(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155204
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】ロータの製造方法およびロータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/27 20220101AFI20221005BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
H02K1/27 501E
H02K1/27 501K
H02K15/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058597
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【弁理士】
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】西口 創
(72)【発明者】
【氏名】高松 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】三木 達晃
【テーマコード(参考)】
5H615
5H622
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB07
5H615BB14
5H615PP02
5H615PP07
5H615SS04
5H615SS05
5H615SS09
5H615SS19
5H622CA02
5H622CA07
5H622CA10
5H622CA14
5H622CB03
5H622CB05
5H622PP11
5H622PP15
(57)【要約】
【課題】磁石挿入孔に樹脂等の固定材を充填せずに永久磁石を固定する場合に、永久磁石の絶縁被膜が傷付けられる(剥がされる)のを防止することが可能なロータの製造方法を提供する。
【解決手段】このロータ100の製造方法は、第2電磁鋼板20の凸部22が第1電磁鋼板10の孔部12に部分的に挿入されるように、第1電磁鋼板10と第2電磁鋼板20とを積層する工程と、磁石挿入孔4(積層磁石挿入孔)に永久磁石5を配置する工程とを備える。そして、ロータ100の製造方法は、積層された第1電磁鋼板10と第2電磁鋼板20とを、積層方向に押圧することによって、凸部22を孔部12に更に挿入するとともに凸部22により孔部12を押し広げながら第1電磁鋼板10の磁石固定部13を変形させて永久磁石5に押し付けることにより、永久磁石5を磁石固定部13により固定する工程を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1磁石挿入孔と、前記第1磁石挿入孔と隣り合って設けられる孔部と、前記第1磁石挿入孔と前記孔部との間において前記第1磁石挿入孔の外縁に沿って延びるように設けられる磁石固定部と、を含む複数の第1電磁鋼板を形成する第1電磁鋼板形成工程と、
前記第1磁石挿入孔に対応する位置に設けられる第2磁石挿入孔と、前記第2磁石挿入孔と隣り合うとともに前記孔部に対応する位置に設けられる凸部と、を含む複数の第2電磁鋼板を形成する第2電磁鋼板形成工程と、
互いに隣接する前記第1電磁鋼板と前記第2電磁鋼板との間において、前記第2電磁鋼板の前記凸部が前記第1電磁鋼板の前記孔部に部分的に挿入されるように、前記複数の第1電磁鋼板と前記複数の第2電磁鋼板とを積層する積層工程と、
前記積層工程の後、複数の前記第1磁石挿入孔と複数の前記第2磁石挿入孔とが積み重なることにより形成された積層磁石挿入孔に永久磁石を配置する磁石配置工程と、
前記磁石配置工程の後、積層された前記複数の第1電磁鋼板と前記複数の第2電磁鋼板とを、前記第1電磁鋼板と前記第2電磁鋼板との積層方向に押圧することによって、前記第2電磁鋼板の前記凸部を前記第1電磁鋼板の前記孔部に更に挿入するとともに前記凸部により前記孔部を押し広げながら前記磁石固定部を変形させて前記永久磁石に押し付けることにより、前記永久磁石を前記磁石固定部により固定する磁石固定工程と、を備える、ロータの製造方法。
【請求項2】
前記積層工程は、前記第1電磁鋼板と前記第2電磁鋼板とを交互に積層する工程である、請求項1に記載のロータの製造方法。
【請求項3】
