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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155516
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】菌付着抑制剤及び菌付着抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/10 20060101AFI20221005BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20221005BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
A01N25/10
A01P3/00
A01N61/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041529
(22)【出願日】2022-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2021058503
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】矢野 貴大
(72)【発明者】
【氏名】伊森 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】田村 周子
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011AA03
4H011BB19
4H011DH10
4H011DH14
(57)【要約】
【課題】種々の菌種に対して、また、種々の材質の固体の表面において、良好な菌付着抑制効果を簡便に得られる菌付着抑制剤及び菌付着抑制方法を提供する。
【解決手段】〔1〕(A1)、(A2)及び(A3)からなる群から選ばれる1種以上の多糖類を含む、菌付着抑制剤、及び、〔2〕前記多糖類を含む水溶液で、固体の表面に前記多糖類を物理吸着させる処理を行う工程を含む、菌付着抑制方法である。
(A1)デンプン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれる多糖
(A2)エチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A3)多糖(A1)、セルロース誘導体(A2)、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースの、1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基で置換されている多糖誘導体
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A1)、(A2)及び(A3)からなる群から選ばれる1種以上の多糖類を含む、菌付着抑制剤。
(A1)デンプン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれる多糖
(A2)エチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A3)前記多糖(A1)、前記セルロース誘導体(A2)、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースの、1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基(ただし、ヒドロキシエチルセルロースの水酸基が前記置換基で置換される場合には、カチオン性基を有し、かつ、全体としてカチオン性を示す置換基を除く)で置換されている多糖誘導体
【請求項2】
下記の(A1)、(A2)及び(A3)からなる群から選ばれる1種以上の多糖類を含む、バイオフィルム形成抑制剤。
(A1)デンプン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれる多糖
(A2)エチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A3)前記多糖(A1)、前記セルロース誘導体(A2)、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースの、1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基(ただし、ヒドロキシエチルセルロースの水酸基が前記置換基で置換される場合には、カチオン性基を有し、かつ、全体としてカチオン性を示す置換基を除く)で置換されている多糖誘導体
【請求項3】
前記置換基が、下記式(1)~(5)のいずれかで表される1種以上の置換基である、請求項1又は2に記載の剤。
-(RO)(CH) (1)
-(RO)CHCH(OH)R (2)
-(RO)CH(CHOH)R (3)
-(RO)CHCH(OH)CHO(RO) (4)
-(RO)CH(CHOH)CHO(RO) (5)
(式(1)~(5)中、
は、炭素数4以上28以下の炭化水素基である。
及びRは、それぞれ独立に、炭素数2以上4以下のアルキレン基である。
mは0以上30以下の整数、nは0以上30以下の整数、pは0以上20以下の整数である。)
【請求項4】
下記(A1)、(A2)及び(A3)からなる群から選ばれる1種以上の多糖類を含む水溶液で、固体の表面に前記多糖類を物理吸着させる処理を行う工程を含む、菌付着抑制方法。
(A1)デンプン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれる多糖
(A2)エチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A3)前記多糖(A1)、前記セルロース誘導体(A2)、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースの、1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基(ただし、ヒドロキシエチルセルロースの水酸基が前記置換基で置換される場合には、カチオン性基を有し、かつ、全体としてカチオン性を示す置換基を除く)で置換されている多糖誘導体
【請求項5】
下記(A1)、(A2)及び(A3)からなる群から選ばれる1種以上の多糖類を含む水溶液で、固体の表面に前記多糖類を物理吸着させる処理を行う工程を含む、バイオフィルム形成抑制方法。
(A1)デンプン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれる多糖
(A2)エチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A3)前記多糖(A1)、前記セルロース誘導体(A2)、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースの、1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基(ただし、ヒドロキシエチルセルロースの水酸基が前記置換基で置換される場合には、カチオン性基を有し、かつ、全体としてカチオン性を示す置換基を除く)で置換されている多糖誘導体
【請求項6】
前記処理は、前記固体の表面を、前記多糖類を含む水溶液に浸漬させることにより行われる、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記置換基が、下記式(1)~(6)のいずれかで表される1種以上の置換基である、請求項4~6のいずれか1項に記載の方法。
-(RO)(CH) (1)
-(RO)CHCH(OH)R (2)
-(RO)CH(CHOH)R (3)
-(RO)CHCH(OH)CHO(RO) (4)
-(RO)CH(CHOH)CHO(RO) (5)
-(RO)C(=O)(RO) (6)
(式(1)~(6)中、
は、炭素数4以上28以下の炭化水素基である。
及びRは、それぞれ独立に、炭素数2以上4以下のアルキレン基である。
mは0以上30以下の整数、nは0以上30以下の整数、pは0以上20以下の整数である。)
【請求項8】
前記固体が、ポリエステル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ステンレス鋼及びガラスからなる群から選ばれる1種以上である、請求項4~7のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌付着抑制剤及び菌付着抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌性材料は、医療分野や衛生分野のみならず、日常の生活用品においても、需要が高まっている。抗菌性材料には、固体表面に付着した菌の増殖を抑制する抗菌剤や、殺菌剤、また、固体表面への菌の付着を抑制する菌付着抑制剤等がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、ヒアルロン酸又はその誘導体やカルボキシメチルセルロースのエステルを、プラズマ処理した物体表面に、ポリエチレンイミンを用いて安定的な状態で結合させて被覆する方法により、物体表面への菌の付着を減少させることができると記載されている。
また、特許文献2には、硬質表面への菌の付着抑制方法として、植物抽出物であるサポニンを硬質表面に所定量残留させることにより、人体に悪影響を及ぼすことなく、硬質表面への菌の付着を抑制できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-80153号公報
【特許文献2】特開2014-33827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体表面へ菌が一度付着すると、固体表面に付着した菌が増殖し、バイオフィルムを形成する。固体表面に付着した菌や固体表面に形成されたバイオフィルムを取り除く作業には手間やコストもかかるため、固体表面への菌の付着を抑制することができる菌付着抑制剤や菌付着抑制方法への要望が高まっている。
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、物体表面を被覆するヒアルロン酸又はその誘導体やカルボキシメチルセルロースのエステルは、化学結合により安定的な状態で物体表面に結合されることによって、菌の付着を抑制できるとされており、安定的な結合のために、物体表面を、予め、プラズマ処理したり、他の化合物を用いて処理したりする必要があった。
また、特許文献2に記載の方法では、特定の植物からの抽出されるサポニンが用いられており、多用性や汎用性には適しているとは言えないものであった。
【0006】
本発明は、種々の菌種に対して、また、種々の材質の固体の表面において、良好な菌付着抑制効果を簡便に得られる菌付着抑制剤及び菌付着抑制方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、所定の多糖及び/又は多糖誘導体を用いて、種々の菌種に対して、また、種々の材質の固体の表面において、良好な菌付着抑制効果を発揮することができることに着目し、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記[1]及び[2]に関する。
[1]下記の(A1)、(A2)及び(A3)からなる群から選ばれる1種以上の多糖類を含む、菌付着抑制剤。
