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  • 特開-自動車用エンジンの油量一定化装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155126
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】自動車用エンジンの油量一定化装置
(51)【国際特許分類】
   F01M 11/06 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
F01M11/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058471
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 大文
【テーマコード(参考)】
3G015
【Fターム(参考)】
3G015BB11
3G015BC01
3G015BC03
3G015BC05
3G015BL01
3G015BL08
3G015CA07
3G015DA02
3G015DA04
3G015EA14
3G015EA15
(57)【要約】
【課題】負圧を利用してオイルパンの油量を一定に保持する装置を備えた自動車用エンジンにおいて、走行による油面の変動の影響を無くして自動給油を可能として、現実性を向上させる。
【解決手段】油量保持装置は、リザーバタンク13とオイル供給管路16と空気管路20とを備えている。空気管路20の上端はリザーバタンク13の空気層21に開口し、空気管路20の下端は筒状体24の上部で囲われている。筒状体24は、深底部9の中央部のように油面の変動が最も少ない箇所に配置している。自動車がカーブを走行するなどして油面が傾いても、筒状体24の内部での油面の変動は殆どないため、空気管路20の意図しない通気による過剰給油を防止できる。油中に発生した気泡34の混入も防止できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルパンよりも高い位置に配置されたリザーバタンクと、前記リザーバタンクの貯油部と前記オイルパンの貯油部とを繋ぐオイル供給管路と、上端は前記リザーバタンクのうち油面より上の空気層に位置して下端は前記オイルパンの基準油面に位置した空気管路とを備えており、
前記オイルパンの油面が前記基準油面から下がると、前記リザーバタンクからオイル供給管路を介してオイルが前記オイルパンに流れるようになっている構成であって、
前記オイルパンのうち自動車の走行に起因した油面変動が最も少ない部位に、油面上に位置した露出部と油中に浸かって内部に通油自在な浸漬部とを有する上下長手の筒状体が配置されて、前記筒状体の露出部に前記空気管路の下端が配置されている、
自動車用エンジンの油量一定化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、自動車用エンジンに付設したオイルパンの油量を一定に保持する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等のエンジンにおいて、潤滑等のためのオイルをオイルパンに溜めているが、エンジンの運転によってオイルパンが機関の各部位に送油されるとオイルパンの貯油量は減少して油面は下がる。従って、オイルパンの油面が低下してもオイルポンプによる空吸いが発生しないように、オイルパンに溜めるオイルの量を設定しているが、時間の経過とともにオイルは消費されていく。
【0003】
そこで、油面の下限値を設定して、油量が下限値まで低下するとオイルを補給しているが、オイルの補給は手間がかかる。さりとて、オイルパンを大型化してオイルを大量に溜めておくと、重量増大によって燃費が悪化する問題や、冷間始動時のオイルの昇温に時間がかかって、これまた燃費が悪化するという問題がある。
【0004】
この点について、特許文献1には、オイルを溜めるリザーバタンクを設けて、リザーバタンクにおける空気層の負圧を利用してリザーバタンクからオイルパンへの給油を継断することにより、オイルパンの油面を一定に保持する技術が開示されている。
【0005】
すなわち、特許文献1では、リザーバタンクの貯油部とオイルパンの貯油部とはオイル供給管路で繋がって、リザーバタンクの上部の空気層とオイルパンの基準油面とは空気管路(調圧通路)で繋がっており、オイルパンの油面が下がるとリザーバタンクの負圧が解除されてオイルがオイルパンに流れ込み、空気管路の下端がオイルパンのオイルに漬かると、リザーバタンクの空気層は負圧状態になってオイルの流下が停止する。
【0006】
この特許文献1の技術を採用すると、オイルパンには必要最小限度のオイルを溜めておくだけでよいため、オイルパンをコンパクト化できると云える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2718479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さて、自動車が加減速したりカーブを走行したりすると、オイルパンのオイルには慣性力が作用するため、油面の傾きやオイルの移動が発生する。従って、特許文献1の構成では、オイルパンに必要な油量が維持されているにもかかわらず、油面の傾きやオイルの移動によって空気管路が開放されて、オイルがオイル供給管路からオイルパンに過剰供給されてしまう事態が懸念される。
【0009】
