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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155213
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】撥水材料の製造方法及び撥水材料
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/04 20060101AFI20221005BHJP
   B05D 7/02 20060101ALI20221005BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20221005BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20221005BHJP
   B05D 3/10 20060101ALI20221005BHJP
   C23C 16/513 20060101ALI20221005BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20221005BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
B05D3/04 C
B05D7/02
B05D7/24 303B
B05D7/24 302H
B05D7/24 302C
B05D5/00 Z
B05D3/10 E
C23C16/513
C23C16/42
C09K3/18 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058611
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006909
【氏名又は名称】株式会社吉野工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】仁井田 一成
(72)【発明者】
【氏名】吉野 慶
(72)【発明者】
【氏名】有吉 哲夫
【テーマコード(参考)】
4D075
4H020
4K030
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AB01
4D075AC64
4D075BB03X
4D075BB06X
4D075BB34X
4D075BB49Z
4D075BB56Z
4D075BB69X
4D075BB85Z
4D075BB91Z
4D075BB95Z
4D075CA13
4D075CA34
4D075CA36
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DB31
4D075DB36
4D075DB37
4D075DB48
4D075EA06
4D075EA07
4D075EB08
4D075EB19
4D075EC03
4D075EC51
4D075EC54
4H020AA01
4H020BA31
4K030AA11
4K030AA16
4K030BA40
4K030BA44
4K030BB04
4K030CA07
4K030CA17
4K030DA02
4K030EA05
4K030FA01
4K030JA09
(57)【要約】
【課題】基材と撥水層との密着性を高めた撥水材料の製造方法及び撥水材料を提供する。
【解決手段】本開示に係る撥水材料100の製造方法は、合成樹脂製の基材10の表面に親水性シリカ微粒子とポリビニルアルコール又はロジンを含む接着層20を形成するステップと、接着層20の表面に、ケイ素化合物の微粒子を含む撥水層30を形成するステップとを含み、撥水層30は、ケイ素化合物ガスが導入された大気圧雰囲気下で熱平衡プラズマを発生させることによって形成され、微細凹凸構造を備えた撥水性表面を有することを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の基材の表面に親水性シリカ微粒子とポリビニルアルコール又はロジンを含む接着層を形成するステップと、
前記接着層の表面に、ケイ素化合物の微粒子を含む撥水層を形成するステップと
を含み、
前記撥水層は、ケイ素化合物ガスが導入された大気圧雰囲気下で熱平衡プラズマを発生させることによって形成され、微細凹凸構造を備えた撥水性表面を有することを特徴とする撥水材料の製造方法。
