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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155151
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】管体及び動力伝達軸
(51)【国際特許分類】
   F16C 3/02 20060101AFI20221005BHJP
   B60K 17/22 20060101ALI20221005BHJP
   F16L 9/128 20060101ALN20221005BHJP
【FI】
F16C3/02
B60K17/22 Z
F16L9/128
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058505
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 貴博
【テーマコード(参考)】
3D042
3H111
3J033
【Fターム(参考)】
3D042AA07
3D042AB01
3D042DA05
3D042DA09
3D042DA14
3H111BA15
3H111CB23
3H111CC13
3H111DB19
3J033AA01
3J033AB02
3J033AC01
3J033BA02
3J033BA07
(57)【要約】
【課題】 異物の衝突による強度低下を抑制することが可能な管体を提供する。
【解決手段】 繊維強化樹脂管体20Aは、繊維強化樹脂によって管状に形成された管部20と、管部20の外周面側に設けられており、管部20に発生し得る亀裂の進展を妨げる進展防止部51と、を備える。
【選択図】 図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂によって管状に形成された管部と、
前記管部の外周面側に設けられており、前記管部に発生し得る亀裂の進展を妨げる進展防止部と、
を備える管体。
【請求項2】
前記進展防止部は、前記管部の全周にわたって設けられている
請求項1に記載の管体。
【請求項3】
前記進展防止部は、前記管部の外周面に設けられた凸部又は凹部を有する
請求項1又は請求項2に記載の管体。
【請求項4】
前記凸部又は前記凹部は、ハニカム形状を呈する部位を有する
請求項3に記載の管体。
【請求項5】
前記凸部又は前記凹部は、格子形状を呈する部位を有する
請求項3又は請求項4に記載の管体。
【請求項6】
前記進展防止部は、前記管部の外周面に固定されたシート状部材を有する
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の管体。
【請求項7】
前記繊維強化樹脂は、炭素繊維強化樹脂である
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の管体。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の管体と、
前記管体の軸方向一端部と第一の他部材とを連結する第一連結部材と、
前記管体の軸方向他端部と第二の他部材とを連結する第二連結部材と、
を備える動力伝達軸。
【請求項9】
前記管体は、車両の前後方向に延設されており、
前記進展防止部は、前記管体の前後方向中間部から後端部にわたって設けられている
請求項8に記載の動力伝達軸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両における管体及び動力伝達軸に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の動力伝達軸(プロペラシャフト)として、樹脂層によって形成されたものが用いられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-138345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の走行中において、石等の異物が樹脂層に衝突すると、樹脂層に亀裂が発生する。