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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155243
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】ポリオレフィン微多孔膜
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/26 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
C08J9/26 102
C08J9/26 CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058655
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】松林 毅
(72)【発明者】
【氏名】山下 明久
(72)【発明者】
【氏名】豊田 晃与
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA17
4F074AA24
4F074AA98
4F074AB01
4F074AD12
4F074AG04
4F074CB34
4F074CB44
4F074CC02X
4F074CC04Z
4F074DA02
4F074DA08
4F074DA10
4F074DA23
4F074DA24
4F074DA49
(57)【要約】
【課題】電池の長寿命と高生産性をバランスよく達成することができて、電池用セパレータとして使用可能なポリオレフィン微多孔膜の提供。
【解決手段】一方の面と他方の面を有するポリオレフィン微多孔膜であって、一方の面及び他方の面の表面平滑度が、50,000sec/10cm以上130,000sec/10cm以下であり、透気度が、30sec/100cm以上300sec/100cm以下であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面と他方の面を有するポリオレフィン微多孔膜であって、
一方の面及び他方の面の表面平滑度が、50,000sec/10cm以上130,000sec/10cm以下であり、透気度が、30sec/100cm以上300sec/100cm以下であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜。
【請求項2】
少なくとも一方の面の表面平滑度が、50,000sec/10cm~100,000sec/10cmである、請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項3】
前記ポリオレフィン微多孔膜の一方の面と他方の面の前記平滑度の比が、1.0以上2.6以下である、請求項1又は2に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項4】
前記ポリオレフィン微多孔膜の一方の面は、前記平滑度が50,000sec/10cm以上100,000sec/10cm以下であり、かつ他方の面は、前記平滑度が60,000sec/10cm以上130,000sec/10cm以下である、請求項3に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項5】
前記平滑度の比が、1.0を超え、かつ2.6以下である、請求項3又は4に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項6】
前記ポリオレフィン微多孔膜の一方又は両方の表面の動摩擦係数が、0.20~0.60である、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項7】
前記ポリオレフィン微多孔膜の一方又は両方の表面の動摩擦係数が、0.25以上0.55以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項8】
前記ポリオレフィン微多孔膜の気孔率が、40%以上60%以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項9】
前記ポリオレフィン微多孔膜の粘度平均分子量(Mv)が、400,000~1,000,000であり、かつ前記ポリオレフィン微多孔膜の数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比として表される分子量分布Mw/Mnが、10~25である、請求項1~8のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン微多孔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン微多孔膜は、電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータ、燃料電池用材料、精密濾過膜等に使用されており、特にリチウムイオン二次電池(LIB)用セパレータ又はその構成材料として使用されている。セパレータは、正負極間の直接的な接触を防ぐと共に、その微多孔中に保持した電解液を通じてイオンも透過させる。
【0003】
近年、LIBについては、携帯電話、ノート型パソコン等の小型電子機器への利用だけでなく、電気自動車、小型電動バイク等の電動車両への応用も図られている。車載用LIBは、航続距離を延ばすために単セル当たりの容量が大きくなる傾向にあるため、体積当たりのエネルギー容量が大きくなるように開発されている。そのため、体積当たりのエネルギー容量が大きいLIB用セパレータとして、様々なポリオレフィン微多孔膜が検討されている(特許文献1~4)。
【0004】
特許文献1には、高エネルギー密度化された電池内部で異物等の存在により内部短絡が発生したときに熱暴走を抑制できるという観点から、ポリオレフィン微多孔膜の溶融粘弾性測定における230℃での損失正接(tan δ)が検討されている。
【0005】
特許文献2には、電池特性の向上のために、電極と接するポリオレフィン微多孔膜の表面に凹凸を付け、具体的には表面平滑度を50000秒以下かつ表面開孔度を40%以上に調整することによって、電極の有効断面積の向上と電解液の保持量を改良させ、充放電時のリチウムイオンの電極間移動速度を向上させることが記述されている。
【0006】
特許文献3には、セパレータとしての使用時に高温サイクル性、生産性、及び電池捲回性に優れるという観点から、ポリプロピレンとポリエチレンの混合物を含む微多孔膜の表面の動摩擦係数が検討されている。
【0007】
特許文献4には、ポリオレフィン微多孔膜の薄膜化、塗工性、及び高張力下でのネックインの低減の観点から、特定の膜厚、引張強度、及び引張伸度を有するポリオレフィン微多孔膜と、それに対する多孔層の積層とが記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2020/179101号
【特許文献2】特開平9-296060号公報
【特許文献3】特開2012-14914号公報
【特許文献4】特開2020-164791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、スマートフォン又は電気自動車が普及したことに伴い、LIBの需要が急速に増した。特に、生産量が多く、かつ長期間に亘って使用される車載用LiBには、高生産性と長電池寿命とが求められる。
【0010】
しかしながら、体積当たりのエネルギー容量が大きいLIB用セパレータとして提案された従来のポリオレフィン微多孔膜は、電池の高生産性及び長寿命について着目しなかったか、又はそれらのバランスを取れなかった。
【0011】
したがって、本発明は、電池の長寿命と高生産性とをバランスよく達成することができて、電池用セパレータとして使用可能なポリオレフィン微多孔膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ポリオレフィン微多孔膜の一方の面及び他方の面の表面平滑度と透気度とを特定の範囲にすることにより、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。本発明の一態様を以下に例示する。
[1]
一方の面と他方の面を有するポリオレフィン微多孔膜であって、
