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  • 特開-反射防止塗料および反射防止塗膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155498
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】反射防止塗料および反射防止塗膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20221005BHJP
   C09D 5/33 20060101ALI20221005BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20221005BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20221005BHJP
   C09D 7/41 20180101ALI20221005BHJP
   C09D 123/00 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D5/33
C09D5/02
C09D183/04
C09D7/41
C09D123/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027194
(22)【出願日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2021058290
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】393002634
【氏名又は名称】キヤノン化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】勝田 公子
(72)【発明者】
【氏名】中谷 直治
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏文
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CB141
4J038DG001
4J038DL151
4J038JB16
4J038MA08
4J038MA10
4J038MA14
4J038NA19
4J038PB08
(57)【要約】
【課題】環境に配慮し、かつ硝子、樹脂等の基材に対して塗布可能な反射防止塗料を提供する。
【解決手段】バインダー樹脂、水溶性染料、および水性溶媒を含有する反射防止塗料であって、バインダー樹脂は、ウレタン樹脂、および、シリコーン樹脂と有機樹脂との共重合体であるシリコーン共重合体を含む、反射防止塗料。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂、水溶性染料、および水性溶媒を含有する反射防止塗料であって、
前記バインダー樹脂は、ウレタン樹脂、および、シリコーン樹脂と有機樹脂との共重合体であるシリコーン共重合体を含む、反射防止塗料。
【請求項2】
前記バインダー樹脂100質量部に対する、前記ウレタン樹脂の含有割合が、50質量部以上、98質量部以下である請求項1に記載の反射防止塗料。
【請求項3】
前記ウレタン樹脂と、前記シリコーン共重合体との質量比率が、ウレタン樹脂:シリコーン共重合体=75:25~98:2の範囲内である請求項1または2に記載の反射防止塗料。
【請求項4】
前記シリコーン共重合体中の、前記シリコーン樹脂と、前記有機樹脂との質量比率が、シリコーン樹脂:有機樹脂=3:7~9:1の範囲内である請求項1~3のいずれか1項に記載の反射防止塗料。
【請求項5】
前記シリコーン共重合体が、シリコーン樹脂とアクリル樹脂との共重合体、およびシリコーン樹脂とウレタン樹脂との共重合体から選ばれる少なくとも1つの共重合体である請求項1~4のいずれか1項に記載の反射防止塗料。
【請求項6】
前記バインダー樹脂が、さらにポリオレフィン樹脂を含む請求項1~5のいずれか1項に記載の反射防止塗料。
【請求項7】
前記ウレタン樹脂100質量部に対する、前記ポリオレフィン樹脂の含有割合が12質量部以下である請求項6に記載の反射防止塗料。
【請求項8】
前記水性溶媒中の前記バインダー樹脂の分散粒子が有する体積基準のメジアン径(D50)が、0.1μm以下である請求項1~7のいずれか1項に記載の反射防止塗料。
【請求項9】
前記バインダー樹脂100質量部に対する、前記水溶性染料の含有割合が、5質量部以上、25質量部以下である請求項1~8のいずれか1項に記載の反射防止塗料。
【請求項10】
前記水溶性染料が、アゾ染料である請求項1~9のいずれか1項に記載の反射防止塗料。
【請求項11】
前記反射防止塗料の粘度が、3mPa・s以上、1,000mPa・s以下である請求項1~10のいずれか1項に記載の反射防止塗料。
【請求項12】
バインダー樹脂、および水溶性染料を含有する反射防止塗膜であって、
前記バインダー樹脂は、ウレタン樹脂、および、シリコーン樹脂と有機樹脂との共重合体であるシリコーン共重合体を含む反射防止塗膜。
【請求項13】
前記バインダー樹脂100質量部に対する、前記ウレタン樹脂の含有割合が、50質量部以上、98質量部以下である請求項12に記載の反射防止塗膜。
【請求項14】
前記ウレタン樹脂と前記シリコーン共重合体との質量比率が、ウレタン樹脂:シリコーン共重合体=75:25~98:2である請求項12または13に記載の反射防止塗膜。
【請求項15】
前記シリコーン共重合体中の、前記シリコーン樹脂と、前記有機樹脂との質量比率が、シリコーン樹脂:有機樹脂=3:7~9:1の範囲内である請求項12~14のいずれか1項に記載の反射防止塗膜。
【請求項16】