【請求項2】
合成樹脂製の基材の表面を、算術平均高さが1μmより大きく10μm以下、かつ最大高さが15μm以上180μm以下となるように粗面化するステップと、
粗面化された前記基材の表面に親水化処理を施して接着性を発現させるステップと、
前記基材の表面に、ケイ素化合物の微粒子を含む撥水層を形成するステップと
を含み、
前記撥水層は、ケイ素化合物ガスが導入された大気圧雰囲気下で熱平衡プラズマを発生させることによって形成され、微細凹凸構造を備えた撥水性表面を有することを特徴とする撥水材料の製造方法。
【請求項3】
前記微細凹凸構造は樹木状の凹凸構造を有する、請求項1又は2に記載の撥水材料の製造方法。
【請求項4】
前記樹木状の凹凸構造の最大高さは、1μm以上100μm以下である、請求項3に記載の撥水材料の製造方法。
【請求項5】
前記樹木状の凹凸構造の表面における算術平均粗さは、5ナノメートル以上100ナノメートル以下である、請求項3又は4に記載の撥水材料の製造方法。
【請求項6】
前記ケイ素化合物ガスは、ヘキサメチルジシロキサン又はヘキサメチルジシラザンであり、前記ケイ素化合物ガスの導入には、アルゴンガス又はヘリウムガスをキャリアガスとして用いる、請求項1から5のいずれか一項に記載の撥水材料の製造方法。
【請求項7】
前記熱平衡プラズマは、前記基材の表面に対して略垂直方向に並べて配置された陽極と陰極との間で発生させ、前記陰極は、前記陽極に対して前記基材側に配置されている、請求項1から6のいずれか一項に記載の撥水材料の製造方法。
【請求項8】
合成樹脂製の基材と、前記基材の少なくとも一方の表面に形成された接着層と、前記接着層の表面に形成された、ケイ素化合物の微粒子を含む撥水層と
を備え、
前記撥水層は、樹木状の微細凹凸構造を備えた撥水性表面を有し、
前記樹木状の微細凹凸構造の最大高さは、1μm以上100μm以下であり、
前記樹木状の微細凹凸構造の表面における算術平均粗さは、5ナノメートル以上100ナノメートル以下であることを特徴とする撥水材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、撥水材料の製造方法及び撥水材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、防汚性等の観点から撥水性を向上させた撥水材料が注目されている。例えば、特許文献1には、金属性表面を有する基材に対して、有機ケイ素化合物を導入した大気圧雰囲気中でプラズマを発生させて基材上に超微粒子シリカ化合物を堆積させること、及び超微粒子シリカ化合物が堆積された基板を有機ケイ素化合物を含む雰囲気に曝すことにより超微粒子シリカ化合物を成長させ、平均粒径が10nm~5000nmの粒状シリカ化合物が互いに結合し表面に凹凸構造を有する膜を形成する、超撥水性材料の製造方法及び超撥水性材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-152389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の超撥水性材料の製造方法では、アーク放電を利用して超微粒子シリカ化合物を基材に堆積させているが、この手法では基材と超微粒子シリカ化合物との密着性が十分ではなく、超微粒子シリカ化合物が基材表面から剥離し易い場合があり、この点において改善の余地があった。
【0005】
本開示は、このような問題点を解決することを課題とするものであり、基材と撥水層との密着性を高めた撥水材料の製造方法及び撥水材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の撥水材料の製造方法は、
合成樹脂製の基材の表面に親水性シリカ微粒子とポリビニルアルコール又はロジンを含む接着層を形成するステップと、
前記接着層の表面に、ケイ素化合物の微粒子を含む撥水層を形成するステップと
を含み、
前記撥水層は、ケイ素化合物ガスが導入された大気圧雰囲気下で熱平衡プラズマを発生させることによって形成され、微細凹凸構造を備えた撥水性表面を有することを特徴とする。
【0007】
また、本開示の撥水材料の製造方法は、
合成樹脂製の基材の表面を、算術平均高さが1μmより大きく10μm以下、かつ最大高さが15μm以上180μm以下となるように粗面化するステップと、
粗面化された前記基材の表面に親水化処理を施して接着性を発現させるステップと、
前記基材の表面に、ケイ素化合物の微粒子を含む撥水層を形成するステップと