一方の面及び他方の面の表面平滑度が、50,000sec/10cm以上130,000sec/10cm以下であり、透気度が、30sec/100cm以上300sec/100cm以下であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜。
[2]
少なくとも一方の面の表面平滑度が、50,000sec/10cm~100,000sec/10cmである、[1]に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[3]
前記ポリオレフィン微多孔膜の一方の面と他方の面の前記平滑度の比が、1.0以上2.6以下である、[1]又は[2]に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[4]
前記ポリオレフィン微多孔膜の一方の面は、前記平滑度が50,000sec/10cm以上100,000sec/10cm以下であり、かつ他方の面は、前記平滑度が60,000sec/10cm以上130,000sec/10cm以下である、[3]に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[5]
前記平滑度の比が、1.0を超え、かつ2.6以下である、[3]又は[4]に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[6]
前記ポリオレフィン微多孔膜の一方又は両方の表面の動摩擦係数が、0.20~0.60である、[1]~[5]のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[7]
前記ポリオレフィン微多孔膜の一方又は両方の表面の動摩擦係数が、0.25以上0.55以下である、[1]~[6]のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[8]
前記ポリオレフィン微多孔膜の気孔率が、40%以上60%以下である、[1]~[7]のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[9]
前記ポリオレフィン微多孔膜の粘度平均分子量(Mv)が、400,000~1,000,000であり、かつ前記ポリオレフィン微多孔膜の数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比として表される分子量分布Mw/Mnが、10~25である、[1]~[8]のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電池の長寿命と高生産性とをバランスよく達成することができて、電池用セパレータとして使用可能なポリオレフィン微多孔膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という)を例示する目的で詳細に説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。本明細書において、各数値範囲の上限値、及び下限値は任意に組み合わせることができる。また、本明細書において、「~」とは、特に断りがない場合、その両端の数値を上限値、及び下限値として含む意味である。
【0015】
<微多孔膜>
本発明の一態様は、ポリオレフィン微多孔膜である。ポリオレフィン微多孔膜の好ましい態様は、電子伝導性が小さく、イオン伝導性を有し、有機溶媒に対する耐性が高く、かつ孔径の微細なものである。また、ポリオレフィン微多孔膜は、電池用セパレータ又はその構成要素、特に、二次電池用セパレータ又はその構成要素として利用されることができる。
【0016】
<表面平滑度と透気度の関係>
本実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜は、一方の面と他方の面とを有し、そして一方の面及び他方の面の表面平滑度が、50,000sec/10cm以上130,000sec/10cm以下であり、透気度が、30sec/100cm以上300sec/100cm以下であることを特徴とする。
【0017】
ポリオレフィン微多孔膜の透気度と、一方の面及び他方の面(以下、「両表面」ともいう)の表面平滑度とが、上記の数値範囲内にあると、ポリオレフィン微多孔膜を電池用セパレータとして使用する際に、電池の長寿命と高生産性とをバランスよく達成することができる傾向にある。この傾向は、リチウムイオン二次電池用セパレータ、特にLIB用セパレータにおいて顕著である。
【0018】
本発明によれば、ポリオレフィン微多孔膜の両表面の平滑度は、ポリオレフィン微多孔膜の透気度とともに、(i)電池又はLiB用セパレータの生産性、例えばライン搬送性、塗工後の透気度上昇など、及び(ii)電池寿命、例えば電解液吸液性、局所的なイオン伝導、レート特性、サイクル特性などに関わることが見出された。したがって、ポリオレフィン微多孔膜の透気度と、一方の面及び他方の面の表面平滑度とを適切な数値範囲内に制御することにより特性(i)と(ii)がバランスよく達成される。
【0019】
ポリオレフィン微多孔膜の透気度は、上記の特性(i)と(ii)のバランスを取るという観点から、30sec/100cm以上300sec/100cm以下である。ポリオレフィン微多孔膜の透気度は、局所的なイオン伝導による析出物の発生を抑制して、又は自己放電を抑制して、電池寿命を更に延ばすという観点から、40sec/100cm以上であることが好ましく、50sec/100cm以上であることがより好ましく、60sec/100cm以上であることが更に好ましい。ポリオレフィン微多孔膜の透気度は、電解液吸液性を向上させて、レート特性を担保するという観点から、290sec/100cm以下であることが好ましく、250sec/100cm以下であることがより好ましく、200sec/100cm以下であることが更に好ましく、90sec/100cm以下であることが特に好ましい。上記の透気度(sec/100cm)は、実施例に記載の方法により測定される。
【0020】
透気度は、例えば、ポリオレフィン微多孔膜の製造において、二軸延伸倍率、熱固定(HS)温度、熱固定最小倍率などを制御することにより上記の数値範囲内に調整されることができる。
【0021】
ポリオレフィン微多孔膜の両表面の表面平滑度は、上記の特性(i)と(ii)のバランスを取るという観点から、50,000sec/10cm以上130,000sec/10cm以下である。両表面の表面平滑度は、局所的なイオン伝導による析出物の発生を抑制して電池寿命を更に延ばし、かつ膜への塗工後の透気度上昇も抑制するという観点から、53,000sec/10cm以上であることが好ましく、55,000sec/10cm以上であることがより好ましく、60,000sec/10cm以上であることが更に好ましい。両表面の表面平滑度は、電解液吸液性の向上の観点から、95,000sec/10cm以下であることが好ましく、90,000sec/10cm以下であることがより好ましく、85,000sec/10cm以下であることが更に好ましく、80,000sec/10cm以下であることが特に好ましい。表面平滑度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0022】
ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一方の面の表面平滑度は、50,000sec/10cm~100,000sec/10cmであることが好ましい。少なくとも一方の面の表面平滑度は、局所的なイオン伝導を抑制して電池寿命を更に延ばし、かつ膜への塗工後の透気度上昇も抑制する観点から、好ましくは50,000sec/10cm以上であり、より好ましくは60,000sec/10cm以上であり、更に好ましくは65,000sec/10cm以上であり、特に好ましくは70,000sec/10cm以上である。少なくとも一方の面の表面平滑度は、電解液吸液性と搬送性を向上させる観点から、好ましくは100,000sec/10cm以下であり、より好ましくは98,000sec/10cm以下であり、更に好ましくは94,000sec/10cm以下である。
【0023】
