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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155433
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】架橋ポリエチレン管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20221005BHJP
   C08K 3/014 20180101ALI20221005BHJP
   C08K 3/011 20180101ALI20221005BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20221005BHJP
   C08F 299/00 20060101ALI20221005BHJP
   F16L 11/04 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
C08J5/00 CES
C08K3/014
C08K3/011
C08L23/04
C08F299/00
F16L11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135781
(22)【出願日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2021056668
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】寺浦 和紗
【テーマコード(参考)】
3H111
4F071
4J002
4J127
【Fターム(参考)】
3H111BA15
3H111DA11
3H111DB03
3H111EA04
3H111EA12
4F071AA15
4F071AA78
4F071AA82
4F071AA88
4F071AC08A
4F071AC11
4F071AC15
4F071AC19
4F071AE02A
4F071AE05
4F071AG05
4F071BB03
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC05
4J002BB021
4J002BB031
4J002EJ067
4J002EK006
4J002EU077
4J002EW067
4J002FD077
4J002FD156
4J002GL00
4J002HA09
4J127AA06
4J127BA051
4J127BB021
4J127BB091
4J127BB151
4J127BB191
4J127BB201
4J127BC021
4J127BC131
4J127BD031
4J127BE011
4J127BE01Y
4J127CA01
4J127DA21
4J127DA25
4J127DA27
4J127EA05
4J127FA01
(57)【要約】
【課題】破壊寿命の長期化とクリープ特性の確保とを両立し、効率的に生産が可能な架橋ポリエチレン管の製造方法。
【解決手段】ポリエチレン系樹脂と過酸化物と抗酸化剤とを含む樹脂組成物を可塑化する工程と、前記ポリエチレン系樹脂を架橋する工程と、を有し、前記ポリエチレン系樹脂は、分子末端に二重結合を有するポリエチレン樹脂を含み、前記抗酸化剤は、フェノール系抗酸化剤、リン系抗酸化剤及び分子量600以上のN-CH型ヒンダードアミン系安定剤を含むことよりなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン系樹脂と過酸化物と抗酸化剤とを含む樹脂組成物を可塑化する工程と、前記ポリエチレン系樹脂を架橋する工程と、を有し、
前記ポリエチレン系樹脂は、分子末端に二重結合を有するポリエチレン樹脂を含み、 前記抗酸化剤は、フェノール系抗酸化剤、リン系抗酸化剤及び分子量600以上のN-CH型ヒンダードアミン系安定剤を含む、架橋ポリエチレン管の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂組成物中の前記N-CH型ヒンダードアミン系安定剤の含有量は、前記ポリエチレン系樹脂100質量部に対して0.01~0.8質量部である、請求項1に記載の架橋ポリエチレン管の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂組成物中の前記フェノール系抗酸化剤、前記リン系抗酸化剤及び前記N-CH型ヒンダードアミン系安定剤の合計含有量は、前記ポリエチレン系樹脂100質量部に対して0.5~2.0質量部である、請求項1又は2に記載の架橋ポリエチレン管の製造方法。
【請求項4】
前記フェノール系抗酸化剤:前記N-CH型ヒンダードアミン系安定剤で表される含有量の質量比は、10:1~1:1である、請求項1~3のいずれか一項に記載の架橋ポリエチレン管の製造方法。
【請求項5】
