(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155497
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】防煙垂壁用シート及び防煙垂壁
(51)【国際特許分類】
B32B 17/04 20060101AFI20221005BHJP
B32B 5/00 20060101ALI20221005BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20221005BHJP
E04B 2/74 20060101ALI20221005BHJP
A62C 2/06 20060101ALI20221005BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
B32B17/04 Z
B32B5/00 A
E04B1/94 V
E04B2/74 551Z
A62C2/06 505
B32B27/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027056
(22)【出願日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2021058167
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】堀越 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】武内 信貴
【テーマコード(参考)】
2E001
4F100
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001DE07
2E001FA03
2E001GA11
2E001GA24
2E001HD11
2E001JA22
4F100AG00B
4F100AG00C
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK01C
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4F100BA10B
4F100BA10C
4F100DG01B
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4F100DH01B
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4F100EJ38A
4F100GB07
4F100JB14B
4F100JB14C
4F100JB16A
4F100JG04
4F100JK02
4F100JN01
4F100JN30
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】引裂強さに優れ、火災時において変形しにくく、燃えにくい、防煙垂壁用シート、及び当該シートを備える防煙垂壁の提供を主な課題とする。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルムと、該熱可塑性樹脂フィルムの両面に積層された、ガラス繊維布に含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層と、を含む防煙垂壁用シートであって、前記熱可塑性樹脂フィルムの厚さが90~130μmであり、前記シートの質量が300~450g/m
2である、防煙垂壁用シート。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルムと、
該熱可塑性樹脂フィルムの両面側に積層された、ガラス繊維布に含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層と、を含み、
前記熱可塑性樹脂フィルムの厚さが90~130μmであり、前記シートの質量が300~450g/m2である、防煙垂壁用シート。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂フィルムの厚さが120~130μmであり、
前記シートの質量が350~430g/m2である、請求項1に記載の防煙垂壁用シート。
【請求項3】
前記硬化性樹脂層を形成する樹脂が光硬化性樹脂である、請求項1又は2に記載の防煙垂壁用シート。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレートである、請求項1~3のいずれか1項に記載の防煙垂壁用シート。
【請求項5】
前記硬化性樹脂層の臭素濃度が5~30質量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の防煙垂壁用シート。
【請求項6】
全光線透過率が80%以上であり、ヘーズが20%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の防煙垂壁用シート。
【請求項7】
引裂強さが30N以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の防煙垂壁用シート。
【請求項8】
表面抵抗率が5×1012Ω以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の防煙垂壁用シート。
【請求項9】
50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験に供した際に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下になる、請求項1~8のいずれか1項に記載の防煙垂壁用シート。
【請求項10】
50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験に供した際に、加熱開始後20分間、発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えない、請求項1~9のいずれか1項に記載の防煙垂壁用シート。
【請求項11】
前記防煙垂壁がテンション式防煙垂壁である、請求項1~10のいずれか1項に記載の防煙垂壁用シート。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の防煙垂壁用シートを備える、防煙垂壁。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の防煙垂壁用シートの製造方法であって、下記工程1及び2を含む、防煙垂壁用シートの製造方法。
工程1:ガラス繊維布に含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層に厚さが90~130μmの熱可塑性樹脂フィルムが積層された中間体シートA、硬化性樹脂層を形成するための硬化性樹脂溶液B、ガラス繊維布C、及び工程フィルムDを準備する工程。
工程2:前記硬化性樹脂溶液Bを含侵させた前記ガラス繊維布Cを、前記中間体シートAと前記工程フィルムDとで、前記中間体シートAの熱可塑性樹脂フィルムの表面側が前記ガラス繊維布C側となるように挟み、この状態で前記硬化性樹脂溶液Bを硬化することにより、質量が300~450g/m2のシートを得る工程2。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防煙垂壁用シート、及び当該シートを用いた防煙垂壁に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国をはじめ、様々な国の法令(例えば、日本国の場合は、建築基準法及び建築基準法施行令)は、建築物の火災時に発生する煙、有毒ガスなどの流動を妨げて、避難及び消火活動が円滑に行えるように、排煙設備を設けることを規定している。従って、オフィスビル、商業施設などの建築物には、排煙設備及び遮煙設備として、防煙垂壁などが設置されることが多い。
【0003】
防煙垂壁は、火災発生時の煙、有毒ガスなどが廊下や上層階へ流動することを一時的に遮断し、避難に必要な時間を確保することなどを目的として、通常、建築物の天井に取り付けられている。このため、防煙垂壁によって視野が妨げられたり、美観が損なわれたりしないよう、防煙垂壁としては、板ガラス、ガラス繊維と樹脂との樹脂複合体などが用いられている。ガラス繊維と樹脂との樹脂複合体は、板ガラスに比して割れにくいという利点を有する。例えば、特許文献1には、ガラス繊維織物と硬化樹脂層とを含む透明不燃性シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている透明不燃性シートは、引裂強さに劣り、防煙垂壁としての施工時、とりわけテンション式防煙垂壁としての施工時に破れ等が生じやすいという問題があった。なお、テンション式防煙垂壁とは、2対の方立の間にシートが張設されてなる垂壁であり、例えば、天井から垂下されて設置される場合のシートの下部側に無目を有さない防煙垂壁が挙げられる。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題を解決し、引裂強さに優れ、火災時において変形しにくく、燃えにくい、新規な防煙垂壁用シート、及び当該シートを備えた防煙垂壁の提供を主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決すべく本発明者等が鋭意検討したところ、引裂強さを高めるには、防煙垂壁用シート中に熱可塑性樹脂フィルムを設けることが重要であることを知得した。ここで、防煙垂壁用シートの透明性を向上させるには、熱可塑性樹脂フィルムの透明性を高めることが重要となる。しかしながら、熱可塑性樹脂フィルムの透明性を高めるべく、熱可塑性樹脂フィルムとして、例えば、透明性の高いポリエチレンテレフタレートフィルムやポリカーボネートフィルムを採用する場合、当該フィルムは比較的高価であることから、熱可塑性樹脂フィルムの層数が増えれば防煙垂壁用シート自体のコストも比較的高くなってしまう。
【0008】
そして、本発明者等は、防煙垂壁用シートとして、ガラス繊維布に含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層/熱可塑性樹脂フィルム/ガラス繊維布に含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層をこの順で積層した層構造を採用し、且つ熱可塑性樹脂フィルムの厚さを特定範囲以上とすれば、シートの引裂強さを高くしつつ、熱可塑性樹脂フィルムは1層しか設けないため、熱可塑性樹脂フィルムとして比較的高価なフィルムを採用しても、比較的低いコストで製造することが可能となることを見出した。