ポリオレフィン微多孔膜の一方の面と他方の面の表面平滑度の比(以下、「表裏平滑度比」ともいう)が、1.0以上2.6以下であることが好ましい。表裏平滑度比は、ポリオレフィン微多孔膜の両表面について、高い方の平滑度を低い方の平滑度により除することにより得られ、そして両表面の平滑度が等しい場合には1.0である。表裏平滑度比は、セパレータ又は電池の製造ライン上でのポリオレフィン微多孔膜の搬送性を向上させる観点から、好ましくは1.0以上2.6以下であり、より好ましくは1.0を超え、かつ2.6以下であり、更に好ましくは1.1以上2.5以下であり、特に好ましくは1.2以上2.3未満である。
【0024】
また、ポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィン微多孔膜の両表面のうち、平滑度の低い方の面と、平滑度の高い方の面とを特定するように構成されることができる。本実施形態では、ポリオレフィン微多孔膜の一方の面は、表面平滑度が50,000sec/10cm以上100,000sec/10cm以下であり、かつ他方の面は、表面平滑度が60,000sec/10cm以上130,000sec/10cm以下であることが好ましい。
【0025】
ポリオレフィン微多孔膜の平滑度の低い方の表面と、平滑度の高い表面とを特定することは、理論に拘束されることを望まないが、膜の局所的なフィブリル構造の抑制と関連することが考えられる。ポリオレフィン微多孔膜の一方の面は、表面平滑度を50,000sec/10cm以上に調整することで、局所的なフィブリル集合構造による局所的なイオン伝導を抑制し、電池の長寿命を更に向上させ、膜への塗工後の透気度上昇も抑制することができ、表面平滑度を100,000sec/10cm以下に調整することで、電解液吸液性を向上させることができる。これに加えて、ポリオレフィン微多孔膜の他方の面は、表面平滑度を60,000sec/10cm以上に調整することで、局所的なフィブリル集合構造による局所的なイオン伝導を抑制し、電池の長寿命を更に向上させ、膜への塗工後の透気度上昇も抑制することができ、表面平滑度を130,000sec/10cm以下に調整することで、電解液吸液性を向上させることができる。
【0026】
ポリオレフィン微多孔膜の両表面の表面平滑度、一方の面の表面平滑度と他方の面の表面平滑度、及び表裏平滑度比は、ポリオレフィン微多孔膜(以下、「原反」ともいう)の製造において、原料の分子量・分子量分布、二軸延伸温度、HS最小倍率、HS温度、原反表面が結晶化するまでの冷却速度などを制御することにより上記の数値範囲内に調整されることができる。
【0027】
ポリオレフィン微多孔膜の構成要素、及び好ましい実施形態について以下に説明する。
【0028】
[構成要素]
ポリオレフィン微多孔膜としては、例えば、ポリオレフィン樹脂を含む多孔膜、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂を含む多孔膜、ポリオレフィン系の繊維の織物(織布)、ポリオレフィン系の繊維の不織布、紙、並びに、絶縁性物質粒子の集合体が挙げられる。これらの中でも、塗工工程を経て多層多孔膜、すなわち二次電池用セパレータを得る場合に塗工液の塗工性に優れ、セパレータの膜厚を従来のセパレータより薄くして、二次電池等の蓄電デバイス内の活物質比率を高めて体積当たりの容量を増大させる観点から、ポリオレフィン樹脂を含む多孔膜(以下、「ポリオレフィン樹脂多孔膜」ともいう。)が好ましい。
【0029】
ポリオレフィン樹脂多孔膜について説明する。
ポリオレフィン樹脂多孔膜は、二次電池用セパレータとして使用されたときのシャットダウン性能等を向上させる観点から、多孔膜を構成する樹脂成分の50質量%以上100質量%以下をポリオレフィン樹脂が占めるポリオレフィン樹脂組成物により形成される多孔膜であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂組成物におけるポリオレフィン樹脂が占める割合は、60質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上100質量%以下であることが更に好ましい。
【0030】
ポリオレフィン樹脂組成物に含有されるポリオレフィン樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテン等をモノマーとして用いて得られるホモ重合体、共重合体又は多段重合体等が挙げられる。また、これらのポリオレフィン樹脂は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
中でも、ポリオレフィン微多孔膜の表面平滑度と分子量を所定の数値範囲内に調整するという観点からは、ポリオレフィン樹脂としてはホモ重合体が好ましく、共重合体を含まないことがより好ましく、そしてポリオレフィン樹脂多孔膜が二次電池用セパレータとして使用されたときのシャットダウン特性の観点から、ポリオレフィン樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン、及びこれらの共重合体、並びにこれらの混合物が好ましい。
ポリエチレンの具体例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、高分子量ポリエチレン(HMWPE)、及び超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)等が挙げられる。
ポリプロピレンの具体例としては、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン等が挙げられる。
共重合体の具体例としては、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンラバー等が挙げられる。
【0031】
また、ポリオレフィン樹脂は、電池の熱暴走を初期段階で止めるという観点から、130℃から140℃までの範囲内に融点を持つポリエチレンを主成分とすることが好ましい。
【0032】
本願明細書において、高分子量ポリエチレンとは、粘度平均分子量(Mv)が10万以上のポリエチレンを意味する。ポリエチレンについてMvは、ASTM-D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η](dl/g)を測定することで、次式にて算出することができる。
[η]=6.77×10-4Mv0.67
一般的に、超高分子量ポリエチレンのMvは、100万以上であるため、仮にかかる定義に従えば、本願明細書における高分子量ポリエチレン(HMWPE)は、定義上、UHMWPEを包含する。また、かかる定義とは異なる定義に基づいて「超高分子量ポリエチレン」と称さるポリエチレンであっても、Mvが10万以上である場合には、本実施形態における高分子量ポリエチレンに該当する可能性がある。
【0033】
本願明細書において、高密度ポリエチレンとは密度0.942~0.970g/cm3のポリエチレンをいう。なお、本発明においてポリエチレンの密度とは、JIS K7112(1999)に記載のD)密度勾配管法に従って測定した値をいう。
【0034】
ポリオレフィン樹脂多孔膜が二次電池用セパレータとして使用されたときに低融点かつ高強度の要求性能を満たす観点から、ポリオレフィン樹脂としてポリエチレン、特に高密度ポリエチレンを用いることが好ましい。更に、速やかなヒューズ挙動を発現する観点から、ポリオレフィン樹脂多孔膜の主成分がポリエチレンであることが好ましい。「ポリオレフィン樹脂多孔膜の主成分がポリエチレンである」とは、ポリオレフィン樹脂多孔膜の全質量に対して、50質量%を超えてポリエチレンを含むことを意味する。ポリオレフィン樹脂多孔膜の全質量に対して、ポリエチレンは、ポリオレフィン微多孔膜の表面平滑度を上記の数値範囲内に調整するという観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは85質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは98質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0035】
ポリオレフィン微多孔膜の原料として用いるポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量(以下、Mv)は、好ましくは5万以上500万未満、より好ましくは8万以上200万未満、更に好ましくは10万以上100万未満であり、特に好ましくは40万以上100万以下である。粘度平均分子量が5万以上であると、均一に溶融混練をすることが容易となり、シートの成形性、特に厚み安定性に優れる傾向にあるため好ましい。更に、二次電池用セパレータとしたときに、粘度平均分子量が500万未満であると、温度上昇時に孔を閉塞し易く、良好なシャットダウン機能が得られる傾向にあるため好ましい。