(A1)デンプン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれる多糖
(A2)エチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A3)前記多糖(A1)、前記セルロース誘導体(A2)、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースの、1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基(ただし、ヒドロキシエチルセルロースの水酸基が前記置換基で置換される場合には、カチオン性基を有し、かつ、全体としてカチオン性を示す置換基を除く)で置換されている多糖誘導体
[2]下記(A1)、(A2)及び(A3)からなる群から選ばれる1種以上の多糖類を含む水溶液で、固体の表面に前記多糖類を物理吸着させる処理を行う工程を含む、菌付着抑制方法。
(A1)デンプン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれる多糖
(A2)エチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A3)前記多糖(A1)、前記セルロース誘導体(A2)、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースの、1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基(ただし、ヒドロキシエチルセルロースの水酸基が前記置換基で置換される場合には、カチオン性基を有し、かつ、全体としてカチオン性を示す置換基を除く)で置換されている多糖誘導体
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、種々の菌種に対して、また、種々の材質の固体の表面において、良好な菌付着抑制効果を簡便に得られる菌付着抑制剤及び菌付着抑制方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[菌付着抑制剤]
本発明の菌付着抑制剤は、下記の(A1)、(A2)及び(A3)からなる群から選ばれる1種以上の多糖類(以下、単に「多糖類」ともいう)を含む。
(A1)デンプン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれる多糖
(A2)エチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A3)前記多糖(A1)、前記セルロース誘導体(A2)、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースの、1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基(ただし、ヒドロキシエチルセルロースの水酸基が前記置換基で置換される場合には、カチオン性基を有し、かつ、全体としてカチオン性を示す置換基を除く)で置換されている多糖誘導体
本発明において「カチオン性基」とは、カチオン基、又は、イオン化されてカチオン基になり得る基をいう。カチオン性基としては、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、及びそれらの塩、並びに第四級アンモニウム基が挙げられる。
ここで、前記カチオン性基は両性イオン性基を含む概念ではない。両性イオン基はカチオン性基とアニオン性基とを等モル量有しており、該官能基全体としてはカチオン性を示すものではない。したがって、前記ただし書きは、ヒドロキシエチルセルロースの水酸基が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基で置換される場合において、該置換基が両性イオン基を含む態様を除くものではない。
【0011】
本発明の菌付着抑制剤は、所定の多糖及び/又は多糖誘導体を含むものであることにより、種々の菌種に対して、また、種々の材質の固体の表面において、良好な菌付着抑制効果を発揮する。
【0012】
本発明の菌付着抑制剤に用いられる多糖類は、良好な菌付着抑制効果及び取り扱い容易性等の観点から、好ましくは水溶性である。
本明細書において「水溶性」とは、水に対する25℃における溶解度が0.1g/100g以上であることを意味する。
菌付着抑制剤の安定性や適用する際の取り扱い容易性等の観点から、菌付着抑制剤には、前記多糖類以外の成分が含まれていてもよく、前記成分としては、例えば、水、界面活性剤、有機溶剤、香料、pH調整剤等が挙げられる。有機溶剤は、好ましくは水と任意の割合で混和できる水溶性有機溶剤である。
【0013】
<多糖類>
〔(A1):多糖〕
本発明の菌付着抑制剤に用いられる多糖(A1)は、デンプン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれる。これらのうち、多糖(A1)は、良好な菌付着抑制効果の観点から、好ましくは、デンプン、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれ、より好ましくは、デンプン、ローカストビーンガム、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれ、更に好ましくは、ローカストビーンガム、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれ、更に好ましくは、ローカストビーンガム、及びキサンタンガムからなる群から選ばれる。
【0014】
〔(A2):セルロース誘導体〕
本発明の菌付着抑制剤に用いられるセルロース誘導体(A2)は、エチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選ばれる。これらのうち、前記セルロース誘導体(A2)は、良好な菌付着抑制効果の観点から、好ましくはエチルセルロースである。
【0015】
〔(A3):多糖誘導体〕
本発明の菌付着抑制剤に用いられる多糖誘導体(A3)は、多糖(A1)、セルロース誘導体(A2)、ヒドロキシエチルセルロース(以下、「HEC」と略記する場合もある。)又はヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、「HPMC」と略記する場合もある。)の、1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基(ただし、ヒドロキシエチルセルロースの水酸基が前記置換基で置換される場合には、カチオン性基を有し、かつ、全体としてカチオン性を示す置換基を除く)で置換されている。
すなわち、多糖誘導体(A3)は、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基(ただし、ヒドロキシエチルセルロースの場合には、カチオン性基を有し、かつ、全体としてカチオン性を示す置換基を除く)が、多糖(A1)、セルロース誘導体(A2)、HEC又はHPMCに導入されてなる多糖誘導体である。
【0016】
多糖(A1)、セルロース誘導体(A2)、HEC又はHPMCが有する複数の水酸基は、該多糖誘導体(A3)が水溶性であり、かつ、本発明の効果を妨げない範囲内で、一部のみが前記置換基で置換されていてもよく、全部が前記置換基で置換されていてもよいが、菌付着抑制効果をより向上させる観点から、多糖(A1)、セルロース誘導体(A2)、HEC又はHPMCが有する複数の水酸基の一部が前記置換基で置換されてなることが好ましい。これにより、多糖誘導体(A3)が、水酸基による親水性ユニットと前記炭化水素基による疎水性ユニットとを含むこととなる。そして、前記親水性ユニットは菌付着の抑制作用を奏し、前記疎水性ユニットは固体表面への吸着作用を奏し、これらの相乗作用により菌付着抑制効果をより向上させることができると考えられる。
なお、多糖(A1)、セルロース誘導体(A2)、HEC又はHPMCの、水酸基の水素原子の置換基は、すべてが同じ置換基であってもよく、異なる置換基であってもよい。
【0017】
前記炭化水素基の炭素数は、良好な菌付着抑制効果の観点、及び前記疎水性ユニットの固体表面への吸着作用により菌付着抑制効果をより向上させる観点から、4以上、好ましくは6以上である。そして、多糖誘導体(A3)の親水性の観点から、好ましくは28以下、より好ましくは26以下、更に好ましくは24以下、更に好ましくは22以下、更に好ましくは20以下、更に好ましくは18以下である。これらの観点を総合すると、前記炭化水素基の炭素数は、好ましくは4以上28以下、より好ましくは4以上26以下、更に好ましくは4以上24以下、更に好ましくは6以上22以下、更に好ましくは6以上20以下、更に好ましくは6以上18以下である。
前記炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及び芳香族炭化水素基のいずれであってもよい。前記脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基であっても、不飽和脂肪族炭化水素基であってもよく、また、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。前記炭化水素基としては、アルキル基、フェニル基、オルトトリル基,メタトリル基,パラトリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
これらのうち、前記炭化水素基は、良好な菌付着抑制効果の観点から、好ましくは、脂肪族炭化水素基、及び芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、フェニル基,オルトトリル基,メタトリル基,パラトリル基、ビフェニル基及びベンジル基からなる群から選ばれる1種以上である。また、良好な菌付着抑制効果の観点、並びに入手性及び経済性の観点からは、前記炭化水素基は、更に好ましくは直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である。
【0018】
前記置換基は、好ましくは下記式(1)~(5)のいずれかで表される1種以上の置換基である。
-(RO)(CH) (1)
-(RO)CHCH(OH)R (2)
-(RO)CH(CHOH)R (3)
-(RO)CHCH(OH)CHO(RO) (4)
-(RO)CH(CHOH)CHO(RO) (5)
(式(1)~(5)中、
は、炭素数4以上28以下の炭化水素基である。
及びRは、それぞれ独立に、炭素数2以上4以下のアルキレン基である。
mは0以上30以下の整数、nは0以上30以下の整数、pは0以上20以下の整数である。)
【0019】
式(1)~(5)中のRは、炭素数4以上28以下の炭化水素基である。
で表される炭化水素基の炭素数は、良好な菌付着抑制効果の観点、及び前記疎水性ユニットの固体表面への吸着作用により菌付着抑制効果をより向上させる観点から、4以上、好ましくは6以上である。そして、多糖誘導体(A3)の親水性の観点から、28以下、好ましくは26以下、より好ましくは24以下、更に好ましくは22以下、更に好ましくは20以下、更に好ましくは18以下である。これらの観点を総合すると、Rの炭素数は、好ましくは4以上26以下、より好ましくは4以上24以下、更に好ましくは6以上22以下、更に好ましくは6以上20以下、更に好ましくは6以上18以下である。