を含み、
前記撥水層は、ケイ素化合物ガスが導入された大気圧雰囲気下で熱平衡プラズマを発生させることによって形成され、微細凹凸構造を備えた撥水性表面を有することを特徴とする。
【0008】
また、本開示の撥水材料の製造方法は、上記構成において、前記微細凹凸構造は樹木状の凹凸構造を有することが好ましい。
【0009】
また、本開示の撥水材料の製造方法は、上記構成において、前記樹木状の凹凸構造の最大高さは、1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0010】
また、本開示の撥水材料の製造方法は、上記構成において、前記樹木状の凹凸構造の表面における算術平均粗さは、5ナノメートル以上100ナノメートル以下であることが好ましい。
【0011】
また、本開示の撥水材料の製造方法は、上記構成において、前記ケイ素化合物ガスは、ヘキサメチルジシロキサン又はヘキサメチルジシラザンであり、前記ケイ素化合物ガスの導入には、アルゴンガス又はヘリウムガスをキャリアガスとして用いることが好ましい。
【0012】
また、本開示の撥水材料の製造方法は、上記構成において、前記熱平衡プラズマは、前記基材の表面に対して略垂直方向に並べて配置された陽極と陰極との間で発生させ、前記陰極は、前記陽極に対して前記基材側に配置されていることが好ましい。
【0013】
また、本開示の撥水材料は、
合成樹脂製の基材と、前記基材の少なくとも一方の表面に形成された接着層と、前記接着層の表面に形成された、ケイ素化合物の微粒子を含む撥水層と
を備え、
前記撥水層は、樹木状の微細凹凸構造を備えた撥水性表面を有し、
前記樹木状の微細凹凸構造の最大高さは、1μm以上100μm以下であり、
前記樹木状の微細凹凸構造の表面における算術平均粗さは、5ナノメートル以上100ナノメートル以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、基材と撥水層との密着性を高めた撥水材料の製造方法及び撥水材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の第1実施形態である撥水材料の断面図である。
図2A】本開示の第1実施形態である撥水材料における撥水層表面の側視図である。
図2B】本開示の第1実施形態である撥水材料における撥水層表面の平視図である。
図2C】本開示の第1実施形態である撥水材料における撥水層表面の平視拡大図である。
図3】本開示の第1実施形態である撥水材料の製造方法の実施手順を示すフローチャートである。
図4】本開示の第1実施形態である撥水材料の製造方法の実施に用いる大気圧プラズマ装置におけるノズル及び電極の構成を示す図である。
図5】本開示の第2実施形態である撥水材料の断面図である。
図6】本開示の第2実施形態である撥水材料の製造方法の実施手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本開示をより詳細に例示説明する。
【0017】
図1に示す本開示の第1実施形態である撥水材料100は、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)又はポリエチレンテレフタレート(PET)などの合成樹脂材料で形成された基材10と、基材10の少なくとも一方の表面に形成された親水性シリカ微粒子を含む接着層20と、接着層20の表面に形成され撥水材料100の撥水性を高める撥水層30とを備えている。
【0018】
接着層20は、基材10と撥水層30との密着性を高めるために設けられており、粒子径1ナノメートル以上100ナノメートル以下の親水性のシリカ微粒子を含んでいる。接着層20が、この親水性のシリカ微粒子を含むことによって、接着層20の親水性が高まり、後述するケイ素化合物の微粒子を含む撥水層30と基材10表面との密着性を高めることができる。なお、本実施形態に係る接着層20は、後述するように、親水性シリカ微粒子を含むポリビニルアルコール水溶液又はロジン溶液を基材10に塗布し乾燥させることによって形成することができる。すなわち、形成された接着層20には親水性シリカ微粒子とポリビニルアルコール又はロジンが含まれている。また、後述する第2実施形態に係る撥水材料200のように、接着層20を設けずに、別の手法によって撥水層30と基材10との密着性を高めるようにしてもよい。
【0019】
