(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155344
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】距離計測方法および距離計測装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/483 20060101AFI20221005BHJP
G01S 17/10 20200101ALI20221005BHJP
G01S 17/89 20200101ALI20221005BHJP
G01C 3/06 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
G01S7/483
G01S17/10
G01S17/89
G01C3/06 120Q
G01C3/06 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058785
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】501009849
【氏名又は名称】株式会社日立エルジーデータストレージ
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 克美
(72)【発明者】
【氏名】泉 克彦
(72)【発明者】
【氏名】杉山 久貴
【テーマコード(参考)】
2F112
5J084
【Fターム(参考)】
2F112AD01
2F112BA06
2F112CA12
2F112DA25
2F112DA28
2F112EA03
2F112EA11
2F112FA03
2F112FA07
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2F112FA23
2F112FA41
2F112FA45
2F112GA01
5J084AA05
5J084AD01
5J084BA04
5J084BA36
5J084BA40
5J084CA03
5J084CA10
5J084CA20
5J084CA31
5J084CA32
5J084CA67
5J084CA74
5J084EA04
5J084EA11
(57)【要約】
【課題】
計測距離の変曲点を軽微にすることで、直線性の改善、距離精度の誤差の抑制を目的とする。
【解決手段】
本願発明の好ましい一側面は、発光タイミングに従って光パルスを照射する発光部と、露光タイミングに従って露光信号を取得する受光部と、前記露光信号に基づいて被測定物までの距離を計算する距離計算部と、距離演算データ合成部と、を備え、前記距離計算部は、第1のパルス幅を持つ第1の光パルスを照射して、得られる前記露光信号に対して複数種の計算を適用して距離を計算する第1の計算と、前記第1のパルス幅より大きな第2のパルス幅を持つ第2の光パルスを照射して、得られる前記露光信号を用いて距離を計算する第2の計算と、を実行し、前記距離演算データ合成部は、前記第1の計算の結果および前記第2の計算の結果を用いて被測定物までの距離を算出する、距離計測装置である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光タイミングに従って光パルスを照射する発光部と、
露光タイミングに従って露光信号を取得する受光部と、
前記露光信号に基づいて被測定物までの距離を計算する距離計算部と、
距離演算データ合成部と、を備え、
前記距離計算部は、
第1のパルス幅を持つ第1の光パルスを照射して、得られる前記露光信号に対して複数種の計算を適用して距離を計算する第1の計算と、
前記第1のパルス幅より大きな第2のパルス幅を持つ第2の光パルスを照射して、得られる前記露光信号を用いて距離を計算する第2の計算と、を実行し、
前記距離演算データ合成部は、前記第1の計算の結果および前記第2の計算の結果を用いて被測定物までの距離を算出する、
距離計測装置。
【請求項2】
前記第1の計算は、前記被測定物までの距離に応じて前記複数種の計算を切り替えて計算するものであり、
前記前記距離演算データ合成部は、前記第1の計算の結果の前記複数種の計算の切り替えによる変曲点を、前記第2の計算の結果を用いて補正する、
請求項1記載の距離計測装置。
【請求項3】
前記距離演算データ合成部は、前記第1の計算の結果および前記第2の計算の結果の平均値を用いて被測定物までの距離を算出する、
請求項2記載の距離計測装置。