で表される炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及び芳香族炭化水素基のいずれであってもよい。前記脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基であっても、不飽和脂肪族炭化水素基であってもよく、また、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。前記炭化水素基としては、アルキル基、フェニル基、オルトトリル基,メタトリル基,パラトリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
これらのうち、前記炭化水素基は、良好な菌付着抑制効果の観点から、好ましくは、脂肪族炭化水素基、及び芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、フェニル基,オルトトリル基,メタトリル基,パラトリル基、ビフェニル基及びベンジル基からなる群から選ばれる1種以上である。良好な菌付着抑制効果の観点、並びに入手性及び経済性の観点からは、前記炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基がより好ましい。
【0020】
式(1)~(5)中のR及びRは、それぞれ独立に、炭素数2以上4以下のアルキレン基である。すなわち、RO及びROは、オキシアルキレン基を表す。多糖誘導体(A3)が有する式(1)~(5)のいずれかで表される置換基がオキシアルキレン基を有していることにより、該多糖誘導体(A3)の水溶性が良好になりやすい。
及びRは、それぞれ独立に、エチレン基、プロピレン基又はブチレン基であり、好ましくはエチレン基又はプロピレン基、より好ましくはエチレン基である。
【0021】
式(1)~(5)中のmは、0以上30以下の整数であり、好ましくは0以上20以下、より好ましくは0以上15以下、更に好ましくは0以上10以下であり、0であってもよい。式(4)及び(5)中のnは、0以上30以下の整数であり、好ましくは0以上20以下、より好ましくは0以上15以下、更に好ましくは0以上10以下であり、0であってもよい。
式(1)中のpは、0以上20以下の整数であり、好ましくは0以上15以下、より好ましくは0以上12以下、更に好ましくは0以上10以下、更に好ましくは0以上5以下であり、0であってもよい。
【0022】
多糖(A1)、セルロース誘導体(A2)、HEC又はHPMCの、1個以上の水酸基の水素原子は、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基以外に更に他の置換基で置換されていてもよい。かかる他の置換基としては、例えば、下記式(1')~(5')のいずれかで表される1種以上が挙げられる。
-(RO)(CH) (1')
-(RO)CHCH(OH)R (2')
-(RO)CH(CHOH)R (3')
-(RO)CHCH(OH)CHO(RO) (4')
-(RO)CH(CHOH)CHO(RO) (5')
(式(1’)~(5’)中、Rは、水素原子、カルボキシ基、カルボキシメチル基、スルホン酸基、リン酸基又はベタイン基である。R、R、m、n及びpは、式(1)~(5)と同義であり、好ましい態様も同じである。)
【0023】
式(1')~(5')中のRとしては、良好な菌付着抑制効果の観点から、アニオン性基であるカルボキシ基、カルボキシメチル基、スルホン酸基及びリン酸基からなる群から選ばれる1種以上も好ましい。
式(1')~(5')中のRとしては、良好な菌付着抑制効果の観点から、両性イオン基であるベタイン基も好ましい。ベタイン基としては、好ましくは、スルホベタイン基、カルボベタイン基及びホスホベタイン基からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくはスルホベタイン基である。
【0024】
前記菌付着抑制剤に用いられる多糖類としては、良好な菌付着抑制効果の観点から、好ましくは、セルロース誘導体(A2)及び多糖誘導体(A3)からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは多糖誘導体(A3)であり、更に好ましくは、HPMC又はHECの1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基で置換されている変性HPMC及び変性HECからなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくは、HECの1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基で置換されている変性HECであり、更に好ましくはHECの1個以上の水酸基の水素原子が、前記式(1)~(5)のいずれかで表される1種以上の置換基で置換されている変性HECである。これらの多糖誘導体は、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基以外の置換基、例えば、カルボキシ基、カルボキシメチル基、スルホン酸基、リン酸基、ベタイン基等を有していてもよい。具体的には、ラウリルグリシジルエーテル基及びスルホベタイン基を有する変性HEC(ラウリルグリシジルエーテル/スルホベタイン変性HEC)等が挙げられる。
【0025】
多糖誘導体(A3)の炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基は、良好な菌付着抑制効果の観点から、好ましくはヒドロカルビル基の炭素数が4以上であるグリシジル((ポリ)アルキレンオキシ)ヒドロカルビルエーテル、より好ましくはアルキル基の炭素数が4以上であるグリシジル((ポリ)アルキレンオキシ)アルキルエーテル、更に好ましくはアルキル基の炭素数が4以上であるグリシジルアルキルエーテルを導入剤として用いることにより、多糖(A1)、セルロース誘導体(A2)、HEC又はHPMCに導入することができる。これらの多糖誘導体は、多糖(A1)、セルロース誘導体(A2)、HEC又はHPMCの、水酸基の水素原子が、式(4)又は式(5)で表される置換基で置換されている多糖誘導体に相当する。
グリシジルアルキルエーテルとしては、例えば、ブチルグリシジルエーテル、ヘキシルグリシジルエーテル、オクチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル(ラウリルグリシジルエーテル)、オクタデシルグリシジルエーテル(ステアリルグリシジルエーテル)、テトラコシルグリシジルエーテル、2-ヘプチルノニルグリシジルエーテル、2-デシルテトラデカニルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、オルトクレジルグリシジルエーテル、オルトフェニルフェノールグリシジルエーテル等が挙げられる。これらのうち、グリシジルアルキルエーテルは、良好な菌付着抑制効果の観点から、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、2-ヘプチルノニルグリシジルエーテル、2-デシルテトラデカニルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、オルトクレジルグリシジルエーテル、オルトフェニルフェノールグリシジルエーテル等が好ましい。
【0026】
また、多糖誘導体(A3)において、水素原子を炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基で置換し、該置換基を導入するための導入剤として、良好な菌付着抑制効果の観点から、炭化水素の末端にエポキシ基を有する炭素数4以上のエポキシ化合物も好ましく、より好ましくは炭素数4以上の1,2-エポキシアルカンである。このような導入剤を用いて得られた多糖誘導体は、多糖(A1)、セルロース誘導体(A2)、HEC又はHPMCの、水酸基の水素原子が、式(2)又は式(3)で表される置換基で置換されている多糖誘導体に相当する。
1,2-エポキシアルカンとしては、1,2-エポキシブタン、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシテトラデカン、1,2-エポキシオクタデカン等が挙げられる。これらのうち、1,2-エポキシアルカンは、良好な菌付着抑制効果の観点から、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン等が好ましい。
【0027】
また、多糖誘導体(A3)において、水素原子を炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基で置換し、該置換基を導入するための導入剤として、良好な菌付着抑制効果の観点から、炭素数4以上のハロゲン化炭化水素も好ましく、より好ましくは炭素数4以上のハロゲン化アルキルである。このような導入剤を用いて得られた多糖誘導体は、多糖(A1)、セルロース誘導体(A2)、HEC又はHPMCの、水酸基の水素原子が、式(1)で表される置換基で置換されている多糖誘導体に相当する。
ハロゲン化アルキルとしては、ブチルブロマイド、ヘキシルブロマイド、オクチルブロマイド、ドデシルブロマイド、オクタデシルブロマイド、テトラコシルブロマイド、ベンジルクロライド、ベンジルブロマイド、ヨードベンジル等が挙げられる。これらのうち、ハロゲン化アルキルは、良好な菌付着抑制効果の観点から、ベンジルクロライド、ベンジルブロマイド等が好ましい。
【0028】
多糖誘導体(A3)において、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基を導入する方法としては、例えば、特開2020-200452号公報に記載の方法を参照して行うことができる。
【0029】
前記多糖類の好ましい重量平均分子量は、菌付着抑制剤の取り扱い容易性や良好な菌付着抑制効果を発揮させること等の観点から、おおよその範囲として、好ましくは50,000以上、より好ましくは80,000以上、更に好ましくは100,000以上であり、そして、好ましくは5,000,000以下、より好ましくは3,000,000以下、更に好ましくは2,000,000以下、更に好ましくは1,000,000以下、更に好ましくは500,000以下である。前記多糖類の重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0030】
<対象菌種>
本発明の菌付着抑制剤は、特定の1種の菌のみならず、種々の菌に対して、良好な菌付着抑制効果を奏する。