前記第2電磁鋼板形成工程は、前記第2電磁鋼板の前記凸部が先端に向かって先細る先細り形状を有し、かつ、前記第2電磁鋼板において前記第2磁石挿入孔と前記凸部とが並ぶ方向における前記凸部の幅の最大値が、前記第1電磁鋼板において前記第1磁石挿入孔と前記孔部とが並ぶ方向における前記孔部の幅よりも大きくなるように、前記第2電磁鋼板を形成する工程である、請求項1または2に記載のロータの製造方法。
【請求項4】
前記第1電磁鋼板形成工程は、前記第1磁石挿入孔と前記孔部とを接続する接続孔部を含む前記第1電磁鋼板を形成する工程である、請求項1~3のいずれか1項に記載のロータの製造方法。
【請求項5】
第1磁石挿入孔と、前記第1磁石挿入孔と隣り合って設けられる孔部と、前記第1磁石挿入孔と前記孔部との間において前記第1磁石挿入孔に沿って延びるように設けられる磁石固定部と、を含む複数の第1電磁鋼板と、
前記第1磁石挿入孔に対応する位置に設けられる第2磁石挿入孔と、前記第2磁石挿入孔と隣り合うとともに前記孔部に対応する位置に設けられる凸部と、を含む複数の第2電磁鋼板と、
前記複数の第1電磁鋼板と前記複数の第2電磁鋼板とが積層されることによって複数の前記第1磁石挿入孔と複数の前記第2磁石挿入孔とが積み重なることにより形成された積層磁石挿入孔に配置された永久磁石と、を備え、
前記第2電磁鋼板の前記凸部が前記第1電磁鋼板の前記孔部に挿入されるとともに前記凸部により前記孔部が押し広げられることにより、前記積層磁石挿入孔に配置された前記永久磁石に押し付けられるように変形された前記磁石固定部によって前記永久磁石が固定されている、ロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータの製造方法およびロータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、永久磁石を備えるロータの製造方法およびロータが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1に記載の回転子(ロータ)は、回転子コアと、回転子コアに設けられる磁石挿入孔に挿入される永久磁石と、を備える。回転子コアの少なくとも一の電磁鋼板は、一部が磁石挿入孔に向かって突出し、永久磁石によって軸方向に屈曲可能に構成される突出部を有する。これにより、突出部は、永久磁石が磁石挿入孔に挿入されることによって、軸方向に屈曲される。永久磁石は、屈曲された突出部と磁石挿入孔との間に固定される。上記特許文献1に記載の回転子では、磁石挿入孔に樹脂等の固定材を充填することなく、電磁鋼板の突出部により永久磁石が固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記特許文献1に記載されているロータにおいて、突出部は、永久磁石が磁石挿入孔に挿入されることによって、軸方向に屈曲される。すなわち、永久磁石は、磁石挿入孔に挿入される際、突出部と干渉(接触)しながら軸方向に移動される。ここで、上記特許文献1には明記されていないが、永久磁石は、一般的に、絶縁被膜によりコーティングされている。したがって、上記特許文献1では、永久磁石が磁石挿入孔に挿入される際に、突出部と干渉(接触)した状態で突出部が挿入方向に移動することに起因して絶縁被膜が傷付けられる(剥がれる)場合がある。したがって、磁石挿入孔に樹脂等の固定材を充填せずに永久磁石を固定する場合に、永久磁石の絶縁被膜が傷付けられる(剥がされる)のを防止することが可能なロータの製造方法およびロータが望まれている。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、磁石挿入孔に樹脂等の固定材を充填せずに永久磁石を固定する場合に、永久磁石の絶縁被膜が傷付けられる(剥がされる)のを防止することが可能なロータの製造方法およびロータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面におけるロータの製造方法は、第1磁石挿入孔と、第1磁石挿入孔と隣り合って設けられる孔部と、第1磁石挿入孔と孔部との間において第1磁石挿入孔の外縁に沿って延びるように設けられる磁石固定部と、を含む複数の第1電磁鋼板を形成する第1電磁鋼板形成工程と、第1磁石挿入孔に対応する位置に設けられる第2磁石挿入孔と、第2磁石挿入孔と隣り合うとともに孔部に対応する位置に設けられる凸部と、を含む複数の第2電磁鋼板を形成する第2電磁鋼板形成工程と、互いに隣接する第1電磁鋼板と第2電磁鋼板との間において、第2電磁鋼板の凸部が第1電磁鋼板の孔部に部分的に挿入されるように、複数の第1電磁鋼板と複数の第2電磁鋼板とを積層する積層工程と、積層工程の後、複数の第1磁石挿入孔と複数の第2磁石挿入孔とが積み重なることにより形成された積層磁石挿入孔に永久磁石を配置する磁石配置工程と、磁石配置工程の後、積層された複数の第1電磁鋼板と複数の第2電磁鋼板とを、第1電磁鋼板と第2電磁鋼板との積層方向に押圧することによって、第2電磁鋼板の凸部を第1電磁鋼板の孔部に更に挿入するとともに凸部により孔部を押し広げながら磁石固定部を変形させて永久磁石に押し付けることにより、永久磁石を磁石固定部により固定する磁石固定工程と、を備える。
