(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155276
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】アルミニウム含有金属材料用表面処理剤
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
C23C26/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058694
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大津 陽平
(72)【発明者】
【氏名】伊倉 祐二
(72)【発明者】
【氏名】村川 翔馬
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044AA06
4K044AB02
4K044AB10
4K044BA21
4K044BB01
4K044BC02
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】耐食性及び排水性に優れ、且つ、臭気の抑制された皮膜を形成可能なアルミニウム含有金属材料用表面処理剤を提供する。
【解決手段】エチレン構造単位とヒドロキシエチレン構造単位とを有する樹脂(A)、エポキシ基及びヒドロキシル基の何れか一方又は両方を持つエーテル化合物(B)、並びに金属化合物(C)を配合し、前記樹脂(A)中におけるエチレン構造単位の含有量は1~20モル%である、アルミニウム含有金属材料用表面処理剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン構造単位とヒドロキシエチレン構造単位とを有する樹脂(A)、エポキシ基及びヒドロキシル基の何れか一方又は両方を持つエーテル化合物(B)、並びに金属化合物(C)を配合し、前記樹脂(A)中におけるエチレン構造単位の含有量は1~20モル%である、アルミニウム含有金属材料用表面処理剤。
【請求項2】
前記表面処理剤中に含まれる樹脂(A)、エーテル化合物(B)及び金属化合物(C)の質量をそれぞれMA、MB及びMCで表すと、MA/(MB+MC)=0.1~3.0の関係が成立するように配合された請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
前記表面処理剤中に含まれるエーテル化合物(B)及び金属化合物(C)の質量をそれぞれMB及びMCで表すと、MB/MC=0.1~3.0の関係が成立するように配合された請求項1又は2に記載の表面処理剤。
【請求項4】
金属化合物(C)はケイ素を含有する酸化物である請求項1~3の何れか一項に記載の表面処理剤。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の表面処理剤を、アルミニウム含有金属材料の表面又は表面上に接触させる工程と、前記接触させる工程の後に前記表面処理剤を乾燥させる工程を含む、表面処理金属材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4の何れか一項に記載の表面処理剤を表面又は表面上に接触させて形成される、表面処理皮膜を有するアルミニウム含有金属材料。
【請求項7】
請求項6に記載のアルミニウム含有金属材料を備える熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム含有金属材料用表面処理剤、当該表面処理剤を用いた表面処理金属材料の製造方法、表面処理皮膜を有するアルミニウム含有金属材料、及び、熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物や自動車等のエアコンディショナーに用いられる熱交換器は、加工性・熱伝導性等の優位性からアルミニウム含有金属材料で形成されることが多く、熱交換効率を高めるため通風する部位のアルミニウム含有金属材料(一般にフィンと呼ばれる)間の間隔を非常に狭く設計している。エアコンディショナーを稼動(冷却)した際に大気中の水分がフィン上で凝縮し結露が起こるが、この結露水はフィン表面の疎水性が高いほど嵩高い水滴になり、フィン間で目詰まりを発生し易くなる。目詰まりが発生すると、通風抵抗が増大し熱交換効率が低下し、熱交換器本来の性能が得られなくなる。また、目詰まりによって送風時の騒音が増大することもある。