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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155512
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】封着用組成物
(51)【国際特許分類】
   C03C 8/24 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
C03C8/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040107
(22)【出願日】2022-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2021058459
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000178826
【氏名又は名称】日本山村硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】前田 浩三
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA08
4G062BB01
4G062DA02
4G062DA03
4G062DB01
4G062DB02
4G062DB03
4G062DC01
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4G062HH01
4G062HH04
4G062HH05
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4G062HH15
4G062HH17
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK10
4G062MM27
4G062NN29
4G062NN32
(57)【要約】
【課題】ペースト作製時に沈降しにくく、かつ、封着又は被覆する時に結晶化が効果的に抑制された封着材を提供する。
【解決手段】実質的に酸化鉛を含まないビスマス系ガラス粉末と、耐火物フィラー粉末とを含む封着用組成物であって、(1)ビスマス系ガラス粉末はCuOを5重量%以下含み、かつ、Biを70重量%以上80重量%未満含み、(2)ビスマス系ガラス粉末の平均粒子径D50が8~18μmである、ことを特徴とする封着用組成物に係る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に酸化鉛を含まないビスマス系ガラス粉末と、耐火物フィラー粉末とを含む封着用組成物であって、
(1)ビスマス系ガラス粉末はCuOを5重量%以下含み、かつ、Biを70重量%以上80重量%未満含み、
(2)ビスマス系ガラス粉末の平均粒子径D50が8~18μmである、
ことを特徴とする封着用組成物。
【請求項2】
耐火物フィラー粉末の含有量が10~45体積%である、請求項1に記載の封着用組成物。
【請求項3】
耐火物フィラー粉末の平均粒子径D50が9μm未満である、請求項1又は2に記載の封着用組成物。
【請求項4】
耐火物フィラー粉末の平均粒子径D50(F)がビスマス系ガラス粉末の平均粒子径D50(B)よりも小さい、請求項1~3のいずれかに記載の封着用組成物。
【請求項5】
前記ビスマス系ガラス粉末が、
(a)Bi:70重量%以上80重量%未満、
(b)SiO:0.5~5重量%、
(c)B:4~15重量%、
(d)Al:0~5重量%
(e)ZnO:5~20重量%、
(f)CaO+SrO+BaO:0.4~5重量%
(g)LiO+NaO+KO:0~5重量%
(h)CuO:0.1~2重量%
を含有するガラス組成物である、請求項1~4のいずれかに記載の封着用組成物。
【請求項6】
前記ビスマス系ガラス粉末が、
(a)Bi:70重量%以上80重量%未満、
(b)SiO:0.5重量%未満、
(c)B:4~15重量%、
(d)Al:0~5重量%
(e)ZnO:3~10重量%、
(f)CaO+SrO+BaO:0.5~10重量%
(g)LiO+NaO+KO:0~5重量%
(h)CuO:1~5重量%
