(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155148
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】巻き食品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20221005BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20221005BHJP
【FI】
A23L5/00 F
A23L35/00
A23L5/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058500
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】505126610
【氏名又は名称】株式会社ニチレイフーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】白木 慎一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 竜一
(72)【発明者】
【氏名】長坂 彩子
(72)【発明者】
【氏名】登木 耕陽
【テーマコード(参考)】
4B035
4B036
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE06
4B035LE17
4B035LG01
4B035LG05
4B035LG12
4B035LG19
4B035LG21
4B035LG32
4B035LG35
4B035LG39
4B035LG42
4B035LG48
4B035LG50
4B035LG57
4B035LK01
4B035LP02
4B035LP07
4B035LP35
4B036LE08
4B036LF11
4B036LH01
4B036LH04
4B036LH06
4B036LH10
4B036LH12
4B036LH13
4B036LH22
4B036LH29
4B036LH38
4B036LH44
4B036LH48
4B036LH50
4B036LK01
4B036LP03
4B036LP12
(57)【要約】
【課題】従来の巻き食品と比較して外観が大きく異なる油ちょう用巻き食品を製造する方法を提供する。
【解決手段】油ちょう用巻き食品の製造方法において、(a)皮で具材を巻いて、巻き食品を成形し、(b)前記巻き食品の外表面を構成する前記皮の少なくとも一部に液体を付着させ、皮を得るためのバッターにおける気体発生剤の含有量を2~5.5質量%とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加熱の油ちょう用巻き食品の製造方法であって、
(a)皮で具材を巻いて、巻き食品を成形する工程、および
(b)前記巻き食品の外表面を構成する前記皮の少なくとも一部に液体を付着させる工程、
を含み、
前記皮が、気体発生剤を2~5.5質量%含んでなるバッターの加熱処理物である、
前記製造方法。
【請求項2】
前記工程(b)が、前記工程(a)の後に行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記バッターが、アルコールをさらに含む、請求項1または2に記載の製造方法
【請求項4】
前記気体発生剤が膨張剤および炭酸水の少なくとも一種を含んでなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記膨張剤が、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、ベーキングパウダー、イーストパウダーおよびイーストからなる群から選択される少なくとも一つを含んでなる、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記液体が、水を含んでなる、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
(c)前記工程(b)において液体を付着させた巻き食品を凍結させる工程をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
皮と、該皮に巻かれた具材とを含んでなる未加熱の油ちょう用巻き食品であって、
前記皮が、気体発生剤を2~5.5質量%含んでなるバッターの加熱処理物であり、
前記油ちょう用巻き食品の外表面を構成する前記皮の少なくとも一部に液体が付着している、
前記油ちょう用巻き食品。
【請求項9】
請求項8に記載の油ちょう用巻き食品を油ちょうして得られる、油ちょう済み巻き食品。
【請求項10】
油ちょう済み巻き食品の表面改質方法であって、
(a)具材が皮で巻かれた未加熱の油ちょう用巻き食品を準備する工程、および、
(b)前記油ちょう用巻き食品の外表面を構成する前記皮の少なくとも一部に液体を付着させる工程、
を含み、
前記皮が、気体発生剤を2~5.5質量%含んでなるバッターの加熱処理物である、
前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、巻き食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、食品の外観は、その食品の食感や味を想起させるものである。すなわち、食品の外観には、該食品に対する食欲を誘引する等の効果がある。また、食品の外観が、該食品が通常有する外観とは異なる外観を有する場合には、その外観の意外性が該食品に対する興味を惹起し、その結果、消費者が該食品を購入したり喫食したりする契機となり得る。したがって、食品の開発分野においては、食品の味や食感だけでなく、外観についても工夫がされることがある。