これらの問題を解消するために、アルミニウム含有金属材料に親水性を付与する方法が提案、実施されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2016-222920号公報)においては、EVOH(A)と、ラジカル重合性カルボン酸モノマー(B1-1)由来の構造単位を有するラジカル重合体(B)と、を含み、前記ラジカル重合体(B)の含有量は、前記EVOH(A)と前記ラジカル重合体(B)の合計量に対して10~80質量%である分散安定性に優れた水性樹脂分散体が記載されている。特許文献1には、この水性樹脂分散体を含有する親水化処理剤が、金属、特にアルミニウムやその合金に対して好ましく用いられ、親水性、特に汚染物質が付着した後の親水持続性に優れ、かつ、密着性、排水性及び汚染除去性にも優れた親水性皮膜を形成することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の水性樹脂分散体は分散安定性に優れていると記載されているものの、本発明者の検討結果によると、この水性樹脂分散体を含有する親水化処理剤を用いて形成した親水化皮膜は、エアコンディショナーの実際の稼働条件を見据えたより厳しい試験において、耐食性、排水性、及び臭気抑制の観点で十分な性能を得ることができなかった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みて創作されたものであり、一実施形態において、耐食性及び排水性に優れ、且つ、臭気の抑制された皮膜を形成可能なアルミニウム含有金属材料用表面処理剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の樹脂(A)、エーテル化合物(B)、及び金属化合物(C)を配合することが、耐食性及び排水性に優れ、且つ、臭気の抑制された皮膜を形成可能なアルミニウム含有金属材料用表面処理剤を得るのに有利であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は例示的に以下のように特定される。
[1]
エチレン構造単位とヒドロキシエチレン構造単位とを有する樹脂(A)、エポキシ基及びヒドロキシル基の何れか一方又は両方を持つエーテル化合物(B)、並びに金属化合物(C)を配合し、前記樹脂(A)中におけるエチレン構造単位の含有量は1~20モル%である、アルミニウム含有金属材料用表面処理剤。
[2]
前記表面処理剤中に含まれる樹脂(A)、エーテル化合物(B)及び金属化合物(C)の質量をそれぞれMA、MB及びMCで表すと、MA/(MB+MC)=0.1~3.0の関係が成立するように配合された[1]に記載の表面処理剤。
[3]
前記表面処理剤中に含まれるエーテル化合物(B)及び金属化合物(C)の質量をそれぞれMB及びMCで表すと、MB/MC=0.1~3.0の関係が成立するように配合された[1]又は[2]に記載の表面処理剤。
[4]
金属化合物(C)はケイ素を含有する酸化物である[1]~[3]の何れか一項に記載の表面処理剤。
[5]
[1]~[4]の何れか一項に記載の表面処理剤を、アルミニウム含有金属材料の表面又は表面上に接触させる工程と、前記接触させる工程の後に前記表面処理剤を乾燥させる工程を含む、表面処理金属材料の製造方法。
[6]
[1]~[4]の何れか一項に記載の表面処理剤を表面又は表面上に接触させて形成される、表面処理皮膜を有するアルミニウム含有金属材料。
[7]
[6]に記載のアルミニウム含有金属材料を備える熱交換器。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、耐食性及び排水性に優れ、且つ、臭気の抑制された皮膜を形成可能なアルミニウム含有金属材料用表面処理剤を提供することができる。従って、本発明は、例えばアルミニウム含有金属材料を備える熱交換器、とりわけアルミニウム含有金属材料をフィンとして備えるエアコンディショナーの性能向上に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、表面処理剤及び表面処理金属材料を含む本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、その本発明の趣旨から逸脱しない範囲で任意に変更可能であり、下記の実施形態に限定されない。尚、本明細書にて数値範囲を示す「~」は上限値及び下限値も包含する。例えば、「X~Y」はX以上Y以下であることを意味する。
【0011】
<1.表面処理剤>
本発明の一実施形態によれば、エチレン構造単位とヒドロキシエチレン構造単位とを有する樹脂(A)、エポキシ基及びヒドロキシル基の何れか一方又は両方を持つエーテル化合物(B)、並びに金属化合物(C)を配合し、前記樹脂(A)中におけるエチレン構造単位の含有量は1~20モル%である、アルミニウム含有金属材料用表面処理剤が提供される。
【0012】
[1-1.樹脂(A)]
