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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155127
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】自動車用エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02F 7/00 20060101AFI20221005BHJP
   F02B 67/06 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
F02F7/00 K
F02B67/06 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058472
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】藤村 一郎
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 惇
【テーマコード(参考)】
3G024
【Fターム(参考)】
3G024AA72
3G024AA73
3G024BA28
3G024DA10
3G024DA17
3G024EA01
3G024FA01
3G024FA08
(57)【要約】
【課題】シリンダブロック部とシリンダヘッド部とが一体化されたモノブロック式エンジンにおいて、マウント取付け用のブラケット部が形成されたチェーンカバーの剛性を向上させると共に、シール手段のも簡素化も図る。
【解決手段】シリンダブロック部1とシリンダヘッド部2とが一体に鋳造されている。チェーンカバー5に、VVT装置24を覆うと共にヘッドカバー4の前端面に重なる上ケース部27が膨出形成されて、マウント28が取り付くブラケット部29aを突設したブラケット基部29bが上ケース部27と一体に繋がっている。上ケース部27とブラケット基部29bとで頑丈な構造体が形成されているため、エンジンの自重によって変形するようなことはなく、チェーンカバー5とヘッドカバー4及びシリンダヘッド部2とのシール性も容易に確保できる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一体に又は別体に鋳造されたシリンダヘッド部及びシリンダブロック部と、前記シリンダブロック部及びシリンダヘッド部の前端面にボルトの群で固定されてタイミングチェーンを覆うチェーンカバーと、前記タイミングチェーンが巻き掛けられたスプロケットを有するVVT装置と、前記シリンダヘッド部の上面に固定されたヘッドカバーとを備えており、
前記チェーンカバーのうち前記シリンダヘッド部の前方に位置した部位に、マウントを介して車体フレームに支持するためのブラケットが前向きに突設されている構成であって、
前記ヘッドカバーは、その前端面が前記シリンダブロック部及びシリンダヘッド部の前端面と同一面を成すように形成されている一方、
前記チェーンカバーには、前記ブラケット部の上において前記ヘッドカバーの前端面に重なって前記VVT装置を覆う上ケース部が形成されており、
前記ブラケット部は、前記上ケース部と一体に繋がって前記シリンダヘッド部の前端面に重なったブラケット基部から前向きに突出している、
自動車用エンジン。
【請求項2】
前記シリンダブロック部とシリンダヘッド部とが一体に鋳造されて本体ブロックを構成している一方、前記ヘッドカバーには、前記VVT装置を備えたカム軸が回転自在に保持されており、
前記チェーンカバーに設けたブラケット基部の上端近傍が前記ヘッドカバーにボルトで固定されて、前記ブラケット基部の下端近傍が前記本体ブロックにボルトで締結されている、
請求項1に記載した自動車用エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、VVT装置(可変バルブタイミング装置)を備えた自動車用エンジンに関するもので、特に、シリンダブロックとシリンダヘッドとが一体に鋳造されたモノブロック式エンジンを好適な対象にしている。
