(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022015518
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】ゲル状食品組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 29/256 20160101AFI20220114BHJP
A23L 21/18 20160101ALI20220114BHJP
【FI】
A23L29/256
A23L21/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020118420
(22)【出願日】2020-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】312017444
【氏名又は名称】ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】小野木 尚子
【テーマコード(参考)】
4B041
【Fターム(参考)】
4B041LC03
4B041LC10
4B041LE06
4B041LH10
4B041LK02
4B041LK07
4B041LK11
4B041LP01
4B041LP09
4B041LP16
(57)【要約】
【課題】果皮及び果肉を含む果実様食感及び外観を有するゲル状食品組成物を提供すること。
【解決手段】第1のゲル状組成物と、第1のゲル状組成物を被覆する第2のゲル状組成物を備えるゲル状食品組成物であって、第1のゲル状組成物、及び第2のゲル状組成物のそれぞれは、アルギン酸又はその塩とカルシウムとの反応物を含み、第1のゲル状組成物のゲル強度(G1)が5~20gf/mm
2であり、第2のゲル状組成物のゲル強度(G2)が40~70gf/mm
2である、ゲル状食品組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のゲル状組成物と、前記第1のゲル状組成物を被覆する第2のゲル状組成物を備えるゲル状食品組成物であって、
前記第1のゲル状組成物、及び前記第2のゲル状組成物のそれぞれは、アルギン酸又はその塩とカルシウムとの反応物を含み、
前記第1のゲル状組成物のゲル強度(G1)が5~20gf/mm2であり、
前記第2のゲル状組成物のゲル強度(G2)が40~70gf/mm2である、
ゲル状食品組成物。
【請求項2】
前記第1のゲル状組成物のゲル強度(G1)に対する前記第2のゲル状組成物のゲル強度(G2)の比(G2/G1)が3~7である、請求項1に記載のゲル状食品組成物。
【請求項3】
前記ゲル状食品組成物は、前記第2のゲル状組成物に所定の圧力が加えられて破断したときに、前記第1のゲル状組成物と前記第2のゲル状組成物とが分離する、請求項1又は2に記載のゲル状食品組成物。
【請求項4】
前記第1のゲル状組成物、及び前記第2のゲル状組成物は、いずれも前記カルシウムを含む第1の溶液と、前記アルギン酸又はその塩を含む第2の溶液との反応物である、請求項1~3のいずれか一項に記載のゲル状食品組成物。
【請求項5】
疑似果皮及び疑似果肉を含む疑似果実である、請求項1~4のいずれか一項に記載のゲル状食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル状食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
果肉様食感を有する食品組成物として、グミ、ゼリー等が知られている。また、果肉様食感のみならず、果皮及び果肉を含む果実様食感及び外観を再現する試みもなされている。例えば、特許文献1には、グリセリンと、単糖及び二糖から選ばれる1種以上と、ゲル化剤及び増粘多糖類から選ばれる1種以上と、水とをそれぞれ所定量含有し、所定のゲル強度を有し、果肉様食感を有するゲル状食品組成物が、コラーゲンからなるケーシングに内包されている、果皮を含む果肉様食感及び果実様外観を有する菓子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の果皮を含む果肉様食感及び果実様外観を有する菓子は、コラーゲンからなるケーシングにゲル化前の溶液をパッケージした後、溶液をゲル化させて調製されるものである。