を含有するガラス組成物である、請求項1~4のいずれかに記載の封着用組成物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的低温で封着又は被覆することができる組成物に関する。本発明は、特にセラミック基板、金属基板等の電子部品で使用できる封着用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子材料等の封着及び被覆において、鉛ガラスは汎用性が高く、様々な用途で使用されてきたが、近年の環境問題から使用が避けられており、無鉛ガラスへの代替が進められている。特に、無鉛ガラスの中でも、ビスマス系ガラスは、低温での焼成が可能であり、この観点から有力な代替材料として開発が行われている。
【0003】
例えば、モル分率で、Bi:30~50%、B:10~40%、BaO+SrO:1~10%、ZnO:0~30%、CuO:0~20%、Fe:0~5%、SiO+Al:0~5%、CsO:0~5%、F:0~20%の組成を有し、かつ、Bi/(BaO+SrO)が3.5~35.0の関係を満たすことを特徴とするビスマス系ガラス組成物が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また例えば、モル%で、Bi:40~50%、B:15~25%、ZnO:20~35%、BaO+SrO+MgO+CaO:0.5~10%、CuO:0~10%、Fe:0~5%、SiO+Al:0~5%、WO:0~5%、Sb:0~5%、In+Ga:0~5%含有することを特徴とするビスマス系無鉛ガラス組成物が知られている(特許文献2)。
【0005】
また、MgO、Al、SiOを所定量含有させることにより、耐火性フィラー、特にコーディエライトからガラスへの物質拡散速度が小さくなり、熱的安定性を向上させることができるビスマス系ガラス組成物が知られている(特許文献3)。
【0006】
さらに、ガラス組成として、質量%で、Bi:80~88%、B:4~10%、ZnO:3~12%、MgO+CaO+SrO+BaO:0.1~5%、CuO+Fe:0~1%未満、SiO:0~1%未満を含有することを特徴とするビスマス系ガラス粉末が提案されている(特許文献4)。
【0007】
その他にも、ビスマス系ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を含有する封着材料において、耐火性フィラー粉末の平均粒子径D50が9~24μm、90%粒子径D90が32~90μmであることを特徴とする封着材料がある(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000-128574号公報
【特許文献2】特開2006-321665号公報
【特許文献3】特開2008-127240号公報
【特許文献4】特開2019-214481号公報
【特許文献5】特開2008-94705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ビスマス系ガラスにおいても、電子部品の封着では、他のガラスと同様、基板材料の熱膨張係数に封着材料の熱膨張係数を近づけることが必要とされる。ところが、ビスマス系ガラスは、熱膨張係数が高いので、基板材料の熱膨張係数に合わせるためにビスマス系ガラスに耐火物フィラーを添加する必要がある。一方、基板材料としては、セラミック、金属等の多種の材料が用いられており、その熱膨張係数も高いものから低いものまで様々であり、それらに応じて耐火物フィラーの含有量、種類等も変更する必要がある。
【0010】
ここで、添加される耐火物フィラーの粒度が細かいと、焼成時にガラス中に溶解しやすくなり、封着材料の軟化温度が上昇して低温封着が困難になることから、粒度が粗い耐火物フィラーが一般的に用いられる。しかし、耐火物フィラーの熱膨張係数はガラスよりもかなり小さいため、耐火物フィラーの粒度が粗いと、ガラスとの境界面に歪が起こり、マイクロクラックが発生しやすくなる。
【0011】
また、ガラスは、焼成時の流動性を良くすることが要求されるため、流動性を妨げる原因となる結晶化を抑制し、安定化させることが重要である。ビスマス系ガラスにおいても、同様の理由から、結晶化抑制のために粒度を粗くし、結晶化が起こりにくい組成にすることが重要である。ガラスの安定性が悪いと、耐火物フィラーとともに焼成した際、耐火物フィラーが核となるか又はそれ自体が反応することにより、ガラスの結晶化が進行し、流動性が失われ、封着等が困難ないしは不可能となる。
【0012】