【背景技術】
【0002】
自動車用のエンジンはゴム等の弾性体を備えたマウントを介して車体フレームに支持されており、支持態様の一様式として、タイミングチェーンを覆うチェーンカバーにブラケット部を設けて、ブラケット部(の上面)にマウントを取り付けることが行われている。その例が特許文献1に開示されている。特許文献1では、チェーンカバーの上端はシリンダヘッド部の上端と同じ高さになっており、ヘッドカバーがシリンダヘッド及びチェーンカバーの上面に重ね固定されている。
【0003】
また、シリンダヘッドとシリンダブロックとが別部材になっている従来の構造では、シリンダヘッドとシリンダブロックとチェーンカバーとの3つの部材の合わせ部(3面合わせ部)のシール性が問題になっており、シール性を確保するために様々な工夫がなされている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-219747号公報
【特許文献2】特開平10-220683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、シリンダヘッドとシリンダブロックとをモノブロック化すると、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間の滑りの問題は無くなるため、従来の三面合わせ部の問題は無くなって、シール性は格段に向上する。従って、特許文献2のような工夫は不要になる。
【0006】
他方、特許文献1の構造はそのままモノブロック化された本体ブロックに適用できるが、チェーンカバーの上端部にブラケット部を設けると、エンジンの自重がブラケット部に大きなモーメントとして作用するため、強度を保持するためにはブラケット部及びこれが突出したブラケット基部を過剰に厚肉化するなどせねばならない問題がある。
【0007】
また、ヘッドカバーがチェーンカバーに上から重なるため、シール性の問題も残っている。すなわち、ブラケット部がマウントを介して吊支されると、エンジンの自重がブラケット部を上向き動させるように作用するため、ブラケット基部によってヘッドカバーの前端部が押し上げられる状態になり、すると、ヘッドカバーの前部がシリンダヘッドから浮くような傾向を呈して、シール性が悪化するおそれがある。
【0008】
本願発明はこのような現状を契機に成されたものであり、チェーンカバーにマウント用のブラケット部を設けた自動車用エンジンに関し、強度やシール性に優れてモノブロック化への対応性にも優れた構造を開示せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は自動車用エンジンに関し、請求項1のとおり、
「一体に又は別体に鋳造されたシリンダヘッド部及びシリンダブロック部と、前記シリンダブロック部及びシリンダヘッド部の前端面にボルトの群で固定されてタイミングチェーンを覆うチェーンカバーと、前記タイミングチェーンが巻き掛けられたスプロケットを有するVVT装置と、前記シリンダヘッド部の上面に固定されたヘッドカバーとを備えており、
前記チェーンカバーのうち前記シリンダヘッド部の前方に位置した部位に、マウントを介して車体フレームに支持するためのブラケットが前向きに突設されている」
という基本構成である。
【0010】
そして、本願発明は、上記基本構成において、
「前記ヘッドカバーは、その前端面が前記シリンダブロック部及びシリンダヘッド部の前端面と同一面を成すように形成されている一方、
前記チェーンカバーには、前記ブラケット部の上において前記ヘッドカバーの前端面に重なって前記VVT装置を覆う上ケース部が形成されており、
前記ブラケット部は、前記上ケース部と一体に繋がって前記シリンダヘッド部の前端面に重なったブラケット基部から前向きに突出している」
という特徴を備えている。
【0011】
エンジンの方向に関して、タイミングチェーンが配置されている側を前と呼び、変速機が配置されている側を後ろと呼ぶことが一般化しているが、本願発明でもこの呼び方を踏襲している。
【0012】