樹脂(A)は、エチレン構造単位とヒドロキシエチレン構造単位を有する。樹脂(A)はエチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」という。)の一種であるが、エチレン構造単位の含有量が1~20モル%であることで水溶性を確保することができる。水溶性であることによって、作業性の向上という利点が得られる。樹脂(A)は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。樹脂(A)中のエチレン構造単位の含有量の下限は好ましくは3モル%以上であり、より好ましくは5モル%以上ある。樹脂(A)中のエチレン構造単位の含有量の上限は好ましくは17モル%以下であり、より好ましくは14モル%以下である。従って、樹脂(A)中のエチレン構造単位の含有量は、例えば3~17モル%であることが好ましく、5~14モル%であることがより好ましい。
【0013】
樹脂(A)中のエチレン構造単位の含有量(「エチレン変性率」ともいう。)は、プロトンNMRにより測定可能である。具体的な測定手順は以下の通りである。樹脂(A)を脱イオン水に添加し、85~95℃に加温し溶解させる。それをジメチルスルホキシド(DMSO)-d6にて樹脂(A)の濃度が1.0質量%になるように希釈し、NMRサンプルとする。核磁気共鳴分析装置(例:JNM-EX400:日本電子株式会社)を用いて、プロトンNMR測定を行う。測定は以下の条件で行う。
測定核種:1H
観測温度:25.1℃
得られたスペクトル中の各ピークは、以下のように帰属する。
・1.0~2.0ppm:エチレン構造単位のメチレンプロトン及びヒドロキシエチレン構造単位のメチレンプロトン
・3.7~4.1ppm:少なくとも一つのエチレン構造単位に隣接したヒドロキシエチレン構造単位のメチンプロトン
・4.1~4.5ppm:エチレン構造単位に隣接しないヒドロキシエチレン構造単位のメチンプロトン
上記帰属に従い、1.0~2.0ppmの積分値をx、3.7~4.1ppmの積分値をy、4.1~4.5ppmの積分値をzとすると、エチレン変性率は以下の式で算出できる。
エチレン変性率={(x-2y-2z)/4}/{y+z+(x-2y-2z)/4}
【0014】
樹脂(A)の重量平均分子量の上限は、100000以下であることが好ましく、80000以下であることがより好ましく、50000以下であることが更により好ましい。また、樹脂(A)の重量平均分子量の下限は、1000以上であることが好ましく、5000以上であることがより好ましく、10000以上であることが更により好ましい。従って、樹脂(A)の重量平均分子量は、例えば1000~100000であることが好ましく、5000~80000であることがより好ましく、10000~50000であることが更により好ましい。樹脂(A)の重量平均分子量は、GPC法により測定可能である。
【0015】
樹脂(A)のけん化度の下限は、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましい。樹脂(A)のけん化度に特に上限は設定されず、100モル%でもよい。樹脂(A)のけん化度は、JIS K6726-1994に準拠して測定される。
【0016】
樹脂(A)は公知のEVOHの製法に従って製造することができ、特に制限はない。例えば、エチレン及びビニルエステルを所定のモル比でラジカル重合させてエチレン-ビニルエステル共重合体を得た後に、それをケン化する方法が挙げられる。ビニルエステルとしては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、及びカプロン酸ビニル等が例示される。これらの中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0017】
[1-2.エーテル化合物(B)]
エーテル化合物(B)は、エポキシ基及びヒドロキシル基の何れか一方又は両方を持つ。エーテル化合物(B)はバインダーとしての役目を担っており、樹脂(A)の流去を抑制することで皮膜の耐久性を向上することができる。エーテル化合物(B)としては、限定的ではないが、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールアルキルエーテル、ピラノース構造又はフラノース構造を持つ炭水化物、グリシドキシ基含有シラン化合物、及び、グリシジルエーテル化合物等が挙げられる。エーテル化合物(B)は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール等が挙げられる。ポリアルキレングリコールアルキルエーテルとしては、ポリエチレングリコール(モノ)メチルエーテル、ポリ(エチレン、プロピレン)グリコール(モノ)メチルエーテル、ポリエチレングリコール(モノ)エチルエーテル等が挙げられる。