【0036】
ポリオレフィン微多孔膜の表面平滑度を上記の数値範囲内に調整するという観点から、ポリオレフィン微多孔膜の原料として、複数のポリオレフィン原料を混合して用いることが好ましい。複数のポリオレフィン原料を混合して用いる場合、中でも、Mvが50万未満のポリエチレンとMvが50万以上100万未満のポリエチレンを含むことが好ましい。Mvが50万未満(例えば10万以上30万以下)のポリエチレンを含むことにより、溶融混錬時に粘度が上がりすぎることなく、ポリオレフィンの分子量劣化を抑制することができ、延伸時に過度な残留応力が残らず、熱収縮が小さくなる傾向にある。また、温度上昇時に孔を閉塞し易く、良好なシャットダウン機能が得られる傾向にある。更に、ポリオレフィン微多孔膜が溶融したときに粘性が生じ易くなるため、電池の短絡後の溶融時に適度に電極に適度に侵入してアンカー効果を発現し易くなり、熱収縮を抑えて短絡面積の増加を抑制し易くなると推測される。Mvが50万以上100万未満のポリエチレンを含むことにより、溶融混錬時に応力が大きくなり、樹脂を均一に混錬することが可能になる。また、ポリオレフィン微多孔膜が重合体同士の絡み合いを発現するため、高強度となる傾向にあると共に、ポリオレフィン微多孔膜が溶融し300℃近くの高温に達したときに粘度が下がり過ぎることなく、樹脂が流出せずにその場にとどまり易くなるため、熱暴走を抑制し易くなると推測される。
【0037】
ポリオレフィン微多孔膜の原料として用いられるMvが50万未満のポリエチレンの割合は、ポリオレフィン原料の総量を100質量%として好ましくは10質量%以上40質量%以下、より好ましくは12質量%以上38%質量以下、更に好ましくは14質量%以上36質量%以下、より更に好ましくは16質量%以上34質量%以下、最も好ましくは18質量%以上32質量%以下(又は18質量%以上30質量%未満)である。Mvが50万未満のポリエチレンの割合が10質量%以上であることにより、良好なシャットダウン特性、熱収縮抑制効果、高温に達したときに適度な粘性を持つことによる短絡面積の増加抑制効果を得ることができる傾向にある。Mvが50万未満のポリエチレンの割合が40質量%以下であることにより、溶融混錬時に重合体同士の絡み合いを発現することができる傾向にある。また、ポリオレフィン微多孔膜が高温に達したときに溶融した樹脂の流動性が大きくなり過ぎず、樹脂の流出による電極の露出による熱暴走を回避することができる傾向にある。
【0038】
ポリオレフィン微多孔膜の原料として用いられるMvが50万以上100万未満のポリエチレンの割合は、ポリオレフィン原料の総量を100質量%として好ましくは40質量%以上90質量%以下、より好ましくは45質量%以上85%質量以下、更に好ましくは50質量%以上80質量%以下、より更に好ましくは55質量%以上75質量%以下であり、最も好ましくは62質量%以上73質量%以下である。Mvが50万以上100万未満のポリエチレンの割合が40質量%以上であることにより、ポリオレフィン微多孔膜の高強度化、高温に達したときに樹脂が流出せずに熱暴走を抑制する効果を得ることができる傾向にある。Mvが50万以上100万未満のポリエチレンの割合が90質量%以下であることにより、延伸時に過度な残留応力が残らず、熱収縮が小さくなる傾向にある。また、温度上昇時に孔を閉塞し易く、良好なシャットダウン機能が得られる傾向にあると同時に、ポリオレフィン微多孔膜が溶融したときに粘性が生じるため、電池の短絡後の溶融時に適度に電極に侵入してアンカー効果を発現し、熱収縮を抑えて短絡面積の増加を抑制し易くなると推測される。
【0039】
ポリオレフィン微多孔膜の表面平滑度を上記の数値範囲内に調整するという観点から、ポリオレフィン微多孔膜の原料として、ポリオレフィン微多孔膜の原料としてMvが100万未満のポリエチレンを使用することが好ましい。
【0040】
ポリオレフィン微多孔膜の原料として低密度ポリエチレンを含む場合、ポリオレフィン原料の総量を100質量%として、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは6質量%以下又は5質量%以下、より更に好ましくは4質量%以下(又は3質量%未満、更には1質量%未満)、最も好ましくは、低密度ポリエチレンを含まない。低密度ポリエチレンの割合が10質量%以下であることにより、ポリオレフィン微多孔膜が150℃前後の高温に達したときに容易に破膜し辛くなり、300℃近い高温に達したときに溶融した樹脂の流動性が大きくなり過ぎず、樹脂の流出による電極の露出による熱暴走を回避することができる傾向にある。同様の理由からMvが5万未満の低分子量ポリエチレンは、本発明における作用効果の発揮を著しく阻害しない範囲内であれば含んでもよく、その含有量は例えば低密度ポリエチレンの場合と同様である。そして、Mvが5万以上のポリエチレンを用いることが好ましい。
【0041】
また、多孔膜の耐熱性を向上させる観点から、ポリオレフィン樹脂としてポリエチレン、及びポリプロピレンの混合物を用いてもよい。ポリオレフィン微多孔膜の原料として用いられるポリプロピレンの割合は、ポリオレフィン原料の総量を100質量%として、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは3質量%以上10質量%以下、更に好ましくは4質量%以上(又は4質量%超え)9質量%以下、より更に好ましくは5質量%以上8質量%以下であり、最も好ましくは5質量%を超え8質量%未満である。
すなわち、ポリプロピレンの割合は、膜を構成する樹脂成分中のポリオレフィン樹脂の総量を100質量%として、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは3質量%以上10質量%以下、更に好ましくは4質量%以上(又は4質量%超え)9質量%以下、より更に好ましくは5質量%以上8質量%以下であり、最も好ましくは5質量%を超え8質量%未満である。
ポリプロピレンの割合が1質量%以上であることにより、ポリオレフィン微多孔膜が150℃前後の高温に達したときに容易に破膜し辛くなり、電池短絡時の初期に微小なピンホールが生じ難くなる。ポリプロピレンの割合が20質量%以下であることにより、300℃近い高温に達したときに溶融した樹脂の流動性が大きくなり過ぎず、樹脂の流出又は電極への過度な染み込みによる電極の露出による熱暴走を回避し易くなる。また、ポリプロピレンの割合が1~20質量%の範囲内にあると、ポリオレフィン微多孔膜の一方又は両方の表面の動摩擦係数が、後述されるとおり適切な数値範囲内に調整されることができる。
【0042】
ポリオレフィン微多孔膜の原料として用いられるポリプロピレンのMvは好ましくは20万以上100万以下、より好ましくは25万以上90万以下、更に好ましくは30万以上80万以下である。理論に拘束されることを望まないが、ポリプロピレンのMvが20万以上であることにより、溶融混錬時に重合体同士の絡み合いが強くなることでポリエチレン中に均一にポリプロピレンが分散され、ポリプロピレンの耐熱性を効果的に発現できると推測される。また、ポリオレフィン微多孔膜が300℃近い高温に達したときにも粘度が上がりすぎないため好ましい。ポリプロピレンのMvが100万以下であることにより、溶融混錬時の過度な絡み合いによる重合体の分子量劣化を抑制し易くなる。また、ポリオレフィン微多孔膜の残留応力を抑制し易くなる。
ポリプロピレンのMvは、ASTM-D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η](dl/g)を測定することで、次式に従って算出することができる。
[η]=1.10×10-4Mv0.80
【0043】