本実施形態に係る撥水層30は、ケイ素化合物の微粒子を含み、表面に微細凹凸構造を備えている。なお、本実施形態において、ケイ素化合物は、例えばヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)又はヘキサメチルジシラザン(HMDSN)を採用することができる。
【0020】
撥水層30が有する表面の微細凹凸構造は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope; SEM)によって撥水層30表面を撮影した図2Aから図2Cに示す形状を有している。微細凹凸構造は、図2A(側視図)及び図2B(平視図)に示すように、樹木状の凹凸構造を備えている。なお、図2Bにおいて、白く見えている複数の領域の内の1つの領域が1本の樹木状の凹凸構造である。これは、後述するように、ノズル電極から基材10の表面に向けてプラズマが放出されると、基材10の表面からノズル電極に向かってケイ素化合物が温度が高い方向に選択的に成長していった結果、樹木状の構造をなすものと考えられる。なお、図2Bは、図2Aを平面視するとともに2倍に拡大して表示している。
【0021】
撥水層30の表面の樹木状の微細凹凸構造は、最大高さが1μm以上100μm以下であることが好ましい。なお、ここでいう最大高さは、樹木状の微細凹凸構造の最大高さ(ISO 25178に準拠)である。微細凹凸構造における最大高さは、樹木の最大高さに相当するパラメータである。
【0022】
また、樹木状の微細凹凸構造における表面粗さは、5nm以上100nm以下であることが好ましい。なお、ここでいう微細凹凸構造における表面粗さは、図2Bを更に5倍に拡大して示す図2Cにおいて、1本の樹木状の微細凹凸構造(一例を白色破線で囲んだ)におけるJIS B 0601:2013で規定される算術平均粗さである。微細凹凸構造における表面粗さは、接着層20の上面を基準とする樹木状の微細凹凸構造の高さではなく、樹木における枝又は葉の凹凸構造(凹凸高さ)に相当するパラメータである。
【0023】
上述のように、撥水層30が上述の樹木状の微細凹凸構造を有することによって、撥水材料100は、接触角が150度以上となる、いわゆる「超撥水」の効果を発現する。なお、ここでいう接触角は、液体として水を用いた場合の接触角である水接触角を意味するものである。
【0024】
次に、このような「超撥水」の効果を奏する撥水材料100の製造方法について、図3及び図4等を用いて説明する。
【0025】
図3は、本実施形態に係る撥水材料100の製造方法の実施手順を示している。本実施形態に係る撥水材料100を製造するに際しては、まず、親水性シリカ微粒子を含むポリビニルアルコール(PVA)水溶液を作製する(図3のステップS101)。このステップS101で用いる親水性シリカ微粒子は、粒径が1nm以上100nm以下であることが好ましい。親水性シリカ微粒子の粒径によって、接着層20における表面の凹凸高さが変わると考えられる。親水性シリカ微粒子の粒径を1nm以上100nm以下の範囲の粒径とすることによって、接着層20の表面を親水化するとともに、接着層20の表面の凹凸高さを調節し、撥水層30のケイ素化合物の微粒子が親水性シリカ微粒子の凹凸の間に入り込んで親水性シリカ微粒子と結合する程度の凹凸高さとすることができる。本実施形態では、例えば粒径が7nmの親水性シリカ微粒子を用いることができる。
【0026】
親水性シリカ微粒子を含むPVA水溶液を作製するに際しては、親水性シリカ微粒子の濃度を3.0重量パーセント以上10重量パーセント以下にするとともに、PVAの濃度を1.0重量パーセント以上20重量パーセント以下にすることが好ましい。発明者が鋭意検討した結果、上述の範囲の親水性シリカ微粒子濃度及びPVA濃度において、撥水層30の良好な密着性を確認することができた。なお、本実施形態では、例えば親水性シリカ微粒子濃度を8.0重量パーセントとすることができる。
【0027】
なお、ステップS101において、親水性シリカ微粒子を含むPVA水溶液に代えて、親水性シリカ微粒子を含むロジン溶液を用いてもよい。接着層20の作製にあたり、ロジン溶液を用いる場合には、ロジン粉末をエタノールに溶解させて親水性シリカ微粒子を含めたロジン溶液を作製する。この場合の親水性シリカ微粒子の濃度を3.0重量パーセント以上10重量パーセント以下にするとともに、ロジンの濃度を1.0重量パーセント以上20重量パーセント以下にすることが好ましい。発明者が鋭意検討した結果、上述の範囲の親水性シリカ微粒子濃度及びロジン濃度において、撥水層30の良好な密着性を確認することができた。なお、ロジン溶液を用いる場合においても、例えば親水性シリカ微粒子濃度を8.0重量パーセントとすることができる。