本願発明は、様々に展開できる。その例として請求項2では、モノブロック構造のエンジンへの好適な適用例として、
「前記シリンダブロック部とシリンダヘッド部とが一体に鋳造されて本体ブロックを構成している一方、前記ヘッドカバーには、前記VVT装置を備えたカム軸が回転自在に保持されており、
前記チェーンカバーに設けたブラケット基部の上端近傍が前記ヘッドカバーにボルトで固定されて、前記ブラケット基部の下端近傍が前記本体ブロックにボルトで締結されている」
という構成を採用している。
【発明の効果】
【0013】
本願発明では、チェーンカバーの上ケース部は、後ろ向きに開口した箱状の構造になって堅牢で高い剛性を有しており、この上ケース部とブラケット基部とが一体になって頑丈なシェル状構造体を構成している。その結果、上ケース部とブラケット基部とが互いに補強し合って、全体として極めて頑丈な構造になっている。
【0014】
従って、ブラケット部にマウントを介してエンジンの荷重が作用しても、ブラケット基部や上ケース部が変形することはなく、これらとシリンダヘッド部及びヘッドカバーとの密着性を保持できる。従って、シリンダヘッド部及びヘッドカバーとの間のシール性も容易に確保できる。
【0015】
更に述べると、ブラケット部はマウントによって吊支されているため、エンジンの自重により、チェーンカバーの上ケース部は対向しているヘッドカバーに向けて倒れるような作用を受けるが、本願発明では、チェーンカバーの上ケース部がヘッドカバーの前端面に重なっている(突っ張っている)ことと、上ケース部とブラケット基部とが一体化して頑丈なシェル状構造体を構成していることとにより、チェーンカバーとヘッドカバーとシリンダヘッド部との三面合わせ部において、上ケース部とブラケット基部とは変形することなく、ヘッドカバーとシリンダヘッド部との前端面に強く密着する。
【0016】
従って、チェーンカバーとヘッドカバーとシリンダヘッド部との三面合わせ部に関し、液体ガスケットのような手間がかかるシール剤を使用しなくても、ゴムパッキンのような簡易なシール手段によって高いシール性を確保可能であり、その結果、組み立ての作業性も向上できる。
【0017】
シリンダヘッド部とシリンダブロック部とが別体構造である場合、本願発明でも、チェーンカバーとシリンダヘッド部とシリンダブロック部との三面合わせ部は残るが、本願発明では、ブラケット基部は上ケース部と一体化して変形し難い構造になっているため、シリンダヘッド部(の下部)が前後方向に熱収縮しようとしても、これが抑制される。従って、シリンダヘッド部とシリンダブロック部とが別体構造であっても、チェーンカバーとシリンダヘッド部とシリンダブロック部との三面合わせ部でのシール性を向上できる。
【0018】
他方、請求項2のように、シリンダヘッド部とシリンダブロック部とが一体化されて本体ブロックを成したモノブロック構造では、チェーンカバーとシリンダヘッド部とシリンダブロック部との三面合わせ部が存在しないため、シール性は格段に向上する。
【0019】
さて、シリンダヘッド部はその長手方向(カム軸の軸線方向、前後方向)に熱変形する性質があるが、燃焼室がある下部において熱変形が大きくなっており、従って、シリンダヘッド部とシリンダブロック部とが別体になっている構造では、シリンダヘッド部の下面とシリンダブロック部の上面との間で滑りが生じてシール性の問題が現れており、これに対する1つの対処法として液体ガスケットが使用されていたが、液体ガスケットの塗布には手間が掛かると共に、シール性の完璧は期し難かった。
【0020】
これに対して、本願請求項2のようにシリンダヘッド部とシリンダブロック部とが本体ブロックにモノブロック化されていると、シリンダヘッド部とシリンダブロック部(のシリンダヘッド部)との間の滑りは無くなるため、従来の三面合わせ部のシール性の問題は無くなる。また、チェーンカバーとヘッドカバーと本体ブロックとの三面合わせ部は存在するが、本体ブロックの上端部の熱変形は少ないため、ヘッドカバーと本体ブロックとの間の滑り現象は無視できるほどに小さく、従って、液体ガスケットのような手間がかかるシール手段を採ることなく、上記の高いシール性を確保できる。
【0021】