特許文献1に記載の菓子は、果皮に相当する部分と果肉に相当する部分とが異なる材料で形成されており、全体的に球形でなく端部が絞られた形状となっているため、噛む位置によって食感が変わってしまう。また、実施例中のぶどう果実様菓子は、食感を実際のぶどうに近づけているが、押しつぶしても実際のぶどうの様に果肉様部が果皮様部から分離して出てくるものではない。このように、消費者の多様なニーズを満たすためには、更なる選択肢の提供が必要である。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、果皮及び果肉を含む果実様食感及び外観を有するゲル状食品組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1のゲル状組成物と、上記第1のゲル状組成物を被覆する第2のゲル状組成物を備えるゲル状食品組成物であって、上記第1のゲル状組成物、及び上記第2のゲル状組成物のそれぞれは、アルギン酸又はその塩とカルシウムとの反応物を含み、上記第1のゲル状組成物のゲル強度(G1)が5~20gf/mm2であり、上記第2のゲル状組成物のゲル強度(G2)が40~70gf/mm2である、ゲル状食品組成物に関する。
【0007】
本発明に係るゲル状食品組成物は、第1のゲル状組成物、及び第2のゲル状組成物が、いずれもアルギン酸又はその塩とカルシウムとの反応物を含み、かつそれぞれ特定のゲル強度を有していることにより、果皮及び果肉を含む果実様食感及び外観を有する。
【0008】
上記ゲル状食品組成物において、上記第1のゲル状組成物のゲル強度(G1)に対する上記第2のゲル状組成物のゲル強度(G2)の比(G2/G1)が3~7であることが好ましい。これにより、上述した効果がより顕著になる。
【0009】
上記ゲル状食品組成物は、上記第2のゲル状組成物に所定の圧力が加えられて破断したときに、上記第1のゲル状組成物と前記第2のゲル状組成物とが分離するものであってよい。本発明に係るゲル状食品組成物は、このような特性を有しているため、果皮及び果肉を含む果実様食感が充分に感じられる。
【0010】
上記ゲル状食品組成物において、上記第1のゲル状組成物、及び上記第2のゲル状組成物は、いずれも上記カルシウムを含む第1の溶液と、上記アルギン酸又はその塩を含む第2の溶液との反応物であってよい。
【0011】
上記ゲル状食品組成物は、果皮及び果肉を含む果実様食感及び外観を有するため、疑似果皮及び疑似果肉を含む疑似果実として好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、果皮及び果肉を含む果実様食感及び外観を有するゲル状食品組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態に係るゲル状食品組成物を示す模式断面図である。
【
図2】実施例1のゲル状食品組成物のゲル強度を測定した結果を示すグラフである。
【
図3】実施例2のゲル状食品組成物のゲル強度を測定した結果を示すグラフである。
【
図4】実施例3のゲル状食品組成物のゲル強度を測定した結果を示すグラフである。
【
図5】比較例1のゲル状組成物のゲル強度を測定した結果を示すグラフである。
【
図6】比較例2のゲル状組成物のゲル強度を測定した結果を示すグラフである。
【
図7】比較例3のゲル状組成物のゲル強度を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
〔ゲル状食品組成物〕
本実施形態に係るゲル状食品組成物は、第1のゲル状組成物と、第1のゲル状組成物を被覆する第2のゲル状組成物を備える。当該ゲル状食品組成物において、第1のゲル状組成物、及び第2のゲル状組成物のそれぞれは、アルギン酸又はその塩とカルシウムとの反応物を含んでいる。また、第1のゲル状組成物のゲル強度(G1)は、5~20gf/mm2であり、第2のゲル状組成物のゲル強度(G2)は、40~70gf/mm2である。
【0016】
図1は、一実施形態に係るゲル状食品組成物を示す模式断面図である。
図1に示すゲル状食品組成物10は、第1のゲル状組成物2(疑似果肉に相当する。)と、第1のゲル状組成物2を被覆する第2のゲル状組成物1(疑似果皮に相当する。)を有する。
【0017】