【0003】
食品の外観に関しては、例えば、油ちょう食品において、いわゆる「火膨れ」と呼ばれる現象を積極的に起こすことにより、内部に複数の大きな空洞を形成させて食品の外観に変化を与える工夫がなされている(例えば、特許文献1)。しかしながら、このような外観の工夫は十分とは言えず、さらなる工夫の余地があると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
このような状況下、従来の食品にはない外観を有する加工食品が求められている。
【0006】
本発明者らは、加工食品、具体的には油ちょう用巻き食品において、巻き食品を構成する皮を得るためのバッターに特定の量の気体発生剤を配合し、さらに油ちょう前に巻き食品の外表面を構成する皮に液体を付着させることにより皮の改質が引き起こされ、油ちょうした後の巻き食品の外表面の皮に多くの凹凸や大きな孔が形成され、従来の巻き食品と比較して外観が大きく異なる巻き食品を製造できることを見出した。本開示はこのような知見に基づくものである。
【0007】
一つの態様によれば、未加熱の油ちょう用巻き食品の製造方法であって、
(a)皮で具材を巻いて、巻き食品を成形する工程、および
(b)前記巻き食品の外表面を構成する前記皮の少なくとも一部に液体を付着させる工程、
を含み、
前記皮が、気体発生剤を2~5.5質量%含んでなるバッターの加熱処理物である製造方法が提供される。
【0008】
別の態様によれば、皮と、該皮に巻かれた具材とを含んでなる未加熱の油ちょう用巻き食品であって、
前記皮が、気体発生剤を2~5.5質量%含んでなるバッターの加熱処理物であり、
前記油ちょう用巻き食品の外表面を構成する前記皮の少なくとも一部に液体が付着している油ちょう用巻き食品が提供される。
【0009】
さらに別の態様によれば、油ちょう済み巻き食品の表面改質方法であって、
(a)具材が皮で巻かれた未加熱の油ちょう用巻き食品を準備する工程、および
(b)前記油ちょう用巻き食品の外表面を構成する前記皮の少なくとも一部に液体を付着させる工程、
を含み、
前記皮が、気体発生剤を2~5.5質量%含んでなるバッターの加熱処理物である方法が提供される。
【0010】
本開示によれば、皮と具材とを含んでなる未加熱の油ちょう用巻き食品であって、油ちょうした後の外観が、従来の巻き食品と比較して大きく異なる油ちょう用巻き食品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の製造方法の工程(a)における、皮で具材を巻く手順(巻き食品の成形手順)の一例を示す概略図である。なお、図中、具材を斜線で示す。
【
図2】
図2は、本開示の製造方法において、工程(a)の前に工程(b)を行う場合における、皮で具材を巻く手順(巻き食品の成形手順)の一例を示す概略図である。本図は、巻き食品を成形した場合に巻き食品の外表面を構成する皮の内側の表面に、予め液体を付着させる場合を示す。なお、図中、具材を斜線で示し、点(ドット)で液体を示す。
【
図3】
図3は、各種の油ちょう用巻き食品を油ちょうして得られた油ちょう済巻き食品の写真である。左上欄:皮を得るためのバッターがベーキングパウダーを含まず、皮に水を付着させない油ちょう用巻き食品を油ちょうして得られた油ちょう済み巻き食品;左下欄:皮を得るためのバッターがベーキングパウダーを含み、皮に水を付着させない油ちょう用巻き食品を油ちょうして得られた油ちょう済み巻き食品;右上欄:皮を得るためのバッターがベーキングパウダーを含まず、皮に水を付着させた油ちょう用巻き食品を油ちょうして得られた油ちょう済み巻き食品;右下欄:皮を得るためのバッターがベーキングパウダーを含み、皮に水を付着させた油ちょう用巻き食品を油ちょうして得られた油ちょう済み巻き食品。
【
図4】
図4は、マイクロスコープおよび3D形状測定モジュールを用いて油ちょう済み巻き食品の面粗さ(Sa値)を測定する場合の、測定位置の一例を示す概略図である。
【
図5】
図5は、マイクロスコープおよび3D形状測定モジュールを用いて測定された、試験区Aおよび比較区A~Cの各油ちょう済み巻き食品の中心部および端部の面粗さ(Sa値)の測定結果を表すグラフである。
図5Aは、30倍の倍率で測定した場合の中心部および端部のSa値の測定結果を表す。
図5Bは、50倍の倍率で測定した場合の中心部および端部Sa値の測定結果を表す。
【0012】
【発明の具体的説明】
【0013】
[油ちょう用巻き食品の製造方法]
一つの態様によれば、皮と具材とを含んでなる未加熱の油ちょう用の巻き食品の製造方法(以下、「本開示の製造方法」ともいう。)が提供される。本開示の製造方法は、皮で具材を巻いて、巻き食品を成形する工程(工程(a))、および工程(a)の前、途中および後の少なくとも一つの時点において、巻き食品の外表面を構成する皮の少なくとも一部に液体を付着させる工程(工程(b))を含む。一つの好ましい実施態様において、工程(b)は工程(a)の後に行われる。本開示の製造方法によれば、油ちょうした場合に、従来の巻き食品と比較して大きく異なる外観(油ちょう済み巻き食品の外表面の皮に多くの凹凸や大きな孔を有する外観)を有する油ちょう用巻き食品を製造することができる。なお、皮が「凹凸」を有するとは、油ちょう済み巻き食品の外表面を構成する皮の巻き食品の外側の表面(すなわち、油ちょう済み巻き食品の外表面)に形成される凹部、凸部、溝部等の平滑ではない部分を有することをいう。また、本開示の製造方法により製造される油ちょう用巻き食品は、上記のような外観に加え、従来の巻き食品と比較して大きく異なる食感(ザクザクとした食感)を有し得る。以下、工程(a)および(b)のそれぞれについて説明する。
【0014】
<工程(a)>