ビスマス系ガラスにおいて、低融化させるためには酸化ビスマス成分量を多くする必要があるが、酸化ビスマス含有量が多いと、ガラスの安定性が悪くなり、酸化ビスマスを主成分とする結晶が析出するという問題ある。結晶が析出すると、上記のように流動性が低下し、封着等が難しくなる。この問題を解決するためにはガラスが還元されることを抑制し、かつ、低融点に寄与するガラス成分を添加することが必要である。
【0013】
また、ビスマス系ガラスと耐火物フィラーからなる封着材料をペーストで用いる場合、ビスマス系ガラスは密度が高いため、粒度が粗すぎると耐火物フィラーとともにペーストの底部に沈降するという問題がある
【0014】
従って、本発明の主な目的は、上記従来技術の問題点を解消し、ペースト作製時に沈降しにくく、かつ、封着又は被覆する時に結晶化が効果的に抑制された封着材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の組成を有するガラス組成物によって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、下記の封着用組成物に係る。
1. 実質的に酸化鉛を含まないビスマス系ガラス粉末と、耐火物フィラー粉末とを含む封着用組成物であって、
(1)ビスマス系ガラス粉末はCuOを5重量%以下含み、かつ、Biを70重量%以上80重量%未満含み、
(2)ビスマス系ガラス粉末の平均粒子径D50が8~18μmである、
ことを特徴とする封着用組成物。
2. 耐火物フィラー粉末の含有量が10~45体積%である、前記項1に記載の封着用組成物。
3. 耐火物フィラー粉末の平均粒子径D50が9μm未満である、前記項1又は2に記載の封着用組成物。
4. 耐火物フィラー粉末の平均粒子径D50(F)がビスマス系ガラス粉末の平均粒子径D50(B)よりも小さい、前記項1~3のいずれかに記載の封着用組成物。
5. 前記ビスマス系ガラス粉末が、
(a)Bi:70重量%以上80重量%未満、
(b)SiO:0.5~5重量%、
(c)B:4~15重量%、
(d)Al:0~5重量%
(e)ZnO:5~20重量%、
(f)CaO+SrO+BaO:0.4~5重量%
(g)LiO+NaO+KO:0~5重量%
(h)CuO:0.1~2重量%
を含有するガラス組成物である、前記項1~4のいずれかに記載の封着用組成物。
6. 前記ビスマス系ガラス粉末が、
(a)Bi:70重量%以上80重量%未満、
(b)SiO:0.5重量%未満、
(c)B:4~15重量%、
(d)Al:0~5重量%
(e)ZnO:3~10重量%、
(f)CaO+SrO+BaO:0.5~10重量%
(g)LiO+NaO+KO:0~5重量%
(h)CuO:1~5重量%
を含有するガラス組成物である、前記項1~4のいずれかに記載の封着用組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ペースト作製時に沈降しにくく、かつ、封着・被覆する時に結晶化が効果的に抑制された封着材を提供することができる。特に、本発明の封着用組成物は、特定の組成及び粒径制御された無鉛ビスマス系ガラス粉末を採用しているため、それを用いて電子部品等を封着又は封止する際には、550℃以下のという比較的低温で焼成して使用することができる。この場合、焼成において、耐火物フィラー以外の結晶が析出することなく、あるいは析出してもごくわずかであるため、優れた流動性を示す。
【0018】
また、封着用組成物から得られた焼成体は、機械的強度が高く、優れた耐久性を発揮することができる。熱膨張係数も、約50~80×10-7/℃の範囲で制御されているので、各種の被封着物、基板材料等が有する熱膨張係数に近づけることができるので、幅広い用途に適用できる。この点においても、工業的規模での生産により適した封着材となり得る。
【0019】
このような特徴をもつ本発明の封着用組成物は、例えば電子部品(半導体素子等)を外部環境から保護するための封止、封着、被覆等において好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の封着用組成物(本発明組成物)は、実質的に酸化鉛を含まないビスマス系ガラス粉末と、耐火物フィラー粉末とを含む封着用組成物であって、
(1)ビスマス系ガラス粉末はCuOを5重量%以下含み、かつ、Biを70重量%以上80重量%未満含み、
(2)ビスマス系ガラス粉末の平均粒子径D50が8~18μmである、
ことを特徴とする。
なお、本明細書において、数値範囲を示す符号「~」は「以上・以下」を示す。
【0021】
A.ガラス粉末
A1.ガラス粉末の組成