ポリオレフィン微多孔膜の原料として用いられるポリプロピレンとしては、耐熱性と高温での溶融粘度を高めるという観点からホモポリマーであることが好ましい。中でも、アイソタクティックポリプロピレンが好ましい。アイソタクティックポリプロピレンの量は、ポリオレフィン微多孔膜全体のポリプロピレンの総質量に対して、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上、より更に好ましくは100質量%(全て)である。アイソタクティックポリプロピレンが90質量%以上であることにより、短絡時の昇温による微多孔膜の更なる溶融を抑制することができる。また、アイソタクティックポリプロピレンは結晶性が高いため、可塑剤との相分離が進行し易くなり、多孔性が良好で透過性の高い膜が得られる傾向にある。そのため、出力又はサイクル特性に好ましい影響を与えることができる。更に、ホモポリマーは非晶部が少ないため、融点以下の熱がかかったとき又は残留応力によって非晶部が収縮したときにおける熱収縮の増加を抑制することができ、また、短絡初期にセパレータの温度が100℃前後に達したときに非晶部の収縮によって短絡面積が増加するという問題を抑制し易くなる。
【0044】
ポリオレフィン原料に含まれてもよいポリオレフィン樹脂、及びその含有量は、上記の説明に限定されない。従って、ポリオレフィン原料は、本発明における作用効果の発揮を著しく阻害しない範囲内であれば、上記で説明したのと異なるポリオレフィン樹脂を含んでもよいし、また、上記で説明したのと異なる含有量とされてもよい。
【0045】
ポリオレフィン樹脂組成物には、任意の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、ポリオレフィン樹脂以外の重合体;無機フィラー;フェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;着色顔料等が挙げられる。これらの添加剤の総添加量は、ポリオレフィン樹脂100質量%に対して、20質量%以下であることがシャットダウン性能等を向上させる観点から好ましく、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0046】
ポリオレフィン樹脂多孔膜の物性又は原料特性の観点から、ポリオレフィン原料は、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(分子量分布:Mw/Mn)が1以上25以下であることが好ましく、3以上25以下であることがより好ましく、5以上25以下であることが更に好ましく、10以上25以下であることが特に好ましい。
【0047】
ポリオレフィン樹脂多孔膜のMvが、400,000~1,000,000であることが好ましく、450,000~900,000であることがより好ましく、500,000~800,000であることが更に好ましく、550,000~700,000であることが特に好ましく、かつ/又はポリオレフィン樹脂多孔膜の分子量分布(Mw/Mn)が、10~25であることが好ましく、15~20であることがより好ましい。ポリオレフィン樹脂多孔膜のMv及び/又はMw/Mnを上記の数値範囲内に調整することによりポリオレフィン樹脂多孔膜の表面平滑度を所定の範囲内に調整し得る。
【0048】
上記の重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)は、実施例に記載の手法により測定される。
【0049】
<その他の性質>
ポリオレフィン微多孔膜の厚みは、好ましくは1.0μm以上50μm以下、より好ましくは3.0μm以上25.0μm以下、更に好ましくは4.0μm以上15.0μm以下、特に好ましくは5.0μm以上12.0μm以下、最も好ましくは8.0μm以上12.0μm未満である。ポリオレフィン微多孔膜の厚みは、機械的強度、及び短絡時の絶縁性保持の観点から0.1μm以上であることが好ましく、LIBの高容量化の観点から100μm以下であることが好ましい。ポリオレフィン微多孔膜全体の厚みは、例えば、ダイリップ間隔、延伸工程における延伸倍率等を制御することによって調整することができる。
【0050】
ポリオレフィン微多孔膜の一方又は両方の表面の動摩擦係数が、0.20~0.60であることが好ましく、0.25以上0.55以下であることがより好ましく、0.30以上0.50以下であることが更に好ましい。ポリオレフィン微多孔膜の一方又は両方の表面の動摩擦係数が、0.60以下であるとき、搬送中にポリオレフィン微多孔膜のシワの発生を防ぐことができ、0.20以上であるとき、ポリオレフィン微多孔膜の表面平滑度を適切な数値範囲内に制御することができる。ポリオレフィン微多孔膜の表面の動摩擦係数は、例えば、原反の製造において、原料の分子量・分子量分布、二軸延伸倍率、HS温度などを制御することにより上記の数値範囲内に調整されることができる。上記の動摩擦係数は、実施例に記載の手法により測定される。
【0051】
本実施形態のポリオレフィン微多孔膜の突刺強度(gf)が、好ましくは180gf~500gf、より好ましくは210gf~480gf、更に好ましくは225gf~460gfである。また、ポリオレフィン微多孔膜の目付換算突刺強度(gf/(g/m))が、好ましくは38gf/(g/m)~90gf/(g/m)であり、より好ましくは40gf/(g/m)~85gf/(g/m)であり、更に好ましくは42gf/(g/m)~82gf/(g/m)である。突刺強度と目付換算突刺強度の下限値が上記のとおりであると、ポリオレフィン微多孔膜を用いる電池の作製において、電極表面の凹凸に接触したときの微小な薄膜化又は破膜を防ぐことができ、微短絡による電池不良を抑制することができる。突刺強度と目付換算突刺強度の上限値が上記のとおりであると、ポリオレフィン微多孔膜を含む電池の収縮応力を抑制することができる。突刺強度と目付換算突刺強度は、実施例に記載の手法により測定される。
【0052】
ポリオレフィン微多孔膜の気孔率は、好ましくは40%以上60%以下、より好ましくは42%以上55%以下、更に好ましくは45%以上50%以下である。ポリオレフィン微多孔膜の気孔率は、イオン伝導性向上の観点から40%以上であることが好ましく、耐電圧特性の観点から60%以下であることが好ましい。ポリオレフィン微多孔膜の気孔率は、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の混合比率、二軸延伸温度、延伸倍率、HS温度、HS時の延伸倍率、HS時の緩和率などを制御することによって調整することができる。上記の気孔率は、実施例に記載の手法により測定される。
【0053】
≪ポリオレフィン微多孔膜の製造方法≫
ポリオレフィン微多孔膜の製造方法としては、特に制限はなく、既知の製造方法を採用することができる。例えば、以下の方法:
(1)ポリオレフィン樹脂組成物と孔形成材とを溶融混練してシート状に成形後、必要に応じて延伸した後、孔形成材を抽出することにより多孔化させる方法;
(2)ポリオレフィン樹脂組成物を溶融混練して高ドロー比で押出した後、熱処理と延伸によってポリオレフィン結晶界面を剥離させることにより多孔化させる方法;
(3)ポリオレフィン樹脂組成物と無機充填材とを溶融混練してシート上に成形した後、延伸によってポリオレフィンと無機充填材との界面を剥離させることにより多孔化させる方法;
(4)ポリオレフィン樹脂組成物を溶解後、ポリオレフィンに対する貧溶媒に浸漬させてポリオレフィンを凝固させると同時に溶剤を除去することにより多孔化させる方法
等が挙げられる。
【0054】
以下、ポリオレフィン微多孔膜を製造する方法の一例として、上記(1)ポリオレフィン樹脂組成物と孔形成材とを溶融混練してシート状に成形後、孔形成材を抽出する方法を説明する。
【0055】
まず、ポリオレフィン樹脂組成物と孔形成材を溶融混練する。溶融混練方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、及び必要によりその他の添加剤を押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、バンバリーミキサー等の樹脂混練装置に投入することで、樹脂成分を加熱溶融させながら任意の比率で孔形成材を導入して混練する方法が挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、得られるポリオレフィン微多孔膜の表面平滑度と動摩擦係数を上記のとおり適切な数値範囲内に調整するという観点から、上記<構成要素>において説明された原料を使用することが好ましい。
【0056】
孔形成材としては、可塑剤、無機材又はそれらの組み合わせを挙げることができる。
【0057】