樹脂層に発生した亀裂は進展可能であり、亀裂が進展すると動力伝達軸の強度が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するために創作されたものであり、異物の衝突による強度低下を抑制することが可能な管体及び動力伝達軸を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示によれば、繊維強化樹脂によって管状に形成された管部と、前記管部の外周面側に設けられており、前記管部に発生し得る亀裂の進展を妨げる進展防止部と、を備える管体が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、異物の衝突による強度低下を抑制することが可能な管体及び動力伝達軸を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸が適用された車両を模式的に示す図である。
図2】本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸を模式的に示す図である。
図3】本発明の第一の実施形態に係る繊維強化樹脂管体を模式的に示す図である。
図4】本発明の第一の実施形態に係る繊維強化樹脂管体を模式的に示す断面図である。
図5】本発明の第一の実施形態に係る繊維強化樹脂管体を製造するためのマンドレルを説明するための模式図である。
図6】本発明の第一の実施形態に係る繊維強化樹脂管体の第一の炭素繊維層を説明するための模式図である。
図7】本発明の第一の実施形態に係る繊維強化樹脂管体の第二の炭素繊維層を説明するための模式図である。
図8】本発明の第一の実施形態に係る繊維強化樹脂管体の第三の炭素繊維層を説明するための模式図である。
図9】本発明の第一の実施形態に係る繊維強化樹脂管体に設けられた進展防止部を模式的に示す図である。
図10】本発明の第一の実施形態に係る繊維強化樹脂管体に設けられた進展防止部を模式的に示す図である。
図11】本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図12】本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸の製造方法を説明するための模式図である。
図13】本発明の第二の実施形態に係る繊維強化樹脂管体に設けられた進展防止部を模式的に示す図である。
図14】本発明の第二の実施形態に係る動力伝達軸の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図15】本発明の第三の実施形態に係る繊維強化樹脂管体に設けられた進展防止部を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態について、炭素繊維強化プラスチックによって車両の動力伝達軸(プロペラシャフト)を製造する場合を例にとり、図面を参照して詳細に説明する。以下の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、参照する図面は、分かりやすさのためにデフォルメされている。
【0010】
<第一の実施形態>
図1に示すように、第一の実施形態に係る動力伝達軸1Aは、車両Cの車体下部の車幅方向中間部において前後方向に延設され、前輪FW側に設けられた動力源で発生した動力を軸線周りの回転として後輪RW側へ伝達する軸である。図2に示すように、動力伝達軸1Aは、繊維強化樹脂管体20Aと、第一連結部材3と、第二連結部材4と、を備える。第一連結部材3は、繊維強化樹脂管体20Aの軸方向一端部すなわち前端部に設けられており、車両の他部材と連結される関節部としてのフランジジョイント組立体である。第二連結部材4は、繊維強化樹脂管体20Aの軸方向他端部すなわち後端部に設けられており、車両の他部材と連結される関節部としてのヨーク組立体である。
【0011】
<繊維強化樹脂管体>
図3図5に示すように、繊維強化樹脂管体20Aは、マンドレル10の外周面に沿うように管状に形成された管部としての樹脂含有繊維層を備える。繊維強化樹脂管体20Aの管部の軸方向両端部には、第一の金属部材30及び第二の金属部材40が設けられている。
【0012】
≪マンドレル≫