前記シリコーン共重合体が、シリコーン樹脂とアクリル樹脂との共重合体、およびシリコーン樹脂とウレタン樹脂との共重合体から選ばれる少なくとも1つの共重合体である請求項12~15のいずれか1項に記載の反射防止塗膜。
【請求項17】
前記バインダー樹脂が、さらにポリオレフィン樹脂を含む請求項12~16のいずれか1項に記載の反射防止塗膜。
【請求項18】
前記ウレタン樹脂100質量部に対する、前記ポリオレフィン樹脂の含有割合が12質量部以下である請求項17に記載の反射防止塗料。
【請求項19】
前記バインダー樹脂100質量部に対する、前記水溶性染料の含有割合が、5質量部以上、25質量部以下である請求項12~18のいずれか1項に記載の反射防止塗膜。
【請求項20】
前記水溶性染料が、アゾ染料である請求項12~19のいずれか1項に記載の反射防止塗膜。
【請求項21】
前記反射防止塗膜の厚さが、0.5μm以上、100μm以下である請求項12~20のいずれか1項に記載の反射防止塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止塗料および該反射防止塗料を用いて形成された反射防止塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズやプリズム等の光学素子を組み合わせて構成された光学系において、各光学素子の縁や稜部、コバ等の周辺部で光が散乱して迷光を生じると、光学系により結像される画像にゴーストやフレアが発生し、画質を低下させる原因となる。そこで、このような迷光による画質の低下を抑制するため、光学素子の周辺部に反射防止塗料を塗工し、内面反射を防止するための黒色の反射防止塗膜を形成することで、ゴーストやフレアの発生を抑制した光学素子が用いられている。
【0003】
近年では樹脂レンズ等の普及により、硝子だけではなく樹脂から成る光学素子等に対しても好適にコーティングが可能な反射防止塗料が求められている。
また、一方で塗料には溶媒として有機溶剤が汎用されるが、近年では環境への関心の高まりから、塗料への揮発性有機化合物(VOC)の使用を低減した、環境に配慮した反射防止塗料への要求が高まっている。
【0004】
特許文献1では、光学素子用樹脂レンズの遮光塗料として、シクロオレフィン系ポリマーから構成される樹脂レンズの遮光膜を形成するための遮光塗料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-250440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の遮光塗料は、シクロオレフィン系ポリマーを基材としたレンズ等には好適に適用できる一方で、硝子等の他の基材に対しては、密着性に改善の余地があった。
また、特許文献1に記載の遮光塗料では、溶媒として有機溶剤が用いられているため、環境への影響の観点から改善の余地があった。
そこで本発明の目的は、硝子から成る基材および樹脂から成る基材のいずれに対しても好適に塗布可能であり、また環境への影響を低減した反射防止塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る反射防止塗料は、バインダー樹脂、水溶性染料、および水性溶媒を含有する反射防止塗料であって、前記バインダー樹脂は、ウレタン樹脂、および、シリコーン樹脂と有機樹脂との共重合体であるシリコーン共重合体を含む、反射防止塗料である。
また、本発明に係る反射防止塗膜は、バインダー樹脂、および水溶性染料を含有する反射防止塗膜であって、前記バインダー樹脂は、ウレタン樹脂、および、シリコーン樹脂と有機樹脂との共重合体であるシリコーン共重合体を含む反射防止塗膜である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、硝子から成る基材および、樹脂から成る基材のいずれに対しても好適に塗布可能であり、また環境への影響を低減した反射防止塗料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)は、本発明に係る反射防止塗料を基材表面に塗布した直後の状態を示す図であり、(b)は、基材表面に塗布された本発明に係る反射防止塗料から反射防止塗膜が形成される遷移過程を示す図であり、(c)は、基材表面に塗布した本発明に係る反射防止塗料から形成された反射防止塗膜を示す図である。
図2】実施例における拡散反射率の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。以降、反射防止塗料を単に「塗料」、反射防止塗膜を単に「塗膜」と表現する場合がある。
【0011】
本発明に係る反射防止塗料は、バインダー樹脂、水溶性染料、および水性溶媒を含有する反射防止塗料であって、バインダー樹脂は、ウレタン樹脂、および、シリコーン樹脂と有機樹脂との共重合体であるシリコーン共重合体を含む。
【0012】
以下、本発明に用いられる各材料についてさらに詳細に説明する。
【0013】
<バインダー樹脂>
本発明に係る反射防止塗料が含有するバインダー樹脂は、ウレタン樹脂と、シリコーン共重合体とを含む。
【0014】
〔ウレタン樹脂〕
ウレタン樹脂は、反射防止塗料を塗布する対象となる光学素子等の基材(以下、単に基材ともいう。)に用いられる硝子および樹脂のいずれに対しても密着することができ、中でも、硝子やポリカーボネート樹脂(PC)、アクリル樹脂(PMMA)等の極性の高い基材に対して特に高い密着性を有する。そのため、塗料が含有する樹脂にウレタン樹脂を用いることで、形成された塗膜の基材からの剥離を抑制することが可能である。
【0015】
また、ウレタン樹脂は耐溶剤性に優れるため、製造過程等で塗膜がその表面に形成された基材を有機溶剤で洗浄する場合等に、該塗膜がウレタン樹脂を含有することで、塗膜の有機溶剤による溶解を低減することが可能である。
【0016】
