(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155158
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】アミン変性フェノールノボラック樹脂
(51)【国際特許分類】
C08G 8/28 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
C08G8/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058515
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 晃太郎
(72)【発明者】
【氏名】三谷 紀幸
【テーマコード(参考)】
4J033
【Fターム(参考)】
4J033CA02
4J033CA11
4J033FA04
4J033HA02
4J033HA08
4J033HA12
4J033HA27
4J033HB08
(57)【要約】
【課題】酸性水溶液への溶解性に優れ、これまでのアミン変性フェノール樹脂よりも優れた耐溶剤性を有する硬化物が得られるアミン変性フェノール樹脂及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるノボラック型フェノール樹脂と、ホルムアルデヒドと、アミン類との反応物であるアミン変性フェノールノボラック樹脂である。
上記一般式(1)において、nは、0又は正の整数であり、ゲル浸透クロマトグラフ分析におけるノボラック型フェノール樹脂全体の面積に対するn=0の成分及びn=1の成分の合計の面積が、10面積%以上20面積%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるノボラック型フェノール樹脂と、ホルムアルデヒドと、アミン類との反応物であるアミン変性フェノールノボラック樹脂。
【化1】
上記一般式(1)において、nは、0又は正の整数であり、ゲル浸透クロマトグラフ分析におけるノボラック型フェノール樹脂全体の面積に対するn=0の成分及びn=1の成分の合計の面積が、10面積%以上20面積%以下である。
【請求項2】
ゲル浸透クロマトグラフ分析におけるノボラック型フェノール樹脂全体の面積に対するn=2の成分の面積が、15面積%以上45面積%以下である請求項1に記載のアミン変性フェノールノボラック樹脂。
【請求項3】
ノボラック型フェノール樹脂の構造中に含まれるフェノール環1モルに対するホルムアルデヒドのモル数が0.5以上であり、アミン類のモル数が0.5以上であり、且つ、ホルムアルデヒドのモル数とアミン類のモル数との和が1.0~2.4モルである請求項1又は請求項2に記載のアミン変性フェノールノボラック樹脂。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のアミン変性フェノールノボラック樹脂と、無機化合物若しくは有機化合物又はそれら双方からなる酸性化合物のいずれか1種を含有してなる水系フェノール樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の水系フェノール樹脂組成物を含有する金属表面処理剤。
【請求項6】
請求項4に記載の水系フェノール樹脂組成物を含有する水系塗料。
【請求項7】
下記一般式(1)で示されるノボラック型フェノール樹脂と、ホルムアルデヒドと、アミン類とを反応させるアミン変性フェノールノボラック樹脂の製造方法。
【化2】
上記一般式(1)において、nは、0又は正の整数であり、ゲル浸透クロマトグラフ分析におけるノボラック型フェノール樹脂全体の面積に対するn=0の成分及びn=1の成分の合計の面積が、10面積%以上20面積%以下である。
【請求項8】
ゲル浸透クロマトグラフ分析におけるノボラック型フェノール樹脂全体の面積に対するn=2の成分の面積が、15面積%以上45面積%以下である請求項7に記載のアミン変性フェノールノボラック樹脂の製造方法。
【請求項9】