工程(a)は、皮で具材を挟むように巻くことにより、巻き食品を成形する工程である。以下、工程(a)について詳細に説明する。
【0015】
本開示の製造方法により製造される未加熱の油ちょう用巻き食品を構成する皮は、例えば、穀粉および水を主原料として含む生地(バッター)を加熱処理(焼成)して得られるものである。穀粉としては、巻き食品の皮として一般的に用いられるいかなる穀粉も用いることができる。穀粉としては、例えば、米粉、そば粉、小麦粉、大麦粉、ライムギ粉、コーンフラワー等が挙げられる。穀粉は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。一つの好ましい実施態様において、穀粉としては、小麦粉、特に中力粉が単独で用いられる。
【0016】
バッターにおける穀粉および水の配合量は、目的とする油ちょう用巻き食品の種類に応じて適宜設定することができる。
【0017】
バッターは、主原料である穀粉および水の他に、気体発生剤を含む。気体発生剤とは、本開示の製造方法の過程において気体を発生または放出し得る剤を意味し、食品衛生上用いられ得るものであれば特に限定されることなく、適宜選択して用いることができる。気体発生剤の具体例としては、膨張剤、炭酸水等が挙げられる。膨張剤としては、特に限定されないが、例えば、炭酸水素ナトリウム(重曹、NaHCO3)、炭酸水素アンモニウム(重炭安、NH4HCO3)、ベーキングパウダー、イースト(酵母)パウダー、イースト等が挙げられる。気体発生剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。一つの好ましい実施態様において、気体発生剤としては、ベーキングパウダーが単独で用いられる。
【0018】
バッターにおける気体発生剤の含有量の上限値は、バッターの総質量に対する気体発生剤の質量の割合として5.5質量%であり、好ましくは5.4質量%、より好ましくは5.3質量%、特に好ましくは5.25質量%である。また、バッターにおける気体発生剤の含有量の下限値は、バッターの総質量に対する気体発生剤の質量の割合として2質量%であり、好ましくは3質量%、より好ましくは4質量%、特に好ましくは4.45質量%である。また、バッターにおける気体発生剤の含有量の範囲は、バッターの総質量に対する気体発生剤の質量の割合として2~5.5質量%であり、好ましくは3~5.4質量%、より好ましくは4~5.3質量%、特に好ましくは4.45~5.25質量%である。バッターにおける気体発生剤の含有量を上記の範囲とすることにより、皮を焼成する際に気体が過剰に発生せず、皮の焼成を安定的に行うことができ、また、油ちょうした場合に、従来の巻き食品と比較して大きく異なる外観(巻き食品の外表面の皮に多くの凹凸や大きな孔を有する外観)を有する油ちょう用巻き食品を製造することができる。また、バッターにおける気体発生剤の含有量を上記の範囲とすることにより、油ちょうした場合に、従来の巻き食品と比較してより一層の異なる外観を有する油ちょう用巻き食品を製造することができる。
【0019】
一つの好ましい実施態様において、バッターは、アルコールをさらに含む。アルコールとしては、食品衛生上用いられ得るものであれば特に限定されることなく、目的とする油ちょう用巻き食品の種類に応じて適宜選択して用いることができる。アルコールの具体例としては、エタノール等が挙げられる。アルコールは、アルコールそのものとしてバッターに添加してもよいが、アルコールを含有する原料としてバッターに添加してもよい。アルコールを含有する原料としては、特に限定されないが、例えば、酒類(例えば、日本酒、焼酎等)、みりん、穀物類(例えば、米、麦、トウモロコシ、サトウキビ等)またはイモ類(例えば、甘藷、馬鈴薯等)の糖化・発酵物等が挙げられる。アルコールおよびアルコールを含有する原料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。アルコールとしては、好ましくはエタノールまたはエタノールを含有する原料が単独で用いられる。バッターにアルコールを添加することにより、油ちょうした場合に、従来の巻き食品と比較してより一層の異なる外観を有する油ちょう用巻き食品を製造することができる。
【0020】
バッターにおけるアルコールの含有量は、目的とする油ちょう用巻き食品の種類に応じて適宜設定することができる。バッターにおけるアルコールの含有量の範囲は、バッターにおける気体発生剤の質量に対するアルコールの質量の割合(気体発生剤の質量:アルコールの質量)として、好ましくは1:0.05~1:3、より好ましくは1:0.75~1:3、より一層好ましくは1:1~1:2.95、特に好ましくは1:1.5~1:2.9である。バッターにおけるアルコールの含有量を上記の範囲とすることにより、バッターの大幅な性状の変化を引き起こさず、皮の焼成を安定的に行うことができ、また、油ちょうした場合に、従来の巻き食品と比較してより一層の異なる外観を有する油ちょう用巻き食品を製造することができる。
【0021】
一つの好ましい実施態様において、バッターは、油脂をさらに含む。油脂としては、食品衛生上用いられ得るものであれば特に限定されることなく、目的とする油ちょう用巻き食品の種類に応じて適宜選択して用いることができる。油脂としては植物性油脂および動物性油脂のいずれも用いることができる。油脂の具体例としては、サラダ油、キャノーラ油、ベニバナ油、ナタネ油、アマニ油、エゴマ油、オリーブ油、グレープシード油、コーン油、ココナッツ油、パーム油、ゴマ油、コメ油、ダイズ油、ヒマワリ油、綿実油、ラッカセイ油、バター、マーガリン、豚脂、牛脂等が挙げられる。油脂の精製度は特に限定されず、比較的精製度が低い白絞油のような油脂から、比較的精製度が高いサラダ油のような油脂まで用いることができる。油脂は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。油脂としては、好ましくはダイズ白絞油が単独で用いられる。