図5に示すように、マンドレル10は、筒形状を呈する樹脂製部材である。本実施形態において、マンドレル10は、繊維強化樹脂管体20Aの内部から除去されるが、繊維強化樹脂管体20Aの内部に残留して繊維強化樹脂管体20の芯材として機能することも可能である。マンドレル10には、繊維強化樹脂管体20Aにおける樹脂硬化の際の加熱に耐えられる材料を用いることができる。そのような材料の例としては、PP(ポリプロピレン樹脂)、PET(ポリエチレンテレフタレート樹脂)、SMP(形状記憶ポリマー)等が挙げられる。マンドレル10は、軸方向中間部の大径部11と、軸方向一端部に形成されるテーパ部12及び中径部13と、軸方向他端部に形成される段部14及び小径部15と、を一体に備える。本実施形態において、中径部13の軸方向一端部には、中径部13よりも小径な突出部16が形成されている。突出部16は、第一の金属部材30が外嵌される部位である。段部14及び突出部16の外周面には、スプライン接合用の雄スプラインが形成されている。
【0013】
図3図5に示すように、繊維強化樹脂管体20Aは、マンドレル10の大径部11、テーパ部12及び中径部13、第一の金属部材30の軸方向一端部、並びに、第二の金属
部材40の軸方向他端部位の外周面上に沿うように形成される。
【0014】
繊維強化樹脂管体20Aは、軸方向一端部側に、軸方向中央側の大径部20aから軸方向一端部の小径部20cに向かうにつれて縮径するテーパ部20bが形成されている。大径部20aは、マンドレル10の大径部11の外周面に倣う形状を呈する本体部である。テーパ部20bは、マンドレル10のテーパ部12の外周面に倣う形状を呈する。小径部20cは、マンドレル10の中径部13及び第一の金属部材30の一部の外周面に倣う形状を呈する端部である。
【0015】
図6図8に示すように、繊維強化樹脂管体20Aは、炭素繊維層として、径方向内側(マンドレル10側)から順に、第一の炭素繊維層21と、第二の炭素繊維層22と、第三の炭素繊維層23と、を備える。なお、図5図7において、炭素繊維層21,22,23は、一部のみが図示されている。また、第一の金属部材30の軸方向一端部(マンドレル10とは反対側に位置する端部)の外周面、及び、第二の金属部材40の軸方向他端部(マンドレル10とは反対側に位置する端部)の外周面は、繊維強化樹脂管体20Aによって被覆されておらず、当該繊維強化樹脂管体20Aから露出している。
【0016】
≪第一の炭素繊維層≫
図5に示すように、第一の炭素繊維層21は、マンドレル10等の外周面に対して、当該マンドレル10を被覆するように設けられる複数の炭素繊維によって構成されている。第一の炭素繊維層21における炭素繊維は、マンドレル10の軸線方向に対して若干傾斜する方向に延設されている。すなわち、第一の炭素繊維層21に関して、マンドレル10の軸線Xに対する炭素繊維の配向角度は、0°である。第一の炭素繊維層21としては、高弾性を有するピッチ系の炭素繊維が好適に利用可能である。
【0017】
≪第二の炭素繊維層≫
図6に示すように、第二の炭素繊維層22は、第一の炭素繊維層21の径方向外側に設けられており、第一の炭素繊維層21を被覆するように設けられる複数の炭素繊維によって構成されている。第二の炭素繊維層22における炭素繊維は、マンドレル10の軸線方向に対して45°傾斜するように1周以上巻回され、マンドレル10の軸線方向に対して螺旋状に延設されている。すなわち、第二の炭素繊維層22に関して、マンドレル10の軸線Xに対する炭素繊維の配向角度は、45°である。第二の炭素繊維層22としては、高強度を有するPAN系の炭素繊維が好適に利用可能である。
【0018】
≪第三の炭素繊維層≫
図7に示すように、第三の炭素繊維層23は、第二の炭素繊維層22の径方向外側に設けられており、第二の炭素繊維層22を被覆するように設けられる複数の炭素繊維によって構成されている。第三の炭素繊維層23における炭素繊維は、マンドレル10の軸線方向に対して-45°傾斜するように1周以上巻回され、マンドレル10の軸線方向に対して螺旋状に延設されている。すなわち、第三の炭素繊維層23に関して、マンドレル10の軸線Xに対する炭素繊維の配向角度は、-45°である。第三の炭素繊維層23としては、高強度を有するPAN系の炭素繊維が好適に利用可能である。
【0019】
<第一の金属部材>
図3図5に示すように、第一の金属部材30は、略円柱形状を呈する部材(シャフト)である。図6等に示すように、製造途中段階において、マンドレル10から離れた側に位置する第一の金属部材30の軸線方向一端部は、マンドレル10から露出しており、マンドレル10側に位置する第一の金属部材30の軸方向他端部は、マンドレル10に嵌合(内嵌)されている。
【0020】
図4及び図5に示すように、第一の金属部材30の軸方向他端部には、マンドレル10の突出部16が挿入可能な有底の孔部30aが形成されている。
【0021】