【0019】
ピラノース構造又はフラノース構造を持つ炭水化物としては、デンプン、グリコーゲン、セルロース、キチン、デキストラン等の多糖及びそれらの誘導体が挙げられる。多糖誘導体としてセルロース誘導体を挙げると、メチルセルロース(MC)等のアルキルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等のヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、ヒドロキシエチルエチルセルロース(HEEC)等のヒドロキシアルキルアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)が例示される。
【0020】
グリシドキシ基含有シラン化合物としては、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジエチルエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0021】
グリシジルエーテル化合物としては、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、エチレンオキサイド含有フェノール系グリシジルエーテル、エチレンオキサイド含有ラウリルアルコール系グリシジルエーテル、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、及びビスフェノールAD型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0022】
[1-3.金属化合物(C)]
金属化合物(C)は、様々な環境において腐食の進行を抑制するインヒビターとしての役目を担っており、皮膜中に混在させることにより、優れた耐食性を長期的に確保することを可能とする。このような金属化合物(C)としては、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Zn、Zr、Mo、Ce及びWから選ばれる少なくとも一種の金属を含む化合物が挙げられる。これらの中でもSi、Ti、V及びZrから選ばれる少なくとも一種の金属を含む化合物が好ましく、ケイ素化合物がより好ましい。金属化合物(C)は、酸化物、水酸化物、フッ化物、塩化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、りん酸塩、有機酸塩等の形態を取ることができ、その種類に特に限定はない。なお、本明細書においてはSiも金属として取り扱う。金属化合物(C)は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
ケイ素化合物としては、例えば、二酸化ケイ素及びその水和物、ケイ酸塩、並びにオルガノアルコキシシラン等のケイ素を含有する酸化物が挙げられる。二酸化ケイ素は、ケイ素塩化物を気化し高温の水素炎中において気相反応によってシリカ微粒子を合成するフュームドシリカ(「気相シリカ」ともいう。)の形態で好適に使用することができる。また、二酸化ケイ素は、ケイ酸塩に希塩酸を作用させてから透析して得られるコロダイルシリカの形態で好適に使用することができる。
ケイ酸塩としては、例えばM2O・nSiO2(nは1~8であり、MはNa、K、Li又はNH4を表す。)で表されるものが挙げられる。
オルガノアルコキシシランはアルコキシシラン基を有している。このアルコキシシラン基は、水と接触すると加水分解してシラノール基(Si-OH)を形成し、その後に架橋してシロキサン化合物を形成する。
【0024】
チタン化合物としては、酸化チタン、チタンフッ化水素酸及びその塩(カリウム、アンモニウム塩等)、硫酸チタン及びその塩(カリウム、アンモニウム塩等)、硫酸チタニール、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート等が挙げられる。
【0025】
バナジウム化合物としては、五酸化バナジウム、メタバナジン酸塩(ナトリウム、カリウム、アンモニウム塩等)、五フッ化バナジウム、硫酸バナジール、バナジウムアセチルアセトネート、バナジールアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0026】
クロム化合物としては、酸化クロム、重クロム酸及びその塩(ナトリウム、カリウム、アンモニウム塩等)、フッ化クロム、炭酸クロム、硝酸クロム、硫酸クロム、りん酸クロム、重りん酸クロム、クロムアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0027】