【0008】
この発明の第1の局面によるロータの製造方法では、上記のように、磁石配置工程の後、第2電磁鋼板の凸部により第1電磁鋼板の孔部を押し広げながら磁石固定部を変形させて永久磁石に押し付けることによって、永久磁石が磁石固定部により固定される。これにより、永久磁石が積層磁石挿入孔に配置された後に、第2電磁鋼板の凸部により磁石固定部が変形されることによって永久磁石が固定されるので、永久磁石が磁石固定部に干渉(接触)した状態で軸方向に移動することにより磁石固定部が変形される場合に比べて、永久磁石に設けられる絶縁被膜が傷付けられる(剥がされる)のを容易に防止することができる。したがって、磁石挿入孔に樹脂等の固定材を充填せずに永久磁石を固定する場合に、永久磁石の絶縁被膜が傷付けられる(剥がされる)のを防止することができる。
【0009】
この発明の第2の局面におけるロータは、第1磁石挿入孔と、第1磁石挿入孔と隣り合って設けられる孔部と、第1磁石挿入孔と孔部との間において第1磁石挿入孔に沿って延びるように設けられる磁石固定部と、を含む複数の第1電磁鋼板と、第1磁石挿入孔に対応する位置に設けられる第2磁石挿入孔と、第2磁石挿入孔と隣り合うとともに孔部に対応する位置に設けられる凸部と、を含む複数の第2電磁鋼板と、複数の第1電磁鋼板と複数の第2電磁鋼板とが積層されることによって複数の第1磁石挿入孔と複数の第2磁石挿入孔とが積み重なることにより形成された積層磁石挿入孔に配置された永久磁石と、を備え、第2電磁鋼板の凸部が第1電磁鋼板の孔部に挿入されるとともに凸部により孔部が押し広げられることにより、積層磁石挿入孔に配置された永久磁石に押し付けられるように変形された磁石固定部によって永久磁石が固定されている。
【0010】
この発明の第2の局面によるロータでは、上記のように、第2電磁鋼板の凸部により第1電磁鋼板の孔部が押し広げられることにより、積層磁石挿入孔に配置された永久磁石に押し付けられるように変形された磁石固定部によって永久磁石が固定されている。これにより、永久磁石が積層磁石挿入孔に配置された後に、第2電磁鋼板の凸部により磁石固定部が変形されることによって永久磁石が固定されるので、永久磁石が磁石固定部に干渉(接触)した状態で軸方向に移動することにより磁石固定部が変形される場合に比べて、永久磁石に設けられる絶縁被膜が傷付けられる(剥がされる)のを容易に防止することができる。したがって、磁石挿入孔に樹脂等の固定材を充填せずに永久磁石を固定する場合に、永久磁石の絶縁被膜が傷付けられる(剥がされる)のを防止することが可能なロータを提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、磁石挿入孔に樹脂等の固定材を充填せずに永久磁石を固定する場合に、永久磁石の絶縁被膜が傷付けられる(剥がされる)のを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態による回転電機の構成を示す平面図である。
【
図2】一実施形態による第1電磁鋼板の構成を示す平面図である。
【
図3】
図2の第1磁石挿入孔近傍の部分拡大平面図である。
【
図4】一実施形態による第2電磁鋼板の構成を示す平面図である。
【
図5】
図1の200-200線に沿った断面図である。
【
図6】一実施形態によるロータの製造方法を示すフロー図である。
【
図7】一実施形態による積層工程後の第1電磁鋼板と第2電磁鋼板との関係を示す断面図である。
【
図8】一実施形態の変形例による第2電磁鋼板の凸部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1~
図7を参照して、本実施形態によるロータ100について説明する。
【0015】
本願明細書では、「軸方向」とは、ロータ100の回転軸線Cに沿った方向を意味し、図中のZ方向を意味する。また、「径方向」とは、ロータ100の径方向(R1方向またはR2方向)を意味し、「周方向」は、ロータ100の周方向(E1方向またはE2方向)を意味する。