ノボラック型フェノール樹脂の構造中に含まれるフェノール環1モルに対するホルムアルデヒドのモル数が0.5以上であり、アミン類のモル数が0.5以上であり、且つ、ホルムアルデヒドのモル数とアミン類のモル数との和が1.0~2.4モルである請求項7又は請求項8に記載のアミン変性フェノールノボラック樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミン変性フェノールノボラック樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は耐食性や密着性、耐熱性に優れているため、塗料や接着剤の原料、エポキシ樹脂の前駆体や硬化剤として幅広く使用されている。
【0003】
昨今のVOC低減等、環境問題の観点から、塗料や接着剤組成物の水性化が活発に検討され、水系フェノール樹脂の要望が強くなってきている。フェノール樹脂にアミノメチル基を導入したアミン変性フェノール樹脂は、水溶性フェノール樹脂であり、優れた耐食性や密着性を有することから、金属表面処理剤(化成処理剤)や電着塗料用の結合剤、水性塗料添加剤等への利用が提案されている(特許文献1~4)。
【0004】
また近年では、リチウムイオン電池等の二次電池の外装用積層体に用いられる金属箔用の化成処理剤として、アミン変性フェノール樹脂、リン酸、フッ化クロム化合物からなる組成物が使用されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-62048号公報
【特許文献2】特開平7-278410号公報
【特許文献3】特開平9-263682号公報
【特許文献4】特開2004-107432号公報
【特許文献5】特開2019-061966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のアミン変性フェノール樹脂を含む組成物から得られる硬化物は、有機溶剤への耐性が十分なものではないという課題があった。特に非水系電池であるリチウムイオン電池では、その外装体を形成する積層膜界面における密着性を維持するため、電解液である炭酸アルキルエステル化合物への耐性や、フッ素系電解質の加水分解物であるフッ酸に対する耐腐食性の向上が強く求められている。
【0007】
本発明は、酸性水溶液への溶解性に優れ、これまでのアミン変性フェノール樹脂よりも優れた耐溶剤性を有する硬化物が得られるアミン変性フェノール樹脂及びその製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題解決のため鋭意研究を重ねた結果、特定の分子量分布を有するノボラック型フェノール樹脂と、ホルムアルデヒドと、アミン類との反応物であるアミン変性フェノールノボラック樹脂が、酸性水溶液への溶解性に優れ、優れた耐溶剤性を有する硬化物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明は、下記一般式(1)で示されるノボラック型フェノール樹脂と、ホルムアルデヒドと、アミン類との反応物であるアミン変性フェノールノボラック樹脂である。
【0010】
【化1】
上記一般式(1)において、nは、0又は正の整数であり、ゲル浸透クロマトグラフ分析におけるノボラック型フェノール樹脂全体の面積に対するn=0の成分及びn=1の成分の合計の面積が、10面積%以上20面積%以下である。
【0011】
また、本発明は、上記一般式(1)で示されるノボラック型フェノール樹脂と、ホルムアルデヒドと、アミン類とを反応させるアミン変性フェノールノボラック樹脂の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアミン変性フェノールノボラック樹脂は、酸性水溶液への溶解性に優れ、また、これまでのアミン変性フェノール樹脂よりも優れた耐溶剤性を有する硬化物が得られる。そのため、本発明のアミン変性フェノールノボラック樹脂は、金属表面処理剤の樹脂成分として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のアミン変性フェノールノボラック樹脂は、下記一般式(1)で示されるノボラック型フェノール樹脂(以下、「ノボラック型フェノール樹脂(1)」ともいう。」と、ホルムアルデヒドと、アミン類との反応物であるアミン変性フェノールノボラック樹脂である。
【0014】
【化2】