本発明において、付着抑制の対象となる菌種としては、例えば、ロドトルラ・ムシラギノーサ(Rhodotorula mucilaginosa)等のロドトルラ(Rhodotorula)属、サッカロミケス(Saccharomyces)属、ピキア(Pichia)属等に代表される真菌;クラドスポリウム(Cladosporium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、カンジダ・パラプシローシス(Candida parapsilosis)等のカンジダ(Candida)属、ペニシリウム(Penicillium)属、アルタナリア(Alternaria)属、フォーマ(Phoma)属、アウレオバシジウム(Aureobasidium)属等に代表される黴;緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス(Pseudomonas)属、モラクセラ・オスロエンシス(Moraxella osloensis)等のモラクセラ(Moraxella)属、ラルストニア(Ralstonia)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、大腸菌(Escherichia coli)等のエシェリキア(Escherichia)属、カプリアビダス(Cupriavidus)属、サイクロバクター(Psychorobacter)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、プロテウス(Proteus)属、セラチア(Serratia)属、ロゼオモナス・ムコサ(Roseomonas mucosa)等のロゼオモナス(Roseomonas)属、メチロバクテリウム・バリアビレ(Methylobacterium variabile)等のメチロバクテリウム(Methylobacterium)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属等に代表されるグラム陰性菌;セレウス菌(Bacillus cereus)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)等のバチルス(Bacillus)属、乳酸桿菌(Lactobacillus)属、マイクロコッカス(Micrococcus)属、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)等のブドウ球菌(Staphylococcus)属等に代表されるグラム陽性菌等が挙げられる。これらの菌種に対して、本発明の菌付着抑制剤は良好な菌付着抑制効果を示す。これらのうち、付着抑制の対象となる菌種は、良好な菌付着抑制効果の観点から、好ましくは、ロドトルラ・ムシラギノーサ、カンジダ・パラプシローシス、シュードモナス属、モラクセラ・オスロエンシス、ロゼオモナス・ムコサ、メチロバクテリウム・バリアビレ、スフィンゴモナス属、マイクロコッカス属及び黄色ブドウ球菌からなる群から選ばれる1種以上の菌等が挙げられる。
【0031】
[バイオフィルム形成抑制剤]
本発明のバイオフィルム形成抑制剤は、下記の(A1)、(A2)及び(A3)からなる群から選ばれる1種以上の多糖類を含む。
(A1)デンプン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれる多糖
(A2)エチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A3)前記多糖(A1)、前記セルロース誘導体(A2)、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースの、1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基(ただし、ヒドロキシエチルセルロースの水酸基が前記置換基で置換される場合には、カチオン性基を有し、かつ、全体としてカチオン性を示す置換基を除く)で置換されている多糖誘導体
ここで、「カチオン性基」及びただし書きについての説明は、上述した菌付着抑制剤の項における説明と同様であるため省略する。
【0032】
バイオフィルムは、固体表面に付着した菌及び菌が生成した菌体外多糖により形成される膜構造体である。バイオフィルムの形成は、固体表面への菌の付着が前提となるため、固体表面への菌の付着が抑制されれば、固体表面に存在する初期の菌数が低減され、バイオフィルム形成が抑制される。
本発明のバイオフィルム形成抑制剤の構成は、前記菌付着抑制剤と同様である。したがって、多糖類及び対象菌種についての説明は、上述した菌付着抑制剤の項における説明と同様であるため省略する。
【0033】
[抗菌剤]
本発明は、下記の(A1)、(A2)及び(A3)からなる群から選ばれる1種以上の多糖類を含む抗菌剤としてもよい。
(A1)デンプン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれる多糖
(A2)エチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A3)前記多糖(A1)、前記セルロース誘導体(A2)、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースの、1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基(ただし、ヒドロキシエチルセルロースの水酸基が前記置換基で置換される場合には、カチオン性基を有し、かつ、全体としてカチオン性を示す置換基を除く)で置換されている多糖誘導体
ここで、「カチオン性基」及びただし書きについての説明は、上述した菌付着抑制剤の項における説明と同様であるため省略する。
【0034】
抗菌は、菌の増殖を抑制することを意味し、固体表面における菌の増殖は、固体表面への菌の付着が前提となるため、固体表面への菌の付着が抑制されれば、固体表面に存在する初期の菌数が低減され、菌の増殖が抑制される。
前記抗菌剤の構成は、前記菌付着抑制剤と同様である。したがって、多糖類及び対象菌種についての説明は、上述した菌付着抑制剤の項における説明と同様であるため省略する。
【0035】
[菌付着抑制方法]
本発明の菌付着抑制方法は、下記(A1)、(A2)及び(A3)からなる群から選ばれる1種以上の多糖類を含む水溶液で、固体の表面に前記多糖類を物理吸着させる処理を行う工程を含む方法である。
(A1)デンプン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれる多糖
(A2)エチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A3)前記多糖(A1)、前記セルロース誘導体(A2)、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースの、1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基(ただし、ヒドロキシエチルセルロースの水酸基が前記置換基で置換される場合にはカチオン性基を有し、かつ、全体としてカチオン性を示す置換基を除く)で置換されている多糖誘導体
ここで、「カチオン性基」は、上述した菌付着抑制剤の項における説明と同様であるため省略する。
【0036】
本発明の菌付着抑制方法は、所定の多糖類を含む水溶液で、固体の表面に前記多糖類を物理吸着させる処理を行うことにより、種々の菌種に対して、また、種々の材質の固体の表面において、良好な菌付着抑制効果を発揮する。固体表面が大気中又は水中のいずれにある場合でも、良好な菌付着抑制効果が得られ、好ましくは、固体表面が水中にある場合に、より良好な効果が得られる。
【0037】
本発明の菌付着抑制方法に用いられる多糖類は、良好な菌付着抑制効果及び取り扱い容易性等の観点から、好ましくは水溶性である。
前記多糖類を含む水溶液(以下、「多糖類水溶液」と言う。)には、処理の際の取り扱い容易性等の観点から、前記多糖類以外の成分が含まれていてもよく、前記成分としては、例えば、界面活性剤、有機溶剤、香料、pH調整剤等が挙げられる。有機溶剤は、好ましくは水と任意の割合で混和できる水溶性有機溶剤である。
【0038】
<固体>
本発明の菌付着抑制方法は、固体の表面に対して処理をするものであり、処理対象の固体は、有機物であっても無機物であってもよく、また、複合材料であってもよく、例えば、樹脂、金属、セラミックス、ガラス、繊維製品、紙、皮膚、毛髪等が挙げられる。
前記固体は、良好な菌付着抑制効果が得られる材質として、好ましくは、ポリエステル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ステンレス鋼及びガラスからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、ポリエステル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ステンレス鋼及びガラスからなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ステンレス鋼及びガラスからなる群から選ばれる1種以上である。
【0039】
<多糖類>
本発明の菌付着抑制方法に用いられる多糖類のうち、多糖(A1)及びセルロース誘導体(A2)は、前記菌付着抑制剤における多糖(A1)及びセルロース誘導体(A2)と同様であり、好ましい態様も同様である。
前記多糖類のうち、多糖誘導体(A3)の置換基に含まれる炭化水素基は、好ましくは前記菌付着抑制剤における多糖誘導体(3)の置換基に含まれる炭化水素基と同様であるが、多糖誘導体(A3)の置換基は、好ましくは下記式(1)~(6)のいずれかで表される1種以上の置換基である。
-(RO)(CH) (1)
-(RO)CHCH(OH)R (2)
-(RO)CH(CHOH)R (3)
-(RO)CHCH(OH)CHO(RO) (4)
-(RO)CH(CHOH)CHO(RO) (5)
-(RO)C(=O)(RO) (6)
前記式(1)~(5)は、前記菌付着抑制剤における式(1)~(5)と同じである。前記式(1)~(6)中のR、R、R、m、n及びpは、前記菌付着抑制剤における式(1)~(5)中のR、R、R、m、n及びpと同じであり、好ましい態様も同様である。
式(6)で表される置換基は、カルボニル基を含み、該置換基により、多糖(A1)、前記セルロース誘導体(A2)、HEC又はHPMCにエステル基を導入することができる。本発明の菌付着抑制方法では、多糖(A1)、前記セルロース誘導体(A2)、HEC又はHPMCの、1個以上の水酸基の水素原子が式(6)で表される置換基で置換されている、エステル基が導入された多糖誘導体も好適に用いることができる。
【0040】
本発明の菌付着抑制方法に用いられる多糖類としては、良好な菌付着抑制効果の観点から、好ましくは、セルロース誘導体(A2)及び多糖誘導体(A3)からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは多糖誘導体(A3)であり、更に好ましくは、HPMC又はHECの1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基で置換されている変性HPMC及び変性HECからなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくは、HECの1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基で置換されている変性HECであり、更に好ましくはHECの1個以上の水酸基の水素原子が、前記式(1)~(6)のいずれかで表される1種以上の置換基で置換されている変性HECであり、更に好ましくはHECの1個以上の水酸基の水素原子が、前記式(1)~(5)のいずれかで表される1種以上の置換基で置換されている変性HECである。これらの多糖誘導体は、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基以外の置換基、例えば、カルボキシ基、カルボキシメチル基、スルホン酸基、リン酸基、ベタイン基等を有していてもよい。具体的には、ラウリルグリシジルエーテル基及びスルホベタイン基を有する変性HEC(ラウリルグリシジルエーテル/スルホベタイン変性HEC)等が挙げられる。
【0041】