【0016】
(ロータの構成)
図1に示すように、ロータ100は、図示しないステータ101と共に回転電機102を構成する。また、ロータ100およびステータ101は、それぞれ、円環状に形成されている。そして、ロータ100は、ステータ101の径方向内側に対向して配置されている。すなわち、本実施形態では、回転電機102は、インナーロータ型の回転電機として構成されている。
【0017】
ロータ100は、ロータコア1と、ロータシャフト2と、を含む。ロータシャフト2は、ロータコア1の径方向内側に配置されている。ロータシャフト2は、ギア等の回転力伝達部材を介して、エンジンや車軸等に接続されている。たとえば、回転電機102は、モータ、ジェネレータ、または、モータ兼ジェネレータとして構成されており、車両に搭載されるように構成されている。
【0018】
また、ロータコア1は、複数の第1電磁鋼板10(
図2参照)と、複数の第2電磁鋼板20(
図4参照)と、を備える。第1電磁鋼板10および第2電磁鋼板20の各々は、円環状に形成されている。
【0019】
図2に示すように、複数の第1電磁鋼板10の各々は、第1磁石挿入孔11を含む。また、複数の第1電磁鋼板10の各々は、第1磁石挿入孔11と隣り合って設けられる孔部12を含む。また、複数の第1電磁鋼板10の各々は、第1磁石挿入孔11と孔部12との間において第1磁石挿入孔11の外縁に沿って延びるように設けられる磁石固定部13を含む。
【0020】
第1電磁鋼板10において、周方向に隣り合う第1磁石挿入孔11同士は、径方向内側に凸のV字状に配置されている。V字状に配置される一対の第1磁石挿入孔11は、第1電磁鋼板10において複数(本実施形態では8つ)設けられている。
【0021】
また、
図3に示すように、複数の第1電磁鋼板10の各々は、第1磁石挿入孔11と孔部12とを接続する接続孔部14を含む。接続孔部14は、軸方向に沿って見て、孔部12と直交して延びるように設けられている。言い換えると、軸方向に沿って見て、孔部12と接続孔部14とによりL字状の孔が形成されている。
【0022】
図4に示すように、複数の第2電磁鋼板20の各々は、第1磁石挿入孔11(
図2参照)に対応する位置に設けられる第2磁石挿入孔21を含む。また、複数の第2電磁鋼板20の各々は、第2磁石挿入孔21と隣り合うとともに孔部12(
図2参照)に対応する位置に設けられる凸部22を含む。なお、「対応する位置」とは、第1電磁鋼板10と第2電磁鋼板20とが積層された状態で、積層方向(Z方向)に互いに重なる位置を意味する。
【0023】
第2電磁鋼板20において、周方向に隣り合う第2磁石挿入孔21同士は、径方向内側に凸のV字状に配置されている。V字状に配置される一対の第2磁石挿入孔21は、第2電磁鋼板20において複数(本実施形態では8つ)設けられている。
【0024】
図1に示すように、ロータコア1は、回転軸線C回りに回転される。また、ロータコア1は、軸方向(Z方向)に延びるシャフト挿入孔3を含む。シャフト挿入孔3は、軸方向に沿って見て、ロータコア1の中央部に設けられている。ロータシャフト2は、シャフト挿入孔3に挿入されている。ロータシャフト2が回転することにより、ロータコア1にロータシャフト2の回転力が伝達され、ロータコア1が回転するように構成されている。
【0025】
また、ロータコア1には、複数の第1電磁鋼板10(
図2参照)と複数の第2電磁鋼板20(
図4参照)とが積層されることによって複数の第1磁石挿入孔11(
図2参照)と複数の第2磁石挿入孔21(
図4参照)とが積み重なることにより形成された磁石挿入孔4が設けられている。周方向に隣り合う磁石挿入孔4同士は、径方向内側に凸のV字状に配置されている。V字状に配置される一対の磁石挿入孔4は、ロータコア1において複数(本実施形態では8つ)設けられている。なお、磁石挿入孔4は、特許請求の範囲の「積層磁石挿入孔」の一例である。
【0026】
また、ロータ100は、複数の磁石挿入孔4の各々に配置(挿入)された永久磁石5を備える。すなわち、回転電機102は、埋込永久磁石型モータ(IPMモータ:Interior Permanent Magnet Motor)として構成されている。なお、複数の磁石挿入孔4の各々には、樹脂等の固定材は充填されていない。
【0027】