ウレタン樹脂は、ポリイソシアネートとポリオールとを付加重合反応させた高分子化合物であり、溶媒中に分散させたウレタン樹脂エマルションとして使用する。
【0017】
ウレタン樹脂エマルションとしては当技術分野で通常用いられているものを特に制限なく採用することができる。例えば、ウレタン樹脂エマルションは、ポリオールに過剰なポリイソシアネートを反応させてなるウレタンプレポリマーを、界面活性剤(外部乳化剤)を用いて強制乳化後、鎖延長剤により高分子量化させて水中に分散することにより得られる。またウレタンプレポリマー中に親水基含有グリコールやジアミン類等のモノマー(内部乳化剤)を導入し、水中に分散させることで自己乳化型とすることもできる。
【0018】
外部乳化剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ類、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、第4級アンモニウム塩、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール類、長鎖アルコールやアルキルフェノールとのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0019】
内部乳化剤としては、例えば、分子中に1個以上の親水基(スルホン酸塩、カルボン酸塩、第4級アンモニウム塩、エチレンオキサイド等)と、イソシアネート基と反応する2つの反応基(水酸基やアミノ基等)と、を有する化合物が挙げられる。
【0020】
鎖延長剤としては、例えば、低分子量の活性水素化合物としてエチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール等のグリコール類、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、イソフォロンジアミン、キシレンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、ピペラジン等のジアミン類、ジエタノールアミン等のアミノアルコール、水等が挙げられる。
【0021】
ポリイソシアネートとしては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)等の脂肪族ジイソシアネート類;イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環族ジイソシアネート類;キシリレンジイソシアネート(XDI)等の芳香族-脂肪族ジイソシアネート類;トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等の芳香族ジイソシアネート類;ダイマー酸ジイソシアネート(DDI)、水添TDI(HTDI)、水添XDI(H6XDI)、水添MDI(H12MDI)等の水添ジイソシアネート類;これらの2量体、3量体、4量体以上の多量体等が挙げられる。ポリイソシアネートは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
ポリオールとしては、1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の多価アルコールや、比較的高分子量のポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、縮合系ポリエステルポリオール、ラクトン系ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール、アクリルポリオール、含リンポリオール、ひまし油ポリオール、水添ひまし油ポリオール、フェノール系ポリオール等が挙げられる。ポリオールは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
ウレタン樹脂エマルションは塗膜形成時に架橋を伴わない物理乾燥タイプとして使用されるが、ポリオールとポリイソシアネートとをそれぞれ独立に水に分散させておくことで、塗膜形成時に架橋させる2液硬化型塗料として使用することもできる。
【0024】
市販されているウレタン樹脂エマルションとしては、例えば、アデカボンタイターHUXシリーズ((株)ADEKA製)、ハイドランシリーズ、ボンディックシリーズ(DIC(株)製)、ユーコートUWS-145、ユーブレンUXA-37、パーマリンシリーズ(三洋化成工業(株)製)、ETARNACOLL UWシリーズ(宇部興産(株)製)、タケラックW、WPB、WSシリーズ(三井化学(株)製)、DAOTANシリーズ(ダイセル・オルネクス(株)製)、スーパーフレックス(第一工業製薬(株)製)等が挙げられる。
【0025】
市販されているイソシアネート分散品としては、例えば、デュラネートWシリーズ(旭化成(株)製)、アクアネートシリーズ(東ソー(株)製)、バーノックDNWシリーズ(DIC(株)製)等が挙げられる。
【0026】
市販されているポリオール分散品としては、例えば、バーノックWD、WEシリーズ(DIC(株)製)等が挙げられる。
【0027】
本発明において、バインダー樹脂100質量部に対する、ウレタン樹脂の含有割合は、50質量部以上、98質量部以下であることが好ましい。バインダー樹脂100質量部に対する、ウレタン樹脂の含有割合が50質量部以上であれば、塗膜の基材への密着性、および耐溶剤性に優れた効果をもたらすことができる。また、バインダー樹脂100質量部に対する、ウレタン樹脂の含有割合が98質量部以下であれば、後述するシリコーン共重合体を含有する余地を残すことができ、反射防止塗料の成膜性を向上させることができる。
【0028】
〔シリコーン共重合体〕