なお、多糖誘導体(A3)において、水素原子を炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基で置換し、該置換基を導入するための導入剤として、例えば、炭素数4以上の炭化水素基を有する、カルボン酸、カルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸無水物等も好ましい。このような導入剤を用いて得られた多糖誘導体は、多糖(A1)、セルロース誘導体(A2)、HEC又はHPMCの、水酸基の水素原子が、式(6)で表される置換基で置換されている多糖誘導体に相当する。
【0042】
<多糖類水溶液>
本発明の菌付着抑制方法においては、前記多糖類水溶液で、処理対象の固体の表面に前記多糖類を物理吸着させる。本発明で言う「物理吸着」とは、固体表面に化学反応を伴って吸着する化学吸着とは区別される。
固体の表面に多糖類を物理吸着させる処理は、バインダーを使用したり、多糖類を有機溶剤溶液としたりする等の必要はなく、より簡便に、かつ、安全に、多糖類水溶液を用いる処理のみで、良好な菌付着抑制効果を得ることができる。
【0043】
多糖類水溶液による固体の表面の処理は、例えば、浸漬、塗布、噴霧、流延等の方法により行うことができる。これらの方法のうち、前記処理は、固体の表面を均一に処理しやすい等の観点から、好ましくは、前記固体の表面を、多糖類水溶液に浸漬させることにより行われる。その後、必要に応じて、水で濯いで、固体の表面を乾燥させてもよい。
多糖類水溶液中の多糖類の濃度は、処理の方法や、菌の付着抑制の所望の程度等にもよるが、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
例えば、多糖類水溶液に固体を浸漬させて、固体の表面を処理する場合、好ましくは、洗浄等により表面を清浄にした固体を、多糖類濃度が0.01質量%以上5質量%以下の水溶液に、0.1時間以上24時間以下浸漬させた後、水で濯ぎ、自然乾燥又はブロー乾燥する。
【0044】
[バイオフィルム形成抑制方法]
本発明のバイオフィルム形成抑制方法は、下記(A1)、(A2)及び(A3)からなる群から選ばれる1種以上の多糖類を含む水溶液で、固体の表面に前記多糖類を物理吸着させる処理を行う工程を含む方法である。
(A1)デンプン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれる多糖
(A2)エチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A3)前記多糖(A1)、前記セルロース誘導体(A2)、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースの、1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基(ただし、ヒドロキシエチルセルロースの水酸基が前記置換基で置換される場合には、カチオン性基を有し、かつ、全体としてカチオン性を示す置換基を除く)で置換されている多糖誘導体
ここで、「カチオン性基」及びただし書きについての説明は、上述した菌付着抑制剤の項における説明と同様であるため省略する。
【0045】
バイオフィルムの形成は、固体表面への菌の付着が前提となるため、固体表面への菌の付着が抑制されれば、固体表面に存在する初期の菌数が低減され、バイオフィルム形成が抑制される。このため、本発明のバイオフィルム形成抑制方法の態様は、前記菌付着抑制方法と同様であるため、説明を省略する。
【0046】
[抗菌方法]
本発明においては、下記(A1)、(A2)及び(A3)からなる群から選ばれる1種以上の多糖類を含む水溶液で、固体の表面に前記多糖類を物理吸着させる処理を行う工程を含む、抗菌方法であってもよい。
(A1)デンプン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれる多糖
(A2)エチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A3)前記多糖(A1)、前記セルロース誘導体(A2)、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースの、1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基(ただし、ヒドロキシエチルセルロースの水酸基が前記置換基で置換される場合には、カチオン性基を有し、かつ、全体としてカチオン性を示す置換基を除く)で置換されている多糖誘導体
ここで、「カチオン性基」及びただし書きについての説明は、上述した菌付着抑制剤の項における説明と同様であるため省略する。
【0047】
抗菌は、固体表面への菌の付着が前提となるため、固体表面への菌の付着が抑制されれば、固体表面に存在する初期の菌数が低減され、菌の増殖が抑制される。このため、前記抗菌方法の態様は、前記菌付着抑制方法と同様であるため、説明を省略する。
【0048】
上述の実施形態に関し、本発明はさらに以下の実施態様を開示する。
<1>
下記の(A1)、(A2)及び(A3)からなる群から選ばれる1種以上の多糖類を含む、菌付着抑制剤。
(A1)デンプン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれる多糖
(A2)エチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A3)前記多糖(A1)、前記セルロース誘導体(A2)、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースの、1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基(ただし、ヒドロキシエチルセルロースの水酸基が前記置換基で置換される場合には、カチオン性基を有し、かつ、全体としてカチオン性を示す置換基を除く)で置換されている多糖誘導体
<2>
下記の(A1)、(A2)及び(A3)からなる群から選ばれる1種以上の多糖類を含む、バイオフィルム形成抑制剤。
(A1)デンプン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれる多糖
(A2)エチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A3)前記多糖(A1)、前記セルロース誘導体(A2)、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースの、1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基(ただし、ヒドロキシエチルセルロースの水酸基が前記置換基で置換される場合には、カチオン性基を有し、かつ、全体としてカチオン性を示す置換基を除く)で置換されている多糖誘導体
<3>
前記多糖(A1)が、好ましくは、デンプン、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれ、より好ましくは、デンプン、ローカストビーンガム、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれ、更に好ましくは、ローカストビーンガム、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれ、更に好ましくは、ローカストビーンガム、及びキサンタンガムからなる群から選ばれる、<1>又は<2>に記載の剤。
<4>
前記セルロース誘導体(A2)が、好ましくはエチルセルロースである、<1>~<3>のいずれか1項に記載の剤。
<5>
前記置換基の炭化水素基の炭素数が、好ましくは4以上28以下、より好ましくは4以上26以下、更に好ましくは4以上24以下、更に好ましくは6以上22以下、更に好ましくは6以上20以下、更に好ましくは6以上18以下である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の剤。
<6>
前記置換基の炭化水素基が、好ましくは、脂肪族炭化水素基、及び芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、フェニル基,オルトトリル基,メタトリル基,パラトリル基、ビフェニル基及びベンジル基からなる群から選ばれる1種以上である、<1>~<5>のいずれか1項に記載の剤。
<7>
前記置換基が、下記式(1)~(5)のいずれかで表される1種以上の置換基である、<1>~<6>のいずれか1項に記載の剤。
-(RO)(CH) (1)
-(RO)CHCH(OH)R (2)
-(RO)CH(CHOH)R (3)
-(RO)CHCH(OH)CHO(RO) (4)
-(RO)CH(CHOH)CHO(RO) (5)
(式(1)~(5)中、
は、炭素数4以上28以下の炭化水素基である。
及びRは、それぞれ独立に、炭素数2以上4以下のアルキレン基である。
mは0以上30以下の整数、nは0以上30以下の整数、pは0以上20以下の整数である。)
<8>
で表される炭化水素基の炭素数が、好ましくは4以上26以下、より好ましくは4以上24以下、更に好ましくは6以上22以下、更に好ましくは6以上20以下、更に好ましくは6以上18以下である、<7>に記載の剤。
<9>
で表される炭化水素基が、好ましくは、脂肪族炭化水素基、及び芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、フェニル基,オルトトリル基,メタトリル基,パラトリル基、ビフェニル基及びベンジル基からなる群から選ばれる1種以上である、<7>又は<8>に記載の剤。
<10>
及びRが、それぞれ独立に、好ましくはエチレン基又はプロピレン基、より好ましくはエチレン基である、<7>~<9>のいずれか1項に記載の剤。
<11>
mが、好ましくは0以上20以下、より好ましくは0以上15以下、更に好ましくは0以上10以下である、<7>~<10>のいずれか1項に記載の剤。
<12>
nが、好ましくは0以上20以下、より好ましくは0以上15以下、更に好ましくは0以上10以下である、<7>~<11>のいずれか1項に記載の剤。
<13>
pが、好ましくは0以上15以下、より好ましくは0以上12以下、更に好ましくは0以上10以下、更に好ましくは0以上5以下である、<7>~<12>のいずれか1項に記載の剤。
<14>
前記多糖類が、好ましくは、セルロース誘導体(A2)及び多糖誘導体(A3)からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは多糖誘導体(A3)であり、更に好ましくは、HPMC又はHECの1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基で置換されている変性HPMC及び変性HECからなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくは、HECの1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基で置換されている変性HECであり、更に好ましくはHECの1個以上の水酸基の水素原子が、前記式(1)~(5)のいずれかで表される1種以上の置換基で置換されている変性HECである、<1>~<13>のいずれか1項に記載の剤。
<15>
前記多糖類の重量平均分子量が、おおよその範囲として、好ましくは50,000以上、より好ましくは80,000以上、更に好ましくは100,000以上であり、そして、好ましくは5,000,000以下、より好ましくは3,000,000以下、更に好ましくは2,000,000以下、更に好ましくは1,000,000以下、更に好ましくは500,000以下である、<1>~<14>のいずれか1項に記載の剤。