また、ステータ101は、ステータコア101aと、ステータコア101aに巻回(配置)されたコイル101bとを含む。ステータコア101aは、ロータコア1の径方向外側に配置されている。ステータコア101aは、たとえば、複数の電磁鋼板(珪素鋼板)が軸方向に積層されており、磁束を通過可能に構成されている。コイル101bは、外部の電源部に接続されており、電力(たとえば、3相交流の電力)が供給されるように構成されている。そして、コイル101bは、電力が供給されることにより、磁界を発生させるように構成されている。また、ロータ100およびロータシャフト2は、コイル101bに電力が供給されない場合でも、エンジン等の駆動に伴って、ステータ101に対して回転するように構成されている。なお、
図1では、コイル101bの一部のみを図示しているが、コイル101bは、ステータコア101aの全周に亘って配置されている。
【0028】
永久磁石5は、軸方向(第1電磁鋼板10と第2電磁鋼板20との積層方向)に沿って見て、矩形形状を有している。言い換えると、永久磁石5は、軸方向に直交する断面が長方形形状を有している。たとえば、永久磁石5は、磁化方向(着磁方向)が短手方向となるように構成されている。
【0029】
ここで、
図3に示すように、第2電磁鋼板20の凸部22が第1電磁鋼板10の孔部12に挿入されるとともに凸部22により孔部12が押し広げられることにより、磁石挿入孔4に配置された永久磁石5に押し付けられるように変形された磁石固定部13によって永久磁石5が固定されている。なお、
図3では、変形される前の磁石固定部13が実線により示されているとともに、変形された後の磁石固定部13が破線により示されている。また、
図3では、凸部22が一点鎖線により示されている。
【0030】
これにより、永久磁石5が磁石挿入孔4に配置された後に、第2電磁鋼板20の凸部22により磁石固定部13が変形されることによって永久磁石5が固定されるので、永久磁石5が磁石固定部13に干渉(接触)した状態で軸方向に移動することにより磁石固定部13が変形される場合に比べて、永久磁石5に設けられる絶縁被膜が傷付けられる(剥がされる)のを容易に防止することができる。したがって、磁石挿入孔4に樹脂等の固定材を充填せずに永久磁石5を固定する場合に、永久磁石5の絶縁被膜が傷付けられる(剥がされる)のを防止することが可能なロータ100を提供することができる。
【0031】
すなわち、永久磁石5は、複数の第1電磁鋼板10の各々に設けられる磁石固定部13からの押圧力によって、磁石挿入孔4に保持されている。なお、磁石固定部13は、塑性変形されている。
【0032】
また、複数の第1電磁鋼板10の各々の磁石固定部13は、一方端13aが接続孔部14と隣接するように設けられる片持ち梁を含む。
【0033】
これにより、磁石固定部13が両持ち梁である場合に比べて、第2電磁鋼板20の凸部22により磁石固定部13を容易に変形させることが可能である。
【0034】
磁石固定部13の永久磁石5に沿った方向の長さL1は、磁石固定部13の永久磁石5に沿った方向と直交する方向の長さL2よりも大きい。
【0035】
また、磁石固定部13の一方端13aに設けられ、永久磁石5と接触する角部13bは、面取り加工されている。
【0036】
これにより、磁石固定部13が変形されるとともに角部13bが永久磁石5に接触することにより、永久磁石5(永久磁石5を被覆する絶縁被膜)が角部13bにより傷付けられるのを防止することが可能である。
【0037】
たとえば、磁石固定部13の角部13bは、永久磁石5に面接触するように、軸方向(Z方向)に沿って見て傾斜する傾斜面を含んでいる。なお、角部13bは、第1電磁鋼板10を形成する際のプレス加工の後の面取り加工により形成されてもよいし、上記プレス加工において第1磁石挿入孔11および孔部12等を形成するのと同時に形成されてもよい。
【0038】
また、孔部12および磁石固定部13の各々は、第1電磁鋼板10において、第1磁石挿入孔11に対して径方向内側に設けられている。
【0039】
これにより、磁石固定部13が永久磁石5を押圧する方向と、ロータ100の回転時に永久磁石5に遠心力が加わる方向とを揃えることが可能である。その結果、永久磁石5をより容易に磁石固定部13によって固定することが可能である。また、ロータコア1における径方向外側の部分の磁路を狭めて磁束の漏れを防止するために、永久磁石5(磁石挿入孔4)は、ロータコア1において径方向外側に寄った位置に設けられている。したがって、孔部12および磁石固定部13の各々が第1電磁鋼板10において第1磁石挿入孔11に対して径方向内側に設けられていることによって、孔部12および磁石固定部13を設けるスペースを容易に確保することが可能である。