第一の金属部材30は、動力伝達軸1Aにおける第一連結部材3としてのフランジジョイント組立体の一部材である。フランジジョイント組立体は、かかる第一の金属部材30に対して、ブーツ、プランジョイントを組み付けることによって形成される。
【0022】
<第二の金属部材>
第二の金属部材40は、略円筒形状を呈する部材である。図6等に示すように、製造途中段階において、マンドレル10から離れた側に位置する第二の金属部材40の軸線方向他端部は、マンドレル10から露出しており、マンドレル10側に位置する第二の金属部材40の軸方向一端部は、マンドレル10に嵌合(外嵌)されている。
【0023】
第二の金属部材40は、動力伝達軸1Aにおける第二連結部材4としてのヨーク組立体の一部材である。ヨーク組立体は、かかる第二の金属部材40に対して、スパイダー、ニードルベアリング、ヨークを組み付けることによって形成される。
【0024】
≪進展防止部≫
図9及び図10に示すように、繊維強化樹脂管体20Aの外周面には、繊維強化樹脂管体20Aの外周面側に発生し得る亀裂の進展を妨げる進展防止部51が設けられている。本実施形態において、進展防止部51は、炭素繊維層21~23及び樹脂24によって形成された管部20の外周面に形成された凸部又は凹部である。進展防止部51は、繊維強化樹脂管体20Aの全周にわたって(周方向の全体に連続して)形成されているとともに、繊維強化樹脂管体20Aの軸方向全体にわたって形成されている。進展防止部51は、大径部20aに加えて、テーパ部20b及び小径部20cにも設けられている。
【0025】
図9に示す例では、進展防止部51aは、管部20の外周面から径方向外方に突出するハニカム形状(連続する六角形の枠形状)を呈する凸部である。かかる進展防止部51aは、繊維強化樹脂管体20Aの外周面から径方向内方に窪むハニカム形状(複数の六角形状)を呈する凹部であるともいえる。
【0026】
図10に示す例では、進展防止部51bは、管部20の外周面から径方向外方に突出する格子形状(連続する矩形の枠形状)を呈する凸部である。かかる進展防止部51bは、繊維強化樹脂管体20Aの外周面から径方向内方に窪む格子状(複数の矩形状)を呈する凹部であるともいえる。
【0027】
なお、進展防止部51は、管部20の外周面から径方向内方に窪むハニカム形状(連続する六角形の枠形状)又は格子形状(連続する矩形の枠形状)を呈する凹部であってもよい。
【0028】
車両Cの走行時において、前輪FWが跳ね上げた異物(石等)が動力伝達軸1すなわち繊維強化樹脂管体20Aに衝突することによって、繊維強化樹脂管体20Aの外表面に亀裂が発生することがある。かかる亀裂は、外周面に設けられた凸部である進展防止部51に発生するが、進展防止部51がハニカム形状、格子形状等を呈するので、他部位への進展が防止される。
【0029】
<製造方法>
続いて、第一の実施形態に係る動力伝達軸1Aの製造方法について、図11のフローチャートを用いて説明する。動力伝達軸1Aの製造方法は、マンドレル形成工程(ステップS1)と、マンドレル形成工程の後に実行される第一連結工程(ステップS2)と、第一
連結工程の後に実行される第二連結工程(ステップS3)と、を含む。また、動力伝達軸1Aの製造方法は、第二連結工程の後に実行される繊維設置工程(ステップS4a,S4b,S4c)と、繊維設置工程の後に実行される金型内設置工程(ステップS5A)と、を含む。また、動力伝達軸1Aの製造方法は、金型内設置工程の後に実行される成型工程(ステップS6A)と、成型工程の後に実行される取出工程(ステップS7A)と、取出工程の後に実行されるジョイント組付工程(ステップS8)と、を含む。
【0030】
ステップS1は、図5に示される樹脂製のマンドレル10を図示しない成形装置を用いて形成する工程である。ステップS1に続いて、マンドレル10の軸線方向一端部に第一の金属部材30を設ける(ステップS2)。
【0031】
ステップS2では、まず、第一の金属部材30の軸方向他端部を、マンドレル10の突出部16に嵌合(外嵌)させる。続いて、第一の金属部材30の軸方向他端部の外周面上に接着層(図示せず)を設ける。ステップS2において、第一の金属部材30は、マンドレル10の突出部16に外嵌されてスプライン接合される。
【0032】
ステップS2に続いて、ステップS3で、マンドレル10の軸線方向他端部に第二の金属部材(カラー)40を設ける。ステップS3において、第二の金属部材40は、マンドレル10の段部14に外嵌されてスプライン接合される。ここで、ステップS2,S3の順番は、適宜変更可能であり、ステップS3が先でもよく、同時でもよい。