<16>
対象となる菌種が、好ましくは、ロドトルラ・ムシラギノーサ、カンジダ・パラプシローシス、シュードモナス属、モラクセラ・オスロエンシス、ロゼオモナス・ムコサ、メチロバクテリウム・バリアビレ、スフィンゴモナス属、マイクロコッカス属及び黄色ブドウ球菌からなる群から選ばれる1種以上である、<1>~<15>のいずれか1項に記載の剤。
<17>
下記(A1)、(A2)及び(A3)からなる群から選ばれる1種以上の多糖類を含む水溶液で、固体の表面に前記多糖類を物理吸着させる処理を行う工程を含む、菌付着抑制方法。
(A1)デンプン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれる多糖
(A2)エチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A3)前記多糖(A1)、前記セルロース誘導体(A2)、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースの、1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基(ただし、ヒドロキシエチルセルロースの水酸基が前記置換基で置換される場合には、カチオン性基を有し、かつ、全体としてカチオン性を示す置換基を除く)で置換されている多糖誘導体
<18>
下記(A1)、(A2)及び(A3)からなる群から選ばれる1種以上の多糖類を含む水溶液で、固体の表面に前記多糖類を物理吸着させる処理を行う工程を含む、バイオフィルム形成抑制方法。
(A1)デンプン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれる多糖
(A2)エチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選ばれるセルロース誘導体
(A3)前記多糖(A1)、前記セルロース誘導体(A2)、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースの、1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基(ただし、ヒドロキシエチルセルロースの水酸基が前記置換基で置換される場合には、カチオン性基を有し、かつ、全体としてカチオン性を示す置換基を除く)で置換されている多糖誘導体
<19>
前記多糖(A1)が、好ましくは、デンプン、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれ、より好ましくは、デンプン、ローカストビーンガム、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれ、更に好ましくは、ローカストビーンガム、キサンタンガム及びジェランガムからなる群から選ばれ、更に好ましくは、ローカストビーンガム、及びキサンタンガムからなる群から選ばれる、<17>又は<18>に記載の方法。
<20>
前記セルロース誘導体(A2)が、好ましくはエチルセルロースである、<17>~<19>のいずれか1項に記載の方法。
<21>
前記置換基の炭化水素基の炭素数が、好ましくは4以上28以下、より好ましくは4以上26以下、更に好ましくは4以上24以下、更に好ましくは6以上22以下、更に好ましくは6以上20以下、更に好ましくは6以上18以下である、<17>~<20>のいずれか1項に記載の方法。
<22>
前記置換基の炭化水素基が、好ましくは、脂肪族炭化水素基、及び芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、フェニル基,オルトトリル基,メタトリル基,パラトリル基、ビフェニル基及びベンジル基からなる群から選ばれる1種以上である、<17>~<21>のいずれか1項に記載の方法。
<23>
前記置換基が、下記式(1)~(6)のいずれかで表される1種以上の置換基である、<17>~<22>のいずれか1項に記載の方法。
-(RO)(CH) (1)
-(RO)CHCH(OH)R (2)
-(RO)CH(CHOH)R (3)
-(RO)CHCH(OH)CHO(RO) (4)
-(RO)CH(CHOH)CHO(RO) (5)
-(RO)C(=O)(RO) (6)
(式(1)~(6)中、
は、炭素数4以上28以下の炭化水素基である。
及びRは、それぞれ独立に、炭素数2以上4以下のアルキレン基である。
mは0以上30以下の整数、nは0以上30以下の整数、pは0以上20以下の整数である。)
<24>
で表される炭化水素基の炭素数が、好ましくは4以上26以下、より好ましくは4以上24以下、更に好ましくは6以上22以下、更に好ましくは6以上20以下、更に好ましくは6以上18以下である、<23>に記載の方法。
<25>
で表される炭化水素基が、好ましくは、脂肪族炭化水素基、及び芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、フェニル基,オルトトリル基,メタトリル基,パラトリル基、ビフェニル基及びベンジル基からなる群から選ばれる1種以上である、<23>又は<24>に記載の方法。
<26>
及びRが、それぞれ独立に、好ましくはエチレン基又はプロピレン基、より好ましくはエチレン基である、<23>~<25>のいずれか1項に記載の方法。
<27>
mが、好ましくは0以上20以下、より好ましくは0以上15以下、更に好ましくは0以上10以下である、<23>~<26>のいずれか1項に記載の方法。
<28>
nが、好ましくは0以上20以下、より好ましくは0以上15以下、更に好ましくは0以上10以下である、<23>~<27>のいずれか1項に記載の方法。
<29>
pが、好ましくは0以上15以下、より好ましくは0以上12以下、更に好ましくは0以上10以下、更に好ましくは0以上5以下である、<23>~<28>のいずれか1項に記載の方法。
<30>
前記多糖類が、好ましくは、セルロース誘導体(A2)及び多糖誘導体(A3)からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは多糖誘導体(A3)であり、更に好ましくは、HPMC又はHECの1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基で置換されている変性HPMC及び変性HECからなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくは、HECの1個以上の水酸基の水素原子が、炭素数4以上の炭化水素基を有する置換基で置換されている変性HECであり、更に好ましくはHECの1個以上の水酸基の水素原子が、前記式(1)~(6)のいずれかで表される1種以上の置換基で置換されている変性HECであり、更に好ましくはHECの1個以上の水酸基の水素原子が、前記式(1)~(5)のいずれかで表される1種以上の置換基で置換されている変性HECである、<17>~<29>のいずれか1項に記載の方法。
<31>
前記多糖類の重量平均分子量が、おおよその範囲として、好ましくは50,000以上、より好ましくは80,000以上、更に好ましくは100,000以上であり、そして、好ましくは5,000,000以下、より好ましくは3,000,000以下、更に好ましくは2,000,000以下、更に好ましくは1,000,000以下、更に好ましくは500,000以下である、<17>~<30>のいずれか1項に記載の方法。
<32>
対象となる菌種が、好ましくは、ロドトルラ・ムシラギノーサ、カンジダ・パラプシローシス、シュードモナス属、モラクセラ・オスロエンシス、ロゼオモナス・ムコサ、メチロバクテリウム・バリアビレ、スフィンゴモナス属、マイクロコッカス属及び黄色ブドウ球菌からなる群から選ばれる1種以上である、<17>~<31>のいずれか1項に記載の方法。
<33>
前記処理は、前記固体の表面を、前記多糖類を含む水溶液に浸漬させることにより行われる、<17>~<32>のいずれか1項に記載の方法。
<34>
前記固体が、好ましくは、ポリエステル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ステンレス鋼及びガラスからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、ポリエステル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ステンレス鋼及びガラスからなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ステンレス鋼及びガラスからなる群から選ばれる1種以上である、<17>~<33>のいずれか1項に記載の方法。
【実施例0049】
[多糖誘導体(試料1~13)の合成]
菌付着抑制剤に用いる下記の各種多糖誘導体(試料1~13)を合成した。
【0050】
各多糖誘導体の合成に用いた原料及び試薬等の詳細は以下のとおりである。
・ヒドロキシエチルセルロース(HEC(1)):「Natrosol(登録商標) 250 JR」、アシュランド社製;重量平均分子量150,000
・イソプロピルアルコール:丸紅ケミックス株式会社製
・48質量%水酸化ナトリウム水溶液:南海化学工業株式会社製
・ラウリルグリシジルエーテル:「エポゴーセー(登録商標) LA(D)」、四日市合成株式会社製
・ブチルグリシジルエーテル:「DY-BP」、四日市合成株式会社製
・2-エチルヘキシルグリシジルエーテル:「エポゴーセー(登録商標)2EH」、四日市合成株式会社製
・フェニルグリシジルエーテル:東京化成工業株式会社製
・オルトクレジルグリシジルエーテル:四日市合成株式会社製
・2-フェニルフェノールグリシジルエーテル:四日市合成株式会社製
・ベンジルブロマイド:東京化成工業株式会社製
・ステアリルグリシジルエーテル:「S-EP(C)」、四日市合成株式会社製
・2-クロロ-N,N-ジメチルエチルアミン塩酸塩:東京化成工業株式会社製
・ジエチルエーテル:富士フイルム和光純薬株式会社製
・アセトニトリル:富士フイルム和光純薬株式会社製
・硫酸ナトリウム:富士フイルム和光純薬株式会社製
・1,3-プロパンスルトン:東京化成工業株式会社製
・ヒドロキシエチルセルロース(HEC(2)):「CELLOSIZE(登録商標) QP-100MH」、ダウ・ケミカル日本株式会社製、重量平均分子量2,100,000
・1,2-エポキシオクタン:富士フイルム和光純薬株式会社製
・「カルコール(登録商標) 160G」:2-ヘプチル-1-ノナノール、花王株式会社製
・ヘキサン:富士フイルム和光純薬株式会社製
・テトラブチルアンモニウムブロマイド:東京化成工業株式会社製
・エピクロロヒドリン:東京化成工業株式会社製
・「カルコール(登録商標) 240G」:2-デシル-1-テトラデカノール、花王株式会社製
【0051】
〔多糖類の重量平均分子量の測定〕
多糖類(HEC(1)及びHEC(2))の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、以下の測定条件で求めた。
(測定条件)
・カラム:「TSKgel(登録商標) α-M」(東ソー株式会社製)
・カラム温度:40℃
・溶離液:エタノール/水(体積比3/7)、50mmol/L臭化リチウム、1質量%酢酸
・流速:0.6mL/min
・試料濃度:1mg/mL
・試料注入量:10μL
・検出器:示差屈折率(RI)検出器