可塑剤としては、特に限定されないが、ポリオレフィンの融点以上において均一溶液を形成し得る不揮発性溶媒を用いることが好ましい。このような不揮発性溶媒の具体例としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。なお、これらの可塑剤は、抽出後、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。更に、好ましくは、樹脂混練装置に投入する前に、ポリオレフィン樹脂、その他の添加剤、及び可塑剤を、予めヘンシェルミキサー等を用いて所定の割合で事前混練する。より好ましくは、事前混練においては、使用される可塑剤の一部分を投入し、残りの可塑剤は、樹脂混練装置に適宜加温しサイドフィードしながら混練する。このような混練方法を用いることにより、可塑剤の分散性が高まり、後の工程で樹脂組成物と可塑剤の溶融混練物のシート状成形体を延伸するときに、破膜することなく高倍率で延伸することができる傾向にある。
【0058】
可塑剤の中でも、流動パラフィンは、ポリオレフィン樹脂がポリエチレン又はポリプロピレンの場合に、これらとの相溶性が高く、溶融混練物を延伸しても樹脂と可塑剤の界面剥離が起こり難く、均一な延伸が実施し易くなる傾向にあるため好ましい。
【0059】
ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とから成る組成物中に占めるポリオレフィン原料の質量分率は、好ましくは18質量%以上35質量%未満、より好ましくは20質量%以上33質量%未満、更に好ましくは22質量%以上31質量%未満である。ポリオレフィン原料の質量分率が35質量%未満であると、混錬時のエネルギーが上がり過ぎないため、重合体同士の過度な絡み合いによる分子量の劣化を抑制することができるため、ポリオレフィン微多孔膜の特性を損なうことがない。一方、ポリオレフィン原料の質量分率が18質量%以上であると、溶融混錬時に十分なエネルギーを与えることができ、重合体同士の絡み合いにより均一に混錬されるため、ポリオレフィン原料と可塑剤との混合物を高倍率で延伸した場合でもポリオレフィン分子鎖の絡み合いの解れが起こらず、均一かつ微細な孔構造を形成し易く、強度も増加し易い。
【0060】
押出機により孔形成材とポリオレフィン原料の溶融混錬を行う場合には、溶融混錬区間の温度(混錬温度)が、溶融混錬時の比エネルギー、又はポリオレフィン微多孔膜の膜強度と孔径均一性の観点から、好ましくは140℃以上200℃未満、より好ましくは150℃以上190℃未満である。
【0061】
次に、溶融混練物をシート状に成形する。シート状成形体を製造する方法としては、例えば、溶融混練物を、Tダイ等を介してシート状に押出し、熱伝導体に接触させて樹脂成分の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却して固化する方法が挙げられる。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、可塑剤等が挙げられる。これらの中でも、熱伝導の効率が高いため、金属製のロールを用いることが好ましい。また、押出した混練物を金属製ロールに接触させるときに、少なくとも一対のロールで挟み込むことは、熱伝導の効率が更に高まると共に、シートが配向して膜強度が増し、シートの表面平滑性も向上する傾向にあるため、より好ましい。
【0062】
溶融混練物をTダイからシート状に押出すときのダイリップ間隔は、200μm以上3,000μm以下であることが好ましく、500μm以上2,500μm以下であることがより好ましい。ダイリップ間隔が200μm以上であると、メヤニ等が低減され、スジ又は欠点等の膜品位への影響が少なく、その後の延伸工程において、膜破断等のリスクを低減することができる。一方、ダイリップ間隔が3,000μm以下であると、冷却速度が速く、冷却ムラを防げると共に、シートの厚み安定性を維持できる。
【0063】
得られるポリオレフィン微多孔膜の一方の表面と他方の表面について、それぞれ表面平滑度又は動摩擦係数を上記のとおりに適切な数値範囲に調整するという観点からは、押出工程において、(i)原反表面が結晶化するまでの冷却速度、及び(ii)原反表面温度を制御することが好ましい。(i)冷却速度は、7~20℃/secであることが好ましく、それにより結晶構造の緻密性を制御し得る。(ii)原反表面温度は、原反の両面について異なることが好ましい。一方の面がシート状に成形される際の表面温度は80℃以上110℃以下であることが好ましく、もう一方の面がシート状に成型される際の同表面温度は、180℃以上220℃以下が好ましい。(i)冷却速度と(ii)原反表面温度は、例えば、ダイス出口温度、キャストロール温度、エアナイフ風量・温度、エアギャップ、金属製ロールの表面粗度などにより達成されることができる。これに関連して、ロールによる成形は、逐次でも同時でもよい。
【0064】
また、シート状成形体を圧延してもよい。圧延は、例えば、ダブルベルトプレス機等を使用したプレス法により実施することができる。シート状成形体に圧延を施すことにより、特に表層部分の配向を増すことができる。圧延面倍率は1倍を超えて3倍以下であることが好ましく、1倍を超えて2倍以下であることがより好ましい。圧延倍率が1倍を超えると、面配向が増加し、最終的に得られる多孔膜の膜強度が増加する傾向にある。一方、圧延倍率が3倍以下であると、表層部分と中心内部の配向差が小さく、膜の厚さ方向に均一な多孔構造を形成することができる傾向にある。
【0065】
(延伸)
シート状成形体又は多孔膜が延伸される延伸工程は、シート状成形体から孔形成材を抽出する工程(孔形成工程)の前に行ってよいし、シート状成形体から孔形成材を抽出した多孔膜に対して行ってもよい。更に、延伸工程は、シート状成形体からの孔形成材の抽出の前と後に行ってもよい。
【0066】
延伸処理としては、一軸延伸又は二軸延伸のいずれも好適に用いることができるが、得られる多孔膜の強度等を向上させる観点から二軸延伸が好ましい。また、得られた多孔膜の熱収縮性の観点から、少なくとも2回の延伸工程を行うことが好ましい。
シート状成形体を二軸方向に高倍率延伸すると、分子が面方向に配向し、最終的に得られる多孔膜が裂け難くなり、高い突刺強度を有するものとなる。延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、多段延伸、多数回延伸等の方法を挙げることができる。得られる微多孔膜の表面平滑度の最適化、孔径の均一性、延伸の均一性、及びシャットダウン性の観点からは、同時二軸延伸が好ましい。
【0067】
ここで、同時二軸延伸とは、MD(微多孔膜連続成形の機械方向)の延伸とTD(微多孔膜のMDを90°の角度で横切る方向)の延伸が同時に施される延伸方法をいい、各方向の延伸倍率は異なってもよい。逐次二軸延伸とは、MD、及びTDの延伸が独立して施される延伸方法をいい、MD又はTDに延伸がなされているときは、他方向は非拘束状態又は定長に固定されている状態とする。
【0068】
延伸倍率は、面倍率で28倍以上100倍未満の範囲であることが好ましく、32倍以上70倍以下の範囲であることがより好ましく、36倍以上50倍以下であることが更に好ましい。各軸方向の延伸倍率は、MDに4倍以上10倍未満、TDに4倍以上10倍未満の範囲であることが好ましく、MDに5倍以上9倍未満、TDに5倍以上9倍未満の範囲であることがより好ましく、MDに5.5倍以上8.5倍未満、TDに5.5倍以上8.5倍未満の範囲であることが更に好ましい。総面積倍率又は各軸方向の延伸倍率を上記のとおりに調整すると、得られるポリオレフィン微多孔膜の透気度を最適化し得る。
【0069】
上記シート状成型体又はポリオレフィン微多孔膜の延伸時の温度は、120℃以上であることが好ましく、122℃を超えることがより好ましい。また、延伸時の温度は、130℃以下であることが好ましく、129℃であることがより好ましい。延伸時の温度、特に二軸延伸時の温度が120℃以上であることにより、過度な残留応力による熱収縮の増加を抑制することができる。延伸時の温度、特に二軸延伸時の温度が130℃以下であることにより、ポリオレフィン微多孔膜に十分な強度を与えることができると共に、膜表面の溶融による孔径分布の乱れを防ぎ、電池の充放電を繰り返したときの長寿命を担保することができる。特に二軸延伸温度が120℃~130℃の範囲内にあると、得られる微多孔膜の表面平滑度、及び動摩擦係数を最適化し易い傾向にある。
【0070】