本発明組成物のガラス成分を構成する組成として、実質的に酸化鉛を含まないビスマス系ガラス粉末(本発明ガラス粉末)を用いる。以下、本発明ガラス粉末の組成等について説明する。
【0022】
Bi
Biは、主として、ガラスの網目を形成する酸化物であり、本発明組成物の主成分となるものである。
【0023】
本発明ガラス粉末中におけるBi含有量は、通常は70重量%以上80重量%未満である。従って、例えば73~79.5重量%の範囲あるいは75~79重量%の範囲とすることができる。本発明では、特に70~76重量%の範囲とすることが好ましく、その中でも71重量%以上75重量%未満の範囲とすることがより好ましい。Bi含有量が70重量%未満の場合、ガラスが得られるものの、軟化温度が高いため、低温域での封止材料として使用できなくなるおそれがある。また、Bi含有量が80重量%以上となる場合、結晶が析出する可能性が高くなるおそれがあり、封着が不安定になるおそれがある。また、結晶が析出しない場合でも、ガラス自体の熱膨張係数が高くなるため、添加するフィラー量を増やす必要があり、低温での封着ができないおそれがある。
【0024】
CuO
CuOは、本発明組成物において、主として、軟化温度を下げ、流動性を上げる役割を果たす成分である。
【0025】
本発明ガラス粉末中におけるCuO含有量は、通常は5重量%以下の範囲にある。従って、例えば1~5重量%の範囲、また2~5重量%の範囲、さらには2重量%を超え、かつ、5重量%以下の範囲に設定することもできる。本発明では、特に、0.1~2重量%とすることが好ましく、その中でも0.5~1.5重量%とすることがより好ましい。CuO含有量が0.1重量%未満の場合、安定性向上の効果が得られないおそれがある。また、CuO含有量が5重量%を超える場合は、ガラスが得られないか、あるいは結晶が析出しやすくなる。
【0026】
PbO
本発明では、PbOは実質的に含まれない。なお、本発明において「実質的に含まれない」とは、不純物レベルで含有されるような場合までをも禁止するものではなく、例えばガラスを作製する原材料等に単に不純物として含まれているレベルであれば、その含有は許容される。より具体的には、酸化物換算においてそれらの合計重量が1000ppm以下であれば、本発明の封止用ガラス組成物に含有されても実質上問題になるおそれは低いため、「実質的に含まれない」に該当する。
【0027】
その他の成分
本発明ガラス粉末では、上記の各成分のほか、SiO、B、Al、ZnO、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属酸化物等が以下に示すような特定量の範囲内で含まれていても良い。
【0028】
SiOは、主としてガラスの網目を形成し、ガラスの成形性を向上させる成分である。SiO含有量は、通常は5重量%以下の範囲とすれば良い。従って、例えば0~0.3重量%の範囲、さらには0~0.1重量%の範囲とすることができる。本発明では、特に0.5~5重量%とすることが好ましく、その中でも0.5~3重量%とすることがより好ましい。SiOが5重量%を超える場合、ガラスの軟化温度が高くなるため、低温での封着ができなくなるおそれがあり好ましくない。
【0029】
は、主としてガラスの網目を形成する役割を有する。B含有量は、通常4~15重量%の範囲であることが好ましく、特に5~12重量%であることがより好ましく、その中でも6~10重量%であることが最も好ましい。B含有量が4重量%未満の場合、ガラスが得られないおそれがあり、また得られたとしてもガラスの成形性が悪いあるいは結晶が析出しやすくなるおそれがある。また、B含有量が15重量%を超える場合、軟化温度が高くなるため、低温での封着ができなくなるおそれがある。
【0030】
Alは、主として、ガラスの網目を形成し、ガラスの成形性を向上させる成分である。Al含有量は、通常0~5重量%とすることが好ましく、特に0~2重量%とすることがより好ましい。Alの量が5重量%を超える場合、ガラスの軟化温度が高くなるため、低温での封着ができなくなるおそれがある、あるいはガラス中に溶解しないおそれがある。
【0031】
ZnOは、主として、軟化温度を下げ、流動性を上げる機能を有する成分である。ZnO含有量は、通常5~20重量%とすれば良い。従って、例えば5~10重量%の範囲、あるいは5~8重量%の範囲に設定することもできる。本発明では、特に10~15重量%とすることが好ましく、その中でも11~14重量%とすることがより好ましい。ZnO含有量が5重量%未満の場合、ガラスが得られないおそれがあり、また得られたとしてもガラスの成形性が悪いあるいは結晶が析出するおそれがある。また、ZnO含有量が20重量%を超える場合、ガラスが得られない可能性があり、また得られたとしても結晶が析出しやすくなる可能性がある。