【0009】
しかし、本発明者等が検討を行ったところ、単に、防煙垂壁用シートとして、ガラス繊維布に含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層/熱可塑性樹脂フィルム/ガラス繊維布に含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層をこの順で積層した層構造を採用しつつ、熱可塑性樹フィルムの厚さを特定範囲以上とするのみでは、火災時において変形しにくく、燃えにくい性質を具備できず、防煙垂壁として必要な性能を備えることができないことが判明した。
【0010】
そこで、本発明者等は、防煙垂壁用シートの火災時における変形のしにくさを、加熱試験における変形の有無を観察することにより評価した。そして、本発明者等は、防煙垂壁用シートを加熱した場合、硬化性樹脂層より熱可塑性樹脂フィルムの方が加熱収縮しやすく、熱可塑性樹脂フィルムの厚さが大きくなりすぎればこれに起因して熱可塑性樹脂フィルムの加熱収縮の程度が大きくなり、防煙垂壁用シート全体として変形が生じやすくなることを突きとめた。さらに本発明者等が検討を続け、防煙垂壁用シートに、引裂強さに優れ、火災時において変形しにくく、燃えにくい特性を備えさせるには、「熱可塑性樹脂フィルム」と「当該熱可塑性樹脂フィルムの両面に積層された、ガラス繊維布に含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層」とを含む防煙垂壁用シートであって、熱可塑性樹脂フィルムの厚さ及び防煙垂壁用シートの質量を特定範囲とすることが重要であることを見出した。本発明は、かかる知見に基づき、鋭意検討を重ねることにより完成された発明である。
【0011】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 熱可塑性樹脂フィルムと、
該熱可塑性樹脂フィルムの両面側に積層された、ガラス繊維布に含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層と、を含み、
前記熱可塑性樹脂フィルムの厚さが90~130μmであり、前記シートの質量が300~450g/m2である、防煙垂壁用シート。
項2. 前記熱可塑性樹脂フィルムの厚さが120~130μmであり、
前記シートの質量が350~430g/m2である、項1に記載の防煙垂壁用シート。
項3. 前記硬化性樹脂層を形成する樹脂が光硬化性樹脂である、項1又は2に記載の防煙垂壁用シート。
項4. 前記熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレートである、項1~3のいずれか1項に記載の防煙垂壁用シート。
項5. 前記硬化性樹脂層の臭素濃度が5~30質量%である、項1~4のいずれか1項に記載の防煙垂壁用シート。
項6. 全光線透過率が80%以上であり、ヘーズが20%以下である、項1~5のいずれか1項に記載の防煙垂壁用シート。
項7. 引裂強さが30N以上である、項1~6のいずれか1項に記載の防煙垂壁用シート。
項8. 表面抵抗率が5×1012Ω以下である、項1~7のいずれか1項に記載の防煙垂壁用シート。
項9. 50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験に供した際に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下になる、項1~8のいずれか1項に記載の防煙垂壁用シート。
項10. 50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験に供した際に、加熱開始後20分間、発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えない、項1~9のいずれか1項に記載の防煙垂壁用シート。
項11. 前記防煙垂壁がテンション式防煙垂壁である、項1~10のいずれか1項に記載の防煙垂壁用シート。
項12. 項1~11のいずれか1項に記載の防煙垂壁用シートを備える、防煙垂壁。
項13. 項1~11のいずれか1項に記載の防煙垂壁用シートの製造方法であって、下記工程1及び2を含む、防煙垂壁用シートの製造方法。
工程1:ガラス繊維布に含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層に厚さが90~130μmの熱可塑性樹脂フィルムが積層された中間体シートA、硬化性樹脂層を形成するための硬化性樹脂溶液B、ガラス繊維布C、及び工程フィルムDを準備する工程。
工程2:前記硬化性樹脂溶液Bを含侵させた前記ガラス繊維布Cを、前記中間体シートAと前記工程フィルムDとで、前記中間体シートAの熱可塑性樹脂フィルムの表面側が前記ガラス繊維布C側となるように挟み、この状態で前記硬化性樹脂溶液Bを硬化することにより、質量が300~450g/m2のシートを得る工程2。
【発明の効果】
【0012】
本発明の防煙垂壁用シートによれば、引裂強さに優れ、火災時において変形しにくく、燃えにくい防煙垂壁用シート、及び当該シートを備えた防煙垂壁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の防煙垂壁用シートの一例を示す横断面模式図である。
【
図2】本発明の引裂強さの測定方法を説明する略図的平面図である。
【
図3】一般財団法人建材試験センターの「防耐火性能試験・評価業務方法書」(2021年7月1日変更版)における「4.9.2 発熱性試験」を行う際に使用する試験装置の概略を示す図である。
【
図4】一般財団法人建材試験センターの「防耐火性能試験・評価業務方法書」(2021年7月1日変更版)における「4.9.2 発熱性試験」を行う際に使用する試験装置に含まれる試験ホルダー及び押さえ枠の概略図である。
図4中に示す数値(寸法)の単位はmmである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.防煙垂壁用シート
本発明の防煙垂壁用シートは、熱可塑性樹脂フィルムと、当該熱可塑性樹脂フィルムの両面に積層された、ガラス繊維布に含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層と、を含む防煙垂壁用シートであって、前記熱可塑性樹脂フィルムの厚さが90~130μmであり、前記シートの質量が300~450g/m2であることを特徴とする。以下、本発明の防煙垂壁用シートについて説明する。
【0015】
[防煙垂壁用シートの層構造]
本発明の防煙垂壁用シート1は、「熱可塑性樹脂フィルム2」と「当該熱可塑性樹脂フィルム2の両面に積層された、ガラス繊維布3に含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4」とを含む。本発明の防煙垂壁用シート1の厚さ方向の断面の模式図の一例を
図1に示す。
図1に示す防煙垂壁用シート1では、ガラス繊維布3に含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4/熱可塑性樹脂フィルム2/ガラス繊維布3に含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4が、この順で積層されてなる層構造を有する。即ち、
図1に示す本発明の防煙垂壁用シート1では、熱可塑性樹脂フィルム2が1層、ガラス繊維布3が2枚、及び硬化性樹脂層4が2層含まれている。
【0016】
図1において、硬化性樹脂層4は、ガラス繊維布3を構成している複数のガラス繊維の隙間を埋めており、硬化性樹脂層4の一方の表面側部分41と、他方の表面側部分42とは、当該隙間部分を介して通じている。
【0017】
本発明の防煙垂壁用シート1において設ける熱可塑性樹脂フィルム2の層数については、特に制限されないが、よりコストを低くするという観点から、1層であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂フィルム2と硬化性樹脂層4との間には、接着層等の他の層が含まれていてもよいし、熱可塑性樹脂フィルム2に硬化性樹脂層4が直接積層されたものとしてもよい。防煙垂壁用シートの透明性をより向上させるという観点と、より低いコストで製造可能とする観点から、熱可塑性樹脂フィルム2に硬化性樹脂層4が直接積層されたものであることが好ましい。
【0018】
[各層の構成]
以下、本発明の防煙垂壁用シート1を構成する各層の組成について詳述する。
【0019】
熱可塑性樹脂フィルム2
本発明の防煙垂壁用シート1は、熱可塑性樹脂フィルム2を含む。これにより、防煙垂壁用シートに優れた引裂強さを備えさせることができる。
【0020】
熱可塑性樹脂フィルム2を構成する熱可塑性樹脂の種類としては特に制限されないが、防煙垂壁用シートの透明性をより向上させるという観点からは、ポリ塩化ビニル以外の熱可塑性樹脂が好ましい。ポリ塩化ビニルフィルムは可塑剤を多量に含有しており、防煙垂壁としての使用時に当該可塑剤が表面にブリードアウトし、防煙垂壁の視認性に悪影響を及ぼす場合がある。熱可塑性樹脂フィルム2を構成する熱可塑性樹脂としては、具体的には、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリアミド、又はポリシクロオレフィン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはポリエステルである。ポリエステルとして、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン-2.6-ナフタレート(PEN)が挙げられ、特に好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)である。
【0021】
熱可塑性樹脂フィルム2は、未延伸フィルム又は延伸フィルムのいずれであってもよいが、透明性をより向上させるという観点から延伸フィルムが好ましく、2軸延伸フィルムがより好ましい。
【0022】
熱可塑性樹脂フィルム2の厚さは、90~130μmである。このような厚さとすることにより、得られる防煙垂壁用シートは、引裂強さに優れ、火災時において変形しにくい特性と燃えにくい特性を備えさせることができる。本発明の防煙垂壁用シート1に引裂強さ、火災時における変形しにくい特性、及び燃えにくい特性をより好適に備えさせるという観点から、熱可塑性樹脂フィルム2の厚さとして、好ましくは100~130μm、より好ましくは120~130μmが挙げられる。
【0023】