また、請求項2では、エンジンの自重によってチェーンカバーの上ケース部がヘッドカバーの前面に密着していることと、チェーンカバーとヘッドカバーと本体ブロックとの間の三面合わせ部の箇所でのシール性を簡単に確保できることと、チェーンカバーとシリンダヘッド部とシリンダブロック部との三面合わせ部のシール性の問題が無くなることとが相まって、ブラケット基部の上端近傍と下端近傍とをヘッドカバーと本体ブロックとに上下のボルトで締結しただけであっても、強固に固定できる(ブラケット基部の上部を本体ブロックの上端部にボルトで締結する必要はない。)。
【0022】
この場合、実施形態のように、ブラケット基部の近傍部のボルト挿通用ボス部の高さ(前後長さ)を他の部位よりも高く(長く)しておくと、ブラケット部の固定強度を更に向上でき、かつ、チェーンカバーの熱膨張と収縮に対してボルト軸力の安定化を高めることができると共に、ヘッドカバー及びシリンダヘッド部とチェーンカバーとのシール面の面圧の均一化を促進して信頼性を向上できる。
【0023】
また、請求項2では、カム軸とVVT装置とをヘッドカバーに取付けているが、本体ブロックのシリンダヘッド部が熱変形してもカム軸やVVT装置の取付け部に熱変形の影響は及ばないため、カム軸やVVT装置の作動の円滑性も向上できる。また、チェーンカバーはヘッドカバーの前面に重なっているため、チェーンカバーで押し上げられてヘッドカバーが変形することはないのであり、この面でも、信頼性に優れている。
【0024】
なお、本願発明では、VVT装置の一部がブラケット基部で覆われていてもよい。例えば、カム軸がシリンダヘッド部に回転自在に保持されている場合は、VVT装置の下半部はシリンダヘッド部の上面よりも下方に位置するが、この場合、ブラケット基部の上端がシリンダヘッド部の上端近傍に位置していると、ブラケット基部の一部でVVT装置の下半部を覆うことになるが、この場合でも、ブラケット基部と上ケース部とが一体化していることにより、ブラケット基部と上ケース部との剛性は格段に高くなっているため、高い強度とシール性とを確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】エンジンの斜視図である。
図2】エンジンの分離斜視図である。
図3】エンジンの側面図である。
図4】エンジンの分離側面図である。
図5】チェーンカバーの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車用の3気筒エンジンに適用している。本願発明で特定している前後の方向は既に述べたとおりであるが、念のため、図1,2,5に方向を明示している。
【0027】
なお、エンジンは、クランク軸を車幅方向に長い姿勢と成した横置きで、かつ、排気側面を前進方向に向けた横置き・前排気の姿勢でエンジンルームに搭載されている。従って、自動車の前後方向とエンジンの前後方向とは平面視で90度交叉している。
【0028】
(1).エンジンの概略
エンジンは、一体に鋳造されて本体ブロックを構成しているシリンダブロック部1及びシリンダヘッド部2と、シリンダブロック部1の下面に固定されたクランクケース3と、シリンダヘッド部2の上面に固定されたヘッドカバー4と、これらシリンダブロック部1とシリンダヘッド部2とヘッドカバー3との前面に固定されたチェーンカバー(フロントカバー)5を備えている。
【0029】
図3,4に簡略的に示すように、クランクケース3の下面にはオイルパン6が固定されており、チェーンカバー5の下部はオイルパン6の前面にも部分的に重なっている。シリンダブロック部1及びシリンダヘッド部2が一体化した本体ブロックはアルミ等の金属の鋳造品であり、チェーンカバー5等の他の部材はアルミのダイキャスト品又は鋳造品である。図1~3では、部材の境界を太線で表示している。
【0030】
図2から理解できるように、クランクケース3の下面にクランクジャーナル7の群が形成されており、クランク軸(図示せず)は、軸受けメタル及びクランクキャップの群を介してクランクジャーナル7に回転自在に保持されている。なお、図2に示したハッチングは端面の表示であり、断面の表示ではない。