【0022】
バッターにおける油脂の含有量は、目的とする油ちょう用巻き食品の種類に応じて適宜設定することができる。
【0023】
バッターは、上述した各原料の他に、目的とする油ちょう用巻き食品の種類に応じて、澱粉類、タンパク質類、各種調味料、その他の原料を含んでいてもよい。澱粉類としては、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦粉澱粉、米澱粉等、およびこれらにアルファ化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理、酸化処理等の処理を加えた加工澱粉等が挙げられる。また、タンパク質類としては、例えば、小麦等を由来とするグルテン、大豆等を由来とする植物性タンパク質、卵等を由来とする動物性タンパク質、およびそれらの混合物等が挙げられる。調味料としては、例えば、化学調味料、人工甘味料、砂糖、塩、酢、しょうゆ、みそ、みりん、酒等が挙げられる。その他の原料としては、例えば、デキストリン、糖類、アミノ酸およびその塩(グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム、グリシン等)、食物繊維(トウモロコシの外皮、小麦ふすま、大麦ふすま、米糠;トウモロコシ、馬鈴薯、小麦、大麦、米等に含まれる澱粉中のセルロース、ヘミセルロース、リグニン、ペクチン等を主成分とするものおよびそれらの分解物等)、卵、乳類、アミノ酸(アラニン、グリシン、リジン等)、増粘多糖類(キサンタンガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、グアーガム、カラギーナン等)、乳化剤(有機酸モノグリセリド、モノグリセリド、ポリグリセリンエステル等のグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等)等が挙げられる。澱粉類、タンパク質類、各種調味料、その他の原料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。バッターにおける澱粉類、タンパク質類、各種調味料、その他の原料の含有量は、その種類、目的とする油ちょう用巻き食品の種類に応じて適宜設定することができる。
【0024】
バッターの粘度は、目的とする油ちょう用巻き食品の種類に応じて適宜設定することができるが、好ましくは2000~40000cps、より好ましくは3000~30000cps、より一層好ましくは5000~20000cpsである。粘度の測定は、25℃にてB型粘度計(単一遠円筒型回転式粘度計)を用いて実施することができる。粘度測定に使用される装置としては、B8L(東京計器社製、ローター:No.2、回転数60rpm)を使用してもよい。
【0025】
皮の焼成は、通常、春巻き等の巻き食品の皮を焼成する際に用いられる鉄板型焼成機またはドラム型焼成機を用いて行うことができる。具体的には、穀粉および水を主成分として含むバッターを焼成機に適量供給して加熱し、固化させた後に所望の大きさに裁断することにより行うことができる。焼成条件は、原料となる穀粉の種類や量、水の量等によって適宜設定することができる。焼成温度は、例えば90~160℃、好ましくは100~150℃の範囲である。また、焼成時間は、例えば10~120秒、好ましくは15~45秒の範囲である。
【0026】
皮は正方形または略正方形に調製されることが好ましく、また、2つの対角線軸の長さは略同じであることが好ましい。
【0027】
本開示の製造方法により製造される油ちょう用巻き食品を構成する具材は、油ちょう用巻き食品の内部に皮で巻かれた状態で存在する食品素材である。具材は、食品として用いられる材料またはその加工物であり、食品として用いられる材料としては、従来巻き食品の具材として用いられてきたものであれば特に限定されず、例えば、畜肉類およびその加工物、魚介類およびその加工物、野菜類およびその加工物、きのこ類およびその加工物、豆類およびその加工物、種実類およびその加工物、はるさめ、油脂、澱粉、糊料、調味料、香辛料等が挙げられる。これらの材料またはその加工物は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの材料またはその加工物は予め調理されていてもよく、または調理されていなくてもよい。
【0028】
具材として、例えば、リンゴ、バナナ、イチゴ、キウイ、パイナップル、ブルーベリー等の果物類、チョコレート、ジャム、ナッツ類、カスタードクリーム、餡類等の菓子類を用いることにより、菓子感覚の巻き食品とすることができる。さらに、トマト味をつけた野菜類やチーズを入れたピザ様の具材、カレー味をつけた野菜類や肉類の具材等、味にバリエーションを持たせた具材を用いることにより、新感覚の巻き食品とすることもできる。
【0029】
具材の形態としては特に限定されないが、例えば、固体、半固体、ペースト、クリーム、液体(水溶液、分散液、乳化液等)等、またはこれらの混合物等の形態が挙げられる。具体的な形態としては、例えば、液体が主体の形態(例えば、粘度500cps未満)、固体および/または半固体とペーストおよび/またはクリーム(例えば、粘度1000cps以上)との混合物の形態、固体および/または半固体とペーストおよび/またはクリーム(例えば、粘度3000cps以上)との混合物の形態等が挙げられる。
【0030】
皮で具材を巻く方法としては、特に限定されず、巻き食品の製造において行われる通常の皮の巻き方とすることができる。ここで、巻き食品を成形するための、皮で具材を巻く一般的な手順の一例を
図1に示す。