本発明の防煙垂壁用シート1において、熱可塑性樹脂フィルム2の質量としては、例えば、100~200g/m2が挙げられる。防煙垂壁用シート1の引裂強さの向上と燃えにくい特性とをより両立しやすくする観点から、熱可塑性樹脂フィルム2の質量として、好ましくは130~180g/m2、より好ましくは160~180g/m2が挙げられる。
【0024】
熱可塑性樹脂フィルム2の全光線透過率については、特に制限されないが、例えば、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは91~98%が挙げられる。また、熱可塑性樹脂フィルム2のヘーズについては、特に制限されないが、例えば、5%以下、好ましくは1.5%以下、より好ましくは、0.3~1.0%が挙げられる。本明細書において、熱可塑性樹脂フィルム層2の全光線透過率は、日本工業規格JIS K7361-1 1997「プラスチック―透明材料の全光線透過率の試験方法-第1部:シングルビーム法」に従って測定される値である。また、熱可塑性樹脂フィルム層2のヘーズは、日本工業規格JIS K7136 2000「プラスチック―透明材料のヘーズの求め方」に従って測定される値である。
【0025】
また、熱可塑性樹脂フィルム2の一例として、臭素を実質的に含有しないものが挙げられる。ここで「臭素を実質的に含有しない」とは、熱可塑性樹脂フィルム2の臭素濃度が1質量%以下であることを指す。熱可塑性樹脂フィルム2の一例として、臭素濃度が0.1質量%以下のもの、又は臭素を含有しないものが挙げられる。本明細書において、熱可塑性樹脂フィルム2の臭素濃度は、エネルギー分散型X線分析(EDS分析)を用いて測定される値である。
【0026】
ガラス繊維布3
ガラス繊維布3は、複数のガラス繊維により構成されている。ガラス繊維布3において、複数のガラス繊維は、互いに絡み合って1枚の布を形成している。ガラス繊維布3としては、例えば、複数の経糸と複数の緯糸とで構成されるガラス繊維織物(ガラスクロス)が挙げられる。ガラス繊維織物の織組織としては、特に制限されず、例えば、平織、朱子織、綾織、斜子織、畦織等が挙げられる。
【0027】
ガラス繊維布3がガラス繊維織物である場合、その織密度については、特に制限されないが、例えば、経糸の織密度が30~120本/25mm、好ましくは40~190本/25mm、より好ましくは50~70本/25mmが挙げられ、緯糸の織密度が30~120本/25mm、好ましくは40~90本/25mm、より好ましくは50~70本/25mmが挙げられる。本明細書において、織密度は、日本工業規格JIS R 3420:2013「ガラス繊維一般試験方法」の「7.9 密度(織り密度)」に規定されている方法に準じて測定される値である。
【0028】
ガラス繊維布3を構成するガラス繊維のガラス材料としては、特に制限されず、公知のガラス材料を用いることができる。ガラス材料としては、例えば、無アルカリガラス(Eガラス)、耐酸性の含アルカリガラス(Cガラス)、高強度・高弾性率ガラス(Sガラス、Tガラス等)、耐アルカリ性ガラス(ARガラス)等が挙げられる。これらのガラス材料の中でも、無アルカリガラス(Eガラス)は、汎用性の高く、好適である。ガラス繊維布3を構成するガラス繊維は、1種類のガラス材料からなるものであってもよいし、異なるガラス材料からなるガラス繊維を2種類以上組み合わせたものであってもよい。また、防煙垂壁用シート1の透明性を向上させる観点から、後述する、硬化性樹脂層4の屈折率と近似するガラス材料を選択することが好ましい。
【0029】
ガラス繊維布3を構成するガラス繊維としては、ガラス長繊維である単繊維が複数本撚りまとめられたガラスヤーンが好ましい。ガラスヤーン1本当たりに含まれる単繊維の本数としては、例えば、30~400本程度、好ましくは40~200本程度、より好ましくは40~120本程度、更に好ましくは80~120本が挙げられる。また、ガラスヤーンにおける単繊維の平均直径としては、例えば、3.0~6.0μm程度、好ましくは3.0~5.5μm程度、より好ましくは4.8~5.5μmが挙げられる。ガラスヤーンの番手としては、例えば、3~30tex、好ましくは1~12tex、より好ましくは1~6tex、更に好ましくは4~6tex、特に好ましくは5~6texが挙げられる。本明細書において、ガラスヤーン1本当たりに含まれる単繊維の本数は、20本のガラスヤーンについて、走査電子顕微鏡(SEM)で倍率500倍で各ガラスヤーンを構成する単繊維の断面を観察することにより、ガラスヤーン1本当たりに含まれる単繊維の本数を測定し、その平均値を算出することにより求められる値である。ガラスヤーンにおける単繊維の平均直径は、20本のガラスヤーンについて、走査電子顕微鏡(SEM)で倍率500倍で各ガラスヤーンを構成する単繊維の断面を観察することにより、全単繊維の直径(最も大きい部分)を測定し、その平均値を算出することにより求められる値である。ガラスヤーンの番手の単位texは、1000m当たりのグラム数に相当しており、日本工業規格JIS R 3420 2013「ガラス繊維一般試験方法」の「7.1 番手」に規定されている方法に準じて測定される値である。
【0030】
ガラス繊維布3は、1種のガラスヤーンで構成されていてもよく、また構成する単繊維の本数や直径、番手等が異なる2種以上のガラスヤーンで構成されていてもよい。
【0031】
ガラス繊維布3の1枚の厚さとしては、例えば、10~60μm、好ましくは25~50μm、より好ましくは25~35μmが挙げられる。本明細書において、ガラス繊維布3の1枚の厚さは、日本工業規格JIS R3420:2013「ガラス繊維一般試験方法」の「7.10.1 クロスの厚さ」に規定されているA法に準じて測定される値である。
【0032】
また、ガラス繊維布3の1枚あたりの質量としては、例えば、10~60g/m2、好ましくは25~50g/m2、より好ましくは25~35g/m2が挙げられる。
【0033】
ガラス繊維布3と後述の硬化性樹脂層4の屈折率の差としては、例えば、0.05以下、好ましくは0.02以下、より好ましくは0.01以下が挙げられる。ガラス繊維布3の屈折率としては、例えば、1.45~1.65程度、好ましくは1.50~1.60程度が挙げられる。本明細書において、ガラス繊維布3の屈折率は、日本工業規格「JIS K 7142:2008 プラスチック-屈折率の求め方」に規定されている「B法」に準じて測定される値である。
【0034】
ガラス繊維布3のガラス体積率については、特に制限されないが、38%以上であることが好ましい。ガラス体積率が38%以上であるガラス繊維布3は、例えば、ガラス繊維に開繊処理を施すことにより得られる。本明細書において、ガラス繊維布3のガラス体積率は、以下の式に従って算出される値である。
【数1】
【0035】
本発明の防煙垂壁用シート1において、ガラス繊維布3と硬化性樹脂層4との質量比については、特に制限されないが、防煙垂壁用シート1の透明性をより向上させる観点から、ガラス繊維布3と硬化性樹脂層4との合計質量100質量部当たり、ガラス繊維布3が20~50質量部、好ましくは20~40質量部、より好ましくは25~35質量が挙げられる。また、本発明の防煙垂壁用シート1においてガラス繊維布3が占める質量比については、特に制限されないが、防煙垂壁用シート1の透明性をより向上させる観点から、防煙垂壁用シート1の総質量100質量%当たり、2枚のガラス繊維布3の合計で、5~30質量%、好ましくは10~25質量%が挙げられる。
【0036】
本発明の防煙垂壁用シート1において設けられる2枚のガラス繊維布3は、同一のものであってもよく、また相互に異なるものであってもよい。
【0037】
硬化性樹脂層4
本発明の防煙垂壁用シート1において、硬化性樹脂層4は、前述のガラス繊維布3に含浸された状態で含まれており、硬化性樹脂の硬化物により形成されている。具体的には、硬化性樹脂層4は、硬化性樹脂に対して、光、熱等のエネルギーを与えることによって硬化性樹脂が硬化した硬化物により形成されている。
【0038】
硬化性樹脂としては、防煙垂壁用シート1の透明性をより一層向上させる観点から、硬化性樹脂層4と上記ガラス繊維布3の屈折率とを近似させることができるものが好ましい。硬化性樹脂として、好ましくは光硬化性樹脂が挙げられる。光硬化性樹脂としては、例えば、ビニルエステル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フルオレンアクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、硬化性アクリル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0039】
上記ビニルエステル樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型ビニルエステル、臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル、ノボラック型ビニルエステル等が挙げられる。これらのビニルエステル樹脂の中でも、ビスフェノールA型ビニルエステル、臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル及びノボラック型ビニルエステルからなる群より選ばれる1種以上を含むものとすることが好ましく、ビスフェノールA型ビニルエステル及び臭素化ビスフェノールA型ビニルエステルを併用することがより好ましい。
【0040】
硬化性樹脂層4を形成する硬化性樹脂の好適な一例として、アクリルシラップを含む硬化性樹脂組成物が挙げられる。アクリルシラップを含む硬化性樹脂組成物を使用することにより、防煙垂壁用シート1の透明性と帯電防止性能をより一層向上させることが可能になる。本発明において、アクリルシラップとは、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の(メタ)アクリル酸エステルポリマーをメタクリル酸メチル等のアクリル単量体に溶解した重合性液状混合物をいう。上記アクリルシラップの中でも、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル共重合体、及びメタクリル酸メチル/アクリル酸ノルマルブチル共重合体からなる群より選ばれる1種以上のアクリル酸エステルポリマーをメタクリル酸メチル単量体に溶解したアクリルシラップが特に好ましい。
【0041】
また、硬化性樹脂層4を構成する硬化性樹脂の好適な他の例として、硬化性アクリル樹脂、エポキシ樹脂又はビニルエステル樹脂が挙げられ、臭素化ビスフェノールA型ビニルエステルを含むものがより好ましい。これらの硬化性樹脂を使用することにより、防煙垂壁用シート1に燃えにくい特性をより向上させることができる。
【0042】