前記過酸化物は、1分間半減期温度が190℃以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の架橋ポリエチレン管の製造方法。
【請求項6】
前記ポリエチレン系樹脂の温度190℃、荷重21.6kgにおけるメルトフローレート(MFR21.6)が1.0g/10分以上25g/10分以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の架橋ポリエチレン管の製造方法。
【請求項7】
前記ポリエチレン系樹脂の密度が0.910~0.960g/cmである、請求項1~6のいずれか一項に記載の架橋ポリエチレン管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ポリエチレン管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水給湯配管や床暖房用配管として架橋ポリエチレン管が好適に使用されている。架橋ポリエチレン管には、種々の異なる架橋化学試薬及び処理技術を利用する製造方法がある。架橋ポリエチレン管の製造方法としては、過酸化物架橋(PEX-a)、シラン架橋(PEX-b)、電子線架橋(PEX-c)等が挙げられる。
【0003】
架橋ポリエチレン管は、長期に渡って高温水に晒される環境で使用される。このため、架橋ポリエチレン管には、材料の劣化による破壊を防ぎ、寿命を長期化させること(破壊寿命の長期化)が求められている。従来ポリエチレン系材料の劣化を防ぐ手段として、抗酸化剤を配合する方法が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
一般に、過酸化物架橋により架橋された架橋ポリエチレン管では、高温での長期使用に必要なクリープ性能を確保するため、70%以上の架橋度が必要とされている。
通常、抗酸化剤はポリエチレンの架橋反応における反応阻害要因となる。このため、抗酸化剤の添加量を増やすと架橋度が不充分になってクリープ特性が低下し、抗酸化剤の添加量を減らすと材料の劣化防止効果が不充分になって破壊寿命が短くなるという問題があった。
【0005】
こうした問題に対し、過酸化物架橋により架橋された架橋ポリエチレン管の劣化防止性能の向上を目的とし、酸化防止剤と光劣化防止剤とを併用する架橋ポリエチレン管の製造方法が提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3497284号公報
【特許文献2】特表2018-513329号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】平林秀雄他,「過酸化物架橋ポリエチレン管の安定剤による耐久性評価」,マテリアルライフ学会誌,25[2],p.42~50,2013年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1の技術では、ラム式押出による製造方法に限られるため、生産性が低いという課題があった。このため、管の破壊寿命を長期化しつつ、長期使用に必要なクリープ特性を確保し、効率的に生産が可能な架橋ポリエチレン管の製造方法が求められていた。
そこで、本発明は、破壊寿命の長期化とクリープ特性の確保とを両立し、効率的に生産が可能な架橋ポリエチレン管の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
<1>
ポリエチレン系樹脂と過酸化物と抗酸化剤とを含む樹脂組成物を可塑化する工程と、前記ポリエチレン系樹脂を架橋する工程と、を有し、
前記ポリエチレン系樹脂は、分子末端に二重結合を有するポリエチレン樹脂を含み、 前記抗酸化剤は、フェノール系抗酸化剤、リン系抗酸化剤及び分子量600以上のN-CH型ヒンダードアミン系安定剤を含む、架橋ポリエチレン管の製造方法。
<2>
前記樹脂組成物中の前記N-CH型ヒンダードアミン系安定剤の含有量は、前記ポリエチレン系樹脂100質量部に対して0.01~0.5質量部である、<1>に記載の架橋ポリエチレン管の製造方法。
<3>
前記樹脂組成物中の前記フェノール系抗酸化剤、前記リン系抗酸化剤及び前記N-CH型ヒンダードアミン系安定剤の合計含有量は、前記ポリエチレン系樹脂100質量部に対して0.5~2.0質量部である、<1>又は<2>に記載の架橋ポリエチレン管の製造方法。
<4>
前記フェノール系抗酸化剤:前記N-CH型ヒンダードアミン系安定剤で表される含有量の質量比は、10:1~1:1である、<1>~<3>のいずれかに記載の架橋ポリエチレン管の製造方法。
<5>
前記過酸化物は、1分間半減期温度が190℃以上である、<1>~<4>のいずれかに記載の架橋ポリエチレン管の製造方法。
<6>
前記ポリエチレン系樹脂の温度190℃、荷重21.6kgにおけるメルトフローレート(MFR21.6)が1.0g/10分以上25g/10分以下である、<1>~<5>のいずれかに記載の架橋ポリエチレン管の製造方法。
<7>