【0031】
図3,4に示すように、チェーンカバー5は多数のフロントボルト8でシリンダヘッド部2及びシリンダブロック部1並びにオイルパン6に固定されている。また、ヘッドカバー4は上ボルト9の群でシリンダヘッド部2に固定され、オイルパン6も下ボルト(図示せず)の群でクランクケース3に固定されている。なお、クランクケース3もシリンダブロック部1の下面にボルトの群で固定されているが、クランクケース3を固定するボルトはクランクケース3の内部に配置されている。
【0032】
シリンダブロック部1とシリンダヘッド部2とは一体化しているので、両者の境界は明分し難いが、シリンダボア(図示せず)の上端のあたりを境界として、図3,4に仮想境界10を二点鎖線で表示している。図1~4はエンジンを排気側面の側から見ており、シリンダヘッド部2の排気側面には、触媒ケース又は排気ターボ過給機を接続する1つの排気出口11が開口している。
【0033】
ヘッドカバー4の上面には、イグニッションユニットが装着される3つの筒状ボス部12をクランク軸線方向に並べて形成している。例えば図3に示すように、ヘッドカバー4の下端には、上ボルト9で固定するための上ボス部13が周方向に点在している。敢えて述べるまでもないが、シリンダヘッド部2の上部には、上ボルト9が螺合するタップ穴が形成されている。
【0034】
例えば図1において、シリンダブロック部1には気筒14の外面が部分的に露出している。気筒14の上に位置して符号15で表示されているのは、ウォータジャケットを囲う大径部である。隣り合った気筒14の間には、ボア間部の箇所から外向きに張り出した縦リブ16が形成されている。
【0035】
図1,2,5に示すように、チェーンカバー5の下部には、クランク軸の前端部が貫通するクランクホール17が開口している。本実施形態のエンジンは、オイルポンプをクランク軸で直接駆動している。そこで、チェーンカバー5に、オイルポンプの一部を構成するハウジング18が一体に形成されている。また、チェーンカバー5には、ハウジング18の一端部に近接した状態でオイルフィルター取付け座19を形成している。
【0036】
敢えて述べるまでもないが、クランク軸の前端にはクランクプーリが固定されており、クランクプーリに巻き掛けた補機駆動ベルトにより、オルタネータやウォータポンプ、エアコン用コンプレッサ(いずれも図示せず)が駆動される。例えば図1において符号20で示すのは、補機駆動ベルトの曲がり状態を保持するテンショナーを取り付けるボス部である。また、図1において符号21で示すのは、オイルフィルターの交換に際してオイルが補機駆動ベルトに垂れ落ちるのを阻止するカバーリブである。
【0037】
(2).要部への詳細
図2,4に示すように、ヘッドカバー4の前端から左右一対の油圧式VVT装置24が前向きに突出しており、VVT装置に設けたチェーンスプロケット25にタイミングチェーン26が巻き掛けられている。従って、本実施形態では、2本のカム軸(図示せず)はヘッドカバー4に回転自在に保持されており、VVT装置24はその大半がシリンダヘッド部2よりも高い位置に配置されている。
【0038】
この場合、カム軸の支持手段としては、カムジャーナルの群をヘッドカバー4の内部に一体に形成して、カムキャップをカムジャーナルに固定してもよいし、カムジャーナルが形成されたフレーム材をヘッドカバー4の内部にボルトで固定して、フレーム材にカムキャップを固定してもよい。ヘッドカバー4の内部に、ブローバイガスからオイルミストを捕集するオイルセパレータ通路を形成することも可能である。
【0039】
既述のとおり、チェーンカバー5はその上端がヘッドカバー4の上端まで至るように形成されており、このチェーンカバー5の上部に、VVT装置24を囲うシェル構造の上ケース部27が前向きに膨出形成されて、ヘッドカバー4の前端面に重なっている。
【0040】
そして、チェーンカバー5のうちシリンダヘッド部2の前方に位置した部位には、車体フレーム(図示せず)に吊支するためのマウント28が取り付くブラケット部29aが、ブラケット基部29bを介して一体に形成されており、上ケース部27とブラケット基部29bとが上下に繋がっている。従って、上ケース部27とブラケット基部29bとの前後厚さは略同じになって、ブラケット部29aは、上ケース部27の前面から前向きに突出した状態になっている。