シリコーン共重合体は、シリコーン樹脂と有機樹脂との共重合体であり、本発明に係る反射防止塗料が含有するバインダー樹脂は、シリコーン共重合体を含むことで、塗料の優れた成膜性を得ることができる。シリコーン共重合体は、ウレタン樹脂と同様に溶媒中に分散させたシリコーン共重体のエマルションとして用いる。
【0029】
上記ウレタン樹脂は、基材との密着性や耐溶剤性に優れるが、塗料中のバインダー樹脂成分として単独で用いた場合には、塗膜を形成する際に塗料を基材上に均一に塗布することが困難である。本発明においては、塗料が含有するバインダー樹脂が、ウレタン樹脂とシリコーン共重合体とを共に含有することで、塗膜の基材への優れた密着性および優れた耐溶剤性に加えて、塗料の優れた成膜性を得ることができる。これは、シリコーン共重合体中のシリコーン成分が、バインダー樹脂全体に対してレベリング効果を発現することにより、塗料の成膜性が向上することの効果によるものと推測される。
【0030】
また、例えば、シリコーン共重合体の代わりにシリコーン樹脂のみを、ウレタン樹脂と共に用いた場合は、成膜後にシリコーン樹脂が塗膜の表面および塗膜と基材との界面にブリードする恐れがある。特に塗膜と基材との界面にシリコーン樹脂がブリードした場合は、塗膜と基材との密着性が低下する。本発明においては、シリコーン共重合体がシリコーン樹脂部分に加えて有機樹脂部分を有し、シリコーン共重合体中の有機樹脂部分が、基材、およびウレタン樹脂と高い親和性を有する。そのため、成膜後、シリコーン樹脂がブリードすることを抑制して塗膜と基材との密着性を高く維持したまま、成膜性を向上させることが可能である。
【0031】
シリコーン共重合体中の、シリコーン樹脂と、有機樹脂との質量比率は、シリコーン樹脂:有機樹脂=3:7~9:1の範囲内であることが好ましい。シリコーン樹脂と有機樹脂との質量比率が、シリコーン樹脂:有機樹脂=3:7~9:1の範囲内であれば、成膜性向上とブリード抑制との効果をバランスよく得ることが可能である。
【0032】
バインダー樹脂中のウレタン樹脂と、シリコーン共重合体との質量比率は、ウレタン樹脂:シリコーン共重合体=75:25~98:2の範囲内であることが好ましい。ウレタン樹脂と、シリコーン共重合体とを合わせた全体の質量に対する、シリコーン共重合体の質量の比率が25%以下であれば、ウレタン樹脂と有機樹脂部分との親和力を高く得ることができる。これにより、シリコーン成分のブリードや、それに伴う染料のブリードを抑制する効果を高く得ることが可能であり、高い耐溶剤性を得ることができる。また、ウレタン樹脂と、シリコーン共重合体とを合わせた全体の質量に対する、シリコーン共重合体の質量の比率が2%以上であれば、反射防止塗料の成膜性を向上させることが可能になる。
【0033】
シリコーン共重合体を構成する有機樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられる。
【0034】
中でも、シリコーン共重合体は、シリコーン樹脂とアクリル樹脂との共重合体、およびシリコーン樹脂とウレタン樹脂との共重合体から選ばれる少なくとも1つの共重合体であることが好ましい。シリコーン樹脂とアクリル樹脂との共重合体およびシリコーン樹脂とウレタン樹脂との共重合体は、基材やウレタン樹脂との親和性が高いため、シリコーン成分のブリードを防ぐ効果をより高く得ることができる。
【0035】
シリコーン共重合体を含有した使用可能な製品は、例えば、次のようなものを挙げることができる。シャリーヌE-370(日信化学工業製)、シャリーヌLC-190(日信化学工業製)、シャリーヌE-790(日信化学工業製)、シャリーヌRU-911(日信化学工業製)、アクリットKS-3705(大成ファインケミカル製)、セラネートWHW-822(DIC製)、セラネートWSA-1070(DIC製)、セラネートSSA-3060(DIC製)、セラネートMFG-102(DIC製)等。
【0036】
〔ポリオレフィン樹脂〕
本発明において、バインダー樹脂は、さらにポリオレフィン樹脂を含んでもよい。ポリオレフィン樹脂は、ウレタン樹脂やシリコーン共重合体と同様に溶媒中に分散させたエマルションとして用いる。
ウレタン樹脂は、硝子やポリカーボネート樹脂(PC)、アクリル樹脂(PMMA)等の極性の高い基材に対しては特に密着性が高いが、極性の低い基材、例えば、シクロオレフィン系樹脂(COP,COC)やポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)等のポリオレフィン樹脂基材に対しては密着性が特に高いとは言えない。そのため、ポリオレフィン樹脂基材に対して構造による相溶性を有するポリオレフィン樹脂をバインダー樹脂に配合することで、ポリオレフィン樹脂等の極性の低い基材に対しての密着性を向上させることが可能になる。
【0037】
ポリオレフィン樹脂中のオレフィン成分は特に限定されず、公知のものを用いることができる。一般的には基本単位はエチレン、プロピレン、ブテン等が挙げられ、これらの重合体および複数成分を用いた共重合体がオレフィン成分の主骨格となる。
【0038】
ポリオレフィン樹脂の種類は特に限定されないが、酸変性ポリオレフィン樹脂を使用することが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂は、不飽和カルボン酸等で変性することでカルボキシ基等の親水性官能基を導入して水性化されたポリオレフィン樹脂である。
【0039】
本発明においてバインダー樹脂が含み得るポリオレフィン樹脂を含有する製品としては、例えば、次のようなものを挙げることができる。アローベースSB-1230N(ユニチカ製)、アローベースSE-1030N(ユニチカ製)、アローベースSD-1205N(ユニチカ製)、アローベースDA-1010N(ユニチカ製)、ザイクセンA(住友精化製)、ザイクセンAC(住友精化製)、ザイクセンAC-HW-10(住友精化製)、ザイクセンL(住友精化製)、アウローレンAE-301(日本製紙製)アウローレンAE-310(日本製紙製)、ハードレンNZ-1015(東洋紡製)等。