マンガン化合物としては、酸化マンガン、マンガン酸塩(ナトリウム、カリウム塩等)、過マンガン酸及びその塩(ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウム、リチウム塩等)、炭酸マンガン、硝酸マンガン、りん酸マンガン、りん酸水素マンガン、マンガンアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0028】
コバルト化合物としては、酸化コバルト、水酸化コバルト、炭酸コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト及びその塩(カリウム、アンモニウム塩等)、りん酸コバルト、ピロりん酸コバルト、コバルトアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0029】
亜鉛化合物としては、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛及びその塩(カリウム、アンモニウム塩等)、りん酸亜鉛、りん酸水素亜鉛、亜鉛アセチルアセトネート等が挙げられる。
【0030】
ジルコニウム化合物としては、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、ジルコニウムフッ化水素酸及びその塩(カリウム、アンモニウム塩等)、オキシ塩化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、りん酸ジルコニウム、りん酸ナトリウムジルコニウム、プロピオン酸ジルコニウム、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムビスアセチルアセトネート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、ステアリン酸ジルコニール、オクチル酸ジルコニール等が挙げられる。
【0031】
モリブデン化合物としては、酸化モリブデン、モリブデン酸及びその塩(ナトリウム、カリウム、マグネシウム、アンモニウム塩等)、モリブデニルアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0032】
セリウム化合物としては、酸化セリウム、水酸化セリウム、塩化セリウム、炭酸セリウム、硫酸第二セリウム及びそのアンモニウム塩、硝酸セリウム、硝酸第二セリウムアンモニウム、酢酸セリウム、りん酸セリウム、オクチル酸セリウム、セリウムアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0033】
タングステン化合物としては、酸化タングステン、タングステン酸及びその塩(ナトリウム、カリウム、マグネシウム、アンモニウム塩等)等が挙げられる。
【0034】
また、上記金属の複合化合物、例えば、重クロム酸亜鉛、過マンガン酸亜鉛、タングステン酸コバルト、タングステン酸セリウム等や酸化物の混合体である顔料等も使用可能である。
【0035】
[1-4.樹脂(A)、エーテル化合物(B)及び金属化合物(C)の配合割合]
表面処理剤中に含まれる樹脂(A)、エーテル化合物(B)及び金属化合物(C)の質量をそれぞれMA、MB及びMCで表すと、樹脂(A)、エーテル化合物(B)及び金属化合物(C)は、MA/(MB+MC)が0.1以上となるように配合することが好ましく、0.2以上となるように配合することがより好ましく、0.3以上となるように配合することが更により好ましい。また、樹脂(A)、エーテル化合物(B)及び金属化合物(C)は、MA/(MB+MC)が3.0以下となるように配合することが好ましく、2.0以下となるように配合することがより好ましく、1.0以下となるように配合することが更により好ましい。従って、樹脂(A)、エーテル化合物(B)及び金属化合物(C)は、例えばMA/(MB+MC)=0.1~3.0の関係が成立するように配合することが好ましく、MA/(MB+MC)=0.2~2.0の関係が成立するように配合することがより好ましく、MA/(MB+MC)=0.3~1.0の関係が成立するように配合することが更により好ましい。
【0036】
表面処理剤中に含まれるエーテル化合物(B)及び金属化合物(C)の質量をそれぞれMB及びMCで表すと、エーテル化合物(B)及び金属化合物(C)は、MB/MCが0.1以上となるように配合することが好ましく、0.2以上となるように配合することがより好ましく、0.3以上となるように配合することが更により好ましい。また、エーテル化合物(B)及び金属化合物(C)は、MB/MCが3.0以下となるように配合することが好ましく、2.0以下となるように配合することがより好ましく、1.0以下となるように配合することが更により好ましい。従って、エーテル化合物(B)及び金属化合物(C)は、例えばMB/MC=0.1~3.0の関係が成立するように配合することが好ましく、MB/MC=0.2~2.0の関係が成立するように配合することがより好ましく、MB/MC=0.3~1.0の関係が成立するように配合することが更により好ましい。