・標準試料:ポリエチレングリコール
【0052】
<試料1:C12-HEC(1)>
1Lセパラブルフラスコに、HEC(1)90gを入れ、窒素ガス雰囲気下、イオン交換水73.7g、イソプロピルアルコール406.0gを加えて、撹拌羽根で200rpmで5分間撹拌後、48質量%水酸化ナトリウム水溶液10.6gを加えて40℃で30分間撹拌した。
次に、ラウリルグリシジルエーテル3.8gを加えて80℃で13時間撹拌して反応させた後、50℃以下まで冷却し、90質量%酢酸水溶液10.6gを加えて30分間撹拌して中和した。
得られた懸濁液を500mLの遠沈管2本に均等に入れ、高速冷却遠心機(「CR21G III」、日立工機株式会社製;1500g、40秒間)にて遠心分離した。デカンテーションにより回収した上澄み液に、同量の85質量%イソプロピルアルコール水溶液を加えて再分散させ、再度、遠心分離した。同様にして再分散及び遠心分離の操作を繰り返し、3回目の遠心分離後、沈殿物を回収し、真空乾燥機(「VR-420」、アドバンテック東洋株式会社製;以下、同様。)にて80℃で一晩減圧乾燥し、粉砕機(「エクストリームミル MX-1200XTM」、ワーリング社製;以下、同様。)にて粉砕し、粉末状のラウリルグリシジルエーテル変性HEC(C12-HEC(1))を得た。
【0053】
<試料2:C4-HEC(1)>
1Lセパラブルフラスコに、HEC(1)90gを入れ、窒素ガス雰囲気下、イオン交換水69.1g、イソプロピルアルコール394.5gを加えて、撹拌羽根で200rpmで5分間撹拌後、48質量%水酸化ナトリウム水溶液10.3gを加えて40℃で30分間撹拌した。
次に、ブチルグリシジルエーテル2.0gを加えて80℃で13時間撹拌して反応させた後、50℃以下まで冷却し、90質量%酢酸水溶液10.3gを加えて30分間撹拌して中和した。
得られた懸濁液を500mLの遠沈管2本に均等に入れ、高速冷却遠心機(「CR21G III」、日立工機株式会社製;1500g、40秒間)にて遠心分離した。デカンテーションにより回収した上澄み液に、同量の85質量%イソプロピルアルコール水溶液を加えて再分散させ、再度、遠心分離した。同様にして再分散及び遠心分離の操作を繰り返し、3回目の遠心分離後、沈殿物を回収し、真空乾燥機にて80℃で一晩減圧乾燥し、粉砕機にて粉砕し、粉末状のブチルグリシジルエーテル変性HEC(C4-HEC(1))を得た。
【0054】
<試料3:C18-HEC(1)>
1Lセパラブルフラスコに、HEC(1)100gを入れ、窒素ガス雰囲気下、イオン交換水75.6g、イソプロピルアルコール450.7gを加えて、撹拌羽根で200rpmで5分間撹拌後、48質量%水酸化ナトリウム水溶液23.6gを加えて40℃で30分間撹拌した。
次に、ステアリルグリシジルエーテル29.6gを加えて80℃で5時間撹拌して反応させた後、50℃以下まで冷却し、90質量%酢酸水溶液21.3gを加えて30分間撹拌して中和した。
得られた懸濁液を500mLの遠沈管2本に均等に入れ、高速冷却遠心機(「CR21G III」、日立工機株式会社製;1500g、40秒間)にて遠心分離した。デカンテーションにより回収した上澄み液に、同量の85質量%イソプロピルアルコール水溶液を加えて再分散させ、再度、遠心分離した。同様にして再分散及び遠心分離の操作を繰り返し、3回目の遠心分離後、沈殿物を回収し、真空乾燥機にて80℃で一晩減圧乾燥し、粉砕機にて粉砕し、粉末状のステアリルグリシジルエーテル変性HEC(C18-HEC(1))を得た。
【0055】
<試料4:C12/SB-HEC(1)>
200mLビーカーに48質量%水酸化ナトリウム水溶液18.3g、及びイオン交換水40gを入れて混合撹拌し、2-クロロ-N,N-ジメチルエチルアミン塩酸塩28.8gを少しずつ添加しながら撹拌した。2層に分離した液から、分液ロート(抽出溶媒:ジエチルエーテル50mL×4回)にて、2-クロロ-N,N-ジメチルエチルアミンを抽出した。抽出溶液に硫酸ナトリウムを加えて、4℃で2時間静置して脱水してろ過した後、1,3-プロパンスルトン48.9gを滴々加えながら一晩撹拌した。析出した沈殿物を、アセトニトリルで洗浄しながら、ろ過して精製した後、一晩減圧し、3-((2-クロロエチル)ジメチルアンモニオ)プロパン-1-スルホン酸を得た。
次いで、1Lセパラブルフラスコに、HEC(1)80gを入れ、窒素ガス雰囲気下、イオン交換水63.3g、イソプロピルアルコール355.3gを加えて、撹拌羽根で200rpmで5分間撹拌後、48質量%水酸化ナトリウム水溶液9.3gを加えて、さらに15分間撹拌した。
次に、ラウリルグリシジルエーテル3.3gを加えて80℃で13時間撹拌して反応させた後、続けて、3-((2-クロロエチル)ジメチルアンモニオ)プロパン-1-スルホン酸21.8gを加えて、50℃で5時間反応させた。その後、90質量%酢酸水溶液9.3gを加えて30分間撹拌して中和した。
得られた懸濁液を500mLの遠沈管2本に均等に入れ、高速冷却遠心機(「CR21G III」、日立工機株式会社製;1500g、40秒間)にて遠心分離した。デカンテーションにより回収した上澄み液に、同量の85質量%イソプロピルアルコール水溶液を加えて再分散させ、再度、遠心分離した。同様にして再分散及び遠心分離の操作を繰り返し、3回目の遠心分離後、沈殿物を回収し、真空乾燥機にて80℃で12時間減圧乾燥し、粉砕機にて粉砕し、粉末状のラウリルグリシジルエーテル/スルホベタイン変性HEC(C12/SB-HEC(1))を得た。
【0056】
<試料5:C8-HEC(2)>
1Lセパラブルフラスコに、HEC(2)70gを入れ、窒素ガス雰囲気下、イソプロピルアルコール350.5gを加えて、撹拌羽根で200rpmで5分間撹拌後、4.8質量%水酸化ナトリウム水溶液159.0gを加えて25℃で30分間撹拌した。
次に、1,2-エポキシオクタン14.5gを加えて80℃で5時間撹拌して反応させた後、50℃以下まで冷却し、90質量%酢酸水溶液13.0gを加えて30分間撹拌して中和した。
得られた懸濁液を500mLの遠沈管2本に均等に入れ、高速冷却遠心機(「CR21G III」、日立工機株式会社製;1500g、40秒間)にて遠心分離した。デカンテーションにより回収した上澄み液に、同量の85質量%イソプロピルアルコール水溶液を加えて再分散させ、再度、遠心分離した。同様にして再分散及び遠心分離の操作を繰り返し、3回目の遠心分離後、沈殿物を回収し、真空乾燥機にて80℃で一晩減圧乾燥し、粉砕機にて粉砕し、粉末状の1,2-エポキシオクタン変性HEC(C8-HEC(2))を得た。
【0057】
<試料6:C18-HEC(2)>
1Lセパラブルフラスコに、HEC(2)70gを入れ、窒素ガス雰囲気下、イソプロピルアルコール363.9gを加えて、撹拌羽根で200rpmで5分間撹拌後、4.8質量%水酸化ナトリウム水溶液166.7gを加えて25℃で30分間撹拌した。
次に、ステアリルグリシジルエーテル16.3gを加えて80℃で13時間撹拌して反応させた後、50℃以下まで冷却し、90質量%酢酸水溶液13.5gを加えて30分間撹拌して中和した。
得られた懸濁液を500mLの遠沈管2本に均等に入れ、高速冷却遠心機(「CR21G III」、日立工機株式会社製;1500g、40秒間)にて遠心分離した。デカンテーションにより回収した上澄み液に、同量の85質量%イソプロピルアルコール水溶液を加えて再分散させ、再度、遠心分離した。同様にして再分散及び遠心分離の操作を繰り返し、3回目の遠心分離後、沈殿物を回収し、真空乾燥機にて80℃で一晩減圧乾燥し、粉砕機にて粉砕し、粉末状のステアリルグリシジルエーテル変性HEC(C18-HEC(2))を得た。
【0058】
<試料7:C16-HEC(2)>
カルコール 160G 174.2g、ヘキサン174.2g、テトラブチルアンモニウムブロマイド7.0g、及びエピクロロヒドリン147.0gを混合し、45℃に昇温した。温度を45℃に保持し、48質量%水酸化ナトリウム水溶液240.8gを滴下した後、2時間反応させた。反応生成物にイオン交換水174.2gを加えて分液操作を行った。さらに、5質量%硫酸ナトリウム水溶液を用いて、同様にして分液操作を3回行った後、エバポレーターにて溶媒を除去して濃縮し、85℃で減圧乾燥し、2-ヘプチルノニルグリシジルエーテルを得た。
次いで、1Lセパラブルフラスコに、HEC(2)70gを入れ、窒素ガス雰囲気下、イソプロピルアルコール348.4gを加えて、撹拌羽根で200rpmで5分間撹拌後、4.8質量%水酸化ナトリウム水溶液157.6gを加えて25℃で30分間撹拌した。
次に、2-ヘプチルノニルグリシジルエーテル7.12gを加えて80℃で5時間撹拌して反応させた後、50℃以下まで冷却し、90質量%酢酸水溶液13.0gを加えて30分間撹拌して中和した。
得られた懸濁液を500mLの遠沈管2本に均等に入れ、高速冷却遠心機(「CR21G III」、日立工機株式会社製;1500g、40秒間)にて遠心分離した。デカンテーションにより回収した上澄み液に、同量の85質量%イソプロピルアルコール水溶液を加えて再分散させ、再度、遠心分離した。同様にして再分散及び遠心分離の操作を繰り返し、3回目の遠心分離後、沈殿物を回収し、真空乾燥機にて80℃で一晩減圧乾燥し、粉砕機にて粉砕し、粉末状の2-ヘプチルノニルグリシジルエーテル変性HEC(C16-HEC(2))を得た。
【0059】
<試料8:C24-HEC(2)>
カルコール 240G 254.9g、ヘキサン174.2g、テトラブチルアンモニウムブロマイド7.0g、及びエピクロロヒドリン147.0gを混合し、45℃に昇温した。温度を45℃に保持し、48質量%水酸化ナトリウム水溶液240.8gを滴下した後、2時間反応させた。反応生成物にイオン交換水174.2gを加えて分液操作を行った。さらに、5質量%硫酸ナトリウム水溶液を用いて、同様にして分液操作を3回行った後、エバポレーターにて溶媒を除去して濃縮し、85℃で減圧乾燥し、2-デシルテトラデカニルグリシジルエーテルを得た。
次いで、1Lセパラブルフラスコに、HEC(2)70gを入れ、窒素ガス雰囲気下、イソプロピルアルコール348.4gを加えて、撹拌羽根で200rpmで5分間撹拌後、4.8質量%水酸化ナトリウム水溶液157.6gを加えて25℃で30分間撹拌した。
次に、2-デシルテトラデカニルグリシジルエーテル6.4gを加えて80℃で5時間撹拌して反応させた後、50℃以下まで冷却し、90質量%酢酸水溶液12.9gを加えて30分間撹拌して中和した。
得られた懸濁液を500mLの遠沈管2本に均等に入れ、高速冷却遠心機(「CR21G III」、日立工機株式会社製;1500g、40秒間)にて遠心分離した。デカンテーションにより回収した上澄み液に、同量の85質量%イソプロピルアルコール水溶液を加えて再分散させ、再度、遠心分離した。同様にして再分散及び遠心分離の操作を繰り返し、3回目の遠心分離後、沈殿物を回収し、真空乾燥機にて80℃で一晩減圧乾燥し、粉砕機にて粉砕し、粉末状の2-デシルテトラデカニルグリシジルエーテル変性HEC(C24-HEC(2))を得た。
【0060】
<試料9:2EH-HEC(1)>
1Lセパラブルフラスコに、HEC(1)90gを入れ、窒素ガス雰囲気下、イオン交換水61.9g、イソプロピルアルコール414.4gを加えて、撹拌羽根で200rpmで5分間撹拌後、48質量%水酸化ナトリウム水溶液10.6gを加えて40℃で30分間撹拌した。
次に、2―エチルヘキシルグリシジルエーテル9.0gを加えて60℃で5時間撹拌して反応させた後、50℃以下まで冷却し、90質量%酢酸水溶液10.6gを加えて30分間撹拌して中和した。