硬化性樹脂層4は、熱可塑性樹脂を含んでいないことが好ましい。また、硬化性樹脂層4は、硬化促進剤、難燃剤、紫外線吸収剤、充填剤等の添加物を更に含んでいてもよい。特に、防煙垂壁用シート1に燃えにくい特性をより向上させる観点から、硬化性樹脂層4は難燃剤を含むことが好ましい。難燃剤としては、リン酸エステル系難燃剤、含ハロゲン有機化合物、無機系難燃剤等が挙げられる。中でも、含ハロゲン有機化合物が好ましく、含臭素有機化合物がより好ましい。含臭素有機化合物としては、具体的には、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、デカブロモジフェニルオキサイド(DBDPO)、オクタブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノールA(TBBA)、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、ビス(ペンタブロモフェノキシ)エタン(BPBPE)、テトラブロモビスフェノールAエポキシ樹脂(TBBAエポキシ)、テトラブロモビスフェノールAカーボネート(TBBA-PC)、エチレン(ビステトラブロモフタル)イミド(EBTBPI)、エチレンビスペンタブロモジフェニル、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン(TTBPTA)、ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモビスフェノールA(DBP-TBBA)、ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモビスフェノールS(DBP-TBBS)、臭素化ポリフェニレンエーテル(ポリ(ジ)ブロモフェニレンエーテルなどを含む)(BrPPE)、臭素化ポリスチレン(ポリジブロモスチレン、ポリトリブロモスチレン、架橋臭素化ポリスチレン等を含む)(BrPS)、臭素化架橋芳香族重合体、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化スチレン-無水マレイン酸重合体、テトラブロモビスフェノールS(TBBS)、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート(TTBNPP)、ポリブロモトリメチルフェニルインダン(PBPI)、及びトリス(ジブロモプロピル)-イソシアヌレート(TDBPIC)等が挙げられる。これらの中でも、TBBAが好ましい。
【0043】
硬化性樹脂層4の一例として、臭素濃度が5~30質量%であることが挙げられる。特に、硬化性樹脂層4の臭素濃度が10~20質量%である場合には、燃えにくい特性と透明性とをより好適に両立させることができる。また、硬化性樹脂層4の他の例として、臭素を実質的に含有しないものが挙げられる。ここで「臭素を実質的に含有しない」とは、硬化性樹脂層4の臭素濃度が1質量%以下であることを指す。かかる硬化性樹脂層4として、より具体的には、臭素濃度が0.5質量%以下のもの、臭素濃度が0.1質量%以下のもの、又は臭素を含有しないものが挙げられる。本明細書において、硬化性樹脂層4の臭素濃度は、エネルギー分散型X線分析(EDS分析)を用いて測定される値である。
【0044】
また、硬化性樹脂層4は、硬化性樹脂層4の表面及び/又は硬化性樹脂層4中に、帯電防止剤を含むものとすることができる。帯電防止剤としては、例えば、界面活性剤、金属、金属化合物等が挙げられる。
【0045】
帯電防止剤として使用される界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性(非イオン性)界面活性剤、及び両性界面活性剤が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、例えば、モノアルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩などのアルキルアミン塩;アルキルトリメチルアンモニウムハイドライド、ジアルキルジメチルアンモニウムハイドライドなどの第4級アンモニウム塩等が挙げられる。また、カチオン性界面活性剤は、反応性二重結合を有する反応性のカチオン性界面活性であってもよい。更に、カチオン性界面活性剤は、構造中にパーフルオロアルキル基を有するフッ素系のカチオン性界面活性剤であってもよい。
【0046】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸及びその塩、アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩等が挙げられる。また、アニオン性界面活性剤としては、反応性二重結合を有する反応性のアニオン性界面活性剤であってもよい。反応性二重結合を有する反応性のアニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルプロペニルフェノールポリエチレンオキサイド付加物の硫酸エステル塩、アリルアルキルフェノールポリエチレンオキサイド付加物の硫酸エステル塩、アリルジアルキルフェノールポリエチレンオキサイド付加物の硫酸エステル塩等が挙げられる。更に、アニオン性界面活性剤は、構造中にパーフルオロアルキル基を有するフッ素系のアニオン性界面活性剤であってもよい。
【0047】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体等や、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のソルビタン誘導体等が挙げられる。また、ノニオン性界面活性剤は、反応性二重結合を有する反応性のノニオン性界面活性剤であってもよい。反応性二重結合を有する反応性のノニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルプロペニルフェノールポリエチレンオキサイド付加物、アリルアルキルフェノールポリエチレンオキサイド付加物、アリルジアルキルフェノールポリエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。更に、ノニオン性界面活性剤は、構造中にパーフルオロアルキル基を有するフッ素系のノニオン性界面活性剤であってもよい。
【0048】
界面活性剤の中でも、透明性と帯電防止性との両立を一層好適に図る観点から、アニオン性界面活性剤が好ましく、とりわけ、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩が好ましい。
【0049】
帯電防止剤として使用される金属又は金属化合物を構成する金属元素としては、例えば、Ag、Ni、Cu、Sn、Sb、Al、In、Ti等が挙げられ、また、金属単体としたときの標準電極電位が0eV未満の金属元素であってもよい。金属化合物としては、例えば、金属酸化物(五酸化アンチモン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、アンチモンドープ酸化インジウム、スズドープ酸化インジウム、酸化銀など)等が挙げられる。
【0050】
硬化性樹脂層4における帯電防止剤の含有量としては、硬化性樹脂層4の総量100質量部当たり、例えば、帯電防止剤が1~10質量部、好ましくは3~8質量部が挙げられる。
【0051】
硬化性樹脂層4には、硬化性樹脂を硬化させるための重合開始剤が含まれ得る。重合開始剤の種類については、使用する硬化性樹脂の種類に応じて適宜選定すればよい。光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン、2,4,6,-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。これらの光重合開始剤の中でも、防煙垂壁用シート1の透明性向上の観点から、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトンが好ましい。これらの光重合開始剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。硬化性樹脂層4における重合開始剤の含有量の割合としては、硬化性樹脂層4の総量100質量部当たり、重合開始剤が1~5質量部が挙げられる。
【0052】
本発明において、防煙垂壁用シート1の透明性を高めるために、前述のガラス繊維布3と硬化性樹脂層4の屈折率とは、近似するように設定することが望ましい。このような観点から、硬化性樹脂層4の屈折率としては、好ましくは1.45~1.65程度、より好ましくは1.50~1.60程度が挙げられる。硬化性樹脂層4の屈折率は、日本工業規格JIS K 7142:2008「プラスチック-屈折率の求め方」に規定されている「B法」に準じて測定される値である。
【0053】
本発明の防煙垂壁用シート1において、硬化性樹脂層4の1層当たりの質量(ガラス繊維布3を除く質量)としては、例えば、50~100g/m2が挙げられる。本発明の防煙垂壁用シート1において、透明性の向上と発熱のしにくさとの両立をより一層好適に図る観点から、硬化性樹脂層4の1層当たりの質量(ガラス繊維布3を除く質量)として、好ましくは50~80g/m2、より好ましくは50~70g/m2が挙げられる。
【0054】
また、硬化性樹脂層4の1層当たりの厚さ(ガラス繊維布3を含む状態の厚さ)としては、例えば、40~100μmが挙げられる。本発明の防煙垂壁用シート1において、透明性の向上と燃えにくさとの両立をより一層好適に図る観点から、硬化性樹脂層4の1層当たりの厚さ(ガラス繊維布3を含む状態の厚さ)として、好ましくは40~80μm、より好ましくは55~70μmが挙げられる。
【0055】
本発明の防煙垂壁用シート1において設けられる2層の硬化性樹脂層4は、同一組成及び厚さのものであってもよく、また、相互に厚さや組成が異なるものであってもよい。
【0056】
[防煙垂壁用シートの特性]
本発明の防煙垂壁用シート1は、防煙垂壁として使用した際に、視野の妨げとなったり、美観を損ねたりすることを抑制するために、防煙垂壁用シート1が高い透明性を有することが好ましい。高い透明性を担保する観点から、本発明の防煙垂壁用シート1の全光線透過率として、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上が挙げられる。また、本発明の防煙垂壁用シート1のヘーズとしては、例えば、20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下が挙げられる。本明細書において、防煙垂壁用シート1の全光線透過率は、日本工業規格JIS K 7361-1:1997「プラスチック-透明材料の全光線透過率の試験方法-第1部:シングルビーム法」に従って測定される値である。防煙垂壁用シート1のヘーズは、日本工業規格JIS K7136 2000「プラスチック-透明材料のヘーズの求め方」に従って測定される値である。