前記ポリエチレン系樹脂の密度が0.910~0.960g/cmである、<1>~<6>のいずれかに記載の架橋ポリエチレン管の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の架橋ポリエチレン管の製造方法によれば、破壊寿命の長期化とクリープ特性の確保とを両立し、生産性の向上を図れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための単なる例示であって、本発明をこの実施の形態にのみ限定することは意図されない。
【0012】
(架橋ポリエチレン管)
架橋ポリエチレン管は、円筒状又は多角筒状の管である。架橋ポリエチレン管の大きさは、一般的に使用されている給湯配管等の仕様のものであれば特に限定されないが、通常は、外径が6~200mmであることが好ましく、厚さが1~30mmであることが好ましく、長さが0.3~200mであることが好ましい。
架橋ポリエチレン管は、管の内表面及び外表面の少なくとも一方が被覆層で被覆された多層管であってもよい。
被覆層の材質としては、可撓性の熱可塑性樹脂が好ましい。このような熱可塑性樹脂としては、例えばポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド等が挙げられる。熱可塑性樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
被覆層の厚さは、0.01~5mmが好ましく、0.05~0.2mmがより好ましい。
多層管は、例えば多層押出成形により製造される。
【0013】
(架橋ポリエチレン管の製造方法)
本発明の架橋ポリエチレン管の製造方法は、ポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物を可塑化する工程(可塑化工程)と、ポリエチレン系樹脂の一部又は全部を架橋する架橋工程とを有する。本発明の架橋ポリエチレン管の製造方法は、必要に応じて成形工程および洗浄工程を有してもよい。
【0014】
<可塑化工程>
可塑化工程は、樹脂組成物を加熱し、混練して、樹脂組成物を可塑化する。混練方法としては、スクリューを有する押出機等で溶融し押し出す方法が挙げられる。
混練する際の温度は、例えば、120~190℃が好ましく150~160℃がより好ましい。
【0015】
本発明の樹脂組成物は、ポリエチレン系樹脂と、過酸化物と、安定剤とを含有する。
【0016】
ポリエチレン系樹脂は、未架橋のポリエチレン(未架橋ポリエチレン)を含む。ポリエチレンとしては、エチレンとα-オレフィンとの共重合体等が挙げられる。
α-オレフィンとしては特に限定されないが、炭素数3~10、好ましくは炭素数3~6のα-オレフィンが挙げられ、具体的にはプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-へキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン等が挙げられる。 α-オレフィンは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
ポリエチレンは、分子末端に二重結合を有するポリエチレン(末端二重結合ポリエチレン)が好ましい。末端二重結合ポリエチレンは、赤外線分光光度計で908cm-1の吸光度が測定されるポリエチレンである。
末端二重結合ポリエチレンをポリエチレン系樹脂として含むことで、架橋効率が高まり、所望のゲル分率を達成するための過酸化物の量を低減できる。加えて、末端二重結合ポリエチレンを含むことで、架橋ポリエチレン管の臭気を抑え、生産性をより高められる。
【0018】
ポリエチレン系樹脂は、全てが未架橋ポリエチレンでもよいし、一部が未架橋ポリエチレンでもよい。ポリエチレン系樹脂総質量に対する未架橋ポリエチレンの含有量は、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0019】
ポリエチレン系樹脂のメルトフローレート(温度190℃、荷重21.6kgにおけるメルトフローレート(MFR21.6))は、1.0g/10分以上25g/10分以下が好ましく、5.0g/10分以上がより好ましい。MFR21.6が上記下限値以上であれば、樹脂組成物を混錬した際に樹脂がより均質化されて、架橋ポリエチレン管の外観及び強度をより高められる。MFR21.6が上記上限値以下であれば、押出機での押出負荷が低くなり生産性をより高められる。
【0020】
ポリエチレン系樹脂の密度は、0.910~0.960g/cmが好ましい。密度が上記下限値以上であれば、架橋ポリエチレン管の耐水圧性がより高まる。密度が上記上限値以下であれば、架橋ポリエチレン管の剛直性が過度に強くなりにくく、施工時に曲げやすく、取り扱いやすい。ポリエチレン系樹脂の密度は、JIS K 7112に準拠し、水中置換法により測定された値である。
【0021】