得られた懸濁液を500mLの遠沈管2本に均等に入れ、高速冷却遠心機(「CR21G III」、日立工機株式会社製;1500g、40秒間)にて遠心分離した。デカンテーションにより回収した上澄み液に、同量の85質量%イソプロピルアルコール水溶液を加えて再分散させ、再度、遠心分離した。同様にして再分散及び遠心分離の操作を繰り返し、3回目の遠心分離後、沈殿物を回収し、真空乾燥機にて80℃で一晩減圧乾燥し、粉砕機にて粉砕し、粉末状の2―エチルヘキシルグリシジルエーテル変性HEC(2EH-HEC(1))を得た。
【0061】
<試料10:Phenyl-HEC(1)>
1Lセパラブルフラスコに、HEC(1)100gを入れ、窒素ガス雰囲気下、イオン交換水81.7g、イソプロピルアルコール450.7gを加えて、撹拌羽根で200rpmで5分間撹拌後、48質量%水酸化ナトリウム水溶液11.8gを加えて40℃で30分間撹拌した。
次に、フェニルグリシジルエーテル2.62gを加えて80℃で13時間撹拌して反応させた後、50℃以下まで冷却し、90質量%酢酸水溶液11.8gを加えて30分間撹拌して中和した。
得られた懸濁液を500mLの遠沈管2本に均等に入れ、高速冷却遠心機(「CR21G III」、日立工機株式会社製;1500g、40秒間)にて遠心分離した。デカンテーションにより回収した上澄み液に、同量の85質量%イソプロピルアルコール水溶液を加えて再分散させ、再度、遠心分離した。同様にして再分散及び遠心分離の操作を繰り返し、3回目の遠心分離後、沈殿物を回収し、真空乾燥機にて80℃で一晩減圧乾燥し、粉砕機にて粉砕し、粉末状のフェニルグリシジルエーテル変性HEC(Phenyl-HEC(1))を得た。
【0062】
<試料11:Bn-HEC(1)>
1Lセパラブルフラスコに、HEC(1)90gを入れ、窒素ガス雰囲気下、イオン交換水61.9g、イソプロピルアルコール414.4gを加えて、撹拌羽根で200rpmで5分間撹拌後、48質量%水酸化ナトリウム水溶液10.6gを加えて40℃で30分間撹拌した。
次に、ベンジルブロマイド11.1gを加えて60℃で5時間撹拌して反応させた後、50℃以下まで冷却し、90質量%酢酸水溶液5.3gを加えて30分間撹拌して中和した。
得られた懸濁液を500mLの遠沈管2本に均等に入れ、高速冷却遠心機(「CR21G III」、日立工機株式会社製;1500g、40秒間)にて遠心分離した。デカンテーションにより回収した上澄み液に、同量の85質量%イソプロピルアルコール水溶液を加えて再分散させ、再度、遠心分離した。同様にして再分散及び遠心分離の操作を繰り返し、3回目の遠心分離後、沈殿物を回収し、真空乾燥機にて80℃で一晩減圧乾燥し、粉砕機にて粉砕し、粉末状のベンジル変性HEC(Bn-HEC(1))を得た。
【0063】
<試料12:OCR-HEC(1)>
1Lセパラブルフラスコに、HEC(1)70gを入れ、窒素ガス雰囲気下、イオン交換水53.7g、イソプロピルアルコール306.8gを加えて、撹拌羽根で200rpmで5分間撹拌後、48質量%水酸化ナトリウム水溶液8.0gを加えて40℃で30分間撹拌した。
次に、オルトクレジルグリシジルエーテル7.6gを加えて80℃で13時間撹拌して反応させた後、50℃以下まで冷却し、90質量%酢酸水溶液8.0gを加えて30分間撹拌して中和した。
得られた懸濁液を500mLの遠沈管2本に均等に入れ、高速冷却遠心機(「CR21G III」、日立工機株式会社製;1500g、40秒間)にて遠心分離した。デカンテーションにより回収した上澄み液に、同量の85質量%イソプロピルアルコール水溶液を加えて再分散させ、再度、遠心分離した。同様にして再分散及び遠心分離の操作を繰り返し、3回目の遠心分離後、沈殿物を回収し、真空乾燥機にて80℃で一晩減圧乾燥し、粉砕機にて粉砕し、粉末状のオルトクレジルグリシジルエーテル変性HEC(OCR-HEC(1))を得た。
【0064】
<試料13:OPP-HEC(1)>
1Lセパラブルフラスコに、HEC(1)70gを入れ、窒素ガス雰囲気下、イオン交換水53.7g、イソプロピルアルコール306.8gを加えて、撹拌羽根で200rpmで5分間撹拌後、48質量%水酸化ナトリウム水溶液8.0gを加えて40℃で30分間撹拌した。
次に、2-フェニルフェノールグリシジルエーテル3.8gを加えて80℃で13時間撹拌して反応させた後、50℃以下まで冷却し、90質量%酢酸水溶液8.0gを加えて30分間撹拌して中和した。
得られた懸濁液を500mLの遠沈管2本に均等に入れ、高速冷却遠心機(「CR21G III」、日立工機株式会社製;1500g、40秒間)にて遠心分離した。デカンテーションにより回収した上澄み液に、同量の85質量%イソプロピルアルコール水溶液を加えて再分散させ、再度、遠心分離した。同様にして再分散及び遠心分離の操作を繰り返し、3回目の遠心分離後、沈殿物を回収し、真空乾燥機にて80℃で一晩減圧乾燥し、粉砕機にて粉砕し、粉末状の2-フェニルフェノールグリシジルエーテル変性HEC(OPP-HEC(1))を得た。
【0065】
[その他の試料]
菌付着抑制剤に用いる多糖又は多糖誘導体(試料14~23)には、以下のものを用いた。
<試料14:C18-HPMC>
ステアリル変性ヒドロキシプロピルメチルセルロース(C18-HPMC):「サンジェロース(登録商標) 60L」、大同化成工業株式会社製
<試料15:EC>
エチルセルロース(EC):エチルセルロース10、富士フイルム和光純薬株式会社製
<試料16:デンプン>
「デンプン トウモロコシ由来」、シグマアルドリッチジャパン株式会社製
<試料17:グアーガム>
グアーガム、富士フイルム和光純薬株式会社製
<試料18:ローカストビーンガム>
「GENU(登録商標) GUM type RL-200-J」、三晶株式会社製
<試料19:カラギーナン>
「GENUVISCO(登録商標) カラギーナン PJ-JPE」、三晶株式会社製
<試料20:キサンタンガム>
「KELTROL(登録商標) CG」、三晶株式会社製
<試料21:ジェランガム>
「KELCOGEL(登録商標) CG-HA」、三晶株式会社製
<試料22:ヒアルロン酸ナトリウム(1)>
「浸透型ヒアルロン酸(FCH-SU)」、キッコーマンバイオケミファ株式会社製;重量平均分子量100,000(公称値)
<試料23:ヒアルロン酸ナトリウム(2)>
「FCH-60」、キッコーマンバイオケミファ株式会社製;重量平均分子量600,000(公称値)
【0066】
[菌付着評価]
各試料0.1gにイオン交換水を加えて100.0gとして、0.1質量%試料溶液(菌付着抑制剤)を調製した。各試料溶液で処理した試料基板について、下記に示す菌付着試験を行い、菌付着抑制率を求めることにより、菌付着評価を行った。
表1に、各試料基板の菌付着評価結果を示す。
【0067】
<試料基板の作製>
下記の厚さ1mmの各種材質の基板を、エタノールに30分間浸漬して洗浄した後、イオン交換水で片面30秒ずつすすぎ、窒素ガスブローにより乾燥した。
この基板を試料溶液(菌付着抑制剤)100gに12時間浸漬した後、イオン交換水で片面30秒ずつ濯ぎ、窒素ガスブローにより乾燥し、処理基板を得た。処理基板から、12.5mm×25mm、厚さ1mmの試料基板を切り出した。
(基板の材質)
・PET:ポリエチレンテレフタレート、25mm×75mm、厚さ1mm、株式会社エンジニアリングテストサービス製
・ABS:アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体、25mm×140mm、厚さ1mm、株式会社エンジニアリングテストサービス製
・PC:ポリカーボネート、26mm×76mm、厚さ1mm、株式会社エンジニアリングテストサービス製
・PS:ポリスチレン、10mm×140mm、厚さ1mm、株式会社エンジニアリングテストサービス製
・PVC:ポリ塩化ビニル、25mm×140mm、厚さ1mm、株式会社エンジニアリングテストサービス製
・PTFE:ポリテトラフルオロエチレン、26mm×76mm、厚さ1mm、株式会社エンジニアリングテストサービス製
・PE:ポリエチレン、25mm×75mm、厚さ1mm、株式会社エンジニアリングテストサービス製
・PP:ポリプロピレン、25mm×75mm、厚さ1mm、日本テストパネル株式会社製
・SUS304:ステンレス鋼SUS304、25mm×140mm、厚さ1mm、株式会社エンジニアリングテストサービス製
・ガラス:透明基板ガラス、26mm×76mm、厚さ1mm、あけぼの商会製
【0068】
<試験菌液の調製>
グリセロールを添加して凍結保存した下記の各種菌体100μLを、ポテトデキストロース寒天培地(PDA培地;Difco Laboratories社製)で、30℃で48時間培養した。形成されたコロニーの一部を採取し、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS;カルシウム及びマグネシウム非含有、pH7.0~7.3)で、OD600が0.1となるように希釈して、試験菌液を調製した。
(菌体の種類)
・ロドトルラ:ロドトルラ・ムシラギノーサ;真菌
・カンジダ:カンジダ・パラプシローシス;真菌
・メチロバクテリウム:メチロバクテリウム・バリアビレ;グラム陰性菌
・モラクセラ:モラクセラ・オスロエンシス;グラム陰性菌
・シュードモナス:シュードモナス属細菌;グラム陰性菌
・スフィンゴモナス:スフィンゴモナス属細菌;グラム陰性菌
・マイクロコッカス:マイクロコッカス属細菌;グラム陽性菌
・黄色ブドウ球菌;グラム陽性菌
・ロゼオモナス:ロゼオモナス・ムコサ;グラム陰性菌
【0069】
<菌付着試験>
滅菌シャーレ(「アズノールシャーレ」、アズワン株式会社製;ポリスチレン製、直径40mm、高さ13.5mm)に、試料基板、及び試験菌液3mLを入れて、室温(25℃)下、110rpmで1時間振とうした。次いで、試料基板を取り出し、ビーカー内にてDPBS30mLで濯ぎ、試料基板を別のシャーレに移し替えた。その後、菌蛍光染色用色素(「-Bacstain-CFDA solution」、株式会社同仁化学研究所;二酢酸5(6)-カルボキシフルオレセインのジメチルスルホキシド(DMSO)溶液)のDPBS1000倍(体積)希釈液3mLを滴下し、試料基板を浸漬させた。37℃で30分間静置後、試料基板を滅菌水で濯ぎ、窒素ガスブローにより乾燥した。
【0070】
<菌付着抑制率>
共焦点レーザー顕微鏡(カールツァイス株式会社製)にて、試料基板上の染色された菌の画像観察を行い、画像処理ソフト(「ImageJ」)により、菌付着面積を算出した。表1には、多糖類試料溶液(菌付着抑制剤)未処理(ブランク)基板の菌付着面積をS、試料基板の菌付着面積をSとしたとき、100(1-S/S)で算出される値を、菌付着抑制率[%]として示した。
菌付着抑制率は、値が大きく、100%に近いほど、菌付着抑制効果に優れていることを示している。菌付着抑制率が50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは75%以上であれば、菌付着抑制効果が良好であると言える。
【0071】
【表1】
【0072】
表1から分かるように、菌付着抑制剤として、ヒアルロン酸ナトリウムを用いた場合(比較例1及び2)は、十分な菌付着抑制効果が得られなかった。一方、本発明の所定の多糖及び多糖誘導体を用いた場合(実施例1~44)には、良好な菌付着抑制効果が得られ、特に、セルロース誘導体(試料1~15)を用いた場合は、高い菌付着抑制率を示すことが認められた。
また、試料1及び4による菌付着抑制剤は、各種菌種に対して、また、各種の材質の基板でも、高い菌付着抑制率を示すことが認められた。