上記一般式(1)において、nは、0又は正の整数であり、ゲル浸透クロマトグラフ分析におけるノボラック型フェノール樹脂全体の面積に対するn=0の成分及びn=1の成分の合計の面積が、10面積%以上20面積%以下である。
【0015】
本発明のアミン変性フェノールノボラック樹脂は、特定の分子量分布を有するノボラック型フェノール樹脂にホルムアルデヒドとアミン類とを反応させることによりアミノ基を導入したものであり、特定の分子量分布を有することが特徴の1つである。分子量分布の測定はゲル浸透クロマトグラフ(GPC)分析により行われるのが一般的であるが、樹脂中に導入されたアミノ基と充填剤が有する極性基との相互作用により、樹脂がカラムに吸着され、樹脂の分子量分布を正確に把握することが困難である。そのため、本発明のアミン変性フェノールノボラック樹脂の分子量分布を、一般的な方法で直接特定することはできず、原料であるノボラック型フェノール樹脂の分子量分布と製造方法によって特定せざるを得ない。
したがって、本発明のアミン変性フェノールノボラック樹脂については、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在する。
【0016】
本発明において、ノボラック型フェノール樹脂(1)は、特定の分子量分布を有する。具体的には、ゲル浸透クロマトグラフ分析におけるノボラック型フェノール樹脂全体の面積に対するn=0の成分及びn=1の成分の合計の面積が特定範囲であることを特徴とする。n=0の成分及びn=1の成分の合計の面積は、10面積%以上20面積%以下であることが好ましく、11面積%以上18面積%以下であることがより好ましく、12面積%以上16面積%以下であることが特に好ましい。n=0の成分及びn=1の成分の合計の面積を上記範囲とすることで、成膜後に硬化させたときに高い溶剤耐性を有する硬化膜となるアミン変性フェノールノボラック樹脂が得られる。
【0017】
本発明において、ノボラック型フェノール樹脂(1)の分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフ分析におけるノボラック型フェノール樹脂全体の面積に対するn=0の成分及びn=1の成分の合計の面積が特定範囲であり、且つ、n=2成分の面積が特定範囲であることがより好ましい。n=2成分の面積は、15面積%以上45面積%以下であること好ましく、20面積%以上40面積%以下であることがより好ましい。n=2成分の面積を上記範囲とすることで、成膜後に硬化させたときに高い溶剤耐性を有する硬化膜となるアミン変性フェノールノボラック樹脂が得られ、且つ、アミン変性フェノールノボラック樹脂の粘度を容易に低粘度とすることができる。
【0018】
上記ホルムアルデヒドは、例えば、水溶液化したホルムアルデヒド(ホルマリン)を好適に用いることができる。またホルムアルデヒド発生物質としては、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサン等のホルムアルデヒドを発生する化合物を好適に使用することができる。
【0019】
上記アミン類は、アミノ基を有する化合物を意味し、例えば、下記一般式(2)で示される化合物が挙げられる。
【0020】
【化3】
上記一般式(2)において、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、又は炭素数1~10のヒドロキシアルキル基を表す。
【0021】
上記アミン類の具体例としては、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、プロパノールアミン、イソプロパノールアミン及びジイソプロパノールアミン等が挙げられる。
【0022】
本発明のアミン変性フェノールノボラック樹脂は、ノボラック型フェノール樹脂(1)と、ホルムアルデヒドと、アミン類との反応物であり、例えば、ノボラック型フェノール樹脂(1)の構造中に存在するフェノール環1モルに対し、アミン類0.5~1.5モルと、アミン類と同モル量のホルムアルデヒドとを反応させることによって製造することができる。
【0023】