図1では、2つの対角線軸の長さはほぼ同じであり、具材の長辺は皮の対角線軸aに対してほぼ平行であり、かつ、平面視上、皮の対角線軸bが具材のほぼ中央部を通るように具材が皮上に載置される。次いで、皮で具材を一方向に巻き、その方向(巻き方向)に対して具材の右側および/または左側に存在する皮の超過部分(具材が挟まれていない皮の部分)を、具材に向けて折りたたむことにより巻き食品が得られる。このような巻き食品を成形するための、皮で具材を巻き方は当業者にとって公知の技術であり、手作業または市販されている春巻き成形機等を用いて行うことができる。
【0031】
<工程(b)>
工程(b)は、工程(a)で得られた巻き食品の外表面を構成する皮の少なくとも一部に液体を付着させる工程である。以下、工程(b)について詳細に説明する。
【0032】
皮に付着させる液体(以下、単に「液体」ともいう。)としては、食品衛生上用いられ得る液体であれば特に限定されず、水、水溶液、液体調味料(例えば、酢、しょうゆ、酒、みりん等)等が挙げられる。液体は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。一つの好ましい実施態様において、液体は水を含む。別の好ましい実施態様において、液体としては、水が単独で用いられる。また、液体は、糖類、油脂、穀粉等との混合物の形態であってもよい。
【0033】
液体を付着させる部分(範囲)としては、皮の少なくとも一部に液体が付着していれば、その他の部分における液体の付着の有無は特に限定されない。一つの好ましい実施態様において、液体を付着させる部分は、巻き食品の外表面を構成する皮の表面である。なお、皮の表面とは、巻き食品の外表面を構成する皮において、巻き食品の外側の表面(すなわち、巻き食品の外表面)、および巻き食品の内側の表面(すなわち、巻き食品の内表面)の両方の表面を包含する。一つの好ましい実施態様において、液体を付着させる部分は、皮の表面のうち、巻き食品の外側の表面(すなわち、巻き食品の外表面)である。特に好ましい実施態様において、液体を付着させる部分は、皮の表面のうち、巻き食品の外側の表面(すなわち、巻き食品の外表面)の全部である。また、液体を巻き食品の外側の表面(すなわち、巻き食品の外表面)に付着させる場合、皮で具材を巻く前に、巻き食品を形成した場合に巻き食品の外側の表面を構成する皮の部分に予め液体を付着させてもよく、皮で具材を巻く途中で、巻き食品の外側の表面を構成する皮の部分に液体を付着させてもよく、皮で具材を巻いた後に、巻き食品の外側の表面を構成する皮の部分に液体を付着させてもよい。
【0034】
皮に付着させる液体の量は、巻き食品の大きさによって適宜設定することができる。皮に付着させる液体の量の上限値は、皮の単位面積当たりの液体の付着量として、好ましくは1g/cm2、より好ましくは0.5g/cm2、より一層好ましくは0.3g/cm2である。また、皮に付着させる液体の量の下限値は、皮の単位面積当たりの液体の付着量として、好ましくは0.01g/cm2、より好ましくは0.015g/cm2、より一層好ましくは0.02g/cm2である。また、皮に付着させる液体の量の範囲は、皮の単位面積当たりの液体の付着量として、好ましくは0.01~1g/cm2、より好ましくは0.015~0.5g/cm2、より一層好ましくは0.02~0.3g/cm2である。皮に付着させる液体の量を上記の範囲とすることにより、油ちょうした場合に、従来の巻き食品と比較してより一層の異なる外観を有する油ちょう用巻き食品を製造することができる。
【0035】
皮に付着させる液体の温度としては、特に限定されず、例えば、0~50℃、1~40℃、好ましくは2~30℃等とすることができる。
【0036】
皮に液体を付着させる方法としては、特に限定されず、例えば、皮への液体の塗布、噴霧等、巻き食品の一部または全部の液体への浸漬等が挙げられる。一つの好ましい実施態様において、皮への液体の付着は、皮への液体の塗布、皮への液体の滴下や噴霧により行われる。皮への液体の塗布は、例えば、刷毛を用いた塗布により行われる。また、皮への液体の滴下や噴霧は、例えば、ノズル等を用いた滴下や噴霧により行われる。皮への液体の付着は均一であってもよく、または不均一であってもよいが、好ましくは均一である。したがって、特に好ましい実施態様において、皮への液体の付着は、皮への液体の均一な塗布により行われる。
【0037】
<工程(c)>
本開示の製造方法は、上述した工程(a)および(b)の他に、工程(b)において液体を付着させた巻き食品(すなわち、油ちょう用巻き食品)を凍結させる工程(c)をさらに含んでいてもよい。油ちょう用巻き食品を凍結させる条件としては、特に限定されず、例えば、約-35℃の凍結庫内に、30分~3時間静置することにより凍結するのが好ましい。工程(c)において凍結された油ちょう用巻き食品は、その後、例えば-18℃以下の温度で保存することができる。
【0038】
本開示の製造方法により製造される油ちょう用巻き食品は、油ちょうした場合に、従来の巻き食品と比較して大きく異なる外観(油ちょう済み巻き食品の外表面の皮に多くの凹凸や大きな孔を有する外観)を有する。このような油ちょう済み巻き食品の外観は、例えば、3D形状測定モジュールおよびマイクロスコープを用いて測定、数値化することができる。具体的には、マイクロスコープを用いて油ちょう済み巻き食品の外表面の中心部および両端部のそれぞれ1か所(合計3か所)を、30倍または50倍で被写界深度合成して撮影する。得られた撮影データについて、3D形状測定モジュールを用いて形状補正を行い、面粗さを測定し、算術平均粗さ(Sa値)を算出する。
【0039】
[油ちょう用巻き食品]