【0057】
本発明の防煙垂壁用シート1は、優れた引裂強さを有している。本発明の防煙垂壁用シート1が有する引裂強さとして、例えば、30N以上、好ましくは40N以上が挙げられる。また、本発明の防煙垂壁用シート1が有する引裂強さの上限値については特に制限されないが、例えば、100N以下、80N以下、又は60N以下が挙げられる。本発明の防煙垂壁用シート1が有する引裂強さとして、具体的には30~100N、40~80N、又は40~60Nが挙げられる。本明細書において、防煙垂壁用シート1の引裂強さは、定速荷重型引張試験機を用いて、つかみ間隔25mm、引張速度200mm/分の条件で、防煙垂壁用シート1のたて方向及びよこ方向に引張試験を行うことにより測定される「たて方向の最大荷重(N)」と「よこ方向の最大荷重(N)」の平均値である。
【0058】
本発明の防煙垂壁用シート1は、火災時に燃えにくい(発熱しにくい)特性を有している。本発明の防煙垂壁用シート1が有する当該特性の指標として、50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験において、加熱開始後20分間の総発熱量が、例えば、8MJ/m2以下、好ましくは6MJ/m2以下、より好ましくは5MJ/m2以下が挙げられる。また、本発明の防煙垂壁用シート1が有する当該特性の他の指標として、50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験において、加熱開始後20分間、発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えないこと;好ましくは、加熱開始後20分間、発熱速度が3秒以上継続して200kW/m2を超えないこと;より好ましくは、加熱開始後20分間、発熱速度が1秒以上継続して200kW/m2を超えないことが挙げられる。50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験における総発熱量、及び単位面積当たりの発熱速度は、一般財団法人建材試験センター(日本国)の「防耐火性能試験・評価業務方法書」(2021年7月1日変更版)における「4.9.2 発熱性試験」に従って求められる値である。なお、「防耐火性能試験・評価業務方法書」(2021年7月1日変更版)における「4.9.2 発熱性試験」は、一般財団法人建材試験センターの「防耐火性能試験・評価業務方法書」(平成26年3月1日変更版)における「4.10.2 発熱性試験・評価方法」と実質的に同一である。
【0059】
本発明の防煙垂壁用シート1は、表面抵抗率が5×1012Ω以下であることが好ましい。このような表面抵抗率とすることにより、防煙垂壁として施工する際の塵埃の付着を低減させ易くすることができる。このような表面抵抗率を備えさせるには、例えば、硬化性樹脂層4に帯電防止剤を含有させればよい。本明細書において、防煙垂壁用シート1の表面抵抗率は、日本工業規格JIS K 6911 1995「熱硬化性プラスチック一般試験方法」の「5.13 抵抗率」の「5.13.2 積層板」に規定されている方法に準じて測定される値である。
【0060】
本発明の防煙垂壁用シート1の質量は、300~450g/m2である。このような質量を満たすことにより、火災時に燃えにくい(発熱しにくい)特性を備えさせることが可能になる。火災時に燃えにくい(発熱しにくい)特性をより好適に具備させるという観点から、本発明の防煙垂壁用シート1の質量として、好ましくは330~430g/m2、より好ましくは350~430g/m2が挙げられる。
【0061】
本発明の防煙垂壁用シート1の厚さとしては、例えば、200~330μm、好ましくは240~315μm、より好ましくは240~280μmが挙げられる。
【0062】
本発明の防煙垂壁用シート1において、硬化性樹脂層4の1層あたりの厚さに対する熱可塑性樹脂フィルム2の厚さの比(熱可塑性樹脂フィルム2の厚さ/硬化性樹脂層4の1層あたりの厚さ)としては、例えば、1.3~2.5、好ましくは1.5~2.5が挙げられ、より好ましくは1.9~2.2が挙げられる。
【0063】
[防煙垂壁用シートの用途]
本明細書において、「防煙垂壁」とは、火災の時に発生する一酸化炭素や有毒ガスなどを含む煙を一時的に遮断・誘導するために設けられ、建築物の天井に垂下して取り付けられる垂壁であり、排煙設備の一つである。また、本明細書において、防煙垂壁用シートとは、防煙垂壁の壁部材(垂壁本体)として使用されるシートである。
【0064】
本発明の防煙垂壁用シート1が適用される防煙垂壁の種類については、特に制限されないが、本発明の防煙垂壁用シート1はテンション式防煙垂壁用のシートとして好適に使用される。テンション式防煙垂壁とは、2対の方立の間に防煙垂壁用シート1が張設されてなる垂壁であり、例えば、天井に垂下されて設置される場合の防煙垂壁用シート1の下部側に無目を有さない防煙垂壁が挙げられる。
【0065】
[本発明の防煙垂壁用シート1の製造方法]
本発明の防煙垂壁用シート1の製造方法としては、特に制限されず、例えば、以下の工程1及び2を含む製造方法が挙げられる。
工程1:ガラス繊維布に含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層に厚さが90~130μmの熱可塑性樹脂フィルムが積層された中間体シートA、硬化性樹脂層を形成するための硬化性樹脂溶液B、ガラス繊維布C、及び工程フィルムDを準備する工程。
工程2:前記硬化性樹脂溶液Bを含侵させた前記ガラス繊維布Cを、前記中間体シートAと前記工程フィルムDとで、前記中間体シートAの熱可塑性樹脂フィルムの表面側が前記ガラス繊維布C側となるように挟み、この状態で前記硬化性樹脂溶液Bを硬化することにより、質量が300~450g/m2のシートを得る工程。
【0066】
具体的に、まず、熱可塑性樹脂フィルム2として使用されるフィルムを1枚、ガラス繊維布3を2枚、硬化性樹脂層4を形成するための硬化性樹脂溶液、及び工程フィルムを2枚準備する。工程フィルムとは、製造時に支持体として一時的に使用されるフィルムである。工程フィルムは、硬化性樹脂溶液を光硬化して硬化性樹脂層4とすることが可能な光透過性を有していればよく、例えば、透明PETフィルム等が挙げられる。
【0067】
次に、上記の硬化性樹脂溶液を、1枚の工程フィルムの一方の面側、及び上記熱可塑性樹脂フィルム2として使用されるフィルムの一方の面側に塗布する。そして、当該硬化性樹脂溶液を塗布した工程フィルムと、当該硬化性樹脂溶液を塗布した熱可塑性樹脂フィルム2とするフィルムとで、1枚のガラス繊維布3を、硬化性樹脂溶液を塗布した面がガラス繊維布3側となるように挟み、圧着してガラス繊維布3の両面側から所望量の硬化性樹脂溶液を含浸させる。
【0068】
そして、上記ガラス繊維布3に含浸させた硬化性樹脂溶液を硬化させる。硬化性樹脂が光硬化性樹脂の場合、光エネルギーの付与によって樹脂溶液を硬化させる場合には、硬化性樹脂溶液に光を照射して硬化させる。光照射の条件としては、例えば積算光量100~500mJ/cm2程度とすることが挙げられる。以上の様にして、工程フィルム/ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4/熱可塑性樹脂フィルム2の層構造からなる中間体シートを得ることができる。なお、硬化性樹脂が熱硬化性樹脂の場合は、光エネルギーの付与に代えて、熱エネルギーの付与により硬化することができ、加熱温度としては例えば50~200℃程度が挙げられる。
【0069】
次いで、上記硬化性樹脂溶液を、得られた中間体シートの熱可塑性樹脂フィルム2の表面側、及び上記準備した工程フィルムのうち他方の1枚の一方の面側に塗布する。そして、当該硬化性樹脂溶液を塗布した中間体シートと、当該硬化性樹脂溶液を塗布した工程フィルムとで、もう1枚のガラス繊維布3を、硬化性樹脂溶液を塗布した面がガラス繊維布3側となるように挟み、圧着してガラス繊維布3の両面側から所望量の硬化性樹脂溶液を含浸させる。
【0070】
次に、上記ガラス繊維布3に含浸させた硬化性樹脂溶液を硬化させる。硬化方法は前述の中間体シートの製造方法で述べたのと同様である。これにより、工程フィルム/ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4/熱可塑性樹脂フィルム2/ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4/工程フィルムの層構造からなるシートを得られる。そして、両表面の工程フィルムを剥離することにより、本発明の防煙垂壁用シート1(即ち、ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4/熱可塑性樹脂フィルム2/ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4の層構造を有するシート)を得ることができる。工程フィルムは、カバーフィルムとすることもでき、この場合、防煙垂壁としての施工後に剥離することができる。
【0071】
2.防煙垂壁
本発明の防煙垂壁は、前記防煙垂壁用シート1を壁部材(垂壁本体)として備える。本発明の防煙垂壁の種類としては特に制限されないが、好適な例としては、テンション式防煙垂壁が挙げられる。テンション式防煙垂壁とは、2対の方立の間に防煙垂壁用シート1が張設されてなる垂壁であり、例えば、天井に垂下されて設置される場合の防煙垂壁用シート1の下部側に無目を有さない防煙垂壁が挙げられる。
【実施例0072】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0073】
1.測定及び評価方法
1-1.ガラスヤーンの単繊維平均直径(μm)及び単繊維本数(本)
ガラス繊維布を30cm角にカットしたものを2枚用意し、一方を経糸観察用、他方を緯糸観察用として、それぞれをエポキシ樹脂(商品名「3091」、丸本ストルアス株式会社製)に包埋して硬化させた。次いで、エポキシ樹脂に包埋させたガラスクロスを、経糸又は緯糸を構成する単繊維の断面が観察可能な程度に研磨し、走査電子顕微鏡(SEM)(商品名「JSM-6390A」、日本電子株式会社製)を用い、倍率500倍で観察することによりガラスヤーンの単繊維平均直径(μm)及び単繊維本数(本)を測定した。
(1)ガラス長繊維の単繊維平均直径(μm)
経糸及び緯糸それぞれについて無作為に20本選び、当該20本のガラスヤーンのそれぞれに含まれる全単繊維の断面を観察して直径を測定して平均値を算出し、経糸及び緯糸の単繊維平均直径とした。