【0040】
また、第1電磁鋼板10の磁石固定部13は、積層方向(Z方向)に沿って見て、永久磁石5の一の側面5aの中央部と接触している。
【0041】
これにより、磁石固定部13の押圧力により、永久磁石5が傾いて固定されるのを防止することが可能である。
【0042】
具体的には、複数の第1電磁鋼板10の各々の磁石固定部13は、側面5aの中央部と接触(中央部を押圧)している。
【0043】
また、第1電磁鋼板10の孔部12の接続孔部14とは反対側の端部12aは、第2電磁鋼板20の凸部22の端部12a側の端部22aと離間する位置に配置されている。これにより、凸部22を容易に孔部12に挿入することが可能である。
【0044】
また、第1電磁鋼板10の第1磁石挿入孔11は、Z方向に沿って見て、第1磁石挿入孔11において永久磁石5が配置される領域とは反対側に窪む凹部11aを含む。凹部11aは、磁石固定部13の根本部13cの近傍に設けられている。なお、根本部13cとは、磁石固定部13の一方端13aとは反対側の他方端を意味する。これにより、磁石固定部13を容易に永久磁石5側に撓ませることが可能である。
【0045】
図5に示すように、ロータコア1は、第1電磁鋼板10と第2電磁鋼板20とが交互に積層されることによって形成されている。すなわち、複数の第1電磁鋼板10の各々の孔部12には、各々の第1電磁鋼板10の上部に配置されている第2電磁鋼板20の凸部22が挿入されている。
【0046】
複数の第2電磁鋼板20の各々の凸部22は、先端に向かって先細る先細り形状を有している。言い換えると、凸部22は、先端に向かって先細るテーパ形状を有している。具体的には、凸部22は、先端(下方側の端部)に設けられ、軸方向(Z方向)と直交する平坦面22bと、平坦面22bを挟むように設けられる一対の傾斜面22cと、を含む。すなわち、第1電磁鋼板10の磁石固定部13は、凸部22の傾斜面22cにより押圧されることにより変形される。
【0047】
また、第2電磁鋼板20の凸部22のZ方向における高さHは、第1電磁鋼板10の厚みt1よりも小さい。なお、第1電磁鋼板10の厚みt1は、第2電磁鋼板20の厚みt2と略等しい。
【0048】
(ロータの製造方法)
次に、
図6および
図7を参照して、本実施形態によるロータ100の製造方法について説明する。
【0049】
図6に示すように、まず、ステップS1において、第1電磁鋼板10(
図7参照)を形成する第1電磁鋼板形成工程が行われる。具体的には、第1電磁鋼板10は、元となる鋼板(図示せず)をプレス加工により打ち抜くことによって形成される。
【0050】
第1電磁鋼板形成工程(S1)は、第1磁石挿入孔11(
図7参照)と孔部12(
図7参照)とを接続する接続孔部14(
図3参照)を含む第1電磁鋼板10を形成する工程である。
【0051】
これにより、磁石固定部13の一方端13a(
図3参照)が解放状態にされるので、磁石固定部13を容易に変形させる(撓み変形させる)ことができる。
【0052】
具体的には、第1磁石挿入孔11を加工後、孔部12と接続孔部14とが同時に加工される。なお、上記は加工の一例であり、加工順序は上記に問わずどの順序で行ってもよい。
【0053】
次に、ステップS2において、第2電磁鋼板20(
図7参照)を形成する第2電磁鋼板形成工程が行われる。具体的には、第2電磁鋼板20の第2磁石挿入孔21は、元となる鋼板(図示せず)をプレス加工により打ち抜くことによって形成される。また、第2電磁鋼板20の凸部22(
図7参照)は、元となる鋼板(図示せず)をプレス加工により完全には打ち抜かずに途中で止めることによって形成される。なお、第2磁石挿入孔21を形成する加工と、凸部22を形成する加工とは、互いに別個に行われる。また、説明の便宜上、第2電磁鋼板形成工程を第1電磁鋼板形成工程の後に行うように記載したが、これに限られず、第2電磁鋼板形成工程を第1電磁鋼板形成工程の前に行ってもよい。
【0054】
また、第2電磁鋼板形成工程(S2)は、第2電磁鋼板20の凸部22が先端に向かって先細る先細り形状を有し、かつ、第2電磁鋼板20において第2磁石挿入孔21と凸部22とが並ぶ方向における凸部22の幅W1(
図7参照)の最大値が、第1電磁鋼板10において第1磁石挿入孔11と孔部12とが並ぶ方向における孔部12の幅W2(