前記反応は、反応が完結する条件で行えばよく、例えば、ノボラック型フェノール樹脂(1)及びアミン類を溶媒に溶解し、得られた溶液にホルムアルデヒド水溶液(ホルマリン)を10~120分かけて逐次添加し、50~120℃で1~12時間加熱することで行うことができる。これにより、フェノール環にアミノ基を導入することができる。
【0024】
前記反応におけるアミン類の使用量は、フェノール環に導入されるアミノ基の量が所望の量となるよう適宜調整すればよいが、ノボラック型フェノール樹脂(1)の構造中に存在するフェノール環1モルに対して、0.5~1.5モルであることが好ましく、0.7~1.2であることがより好ましく、特に0.7~1.0であることが好ましい。アミン類の使用量を上記範囲とすることで、成膜後に硬化させたときに高い溶剤耐性を有する硬化膜となるアミン変性フェノールノボラック樹脂が得られる。
【0025】
また、ホルムアルデヒドの使用量は、アミン類1モルに対してホルムアルデヒドが0.8~1.2モルであることが好ましく、0.9~1.1モルであることがより好ましい。特に未反応のアミン類及びホルムアルデヒドを少なくする観点から、アミン類とホルムアルデヒドとが同モル量であることが好ましい。
【0026】
前記反応における、アミン類のモル数とホルムアルデヒドのモル数との和を、ノボラック型フェノール樹脂(1)の構造中に存在するフェノール環のモル数で割った数((アミン類のモル数+ホルムアルデヒドのモル数)/でノボラック型フェノール樹脂(1)の構造中に存在するフェノール環のモル数))の範囲は、1.0~3.0モルであることが好ましく、1.4~2.4であることがより好ましく、特に1.4~2.0であることが好ましい。アミン類及びホルムアルデヒドの使用量を上記範囲とすることで、成膜後に硬化させたときに高い溶剤耐性を有する硬化膜となるアミン変性フェノール樹脂が得られる。
【0027】
前記反応で使用する溶媒は、ノボラック型フェノール樹脂(1)を溶解できる水溶性の溶媒であればよいが、好ましいものとして、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、プロピレングリコールモノメチルエーテル及びジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル系溶媒が挙げられる。
【0028】
本発明のアミン変性フェノールノボラック樹脂の製造に用いるノボラック型フェノール樹脂(1)は、公知の方法により製造できる。具体的には、例えば、フェノールとホルムアルデヒドとを、酸性触媒下又は無触媒下で、縮合又は共縮合させた後、水洗及び減圧下での濃縮等の後処理を行って未反応のフェノール及び触媒を除去することで、好適に製造できる。
【0029】
本発明のアミン変性フェノール樹脂の製造に用いるノボラック型フェノール樹脂(1)のn=0~2の各成分の割合は、例えば、前記方法において、反応原料の割合、反応時間及び反応温度等の反応の条件、並びに水洗及び減圧下での濃縮(水分や未反応原料などの減圧除去)等の後処理の条件を適宜設定することで容易に調整することが可能である。なお、必要に応じて予備的な実験を行うことによって、当業者は実際の反応条件を精度よく決定することができる。
【0030】
本発明のアミン変性フェノール樹脂の製造に用いるノボラック型フェノール樹脂(1)は、例えば、「フェノール樹脂及び誘導体の合成・制御と用途展開」(稲富茂樹、2011、株式会社情報機構)の47~49頁に記載の「ステップワイズ法」によって、より精度よく、簡便に製造することができる。具体的には、フェノラート化法でメチロールフェノールを得て、フェノールと酸触媒下で反応させることにより、特定の分子量分布を有するノボラック型フェノール樹脂が容易に得られる。
【0031】
本発明のアミン変性フェノール樹脂の製造に用いるノボラック型フェノール樹脂(1)をステップワイズ法によって得る場合、ノボラック型フェノール樹脂(1)のn=0~2の各成分の割合は、メチロール体の純度とノボラック化反応のフェノール類の過剰度などで決まる。それらメチロール体の純度やノボラック化反応のフェノール類の過剰度は、反応原料の割合、反応時間、及び反応温度を調節することで容易に達成することが可能である。なお、必要に応じて予備的な実験を行うことによって、当業者は実際の反応条件を精度よく決定することができる。
【0032】