(2)単繊維本数(本)
経糸及び緯糸それぞれについて無作為に20本選び、20本のガラスヤーンのそれぞれに含まれる全単繊維数を測定して平均値を算出し、経糸及び緯糸の単繊維本数とした。
【0074】
1-2.ガラスヤーンの番手
ガラスヤーンの番手は、日本工業規格JIS R 3420 2013「ガラス繊維一般試験方法」の「7.1 番手」に規定されている方法に準じて測定した。具体的には、先ず、糸巻き装置から500mのガラスヤーンを採取し、これを試験片とした。試験片を平らに置いてマッフル炉に入れて、625℃で25分間焼成した後に、デシケーター中で放冷して、試験片の質量を測定した。以下の式に従って番手を算出した。
【数2】
【0075】
1-3.ガラス繊維布3の織密度(本/25mm)
ガラス繊維布3の織密度は、日本工業規格JIS R 3420:2013「ガラス繊維一般試験方法」の「7.9 密度(織り密度)」に規定されている方法に準じて、経糸及び緯糸の織密度を測定した。具体的には、ガラス繊維布3の端及び耳から50mm以上離れた位置を測定対象とし、測定間隔を10mm以上200mm以下に設定し、設定した測定間隔内にある全部の糸本数を測定した。これを1回の測定とし、前に測定した糸が含まれない他の位置に移して、同様の方法で測定間隔内にある全部の糸本数を更に2回測定した。3回の各測定毎に、以下の式に従って25mm当たりの糸本数を求め、3回の測定値の平均値を算出した。
【数3】
【0076】
1-4.ガラス繊維布3の厚さ(μm)
ガラス繊維布3の厚さは、日本工業規格JIS R3420:2013「ガラス繊維一般試験方法」の「7.10.1 クロスの厚さ」に規定されているA法に準じて測定した。具体的には、マイクロメータを用いて,スピンドルを静かに回転させて測定面に平行に軽く接触させ、ラチェットが3回音をたてた後の目盛を読み取ることによりガラス繊維布3の厚さを測定した。なお、ガラス繊維布3の厚さは、経糸及び横糸の交点部分を測定した。
【0077】
1-5.ガラス繊維布3及び硬化性樹脂層4の屈折率
ガラス繊維布3及び硬化性樹脂層4の屈折率は、日本工業規格JIS K 7142:2008「プラスチック-屈折率の求め方」に規定されている「B法」に準じて測定した。具体的には、先ず、ガラス繊維布3を構成するガラス繊維及び硬化性樹脂層4を、光学顕微鏡を用いて倍率400倍で観察したときにベッケ線が観察できる程度に粉砕し、測定サンプルとした。別途、屈折率が0.002ずつ異なる複数の浸液を準備した。少量の浸液をスライドガラス上に置き、更にスライドガラス上の浸液に測定サンプル数粒を置いて、カバーガラスを載せた。そして、光源として、ハロゲンランプにD線用の干渉フィルターを設けたものを用い、光学顕微鏡を用いて倍率400倍で測定サンプルに焦点を合わせた後に、顕微鏡のステージと対物レンズとの間を離して焦点を少し外した。この操作によって、測定サンプルの屈折率と浸液の屈折率が一致しない場合にはベッケ線(即ち、粉体の周囲又は内側に見える明るい光輪)は屈折率が大きい方に移動し、測定サンプルの屈折率と浸液の屈折率が一致する場合にはベッケ線は現れない。測定サンプルの屈折率が浸液の屈折率と一致するか、又は測定サンプルの屈折率が、一連の浸液の中で近接する2つの屈折率の間に収まるまで測定を繰り返すことにより、屈折率を測定した。屈折率の測定は温度23℃の条件で3回行い、3回の測定値の平均値を屈折率の値とした。
【0078】
1-6.ガラス繊維布3の質量(g/m
2
)
ガラス繊維布3の質量は、日本工業規格JIS R 3420:2013「ガラス繊維一般試験方法」の「7.2 クロス及びマットの質量(質量)」に規定されている方法に準じて測定した。具体的には、ガラス繊維布3の耳端から50mm以上離れたところから、面積100cm
2の正方形の試験片を採取し、試験片を105℃で1時間乾燥させた後に、試験片の質量を測定し、以下の式に従って1m
2当たりの質量を算出した。
【数4】
【0079】
1-7.熱可塑性樹脂フィルム2及び硬化性樹脂層4中の臭素濃度(質量%)
熱可塑性樹脂フィルム2及び硬化性樹脂層4における臭素濃度は、エネルギー分散型X線分析(EDS分析)により測定した。具体的には、防煙垂壁用シート1を縦1cm×横1cmとなるように裁断したものを測定試料とした。測定試料の切断面(防煙垂壁用シート1の厚さ方向の切断面)を測定面、測定試料の縦方向を測定時の深さ方向に設定し、測定試料の切断面における熱可塑性樹脂フィルム2の中心付近を測定点として、EDS分析装置を搭載した走査電子顕微鏡(商品名「JSM-6390A」、日本電子株式会社製)を用いて、熱可塑性樹脂フィルム2中の臭素濃度を測定した。また、同様の方法で、測定試料の切断面における硬化性樹脂層4の中心付近を測定点として、EDS分析装置を搭載した走査電子顕微鏡を用いて、硬化性樹脂層4中の臭素濃度を測定した。
【0080】
1-8.全光線透過率(%)及びヘーズ(%)
防煙垂壁用シート1の全光線透過率は、日本工業規格JIS K 7361-1:1997「プラスチック-透明材料の全光線透過率の試験方法-第1部:シングルビーム法」に従って測定した。防煙垂壁用シート1のヘーズは、日本工業規格JIS K 7136:2000「プラスチック-透明材料のヘーズの求め方」に従って測定した。熱可塑性樹脂フィルム層2の全光線透過率は、日本工業規格JIS K7361-1 1997「プラスチック―透明材料の全光線透過率の試験方法-第1部:シングルビーム法」に従って測定された値を示す。また、熱可塑性樹脂フィルム層2のヘーズは、日本工業規格JIS K7136 2000「プラスチック―透明材料のヘーズの求め方」に従って測定された値を示す。
【0081】
1-9.表面抵抗率(Ω)
防煙垂壁用シート1の表面抵抗率は、日本工業規格JIS K 6911 1995「熱硬化性プラスチック一般試験方法」の「5.13 抵抗率」の「5.13.2 積層板」に規定されている方法に準じて測定した。具体的には、防煙垂壁用シート1から、原厚のまま、長さ及び幅をそれぞれ100mmに切り取ったものを試験片とした。試験片を、温度20±2℃、湿度65±5%の雰囲気下に24時間以上静置することにより前処理した。測定装置としてアジレント・テクノロジー株式会社製ハイレジスタンスメータ4339Bを使用し、試験片を電極に圧着させ、引加電圧100Vで1分間充電後の抵抗値を測定し、表面抵抗率を求めた。
【0082】
1-10.引裂強さ(N)
防煙垂壁用シート1の引裂強さは、定速荷重型引張試験機を用いて、つかみ間隔25mm、引張速度200mm/分の条件で引張試験を行うことにより測定した。具体的には、防煙垂壁用シート1から75mm×150mmの試験片をたて方向及びよこ方向にそれぞれ採取し、試験片上に、
図2に示すように短辺25mm、長辺100mm、高さ75mmの等脚台形の印をつけ、等脚台形以外の領域(即ち、直角を含む2つの台形部;
図2に例示する台形A部に相当)の裏表両面に滑り止めのためのテープ(商品名「600S」、積水化学株式会社製)を貼付した。なお、試験片には切れ目は入れなかった。定速荷重型引張試験機(商品名「RTC-1310A」、株式会社オリエンテック製)を用い、試験片のつかみ間隔を25mmとして、試験片の等脚台形の短辺側を張り、等脚台形の長辺側は緩めてクランプに挟み、200mm/分の引張速度で引張試験を行い、引き裂くときに示す最大荷重を測定した。たて方向の最大荷重とよこ方向の最大荷重とをそれぞれ測定し、たて方向の最大荷重及びよこ方向の最大荷重の平均値(=(たて方向の最大荷重(N)+よこ方の向最大荷重(N))/2)を引裂強さ(N)として求めた。本測定条件において、引裂強さが30N以上である場合には、優れた引裂強さを有するものとして合格と判断される。
【0083】
1-11.発熱性試験における総発熱量(MJ/m
2
)、及び単位面積当たりの発熱速度200kW/m
2
超過継続時間(秒)
防煙垂壁用シート1の50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験における総発熱量、及び単位面積当たりの発熱速度200kW/m2超過継続時間を、一般財団法人建材試験センターの「防耐火性能試験・評価業務方法書」(2021年7月1日変更版)における「4.9.2 発熱性試験」に従って測定した。具体的な方法は、以下の通りである。
【0084】
[試験体]
(1)試験体(防煙垂壁用シート1)の個数は3個とする。
(2)試験体の形状及び寸法は、1辺の大きさが99mm±1mmの正方形とする。
(3)試験前に、試験体を温度23℃±2℃、相対湿度50%±5%で一定質量になるように養生する。
[試験装置]
(1)使用する試験装置の概略図を
図3に示す。試験装置は、円錐状に形作られた輻射電気ヒーター、スパークプラグ、輻射熱遮蔽板、試験体ホルダー、ガスサンプリング装置及びガス流量の測定ができる排気システム、熱流計等で構成される。
(2)輻射電気ヒーターは、50kW/m
2の輻射熱を試験体表面に均一な照射が安定してできるものとする。
(3)輻射熱遮蔽板は、試験開始前の輻射熱から試験体を保護できるものとする。
(4)試験装置に含まれる試験ホルダー及び押さえ枠の概略図を
図4に示す。試験体ホルダーは、外寸で1辺106mm±1mmの正方形で、外寸で深さが25mm±1mmの大きさで、厚さが2.4mm±0.15mmのステンレス鋼製とする。押さえ枠は、内寸で1辺111mm±1mmの正方形で、外寸で高さ54mm±1mmで、厚さが1.9mm±0.1mmで、上部に1辺94.0mm±0.5mmの正方形の開口部を設けたステンレス鋼製とする。
(5)排気システムは、試験温度で有効に機能する遠心式排気ファン、フード、ファンの吸気及び排気ダクト、オリフィスプレート流量計等を備えているものとする。フード下端部と試験体表面との距離は、210mm±50mmとし、その状態での排気システムの排気装置は、標準温度と標準圧力に換算した流量が0.024m
3/s以上であることとする。排気ガス流量の測定のために、内径57mm±3mmで、厚さ1.6mm±0.3mmのオリフィスプレートを排気煙道内でファンから下流に350mm±15mm以上離れた位置に設ける。排気ガス採取を目的として、12個の直径2.2mm±0.1mmの穴のあるリングサンプラーをフードから685mm±15mmの位置に、穴が流れと反対の方向に向くように取り付ける。また、排気ガスの温度を、オリフィスプレートから上流100mm±5mmの位置の排気ダクトの中心部で測定する。
(6)ガスサンプリング装置は、排気ガス中の酸素、一酸化炭素、二酸化炭素の濃度を連続的に正確に測定できるものとする。