【0037】
[1-5.その他の成分]
表面処理剤は、抗菌剤、潤滑剤、界面活性剤、顔料、染料、耐食性付与のためのインヒビター等の各種添加剤を必要に応じて含有することができる。また、表面処理剤は、樹脂(A)を溶解するために水、又は、水と水混和性溶媒の混合溶媒を含有することが好ましい。表面処理剤の取り扱いが容易であるという観点から、水としては脱イオン水を用いることが好ましい。水の含有量は、表面処理剤全量に対して、80~99質量%が好ましく、85~95質量%がより好ましい。水と水混和性溶媒の混合溶媒を使用する場合、水の割合は、例えば、混合溶媒の全質量に対して60質量%以上とすることが好ましい。水混和性溶媒としては、水と混合した後、相分離しないものであれば特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類が挙げられる。
【0038】
[1-6.製法]
表面処理剤は、例えば、上記の各成分を所望の割合で混合し、混合物に対して所要量の水を添加し、攪拌することで調製可能である。
【0039】
<2.表面処理金属材料>
本発明の一実施形態によれば、上記表面処理剤を、アルミニウム含有金属材料の表面又は表面上に接触させる工程と、前記接触させる工程の後に前記表面処理剤を乾燥させる工程を含む、表面処理金属材料の製造方法が提供される。また、当該製法によって、表面処理皮膜を有するアルミニウム含有金属材料が得られる。この表面処理皮膜における、樹脂(A)、エーテル化合物(B)及び金属化合物(C)の割合は、表面処理剤における樹脂(A)、エーテル化合物(B)及び金属化合物(C)の割合と実質的に同じである。このようにして製造した、表面処理皮膜を表面に有するアルミニウム含有金属材料は、フィン材を形成するのに有用である。また、このフィン材は、熱交換器の部品として有用である。
【0040】
[2-1.アルミニウム含有金属材料]
アルミニウム含有金属材料を構成する材料は、純アルミニウムであってもよいが、アルミニウム合金であってもよい。
【0041】
[2-2.洗浄工程]
未処理のアルミニウム含有金属材料は予め酸性又はアルカリ性洗浄剤で洗浄することが好ましい。使用する酸性洗浄剤の例としては、硝酸、硫酸、及びフッ酸の少なくとも一種を含有する酸性水溶液が挙げられる。アルカリ性洗浄剤の例としては、水酸化ナトリウム、珪酸ナトリウム、及びリン酸ナトリウムの少なくとも一種を含有するアルカリ水溶液を挙げることができる。洗浄性を高めるため、アルカリ水溶液に界面活性剤を添加してもよい。アルミニウム含有金属材料の洗浄方法としては、例えば、浸漬法及びスプレー法が挙げられる。
【0042】
[2-3.防錆処理]
洗浄工程の後に防錆処理を行ってもよい。防錆処理方法には、化成処理及び樹脂プライマーによる下地防錆処理がある。このうち化成処理に使用する化成処理剤としては、従来公知のクロム酸クロメート処理剤、リン酸クロメート処理剤又はノンクロム処理剤が挙げられる。樹脂プライマーとしては、従来公知の水溶性または水分散性の水性樹脂を挙げることができる。アルミニウム含有金属材料の防錆処理方法としては、例えば、浸漬法及びスプレー法が挙げられる。
【0043】
[2-4.接触工程]
表面処理剤をアルミニウム含有金属材料の表面又は表面上に接触させる方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、浸漬法、スプレー法、ロールコート法、刷毛塗り等が挙げられる。このときの表面処理剤温度は10~50℃程度とすることができる。接触時間は3秒~5分程度とすることができる。
【0044】
[2-5.乾燥工程]
表面処理剤を乾燥させる方法としては、表面処理剤中の水が蒸発すれば特に制限されない。例示的には、公知の乾燥機器、例えば、オーブン、バッチ式の乾燥炉、連続式の熱風循環式乾燥炉、コンベアー式の熱風乾燥炉、IHヒーターを用いた電磁誘導加熱炉等を用いた乾燥方法等が挙げられる。乾燥温度は100~250℃とすることができ、好ましくは120~180℃とすることができる。乾燥時間は10秒~120分間とすることができ、好ましくは1~60分間とすることができる。
【0045】
[2-6.表面処理皮膜の質量]