本発明のアミン変性フェノール樹脂の製造に用いるノボラック型フェノール樹脂(1)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定するものではないが、好ましくは500~10,000、より好ましくは500~5,000更に好ましくは500~2,000、特に好ましくは1,000~1,500である。また、分散度[重量平均分子量/数平均分子量]は、好ましくは1.0~1.2である。
【0033】
本発明のアミン変性フェノールノボラック樹脂は、前記反応により、通常、溶液の状態で得られる。得られたアミン変性フェノールノボラック樹脂溶液は、そのまま金属表面処理剤の原料として使用することができ、必要に応じて濃縮又は希釈して使用することもできる。
【0034】
本発明のアミン変性フェノールノボラック樹脂の粘度は、好ましくは200mPa・s以上25,000mP・s以下であり、より好ましくは300mPa・s以上1,500mP・s以下であり、さらに好ましくは、400mPa・s以上1,000mP・s以下である。粘度を上記範囲とすることで、容易に金属表面処理剤の原料として使用することができる。
【0035】
本発明の水系フェノール樹脂組成物は、前記アミン変性フェノールノボラック樹脂と、無機化合物若しくは有機化合物又はそれら双方からなる酸性化合物のいずれか1種を含有してなるものである。
【0036】
前記無機化合物としては、硫酸、塩酸、リン酸、フッ化水素酸及びポリリン酸などか挙げられ、前記有機化合物としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、フマル酸及びマレイン酸等が挙げられる。
【0037】
前記水系フェノール樹脂組成物は、金属表面処理剤、水系塗料及び接着剤用の、硬化剤又は添加剤等として好適に使用することができる。前記水系フェノール樹脂組成物を金属表面処理剤として使用する場合の耐食性及び密着性の観点からは、前記水系フェノール樹脂組成物が酸性化合物としてリン酸を含むことが好ましい。
【実施例0038】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0039】
[1]ノボラック型フェノール樹脂の分析
アミン変性フェノールノボラック樹脂のベース樹脂であるノボラック型フェノール樹脂の分析方法について説明する。
【0040】
[低分子成分(n=0~2の成分)の含有率]
ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)分析装置を用いてノボラック型フェノール樹脂の分子量分布を測定し、2核体(n=0)成分、3核体(n=1)成分及び4核体(n=2)成分それぞれの含有率を、ノボラック型フェノール樹脂全体の面積に対する各成分の面積として算出した。
各成分の面積は、ノボラック型フェノール樹脂全体のピーク前後の直線部分をベースラインとし、各成分ピーク間の最も低くなるところで縦切りしてピークを分けて算出した。
【0041】
測定に使用した機器及び測定条件を以下に示す。
使用機器:Waters Alliance 2695
カラム:SHODEX製
KF-804×1本
KF-803×1本
KF-802×1本
KF-802.5×1本
KF-801×1本
ガードカラム:SHODEX製 KF-G
溶解液:テトラヒドロフラン(THF)
検出器:UV-Visivle Detector 2489
検出波長:254nm
フローレート:1mL/min.
カラムオーブン温度:40℃
インジェクション量:100μL
試料濃度:0.1mg/mL
解析ソフト:Empower3(Waters製)
【0042】
[重量平均分子量(Mw)]
以下の機器を用いてノボラック型フェノール樹脂の分子量分布を測定し、ポリスチレン換算により重量平均分子量(Mw)を求めた。
使用機器:Waters Alliance 2695
カラム:SHODEX製
KF-804×1本
ガードカラム:SHODEX製 KF-G
溶解液:テトラヒドロフラン(THF)
検出器:UV-Visivle Detector 2489
検出波長:254nm
フローレート:1mL/min.
カラムオーブン温度:40℃
インジェクション量:100μL
試料濃度:0.1mg/mL