【請求項4】
前記第1の計算は、前記第1の光パルスと同じ第1のパルス幅を持ち、前記第1の光パルスに対して異なる遅延時間を持つ3つの露光パルスにより得られる前記露光信号に対して、複数種の計算を適用して距離を計算する、
請求項2記載の距離計測装置。
【請求項5】
前記第1の計算は、前記第1のパルス幅をT、光速をC、計算される距離をLとし、前記3つの露光パルスの遅延時間をそれぞれ0、T、2Tとし、前記3つの露光パルスにより得られる前記露光信号をそれぞれA0、A1、A2としたとき、
A0>A2のとき、
L={(C×T)/2}×{(A1-A2)/(A0+A1-2×A2)}
A0≦A2のとき、
L={(C×T)/2}×{(A2-A0)/(A1+A2-2×A0)}+{(C×T)/2}
である、
請求項4記載の距離計測装置。
【請求項6】
前記第2のパルス幅は2Tである、
請求項5記載の距離計測装置。
【請求項7】
前記第2の計算は、前記第2の光パルスと同じ第2のパルス幅を持ち、前記第2の光パルスに対して異なる遅延時間を持つ3つの第2の露光パルスにより得られる前記露光信号に対して、複数種の計算を適用して距離を計算するものであって、
計算される距離をL2とし、前記3つの第2の露光パルスの遅延時間をそれぞれ0、2T、4Tとし、前記3つの第2の露光パルスにより得られる前記露光信号をそれぞれA20、A21、A22としたとき、前記第2の計算は、
A20>A22のとき、
L2={(C×2T)/2}×{(A21-A22)/(A20+A21-2×A22)}
A20≦A22のとき、
L2={(C×2T)/2}×{(A22-A20)/(A21+A22-2×A20)}+{(C×2T)/2}
である、
請求項6記載の距離計測装置。
【請求項8】
前記第2の光パルスと前記3つの第2の露光パルスを複数組用い、これらにより得られる露光信号を用いた前記第2の計算を複数回繰り返し、複数の前記第2の計算の結果を前記距離演算データ合成部で用いる、
請求項7記載の距離計測装置。
【請求項9】
前記第1のパルス幅より小さな第3のパルス幅を持つ第3の光パルスを照射して、得られる前記露光信号を用いて距離を計算する第3の計算を実行し、
前記距離演算データ合成部は、前記第1の計算の結果、前記第2の計算の結果、および前記第3の計算の結果を用いて被測定物までの距離を算出する、
請求項1記載の距離計測装置。
【請求項10】
前記第3のパルス幅はT/2である、
請求項9記載の距離計測装置。
【請求項11】
第1のパルス幅を持つ第1の光パルスを被測定物に照射する第1のステップ、
前記第1のパルス幅を持ちタイミングの異なる第1の露光パルスを複数用いて、前記第1の光パルスに起因する第1の露光信号を複数得る第2のステップ、
複数の前記第1の露光信号の大小関係に基づいて、前記第1の露光信号を用いた計算方式を切り替えて、前記被測定物までの距離を計算する第3のステップ、
前記第1のパルス幅より大きい第2のパルス幅を持つ第2の光パルスを被測定物に照射する第4のステップ、
前記第2の光パルスに起因する第2の露光信号を得る第5のステップ、
前記第2の露光信号に基づいて、前記被測定物までの距離を計算する第6のステップ、
前記第3のステップの計算結果と前記第6のステップの計算結果に基づいて、最終的な前記被測定物までの距離を算出する第7のステップ、
を実行する距離計測方法。
【請求項12】
前記第2のパルス幅は、前記第1のパルス幅の2倍である、
請求項11記載の距離計測方法。
【請求項13】
前記第4のステップから前記第6のステップを複数回繰り返し、前記第6のステップの計算結果を複数得る、
請求項11記載の距離計測方法。
【請求項14】
前記第1のパルス幅より小さい第3のパルス幅を持つ第3の光パルスを被測定物に照射する第8のステップ、
前記第3の光パルスに起因する第3の露光信号を得る第9のステップ、
前記第3の露光信号に基づいて、前記被測定物までの距離を計算する第10のステップ、を実行し、
前記第7のステップは、前記第3のステップの計算結果と前記第6のステップの計算結果と、前記第10のステップの計算結果に基づいて、最終的な前記被測定物までの距離を算出する、
請求項11記載の距離計測方法。
【請求項15】
前記第7のステップは、前記第3のステップにおける前記第1の露光信号を用いた計算方式の切り替えによる計算結果の非直線性を、前記第6のステップの計算結果を用いて緩和する、
請求項11記載の距離計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、距離を計測する技術に係る。