【0028】
次に、ステップS101で作成した、PVA水溶液又はロジン溶液を、基材10の少なくとも片側の表面に塗布する(図3のステップS102)。基材10表面へのPVA水溶液又はロジン溶液の塗布は、例えば、スプレー塗布、ディップコート又はスピンコートなどによって行うことができる。なお、ステップS102を実行する前に、基材10の表面をフレーム処理、コロナ処理又はプラズマ処理などによって親水化しておくことが好ましい。上述の親水化処理によって、合成樹脂表面の分子の化学結合を切断し、親水性の官能基を生成することができる。また、ステップS102を実行する前に、あらかじめ基材10における接着層20を形成する側の表面をブラスト処理等によって粗面化しておいてもよい。
【0029】
次に、ステップS102で塗布したPVA水溶液又はロジン溶液を乾燥させて接着層20を形成する(図3のステップS103)。このPVA水溶液又はロジン溶液を乾燥させるステップは、例えば常温で乾燥させてもよいし、熱風を吹き付けて乾燥させてもよい。
【0030】
次に、ケイ素化合物ガスが導入された大気圧雰囲気下で熱平衡プラズマを発生させることにより、接着層20の表面に微小凹凸構造を備えた撥水層30を形成する(図3のステップS104)。この撥水層30の形成は、図4に示すように、ノズル303内にキャリアガスであるアルゴンガスとともにケイ素化合物ガスを供給し、ノズル303内に設けた陽極301と、陽極301よりも基材10側に配置した陰極302との間に高周波電圧を印加し、熱平衡プラズマを発生させることにより行う。図示のように、陽極301と陰極302を、基材10表面に垂直な方向に並べて配置することによって、発生するプラズマが基材10に垂直方向に照射されるため、図2Aに示すように、基材10の表面からノズル303に向かってケイ素化合物を温度が高い方向に選択的に樹木状に成長させることができる。なお、キャリアガスとして、アルゴンガスに代えてヘリウムガスを用いてもよい。
【0031】
以上述べたように、本実施形態は、合成樹脂製の基材10の表面に親水性シリカ微粒子とポリビニルアルコール又はロジンを含む接着層20を形成するステップと、接着層20の表面に、ケイ素化合物の微粒子を含む撥水層30を形成するステップとを含み、撥水層30は、ケイ素化合物ガスが導入された大気圧雰囲気下で熱平衡プラズマを発生させることによって形成され、微細凹凸構造を備えた撥水性表面を有するように構成した。このような構成の採用によって、撥水層30の表面の微細凹凸構造によって接触角150度以上の超撥水面を有する撥水材料100を得ることができる。また、接着層20内の親水性シリカ微粒子の作用によって、基材10の表面を親水化して、基材10と撥水層30との密着性を高めることができる。また、撥水層30の形成に際しては、大気圧雰囲気下で熱平衡プラズマを発生させているため、プラズマにおけるイオン密度を高めることができるほか、装置の導入費用を抑制し、装置の設置場所を柔軟に選ぶことができる。
【0032】
また、本実施形態では、前記微細凹凸構造は樹木状の凹凸構造を有するように構成した。このような構成の採用によって、撥水材料100は、接触角が150度以上となる、いわゆる「超撥水」の機能を発現することができる。
【0033】
また、本実施形態では、樹木状の凹凸構造の最大高さは、1μm以上100μm以下であるように構成した。このような構成の採用によって、撥水材料100は、接触角が150度以上となる、いわゆる「超撥水」の機能を効果的に発現することができる。
【0034】
また、本実施形態では、樹木状の凹凸構造の表面における算術平均粗さは、5ナノメートル以上100ナノメートル以下であるように構成した。このような構成の採用によって、撥水材料100は、接触角が150度以上となる、いわゆる「超撥水」の機能を効果的に発現することができる。
【0035】
また、本実施形態では、ケイ素化合物ガスは、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)又はヘキサメチルジシラザン(HMDSN)であり、ケイ素化合物ガスの導入には、アルゴンガス又はヘリウムガスをキャリアガスとして用いるように構成した。原料ガスであるケイ素化合物ガスの導入にあたり、キャリアガスと混合して直接ノズル303(図4参照)内に供給することができるので、ケイ素化合物ガスを高濃度で導入することができる。