図7参照)よりも大きくなるように、第2電磁鋼板20を形成する工程である。
【0055】
これにより、第2電磁鋼板20の凸部22において幅W1が最大になる部分を第1電磁鋼板10の孔部12に挿入することによって、孔部12を容易に押し広げることができる。
【0056】
また、第2電磁鋼板形成工程(S2)は、凸部22の幅W1の最小値が、孔部12の幅W2よりも小さくなるように、第2電磁鋼板20を形成する工程である。なお、凸部22は、Z2側からZ1側に向かって徐々に幅W1が大きくなるように形成されている。
【0057】
次に、ステップS3において、第1電磁鋼板10と第2電磁鋼板20とを積層する積層工程が行われる。
【0058】
具体的には、積層工程(S3)は、第1電磁鋼板10と第2電磁鋼板20とを交互に積層する工程である。
【0059】
これにより、互いに隣接する第1電磁鋼板10と第2電磁鋼板20との間において、凸部22を孔部12に挿入することができる。全ての孔部12に、対応する凸部22を容易に挿入することができる。
【0060】
また、
図7に示すように、積層工程(S3)は、互いに隣接する第1電磁鋼板10と第2電磁鋼板20との間において、第2電磁鋼板20の凸部22が第1電磁鋼板10の孔部12に部分的に挿入されるように、複数の第1電磁鋼板10と複数の第2電磁鋼板20とを積層する工程である。具体的には、積層工程(S3)では、凸部22の先端側(Z2側)の一部のみが、孔部12に挿入される。
【0061】
これにより、積層工程(S3)では、第2電磁鋼板20と、第2電磁鋼板20の下部(Z2側)において第2電磁鋼板20と隣接して配置される第1電磁鋼板10との間に、隙間Sが形成される。
【0062】
次に、ステップS4において、複数の第1磁石挿入孔11と複数の第2磁石挿入孔21とが積み重なることにより形成された磁石挿入孔4(
図5参照)に永久磁石5を配置する磁石配置工程が行われる。永久磁石5は、軸方向(Z方向)に沿って磁石挿入孔4に挿入される。
【0063】
そして、ステップS5において、積層された複数の第1電磁鋼板10と複数の第2電磁鋼板20とを、第1電磁鋼板10と第2電磁鋼板20との積層方向(Z方向)に押圧することによって、第2電磁鋼板20の凸部22を第1電磁鋼板10の孔部12に更に挿入するとともに凸部22により孔部12を押し広げながら磁石固定部13を変形させて永久磁石5に押し付けることにより、永久磁石5を磁石固定部13により固定する磁石固定工程が行われる。
【0064】
これにより、永久磁石5が磁石挿入孔4に配置された後に、第2電磁鋼板20の凸部22により磁石固定部13が変形されることによって永久磁石5が固定されるので、永久磁石5が磁石固定部13に干渉(接触)した状態で軸方向に移動することにより磁石固定部13が変形される場合に比べて、永久磁石5に設けられる絶縁被膜が傷付けられる(剥がされる)のを容易に防止することができる。したがって、磁石挿入孔4に樹脂等の固定材を充填せずに永久磁石5を固定する場合に、永久磁石5の絶縁被膜が傷付けられる(剥がされる)のを防止することができる。
【0065】
具体的には、凸部22により孔部12が押し広げられることにより、磁石固定部13は、磁石固定部13の根本部13c(
図3参照)を支点に永久磁石5側に回動するように変形される。その結果、磁石固定部13の角部13b(
図3参照)が永久磁石5と接触する。そして、更に孔部12が押し広げられることにより、磁石固定部13が永久磁石5に押し付けられ、永久磁石5が磁石固定部13の押圧力により固定される。
【0066】
また、複数の第1電磁鋼板10と複数の第2電磁鋼板20とが積層方向(Z方向)に押圧されることにより、第1電磁鋼板10の孔部12の幅W2(
図7参照)が、幅W1の最大値に拡張(
図5および
図7参照)される。この際、第1電磁鋼板10と第2電磁鋼板20との間の隙間S(
図7参照)が消失される。
【0067】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0068】