【0041】
図3,4のとおり、ブラケット部29aの上面は少し前傾しており、上面には、図1,2に示すように、マウント28をボルトで固定するためのタップ穴30が空いている。また、ブラケット部29aには前向きの空洞31が空いている。なお、エンジンは、後端部と下側部との2箇所が別のマウントで支持されており、全体として3か所で支持されている。
【0042】
図4から理解できるように、VVT装置24は僅かながらシリンダヘッド部2の上面よりも下方にはみ出ているが、ブラケット基部29bの上端は、シリンダヘッド部2の上面と殆ど同じ高さになっている。そこで、ブラケット基部29bは、VVT装置24と干渉しないように少し抉られている。すなわち,ブラケット基部29bは、強度を確保するため基本的にはブロック状の構造になっているが、VVT装置24やタイミングチェーン26との干渉を回避するための凹所が形成されている(オイルの流下を許容するための凹所も形成されている。)。
【0043】
図1,2,5はシリンボア軸線を紙面の上下長手線と平行な姿勢に描いており、この状態で、ブラケット部29aの上面に排気側が高くて吸気側が低くなるように傾斜している。他方、エンジンは、図5に示す鉛直線38に対して若干の角度だけ前傾しており、エンジンを自動車に搭載した状態では、ブラケット部29aの上面は水平姿勢になっている。
【0044】
チェーンカバー5において、上ケース部27の前面には、縦横に延びる複数本ずつの補強リブ32が形成されている。上ケース部27のうち上端部でかつ吸気側の部位には、オイル注入口33を設けている(オイル注入口33はキャップで塞がれる。)。
【0045】
既述のとおり、チェーンカバー5は多数本のボルト8でシリンダブロック部1及びシリンダヘッド部2並びにヘッドカバー4に固定されている。そこで、各図に示すように、チェーンカバー5の外周部には、ボルト8が挿通される筒型のボルト挿通ボス部34が形成されている。他方、ヘッドカバー4、シリンダヘッド部2、シリンダブロック部1、クランクケース3及びオイルパン6の外周部には、ボルト挿通ボス部34が重なるボルト螺合ボス部35を形成しており、このボルト螺合用ボス部35にタップ穴が形成されている。
【0046】
チェーンカバー5のボルト挿通用ボス部34について個別に特定する必要がある場合は、符号34に添え字を付して、上端に位置したものを第1ボルト挿通ボス部34a、上から2段目のものを第2ボルト挿通ボス部34b,上から3段目のものを第3ボルト挿通ボス部34d、上から第4段目のものを第4ボルト挿通ボス部34d、それより下に位置して外周部にあるものを第5ボルト挿通ボス部34eと呼ぶこととする。
【0047】
図5に示すように、チェーンカバー5は、外周の内側に位置した部位でも2本のフロントボルト8でシリンダヘッド部2に固定されている。そこで、図2に示すように、チェーンカバー5のうちブラケット部29aのやや下方の部位でかつ外周よりも内側に位置した部位に2つの内部ボルト挿通ボス部34fを形成している一方、シリンダブロック部1には、内部ボルト挿通ボス部34fが重なる筒状のボルト螺合用ボス部35とランド部36とを突設している。
【0048】
図2から理解できるように、シリンダヘッド部2とシリンダブロック部1とクランクケース3(及びオイルパン6)の前面には、タイミングチェーン26が配置される空所が形成されており、この空所に、図示は省略するが、タイミングチェーンの姿勢を保持する固定式ガイドと可動式ガイドとが配置されている。チェーンカバー5のうち上ケース部27よりも下方の部位は、後ろ向きに開口した浅いトレー状になっている。
【0049】
図2に示すように、シリンダブロック部1の前面のうち下部でかつ吸気側に寄った部位に、既述のランド部36が形成されており、このランド部36に、オイルフィルターで浄化されたオイルが流入するメインギャラリー37の始端が開口している。メインギャラリー37の始端には、チェーンカバー5に設けたオイル吐出通路の終端が連通している。