【0036】
また、本実施形態では、熱平衡プラズマは、基材10の表面に対して略垂直方向に並べて配置された陽極301と陰極302との間で発生させ、陰極302は、陽極301に対して基材10側に配置されるように構成した。このような構成の採用によって、発生するプラズマが基材10に垂直方向に照射されるため、基材10の表面からノズル303に向かってケイ素化合物を温度が高い方向に選択的に樹木状に成長させることができる。
【0037】
また、本実施形態は、合成樹脂製の基材10と、基材10の少なくとも一方の表面に形成された接着層20と、接着層20の表面に形成された、ケイ素化合物の微粒子を含む撥水層30とを備え、撥水層30は、樹木状の微細凹凸構造を備えた撥水性表面を有し、樹木状の微細凹凸構造の最大高さは、1μm以上100μm以下であり、樹木状の微細凹凸構造の表面における算術平均粗さは、5ナノメートル以上100ナノメートル以下であるように構成した。このような構成の採用によって、撥水層30の表面の微細凹凸構造によって接触角150度以上の超撥水面を有する撥水材料100を得ることができる。また、接着層20内の親水性シリカ微粒子の作用によって、基材10の表面を親水化して、基材10と撥水層30との密着性を高めることができる。また、撥水材料100は、接触角が150度以上となる、いわゆる「超撥水」の機能を効果的に発現することができる。
【0038】
次に、図面を参照して本開示の第2実施形態に係る撥水材料200について詳細に例示説明する。
【0039】
なお、本実施形態に係る撥水材料200は、第1実施形態と比較して、接着層20に代えて基材10の表面を粗面化し親水化処理しているほかは、第1実施形態の構成と近似している。従って、ここでは、第1実施形態との差異点を中心に説明する。
【0040】
図5に示す本開示の第2実施形態である撥水材料200は、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)又はポリエチレンテレフタレート(PET)などの合成樹脂材料で形成された基材10と、基材10の少なくとも一方を粗面化しエタノール処理された表面に形成され、撥水材料200の撥水性を高める撥水層30とを備えている。
【0041】
図5における基材10の上面は、撥水層30の形成に先立って粗面化されている。この基材10の粗面化は、例えばブラスト面を有する金型から転写したり、サンドペーパーなどを用いて粗面化してもよい。
【0042】
また、図5における基材10の上面は、エタノール処理によって親水化されている。これによって、後述する撥水層30を形成した際に、基材10と撥水層30との密着性を高めることができる。
【0043】
次に、このような「超撥水」の機能を有する撥水材料200の製造方法について、図6等を用いて説明する。
【0044】
図6は、本実施形態に係る撥水材料200の製造方法の実施手順を示している。本実施形態に係る撥水材料200を製造するに際しては、まず、基材10の少なくとも一方の表面の粗面化を行う(図6のステップS201)。この基材10の粗面化は、例えばブラスト面を有する金型から転写したり、サンドペーパーなどを用いて粗面化してもよい。
【0045】
基材10の表面は、ISO 25178で規定される算術平均高さSaが1μmより大きく10μm以下、かつ最大高さSzが15μm以上180μm以下となるように粗面化されている。このように基材10における撥水層30が形成される側の表面があらかじめ所定範囲の面粗さを有するように粗面化され、かつエタノール処理されることによって、後述するように、基材10と撥水層30との密着性を向上させることができる。
【0046】
次に、ステップS201で粗面化した基材10の表面に対してエタノール処理を行って親水化を行う(図6のステップS202)。このエタノール処理は、基材10におけるステップS201の粗面化を行った表面に対して、例えばバブリング方式により気化されたエタノールを原料ガスとした大気圧プラズマ照射を行う(大気圧雰囲気下で熱平衡プラズマを発生させる)。このエタノール処理によって、基材10の粗面化された表面を親水化することができる。なお、エタノール処理に代えて、コロナ処理、フレーム処理又はプラズマ処理等によって親水化処理を行うようにしてもよい。
【0047】