また、オイルパンにはオイル落とし通路を介してオイルが動弁室から流下しており、オイルが流れ落ちた衝撃で油槽に泡立ちが発生する現象がみられるが、特許文献1の構成では気泡が空気管路に流入するおそれがあり、すると、リザーバタンクの負圧が解除されてオイルがオイルパンに過剰流入してしまうことになる。すなわち、気泡に起因して空気管路が誤反応してしまうおそれがあり、正確性に劣るという問題がある。
【0010】
本願発明はこのような現状を契機に成されたものであり、特許文献1と同じ原理を利用しつつ、自動車用エンジンのオイルパンのように油面の変動が激しい場合でも的確に油量調節をできる技術を開示せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は自動車用エンジンの油量一定化装置に係り、
「オイルパンよりも高い位置に配置されたリザーバタンクと、前記リザーバタンクの貯油部と前記オイルパンの貯油部とを繋ぐオイル供給管路と、上端は前記リザーバタンクのうち油面より上の空気層に位置して下端は前記オイルパンの基準油面に位置した空気管路とを備えており、
前記オイルパンの油面が前記基準油面から下がると、前記リザーバタンクからオイル供給管路を介してオイルが前記オイルパンに流れるようになっている」
という基本構成である。
【0012】
そして、上記基本構成において、
「前記オイルパンのうち自動車の走行に起因した油面変動が最も少ない部位に、油面上に位置した露出部と油中に浸かって内部に通油自在な浸漬部とを有する上下長手の筒状体が配置されて、前記筒状体の露出部に前記空気管路の下端が配置されている」
という特徴を有している。
【0013】
筒状体は、オイルパンの底部に固定してもよいし、ブラケットを介してオイルパンに取付けてもよい。或いは、バッフルプレートに取付けることも可能である。筒状体の配置位置は自動車の走行等による油面の変動が最も少ない部位であるが、例えば、オイルパンの深底部のうち平面視で中央部に配置する場所が好適である。
【発明の効果】
【0014】
筒状体は空気管路の下端部を囲う堰部材として機能しており、面積は小さいため、自動車の加減速やカーブ走行などに起因してオイルパンのオイルに慣性力が作用して、油面が傾斜したりオイルが移動したりしても、筒状体の内部に溜まっているオイルには慣性力は殆ど作用しないため、筒状体の内部において油面は殆ど一定に保持されてる。
【0015】
従って、自動車の動きに起因したオイルの動きが発生しても、オイルパンの液面を正確に検知して、オイルをオイルパンに正確に補給できる。従って、自動車用エンジンの油量一定化装置として実用化を促進できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態を示す縦断正面図である。
図2】別例の縦断正面図である。
図3】それぞれ別例の平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
(1).構造の説明
図1に示すように、エンジンは、シリンダボア2が形成されたシリンダブロック1と、その下面にボルト3aで固定されたオイルパン3とを備えている。シリンダブロック1のジャーナル4には、軸受けメタル5及びクランクキャップ6を介してクランク軸7が回転自在に保持されている。一点鎖線で示す円8は、クランクアーム又はクランクウエイトの回転軌跡を示している。
【0019】
オイルパン3の底は、例えばタイミングチェーンに近い前側のある程度の範囲を深底部9と成して、深底部9よりも後ろの部位はオイルに漬からない浅底部10と成しており、かつ、深底部9は、オイルパン3の一長手側面の側に偏った状態で形成されている。図示していないが、オイルの吸い上げ口(ストレーナ)は深底部9に配置されている。
【0020】
オイルパン3の内部のうち少なくとも深底部9の箇所に、オイルの跳ね上がり防止やオイルジェット流下による泡立ち防止等のためにバッフルプレート11を配置している。バッフルプレート11は、オイルパン3に設けたリブ(或いはボス)12にビスで固定されている。
【0021】
シリンダブロック1の一長手側面の側方に、オイルパン3の油面を一定化するためのリザーバタンク13がブラケット(図示せず)を介して配置されている。リザーバタンク13は、キャップ14で封止された注油口15を備えている。そして、リザーバタンク13の下端にオイル供給管路16を接続し、オイル供給管路16の下端をオイルパン3における深底部9の下部に配置している。
【0022】
オイル供給管路16は、上端がリザーバタンク13の下向きポート17に接続された第1パイプ16aと、下端がオイルパン3の油中に浸漬した第2パイプ16bとで構成されており、両者は、オイルパン3の一側部に固定した継手18を介して接続されている。リザーバタンク13の下向きポート17に手動式の開閉バルブ19を設けている。開閉バルブ19はリザーバタンク13に給油するときに閉じておくもので、通常は開いている。開閉バルブ19は第1パイプ16aに設けてもよい。
【0023】
リザーバタンク13は最高油面20が設定されており、従って、リザーバタンク13の上部には常に空気層21が存在しているが、この空気層21とオイルパン3の深底部9の油面部とが、空気管路22によって連通している。
【0024】
空気管路20は、リザーバタンク13に形成された上中継筒部23と、バッフルプレート11に固定された筒状体24に設けた下中継筒部25と、上下の中継筒部23,25に接続されたメインホース26とで構成されている。従って、上中継筒部23の下部はリザーバタンク13の下面から下向きに突出しており、下中継筒部25は筒状体24の上端から上向きに突出している。メインホース26はシリンダブロック1に設けた貫通穴27にシール体28を介して挿通している。
【0025】