【0050】
チェーンカバー5とヘッドカバー4等との合わせ面には、ゴムパッキン等のシール材が介在している。ヘッドカバー4とシリンダヘッド部2との合わせ面も同様である。
【0051】
(3).まとめ
以上の構成において、本実施形態では、チェーンカバー5の上部はVVT装置24を覆う上ケース部27になっており、これがブラケット基部29bと一体に繋がっているが、上ケース部27は、上下左右に隔壁を有した状態で前向きに大きく膨出した箱構造(シェル構造)になっているため、上ケース部27とブラケット基部29bとブラケット部29aとが頑丈な構造体を構成しており、その結果、上ケース部27もブラケット基部29bもブラケット部29aも、剛性は格段に高くなっていて曲げや捩じりに対して極めて高い抵抗を発揮する。
【0052】
そして、上ケース部27はシリンダヘッド部2とヘッドカバー4の前端面に重なっているが、上ケース部27は極めて堅牢で変形し難いため、ゴムパッキンのような簡易なシール手段であっても、高いシール性を確保できる。
【0053】
更に、本実施形態では、シリンダヘッド部2とシリンダブロック部1とが一体化しているため、従来のようなシリンダヘッド部2とシリンダブロック部1とチェーンカバー5との三面合わせ部でのシール性の問題は皆無であり、また、ヘッドカバー4とチェーンカバー5とシリンダヘッド部2との三面合わせ部が存在するものの、シリンダヘッド部2の上端部の熱変形は非常に小さいため、ヘッドカバー4とシリンダヘッド部2との間の滑り現象は無視できる程に小さい。
【0054】
従って、液体ガスケットのような手間がかかるシール手段を使用することなく、ゴムパッキンのような簡易なシール手段によってシール性を確保できる。その結果、組み立ての作業性も向上できる。
【0055】
そして、ブラケット基部29bが上ケース部27と一体に繋がっているため、ブラケット部29aも極めて頑丈な構造になっており、従って、ブラケット部29a及びブラケット基部29bとも、過剰に厚肉化することなく高い支持強度を保持できる。
【0056】
さて、ブラケット部29aはマウント28によって吊支されているため、図3に矢印39で示すように、エンジンの自重によって上ケース部27がヘッドカバー4及びシリンダヘッド部2に向けて倒れるような作用を受けるが、本実施形態では、剛性が大きい上ケース部27がヘッドカバー4の前端面に重なっているため、上ケース部27は変形することなくヘッドカバー4とシリンダヘッド部2の前端面に密着する。すなわち、エンジンの自重がシール性を助長するように作用しているのであり、この面でも、シール性の向上に貢献している。
【0057】
マウント28でブラケット部29aが吊支されていると、上記したようにブラケット部29aにはエンジンの自重が下向きのモーメントとして作用しており、このため、図3に矢印39,40で示すように、チェーンカバー5の上ケース部27には、ブラケット部29aの上に位置した上半部はヘッドカバー4に向けて倒れるような作用を受けて、ブラケット基部29bはシリンダヘッド部2から離れるような作用を受ける。
【0058】
然るに、本実施形態では、ブラケット基部29bの上端近傍に位置した第2ボルト挿通ボス部34bと、ブラケット基部29bの下端近傍に位置した第3ボルト挿通ボス部34cとは、他のボルト挿通ボス部34a,34d,34e,34fよりも前後長さ(高さ)が数倍長い(高い)ロングボス部になっているため、ブラケット基部29b及び上ケース部27の変形を防止して、高い締結強度を確保できる。
【0059】
つまり、前向きに大きく膨出している上ケース部27及びブラケット基部29bの特徴をフルに発揮させて、上ケース部27及びブラケット基部29b部とヘッドカバー4及びシリンダヘッド部2との密着性を極めて高い状態に維持できる。また、上ケース部27及びブラケット基部29bとヘッドカバー4及びシリンダヘッド部2との密着箇所の面圧も均一化できるため、シール性の向上効果に優れているのみならず、ヘッドカバー4やシリンダヘッド部2、上ケース部27、ブラケット基部29bに応力の偏りが発生することを防止して、信頼性の向上にも貢献できる。