(第1のゲル状組成物)
第1のゲル状組成物は、アルギン酸又はその塩とカルシウムとの反応物を含み、ゲル強度(G1)が5~20gf/mm2である。第1のゲル状組成物は、疑似果肉に相当する部分である。
【0018】
アルギン酸又はその塩としては、食品として許容可能なものであれば特に制限されない。アルギン酸の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。第1のゲル状組成物は、アルギン酸又はその塩を1種単独で含むものであってもよく、2種以上を組み合わせて含むものであってもよい。
【0019】
第1のゲル状組成物のゲル強度(G1)は、5~20gf/mm2であればよい。第1のゲル状組成物のゲル強度(G1)は、例えば、7~20gf/mm2であってよく、7~18gf/mm2であってよく、9~18gf/mm2であってよい。
【0020】
本明細書において、「ゲル強度」とは、後述する実施例に記載の方法でレオメーターを使用して測定した値を意味する。
【0021】
第1のゲル状組成物は、本発明による効果を損なわない範囲で、食品に許容されるその他成分を含有するものであってもよい。その他成分としては、例えば、糖類、増粘多糖類、甘味料、香料、酸味料、着色料、pH調整剤、酸化防止剤、調味料、ビタミン類、ミネラル類及び安定剤等を挙げることができる。第1のゲル状組成物は、これらの成分の1種を単独で含有していてもよく、2種以上を組み合わせて含有していてもよい。
【0022】
(第2のゲル状組成物)
第2のゲル状組成物は、アルギン酸又はその塩とカルシウムとの反応物を含み、ゲル強度(G1)が40~70gf/mm2である。第2のゲル状組成物は、疑似果皮に相当する部分である。
【0023】
アルギン酸又はその塩としては、食品として許容可能なものであれば特に制限されない。アルギン酸の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。第2のゲル状組成物は、アルギン酸又はその塩を1種単独で含むものであってもよく、2種以上を組み合わせて含むものであってもよい。
【0024】
第2のゲル状組成物のゲル強度(G2)は、40~70gf/mm2であればよい。第2のゲル状組成物のゲル強度(G2)は、例えば、45~70gf/mm2であってよく、45~65gf/mm2であってよく、50~65gf/mm2であってよい。
【0025】
第2のゲル状組成物は、本発明による効果を損なわない範囲で、食品に許容されるその他成分を含有するものであってもよい。その他成分としては、例えば、糖類、増粘多糖類、甘味料、香料、酸味料、着色料、pH調整剤、酸化防止剤、調味料、ビタミン類、ミネラル類及び安定剤等を挙げることができる。第2のゲル状組成物は、これらの成分の1種を単独で含有していてもよく、2種以上を組み合わせて含有していてもよい。
【0026】
本実施形態に係るゲル状食品組成物は、第1のゲル状組成物のゲル強度(G1)に対する第2のゲル状組成物のゲル強度(G2)の比(G2/G1)が3~7であることが好ましい。これにより、果皮及び果肉を含む果実様食感及び外観がより優れたものとなる。同様の観点から、ゲル強度の比(G2/G1)は、3.5~6.5であることがより好ましく、4~6であることが更に好ましく、4.5~5.5であることが更により好ましい。
【0027】
(ゲル状食品組成物の特徴)
本実施形態に係るゲル状食品組成物は、第2のゲル状組成物に所定の圧力が加えられて破断したときに、第1のゲル状組成物と前記第2のゲル状組成物とが分離するものであってよい。本実施形態に係るゲル状食品組成物は、第1のゲル状組成物、及び第2のゲル状組成物が、いずれもアルギン酸又はその塩とカルシウムとの反応物を含み、かつそれぞれ特定のゲル強度を有しているため、このような特性を有する。
【0028】
本実施形態に係るゲル状食品組成物は、第1のゲル状組成物、及び第2のゲル状組成物がいずれもカルシウムを含む第1の溶液と、アルギン酸又はその塩を含む第2の溶液との反応物であってよい。本実施形態に係るゲル状食品組成物は、物性の異なる第1のゲル状組成物と、第2のゲル状組成物とが、共通の原料(第1の溶液及び第2の溶液)から形成されているため、製造に係るコストを大幅に低減することができる。
【0029】