過酸化物は、ポリエチレンをラジカル架橋させる成分である。過酸化物の1分間半減期温度は、170℃以上250℃以下が好ましく、190℃以上250℃以下がより好ましい。1分間半減期が上記下限値以上であれば、ラジカル発生量が押出機内で著しく増加しない。このため、樹脂組成物を成形するポリエチレン系樹脂が架橋するのを抑制し、スコーチと呼ばれる透明球状のゲル化成分の発生を抑制して、架橋ポリエチレン管の生産性をより高められる。1分間半減期が上記上限値以下であれば、架橋時の樹脂の劣化を防いで、架橋反応を促進して、生産性をより高められる。
【0022】
過酸化物としては、例えば、ジ-tert-ブチル-2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、3,3,5,7,7-ペンタメチル-1,2,4-トリオキセパン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、3,6,9-トリエチル-3,6,9-トリメチル-1,4,7-トリペルオキソナン及びジ-tert-ブチルパーオキサイドが挙げられる。過酸化物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
過酸化物の添加量は、ポリエチレン系樹脂100量部に対して、0.01~1質量部が好ましく、0.1~0.6質量部がより好ましい。過酸化物の添加量が上記下限値以上であれば、架橋反応が充分に進行する。過酸化物の添加量が上記上限値以下であれば、後述する加熱架橋工程前にポリエチレン系樹脂が架橋するのを抑制し、スコーチ成分の発生を抑制して、架橋ポリエチレン管の生産性をより高められる。
【0024】
樹脂組成物は、抗酸化剤を含む。抗酸化剤は、フェノール系抗酸化剤(抗酸化剤PHということがある)とリン系抗酸化剤(抗酸化剤PPということがある)と分子量600以上のN-CH型ヒンダードアミン系安定剤(抗酸化剤PHということがある)とを含む。
フェノール系抗酸化剤とリン系抗酸化剤と特定のヒンダードアミン系安定剤とを併用することで、生産性の高いスクリュー式押出機による混練においても抗酸化剤成分が消費されず、破壊寿命の長期化とクリープ性能の確保の両立が可能となる。
上記併用効果は、必ずしも明らかではないが、本発明のようなラジカル架橋反応を利用した架橋ポリエチレン管の製造方法において、フェノール系抗酸化剤の抗酸化作用とヒンダードアミン系安定剤とが相互に補助することにより、ポリエチレン系樹脂の酸化劣化を抑制して破壊寿命の長期化に寄与し、リン系抗酸化剤が架橋阻害を抑制することによってクリープ特性の確保に寄与すると推定される。
【0025】
抗酸化剤PHとして、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノ-ル、m-オクタデシル-3-〔3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル〕プロピオネート、テトラキス-〔メチル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン(Irganox1010)、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)ベンゼン(Irganox1330)、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル(Irganox1076)、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート(Irganox3114)、2,2’-メチレンビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオヒビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)が挙げられる。
【0026】
抗酸化剤PPとして、例えば、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチル-1-フェニルオキシ)(2-エチルヘキシルオキシ)ホスホラス(HP-10)、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト(Irgafos168)、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(PEP-36)、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリト-ルジホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)4,4’-ビフェニレン-ジホスファイトが挙げられる。
【0027】