一つの態様によれば、本開示の製造方法により製造される未加熱の油ちょう用巻き食品(以下、「本開示の油ちょう用巻き食品」ともいう。)が提供される。すなわち、本開示の油ちょう用巻き食品は、皮と、該皮に巻かれた具材とを含んでなる油ちょう用巻き食品であって、前記皮が、気体発生剤を2~5.5質量%含んでなるバッターの加熱処理物であり、前記油ちょう用巻き食品の外表面を構成する前記皮の少なくとも一部に液体が付着していることを特徴とするものである。本開示の油ちょう用巻き食品に関し、皮、具材、気体発生剤等は、上述の本開示の製造方法において説明したものと同じものを用いることができる。
【0040】
本開示の油ちょう用巻き食品は、皮と具材とを含み、皮で具材が巻かれている形態を有する限り特に限定されず、いずれの種類の油ちょう用巻き食品も包含される。すなわち、本開示の油ちょう用巻き食品は、皮で具材が巻かれていればよく、例えば、具材全体が見えないように皮で包まれている形態、具材の一部が露出している形態のいずれであってもよい。本開示の油ちょう用巻き食品としては、例えば、春巻き、ブリトー(登録商標)、タコス、クレープ、パイ、ピエロギ、ラビオリ、ピタ、ファラフェル、焼売、餃子等が挙げられる。
【0041】
本開示の油ちょう用巻き食品は、そのままの状態または油ちょう後に、常温、冷蔵状態または冷凍状態で保存、流通、販売等することができる。したがって、一つの好ましい実施態様において、本開示の油ちょう用巻き食品は、上述した工程(a)および(b)を経て製造され、常温または冷蔵状態の形態で提供される。また、別の好ましい実施態様において、本開示の油ちょう用巻き食品は、上述した工程(a)および(b)の後に工程(c)において凍結処理された冷凍食品として提供される。
【0042】
油ちょう用巻き食品は、喫食前に、その種類、所望の油ちょう状態に応じた方法により油ちょうすることができる。油ちょうの条件は、油ちょう食品を製造する場合に通常用いられる条件であれば特に限定されず、温度は、例えば150~200℃、160~190℃、170~180℃であり、時間は2~15分、3~12分、4~10分とすることができる。油ちょうに用いる油は特に限定されず、例えば、サラダ油、キャノーラ油、ベニバナ油、コーン油、コメ油、ナタネ油、ゴマ油、オリーブ油等が挙げられる。
【0043】
したがって、一つの態様によれば、本開示の油ちょう用巻き食品を油ちょうして得られる油ちょう済みの巻き食品が提供される。このような油ちょう済みの巻き食品は、凍結処理をして冷凍油ちょう済み巻き食品とすることもできる。冷凍油ちょう済み巻き食品は、喫食前に、その種類および油ちょう状態に応じた方法により加熱調理することができる。加熱調理としては、例えば、油ちょう、オーブンやフライパン等による焼き、電子レンジ等によるマイクロ波処理、スチームによる蒸し等が挙げられる。
【0044】
[油ちょう済み巻き食品の表面を改質する方法]
一つの態様によれば、油ちょう用巻き食品を油ちょうした場合において、油ちょう済み巻き食品の表面を改質する方法(以下、「本開示の方法」ともいう。)が提供される。本開示の方法は、具材が皮で巻かれた未加熱の油ちょう用巻き食品を準備する工程(工程(a))、および油ちょう用巻き食品の外表面を構成する皮の少なくとも一部に液体を付着させる工程(工程(b))を含む。一つの実施態様によれば、本開示の方法により、油ちょう済み巻き食品の外表面に凹凸および孔の両方が形成される。本開示の方法によれば、油ちょう用巻き食品を油ちょうした場合に、従来の油ちょう済み巻き食品と比較して大きく異なる外観(油ちょう済み巻き食品の外表面の皮に多くの凹凸や大きな孔を有する外観)を付与することができる。また、本開示の方法によれば、上記のような外観に加え、従来の巻き食品と比較して大きく異なる食感(ザクザクとした食感)も付与し得る。以下、工程(a)および(b)のそれぞれについて説明する。
【0045】
<工程(a)>
工程(a)は、皮で具材を挟むように巻かれた未加熱の巻き食品を準備する工程である。本工程において準備される巻き食品は、皮と具材とを含み、皮で具材が巻かれている形態を有する限り特に限定されず、いずれの種類の巻き食品も用いることができる。例えば、巻き食品としては、上述の本開示の油ちょう用巻き食品において説明したものと同じものを用いることができる。
【0046】
<工程(b)>
工程(b)は、工程(a)で準備した未加熱の巻き食品の外表面を構成する皮の少なくとも一部に液体を付着させる工程である。本工程(b)は、上述の本開示の製造方法について説明した工程(b)と同じようにして行うことができる。
【実施例0047】
以下、実施例に基づいて本開示について具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特段の記載のない限り、本開示における各パラメータの測定方法および単位は、JIS(日本工業規格)に従うものとする。
【0048】
実施例1:油ちょう用巻き食品の油ちょう後の外観の評価
油ちょう用巻き食品を、以下の手順に従って調製した。
(1)皮の調製
油ちょう用巻き食品の皮を焼成するために使用するバッターを、以下の手順に従って調製した。
まず、原料として水、食塩、ダイズ白絞油、小麦粉(中力粉)、ベーキングパウダーおよびエタノール含有食品添加物(エタノール含量65質量%)を準備した。水8.5kg、食塩0.12kgおよびダイズ白絞油0.17kgを、カッターミキサーを用いて1分間撹拌・混合した。得られた混合物に小麦粉8.35kgを添加し、さらに撹拌・混合してバッターを得た。なお、バッターがベーキングパウダーを含む場合には、水、食塩およびダイズ白絞油と共に混合した。また、バッターがエタノール含有食品添加物を含む場合には、水、食塩、ダイズ白絞油および必要に応じてベーキングパウダーの混合物において、水とエタノール含有食品添加物との合計量が8.5kgとなるように水およびエタノール含有食品添加物の量を調整した。
【0049】