ポリオレフィン微多孔膜の熱収縮を抑制するために、延伸工程後又はポリオレフィン微多孔膜形成後に熱処理を行い、熱固定することもできる。
【0071】
熱収縮を抑制する観点から、ポリオレフィン微多孔膜に熱固定を施すことが好ましい。熱固定の方法としては、物性の調整を目的として、所定の温度雰囲気、及び所定の延伸率で行う延伸操作、及び/又は延伸応力低減を目的として、所定の温度雰囲気、及び所定の緩和率で行う緩和操作が挙げられる。延伸操作を行った後に緩和操作を行っても構わない。これらの熱固定は、テンター又はロール延伸機を用いて行うことができる。
【0072】
熱固定工程を通じて、HS温度は、透気度、表面平滑度、又は動摩擦係数が上記のとおり調整されたポリオレフィン微多孔膜を得る観点から、125℃~133℃の範囲内にあることが好ましい。
【0073】
より高強度かつ高気孔率なポリオレフィン微多孔膜を得る観点から、延伸操作の倍率は、膜のMD、及び/又はTDに、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上、更に好ましくは1.4倍超えであり、好ましくは2.3倍未満、より好ましくは2.0倍未満である。また、熱固定時にMDとTD両方に延伸を施す場合には、MDとTDの延伸倍率の積は好ましくは3.5倍未満、より好ましくは3.0倍未満である。熱固定時のMD、及び/又はTDの延伸倍率が1.1倍以上であることにより、高気孔率化と低熱収縮化の効果を得ることができ、2.3倍以下であることにより過度な大孔径化又は引張伸度の低下を防ぐことができる。熱処理時のMDとTDの延伸倍率の積が3.5倍未満であることにより、熱収縮の増加を抑制することができる。また、透気度、表面平滑度、又は動摩擦係数が上記のとおり調整されたポリオレフィン微多孔膜を得る観点から、熱固定最小倍率が、1.4倍~1.9倍であることが好ましい。
【0074】
この可塑剤抽出後の熱固定時の延伸操作は、好ましくはTDに行う。HS延伸操作における温度は、透過性を維持したままTMA応力を抑制し、孔径均一性を保つ観点から110℃以上140℃以下であることが好ましい。
【0075】
熱固定時の緩和操作は、膜のMD、及び/又はTDへの縮小操作のことである。所定の条件範囲で緩和操作を行うことにより、溶融後の温度上昇に伴う応力低下を緩やかにすることができ、160℃付近でも容易に破膜しないポリオレフィン微多孔膜を得ることができる。緩和率とは、緩和操作後の膜の寸法を緩和操作前の膜の寸法で除した値のことである。なお、MD、TD双方を緩和した場合は、MDの緩和率とTDの緩和率を乗じた値のことである。緩和率は、好ましくは1.0未満、より好ましくは0.97未満、更に好ましくは0.95未満であり、より更に好ましくは0.90未満、最も好ましくは0.85未満である。緩和率は膜品位の観点から、0.4以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましく、0.8以上であることが更に好ましい。緩和時の歪速度の絶対値は1.0%/sec以上9.0%/sec以下であることが好ましく、より好ましくは1.5%/sec以上8.5%/sec以下、更に好ましくは2.0%/sec以上8.0%/sec以下、より更に好ましくは2.5%/sec以上7.5%/sec以下、最も好ましくは3.0%/sec以上7.0%/sec以下である。緩和操作は、MD、TD双方で行ってもよいが、MD又はTDのいずれか一方にのみ行ってもよい。上記倍率での延伸と緩和を行うことで、MD及び/又はTDの熱収縮を適正な範囲に制御することができる。
【0076】
この可塑剤抽出後の熱固定時の緩和操作は、好ましくはTDに行う。緩和操作における温度は、TMA応力の抑制と孔径均一性を保つ観点から、125℃以上133℃以下であることが好ましい。
【0077】
所望により、上記の製造方法により得られるポリオレフィン微多孔膜の片面又は両面に、無機フィラー、熱可塑性樹脂、バインダー、分散剤、溶媒などを含むスラリーを塗工して、塗工層を形成してよい。本実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜の表面に塗工層を形成しても透気度の上昇を抑えられる。
【実施例0078】
以下、実施例、及び比較例により本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例、及び比較例に限定されるものではない。
【0079】
<粘度平均分子量(Mv)>
ASTM-D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η](dl/g)を求めた。
ポリエチレンについては、次式により算出した。
[η]=6.77×10-4Mv0.67
ポリプロピレンについては、次式によりMvを算出した。
[η]=1.10×10-4Mv0.80
【0080】
<ポリオレフィン原料のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)>
・試料の調製
ポリオレフィン原料を秤量し、濃度が1mg/mlになるように溶離液1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB)を加えた。高温溶解器を用いて、160℃で30分静置したのち、160℃で1時間揺動させ、試料がすべて溶解したことを目視で確認した。160℃のまま、0.5μmフィルターでろ過し、ろ液をGPC測定試料とした。
・GPC測定
GPC装置として、Agilent社製のPL-GPC220(商標)を用い、東ソー(株)製のTSKgel GMHHR-H(20) HT(商標)の30cmカラム2本を使用し、上記で調整したGPC測定試料500μlを測定機に注入し、160℃にてGPC測定を行った。
なお、標準物質として市販の分子量が既知の単分散ポリスチレンを用いて検量線を作成し、求められた各試料のポリスチレン換算の分子量分布データを得た。ポリエチレンの場合は、ポリスチレン換算の分子量分布データに0.43(ポリエチレンのQファクター/ポリスチレンのQファクター=17.7/41.3)を乗じることにより、ポリエチレン換算の分子量分布データを取得した。ポリプロピレンの場合は、(ポリプロピレンのQファクター/ポリスチレンのQファクター=26.4/41.3)を乗じることにより、ポリプロピレン換算の分子量分布データを取得した。これにより、各試料の重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)を得た。
【0081】
<膜厚(μm)>
微小測厚器(東洋精機製 タイプKBM)を用いて、室温23±2℃、湿度40%の雰囲気下で膜厚を測定した。端子径5mmφの端子を用い、44gfの荷重を印加して測定した。また、測定厚みが14μm以上となるように、試料を複数枚重ねて測定した。
【0082】
<気孔率(%)>
10cm×10cm角の試料を微多孔膜から切り取り、その体積(cm)と質量(g)を求め、それらと密度(g/cm)より、次式を用いて気孔率を計算した。
気孔率(%)=(体積-質量/密度)/体積×100
【0083】
<透気度(sec/100cm)>
JIS P-8117に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度計、G-B2(商標)を用いて温度23℃、湿度40%の雰囲気下でポリオレフィン微多孔膜の透気抵抗度を測定して透気度とした。
【0084】
<突刺強度(gf),目付換算突刺強度(gf/(g/m))>
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES-G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーで微多孔膜を固定した。次に固定された微多孔膜の中央部を、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secで、温度23℃、湿度40%の雰囲気下にて突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として生の突刺強度(gf)を得た。突刺強度(gf)を目付(g/m)で除することにより目付換算突刺強度(gf/(g/m))を算出した。
【0085】
<平滑度(sec/10cm)>