【背景技術】
【0002】
距離を正確に測定する技術として、照射した光が対象物に当たり、反射光が戻ってくるまでの時間を求め「距離=光速×時間」の原理で、距離を求めるものがある。このような技術で、TOF(Time Of Flight)方式と呼ばれるものが実用化されている。
【0003】
特許文献1には、TOF方式に係り、「撮像装置は、発光信号と露光信号とを発生する制御部と、発光信号を受信することにより光照射を行う光源部と、露光信号に従ったタイミングで反射光の露光量を取得する撮像部と、撮像部から受けた撮像信号における信号量に基づいて演算により距離画像と輝度画像とを出力する信号処理部とを備え、撮像部は、距離画像の信号を得るための露光を行う画素と、輝度画像の信号を得るための露光を行う画素とが共通である構成を有し、光源部は、撮像部が輝度画像の信号を得るための露光を行う期間にも、制御部で発生する発光信号が示すタイミングに従って光の照射を行う」、ことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の「実施の形態1の変形例1」には、照射光に対する被写体からの反射光の光路による遅延の大小に応じて、すなわち被写体との距離に応じて、異なる計算式を用いて被写体との距離を測定する例が示されている。一方で、距離計測範囲の中間点付近などで変曲点が生じることで直線性が損なわれ、距離計測誤差が生じてしまう課題がある。以下で当該課題について詳細に説明する。
【0006】
図1は、TOF方式を利用した距離測定器であるTOFカメラの構成を示すブロック図である。TOFカメラ10は、発光部11、受光部12、発光制御部13、距離計算部14を備える。発光部11からの光は光路31を経由して被写体2に照射され、被写体2からの反射光は光路32を経て受光部12に入射する。受光部12は個体撮像素子33を備えており、入射光を電気信号に変換する。変換した電気信号に基づいて、距離計算部14が被写体までの距離Lを計算する。発光制御部13は、発光部11が出力する光のタイミング等を制御する。
【0007】
図2は、特許文献1の内容をもとに、本発明の課題を説明するため作成した原理図である。
図1に示したTOFカメラの構成を用い、発光部11の発光タイミングと、受光部12の受光タイミングを制御する。発光部11からの発光パルス201は、パルス幅Tを有しており、パルス幅Tの間光を照射する。これに対して、受光部12の露光パルス202は、パルス幅Tを有しており、パルス幅の間受光した反射光203を露光して電気信号に変換する。
【0008】
ここで、特許文献1は発光・露光期間のタイミングを3とおりに設定している。第1の発光・露光期間では、発光パルス201-0と露光パルス202-0は同期している。第2の発光・露光期間では、露光パルス202-1は発光パルス201-1より時間Tだけ遅れている。第3の発光・露光期間では、露光パルス202-2は発光パルス201-2より時間2Tだけ遅れている。
【0009】
反射光203が受光部12に到達するタイミングは、被測定物の距離Lに依存するが、露光パルス202のタイミングが異なるため、それぞれのタイミングでの露光量が異なることになる。第1の発光・露光期間では、露光量はA0の値となる。第2の発光・露光期間では、露光量はA1の値となる。第3の発光・露光期間では、露光量はA2の値となる。
図2ではA2の露光量が示されていないが、これは、反射光は検出されておらず、背景光が受光されてA2の露光量を得ていることを意味する。
【0010】
図2の式(1)のみを用いると、最大の測定可能距離は原理上(C×T/2)である。式中Cは光速を、Tは使用パルス幅を示す。(C×T/2)のT幅を長くすることで測距レンジを伸ばすことができるが、T幅が長くなると距離の分解能が低下するため距離精度が劣化する。
【0011】
特許文献1では、
図2に示すように、A0とA2の大小関係に基づいて、計算式を式(2)に変えて距離Lを計算する。特許文献1は、このような手法を用いて、精度を落とさずに測距範囲を(C×T/2)から2×(C×T/2)まで2倍に広げることができることを示す。
【0012】
発明者らの検討によると、特許文献1の上記方式では、理想的な状態であれば発光部11から発射した反射光203のみを使用して距離演算を行うため、式が切り替わる間の反射光は連続的に変化し、直線性が確保される。しかし、実際の環境下では、マルチパスなどの外乱光により、式が切り替わる付近で変曲点が発生する要因となる。マルチパスなどの外乱光とは、被写体2からの反射光が直接受光部12に到達するのではなく、付近の物体に1~複数回反射した後に受光部12に到達した光をいう。