【0033】
ステップS3に続いて、ステップS4aで、図6に示すように、第一の炭素繊維層21がマンドレル10、第一の金属部材30の外周面上に形成される。ステップS4aに続いて、ステップS4bで、図7に示すように、第二の炭素繊維層22がマンドレル10、第一の金属部材30及び第二の金属部材40における第一の炭素繊維層21の外周面上に形成される。ステップS4bに続いて、ステップS4cで、図8に示すように、第三の炭素繊維層23がマンドレル10、第一の金属部材30及び第二の金属部材40における第二の炭素繊維層22の外周面上に形成される。ステップS4a~S4cにおいて、第一の金属部材30及び第二の金属部材40のそれぞれの軸方向におけるマンドレル10とは反対側に位置する端部には、それぞれの繊維が配置されないように炭素繊維層21~23が形成される。
【0034】
ステップS4a~S4cにおいて、炭素繊維層21~23は、樹脂が含浸された繊維ではなく、いわゆる生糸である。また、炭素繊維層21~23は、それぞれ多給糸フィラメントワインド法によってマンドレル10、第一の金属部材30の軸線方向一端部及び第二の金属部材40の軸線方向他端部の外周面上に配置される。多給糸フィラメントワインド法によって給糸された炭素繊維層21~23は、互いに織り込まれることなく層として独立した、いわゆるノンクリンプ構造を呈する。
【0035】
ステップS4cに続いて、ステップS5Aで、図12に示すように、マンドレル10、第一の金属部材30、第二の金属部材40及び炭素繊維層21~23の組立体を、成形装置(金型)100内に設置する。
【0036】
ステップS5Aに続いて、当該成形装置100内に樹脂24が供給される。これにより、マンドレル10の外周面に配置された炭素繊維層21~23に樹脂24が含浸される。さらに、成形装置100に熱を加えることによって樹脂24を硬化させ、繊維強化樹脂管体20Aが形成されるとともに、繊維強化樹脂管体20A(の一部)及び第一の金属部材30が一体成型される(ステップS6A、成型工程)。樹脂24は、例えば熱硬化性樹脂である。本実施形態において、成形装置100の金型は、複数に分割されている。ステップS6Aでは、前記組立体に熱が加えられるとともに、成形装置100の金型を閉じる型
閉じ操作を行い、続いて、閉じた金型に圧力を印加する型締め操作を行うことにより、金型内の圧力を上昇させることで、樹脂24の硬化が促進される。なお、本実施形態では金型が複数に分割されている構成で説明しているため、型閉じ操作及び型締め操作が行われているが、型締め操作は、必須ではない。また、金型が複数に分割されていない場合には、かかる型閉じ操作及び型締め操作は、必須ではない。成形装置100内において、溶融状態の樹脂24が導入されるゲート101の出口側には空間(樹脂だまり102)が形成されている。成形装置100内に導入された樹脂24は、炭素繊維層21~23の軸方向一端部の側方に位置する当該樹脂だまり102に貯留される。樹脂だまり102に貯留された樹脂24は、炭素繊維層21~23の配列方向においてゲート101とは反対側(炭素繊維層21~23の軸方向他端部の外周面側)に形成された吸引口103からの真空吸引によって、マンドレル10の軸線方向に移動し、炭素繊維層21~23に含浸する。樹脂24が炭素繊維層22,23に含浸した状態で、成形装置100に熱が加えられ、さらに、成形装置100内に圧力が加えられることによって、繊維強化樹脂管体20Aが形成される。
【0037】
成形装置100の内周面には、進展防止部51のネガ形状を呈する凹部又は凸部が形成されている。ステップS5A,S6Aでは、成形装置100の内周面に形成された凹部又は凸部を用いることによって、繊維強化樹脂管体20Aの外周面に、樹脂24による進展防止部51が形成される。
【0038】
ステップS6Aに続いて、ステップS7Aで、成形された組立体すなわち中間体が成形装置100から取り出される。
【0039】
ステップS7Aに続いて、ステップS8で、中間体の第一の金属部材30にフランジジョイント組立体を取り付けるとともに、第二の金属部材40にヨーク組立体を取り付ける。
【0040】
なお、ステップS7AとステップS8との間に、マンドレル抜き取り工程を実行することが考えられる。このマンドレル抜き取り工程は、第二の金属部材40の端部開口側から繊維強化樹脂管体20Aの外側にマンドレル10を取り出す工程である。この際、マンドレル10は、使用される材料に応じた方法にしたがって、例えば変形され、溶融され、分解され、破壊され、又は溶出されることによって繊維強化樹脂管体20Aの内側から取り出される。これにより、動力伝達軸1Aの軽量化が達成されることとなる。