ISO 8791-5:2020に準拠し、旭精工(株)製の透気度平滑度計EYO-5型において内径0.15mm、長さ50mmのステンレス製のノズルを用いて、温度23℃、及び湿度40%の雰囲気でポリオレフィン微多孔膜の平滑度を測定した。ポリオレフィン微多孔膜の一方の表面と他方の表面について、それぞれ表面平滑度の測定を行って、上記で説明されたとおりに表裏平滑度比も算出した。
【0086】
<動摩擦係数>
微多孔膜の一方の表面と他方の表面について、動摩擦係数は、カトーテック株式会社製、KES-SE摩擦試験機を用い、荷重50g、接触子面積10×10=100mm(0.5mmφの硬質ステンレス線SUS304製ピアノ線を互いに隙間なく、かつ、重ならないように20本巻きつけたもの)、接触子送りスピード1mm/sec、張力6kPa、温度23℃、及び湿度50%の条件下にてMD50mm×TD200mmのサンプルサイズについてMD、TDに各3回測定し、その平均値を求めることにより算出した。なお、表4及び表5には、微多孔膜サンプルの両面についてMD、TDに各3回測定し、それらの平均値を示す。
【0087】
<透気度上昇>
高分子PVdF‐HFP(ポリフッ化ビニリデン‐ヘキサフロロプロピレン共重合体、PVdF:HFP=80:20(質量比)、重量平均分子量1.5×106)をアセトンに添加し、50℃で約12時間以上溶解させて高分子溶液を製造した。無機物粒子としてAl粉末を高分子:無機物粒子=17:83の質量比になるように製造しておいた無機物粒子を高分子溶液に添加し、12時間以上ボールミル法を用いて無機物粒子を破砕及び分散することでスラリーを製造した。このように製造したスラリーの無機物粒子の粒径は平均600nmであった。
【0088】
このように製造したスラリーに微多孔質膜を浸漬させてディップコーティングした後、ワイヤサイズがそれぞれ0.5mmのワイヤバーを使用して両面に塗布されたスラリーコーティング層の厚さをそれぞれ調節し、溶媒を乾燥させた。ポリオレフィン微多孔膜基材の両面にそれぞれ形成された塗工層の厚さは5.0μmであった。ポリオレフィン微多孔膜の透気度上昇は、次式:
透気度上昇(sec)=塗工後の透気度-塗工前の透気度
により算出される。また、下記基準に従って、透気度上昇を評価した。
(透気度上昇の評価基準)
A:50s以下の透気度上昇
B:50s超70s以下の透気度上昇
C:70s超100s以下の透気度上昇
D:100s超の透気度上昇
【0089】
<搬送性>
長さ1000mの微多孔膜を用意して巻取機で巻き取り、巻取後の端面のずれを測定し、下記基準に即して評価した。本評価項目については、A(良好)とB(許容)を合格の基準とした。
A(良好):巻き取り時の端面のずれが1mm以下。
B(許容):巻き取り時の端面のずれが1mmより大きく5mm以下。
C(不可):巻き取り時の端面のずれが5mmより大きい。
【0090】
<電池の作製>
以下の手順a~cにより、正極、負極、及び非水電解液を調整した。
【0091】
a.正極の作製
活物質としてリチウムコバルト複合酸化物LiCoOを92.2質量%(wt%)、導電剤としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3wt%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2wt%をN-メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の両面にダイコーターで塗付し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、正極の活物質塗付量は250g/m、活物質嵩密度は3.00g/cmになるようにした。
【0092】
b.負極の作製
活物質として人造グラファイト96.9wt%、バインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4wt%とスチレン-ブタジエン共重合体ラテックス1.7wt%を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の両面にダイコーターで塗付し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、負極の活物質塗付量は106g/m、活物質嵩密度は1.35g/cmになるようにした。
【0093】
c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:プロピレンカーボネート:γ-ブチロラクトン=1:1:2(体積比)の混合溶媒に、電解質としてLiBFを1.0mol/Lの濃度で溶解したものを調製した。
【0094】
d.吸液注液性評価
前項aで作製した正極を縦方向に96mm横方向に40mmで切断し、前項bで作製した負極を縦方向に98mm横方向に42mmで切断し、微多孔膜をMDに100mm、TDに44mmのサイズに切断した。次に、下側から負極、セパレータ、正極の順番に中心部が一致するように重ね合わせて積層体を作製した。この積層体全体に58.8N(6.0kg)の荷重を均一に掛けた状態で、5torrまで減圧した後、前記cで調整した電解液5mlを積層体周辺に注液した。この状態で10分間放置した後、常圧に戻し、余剰電解液を拭き取った後、積層体を解体した。セパレータの面積に対して電解液が浸透していた面積が90%以上の場合をA、80%以上90%未満の場合をB、70%以上80%未満の場合をC、70%未満の場合をDとした。
【0095】
e.サイクル試験
上記a~cで得られた正極、負極、及び非水電解液を使用し、さらに実施例と比較例で得られた微多孔膜をセパレータとして使用して、電流値1A(0.3C)、終止電池電圧4.2Vの条件で3時間定電流定電圧(CCCV)充電したサイズ100mm×60mm、容量3Ahのラミネート型二次電池を作製した。
【0096】
得られた電池を、温度25℃の条件下で、放電電流1Cで放電終止電圧3Vまで放電を行った後、充電電流1Cで充電終止電圧4.2Vまで充電を行った。これを1サイクルとして充放電を繰り返した。そして、初期容量(第1回目のサイクルにおける容量)に対する300サイクル後の容量保持率を用いて、以下の基準でサイクル特性を評価した。
(サイクル特性の評価基準)
A:70%以上の容量維持率
B:65%以上70%未満の容量維持率
C:60%以上65%未満の容量維持率
D:60%未満の容量維持率
【0097】
≪実施例1≫
<ポリオレフィン微多孔膜の製造>
ポリオレフィン微多孔膜を、以下の手順で作製した。樹脂原料の組成は、表1及び表2に示すとおり、1種類目のポリエチレンとしてPE1、及び2種類目のポリエチレンとしてPE2、ポリプロピレンとしてPP1であった。上記樹脂組成物に、酸化防止剤として、0.3質量部のテトラキス-(メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタンを混合した。得られた各混合物を、二軸押出機にフィーダーを介して投入した。更に孔形成材として流動パラフィン(37.78℃における動粘度75.90cSt、表2及び表3では「LP」として示す)を、樹脂原料+流動パラフィンの合計を100質量部として、流動パラフィンが70質量部となるようにサイドフィードで押出機に注入し、表2に示されるキャスト条件下、樹脂原料組成物を混練し、押出機先端に設置したTダイから押出して、その後、直ちに冷却したキャストロールで冷却固化させ、厚さ1.3mmのシートを成形した。このシートを同時二軸延伸機で125℃の条件で7×7倍に延伸した後、塩化メチレンに浸漬して流動パラフィンを抽出除去した。その後、シートを乾燥し、テンター延伸機により131℃の条件でTDに1.70倍延伸した。その後、この延伸シートを131℃の条件でTDに緩和する熱処理を行い、ポリオレフィン微多孔膜を得た。試験結果を表4に示す。
【0098】
≪実施例2~17、及び比較例1~12≫
実施例1の製造方法に準じて表1~5に記載した条件下で実施例2~17、及び比較例1~12のポリオレフィン微多孔膜を作製した。なお、表1において、PE1~PE9とPP1~PP2の表記は便宜的なものであり、本発明における原料の投入順序が、これらの符号の順番に限定される趣旨ではない。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2-1】
【0101】
【表2-2】
【0102】
【表3-1】
【0103】
【表3-2】
【0104】
【表4-1】
【0105】
【表4-2】
【0106】
【表5-1】
【0107】
【表5-2】