抗酸化材HAとして、例えば、N,N’,4,7-テトラキス{4,6-ビス[N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2-イル}-4,7-ジアザデカン-1,10-ジアミン(Chimassorb 119)、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)(LA-52)、1,6-ヘキサンジアミン,N,N’-ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)、ポリマーズモルホリン-2,4,6-トリクロロ-1,3,5-トリアジン(CYASORB UV-3529)が挙げられる。
【0028】
樹脂組成物中の抗酸化剤PHの添加量は、ポリエチレン系樹脂100質量部に対して0.1~1.5質量部が好ましく、0.2~1.0質量部がより好ましく、0.4~0.8質量部がさらに好ましい。抗酸化剤PHの含有量が上記下限値以上であれば、抗酸化能力をより高められる。抗酸化剤PHの含有量が上記上限値以下であれば、充分な架橋度を確保できる。
【0029】
樹脂組成物中の抗酸化剤PPの添加量は、ポリエチレン系樹脂100質量部に対して0.1~1.5質量部が好ましく、0.2~1.2質量部がより好ましく、0.4~0.8質量部がさらに好ましい。抗酸化剤PPの含有量が上記下限値以上であれば、抗酸化能力と架橋度の両立をより高められる。抗酸化剤PPの含有量が上記上限値以下であれば、コストが抑えられより経済的である。
【0030】
樹脂組成物中の抗酸化剤HAの添加量は、ポリエチレン系樹脂100質量部に対して0.01~0.8質量部が好ましく、0.02~0.6質量部がより好ましく、0.2~0.5質量部がさらに好ましい。抗酸化剤HAの含有量が上記下限値以上であれば、抗酸化能力をより高められる。抗酸化剤HAの含有量が上記上限値以下であれば、抗酸化剤PHの変性を抑制し抗酸化剤をPHの抗酸化能力をより高められる。
【0031】
樹脂組成物中の抗酸化剤HAと抗酸化剤PPと抗酸化剤HAとの合計量は、ポリエチレン系樹脂100質量部に対して0.2~2.0質量部が好ましく、0.5~1.5質量部がより好ましい。合計量が上記下限値以上であれば、抗酸化能力をより高められる。合計量が上記上限値以下であれば、コストが抑えられより経済的である。
【0032】
[抗酸化剤PH]:[抗酸化剤HA]で表される含有量の質量比は、10:1~1:2が好ましく、4:1~1:1がより好ましく、2:1~1:1がさらに好ましい。両者の質量比が上記範囲内であれば、抗酸化剤HAの抗酸化能力と抗酸化剤PHの変性抑制によるPHの抗酸化能力のさらなる向上を図れる。
【0033】
樹脂組成物は、必要に応じて、プロセス熱安定剤、紫外線吸収剤、有機充填剤、無機充填剤、顔料、染料、加工助剤等の任意成分を含んでいてもよい。また、樹脂組成物は、フェノール系抗酸化剤、リン系抗酸化剤及び分子量600以上のN-CH型ヒンダードアミン系安定剤以外の抗酸化剤(任意抗酸化剤)を含んでもよい。また、樹脂組成物は、過酸化物以外の架橋剤(任意架橋剤)を含んでもよい。但し、本発明の効果をより高める観点から、樹脂組成物は、任意抗酸化剤及び任意架橋剤のいずれも含まないことが好ましい。
任意成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
<成形工程>
成形工程は、可塑化した樹脂組成物を任意の形状(筒状)に成形する工程である。成形方法としては、押出機で混錬して可塑化した樹脂組成物を、押出機から筒状に押し出し、冷却(例えば室温)して、樹脂組成物を硬化する方法が挙げられる。硬化した成形体は、所望する長さに切断される。成形工程で得られる成形体(未架橋ポリエチレン管)は、ポリエチレン系樹脂の一部又は全部が未架橋ポリエチレンである。
【0035】
<加熱架橋工程>
加熱架橋工程は、未架橋ポリエチレン管に加熱処理を施して、未架橋ポリエチレンの一部又は全部を架橋する。
架橋方法としては、未架橋ポリエチレン管を加熱炉で任意の温度で加熱する方法、未架橋ポリエチレン管に任意の温度の上記を吹き付けて加熱する方法、赤外線照射により加熱する方法等が挙げられる。
【0036】
こうして得られた架橋ポリエチレン管は、未架橋ポリエチレンの一部又は全部が架橋されているので、耐熱性及び耐クリープ性に優れる。架橋ポリエチレン管の架橋度は、65~100%が好ましく、70~100%がより好ましく、75~100%がさらに好ましい。
【0037】
上述の通り、本発明の架橋ポリエチレン管の製造方法によれば、特定の架橋剤と、特定の3種の抗酸化剤とを含む樹脂組成物を用いるため、破壊寿命の長期化とクリープ特性の確保とを両立し、かつ効率的に生産できる。
【実施例0038】
次に、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例及びこれとの比較を示すための比較例をいくつか挙げる。
【0039】
(使用原料)
<ポリエチレン>
・PE-1:HE1878E(ボレアリス(Borealis)社製)、末端に二重結合を有する。
・PE-2:K4125(旭化成社製)、末端に二重結合を有さない。
<過酸化物>