【0041】
また、マンドレル10を変形させて第二の金属部材40の端部開口側から取り出す場合には、例えばマンドレル10の中空部を減圧することで前記の端部開口よりもマンドレル10を小さくなるように収縮させて繊維強化樹脂管体20Aから抜き取る方法を採用することができる。
【0042】
図12に示すように、第一実施形態での金型100においては、マンドレル10の内側に連通するように、連通路104が設けられている。マンドレル抜き取り工程を行う際には、不図示の真空ポンプに連結された連通路104を介して、マンドレル10の中空部を減圧することができる。
【0043】
このような抜き取り工程は、例えば熱可塑性樹脂からなるマンドレル10を加熱等により可塑化することでより好適に実施することができる。また、例えばダイヤカットを施したアルミニウム薄板からなるマンドレル10についても好適に実施することができる。
【0044】
第一の実施形態に係る管体(繊維強化樹脂管体20A)は、繊維強化樹脂によって管状に形成された管部20と、前記管部20の外周面側に設けられており、前記管部20に発
生し得る亀裂の進展を妨げる進展防止部51と、を備える。
したがって、管体は、亀裂の進展を防止し、強度低下を抑制することができる。
【0045】
前記進展防止部51は、前記管部の全周にわたって設けられている。
したがって、管体は、回転することによって動力を伝達する動力伝達軸に適用された場合において、周方向のどの位置に異物が衝突したとしても、亀裂の進展を防止し、強度低下を抑制することができる。
【0046】
前記進展防止部51は、前記管部20の外周面に設けられた凸部又は凹部を有する。
したがって、管体は、別部材を設けることなく簡易な構成で進展防止部51を実現し、亀裂の進展を防止するとともに強度低下を抑制することができる。
【0047】
前記凸部又は前記凹部は、ハニカム形状を呈する部位を有してもよく、格子形状を呈する部位を有する。
したがって、管体は、簡易な形状で進展防止部51を実現し、亀裂の進展を防止するとともに強度低下を抑制することができる。
【0048】
前記繊維強化樹脂は、炭素繊維強化樹脂である。
したがって、管体は、安価かつ入手容易な材料によって製造可能である。
【0049】
また、第一の実施形態に係る動力伝達軸1Aは、前記管体と、前記管体の軸方向一端部と第一の他部材とを連結する第一連結部材と、前記管体の軸方向他端部と第二の他部材とを連結する第二連結部材と、を備える。
したがって、動力伝達軸1Aは、亀裂の進展を防止するとともに強度低下を抑制することによって、第一の他部材及び第二の他部材の間で動力を好適に伝達することができる。
【0050】
<第二の実施形態>
続いて、本発明の第二の実施形態に係る繊維強化樹脂管体について、第一の実施形態に係る繊維強化樹脂管体20Aとの相違点を中心に説明する。
【0051】
図13に示すように、第二の実施形態に係る繊維強化樹脂管体20Bは、進展防止部51に代えて、進展防止部52を備える。進展防止部52は、繊維層21~23及び樹脂24によって円筒形状に形成された管部20の外周面状に設けられるシート状部材である。進展防止部52は、管部20の全周にわたって(周方向の全体に連続して)形成されているとともに、繊維強化樹脂管体20の軸方向全体にわたって形成されている。進展防止部52としては、ゴムシート、ガラスシート、ボクシング等で用いられるバンテージテープ、スポンジテープ等が利用可能であり、図示しない接着層、粘着層等を介して繊維強化樹脂管体20の外表面に固定可能である。
【0052】
車両Cの走行時において、前輪FWが跳ね上げた異物(石等)が動力伝達軸すなわち繊維強化樹脂管体20Bに衝突することによって、管体20の外表面に亀裂が発生することがある。かかる亀裂は、管体20の外周面に発生するが、進展防止部52が管体20の外表面に設けられているので、他部位への進展が防止される。進展防止部52は、管体20の外表面に亀裂が発生すること自体を抑制することもできる。
【0053】
<製造方法>
続いて、第二の実施形態に係る動力伝達軸の製造方法について、図14のフローチャートを用いて説明する。第二の実施形態に係る動力伝達軸の製造方法は、ステップS7BとステップS8との間に、進展防止部設置工程(ステップS4d)を含む。また、本フローのステップS5Bでは、進展防止部51と対応する形状を有しない金型が用いられ、ステ