得られたバッターを皮の形状に成形し、焼成ドラムを用いて皮を焼成した。得られる皮のサイズが縦210mm、横210mmとなるように調整した。
【0050】
(2)具材の調製
油ちょう用巻き食品の具材を、以下の手順に従って調製した。
表2に示す量の各材料を準備し、それらを混合して90℃で60分間加熱調理し、冷却して具材を得た。得られた具材を34gずつに分け、油ちょう用巻き食品1個分の具材として使用した。
【表1】
【0051】
(3)皮と具材の巻き上げ
春巻き成形機を用いて、上記(1)で得られた皮で、上記(2)で得られた具材を巻き上げ、巻き食品を得た。なお、皮で具材を巻く方法は
図1に示す通りとした。
【0052】
(4)巻き食品への液体の付着
液体の付着は、刷毛を用いて、巻き食品の外表面を構成する皮の外側の表面(すなわち、巻き食品の外表面)の全体に、均一になるように塗布することによって行った。
【0053】
実施例2:油ちょう用巻き食品の油ちょう後の外観の評価1
(1)ベーキングパウダーによる外観の変化の評価
上述した実施例1の皮の調製の手順に従って、バッターの全質量に対するベーキングパウダーの含有量がそれぞれ0質量%、1.17質量%、2.23質量%、4.46質量%、5.25質量%および5.83質量%となるようにベーキングパウダーを添加して皮を調製し、得られた各皮を用いて、それぞれ比較区1および試験区1~5の油ちょう用巻き食品を得た。なお、各油ちょう用巻き食品に付着させる液体として、5gの水を用いた。
【0054】
比較区1および各試験区の油ちょう用巻き食品を、それぞれ180℃で4分30秒間油ちょうして、油ちょう済み巻き食品を得た。
【0055】
各試験区の油ちょう済み巻き食品について、外観に関する下記の2つの評価項目を、比較区1との比較で評価した。なお、外観の評価は、3名のパネルが目視により行った。以下、各評価項目およびそのスコア(評価基準)について説明する。
【0056】
評価項目1:凹凸の数および大きさ
スコア1:比較区1の油ちょう済み巻き食品と比較して、凹凸の数および大きさが低減している。
スコア2:比較区1の油ちょう済み巻き食品と比較して、凹凸の数および大きさがやや低減している。
スコア3:比較区1の油ちょう済み巻き食品と比較して、凹凸の数および大きさが同程度である。
スコア4:比較区1の油ちょう済み巻き食品と比較して、凹凸の数および大きさがやや増大している。
スコア5:比較区1の油ちょう済み巻き食品と比較して、凹凸の数および大きさが増大している。
【0057】
評価項目2:孔の数および大きさ
スコア1:比較区1の油ちょう済み巻き食品と比較して、孔の数および大きさが同程度である。
スコア2:比較区1の油ちょう済み巻き食品と比較して、孔の数および大きさがやや増大している。
スコア3:比較区1の油ちょう済み巻き食品と比較して、孔の数および大きさが増大している。
スコア4:比較区1の油ちょう済み巻き食品と比較して、孔の数および大きさが顕著に増大している。
スコア5:比較区1の油ちょう済み巻き食品と比較して、孔の数および大きさが極めて顕著に増大している。
【0058】
評価項目1および2の評価結果をそれぞれ表2に示す。なお、表中、各試験区についてのスコアは3名のパネルの平均値として示されている。
【表2】
表中、「-」は、皮を焼成する際にバッター中に気体が過剰に発生し、皮を焼成することができなかったことを示す。
【0059】
表2に示す結果から、バッターにおけるベーキングパウダーの含有量が2~5.5質量%の場合(試験区2~4)には、バッターにベーキングパウダーを配合しない場合(比較区1)と比較して、凹凸の数および大きさ、ならびに孔の数および大きさが増大することが示された。また、バッターにおけるベーキングパウダーの含有量が2~5.5質量%の場合(試験区2~4)には、バッターにおけるベーキングパウダーの含有量が2質量%未満の場合(試験区1)と比較しても、凹凸の数および大きさ、ならびに孔の数および大きさが増大することが示された。なお、バッターにおけるベーキングパウダーの含有量が5.5質量%を超える場合(試験区5)には、気体が過剰に発生し、皮の焼成を安定的に行うことができなかった。
【0060】
(2)アルコールによる外観の変化の評価
上述した実施例1の皮の調製の手順に従って、バッターの全質量に対するベーキングパウダーの含有量が5.25質量%となるようにベーキングパウダーを添加し、エタノールの含有量がそれぞれ4.2質量%、8.28質量%および12.67質量%となるようにエタノール含有食品添加物を添加して皮を調製し、得られた各皮を用いて、それぞれ試験区6~8の油ちょう用巻き食品を得た。なお、各油ちょう用巻き食品に付着させる液体として、5gの水を用いた。
【0061】
試験区6~8の各油ちょう用巻き食品、ならびに上記の「(1)ベーキングパウダーによる外観の変化の評価」の項で調製した比較区1および試験区4の各油ちょう用巻き食品を、それぞれ180℃で4分30秒間油ちょうして、油ちょう済み巻き食品を得た。
【0062】
各試験区の油ちょう済み巻き食品について、上記の評価項目1および2を、比較区1との比較で評価した。なお、評価は、上記の「(1)ベーキングパウダーによる外観の変化の評価」において説明したのと同様の方法により行った。評価項目1および2の評価結果をそれぞれ表3に示す。
【0063】
【0064】
表3に示す結果から、バッターにベーキングパウダーを配合し、さらにエタノールを配合した場合(試験区6~8)には、バッターにベーキングパウダーおよびエタノールを配合しない場合(比較区1)と比較して、皮における凹凸の数および大きさ、ならびに孔の数および大きさが増大することが示された。また、バッターにベーキングパウダーを配合し、エタノールを配合しない場合(試験区4)と比較しても、バッターにおける凹凸の数および大きさ、孔の数および大きさが同等であるか、または増大することが示された。