【0040】
本発明に係る反射防止塗料は、水性溶媒中にバインダー樹脂が分散したエマルションであるが、バインダー樹脂中のポリオレフィン樹脂の含有量が高くなると、塗料のエマルション状態の安定性が低下する。そのため、バインダー樹脂において、ウレタン樹脂100質量部に対する、ポリオレフィン樹脂の含有割合は、100質量部以下であり、好ましくは12質量部以下である。
ウレタン樹脂100質量部に対してポリオレフィン樹脂を100質量部まで、塗料のエマルション状態を維持しつつ添加することが可能である。また、ウレタン樹脂100質量部に対してポリオレフィン樹脂が12質量部以下であれば、極性の低い基材への密着性を高める効果を得つつ、塗料中に含有される樹脂のエマルション状態をより安定に維持することができる。
【0041】
〔水溶性染料〕
本発明において水溶性染料は、反射防止塗料を基材に塗膜にした際に、基材塗布面の反対側から入射して基材を透過した可視光を吸収することで反射を抑制する効果や、可視光を遮光する効果を有する。
【0042】
染料には、一般的に水溶性染料と疎水性染料とがあり、このうち疎水性染料としては、例えばソルベントブラック3(例えば、OIL BLACK HBB(オリヱント化学工業社製))等のアゾ染料および、例えばソルベントブラック7(例えば、NUBIAN BLACKTN-870(オリヱント化学工業社製))等のニグロシン染料等が挙げられる。
【0043】
例えば、本発明に係る反射防止塗料において染料として上記のような疎水性染料を用いた場合は、塗料が含有する溶媒が水性溶媒であるため、染料を溶媒中に均一に分散させることが難しい。そこで、疎水性染料がバインダー樹脂中に均一に分散されたものとするため、反射防止塗料を、次のように調製することが考えられる。
例えば、反射防止塗料は、予め疎水性染料を混合しておいたバインダー樹脂を、水性媒体中に分散して調製されたものとする。あるいは、反射防止塗料は、バインダー樹脂が分散された水性溶媒を、十分に攪拌しながら少量ずつ疎水性染料を添加することで調製されたものとする。
【0044】
しかし、本発明においては、水性溶媒への溶解性の観点から、反射防止塗料が含有する染料は水溶性染料とする。これにより、水性溶媒に対して染料を容易に溶解することができ、塗料中に均一に分散させることができるため、本発明に係る反射防止塗料を用いることで、ムラの無い均質な反射防止性能を有する反射防止塗膜を形成することができる。
【0045】
反射防止塗料において、バインダー樹脂100質量部に対する、水溶性染料の含有割合は、5質量部以上、25質量部以下であることが好ましい。水溶性染料の含有割合が、バインダー樹脂100質量部に対して5質量部以上であれば、水溶性染料としての光を吸収する効果を高く得ることができ、形成した塗膜において効果的に反射率を低減することができる。水溶性染料の含有割合が、バインダー樹脂100質量部に対して25質量部以下であれば、塗膜の耐溶剤性能を高く維持することができる。
【0046】
水溶性染料は黒色の染料であることが好ましい。水溶性染料は、1種類を用いても良いし、赤色の染料、黄色の染料および青色の染料等の複数種の染料を併用し、吸収波長を調整して用いても良い。
【0047】
水溶性染料としては、塗膜の反射防止性能を保持できる限りにおいて制限はなく、求める吸収波長に応じた波長吸収特性を持つ公知の染料を、任意に選択して用いることができる。
【0048】
水溶性染料の種類としては、例えば、アゾ染料、金属錯塩染料、ナフトール染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、カーボニウム染料、キノンイミン染料、キサンテン染料、シアニン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、フタロシアニン染料、金属フタロシアニン染料、およびニグロシン染料等が挙げられる。
【0049】
可視域の波長の光を吸収する目的で添加される水溶性染料の具体例として、例えばWATER COLOR(オリヱント化学工業製)等のアゾ染料および、例えばAizen Spilon Black -1 W-Liquid(保土谷化学製)等の金属系染料が挙げられる。
中でも可視光領域に広く吸収波長をもち、多種の溶媒に対する溶解性に優れることから、染料は、アゾ染料であることが好ましい。
水溶性のアゾ染料としては、WATER COLOR Series(オリヱント化学工業製)等が挙げられ、Black、Yellow、Red、Green、Orange、Pink、Blue、Violet等のSeriesから適宜選択して所望する吸収波長や色味に調製すればよい。
【0050】
<水性溶媒>
本発明において水性溶媒とは、イオン交換水、純水、浄水、蒸留水等の水を主成分とした溶媒である。水性溶媒は、必要に応じてアルコール系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒等の水溶性または水混和性有機溶媒を含んでもよい。
【0051】
塗料中の水性溶媒の割合(希釈率)は、用途に合わせて任意に調整可能である。例えば、スプレー、ディップ、または筆塗り等の塗布方法や、使用用途により塗膜の膜厚を制御する場合においても適宜調整すればよい。また、所望とする塗料の粘度に調製するために、適宜希釈率を変えてもよい。
【0052】
反射防止塗料の粘度は、所望とする膜厚や塗布後の液垂れ防止によって調製すればよいが、3mPa・s以上、1,000mPa・s以下であることが好ましい。反射防止塗料の粘度が3mPa・s以上であれば、液垂れを抑制し、塗膜の膜厚の制御も容易になる。反射防止塗料の粘度が1,000mPa・s以下であると、膜厚のばらつきや、泡がみを抑制することが可能である。