(7)スパークプラグは、10kVの変圧器あるいは誘導式コイルシステム等から電力を供給できるものとする。スパークプラグの電極間距離は、3mm±0.5mmとし、電極の位置を原則として試験体の中心軸上13mm±2mmとする。
(8)熱流計は、100kW/m
2±10kW/m
2まで測定可能なシュミット・ベルター(Schmidt Boelter)型を用いる。熱流計の熱感知部は、直径12.5mmの円形で、表面の輻射率は0.95±0.05であるものとする。
【0085】
[試験条件]
(1) 試験時間は、試験体表面に輻射熱が照射され、同時に電気スパークが作動してから、20分とする。
(2) 試験体は、側面と裏面を厚さ0.025mm以上、0.04mm以下のアルミニウム箔で包んで押さえ枠に入れ、さらに裏面側に無機繊維(公称密度64~128kg/m3)を充填してから、試験体ホルダーに押し込むものとする。
(3) 試験中は、輻射電気ヒーターから試験体の表面に50kW/m2の輻射熱を照射する。
(4) 排気ガス流量を0.024m3/sに調節する。
(5) 試験開始までは、輻射熱遮蔽板によって、試験体が輻射熱を受けないようにする。
(6) 輻射熱遮蔽板を移動する前に、スパークプラグを所定の位置に設定する。
【0086】
[測定]
(1) 酸素の濃度を5秒以内の間隔で測定する。
(2) 以下に示す手法で、単位面積当たりの発熱速度(kW/m
2)を算出し、単位面積当たりの発熱速度が200kW/m
2超の状態の継続時間を「単位面積当たりの発熱速度200kW/m
2超過継続時間」として求めた。更に単位面積当たりの発熱速度を時間で台形積分することによって、単位面積当たりの総発熱量(MJ/m
2)を算出する。ここで、台形積分は、試験時間を積分区間とし、積分区間を測定間隔で等分して行い、負の発熱速度は0とし、正の発熱速度のみを積算する。
【数5】
【0087】
1-12.火災時における変形のしにくさ
防煙垂壁用シート1に対して、前記「1-11.発熱性試験における総発熱量(MJ/m2)、及び単位面積当たりの発熱速度200kW/m2超過継続時間(秒)」の欄に示す発熱性試験を行い、20分間の輻射熱の照射後に試験体の状態を観察し、以下の基準に従って「火災時における変形のしにくさ」を評価した。
<火災時における変形のしにくさの評価基準>
A:20分間の輻射熱の照射後に、試験体の変形が抑制されており、試験体が押さえ枠内に納まっている。
B:20分間の輻射熱の照射後に、試験体が変形しており、試験体が押さえ枠の内に収まっていない。
【0088】
2.防煙垂壁用シートの製造
実施例1
(熱可塑性樹脂フィルム層2の準備)
熱可塑性樹脂フィルム層2として、2軸延伸ポリエステルフィルム(商品名「コスモシャイン(登録商標)A4300」、東洋紡株式会社製;厚さ125μm、質量170g/m2、全光線透過率(JIS K7361-1 1997)93%、ヘーズ(JIS K7136 2000)0.9%)を準備した。
【0089】
(ガラス繊維布3の準備)
経糸及び緯糸としてガラスヤーン(商品名「ECD900 1/0 1.0Z」、ユニチカグラスファイバー株式会社製;単繊維平均直径5μm、単繊維本数100本、撚り数1.0Z、番手5.6tex)を用い、エアージェット織機で製織し、経糸密度が69本/25mm、緯糸密度が69本/25mmの平織のガラス繊維織物を得た。ついで、得られたガラス繊維織物に付着している紡糸集束剤と製織集束剤を400℃で30時間加熱して除去した。その後、ガラス繊維織物をシランカップリング剤(S-350:N-ビニルベンジル-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(塩酸塩)チッソ株式会社)を15g/Lの濃度に調整した表面処理剤で処理してパダーロールで絞った後、120℃で1分乾燥させてキュアリングした。そして、圧力1.5MPaの水流加工でガラス繊維織物の経方向の張力を100N/mとしながら拡幅処理を1回施し、ガラス繊維布3(ガラス繊維織物)を得た。得られたガラス繊維布3は、経糸密度69本/25mm、緯糸密度69本/25mm、厚さ30μm、質量31g/m2、屈折率1.562であった。当該ガラス繊維布3は2枚準備した。なお、ガラスヤーンの単繊維平均直径及び単繊維本数は、当該ガラス繊維布3を用いて測定した。
【0090】
(硬化性樹脂層4の形成に使用する硬化性樹脂溶液の準備)
硬化性樹脂層4の形成に使用する硬化性樹脂溶液として、ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂(商品名「ネオポール8114」、日本ユピカ株式会社製)、臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル(商品名「ネオポール8197」)、NPGDA(ネオペンチルグリコールジアクリレート、分子量212、日本ユピカ株式会社製)、光重合開始剤(商品名「Omnirad 184」、IGM社製)及び帯電防止剤(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩;商品名「エレクトロストリッパーME-2」、花王株式会社製)を準備し、表1に記載の質量比となるように混合し、硬化性樹脂溶液を調製した。
【0091】
(工程フィルムの準備)
工程フィルムとして、PETフィルム(厚さ50μm、全光線透過率(JIS K7361-1 1997)93%、ヘーズ(JIS K7136 2000)4%)を準備した。当該工程フィルムは2枚準備した。
【0092】
(中間体シートの準備)
1枚の上記工程フィルム、1枚の上記熱可塑性樹脂フィルム2、及び1枚の上記ガラス繊維布3を使用して中間体シートを調製した。具体的には、先ず、上記硬化性樹脂溶液を、工程フィルムの一方の面側、及び上記熱可塑性樹脂フィルム2の一方の面側に塗布した。そして、当該硬化性樹脂溶液を塗布した工程フィルムと、当該硬化性樹脂溶液を塗布した熱可塑性樹脂フィルム2とで、上記ガラス繊維布3を、硬化性樹脂溶液を塗布した面がガラス繊維布3側となるように挟み、ローラで硬化性樹脂層4の質量が表1に記載の値を満たすように加圧し、ガラス繊維布3の両面側から硬化性樹脂溶液を含浸させた。その後、熱可塑性樹脂フィルム2及び工程フィルムを積層したまま、硬化性樹脂溶液にブラックライト蛍光ランプ(商品名「FL15BLB」、株式会社東芝製)を用いて光照射(光照射条件:積算光量200mJ/cm2)して該硬化性樹脂溶液を硬化させ、硬化性樹脂層4を形成し、工程フィルム/ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4/熱可塑性樹脂フィルム2の層構造からなる中間体シートを得た。
【0093】
(防煙垂壁用シートの製造)
1枚の上記中間体シート、1枚の上記工程フィルム、及び1枚の上記ガラス繊維布3を使用して、防煙垂壁用シートを調製した。具体的には、先ず、硬化性樹脂溶液を、中間体シートの熱可塑性樹脂フィルム2の表面側、及び工程フィルムの一方の面側に塗布した。そして、当該硬化性樹脂溶液を塗布した中間体シートと、当該硬化性樹脂溶液を塗布した工程フィルムとで、ガラス繊維布3を、硬化性樹脂溶液を塗布した面がガラス繊維布3側となるように挟み、ローラで硬化性樹脂層4の質量が表1に記載の値を満たすように加圧し、ガラス繊維布3の両面側から硬化性樹脂溶液を含浸させた。その後、熱可塑性樹脂フィルム2及び工程フィルムを積層したまま、硬化性樹脂溶液にブラックライト蛍光ランプ(商品名「FL15BLB」、株式会社東芝製)を用いて光照射(光照射条件:積算光量200mJ/cm
2)して該硬化性樹脂溶液を硬化させ、硬化性樹脂層4を形成し、工程フィルム/ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4/熱可塑性樹脂フィルム2/ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4/工程フィルムの層構造からなるシートを得た。そして、当該シートの両表面側に配置されている工程フィルム2枚を剥離し、
図1に示す層構造(即ち、ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4/熱可塑性樹脂フィルム2/ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4からなる層構造)を有する防煙垂壁用シートを得た。得られた防煙垂壁用シートにおいて、ガラス繊維布3のガラス繊維間の隙間には、硬化性樹脂層4(樹脂組成物の硬化物)が含浸されており、ガラス繊維布3の層の両面上には硬化性樹脂層4が形成されていた。
【0094】
実施例2
(熱可塑性樹脂フィルム層2の準備)
実施例1の場合と同じ熱可塑性樹脂フィルム層2を準備した。
【0095】
(ガラス繊維布3の準備)
経糸及び緯糸としてガラスヤーン(商品名「ECD450 1/0 1.0Z」、ユニチカグラスファイバー株式会社製;単繊維平均直径5μm、単繊維本数200本、撚り数1.0Z、番手11.2tex)を用い、エアージェット織機で製織し、経糸密度が53本/25mm、緯糸密度が53本/25mmの平織のガラス繊維織物を得た。ついで、得られたガラス繊維織物に付着している紡糸集束剤と製織集束剤を400℃で30時間加熱して除去した。その後、ガラス繊維織物をシランカップリング剤(S-350:N-ビニルベンジル-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(塩酸塩)チッソ株式会社)を15g/Lの濃度に調整した表面処理剤で処理してパダーロールで絞った後、120℃で1分乾燥させてキュアリングした。そして、圧力1.5MPaの水流加工でガラス繊維織物の経方向の張力を100N/mとしながら拡幅処理を1回施し、ガラス繊維布3(ガラス繊維織物)を得た。得られたガラス繊維布3は、経糸密度53本/25mm、緯糸密度53本/25mm、厚さ43μm、質量48g/m2、屈折率1.562であった。当該ガラス繊維布3は2枚準備した。なお、ガラスヤーンの単繊維平均直径及び単繊維本数は、当該ガラス繊維布3を用いて測定した。
【0096】
(硬化性樹脂層4の形成に使用する硬化性樹脂溶液の準備)
実施例1の場合と同じ硬化性樹脂溶液を準備した。
【0097】
(工程フィルムの準備)
実施例1の場合と同じ工程フィルムを2枚準備した。
【0098】
(中間体シートの準備)
1枚の上記工程フィルム、1枚の上記熱可塑性樹脂フィルム2、及び1枚の上記ガラス繊維布3を使用して、実施例1の場合と同様の方法で、工程フィルム/ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4/熱可塑性樹脂フィルム2の層構造からなる中間体シートを得た。
【0099】
(防煙垂壁用シートの製造)
1枚の上記中間体シート、1枚の上記工程フィルム、及び1枚の上記ガラス繊維布3を使用して、実施例1の場合と同様の方法で、