ップS6Bでは、管体20の外表面には進展防止部51は形成されない。また、本フローのステップS7Bでは、進展防止部51と対応する形状を有しない金型から成型体(中間体)が取り出される。ステップS4dでは、ステップS6Bで形成された管体20の外表面に、シート状部材である進展防止部52が設けられる。
【0054】
第二の実施形態に係る管体(繊維強化樹脂管体20B)において、前記進展防止部52は、前記管部20の外周面に固定されたシート状部材を有する。
したがって、管体は、異物の衝突による亀裂の発生を抑制するとともに、亀裂が発生した場合には、亀裂の進展を防止するとともに強度低下を抑制することができる。
【0055】
<第三の実施形態>
続いて、第三の実施系形態に係る繊維強化樹脂管体について、第一及び第二の実施形態に係る繊維強化樹脂管体20A,20Bとの相違点を中心に説明する。
【0056】
図15に示すように、第三の実施形態に係る繊維強化樹脂管体20Cは、前記した繊維強化樹脂管体20A,20Bを組み合わせたものであり、管部20の外表面に設けられた凸部又は凹部である進展防止部51と、進展防止部51の外表面に設けられたシート状部材である進展防止部52と、を備える。
【0057】
第三の実施形態に係る管体(繊維強化樹脂管体20C)は、進展防止部51,52の両方を備えるので、異物の衝突による亀裂の発生を抑制するとともに、亀裂が発生した場合には、亀裂の進展をより好適に防止するとともに強度低下を抑制することができる。
【0058】
<第四の実施形態>
続いて、第四の実施形態に係る動力伝達軸について、第一から第三の実施形態に係る動力伝達軸1Aとの相違点を中心に説明する。
【0059】
第一から第三の実施形態に係る繊維強化樹脂管体20A~20Cのいずれかを備える動力伝達軸において、進展防止部51,52は、繊維強化樹脂管体20A~20Cの軸方向全体すなわち前端部から後端部にかけて設けられている。これに対し、図1に示すように、第四の実施形態に係る動力伝達軸1Dでは、繊維強化樹脂管体20A~20Cのいずれかにおける進展防止部51,52は、位置Yよりも後方すなわち管部20の前後方向中間部から後端部にかけて形成されており、位置Yよりも前方すなわち管部20の前端部には形成されていない。これは、前輪FWが跳ね上げた異物は動力伝達軸1Dの前端部には衝突しないと考えられるための措置である。位置Yは、車両Cのサイズ等に応じて適宜設定可能である。
【0060】
第四の実施形態に係る動力伝達軸1Dにおいて、前記管体は、車両Cの前後方向に延設されており、前記進展防止部51,52は、前記管体の前後方向中間部から後端部にわたって設けられている。
したがって、動力伝達軸1Dは、異物が衝突するおそれがない前端部において進展防止部51,52を省略することによって、材料及び/又は部品点数の削減による軽量化、低コスト化及び/又は製造工程の簡略化を実現することができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変形可能である。例えば、ステップS6A,S7Aの間又はステップS6B,S7Bの間にマンドレル10を成形された繊維強化樹脂管体20A,20Bから抜き出す構成であってもよい。また、マンドレル10は、ステップS6A,S6Bにおける樹脂24や成形装置(金型)100の熱によって溶融して除去される構成であってもよい。その他の熱、電気、振動等のエネルギーによってマンドレル10を溶
融して除去することも可能である。また、各炭素繊維層21~23は、互いに織り込まれた、いわゆるクリンプ構造を呈してもよい。また、繊維体は、炭素繊維に限定されず、樹脂層を強化可能な繊維部材(例えば、ガラス繊維、セルロース繊維等)であればよい。また、繊維強化樹脂管体20A,20Cが繊維強化樹脂シートを用いて形成される場合には、進展防止部51は、管部20の外表面に対して切削等の加工を施すことによって形成可能である。
【符号の説明】
【0062】
1A,1D 動力伝達軸
3 第一連結部材
4 第二連結部材
20 管部
20A,20B,20C 繊維強化樹脂管体(管体)
21,22,23 炭素繊維層(繊維)
24 樹脂
51 進展防止部(凸部又は凹部)
52 進展防止部(シート状部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15