また、反射防止塗料を塗布した後の乾燥速度をコントロールするために、複数の溶媒を混合して用いてもよい。
【0053】
本発明に係る反射防止塗料は、水性溶媒中にバインダー樹脂が分散したエマルションである。そして、水溶性染料は水性溶媒に溶解し、塗料全体に分散する。このとき、塗料を基材表面上に塗布してから、乾燥・固化を経て塗膜が形成されるまでの過程を図1(a)~(c)を用いて説明する。
【0054】
図1(a)は、本発明に係る反射防止塗料1を基材2の表面に塗布した直後の状態を示す模式図である。水溶性染料4は、水性溶媒5中に溶解し、反射防止塗料1が含有するバインダー樹脂3の分散粒子同士の間に存在する。そのため、バインダー樹脂3の分散粒子の粒径が小さいほど、水溶性染料4を反射防止塗料1全体に均一に配置することが可能になる。
【0055】
続いて、乾燥・固化の過程で水性溶媒5が揮発して消失し、図1(b)に示すように、水溶性染料4はバインダー樹脂3の分散粒子間に残留する。その後、粒子が融着して成膜された状態になり、図1(c)に示す通り、水溶性染料4は、反射防止塗膜6中において、バインダー樹脂3の分散粒子間で残留していた位置で分散した状態となる。
【0056】
つまり、バインダー樹脂3の分散粒子が大きいと、水溶性染料4は大きい分散粒子の周りの位置に離散することになり、形成された反射防止塗膜6中での水溶性染料4の分布にむらが生じることとなる。したがって反射防止塗料1中のバインダー樹脂3の分散粒子は、小さいほど好ましい。
具体的には、水性溶媒中のバインダー樹脂の分散粒子が有する体積基準のメジアン径(D50)は、0.1μm以下であることが好ましい。以下、メジアン径(D50)は全て体積基準とする。上述した通り、メジアン径(D50)が小さいほど、反射防止塗膜6中の水溶性染料4が均一に分散された配置となり、反射防止塗膜6の反射防止性能が向上する。
【0057】
上記において、例えば、バインダー樹脂をエマルションとしてではなく、固体の樹脂粒子として水性溶媒中に分散することも考えられ、この場合は、樹脂粒子の粒径を予め小さくしておくことで水溶性染料を塗膜中に均一に分散させることができる。しかし一方で、固体の樹脂粒子を用いる場合は、成膜時に高温での加熱が必要であり、基材として樹脂レンズを使用した場合には基材が溶解し、成型不良を引き起こす場合がある。
【0058】
<他の添加剤>
反射防止塗料は、その反射防止性能を保持する範囲内で、必要に応じて他の添加剤を含有していてもよい。塗料が含有し得る他の添加剤としては、pH調節剤、揺変剤、増粘剤、消泡剤、成膜助剤、分散安定剤、分散剤、架橋剤、密着性付与剤、界面活性剤、レベリング剤、有機微粒子、無機微粒子、防腐剤および防カビ剤等が挙げられる。
【0059】
このうち、増粘剤は、反射防止塗料の粘度を調整することで、基材に塗布する際の膜厚制御や、塗布後の液垂れ防止の目的で使用することが可能である。増粘剤の種類としては、例えば、水添ひまし油系、酸化ポリエチレン系、アマイド系、ポリエーテル系のワックスや、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエーテル変性ウレタン化合物、ポリウレタン共重合体、ポリアクリル酸塩、アクリル酸・メタクリル酸共重合体等の有機系、シリカ系、モンモリロナイト系、炭酸カルシウム系等の無機系挙げられる。
【0060】
使用する材料のpHがそれぞれ異なる場合は、pH調節剤を用いて各材料の液性をそろえてから、それらを互いに混合することが好ましい。pHの大きく異なる材料同士を混合すると経時変化により、凝集物を生じる場合がある。これは混合液中のpHが大きく異なる材料同士を混合することによってエマルション等の安定性がゆらぎ、時間の経過と共に一部凝集等を引き起こすためであると考えられる。例えば、中性~弱塩基性を示すバインダー樹脂に対して、酸性を示すアクリル酸を含む増粘剤を使用する際は、pH調節剤を用いて増粘剤を中性~弱塩基性に調節してからバインダー樹脂と混合することが好ましい。
【0061】
また、塗膜の強度を高めるため、塗料は、エポキシ基やカルボジイミド基を含む架橋剤を含有してもよい。これらの架橋剤は樹脂エマルションの活性水素基と反応して架橋構造を形成することが知られている。活性水素基としては水酸基、カルボキシ基等が挙げられる。これらの架橋剤は1種を用いても良いし、2種以上を同時に用いても良い。
【0062】
防腐剤および防カビ剤の例としては、ベンズイミダゾール系、イソチアゾリル系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパルギル系、ベンゾチアゾール系、フェノール系、トリアジン系、アダマンタン系、ピリジン系等が挙げられる。
【0063】
<反射防止塗料の製造方法>
本発明に係る反射防止塗料は、バインダー樹脂、水溶性染料、水性溶媒、およびその他の材料を混合することで製造することができる。混合は、公知の方法により行うことができ、例えば、マグネチックスターラー、プロペラ攪拌機、ボールミル、ペイントシェーカー、バスケットミル、ダイノーミル、ウルトラビスコミル、アニュラー型分散機等を使用して混合することが可能である。
【0064】
<反射防止塗膜>
本発明に係る反射防止塗膜は、これまで述べてきた本発明に係る反射防止塗料を用いて形成された塗膜である。
反射防止塗膜の厚さは、0.5μm以上、100μm以下であることが好ましい。反射防止塗膜の厚さが、0.5μm以上であれば、基材の塗料を塗布した面の反対側から入射し、その後基材を透過した可視光を効果的に吸収することができ、反射の抑制や遮光の効果が高く得られる。また、反射防止塗膜の厚さが、100μm以下であると反射防止塗料を成膜した際に膜厚のばらつきを抑制することができる。
【0065】
<反射防止塗膜の製造方法>
本発明に係る反射防止塗膜は、これまで述べてきた本発明に係る反射防止塗料を基材に塗布し、その後、乾燥させることで製造することができる。
