極7による分解との作用を交互に受けるが、吸着層9と電極7は互いに分離していてそれぞれ機能を十二分に発揮するため、HCが排気ガス通過空間5を通り抜けてしまうことを防止して、高い浄化性能を確保できる。
【0030】
なお、実施形態のように電極7と吸着層9とを近接させると、吸着層9の縁部に吸着されたHCをプラズマに晒して分解することができる利点がある。エンジンの始動からある程度の時間が経過すると、例えば触媒式浄化装置が活性化することによってHCの発生は無視できる程に減少する。
【0031】
また、吸着層9に吸着されていたHCは、時間の経過と共に吸着層9から徐々に放散されるが、放散されたHCは、後続の電極7の箇所においてプラズマによって分解・無害化される。水分も同様であり、時間の経過と共に昇温によって蒸発して放散し、悪影響はなくなる。
【0032】
(3).他の実施形態・その他
第1実施形態では、各電極パネル4の両面に吸着層9を形成したが、図2に示す第2実施形態では、各電極パネル4の片面のみに吸着層9を形成している。この実施形態とは異なって、両面に吸着層9が形成された電極パネル4と、吸着層9が全く存在しない電極パネル4とを交互に積層することも可能である。
【0033】
図3に示す第3実施形態では、隣り合った電極パネル4の相対向した面に、1つ飛びで吸着層9を形成することにより、一方の電極パネル4と電極7と他方の電極パネル4の吸着層9とを交互に並べている。このような態様も、請求項1の構成に含まれている。
【0034】
図4に示す第4実施形態では、電極7と吸着層9とをジグザグ状に形成している。このように構成すると、電極パネル4の大きさを変えることなく電極7及び吸着層9の長さを長くできるため、単位面積当たりの浄化性能を向上できる。なお、電極7と吸着層9とのうち片方のみをジグザグに形成することも可能である。
【0035】
以上、図示した実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、吸着層の幅を上流から下流に向けて小さくするというように、互いに幅を異ならせることも可能である。或いは、吸着層を、電極を挟んだ片側又は両側に複数本ずつ配置するといったことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本願発明は、排気ガス浄化用プラズマリアクタに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0037】
1 プラズマリアクタ
2 排気管
3 ケーシング(ハウジング)
4 電極パネル
5 排気ガス通過空間
6 絶縁基板
7 電極
9 HC用の吸着層
図1
図2
図3
図4
図5