表面処理皮膜を有するアルミニウム含有金属材料における表面処理皮膜の質量は、本発明の効果を発揮できる量であれば特に制限されるものではないが、1m2当たり0.01~5.0gの範囲内であることが好ましく、0.05~3.5gの範囲内であることがより好ましく、0.1~2.0gの範囲内であることが特に好ましい。
【0046】
(後処理工程)
表面処理皮膜を形成後に後処理工程を実施してもよい。後処理工程としては、潤滑油接触工程又は潤滑皮膜形成工程が挙げられる。より具体的には、アルミニウム含有金属材料の表面に有する表面処理皮膜の上に、潤滑油を接触させたり、潤滑剤を接触させて潤滑皮膜を形成させたりする工程が挙げられる。このようにして、上記表面処理皮膜の上に、潤滑油を接触させた、又は潤滑皮膜を形成させた、複層皮膜を有するアルミニウム含有金属材料を得ることができる。なお、潤滑油や潤滑剤の接触方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、ロールコート法、スプレー法、及び浸漬法等が挙げられる。
【0047】
潤滑油としては、成形加工時に使用される公知のものを用いることができる。また、潤滑皮膜を形成するための潤滑剤としては、例えば、水溶性ポリエーテル、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン・アルキル・エーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エーテルなどの公知の潤滑剤を用いることができる。
【実施例0048】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0049】
<樹脂(A)の製造>
[合成例1]
還流冷却器、原料投入口、温度計、窒素導入口及び撹拌翼を備えた2Lオートクレーブ反応器に、窒素ガスを導入しながら酢酸ビニル25g及びメタノール120gを投入し、開始剤として2,2′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)の2%メタノール溶液25mlを少量ずつ添加した。オートクレーブ内のエチレン圧力を0.7MPaになるように調整し、60℃で重合反応を開始した。反応5時間経過後に未反応の酢酸ビニルを減圧除去しエチレン酢酸ビニル樹脂メタノール溶液を調整した。得られたエチレン酢酸ビニル樹脂メタノール溶液に10%水酸化ナトリウム水溶液を原料として用いた酢酸ビニル(25g)に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.01になるように加え、50℃で1時間けん化した。次いで、メタノールを減圧留去し、遠心分離にて水を除き、乾燥した後にけん化度98%のエチレン-ビニルアルコール共重合体(樹脂(A))の粉末を得た。得られた粉末を5g取り、85~95℃の温水95gに入れて、2~3時間加熱攪拌すると、全て溶解した。得られた粉末のエチレン変性率をプロトンNMRにより測定したところ、10モル%であった。重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定したところ、9000であった。それぞれの分析は以下の条件で行った。
1)プロトンNMR
得られた試料を脱イオン水に添加し、85~95℃に加温し溶解させた。それをジメチルスルホキシド(DMSO)-d6にて樹脂(A)の濃度が1.0質量%になるように希釈し、NMRサンプルとした。核磁気共鳴分析装置(JNM-EX400:日本電子株式会社)を用いて、プロトンNMR測定を行った。測定条件及びエチレン変性率の算出方法は先述した通りである。
2)GPC
高速GPC装置(HLC-8320GPC:東ソー株式会社製)を用いて測定し、SECカラム及びガードカラムの組み合わせにて重量平均分子量を求めた。測定は以下の条件で行った。
SECカラム:TSKgel SuperAWM-H(東ソー株式会社製)
ガードカラム:TSKgurdcolumn SuperAW-H(東ソー株式会社製)
検出器:RI(HLC-8320GPC内蔵検出器)
標準試料:ポリスチレン
試料注入量:0.06%DMF溶液30μL
流速:0.5mL/min
溶離液:DMF/100mM LiBr/60mM H3PO4
【0050】
[合成例2~8]
表1に示す条件以外は合成例1と全く同様にして樹脂(A)を合成した。得られた樹脂(A)のエチレン変性率、分子量、けん化度を表2に示す。なお、合成例の番号に対応させて、得られた樹脂(A)をA1、A2、A3などと呼ぶ。得られた樹脂A1~A6をそれぞれ5g取り、85~95℃の温水95gに入れて、2~3時間加熱攪拌すると、全て溶解した。樹脂A7及びA8は、前述の方法では溶解しなかった。
【0051】
[合成例9]