【0060】
また、ブラケット基部29bには、図3に矢印40で示すように、シリンダヘッド部2から離反する方向のモーメントが作用するため、シリンダヘッド部2とシリンダブロック部1とが別体であると、特に三面合わせ部でのシール性が問題になるが、本実施形態のように第2ボルト挿通ボス部34bと第3ボルト挿通ボス部34cとをロングボス化すると、シリンダヘッド部2が熱収縮してもブラケット基部29bは変形し難いため、高いシール性を確保できる。従って、本実施形態は、シリンダヘッド部2とシリンダブロック部1とを別体に構成したエンジンにおいても有益である。
【0061】
上ケース部27の前面に補強リブ32を設けると、上ケース部27及びブラケット部29a並びにブラケット行き部29bの剛性を更に向上できて好適である。なお、上ケース部27の内面に、その上面と前面とに繋がった内部補強リブをVVT装置24と干渉しない状態で形成することも可能であり、この場合は、上ケース部27の強度は更に向上する。
【0062】
さて、カム軸はシリンダヘッド部2に回転自在に保持することも可能であるが、この場合は、バルブの突き上げ力(ばねによる閉じ方向の付勢力)がカムキャップをカムジャーナルから離反させるように作用するため、カムキャップの締結用ボルトを大径化したり、ハイテンボルトを使用したりするなどの対応が必要になる。
【0063】
これに対して、本実施形態のようにカム軸及びVVT装置24をヘッドカバー4に取り付けると、バルブの突き上げ力はカムキャップに作用しないため、カムキャップ締結用ボルトを小径化したりグレードダウンしたりしてコストダウンできるが、ヘッドカバーの前部がチェーンカバー5におけるブラケット基部29bの上面に重なっていると、ブラケット基部29bでヘッドカバー4の前端部が上向きに押されることにより、ヘッドカバー4が反り変形する傾向を呈して、カム軸の円滑な回転が阻害されるおそれがある。
【0064】
この点、本実施形態のように、チェーンカバー5の上ケース部27をヘッドカバー4の前端面に重ねると、ヘッドカバー4が反り変形することはないため、カム軸を円滑に回転できる状態に保持できる。従って、動弁機構の信頼性向上・品質向上にも貢献できる。また、実施形態のようにカム軸と呼びVVT装置24をヘッドカバー4に取り付けると、VVT装置24の高さが高くなるため、ブラケット基部29bは、VVT装置24との干渉を殆ど回避した状態でシリンダヘッド部2と高さを揃えることができる利点もある。
【0065】
なお、第4ボルト挿通ボス部34dは、例えばオルタネータのような補機の取付けにも利用されている。本実施形態のようなモノブロック構造の場合は、チェーンカバー5の固定のみの機能からしたら第4ボルト挿通ボス部34dは無くてもよい。但し、第4ボルト挿通ボス部34dの箇所においてチェーンカバー5はシリンダブロック部1から離反するような作用を受けるため、実施形態のように第4ボルト挿通ボス部34dを設けると、第3ボルト挿通ボス部34cの効果を助長できて好適である。
【0066】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、ブラケット部の形態はマウントの形態に応じて適宜選択できる。(VVT装置は、吸気側と排気側とのうち片方のみに配置されていてもよい。)。ブラケット基部は、強度を保持できる範囲で肉盗みしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本願発明は、VVT装置を備えた自動車用エンジンに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0068】
1 本体ブロックを構成するシリンダブロック部
2 本体ブロックを構成するシリンダヘッド部
3 クランクケース
4 ヘッドカバー
5 チェーンカバー
8 チェーンカバー固定用のフロントボルト
24 VVT装置
26 タイミングチェーン
27 上ケース部
28 マウント
29a ブラケット部
29b ブラケット基部
34 ボルト挿通ボス部
35 ボルト螺合ボス部
図1
図2
図3
図4
図5