本実施形態に係るゲル状食品組成物の形状は、ゲル状食品組成物の用途に応じて適宜設定してよい。具体的には、例えば、球状、長球状及びティアドロップ形状等の果実様の形状が挙げられる。本実施形態に係るゲル状食品組成物の大きさは、ゲル状食品組成物の用途等に応じて適宜設定してよい。
【0030】
(ゲル状食品組成物の用途)
本実施形態に係るゲル状食品組成物は、果皮及び果肉を含む果実様食感及び外観を有しているため、例えば、飲食品に配合して使用することができる。飲食品としては、例えば、水、清涼飲料水、茶飲料、果汁飲料、乳飲料、アルコール飲料、ノンアルコール飲料、スポーツドリンク等の飲料、ヨーグルト等の菓子類が挙げられる。
【0031】
〔ゲル状食品組成物の製造方法〕
本実施形態に係るゲル状食品組成物は、例えば、カルシウムを含む第1の溶液、及びアルギン酸又はその塩を含む第2の溶液の一方の溶液を他方の溶液に加え、ゲル状組成物を生成する生成工程と、生成したゲル状組成物を脱水作用を有する物質と接触させる脱水処理工程と、生成したゲル状組成物を加熱する加熱工程と、を含む製造方法により得ることができる。
【0032】
(生成工程)
生成工程は、カルシウムを含む第1の溶液、及びアルギン酸又はその塩を含む第2の溶液の一方の溶液を他方の溶液に加え、ゲル状組成物を生成する工程である。生成工程は、第1の溶液と第2の溶液が接触することで、アルギン酸又はその塩とカルシウムとの架橋反応が生じ、ゲル化することを利用するものである。
【0033】
第1の溶液は、カルシウムを含む。カルシウムは、カルシウムイオンとして第1の溶液に含まれていてもよい。カルシウム源としては、食品として許容可能なものであれば特に制限されず、例えば、乳酸カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウム等が挙げられる。
【0034】
第1の溶液のカルシウム濃度は、例えば、0.5w/w%以上5.0w/w%以下であってよい。カルシウム濃度がこの範囲にあることで、充分な効率でゲル状組成物を形成することができる。第1の溶液のカルシウム濃度は、例えば、0.6w/w%以上4.0w/w%以下であってよく、0.7w/w%以上3.0w/w%以下であってよい。
【0035】
第1の溶液は、本発明による効果を損なわない範囲で、食品に許容されるその他成分を含有するものであってもよい。その他成分としては、例えば、糖類、増粘多糖類、甘味料、香料、酸味料、着色料、pH調整剤、酸化防止剤、調味料、ビタミン類、ミネラル類及び安定剤等を使用することができる。これらの成分は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
第1の溶液は、例えば、上述したカルシウム源と、必要に応じてその他成分とを水に溶解させることで調製することができる。
【0037】
第2の溶液は、アルギン酸又はその塩を含む。アルギン酸又はその塩としては、食品として許容可能なものであれば特に制限されない。アルギン酸の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。第2の溶液は、アルギン酸又はその塩を1種単独で含むものであってもよく、2種以上を組み合わせて含むものであってもよい。
【0038】
第2の溶液のアルギン酸又はその塩の濃度は、例えば、アルギン酸及びその塩の総量で、0.5w/w%以上5.0w/w%以下であってよい。アルギン酸又はその塩の濃度がこの範囲にあることで、充分な効率でゲル状組成物を形成することができる。第2の溶液のアルギン酸又はその塩の濃度は、例えば、0.6w/w%以上4.0w/w%以下であってよく、0.7w/w%以上3.0w/w%以下であってよく、0.7w/w%以上2.0w/w%以下であってよい。
【0039】
第2の溶液は、本発明による効果を損なわない範囲で、食品に許容されるその他成分を含有するものであってもよい。その他成分としては、例えば、糖類、増粘多糖類、甘味料、香料、酸味料、着色料、pH調整剤、酸化防止剤、調味料、ビタミン類、ミネラル類及び安定剤等を使用することができる。これらの成分は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
第2の溶液は、アルギン酸又はその塩と、必要に応じてその他成分とを水に溶解させることで調製することができる。