【0065】
実施例3:油ちょう用巻き食品の加熱処理後の外観の評価2
上述した実施例1の皮の調製の手順に従って、バッターの全質量に対するベーキングパウダーの含有量が5.23質量%となるようにベーキングパウダーを添加して皮を調製し、得られた皮を用いて、試験区Aの油ちょう用巻き食品を得た。なお、試験区Aの油ちょう用巻き食品に付着させる液体として、5gの水を用いた。また、ベーキングパウダーの含有量を0質量%とし、液体を付着させなかったこと以外は上述した実施例1の皮の調製の手順に従ってベーキングパウダーを添加してバッターを調製し、得られた皮を用いて、比較区Aの油ちょう用巻き食品を得た。なお、比較区Aの油ちょう用巻き食品には水を付着させなかった。また、ベーキングパウダーの含有量を0%として、上述した実施例1の皮の調製の手順に従ってベーキングパウダーを添加してバッターを調製し、得られた皮を用いて、比較区Bの油ちょう用巻き食品を得た。なお、比較区Bの油ちょう用巻き食品に付着させる液体として、5gの水を用いた。また、ベーキングパウダーの含有量を5.23質量%とし、液体を付着させたこと以外は上述した実施例1の皮の調製の手順に従ってベーキングパウダーを添加してバッターを調製し、得られた皮を用いて、比較区Cの油ちょう用巻き食品を得た。なお、比較区Cの油ちょう用巻き食品に付着させる液体として、5gの水を用いた。
【0066】
試験区Aおよび各比較区の各油ちょう用巻き食品を、それぞれ180℃で4分30秒間油ちょうして、油ちょう済み巻き食品を得た。各油ちょう済み巻き食品の外観の写真を
図3に示す。
図3において、試験区Aの油ちょう済み巻き食品においては、その外表面に凹凸(凹部、凸部、溝部等)および視認できる程度の大きさの孔が多数形成された。一方、比較区AおよびBの油ちょう済み巻き食品においては、それらの外表面の皮に凹凸および視認できる程度の大きさの孔のいずれも形成されなかった。また、比較区Cの油ちょう済み巻き食品においては、その外表面に凹凸はほぼ形成されず、視認できる程度の大きさの孔が若干数形成されるにとどまった。
【0067】
次いで、試験区Aおよび各比較区の油ちょう済み巻き食品について、外観(算術平均面粗さSa値)を以下の手順に従って測定した。まず、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製、型番 VHX-7000)を用いて、
図4に示すように、各油ちょう済み巻き食品の外表面の中心部および両端部のそれぞれ1か所(合計3か所)を、30倍および50倍で被写界深度合成して撮影した。得られた各撮影データについて、3D形状測定モジュール(株式会社キーエンス製、型番 VHX-H5M)を用いて形状補正(球・円筒補正:補正強度1)を行い、面粗さを測定し、算術平均粗さ(Sa値)を算出する。結果を
図5に示す。
【0068】
図5に示す結果から、30倍および50倍のいずれの倍率で撮影した場合であっても、試験区Aの油ちょう済み巻き食品は、その中心部および端部において、比較区A~Cのいずれ油ちょう済み巻き食品と比較しても有意に高い面粗さ(Sa値)を有していることが示された。この結果は、上述した、
図3の各油ちょう済み巻き食品の外観写真の目視による評価を裏付けるものであると言える。
【0069】
実施例4:油ちょう用巻き食品の油ちょう後の食感の評価
(1)ベーキングパウダーによる食感の変化の評価
実施例2で調製した試験区1~4の油ちょう済み巻き食品について、食感を比較区1の油ちょう済み巻き食品との比較で評価した。なお、食感の評価は、3名のパネルによる官能評価試験により行った。以下、スコア(評価基準)について説明する。
【0070】
スコア1:比較区1の油ちょう済み巻き食品と比較して、皮のザクザクとした食感が同程度である。
スコア2:比較区1の油ちょう済み巻き食品と比較して、皮のザクザクとした食感がやや増大している。
スコア3:比較区1の油ちょう済み巻き食品と比較して、皮のザクザクとした食感が増大している。
スコア4:比較区1の油ちょう済み巻き食品と比較して、皮のザクザクとした食感が顕著に増大している。
スコア5:比較区1の油ちょう済み巻き食品と比較して、皮のザクザクとした食感が極めて顕著に増大している。
【0071】
評価結果を表4に示す。なお、表中、各試験区についてのスコアは3名のパネルの平均値として示されている。
【0072】
【0073】
表4に示す結果から、バッターにおけるベーキングパウダーの含有量が2~5.5質量%の場合(試験区2~4)には、バッターにベーキングパウダーを配合しない場合(比較区1)と比較して、皮のザクザクとした食感が増大することが示された。バッターにおけるベーキングパウダーの含有量が2~5.5質量%の場合(試験区2~4)には、バッターにベーキングパウダーの含有量が2質量%未満の場合(試験区1)と比較しても、皮のザクザクとした食感が増大することが示された。
【0074】
(2)アルコールによる食感の変化の評価
実施例2で調製した試験区6~8の油ちょう済み巻き食品について、食感を比較区1の油ちょう済み巻き食品との比較で評価した。なお、評価は、上記の「(1)ベーキングパウダーによる食感の変化の評価」において説明したのと同様の方法により行った。評価結果を表4に示す。
【0075】
【0076】
表5に示す結果から、バッターにベーキングパウダーを配合し、さらにエタノールを配合した場合(試験区6~8)には、バッターにベーキングパウダーおよびエタノールを配合しない場合(比較区1)と比較して、皮のザクザクとした食感が増大することが示された。
本開示によれば、従来の巻き食品と比較して、油ちょうした後の外観が大きく異なる油ちょう用巻き食品を製造することができる。従来の巻き食品と大きく異なる外観は、該食品に対する興味を惹起し、また、食欲を誘引するものである。