図1に示す層構造(即ち、ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4/熱可塑性樹脂フィルム2/ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4からなる層構造)を有する防煙垂壁用シートを製造した。得られた防煙垂壁用シートにおいて、ガラス繊維布3のガラス繊維間の隙間には、硬化性樹脂層4(樹脂組成物の硬化物)が含浸されており、ガラス繊維布3の層の両面上には硬化性樹脂層4が形成されていた。
【0100】
実施例3
(熱可塑性樹脂フィルム層2の準備)
実施例1の場合と同じ熱可塑性樹脂フィルム層2を準備した。
【0101】
(ガラス繊維布3の準備)
実施例1の場合と同じガラス繊維布3を2枚準備した。
【0102】
(硬化性樹脂層4の形成に使用する硬化性樹脂溶液の準備)
硬化性樹脂層4の形成に使用するとして、アクリルシラップ(商品名「アクリシラップXD-8005」、株式会社菱晃製;屈折率1.550)、アクリルシラップ(商品名「アクリシラップXD-8006」、株式会社菱晃製;屈折率1.570)、光重合開始剤(商品名「Omnirad 184」、IGM社製)及び帯電防止剤(商品名「エレクトロストリッパーME-2」、花王株式会社製)を準備し、表1に記載の質量比となるように混合し、硬化性樹脂溶液を調製した。
【0103】
(工程フィルムの準備)
実施例1の場合と同じ工程フィルムを2枚準備した。
【0104】
(中間体シートの準備)
1枚の上記工程フィルム、1枚の上記熱可塑性樹脂フィルム2、及び1枚の上記ガラス繊維布3を使用して、実施例1の場合と同様の方法で、工程フィルム/ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4/熱可塑性樹脂フィルム2の層構造からなる中間体シートを得た。
【0105】
(防煙垂壁用シートの製造)
1枚の上記中間体シート、1枚の上記工程フィルム、及び1枚の上記ガラス繊維布3を使用して、実施例1の場合と同様の方法で、
図1に示す層構造(即ち、ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4/熱可塑性樹脂フィルム2/ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4からなる層構造)を有する防煙垂壁用シートを製造した。得られた防煙垂壁用シートにおいて、ガラス繊維布3のガラス繊維間の隙間には、硬化性樹脂層4(樹脂組成物の硬化物)が含浸されており、ガラス繊維布3の層の両面上には硬化性樹脂層4が形成されていた。
【0106】
実施例4
(熱可塑性樹脂フィルム層2の準備)
熱可塑性樹脂フィルム層2として、2軸延伸ポリエステルフィルム(商品名「コスモシャイン(登録商標)A4300」、東洋紡株式会社製;厚さ100μm、質量14g/m2、全光線透過率(JIS K7361-1 1997)93%、ヘーズ(JIS K7136 2000)0.9%)を準備した。
【0107】
(ガラス繊維布3の準備)
実施例1の場合と同じガラス繊維布3を2枚準備した。
【0108】
(硬化性樹脂層4の形成に使用する硬化性樹脂溶液の準備)
実施例1の場合と同じ硬化性樹脂溶液を準備した。
【0109】
(工程フィルムの準備)
実施例1の場合と同じ工程フィルムを2枚準備した。
【0110】
(中間体シートの準備)
1枚の上記工程フィルム、1枚の上記熱可塑性樹脂フィルム2、及び1枚の上記ガラス繊維布3を使用して、実施例1の場合と同様の方法で、工程フィルム/ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4/熱可塑性樹脂フィルム2の層構造からなる中間体シートを得た。
【0111】
(防煙垂壁用シートの製造)
1枚の上記中間体シート、1枚の上記工程フィルム、及び1枚の上記ガラス繊維布3を使用して、実施例1の場合と同様の方法で、
図1に示す層構造(即ち、ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4/熱可塑性樹脂フィルム2/ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4からなる層構造)を有する防煙垂壁用シートを製造した。得られた防煙垂壁用シートにおいて、ガラス繊維布3のガラス繊維間の隙間には、硬化性樹脂層4(樹脂組成物の硬化物)が含浸されており、ガラス繊維布3の層の両面上には硬化性樹脂層4が形成されていた。
【0112】
比較例1
(熱可塑性樹脂フィルム層2の準備)
熱可塑性樹脂フィルム層2として、2軸延伸ポリエステルフィルム(商品名「コスモシャイン(登録商標)A4300」、東洋紡株式会社製;厚さ75μm、質量105g/m2、全光線透過率(JIS K 7105:1981)93%、ヘーズ(JIS K 7105:1981)0.9%)を準備した。
【0113】
(ガラス繊維布3の準備)
実施例1の場合と同じガラス繊維布3を2枚準備した。
【0114】
(硬化性樹脂層4の形成に使用する硬化性樹脂溶液の準備)
実施例1の場合と同じ硬化性樹脂溶液を準備した。
【0115】
(工程フィルムの準備)
実施例1の場合と同じ工程フィルムを2枚準備した。
【0116】
(中間体シートの準備)
1枚の上記工程フィルム、1枚の上記熱可塑性樹脂フィルム2、及び1枚の上記ガラス繊維布3を使用して、実施例1の場合と同様の方法で、工程フィルム/ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4/熱可塑性樹脂フィルム2の層構造からなる中間体シートを得た。
【0117】
(防煙垂壁用シートの製造)
1枚の上記中間体シート、1枚の上記工程フィルム、及び1枚の上記ガラス繊維布3を使用して、実施例1の場合と同様の方法で、
図1に示す層構造(即ち、ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4/熱可塑性樹脂フィルム2/ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4からなる層構造)を有する防煙垂壁用シートを製造した。得られた防煙垂壁用シートにおいて、ガラス繊維布3のガラス繊維間の隙間には、硬化性樹脂層4(樹脂組成物の硬化物)が含浸されており、ガラス繊維布3の層の両面上には硬化性樹脂層4が形成されていた。
【0118】
比較例2
(熱可塑性樹脂フィルム層2の準備)
熱可塑性樹脂フィルム層2として、2軸延伸ポリエステルフィルム(商品名「コスモシャイン(登録商標)A4300」、東洋紡株式会社製;厚さ188μm、質量263g/m2、全光線透過率(JIS K7361-1 1997)93%、ヘーズ(JIS K7136 2000)0.9%)を準備した。
【0119】
(ガラス繊維布3の準備)
経糸及び緯糸としてガラスヤーン商品名「ECBC2250 1/0 1.0Z」、ユニチカグラスファイバー株式会社製;単繊維平均直径4μm、単繊維本数66本、撚り数1.0Z、番手2.3tex)を用い、エアージェット織機で製織し、経糸密度が95本/25mm、緯糸密度が95本/25mmの平織のガラス繊維織物を得た。ついで、得られたガラス繊維織物に付着している紡糸集束剤と製織集束剤を400℃で30時間加熱して除去した。その後、ガラス繊維織物をシランカップリング剤(S-350:N-ビニルベンジル-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(塩酸塩)チッソ株式会社)を15g/Lの濃度に調整した表面処理剤で処理してパダーロールで絞った後、120℃で1分乾燥させてキュアリングした。そして、圧力1.5MPaの水流加工でガラス繊維織物の経方向の張力を100N/mとしながら拡幅処理を1回施し、ガラス繊維布3(ガラス繊維織物)を得た。得られたガラス繊維布3は、経糸密度95本/25mm、緯糸密度95本/25mm、厚さ15μm、質量17g/m2、屈折率1.562であった。当該ガラス繊維布3は2枚準備した。なお、ガラスヤーンの単繊維平均直径及び単繊維本数は、当該ガラス繊維布3を用いて測定した。
【0120】
(硬化性樹脂層4の形成に使用する硬化性樹脂溶液の準備)
実施例1の場合と同じ硬化性樹脂溶液を準備した。
【0121】
(工程フィルムの準備)
実施例1の場合と同じ工程フィルムを2枚準備した。
【0122】
(中間体シートの準備)
1枚の上記工程フィルム、1枚の上記熱可塑性樹脂フィルム2、及び1枚の上記ガラス繊維布3を使用して、実施例1の場合と同様の方法で、工程フィルム/ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4/熱可塑性樹脂フィルム2の層構造からなる中間体シートを得た。
【0123】
(防煙垂壁用シートの製造)
1枚の上記中間体シート、1枚の上記工程フィルム、及び1枚の上記ガラス繊維布3を使用して、実施例1の場合と同様の方法で、
図1に示す層構造(即ち、ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4/熱可塑性樹脂フィルム2/ガラス繊維布3が含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4からなる層構造)を有する防煙垂壁用シートを製造した。得られた防煙垂壁用シートにおいて、ガラス繊維布3のガラス繊維間の隙間には、硬化性樹脂層4(樹脂組成物の硬化物)が含浸されており、ガラス繊維布3の層の両面上には硬化性樹脂層4が形成されていた。
【0124】
3.結果
結果を表1に示す。実施例1~4の防煙垂壁用シートは、熱可塑性樹脂フィルム2の両面側にガラス繊維布に含浸された状態で含まれる硬化性樹脂層4が積層された防煙垂壁用シートであって、前記熱可塑性樹脂フィルム2の厚さが90~130μmであり、且つ前記シートの質量が300~450g/m2を満たしており、引裂強さに優れ、火災時において変形しにくく、燃えにくいものであった。とりわけ、実施例1~3の防煙垂壁用シートは、熱可塑性樹脂フィルムの厚さが120~130μmであったことから、引裂強さに特に優れ、火災時において変形しにくいものであった。
【0125】
一方、比較例1の防煙垂壁用シートは、熱可塑性樹脂フィルム2の厚さが90μm未満であったことから、引裂強さに劣るものであった。
【0126】
また、比較例2の防煙垂壁用シートは、熱可塑性樹脂フィルム2の厚さが130μmを超えるものであったことから、熱可塑性樹脂フィルム2の加熱収縮の程度が大きくなり、防煙垂壁用シート全体として変形が生じ、火災時において変形しやすいものであり、また、燃えやすいものであった。
【0127】