解析ソフト:Empower3(Waters製)
【0043】
[水酸基当量]
JIS K0070に準じた水酸基当量測定を行った。
具体的には、フェノール樹脂を過剰の無水酢酸によりアセチル化し、過剰分の無水酢酸をアルカリで中和滴定する逆滴定法により水酸基当量を測定した。
【0044】
アミン変性フェノール樹脂の合成に使用したノボラック型フェノール樹脂の分析結果を以下に示す。
フェノール樹脂1:ノボラック型フェノール樹脂(1)
2核体(n=0)含有率は5.6面積%、3核体(n=1)含有率は9.2面積%、4核体(n=2)含有率は37.7面積%、重量平均分子量(Mw)は1,000、水酸基当量は107であった。
フェノール樹脂2:ノボラック型フェノール樹脂(1)
2核体(n=0)含有率は5.2面積%、3核体(n=1)含有率は7.6面積%、4核体(n=2)含有率は23.1面積%、重量平均分子量(Mw)は、1,400、水酸基当量は104であった。
フェノール樹脂3:ノボラック型フェノール樹脂(1)
2核体(n=0)含有率は9.0面積%、3核体(n=1)含有率は7.2面積%、4核体(n=2)含有率は5.9面積%、重量平均分子量(Mw)は3,500、水酸基当量は107であった。
フェノール樹脂4:ノボラック型フェノール樹脂(1)以外のフェノール樹脂(フェノール-ホルムアルデヒド縮合物)
2核体(n=0)含有率は18.2面積%、3核体(n=1)含有率は13.6面積%、4核体(n=2)含有率は10.9面積%、重量平均分子量(Mw)は1,300、水酸基当量は107であった。
フェノール樹脂5:ノボラック型フェノール樹脂(1)以外のフェノール樹脂(フェノール-ホルムアルデヒド縮合物)
2核体(n=0)含有率は13.2面積%、3核体(n=1)含有率は10.0面積%、4核体(n=2)含有率は8.2面積%、重量平均分子量(Mw)は1,900、水酸基当量は107であった。
【0045】
[2]アミン変性フェノールノボラック樹脂の分析及び評価
アミン変性フェノールノボラック樹脂の分析方法及び評価方法について説明する。
【0046】
[粘度]
JIS K7117-2: 1999に従いE型粘度計で測定した。
【0047】
[不揮発分]
φ50mmのアルミカップにアミン変性フェノールノボラック樹脂1.0gを計量し、180℃オーブンで1時間乾燥後の残量から求めた。
【0048】
[酸溶解性及び溶解時間]
200mLビーカーにアミン変性フェノール樹脂溶液0.2g(固形分換算)を秤量し、pH2.0に調整したリン酸水溶液100mLを加えた後、速やかにマグネチックスターラーにて攪拌し、溶解するか否かの観察、及び溶解時間を測定した。マグネチックスターラーにて攪拌を開始してからアミン変性フェノール樹脂がリン酸水溶液に溶解するまでの時間を溶解時間とした。なお、目視で透明均一な溶液となった時に、溶解したと判断した。
【0049】
〔実施例1〕
攪拌機、コンデンサー及び温度計を具備した反応装置に、ノボラック型フェノール樹脂(フェノール樹脂1:水酸基当量107g/eq.、Mw1,000)100g、ブチルセロソルブ168g、ジエタノールアミン95.3g(0.91mol)を加え、80℃で溶解させた。次いで42%ホルマリン64.8g(0.91mol)を1時間かけて添加した。添加後、100℃に昇温し、同温度で6時間反応させ、アミン変性フェノール樹脂Aを含む溶液を得た。得られたアミン変性フェノール樹脂Aを含む溶液は、粘度が490mPa・s、不揮発分が46%であった。評価結果を表1に示す。
【0050】
〔実施例2〕
攪拌機、コンデンサー及び温度計を具備した反応装置に、ノボラック型フェノール樹脂(フェノール樹脂1:水酸基当量107g/eq.、Mw1,000)100g、ブチルセロソルブ168g、ジエタノールアミン68.8g(0.65mol)を加え、80℃で溶解させた。次いで42%ホルマリン46.8g(0.65mol)を1時間かけて添加した。添加後、100℃に昇温し、同温度で6時間反応させ、アミン変性フェノール樹脂Bを含む溶液を得た。得られたアミン変性フェノール樹脂Bを含む溶液は、粘度が470mPa・s、不揮発分が47%であった。評価結果を表1に示す。
【0051】
〔実施例3〕