【0041】
生成工程では、第1の溶液、及び第2の溶液の一方の溶液を他方の溶液に加え、ゲル状組成物を生成する。生成工程は、第1の溶液を第2の溶液に加えるものであってもよく、第2の溶液を第1の溶液に加えるものであってもよい。生成工程は、生成するゲル状組成物の形状を、球状、長球状及びティアドロップ形状等の果実様の形状に成形し易いことから、第2の溶液を第1の溶液に加えることが好ましい。以下、第2の溶液を第1の溶液に加える場合を例として、生成工程の詳細を説明するが、第1の溶液を第2の溶液に加える場合も同様に実施することができる。
【0042】
生成工程では、第2の溶液を第1の溶液に加えることによって、両溶液が接触して、アルギン酸又はその塩とカルシウムとの架橋反応が生じることにより、ゲル状組成物が生成する。
【0043】
生成工程では、第1の溶液に第2の溶液を連続的に加えてもよく、第1の溶液に第2の溶液を非連続的(例えば、滴下することにより)に加えてもよい。ゲル状組成物の大きさ(例えば、体積、長径、短径等)及び形状(例えば、球状、長球状及びティアドロップ形状等)を制御し易くなるという観点から、生成工程では、第1の溶液に第2の溶液を滴下することが好ましい。
【0044】
なお、第1の溶液に第2の溶液を連続的に加える場合でも、例えば、第1の溶液を攪拌しておくことにより、ゲル状組成物の大きさ及び形状を制御することができる。第2の溶液に第1の溶液を連続的又は非連続的に加える場合も同様である。
【0045】
滴下する場合、第2の溶液の滴下量は、例えば、100mm3/滴以上400mm3/滴以下であってよい。また、第2の溶液の滴下速度は、例えば、30滴/分以上600滴/分以下であってよい。
【0046】
生成工程における、第1の溶液及び第2の溶液の温度は、特に制限はなく、例えば、20℃以上70℃以下であってよい。第1の溶液の温度と、第2の溶液の温度は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0047】
生成工程で第1の溶液と第2の溶液を接触させる時間は、ゲル状組成物が生成する限りにおいて特に制限はないが、例えば、10秒以上であってよい。また、過剰な架橋反応を抑制し、果皮及び果肉を含む果実様食感及び外観の形成をより容易にするという観点から、第1の溶液と第2の溶液を接触させる時間は、例えば、30秒以上であってもよく、1分以上であってもよく、5分以上であってもよい。第1の溶液と第2の溶液を接触させる時間は、例えば、60分以下であってもよく、20分以下であってもよい。
【0048】
生成工程で生成させるゲル状組成物の大きさは、ゲル状食品組成物の用途等に応じて適宜設定してよい。生成工程で生成させるゲル状組成物の大きさは、例えば、第1の溶液に加える第2の溶液の滴下量を調整すること等により調整することができる。
【0049】
生成工程で生成したゲル状組成物は、第1の溶液中から回収して次工程に供してよい。また、生成工程の次工程が加熱工程であり、かつ生成工程を第2の溶液を第1の溶液に加えることで実施する場合は、生成したゲル状組成物を第1の溶液中から回収することなく加熱工程に供してもよい(この場合、第1の溶液が第3の溶液を兼ねることになる。)。
【0050】
(脱水処理工程)
脱水処理工程は、生成したゲル状組成物を脱水作用を有する物質と接触させる工程である。
【0051】
脱水処理工程は、生成工程後に実施すればよく、加熱工程前に実施してもよく、加熱工程後に実施してもよい。果皮及び果肉を含む果実様食感及び外観を有するゲル状食品組成物をより効率よく得るという観点からは、脱水処理工程は、生成工程後かつ加熱工程前に実施することが好ましい。また、例えば、第1の溶液及び第2の溶液の少なくとも一方に脱水作用を有する物質を含ませておくことによって、生成工程で生成したゲル状組成物を直ちに脱水処理工程に供することで、生成工程及び脱水処理工程を連続的に実施してもよい。これにより、製造工程をより一層簡略化することができる。
【0052】
脱水作用を有する物質としては、食品に許容されるものであれば特に制限されず、具体的には、例えば、エタノール、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0053】