【0013】
図3は、外乱光が露光量に及ぼす影響を説明する概念図である。第1の発光・露光期間では、理想的な露光量A0に対して外乱反射光による露光量302-0が加わる。第2の発光・露光期間では、理想的な露光量A1に対して外乱反射光による露光量302-1が加わる。第3の発光・露光期間では、理想的な露光量A2に対して外乱反射光による露光量302-2が加わる。
【0014】
図4は、A0とA2の大小関係の判定により
図2で示した式の切り替えを行い、測距を行う場合に生じる誤差を説明するグラフ図である。
図2に示すように、演算条件が異なる2つの式の接続点付近となる計測距離の中間付近に変曲点が生じ、直線性が損なわれてしまう。Lは
図2に示した測定方法により、2×(C・T/2)で得られる最大測距距離である。以下の図でもLの定義は同様とする。
【0015】
そこで本発明の課題は、計測距離の変曲点を軽微にすることで、直線性の改善、距離精度の誤差の抑制を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願発明の好ましい一側面は、発光タイミングに従って光パルスを照射する発光部と、露光タイミングに従って露光信号を取得する受光部と、前記露光信号に基づいて被測定物までの距離を計算する距離計算部と、距離演算データ合成部と、を備え、前記距離計算部は、第1のパルス幅を持つ第1の光パルスを照射して、得られる前記露光信号に対して複数種の計算を適用して距離を計算する第1の計算と、前記第1のパルス幅より大きな第2のパルス幅を持つ第2の光パルスを照射して、得られる前記露光信号を用いて距離を計算する第2の計算と、を実行し、前記距離演算データ合成部は、前記第1の計算の結果および前記第2の計算の結果を用いて被測定物までの距離を算出する、距離計測装置である。
【0017】
本願発明の好ましい他の一側面は、第1のパルス幅を持つ第1の光パルスを被測定物に照射する第1のステップ、前記第1のパルス幅を持ちタイミングの異なる第1の露光パルスを複数用いて、前記第1の光パルスに起因する第1の露光信号を複数得る第2のステップ、前記複数の第1の露光信号の大小関係に基づいて、前記第1の露光信号を用いた計算方式を切り替えて、前記被測定物までの距離を計算する第3のステップ、前記第1のパルス幅より大きい第2のパルス幅を持つ第2の光パルスを被測定物に照射する第4のステップ、前記第2の光パルスに起因する第2の露光信号を得る第5のステップ、前記第2の露光信号に基づいて、前記被測定物までの距離を計算する第6のステップ、前記第3のステップの計算結果と前記第6のステップの計算結果に基づいて、最終的な前記被測定物までの距離を算出する第7のステップ、を実行する距離計測方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、計測距離の変曲点を軽微にすることで、直線性の改善、距離精度の誤差の抑制をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】発光タイミングと受光タイミングを制御して距離計算を行う方式の原理図。
【
図3】外乱光の露光量への影響を説明するグラフ図。
【
図4】測距の直線性が損なわれてしまう概念を示すグラフ図。
【
図5】実施例1のTOFカメラの構成を示すブロック図。
【
図6】実施例1の発光パルスと露光パルスのタイミングの関係を示すタイミング図。
【
図7】実施例1のTOFカメラの動作フローを示す流れ図。
【
図8】実施例1の距離合成の概念を説明するグラフ図。
【
図10】実施例2の発光パルスと露光パルスのタイミングの関係を示すタイミング図。
【
図11】実施例2の距離合成の概念を説明するグラフ図。
【
図12】実施例3のTOFカメラの構成を示すブロック図。
【
図13】実施例3の発光パルスと露光パルスのタイミングの関係を示すタイミング図。
【
図14】実施例4の距離合成の概念を説明するグラフ図。
【
図15】距離オフセットを行ってL~2Lまでを測定した場合を示すグラフ図。
【
図16】距離オフセットを行う場合の発光パルスと露光パルスのタイミングの関係を示すタイミング図。
【
図18】実施例5の距離合成の概念を説明するグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【0021】