攪拌機、コンデンサー及び温度計を具備した反応装置に、ノボラック型フェノール樹脂(フェノール樹脂2:水酸基当量104g/eq.、Mw1,400)100g、ブチルセロソルブ168g、ジエタノールアミン98.1g(0.93mol)を加え、80℃で溶解させた。次いで42%ホルマリン66.7g(0.93mol)を1時間かけて添加した。添加後、100℃に昇温し、同温度で6時間反応させ、アミン変性フェノール樹脂Cを含む溶液を得た。得られたアミン変性フェノール樹脂Cを含む溶液は、粘度が960mPa・s、不揮発分が48%であった。評価結果を表1に示す。
【0052】
〔実施例4〕
攪拌機、コンデンサー及び温度計を具備した反応装置に、ノボラック型フェノール樹脂(フェノール樹脂3:水酸基当量107g/eq.、Mw3,500)100g、ブチルセロソルブ168g、ジエタノールアミン95.3g(0.91mol)を加え、80℃で溶解させた。次いで42%ホルマリン64.8g(0.91mol)を1時間かけて添加した。添加後、100℃に昇温し、同温度で3時間反応させ、アミン変性フェノール樹脂Dを含む溶液を得た。得られたアミン変性フェノール樹脂Dを含む溶液は、粘度が2400mPa・s、不揮発分が48%であった。評価結果を表1に示す。
【0053】
〔比較例1〕
攪拌機、コンデンサー及び温度計を具備した反応装置に、ノボラック型フェノール樹脂(フェノール樹脂4:水酸基当量107g/eq.、Mw1,300)100g、ブチルセロソルブ168g、ジエタノールアミン95.3g(0.91mol)を加え、80℃で溶解させた。次いで42%ホルマリン64.8g(0.91mol)を1時間かけて添加した。添加後、100℃に昇温し、同温度で6時間反応させ、アミン変性フェノール樹脂Eを含む溶液を得た。得られたアミン変性フェノール樹脂Eを含む溶液は、粘度が630mPa・s、不揮発分が49%であった。評価結果を表1に示す。
【0054】
〔比較例2〕
攪拌機、コンデンサー及び温度計を具備した反応装置に、ノボラック型フェノール樹脂(フェノール樹脂5:水酸基当量107g/eq.、Mw1,900)100g、ブチルセロソルブ168g、ジエタノールアミン95.3g(0.91mol)を加え、80℃で溶解させた。次いで42%ホルマリン64.8g(0.91mol)を1時間かけて添加した。添加後、100℃に昇温し、同温度で6時間反応させ、アミン変性フェノール樹脂Fを含む溶液を得た。得られたアミン変性フェノール樹脂Fを含む溶液は、粘度が890mPa・s、不揮発分が48%であった。評価結果を表1に示す。
【0055】
〔比較例3〕
攪拌機、コンデンサー及び温度計を具備した反応装置に、ノボラック型フェノール樹脂(フェノール樹脂4:水酸基当量107g/eq.、Mw1,300)100g、ブチルセロソルブ168g、ジエタノールアミン68.8g(0.65mol)を加え、80℃で溶解させた。次いで42%ホルマリン46.8g(0.65mol)を1時間かけて添加した。添加後、100℃に昇温し、同温度で6時間反応させ、アミン変性フェノール樹脂Gを含む溶液を得た。得られたアミン変性フェノール樹脂Gを含む溶液は、粘度が560mPa・s、不揮発分が47%であった。評価結果を表1に示す。
【0056】
[3]アミン変性フェノールノボラック樹脂の硬化物(塗膜)の調製及び評価
アミン変性フェノールノボラック樹脂の硬化物(塗膜)の調製及び評価方法について説明する。
【0057】
[耐溶剤性(硬化塗膜の重量減少率)]
脱脂処理した市販のアルミニウム板(JIS A5052、75mm×100mm)に、実施例及び比較例で得られたアミン変性フェノールノボラック樹脂溶液をアプリケーター(ギャップ:50μm)で塗布し、190℃で10分間焼き付けをして、アルミニウム板上に塗膜が形成された試験サンプルを作製した。
コンデンサーを具備した1L寸胴型フラスコに前記試験サンプルを立てかけ、試験サンプルが完全に浸かるまで炭酸ジメチルを加えて85℃で24時間加熱する溶剤浸漬試験を行った。溶剤浸漬試験前後での塗膜重量減少を算出し、耐溶剤性の指標とした。得られた結果は、比較例1を100として指数表示し、表1に示す。
【0058】
【0059】
表1に示した通り、本発明のアミン変性フェノールノボラック樹脂は、酸性水溶液への溶解性に優れ、優れた耐溶剤性を有する硬化物が得られることが分かる。