脱水処理工程は、例えば、脱水作用を有する物質を溶解させた水溶液等の溶液(なお、脱水作用を有する物質が液体の場合は、脱水作用を有する物質そのものであってもよく、脱水作用を有する物質(液体)と水等の他の液体とを混合したものであってもよい。)にゲル状組成物を所定時間浸漬させることで実施することができる。
【0054】
脱水処理工程を実施する際の温度は、例えば、4℃~25℃であってよい。
【0055】
脱水処理工程を実施する時間(脱水時間)は、例えば、10秒以上であってよい。脱水時間は、例えば、15秒以上であってもよく、20秒以上であってもよく、25秒以上であってもよく、30秒以上であってもよい。脱水時間の上限に特に制限はないが、例えば、3時間以下であってもよく、2時間以下であってもよく、1時間以下であってもよい。
【0056】
(加熱工程)
加熱工程は、生成したゲル状組成物を加熱する工程である。加熱工程を実施することで、ゲル状組成物の外側の面の硬化がより進むことにより、ゲル状組成物の内側とのゲル強度に差が生じる。
【0057】
加熱工程は、ゲル状組成物をカルシウムを含む第3の溶液中で加熱するものであってよい。第3の溶液中で加熱することによって、果皮及び果肉を含む果実様食感及び外観を有するゲル状食品組成物をより効率よく得ることができる。
【0058】
第3の溶液は、カルシウムを含む。カルシウムは、カルシウムイオンとして第3の溶液に含まれていてもよい。カルシウム源としては、食品として許容可能なものであれば特に制限されず、例えば、乳酸カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウム等が挙げられる。
【0059】
第3の溶液のカルシウム濃度は、例えば、0.1w/w%以上5.0w/w%以下であってよい。カルシウム濃度がこの範囲にあることで、充分な効率で果皮及び果肉を含む果実様外観を形成することができる。第3の溶液のカルシウム濃度は、例えば、0.5w/w%以上5.0w/w%以下であってよく、0.6w/w%以上4.0w/w%以下であってよく、0.7w/w%以上3.0w/w%以下であってよい。
【0060】
第3の溶液は、本発明による効果を損なわない範囲で、食品に許容されるその他成分を含有するものであってもよい。その他成分としては、例えば、糖類、増粘多糖類、甘味料、香料、酸味料、着色料、pH調整剤、酸化防止剤、調味料、ビタミン類、ミネラル類及び安定剤等を使用することができる。これらの成分は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0061】
第3の溶液は、例えば、上述したカルシウム源と、必要に応じてその他成分とを水に溶解させることで調製することができる。
【0062】
加熱工程は、例えば、ゲル状組成物を溶液(例えば、水、第3の溶液等)中に浸漬し、所定温度で所定時間加熱することで実施することができる。
【0063】
加熱工程で加熱する際の温度は、例えば、70℃以上であってよい。加熱する際の温度は、例えば、72℃以上であってもよく、74℃以上であってもよく、76℃以上であってもよく、78℃以上であってもよく、80℃以上であってもよい。加熱する際の温度の上限に特に制限はなく、例えば、ゲル状組成物を浸漬させている溶液が沸騰する温度であってもよい。加熱する際の温度の上限は、例えば、100℃以下であってもよく、98℃以下であってもよく、96℃以下であってもよく、94℃以下であってもよく、92℃以下であってもよく、90℃以下であってもよい。
【0064】
加熱工程で加熱する際の加熱時間は、例えば、2分以上であってよい。加熱時間は、例えば、5分以上であってよく、10分以上であってよい。加熱時間の上限に特に制限はないが、例えば、1時間以下であってよく、40分以下であってよく、30分以下であってよく、20分以下であってよい。
【0065】
加熱工程を経たゲル状組成物は、溶液(例えば、水、第3の溶液等)中から回収し、例えば、温度4℃~25℃の溶液(例えば、水、第3の溶液、糖酸液、シロップ等)に浸漬して冷却してもよい。
【0066】
(その他工程)
本実施形態に係る製造方法は、上述した各工程を経たゲル状組成物を殺菌する殺菌工程を更に備えていてもよい。殺菌工程では、例えば、レトルト殺菌、超高温瞬間殺菌(UHT殺菌)等の食品分野で常用されている方法を特に制限なく使用することができる。