以下に説明する実施例の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、重複する説明は省略することがある。
【0022】
同一あるいは同様な機能を有する要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、複数の要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0023】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数、順序、もしくはその内容を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
【0024】
図面等において示す各構成の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0025】
本明細書で引用した刊行物、特許および特許出願は、そのまま本明細書の説明の一部を構成する。
【0026】
本明細書において単数形で表される構成要素は、特段文脈で明らかに示されない限り、複数形を含むものとする。
【0027】
以下に説明する実施例では、被測定物との距離に応じた異なる条件で距離演算された距離計測範囲が結合される部分で発生する変曲点を、パルスを任意の幅に延長(短縮)し、計測範囲を拡大(縮小)することで直線性が保たれている距離計測値と平均化を行うことにより抑制する。
【0028】
パルス幅を拡大して距離計測を行うと、1フレームで取得される計測値の距離精度が低下する場合がある。ここで言う距離精度の低下とは、繰り返し測定精度(偏差)の低下による計測値バラツキである。これを補うためにパルス幅を拡大したフレームを複数フレーム設定し、複数フレームによる距離計測値を用いて平均化処理を行うことにより、分解能低下に伴う距離誤差の劣化を抑制することができる。なお、複数のフレームの拡大するパルス幅は全てのフレームで同一の幅であっても、それぞれに異なる幅であっても良い。
【実施例0029】
図5は、実施例のTOF方式を利用した距離測定器であるTOFカメラの構成を示すブロック図である。TOFカメラ500は、発光部501、発光制御部502、受光部503、距離計算部504、距離演算データ保管部505、距離演算データ合成部506、画像処理部507、外部処理装置508、および電源部509を備える。
【0030】
発光部501からの光は図示しない被測定物(被写体)に照射され、被写体からの反射光は受光部503に入射する。発光部501は、例えばレーザーダイオード(LD)で光を発生する。受光部503は例えばCCD(Charge Coupled Device)センサを用いた撮像素子からなり、反射光を露光時間の間電気的にチャージし、電気信号に変換して取り出す。
図2で説明したように、図示しない制御部や制御線により、発光部501の発光タイミングと受光部503の露光タイミングは制御されている。
【0031】
受光部503で光を電気信号に変換した露光信号に基づいて、距離計算部504が被写体までの距離Lを計算する。発光制御部502は、発光部501が出力する光のタイミング等を制御する。距離演算データ保管部505は、距離計算部504が1フレームの信号に基づいて計算した距離を一時的に保管する。距離演算データ合成部506は、距離計算部504で計算した距離データと距離演算データ保管部505に保管された距離データを合成する。合成した合成距離データは画像処理部507に送られる
また、受光部503が可視光や赤外光などの光を変換して得られる、CCDセンサの画素ごとの電気信号により、可視光や赤外光の画像データが生成され、画像処理部507に送られる。画像処理部507は、画像データと合成距離データにより、画像データ中の被写体の距離を算出する。画像処理部507で生成された信号は、コンピュータやマイコンなどの外部処理装置508に送られて利用される。
【0032】
電源部509は、図示しない配線にて、各構成要素に電源を供給する。
図12において、発光制御部502、距離計算部504、距離演算データ合成部506、画像処理部507は、ハードウェアで実装してもよいし、マイコンなどにソフトウェアとして実装してもよい。距離演算データ保管部505は、半導体メモリ等を記憶領域として用いればよい。以下で、
図5に示した距離測定器の動作を詳細に説明する。本実施例に説明のない構成については、基本的に特許文献1等の公知の構成を援用してよい。