なお、図6のステップS203は、第1実施形態に係る図3のステップS104と同一の手順であるから、ここでの説明は省略する。
【0048】
このように、基材10の表面が所定の面粗さを有するように粗面化し、更にエタノール処理により親水化することによって、ステップS203で堆積したケイ素化合物の微粒子が基材10における粗面化かつ親水化された凹凸内に入り込んで基材10に密着する。これによって、基材10と撥水層30との密着性を向上させることができる。
【0049】
以上述べたように、本実施形態では、合成樹脂製の基材10の表面を、算術平均高さSaが1μmより大きく10μm以下、かつ最大高さSzが15μm以上180μm以下となるように粗面化するステップと、粗面化された基材10の表面に親水化処理を施して接着性を発現させるステップと、基材10の表面に、ケイ素化合物の微粒子を含む撥水層30を形成するステップとを含み、撥水層30は、ケイ素化合物ガスが導入された大気圧雰囲気下で熱平衡プラズマを発生させることによって形成され、微細凹凸構造を備えた撥水性表面を有するように構成した。このような構成の採用によって、撥水層30の表面の微細凹凸構造によって接触角150度以上の超撥水面を有する撥水材料200を得ることができる。また、基材10の表面を粗面化及び親水化して、基材10と撥水層30との密着性を高めることができる。また、撥水層30の形成に際しては、大気圧雰囲気下で熱平衡プラズマを発生させているため、プラズマにおけるイオン密度を高めることができるほか、装置の導入費用を抑制し、装置の設置場所を柔軟に選ぶことができる。
【0050】
本開示を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部に含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本発明の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0051】
例えば、第2実施形態において、撥水層30の形成に先立って基材10の表面を粗面化するように構成したが、第2実施形態に限定されず、第1実施形態において、接着層20を形成する手前の段階で、基材10の表面を粗面化しておいてもよい。
【0052】
また、第1及び第2実施形態では、撥水層30の表面に樹木状の微細凹凸構造を設けるように構成したが、この態様には限定されない。基材10と撥水層30との密着性が確保されるような他の形態の微細凹凸構造が形成されていてもよい。
【実施例0053】
まず、基材10の表面に対してフレーム処理による親水化処理を行った後、表1に示す5種類の材料を塗布し乾燥させて接着層20を形成した。その後図3のステップS104による撥水層30の形成を行い、撥水効果の比較を行った。なお、撥水層30の形成に際しては、電極から基材10までの照射距離:3~5cm、電源電圧:10kV、キャリアガス:アルゴン、一次圧力:0.02~0.05MPa、キャリアガス流量:0.8~1.2L/min.という条件を用いた。
【0054】
表1において、「良」は、撥水層30が基材10と良好に密着しており撥水効果を確認できたもの、「否」は、十分な撥水効果を確認できず、少なくとも部分的に撥水層30が剥離したと考えられるもの、である。なお、親水性シリカ微粒子の濃度は、8.0重量パーセントである。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、接着層20が親水性シリカ微粒子を含むサンプルのみが、指先を撥水層の表面に押し付けて一方向に1回擦った後にも十分な撥水効果を確認できており、基材10と撥水層30との密着性が良好であることが分かった。
【0057】
次に、接着層20における親水性シリカ微粒子の濃度を0重量パーセントから10重量パーセントまで6段階で変化させたときの撥水効果の比較を行った。評価結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
表2に示すように、接着層20をPVA水溶液及びロジン溶液のいずれから形成した場合でも、親水性シリカ微粒子を3.0重量パーセント以上含む場合には十分な撥水効果を確認できており、基材10と撥水層30との密着性が良好であることが分かった。なお、親水性シリカ微粒子の濃度が10.0重量パーセントを超えると親水性シリカ微粒子が溶解し切れないため、PVA水溶液又はロジン溶液を基材10の表面に塗布することが難しくなる。従って、PVA水溶液又はロジン溶液は、親水性シリカ微粒子を3.0重量パーセント以上10.0重量パーセント以下含むことが好ましい。なお、PVA水溶液におけるPVAの濃度、及びロジン溶液におけるロジンの濃度は、1.0重量パーセント以上20重量パーセント以下であることが好ましく、1.0重量パーセント以上15重量パーセント以下であることが更に好ましい。上述のPVAの濃度及びロジンの濃度範囲において、表2の結果を得ることができる。