【0032】
アルカリ土類金属酸化物であるCaO、SrO又はBaOは、特にZnOとの共存によりガラスの安定性を向上させる成分である。CaO、SrO及びBaOの合計含有量は、通常は0.4~10重量%の範囲内で設定することが望ましい。従って、例えば0.5~5重量%の範囲、あるいは0.5~3重量%の範囲に設定することもできる。本発明では、特に0.4~5重量%とすることが好ましく、その中でも0.5~3重量%とすることがより好ましい。前記合計量が0.4重量%未満の場合、安定性向上の効果が得られない可能性がある。また、前記合計量が10重量%を超える場合、ガラスが得られないか、あるいは結晶が析出しやすくなるため、好ましくない。
【0033】
アルカリ金属酸化物であるLiO、NaO又はKOは、主として軟化温度を下げ、流動性を上げる成分である。LiO、NaO及びKOの合計含有量は、通常0~5重量%であることが好ましく、特に0~3重量%とすることがより好ましい。前記合計量が5重量%を超える場合、ガラスが得られない可能性があり、またガラスが得られたとしても結晶が析出する可能性がある。
【0034】
本発明ガラス粉末では、上記成分に加えて、例えばガラス製造時の安定性の向上、金属との反応抑制、接着性の改善する目的で、例えばFe、La、Y、Yb、CeO、TiO、ZrOの少なくとも1種を合計2重量%以下の範囲内で適宜加えることができる。
【0035】
A2.ガラス粉末の物性
本発明ガラス粉末は、平均粒子径D50が8~18μmとし、特に9~15μmとすることが好ましく、その中でも10~12μmとすることがより好ましい。本発明ガラス粉末は、焼成時に一旦収縮した後、軟化流動しながらセラミックス、金属の表面を濡らすことが必要であるため、焼成時の流動性が高いものである必要がある。このためには、粉砕条件により粒径を調整し、上記のような平均粒径とする。
【0036】
ここで、粒子径が小さすぎる微粉が含まれていると結晶化が起こるおそれがあり、封着焼成時における組成物の流れ性が低下して流動が阻害されるため、封止材の塗布・焼成回数を増加させる必要が生じて製造コストの増加につながる。一方、粒子径が大きすぎる粗粉は、粉末をペースト化する際、あるいは塗布、乾燥の際に、粉末粒子が沈降し、分離するおそれがある。このため、上述の微粉及び粗粉を分級等の操作により取り除くことによって粒径を調整することが望ましい。かかる見地から、最大粒径は、通常100μm以下とすることが好ましく、特に90μm以下とすることがより好ましく、その中でも75μm以下とすることが最も好ましい。
【0037】
本発明ガラス粉末のガラス転移点(Tg)は、限定的ではないが、通常は360~400℃程度の範囲であれば良い。従って、例えば370~390℃とすることができる。
【0038】
本発明ガラス粉末の軟化点(Ts)は、限定的ではないが、通常は420~470℃程度の範囲であれば良い。従って、例えば430~450℃とすることができる。
【0039】
また、本発明ガラス粉末は、示唆熱分析(DTA)のDTA曲線において、900℃以下の範囲内で結晶化ピーク温度(Tp)が認められないことが好ましい。
【0040】
A3.ガラス粉末の製造
本発明ガラス粉末の製造方法自体は、特に限定的でなく、例えば1)本発明ガラス粉末の組成となるように調合された原料を混合する工程(混合工程)、2)得られた混合物を900~1050℃の温度で溶融することにより溶融ガラスを調製する工程(溶融工程)、3)溶融ガラスを結晶化させないようにして冷却する工程(冷却)を含む製造方法によって製造することができる。
【0041】
原料としては、ガラス成分の供給源となる化合物を出発原料として使用すれば良い。通常は、本発明ガラス粉末に含まれる元素(Bi、Cu等)の酸化物を出発原料として使用すれば良いが、前記元素の水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等も用いることができる。例えば、Bi源としてBi等、Cu源としてはCuO等、Al源としてはAl、Al(OH)等を適宜使用することができる。これら原料は、通常は粉末のものを使用すれば良く、これらの粉末を均一に混合して混合粉末を調製することができる。
【0042】