【0033】
図6は、
図5に示した発光部501が出力する発光パルスと受光部503の露光パルスのタイミングの関係を示すタイミング図である。発光および露光のパターンは、第1フレームと第2フレームの2パターンを備える。第1フレームの構成と計算方法は、
図2で示した構成と同様であり、(C×T/2)の2倍まで距離の測定が可能である。
【0034】
第2フレームの構成は、第1フレームのパルス幅Tより長いパルス幅を用いる。ここではパルス幅2Tを使用することにする。計算方法は公知の測距方法を利用したものでよい。
図6の例では、第1フレームと同様に、露光パルスは発光パルスに対して、0、2T、4Tの遅延を持たせることにして、それぞれの露光信号をA20、A21、A20とした。
【0035】
第2フレームで計算する距離をL2とすれば、たとえば、
L2={(C×2T)/2}×{(A21-A22)/(A20+A21-2×A22)}
の計算によって、第2フレームでは(C×2T/2)まで距離の測定が可能である。結局第1フレームと第2フレームは測定方式が異なるが、同じ距離まで測定が可能である。第1フレームと第2フレームは、任意の数繰り返し行ない、繰り返しの間距離を測定することができる。
【0036】
図7は、
図5に示した距離測定器の動作フローを示す流れ図である。ステップS701で、発光部501と受光部503は、
図6あるいは
図2に示した第1フレームの発光パルス、露光パルスのパターンにて、露光信号を生成する。露光信号は距離計算部504に入力され、距離計算部504は、
図2の式を用いて距離Lを計算する。
【0037】
ステップS702で、ステップS701で計算した距離Lを距離演算データ保管部505で記憶する。
【0038】
ステップS703で、発光部501と受光部503は、
図6に示した第2フレームの発光パルス、露光パルスのパターンにて、露光信号を生成する。露光信号は距離計算部504に入力され、距離計算部504は、例えば
図2の式1を用いて距離を計算する(ただしTを2Tに置き換える)。第2フレームによる距離測定方式は、直線性が優れていれば、これに限らず公知の方法を採用してよい。この例では、第2フレームのパルス幅は第1フレームの2倍のパルス幅なので、第2フレームの測定可能距離は第1フレームの測定可能距離と同じになる。
【0039】
ステップS704で、距離演算データ合成部506は、ステップS703で計算した第2フレームによる距離L2と、距離演算データ保管部505に記憶した第1フレームによる距離Lを合成する。合成は、例えば平均値をとることで実行できる。あるいはLとL2に適当に重みづけをしてもよい。
【0040】
ステップS705で、終了条件を判定する。例えば終了コマンドの入力の確認や所定の計算回数の実行を確認した後、処理を終了する。なお第1フレームと第2フレームの処理順序は任意であり、
図7と逆でもよい。逆の場合は、距離演算データ保管部505で記憶するのは、第2フレームによるデータである。
【0041】
図8で、距離演算データ合成部506による距離合成の概念を説明する。
図8において、実線801は第1フレームにより測定した距離、点線802は第2フレームにより測定した距離、一点鎖線803は両者を合成した距離である。第1フレームにより測定した距離は、
図4で説明したように変曲点を持つため直線性が損なわれる。そこで、第1フレームにより測定した距離を第2フレームにより測定した距離で補正する。第2フレームにより測定した距離は分解能では劣るが、直線性では優れるので、例えば両者の平均値を計算することで、より実際の距離に近い値を得ることができる。
【0042】
なお、
図8の実線801では変曲点の前後で傾きを同じにしているが、計測距離が実際の距離と同一になる場合の傾きを1とした場合、厳密には変曲点より近い側の傾きが1より大きく、変曲点より遠い側の傾きが1より小さくなる傾向があると考えられる。このため、異なる式による計算結果の結合点(
図8では中点)では、段差(変曲点)が発生すると考えられる。
【0043】
図9で、第1フレームにより測定した距離を実線801で示し、合成(補正)後の距離を一点鎖線803で示した。変曲点の影響が低減されていることがわかる。
第1フレームの計算結果による実線1101の変曲点1103が、第2フレームの計算結果による点線1102の直線性の良好な部分と合成することで低減される。また、距離計算部14での計算式をフレームごとに変える必要がない。