・PO-1:パーヘキシン25B(日本油脂社製)、1分間半減期温度194℃。
・PO-2:ジ-t-ブチルペルオキシド(ナカライテスク社製)、1分間半減期温度186℃。
<抗酸化剤>
・PH-1:フェノール系抗酸化剤、イルガノックス1010(BASF社製)。
・PH-2:フェノール系抗酸化剤、イルガノックス1330(BASF社製)。
・PH-3:フェノール系抗酸化剤、CDA-10(ADEKA社製)。
・PP-1:リン系抗酸化剤、HP-10(ADEKA社製)。
・HA-1:N-CH型ヒンダードアミン系安定剤、キマソーブ119(BASF社製)、分子量2286g/mol。
・HA-2:N-H型ヒンダードアミン系安定剤、キマソーブ2020(BASF社製)、平均分子量2600-3400g/mol。
・HA-3:N-アルキル型ヒンダードアミン系安定剤、チヌビン622(BASF社製)、分子量3100-4000g/mol。
【0040】
(評価方法)
<破壊寿命>
破壊寿命の評価として、各例の架橋ポリエチレンのシートに対して以下の方法で求められる抗酸化能力を測定した。抗酸化能力が大きい(時間が長い)ほど、破壊寿命が優れていることを表す。抗酸化能力が10分以上であれば抗酸化能力が大きいと判断でき、より好ましくは15分以上である。
【0041】
≪測定方法≫
DSC(示差走査熱量計)中で、酸素雰囲気下、228℃に保持し分解発熱が始まるまでの時間を測定した。
【0042】
<クリープ特性>
クリープ特性の評価として、以下の方法で求められる架橋度を測定した。
架橋度が大きいほどクリープ特性が優れていることを表す。JIS K 6769では、架橋度70%超が求められ、長期強度をさらに確保するには75%以上の架橋度が好ましい。
【0043】
≪測定方法≫
架橋ポリエチレン管から切り出した試料を、キシレンを溶媒として用い、フラスコ容器中で8時間沸点温度にて抽出し、真空乾燥3時間後の未溶解部分の抽出残重量を計量した。計量値に基づき、下記(s)式によって、架橋度を求めた。
【0044】
架橋度(%)=[抽出残重量(g)/抽出前の試料重量(g)]×100・・・(s)
【0045】
<耐温水性>
耐温水性の評価として、実施例3の架橋ポリエチレン樹脂シートに対して、以下の方法で求められる抗酸化能力を測定した。抗酸化能力が大きい(時間が長い)ほど、耐温水性が優れていることを表す。抗酸化能力が10分以上であれば耐温水性が大きいと判断でき、より好ましくは15分以上である。
【0046】
≪測定方法≫
実施例3の架橋ポリエチレン樹脂シートを80℃温水中に一定期間浸漬したものに対して、DSC(示差走査熱量計)中で、酸素雰囲気下、228℃に保持し分解発熱が始まるまでの時間を測定した。
【0047】
(実施例1~5、比較例1~5)
表1に示す組成に従い、ポリエチレンと、過酸化物と、抗酸化剤とを押出成形評価試験装置(ラボプラストミル)において160℃で混練した(可塑化工程)後、熱プレス装置において210℃でプレスして(加熱架橋工程)、架橋ポリエチレン樹脂シートを得た。 得られた架橋ポリエチレン樹脂シートについて、破壊強度とクリープ特性を評価し、その結果を表1中に示す。なお、実施例1~5は、いずれも可塑化工程において、ラボプラストミルに対する機械的負荷は小さかった。
また、実施例3の架橋ポリエチレン樹脂シートの耐温水性の評価結果を表2に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示すように、本発明を適用した実施例1~5は、抗酸化能力の評価が11.2分以上であり、架橋度の評価が68~85であった。
抗酸化剤HAに代えてN-H型、N-アルキル型ヒンダードアミン系安定剤を含む比較例1~2、抗酸化剤PPを含まない比較例3、抗酸化剤HAを含まない比較例4は、いずれも抗酸化能力が9.3分以下であった。
末端に二重結合を有しないポリエチレンを用いた比較例5は、架橋度が13%であった。
これらの結果から、本発明を適用することで、破壊寿命の長期化とクリープ特性の確保とを両立できることを確認できた。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示すように、実施例3の架橋ポリエチレンは、5カ月間80℃の温水に浸漬した後であっても、10分以上の抗酸化能力を示した。これは、本発明で使用する抗酸化剤が、温水中においても、溶出しにくいことを示す。すなわち、本発明の架橋ポリエチレン管の製造方法によれば、長期に亘って高温水に晒される環境での使用に適した架橋ポリエチレン管が得られることを確認できた。
【0052】
なお、温水浸漬時間0ヶ月の抗酸化能力より、温水浸漬時間1~3ヶ月の抗酸化能力の方が高くなっている理由は定かではないが、温水浸漬時間0ヶ月の試料には過酸化物が少量残存しており、抗酸化能力の測定時の加熱により、過酸化物が抗酸化剤を消費していることが考えられる。これに対して、温水浸漬時間1~3ヶ月の試料では、過酸化物が温水により分解されて消失しており、抗酸化能力の測定時に抗酸化剤を消費することがないものと考えられる。