塗膜を形成する対象となる基材としては、硝子、樹脂等、公知のものを使用することができる。塗膜の形成方法は特に限定されず、公知の塗布方法を用いればよい。塗布方法としては、例えば、スプレー、刷毛、ローラ、ロールコート、アプリケーター、ワイヤーバー(バーコーター)、ディップ塗装、スポンジ塗布等が挙げられる。
また、乾燥方法は、溶媒が揮発し、その後使用した樹脂の分散粒子が互いに融着する方法であればよく、用途や必要とする乾燥速度に合わせて公知の乾燥方法を選択すればよい。公知の乾燥方法としては、例えば、電気炉、熱風、遠赤外線等が挙げられる。
【実施例0066】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることは無い。
各実施例および比較例に使用した材料を表1に示す。また、反射防止塗料を塗布する対象として用いた基材の種類を表2に示す。
【0067】
【表1】
表1中、メジアン径(D50)(μm)は、対応する樹脂の分散粒子についての値である。
【0068】
【表2】
【0069】
(実施例1)
<反射防止塗料の調製>
反射防止塗料100質量部に対する材料として、ウレタンAの固形分を21.7質量部、シリコーン共重合体Aの固形分を2.4質量部、染料Aの固形分を2.7質量部、溶媒(バインダー樹脂の製品に含まれる溶媒と、染料の製品に含まれる溶媒と、主溶媒との合計)が73.2質量部となるように、それぞれの材料を準備した。
次に、準備した材料を容量100mLのビーカー入れ、スターラー(MULTI MAGNETIC STIRRER HSD-4:アズワン製)にてREV.CONTROLを「3」に設定し、10分間、攪拌して反射防止塗料を得た。実施例1で使用した材料、および各材料の配合量を表3に示す。
【0070】
<反射防止塗膜の作製>
上記の反射防止塗料の調製で得た反射防止塗料を、基板B上にワイヤーバー(ウェット膜厚12μm)を用いて塗布し、80℃で30分乾燥して反射防止塗膜を作製した。
【0071】
(実施例2~16、18、20、22~38、40、42、44~52、54、56、60、61、比較例1~12)
実施例1において、用いる材料の種類および配合量、用いる基材の種類、並びに膜厚を表3~表6に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして塗料を調製した。また、得られた塗料を用いて実施例1と同様にして塗膜を作製した。
【0072】
(実施例17)
<反射防止塗料の調製、および反射防止塗膜の作製>
反射防止塗料100質量部に対する材料として、ウレタンAの固形分を19.1質量部、シリコーン共重合体Aの固形分を2.1質量部、染料Aの固形分を2.4質量部、溶媒(バインダー樹脂の製品に含まれる溶媒と、染料の製品に含まれる溶媒と、主溶媒との合計)が76.2質量部、増粘剤の固形分を0.2質量部となるように、それぞれの材料を準備した。
次に、準備した材料のうち増粘剤と、主溶媒の一部(11.7質量部)とを容量100mLのビーカー入れ、18時間膨潤させた後、プロペラ攪拌機(ペンシルミキサー DX:アズワン製)を用いて、7000rpmで60分間攪拌し、増粘剤溶液を得た。バインダー樹脂(製品に含まれる溶媒を含む)、増粘剤溶液、残りの主溶媒を容量100mLのビーカー入れ、スターラー(MULTI MAGNETIC STIRRER HSD-4:アズワン製)にてREV.CONTROLを「5」に設定し、45分間、攪拌した。その後、染料A(製品に含まれる溶媒を含む)を加え、前記条件のスターラーで15分間攪拌し、反射防止塗料を得た。実施例17で使用した材料、および各材料の配合量を表3に示す。また、得られた塗料を用いて実施例1と同様にして塗膜を作製した。
【0073】
(実施例19、21、39、41、43、53、55、57~59)
実施例17において、用いる材料の種類および配合量、用いる基材の種類、並びに膜厚を表3~表5に示すように変更した以外は、実施例17と同様にして塗料を調製した。また、得られた塗料を用いて、各実施例の膜厚に応じたワイヤーバーを選択した以外は、実施例1と同様にして塗膜を作製した。
【0074】
(実施例62)
<反射防止塗料の調製、および反射防止塗膜の作製>
反射防止塗料100質量部に対する材料として、ウレタンAの固形分を17.1質量部、シリコーン共重合体Aの固形分を1.9質量部、染料Aの固形分を2.1質量部、溶媒(バインダー樹脂の製品に含まれる溶媒と、染料の製品に含まれる溶媒と、主溶媒との合計)が78.4質量部、増粘剤の固形分を0.2質量部、pH調節剤の固形分を0.2質量部となるように、それぞれの材料を準備した。
次に、準備した材料のうち増粘剤と、主溶媒の一部(11.7質量部)とを容量100mLのビーカー入れ、18時間膨潤させた後、プロペラ攪拌機(ペンシルミキサー DX:アズワン製)を用いて、7000rpmで60分間攪拌し、増粘剤溶液を得た。増粘剤溶液に、pH調節剤、主溶媒の一部(9.0質量部)を加え、スターラー(MULTI MAGNETIC STIRRER HSD-4:アズワン製)にてREV.CONTROLを「5」に設定し、10分間、攪拌し、pHを調節した増粘剤溶液を得た。ウレタンA(製品に含まれる溶媒を含む)、pHを調節した増粘剤溶液、および残りの主溶媒を容量100mLのビーカー入れ、前述条件のスターラーで、45分間、攪拌した。その後、染料A(製品に含まれる溶媒を含む)を加え、前記条件のスターラーで15分間攪拌し、反射防止塗料を得た。実施例62で使用した材料、および各材料の配合量を表5に示す。また、得られた塗料を用いて実施例1と同様にして塗膜を作製した。
【0075】
(実施例63)
実施例62において、用いる材料の種類および配合量、用いる基材の種類、並びに膜厚を表5に示すように変更した以外は、実施例62と同様にして塗料を調製した。また、得られた塗料を用いて、実施例63の膜厚に応じたワイヤーバーを選択した以外は、実施例1と同様にして塗膜を作製した。