このようにして得られた混合物(混合粉末)を通常900~1050℃程度の温度で溶融することにより溶融ガラスを調製する。溶融雰囲気は限定的でないが、通常は大気中(ないしは酸化性雰囲気中)で大気圧下にて溶融工程を実施すれば良い。
【0043】
次いで、冷却工程において、溶融ガラスを結晶化させないようにして冷却する。このような冷却条件は、特に限定されず、公知のガラス製造の場合と同様とすれば良い。従って、例えば溶融ガラスをステンレス鋼製の冷却ロールに接触させて急冷する方法を採用することができる。
【0044】
このようにして本発明ガラス粉末が得られるが、必要に応じて粉砕、分級等の処理を施しても良い。なお、粉砕、分級等により粒度調整する場合は、前記のように平均粒径D50を8~18μmに制御しつつ、好ましくは最大粒径が100μm以下となるように調整すれば良い。
【0045】
A4.本発明ガラス粉末の組成例
本発明ガラス粉末の具体的な組成としては、
(a)Bi:70重量%以上80重量%未満、
(b)SiO:0.5~5重量%、
(c)B:4~15重量%、
(d)Al:0~5重量%
(e)ZnO:5~20重量%、
(f)CaO+SrO+BaO:0.4~5重量%
(g)LiO+NaO+KO:0~5重量%
(h)CuO:0.1~2%
を含有する組成が例示される。
【0046】
また、別の実施形態に係る組成としては、
(a)Bi:70重量%以上80重量%未満、
(b)SiO:0.5重量%未満、
(c)B:4~15重量%、
(d)Al:0~5重量%
(e)ZnO:3~10重量%、
(f)CaO+SrO+BaO:0.5~10重量%
(g)LiO+NaO+KO:0~5重量%
(h)CuO:1~5重量%
を含有する組成が例示される。
【0047】
従って、例えば下記組成aも本発明のガラス粉末に包含される。
(組成a)
(a)Bi:72~75重量%、
(b)SiO:0.5~2重量%、
(c)B:7~10重量%、
(d)Al:0.1~1重量%
(e)ZnO:11~14重量%、
(f)CaO+SrO+BaO:2~4重量%
(g)LiO+NaO+KO:0~1重量%
(h)CuO:0.1~1.5重量%
【0048】
また例えば、下記組成bも本発明のガラス粉末に包含される。
(組成b)
(a)Bi:70~79.5重量%、
(b)SiO:0~0.1重量%、
(c)B:5~10重量%、
(d)Al:0~5重量%
(e)ZnO:3~10重量%、
(f)CaO+SrO+BaO:0.5~10重量%
(g)LiO+NaO+KO:0~1重量%
(h)CuO:2~5重量%
【0049】
このような組成を有する本発明組成物は、より優れた流動性を示すうえ、比較的高いガラス転移温度を示すことから、封着用組成物によりいっそう適したガラス成分を提供することができる。
【0050】
B.耐火物フィラー
耐火物フィラーは、本発明組成物の熱膨張係数と被封着体の熱膨張係数とを近づけ、効果的に封着させる機能を有する。耐火物フィラーは、本発明組成物の焼成体中に分散した状態で存在するものである。
【0051】
耐火物フィラーとしては、特に限定されないが、本発明ではセラミックスフィラー及び石英ガラスフィラーの少なくとも1種を好適に用いることができる。セラミックスフィラーとしては、例えばフォルステライト、ステアタイト、ワラストナイト、コーディエライト、β-ユークリプタイト、チタン酸アルミニウム、チタン酸バリウム、ジルコン、ムライト、β-スポジュメン、アルミナ、セルシアン、ウィレマイト、ジルコニア(部分安定化ジルコニアを含む。)リン酸ジルコニウム、リン酸タングステン酸ジルコニウム、シリカ(α-クォーツ、クリストバライト、トリジマイト)等の少なくとも1種を用いることができる。これらの耐火物フィラー自体は、公知又は市販のものを使用することができる。本発明では、特に、ジルコニア、ジルコン、リン酸ジルコニウム、リン酸タングステン酸ジルコニウム等の少なくとも1種のジルコニウム系耐火物フィラーを好適に用いることができる。
【0052】
また、本発明では、封着後に生じ得るマイクロクラックをより効果的に抑えるという見地より、負膨張の大きい耐火物フィラーを単独で添加するよりも、負膨張の大きさが互いに異なる2種類以上を用いることが望ましい。負膨張の大きい耐火物フィラーとしては、例えばリン酸ジルコニウム、リン酸タングステン酸ジルコニウム等が挙げられる。
【0053】
耐火物フィラーは、通常は粉末の形態であり、その平均粒子径D50は通常9μm未満とすることが好ましく、特に5μm以下とすることがより好ましく、さらに3μm以下とすることが最も好ましい。耐火物フィラーの平均粒子径の下限は、例えば0.8μm程度とすることができるが、これに限定されない。