【0060】
次に、基材10の表面の粗面化を行い、更に一部のサンプルについてエタノール処理を行った場合の基材10と撥水層30との密着性の評価を行った。評価結果を表3に示す。なお、サンプルNo.1, 2, 3は比較例として撥水層を設けていないものである。
【0061】
【表3】
【0062】
表3におけるRa及びRzは、それぞれJIS B 0601:2013に規定されている線粗さであり、表面の凹凸を触針によってなぞって得られた輪郭曲線の算術平均粗さ及び最大高さである。また、Sa及びSzは、それぞれISO 25178で規定される面粗さの評価パラメータである、算術平均高さ及び最大高さである。表3によれば、粗面化処理として、金型転写及び粗さが異なる2種類のサンドペーパーを用いたところ、金型転写により粗面化を行ったサンプルNo. 6, 9, 12では、密着性試験結果が0又は1回という結果になった。つまり、金型転写により粗面化を行ったサンプルでは、粗面化が十分ではないために、十分な密着強度が得られないという結果が得られた。なお、密着性試験は、基材10の撥水層30の上にフェルトを置き、更にフェルトの上に200gの重りを置いて一方向に移動させる摩擦試験を10回行ったときに撥水機能が維持された摩擦回数を示している。
【0063】
一方、サンドペーパーを使って粗面化を行ったサンプルについては、エタノール処理を行うことによって、密着試験結果が5回以上という結果が得られている(サンプルNo. 10,11,13,14の密着試験結果参照)。表3によれば、サンドペーパーを使って粗面化を行ったサンプル(撥水層を形成しておらず、基材単体の面粗さを測定しているNo.1から4)の算術平均高さSaは概ね1μmより大きく10μm以下、最大高さSzは15μm以上180μm以下の範囲の面粗さを有していることが分かる。従って、上述の面粗さの範囲内であれば、十分な密着性が得られると言える。
【0064】
次に、プラズマ照射時間[秒]と、樹木状の凹凸構造の最大高さ[μm](ISO 25178に準拠)との関係を調べた。表4に測定結果を示す。なお、表4における最大高さは、任意の5カ所における平均値とした。
【0065】
【表4】
【0066】
表4によれば、プラズマの照射時間の増加とともに樹木状の凹凸構造の最大高さが増加するが、照射時間が10秒以上では合成樹脂の溶融が始まってしまう。そのため、樹木状の凹凸構造の高さは照射時間10秒未満で得られる100[μm]程度が限界であることが分かった。照射時間0.5秒における樹木状の凹凸構造の平均高さ:1.2[μm]においても十分な撥水性能が得られていることから、樹木状の凹凸構造の高さは、1.0[μm]以上100[μm]以下の範囲であることが好ましい。なお、表4における照射時間:0.5~10秒の全ての照射時間において、十分な撥水性能が得られている。
【0067】
次に、プラズマ照射時間[秒]と、樹木状の凹凸構造の表面粗さとの関係を調べた。表5に測定結果を示す。なお、「凸部部分の表面粗さ」は、1本の樹木状部分における凸部の表面におけるJIS B 0601:2013で規定される算術平均粗さRaを示しており、「凹部部分の表面粗さ」は、1本の樹木状部分における凹部の表面における算術平均粗さRaを示している。
【0068】
【表5】
【0069】
表5によれば、照射時間:0.5~5.0秒までは、樹木状の凹凸構造の表面粗さの顕著な増減は見られないが、照射時間が7秒以上では表面粗さが急減する現象が見られた。なお、表5における照射時間:0.5~7.0秒の全ての照射時間において、十分な撥水性能が得られていることから、樹木状の凹凸構造の表面粗さは、照射時間:0.5~7.0秒における表面粗さの変動範囲である、5[nm]以上100[nm]以下の範囲内であることが好ましい。
【符号の説明】
【0070】
10 基材
20 接着層
30 撥水層
100 撥水材料
200 撥水材料
301 陽極
302 陰極
303 ノズル
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6