【0076】
<測定>
〔バインダー樹脂の分散粒子が有するメジアン径(D50)〕
バインダー樹脂の分散粒子が有する体積基準のメジアン径(D50)は、粒度分布測定装置(商品名:Nanotrac WAVE-EZ150、日機装社製)を用いて以下のようにして測定した。
測定するサンプルをイオン交換水で500倍に希釈し、スターラーにて1分間撹拌混合したものについて、上記測定装置にセットし、粒度分布を測定した。得られた結果より体積基準のメジアン径(D50)を求めた。
測定の結果を表3~6に示す。
【0077】
〔粘度〕
反射防止塗料の粘度は、TVB-15形粘度計(東機産業社製)にLアダプタを取付け、23±1℃の温度で測定した。ロータの回転速度は、測定対象となる液の粘度に応じて最適となるよう適宜調整した。
測定の結果を表3~6に示す。
【0078】
<反射防止塗膜の評価>
各実施例および比較例で調製した反射防止塗料を用いて作製したそれぞれの反射防止塗膜について、以下の通り評価した。
【0079】
〔密着性〕
各実施例および比較例で作製した反射防止塗膜と基材との密着性は、クロスカット法(JIS K 5600-5-6:1999)を用いて、に基づき以下のとおり評価した。
A:クロスカットの評価において「分類:0」、または「分類:1」
B:クロスカットの評価において「分類:2」、または「分類:3」
C:クロスカットの評価において「分類:4」、または「分類:5」
評価の結果を表3~6に示す。
【0080】
<参考:JIS K 5600-5-6:1999による評価>
0:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがない。
1:カットの交差点における塗膜の小さなはがれ。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を上回ることはない。
2:塗膜がカットの縁に沿って、および/または交差点においてはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に5%を超えるが15%を上回ることはない。
3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的または全面的に大はがれを生じており、および/または目のいろいろな部分が、部分的または全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に15%を超えるが35%を上回ることはない。
4:塗膜がカットの縁に沿って、部分的または全面的に大はがれを生じており、および/または数か所の目が部分的または全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは,明確に35%を上回ることはない。
5:分類4でも分類できないはがれ程度のいずれか。
【0081】
〔成膜性〕
各実施例および比較例で作製した反射防止塗膜を用いて成膜性を確認した。成膜した表面状態を目視観察にて下記の通り評価した。
A:基材とのハジキ、ヒビワレ、ムラが全くなく、均一な表面状態。
B:基材とのハジキ、ヒビワレはないが、僅かに膜厚ムラが見られる。
C:基材とのハジキ、ヒビワレの発生、もしくは顕著な膜厚ムラが見られる。
評価の結果を表3~6に示す。
【0082】
〔耐溶剤性〕
各実施例および比較例で作製した反射防止塗膜を試験片とし、イソプロピルアルコールを浸したクリーニングペーパー(ダスパーK-3、小津産業社製)を用いて反射防止塗膜の表面のラビングを30回(往復)実施した。その後目視により観察を行い、以下の通り評価した。
A:色落ちなし、もしくは極わずかである。
B:色落ちあるが、実使用上問題ないレベルである。
C:色落ちが激しい、もしくは膜はがれが発生した。
評価の結果を表3~6に示す。
【0083】
〔反射防止性能〕
反射防止性能の評価として、以下の通り拡散反射率の測定を行った。
各実施例および比較例で作製した反射防止塗膜を試験片として、ILN-725型150mmφ積分球ユニットを取り付けた分光光度計(商品名:V-670、日本分光社製)を用いて拡散反射率の測定を行った。
測定においては、図2に示すように試験片を設置し、試験片面に対し垂直に伸びる法線15に対して入射角14を特定の値として波長400nm~700nmまで1nm刻みの条件で入射光10を入射させた反射率の平均値を算出した。
反射光にはスライドグラス表面で反射する正反射光11とスライドグラス内に透過した光が塗膜内面側で反射(拡散反射)する反射光の両方が含まれるため、積分球ユニットにて正反射光11を除去した正反射光を含まない拡散反射光13を測定した。
得られた測定結果について以下の通りに評価した。
A:反射率が、「0.15%以下」であり反射防止が極めて優れている。
B:反射率が、「0.15%を超え、0.25%以下」であり反射防止が優れている。
C:反射率が、「0.25%を超える」であり反射防止が不十分。
評価の結果を表3~6に示す。
【0084】
〔総合評価〕
総合評価は、密着性、成膜性、耐溶剤性、および反射防止性能それぞれの評価を用いて以下の通りにして行った。
A:全てが評価「A」である。
B:少なくとも評価「B」を含み、かつ評価「C」がない。
C:評価「C」が1つ以上ある。
評価の結果を表3~6に示す。
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】
【0087】
【表6】
【符号の説明】
【0088】
1.反射防止塗料
2.基材
3.バインダー樹脂
4.水溶性染料
5.水性溶媒
6.反射防止塗膜
7.試験片
10.入射光
11.正反射光
12.透過光
13.拡散反射光
14.入射角
15.法線
図1
図2