【0054】
また、耐火物フィラーにおける最大粒径は、通常100μm以下とすることが好ましく、特に50μm以下とすることがより好ましく、その中でも15μm以下とすることが最も好ましい。
【0055】
さらに、本発明においては、耐火物フィラーの平均粒子径D50(F)が本発明ガラス粉末の平均粒子径D50(B)よりも小さいことが好ましく、特に両者の差[D50(B)-D50(F)]が2μm以上であることがより好ましい。これにより、焼成体中のマイクロクラック等をより効果的に抑制することができる。なお、耐火物フィラーとして、平均粒子径が互いに異なる複数種の耐火物フィラーを用いる場合は、本発明ガラス粉末といずれの耐火物フィラーとの間においても、上記関係が成立することが好ましい。
【0056】
本発明組成物中における耐火物フィラーの含有量は、用いる本発明ガラス粉末の組成等に応じて適宜設定することができるが、通常はガラス粉末に耐火物フィラーを焼成時の組成物の流れ性を低下させない程度に添加する。上記含有量が45体積%を超えると、封着焼成時に組成物の流れ性を低下させて流動を阻害するおそれがある。従って、耐火物フィラーの含有量は、本発明組成物中10~45体積%程度とすることが好ましく、特に15~40体積%とすることがより好ましい。
【0057】
C.本発明組成物
本発明組成物は、上記のような本発明ガラス粉末及び耐火物フィラーを含むものであるが、本発明の効果を妨げない範囲内において、後記に示すような添加剤が含まれていても良い。
【0058】
本発明組成物は、特に、次のような物性を有することが好ましい。これにより、電子部品等の封止用又は封着用としてより好適に用いることができる。
【0059】
第1に、流動性に優れているため、その焼成体のフロー径が大きいことが望ましい。より具体的には、本発明組成物10gを内径20mmの金型に入れ、3MPaで10秒プレス成形することにより得られる圧粉体を昇温速度5℃/分で室温から550℃まで昇温し、550℃で15分保持することにより焼成を行った後のフロー径が25mm以上であることが望ましい。
【0060】
第2に、50℃及び250℃の2点の基づく熱膨張係数(α)が45~85×10-7/℃であることが好ましく、特に50~80×10-7/℃であることがより好ましい。このような範囲に制御すれば電子部品の封止性をより向上させることができる。
【0061】
本発明組成物は、例えば粉末(乾燥粉末)の形態で使用することもできるが、粉末状の本発明組成物をバインダー及び/又は溶媒に分散させたスラリー、ペースト等の液状組成物の形態で使用することもできる。
【0062】
本発明組成物を液状組成物として使用する場合は、溶剤及び有機バインダーの少なくとも1種を混合して調製すれば良い。例えば、粉末状の本発明組成物と、溶剤及び有機バインダーの少なくとも1種とを混合することによって液状組成物を好適に調製することができる。
【0063】
前記有機バインダーは、特に制限されず、本発明組成物の具体的用途(被封止物等)に応じて公知のバインダーの中から適宜採用することができる。例えば、エチルセルロース等のセルロース樹脂等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
前記溶剤としては、特に限定されず、例えば用いる前記バインダーの種類等に応じて公知の有機溶剤から適宜選択すれば良い。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類のほか、テルピネオール(α―テルピネオール又はα―テルピネオールを主成分としたβ―テルピネオール、γ―テルピネオールの混合体)等の有機溶剤が挙げられるが、これらに限定されない。なお、有機溶剤は、単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0065】
また、本発明では、前記の液状組成物の調製においては、必要に応じて、例えば可塑剤、増粘剤、増感剤、界面活性剤、分散剤、着色剤等の公知の添加剤を適宜配合することができる。
【0066】
本発明では、本発明組成物を用いて電子部品の封止を行うことができる。封止方法自体は、公知の封止方法に従って実施することができる。例えば、電子部品等の被封止体の表面に接するように本発明組成物で直接覆う工程及び前記表面上に配置された本発明組成物を焼成する工程を含む方法のほか、電子部品を収容する容器とその蓋材との間に本発明ガラス粉末を配置する工程及び前記配置された本発明組成物を焼成する工程を含む方法等を採用することができる。