たとえば、上記実施形態では、第1電磁鋼板10と第2電磁鋼板20とを交互に積層する例を示したが、本発明はこれに限られない。第1電磁鋼板10と第2電磁鋼板20とを交互ではない順番で積層されていてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、凸部22が一対の傾斜面22cとを含む例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、凸部において、磁石固定部13と接触する側にのみ傾斜面22cが設けられていてもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、凸部22が平坦面22bおよび一対の傾斜面22cを含む例を示したが、本発明はこれに限られない。凸部22が平坦面22bおよび傾斜面22cを有していなくてもよい。たとえば、
図8に示すように、第2電磁鋼板120の凸部122は、Z2側に凸の球面122aを有する。
【0071】
また、上記実施形態では、第1電磁鋼板10に接続孔部14が設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。第1電磁鋼板10に接続孔部14が設けられていなくてもよい。この場合、磁石固定部は、第1磁石挿入孔11と孔部12とを分断するように設けられる。すなわち、磁石固定部は、両持ち梁状に形成される。
【0072】
また、上記実施形態では、磁石固定部13の一方端13aに面取りされた角部13bが設けられる例を示したが、本発明はこれに限られない。角部13bは面取りされていなくてもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、孔部12および磁石固定部13の各々が、第1電磁鋼板10において、第1磁石挿入孔11に対して径方向内側に設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。孔部12および磁石固定部13の各々が、第1電磁鋼板10において、第1磁石挿入孔11に対して径方向外側に設けられていてもよい。また、孔部12および磁石固定部13の各々が、第1電磁鋼板10において、第1磁石挿入孔11に対して径方向内側および径方向外側の両方に設けられていてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、第1電磁鋼板10の磁石固定部13が、積層方向に沿って見て、永久磁石5の側面5aの中央部と接触している例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第1電磁鋼板の磁石固定部が、積層方向に沿って見て、永久磁石5の側面5aの両端部と接触していてもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、第2磁石挿入孔21を形成する加工と、凸部22を形成する加工とが互いに別個に行われる例を示したが、本発明はこれに限られない。第2磁石挿入孔21と凸部22とが、同時に(共通の加工工程において)形成されてもよい。
【0076】
上記した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0077】
複数の第1電磁鋼板(10)の各々は、第1磁石挿入孔(11)と孔部(12)とを接続する接続孔部(14)をさらに含む。また、複数の第1電磁鋼板(10)の各々の磁石固定部(13)は、一方端(13a)が接続孔部(14)と隣接するように設けられる片持ち梁を含む。
【0078】
複数の第1電磁鋼板(10)の各々は、第1磁石挿入孔(11)と孔部(12)とを接続する接続孔部(14)をさらに含む。また、複数の第1電磁鋼板(10)の各々の磁石固定部(13)は、一方端(13a)が接続孔部(14)と隣接するように設けられる片持ち梁を含む。また、磁石固定部(13)の一方端(13a)に設けられ、永久磁石(5)と接触する角部(13b)は、面取り加工されている。
【0079】
孔部(12)および磁石固定部(13)の各々は、第1電磁鋼板(10)において、第1磁石挿入孔(11)に対して径方向内側に設けられている。
【0080】
永久磁石(5)は、第1電磁鋼板(10)と第2電磁鋼板(20)との積層方向に沿って見て、矩形形状を有している。また、第1電磁鋼板(10)の磁石固定部(13)は、積層方向に沿って見て、永久磁石(5)の一の側面(5a)の中央部と接触している。
【0081】
複数の第2電磁鋼板(20)の各々の凸部(22)は、先端に向かって先細る先細り形状を有している。
【符号の説明】
【0082】
4…磁石挿入孔(積層磁石挿入孔)、5…永久磁石、10…第1電磁鋼板、11…第1磁石挿入孔、12…孔部、13…磁石固定部、14…接続孔部、20…第2電磁鋼板、21…第2磁石挿入孔、22…凸部、100…ロータ、W1…幅(凸部の幅)、W2…幅(孔部の幅)