【実施例0067】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
〔試験例1:ゲル状食品組成物の製造及び評価〕
(生成工程及び脱水処理工程)
第1の溶液として、乳酸カルシウム(ピューラック・バイオケム社製)を水に溶解させて1.0w/w%のカルシウム溶液を得た。第2の溶液として、アルギン酸ナトリウム(I-8,株式会社キミカ製)をエタノール濃度20v/v%のエタノール水溶液に溶解させて、0.7w/w%のアルギン酸ナトリウム溶液を得た。次いで、室温下で、ビーカーに入れた第1の溶液に対して、第2の溶液を60滴/分(滴下量200mm3/滴)の速度で滴下し、30秒間から10分間反応させた。これにより、ゲル状組成物を生成させる(生成工程)と共に、生成したゲル状組成物を第2の溶液に含まれるエタノールと接触させた(脱水処理工程)。生成工程及び脱水処理工程を経て得られたゲル状組成物は、直ちにビーカーから回収した。なお、本実施例では具体的に示さないが、エタノールの代わりにプロピレングリコールを用いた場合においても、本試験例1と同様の効果が得られることが分かっている。
【0069】
(加熱工程)
第3の溶液として、第1の溶液と同じ1.0w/w%のカルシウム溶液を用いた。回収したゲル状組成物を第3の溶液に浸漬し、加熱処理を行った(加熱工程)。加熱処理は、90~95℃の第3の溶液中で20分間、実施した。加熱処理後、直ちにゲル状組成物を回収し、20℃の糖酸液(7.5gの無水クエン酸と120gのグラニュー糖を1kgの水で溶解したもの)に浸漬して冷却し、ゲル状食品組成物を得た(実施例1~3)。また、加熱工程を実施せずにゲル状組成物を20℃の糖酸液に浸漬して対照となるゲル状組成物を得た(比較例1~3)。
【0070】
(ゲル強度の測定)
実施例1~3のゲル状食品組成物、及び比較例1~3のゲル状組成物のゲル強度を、レオメーター(商品名:テクスチャ―・アナライザー(Texture Analyzer TA.XT.plus),Stable Micro Systems社製)を使用して測定した。具体的には、直径2mmの円柱型プランジャーを使用し、室温下で該プランジャーをゲル状食品組成物又はゲル状組成物に押し付け、貫入速度1mm/秒で貫入させて測定した。その他の条件は、レオメータに添付のマニュアルに準じた。測定結果を
図2~7に示す。
図2~7中、縦軸(Force)の単位は、gf/mm
2である。
【0071】
図2~4に示すとおり、実施例1~3のゲル状食品組成物は、5秒~5.5秒付近に破断点が観察された。破断点に相当する部位の前後でゲル強度が異なっていることが分かる。他方、
図5~7に示すとおり、比較例1~3のゲル状組成物は、明確な破断点を認めず、ゲル強度が一様であることが分かる。
【0072】
実施例1のゲル状食品組成物は、破断点の直前におけるゲル強度(第2のゲル状組成物のゲル強度に相当する。)が、65gf/mm
2であり、破断点の後におけるゲル強度(第1のゲル状組成物のゲル強度に相当する。)が、5~15gf/mm
2であった(
図2)。
【0073】
実施例2のゲル状食品組成物は、破断点の直前におけるゲル強度(第2のゲル状組成物のゲル強度に相当する。)が、45gf/mm
2であり、破断点の後におけるゲル強度(第1のゲル状組成物のゲル強度に相当する。)が、5~15gf/mm
2であった(
図3)。
【0074】
実施例3のゲル状食品組成物は、破断点の直前におけるゲル強度(第2のゲル状組成物のゲル強度に相当する。)が、45gf/mm
2であり、破断点の後におけるゲル強度(第1のゲル状組成物のゲル強度に相当する。)が、5~15gf/mm
2であった(
図4)。
【0075】
(ゲル状食品組成物の外観及び食感評価)
実施例1~3のゲル状食品組成物は、果皮様の外殻を有しており、当該外殻を破ると中から果肉様のゲル塊が現れた。また、食感もぶどう(デラウェア)を果皮付きで食したときと同様、果皮感が感じられ、果皮を破った内側で果肉感が感じられた(二層感)。
【0076】
得られたゲル状食品組成物(実施例1~3)の外観は、
図1に示す模式断面図のとおりであった。すなわち、ゲル強度が相対的に強い疑似果皮(第2のゲル状組成物)1と、疑似果皮1に内包された、ゲル強度が相対的に低い疑似果肉(第1のゲル状組成物)2と、を有していた。