【0067】
この場合、本発明組成物を用いて被覆等を行う場合、そのまま粉末の形態で必要な箇所に配置する方法、あるいはその液状組成物を公知の方法(印刷、ディスペンサー等)によって塗布する方法等を採れば良い。
【0068】
その他にも、本発明組成物を成形することにより予め所定の未焼成成形体とし、その成形体を必要な箇所に配置する方法も採用できる。
【実施例0069】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0070】
ガラス製造例A~J
表1に示す各成分を所定の割合になるよう調合・混合し、得られた混合粉末を白金るつぼに入れ、950℃の温度で1時間溶融した後、双ロール法で急冷することによりガラスフレークを製造した。得られたガラスフレークをポットミルで粉砕することにより、各ガラス粉末A~Jを調製した。
【0071】
ガラス製造例K~Q
表6に示す各成分を所定の割合になるよう調合・混合し、得られた混合粉末を白金るつぼに入れ、950℃の温度で1時間溶融した後、双ロール法で急冷することによりガラスフレークを製造した。得られたガラスフレークをポットミルで粉砕することにより、各ガラス粉末K~Qを調製した。
【0072】
試験例1
各製造例で得られたガラス粉末について、以下の物性をそれぞれ測定した。その結果も併せて表1及び表6にそれぞれ示す。
【0073】
(1)ガラス転移温度(Tg)、軟化温度(Ts)及び結晶化ピーク温度(Tp)
ガラス粉末約40mgを白金セルに充填し、DTA測定装置(リガク社製Thermo Plus TG8120)を用い、昇温速度20℃/分で室温から900℃まで昇温させて、ガラス転移温度(Tg)、軟化温度(Ts)及び結晶化ピーク温度(Tp)をそれぞれ測定した。
【0074】
(2)ガラス粉末の平均粒径D50
レーザー散乱式粒度分布計を用いて、体積分布モードのD50の値を求めた。なお、後記に示すフィラーの平均粒径D50も同様の測定方法により測定した。
【0075】
【表1】
【0076】
実施例1
前記ガラス粉末A(77体積%)と、耐火物フィラーとしてコージェライト(11.5体積%)及びジルコン(11.5体積%)とを混合することによって粉末状の封着用組成物を調製した。
【0077】
実施例2~26及び比較例1~3
ガラス粉末及び耐火物フィラーを表2~表5に示す種類及び割合で使用したほかは、実施例1と同様にして粉末状の封着用組成物をそれぞれ調製した。なお、表2~表5には、上段から順に、ガラス粉末の種類、含有量(体積%)及び平均粒径D50(μm)と、耐火物フィラーの種類、含有量(体積%)及び平均粒径D50(μm)とを順に示す。
【0078】
試験例2
各実施例及び比較例で得られた封着用組成物について、以下の物性をそれぞれ測定した。その結果も併せて表2~表5に示す。
【0079】
(1)封着用組成物の圧粉体のフロー径
封着用組成物10gを内径20mmの金型に入れ、3MPaで10秒プレス成形することにより圧粉体を作製した。次いで、得られた圧粉体を昇温速度5℃/分で室温から550℃まで昇温し、550℃で15分保持することにより焼成を行った。得られた焼結体の直径を測定し、フロー径とした。フロー径が大きいほど流動性が良好であることを示す。
【0080】
(2)熱膨張係数
上記(1)で得られた焼成体を約5×5×10~15mmに切り出し、試験体を作製した。試験体につき、TMA測定装置を用いて、室温から10℃/分で昇温したときに得られる熱膨張曲線から、50℃と250℃の2点に基づく熱膨張係数(α)を求めた。
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
【表4】
【0084】
【表5】
【0085】
実施例27~33
ガラス粉末及び耐火物フィラーを表7に示す種類及び割合で使用したほかは、実施例1と同様にして粉末状の封着用組成物をそれぞれ調製した。なお、表7には、上段から順に、ガラス粉末の種類、含有量(体積%)及び平均粒径D50(μm)と、耐火物フィラーの種類、含有量(体積%)及び平均粒径D50(μm)とを順に示す。
【0086】
【表6】
【0087】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の封着組成物は、550℃以下という比較的低温で焼成することにより封着あるいは被覆できるので、セラミックス、金属基板等に対する封着材として好適に利用することができる。