筒状体24は円筒状の形態を成して、オイルパン3の油面上に位置した露出部と、油中に漬かった浸漬部とを有しており、オイルパン3における深底部9のうち平面視で中央部に配置されている。筒状体24の下端はオイルパン3の底面に近接している(当接させてもよい。)。また、筒状体24の下端部には、1つ又は複数の通油穴29が開口している。なお、通油穴29は下向きに開口したスリット状の形態であってもよい。
【0026】
筒状体24の上端は蓋板30で塞がれており、蓋板30に、下中継筒部25が上下に突出した状態で一体に形成されている。また、筒状体24は、バッフルプレート11に上から重ね固定されたフランジ31を一体に備えている。
【0027】
空気管路20の下端部を構成する下中継筒部25の下端は、オイルパン3の基準油面32と同じ高さになっている。換言すると、下中継筒部25の下端によって基準油面32が規定されている。
【0028】
シリンダブロック1の他方の長手側部には、動弁室からオイルが流下するオイル落とし通路33が空けられている。オイル落とし通路33から流下したオイルは、オイルパン3の長手側縁とバッフルプレート11との間の隙間から油中に流れ込む。
【0029】
(2).まとめ
本実施形態は以上の構成であり、エンジンが停止している状態では、オイルパン3の油面は基準油面32よりも上にあり、空気管路20の下端は油中に埋没している。従って、リザーバタンク13の空気層21は負圧状態になって、オイル供給管路16からオイルが流下することはない。
【0030】
エンジンが駆動されると、オイルパン3の油面は低下していく。油面がオイル供給管路16よりも下がると、リザーバタンク13の空気層21に空気が流入することが許容されるため、リザーバタンク13のオイルはオイル供給管路16から流下する。
【0031】
そして、リザーバタンク13からのオイルの流下によってオイルパン3の油面が基準油面32まで上昇すると、空気管路20の下端がオイルで閉ざされて、リザーバタンク13の空気層21が負圧状態になって、オイル供給管路16からのオイルの流下が停止する。このようなメカニズムにより、オイルが消費されても、オイルパン3の油面を基準油面32に維持できる。従って、オイルパン3の貯油量を必要最小限度に維持して、オイルパン3のコンパクト化や冷間運転時のオイルの早期昇温に貢献できる。
【0032】
そして、自動車が加速したり減速したりカーブ走行したりすると、オイルパン3のオイルに慣性力が作用して、一点鎖線35で模式的に示すように油面が傾くことがある。このため、特許文献1のように、単に空気管路20の下端を油面に対向させているに過ぎない構成では、油量は適正であるのに、油面の姿勢変化によって空気管路20が通気可能状態になってオイルがオイル供給管路16から流下し、オイルパン3に過剰給油されることがありうる。
【0033】
これに対して本実施形態では、筒状体24は油面の変動が最も少ない位置にあり、しかも、筒状体24の内部のオイルには慣性力は作用しないため(作用しても無視できる大きさであるため)、自動車が加減速したりカーブ走行したりしても油面の変動は殆どない。従って、オイルパン3に適正な油量を維持できる。
【0034】
また、オイル落とし通路33から流下したオイルが油中に入り込むときに、空気も一緒に持ち込んで泡立ち現象が生じることがあり、この際に発生した気泡34が空気管路20に入り込むと、リザーバタンク13の空気層21の負圧状態が解除されてオイルがオイル供給管路16から流下するおそれがあるが、本実施形態では、空気管路20の下端は筒状体24でカバーされていて気泡が空気管路20に入り込むことはないため、気泡に起因したオイルの過剰給油も防止できる。
【0035】
図1に一点鎖線で示すように、バッフルプレート11等に筒状体24を囲う堰部36を設けることも可能であり、この場合は、カーブ走行等に際してのオイルの移動が大幅に規制されるため、油面の維持効果は更に向上する。
【0036】
筒状体24はオイルパン3の底面から立設したり、ブラケットを介してオイルパン3の内面に固定したりすることも可能であるが、実施形態のようにバッフルプレート11に取り付けると、構造を簡単化できる。図2に示すように、筒状体24と下中継筒部25とをバッフルプレート11に一体成形することも可能であり、この場合は、構造は更に簡単になる。
【0037】
筒状体24は純然たる筒体である必要はないのであり、図3の各分図に示すように、平面視で空気管路20の下端を囲う複数の部材24aから成っていて、概ね筒状になっている構成も含んでいる。すなわち、筒状体24は、オイルの移動を規制して油面を一定化する機能があれば足りる。
【0038】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、オイル供給管路及び空気管路は、それぞれ1本のホースで構成することも可能である。或いは、オイル供給管路と空気管路とのうちいずれか一方又は両方の一部を、シリンダブロックの肉厚部に内部通路として形成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本願発明は、自動車用エンジンに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0040】
1 シリンダブロック
3 オイルパン
7 クランク軸
9 深底部
10 浅底部
11 バッフルプレート
13 リザーバタンク
15 注油口
16 オイル供給管路
18 開閉バルブ
20 リザーバタンクの最高油面
21 空気層
22 空気管路
23 上中継筒部
24 筒状体
25 空気管路の下端部を構成する下中継筒部
26 ホース
20 通油穴
32 基準油面
33 オイル落とし通路
34 気泡
図1
図2
図3