表1に示す条件以外は合成例1と全く同様にして樹脂(A)を合成した。重合時の加圧はエチレンの代わりに窒素(0.1MPa)で実施した。得られた樹脂(A)のエチレン変性率、分子量、けん化度を表2に示す。得られた樹脂A9をそれぞれ5g取り、85~95℃の温水95gに入れて、2~3時間加熱攪拌すると、全て溶解した。
【0052】
【0053】
<表面処理剤の調製>
表2~表4に実施例、比較例の表面処理剤に用いた原料を示す。ここで、表2は、実施例及び比較例に用いた樹脂(A)の一覧である。また、表3は、実施例及び比較例に用いたエーテル化合物(B)の一覧である。また、表4は、実施例及び比較例に用いた金属化合物(C)の一覧である。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
実施例、比較例の表面処理剤は、樹脂(A)とエーテル化合物(B)と無機化合物(C)とを表5に示す質量配合比となるように混合し、次いで、得られた混合物の固形分量40gに対し、全量が1000gとなるように脱イオン水を配合し、攪拌することにより調製した。
【0058】
【0059】
<試験熱交換器の作製>
試験熱交換器として、家電エアコン用のアルミニウム製の熱交換器(NB熱交換器)を用いた。その後、試験熱交換器に対して下記の処理条件により試験熱交換器の表面処理を行った。
【0060】
<表面処理皮膜の形成>
試験熱交換器を、アルカリ系脱脂剤「ファインクリーナー4424」(日本パーカライジング株式会社製)を濃度20g/L、浴温度50℃に調整した処理浴に2分間浸漬処理し、表面に付着しているゴミや油を除去した後、表面に残存しているアルカリ分を市水により洗浄した。次いで、試験熱交換器を各実施例、比較例に係る表面処理剤に浸漬塗布した。この試験熱交換器を乾燥炉にて150℃の温度環境下に20分間設置して、試験熱交換器の表面に表面処理皮膜を形成し、評価サンプルを作製した。表面処理皮膜の質量は、0.8g/m2となるように調整した。
【0061】
<臭気性評価方法>
上記で作製した評価サンプルを室温まで冷却した後、直ぐにエアコンにセットし、エアコンの冷却ON-OFFを繰り返し4回実施した。各回に一名のパネラーがエアコンの吹き出し口から10~20cmの距離で臭気を評価した。このときの冷却ON送風時の臭気及び冷却OFF送風時の評価を初期臭気とした。この後、評価サンプルを脱イオン水に72時間浸漬させ、50℃に調整した送風乾燥器内で2時間乾燥させ室温まで冷却した後の評価サンプルをエアコンにセットし、エアコンの冷却ON-OFFを繰り返し4回実施した。各回に一名のパネラーがエアコンの吹き出し口から10~20cmの距離で臭気を評価した。このときの冷却ON送風時の臭気及び冷却OFF送風時の評価を耐久後臭気とした。それぞれのタイミングにおける臭気は以下の評価基準で評価した。評価基準は臭気成分の基準臭として使用されているイソ吉草酸を規定の濃度とした場合の臭気強度を用いた。パネラー4名の評価結果を平均し、評価基準値で3点以下であれば臭気性が良好とした。結果を表6に示す。
(評価基準)
5点:強い臭い(イソ吉草酸濃度:30μg/L)
4点:楽に感知できる臭い(イソ吉草酸濃度:4μg/L)
3点:何の臭いであるか判る弱い臭い(認知閾値:イソ吉草酸濃度:0.4μg/L)
2点:やっと感知できる臭い(検知閾値:イソ吉草酸濃度:0.05μg/L)
1点:無臭
【0062】
<排水性評価方法>
上記で作製した評価サンプルをエアコンにセットし、エアコンを稼働させ、30分冷却運転した際の評価サンプルに保持した水量(保水量)を確認した。保水量は{(冷却後の評価サンプル重量-乾燥後の評価サンプル重量)/評価サンプルの伝熱面積}で算出した。保水量が少ないほど、排水性に優れ、熱交換効率に優れると評価した。保水量の評価基準を以下に示し、評価基準値で3点以下であれば排水性が良好とした。評価サンプルは、脱イオン水に72時間浸漬させ、50℃に調整した送風乾燥器内で2時間乾燥させ室温まで冷却してから用いた。結果を表6に示す。
(評価基準)
5点:70g/m2以上
4点:60g/m2以上、70g/m2未満
3点:50g/m2以上、60g/m2未満
2点:40g/m2以上、50g/m2未満
1点:40g/m2未満
【0063】
<耐食性評価方法>
上記で作製した評価サンプルを塩水噴霧試験法(JIS Z-2371)に則り、720時間暴露させ、フィン部の錆面積(全体の面積に対する白錆面積の割合)を目視観察により評価した。評価基準を以下に示す。評価基準値で3点以下であれば耐食性が良好とした。結果を表6に示す。
(評価基準)
5点:白錆面積70%以上
4点:白錆面積50%以上、70%未満
3点:白錆面積30%以上、50%未満
2点:白錆面積10%以上、30%未満
1点:白錆面積10%未満
【0064】